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2023年1月31日 (火)

弱含み続く鉱工業生産指数(IIP)と物価上昇に追いつかない商業販売統計と堅調な雇用統計ほか

本日は、月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも昨年2022年12月統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.1%の減産でした。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+3.8%増の15兆1930億円でした。季節調整済み指数では前月から+1.1%の増加を記録しています。また、雇用統計では、失業率は前月から横ばいの2.5%を記録し、有効求人倍率も前月から横ばいの1.35倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産2年ぶり低下 22年0.1%下落 コロナ前下回る
経済産業省が31日発表した2022年通年の鉱工業生産指数(15年=100)は前年比0.1%低下の95.6だった。2年ぶりに低下した。新型コロナウイルス流行前の19年(101.1)を下回っている。中国・上海市のロックダウン(都市封鎖)が解除された22年6月以降、生産用機械工業や自動車工業が回復していた反動が影響した。
22年10~12月期は95.4(季節調整済み)と前期比で3.1%低下した。
22年12月の指数(同)速報値は前月比0.1%低下の95.4だった。2カ月ぶりに低下した。生産判断は「弱含み」を維持した。国内外での需要減が響き、幅広い業種で前月を下回った。
生産は全15業種のうち、10業種で低下した。汎用・業務用機械工業は前月比で6%マイナスだった。ボイラー部品で前月からの反動が出たほか、汎用内燃機関は搭載製品が他の部品の調達不足で生産が減少した。鉄鋼・非鉄金属工業は3%、電気・情報通信機械工業は1.2%、それぞれマイナスとなった。
4業種は増加した。航空機用発動機部品などの自動車工業を除く輸送機械工業は4.5%増えた。自動車工業は0.6%、生産用機械工業は0.7%、それぞれ増加した。無機・有機化学工業のみ横ばいだった。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は1月は前月比で横ばいを見込む。企業の予測値は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた経産省の補正値は4.2%のマイナスとなった。2月の予測指数は4.1%の増加を見込む。
経産省の担当者は今後の見通しに関して「コロナ感染拡大の国内外の経済への影響や、物価上昇について注視していく必要がある」と話した。
12月の小売販売額3.8%増 飲食料品の価格上昇も影響
経済産業省が31日発表した2022年12月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比3.8%増の15兆1930億円だった。10カ月連続で前年同月を上回った。飲食料品の価格上昇でコンビニエンスストアやスーパー、ドラッグストアなどで増加が目立った。
コンビニは前年同月比3.9%増の1兆1014億円、スーパーは4.2%増の1兆5490億円だった。ドラッグストアは11.1%増の7312億円。新型コロナウイルスの感染拡大で医薬品の販売が好調だったという。
百貨店は3.7%増の6776億円、家電大型専門店は2.5%増の4845億円となった。ホームセンターは2カ月ぶりに増加に転じ、2.8%増の3395億円だった。除雪用品がよく売れた。
小売業販売額を季節調整済みの前月比で見ると、1.1%の増加だった。基調判断は「持ち直している」で据え置いた。
22年の年間小売販売額は154兆4040億円に上り、前年比で2.6%の増加となった。
求人倍率1.28倍に上昇、失業率は2.6%に低下 2022年
厚生労働省が31日発表した2022年平均の有効求人倍率は1.28倍と、前年を0.15ポイント上回った。新型コロナウイルス禍からの経済活動の再開に伴い求人が伸びた。総務省が同日発表した22年平均の完全失業率は2.6%と前年に比べて0.2ポイント低く、4年ぶりの低下となった。雇用状況は改善している。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。22年は平均の有効求人が前年比12.7%増となり、有効求人倍率の上昇に寄与した。
22年の雇用状況は月を追うごとに改善した。厚労省があわせて発表した22年12月の有効求人倍率(季節調整値)は1.35倍と前月比で横ばいだった。1月の1.20倍から上昇し、8月以降は1.3倍台で推移している。
コロナ禍前の19年平均(1.60倍)には届かないが、先行きは有効求人倍率の回復が続く可能性がある。先行指標となる新規求人倍率は22年平均が2.26倍と、前年を0.24ポイント上回った。22年12月も2.39倍と、コロナ禍前だった19年12月の2.41倍に近づいている。
22年平均の完全失業者数は179万人で前年比16万人減った。減少は3年ぶり。就業者数は6723万人と前年比10万人増えた。22年12月の完全失業率は2.5%で前月から横ばいだった。
15歳以上の人口に占める就業者の割合を示す就業率は22年平均が60.9%と、前年比0.5ポイント上昇した。上昇は2年連続で、25年ぶりの高水準となった。

とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は▲1.2%の減産という予想でしたので、実績の▲0.1%減にはサプライズはありませんでした。ただし、引用した記事にもある通り、減産は減産ですので、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「生産は弱含んでいる」で据え置いています。先月の下方修正を維持した形です。中国の上海における6月からのロックダウン解除をはじめとする海外要因から、7~9月期は季節調整済みの系列の前期比で見て+5.8%の増産でしたので、9~12月の▲3.1%の減産は反動の面もあるともいえます。もっとも、欧米先進国ではインフレ対応のために急激な金融引締を進めており、海外景気は大きく減速していますので、これも含めて内外の需要要因の方が大きいと私は考えています。例えば、経済産業省の解説サイトでは「12月は、汎用・業務用機械工業を始めとして多くの業種で低下したことなどから、2か月ぶりに低下」と減産の要因を解説しています。他方で、製造工業生産予測指数を見ると、足元の1月は12月から横ばい、2月は+4.1%の増産と、それぞれ予想されています。もっとも、上方バイアスを除去すると、1月の予想は前月比▲4.2%減となります。産業別に112月統計を少し詳しく見ると、減産寄与が大きいのは汎用・業務用機械工業の前月比▲6.0%減、寄与度▲0.47%、鉄鋼・非鉄金属工業の前月比▲3.0%減、寄与度▲0.18%、電気・情報通信機械工業の前月比▲1.2%減、寄与度▲0.11%などなどとなっていて、他方、生産増の寄与がもっとも大きかった産業は輸送機械工業(除、自動車工業)の前月比+4.5%増、寄与度+0.09%、自動車工業の+0.6%増、寄与度+0.08%、生産用機械工業の前月比+0..7%減、寄与度+0.06%、となります。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて堅調に推移しています。今年のゴールデンウィーク明けにはCOVID-19が感染法上の5類に分類されるようですから、小売業をはじめとする商業販売の上では追い風といえるかもしれません。季節調整済み指数の後方3か月移動平均でかなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、12月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.1%の上昇となり、ギリギリでプラスを維持していますので基調判断を「持ち直している」で据え置いています。他方で、消費者物価指数(CPI)との関係では、8~10月統計では前年同月比で+4%を超える増加率となっており、CPIの上昇率を上回る伸びを示していたのですが、11~12月統計ではCPI上昇率に届かず、やや雲行きが怪しくなってきています。インフレの高進と同時に消費の停滞も始まっている可能性が否定できません。引用した記事では、ホームセンターの除雪用品の売上増はご愛嬌としても、インバウンドの増加もあって百貨店などの売上が増加しているようです。最近まで石油価格の上昇に伴って増加を示していた燃料小売業が、11月統計の前年同月比では▲2.6%の減少に転じ、厳冬の12月統計でも+3.2%増にとどまっています。おそらく、数量ベースではさらに停滞感が強まっている可能性があります。ということで、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、価格上昇があれば販売数量の増加なしでも販売額の上昇という結果になります。第2に、商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていません。ですから、足元での物価上昇の影響、さらに、サービス業へのダメージの大きな新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は、ともに過小評価されている可能性が十分あります。特に、前者のインフレの影響については、12月の消費者物価指数(CPI)上昇率は、ヘッドラインも生鮮食品を除くコアCPIも、ともに前年同月比上昇率で+4.0%に達しており、名目の小売業販売額の+3.8%増はやや物価上昇を下回っています。ですから、この2点を考え合わせると、実質の小売業販売額は過大評価されている可能性には注意すべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分はほかのグラフと同じで景気後退期を示しています。そして、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、前月から小幅改善の1.36倍と見込まれていました。実績では、失業率は市場の事前コンセンサスにジャストミートし、有効求人倍率は市場予想からやや下振れしました。総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い動きながらも雇用は底堅いと私は評価しています。ただし、休業者が12月統計では前年同月から+42万人増と、やや増え方が大きくなっている気がします。特に、製造業で+8万人となっている点は気がかりです。そういった中で、雇用の先行指標である新規求人を産業別に、パートタイムを含めて新規学卒者を除くベースの前年同月比伸び率で見ると、製造業が▲0.1%減とわずかながら減少に転じています。2022年は11月まで一貫してプラスでしたが、12月になって新規求人数がマイナスに転じたのは先進各国での景気の停滞を反映している可能性が高いと私は受け止めています。逆に、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業、など、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のダメージの大きかった産業で新規求人が増加しています。別の観点からすれば、雇用調整金などによりCOVID-19のダメージから労働市場を遮断する政策から、スムーズな労働移動が必要な段階に移った、のかもしれません。そうだとすれば、育休中かどうかは別として、リスキリングが必要になる可能性があると思います。

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以上に加えて、本日、内閣府から1月の消費者態度指数が公表されています。消費者態度指数のグラフは上の通りで、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。1月統計では、前月から+0.7ポイント上昇し31.0を記録しています。指数を構成する4指標のうち、3指標が上昇しています。すなわち、「雇用環境」が+2.2ポイント上昇し37.2、「収入の増え方」が+0.5ポイント上昇し35.6、「暮らし向き」が+0.4ポイント上昇し27.8となっていますが、ただ、「耐久消費財の買い時判断」だけが▲0.2ポイント低下し23.5を記録しています。たぶん、「耐久消費財の買い時判断」については、いく分なりとも物価上昇の影響が見られると私は考えています。統計作成官庁である内閣府では、消費者マインドの基調判断について、先月12月統計の「弱まっている」から「弱い動きがみられる」と半ノッチ上方修正しています。従来、この消費者態度指数の動きは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大とおおむね並行しているのではないか、と私は分析していたのですが、さすがに、消費者マインドは物価上昇と一定の連動性を高めつつある、と考え始めています。

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最後の最後に、本日午前、シンガポールにて国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update が公表されています。10月時点での見通しからやや上方改定となっています。すなわち、今年2023年の世界経済の成長率見通しは+0.2%ポイント上方改定されて+2.9%と見込まれています。また、日を改めて取り上げたいと思います。

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