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2023年7月14日 (金)

経済産業研究所ディスカッションペーパー「男女の賃金情報開示施策: 女性活躍推進法に基づく男女の賃金差異の算出・公表に関する論点整理」を読む

今月7月に入ってから、経済産業研究所から「男女の賃金情報開示施策: 女性活躍推進法に基づく男女の賃金差異の算出・公表に関する論点整理」と題する原ひろみ教授のディスカッションペーパーが明らかにされています。マイクロな労働経済学は私の専門外で、原教授クラスになれば私の理解の及ばない手法も採用されているように感じますが、一応、関心の高い分野ですので図表を引用しつつ簡単に見ておきたいと思います。

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まず、ディスカッションペーパーから 賃金差異の分布 のグラフを引用すると上の通りです。ディスカッションペーパーのタイトルからしてやや不可解な部分が私にはあるのですが、「格差」という用語と「差異」という用語を2種類使っていて、女性が男性の何%の賃金を得ているかという差異の数字が大きいと格差は小さいということで、逆に、この差異を表すパーセンテージが小さく、女性が男性よりも少ない賃となっている場合は格差が大きい、ということのようですが、どうしてこういう用語を使い分けるのかは私には理解できませんでした。まあ、それはともかく、男女間の賃金格差のヒストグラムから、賃金差異で60%台がもっとも多くなっているのが見て取れます。なお、分布は労働者ではなく事業所単位となっています。そして、平均ではなく中位値で比較して男女感の賃金格差は27.3%となっています。別のソースからの推計で見ても、男女感の賃金格差が30%程度というのは私の実感に合致しています。例えば、7月13日付けの日経新聞の記事「日本企業、男女の賃金格差は平均3割 金融・保険が最大」では、女性活躍推進法の省令改正で義務付けられた男女の賃金格差の開示の政府データベースに基づいて約7100社のデータから男女の賃金格差を30.4%と試算しています。
また、グラフは引用しませんが、企業規模別に見て、どの企業規模に属していても非正規労働者の賃金格差は正規労働者よりも大きくなっています。そして、規模別に見て、従業員5000人以上の大企業では、もう少し小さめのほかの規模の企業と比較して正規労働者の男女賃金差異はもっとも大きく、すなわち、男女の賃金格差が小さくなっている一方で、非正規労働者の賃金差異がもっとも小さく、男女格差が大きいことが明らかにされています。興味深い観点だと思うのは私だけでしょうか。

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そして、男女の賃金差異の値が大きく格差が小さい産業と、逆に、差異が小さく格差が大きい産業のそれぞれ上位3位と、その賃金差異のパーセンテージを取りまとめたテーブルを引用すると上の通りです。私の直感として熟練と男女賃金格差は逆U字カーブを描く、すなわち、非常に高い熟練を必要とする産業と、逆に、ほとんど熟練を必要としない産業の男女賃金格差が小さく、中レベルの熟練を必要とする産業で格差が大きい、のではないか、と予想していたのですが、大雑把にそうなっている気がします。ディスカッションペーパーには言及がないので、産業ではなく職種に置き換えて少し解説しておくと、極めて高い熟練を必要とする職種、例えば、医師とか弁護士とかでは男女間格差がほとんどない可能性については直感的に理解できると思います。逆もまた然りで、外食産業のカウンターやコンビニのレジとかで外国人を見かけるのと同じ理由で、男女間格差が生じる可能性は少ない気がします。その間にあって中途半端、という表現はよくないかもしれませんが、それほど高くもなく低くもないレベルの熟練を必要とする職種、例えば、オフィスの事務仕事などでは、おそらく、ほとんど理由のつかない男女差別に近い格差が生じているように感じます。繰り返しになりますが、あくまで、エコノミストとしての私の直感で特に実証的な裏付けはありません。

最後に、ディスカッションペーパーでは人的資本の男女差で説明できない賃金格差について、Firpo-Fortin-Lemieux (FFL) 分解という要因分解の手法を適用して推計を試みています。その結果、男女間賃金格差27.3%のうちの半分以上を占める0.148(14.8%)が人的資本の男女差で説明できない、という結論に達しています。あるいは、これが「男女差別」といえる部分なのかもしれません。もちろん、そういう用語を使いたくなくて、非合理的とか、別の用語を使うエコノミストもいるかも知れませんが、どちらにしても、高度成長期とかの昔ではなく、ごく最近のデータを使った推計でも人的資本からは説明できない男女間賃金格差は依然として存在しており、しかも、それは無視できない大きさである、と考えるべきです。世界経済フォーラムで算出している男女のジェンダーギャップ指数で日本が低ランクである要因のひとつです。

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