大きな減産となった鉱工業生産指数(IIP)とインバウンドで堅調な伸び続く商業販売統計をどう見るか?
本日は、月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも1月統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲4.6%の減産でした。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+6.3%増の13兆150億円でした。季節調整済み指数では前月から+1.9%の増加を記録しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
1月の鉱工業生産4.6%低下 3カ月ぶりマイナス
経済産業省が28日発表した1月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は91.4となり、前月から4.6%下がった。低下は3カ月ぶり。中国・上海市がロックダウン(都市封鎖)されていた22年5月(88.0)以来の低水準となった。半導体不足で自動車工業が落ち込み、半導体産業の設備投資の先送りで生産用機械工業も振るわなかった。
新型コロナウイルス流行前の19年平均(101.1)を下回る水準となった。生産の基調判断は「弱含み」を維持した。
生産は全15業種のうち、12業種で低下した。普通乗用車や駆動伝導部品といった自動車工業は前月比で10.1%のマイナスだった。半導体不足を受け、米国や中国向けの輸出が減少した。大雪の影響で工場生産も滞っていた。
半導体製造装置などの生産用機械工業は13.5%のマイナスだった。国内外で設備投資を延期する動きがあったという。スマートフォンの需要低迷を背景に、メモリ半導体といった電子部品・デバイス工業も4.2%のマイナスとなった。
残る3業種は上昇した。汎用・業務用機械工業はコンベヤーで国内大型案件が成立し、5.1%のプラスだった。無機・有機化学工業・医薬品を除いた化学工業は3.9%上昇した。新製品発売を受け、頭髪用化粧品などが伸びた。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は2月に前月比8.0%の上昇を見込む。企業の予測は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた経産省の補正値は1.3%のプラスとした。部材供給不足の緩和で、生産用機械工業や輸送機械工業が伸びるとみる。3月の予測指数は0.7%上昇となっている。
経産省の担当者は今後の見通しについて「コロナ感染の拡大状況や物価上昇の影響に加え、企業が先送りした投資計画が2~3月に実施されるか注目する必要がある」と話した。
小売販売額6.3%増 1月、11カ月連続でプラス
経済産業省が28日発表した1月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比6.3%増の13兆150億円だった。11カ月連続で前年同月を上回った。インバウンド(訪日外国人)の復調や飲食料品の価格上昇などが寄与した。
業態別でみると、百貨店は前年同月比14.4%増の4764億円と大きく伸びた。スーパーは3.1%増の1兆2989億円、コンビニエンスストアは4.1%増の9924億円、ドラッグストアは4.9%増の6479億円だった。
一方、家電大型専門店は1.2%減の4184億円、ホームセンターは1.7%減の2462億円とマイナスだった。
小売業販売額の季節調整済みの指数は108.7で、前月から1.9%上昇した。経産省は基調判断を「持ち直している」から「緩やかな上昇傾向にある」に引き上げた。
とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲2.7%、下限で▲4.2%の減産でしたので、実績の▲4.6%減は加減を下回って、少しサプライズだったかもしれません。統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「生産は弱含んでいる」で据え置いています。先月の下方修正を維持した形です。欧米先進国ではインフレ抑制のために急激な金融引締を進めており、海外景気は大きく減速していますので、これも含めて内外の需要要因の方が大きいと私は考えています。例えば、経済産業省の解説サイトでは、昨年後半からの精算動向について、7-8月は「部材供給不足の影響が緩和」して増産、9-10月は増産の「反動」により減産、11-12月は「化学工業(除.無機・有機化学工業)や食料品・たばこ工業などが堅調」であり増産、と要因を解説しています。1月には、「自動車工業や生産用機械工業を始めとして多くの業種」で減産となっています。他方で、製造工業生産予測指数を見ると、足元の2月は+8.0%、3月も+0.7%の増産と、それぞれ予想されています。もっとも、上方バイアスを除去すると、2月の予想は前月比+1.3%となります。産業別に1月統計を少し詳しく見ると、減産寄与が大きいのは自動車工業の前月比▲10.1%減、寄与度▲1.45%、生産用機械工業の前月比▲13.5%減、寄与度▲1.23%減、電子部品・デバイス工業の前月比▲4.2%減、寄与度▲0.25%、などとなっています。逆に、生産増の寄与がもっとも大きかった産業は汎用・業務用機械工業の前月比+5.1%増、寄与度+0.37%、化学工業(除、無機・有機化学工業・医薬品)の前月比+3.9%増、寄与度+0.17%、石油・石炭製品工業の前月比+6.6%増、寄与度+0.06%、などとなります。

続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて堅調に推移しています。今年のゴールデンウィーク明けにはCOVID-19が感染法上の5類に分類されるようですから、小売業をはじめとする商業販売の上では、インバウンドも含めて追い風といえるかもしれません。季節調整済み指数の後方3か月移動平均でかなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、1月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.6%の上昇となり、引用した記事にもある通り、基調判断を「持ち直している」から「緩やかな上昇傾向」に引き上げています。他方で、消費者物価指数(CPI)との関係では、今年2023年1月統計では前年同月比で+4%超のインフレ率となっており、小売業販売額の1月統計の+6.3%の増加はこれを超えていて、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性があります。通常は、インフレの高進と同時に消費の停滞も生じるのですが、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられてい可能性があります。ですから、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。他方で、最近まで石油価格の上昇に伴って増加を示していた燃料小売業が、1月統計の前年同月比では+0.7%の増加にまで縮小しています。おそらく、数量ベースではさらに停滞感が強まっている可能性が強いと私は考えています。
| 固定リンク
コメント