高い上昇率が続く5月統計の消費者物価指数(CPI)の先行きをどう見るか?
本日、総務省統計局から5月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+3.2%を記録しています。前年比プラスは21か月連続で、高い上昇率での推移が続いています。ヘッドライン上昇率も+3.2%に達している一方で、エネルギー価格の高騰が一巡したことから、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+4.3%に達しています。コアCPIはもちろん、エネルギーと生鮮食品を除くコアコアCPIでも日銀のインフレ目標である+2%を超えています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
消費者物価、5月3.2%上昇 食品や宿泊が伸び高止まり
総務省が23日発表した5月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.8となり、前年同月比で3.2%上昇した。プラスは21カ月連続で、高水準での推移が続く。食品といった生活必需品や宿泊料の値上がりが全体を押し上げ、物価上昇の品目も増えた。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値の3.1%を上回った。再生可能エネルギー発電促進賦課金の引き下げや燃料価格の下落があった電気代が押し下げ、4月の3.4%からは伸び幅が縮小した。日銀の物価目標である2%を上回る状況が続く。生鮮食品を含む総合指数は3.2%上昇した。
生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は4.3%上昇し、プラス幅が前月から0.2ポイント拡大した。伸びの拡大は12カ月連続となる。第2次石油危機の影響で物価が上昇した1981年6月の4.5%以来41年11カ月ぶりの高い上昇率となった。
品目別では生鮮食品を除く食料が9.2%プラスだった。75年10月の9.9%以来47年7カ月ぶりの上昇幅となる。原材料価格や物流コストの上昇で、アイスクリームが10.1%上昇した。4月に価格改定のあったヨーグルトも11.3%伸びた。
日用品も値上げが続き洗濯用洗剤が19.9%上がった。宿泊料は9.2%伸びた。政府の観光支援促進策「全国旅行支援」の効果が続く一方で、新型コロナウイルス禍からの経済社会活動の正常化で観光需要が増えて価格が上昇した。
17.1%マイナスだった電気代を中心にエネルギーは8.2%低下した。都市ガス代も1.4%上昇と4月の5.0%プラスから伸びが縮小した。
総務省の試算では、電気・都市ガス料金の抑制策と全国旅行支援をあわせた政策効果は、生鮮食品を除く総合の前年同月比伸び率を1.0ポイント押し下げた。単純計算すると、政策効果がなければ前年同月比で4.2%の上昇だったことになる。
生鮮食品を除く総合を構成する522品目のうち前年同月より上がったのは438品目、変化なしは43品目、下がったのは41品目だった。4月は433品目が上昇しており、物価上昇の裾野が広がっている。
日本経済研究センターがまとめた民間エコノミスト36人の予測平均では4~6月期の生鮮食品を除く総合の前年同期比が3.24%プラスで、前回調査から0.31ポイント引き上げた。2024年4~6月期も同2.01%伸びると予測する。足元では再び進行する円安が輸入価格の上昇圧力にもつながり、物価は高止まりが続く可能性がある。
何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.1%の予想でしたので、実績の3.2%の上昇率はコンセンサスを上回ったとはいえ、ほぼほぼ予想通りと考えられます。エネルギー価格については、2月統計から前年比マイナスに転じていて、今日発表された5月統計では前年同月比で▲8.2%に達し、ヘッドライン上昇率に対する寄与度も▲0.69%の大きさを示しています。5月統計でインフレ率が縮小した背景はエネルギー価格とともに、4月の年度始まりの際の価格改定の反動もあると私は考えています。いずれにせよ、私が交通事故で入院していた間にインフレの主役はエネルギーから食料に完全に交代しました。5月統計のヘッドライン上昇率+3.2%に対する寄与で見て、繰り返しになりますが、エネルギーが▲0.69%であるのに対して、食料は生鮮食品を含めれば+2.29%に達しています。さらに細かく食料の内訳を寄与度で見ると、からあげなどの調理食品が+0.34%、外食ハンバーガーなどの外食が+0.30%、チョコレートなどの菓子類が+0.27%、そしてメディアでの注目度も高い鶏卵などの乳卵類が+0.22%、国産豚肉などの肉類も+0.21%、などなどとなっています。
ただし、現在のインフレ目標+2%を超える物価上昇率はそれほど長続きしません。6月統計では電力各社の値上げが実施されたり、また、政府のガソリン補助金が縮減されたりするため、一時的に上昇率が高まる可能性が高いものの、その後は徐々にインフレ率は縮小していくものと予想するエコノミストが多いと私は受け止めています。私もそうです。私以外にも、例えば、日本経済研究センター(JCER)によるEPSフォーキャストでは今年2023年7~9月期には+2.77%と+3%を下回り、その後、緩やかに上昇率を低下させ、ほぼ1年後の来年2024年4~6月期には+2.01%と日銀の物価目標である+2%近傍まで低下し、その後、+2%を下回る、と予想されています。他にも、ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、「コアCPI上昇率は財価格の上昇ペース鈍化を主因として、秋頃には2%台に鈍化するが、日銀が物価安定の目標としている2%を割り込むのは24年入り後となることが予想される。」と日本経済研究センターのESPフォーキャストと同じように、2024年になれば日銀物価目標の2%を下回る、という見方を提供しています。
繰り返しになりますが、物価上昇率は今後1年くらいかけて日銀のインフレ目標に近づくとはいえ、食料の価格上昇は大きく国民生活を圧迫します。ですので、生計費の上昇に見合った賃金上昇が必要であることは当然です。加えて、エネルギーや食品やといった輸入品価格の上昇に頼ったインフレではなく、物価が上がれば賃金も上がるという意味で、デフレ脱却の力強い後押しにも賃金上昇は欠かせません。
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