エっ、奨学金の返済が動機の自殺が増えている?
本日の朝日新聞朝刊の1面トップの記事を見て愕然としました。奨学金を得て進学したはいいのですが、その奨学金の返済ができずに自殺するケースが昨年2022年に10件に達したことから、自殺者統計で原因や動機に奨学金返還の項目が加わったことを報じています。まず、朝日新聞のサイトから記事の最初のパラだけを引用すると以下の通りです。
自殺の動機「奨学金の返済苦」、22年は10人 氷山の一角との声も
2022年の自殺者のうち、理由の一つとして奨学金の返還を苦にしたと考えられる人が10人いたことが、警察庁などのまとめでわかった。自殺者の統計が同年から見直され、原因や動機に奨学金返還の項目が加わったことで初めて明らかになった。国は、返す必要のない給付型奨学金の拡充などを打ち出しているが、識者や支援者は「いま返還している人への施策が必要」「人数は氷山の一角だ」と指摘する。
続いて、同じく朝日新聞のサイトから自殺者数の推移と2022年の統計から新らしく入った主な項目の画像を引用すると以下の通りです。
私は大学教員ですから、当然に、初等・中等教育よりも奨学金を得て進学している学生が多いことは実感しています。しかし、後年に返済が必要な貸与型が少なくなく、朝日新聞の記事では「人によっては、返還額は1千万円前後になることもある。」と指摘しています。広く知られている通り、大学の授業料はここ50年ほどで急激に上昇しています。文部科学省の資料にある通りです。私のころは国立大学で年間96,000円でした。私の父親はデスクワークなんてしたこともないような労働者階級でしたが、国立大学の授業料を払えるくらいのお給料はもらっていたのだろうと思います。しかも、私より2-3年前の年代では国立大学の授業料は年間36,000円でした。その時代でもほぼほぼ無料に近い感覚だったろうと思います。しかし、現在では国立大学授業料は年間50万円を軽く超え、私立大学に至っては100万円に近づいています。
経済学的に考えて、2点指摘しておきたいと思います。第1に、少なくない先進国で大学教育が無償化されている一方で、我が国では大学教育はかなり高額な授業料負担が伴うと理解されていますが、実は、私の少し前、でも今から考えれば50年前まで国立大学の授業料は年間36,000円に抑えられていました。当時の感覚でも、ほぼ無償に近い水準だったと私は記憶しています。繰り返しになりますが、私の世代の年間96,000円もかなり「格安」と受け止められていました。私くらいまでの世代であれば、国立大学で無償に近い大学教育が受けられていたわけです。しかし、第2に、我が国で大学教育の授業料負担が可能であったのは長期雇用と補完的な年功賃金のおかげです。すなわち、年功賃金によって子供が大学進学するころにお給料が増えて、大学教育の授業料が払えてしまっていたわけです。でも、この長期雇用と年功賃金が崩壊し非正規雇用が大きく拡大したにもかかわらず、大学授業料は上がり続けているわけです。もしも、政策的に雇用の流動化を進めるのであれば、高等教育の授業料負担は大きく軽減されなければなりません。そうでなければ、政策的な整合性が確保できません。
私はエコノミストとして、また、いくつかの経験的にも、大学教育が貧困からの脱出や格差の是正に役立つことを強く主張しています。そのためには、大学教育の負担を低く抑えるか、あるいは、大学教育の負担をできるだけのお給料が支払われるか、どちらかが必要です。
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