東京商工リサーチ「国内製造拠点の閉鎖、2021年をピークに鈍化が鮮明」のリポートやいかに?
やや旧聞に属するトピックながら、9月22日に東京商工リサーチから「国内製造拠点の閉鎖、2021年をピークに鈍化が鮮明」と題するリポートが明らかにされています。昨日公表された日銀短観でも、先行き製造業の業況判断DIが改善するのは、非製造業と違って、円安の効果が見られるからである、と指摘したところですが、このリポートでは本格的に製造業の国内回帰の動きを報告しています。まず、東京商工リサーチのサイトから 製造拠点の「閉鎖・縮小」開示数推移 のグラフを引用すると以下の通りです。
こういった調査ですので、上場メーカーに限定されるのですが、国内工場や製造拠点の閉鎖や縮小に関する開示は、コロナ禍前の2019年は17社・22拠点でした。しかし、コロナ禍による急激な市場縮小により、2020年27社・37拠点、2021年40社・45拠点に急増しています。その後、コロナ禍の影響が次第に落ち着くとともに、円安の影響をはじめとして、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う海外サプライチェーンに関するリスク認識の高まりなどもあって、2022年は28社・37拠点と製造拠点の海外移転に歯止めがかかりつつあります。さらに、今年2023年は8月末までながら昨年2022年の半分ほどにとどまっています。
もちろん、この空洞化の動きが鈍化している経済的な背景は、円安による価格効果だけではないことは当然です。繰り返しになりますが、地政学的な海外サプライチェーンのリスク認識も高まっています。ただ、経済的には中国をはじめとするコスト面での海外展開の有利性が低下していることも事実です。私はこの夏休みの紀要論文で財政赤字を一方的にコストだけで考えるのではなく、財政赤字がもたらすメリットも含めてコスト・ベネフィットを考える必要があると結論しました。円安もまったく同じで、インフレへの影響というコスト面だけで考えるのではなく、産業空洞化の動きをわずかなりとも防止するメリットも考え合わせる必要がある、と指摘しておきたいと思います。
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