3四半期ぶりのマイナス成長を記録した7-9月期GDP統計速報1次QEをどう見るか?
本日、内閣府から7~9月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は▲0.5%、前期比年率で▲2.1%と3四半期ぶりのマイナス成長を記録しています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+5.1%に達しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
GDP、7-9月年率2.1%減 3四半期ぶりマイナス成長
内閣府が15日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.5%減、年率換算で2.1%減だった。マイナス成長は3四半期ぶり。個人消費と設備投資が弱含み、輸出の伸びも力強さを欠いた。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は年率0.5%減だった。前期比年率で内需がマイナス1.6ポイント、外需がマイナス0.5ポイントの寄与度となった。
内需に関連する項目で落ち込みが目立つ。GDPの過半を占める個人消費は前期比0.0%減と2四半期連続のマイナスだった。自動車販売の減少が押し下げ要因となった。8月に起きたトヨタ自動車のシステム不具合による国内工場の停止などが響いた。
長引く物価高で魚や肉といった食料品も全般的に振るわなかった。外食のほか、9月に新型iPhoneが発売された携帯電話機はプラスだった。
設備投資は前期比0.6%減と2四半期連続のマイナスだった。半導体市場の調整が長引き、半導体製造装置関連の投資が落ち込んだ。工場などの建設投資もマイナスだった。人手不足が響いたとみられる。省人化に向けたソフトウエア投資も減少した。
民間住宅は前期比0.1%減と5四半期ぶりのマイナスだった。足元では資材高の影響で着工が鈍っており、出来高に影響が出始めたとの見方がある。
民間在庫変動の寄与度は0.3ポイントのマイナスだった。車の輸出が堅調だったことから、車を中心に製品在庫が減った。
公共投資は前期比0.5%減と6四半期ぶりのマイナスだった。2022年度の補正予算での押し上げ効果が一服したとみられる。政府最終消費支出は0.3%増で4四半期連続のプラスだった。新型コロナウイルス禍での受診控えが落ち着き、医療費などが膨らんだもようだ。
輸出は自動車がけん引して前期比0.5%増だった。2四半期連続のプラスを維持したものの、4~6月期の前期比3.9%プラスに比べて勢いを欠く。
計算上は輸出に分類されるインバウンド(訪日外国人)の日本国内での消費が前期比5.0%減で下押し要因となった。マイナスは22年4~6月期以来5四半期ぶりで、コロナ禍からの経済社会活動の正常化による回復傾向に一服感が出た。
輸入は前期比1.0%増と3四半期ぶりのプラスだった。海外のアプリの利用やサブスクリプション(定額課金)型サービスに代表される著作権等使用料が前期の反動で伸びた。日本人の海外旅行もプラスだった。
輸入はGDPの計算から控除する項目のため、増加は全体の押し下げ圧力となる。23年4~6月期はマイナス3.8%で全体を大幅に押し上げていた。
名目GDPは前期比0.0%減、年率換算で0.2%減と横ばいだった。
国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比で5.1%上昇し、4四半期連続のプラスだった。伸び率は1981年1~3月期の5.1%プラス以降で最高となる。輸入物価は前年同期比でマイナスとなり、食品や資材などの国内での価格転嫁の広がりを映した。
いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事となっています。次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、内閣府のリンク先からお願いします。
です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした需要項目 | 2022/7-9 | 2022/10-12 | 2022/1-3 | 2023/4-6 | 2023/7-9 |
国内総生産GDP | ▲0.1 | ▲0.1 | +0.9 | +1.1 | ▲0.5 |
民間消費 | +0.2 | +0.2 | +0.7 | ▲0.9 | ▲0.0 |
民間住宅 | +0.1 | +1.0 | +0.5 | +1.8 | ▲0.1 |
民間設備 | +1.7 | ▲0.9 | +1.7 | ▲1.0 | ▲0.6 |
民間在庫 * | (+0.1) | (▲0.4) | (+0.4) | (▲0.1) | (▲0.3) |
公的需要 | ▲0.0 | +0.4 | +0.3 | +0.1 | +0.2 |
内需寄与度 * | (+0.5) | (▲0.3) | (+1.1) | (▲0.7) | (▲0.4) |
外需(純輸出)寄与度 * | (▲0.6) | (+0.3) | (▲0.2) | (+1.8) | (▲0.1) |
輸出 | +2.2 | +1.5 | ▲3.5 | +3.9 | +0.5 |
輸入 | +5.1 | +0.2 | ▲2.1 | ▲3.8 | +1.0 |
国内総所得 (GDI) | ▲0.9 | +0.3 | +1.6 | +1.8 | ▲0.4 |
国民総所得 (GNI) | ▲0.3 | +0.9 | +0.3 | +2.2 | ▲0.5 |
名目GDP | ▲0.8 | +1.3 | +2.3 | +2.5 | ▲0.2 |
雇用者報酬 (実質) | +0.1 | ▲0.6 | ▲1.0 | +0.4 | ▲0.6 |
GDPデフレータ | ▲0.3 | +1.2 | +2.0 | +3.5 | +5.1 |
国内需要デフレータ | +3.2 | +3.4 | +2.8 | +2.4 | +2.4 |
上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期の最新データでは、前期比成長率がマイナス成長を示し、GDPの需要項目のいろんなコンポーネントが小幅にマイナス寄与しているのが見て取れます。
まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が▲0.5%でしたから、実績の年率▲2.1%はや下ぶれした印象です。我が国でも他の先進国と同じようにインフレにより消費の伸びが大きく鈍化して、内需は前期比成長率▲0.5%に対する寄与度でわずかながらマイナス寄与を示しています。4~6月期には前期比で▲0.9%の減少を記録し、猛暑の消費拡大効果もあったのでしょうが、引用した記事にもあるように、トヨタの工場停止の影響は消費にも現れた形です。消費も含めて内需寄与度が▲0.4%と内需が弱い印象ながら、実は、そのうちの▲0.3%が在庫のマイナス寄与ですから、在庫調整が進展した、というわけではないとしても、少なくとも在庫が大きく積み上がっている、というわけではないので、それほど悪い姿とも思えません。外需を見ると、輸出入ともに増加していますが、輸入の増加の方が大きく、外需(純輸出)の寄与度は小幅なマイナスを記録しています。いずれにせよ、物価上昇の影響もあって内需の盛り上がりに欠ける内容であることは間違いなく、足元の10~12月期はプラス成長が見込まれている点を考慮しても、急に失速して景気後退局面に入る可能性は低いながら景気としては低調と考えるしかなさそうです。例えば、ニッセイ基礎研究所のリポートでは、足元の10~12月期のリバウンドによる成長率は「年率1%台のプラス成長」と見込んでいますので、本日公表の7~9月期の年率▲2.1%のマイナスを穴埋めするまでに至らない可能性も十分あります。
特に、先行き日本経済を考える場合、物価上昇の影響を受ける消費については、実質雇用者報酬の動向が懸念されます。すなわち、雇用車報酬は一昨年から6四半期連続で前期比マイナスを続けていたところ、ようやく今年2023年4~6月期になって前期比で+0.4%増と、7四半期ぶりにプラスに転じたのですが、本日公表の7~9月期には再び前期比▲0.6%減とマイナスに舞い戻りました。賃上げによる雇用者報酬の増加が着実に進まないと、インフレによるダメージをカバーできずに消費への影響はさらに大きくなる可能性もあります。加えて、外需についても考えると、先進各国経済の減速を背景に輸出が伸び悩む局面に入っていることは確かですから、よりいっそう内需の重要性が高まっていると考えるべきです。いずれにせよ、内需ではインフレに追いつかない賃上げが日本経済の大きな課題と私は受け止めています。
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