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2023年7月20日 (木)

ほぼ2年ぶりに貿易黒字を計上した6月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から6月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+1.5%増の8兆7440億円に対して、輸入額は▲12.9%減の8兆7010億円、差引き貿易収支は+430億円の黒字となり、一昨年2021年8月から先月まで続いていた貿易赤字なんですが、6月統計ではほぼ2年近くの23か月ぶりに黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易収支23カ月ぶり黒字 6月、輸入額が減少
財務省が20日発表した6月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は430億円の黒字だった。黒字は23カ月ぶり。資源価格の高騰が一服して原油などの輸入額が減少し、半導体不足の緩和で自動車などの輸出額が増えた。輸入額は3カ月連続で前年同月を下回った。
2023年上期(1~6月)の貿易収支は6兆9603億円の赤字だった。赤字額は前年同期比で12.9%減少した。半期ベースの赤字は4期連続。自動車の生産が勢いを増し、輸出の総額が47兆3539億円と3.1%伸びた。
6月単月の輸入は8兆7010億円で前年同月比で12.9%減少した。原粗油が36.2%減の7399億円、液化天然ガス(LNG)が33.2%減の3943億円で輸入額を押し下げた。サウジアラビアやオーストラリアからの輸入が減った。
原粗油はドル建て価格が前年同月を29.8%下回った。為替レートは6.8%の円安になっているものの、円建て価格も25.0%下がった。世界銀行によると、2023年6月のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の月平均価格は1バレルあたり70.2ドルで、前年同月の114.5ドルから38.7%下がっている。
輸出は8兆7440億円で前年同月比で1.5%伸びた。増加は28カ月連続。自動車が49.7%増の1兆5677億円で、額は単月で過去最大となった。半導体等製造装置は2881億円で17.7%減った。
輸出を地域別で見ると、米国向けが1兆7387億円で前年同期比で11.7%増えた。増加は21カ月連続。自動車が5231億円と56.5%増え、全体を引き上げた。
中国向けは1兆5183億円で11.0%減少した。減少は7カ月連続。鉄鋼が405億円で30.2%減っている。欧州連合(EU)向けは9181億円と15.0%増加した。自動車が1883億円と78.8%伸びた。EUとの貿易収支は262億円の赤字で、赤字幅は81.3%縮小した。
6月単月の貿易収支を季節調整値で見ると、5532億円の赤字だった。輸入が前月比で0.5%増の8兆8224億円、輸出が3.3%増の8兆2692億円だった。貿易収支の赤字幅は28.2%縮小した。

2023年上期1~6月期の統計にも着目した内容で長くなっていますが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲500億円近い貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の+400億円あまりの貿易黒字となり、貿易赤字から黒字への転換とはいえ、大きなサプライズない印象です。加えて、引用した記事の最後のパラにもあるように、季節調整していない原系列の統計で見て、まだ5月統計でも貿易赤字は継続しているわけで、赤字幅は縮小したとはいえ▲5000億円を超えています。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額はそれほど大きく伸びているわけではなく、輸入が大きく減少したのが貿易収支の黒字転換の原因です。円安も一時に比べて落ち着きを取り戻しているのは多くのエコノミストの意見が一致するところです。ですので、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら考慮する必要はない、と考えています。
6月の貿易統計は引用した記事にも少し言及されていますが、品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく減少しています。単価と数量のいずれでも減少していると考えられます。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲14.8%なのですが、金額ベースでは▲36.2%減となっています。LNGも同じで数量ベースでは▲22.0%減であるにかかわらず、金額ベースでは▲33.2%減となっています。価格は国際商品市況で決まる部分が大きく、そこでの価格低下なのですが、少し前までの価格上昇局面でこういったエネルギー価格に応じて省エネが進みましたので、価格と数量の両面で輸入が減少していると考えるべきです。少しタイムラグを置いて、価格低下に見合った輸入の増加が生じる可能性は否定できません。加えて、食料品のうちの穀物類も数量ベースのトン数では▲15.5%減であるにも関わらず、金額ベースでは▲20.1%減と価格と数量のいずれでも輸入が減少しています。輸出に着目すると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+30.6%増、金額ベースでは+49.7%増と伸びています。自動車の輸出増は半導体部品などの供給制約の緩和による生産の回復が寄与しています。ですので、というか何というか、いずれも金額ベースの前年同月比で見て、一般機械▲1.5%減、電気機器▲6.3%減と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーの輸出はやや停滞しています。これは、先進各国がインフレ抑制のために金融引締めを継続していて、景気が停滞していることが背景にあります。ただ、輸出額が北米や西欧向けで大きく減少しているわけではありません。むしろ、6月統計を見る限り、ゼロコロナ政策を継続している中国への輸出額の減少が大きく、前年同月比で▲11.0%減と2ケタ減を記録しています。

来月8月15日には4~6月期のGDP統計速報1次QEが公表される予定となっています。6月の貿易収支が季節調整していない原系列の統計ながら黒字に転換したことに現れているように、この4~6月期にはGDP成長率に対して外需がそれ相応のプラス寄与をしている可能性が高い、と私は考えています。

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