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2023年3月15日 (水)

ヘルメット

カミさんによると、事故の際のヘルメットが割れていたらしい。私の頭は何の損傷も発見されていない。代わりに壊れてくれたのだとしたら、有り難い限りである。立派に役目を果たしてくれました。

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2023年3月 9日 (木)

交通事故でふた月入院

交通事故でふた月入院。しばらくお休みします。

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2023年3月 7日 (火)

労働政策研究・研修機構(JILPT)のディスカッションペーパー「職業の自動化確率についての日米比較」の試算結果をどう見るか?

10年前のオックスフォード大学研究チームの研究成果 "The future of employment" から人工知能(AI)などの発達によって自動化される、というか、代替される職業に関する関心が高まっています。これに基づいて、先月2月28日付けで労働政策研究・研修機構(JILPT)から「職業の自動化確率についての日米比較」と題するディスカッションペーパーが公表され、かなりあからさまに試算していたりします。こういったマイクロな労働関係は私には専門外なのですが、とても興味ある分野ですので、簡単に取り上げておきたいと思います。まず、参照すべき労働政策研究・研修機構(JILPT)とオックスフォード大学のペーパーへのリンクは以下の通りです。なお、Frey and Osborne のワーキングペーパーは2017年にジャーナルに収録されています。Technological Forecasting & Social Change 114, 2017, pp.254-80 です。中身が違うのかどうかについて、私はチェックしていません。査読が入っているのであれば、多少とも修正はされているのだろうと想像するだけです。

そして、私の興味の対象である 日米における職業12(13)カテゴリー別自動化確率と就業者割合 をJILPTのディスカッションペーパーから引用すると以下の通りです。

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大雑把に理解できなくもないですが、やや疑問あるのは、第1に、日米間で自動化確率に差があるのは当然ですが、総計での差が▲0.035であるにもかかわらず、カテゴリー別に見て、どうして、ここまで大きな差があるのか、という点です。いわゆるボリューム・ゾンで、日本の就業人口割合が10%を超えるカテゴリーを見ると、サービス職業従事者、販売従事者、事務従事者、生産工程従事者ではその差が▲0.1を超えており、▲0.2を超えているカテゴリーすらあります。にもかかわらず総計での確率の差が▲0.035という結果です。やや不思議な気がします。第2に、なぜかすべてのカテゴリーで日本の自動化確率が米国を下回っています。ディスカッションペーパーでは「同じ職種でも日本の方が,職務の遂行において,総じて知覚と巧緻性,創造的知性,あるいは社会的知性のいずれかについて米国より高い水準が求められることを意味している」(p.17)と指摘していますが、経営者団体から盛んに指摘される日本の労働者の生産性の低さは、アレは何だったのだろうか、という気がしますし、何よりも、日本では非正規雇用がこれだけ多いにもかかわらず、自動化確率が低いのは、大きな疑問です。

私の直感では、上のいずれの点においても、特に、第2の点については、客観的に計算された労働政策研究・研修機構(JILPT)の試算結果が正しいと考えています。ついでながら、ちょっとしたご縁もあって、労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究者の中には何人か私と面識ある人もいて、このディスカッションペーパーは労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究者が書いたものではありませんが、それなりに高い研究能力が認められます。ですから、日本の労働者はほぼほぼすべてのカテゴリーの職種で米国よりも総じて高い水準を維持しているにもかかわらず、低い賃金しか支払われていない、というのが私の直感に従った解釈となります。

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2023年3月 6日 (月)

木曜日に公表される昨年2022年10-12月期GDP統計速報2次QEの予想やいかに?

先週の法人企業統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、今週木曜日の3月9日に昨年2022年10~12月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。1次QEは小幅なプラス成長でしたが、大きな改定幅ではないものの、上方改定を予測するシンクタンクが多くなっている印象です。でも、下方改定を予想するシンクタンクもあったりします。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である2022年10~12月期ではなく、足元の今年2023年1~3月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。ただ、2次QEですので法人企業統計の「オマケ」的な扱いのシンクタンクがほとんどです。例外は、みずほリサーチ&テクノロジーズと東京財団政策研究所であり、みずほリサーチ&テクノロジーズについては下のテーブルに引用しただけではなく、実は、もっと長々と足元から先行きの見通しについて言及されています。また、東京財団政策研究所のナウキャスティングについては、もはや、昨年2022年10~12月期からすでに今年2023年1~3月期に視点が移っていたりします。ですので、正確にいえば2次QE予想ではないのですが、一応、テーブルに収録しています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+0.2%
(+0.6%)
n.a.
日本総研+0.2%
(+0.9%)
実質GDP成長率は前期比年率+0.9%(前期比+0.2%)と、1次QE(前期比年率+0.6%、前期比+0.2%)から小幅に上方改定される見込み。
大和総研▲0.0%
(▲0.0%)
2次速報では、民間在庫の減少がGDPを下押ししたものの個人消費や輸出は底堅く推移し、実態としては、GDP成長率が示すよりも景気の回復基調は強かったことが改めて示されるだろう。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.4%
(+1.5%)
先行きもサービス消費やインバウンド需要の回復が継続する一方、欧米を中心とした海外経済の減速が逆風になり、回復ペースは緩やかに。1~3月期は年率+1%弱の成長にとどまると予測。
ニッセイ基礎研+0.3%
(+1.0%)
3/9公表予定の22年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.3%(前期比年率1.0%)となり、1次速報の前期比0.2%(前期比年率0.6%)から上方修正されるだろう。
第一生命経済研+0.1%
(+0.4%)
22年10-12月期はプラス成長とはいえ伸びは僅かなものにとどまり、7-9月期の落ち込み分を取り戻せない。景気の持ち直しのペースが鈍いものにとどまっていることが改めて確認される見込みだ。
伊藤忠総研+0.2%
(+0.8%)
10~12月期の実質GDP成長率(2次速報)は前期比+0.2%(年率+0.8%)と1次速報から小幅上方修正される見通し。個人消費が持ち直しインバウンド需要も回復しているが、財の輸出減と設備投資の停滞で成長ペースが期待されたほど高まっていない姿は変わらず。
三菱総研+0.1%
(+0.2%)
2022年10-12月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+0.1%(年率+0.2%)と、1次速報値(同+0.2%(年率+0.6%))から下方修正を予測する。
明治安田総研+0.3%
(+1.0%)
先行きはエネルギー関連や食品など、生活必需品の価格高騰が個人消費の下押し圧力となる状況が続くとみられる。1月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数、コアCPI)は前年比+4.2%と、前月から+0.2%ポイント上昇幅が拡大し、約41年ぶりの高い伸びとなった。今後は高めの賃上げや、政府の物価高騰対策が個人消費の下支え役になるものの、食品メーカーによる値上げトレンドが予想以上に長期化するリスクがあり、2023年度前半にかけての個人消費はいったん厳しさを増す展開を予想する。
海外経済の動向を見ると、中国は、すでに都市部を中心に感染者数がピークアウトしたとみられるものの、不動産市場の低迷が続くことで、景気回復ペースは緩慢なものにとどまる可能性が高い。米国では、インフレの高止まりに、累積的な利上げの影響の波及が加わることで、今後大方の予想以上に景気が悪化するリスクがある。日本経済の方向性は米国経済の動向に大きく左右される。米国経済が減速度合いを強めるようであれば、日本も年度前半に景気の山を付ける可能性が否定できない。
東京財団政策研n.a.
(n.a.)
モデルは、2023年1-3月期のGDP(実質、季節調整系列前期比)を、0.18%と予測。※年率換算: 0.72%

上のテーブルの通り、ということで、繰り返しになりますが、私の印象としては法人企業統計からして小幅な上方改定、ということなのですが、下方改定を予測するシンクタンクもあります。ただ、下方改定されるとしても、設備投資と在庫の下方改定が主因と私は見ており、設備投資はともかく在庫調整が進むのであれば、経済の姿としてはそれほど悲観する必要はありません。その意味で、上のテーブルに引用した第一生命経済研究所の見方は、ちょっと見当違いかもしれません。
ということで、成長率については、上方改定にせよ、下方改定にせよ、小幅にとどまるということですので、2次QEから目を転じて、上に引用した各シンクタンクのリポートから、2点だけ興味深いトピックを指摘しておきたいと思います。第1に、みずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから、日銀の総裁・副総裁の交代に関連して、金融緩和の方向性は不変としても、今年2023年4~6月期に長期金利目標が撤廃され、来年2024年10~12月期にマイナス金利が解除されると予想しています。第2に、これは上のテーブルに引用しておきましたが、明治安田総研のリポートでは、2023年度前半に景気転換点を迎える可能性について言及されています。要因としては見ての通りで、国内の食料品などの値上がりに伴う消費停滞に加えて、米国経済の減速次第では、「日本も年度前半に景気の山を付ける可能性が否定できない」と結論しています。果たしてどうなのでしょうか?
下のグラフはのリポートから引用しています。

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2023年3月 5日 (日)

自民党世耕氏の日曜討論でのパワークラシーはどこまで否定すべきか?

私はネットのSNSで動画を見ただけでライブでは見ていませんが、本日のNHKで放送された「日曜討論」で自民党の世耕氏が、アベノミクスは失敗ではない、なぜなら、選挙で信任を得ているから、と発言したそうです。左派リベラルの見方では、これは明らかなパワークラシーであり、相変わらず、アベノミクスはほぼほぼ全否定されています。大丈夫ですかね?
私自身は、我が同僚の松尾教授が数年前に出版した『この経済政策が民主主義を救う』で展開されたように、アベノミクスのような経済政策こそ左派リベラルが採用すべき経済政策に近いと考えています。その意味で、金融政策の「正常化」と称して、日銀に現在の異次元緩和の修正を迫るのは、ヤメておいた方がいいと考えています。もちろん、他方で、支持率や政権維持が政策が正しい証であるなら、ロシアのプーチン政権をどう考えるのかが問題です。
ですから、「選挙に勝ったからどうこう」というのは別にしても、経済政策、特に、金融政策に関してはアベノミクスをどこまで評価できるかが左派リベラルの今後を左右すると私は考えていますが、たぶん、左派リベラルの中では少数派なんでしょうね。悲しくも、それだけは自覚しています。

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2023年3月 4日 (土)

今週の読書は観光経済学に関する学術書や話題のミステリなど計4冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、山内弘隆ほか[編]『観光経済学』(有斐閣)は、初学者向けの入門書ながら観光経済学に関する学術書です。呉勝浩『爆弾』(講談社)は、我が国で昨年もっとも話題になったミステリのひとつです。吉田文彦『迫りくる核リスク』(岩波新書)では、長らく朝日新聞のジャーナリストだった著者が勢力均衡の考えに基づく核抑止策を「解体」し、新たな各シルク抑制の方策を議論しています。最後に、宇佐美まことほか『超怖い物件』(講談社文庫)では、11人の作家がいわゆる事故物件などの怖い物件についてホラーを展開しています。ただ、新刊書読書は今週4冊だったのですが、新刊書ならざるミステリを何冊か読んでいます。すなわち、近藤史恵『ダークルーム』(角川文庫)と伏尾美紀『北緯43度のコールドケース』(講談社)、そして、麻耶雄嵩『化石少女』(徳間書店)です。最初の2冊はすでにFacebookでシェアしてあります。最後の『化石少女』のブックレビューもそのうちに、と考えています。
ということで、今年の新刊書読書は、1月2月ともに各20冊ですから1~2月で計40冊、3月に入って今週の4冊で、合計24冊となっています。

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まず、山内弘ほか[編]『観光経済学』(有斐閣)です。著者は、交通経済学や文化経済学などの研究者が多くなっています。でも、エコノミストであることは明らかそうです。いずれにせよ、本書は学術書ですが、初学者の入門書でもありますので、研究者だけを読者に想定しているわけでもなさそうです。まず、最初にお断りしておきますが、私は観光経済学の専門家ではありません。しかも、本書については、4月に研究費が復活したら購入しようと考えていますので、やや雑な読み方になっている可能性はあります。構成は4部からなっており、最初にマイクロな経済学の基礎、次に、観光産業、そして、地域政策、最後に当kリヤ実証に、それぞれスポットを当てています。最初のマイクロな経済学は、通常のいわゆるミクロ経済学と大差ないのですが、私の印象で重要なポイントは2点あります。第1に、供給に関しては通常の財やサービスなどよりも供給制約が激しい点です。もちろん、普通のモノやサービスなどでも、売り切れになったり、サービス提供を受けられないケースはあり得ます。でも、バブル期のレストラン予約とか、いまでも繁忙期のホテルや飛行機の予約は通常以上に売切れ、というか、予約いっぱいとなるケースが多いのではないでしょうか。従って、観光に関する供給曲線はかなりスティープと考えるべきです。加えて、第2に、通常のミクロ経済学では市場における完全情報を前提にしますが、観光に関しては情報の非対称性はかなり大きと考えるべきです。観光に関する情報が完全であれば、わざわざ観光のために旅行して出向く必要はないからです。そして、第Ⅱ部の観光産業については、そもそも、通常の統計や経済学における産業分類は供給する財やサービスに従っていますので、観光サービスというカテゴリーはあり得なくはないものの、一般的ではありません。ですから、この第Ⅱ部ではいわゆる旅行代理店のような仲介業、宿泊と交通という3つの産業をそれぞれの章で取り上げています。すなわち、観光業というのは宿泊業とか、飲食サービス業とか、交通業にまたがって観察される一方で、例えば、交通では観光ばかりでなく通常の通勤通学も含まれてしまいます。ですから、統計的に観光のアウトプットを把握するのは少し難しい課題となります。そして、第Ⅲ部と第Ⅳ部は少し簡略に飛ばすこととし、私が今までに大学院生の修士論文指導などで勉強してきた観光経済学のいくつかのポイントを書き記しておきたいと思います。まず、広く観光とは旅行とほぼほぼ同じで日常生活を離れたアクティビティであり、英語では travel になります。ですから、狭い意味での sightseeing ではありません。英語の論文で勉強したもので英語が続いて申し訳ありませんが、やや記憶は不確かながら、観光目的は主として4つあります。(1) natural wonder、(2) urban convenience、(3) resort hospitality、(4) business、となります。最初の(1)はアフリカの大自然、野生の動物、ナイアガラの滝などに行くことです。(2)は主として都会で可能となる活動、美術館・博物館、あるいは、観劇などで、かつての訪日観光客の「爆買い」などのショッピングも含めていいかもしれません。(3)はいうまでもなく、ハワイやサイパンなどのビーチリゾートのほか、ニセコのスキー場などが上げられます。(4)はsightseeingの観光には含まれないと考える日本人が多そうですが、ビジネス客だって出張先には飛行機や列車などで移動しますし、レストランで食事してホテルに泊まったりします。おそらく、これらの観光目的別だけでなく、観光施設とその基礎となる施設、すなわち、ホテルやレストランは民間企業が受け持つとしても、飛行場や高速道路、あるいは鉄道網などのインフラをどのように整備するか、といった観点から地方進行の政策に結びつける観点も必要です。観光経済学とは決してマイクロだけな経済学ではありません。

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次に、呉勝浩『爆弾』(講談社)です。著者は、ミステリ作家です。おそらく、この作品は昨年2022年中の我が国ミステリ作品の中でも、夕木春央の『方舟』とともに、もっとも話題になった作品のひとつではないかと思います。酒の自動販売機を蹴って、酒屋に暴行を働くという微罪で野方署に連行されたスズキタゴサクと名乗る男が、取調べの際に霊感があると称して「10時に秋葉原で爆発がある」と予言し、その予言が的中して秋葉原の廃ビルが爆破されるところからストーリーが始まります。ここから東京都内で連続爆弾事件が展開するわけです。広い東京でどこの爆弾が仕掛けられたかをシラミ潰しに捜索するわけにもいかず、警察の方では警視庁捜査一課特殊犯捜査係を所轄の野方署に派遣して尋問を続け、次の爆発を防ぐにはこのスズキタゴサクの繰り出す「ヒント」をクイズのように解くしかなくなります。果たして、次の爆破地点はどこか、いつなのか、単独犯か共犯がいるのか、などなど、スズキタゴサクの発言を軸に、極めてテンポよくストーリーが進みます。そして、これも私の好きなタイプのミステリで、最後の最後にどんでん返しのように名探偵が真相を解き明かすのではなく、少しずつ 少しずつタマネギの皮を剥くように真相が明らかになっていきます。私のような単純な読者からすれば、一気読みしたくなるようなテンポのよさをもっているミステリです。尋問する方の警察官、もちろん、スズキタゴサクも極めて明快なキャラを持っていて、スズキタゴサクについては、とぼけたキャラながら、残虐な性格を隠し持っているほかに、何とも実に鋭い知性と演技力のようなものを兼ね備えていることが徐々に明らかになっていきます。しかし、日本警察の悪弊のひとつかもしれませんが、事件解決。真相解明のために、無差別爆破テロとはいえ、極めて極端に自供・自白に偏重した真相解明の方向が示されます。ほぼほぼ、物証はまったくないに等しく、論理性についても、クイズ・パズルを解くための屁理屈はいくつかでてきますが、選択肢をしっかりと絞れるほどではありません。せいぜいが「蓋然性が大きい」という程度のものです。犯人と警察の心理戦、といういい方が出来るのかもしれませんし、それはそれで、結構息詰まるバトルではあるのですが、もう少しミステリとしての論理性が欲しかった気がします。

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次に、吉田文彦『迫りくる核リスク』(岩波新書)です。著者は、現在は長崎大学に設置されている核兵器廃絶研究センターの研究者なのですが、長らく朝日新聞のジャーナリストをと務めています。長崎大学は私も出向していましたから、少しくらいは土地勘あるのですが、この研究センターは知りませんでした。本書では、したがって、世界の常識とは少しズレているかもしれませんが、広島ではなく長崎を中心に据えています。すなわち、「長崎を最後の被爆地に」というスローガンが随所に引用されています。本書は4部構成であり、最初に最新のウクライナ情勢を引きつつ、ロシア、というか、ロシアのプーチン大統領による「核による恫喝」が現実のものとなった点を強調します。そして、勢力均衡の核兵器版である現在の核抑止システムのリスクを検証し、核抑止を「解体」しつつ、日本が核抑止で果たしている役割などを分析しています。そして、最後に、核抑止に代わるポスト核抑止のあり方を議論しています。おそらく、第3部までの議論は多くの日本人が十分に受入れ可能な内容だと私は考えます。特に、核抑止における日本の役割は、佐藤総理のころのその昔は、本書では日本が何ら自律的な行動を取らない「お任せ核抑止」だったのが、徐々に積極的な役割を果たすようになった危険性を指摘しています。およそ、この点については、核抑止だけでなく安全保障上の我が国の政策がここ数年で極端に積極化したことは多くの日本人の目に明らかです。昨年は貿易費=軍事費の倍増が議論されて、事実上決定されました。子育て予算の倍増が「子供が増えれば、子育て予算も増える」というのんきな議論とは違うレベルで決められたことは広く報じられている通りです。その上で、最終パートでは、現在の勢力均衡に基づく核抑止を支持し強硬な姿勢を取るタカ派、そして、逆に、耐候性力に対する融和策を思考するハト派、の2つの考え方ではなく、各リスクの逓減を目的とするフクロウ派の考えを提唱しています。ただ、本書でも指摘しているように、私の知る限りナイ博士の提唱するフクロウ派は、いわゆる「正しい戦争」や「正しい核兵器の使用」を含んでおり、どこまでの有効性や実現性があるのか、やや疑問です。そのあたりは、本書を読んだ読者がそれぞれに考えて議論すべき点かもしれません。でも、いずれにせよ、核兵器のリスク低減のためのひとつの方向性を含んだ良書だと私は受け止めています。

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最後に、宇佐美まことほか『超怖い物件』(講談社文庫)です。著者は、小説家ですが、11人の作者による短編集のアンソロジーです。収録作品は、宇佐美まこと「氷室」、大島てる「倒福」、福澤徹三「旧居の記憶」、糸柳寿昭「やなぎっ記」、花房観音「たかむらの家」、神永学「妹の部屋」、澤村伊智「笛を吹く家」、黒木あるじ「牢家」、郷内心瞳「トガハラミ」、芦花公園「終の棲家」、平山夢明「ろろるいの家」となっています。出版社は文庫オリジナル、と宣伝していますが、いくつかの短編は別のアンソロジーや短編集に収録されています。タイトルから容易に推察されるように、アパートなどの賃貸不動産で自殺などがあったような事故物件をはじめとする不動産や家にまつわるホラー短編を集めています。すべてのあらすじを取り上げるのは難しいので、いくつかに絞って言及すると、収録順に、まず、宇佐美まこと「氷室」は、古民家を購入した主人公が、そこにある氷室が気にかかるということで、ストーリーが進みます。そして、コーディネータの女性がどのようにして古民家の人気物件が空いて貸せるようにするかの謎が怖いです。糸柳寿昭「やなぎっ記」と花房観音「たかむらの家」は、小説という体裁ではなく、何となくノンフィクションのルポルタージュを思わせる文体となっています。神永学「妹の部屋」は、自殺した妹の部屋がいきていたときのままに「修復」というか、元通りになってしまいます。澤村伊智「笛を吹く家」は同じ作者の『葉桜の季節に君を想うということ』を読んだことがあれば、その類似性に気づくものと思います。黒木あるじ「牢家」は、家の真ん中に360度から見張れるような座敷牢があり、その謎に迫ります。そして、最後の平山夢明「ろろるいの家」は、家庭教師に来た家の超怖いお話で、おそらく、この収録作品の中の最高傑作だと私は思います。たぶん、タイトルに付けた「超」はやや誇張が含まれていて、まあ、フツーのホラーと考えるべきです。でも、最後の平山夢明「ろろるいの家」はホントに怖いです。「超」を付けてもいいと私が思うのはこの作品だけです。

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2023年3月 3日 (金)

堅調に推移する2023年1月の雇用統計をどう見るか?

本日は、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも1月統計です。失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.4%を記録し、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント悪化して1.34倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月求人倍率1.35倍、求職増で低下 失業率2.4%に改善
厚生労働省が3日に発表した1月の有効求人倍率は1.35倍(季節調整値)と、前月から0.01ポイント低下した。2年5カ月ぶりに前月を下回った。有効求職者数は178万1603人で前月から0.6%増え、有効求人数は256万2353人で0.1%減少した。物価高を背景に収入を増やそうと転職を希望する人が増え、求職者1人当たりの求人数を示す求人倍率が低下したとみられる。
総務省が同日発表した1月の完全失業率は2.4%と前月比0.1ポイント低下し、2020年2月以来の水準となった。失業率の改善は2カ月ぶり。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人、1人当たり何件の求人があるかを示す。倍率が高いほど職を得やすい状況となる。新型コロナウイルス禍で2020年9月に1.04倍まで落ち込み、その後は上昇傾向にある。22年8月以降は1.3倍台で推移する。
景気の先行指標とされる新規求人数は93万9104人と前年同月比4.2%増えた。業種別では、コロナの感染拡大下でも訪日外国人など客足が堅調だった宿泊・飲食サービスの伸びが大きく、27.0%増加した。原材料の高騰で生産を減らした製造業は4.0%減少した。新規求人倍率は2.38倍で2カ月連続の横ばいだった。
就業者数は6689万人で前年同月比43万人増えた。6カ月連続で増加した。完全失業者数は21万人減少して164万人となった。非労働力人口は65万人減って4161万人だった。休業者数は219万人で30万人減少した。

続いて、雇用統計のグラフは下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、これまた、前月から横ばい1.35倍と見込まれていました。ともに前月から横ばいと予想されていましたが、実績では、失業率はわずかに改善し、有効求人倍率は市場予想からやや下振れしました。総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い面もあるとはいえ、雇用は底堅いと私は評価しています。季節調整済みのマクロ統計で見て、労働力人口が前月から+12万人増加し、就業者が+18万人、雇用者も+12万人増加する中で、非労働力人口は▲22万人減少しています。失業者が労働市場から退出して非労働力人口化するわけではなく、逆に、非労働力人口から職を得て雇用者・就業者になるわけですので、失業率の低下の要因としては好ましいと私は考えています。マイクロに産業別の雇用を見るため休業者数に着目すると、昨年2022年12月統計では前年同月から+42万人増と、やや増え方が大きくなっていたのですが、直近で利用可能な本日公表の今年2023年1月統計では▲30万人減となっていて、産業別では、宿泊業・飲食サービス業の▲9万人減が目立っています。また、引用した記事にもあるように、雇用の先行指標とみなされている新規求人数でも宿泊業・飲食サービス業では前年同月比で+27.0%増と大きく伸びており、さらに、+27%の内訳では、パートタイムの+24.2%増に対してパートを除く常用雇用は+32.6%増ですから、質的な中身もいいと考えるべきです。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染状況に応じ、また、インバウンド観光客の水際対策の緩和や国内旅行でも全国旅行支援など、一連の旅行に関する需要の増加が感じられる統計となっています。

最後に、日本時間の本日夜に米国雇用統計も公表される予定となっています。コチラは2月統計です。夜遅くになっても、本日中に取り上げたいと思います。

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2023年3月 2日 (木)

いよいよ企業収益が停滞し始めた2022年10-12月期法人企業統計をどう見るか?

本日、財務省から昨年2022年10~12月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+6.1%増の372兆5850億円だったものの、経常利益は▲2.8%減の22兆3768億円と8四半期ぶりのマイナスを記録しました。そして、設備投資は+7.7%増の12兆4417億円を記録しています。季節調整済みの系列で見ても原系列の統計と同じ基調であり、売上高と設備投資は前期比プラスながら、経常利益はマイナスとなっています。ただ、GDP統計の基礎となる設備投資については前期比+0.5%増にとどまっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

法人企業統計、経常益8期ぶりマイナス 22年10-12月
財務省が2日発表した2022年10~12月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は前年同期比2.8%減の22兆3768億円だった。マイナスは8四半期ぶり。製造業が15.7%の大幅減で全体を押し下げた。物価高や世界経済の減速が影を落とし、企業業績の拡大にブレーキがかかった。
経常利益の額は10~12月期として過去最高だった前年を下回ったものの2番目に高い水準となっている。
主要業種をみると、製造業は化学が26.9%の減益だった。石油・石炭は赤字に転落した。原材料価格の上昇が響いている。化学は研究開発費もかさんだ。情報通信機械は海外需要の減少を背景に34.4%の減益だった。
非製造業は5.2%の増益だった。新型コロナウイルス禍からの回復基調を保っている。政府の「全国旅行支援」の補助効果があり、運輸業・郵便業は93.7%増と目立って伸びた。
非製造業でも一部の業種は電気料金の高騰が響き、減益となった。22.9%減の情報通信業は電力消費量の多いデータセンターの経費が膨らんだ。サービス業も11.8%減少した。
売上高は6.1%増の372兆5850億円だった。業種別では製造業が9.2%増。輸送用機械関連が13.6%増えた。非製造業は4.9%増で、電気料金の高騰を背景に電気業(44.8%)の売上増が目立った。
設備投資は全体で7.7%増の12兆4417億円と7期連続のプラスだった。デジタル化や省人化などで旺盛な投資が続いているとみられる。非製造業で8.6%、製造業で6.0%伸びた。
製造業は化学(26.2%)や金属製品(56.4%)が大きく増えた。脱炭素やデジタル関連の投資が旺盛だ。非製造業は新規出店が進んだサービス業で21.9%伸びた。
財務省は今回の法人企業統計について「緩やかに持ち直している景気の状況を反映している」と説明した。先行きについては「物価上昇などの影響を注視する」と、コスト高が企業経営を圧迫するリスクに懸念を示した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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ということで、法人企業統計の結果について、海外景気に依存する割合の高い製造業と内需に基礎を置く非製造業で少し差が出始めた気がします。すなわち、今年2022年に入って1~3月期から内外で物価上昇が進み、日本を除いて先進各国は軒並み金融引締めに転じています。従って、海外経済の停滞から製造業に逆風となる一方で、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のための行動制限がなく、5月のゴールデンウィーク明けからは5類の季節性インフルエンザと同じ分類に見直されると決定されていることから、水際規制の緩和に伴うインバウンドの復調も合わせて、非製造業には追い風となっています。ですから、前年同期比で見る限り、売上高については増収が続いています。引用した記事にもあるように、物価上昇による名目の売上増という面があります。数量ベースの増加にどこまで支えられているかは不明です。他方で、経常利益は製造業と非製造業で明確な差が出ました。非製造業では+5.2%の増益でしたが、製造業では▲15.7%の大きな減益を記録しています。季節調整済みの系列で見ても同様で、季節調整済みの系列の経常利益では、非製造業が前期比+16.5%となったのに対して、製造業は▲23.7%と大きく落ち込みました。このあたりの産業別の跛行性については、キチンと把握しておく必要があります。同時に、上のグラフを見ても理解できるように、売上高はリーマン・ショック直前のサブプライム・バブル期のピークには達していませんが、経常利益はとっくに過去最高益を突破しています。企業サイドからすればカッコ付きで「体質強化」をいえるのかもしれませんが、従業員や消費者のサイドから考えれば、企業利益ばかりが溜め込まれるのがどこまで現在の日本経済に好ましいのかどうか、もちろん、日本経済がかつての高度成長期のように拡大基調であればまだしも、トリックルダウンはほぼほぼ完全に否定され、ほとん経済成長なしに賃金も上がらない中で、企業部門ばかりが利益を積み上げるのが経済社会的に見ていいのかどうか、疑問とする意見もありそうな気がします。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍の中でを経て労働分配率とともに設備投資/キャッシュフロー比率が大きく低下を示しています。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金は伸びを高めています。また、4枚めのパネルにあるように、人件費が長らく停滞する中で、経常利益は過去最高水準をすでに超えています。繰り返しになりますが、勤労者の賃金が上がらない中で、企業収益だけが伸びるのが、ホントに国民にとって望ましい社会なのでしょうか、それとも、現在の経済社会は誰にとって望ましくなるようになっているのでしょうか?

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最後に、本日、内閣府から2月の消費者態度指数が公表されています。2月統計では、前月から+0.1ポイント上昇し31.1を記録しています。指数を構成する4指標のうち、2指標が上昇しています。すなわち、「雇用環境」が+0.8ポイント上昇し38.0、「収入の増え方」が+0.6ポイント上昇し36.2、他方で、「暮らし向き」が▲0.8ポイント低下して27.0、また、「耐久消費財の買い時判断」も▲0.5ポイント低下し23.0を記録しています。「雇用環境」も「収入の増え方」も改善しているにもかかわらず、「暮らし向き」が悪化しているのは明確に物価上昇が原因です。たぶん、「耐久消費財の買い時判断」についても、いく分なりとも物価上昇の影響が見られると私は考えています。統計作成官庁である内閣府では、消費者マインドの基調判断について、先月1月統計で「弱い動きがみられる」と修正し、今月2月統計ではそのまま据え置いています。

なお、本日の法人企業統計を受けて、来週3月8日に内閣府から2022年10~12月期のGDP統計速報2次QEが公表される予定となっています。私は1次QEから設備投資を中心として小幅に上方修正されるであろうと考えていますが、大きな修正ではなかろうと予想しています。この2次QE予想については、また、日を改めて取り上げたいと思います。

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2023年3月 1日 (水)

日本の賃金について考えるニッセイ基礎研究所のリポート「生産性向上が先か、賃上げが先か」やいかに?

一昨日、今週月曜日の2月27日に、日本の生産性と賃金に関してニッセイ基礎研究所から「生産性向上が先か、賃上げが先か」と題するリポートが明らかにされています。まあ、何と申しましょうかで、シンクタンクの数ページのリポートで日本の賃金を語り尽くせるわけもないのですが、少なくとも途中までの分析は秀逸であり、ほぼほぼ私も合意できる内容ですので、簡単に見ておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから 名目賃金の国際比較 を引用しています。いわゆるバブル経済崩壊の1990年を起点としていますので、特に差が際立っているとはいえ、国際比較すると我が国の賃金がほとんど伸びていない、というより、やや減少すら示している点が確認できると思います。このあたりは、同様の指摘が相次いでいて、「韓国にも抜かれた」といった論調があるのは広く知られているとおりかと思います。もっとも、リポートでも指摘していますが、この間、我が国はデフレでもありましたので、実質賃金で見ると、2倍を超えるような大きな差なはない、とはいうものの、数十パーセントの開きが生じていることは確かです。

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そして、経営サイドからは「生産性が伸びないから賃金が伸びない」と言った反論がなされる場合が多いのですが、それを否定するのが上のグラフであり、リポートから 労働生産性(時間当たり)の国際比較 を引用しています。国際比較をすると、時間当たりの労働生産性は名目賃金ほどの乖離がない点は明らかです。米国には及びませんが、我が国の時間当たり労働生産性は欧州先進各国と大差ないと感じるのは私だけではないと思います。イタリアを上回ってすらいます。そして、ここまでの分析は、リクルートワークス研究所のサイトでも同様の結論となっています。

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そして、時間当たりの労働生産性がそれほど差がないにもかかわらず、賃金では大きな差を生じている原因として、上のグラフの通り、リポートでは 労働生産性(時間当たり)の要因分解 を示して、労働時間減少の寄与が大きいからである、と指摘しています。まったくその通りです。そして、別の表現をすれば、上のグラフでは黄色っぽい労働投入量の削減による生産性向上となっていて、緑のGDP=付加価値の拡大を伴わないからである、との指摘です。特に、家計消費と設備投資の停滞を考慮し、家計消費の拡大のためには賃上げが必要、との結論です。生産性向上と賃上げの「ニワトリとタマゴ」の関係では、我が国の生産性の伸びは先進諸国と比較しても遜色ないのであるから、賃上げが欠けている、という結論は十分に受入れられるものです。ただ、1点だけ忘れるべきでないのは。労働投入の削減、すなわち、労働時間の減少がいわゆる「働き方改革」などによってもたらされているわけではない、という事実です。下のグラフは、やや古いんですが、2013年に開催された厚生労働省の雇用政策研究会の資料「正規雇用労働者の働き方について」から引用しています。左のパネルが 年間総実労働時間の推移(パートタイム労働者を含む)、右が 就業形態別年間総実労働時間及びパートタイム労働者比率の推移 となっています。横軸の始点である平成6年はバブル経済崩壊後の1994年、最終データのある平成24年は2012年です。このグラフに収録された20年近くの間に、左のパネルに示されているように、正規と非正規を合わせた年間の総実労働時間は1900時間超から1800時間弱に▲100時間あまり減少しましたが、右のパネルから正規=一般労働者の総実労働期間がまったく減少していないのが見て取れます。他方で、パートタイム労働者の比率は10%強から25%近くに上昇しています。すなわち、賃金が上がらないのは、労働時間が減少しているからであり、労働時間が減少しているのはパートタイム労働者などの非正規雇用が拡大しているからである、と結論されるべきです。ですから、ニッセイ基礎研究所のリポートは、前段の 労働時間の減少 → 賃金が上がらない、は十分に分析されているのですが、後段の 非正規雇用の拡大 → 労働時間の減少、にまで分析が及んでいません。私は、ニッセイ基礎研究所のリポートにあるように、特に現在のような高インフレ下では、需要サイドで 賃上げ → 付加価値拡大、もとても重要だと思いますが、供給サイドで 非正規雇用の拡大 → 労働時間の減少、にも目を向けるべきであり、賃上げほかの手段による需要拡大とともに、何らかの非正規雇用への歯止めが必要だと考えています。ただ、こういった「非正規雇用歯止め」論は支持がないのだろうということは自覚しています。でも、同じように長期のトレンドに抗している反グローバリズムも一定の支持を得ているわけですし、非正規雇用歯止め論も主張し続けるべきだと私は考えています。

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今日はカミさんの誕生日

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今日は、カミさんの誕生日です。
私も9月には65歳になります。まだ先は長い気がしますが、いつ何時なにがあってもいいように考えておくべきタイミングかも知れません。

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