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2023年11月30日 (木)

経済開発協力機構(OECD)の「経済見通し」やいかに?

日本時間の昨日11月29日、経済協力開発機構(OECD)から「経済見通し2023年11月」OECD Economic Outlook, November 2023 が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。ヘッドラインとなる世界経済の成長率は、昨年2022年の+3.3%から、先進諸国でのインフレ抑制のための金融引締めなどにより、今年2023年+2.9%、来年2024年+2.7%と、やや減速するものの、さ来年2025年には+3.0%と、成長率が回復し、景気後退に陥ることなくソフトランディングに成功するというのがメインシナリオとなっています。まず、OECDのサイトからG20諸国の成長率のグラフを引用すると以下の通りです。

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G20諸国と世界経済とでは成長率はほとんど同じとなっています。日本は、グラフにありませんが、今年2023年+1.7%成長の後、来年2024年+1.0%成長と減速するものの、さ来年2025年は+1.2%と潜在成長率近傍から少し上振れとはいえ、足元の2023年に比べれば、やや成長が減速するものと見込まれています。リポート p.24 では日本経済について、"In Japan, where monetary policy has remained accommodative, growth is projected to increase to 1.7% in 2023 before moderating to 1% in 2024 and 1.2% in 2025 as the positive contribution from net exports fades and macroeconomic policies begin to be tightened. Wage growth is projected to strengthen gradually, with inflation settling durably at 2% in 2024-25." と指摘しています。すなわち、純輸出の寄与が低下(fade)し、マクロ経済政策が引き締められ始める(begin to be tightened)ため、成長率が鈍化(moderating)する、というシナリオです。引き締められ始めるのは、あくまでマクロ経済政策(macroeconomic policies)ということで、決して、金利引上げに前のめりな日銀の金融政策だけではない点が示唆されています。そうです。財政政策も引締め気味に運営される可能性がある、ということなのでしょう。加えて、インフレ率は2024-25年に2%で落ち着く(settling durably)と見込まれています。いや、国内の多くのエコノミストは日銀物価目標の2%よりも、またまた下回る可能性が高いと考えているのではないでしょうか、という気が私はしています。
そして、リポートでは政府や中央銀行の経済政策については以下の5点を強調しています。

  1. Monetary policy needs to remain restrictive in most advanced economies until inflation declines durably (p.33)
  2. Fiscal policy needs to ensure debt sustainability while responding to new priorities (p.35)
  3. Emerging-market economies need to ensure macroeconomic stability (p.42)
  4. Trade policies should focus on expanding trade as well as enhancing resilience (p.44)
  5. Reforms are needed to strengthen the climate transition (p.47)

最初の金融政策については "restrictive" というのは判りにくい表現なのですが、インフレ抑制の観点から金利の引下げ余地は限定的である、という趣旨です。まず、金融政策はインフレ抑制に重点を置くべき、というスタンスなのだろうと私は受け止めています。第2点目の財政政策については、サステイナビリティの観点から「バラマキ」はダメ、ということなのでしょう。3点目は新興国ではマクロ安定化政策の重要性を、4点目は先進国と新興国を通じて貿易拡大の重要性を、それぞれ指摘し、最後の5点目の構造改革では気候変動の視点を強調しています。

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目を国内に転じると、本日、経済産業省から10月の鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、内閣府から11月の消費者態度指数がそれぞれ公表されています。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から+1.0%の増産で、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+4.2%増の13兆6480億円を示した一方で、季節調整済み指数は前月から▲1.6%の低下を記録しています。統計の基調判断は、鉱工業生産指数は「一進一退」、商業販売統計の小売業販売額は「上昇傾向」と、それぞれ据え置かれています。消費者態度指数は、前月から+0.4ポイント上昇し36.1を記録しています。基調判断は「改善に向けた動きに足踏み」で、コチラも前月からの据置きとなっています。グラフは上の通りです。

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2023年11月29日 (水)

国際決済銀行(BIS) による BIS Paper "Inflation and labour markets" やいかに?

先週11月24日に国際決済銀行(BIS)から BIS Paper "Inflation and labour markets" が公表されています。もちろん、pdfによる全文リポートもアップロードされています。公表はつい最近なのですが、このリポートの内容は今年2023年3月16-17日に開催された新興国中央銀行副総裁による国際会議 "Inflation and labour markets in the wake of the pandemic" の結果を取りまとめたものです。新興国の中央銀行副総裁による会議ですから我が国における注目は決して高くなかった上に、ロシアによるウクライナ侵攻という要素が薄かったもの注目度を上げなかった要因だろうという気がしますが、せんしんこくにくらべてた新興国のインフレにつてい、今回のコロナ禍における特徴をよく取りまとめているという気がします。まず、BISのサイトからペーパーの概要を引用すると以下の通りです。

Inflation shot up in both emerging market economies (EMEs) and advanced economies (AEs) in the wake of the Covid-19 pandemic. While labour market developments were not a key source of the surge, they could become important for the persistence of inflation and, thus, the path of disinflation. Despite this, there is comparatively little work on how labour market developments affect inflation in EMEs, quite in contrast to a substantial body of work in AEs. Instead, attention has mostly focused on other inflation drivers, for instance exchange rates. To fill this gap, the Bank for International Settlements dedicated its annual meeting of emerging market Deputy Governors to the topic of "Inflation and labour markets in the wake of the pandemic". The meeting was held in Basel 16-17 March 2023.
The current volume contains a background paper by BIS staff as well as contributions by the participating central banks. Using the responses to a survey of EME central banks, the BIS background paper analyses the structure of labour markets in EMEs, wage formation and the relationship between wages and inflation. While there are important parallels, there are also notable differences across countries, both within and between regions. For example, a few countries feature strong unions and collective bargaining, while these are mostly absent from others. Such parallels and differences are also apparent in the central bank contributions, which dig deeper into individual country cases.

この論文集にはアルファベット順で、アルゼンティン、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、香港、など20か国の中央銀行副総裁がリポートを寄せています。その中で、p.85 から中国のリポート "Labour market and inflation: the case of China" に着目すると、日本と同じでフィリップス曲線が年を経るごとにフラットになっていくのが観察されています。

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上のフィリップス曲線のグラフはリポートから p.92 Graph 6 Relationship between China's inflation and growth を引用しています。明らかに年を経てフィリップス曲線がフラットに変化して行き、かつ、横軸であるy切片も小さくなっています。本来であれば、縦軸はGDP成長率ではなく、GDPギャップ、すなわち、統計から観察される実績GDPと潜在GDPの実績に対する比率、とすべきであろうと思いますが、第1次アプローチとしては実績の成長率でOKでしょう。おそらく、年を追ってフィリップス曲線の傾きがフラットになり、縦軸のy切片が小さくなってきているという意味で、同じことが多くの先進国、日本も含めての多くの国に当てはまっているのだろうと思います。加えて、このリポートで強調されているように、中国の場合は都市と農村の間で、また、産業間や地域間での労働移動の増加が大きく、少なくとも短期には労働市場のタイト化は、先進国や他の新興国に比べて、賃金上昇やインフレに対する大きな圧力にはなっていない可能性が高いと私も考えています。

最終的な結論を得るまでには至りませんが、ノーベル経済学賞も受賞したフェルペス教授らによる垂直のフィリップス曲線や自然失業率、などという仮説はほとんど意味をなさず、むしろ、フィリップス曲線は水平かもしれない、という仮説が出てくる可能性が示唆されているのかもしれません。そうなったら、中央銀行はその昔の日銀が主張するように物価に対する政策手段を持たない可能性すらあります。

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2023年11月28日 (火)

帝国データバンクによる「全国主要路線バス運行状況調査」の結果やいかに?

先週水曜日11月22日に帝国データバンクから「全国主要路線バス運行状況調査 (2023年)」の結果が明らかにされています。少子高齢化に伴う人口減少や来年からのいわゆる2024年問題をはじめ、バス業界では深刻な運転手不足に直面しています。ただ、この背景には、給与水準の低さや長時間労働など待遇面の悪さが人材定着に悪影響を及ぼしているとの見方もあり、構造的な要因も指摘されています。関西では大阪の金剛バスが9月11日付けで、今年2023年12月にはバス事業を廃止するとのプレスリリースを出しています。2023年中、さらに2024年に減便・廃止するなどの路線バス運行状況の調査結果が気になるところです。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の概要を2点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 路線バスの8割が今年「減便・廃止」を実施 全路線数の約1割に影響の可能性
  2. 「人手不足」深刻 コロナ前から人手「減少」が約半数を占める

pdfの全文リポートも参照して、いくつかグラフを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 路線バス運行127 社の「減便・廃止」動向 のグラフを引用すると上の通りです。こういった減便や廃止街次ぐ要因として、リポートでは以下のようなものを上げています。すなわち、2024年問題への対応としては、残業規制に対する人材配置が困難ないし不可能、あるいは、運転手の確保難や既存ドライバーの高齢化、また、観光・貸切バスへの運転手流出などといった要因であり、加えて、収益環境が悪化しているのは、沿線住民の利用が減少しているとともに、コロナ禍からの減収分が戻らず、経営を圧迫していて、高速バス・貸切バス事業を犠牲にした路線バス維持策が限界に達している、との分析です。こういった減便や廃止は、調査対象となった127社で運行が判明した約1万4000路線のうち、少なくとも約1割に相当する路線に影響が及ぶ可能性がある、と指摘しています。

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続いて、リポートから 路線バス会社の人手状況 のグラフを引用すると上の通りです。需要サイドの人口減少とともに、供給サイドの運転手不足も深刻であり、運転手だけではない従業員単位ですが、1社当たりの従業員数はコロナ前の2019年時点に比べ、対象307社のうち53.1%にあたる163社で減少しています。特に、運転手については「待遇の良い貸切観光バスに人材が流出している」などの要因から、2024年問題への対応も含めたダイヤ維持に必要な運転手の確保や増員が難しくなっている、と指摘しています。

私は今年2023年9月に65歳の誕生日を迎えて、地元バス会社の「敬老パス」のような運賃体系の恩恵にあずかれることから、大学への通勤はJRからバスに切り替えました。しかし、朝夕の通勤時間帯でも30分に1本の運行であり、東京の地下鉄のように終電が夜の12時を軽く超えていたのが懐かしく、コチラの終バスは夜8時台ではないかと思います。確かに、バス会社にもいろんな困難があるとはいえ、加えて、十分な公共交通機関の発達が見られずマイカーに頼りがちな地域ではありますが、私のような自動車すら持たない一般庶民にとってバスは必要な交通手段です。

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2023年11月27日 (月)

再加速した10月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から10月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月から加速して+2.3%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについても上昇幅が拡大し+2.4%の上昇を示しています。ヘッドライン上昇率は8月統計から上昇幅が再加速しています。また、32か月連続の前年比プラスを継続しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格10月2.3%上昇 3年9カ月ぶり上げ幅
日銀が27日発表した10月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は110.0と、前年同月比2.3%上昇した。上昇率は9月(2.0%)より拡大し、20年1月以来3年9カ月ぶりの大きさとなった。広告で企業の出稿意欲が改善したほか、サービス分野などで人件費上昇を転嫁した値上げが見られた。
企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービスの価格変動を表す。調査対象となる146品目のうち価格が前年同月比で上昇したのは100品目、下落は27品目だった。
広告が前年同月比2.9%上昇した。スポーツイベントで単価が押し上げられ、9月は下落だったテレビ広告が上昇に転じた。運輸・郵便は1.3%上昇だった。中東情勢の悪化でタンカー市況が上昇し、宅配便の一部などで燃料費や人件費を転嫁した値上げも聞かれた。
2.7%上昇だった諸サービスは機械修理や労働者派遣サービスなどで人件費の上昇が影響した。宿泊サービスはインバウンド(訪日外国人)を含めた人流の回復で49.9%と大きく上昇した。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)の上昇トレンドは2022年中に終了した可能性が高い一方で、企業向けサービス物価指数(SPPI)はまだ上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の昨年2022年以降の推移は、2022年9月に上昇率のピークである+2.1%をつけてから、ジワジワと上昇率は低下し今年2023年に入って6月統計で+1.5%まで縮小した後、7月統計から再加速が始まり、7月+1.7%、8月+2.1%、9月+2.0%の後、本日公表された10月統計では前月からさらに加速して+2.3%の上昇率を記録しています。ただ今年2023年年央から上昇率が再加速したとはいえ、大雑把な流れとしては、+2%前後の上昇率が継続しているようにも見えます。もちろん、+2%前後の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性が高いながら、日銀の物価目標、これは生鮮食品を除く消費者物価上昇率ですが、物価目標の+2%近傍であることも確かです。加えて、下のパネルにプロットしたように、モノの物価である企業物価指数のうちの国内物価のグラフを見ても理解できるように、インフレ率は高いながら、物価上昇がさらに加速するわけではないんではないか、と私は考えています。繰り返しになりますが、ヘッドラインSPPI上昇率にせよ、国際運輸を除いたコアSPPIにせよ、日銀の物価目標とほぼマッチする+2%程度となっている点は忘れるべきではありません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて10月統計のヘッドライン上昇率+2.3%への寄与度で見ると、宿泊サービスや機械修理や労働者派遣サービスなどの諸サービスが+0.96%ともっとも大きな寄与を示しています。引用した記事にもある通り、特に、宿泊サービスは前月比で+31.7%、前年同月比で+49.9%と大きな上昇となっています。ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.58%、リース・レンタルが+0.23%、加えて、SPPI上昇率再加速の背景となっている石油価格の影響が大きい道路旅客輸送や国内航空旅客輸送や鉄道旅客輸送などの運輸・郵便が+0.22%のプラス寄与となっています。

最後に、「宅配便の一部などで燃料費や人件費を転嫁した値上げ」などの引用した記事にみられる通り、資材などの仕入れ価格や人件費の上昇分を価格転嫁する動きが広がっている点は、ある意味で、健全な経済活動といえます。少なくとも、下請けの中小企業がコストアップ分の価格引上げを納入先の大企業に拒否されるよりは価格転嫁できる方が経済的には健全である、と私は受け止めています。

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2023年11月26日 (日)

京都の紅葉を見に行く

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大学の先生方や留学生の大学院生とともに京都の紅葉を見に行きました。上の写真は宝ヶ池の紅葉です。池の向こう側は、左手に国際会館、右手の比叡山です。
少し前に、留学生のご指導が長かった勤務校の教員OBの方からお誘いを受けて、いつもお世話になっているのでお手伝いがてら京都まで出向きました。お花見はもう20年ほど続けているということでしたが、留学生を連れての紅葉狩りは初めてだそうです。私は県内の名所もいっぱいあるので、京都まで行く必要があるのか疑問でしたが、やっぱり、県内ではなく京都でなければダメ、という留学生にリクエストだったようです。レヴィ=ストロースの Triste Tropique を思い出してしまいました。

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2023年11月25日 (土)

今週の読書はグローバル化の変質を論じた経済書をはじめ計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、馬場啓一・浦田秀次郎・木村福成[編著]『変質するグローバル化と世界経済秩序の行方』(文眞堂)では、かつてのグローバル化の方向が、最近では米中の対立に始まって、ロシアのウクライナ侵攻などに起因して、分断=デカップリングの方向に進んでいることから、地政学や経済安全保障の観点も含めたグローバル化の進展を論じています。東野圭吾『あなたが誰かを殺した』(講談社)では、人気のミステリ作家による作品で、警視庁刑事の加賀恭一郎が避暑地の夏のパーティーの夜に起こった連続殺人事件の謎を解き明かします。吉原珠央『絶対に後悔しない会話のルール』(集英社新書)では、会話を台無しにする思い込みや決めつけを排して、観察に基づくコミュニケーションを論じています。新堂冬樹『ホームズ四世』(中公文庫)では、ホームズの曾孫に当たる歌舞伎町のホストがワトソンの曽孫と2人で行方不明の質屋の経営者を捜索します。伊坂幸太郎ほか『短編宝箱』(集英社文庫)は短編集であり、特に、米澤穂信「ロックオンロッカー」で、図書委員の高校生2人がケメルマンの「9マイルは遠すぎる」ばりの推理を披露します。最後に、青山美智子ほか『ほろよい読書 おかわり』(双葉文庫)も短編集で、冒頭に収録されている青山美智子「きのこルクテル」では、作家を目指す青年がライターとして雑誌のアルバイトで、下戸にもかかわらず、取材のためにバーを訪れます。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊でしたが、6~10月に130冊を読みました。11月に入って、先週までに17冊、今週ポストする6冊を合わせて197冊となります。どうやら、例年と同じ年間200冊の新刊書を読めそうな気がしてきました。

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まず、馬場啓一・浦田秀次郎・木村福成[編著]『変質するグローバル化と世界経済秩序の行方』(文眞堂)を読みました。編著者は、順に、杏林大学・早稲田大学・慶応大学の研究者であり、専門分野は国際経済学や貿易論などです。本書では、従来のグローバル化、すなわち、世界経済に網を広げたサプライチェーンやグローバル・バリューチェーンが、米中対立や、さらに、ロシアによるウクライナ侵攻などにより分断ないしデカップリングを生じ、地政学や経済安全保障の観点もグローバル化の分析に必要となった段階の国際経済分析を展開しています。時系列的にガザ地区での軍事衝突は本書のスコープ外ですし、現時点では明白なな石油供給などにおける制約は出ていませんが、パレスチナとイスラエルの対立も深刻さを増しています。本書は5部構成であり、第Ⅰ部ではサプライチェーンやグローバル・バリューチェーン、第Ⅱ部ではロシアによるウクライナ侵攻に対する経済制裁、第Ⅲ部では自由貿易協定などの地域連携の進展、第Ⅳ部では経済安全保障について、それぞれ議論を展開しています。渡しの場合は、特に、サプライチェーンやグローバル・バリューチェーン、さらに、経済安全保障との関連で、私自身が弱くて等閑視していた分野ですので、授業準備も含めて勉強のために読みました。まず、冒頭から明らかなのですが、私の大きな疑問は、WTOドーハ・ラウンドでのシアトル会合が失敗した原因は反グローバル化の直接的な行動だったのですが、それと同様に、米国的なフレンド・ショアリング、すなわち、自由と民主主義といった価値観を同じくする友好国の間で経済関係を進化させ、場合によっては、自由と民主主義ではない専制的ないし権威主義的な国と分断してもしょうがない、あるいは、積極的に分断でカップリングする、という経済政策は、ブロック化のリスクが大いにある、ということです。第2次世界大戦の前における世界経済のブロック化から戦争に至った経緯を反省して、すべての国が平等に加盟する国際連合=国連が発足し、経済分野でも貿易に関してはGATT、その後のWTOがマルチの場を提供し、ラウンド交渉により最恵国待遇をテコにして世界全体での貿易や投資の拡大、ブロック化しないマルチの世界経済全体での繁栄を目指していたハズなのですが、ドーハ・ラウンドの失敗とその後のマルチの場での貿易交渉の停滞により、ブロック経済化が進んでいるように、私には見えます。ブロック経済化の背景には価値観を同じくする友好国でグループを結成し、分断ないしデカップリングが経済的にも政治外交的にも進んでいる、という事実があります。そして、世界経済だけでなく、先進国の国内経済や政治的な面でも分断が進んでいるおそれが散見されます。米国では前のトランプ政権の誕生がそうですし、英国のEUからの脱退、BREXITもそうです。大陸欧州諸国ではポピュリスト政党の躍進が見られましたし、アルゼンチンではとうとう極右の大統領が誕生しました。国内レベルでの分断は本書の分析とは少し離れますが、本書で着目する世界経済レベルでの分断を背景に、サプライチェーンの安全保障が、例えば、私が知る限りでも昨年の「通商白書2022」あたりから明示的に議論され始めています。日本の場合、米中対立においては、同盟関係から米国サイドに立つわけですし、自由と民主主義という価値観と専制的ないし権威主義的な価値観でも前者に属すると考えられるのですが、政治・外交的な見地からサプライチェーンやグローバル・バリューチェーンを構築するのか、あるいは、逆に、サプライチェーンやグローバル・バリューチェーン構築の必要から政治・外交の立場を決めるのか、難しい選択なのかもしれません。少なくとも、第1次及び第2次石油危機の際には、日本は後者の選択を取ろうとしたと見られる動きもあったと記憶しています。世界における日本のプレゼンスが大きく低下し、外交における発言力も小さくなっていますが、日本が世界に対して何らかの発信をする必要があるのかもしれません。

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次に、東野圭吾『あなたが誰かを殺した』(講談社)を読みました。著者は、我が国を代表するミステリ作家の1人であり、私がクドクドと述べるまでもありません。本書も最近よく売れているミステリですから、簡単に紹介しておきたいと思います。謎解きは、警視庁刑事である加賀恭一郎で、リフレッシュ休暇っぽい長期休暇中の行動です。事件は8月上旬に、いかにも軽井沢を思わせる別荘地のパーティーの夜に起こった連続殺人事件です。犯人はすぐに捕まりますが、自供が得られずに真相が不明のまま2か月ほど経過します。この殺人事件を加賀恭一郎が、現場での遺族による事件後に開かれた検証会に出席して、少し現場を見て回りはするものの、安楽椅子探偵のように解決します。ただ、純粋に安楽椅子探偵ではなく、殺害現場で実に重要な発見をしたりします。地元県警所轄署の担当課長もこの検証会に出席しているのですが、ここまで重要な発見を警視庁刑事にされてしまうのも、大きな困りものだという気が私はしました。関係者、というか、殺された被害者や負傷者をはじめとするパーティー出席者は軽井沢を思わせる別荘地に別荘を持っているわけですから、いわゆる「別荘族」であり、お金持ちです。ある意味では、その昔にはやった言葉で「勝ち組」ともいえます。小説の登場人物は主要にはパーティーの出席者であり、その中で被害者はナイフで殺されたり怪我を負ったりしますが、順不同で私が記憶している登場人物は以下の通りです。第1に、公認会計士の夫と美容院経営の妻とその中学生の娘の一家は、夫婦2人が殺されます。第2に、病院経営の院長とその妻と夫婦の娘とその娘の婚約者の一家は、病院院長が殺され、娘の婚約者が軽傷を負います。第3に、企業のオーナー経営者夫妻が殺人事件が起こった夜のパーティーを主催しているのですが、夫人の方が実は夫よりも陰の実力者で「女帝」とされています。第3のオマケとして、従業員夫妻と小学生の子供もパーティーに出席しています。「女帝」の経営者夫人が殺害されます。第4に、夫を早くに亡くして東京から別荘に移り住んだ40代の女性とその姪と姪の夫の一家は、姪の夫が殺されます。加えて、登場人物ではあるもののパーティー出席者ではない登場人物が2人います。すなわち、まず加賀です。最後の家族の姪は看護師をしていて職場の同僚から加賀を紹介されて、検証会に加賀の同行を求めます。最後に、繰り返しになりますが、地元所轄署の刑事課長も検証会に同席します。検証会は2日に及び、初日は検証会出席者が宿泊するホテルの会議室、2日めは現場を歩いて回ります。謎解きは東野作品らしく鮮やかですが、まあ、特別なところはありません。でも、最後の最後にどんでん返しが待っています。これは鮮やかなものです。もっとも、『方舟』のような反転してひっくり返るような turnover のどんでん返しではなく、チョコっと付加されるヒネリという意味での twist のどんでん返しです。ミステリですので、謎解きは読んでいただくしかありませんが、最後に私個人の感想として、別荘を持つくらいのお金持ちであれば、やっぱり、こういった裏の顔があることは、人生60年余り生きて来てそうだろうと実感しています。その昔の公務員をしていて統計局に勤務していたころ、統計局には非常にナイーブな人が多く、役所で出世して局長だとか課長になっている人は人格も高潔なのだろうと考えている人ばっかりで大いにびっくりしたことがあります。国家公務員として役所で出世している人の中には、全員とはいいませんが、たぶん、腹黒さでは世の中の平均よりも腹黒い、というのが私の実感です。ひょっとしたら、大企業でもそういった例が決して少なくない可能性は感じます。平均的なキャリア公務員よりも出世できなかった私自身が自分で人格高潔と主張するつもりはありませんが、人並み以上に出世している公務員なんて、ロクなものではないと思うのが通常のケースではないかという気もします。このミステリでは、主目的ではないのは当然としても、そういった世間の「勝ち組」の裏の顔を見ることができます。

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次に、吉原珠央『絶対に後悔しない会話のルール』(集英社新書)を読みました。著者は、ANA(全日本)、証券会社、人材コンサルティング会社などを経てコミュニケーションを専門とするコンサルタントとして独立した活動をしている、ということです。いろんな職業の中で、噺家と教員ではしゃべるスキルが重要です。本書はよりインタラクティブな会話に焦点を当てていて、噺家や教員に必要とされる一方的なおしゃべりとは違うのですが、まあ、何と申しましょうかで、授業の改善に役立つかと考えて読んでみました。本書で主張されているのは、先入観に基づく何らかの思い込みや決めつけが会話を台無しにし、コミュニケーションを阻害する、ということで、これを防止して心地よい会話にするためには会話の相手をしっかり観察する必要がある、ということにつきます。ただ、それができないから苦労しているのではないか、という気もします。ゴルフで、ティーグラウンドでドライバーを振って、フェアウェイ真ん中に250ヤード飛ばせ、というアドバイスと同じで、それをするために何が必要かという点が必要になる、という意味です。加えて、会話ではないでしょうが、大学の講義の場合、数百人の学生を相手にするわけで、出席学生全員を正確に観察することも不可能に近いものがあります。ということで、私が公務員のころに政治家のいわゆる「失言」をいくつか見てきましたが、その大きな原因のひとつはウケ狙いでジョークを飛ばそうとして滑るケースです。ですから、それを避けるためには、ウケ狙いをせずに面白くなくていいので正確な表現を旨とすることです。そうです。そうすれば、役人言葉に満ちていて正確だが何の面白味もない会話が出来上がるわけです。基本的に、大学の授業とはそれでOKだと私は考えています。少し前に強調された「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」というのがありますが、大学の授業、少人数で顔と名前が一致してそれなりの親しい間柄といえるゼミなどでは、あるいはOKかもしれないと思うものの、数百人が出席する大規模な講義などでは差別的な発言などのポリコレに反した発言を含む授業はすべきではありません。これはいうまでもありません。でも、そうすると、繰り返しになりますが、正確かもしれない反面、面白味がなくて印象に残らず、したがって、専門知識や教養として身につかない授業になる恐れすらあるわけで、そこは公務員とは違って教員として面白くかつ印象に残る授業を模索する毎日です。長い旅かもしれません。

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次に、新堂冬樹『ホームズ四世』(中公文庫)を読みました。著者は、小説家です。タイトル通りに、シャーロック・ホームズの子孫が活躍するミステリ・サスペンス小説です。歌舞伎町ホストクラブ「ポアゾン」ナンバーワン・ホストである木塚響はホームズの曾孫、ひ孫に当たります。ホームズの孫に当たる父親は探偵事務所を経営しています。ホームズの子供、すなわち、主人公である木塚響の祖父が、ホームズ物語でも言及されているバリツ=柔術を極める目的で来日し、そのまま日本に居着いた、ということになっています。そして、この主人公のホストクラブの太客である加奈という質屋の経営者が行方不明になり、質屋の店長から捜索の依頼が入ります。そして、なぜか、その質屋の店長は別の探偵事務所の女性探偵である桐島檸檬にも同じ依頼をしていて、2人が共同で捜査に当たります。そして、この桐島檸檬はワトソン医師のひ孫であり、彼女の父親も探偵事務所を経営しています。桐島檸檬はとてもタカビーなキャラに設定されています。他方で、木塚響は割合と謙虚なキャラに設定されています。そして、ジェームズ・モリアティ教授の孫と称するする女性ラブリーが敵役キャラとして登場し、ついでに、モラン大佐の孫も登場したりします。ということで、とても突飛であり得なくも、ぶっ飛んだ設定のミステリ、サスペンス小説です。一応、失踪人捜索で謎解きの要素はそれなりにありますのでミステリといえます。ただ、登場人物がすべてホームズ物語の子孫というあり得なさの上に、モリアティ教授の孫と称するラブリーは世界政府のように、世界を裏で牛耳る組織の日本支部長で、政治家からヤクザの裏社会まで、すべてを動かせる権力を持っている、という、これまた、不可解かつ荒唐無稽な設定になっています。ただ、殺人や暴力の要素はほとんどなく、男女が入り乱れますが、エロの要素もほとんどありません。荒唐無稽な設定とはいえ、それは「ドラえもん」の道具と同じで、それなりに夢を感じる読者もいるかも知れませんし、そもそも、ホームズその人がフィクションの世界にいるわけですので、そういった設定を難じるのは野暮というものです。もちろん、ミステリですので、謎解きや事件の真相などは読んでいただくしかなく、あらすじなどもここまでとしますが、まあ、面白かったですし、それなりに記憶にも残る内容です。個人的な事情を明らかにすると、私は基本的に学術書を中心に据えた読書なのですが、町田その子の『52ヘルツのクジラたち』と『魚卵』を読んだ上に、辺見庸『月』でとどめを刺された形になって、先週までの重い読書のために、メンタルに変調を来す恐れすらあると自覚していたので、この小説を手に取りました。そういった軽い読書を求める目的、あるいは、それなりにページ数もありますので、時間つぶしにはもってこいです。その意味で、いい本でしたし、オススメです。

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次に、伊坂幸太郎ほか『短編宝箱』(集英社文庫)を読みました。著者と短編タイトル、さらに、簡単な紹介は以下の通りです。伊坂幸太郎「小さな兵隊」では、小学校4年生の岡田くんが教室にある他児童のランドセルに印をつけたり、学校の門にペンキをかけたりする問題行動を取るのは深いわけがありました。でも、その背景までは岡田くんには理解できていませんでした。奥田英朗「正雄の秋」では、ライバルとの局長への出世競争に破れた50歳過ぎのサラリーマンは総務局勤務あるいは関連会社の役員としての出向の選択肢を示されますが、妻とともに人生の進路についていろいろと考えを巡らせます。米澤穂信「ロックオンロッカー」では、図書委員の高校生2人がケメルマンの「9マイルは遠すぎる」ばりに、美容店店長の「貴重品は、必ず、お手元におもちくださいね」の「必ず」から推理を働かせます。東野圭吾「それぞれの仮面」では、ホテル・コルテシア東京の山岸尚美が元カレのトラブルを解決します。桜木紫乃「星を見ていた」でが、ホテル・ローヤルの従業員の女性に次男坊から優しい手紙が現金といっしょに送られて来ましたが、その稼ぎ方は本人が主張するように左官として働いたからではなく、犯罪行為に関与している疑いがあると報道されます。道尾秀介「きえない花の声」では、主人公の母親は夫、すなわち、主人公の父親が職場の若い女性と浮気しているのではないかと長らく疑っていましたが、後年、昔の勤務先近くに主人公といっしょに旅行した際に、職場での夫の秘密の行動の真相が明かされます。島本理生「足跡」では、人妻の不倫について、「治療院」と称する場で働く男性と主人公の関係から、この作者らしく、うまくいきそうでうまくいかない男女のビミョーな関係を描き出しています。西條奈加「閨仏」は江戸時代が舞台の時代小説で、青物卸商が妾4人を同じ家に住まわせるている中の1人、おりくが木製の仏像作成を始めますが、それが寝室=閨で使うものだったりします。荻原浩「遠くから来た手紙」では、30代で子供ができたばかりの女性が夫婦喧嘩で乳飲み子を連れて実家の静岡に帰って来ると、旧漢字で文字化けするメールが来るようになりますが、何と、差出人は戦争で亡くなった祖父からでした。浅田次郎「無言歌」では、戦争中に大学生から学徒動員された即席士官が海軍に入隊し、仲間や部下の下士官とともに短かった人生を語り合います。朝井リョウ「エンドロールが始まる」では、卒業式の日の女子高校生が図書室で高校生活を思い返すのですが、卒業する母校は他校と合併してなくなってゆくため、エンドロールのように思いが湧き上がります。ということで、長くなりましたが、かなり水準の高い著者による出来のいい短編集です。ただし、それだけに、私の場合は既読の作品が多かったです。直感的員、⅔くらいは既読だったような気がします。でも、再読であったとしても、水準高い短編ですので、特に、私のような記憶力のキャパが小さい人間には、とてもいい時間つぶしだと思います。


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次に、青山美智子ほか『ほろよい読書 おかわり』(双葉文庫)を読みました。なお、おかわり前の『ほろよい読書』も私は読んでいます。短編集で、作者はすべて女性小説家です。タイトルから理解できるように、お酒にまつわるエピソードを集めたアンソロジーです。収録順に、著者と短編タイトルとあらすじは以下の通りです。青山美智子「きのこルクテル」では、大好きな女性小説家の作品を目標に作家を目指す青年が、ライターとして雑誌のアルバイトで、下戸にもかかわらず、取材のためにバーを訪れると、美人バーテンダーがいて酒も飲まずにキノコの話題で盛り上がります。でも、その美人バーテンダーの正体が、何と…、というストーリーです。朱野帰子「オイスター・ウォーズ」では、高偏差値大学出身の女性とベンチャー企業の男性オーナーが、SNSを通じて知り合って、というか女性の方から男性を狙って、かつての復讐のために牡蠣を食べにオイスター・バーで2人で腹のさぐりあいを展開します。一穂ミチ「ホンサイホンベー」では、主人公の父親が死んで、再婚相手のベトナム人とベトナムのジンを飲んで、かつてのわだかまりを解消させる女性の心情を描き出しています。タイトルはベトナム語であり、Không Say Không V'ê と綴ります。「酔わずに帰れるか!」という意味だそうです。ただ、正確にベトナム語を写していないので、似たような記号を使っています。悪しからず。奥田亜希子「きみはアガベ」では、中学生の女子のあるべき姿への童貞と恋の物語をテキーラの原料となるリュウゼツランにからませて展開します。西條奈加「タイムスリップ」はちょっと不思議な体験で、主人公の女性がふらりと入った居酒屋で若い店員から薦められた日本酒をいくつか味わうのですが、別の日に同じ場所にある居酒屋に行くと、店の名が変わっている上に、働いているのもかなり年配のオジサンばかり、という経験をします。繰り返しになりますが、タイトル通りに、すべてお酒にまつわる短編で、作者のラインナップを見ても理解できるように、出来のいい上質な短編が収録されています。これはこれで、オススメです。

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2023年11月24日 (金)

4か月ぶりに上昇率が再加速した10月の消費者物価指数(CPI)をどう見るか?

本日、総務省統計局から10月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+2.9%を記録しています。前年比プラスの上昇は26か月連続ですが、先月9月統計の+2.8%のインフレ率からは上昇幅を再加速させています。+3%を下回っていますが、日銀のインフレ目標である+2%をを大きく上回る高い上昇率での推移が続いています。ヘッドライン上昇率も+3.3%に達している一方で、エネルギーや食料品の価格高騰からの波及が進んで、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+4.0%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価指数、10月2.9%上昇 4カ月ぶり伸び拡大
総務省が24日発表した10月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が106.4となり、前年同月比で2.9%上昇した。伸び率は4カ月ぶりに拡大した。政府の電気・ガス料金の補助が10月から半減し、エネルギー価格が物価を下げる効果が弱まった。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値の3.0%上昇は下回った。前年同月比でプラスとなるのは26カ月連続で、日銀の物価目標である2%を上回る水準での推移が続く。
生鮮食品を含む総合指数は3.3%上昇した。トマトが41.3%、りんごが29.4%それぞれ上がった。夏場の高温による生育不良などで出荷が落ち込んだ。
生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は4.0%上昇した。4%台の上昇は7カ月連続となる。4.2%の上昇だった9月は下回り、伸びは2カ月連続で縮小した。生鮮食品以外の食料品で、昨年秋以降に相次いだ値上げに一服感がある。
総務省によると電気・ガスの料金抑制策がない想定では、生鮮食品を除く総合指数の上昇率は3.4%だった。単純計算では政策効果で物価の伸びが0.5ポイント抑えられている。9月の抑制効果は1.0ポイントだった。
品目別では電気代が前年同月比で16.8%下がった。9月の24.6%低下から下げ幅を縮めた。都市ガス代も13.8%の低下で、9月の17.5%のマイナスから下落幅が縮小した。政府が石油元売りに支給する補助金を拡充したガソリンは5.0%上昇と、9月の8.7%プラスから上昇率が下がった。
全体をモノとサービスに分けると、サービスの上昇率は2.1%と9月より0.1ポイント拡大した。消費税増税の時期を除くと1993年10月以来30年ぶりの上昇率だった。原材料費の上昇に加え、人件費を価格に転嫁する動きがみられる。
宿泊料は42.6%上昇した。観光需要が回復している。政府の観光振興策「全国旅行支援」が各地で終了していることも押し上げ要因となった。携帯電話の通信料は10.9%伸びた。7月と10月に一部の事業者で料金プランの変更があった。
生鮮食品を除く食料は7.6%上昇と、9月の8.8%上昇から伸びを縮めた。伸びの縮小は2カ月連続となる。上昇率は高く、レトルトカレーを示す調理カレーは16.4%のプラスだった。アイスクリームも12.1%上がった。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.0%の予想でしたので、実績の+2.9%の上昇率はやや下振れした印象ながら大きな違いは感じられません。まず、エネルギー価格については、2月統計から前年同月比マイナスに転じていて、本日発表された10月統計では前年同月比で▲8.7%に達し、ヘッドライン上昇率に対する寄与度も▲0.75%の大きさを示しています。ただし、9月統計ではこの寄与度が▲1.00%ありましたので、10月統計でコアCPI上昇率が9月統計から+0.1%ポイント再加速した背景はエネルギー価格にあります。すなわち、10月統計ではエネルギーの寄与度差が+0.26%に達しています。たぶん、四捨五入の関係で寄与度差は寄与度の引き算と合致しません。悪しからず。特に、そのエネルギー価格の中でもマイナス寄与が大きいのが電気代です。エネルギーのウェイト712の中で電気代は341と半分近くを占め、9月統計では電気代の寄与度が▲1.01%あったのが、10月統計では▲0.69%に縮小しています。+0.32%ポイントの寄与度差を示しています。統計局の試算によれば、政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の影響を寄与度でみると、▲0.49%に達しており、うち、電気代が▲0.41%に上ります。他方で、政府のガソリン補助金が縮減された影響で、6月統計で前年同月比▲1.6%だったガソリン価格は7月統計で+1.1%の上昇に転じた後、8月+7.5%、9月+8.7%、そして、直近の10月統計では+5.0%と、ふたたび上昇に回帰しています。この背景は国際商品市況における石油価格の上昇があります。中東のガザ地区の武力衝突が、今後、どのように推移するかについても予断を許しませんし、食料とともにエネルギーがふたたびインフレの主役となる可能性も否定できません。エネルギーだけではなく、食料についても細かい内訳をヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、コアCPI上昇率の外数ながら、生鮮野菜が+0.36%と大きく値上がりしています。コアCPIの中では、調理カレーなどの調理食品が+0.30%、まだ暑さが続いていた10月の統計ですのでアイスクリームなどの菓子類が+0.26%、牛乳などの乳卵類が+0.24%、外食焼肉などの外食が+0.18%、食パンなどの穀類も+0.17%、などなどとなっています。

何度も書きましたが、現在の岸田内閣は大企業にばかり目が向いていて、東京オリンピックなどのイベントを開催しては電通やパソナなどに多額の発注をかけましたし、物価対策でも石油元売とか電力会社などの大企業に補助金を出しています。こういった大企業向けの選別主義的な政策ではなく、たとえ結果としては同じであっても、国民に対して出来るだけ普遍主義的な政策を私は強く志向しています。物価対策であれば、例えば、消費税減税・消費税率引下げ、あるいは、物価上昇に見合った賃上げを促す政策が必要であると私は考えます。

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2023年11月23日 (木)

メルカリの男女賃金格差の是正姿勢を考える

メルカリの男女の賃金格差に関するメルカンの記事「『説明できない格差』を埋めてより良い社会にしていきたい - 男女間賃金格差に対する、メルカリが考える是正アクション」を見て、思わずツイッタでつぶやいてしまいましたが、ちょっと間違った部分がありましたので、訂正の意味も含めて、取り上げておきたいと思います。というのは、ミンザー型の賃金関数を用いてBlinder-Oaxaca分解していると思っていたのですが、どうも、階層ベイズモデルを用いているようです。「重回帰分析では全体平均的な補正値しか出せませんが、階層ベイズモデルではグループ差や個人差を考慮できる」とありますから、重回帰分析がミンサー型の賃金関数なのかもしれません。私は階層ベイズモデルの研究成果はありませんが、ミンサー型の賃金関数を基にBlinder-Oaxaca分解を用いた賃金格差分析のディスカッションペーパーを書いたことがありますので、改めて、私の研究成果ともあわせて簡単にコメントしたいと思います。
ということで、私が役所にいたころの研究成果で「ミンサー型賃金関数の推計とBlinder-Oaxaca分解による賃金格差の分析」と題するディスカッションペーパーがあります。何をしているかは、ありきたりな研究なので、詳しくは書きたくもないのですが、タイトル通りに、ミンサー型の賃金関数モデルに厚生労働省の賃金構造基本統計調査(賃金センサス)の個票データをインプットして賃金の決定要因を分析しています。さらに、Blinder-Oaxaca分解という手法を適用して、賃金に関して、産業間格差、地域間格差、企業規模別格差などとともに、もちろん、男女の性別格差についても分析をしています。2015年の研究ですので、データは2011年の震災年を外して、2007年、2010年、2013年の3年ごとの個票データを用いています。
男女の性別賃金格差は、学歴や役職などの詳細属性を含むデータで、各年35~40%と計測しています。そして、階層ベイズモデルを用いてメルカンで「説明できない格差」と呼んでいるのは、ミンサー型賃金関数を基にしたBlinder-Oaxaca分解では、通常、非属性格差と呼ばれています。これは、例えば、女性の場合は男性よりも大卒比率が低いとか、パートタイム比率が高いとか、勤続年数が短いとか、年齢が若いとか、こういった属性に起因する格差と、こういった明示的な属性の違いに起因しているわけではない非属性格差に分解するのが、Blinder-Oaxaca分解と呼ばれる手法です。ですから、非属性格差は人的資本の研究で有名なシカゴ大学のベッカー教授などはズバリ「差別」discrimination と呼んでいます。
私がメルカンの記事で驚いたのは、メルカリにおける男女間賃金格差37.5%は、私の研究成果に比べて平均的といえるのですが、非属性格差に近いと私がみなしている「説明できない格差」がわずかに7%しかない、という点です。すなわち、私の研究成果によれば、35~40%の男女間性別賃金格差のうち、18~20%くらい、すなわち、半分強が非属性格差であったのですが、メルカリの場合はわずかに⅕の7%というのは驚きでした。

まったく別のテーマながら、阪神タイガース優勝パレードはものすごい盛り上がりでした。感激しました。

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2023年11月22日 (水)

世界における基礎的スキルの充足度はどれくらいか?

来年1月に刊行予定の学術誌で "Global universal basic skills: Current deficits and implications for world development" と題する論文が掲載予定と聞き及びました。まず、この論文の引用情報は以下の通りです。

この論文のAbstractを学術誌のサイトから引用すると以下の通りです。なお、下線は引用者が付しています。

Abstract
How far is the world away from ensuring that every child obtains the basic skills needed to be competitive in a modern economy? And what would accomplishing this mean for world development? We provide new approaches for estimating the lack of basic skills that allow mapping achievement across countries of the world onto a common (PISA) scale. We then estimate the share of children not achieving basic skills for 159 countries that cover 98% of world population and 99% of world GDP. We find that at least two-thirds of the world's youth do not reach basic skill levels, ranging from 24% in North America to 89% in South Asia and 94% in Sub-Saharan Africa. Our economic analysis suggests that the present value of lost world economic output due to missing the goal of global universal basic skills amounts to over $700 trillion over the remaining century, or 12% of discounted GDP.

この論文では、著者たちが学習ないしスキルの達成度を経済開発協力機構(OECD)で実施している学習到達度調査(PISA)のスケールに合わせてマッピングするアプローチを開発し、それを世界GDPの99%をカバーする159か国について推計しています。推計方法に注目するアカデミアも少なくなさそうですが、一般向けに結果に着目して、イメージをつかむために、そのマッピングされた世界地図 Fig. 3.World map of lack of basic skills: Share of children who do not reach basic skill levels を論文から引用すると以下の通りです。

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基礎的スキルの欠如に従ってグラデーションさせていますので、黄色とかの色の薄い方が欠如の割合が小さく、したがって、習得あるいは到達の度合いが高い、ということになります。日本、韓国、中国、カナダ、英国、オランダなどが欠如率10-20%、ということで、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアなどのいくつかの大陸欧州諸国、米国、ロシアなどがやや高く20-30%、もっとも高い地域はサブサハラ・アフリカや南アジアなどとなっています。おおよそ、世間一般の常識に合致する結果ではないかと思います。

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続いて、論文から Table 3 Sensitivity of skill estimates: Restriction to higher layers of reliability and bounding of out-of-school children を引用すると上の通りです。タイトルには「学校教育外の子供たち」out-of-school children も表にあることが明記されていますが、日本では学校外教育が一般的ではないことやその他の諸般の事情により割愛しています。Abstract に下線を引いておいたように "at least two-thirds of the world's youth do not reach basic skill levels" なわけで、上のテーブルからは、基礎的スキルの欠如比率が67.2%に達していると結論されていることが理解できます。低所得国では95.6%、低位中所得国で85.8%、高位中所得国で42.3%、高所得国でも25.5%に上ります。なお、引用はしませんが、論文には Table A4. Student achievement on a global scale: Country data として基礎的スキルの欠如率の国別データも収録されています。日本は11.2%、中国が13.9%、米国が22.9%、などとなっています。

この論文から私が得た結論は以下の2点です。

  1. 世界ではまだまだ子供たちに基礎的スキルが不足していて、さらに教育を進めることにより、経済成長をはじめとする社会的・文化的・経済的な各国の発展につなげることができる。
  2. やっぱり、日本の子供たちは優秀であり、当然に、日本の労働者の潜在的な生産性は高いと考えられ、生産性が低いから賃金が上がらない、という経営者団体などの主張にはどこかに誤りがある

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2023年11月21日 (火)

帝国データバンク「2024年の注目キーワードに関するアンケート」の結果やいかに?

先週木曜日の11月16日に帝国データバンクから「2024年の注目キーワードに関するアンケート」の結果が明らかにされています。詳細についてはpdfの全文リポートもアップロードされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果を3点引用すると以下の通りです。

調査結果
  • 2024年の注目キーワード、「ロシア・ウクライナ情勢」が73.2%でトップ、物価高や人手不足関連が上位に並ぶ
  • 特に「ロシア・ウクライナ情勢」「中東情勢」「チャイナリスク」といった『海外情勢』をキーワードとして捉える企業は93.7%にのぼる
  • 業界別、『運輸・倉庫』で「2024年問題」が突出して高く、『小売』は「食品・日用品価格」が目立つ

続いて、帝国データバンクのリポートから 2024年の注目キーワード トップ20(複数回答) を引用すると以下の通りです。

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画像の右下に昨年2023年の注目キーワードが小さく示されています。相変わらず、ロシア・ウクライナ情勢がトップで、中東情勢も4位に入っています。こういった国際情勢に関するキーワードに続いて、物価高やインフレが続いているのは昨年と同じです。大きく異なるのはコロナ関連で、昨年はまだコロナの感染法上の扱いが2類でしたが、今年2023年5月に5類になってから、かなり極端に見方が変化したようで、来年の注目キーワードでは17位で大きく後景に退いています。それに代わって、物流・建設をはじめとするいわゆる2024年問題などの人手不足・人材確保が3番めに入っています。

来年のことをいうと「鬼が笑う」といいますが、果たしてどうなりますことやら。

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2023年11月20日 (月)

気候温暖化が貿易を阻害する?

先週11月15日の IMF Blog で「気候変動が国際貿易を混乱させる」 Climate Change is Disrupting Global Trade という記事がポストされています。何それ? と思ったのですが、パナマ運河が干ばつ制限により通行が制限されていることを指しているようです。以下、このIMF Blogの記事の概要です。

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IMF Blog のサイトから Port Watch と題する画像を引用すると上の通りです。Port Watch とはIMFと英国オックスオード大学が共同で開設したオープン・プラットフォームだそうです。このプラットフォームは、リアルタイムの衛星データを使用して世界の海上貿易の99%以上に当たる世界中の約12万隻の貨物船とタンカーを追跡しているそうです。
パナマ運河は毎月約1000隻の船が通過し、世界の海上貿易の約5%に相当する4000万トン超の貨物が運ばれています。しかし、運河に水を供給するガトゥン湖 Gatún Lake での降水量が不足し、干ばつ制限 drought restrictions により通行量が今年に入って1500万トン減少し、船舶の運行が6日間遅れている、と報告されています。
上の画像に見られる通り、もちろん、地理的に近い米州大陸諸港への影響が大きいのですが、実は、欧州よりも日本の港への影響の方が大きいようです。気候変動=地球温暖化はさまざまな局面で経済や生活に大きな影響を及ぼし始めています。気候変動の防止のために温室効果ガス排出削減は待ったなしの状況です。

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2023年11月19日 (日)

今年2023年のベスト経済書やいかに?

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師走が近づき、例年通りに「今年のベスト経済書」のアンケートが届く季節になりました。今年は財政政策に関して、私の見方に極めてよく合致する本がいくつか出版されましたので、次の2冊を上げようと考えています。

私はこれら2冊を主たる参考文献として、今年の夏休みに紀要論文 "An Essay on Public Debt Sustainability: Why Japanese Government Does Not Go Bankrupt?" を書いています。例えば、論文の冒頭で、"In general, public debt is widely regarded as bad, as mortgaging the future, or government borrowing would cost our children/grandchildren. Public debt and fiscal deficit must be, however, analyzed from the viewpoint of economic welfare, i.e., from both sides of cost and benefit. Blanchard (2022), e.g., suggests that debt might indeed be good under the assumption of certainty." すなわち、「一般に、公的債務は悪であり、将来からの借入れであるため、子孫に損害を与えると広く考えられています。 しかし、公的債務や財政赤字は、経済厚生の観点、つまり費用と便益の両面から分析されなければなりません。 たとえば、Blanchard (2022) は、確実性を仮定すれば借金は実際に良いものであるかもしれないと示唆しています。」などなどです。参考文献の Blanchard (2022) は、上に示した今年のベスト経済書候補の1番手です。私は現代貨幣理論(MMT)のように政府債務は無条件のサステイナブルであるとまでは考えませんが、政府の財政赤字や公的債務についてヒステリックに否定するだけでなく、コストとベネフィットの両面からバランスよく分析する必要があると考えています。紀要論文に書いた通りです。
昨年は、マリアナ・マッツカート『ミッション・エコノミー』(NewsPicksパブリッシング)をイチ推ししたのですが、大きくハズレてしまいました。今年も外すかもしれませんが、引き続き、ネオリベな経済政策に反対する立場を鮮明に打ち出したいと思います。ということで、果たして、今年のベスト経済書やいかに?

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2023年11月18日 (土)

今週の読書は一風変わった価格形成に関する学術書をはじめとして計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、オラーフ・ヴェルトハイス『アートの値段』(中央公論新社)は、オランダの社会学者が絵画を例に取って一般的な規格品などとはまったく異なる芸術品の価格決定メカニズムの解明を試みています。ダグラス・クタッチ『現代哲学のキーコンセプト 因果性』(岩波書店)は、経済学ではなく哲学の観点から因果性・因果関係について論じています。髙石鉄雄『自転車に乗る前に読む本』(ブルーバックス)は、「疲れない」をキーワードに自転車を活用した健康増進を推奨しています。町田その子『ぎょらん』(新潮文庫)は、死に際して死に行く人の思いが残されるぎょらんをめぐる人生の転変を描き出しています。次に、篠田節子『田舎のポルシェ』(文春文庫)は、長距離を自動車で移動する人々を主人公にした新しいタイプのロード・ノベルです。最後に、辺見庸『月』(角川文庫)は、相模原にあった障害者施設の津久井やまゆり園での殺人事件を題材にしたと思われるフィクションであり、入所者のきーちゃんから見てさとちゃんがどのように犯行に及んだかを描写しようと試みています。
また、新刊書読書ではないので、ここには含めませんでしたが、詠坂雄二『人ノ町』(新潮文庫nex)を読みました。Facebookですでにシェアしてあります。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊でしたが、6~10月に130冊を読みました。11月に入って、先週までに11冊、今週ポストする6冊を合わせて191冊となります。どうやら、例年と同じ年間200冊の新刊書を読めそうな気がしてきました。

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まず、オラーフ・ヴェルトハイス『アートの値段』(中央公論新社)を読みました。著者は、オランダにあるアムステルダム大学の研究者であり、専門は経済社会学、芸術社会学、文化社会学であり、エコノミストではありません。英語の原題は Talking Prices であり、2005年に米国プリンストン大学出版局から出版されています。本書は、極めて希少性の高い美術品の価格設定についての研究成果です。ほぼほぼ学術書と考えて差し支えありませんが、経済学、というか、計量分析を多用しているわけではありませんので、それほど学術っしょぽくはありません。まず、私なりに経済学的に価格設定を考えると、多くの場合はコストにマークアップをかけている場合が多いのではないか、と感じています。需要が強かったり、独占度が高かったりすれば、マークアップの割合が高くなるのは当然想像できる通りです。しかし、美術品、本書では主要には絵画や彫刻を想定していて、おそらく、文学作品の出版物とか、音楽で言えばコンサート鑑賞のための価格、あるいは、録音メディアの価格ではなく、単品、すなわち、唯一それしかないという絵画や彫刻などの美術品を念頭に、価格設定について分析しようと試みています。主たる分析方法はインタビューと簡単な数量分析ですが、圧倒的に前者の方法論が取られています。インタビューの場所は米国ニューヨークと著者の地元であるアムステルダムです。まず、本書で考える美術品は、芸術家、アーティストが生産します。そして、まず第1次(プライマリー)市場であるギャラリーにおいて固定価格、あるいは、リストプライスでコレクターに対して売却されます。固定価格というのは、第2次(セカンダリー)市場のオークションにおける競り値と対比しているわけです。あるいは、第3次以降の市場があるのかもしれませんが、第1次市場から後の流通市場は第2次市場と一括して呼んでおきます。第2次市場では、コレクターが直接オークションに出品する場合もありますが、ディーラーないしアート・ディーラーが仲介する場合も少なくありません。美術品市場で特徴的なのは、第1次市場のギャラリーで、例えば、個展を開催してディーラーが仲介しつつモン、ここではディーラーとアーティストの協議に基づいて価格が設定される点です。ですから、個展に行くと「売却済み」の作品がいくつかあるのを見ることがあります。「売却済み」の札が貼ってあれば、より高い値段を申し入れても買えるとは限りません。すなわち、第2次市場のようなオークションで競売されるわけではありません。しかし、作品が、あるいは、作者である芸術家が評価を高めると、第2次市場に出回ることもあり、その場合は多くの場合で第1次市場の価格よりも高い価格で落札されることになります。ゴッホやセザンヌの場合、第1次市場ではほとんど値がつかずにタダで引き取られた作品も少なくない、というのは広く知られているところです。そして、美術品を仲介するディーラーが何よりも重視するのは、作品の芸術性を反映した価格が設定されることだと本書では指摘しています。しかし、芸術性だけでなく、芸術家、ディーラー、オークションハウス、コレクターなどの多くのプレーヤーによる「意味交換システム」の中で決定される、という結論です。この「意味交換システム」がどういうものかは、本書を読んでいただくしかありませんが、商業的な俗な方向に流されるのではなく、芸術本来の方向を守理、同時に、芸術家を守るという守護神の役割をディーラーは果たそうとして、資産としての商業的な価格ではなく、あくまで芸術品としての評価を反映した価格をディーラーは追求するわけです。実際に、芸術家やディーラーが、どのような考えに基づいて、どのような価格設定行動を取っているのか、私は専門外にして知りませんが、本書の著者が実施したインタビューでは、そのような回答が多くなっているようです。こういったあたりは、多くの読者が想像できる範囲ではありますが、それが学術的に詳細に既存研究を引用しつつ検証されているのが本書の特徴です。エコノミストの私でも、一読の価値があったと思います。

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次に、ダグラス・クタッチ『現代哲学のキーコンセプト 因果性』(岩波書店)を読みました。著者は、CUBRC科学研究員ということのようですが、これだけでは私は何のことやらサッパリ判りません。まあ、ご専門は哲学のようです。英語の原題は Causation であり、2014年の出版です。なお、本書の邦訳書は2019年の出版であり、この読書感想文は新刊書読書を対象に最近2年くらいまでの出版物を取り上げているのですが、本書だけは別途の必要あって読みました。まったくの専門がいながら、ついでに読書感想文として含めておきます。ということで、まず英語の原題 Causation なのですが、因果関係がcusalityで、因果性はcausationなのか、と語学力に自信のない私なんぞは考えてしまったのですが、p.18のQ&Aで両者に違いはなくまったく同じ、と著者自身が記していて安心しました。哲学の学術書ですので、経済学の因果性や因果関係とは別の切り口になっています。すなわち、単称因果と一般因果、線形因果と非線形因果、産出的因果と差異形成的因果、影響ベース因果と累計ベース因果、の4つの観点から因果性を考えています。単称因果とは現実因果とも呼ばれ、実際の事象について当てはめられます。彼は自転車で転倒したので怪我をした、といった具合です。それに対して、一般因果は、一般的に当てはまる因果性で、ガラスのコップを落とすと割れる、といったカンジです。線形因果とはコイルのバネ秤に100グラムの重りを5コつけると500グラムになりますが、5コの重りはそれぞれ同じようにバネ秤に作用するのが線形因果で、何らかの限界値があって、例えば、50キログラムまでしか測れない秤に10キログラムの重り10コをつけて秤が壊れると、その因果関係は10コの重りに平等にあるわけではない、という非線形性です。産出的因果は、特定の原因が特定の結果をもたらすことで、自転車で転倒したのが怪我の原因、という因果関係で、差異形成的因果とは、誰かに自転車を貸してあげて、その借りた人が自転車で転倒して怪我をした、といった場合の自転車を貸すという行為と怪我という結果の間の因果性です。最後の影響ベース因果と累計ベース因果は、お酒を飲むと酔っ払う、というのが影響ベースであり、繰り返して何日もお酒を飲み続けるとアルコール依存症になる、というのが累積ベース因果です。ただ、やっぱり、経済学と哲学の因果性は大きく異なります。経済学では相関関係と因果関係を強く意識します。しかし、時には経済の循環の中でこの相関関係が逆の因果関係に転ずる場合が少なくありません。例えば、景気がよくなると失業が減り、失業が減れば経済全体として所得が増える人が多くなって、さらに売上げが伸びて景気がよくなる、というスパイラル的に正のフィードバックをもって経済が循環するケースが少なくないです。さらにやっかいなことに、景気と失業だけではなく、3つ以上の要因が複雑に絡まり合っているケースも経済学の分析対象ではいっぱいあります。日本だけではなく、世界的に、低所得と肥満と喫煙はお互いに強く相関し合っている場合が少なくないのですが、どれがどれの原因で結果なのかは判然としません。しかも、多くのデータサイエンティストが認めるところでは、サンプル数が多くなり、いわゆるビッグデータが利用可能になると因果関係がそれほど重要ではなくなり、相関関係の方が重視されます。さらにもっといえば、無相関なのに確実な因果関係が存在あする場合もあったりします。ある研究成果によれば、性交と妊娠は無相関なのですが、性交が妊娠の原因であることは、高校教育を受けたことがある常識的な日本人なら理解していると思います。ということで、とても難しい因果性・因果関係に関する哲学分野の学術書でした。

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次に、髙石鉄雄『自転車に乗る前に読む本』(ブルーバックス)を読みました。著者は、名古屋市立大学の研究者であり、自転車による健康づくりが主たる研究分野のひとつのようです。冒頭に本書の目的が明記されていて、食生活の西洋化などによって日本人の体型が変化してきており、例えば、ボディマス指数(BMI)で計測すると、特に男性の肥満化が進んでいることから、自転車による健康増進、それも、疲れないことをキーワードとして、つらくなく長続きする運動を科学的に解説しようと試みています。ほぼ第1章だけで著者のいいたいことは尽きている気もしますが、すべからく自転車による長続きする運動がいいことが強調されています。歩行、すなわち、ウォーキングよりも運動強度が高く、したがって、カロリー消費も多くなり、中年期以降では筋力アップにもつながります。さらに、屋外でのサイクリングは疲労感よりも爽快感の方が上回る、といった具合です。私自身は、退院した後にはさすがに屋外の自転車は自粛して室内のエアロバイク、本書でいうところの自転車エルゴメーター中心でしたが、たしかに、屋外の自転車は爽快感がタップリです。ただ、今年のような酷暑の際には考えものかもしれません。また、疲れにくいという点を強調して、ペダルを漕ぐ際に膝が伸びるようにサドルを高く設定する必要も主張しています。私の勤務している大学の自転車置き場にも、スポーツ自転車にもかかわらず、やたらとサドルを低くしてるケースを見かけたりしますが、単に私の目から見てカッコ悪いだけでなく、運動生理学の観点からもサドルを高くする必要が明らかにされています。そして、ロードバイクに乗っている上級者なんかを見て明らかなように、番号の小さい軽めのギアで回転数を上げて漕ぐことが推奨されています。どのタイプの自転車がいいかというと、クロスバイクを推奨しているように私には感じられました。まあ、常識的なラインではないかという気がしますが、私はカッコをつけるにはマウンテンバイクもいいと思っています。また、運動強度という観点から電動アシスト自転車には、私自身は手を出しかねているのですが、電動アシストでも立派に運動できると、使い方、というか、電動アシスト自転車の乗り方の解説もあります。自転車は有酸素運動ですから脂肪燃焼に役立ちますが、その際の運動強度の目安は心拍数であると指摘しています。もちろん、運動生理学の観点から、心拍数だけでなく、血糖値や何やといったデータも豊富に示されています。もっとも、統計局に勤務経験あるエコノミストの目からすれば、ややデータの取り方に気がかりな点がないわけではありませんが、学術論文に採択されているような結果もあり、私のような自転車シロートが気にすることではないかもしれません。最後に、自転車に関連して、最近、Moritz Seebacher "Pathways to progress: The complementarity of bicycles and road infrastructure for girls' education" という Economics of Education Review 誌に掲載された教育経済学の論文が面白かったです。道路インフラを整備し自転車を普及させれば、低所得国の女子教育の改善につながることを検証しています。まあ、エコノミストの中でもこんな論文を読んでいる人は少ないと思いますが…

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次に、町田その子『ぎょらん』(新潮文庫)を読みました。著者は、小説家です。この作品は連作短編集であり、収録されている短編は、「ぎょらん」、「夜明けの果て」、「冬越しのさくら」、「糸を渡す」、「あおい落葉」、「珠の向こう側」、「赤はこれからも」の7編です。最後の「赤はこれからも」は文庫化に当たって、単行本の短編に書下ろしで付け加えられています。ぎょらんとは、人が死に際しての願いや思いがいくらに似た形状の赤い珠になり、それを口に含むと思いが伝わるとされています。連作短編のすべてに登場するのは御船朱鷺という青年です。彼は、大学に入学したばかりのころに長い付き合いの友人が自殺し、そのぎょらんを口にして自殺した友人が自分に対して大きな恨みを持っていたことを知り、大学を退学して自宅に引きこもり30歳になります。ただ、いろいろとあって、葬儀社に就職して人を送る仕事を始めます。そもそも、ぎょらんというのは、マンガ雑誌に連載されていたマンガ、そのタイトルが「ぎょらん」というマンガに由来するのですが、作者はもう亡くなっており、ネット上にはぎょらんを解明、検証する掲示板(BBS)が設置されたりしています。そして、御船朱鷺は「珠の向こう側」でそのマンガ「ぎょらん」の作者の家族に会います。その女性からぎょらんとは何かを聞き出します。これはまったく私の想像通りでした。ヒント、というか、実際に、同様の例はハリー・ポッターのシリーズの第7巻最終巻『死の秘宝』におけるハリーとダンブルドア先生の会話に出てきます。ダンブルドア校長先生はすでに死んでいるのですが、ハリーと会話を交わします。ハリーはダンブルドアが死んでいるはずなのに、こうして会話できている点をいぶかしみ、このダンブルドアとの会話についてダンブルドアに質問し回答を得ます。ぎょらんは、その回答と基本的に同じといえます。ネタバレになるので、ぎょらんの正体についてはここまでとし、あとは小説を読んでいただくしかありませんが、それなりの常識ある読者であれば理解できると思います。最後に、この作者の作品は『52ヘルツのクジラたち』を呼んだところだったのですが、この作品も重いです。人が死ぬ際に残すぎょらんですから、常に死とともにあります。当然です。そして、ぎょらんを口に含んで死者の思いを得ることが、実際には、どのような結果をもたらすかについては、もう論ずるまでもありません。少なくとも、私は親しい人の死に際の思いを知ろうとは思いません。というか、絶対にカミさんの死に際の思いは知りたくありません。通常の夫婦は亭主の方が先に死ぬケースが多いと思うのですが、もしも我が家でカミさんが私よりも先に死んでぎょらんを残しても、私は絶対に口に入れないでしょう。

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次に、篠田節子『田舎のポルシェ』(文春文庫)を読みました。著者は、小説家なのですが、昭和の損保OLの小説『女たちのジハード』で第117回直木賞を受賞しています。この本は、短編というよりは少し眺めの中編くらいの3話を収録しています。順に、「田舎のポルシェ」、「ボルボ」、「ロケバスアリア」となります。すべて自動車にまつわるお話ですので、ロード・ノベルと紹介されているのも見かけました。「田舎のポルシェ」では東京出身で岐阜在住の女性が主人公です。主人公が、東京の実家まで自作米を引き取るため大型台風が迫る中、強面ヤンキーの運転する軽トラで東京を目指す道中のストーリーです。いろんなハプニングがいっぱい起こります。「ボルボ」は企業戦士だった男性2人が志を達することなく退職し、北海道までボルボで旅行します。このボルボが20年ほど乗り尽くされて廃車寸前ながら、北海道で熊を相手に大活躍します。最後の「ロケバスアリア」では、コロナでいろんなイベントが中止される中、カラオケ自慢の年配女性が、憧れの歌手と同じステージに立ちたいと浜松までロケバスで移動し、その歌唱をCDに収録しようとします。最後の「ロケバスアリア」はややコミカルなタッチで進行しますが、それ以外の2編はそれなりに重いというか、考えさせられる部分が少なからずあります。私自身は今世紀に入ってジャカルタから帰国して、東京ではもちろん、開催に帰ってきてからもまったく車を運転することはなく、ましてや、岐阜から東京とか、北海道まで自動車で旅行したりなんぞという遠距離を自動車で移動することがなく、近場で自転車、というばかりなのですが、自動車に愛着を感じる向きには実感するところがあるかもしれません。特に、「ボルボ」については、死にゆく廃車寸前のボルボの活躍に拍手したり、涙したりする人がいそうな気がします。作者のストーリー構成の上手さに感心しました。

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最後に、辺見庸『月』(角川文庫)を読みました。著者は、共同通信のジャーナリストであり、作家やエッセイストとしてもご活躍です。この作品はあくまで小説であり、巻末に「本作品はフィクションであり、実在の人物、団体、組織とは一切関係ありません。」というお決まりの文句が並べてありますが、相模原にあった障害者施設である津久井やまゆり園における入所者19人の殺害事件を描き出そうと試みていることは明らかです。この事件の殺害犯は植松聖(うえまつさとし)であり、すでに横浜地方裁判所における裁判員裁判で死刑判決を受け、控訴を取り下げたことで死刑が確定しています。本書では「さとくん」として登場しています。そして、主たる語り手は入所者の「きーちゃん」であり、「寝たきりのごろっとしたかたまりにすぎないあたし」(p.93)と自ら称しています。さとくんの心境の変化が極めて写実的に描き出されています。教授の自慰行為あたりからさとくんの「人間」に関する定義に大きな変化が見られ始めるのが手に取るように判ります。実は、私自身の肩書が「教授」ですし、やや、ドキッとしたところがあります。それはともかく、これだけの重いテーマの作品ですから難解です。きーちゃんの視点と天からの視点が入り乱れています。というか、作者が意図的に入り乱れさせています。極めて抽象度が高くて、それなりの知的レベルにある読者にしか読解できないような気がします。それはそれで当然です。これだけの手練れの作者ですから、平易かつ具体的な描写で、誰にも判りやすい作品にするハズがありません。ある意味では、作者の妄想が大部分かもしれません。小説の形を擬したこの事件に関する作者の心象風景を冗長に記述しているだけかもしれません。私はそれほどレベルの高い読者ではないと思いますので、私の判る部分はこのあたりまでです。でも、すごい作品を読んでしまいました。とてつもなくオススメなのですが、これを読んで廃人になるおそれすらあります。覚悟して、そして、私の嫌いな言葉ではありますが、自己責任でお読み下さい。

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2023年11月17日 (金)

今年の年末ボーナス予想やいかに?

今月11月に入って、例年のシンクタンク4社から2023年年末ボーナスの予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下のテーブルの通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因で決まりますので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。加えて、ボーナス予想だけではなく、できる限り、消費との関連を記述した部分を拾おうとしています。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほリサーチ&テクノロジーズのみ国家公務員+地方公務員であり、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員ベースの予想、と明記してあります。第一生命経済研ではそもそも公務員は予想の対象外です。

機関名民間企業
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研40.2万円
(+2.4%)
67.2万円
(+3.1%)
今冬の賞与は3年連続の増加を予想。民間企業の支給総額は前年比+3.7%の増加となる見込み。支給対象者が増加することに加え、一人当たり支給額も同+2.4%と増加。
背景には、賞与支給の原資となる2023年度上期の企業収益の改善。4~6月期の経常利益は、全産業で26.9兆円(前期比+9.5%)と過去最高水準。製造業では、円安を背景に、海外子会社からの受取利息など営業外収益が増加。非製造業では、好調なインバウンド需要や国内家計のサービス消費の増加などを受け、サービス関連業種を中心に改善。
みずほリサーチ&テクノロジーズ40.3万円
(+2.5%)
76.5万円
(+4.2%)
2023年冬の民間企業の一人当たりボーナスは前年比+2.5%と、3年連続の増加を予想。2023年春闘での近年にない高い水準での賃上げや労働需給の引き締まりを背景に、所定内給与が増加
価格転嫁の進展にともない企業の経常利益は増益を維持。これを受けて、支給月数は若干増加すると予想。2023年冬のボーナスは増加も、伸びは昨冬と比べ鈍化する見通し
民間・公務員合わせたボーナス支給総額は前年比+2.8%と増加する見込み。実質ベースでは夏に比べてマイナス幅が縮小し、個人消費の緩やかな回復を支える要因となろう
三菱UFJリサーチ&コンサルティング40.1万円
(+2.2%)
67.0万円
(+2.8%)
一人当たり支給額と支給労働者数の増加を受け、ボーナスの支給総額は17.5兆円(前年比+3.8%)と3年連続で増加しよう。支給総額の増加率は物価上昇率を上回り、個人消費の回復を後押しすることが期待される。
第一生命経済研n.a.
(+2.1%)
n.a.今冬のボーナスで増加が予想されることは好材料ではあるが、物価上昇が続いていることが引き続き個人消費の頭を押さえる。23年9月の消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)は前年比+3.6%と非常に高い伸びが続いており、年末時点でも+3%台で推移している可能性がある。賃金の増加ペースが物価上昇に追い付かない状況には変わりがない。今冬のボーナス増加が個人消費の活性化に繋がる可能性は低いだろう。

見れば明らかな通り、民間企業では+2%強の伸びで40万円を少し上回るくらいの支給額の予想が中心となっています。増えるであろうボーナスが消費にどこまでインパクトを持つかが注目なのですが、大雑把に、第一生命経済研究所ではボーナスの伸びが物価上昇に追いつかないので消費の活性化につながる可能性を低いと見ているのに対して、逆に、みずほリサーチ&テクノロジーズや三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは消費の回復を支える、ないし、後押しする、と評価しています。三菱UFJリサーチ&コンサルティングではボーナスの伸びが物価上昇を上回ると見ているので、ボーナスと物価の関係は第一生命経済研究所と逆ですから、ボーナスと消費についても逆の関係を想定するのは当然といえます。ただ、消費をサポートすると見ているみずほリサーチ&テクノロジーズや三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは、第一生命経済研究所のように1人当たりボーナスの伸びと物価上昇を単純に比較するのではなく、1人当たり支給額の伸びに支給対象労働者の増加を考慮したボーナス支給総額に着目して消費に対するインパクトを考えているので、支給対象者が増加する今冬ではボーナスが消費に対してより大きなインパクトを持つ、という結論なのではないか、と想像しています。支給総額の伸びの予想を見ると、日本総研では+3.7%、みずほリサーチ&テクノロジーズでは+2.8%、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは+3.8%、とそれぞれ見込んでおり、みずほリサーチ&テクノロジーズの場合はボーナス支給総額の伸びと物価上昇の大小関係がビミョーなのですが、日本総研と三菱UFJリサーチ&コンサルティングの予想は物価上昇を上回りそうに見えます。いずれにせよ、平たくいえば、そこそこボーナスも増えると見られ、消費を下支えする効果を私は期待しています。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから 賞与の支給総額 引用しています。

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2023年11月16日 (木)

赤字を計上した10月の貿易統計と足踏み続く9月の機械受注をどう見るか?

本日、財務省から10月の貿易統計が、また、内閣府から9月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見て、輸出額が前年同月比+1.6%増の9兆1470億円に対して、輸入額は▲12.5%減の9兆8096億円、差引き貿易収支は▲6625億円の赤字を記録しています。機械受注の方は、民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+1.4%増の8529億円となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから手短に引用すると以下の通りです。

10月の貿易赤字6625億円、前年比7割縮小 資源高一服
財務省が16日発表した10月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は6625億円の赤字だった。赤字は2カ月ぶり。赤字幅は前年同月比で70.0%縮小した。資源高が一服して輸入額が減った。
輸入額は9兆8096億円で12.5%減少した。輸出額は9兆1470億円で1.6%増えた。
輸入を見ると、原油が1兆146億円で16.8%減、液化天然ガス(LNG)が4955億円で37.6%減、石炭が4231億円で45.7%減と資源関連が押し下げた。
原油はドル建て価格が1バレルあたり92.7ドルと前年同月から12.6%下がった。円建て価格は1キロリットルあたり8万6808円と10.3%下落している。
地域別では中国からの輸入が2兆3255億円で2.9%減った。電算機類や半導体など電子部品が落ち込んだ。米国は1兆134億円で4.5%減だった。航空機類や液化石油ガスの減少幅が大きかった。
輸出は半導体等製造装置が2858億円で18.2%減少した。船舶や自動車などは増えた。
地域別では中国向けが1兆6512億円で4.0%減少した。半導体など電子部品や鉄鋼が落ち込んだ。米国向けは1兆9286億円で8.4%増えた。ハイブリッド車など自動車の輸出が5536億円と37.9%増加した。
10月の貿易収支は季節調整値で見ると、4620億円の赤字だった。輸入が前月比で0.7%減の9兆2616億円、輸出が1.2%減の8兆7996億円だった。赤字幅は9.9%拡大した。
7-9月の機械受注1.8%減 2四半期連続でマイナス
内閣府が16日発表した7~9月期の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は前期比1.8%減の2兆5385億円だった。マイナスは2四半期連続。製造業、非製造業ともに発注が減少した。
9月単月の民需は前月比1.4%増の8529億円だった。プラスは3カ月ぶり。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値の0.8%増を上回った。
7~9月期の動きを見ると、製造業は前期比2.5%減で3四半期ぶりのマイナスとなった。船舶と電力を除く非製造業は0.8%減で2四半期連続のマイナスだった。非製造業の減少幅は前期の8.8%減から縮んだ。
製造業では電気機械からの受注が12.1%減った。具体品目として大型コンピューターや半導体製造装置などの「電子計算機等」が低調だった。非製造業では金融業・保険業からの受注が9.6%減った。
内閣府は実績を見通しで割った「達成率」を公表しており、7~9月期は94.6%だった。4~6月期の89.8%から上昇した。
9月末時点の10~12月期の受注額見通しは前期比0.5%増だった。船舶と電力を除く非製造業からの受注が4.8%伸びて全体をけん引する。見込み通りであれば、3四半期ぶりのプラスとなる。
9月単月では船舶と電力を除く非製造業が前月比5.7%プラスとなった。リース業や金融業・保険業からの受注が増えた。製造業は1.8%マイナスで、化学工業や汎用・生産用機械からの受注が減った。

やたらと長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲7400億円の貿易赤字が見込まれていたのですが、大きな額ではないとはいえ、実績の▲6625億円の貿易赤字は、ほぼジャストミートしたといえます。何らサプライズはありませんでした。他方、季節調整済みの系列の統計で見て、まだ10月統計でも貿易赤字は継続しているわけで、赤字幅は縮小したとはいえ▲5000億円近い赤字が継続していることも確かです。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額の伸びではなく輸入額の落ち込みが貿易赤字縮小の原因です。ただし、注意すべきは為替水準であり、円安については足元で1ドル150円近辺で推移しています。ですので、最近ではもう取り上げられなくなったJカーブの初期の効果が出ている可能性があります。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
10月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく減少しています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲7.3%減、金額ベースで▲16.8%減となっています。この差は単価の低下です。LNGは原油からの代替が進んだのか、数量ベースでは+6.4%増ながら、金額ベースでは▲37.6%減となっています。価格は国際商品市況で決まる部分が大きく、そこでの価格低下なのですが、少し前までの価格上昇局面でこういったエネルギー価格に応じて省エネが進みましたので、原油からの代替が進んだ可能性のあるLNGは別としても、価格と数量の両面から輸入額が減少していると考えるべきです。ただ、少しタイムラグを置いて、価格低下に見合って逆方向の輸入の増加が先行き生じる可能性は否定できません。ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では▲10.3%減にとどまっている一方で、金額ベースでは▲22.5%減と数量の減少を超えて輸入額が減少しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+22.8%増、金額ベースでは+35.4%増と大きく伸びています。半導体部品などの供給制約の緩和による生産の回復が寄与しています。自動車や輸送機械を別にすれば、一般機械▲6.4%減、電気機器▲3.8%減と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーの輸出額はやや停滞気味です。ただし、こういった我が国の一般機械や電気機械の輸出の停滞はソフトランディングに向かっている米国をはじめとする先進各国に起因するものではなく、むしろ、10月統計を見る限り、中国向け輸出額の減少が寄与しているように見えます。すなわち、例えば、米国向け輸出額は前年同月比で+8.4%と伸びている一方で、中国向けは▲4.0%減を記録しています。国際通貨基金(IMF)の「地域経済見通し アジア太平洋編」 でも指摘しているように、中国の不動産セクターの動向が気にかかるところです。

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機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。引用した記事には「QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は0.8%」とありますが、私が確認したところ、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+0.7%増でした。いずれにせよ、微増ないしほぼ横ばい圏内の予想でしたから、実績の+1.4%増はやや上振れた印象です。もっとも、予想レンジの範囲内ですし、もともとが単月での振れの大きな指標ですので、大きなサプライズはなかったと私は考えています。引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いています。11か月連続の据え置きだそうです。上のグラフで見ても、太線の移動平均で示されているトレンドとして下向きとなっている可能性が読み取れると思います。加えて、4~6月期▲3.2%減の2兆5855億円に続いて、7~9月期も▲1.8%減の2兆5385億円と2四半期連続で減少しています。ただ、受注水準としてはまだ8,000億円をかなり上回っており決して低くはありませんし、足元の10~12月期の受注見通しは+0.5%増の2兆5,506億円と見込まれています。引用した記事にもある通り、達成率を見ると、今年2023年4~6月期に89.8%と一瞬90%を下回りましたが、7~9月期には94.6%に上昇しています。記事にはありませんが、この達成率が90%を下回ると景気後退局面入りのサインと経験的に考えられています。
ただ、インフレ抑制のための金融引締めが進められた欧米先進国の景気減速により製造業への受注が停滞している一方で、インバウンドが本格的に増加し始めコロナ前の水準に近づきつつあることから非製造業では増加、という明暗が分かれています。本日公表された9月統計では、製造業が季節調整済みの前月比▲1.8%減の4082億円であった一方で、船舶・電力を除く非製造業が+5.7%増の4448億円となっていて、10~12月期の受注見通しでも、製造業は前期比▲3.8%減の1兆1836億円、船舶と電力を除く非製造業は+4.8%増の1兆3656億円と見込まれています。もっとも、欧米先進国で景気後退に陥ることなくソフトランディングに成功すれば、輸出が回復して製造業が盛り返すことも十分ありえます。非製造業も、この先、インフレのダメージが現れる可能性がないとはいえません。

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2023年11月15日 (水)

3四半期ぶりのマイナス成長を記録した7-9月期GDP統計速報1次QEをどう見るか?

本日、内閣府から7~9月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は▲0.5%、前期比年率で▲2.1%と3四半期ぶりのマイナス成長を記録しています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+5.1%に達しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

GDP、7-9月年率2.1%減 3四半期ぶりマイナス成長
内閣府が15日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.5%減、年率換算で2.1%減だった。マイナス成長は3四半期ぶり。個人消費と設備投資が弱含み、輸出の伸びも力強さを欠いた。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は年率0.5%減だった。前期比年率で内需がマイナス1.6ポイント、外需がマイナス0.5ポイントの寄与度となった。
内需に関連する項目で落ち込みが目立つ。GDPの過半を占める個人消費は前期比0.0%減と2四半期連続のマイナスだった。自動車販売の減少が押し下げ要因となった。8月に起きたトヨタ自動車のシステム不具合による国内工場の停止などが響いた。
長引く物価高で魚や肉といった食料品も全般的に振るわなかった。外食のほか、9月に新型iPhoneが発売された携帯電話機はプラスだった。
設備投資は前期比0.6%減と2四半期連続のマイナスだった。半導体市場の調整が長引き、半導体製造装置関連の投資が落ち込んだ。工場などの建設投資もマイナスだった。人手不足が響いたとみられる。省人化に向けたソフトウエア投資も減少した。
民間住宅は前期比0.1%減と5四半期ぶりのマイナスだった。足元では資材高の影響で着工が鈍っており、出来高に影響が出始めたとの見方がある。
民間在庫変動の寄与度は0.3ポイントのマイナスだった。車の輸出が堅調だったことから、車を中心に製品在庫が減った。
公共投資は前期比0.5%減と6四半期ぶりのマイナスだった。2022年度の補正予算での押し上げ効果が一服したとみられる。政府最終消費支出は0.3%増で4四半期連続のプラスだった。新型コロナウイルス禍での受診控えが落ち着き、医療費などが膨らんだもようだ。
輸出は自動車がけん引して前期比0.5%増だった。2四半期連続のプラスを維持したものの、4~6月期の前期比3.9%プラスに比べて勢いを欠く。
計算上は輸出に分類されるインバウンド(訪日外国人)の日本国内での消費が前期比5.0%減で下押し要因となった。マイナスは22年4~6月期以来5四半期ぶりで、コロナ禍からの経済社会活動の正常化による回復傾向に一服感が出た。
輸入は前期比1.0%増と3四半期ぶりのプラスだった。海外のアプリの利用やサブスクリプション(定額課金)型サービスに代表される著作権等使用料が前期の反動で伸びた。日本人の海外旅行もプラスだった。
輸入はGDPの計算から控除する項目のため、増加は全体の押し下げ圧力となる。23年4~6月期はマイナス3.8%で全体を大幅に押し上げていた。
名目GDPは前期比0.0%減、年率換算で0.2%減と横ばいだった。
国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比で5.1%上昇し、4四半期連続のプラスだった。伸び率は1981年1~3月期の5.1%プラス以降で最高となる。輸入物価は前年同期比でマイナスとなり、食品や資材などの国内での価格転嫁の広がりを映した。

いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事となっています。次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2022/7-92022/10-122022/1-32023/4-62023/7-9
国内総生産GDP▲0.1▲0.1+0.9+1.1▲0.5
民間消費+0.2+0.2+0.7▲0.9▲0.0
民間住宅+0.1+1.0+0.5+1.8▲0.1
民間設備+1.7▲0.9+1.7▲1.0▲0.6
民間在庫 *(+0.1)(▲0.4)(+0.4)(▲0.1)(▲0.3)
公的需要▲0.0+0.4+0.3+0.1+0.2
内需寄与度 *(+0.5)(▲0.3)(+1.1)(▲0.7)(▲0.4)
外需(純輸出)寄与度 *(▲0.6)(+0.3)(▲0.2)(+1.8)(▲0.1)
輸出+2.2+1.5▲3.5+3.9+0.5
輸入+5.1+0.2▲2.1▲3.8+1.0
国内総所得 (GDI)▲0.9+0.3+1.6+1.8▲0.4
国民総所得 (GNI)▲0.3+0.9+0.3+2.2▲0.5
名目GDP▲0.8+1.3+2.3+2.5▲0.2
雇用者報酬 (実質)+0.1▲0.6▲1.0+0.4▲0.6
GDPデフレータ▲0.3+1.2+2.0+3.5+5.1
国内需要デフレータ+3.2+3.4+2.8+2.4+2.4

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期の最新データでは、前期比成長率がマイナス成長を示し、GDPの需要項目のいろんなコンポーネントが小幅にマイナス寄与しているのが見て取れます。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が▲0.5%でしたから、実績の年率▲2.1%はや下ぶれした印象です。我が国でも他の先進国と同じようにインフレにより消費の伸びが大きく鈍化して、内需は前期比成長率▲0.5%に対する寄与度でわずかながらマイナス寄与を示しています。4~6月期には前期比で▲0.9%の減少を記録し、猛暑の消費拡大効果もあったのでしょうが、引用した記事にもあるように、トヨタの工場停止の影響は消費にも現れた形です。消費も含めて内需寄与度が▲0.4%と内需が弱い印象ながら、実は、そのうちの▲0.3%が在庫のマイナス寄与ですから、在庫調整が進展した、というわけではないとしても、少なくとも在庫が大きく積み上がっている、というわけではないので、それほど悪い姿とも思えません。外需を見ると、輸出入ともに増加していますが、輸入の増加の方が大きく、外需(純輸出)の寄与度は小幅なマイナスを記録しています。いずれにせよ、物価上昇の影響もあって内需の盛り上がりに欠ける内容であることは間違いなく、足元の10~12月期はプラス成長が見込まれている点を考慮しても、急に失速して景気後退局面に入る可能性は低いながら景気としては低調と考えるしかなさそうです。例えば、ニッセイ基礎研究所のリポートでは、足元の10~12月期のリバウンドによる成長率は「年率1%台のプラス成長」と見込んでいますので、本日公表の7~9月期の年率▲2.1%のマイナスを穴埋めするまでに至らない可能性も十分あります。
特に、先行き日本経済を考える場合、物価上昇の影響を受ける消費については、実質雇用者報酬の動向が懸念されます。すなわち、雇用車報酬は一昨年から6四半期連続で前期比マイナスを続けていたところ、ようやく今年2023年4~6月期になって前期比で+0.4%増と、7四半期ぶりにプラスに転じたのですが、本日公表の7~9月期には再び前期比▲0.6%減とマイナスに舞い戻りました。賃上げによる雇用者報酬の増加が着実に進まないと、インフレによるダメージをカバーできずに消費への影響はさらに大きくなる可能性もあります。加えて、外需についても考えると、先進各国経済の減速を背景に輸出が伸び悩む局面に入っていることは確かですから、よりいっそう内需の重要性が高まっていると考えるべきです。いずれにせよ、内需ではインフレに追いつかない賃上げが日本経済の大きな課題と私は受け止めています。

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2023年11月14日 (火)

明日公表の7-9月期GDP統計速報1次QE予想の成長率は小幅にマイナスか?

先月末の鉱工業生産指数や商業販売統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、明日11月15日に7~9月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である7~9月期ではなく、足元の10~12月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。詳細な需要項目別で先行き景気に言及しているのは大和総研とみずほリサーチ&テクノロジーズであり、特に長々とヘッドラインを引用しています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研▲0.1%
(▲0.3%)
10~12月期の実質GDPは、自動車の挽回生産やインバウンド需要の回復に支えられ、プラス成長に復帰する見通し。ただし、原油高が一段と進行した場合、実質賃金の低迷を通じて個人消費が下振れるリスクあり。試算では、原油価格が直近ピーク(1バレル=130ドル)まで上昇した場合、個人消費を年率で▲0.2%ポイント下押し。
大和総研▲0.2%
(▲0.6%)
2023年10-12月期の日本経済はプラス成長に転じる見込みだ。自動車の挽回生産や、経済活動の正常化などを背景にサービス消費やインバウンド需要の回復基調が続き、景気を下支えしよう。
個人消費はインフレ率の低下や賃金上昇による所得環境の改善もあり、緩やかな増加傾向が続くだろう。コロナ禍からのサービス消費の回復余地は依然として大きく、外食や旅行を中心に緩やかに増加すると見込んでいる。財消費のうち、自動車における足元の落ち込みは一時的なものとみており、挽回生産の継続で販売台数は高水準を当面維持するとみられる。
住宅投資は足踏み傾向となるだろう。住宅価格は高止まりしており、持家を中心に軟調な推移が続くとみられる。
設備投資は緩やかな増加傾向が続くだろう。国内における経済活動の正常化が進む中、更新投資や人手不足に対応するための省力化投資などが増加すると見込んでいる。また、デジタル化、グリーン化に関連したソフトウェア投資や研究開発投資は底堅く推移し、設備投資全体を押し上げよう。
公共投資は回復傾向が続くだろう。「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の執行が下支えするとみられる。ただし、人手不足により回復ペースは緩やかなものになりそうだ。政府消費は、医療費が増加する一方、新型コロナウイルスの検査事業やワクチン接種などの感染症対策による押し上げが徐々に剥落することで、しばらくは足踏みが続きそうだ。
輸出は緩やかな増加傾向が続くだろう。挽回生産の継続により主力の自動車輸出が高水準で推移するほか、米国経済の底堅さが幅広い財の輸出を下支えするとみられる。
みずほリサーチ&テクノロジーズ▲0.3%
(▲1.2%)
10~12月期以降も内需はプラス基調継続が見込まれる。個人消費については、実質賃金の前年比マイナス幅が縮小傾向で推移すると見込まれることが好材料だ。夏場までに中小企業を含めた賃上げの給与への反映が進展したほか、最低賃金の引上げや人事院勧告の公務員給与への反映が今年度後半にかけて押し上げ要因になることで、名目賃金は前年比+2%台半ば程度で推移するであろう。一方、円ベースの輸入物価指数は2023年4月以降前年比マイナスで推移しており(9月時点で前年比▲15.6%)、食料品など財物価の上昇率は年度後半にかけて鈍化する見通しだ(例えば、帝国データバンク「「食品主要195社」価格改定動向調査(2023年10月)」によれば、原材料価格上昇の一服に伴い、主要食品メーカーの値上げは10月でピークアウトする可能性が高いことが示唆されている)。実際、足元では一部の小売業でPB(プライベートブランド)の食料品価格を値下げする動きがみられる。政府による物価高対策が10月以降延長される点も物価の押し下げ要因になり、コアCPI前年比は+2%台で鈍化していく見通しだ。
もっとも、人件費の上昇や(主にサービス価格の押し上げ要因となる)、足元の原油価格の上昇・円安の進展等を受けて、消費者物価の鈍化ペースは緩やかになるとみられる。燃料油価格激変緩和補助金や電気・ガス代の価格抑制策が延長されることを織り込んでも、足元の原油高・円安は年末以降の電気・ガス代の押し上げ要因になることが見込まれる。実質賃金の前年比マイナスは2024年度前半までは続く可能性が高く、引き続き物価高が個人消費の重石になることは避けられないだろう。年後半にかけて全国旅行支援が終了すること等を受けて、サービス分野の回復も一巡するとみられることから、個人消費の回復ペースは緩やかなものになる可能性が高いとみている。
なお、コロナ禍で積み上がった家計の現預金(いわゆる超過貯蓄)は、2023年4▲6月時点で47兆円程度残存しているとみられ(日本銀行「資金循環統計」ベース)、コロナ禍前(2019年10▲12月期)の家計の現預金残高対比で4.7%に相当する規模となっているが、個人消費の押し上げ効果は期待出来ないだろう。2019年10▲12月期から2023年4▲6月期にかけて、消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く家計最終消費支出デフレーター)は累積で+7.3%上昇しており、物価高で超過貯蓄は相殺されてしまった計算となるからだ。
設備投資については、非製造業を中心に底堅い推移を予測している。前述のとおり設備投資計画(日銀短観ベース)は省力化・省人化に向けたデジタル投資など持続的な投資需要を受けて高い伸びが見込まれている。欧米を中心とした海外経済減速(詳細は後述)を受けて製造業を中心に計画対比で(例年の修正パターン以上に)下振れるとみられるものの、サービスを中心とした需要の回復・人手不足深刻化を受けて非製造業の設備投資は増加基調が続くだろう(特に、建設、運輸、小売など人手不足感が強い業種を中心に、省力化対応の必要性から投資意欲が高まっている模様だ)。サプライチェーン見直しに伴う国内生産拠点の強化、脱炭素化投資などの構造的な投資需要が下支えし、全体としてみれば、緩やかな増加傾向で推移するとみている。
インバウンドの回復が続くことも経済活動の押し上げに寄与しよう。円安を受けて一人当たり旅行支出額も当面はコロナ禍前を上回る水準で推移する可能性が高い。現時点で、インバウンド需要(非居住者家計の国内での直接購入)の増加は、2023年度のGDP成長率に対し+0.5%Pt程度の押し上げ要因になるとみている。ただし、回復が遅れている訪日中国人客数については、中国の雇用所得環境・消費マインドの悪化に加え、原子力発電所の処理水を巡る問題を受けて下振れるリスクがある点には留意する必要がある。
懸念されるのがサービス業を中心とした人手不足の深刻化である。女性や高齢者の労働参加に増加余地があったアベノミクス期と異なり、現状は女性の「M字カーブ(結婚・出産に伴う退職)」がほぼ解消されるなど労働供給の増加余地が限られ、景気回復に伴う労働需要増をカバーしきれなくなりつつある。人手不足が制約となって稼働率が十分に引き上げられない中では、事業者にとっては「売り」となる商品・サービスの明確化等による客単価の引き上げが今後の収益確保の鍵になるだろう。
ニッセイ基礎研▲0.2%
(▲0.9%)
2023年10-12月期は、海外経済の減速を背景に輸出が伸び悩む一方、民間消費、設備投資などの国内民間需要が底堅く推移することから、現時点では年率1%程度のプラス成長を予想している。
第一生命経済研▲0.1%
(▲0.5%)
先行き、海外経済の減速が見込まれるため、輸出が景気の牽引役になることは期待薄だろう。こうしたなか、内需も伸び悩みが続くということになれば、景気は牽引役不在の状態に置かれることになる。今後も景気の回復傾向は持続するとみているが、回復ペースに関しては緩やかなものにとどまる可能性が高いと予想している。
PwC Intelligence▲0.8%
(▲3.1%)
2023年7-9月期の実質GDP成長率を、前期比-0.8%(年率換算-3.1%)と予想する。見通しについて述べると、内需が前期比寄与度-0.4%、外需が同-0.4%と内外需要がともに低迷した。
伊藤忠総研▲0.3%
(▲1.3%)
2023年10~12月期は、輸出が欧米景気の減速などから伸び悩むものの、個人消費は物価上昇率の鈍化と賃金上昇の加速を受けて拡大を続け、設備投資も旺盛な企業の投資意欲を背景に増加に転じると見込まれる。その結果、実質GDP成長率は前期比でプラスに転じると予想する。
年明け後も、設備投資の拡大が続くほか、来年度の春闘賃上げ率は今年度を上回り、実質賃金は前年比でプラスに転じ伸びを高めていくとみられるため、個人消費の回復傾向も続く。輸出も来春頃には欧米景気の底入れを受けて増勢加速が見込まれるため、景気は回復基調を維持しよう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.1%
(▲0.6%)
2023年7~9月期の実質GDP成長率は、前期比-0.1%(年率換算-0.6%)と4四半期ぶりのマイナス成長が見込まれる。基本的には、景気が緩やかに回復する中でのスピード調整の動きであり、景気腰折れのリスクは小さいものの、内外需ともに弱く、回復力は力強さに欠ける。
三菱総研+0.1%
(+0.4%)
2023年7-9月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.1%(年率+0.4%)と小幅プラス成長を予測する。
明治安田総研▲0.1%
(▲0.6%)
先行きの景気はインバウンド消費が引き続き下支えになると見込む。個人消費については、物価上昇率の鈍化に伴う実質所得の増加が押し上げ要因になると予想する。一方、海外景気の動向は不安材料となる。中国景気は不動産市場の低迷が足枷となり、力強さに欠ける推移となる可能性が高い。米国景気は依然として堅調だが、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を当面の間、高水準ですえ置く可能性が高いことなどから、今後は減速に向かうとみる。
2023年度後半の日本景気は、インバウンドを除く外需が冴えないなかでも、個人消費を中心とする内需が底堅く推移することで、緩やかな回復基調をたどると予想する。

見れば明らかですが、三菱総研を唯一の例外として、軒並みマイナス成長の予測となっています。ただし、マイナス成長に陥って、このまま景気後退に突入し、日本経済が大ピンチかというと、そうでもないようです。理由は3点あります。まず、第1に、外需主導ながら高成長を記録した4~6月期の反動という面があります。第2に、多くのシンクタンクがマイナス成長を予測しているとはいえ、三菱総研がプラス成長の予測をしていることからもうかがえるように、ゼロ近傍のマイナス成長を予想するシンクタンクが多くなっています。第3に、統計の対象となっている7~9月期はマイナス成長としても、足元の10~12月期はプラス成長に回帰し、年度後半も緩やかな回復が続くと見込むシンクタンクが多くなっています。私自身も今年2023年年央くらいまでは、米国が年内に景気後退に入る可能性が高く、日本も年明けには景気転換点を迎える可能性が十分ある、と考えていたのですが、今では少し軌道修正しています。上方修正です。世間のエコノミストはすでに米国を始めとする先進各国のソフトランディングを展望しています。なお、この場合のソフトランディングとは景気の減速で持ちこたえて、景気後退には入らない、という意味です。おそらく、日本経済も、そう急に景気後退局面入りするとは想定されません。ただし、いうまでもなく景気回復局面は後半の部に入っており、地政学的なリスクもウクライナだけでなく中東でも顕在化する可能性が高まっている点は十分に注意しておく必要があります。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。

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2023年11月13日 (月)

国内物価上昇率が+1%を下回った10月の企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、日銀から10月の企業物価指数 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で0.8%上昇しましたが、上昇率は昨年12月をピークに10か月連続で鈍化し、とうとう10月統計では+1%を下回っています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから手短に引用すると以下の通りです。

10月の企業物価0.8%上昇 2年8カ月ぶり1%割れ
日銀が13日発表した10月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は119.1と、前年同月比で0.8%上昇した。9月(2.2%)から1.4ポイント低下し、上昇は大幅に鈍化した。飲食料品など一部では価格転嫁の動きが続くが、政府のガソリン補助金の拡充で石油・石炭製品の上昇率が鈍化した影響が大きかった。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。10月の上昇率は民間予測の中央値(1.1%)を0.3ポイント下回り、10カ月連続で鈍化した。公表している515品目のうち405品目が値上がりした。上昇率が1%を下回ったのは、0.9%下落だった2021年2月以来、2年8カ月ぶり。
品目別にみると、電力・都市ガス・水道は前年同月比20.0%下落した。政府が2月から実施している電気・ガスの価格抑制策の補助は10月に半減したが、下落幅は9月(17.7%下落)より2.3ポイント拡大した。日銀の試算によると、電気・ガスの価格抑制策は企業物価指数を前年同月比で約0.3ポイント押し下げたという。
一方、飲食料品は前年同月比4.9%上昇した。9月(5.7%)より鈍化したが原材料コストを価格に反映する動きがみられた。石油・石炭製品の価格も0.7%上昇した。ガソリン価格の上昇を抑える政府の補助制度の金額が拡充されたことで、上昇幅は9月(3.2%)より2.5ポイント縮小した。
輸入物価は円ベースで前年同月比11.7%下落し、7カ月連続でマイナス圏となった。9月(マイナス13.9%)より下落幅が縮小した。

よく取りまとめられている印象です。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは以下の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は1.1%と見込まれていましたので、実績の+0.8%は大きく下振れし、予想の下限値を記録しています。引用した記事には、「上昇率は10カ月連続で鈍化した」となっていますが、特に輸入物価は4月統計から前年同月比でマイナスに転じ、10月統計では輸入物価▲11.7%の下落となっています。したがって、資源高などに起因する輸入物価の上昇から国内物価への波及がインフレの主役となる局面に入った、と私は考えています。ですので、日米金利差にもとづく円安の是正については、経済政策として取り組む必要はほぼほぼなくなった、と考えるべきです。要するに、金利引上げによる円高誘導はヤメた方がいいと私は考えています。消費者物価への反映も進んでいますし、企業間ではある意味で順調に価格転嫁が進んでいるという見方も成り立ちます。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比で少し詳しく見ると、ウッド・ショックとまでいわれた木材・木製品が反転して▲20.4%の大きな下落を記録しており、電力・都市ガス・水道も▲20.0%と下落幅を拡大しています。前年同月比で上昇している品目でも、農林水産物+3.8%、飲食料品+4.9%の上昇のほか、窯業・土石製品+12.7%、パルプ・紙・同製品+10.9%、金属製品+6.1%、非鉄金属+3.9%、などとなっていて、多くの品目でジワジワと上昇率が低下してきています。もちろん、上昇率が鈍化しても、あるいは、マイナスに転じたとしても、価格水準としては高止まりしているわけですし、しばらくは国内での価格転嫁が進むでしょうから、決して物価による国民生活へのダメージを軽視することはできません。特に、農林水産物の価格上昇が続いていて、その影響から飲食料品についても高い上昇率を続けています。生活に不可欠な品目ですので、政策的な対応は必要かと思いますが、エネルギーのように市場価格に直接的に介入するよりは、消費税率の引下げとか、所得の増加などで市場メカニズムを生かすのが望ましい、と私は考えています。

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2023年11月12日 (日)

TBSチャンネル2で「逃げるは恥だが役に立つ」を一気見してしまう

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今日の日曜日はゆったり過ごし、TBSチャンネル2で「逃げるは恥だが役に立つ」の再放送を一気見しています。どこまで続くのだか?

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エネルギー会社への補助金政策は何が問題なのか?

先週水曜日11月8日にニッセイ基礎研究所から『基礎研REPORT』(冊子版)2023年11月号[vol.320]が明らかにされていて、その中に「補助金政策の問題点 - 高所得者ほど負担軽減額が大きくなる」と題するリポートが収録されています。私も従来から物価高対策としてエネルギー会社、大雑把に石油元売各社と電力各社に補助金を交付するのは、ハッキリ誤りだと考えています。
ニッセイ基礎研究所のリポートが最大限に批判するのは、高所得者ほど負担軽減額が大きくなる点です。この逆進性を別としても、極めてシンプルに、というか、経済学的な合理性とか効率性とか、あるいは、経済を離れても論理性や何やかやを無視して、私の経済政策に関する好みとして理由は3点あります。第1に、企業ではなく国民を対象にする経済政策を目指すべきです。第2に、選別主義ではなく普遍主義に立脚すべきです。第3に、最後に、エネルギー価格を抑制することはエネルギー消費の抑制、ひいては、気候変動の抑制に反します。ニッセイ基礎研究所のリポートの結論は、「低所得者層により手厚い支援が可能な所得制限付きの給付金支給」としていますが、消費税率の引下げがもっとも望ましいと私は考えています。なお、ニッセイ基礎研究所のリポートから逆進性を示すグラフ 所得階級別・負担軽減額(エネルギー関連) を引用すると下の通りです。

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ここ半年ほどの野党左派リベラル政党の経済政策をいくつか見て回ったのですが、先の通常国会終盤に立憲民主党が議員立法として提出した「消費税還付法案」は論外です。消費税をタイトルに打ち出していても、実は単なる所得税の減税と同じです。何よりも、10年も前に「消費税逆進性対策」として東京財団が打ち出した政策提言そのままな気がします。まさかと思いますが、参考にしたりしているのでしょうか。次に、日本共産党の経済再生プランは大きくマシです。でも、アベノミクスに対する脊髄反応的な嫌悪感があるのか、p.11の金融政策に関する低金利政策に対する敵視には辟易します。国民の支持が得られるかは不明です。最後に、れいわ新選組については、2年前の「2021年衆議院選挙マニフェストれいわニューディール」くらいしか、まとまった経済政策パッケージがネット上に見当たらなかったので論評は控えるべきか、という気がします。

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2023年11月11日 (土)

今週の読書は中間層や階級に関する経済書2冊に話題のミステリ、さらに新書4冊で計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、高端正幸・近藤康史・佐藤滋・西岡晋[編]『揺らぐ中間層と福祉国家』(ナカニシヤ出版)では、世界的に格差が拡大し中間層=ミドル・クラスが縮小する中で、福祉国家が向かう方向について財政学や公共経済学あるいは政治学の視点から分析を試みています。ジョエル・コトキン『新しい封建制がやってくる』(東洋経済)は、新自由主義的な経済政策によって格差が拡大し、中世的な身分制社会が再来する可能性を危惧し、そうならないような方向性について論じています。夕木春央『方舟』(講談社)は、大いに話題を集めたミステリであり、クローズド・サークルの犯人探しの後に、とてつもないどんでん返しが待っています。泉房穂『日本が滅びる前に』(集英社新書)は、3期12年の明石市長の経験を元に日本の経済社会の活性化について論じています。倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社現代新書)は、歴史学の観点から紫式部の『源氏物語』とそのバックアップをした藤原道長の関係を解明しようとしています。繁田信一『『源氏物語』のリアル』(PHP新書)は、『源氏物語』の小説の世界の登場人物や出来事のモデルと考えられる実際の平安時代のリアルについて紹介しています。最後に、佐藤洋一郎『和食の文化史』(平凡社新書)では、さまざまな歴史と地域における和食の文化について、おせち料理などの「ハレの日」の食文化だけでなく、日々の庶民の暮らしで受け継がれてきた文化についてスポットを当てています。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊でしたが、6~10月に130冊を読みました。11月に入って、先週5冊、今週ポストする6冊を合わせて185冊となります。今年残り2月足らずですが、どうやら、例年と同じ年間200冊の新刊書を読めそうです。
最後に、今年も「ベスト経済書」のアンケートが経済週刊誌から届きました。たぶん、ノーベル経済学賞を受賞したゴールディン教授の『なぜ男女の賃金に格差があるのか』で今年は決まりだと思うのですが、私は別の本を推したいと思います。

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まず、高端正幸・近藤康史・佐藤滋・西岡晋[編]『揺らぐ中間層と福祉国家』(ナカニシヤ出版)を読みました。編者及び各章の執筆者は、すべて大学の研究者であり、専門分野は財政学や公共経済学ないし政治学が多い印象です。本書では、日本のほか、米国と英国というアングロサクソンの公共政策レジームの両国、ドイツとフランスという大陸保守派の公共政策レジームの国、そして、スウェーデンという北欧ないし社会民主主義レジームの公共政策レジームの国を取り上げて、世界的に格差が拡大し中間層=ミドル・クラスが縮小する中で、福祉国家が向かう方向について財政学や公共経済学あるいは政治学の視点から分析を試みています。国別には、日本に4章が割り当てられていて、ほかの5か国については2章ずつが割り振られています。したがって、計14章からなっています。バックグラウンドとなっているモデルは、ホテリング-ダウンズらの中位投票者定理、そして、Meltzer and Richardによる不平等と再分配に関するMRMモデルとなります。このあたりは、私の専門ないし関心分野に近いのでコンパクトに説明しておくと、要するに、前者は左派と右派の真ん中あたりの中間派がキャスティングボードを握る、というもので、後者は所得が平均を下回れば再分配を支持するという、当たり前のモデルなのですが、これが含意するところは、所得分布が高所得者に偏っている不平等な経済社会ほど再分配を支持する国民が多くなる、というか、支持する国民の比率が高くなる、という点が重要です。その上で、日本において小泉内閣の構造改革以来のステージで福祉縮減改革が人気を集め、特に生活保護に対するバッシングが高まった2012年の分析が秀逸でした。これは、芸能人の親が生活保護を受給している事実を、国会でも報道でも集中豪雨的に取り上げ、一気に生活保護の給付水準の1割削減を実現してしまいました。最近では、「生活保護は国民の権利」という当然の見方が浸透しつつありますが、いまだに生活保護に対する何らかの嫌悪感のような認識が広く残っているのは、多くの国民が感じているところではないでしょうか。そして、財政赤字や国債の累増を背景に、福祉縮減がさらに進められようとしている政策動向が現時点まで継続している点は忘れるべきではありません。また、福祉国家における選別主義と普遍主義については、エスピン・アンデルセンの福祉レジームの自由主義と社会民主主義レジームにかなり近いのですが、その中間に保守主義レジームがあり、大陸欧州、ドイツやフランスが該当します。選別主義的な米国の福祉政策では、給付が低所得層に偏っているため、幅広い国民の支持を得られないとの分析し、あるいは、英国ではニューレイバーでさえ選別的に「救済に値しない」貧困層を想定した政策を打ち出した背景などの分析が勉強になりました。また、大陸欧州のうちのフランスについては、福祉財源が日本のような保険料から1990年代初頭に創設された一般社会税という税財源に移行しつつあり、それが少なくとも当初は累進度が極めて低い比例税であったものが、徐々に税率が引き上げられたことから、公平な負担を求める「黄色いベスト運動」につながったと分析されています。高福祉で知られていた北欧のスウェーデンでも、福祉政策の重点が給付から就労支援の重点を移しつつある点が紹介されています。いずれにせよ、先進各国政府はコロナ禍を経て財政赤字が大きくなっています。いわゆる「野獣を飢えさせろ」starve-the-beastに基づいて福祉政策が縮減されていく可能性に対して、国民はどのような判断を下すのでしょうか?

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次に、ジョエル・コトキン『新しい封建制がやってくる』(東洋経済)を読みました。著者は、米国チャップマン大学都市未来学プレジデンシャル・フェローと本書では紹介されています。私はこれだけでは理解できませんが、本書冒頭の訳者解説によれば、都市研究の専門家とされています。英語の原題は The Coming of Neo-Feudalism であり、2020年の出版です。邦訳書タイトルはほぼ直訳のようなのですが、昨年暮れにタモリの発言になる「新しい戦後」にもインスパイアされているような気がします。私自身もご同様で、本書を手に取るきっかけになりました。本書は7部構成であり、タイトルだけ列挙すると以下の通りで、第Ⅰ部 封建制が帰ってきた、第Ⅱ部 寡頭支配層、第Ⅲ部 有識者、第Ⅳ部 苦境に立つヨーマン、第Ⅴ部 新しい農奴、第Ⅵ部 新しい封建制の地理学、第Ⅶ部 第三身分に告ぐ、となります。各部に3章あり、計21章構成です。s新自由主義的な経済政策によって格差が拡大し、中世的な身分制社会が再来する可能性を危惧し、そうならないような方向性について論じています。その昔の、例えば、フランスなどにおける中世封建制の身分構成は、祈る人、戦う人、働く人の3分割であり、第1身分が聖職者、まあ、カトリックの神父さんで、第2身分が貴族、第3身分がそのたの平民のサン・キュロット、ということになります。スタンダールの小説になぞらえれば、第1身分が黒で、第2身分が赤、そして、第3身分から第1身分や第2身分に移行するのは極めて困難、ということになります。本書でも同じ3つの身分を以下のように分析しています。第1身分は現代の聖職者であり、コンサルタント、弁護士、官僚、医師、大学教員、ジャーナリスト、アーティストなど、物的生産以外の仕事に従事し、高度な知識を有し支配体制に正当性を与える有識者の役割を担います。さらに重要なのは、市場のリスクにはさらされていません。そして、第2身分は新しい貴族階級であり、GAFAなどの巨大テック企業などの超富裕層であり、本書ではテック・オリガルヒと呼んでいたりします。第3身分はそのたです。中小企業の経営者、熟練労働者、民間の専門技術者などなのですが、本書ではヨーマンと呼ばれています。この身分は2つの集団から成っていて、土地持ちの中産階級で、その昔のイングランドのヨーマンと同じような独立精神を持ていますが、現在のヨーマンはテック・オリガルヒの下で苦しめられています。もうひとつの集団は労働者階級です。21世紀のデジタル農奴とか、新しい奴隷階級をなしていて、例えば、AIの命ずるままに低スキル労働を受け持ったりします。そして、中世封建制と同じように第3身分から第2身分や第2身分に上昇することは極めて困難です。第1身分は新しい宗教を生み出していて、ソーシャル・ジャスティス教は、まあ、ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)を思い出させますし、グリーン教に基づいて、第2身分の富豪は温室効果ガスをまき散らしながらプライベートジェットでダボス会議に参加し、環境保護を訴えたりします。私が経済的に興味を引かれたのは、第2身分が第3身分を監視している、という下りです。昨年の日本でも経済書のベストセラーにズボフ教授の『監視資本主義』が入りましたし、そういった監視がジョージ・オーウェルの『1984』との連想で語られていると理解する人が多いのではないか、と私は危惧していますが、ハッキリと違います。ここでテック・オリガルヒが監視しているのは独裁政権が反対勢力を監視しているのではなく、データ駆動経済としてデータを収集しているのです。私の知る限りで、監視資本主義と収益のためのデータ収集を明確に結びつけたエコノミストは少ないと感じています。

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次に、夕木春央『方舟』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ作家です。話題のミステリです。出版社が開設したサイトで、ミステリ作家の大御所である有栖川有栖などによるネタバレ解説があります。私ごときの読書感想文を読むよりは、ソチラの方が参考になるかもしれません。ただし、読了者を対象にしているようで、真犯人の名前と真犯人のセリフの最後の4文字をユーザメイトパスワードに設定する必要があります。ということで、作品は一言でいえばクローズド・サークルにおける殺人事件の犯人探し、のように見えるように書かれています。「のように見えるように書かれています」というのは、最後の最後にとんでもないどんでん返しがあるのですが、ミステリですので、これ以上はカンベン下さい。登場人物とあらすじは、主人公の越野柊一はシステムエンジニアでワトソン役です。周辺地理に詳しい従兄弟の篠田翔太郎とともに、大学時代のサークル仲間と遊びに来て、地下建築に閉じ込められます。この篠田翔太郎がホームズ役で謎解きに当たります。大学のサークル仲間は5人で、名前だけ羅列すると、西村裕哉、絲山隆平と絲山麻衣の夫婦、野内さやか、高津花、となります。なお、篠田翔太郎と大学のサークル仲間のほかに、途中から両親に高校生の倅という矢崎家3人が加わり、計10人です。この10人が地震があって地下建築に閉じ込められます。さらに困ったことに、地下水の浸水があって、脱出できなければ1週間ほどで水没、すなわち全員溺死するおそれがあります。そのクローズド・サークルの中で、連続殺人事件が起こるわけです。そして、ホームズ役の篠田翔太郎が実に論理的に犯人を割り出します。ただし、論理的であるがゆえに犯人の動機については確定しません。そして、最後に大きなどんでん返しが待っているわけです。評価については、高く評価する向きと物足りないと考える向きに二分されているような印象を私はもっています。私自身は基本的に高く評価します。私自身はミステリの謎解きというよりはサスペンスフルな展開を評価します。そして、何といっても、最後の最後に大きなサプライズが待っているのが一番です。本書が評価されるの最大の要因のひとつといえます。ただし、物足りないという見方にも一理ある可能性は指摘しておきたいと思います。というのは、本書の図書館の予約待ちの間に、この作者の第1作『絞首商會』と第2作『サーカスからの執達吏』を借りて読んで判った欠点が含まれているからです。すなわち、第1作の欠点のひとつはキャラがはっきりしない点です。第2作の欠点は謎解きや謎解きに至るプロセスが余りにシンプルな点です。ただ、こういった部分的な欠点を考慮しても、よくできたミステリ・サスペンス小説だと思います。

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次に、泉房穂『日本が滅びる前に』(集英社新書)を読みました。著者は、3期12年に渡って兵庫県明石市の市長を務め、大きな注目を集めて、最近引退したばかりです。その前は民主党の国会議員に選ばれていたと記憶しています。冒頭の第1章がシルバー民主主義から子育て民主主義へ、と題されていて、それだけで好感を持ち読み始めました。ただ、安心して子育てができる環境を最初から目指しているのはいいとしても、子育ての前に子作りがあり、さらにその前に、婚外子が極端に少ない日本では結婚がある点が見逃されているような気もしました。もちろん、地方公共団体の首長の場合、住民とともに妙に企業誘致に力を入れるケースが少なくないことから、特に建設会社などに向けた企業目線をより少なくして住民目線を重視するのは好感が持てます。現在の岸田内閣が国民の支持をまったく失ってしまって、メディアで調べている内閣支持率は最低ラインにあることは広く報じられている通りであり、その大きな原因は国民目線を無視して企業目線で政治や行政を進めている点であると私は考えています。典型的には物価対策であり、エネルギー価格を抑制するために大企業である石油元売り各社や電力会社に補助金を出しまくっていますが、消費税率を変更すればより効率的に解決できると私は考えています。ただ、本書で主張している明石市の子育て支援については、私は少し疑問を持ちます。繰り返しになりますが、子育ての前の子作り、そして結婚を軽視するわけにはいきません。そして、もうひとつ、明石市でできることは他の自治体でもできる、まではいいのですが、「国でもできる」かどうかは判りません。エコノミストの目から見ると、現在の少子化は婚外子の極端に少ない日本の現状から考えて、結婚しない/できない男女が多いからで、結婚しない/できない最大の要因は低所得にあります。詳細は、10月29日付けの President Online の記事「『年収300万円の男性の63%が子どもを持たずに生涯を終える』交際への興味、性経験がない人の衝撃データ」にある通りで、巷間いわれている「恋愛離れ」は低所得が原因です。記事によれば、「交際相手がなく異性との交際に興味がないと答えた男性の内訳を見ると、年収300万未満で75%を占めており、年収800万円以上は0.1%しかいない。」ということです。まず、所得を上げて結婚を促す、という政策が必要で、地方公共団体でも進めつつ、政府レベルの取組みが必要なハズなのですが、今の内閣は企業に補助金を配ることに集中しているように見えます。パソナや電通がいい例です。加えて、明石市の子育て支援政策は他の自治体の結婚促進政策にフリーライドしている可能性があります。すなわち、結婚⇒子作り⇒子育て、との3段階を進むに当たって、近隣の市町村が結婚に向けたマッチングを進めても、通常、結婚する際には引越をするものですから、『他市町村で結婚マッチングをしたあげくに明石市に新婚さんが住み始める、ということになれば、成果が上がりません。本書で特筆大書している明石市の「所得制限なしの5つの無料化」はすべて子供を作ってからの政策的支援です。その前の結婚、そして結婚をする/できるようになる所得の拡大が必要です。その意味で、少しがっかりしました。

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次に、倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社現代新書)を読みました。ご案内の通り、来年のNHK大河ドラマは「光る君へ」であり、紫式部が主人公、藤原道長はそのソウルメイト、とされていますので、読書意欲が湧いて読んでみました。著者は、国際日本文化研究センターの研究者であり、専門は日本古代史です。「光る君へ」では時代考証を担当したようです。著者が文学者ではなく歴史学者ですので、本書はノッケから1次史料で確認できる確実な歴史、歴史学で通用する歴史から成っている、と宣言されています。その意味で、『枕草子』を書いたといわれる清少納言はまったく1次史料に出てこないので、その実在は確認できない、などという書出しから始まっていたりします。私なんかの感触では、花山天皇の出家入道、というか、騙されて出家した事件なんかは重要そうに漏れ聞いていたのですが、本書では扱いが小さく、まあ、歴史学からすればそうなのだろう、などと感じていたりしました。また、歴史学の観点からは、一条天皇の生母である藤原詮子、すなわち、藤原道長の姉が、ここまで藤原道長の権力獲得に重要な役回りをしたのは不勉強にして知りませんでした。そういった歴史学の方面はともかく、当時の朝廷政治と貴族の家族制度、もちろん、紫式部の父である藤原為時の家族などをかいつまんで開設した後、藤原道長による権力の掌握、そして、その藤原道長の繰り出す作に必要不可欠な要素だった『源氏物語』などについて、極めて詳細に解説が加えられています。よく知られたように、清少納言が仕える中宮定子は藤原道隆の子、藤原伊周の妹であり、彼女に対抗して、藤原道長は彰子を一条天皇に嫁がせます。そして、一条天皇の彰子へのお渡りの一助として紫式部が『源氏物語』を書くわけです。まあ、一条天皇は『源氏物語』読みた差に彰子の元に通う、という要素もあったわけなのでしょう。ですから、紫式部は彰子のお世話もしたのかもしれませんが、小説執筆のために宮中に入るわけです。料紙や墨、筆、硯といったは小説執筆に不可欠な文具は最高品質のものが与えられ、おそらく、静かな個室で小説執筆に適した環境も整えられていたことと想像します。そして、表紙画像に特筆大書されているように、藤原道長と紫式部は持ちつ持たれつの関係であり、紫式部の『源氏物語』がなければ藤原道長の栄耀栄華はなかったでしょうし、藤原道長の政権によるバックアップがなければ世界最高峰の小説としての『源氏物語』もなかったであろうと結論しています。最後の最後に、やっぱり、『権記』や『小右記』は歴史資料として重要なのだということを実感しました。

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次に、繁田信一『『源氏物語』のリアル』(PHP新書)を読みました。ご案内の通り、来年のNHK大河ドラマは「光る君へ」であり、紫式部が主人公、『源氏物語』も当然にクローズアップされますので、読書意欲が湧いて読んでみました。著者は、神奈川大学の研究者であり、明記してありませんが、専門は文学ではなく歴史学ではなかろうかと思います。しかし、本書では、歴史学の立場からの『源氏物語』の解説とはいえ、たぶんに俗っぽい、といっては失礼かもしれませんが、光源氏、頭中将、六条御息所、弘徽殿女御など、『源氏物語』における主役、準主役から脇役、敵役まで、小説のモデルに措定される可能性のある人物、あるいは、物語にある事件を紹介しつつ、宮廷や貴族たちのリアルな政治や日常を解説してくれています。まず、本書で確認している点は、『源氏物語』が日本国内、というか、都でものすごい人気を博した流行小説であったと同時に、おそらく、世界でも一級の文学作品だという歴史的事実です。誰から利いたのか、何を見たのかは、私も忘れましたが、11世紀初頭にノーベル文学賞がもしあれば、『源氏物語』が文句なく受賞したであろう、ということは従来から聞き及んでいます。逆に、本書冒頭でも指摘されているように、本朝では流行小説であったがゆえに、『源氏物語』に没頭していたりすれば、決して評判はよくなかったであろう、ともいわれています。でも、紫式部が仕えた彰子のとついた一条天皇は『源氏物語』を高く評価する読者であったのも事実です。本書では、なかなか現代日本では理解しがたい存在の貴族について開設していて、よく男性の中でいわれる「どうして女性たちは、ああまで光源氏を受け入れたのか」という素朴な疑問に答えています。すなわち、天皇の皇子を拒むことなど当時の女性にはできなかった、というのが正解のようです。光源氏が見目麗しく立ち居振る舞いも立派だったのであろうことは容易に想像できますが、それだけではなく、身分をかさにきて女性を口説いていたわけです。まあ、 光源氏に限らず高貴な男性はみなそうだったのだろうと思います。時代は違って、徳川期に盗賊が岡っ引きや同心に囲まれて「御用だ、御用だ」と現行犯逮捕されるシーンなんかも、当時であれば、盗賊が抵抗するなんて考えも及ばず、お上に素直に逮捕されていたハズ、というのも聞いたことがあります、でも情報は不確かです。念のため。話を戻して、六条の御息所や弘徽殿女御などといった強烈なキャラも理解が及ばないところながら、まあ、現在日本でも強烈なキャラの女性は決していないわけではありません。私が本書で面白く読んだのは、そういったリアルなキャラや実際の事件だけでなく、『源氏物語』が言及しない不都合な出来事です。そういったエピソードは巻末にまとめて置いてあり、火災に遭わない、強盗に襲われない、疫病に脅かされない、陰陽師を喚ばない、などが上げられています。

ついでながら、やや見にくいですが、NHKのサイトにある「光る君へ」のキャストの相関図は以下の通りです。

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最後に、佐藤洋一郎『和食の文化史』(平凡社新書)を読みました。著者は、農学博士ということで、食について農学の面から研究しているのではないかと想像します。1年ほど前に同じ著者の『京都の食文化』(中公新書)を私は読んでいます。本書はタイトル通りに、和食について、特におせち料理や何やの「ハレの日」の和食ばかりではなく、「ケの日」の日々の暮らしの中で供される和食にもスポットを当てて、いろんな時代やさまざまな地域に成立した和食について、その文化としての歴史をひも解こうと試みています。まず、第2章では和の食材に注目し、伝統的な植物性の食材を紹介しつつ、明治以前にも動物性の食材が十分豊かであったと主張しています。また、和食独特の発酵食品や出汁についても紹介を忘れていません。第3章では和食文化の東西比較も試みていて、食材の中の動物性食材、すなわち、肉はといえば伝統的に関西では牛肉、関東では豚肉、といった常識的な見方に加えて、おせち料理では京風の丸餅+白味噌に対して、東京では角餅+すまし、などを比較しています。器の配置についても、汁物を左右どちらに置くかで東西の違いを論じたりしています。第4章では都会と田舎の食文化を対比し、都会の排せつ物を肥料として田舎の農村に売り、農村で収穫された野菜や果物を都会が買う、という究極の循環経済の成立について言及しています。いつの時代も都会と田舎は持ちつ持たれつであり、共存共栄の関係にあったといえます。第5章では江戸と髪型を対比し、徳川期の江戸は侍の街で、参勤交代に随行して江戸に来た単身赴任の侍などのため、男性比率が極めて高く、江戸の外食は今のファストフードと同じ役割を果たしていた、と主張しています。そうなのかもしれません。それに対する当時の大坂で始まった粉モンも、やはり、ファストフードの要素があったということを紹介しています。残りは軽く流して、第6章では太平洋と日本海を対比し、第7章では海と里と山を対比し、第8章では武家・貴族・町人の和食を論じ、第9章でははしっこの和食として、今ではもうそれほど残っていないクジラやイルカの食についても取り上げています。決して食に限るわけではなく、衣類は住まいやといった他の面も含めて、日本位は日本独特のそれぞれの衣類の文化、住まいの文化があります。自然条件や国民性に従って、あるいは、時代の流れとともに独特の分化が興っては変化していくわけです。それらをすべて残すわけにはいきませんが、逆に、グローバルスタンダードに合わせるだけではなく、それぞれのいい面を取り入れて生活を豊かにし、文化を育む強さやしたたかさを日本人は持ち合わせているのではないでしょうか。

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今日は我が家の結婚記念日

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今日は、我が家の結婚記念日です。
少し前に銀婚式の25年でしたが、今年は28年となります。私の知り合いに結婚記念日に関して失言をした人がいて、「今日は君の結婚記念日だろう」と奥さまにいったそうです。いえ、夫婦2人の結婚記念日である点は忘れないようにしたいと思います。忘れないように、早朝からブログをポストしておきます。

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2023年11月10日 (金)

国際機関の最近のニュース画像から

まず、11月2日に世界銀行 World Bank から、商品市況 Commodity Markets に関するニュースを公表しています。Twitter で "While commodity prices are set to fall gradually in 2024 and stabilize in 2025, conflict-driven oil supply disruptions create a significant upside risk for price forecasts." との見通しを明らかにしています。Twitter にある Commodity prices will continue to fall from their 2021 peak と題するアニメーション gif ファイルは以下の通りです。

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また、11月6日には経済協力開発機構(OECD)から OECD Skills Outlook 2023 が明らかにされています。リポート自体は300ページ近いのですが、お手軽に手抜きで KEY DATA の Infographic をOECDのサイトから引用すると以下の通りです。

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6つのグラフから構成されていますが、上のグラフ2枚は教育の重要性を強調しようとしているようなのですが、なぜか、気候変動の認識や環境サステイナビリティへの関連で分析されています。次の2枚には人工知能(AI)が大学教育を受けている場合は有用と見なされ、そうでない場合は有害と見なされている、との結果を示しています。最後の2枚は国別データとして日本も現れています。どうも、世界的に女子は男子よりも失敗に対するおそれ fear of failure が強いのですが、日本では男女とも先進国平均を上回っているようですし、読解力に関する自信過剰が問題となっている中で、日本はそれほど大きな自信過剰を持っているわけではないようです。

先週末は3連休でもあり日本シリーズで盛り上がりましたが、今週末はゆったりと過ごしたいと予定しています。

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2023年11月 9日 (木)

現状判断DIが3か月連続で低下した10月の景気ウォッチャーと黒字基調が戻った9月の経常収支

本日、内閣府から10月の景気ウォッチャーが、また、財務省から9月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲0.4ポイント低下の49.5となった一方で、先行き判断DIも▲1.1ポイント低下の48.4を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+2兆7236億円の黒字を計上しています。まず、ロイターのサイトから景気ウォッチャーの記事を、日経新聞のサイトから経常収支の記事を、それぞれ引用すると以下の通りです。

街角景気10月は0.4ポイント低下、好悪材料が交錯 判断は維持
内閣府が9日発表した10月の景気ウオッチャー調査では、現状判断DIが49.5と前月から0.4ポイント低下した。DIの低下は3カ月連続。人流回復がプラス材料、物価上昇がマイナス材料という構図に大きな変化がなかったことから、景気判断は「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる」とし、前回の表現を維持した。
構成項目の3部門では、家計動向関連DIが49.5と前月から横ばい。調査先からはインバウンドや秋の行楽シーズンなど観光需要の拡大を歓迎する声があった一方、客の生活防衛意識や節約志向に対する指摘があった。
企業動向関連DIは1.5ポイント低下の49.0。調査先からは、原料価格の高騰や資材価格・物流費の値上がりなどが利益を圧迫しているとのコメントがあった。雇用関連DIは1.1ポイント低下の50.4だった。
先行き判断DIは前月から1.1ポイント低下し48.4となった。3カ月連続低下。内閣府は先行きについて「価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」とした。年末年始や忘年会シーズンに期待する声が出始めているという。
経常黒字3倍の12.7兆円 4-9月、年度半期ベースで最大
財務省が9日発表した2023年度上期(4~9月)の国際収支統計の速報値によると、貿易や投資などの海外との取引状況を表す経常収支は12兆7064億円の黒字だった。前年同期から3倍に増え、年度の半期ベースで過去最大となった。
資源高の一服でエネルギー関連の輸入額が減少した。貿易収支の改善が経常黒字を押し上げた。インバウンド(訪日外国人)が増えたことに伴って旅行収支の黒字額が拡大し、サービス収支の赤字幅は縮小した。
経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、外国との投資のやり取りを示す第1次所得収支、旅行収支を含むサービス収支などで構成する。
輸入額は13.2%減の51兆266億円だった。原粗油や液化天然ガス(LNG)、石炭の輸入が減った。輸出額は微増の49兆6214億円だった。半導体不足の緩和で自動車の輸出が好調だった。貿易収支の赤字額は1兆4052億円で、赤字幅は84.7%縮小した。
為替相場は23年度上期は平均で1ドル=140円99銭と、22年度上期の134円01銭に比べて円安になった。原油価格は1バレルあたり83.52ドルで、前年同期より25.3%安くなっている。円ベースでは1キロリットルあたり7万3332円と21.2%下がった。
海外からの利子や配当の収入を示す第1次所得収支は3.9%増の18兆3768億円だった。証券投資収支の黒字が6兆1052億円と30.4%増えた。金利上昇や円安の影響を受けた。
サービス収支は2兆3347億円の赤字で赤字幅は29%縮小した。インバウンドの増加で旅行収支の黒字額は1兆6497億円と15倍ほどになった。23年4~9月の訪日客数は1258万人で、新型コロナウイルス禍前の19年同期の8割弱の水準に戻っている。
9月単月の経常収支は前年同月比で3倍超の2兆7236円の黒字だった。貿易収支は3412億円で黒字に転換した。原粗油やLNGの輸入額が減った。第1次所得収支は3兆764億円の黒字、サービス収支は2878億円の赤字だった。

とても長くなりましたが、よく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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現状判断DIは、今年2023年に入ってから、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のための行動制限が徐々にフェイドアウトするとともに、ウクライナ戦争に伴う資源高もほぼ昨年2022年10~12月期にピークを過ぎたことから、高い水準を続けていて、2月以降は50を超えていました。しかし、先月9月統計で50を割って49.9となった後、本日公表の10月統計でもさらに低下し49.5を記録しています。もっとも、長期的に平均すれば50を上回ることが少ない指標ですので、7月統計をピークに3か月連続の低下とはいえ、50近い水準は決して低くない点には注意が必要です。前月から▲1.5ポイント低下した企業動向関連も水準は49.0ですし、▲1.1ポイント低下した雇用関連ではまだ50.4と50を上回っていたりします。こういった点も考慮されているのか、いないのか、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。」で据え置いています。ただ、家計動向関連を少し詳しく見ると、COVID-19に起因していた行動制限の緩和やインバウンドの恩恵を受ける飲食関連が前月から+4.3ポイント上昇した一方で、小売関連が▲0.4ポイント低下しているなど、明らかに物価上昇の影響であると考えるべきです。ただし、このインフレはそれほど長続きしないと私は見込んでいます。また、内閣府のリポートの中の近畿の景気判断理由の概要の中から悪化の判断の理由を見ると、家計動向関連では「野菜価格の高騰や食料品の値上げにより、買い控えの動きが散見される(スーパー)。」とか、企業動向関連では「依然として価格の安い商品は売れているが、製品の値上げによる影響もあり、生産全体は徐々に減ってきている。この傾向はしばらく続くと予想される(食料品製造業)。」とかに私は目が止まってしまいました。もちろん、逆に、改善判断についても、「外国人バイヤーの動きは少し落ち着いたが、観光客による買物が増えている(百貨店)。」といった意見も見られます。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは経常黒字+3兆億円余りでしたので、実績の+2兆7236億円はやや下振れした印象です。2011年3月の東日本大震災と福島第一原発の影響を脱したと考えられる2015年以降で経常赤字を記録したのは、季節調整済みの系列で見て、昨年2022年10月統計▲3419億円だけです。もちろん、ウクライナ戦争後の資源価格の上昇が大きな要因です。ですから、経常黒字の水準はウクライナ戦争の前の状態に戻っていますし、たとえ赤字であっても経常収支についてもなんら悲観する必要はなく、資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。ただ、逆に、今年2023年4~6月期には経常黒字の名目GDP比が+4%を超える水準にまで達しています。日本の経済的なプレゼンスが大きかった時代であれば、経常収支の黒字減らしが国際的に必要であったかもしれません。でも、国際通貨基金(IMF)の経済見通しで今年2023年統計ではGDP規模でドイツに抜かれて世界第4位となる現在の日本の国際的なポジションからして、この程度の経常黒字は何ら注目を受けないようです。

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2023年11月 8日 (水)

景気動向指数の先行きはラグありつつも金利上昇がマイナス要因か?

本日、内閣府から9月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から▲0.5ポイント下降の108.7を示した一方で、CI一致指数は+0.1ポイント上昇の114.7を記録しています。CI一致指数の上昇は2か月連続となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

景気動向一致指数9月は前月比0.1ポイント上昇、輸出数量増
内閣府が8日公表した9月の景気動向指数速報(2020年=100)は、指標となる一致指数が前月比0.1ポイント上昇の114.7と2カ月連続の上昇だった。
一方先行指数は前月比0.5ポイント低下の108.7となり2カ月ぶりマイナスだった。これらから一定のルールで機械的に決まる基調判断は「改善を示している」との4月以来の表現を据え置いた。
一致指数を押し上げたのは主に輸出数量指数。アジア向け中心に輸出数量が伸びた。有効求人倍率と鉱工業生産指数も押し上げに寄与した。
これに対して投資財出荷指数や小売販売額、耐久消費財出荷指数などは指数を押し下げた。投資財出荷指数は、建設用クレーンや産業用ロボットなどの出荷減が響いた。
先行指数を押し下げたのは新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、最終需要財在庫率指数、新設住宅着工床面積など。

とてもシンプルに取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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9月統計のCI一致指数については、2か月連続の上昇となりました。7月統計で大きく下降したため、3か月後方移動平均の前月差ではまだ▲0.30ポイントと3か月連続のマイナスを記録しています。他方、7か月後方移動平均では5月統計から5か月連続の前月差プラスとなっています。統計作成官庁である内閣府が基調判断を「改善」で据え置いています。もっとも、CI一致指数やCI先行指数を見る限り、このブログで何度も繰り返しますが、我が国の景気回復・拡大は局面の後半に入っていると考えるべきです。ただし、すでに景気後退局面に入っているわけではなさそうで、さらに、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう急には景気後退入はしない可能性が高い、と私は考えています。CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、プラスの寄与では、輸出数量指数が+0.60ポイントと圧倒的で、有効求人倍率(除学卒)+0.06ポイント、生産指数(鉱工業)+0.04ポイントとなっています。逆に、マイナス寄与が大きい系列は、投資財出荷指数(除輸送機械)▲0.25ポイント、商業販売額(小売業)(前年同月比)▲0.16ポイント、耐久消費財出荷指数と商業販売額(卸売業)(前年同月比)がともに▲0.09ポイントなどとなっています。なお、一致指数に組み入れられている有効求人倍率は小幅にプラス寄与していますが、選考指数に入っている新規求人数は大きなマイナス寄与となっています。
景気の先行きについては、国内のインフレや円安の景気への影響などはともかく、日銀の異次元緩和政策の修正に伴う金利上昇に関してはある程度はマイナス要因と考えるべきです。もっとも、ラグが長いので注意が必要です。政府の総合経済対策は毒にも薬にもならないような気がします。他方、海外要因については、インバウンドを別にして、もしも米国をはじめとする先進諸国がソフトランディングに成功して景気後退を免れるとすれば、大きなマイナス要因にはならないだろう、と少し考えを変更しています。

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2023年11月 7日 (火)

金利上昇で消費はどういった影響を受けるか?

今年2023年7月末に「展望リポート」が明らかにされた金融政策決定会合において、金融政策は大規模な異次元緩和から引締めに方向転換されたと私は受け止めています。すなわち、7月28日に「当面の金融政策運営について」が公表され、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)では「長期金利の変動幅は『±0.5%程度』を目途とし、長短金利操作について、より柔軟に運用する。10年物国債金利について1.0%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。」と決定され、この「イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用の柔軟化」により、「10年もの国債のイールドは実際には+1%に張り付くことになります。」と私は7月28日付けのブログに書いています。
そして、実際に8月に入って日本円OISレートなどがジワジワと上昇し始めており、特に、住宅ローンの変動金利上昇により消費減少効果が20年前の2.4倍、2%の金利上昇で消費を▲0.5%下押しすると日本総研のリポート「住宅ローンの変動金利上昇、消費減少効果は20年前の2.4倍」で試算されています。以下のグラフの通りです。

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こういった金利変動が住宅ローンを通じて消費に大きな影響を及ぼす背景には、変動金利型住宅ローンの普及があります。特に、変動金利型住宅ローン残高は130兆円と20年前の2.6倍に増加して降り、その影響が大きくなっている点をリポートでは指摘しています。現在の日銀は黒田総裁の時代から大きく様変わりして旧来の姿勢に戻っていて、異次元緩和への反動として無批判的に金融引締めを志向しているように私には見えていて、さらに、物価上昇への対抗措置としての円高誘導を支持するメディアの姿勢も相まって、金利引上げに前のめりになっている姿が浮き彫りになっています。しかし、従来から指摘しているように、経済は部分均衡で考えるのではなく、すべての経済要因が同時に決まる一般均衡的な思考が必要とされます。金利が引き上げられれば、リポートで分析されているように家計の消費がマイナスの影響を受けますし、当然ながら、企業の設備投資はもっと金利に敏感に反応して減少する可能性が高いと考えるべきです。その意味で、金利が引き上げられると何が起こるのか、物価対策だけでなくマクロ経済や景気にどういった影響が生じるのか、しっかりと考えておく必要があります。

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2023年11月 6日 (月)

岸田内閣の減税案で物価対策は十分か?

「デフレ完全脱却のための総合経済対策」が11月2日に閣議決定されています。総合経済対策の柱と財政支出を内閣府のサイトにある「『デフレ完全脱却のための総合経済対策』の経済効果」から引用すると以下の通りです。

Ⅰ. 物価高から国民生活を守る
6.3兆円程度
Ⅱ. 地方・中堅・中小企業を含めた持続的賃上げ、所得向上と
地方の成長を実現する
3.0兆円程度
Ⅲ. 成長力の強化・高度化に資する国内投資を促進する
 
4.7兆円程度
Ⅳ. 人口減少を乗り越え、変化を力にする社会変革を
起動・推進する
1.6兆円程度
Ⅴ. 国土強靱化、防災・減災など国民の安全・安心を確保する
 
6.1兆円程度

そして、同じ内閣府のサイトから、総合経済対策による経済押上げ効果を画像で引用すると以下の通りです。

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しかし、先週、第一生命経済研究所から2本のリポートが明らかにされ、この総合経済対策について検証しています。まず、「所得減税と消費減税の効果の違い」では、今回の総合経済対策に盛り込まれているような給付金や所得減税であれば、それらの一部は貯蓄に回ることから、一般的に、所得減税よりも消費減税の乗数の方が高く、実証的には、内閣府の短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版)の乗数をもとに、消費減税の経済効果となる乗数は1年目では所得減税の2倍以上になる、と指摘しています。以下のグラフはリポートから引用しています。

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加えて、別の第一生命経済研究所のリポート「所得税減税にある歪み」では、1人当たり4万円の所得税減税の恩恵に偏りがあり、2人以上世帯であれば物価上昇分をカバーできる一方で、単身世帯では3%の物価の負担増を4万円の減税ではカバーできない、と指摘しています。特に、年収169万円以上の単身世帯では3%に及ぶ物価上昇の負担増をカバーできず、これは単身世帯のうち94.3%に上る、との試算結果が示されています。試算結果を示した下のテーブルは、リポートから引用しています。

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2本目のリポートはそれほどでもないのですが、1本目の「所得減税と消費減税の効果の違い」は重要な論点を含んでいます。私は、2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの初期から消費税率引下げを選択肢として考えるべきと主張してきました。加えて、2022年のウクライナ戦争からインフレ高進が始まり、景気の下支えと物価対策の両面から消費税率の引下げが大きな効果を発揮すると考えています。政府の政策選択肢に入っていないのは私には理解が及びません。

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2023年11月 5日 (日)

阪神タイガース日本一おめでとう

  RHE
阪  神000330001 7120
オリックス000000001 081

中盤に猛虎打線が爆発し、日本シリーズ最終第7戦で昨年の覇者オリックスに快勝し、38年ぶりの日本一です。誠におめでとうございます。
4回にノイジー選手のスリーランで先制し、5回にも3点を追加し、最後は桐敷投手、岩崎投手で締めくくりました。シリーズMVPは近本外野手、これもおめでとうございます。

来季も連覇目指して、
がんばれタイガース!

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今年2023年の「ユーキャン新語・流行語大賞」のノミネートやいかに?

先週11月2日に、今年も「ユーキャン新語・流行語大賞」のノミネート語が明らかにされています。

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はい。私も大学生という20歳前後の若い世代を相手にする職業なのですが、知っているのは半分もありません。どこかのサイトに解説があると思いますので、お探し下さい。

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2023年11月 4日 (土)

ここ一番で山本由伸投手に抑え込まれて3勝3敗

  RHE
阪  神010000000 190
オリックス02002001x 580

チャンスはありながら山本由伸投手に抑え込まれて、3勝3敗のタイになりました。
2回にノイジー選手のホームランで先制し、なおもチャンスが続きましたが得点できず、4回や7回も連打がありながら後続を断たれました。先発村上頌樹投手は先制後の2回ウラにいきなり逆転され、5回にも紅林選手のツーランに沈みました。

明日の決戦は、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済学の学術書をはじめとして計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、小川英治[編]『ポストコロナの世界経済』(東京大学出版会)は、コロナ対策として取られた政策対応や他の要因によるグローバルな経済リスクを計測・分析しています。トマ・ピケティほか『差別と資本主義』(明石書店)は、フランスのスイユ社から大統領選挙直前の2022年に刊行された小冊子のシリーズから差別や不平等に関する4編を訳出しています。三浦しをん『好きになってしまいました。』(大和書房)では、日常生活や旅に出たエッセイが三浦しをんらしく炸裂しています。周防柳『うきよの恋花』(集英社)は、井原西鶴『好色五人女』を題材にした時代小説です。麻布競馬場『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)は、Twitterで大きな反響を呼んだ虚無と諦念のショートストーリー集です。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊、退院した後、6~10月に130冊を読みました。11月に入って今週ポストする5冊を合わせて179冊となります。今年残り2月足らずですが、どうやら、例年と同じ年間200冊の新刊書読書ができるような気がしてきました。
また、新刊書読書ではないので本日の読書感想文には含めませんでしたが、町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』を読みました。また、マンガということで含めなかった山岸凉子『鬼子母神』と『海の魚鱗宮』、いずれも文春文庫の自薦傑作集の第4集と第5集を読みました。そのうちに、Facebookでシェアしたいと予定しています。

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まず、小川英治[編]『ポストコロナの世界経済』(東京大学出版会)を読みました。編者は、一橋大学の名誉教授であり、現在は東京経済大学の研究者です。出版社から考えても、ほぼほぼ純粋な学術書と考えるべきで、野村資本研究所の研究者による第4章などの例外を除いて、時系列分析を主とした先進的な数量分析手法を用いた実証分析が並んでいます。一般のビジネスパーソンにはやや敷居が高いかもしれません。本書はコロナ後の世界経済について、コロナ対策として取られた政策対応や他の要因によるグローバルな経済リスクを計測・分析しています。2部構成であり、第Ⅰ部がグローバルリスクを、第Ⅱ部がグローバル市場の構造変化を、それぞれ分析しています。すべてのチャプターを取り上げるのもムリがありますので、いくつか私の着目したものに限定すると、まず、第2章ではサプライチェーンのデカップリング、すなわち、まるで敵対国のように相手国にダメージを与えることを意図した攻撃的なデカップリング政策と、逆に、供給途絶に備えるための防衛的なデカップリング政策を区別しつつ、日本のようなミドルパワーでは、同盟関係の中で同調的なあつ略がかかる前者の攻撃的な政策、例えば、ロシアに対する経済制裁、とかでは経済コストがかかることから、後者の防衛的なケースでは闇雲に過度の供給依存を回避するというよりも、供給途絶リスク実現の蓋然性と代替措置が可能となる期間とを分析することが重要であり、こういったデカップリングについては政府の政策というよりは、「民間企業による効率性とリスク対応のバランスに関する意思決定の中で、かなりの程度は解決済み」と指摘しています。昨年2022年の「通商白書」なんかでは、特に中国を念頭に置いて、過度の供給回避を論じていたように私は記憶しています。もちろん、サプライチェーンの地理的なホロ刈りが大きければ、それだけレジリエンスが高いのはいうまでもありません。それでも、さすがに、学術書らしくバランスの取れた経済学的に正しい議論を展開しています。また、第4章の中国の不動産業界の金融リスクについては、ほとんどフォーマルな数量分析はありませんでしたが、現下の世界経済のリスクの中心でありながら、私の専門外で情報を持ち合わせていない分野でしたので、それなりに勉強になりました。また、第Ⅰ部の第7章における国際商品価格の決定要因については、私は従来から、1970年代になって世界的に資産市場や商品市場が整備されるに従って、金融緩和によってマネーがモノやサービスに流れてインフレを生じるだけではなく、資産市場にも流れて資産価格の上昇をもたらし、その行き着いたはてが1980年代後半の日本におけるバブル経済であると考えています。マネーがモノやサービスにい向かわないのでインフレにはならず、中央銀行による資産市場対応が遅れるとバブルを生じます。しかし、日本は土地資産によるバブルでしたが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻からは、エネルギーや穀物については資産としてマネーが流入すると同時に、モノやサービスの原材料となるわけで、インフレを生じています。こういったポストコロナの大規模金融緩和が国際商品の価格上昇に拍車をかけた点がリカーシブ型の構造VARモデルで実証されています。このあたりの計量経済学的な分析方法に関しては、私はコンパクトに説明する能力を持ち合わせません。理解がはかどらない向きには、学術書であるということでスルーして下さい。

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次に、トマ・ピケティほか『差別と資本主義』(明石書店)を読みました。著者は、フランスと米国の大学の研究者であり、巻末の訳者解説によれば、フランスのスイユ社から大統領選挙直前の2022年に刊行された小冊子のシリーズから訳出されています。4章構成であり、タイトルと著者を上げておくと、第1章 人種差別の測定と差別の解消 (トマ・ピケティ)、第2章 キャンセルカルチャ - 誰が何をキャンセルするのか (ロール・ミュラ)、第3章 ゼムールの言語 (セシル・アルデュイ)、第4章 資本の野蛮化 (リュディヴィーヌ・バンティニ)、となります。私は不勉強にして、ピケティ教授の著作しか読んだことがないと思います。本書のタイトルにある差別については、その原因は人種や国籍、性別、学歴などさまざまですし、差別が現れるのも就職差別や結婚差別などさまざまなのですが、私はエコノミストなので顰蹙を買いまくった某大臣の「最後は金目でしょ」に近い考えをしています。すなわち、差別が所得の不平等につながる、という視点です。ただ、最近の読書では現在の日本における民主主義の危機、すなわち、国民の幅広い声や意見が無視されて、権力を握ってしまえば虚偽を発信しても、無策のままに放置しても自由自在、という点を深く憂慮していることは確かです。経済的な所得の不平等とともに、この点も、特に現在の日本においては重要です。別の表現をすれば、「最後は金目」なのかもしれませんが、それを主張することすら封じ込まれる可能性を懸念しているわけです。しかも、本書に即していえば、国家とまでいわないとしても、何らかのコミュニティが和気あいあいと仲良くやっているのではなく、何らかの要因で分断されているという状態にあリ、この分断が差別を大いに助長している点も十分考慮しなければなりません。ということで、第1章ではアイデンティティに関する考察から始めて、植民地主義に基づく人種差別を考え、それが、反人種差別の運動として具体化されたブラック・ライブズ・マター(BLM)などを第2章ではキャンセルカルチャーと呼ばれる抗議運動として理解しようと試みています。植民地主義とは別の起源ながら、BLMとともに#MeTooも同じキャンセルカルチャーの運動のひとつなのだろうと私は考えています。さらに、第3章では、このシリーズが刊行されたのがフランス大統領選挙ですから、大統領選の決選投票に進んだ極右の国民連合(旧: 国民戦線)のマリーヌ・ル・ペンとともに右派の中で注目を集めた極右ポピュリストのエリック・ゼムールを取り上げています。私は、ゼムールについては移民排斥の中で、イスラム人がフランス人を支配するというグレート・リプレースメント論を提唱したトンデモ政治評論家であるとしか知りませんでしたが、言葉の暴力は凄まじいものだったようです。そして、最後の第4章では生産や経済の場としての資本の野蛮化が論じられます。特に、使用者サイドからの労働への野蛮な攻撃が激化していることは事実であり、フランスはともかく、日本ではものすごい勢いで雇用の非正規化が進み、特に女性の雇用者の非正規率は過半に達しています。繰り返しになりますが、差別や民主主義の破壊は経済的な不平等とともに手を携えて、車の両輪として進み国民生活をいろいろな面から破壊します。最悪の場合、国家社会を戦争に導くこともあります。私はエコノミストですので、こういった危機への対応は不得手なのですが、少なくとも市民としてしっかりと自覚した行動を取る必要があります。

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次に、三浦しをん『好きになってしまいました。』(大和書房)を読みました。著者は、ファンも多い直木賞作家ですが、この作品は小説ではなくエッセイです。しかも、この作者にしては真面目な方の、そうくだけてはいないエッセイです。というのも、この作者のくだけたエッセイであれば、1人称は「おれ」ですし、普段からプリプリト少し不機嫌気味の方らしいので、いたるところで「こるぁ」という恫喝の言葉が出てきますが、この作品ではそういったところは見受けられません。逆に、もっと真面目な方面で人形浄瑠璃や博物館巡りのエッセイであれば、まあ、同年代のエッセイストの酒井順子のようによく下調べの行き届いたエッセイもかけるようにお見受けするのですが、そこまで真面目一徹な作品でもありません。まあ、その中間のエッセイといったところなのかもしれません。それぞれのエッセイが、三浦しをんらしく愛と笑いと妄想に満ち溢れており、特に笑いすぎて抱腹絶倒となることが多いのではないかと思います。なお、本書は5章構成であり、章ごとのタイトルは以下の通りです。1章 美と愛はあちこちに宿る、2章 あなたと旅をするならば、3章 活字沼でひとやすみ、4章 悩めるときも旅するときも、5章 ささやかすぎる幸福と不幸、となります。1章では自宅で植物を育成したかってくる虫や鳥と格闘し、2章ではタイトル通りに紀行文中心となり、3章は読書感想文、4章も旅を中心としたエッセイで、5章はどちらかといえば雑多で分類しにくいエッセイを集めている印象です。繰り返しになりますが、くだけたエッセイではなく、版元から明確に上品なエッセイを求められているものもあるようですが、そこは三浦しをんらしくも上品ぶらない、というか、お茶目な、あるいは、モノによっては自虐的なエッセイに仕上がっているものも少なくありません。お父上は『古事記』研究で有名な学者さんだと思うのですが、家族のトピックも微笑ましく取り上げられています。お父上は三重県ご出身で、その地域性からか阪神タイガースのファンであり、コラボ缶を花瓶として活用しているのは、同じ阪神ファンとして深く理解します。ただ少し残念なのは、収録元のソースがバラバラで、それぞれのエッセイにも統一的なテーマがない点ですが、いかにも三浦しをんらしい筆の進みを堪能できますので、そういった短所はそれほど気になりません。まあ、私はエアロバイクを漕ぎながら音楽を聞いて読書も同時に進めるのですが、そういった時間つぶしにはもってこいです。

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次に、周防柳『うきよの恋花』(集英社)を読みました。著者は、小説家、しかも、主戦場は時代小説ではないか、と私は考えています。さらにいえば、時代小説の中でも江戸時代のチャンバラの侍が主人公となる小説ではなく、我が国の古典古代に当たる奈良時代や平安時代の文人を主人公に据えた時代小説の作品が私は大好きです。しかし、この作品は表紙画像に見られるように、江戸時代の井原西鶴の『好色五人女』を題材にした時代小説の短編集です。収録作品は、順に、「八百屋お七」、「おさん茂兵衛」、「樽屋おせん」、「お夏清十郎」、そして、最後は残る短編ならば「おまん源五兵衛」のハズなのですが、「おまん源五兵衛、または、お小夜西鶴」となっていて、「おまん源五兵衛」ではなく、実のところ、作者の井原西鶴と妻のお小夜についての短編に仕上げています。今さら、あらすじを書くのも芸がないのですが、それでも簡単に記しておくと、「八百屋お七」は、豪商八百八の娘お七が火事で避難した吉祥寺の寺男の吉三郎にもう一度逢いたいがために放火する、というものです。お七からの一方的な吉三郎への歪んだ愛情が元になっています。「おさん茂兵衛」では、大経師の後妻であるおさんが奉公人である茂兵衛と駆け落ちした事件で、亭主の大経師の性格や振舞いが大きな原因を作っています。「樽屋おせん」では、樽職人と祝言をあげたおせんなのですが、その樽職人の忠兵衛が樽屋の跡目を譲られて奉公人から樽屋の主人に出世するのですが、その忠兵衛の出入りの麹屋の入婿とおせんが不義をはたらきます。「お夏清十郎」では旅籠の主人である久左衛門の妹のお夏が懐いた清十郎だったのですが、清十郎とお夏が駆落ちしようとして捕縛され、清十郎が刑死した一方でお夏が狂乱してしまいます。そして、本来の「おまん源五兵衛」では、私の知る限り、衆道好きだった薩摩の武士源五兵衛に恋慕した琉球屋の娘であるおまんが、家出して、さらに、出家してしまったした源五兵衛のもと男装してまでしてに押しかけ結ばれ、しばし困窮生活を送るものの、おまんは両親から巨万の富を譲られる、というハッピーエンドです。しかし、これを作者は西鶴の衆道に置き換えて、妻のお小夜の振舞いをおまんになぞらえて、翻案し、というか、創作的に描き出しています。誠に残念ながら、これが成功しているようには私には見えません。ちょっと、ひねり過ぎた感がなきにしもあらずです。そして、井原西鶴の『好色五人女』の原点を私は読んでいないので詳細は不明ですが、5話を井原西鶴に持ち込むのは相州小田原の薬売りの山善です。最後に、繰り返しになりますが、この作家の作品で私が高く評価しているのは古典古代の文人を主人公にした時代小説です。事実上のデビューさうともいえる『逢坂の六人』、『蘇我の娘の古事記』、あるいは、『身もこがれつつ 小倉山の百人一首』、といったあたりの作品です。この『うきよの恋花』は時代背景を天下泰平の江戸時代に移しつつも、侍を主人公にするのではなく、あくまで文人である昨夏の井原西鶴を中心にお話を進めています。その意味で、この作者のひとつのバリエーションなす作品かもしれません。でも、古典古代に戻って欲しいというのが私の偽らざる本音です。

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次に、麻布競馬場『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)を読みました。著者は、1991年生まれ、慶應義塾大学卒業というプロフィール以外は明かされていない覆面作家です。なお、本書は漫画化されて「週刊ヤングジャンプ」で連載されているようですが、私は詳細は知りません。悪しからず。本書は、短編集というよりは、ショートショートの長さくらいで、Twitterで大きな反響を呼んだ虚無と諦念のストーリー集です。キャッチフレーズを受売りすれば、「タワマン」、「港区女子」、「東カレデートアプリ」、「オンラインサロン」などの新しいキーワードを駆使して、デジタルプラットフォームで生まれた文学の歴史の中に「港区文学」と呼ばれるジャンルを打ち立てた作品、ということになります。各ストーリーの主人公となる語り手は、大学生からアラサーのころまでの年齢層の男女が中心で、中には大学受験前の年代から始まるストーリーもあります。主人公=語りてに共通しているのは、東京生活の経験に基づいて語っている点です。もとから生まれ育ちが東京なのか、あるいは、大学生として上京したのか、という点は違うとしても、人生の中で東京生活を経験している主人公ばかりで、地方生まれの地方育ちという主人公はいません。ただ、主人公にも明暗があり、いかにもヘッセの『車輪の下』のハンスのように、死んでしまわないまでも、東京に出て挫折して故郷に帰る、というケースもあれば、逆に、というか、何というか、リッチでバブリーな生活を送っていて、ハンスみたいな地方からの上京学生を見下しているような態度を取る主人公のストーリーも含まれています。何と申しましょうかで、読書感想文から少し脱線すると、私個人はこの両極端の中間くらいに位置する人生を送ってきていて、京都で生まれ育って京都大学を卒業した後、キャリアの国家公務員として東京で働き、バブル期に遊んで結婚が遅れ、海外勤務などの華やかな生活も堪能して60歳で型通りに定年退職し、今では郷里に近い関西で、それなりに名の知れた大学の教員として経済学を教えています。東京で公務員をしていたころには、数年だけですが南青山という港区住まいをした経験もあります。ただ、私の場合は、東京を離れてソンしたと感じています。もっとも、これは私の専門分野が経済ないし経済学だから、その経済の中心である東京を離れると、いくらインターネットが普及しようとも、経済情報の面では東京と地方圏で差がある、という事実に基づいているのだろうと認識しています。ですから、古典文学の専門家、例えば、来年のNHK大河ドラマのテーマである『源氏物語』を大学で教える、とかであれば、東京と京都の差は大きくないかもしれない、と想像しています。読書感想文に戻ると、本書では東京と地方の差は経済ではなく、文化の面であると強く示唆されています。もちろん、文学や美術などのハイカルチャーも差があるでしょうし、本書でもそういったストーリーが含まれていますが、もっと大きな差はサブカルチャーの面ではなかろうか、と私は感じています。例えば、いくつかのストーリーで言及されているマッチングアプリとかがそうです。経済学的にいえば、典型的に規模の経済が働く分野であり、集積の利益が大きく、東京と地方の差は人口規模や所得水準以上に大きくなります。長くなりましたが、いずれにせよ、自分の住んでいる地域が文化的にも経済的にも豊かな場所であることは、各個人にとって望ましいことであり、ではどうすればそれが実現されるのかというと、本書などでは、そう望む個人が東京に移住する、というのが結論っぽくって、その逆を行って自分の住んでいる場所を豊かにしようとするのが地域振興なのだろう、と私は受け止めています。

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2023年11月 3日 (金)

ビミョーな段階に差しかかる10月の米国雇用統計をどう見るか?

日本時間の今夜、米国労働省から10月の米国雇用統計が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、非農業部門雇用者数の前月差は本日公表の10月統計では+150千人増となり、失業率は前月から+0.1%ポイント上昇して3.9%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事をやや長めに最初の7パラ引用すると以下の通りです。

The economy added 150,000 jobs in October as hiring slowed, report shows
Hiring slowed sharply in October as employers added 150,000 jobs, signaling that high interest rates and inflation may be taking a widening toll on payroll growth.
The auto workers strike also dampened job gains last month as manufacturing lost 35,000 jobs.
The unemployment rate rose from 3.8% to 3.9%, the Labor Department said Friday, the highest level since January 2022.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that 180,000 jobs were added last month.
Also, job gains for August and September were revised down by a combined 101,000, depicting a less robust picture of hiring in late summer than previously thought.
Average hourly earnings rose 7 cents to $34, nudging down the yearly increase to 4.1% from 4.2%. That should be welcomed by a Federal Reserve seeking to tamp down pay increases that are feeding into inflation. Fed officials would like to see wage growth ease to 3.5% to align with their 2% overall inflation goal. Wage growth topped 5% last year amid severe COVID-related labor shortages.
Investors cheered the report in pre-market trading on the hope that milder pay increases and a cooling job market would allow the Fed to continue to hold its key interest rate steady after hiking it aggressively since from March 2022 to July 2023. Dow Jones industrial average futures were up 116 points to 34,000 and the S&P 500 index rose 0.35%.

よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが広がった2020年4月からの雇用統計は、やたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、引用した記事の4パラめにあるように、米国非農業部門雇用者の増加についてBloombergでは市場の事前コンセンサスを+180千人増くらいと見込んでいただけに、実績の+150千人増はやや下振れした印象です。ひとつの節目と見られている+200千人増を下回っていますし、直近の統計で、雇用者数の伸びは8月が+227千人増から+165千人増に、9月も+336千人増から+297千人増に、それぞれ下方修正されました。ただし、依然として3%台を維持している失業率は歴史的に低い水準を続けているわけですので、米国労働市場がビミョーな段階に入った、と私は考えています。連邦準備制度理事会(FED)の見方もご同様のようで、広く報じられている通り、一昨日の11月1日に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)では2会合連続の金利据置きを決めています。他方で、これも広く報じられている通り、全米自動車労組(UAW)は9月末30日、ゼネラル・モーターズ(GM)と暫定合意に達し、フォードなどとともに労働組合が高い賃上げを勝ち取っています。人手不足に起因する賃上げが続きつつも、金融引締めにより労働需要がスローダウンしていて、インフレ率は着実に低下しています。FEDの金融政策はしばらく様子見なのでしょうか?

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2023年11月 2日 (木)

8回一気の猛攻撃で逆転し日本一に王手

  RHE
オリックス000100100 272
阪  神00000006x 6103

8回に猛虎打線が爆発し6得点を上げて逆転し、日本一に王手です。
オリックスが先制しエラーもあって2点をリードされて終盤に入りましたが、8回表に湯浅投手が登板してピシャリと抑えた後、オリックスのリリーフ陣に猛虎打線が襲いかかりました。リードオフマン近本選手のタイムリーに続いて、ルーキー森下選手の逆転タイムリー、さらに4番大山選手のタイムリー、とどめに坂本捕手のタイムリーで6点を上げ、最終回は岩崎投手が悠々と投げ切りました。あとは、佐藤輝選手が打ってくれればいうことないんですが…

京セラドームでも、
がんばれタイガース!

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日本の研究はもはや世界レベルではないのか?

やや旧聞に属する話題ながら、先週10月25日付けで科学誌 Nature のサイトに Japanese research is no longer world class と題するニュースが掲載されています。じつは、8月9日の文部科学省による「科学技術指標2022」及び「NISTEP定点調査2021」のニュースリリースの英訳が利用可能になったので、早速にも取り上げられたわけです。まず、日本語資料で文部科学省のプレスリリースから、そのうちの「科学技術指標2022」に関するパラを引用すると以下の通りです。

科学技術指標2022
科学技術指標は、科学技術活動を客観的・定量的データに基づき体系的に把握するための基礎資料です。昨年から続いて日本の研究開発費、研究者数は主要国(日米独仏英中韓の7か国)中第3位、パテントファミリー数では世界第1位です。日本の論文数(分数カウント法)は世界第4位から第5位、注目度の高い論文数のうちTop10%補正論文数は第10位から第12位、Top1%補正論文数は第9位から第10位となりました。Top1%補正論文数では中国が初めて米国を上回り、世界第1位となりました。

要するに、我が国の研究開発費、研究者数、パテントファミリー数は、そこそこ世界のトップレベルにあるのですが、論文数は少し見劣りがしつつ、しかも、順位を下げており、引用のトップ10%や1%の極めて高いレベルの論文は世界ランクがさらに低く、その上、ランクを落としている、ということです。

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Nature のサイトから Slipping Down と題するグラフを引用すると上の通りです。グラフのタイトル通りに、徐々に世界水準から日本の研究が滑り落ちているようです。上のパネルに示されているように、論文の公刊数は米中に大きく水を開けられながらも、さらに、インドやドイツを下回りながらも、何とか世界ランク5位につけているものの、トップ10%のもっとも引用の多い論文数となると日本は世界13位まで落ちます。G7各国中の最下位であり、オーストラリアや韓国やスペイン、果てはイランの後塵を拝しているわけです。

まあ、何と申しましょうかで、私は大学の授業では「日本はまだまだ大きな経済力を有しており、経済大国の地位を降りるべきではないし、その経済力を背景にした外交力も行使すべきである」と教えているのですが、私の講義の賞味期限は短そうな気がします。

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2023年11月 1日 (水)

大山選手のサヨナラ打で2勝2敗のタイに持ち込む

  RHE
オリックス010000200 3123
阪  神110010001x 481

大山選手のサヨナラ打で2勝2敗のタイに持ち込みました。
阪神が先制したものの、オリックスに追いつかれ、さらに突き放しても、またまた追いつかれましたが、最後は9回に決着がつきました。目の前で2番打者と3番打者が申告敬遠されての4番打者との勝負ですから、大山選手も奮起したことだろうと思います。8回に湯浅投手がコールされた時は、大いに甲子園が湧きました。膠着した雰囲気を変えるには最適な采配だったかもしれません。

明日は、
がんばれタイガース!

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企業の超過利益を従業員に分配するとどうなるのか?

1967年以来、従業員100人以上のフランス企業は超過利益の一部を従業員に分配することが義務づけられていますが、1990年からこの基準が50人に引き下げられているところ、この基準変更がいかなる結果をもたらしたかについて、"The Effects of Mandatory Profit-Sharing on Workers and Firms: Evidence from France" と題する全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパーが分析しています。引用情報は以下の通りです。

まず、NBERのサイトからAbstractを引用すると以下の通りです。

Abstract
Since 1967, all French firms with more than 100 employees are required to share a fraction of their excess-profits with their employees. Through this scheme, firms with excess-profits distribute on average 10.5% of their pre-tax income to workers. In 1990, the eligibility threshold was reduced to 50 employees. We exploit this regulatory change to identify the effects of mandated profit-sharing on firms and their employees. The cost of mandated profit-sharing for firms is evident in the significant bunching at the 100 employee threshold observed prior to the reform, which completely disappears post-reform. Using a difference-in-difference strategy, we find that, at the firm-level, mandated profit-sharing (a) increases labor share by 1.8 percentage points, (b) reduces the profit share by 1.4 percentage points, and (c) does not affect investment nor productivity. At the employee level, mandated profit-sharing increases low-skill workers' total compensation and leaves high-skill workers total compensation unchanged. Overall, mandated profit-sharing redistributes excess-profits to lower-skill workers in the firm, without generating significant distortions or productivity effects.

要するに、下線を引いた部分で、企業レベルで義務的利益分配により、(a) 労働分配率が1.8%ポイント増加し、(b) 利益分配が1.4%ポイント減少し、(c) 投資や生産性に影響を与えない、という点が確認されています。さらに、下線を引いていませんが、最後のセンテンスが本論文の結論となっていて、全体として、義務的利益分配は、重大な歪みや生産性への影響を引き起こすことなく、企業内のスキルの低い労働者に超過利益を再分配する、"Overall, mandated profit-sharing redistributes excess-profits to lower-skill workers in the firm, without generating significant distortions or productivity effects." ということです。ワーキングペーパーから p.50 にある Figure 6: Treatment status and actual treatment を引用すると以下の通りです。注にあるように、上の破線でプラスサインのマーカーの折れ線が従業員120-300人の企業、下の破線で菱形のマーカーが35-45人の企業、そして、1990年でポンと跳ね上がっている実線で円のマーカーが55-85人の企業です。1990年の基準引下げを自然実験と考えて、treatment group 処置群と control group 統制群に分けてランダム化比較試験(RCT)として分析した結果です。

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今夏の自民党女性局の海外研修のフランス旅行は、大きな批判を浴びて謝罪文が明らかにされています。広く報道で取り上げられたところですから、目にされた向きも少なくないと思います。しかしながら、こういった義務的利益分配のフランスの事例について研修ではまったく取り上げられなかったのでしょうか?

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