国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」World Economic Outlook やいかに?
日本時間の昨日、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」World Economic Outlook が公表されています。ヘッドラインとなる世界経済成長率は、上のINFOGRAPHの通り、今年2023年+3.0%、来年2024年+2.9%と、2021年実績+6.0%、2022年実績+3.5%から減速すると見込んでいます。INFOGRAPHはIMFのツイッタのサイトから引用しています。なお、上の画像をクリックすると各国別の成長率などの2ページだけのpdfファイルが別タブで開きます。これはpdfの全文リポートの Table 1.1. Overview of the World Economic Outlook Projections のテーブルから抽出しています。ということで、まず、IMF Blog のサイトから最初のパラを引用すると以下の通りです。
Resilient Global Economy Still Limping Along, With Growing Divergences
The global economy continues to recover from the pandemic, Russia’s invasion of Ukraine and the cost-of-living crisis. In retrospect, the resilience has been remarkable. Despite war-disrupted energy and food markets and unprecedented monetary tightening to combat decades-high inflation, economic activity has slowed but not stalled. Even so, growth remains slow and uneven, with widening divergences.
最後のセンテンスとその前のセンテンスのどちらに重点があるのか、興味あるところではないでしょうか。すなわち、最後から2番めのセンテンスは "economic activity has slowed but not stalled" 経済活動は減速しているものの、失速はしていない、というkとですし、最後のセンテンスは "growth remains slow and uneven, with widening divergences" 成長率は依然として低く、不均一であり、格差は広がっている、ということになります。どちらに重点があるかは、アップロードされているpdfの全文リポートをしっかりと読みこなす必要があります。でも、200ページ近い英語のリポートであり、IMF Blog のサイトから簡単にグラフを引用しつつ着目しておきたいと思います。
まず、上のグラフはIMF Blog のサイトから Growth and inflation を引用しています。見れば明らかな通り、左のパネルが成長率、右がインフレ率のグラフです。繰り返しになりますが、今回の「世界経済見通し」では、ヘッドラインtなる世界経済の成長率が2023年+3.0%と、前回の7月時点での見通しから変更ないものの、2024年+2.9%は前回見通しから▲0.1%ポイント引き下げられています。しかし、"As a result, projections are increasingly consistent with a soft landing scenario" とソフトランディングのシナリオが現実味を帯びている点を強調しています。その根拠のひとつが物価上昇圧力が弱まっているという事実であり、ヘッドラインのインフレ率は引き続き減速し、2022年+9.2%から今年2023年+5.9%、そして、来年2024年+4.8%と落ち着きを取り戻す方向にあると見込んでいます。ただし、物価目標は我が国を含めて+2%の国が多く、2025年までこの物価目標には戻らない、という予想も同時に明らかにしています。
続いて、上のグラフはIMF Blog のサイトから China risk を引用しています。ソフトランディングが実現可能との見通しではあっても、当然ながら、リスクはまだまだ残っており、しかも、"the balance remains tilted to the downside" リスクバランスは下振れ方向に厚くなっています。その中で最大のリスクのひとつが中国リスクです。主として、中国の不動産リスクです。しかも厄介なことに、ジレンマが生じる恐れを指摘しています。すなわち、中国の不動産価格が急激に下落すると、家計や銀行などのバランスシートが悪化し、金融面での波及効果が深刻となります。一方、何らかの政策手段によって、不動産価格が恣意的に押し上げられると、家計や銀行などのバランスシートは一時的に安定するものの、他の投資機会が阻害されて新規建設が減り、土地や不動産などの売上げ減少を通じて地方政府の歳入に悪影響が及ぶ可能性がある、との指摘です。不動産バブルの崩壊は深刻な結果をもたらす一方で、政策的なサポートは非効率と地方政府の財政悪化をもたらしかねない、とのジレンマです。
続いて、上のグラフはIMF Blog のサイトから More out of step を引用しています。気候変動の激化やロシアのウクライナ侵略をはじめとする地政学的なショックに伴って、石油などの一次産品価格のボラティリティが高まる可能性が強まっています。上のグラフでは、石油、石炭、リチウム、小麦、リン酸について、地域ごとの最大と最小の価格差を最小価格を基準にしてプロットしています。
最後に、グラフは引用しませんが、5年後の中期的な経済見通しは先進国でも新興国・途上国でも悪化しており、少し長い目で見た政策の方向としては構造改革を強調しています。すなわち、"With lower growth, higher interest rates and reduced fiscal space, structural reforms become key." 成長率が低下し、金利が上昇し、財政余地が縮小した結果、構造改革が鍵となる、というわけです。その中身はというと、"a careful sequencing of reforms, starting with those focused on governance, business regulation and the external sector" ガバナンス、ビジネス規制、対外セクターから始めて、十分配慮した順序に従って進める必要がある、としています。
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