« 才木浩人投手が佐々木朗希投手に投げ勝ってロッテに連勝 | トップページ | 新しいランニングシューズを買ってトレーニングに励む »

2023年6月10日 (土)

今週の読書はまたまた軽めに計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、あをにまる『今昔奈良物語集』(角川書店)は古典を基に奈良に即したパロディにした短編を収録した短編集です、単行本はこれだけで、あと4冊は新書になります。斎藤幸平『ゼロからの『資本論』』(NHK出版新書)は晩期マルクスをひも解いて物質代謝の理解から脱成長によるサステイナビリティの改善の道筋を示しています。貞包英之『消費社会を問いなおす』(ちくま新書)では、労働と消費のデカップリングのためのベーシックインカムについて論じています。恒川惠一『新興国は世界を変えるか』(中公新書)では、経済力を背景に存在感を増している新興国のプレゼンス向上が自由主義的国際主義の世界を変えるかどうかを考えています。最後に、石破茂ほか『自民党という絶望』(宝島社新書)では様々な観点から政権党であり続ける自民党に関する批判的見方を提供しています。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊でしたが、先週8冊の後、今週ポストする5冊を合わせて57冊となります。順次、Facebookでシェアするなど進めたいと思います。

photo

まず、あをにまる『今昔奈良物語集』(角川書店)です。著者は、主としてネット小説を手がけている作家ということです。本書巻尾には「奈良県出身、在住」としかありませんが。当然ながら、何らかのより強いつながりがあるのだろうと私は想像しています。本書は古典を基に奈良に即したパロディにした短編を収録した短編集です。収録されている作品とその元となる古典は、順に、「走れ黒須」(太宰治『走れメロス』)、「奈良島太郎」(『浦島太郎』)、「二十歳」(菊池寛『形』)、「ファンキー竹取物語」(『竹取物語』)、「大和の桜の満開の下」(坂口安吾『桜の森の満開の下』)、「古都路」(夏目漱石『こころ』)、「三文の徳」(芥川龍之介『薮の中』)、「若草山月記」(中島敦『山月記』)、「どん銀行員」(新美南吉『ごんぎつね』)、「うみなし」(宮澤賢治『やまなし』)、「耳成浩一の話」(小泉八雲『耳無芳一の話』)、となっています。冒頭作は、大阪のぼったくりバーの料金を払えずに、友人を残して奈良まで支払手段を取りに帰り、友人を救助すべく夜明け前の道を急ぐ、というものです。私自身は、「どん銀行員」を面白く読みました。鈍で大した仕事もしていないように見える銀行員が、実は、とても重要な役割を果たしている、という作品です。私自身は京都から近鉄に乗って奈良にある中学・高校に6年間通っていましたから、土地勘がありますし奈良にはそれなりの思い入れもあります。でも、京都よりも古いことですし、多くの読者が楽しめる作品に仕上がっていると思います。

photo

次に、斎藤幸平『ゼロからの『資本論』』(NHK出版新書)です。著者は、集英社新書の『人新世の「資本論」』などで注目されているマルキストです。私の目から見て、エコノミストというよりは哲学者に近い印象を持ちますが、私のような主流派に属するエコノミストから見ると、マルキストはそういう人が多いのかもしれません。本書は、2021年1月にNHKで放送され好評だった「100分de名著 カール・マルクス『資本論』」を基にしています。大昔ながら、一応、私は『資本論』全3巻を読んでいて、公務員試験の2次試験の面接でも隠すことなく明らかにした記憶があり、その上で採用されて官庁エコノミストをしたりしました。ですから、「ゼロから」をつけられると少し抵抗がなくもないのですが、まあ、ほぼほぼゼロだというとこは認めます。そして、本書では、『資本論』だけに依拠するのではなく、この著者が盛んに主張しているように、後期ないし晩期マルクスの物質代謝を軸にして、従来の史的唯物論から脱却したマルクス主義を展開しています。その主眼は、史的唯物のような一直線の成長ではなく、むしろ脱成長を軸に置き、それと環境との調和、あるいは、経済と環境のサステイナビリティを両立させる方向性です。私はマルクス主義そのものにそもそも詳しくないですし、加えて、一般的理解の先にある晩期マルクスの主張はまったく不案内ですが、現在のネオリベな資本主義の前を展望する経済社会体制として、マルクス主義的な社会主義や共産主義は十分可能性がある、と考えていて、でも、私はまったく詳しくない、とも自覚しています。その意味で、大いに勉強になりました。

photo

次に、貞包英之『消費社会を問いなおす』(ちくま新書)です。著者は、立教大学の研究者であり、専門は経済学ではなく社会学です。ですから、本書では「消費社会」について、かなりの程度に経済学的な観点を踏まえつつ、でも、社会学的に消費者の選択という観点から考えています。もっとも、経済学でも選択の問題はよりロジカルに考えますから、むしろ、社会学的に消費の限界を考えていて、その限界の解決を思考している、と私は受け止めています。そして、本書で指摘している消費の限界は2点あり、経済と環境です。経済という点でいえば、格差・不平等とか不公平の拡大があり、環境については、もはやいうまでもありません。新書ながら限界の解決策を思考しているのが本書の立派なところで、解決のためにベーシックインカムを主張しています。すなわち、ベーシックインカムによって勤労/労働と消費のデカップリングが可能になる、というわけです。私には、この論点、というか、労働と消費のデカップリングがどこまで重要なのかが十分に理解できませんでした。加えて、消費の分析が甘い気がします。というのは、ネットの普及・発達によるSNSや通販が消費に及ぼす影響、あるいは、消費者への影響がほとんど分析されていません。ここはもう少し掘り下げた分析が欲しかったところです。

photo

次に、恒川惠一『新興国は世界を変えるか』(中公新書)です。著者は、政策研究大学院大学(GRIPS)の研究者でしたが、私よりもさらに10歳ほど年長ですから、一線は退いているのではないかと想像しています。専門は比較政治学、国際関係論です。実は、もう15年ほど前に私が長崎大学の教員だったころ、国際開発機構(JICA)研究所の非常勤の特別研究員をしていたのですが、その時のJICA研の所長ではなかったか、と記憶しています。本書では、高い成長率に示されているような経済力を背景に存在感を増している新興国、BRICSをはじめとする新興国について、政治経済的に福祉国家の志向、民主化の行方、あるいは、国際関係への関与、などを概観しつつ、本書のタイトルである「新興国は世界を変えるか」について考察を進めています。そして、中でも「世界を変える」というのは、本書p.199に示されているように、2つの次元、すなわち、民主主義と権威主義、そして、国際協調と自国中心を考え、先進国中心の世界は自由主義的国際主義、すなわち、民主主義に基づく国際協調であった一方で、国家主義的自国主義に変貌していく可能性を指しています。そして、少なくとも現時点では、そのリスクは大きくないと楽観的な結論を示しています。私も基本的にこの結論には賛成なのですが、他方で、本書のスコープ外ながら、視点を新興国から先進国の方に移動させると、米国のトランプ前大統領、あるいは、イタリアのメローニ首相、あるいは、欧州のいくつかのポピュリスト党の伸長などは新興国側からではなく、先進国側からの自由主義的国際主義へのリスクになりそうな気もします。

photo

次に、石破茂ほか『自民党という絶望』(宝島社新書)です。著者は、上の表紙画像に小さく見える9名であり、終章を別にすれば9章から構成されています。ただ、著者、というのは完全に正確なわけではなく、むしろ、対談でインタビューを受けている方々、ということになります。長くなりますが、少タイトルと著者を羅列すると、第1章 "空気"という妖怪に支配される防衛政策-石破茂(自民党・衆議院議員)、第2章 反日カルトと自民党、銃弾が撃ち抜いた半世紀の蜜月-鈴木エイト(ジャーナリスト)、第3章 理念なき「対米従属」で権力にしがみついてきた自民党-白井聡(政治学者・京都精華大学准教授)、第4章 永田町を跋扈する「質の悪い右翼もどき」たち-古谷経衡(作家)、第5章 "野望"実現のために暴走し続けたアベノミクスの大罪-浜矩子(経済学者)、第6章 「デジタル後進国」脱却を阻む、政治家のアナログ思考-野口悠紀雄(経済学者)、第7章 食の安全保障を完全無視の日本は「真っ先に飢える」-鈴木宣弘(経済学者・東京大学大学院農学生命科学研究科教授)、第8章 自民党における派閥は今や“選挙互助会”に-井上寿一(歴史学者・学習院大学教授)、第9章 小泉・竹中「新自由主義」の"罪と罰"-亀井静香(元自民党政調会長)、ということになります。基本的に、今世紀に入ってからの自民党政権、特に長期政権を維持した安倍内閣のころの自民党が主として取り上げられている印象です。終章では、サルトーリ教授の「1党優位性」の概念を示しつつ、自民党政権が続いた点について考察を加えています。特に、現在の岸田内閣については、安倍内閣や菅内閣と基本的に差はない、とする多くの識者の意見は、私もその通りだと感じています。ただ、私は特に今世紀に入ってからの連立与党である公明党の果たした役割が抜けている気がしてなりません。「統一協会」問題での存在感のなさは少し不思議でした。加えて、自民党のコインのウラに当たる野党、特に2009年に政権交代を果たした当時の民主党政権のひどいパフォーマンスについて、もう少し取り上げて欲しかった気がします。でも、そういった点を割り引いても、本書は自民党政権の理解に大いに役立つと私は受け止めていますし、多くの読者が読んでおいて損はない、と考えています。

|

« 才木浩人投手が佐々木朗希投手に投げ勝ってロッテに連勝 | トップページ | 新しいランニングシューズを買ってトレーニングに励む »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 才木浩人投手が佐々木朗希投手に投げ勝ってロッテに連勝 | トップページ | 新しいランニングシューズを買ってトレーニングに励む »