いっせいに公表された8月統計の鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計と雇用統計をどう見るか?
本日は、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも8月統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から横ばいでした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+7.0%増の13兆3910億円を示した一方で、季節調整済み指数は前月から+0.1%の上昇を記録しています。失業率は前月から横ばいの2.7%を記録し、有効求人倍率も前月と同じ1.29倍となっています。まず、日経新聞のサイトとロイターのサイトから各統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。
8月鉱工業生産、前月から横ばい 生産「一進一退」で維持
経済産業省が29日発表した8月の鉱工業生産指数(2020年=100、季節調整済み)速報値は103.8となり、前月から横ばいだった。石油・石炭製品工業を中心に上昇した一方で、自動車工業などが振るわなかった。生産の基調判断は「一進一退」で据え置いた。
8月の生産は全15業種のうち、5業種が上昇した。一部企業で工場の定期修理後に稼働率が上がったことでガソリンなどの石油・石炭製品工業は前月比で5.5%伸びた。
電気・情報通信機械工業も1.0%上昇した。医療向けのX線装置などが押し上げた。
残る10業種は低下し、普通乗用車といった自動車工業は3.9%下がった。緩やかな回復傾向にあるものの、台風による工場稼働停止など特殊要因で生産が落ち込んだ。
データ通信に使うケーブル製品の不振が響き、鉄鋼・非鉄金属工業は1.9%低下した。輸送機械工業は3.0%下がった。
主要製造業の生産計画から算出する生産予測指数は9月について前月比5.8%の上昇と見込んだ。10月は3.8%伸びると予測している。
経産省の担当者は自動車関連の工場稼働停止といった特殊要因がなくなることから先行きは上昇する見通しだと説明するものの、海外景気の下振れによる生産計画の下方修正の可能性があるため注意が必要だとした。
小売販売額8月は7.0%増、食品・ガソリン値上げ 猛暑も寄与=経産省
経済産業省が29日に発表した8月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比7.0%増となった。ロイターの事前予測調査では6.6%増が予想されていた。食品やガソリンの値上げに加えエアコンやアイスクリームなど猛暑関連需要も押し上げた。
<食品値上げと猛暑効果が寄与、コロナ需要は減少>
業種別では飲食料品が同9.4%増、自動車が9.0%増、燃料が7.9%増などだった。自動車は昨年、部品不足による納車の遅れがあり、その反動で増えた。
業態別では百貨店が同10.8%増、スーパーが5.1%増、コンビニエンスストアが6.3%増、家電大型店が3.9%増、ドラッグストアが7.6%増だった。外出機会の増加で百貨店は衣料品が伸びたほか外国人観光客向け(インバウンド)需要の回復も寄与した。スーパー、コンビニ、ドラッグストアでは食料品の値上げや、猛暑による飲料・アイスクリーム需要が押し上げた。家電も猛暑でエアコンや扇風機、冷蔵庫が伸びた。一方ドラッグストアは食品が伸びる一方マスクなどコロナ関連は減少した。
8月求人倍率、横ばいの1.29倍 失業率も2.7%で同率
厚生労働省が29日発表した8月の有効求人倍率(季節調整値)は1.29倍で前月と同じだった。実質賃金の伸び悩みで兼業や転職をめざす動きが活発な一方で、原材料高による収益悪化で製造業や建設業で求人を抑える動きも見られた。
総務省が同日発表した8月の完全失業率は2.7%で前月と同率だった。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを表す。8月の有効求職者数は前月から0.2%減、有効求人数は0.1%増とともに変動率は小幅で、求人倍率に変化はなかった。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月比で1.0%増えた。新型コロナウイルス禍からの経済活動の正常化を背景に、外国人を含む旅行客が増加するなどして宿泊・飲食サービス業が9.8%増えた。原材料高などの影響を受ける製造業は7.5%減少した。
完全失業者数は186万人で前年同月比5.1%増えた。就業者数は6773万人で0.3%伸び、13カ月連続の増加となった。男性は11万人減り、女性は33万人増えた。仕事に就かず職探しもしていない非労働人口は4056万人で前年同月から30万人減った。
会社などに雇われている雇用者のうち、正規の職員・従業員数は3637万人だった。前年同月比で1.3%増と2カ月ぶりに増加した。非正規は2114万人で0.3%減と3カ月ぶりに減少に転じた。
とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。
まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲1.3%、上限で+0.4%の増産でしたので、実績の前月比横ばいはコンセンサスよりもやや上振れしているとはいえ、レンジ内ということで大きなサプライズはありませんでした。ただし、上のグラフでも明らかな通り、まさに、生産は横ばい状態が続いていて、前々月から統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「生産は一進一退で推移している」と、それまでの「緩やかな持ち直しの動き」から1ノッチ下方修正し、今月もこれを維持しています。ただ、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足元の9月は補正なしで+5.8%の増産、上方バイアスを除去した補正後でも+3.7%の増産となっていて、先行きも決して悪くありません。8月統計の生産は、経済産業省の解説サイトによれば、「石油・石炭製品工業等が上昇する一方で、自動車工業等が低下したことなどから、全体として横ばい」ということになっています。石油・石炭製品工業では、ガソリンや灯油について生産設備の定期修理の完了などを受けて上昇しており、自動車工業については8月下旬のトヨタの工場停止の影響が乗用車などに出たものと考えられます。いずれにせよ、欧米先進国ではインフレ抑制のために金融引締めを継続していることから、海外経済の減速は事実であり、輸出に一定の依存をする生産には無視できない影響があります。ただ、自動車生産への半導体部品供給の制約などもあって、内外の需要要因とともに、供給要因も総合的に考え合わせる必要があります。なお、1点だけ指摘しておくと、9月26日に明らかにされたピーターソン国際経済研究所(PIIP)の経済見通しでは "PIIE projects global economy poised for soft landing" と見込んでおり、米国経済、ひいては、世界経済のソフトランディングについては悲観論と楽観論が入り混じっている印象です。
続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売に示された国内需要は堅調な動きを続けています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、かなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、この3か月後方移動平均の前月比が+0.5%の上昇、繰り返しになりますが、後方移動平均を取らない8月統計の前月比が+0.1%の上昇にとどまっているものの、「上昇傾向」で据え置いています。さらに、消費者物価指数(CPI)との関係では、今年2023年8月統計ではヘッドライン上昇率も生鮮食品を除くコア上昇率も、前年同月比で+3%超を記録していますが、小売業販売額の8月統計の+7%の増加は軽くインフレ率を超えていて、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性が十分あります。もちろん、引用した記事にもあるように、食品やガソリンなどの値上げにより名目値が伸び、また、猛暑需要の影響もあったことは確実です。ただ、通常は、インフレの高進と同時に消費の停滞も生じるのですが、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられている可能性がありますので、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。私の直感ながら、引用した記事にもあるように、百貨店やドラッグストアの伸びがスーパーなどよりも高いのがインバウンドの象徴のような気もします。いずれにせよ、物価上昇率の落ち着きにより名目ベースでの小売業販売額の伸びは鈍化する可能性があります。したがって、後の方で取り上げる消費者態度指数に見る消費者マインドはインフレにより悪化を始めており、賃金の伸びがどこまで消費を支えるかがポイントになります。
続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から改善の2.6%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、前月から悪化の1.28倍と見込まれていました。実績では、失業率も有効求人倍率も横ばいでしたが、予測レンジの範囲内でしたし、総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計は改善がやや鈍い面もあるとはいえ、雇用は底堅いと私は評価しています。季節調整済みのマクロの統計で見て、昨年2022年年末12月から直近の8月統計までの半年少々で、人口減少局面に入って久しい中で労働力人口は+35万人増加し、就業者は+24万人増、雇用者にいたっては+43万人増となっていて、逆に、非労働力人口は▲39万人の減少です。完全失業者は+14万人増加していますが、積極的な職探しの結果の増加も含まれているわけですから、すべてがネガな失業者増ではない、と想像しています。就業者の内訳として雇用形態を見ると、正規が+43万人増の一方で、非正規が▲9万人減少していますから、質的な雇用も改善しています。ただし、雇用の先行きに関しては、それほど楽観できるわけではありません。というのも、インフレ抑制を目指した先進各国の金融引締めから世界経済は停滞色を今後強めると考えられますから、輸出への影響から生産が鈍化し、たとえ人口減少下での人手不足が広がっているとはいえ、生産からの派生需要である雇用にも影響が及ぶ可能性は否定できません。他方で、繰り返しになりますが、ピーターソン国際経済研究所のように、米国経済をはじめとして、インフレ抑制に成功してソフトランディングの可能性も強調され始めており、楽観的ではないとしても、それほど悲観的になる必要もないと思いっています。
最後に、本日、内閣府から9月の消費者態度指数が公表されています。9月統計では、前月から▲1.0ポイント低下し35.2を記録しています。消費者態度指数を構成する5項目の消費者意識指標すべてが前月差で見て低下しており、「雇用環境」が▲1.6ポイント低下し41.1、「耐久消費財の買い時判断」が▲1.0ポイント低下し29.0、「暮らし向き」が▲0.9ポイント低下し32.0、「収入の増え方」が▲0.3ポイント低下し38.7となっています。先月8月統計から2か月連続の低下であり、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「改善に向けた動きがみられる」から「改善に向けた動きに足踏みがみられる」に半ノッチ下方修正しています。
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