ニッセイ基礎研究所のリポート「FRBは巨額の債務超過もドルの信認は揺るがず」を読む
今週月曜日の8月21日、ニッセイ基礎研究所から「FRBは巨額の債務超過もドルの信認は揺るがず」と題するリポートが明らかにされています。副題は「日銀の出口戦略への参考となるか」とされています。まず、リポートから要旨5点のうちの3点目と4点目だけ引用すると以下の通りです。
要旨
- 市場への資金供給量が拡大した中で政策金利を誘導するため、FRBは準備預金への付利水準を引き上げる等して対応している。この負債サイドの資金調達コストが利上げに伴い急上昇する一方、保有する米国債やMBSは固定利付で低金利のものが大半で、逆鞘が拡大する中、2022年決算で、事実上の債務超過額に相当する繰延資産は188億ドルとなった。
- FRBは繰延資産を計上した他、保有する有価証券の評価損も1兆ドルを超えることを公表していたが、その後の赤字幅の拡大ともども、大きな話題にはなっていない。ドルの実質実効為替レート、対円の相場ともに影響は受けておらず、中央銀行の財務の悪化により通貨の信認が揺らぐような事態には至っていない。
中央銀行の財務状況、特に、債務超過については、日銀の異次元緩和の出口を考える上でとても興味あるポイントです。まあ、何と申しましょうかで、リポートのタイトルから結論は明らかなのですが、確認のためにも、グラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、リポートから FRBのバランスシート のグラフを引用すると上の通りです。ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、米国債が約4,255.2十億ドル、政府系の住宅ローン担保証券(MBS)が約2,509.1十億ドルで、残高で加重平均した利回りはそれぞれ2.31%、2.51%となっていて、利払いは年率換算で161十億ドルに上りる一方で、負債側は付利された準備預金が3,229.0十億ドル、翌日物のリバース・レポが2,096.7十億ドルで、利回りは5.4%と5.3%になります。インフレ抑制のための利上げにより金利上昇が大きくなっているからです。ですので、いわゆる逆ざやが▲124.4十億ドルに上っています。
続いて、リポートから FRBの国庫納付額の推移 のグラフを引用すると上の通りです。ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、昨年2022年は76十億ドルを国庫納付していますが、昨年から利上げが始まり逆ざやのため、2022年9月以降はほとんどの連銀が財務省への送金を停止しています。そして、今年2023年1月には事実上の債務超過額に相当する繰延資産は▲18.8十億ドルに上るとの前年2022年の決算を発表しています。
続いて、リポートから FRBが保有する有価証券の評価損益 のグラフを引用すると上の通りです。ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、日銀もFRBもともに保有している国債の評価方法については償却原価法を採用しており、たとえ、長期金利が上昇して国債の市場価格が下落したとしても決算上の期間損益に影響は出ません。上のグラフのように、FRBの評価損は10兆ドルを上回っています。しかし、フィッチの米国債ダウングレードはそれなりに話題になりましたが、このFRBの評価損はほとんどニュースにもなりませんでした。日銀も、今年2023年5月29日に「第138回事業年度(令和4年度)決算等について」の中で、9.保有有価証券の時価情報において、国債の評価損益が▲1,571億円に達すると明らかにしています。少なくとも、FRBの財務悪化により米ドルの信認が損なわれているとの評価は見受けません。ですので、日銀の財務内容が金融政策運営に、あるいは、円の信認にそれほど大きな影響を及ぼすとは考えるべきではありません。
ニッセイ基礎研究所のリポートでも指摘していますが、豪州の中央銀行である Reserve Bank of Australia=RBA は債務超過に陥っています。すなわち、2022年6月末に終了する2022年度終了時点の Total assets が A$ 613,774 million に対して Total liabilities が A$ 626,217 million となり、債務超過額は A$ 12,443 million となっています。私は、日銀の国庫納付金が減少しようと、また、短期間であれば債務超過に陥ろうと、それほど大きな影響はなく、円の信認もそれほど損なわれるとは考えません。
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