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2022年12月27日 (火)

伸びが鈍化した11月の商業販売統計と堅調な伸びが続く雇用統計

本日、経済産業省から商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも11月統計です。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+2.6%増の13兆1430億円でした。季節調整済み指数では前月から▲1.1%減を記録しています。また、雇用統計では、失業率は前月から小幅に低下して2.5%を記録し、有効求人倍率は前月から横ばいの1.35倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

小売販売額2.6%増 11月、9カ月連続プラス
経済産業省が27日発表した11月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比2.6%増の13兆1430億円だった。9カ月連続で前年同月を上回った。気温が高く外出の機会が増えたことなどが寄与したとみられる。
業態別でみると、コンビニエンスストアは前年同月比7.9%増の1兆324億円だった。プラスは12カ月連続。行楽需要が伸びたほか、観光地を中心にインバウンド(訪日外国人客)消費の回復も進んだようだ。地域振興クーポンの販売も好調だった。
ドラッグストアは7.9%増の6377億円。百貨店はインバウンド効果もあって4.1%増の5177億円だった。スーパーは2.6%増の1兆2416億円、家電大型専門店は0.3%増の3589億円だった。ホームセンターは1.3%減の2673億円だった。
小売業販売額の季節調整済みの指数は105.7で、前月から1.1%低下した。経産省は基調判断を「持ち直している」で据え置いた。
求人倍率横ばい1.35倍、11月 失業率は2.5%に低下
雇用の持ち直しが続いている。厚生労働省が27日発表した11月の有効求人倍率は季節調整値で1.35倍と前月から横ばいだった。新規求人倍率は2.42倍と0.09ポイント上昇し、新型コロナウイルス禍前の2019年8月以来の高水準になった。訪日外国人消費の回復などで宿泊・飲食サービスを中心に求人が増えた。総務省が同日発表した11月の完全失業率は2.5%と0.1ポイント下がった。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。倍率が高いほど企業の人手が足りず、職を得やすい状況ということになる。コロナ前のピークの18年9月には1.64倍まで高まった。感染拡大後は20年9月の1.04倍で底を打ち、徐々に回復してきた。
今回11月は景気の先行指標とされる新規求人数が86万5294人と前年同月比8.7%増えた。業種別では宿泊・飲食サービス(21.2%増)の伸びが大きかった。水際対策の緩和でインバウンド(訪日客)需要が拡大し、ドラッグストアなどの卸・小売り(13.0%増)も堅調だった。
就業者数は6724万人と前年同月比で28万人増え、4カ月連続で増加した。完全失業者数は前月比で5万人減って173万人となった。

やや長くなったものの、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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ということで、小売業販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて堅調に推移していたのですが、11月統計では少しブレーキがかかったように見えます。上のグラフを見ても明らかな通り、一時的なものかもしれませんが、季節調整していない原系列の前年同月比で見た増加率も、季節調整済み系列の前月比も、どちらも伸びが低下しています。ただし、季節調整済み指数の後方3か月移動平均でかなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、10月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.2%の上昇となり、ギリギリでプラスを維持していますので基調判断を「持ち直している」で据え置いています。他方で、8~10月統計では前年同月比で+4%を超える増加率となっており、消費者物価指数(CPI)の上昇率を上回ゆの日を示していたのですが、本日公表の11月統計では雲行きが怪しくなってきています。インフレの高進と同時に消費の停滞も始まっているかのようです。引用した記事では、インバウンドの増加もあって百貨店などの売上が増加しているように報じていますが、百貨店もスーパーも季節調整済みの系列で見た11月統計では前月比で減少しています。加えて、先月の10月統計まで増加を示していた燃料小売業が11月統計の前年同月比では▲2.6%の減少に転じています。値上げ幅が縮小するとともに、おそらく、数量ベースではかなりの減少という結果なのだろうと私は考えています。ということで、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、価格上昇があれば販売数量の増加なしでも販売額の上昇という結果になります。第2に、商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていません。ですから、足元での物価上昇の影響、さらに、サービス業へのダメージの大きな新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は、ともに過小評価されている可能性が十分あります。特に、前者のインフレの影響については、11月の消費者物価指数(CPI)のヘッドライン前年同月比上昇率は+3.8%に達しており、名目の小売業販売額の+2.6%増は物価上昇を下回っています。ですから、この2点を考え合わせると、実質の小売業販売額は過大評価されている可能性は十分あると考えるべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は商業販売統計のグラフと同じで景気後退期を示しています。そして、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月からやや低下して2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、前月からやや改善の1.36倍と見込まれていました。実績では、失業率は市場の事前コンセンサスにジャストミートし、有効求人倍率は市場予想からやや下振れしました。総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い動きながらも雇用は底堅いと私は評価しています。ですので、休業者も11月統計では前年同月から+20万人増と、増加したものの微増にとどまりました。季節調整していない原系列の統計ながら、実数として7~8月ともに250万人を超えていた休業者が、9~11月には各月とも200万人を下回っていることも事実です。そういった中で、雇用の先行指標である新規求人を産業別に、パートタイムを含めて新規学卒者を除くベースの前年同月比伸び率で見ると、宿泊業、飲食サービス業(+21.2%増)、卸売業、小売業(+13.0%増)、学術研究、専門・技術サービス業(+10.6%増)が2ケタ増と伸びが大きくなっています。最後の学術研究、専門・技術サービス業は別でしょうが、宿泊業、飲食サービス業及び卸売業、小売業については、明らかに、インバウンドの回復とともに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のダメージの大きかった産業で新規求人が増加しているのが確認できます。

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