物価高で大きく低下した9月の景気ウォッチャーと黒字に回帰した経常収支
本日、内閣府から9月の景気ウォッチャーが、また、財務省から8月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲3.7ポイント低下の49.9となった一方で、先行き判断DIも▲1.9ポイント低下の49.5を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+2兆2797億円の黒字を計上しています。まず、ロイターのサイトから景気ウォッチャーの記事を、日経新聞のサイトから経常収支の記事を、それぞれ引用すると以下の通りです。
街角景気9月は3.7ポイント低下、物価高が重し 判断やや下方修正
内閣府が10日発表した9月の景気ウオッチャー調査では、現状判断DIが49.9と前月から3.7ポイント低下した。季節商品の需要喚起といった8月までの猛暑のプラス面が剥落。物価高も景況感の押し下げ要因となった。景気判断の表現は「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる」とし、前回の「緩やかに回復している」からやや下方修正した。
現状判断DIは2カ月連続低下し、今年1月(48.5)以来の低水準となった。構成項目では家計動向関連DIは4.5ポイント低下の49.5、企業動向関連DIが1.2ポイント低下の50.5、雇用動向関連DIが3.2ポイント低下の51.5だった。
回答者からは「物価高騰が収まらないなか、おにぎりや弁当などの主食商品を客が価格を気にしながら購入している」(北海道=コンビニ)、「宿泊客に関しては新型コロナウイルス明けの特需から少し落ち着いたような感じ」(甲信越=都市型ホテル)といった声が出ていた。
内閣府の担当者によると、景気の現状判断DIは長期の数字を平均すると45-46程度であり、「50を下回ったからといってかなり悪いわけではない」と説明した。
先行き判断DIは前月から1.9ポイント低下し49.5となった。2カ月連続低下。内閣府は先行きについて「価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」とした。
8月の経常収支、7カ月連続で黒字 2.2兆円
財務省が10日発表した8月の国際収支統計(速報)によると、海外とのモノやサービスなどの取引状況を示す経常収支は2兆2797億円の黒字となった。黒字は7カ月連続で、前年同月のおよそ3倍になった。資源高の一服で輸入額が減少し、貿易赤字の縮小が経常黒字を下支えした。
経常収支は輸出から輸入を差し引く貿易収支や、外国との投資のやり取りを示す第1次所得収支、旅行収支を含むサービス収支などで構成する。
8月は原油高などが落ち着いていたことから貿易収支が改善した。インバウンド(訪日外国人)の増加で旅行収支が2582億円の黒字と比較可能な1996年以降で同月としては最大だった。
貿易収支は7495億円の赤字で、赤字幅は前年同月から1兆7113億円縮んだ。輸入額が18.2%減の8兆6430億円、輸出額が2.6%減の7兆8935億円だった。
輸入額の減少はエネルギー価格の低下が要因で、商品別に見ると石炭が48.6%減、液化天然ガス(LNG)が43%減、原油を含む原粗油が24.2%減だった。8月の原油の輸入価格はドルベースで1バレルあたり82ドル8セントと27%下落していた。
第1次所得収支は3兆6387億円の黒字で8%減少した。サービス収支が3029億円の赤字だった。
季節調整値で見た経常収支は1兆6349億円の黒字で前月比40.9%減だった。貿易赤字は4360億円で前月から拡大した。
とても長くなりましたが、よく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。
現状判断DIは、今年2023年に入ってから、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のための行動制限が徐々にフェイドアウトするとともに、ウクライナ戦争に伴う資源高もほぼ昨年2022年10~12月期にピークを過ぎたことから、高い水準を続けていて、2月以降は50を超えていました。しかし、直近の9月統計で50を割って49.9まで低下しています。もっとも、引用した記事にある内閣府の担当者のいうように、長期的に平均すれば大きく50を下回っているのも事実です。前月から▲4.5ポイント低下した家計動向関連の中でも、小売関連が▲6.1ポイント低下ともっとも大きくなっていて、明らかに物価上昇の影響であると私は受け止めています。ただし、このインフレはそれほど長続きしません。したがって、統計作成官庁である内閣府もよく似た見方なのか、基調判断は8月統計の「緩やかに回復している」から、わずかに半ノッチ下方修正され、「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる」とされています。内閣府のリポートの中の近畿の景気判断理由の概要を見ると、家計動向関連では「値上げの影響か、見切り品や特売品価格に対する意識が強まっている。遅い時間に来店し、見切り品を購入する客が増えている(スーパー)。」とか、企業動向関連では「日常的な物価の上昇に、収入が追い付いていない(一般機械器具製造業)。」とかに私は目が止まってしまいました。
続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは経常黒字+3兆909億円でしたので、実績の+2兆2797億円はやや下振れした印象です。2011年3月の東日本大震災と福島第一原発の影響を脱したと考えられる2015年以降で経常赤字を記録したのは、季節調整済みの系列で見て、昨年2022年10月統計▲3419億円だけです。もちろん、ウクライナ戦争後の資源価格の上昇が大きな要因です。ですから、経常黒字の水準はウクライナ戦争の前の状態に戻っていますし、たとえ赤字であっても経常収支についてもなんら悲観する必要はなく、資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。ただ、逆に、今年2023年4~6月期には経常黒字の名目GDP比が+4%を超える水準にまで達しています。日本の経済的なプレゼンスが大きかった時代であれば、経常収支の黒字減らしが国際的に必要であったかもしれません。でも、現在の日本の国際的なポジションからして、この程度の経常黒字は何ら注目を受けないようです。
IMF・世銀総会を控えて、日本時間今夜に、「世界経済見通し」World Economic Outlook の見通し編が公表される予定です。また、日を改めて取り上げたいと予定しています。
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