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2023年12月31日 (日)

Financial Times による来年2024年の予想やいかに?

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年末恒例の Financial Times 記者による来年2024年の予想 FT writers' predictions for the world in 2024 で20の質問に回答しています。まず、各テーマとその回答を列挙すると以下のとおりです。なお、各問いのナンバーはオリジナルの記事にはないのですが、出現順に私が便宜的に付与しています。

  1. Will Donald Trump become US president again? → No
  2. Will 2024 surpass 2023 as the hottest year on record? → Yes
  3. Will the Israel-Hamas war trigger a full-blown regional conflict? → No
  4. Will the US achieve a soft landing? → Yes
  5. Will Keir Starmer become UK prime minister? → Yes
  6. Will China's economic growth crash to 3 per cent or less? → No
  7. Will a change of president in Taiwan spark a Chinese attack? → No
  8. Will the US and the EU keep funding Ukraine? → Yes
  9. Will Ursula von der Leyen secure a second term as European Commission president? → Yes
  10. Will the Bank of Japan raise rates above zero? → No
  11. Will the ANC vote fall below 50 per cent in South Africa's election? → Yes
  12. Will Argentina dollarise its economy? → No
  13. Will renewables overtake coal in global electricity generation? → No
  14. Will investors go heavily back into bonds? → Yes
  15. Will X go bankrupt? → Yes
  16. Will Sam Altman be sacked again from OpenAI? → No
  17. Will capital markets reopen for IPOs? → Yes
  18. Will Novo Nordisk end the year as Europe's most valuable company? → Yes
  19. Will female pop stars out-earn the men in concert tours? → No
  20. Will Britain return the Parthenon marbles to Greece? → Yes

最初の2つの問いは常識的にそうだろうという気がします。トランプ氏が米国大統領に返り咲くことはないでしょうし、気候変動は一向に緩和されることなく来年も気温は上がり続けることでしょう。4番目と6番目も、やや期待を込めてながら、そうなのだろうと思います。米国経済は景気後退に陥ることなくソフトランディングに成功するでしょうし、中国経済は+3%レベルにまで成長率を落ち込ませることはないような気がします。でも、米国経済がマイナス成長を記録する可能性は大いにありますし、中国経済も+5%を下回る成長率に一時的に落ち込むことは十分考えられます。
問題は10番目と15番目ではなかろうかと私は考えています。10番目の日銀による金利引上げは、おそらく、私やFinancial Times記者のような常識的なエコノミストであれば日銀による金利引上げはあり得ない、と考えるのでしょうが、現在の国内のエコノミスト界隈の雰囲気はやや異常ですから、可能性としては3割くらいはあるものと私は覚悟しています。ツイッタを引き継いだXが破産する可能性は何ともいえません。私には判りません。
さて、来年の日本と世界の経済やいかに?

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よい年をお迎え下さい

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今年2023年も残すところわずかとなりました。
私自身にとっては、交通事故で3か月近くもの入院生活を余儀なくされ、とても不本意な1年でしたが、阪神タイガースがリーグ優勝、そして、日本一になってくれましたので、いくぶんなりとも取り返せた部分はあったのか、という気がします。年末休みは、読書と動画でゆったり過ごしています。

よい年をお迎え下さい

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2023年12月30日 (土)

今週の読書は経済書なしで6冊読んで年間読書は227冊

今週の読書感想文は以下の通りです。年末最後の読書では、とうとう経済書を読みませんでした。少し体調を崩していましたので、ごく簡単に以下の通りのレビューです。
まず、今野敏『署長シンドローム』(講談社)は、竜崎と伊丹を主人公とする「隠蔽捜査」シリーズの一環ながら、大森署の藍本署長を主人公として、その美貌とほんわかとした雰囲気で周囲のおっさんをメロメロにするミステリです。織守きょうや『幻視者の曇り空』(二見書房)は連続殺人犯を追い詰めた主人公なのですが、最後の最後に大きなどんでん返しがあります。上野千鶴子・髙口光子『「おひとりさまの老後」が危ない!』(集英社新書)では誰しも迎える老後、特に介護について東大名誉教授の社会学者と介護施設の経験豊富なケアマネが対談します。三浦展『孤独とつながりの消費論』(平凡社新書)は、コロナ禍の中での孤独化をキーワードに、消費の方向性を議論しています。特に、古着をはじめとするビジネスについても論じています。岡田晃『徳川幕府の経済政策』(PHP新書)では、元禄バブルを経て幕府財政が逼迫してからの諸改革を財政だけではなく通貨改鋳、新田開墾や通商政策も含めて幅広く解説しています。瀬尾まいこ『夜明けのすべて』(文春文庫)では、月経前症候群(PMS)の女性とパニック症候群の男性がお互いを思いやって、誰もが抱える可能性のある困難に立ち向かう勇気を与えてくれる小説です。最後に、新刊書ではなく、もう3年半あまりの前の出版ですで、ここには取り上げませんでしたが、藤野可織『ピエタとトランジ 完全版』(講談社)も読みました。そのうちに、Facebookでシェアしたいと予定しています。
ということで、今年の新刊書読書は227冊となります。ほとんどをFacebookでシェアしていると思います。

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まず、今野敏『署長シンドローム』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ、特に、警察小説の人気作家です。本書は、竜崎と伊丹を主人公とする「隠蔽操作」シリーズとして位置づけられるのですが、竜崎が電話の向こう側に登場するだけで、伊丹の方は名前すら登場しません。では誰が主人公かというと、竜崎の後任として大森署の署長として赴任した藍本小百合になります。そして、語り手は大森署副署長の貝沼です。藍本署長はその超絶な美貌とほんわかとした天然の雰囲気で、男社会の警察において周囲のおっさんをメロメロにして要求を通すという、最終兵器的な抜群の強さを発揮します。ストーリーは、アジア系と南米系のギャングが東京湾で武器や薬物の取引をするという情報に基づいて大森署に前線本部が設けられ、無事に取引を阻止しギャングを逮捕したのですが、警察や厚生労働省の麻薬取締官を絶望に追い込むような取逃がしが発覚し、その最後の後始末に当たるという形で、最後の方のどんでん返しがあります。また、藍本署長だけでなく、大森署に新たに配属された山田刑事がとんでもない能力を発揮したりします。藍本署長の判断は極めて的確で、前の竜崎の合理的な判断を彷彿とさせます。私はこのシリーズについては前々から大好きだったのですが、本書もとってもおススメです。最後の最後に、映像化するなら誰が適任かと考えてみます。決して鋭いタイプではなく、ほんわかした雰囲気で、しかも、破壊力ある美貌ですから、30代半ば後半なら北川景子か、はたまた、佐々木希か、といったところでしょうか。

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次に、織守きょうや『幻視者の曇り空』(二見書房)を読みました。著者は、ミステリ作家です。私はこの作家の作品は少し前の『花束は毒』しか読んだことがなくて、その作品では最後の舞台反転というか、どんでん返しがものすごく見事であったことに感激した記憶がありますが、この作品でも最後の最後に何ともいえないどんでん返しが待ち受けています。ストーリーは、タイトル通りに幻視者である久守一という大学生を主人公に、ホームレスなどに対するボランティア活動を行う団体を舞台に進みます。主人公はこの団体の手伝いを時折するだけで、正式なメンバーというわけではありません。そして、その団体に美大生でやや得体のしれないグレーヘアの男性が加わります。主人公は身体的な接触で幻視するのですが、その美大生の視点で人が殺される場面を幻視します。世間で話題になっている連続殺人事件とよく一致する場面を幻視することになります。しかし、主人公は幻視が未来を見ていることに気づき、次の殺人を防ぐべくいろいろと考えをめぐらせて工夫します。そして、最後に殺人者がナイフをふるって殺人を行おうとする場面に直面し、連続殺人犯は警察に取り押さえられます。しかし、このラストがすごいです。ジェフリー・ディーヴァーの長編ミステリのようにジャカスカ登場人物がいるわけではなく、これだけ登場人物が少ないにもかかわらず、しかも、語り手の主人公が未来のこととはいえ幻視できるにもかかわらず、ここまで犯人像を大きく反転させるプロットは、ミステリ作家としての著者の並々ならぬ実力の現れではないかと思います。この作者の作品を少しフォローしたい気がします。

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次に、上野千鶴子・髙口光子『「おひとりさまの老後」が危ない!』(集英社新書)を読みました。著者は、東大名誉教授の社会学者と介護の専門家であり、両者の対談を収録しています。上野教授の方はかねてより「おひとりさま」の老後について発言をしていて、本書では、対談相手の高口さんがその老後の介護の現場の見方や意見を述べています。広く知られている通り、介護保険制度の創設から20年超を経て、度重なる制度の改悪と待遇改善が滞っているため、介護現場は疲弊し利用者は必要なケアを受けられなくなりつつあります。上野教授は「在宅ひとり死」の提唱者なのですが、介護施設のプロフェッショナルとの対談により、長寿社会において誰もが迎える老後と、その介護のあり方に関して、何が重要かを浮き彫りにしています。

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次に、三浦展『孤独とつながりの消費論』(平凡社新書)を読みました。著者は、マーケターを本質としつつ、『下流社会』がベストセラーになっていて、消費分析も幅広く手がけています。本書では、主としてアンケート調査結果の独自データの活用もしつつ消費の最前線における分析を展開しています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により、国民の孤立化が進み、本書でいうところの「孤独」に基づく消費が増えているのは事実だろうと私も考えています。ただ、事例レポートで展開されているような古着ビジネスが経済社会のカギになるとは、さすがに私は考えていません。古着は確かにSDGsや循環型社会のひとつのありようではありますが、何か、本質的な要素が本書には抜けているように感じられてなりません。ただ、私の感覚が古いだけかもしれませんが、消費のカギとなる何かをエコノミストとして今後とも考えたいと思います。

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次に、岡田晃『徳川幕府の経済政策』(PHP新書)を読みました。著者は、日経新聞やテレビ東京で活躍したジャーナリストです。徳川幕府が成立したのが1603年の家康の征夷大将軍就任ですから、その後の天下泰平の時代における江戸の天下普請、そして、江戸に限らず各城下町の普請という地方公共事業に始まって、元禄バブルを経て、いずこも同じ財政逼迫により引締め政策が取られるという経緯があります。しかし、他方で、通貨改鋳により「出目」といわれる通貨発行益を手にするとか、あるいは、今でいうリフレ清濁に近いような金融政策が実行されたりもしています。本書で取り上げるのは、荻原重秀による積極財政と金融緩和、それを批判した新井白石による正徳の治の緊縮財政と金融引締め、享保の改革を主導した徳川吉宗による緊縮財政と金融引締め、しかし、享保の改革の後半では金融は緩和に転じます。田沼時代には金融緩和を継続し、積極的な成長政策も講じられ、松平定信による寛政の改革では復古主義に基づいて緊縮財政と金融引締めに転じた後、田沼の縁戚に連なる水野忠成が積極財政と金融緩和に戻すものの、徳川期最後の改革である天保の改革では水野忠邦が寛政の改革を手本に緊縮財政と金融引締めを実行する、という流れになります。もちろん、財政と金融だけではなく、株仲間による積極的なビジネス展開の支援、新田開墾による供給力の強化、蝦夷地の開発を通じたロシアとの交易をはじめとする貿易制限の緩和や強化などなど、さまざまな幕府の経済政策がいろんな転機で方向性を変えつつ実施されていくさまがよく理解できます。また、当時のことですから、現在のような純粋な経済政策ではなく、「武士たるものかくあるべし」といった倫理面の重要性も解説されています。

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次に、瀬尾まいこ『夜明けのすべて』(文春文庫)を読みました。著者は、大阪出身の小説家です。本書を原作として、松村北斗と上白石萌音のW主演にて映画化が決まっています。来年2024年2月の封切りだそうです。ということで、PMS(月経前症候群)で感情を抑えられず、月経前には些細なことに怒りを爆発させる30歳過ぎの女性と、希望していたコンサル会社に勤めながらも、パニック障害になり生きがいも気力も恋人も失った20台半ばの男性を主人公に、交互に視点を入れ替えつつ物語は進みます。ある意味では、人生に絶望しつつも、まだまだ若い年代ですので、何とかしようという意欲も随所に感じられる主人公2人です。特に、女性の虫垂炎による入院から物語は大きく変化し始めます。主人公2人の奮闘を、中小企業の社長をはじめとする周囲では温かく見守り、そういった場面を作者はリアルに、時にユーアをもって描き出しています。PMSにせよ、パニック症候群にせよ、ごく一部の限られた人たちに限定された問題と考えがちですが、場合によってはこういった病気に限らず、誰もが抱える可能性がある困難に立ち向かう人に勇気を与えるストーリーです。多くの方にオススメします。

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2023年12月29日 (金)

年賀状

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年賀状です。今週初めに投函しました。
今回は少し遊び心で大学のロゴをあしらってみました。親戚や学校の同級生、そして、私の年賀状の特徴のひとつとして、4回生の卒業生にも実家宛てに送っています。私は卒業生には結婚すること」「を大学卒業後の大きな課題として与えています。できれば、結婚式披露宴には招待にあずかりたいと希望しています。

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2023年12月28日 (木)

3か月ぶりに減産を記録した鉱工業生産指数(IIP)と高い伸びが続く商業販売統計をどう見るか?

本日は、役所のご用納めで年末最後の閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも11月統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.9%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+5.3%増の13兆8190億円を示した一方で、季節調整済み指数は前月から+1.0%の増加を記録しています。まず、日経新聞のサイトなどから各統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、11月は0.9%低下 3カ月ぶりマイナス
経済産業省が28日発表した11月の鉱工業生産指数(2020年=100、季節調整済み)速報値は104.0となり、前月比で0.9%低下した。自動車工業や電気・情報通信機械工業が振るわず、3カ月ぶりのマイナスとなった。
QUICKがまとめた民間エコノミスト予測の中心値は前月比1.7%の下落だった。28日の発表では全15業種のうち11業種が低下した。生産の基調判断は「一進一退」で、10月の表現を据え置いた。
2カ月連続で上昇していた自動車工業は前月比で2.5%のマイナスとなった。小型乗用車や自動車用エンジンが伸び悩んだ。
電気・情報通信機械工業は3.5%低下した。10月に海外向けに大きな取引があった反動で、宇宙や軍事関連のレーダー装置が落ち込んだ。コンベヤーや水管ボイラーといった汎用・業務用機械工業は3.8%下落した。
上昇した4業種のうち、生産用機械工業は1.6%のプラスとなった。国内外問わず半導体製造装置の出荷が好調だった。プラスチック製品工業は0.5%上昇した。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は12月に前月比で6.0%のプラスを見込む。1月は7.2%のマイナスになる見通しだ。生産計画は上振れする傾向があり、補正後の試算値は12月が前月比3.2%の上昇となる。
経産省の担当者は「金利上昇による世界経済の下振れリスクや、物価上昇の影響に引き続き注視する必要がある」と説明した。
小売業販売額、11月は前年比+5.3% 値上げで食品販売増加=経産省
経済産業省が28日に発表した11月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比5.3%増となった。ロイターの事前予測調査では5.0%増が予想されていた。値上げで食品販売額が増加したほか、自動車の納車状況改善などが寄与した。
業種別の前年比は、自動車が11.3%増、機械器具11.0%増、飲食料品5.8%増など。寄与度が大きかったのは飲食料品と自動車だった。
業態別の前年比は、ドラッグストア9.0%増、百貨店6.6%増、スーパー3.8%増、家電大型専門店3.3%増、ホームセンター3.1%増、コンビニ0.1%増。
ドラッグストアは食品や家庭用品・日用消耗品などが伸びた。物価高の影響で「より安い食品をまとめ買いする需要から、客層が広がっている」(経産省幹部)という。
百貨店は衣料品が増加、衣料品やインバウンドが寄与した。
スーパーは食料品販売が値上げの影響で増えたが「購入点数などで買い控えの影響は続いている」(経産省)という。

いくつかの統計を報じた記事ですので、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲1.7%、上限でも▲1.0%の減産でしたので、実績の前月比▲0.9%の減産は、コンセンサスよりもやや上振れしています。上のグラフでも明らかな通り、まさに、生産は横ばい状態が続いていて、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「生産は一進一退で推移している」と前月から据え置いています。ただ、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の12月は補正なしで+6.0%の増産、上方バイアスを除去した補正後でも+3.2%の増産となっていますが、他方で明けて2024年1月は▲7.2%の減産ですので、まさに「一進一退」という気がします。経済産業省の解説サイトによれば、2023年11月統計での生産は、自動車工業の前月比▲2.5%、寄与度▲0.36%をはじめ、我が国のリーディング産業である電気・情報通信機械工業では前月比▲3.5%の減産、寄与度は▲0.30%、汎用・業務用機械工業では、▲3.8の原産、寄与度▲0.30%パーセントポイントでした。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売は堅調な動きを続けています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、かなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、直近の11月統計までの3か月後方移動平均の前月比は▲0.1%の低下となっているのですが、「上昇傾向」で据え置いています。さらに、消費者物価指数(CPI)との関係では、今年2023年11月統計ではヘッドライン上昇率も生鮮食品を除くコア上昇率も、前年同月比で+2%台半ばないし後半のインフレを記録していますが、小売業販売額の11月統計の+5.3%の増加は軽くインフレ率を超えていて、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性が十分あります。ただ、こういった小売販売額がホントに国内需要に支えられているかどうかは疑問があります。すなわち、インフレの影響は国内では消費の停滞をもたらす可能性が高く、したがって、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられている可能性があります。したがって、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。私の直感ながら、例えば、引用した記事にもあるように、スーパーの販売額が+3.8%で小売業販売額平均の+5.3%を下回っている一方で、百貨店やドラッグストアの伸びが高いのが、インバウンドの象徴のような気もします。引用したロイターの記事で、「スーパーは食料品販売が値上げの影響で増えたが『購入点数などで買い控えの影響は続いている』」というのも気がかりです。

繰り返しになりますが、今日はお役所のご用納めで経済指標についても年内最後の公表ではないかと思います。今年2023年を振り返ってみると、賃金上昇が物価の高騰に追いつかない状態でした。厚生労働省の毎月勤労統計によれば、昨年2022年4月から実質賃金は前年同月比でマイナスを続け、直近で利用可能な2023年10月統計まで1年半に渡ってマイナスが続いています。他方で、法人企業統計に見る企業利益は増加していて、すでに利益剰余金はGDPに匹敵する500兆円半ばに達しています。国民生活を犠牲にして企業利益が積み上がっているとしかいいようがありません。来年2024年はこういったネオリベな傾向を反転させられるような1年になって欲しいと願っています。

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2023年12月27日 (水)

日本生産性本部による「生産性評価要因の国際比較」やいかに?

先週金曜日の12月22日、日本生産性本部から「生産性評価要因の国際比較」と題するリポートが明らかにされています。まず、長くなりますが、リポートから[要約]を3点引用すると以下の通りです。

[要約]
  1. 日本生産性本部は、生産性常任委員会(委員長: 福川伸次 地球産業文化研究所顧問/東洋大学総長)に生産性を評価する専門委員会(委員長: 宮川努 学習院大学教授)を設置し、生産性評価要因に関する検討を行った。生産性向上の原動力となる①IT・デジタル化、②教育・人材、③イノベーションの3要因、付加価値創出の持続可能性を問う、④環境、⑤所得分配、⑥サプライチェーンの3要因から生産性を評価し、OECD加盟国及びOECD非加盟のG20諸国の合計46カ国を対象に国際比較を行っている。
  2. 生産性評価要因から日本の現状をみると、「教育・人材」は人材投資(GDP比)などに課題があるものの、良好な学力成績などを反映し、米国やドイツなどより優れている。一方、「IT・デジタル化」や「イノベーション」は、今回比較対象とした46カ国平均こそ上回るものの、OECD加盟国平均並みとなっている。
  3. 日本の生産性が低い要因としては、「付加価値創出力」の低さが挙げられる。これは、ICT資産当たり付加価値(IT・デジタル化」)・STEM人材当たり付加価値(教育・人材)・研究開発費(ストックベース)当たり付加価値(イノベーション)として、それぞれの要素がどれだけ付加価値の創出につながっているかを定量化したもの。いずれの指標も米国やドイツのみならず46カ国平均を下回っており、日本の付加価値を創出する力が国際的にみて低いことを示しており、生産性向上にむけた課題になっている。

従来から、私は日本の労働力は世界的にも優れた教育などから、潜在的な生産性は決して低くないと主張してきましたし、いくつかテーブルを参照しつつ、簡単にこのリポートを取り上げておきたいと思います。

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まず、上のテーブルは、労働生産性とそれを評価する要因、すなわち、[要約]の第1点目に上げられていた6項目のスコアを取りまとめています。リポートp.9から 生産性評価要因のスコア を引用しています。労働生産性は確かにOECD平均と比べても異常なくらいに低いのですが、その要因として生産性本部が上げた6要因のうち、IT・デジタル化がわずかにOECD平均を下回っているだけで、ほかの5要因はすべてOECD平均を上回っています。特に、教育・人材は大きく上回っているのが読み取れます。実に、不可思議極まりありません。労働生産性を規定する6要因のうち5要因が平均以上であるにもかかわらず、しかも、教育・人材に至ってはOECD+G20の46か国中で11位の位置にあるにもかかわらず、それでも、これら6要因の結果として出てくる労働生産性はOECD平均を大きく下回っているわけです。実に不可解・不思議な現象といわざるを得ません。

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続いて、上のテーブルは、6要因のサブカテゴリ別のスコアを取りまとめています。リポートp.11から サブカテゴリ別のスコア を引用しています。OECD平均を下回っているIT・デジタル化の要因を詳しく見ると、基盤(インフラ)と政府の2項目はOECD平均を大きく上回っており、産業化と付加価値総出力が、逆に、大きく下回っていることが明らかです。項目別に見て、政府部門は十分な役割を果たしている一方で、企業部門が大きく立ち遅れているといわざるを得ません。私のドメインである教育・人材についても、同様に、学校教育成績や社会人学力成績は極めて良好ながら、人材投資・育成や付加価値総出力が大きく平均を下回っています。明らかに、政府や学校や労働者の責任ではなく、企業の責任の範囲で日本の労働生産性が低い原因を作っているとしかいいようがありません。イノベーションの付加価値総出力がさらに悲惨な状況であることはテーブルから明らかです。リポートp.11でも、「研究開発に多くを投じている割にそれが付加価値創出に結びついていないことを意味する。」と指摘しています。企業の研究開発投資がうまくいっていないわけです。

公表されたリポートは、繰り返しになりますが、日本の人材の潜在的な優秀性を明らかにするものであり、企業部門において日本の労働力・人的資源を活かしきれていない実情を浮き彫りにしています。特に、イノベーション活動はひどい状況です。これは、いわゆる「選択と集中」の失敗によるものといわざるを得ません。選択先を失敗したわけではありません。逆に、イノベーションのためのは広くリソースを配分する必要があるのですが、成功しそうなところだけに集中的にリソースを配分しようとして失敗しているわけです。言葉を変えれば、「当たる宝くじを買う」ことを狙っているわけで、私には極めて非現実的な戦略に見えます。幅広い対象に向かって実施している教育と真逆の方向を志向するイノベーション戦略の転換も必要です。

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2023年12月26日 (火)

まずまず底堅い雇用統計と2%台の伸びが続く企業向けサービス価格指数(SPPI)

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率など、雇用統計が、また、日銀から企業向けサービス価格指数 (SPPI)が、それぞれ公表されています。いずれも11月の統計です。雇用統計では、失業率は前月から横ばいの2.5%を記録した一方で、有効求人倍率は前月から▲0.02ポイント低下し1.28倍となっています。SPPIはヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月と同じ+2.4%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについても前月と同じ+2.4%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

11月の求人倍率1.28倍、前月比0.02ポイント低下
厚生労働省が26日に発表した11月の有効求人倍率(季節調整値)は1.28倍で前月から0.02ポイント低下した。原材料費の高騰を受けて求人を控える動きが広がっており、堅調だった宿泊・飲食サービス業でも求人が大幅に減少した。
総務省が同日発表した11月の完全失業率は2.5%で前月と同水準だった。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。11月の有効求職者数は前月比0.2%上昇した一方、有効求人数は1.5%減少した。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月比で4.8%マイナスとなった。前年同月比の下がり幅は宿泊・飲食サービス業が最も高くマイナス12.8%で、製造業でも10.5%下がった。
宿泊・飲食サービス業は、新型コロナウイルス禍から回復傾向にあった22年11月の求人の伸びの反動が大きかった。
完全失業者数は169万人で、前年同月比で4万人増えた。就業者数は6780万人で56万人伸び、16カ月連続の増加となった。仕事に就かず職探しもしていない非労働人口は4055万人だった。21カ月連続で減少した。
企業向けサービス価格、11月2.3%上昇 宿泊けん引
日銀が26日発表した11月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は110.2と、前年同月比2.3%上昇した。上昇率は10月(2.3%)から横ばいだった。宿泊サービスの上昇や人件費転嫁の動きに支えられ、4カ月連続で2%台の上昇率を維持した。
企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービスの価格変動を表す。モノの価格の動きを示す企業物価指数とともに消費者物価指数(CPI)の先行指標とされる。調査対象となる146品目のうち価格が前年同月比で上昇したのは108品目、下落は22品目だった。
宿泊サービスはインバウンド(訪日外国人)など人流の回復で、前年同月比51.8%上がった。22年10月に始まった政府の全国旅行支援が各地で終わったことも、上昇率を押し上げる要因となった。情報通信も2.4%上昇した。システムエンジニア(SE)職の賃上げを価格に反映する動きが続いている。
国際航空貨物輸送は前年同月比36.9%下落した。ウクライナ情勢や新型コロナウイルス禍の落ち着きで便数が回復し、価格が下がってきた。下落幅は10月(40.7%下落)より3.8ポイント縮小した。


いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、いくつかの統計を並べましたので、やや長くなってしまいました。続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、前月から悪横ばいの1.30倍と見込まれていました。実績では、失業率は予想と同じ横ばいながら、有効求人倍率はわずかに悪化し、予測レンジの下限である1.29倍を下回りました。でも、総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計は改善がやや鈍い面もあるとはいえ、雇用は底堅いと私は評価しています。季節調整済みのマクロの統計で見て、昨年2022年年末12月から直近の11月統計までの期間で、人口減少局面に入って久しい中で労働力人口は+56万人増加し、非労働力人口は▲81万人減少しています。就業者は+49万人増の一方で、完全失業者は+6万人しか増加しておらず、これには積極的な職探しの結果の増加も含まれていると考えるべきです。就業者の内訳として雇用形態を見ると、正規が+28万人増の一方で、非正規が+17万人増ですら、わずかながら質的な雇用も改善しているといえます。先進各国がこのまま景気後退に陥らずにソフトランディングに成功すれば、我が国の雇用も大きく悪化するとは考えにくいのではないかと思います。ですので、問題は量的な雇用ではなく賃金動向です。その意味でも、来年の春闘が気にかかります。

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続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは上の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。モノの方の企業物価指数(PPI)の上昇トレンドは2022年中に終了した可能性が高い一方で、その名の通りのサービスの企業向けサービス物価指数(SPPI)はまだ上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、景気後退期を示しています。上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドライン指数の前年同月比上昇率は、今年2023年7月から+2%台まで加速し、本日公表された11月統計では+2.3%に達しています。もちろん、+2%前後の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性が高いながら、日銀の物価目標、これは生鮮食品を除く消費者物価上昇率ですが、物価目標の+2%近傍であることも確かです。加えて、下のパネルにプロットしたように、モノの物価である企業物価指数のうちの国内物価のグラフを見ても理解できるように、インフレ率は高いながら、物価上昇がさらに加速する局面ではないんではないか、と私は考えています。繰り返しになりますが、ヘッドラインSPPI上昇率にせよ、国際運輸を除いたコアSPPIにせよ、日銀の物価目標とほぼマッチする+2%程度となっている点は忘れるべきではありません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて11月統計のヘッドライン上昇率+2.3%への寄与度で見ると、宿泊サービスや土木建築サービスや機械修理などの諸サービスが+1.11%ともっとも大きな寄与を示しています。+2.3%のほぼ半分です。引用した記事にもある通り、特に、宿泊サービスは前年同月比で+51.8%と大きな上昇となっています。ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.54%、加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている石油価格の影響が大きい道路旅客輸送や国内航空旅客輸送や鉄道旅客輸送などの運輸・郵便が+0.22%のプラス寄与となっています。リース・レンタルについても+0.19%と寄与が大きくなっています。情報通信の価格上昇は、引用した記事にもある通り、システムエンジニア(SE)などの賃上げの反映という面があります。

最後にご参考まで、メディアで盛んに報道された1人当りGDPがG7で最下位、OECD加盟国で21番目という記事、例えば、朝日新聞「日本の名目GDP,割合最低 80年意向 1人あたりはG7最下位」日経新聞「22年の1人あたりGDP、G7で最下位 円安で順位下げる」などの記事の1次資料は、内閣府から記者発表された以下のリンクの通りです。

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2023年12月25日 (月)

リクルートワークス研究所による「採用見通し調査」の結果やいかに?

先週水曜日の12月20日、リクルートワークス研から「ワークス採用見通し調査」の結果が明らかにされています。大学生と大学院生の2025年新卒を対象とする調査です。
リポートによれば、新卒採用数が「増える」企業の割合は15.6%であり、「減る」は4.8%であった。「増える」から「減る」を差し引いたポイント差を日銀短観のようにDIと呼ぶと、DIは+10.8%ポイントで、2024年卒の+11.9%ポイントから減少しています。「増える」は2024年卒の15.5%から横ばいなのですが、「減る」が2024年卒の3.6%から+1.2%ポイント増加して2025年卒では+4.8%となり、DIが減少しています。リポートから 2025年卒者の新卒採用見通し のグラフを引用すると下の通りです。

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少し詳しく見ると、従業員規模別、業種別ともにすべての区分において「増える」が「減る」を上回っており、DIはプラスを記録しています。従業員規模別では、1000人未満企業+9.8%ポイントに比べて1000人以上の大規模企業+18.3%ポイントの方がDIが大きくなっています。業種別では、機械器具製造業(+15.5%ポイント)、情報通信業(+14.8%ポイント)、飲食店・宿泊業(+14.4%ポイント)、小売業(+14.2%ポイント)などでDIが大きくなっています。

大学生・大学院生の新卒採用は順調に推移しているようで、大学教員としては心強い限りです。

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2023年12月24日 (日)

メリークリスマス

メリークリスマス

ポケモンでクリスマスソングをどうぞ。

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2023年12月23日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、夫馬信一『百貨店の戦後史』(国書刊行会)は、すでに閉店・廃業した百貨店を対象に、華やかだった戦後の百貨店の歴史をひも解いています。田村秀男・石橋文登『安倍晋三vs財務省』(扶桑社)では、安倍晋三元総理大臣の政策決定過程における財務省との関係を、ややバイアスありながらも、解説しようと試みています。ジェフリー・ディーヴァー『真夜中の密室』(文藝春秋)は、ニューヨークを舞台に深夜に1人暮らし女性の部屋を解錠して忍び込むロックスミスにリンカーン・ライムが立ち向かうシリーズ第15作です。福家俊幸『紫式部女房たちの宮廷生活』(平凡社新書)は、『紫式部日記』から来年のNHK大河ドラマ主人公の紫式部の実像に迫ります。山口博『悩める平安貴族たち』(PHP新書)では、短歌から平安貴族の恋と職業、さらに、老いと死までの悩みを明らかにしようと試みています。鈴木宣弘『世界で最初に飢えるのは日本』(講談社+α新書)は、大きく低下した日本の食料自給率を向上させ、地政学的リスクや食料安全保障の観点から農業の振興と食糧生産の増加を目指す政策について考察しています。最後に、青木美希『なぜ日本は原発を止められないのか?』(文春新書)は、福島第一原発のメルトダウンなどの経験から地震多発国日本における原発のリスクを考え、どうして日本は原発の停止・廃止に踏み切れないのかについて議論しています。年末ですので、ベスト経済書の関係では、私の勤務校の大橋陽教授と中本悟教授が共編者として2023年7月に刊行した『現代アメリカ経済論』(日本評論社)が、『ダイヤモンド』のベスト経済書ランキングで第16位に入り、大学のサイトでも取り上げられています。私はこの共編者2人とも親しいのですが、つい昨日、共編者のうちのお1人と顔を合わせて、「ベスト経済書に入れておいてくれた?」と聞かれたので、「はい、3番目でしたが入れておきました」とお答えしておきました。同じ『ダイヤモンド』12月23-30日合併号のベスト経済書特集で、ランキング2番めに入ったブランシャール『21世紀の財政政策』を取り上げたページp.227に私の書評が数行ながら、末端に氏名入りで紹介されているらしいです。ご参考まで。人に教えてもらっただけで、いまだ、見本誌が届かないので、また、日を改めてベスト経済書を取り上げるかもしれません。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊でしたが、交通事故で3か月近く入院した後、6~11月に153冊を読みました。ですので、11月までに197冊、そして、12月第1週に6冊、第2週に6冊、先週第3週に5冊、そして、今週7冊で計221冊となりました。

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まず、夫馬信一『百貨店の戦後史』(国書刊行会)を読みました。著者は、ジャーナリストないしエディターだと思います。我が国現代史の書籍を何冊か取りまとめているようです。本書では、タイトルの通りに百貨店=デパートの戦後史に注目しています。戦後を6期に分割し、高度成長の1960年代、石油危機が日本経済の曲がり角を示唆していた1970年代、バブル前夜とバブル経済期の1980年代、バブル崩壊後の世紀末の時代に当たる1990年代、そして、2000年代と2010年代です。もちろん、百貨店の開店は大正ないし戦前期の昭和というお店も少なくありませんが、本書の特徴のひとつは、すでに閉店した百貨店だけを収録している点だと思います。すなわち、収録順に東急百貨店東横店(東京都渋谷区)、前三百貨店(群馬県前橋市)、伊万里玉屋(佐賀県伊万里市)、丸正(和歌山県和歌山市)、中合福島店(福島県福島市)、岡政/長崎大丸(長崎県長崎市)、棒二森屋(北海道函館市)、松菱本店(静岡県浜松市)、土電会館/とでん西武(高知県高知市)、五番舘/札幌西武(北海道札幌市)、小林百貨店/新潟三越(新潟県新潟市)、大沼山形本店(山形県山形市)となります。冒頭の序章で、2020年3月末日を持って閉店する東急百貨店東横店から始まるのですが、ハッキリいって、この東急百貨店東横店を除いて、私は知らない百貨店ばっかりです。首都圏の一都三県、関西の京阪神、名古屋圏の百貨店はほとんど入っていません。私が見知っている唯一の例外は、長崎大学に2年間単身赴任していましたので、長崎大丸だけです。お給料の振込みを長崎地場の地銀ではなく、東京勤務時のメガバンクにしていましたので、長崎市内唯一のそのメガバンクの支店の近くに長崎大丸があったことを記憶しています。なお、百貨店の名称から理解できる通り、大丸と西武が見られるくらいで、高島屋やそごう、ほかの都市部を走る電鉄系の百貨店はみられず、鉄道系も含めて地場の百貨店が中心となっています。そして、本書のもうひとつの特徴としては、物販の面から売上げや消費だけに着目するのではなく、地域の雇用の場としての働いていた人々にも目を配り、あるいは、イベントや催し物、また、食堂や屋上のミニ遊園地としての文化的な要素にも大いに着目しています。地味なオフィス勤務と違って、百貨店はそれなりに華やかな職場でしょうし、客としてお出かけするにしても、当時は、それなりに着飾って行くべき場所だったような気がします。もっとも、私個人としてはそれほど裕福な家庭の出身ではありませんでしたから、たぶん、私の父親はデスクワークなんてしたこともないくらいでしたから、実体験として百貨店に着飾って出かけた記憶はほとんどありません。昭和初期に地域の期待を背負って県知事や市長、あるいは経済界の重鎮を招いて開店セレモニーを挙行し、その後、敗戦を経て高度成長期に復興したとしても、1970年代の2度に渡る石油危機でダメージを受け、1980年代後半のバブル経済期に一息ついたものの、バブル崩壊後から長期に渡って百貨店の売上げは低迷を続けます。1990年代後期からのデフレ経済、2008年のリーマン証券の破綻、そして、2020年の新型コロナウィスル感染症(COVID-19)パンデミック、などなど、たんねんな資料の分析とインタビューに基づいて百貨店の戦後の歴史をひも解いています。歴史資料としての価値も十分あり、本書冒頭の20ページ近くはカラー図版ですし、本文中も、いくつかの例外を除けば、見開き右ページに本文、左ページにモノクロの図版、という構成になっています。最後の最後に、どうでもいいことながら、太田愛子『天井の葦』でひとつのカギとなる山手線の上を走るケーブルカーの図版が収録されています。これはこれで感激しました。

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次に、田村秀男・石橋文登『安倍晋三vs財務省』(扶桑社)を読みました。著者は、日本経済新聞と産経新聞のジャーナリストです。タイトルなどから軽く想像できることと思いますが、ひたすら、安倍晋三元総理大臣を持ち上げて、財務省をディスっています。ネットスラングで「アベガー」というのがあり、安倍元総理やその支持者などに対して脊髄反射的な嫌悪や反対を示す人々だと私は認識していますが、本書ではその真逆な認識が示されています。私がネットで見かけた範囲では「アベガー」に対して、「アベノセイダーズ」というのがありますが、これは「アベガー」の意見を皮肉交じりに批判する人々であって、本書のように手放しで褒め称える人々とは少し異なる印象があります。私自身は、極めて大雑把に、アベノミクスと呼ばれた経済政策は概ね評価しています。世界的にもリベラルな経済政策でしたが、キチンとした再分配政策が欠けていました。したがって、格差が広がりました。他方で、私の専門外ながら、政治外交的には右傾化が進んで、改憲を目指していたようですし、国内も世界も分断が広がって、その傾向を見ながら火に油を注ぐような政策であったとも批判も少なくありません。ですので、本書を読むとすれば、それなりの大きなバイアスが本書には含まれている点を注意すべきです。「vs財務」というタイトルですから、経済を中心に見ると、よくいわれるように、経済学には人間がほとんど出てきません。需要と供給で価格と数量が決まるという、お決まりのミクロ経済学から始まって、ケインズ的なマクロ経済学でも財政政策や金融政策は、特に、前者の財政政策は何らのバイアスない賢人の決定というハーベイロード仮説に基づいて、最適な政策決定がなされる、ということになっています。まあ、霞を食って生きているというにかなり近い経済学なのですから、本書では現れませんが、例えば、モジリアーニ=ミラーの定理によれば、税や規制などの歪みがなければ、株式発行も、社債発行も、銀行借入れもすべて資本コストは同じ、ということになりますし、効率的市場仮説が成り立って、強い効率性が実現できていれば、資産運用においてインサーダー情報を持ってしても平均以上のリターンを上げることは不可能、ということになります。しかし、実際には政策運営や投資運用は人間がやっているのであり、その上に、組織を通じた行動により歪みが生じます。本書では、ひたすら安倍元総理が正しい判断を下して、それを阻害するのが財務省、という結論が先になっているような気がしてなりません。カリスマ的な指導者でしたから、宗教的なまでの指導性があるのは不思議でもなんでもありませんが、例えば、p.250からの世間の世襲批判に対する反論などは、疑問を持つ読者も決して少なくないような気がしました。その意味で、あくまで常識的な判断力を持って読み進むべき本である、と私は結論しておきたいと思います。

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次に、ジェフリー・ディーヴァー『真夜中の密室』(文藝春秋)を読みました。著者は、ミステリ作家です。いくつかのシリーズがあり、本書はニューヨークを舞台に四肢麻痺の名探偵であるリンカーン・ライムを主人公とする最新刊です。ほかに、キャサリン・ダンスのシリーズとか、新しいところではコルター・ショウのシリーズもあるのですが、このライムのシリーズの作品が一番多いと思います。出版社ではなく、どこかのサイトで長編としては本書が15作目、とありました。ソースは明らかではありませんし、私が数えたわけでもありませんが、まあ、それくらいか、という気がします。ミステリ作家としては、ツイストというひねりを加えて、ラスト近くでどんでん返しを持ってくるストーリー展開を得意にしているといわれています。ということで、本書では、ニューヨークの1人暮らしの女性、当然ながら、厳重に鍵のかかった部屋で寝ている女性の部屋に侵入し、住人に何らの危害を加えることもなく、貴重品ではなくちょっとした物品を盗むだけで、すなわち、クッキーを食べたり、ワインを飲んだり、包丁を盗んだり、その上で、破った新聞紙に書いたメッセージを残して去って行くロックスミスと名乗る解錠師を相手にします。同時に、ニューヨークのギャングの大物の裁判で失態を演じたライムは市警のコンサルタントを解任された上に、警官との連絡を禁止されたりもします。このロックスミスと名乗る解錠師は、いわゆる粗暴犯でないのはいうまでもありませんが、何かにつけてウォッチメイカーと対比されます。ライムのライバル、というか、闇の芸術家、頭が良くて戦術に長けている、などと2人並べて称されます。ライム・シリーズの前作『カッティグ・エッジ』は2019年でしたから、新型コロナウィスル感染症(COVID-19)パンデミック前、ということになり、その後一定の期間が経過していることから、いろんな発展形が本作品では示されています。ZOOMでオンライン会議をしたり、といったのは当たり前ですし、ライムについては身体的にはかなり動く部位が増えているような気がします。私としては、前作の『カッティング・エッジ』よりは出来がよくって面白かった気がします。でも、このリンカーン・ライムのシリーズやキャサリン・ダンスのシリーズは、いわゆる頭脳戦で展開していくのですが、やや方向性の違ったコルター・ショウのシリーズがこの先も続くようであれば、そちらも気にかかるところです。

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次に、福家俊幸『紫式部女房たちの宮廷生活』(平凡社新書)を読みました。著者は、早稲田大学の研究者であり、ご専門は平安時代の文学・日記文学だそうです。来年のNHK大河ドラマの主役は紫式部であり、当然ながら、書店や出版社では紫式部やその文学作品である『源氏物語』を特集して、いろいろと出版してくれています。私なんぞは、まんまとそれに引っかかって、11月11日には倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社現代新書)と繁田信一『『源氏物語』のリアル』(PHP新書)をレビューし、今日は今日で本書なんぞを取り上げているわけです。紫式部や『源氏物語』に着目する場合、文学から解き明かすのと、歴史からひも解くのと2通りあると思いますが、本書は前者の文学から考察を進めています。ということで、本書では、冒頭章で紫式部の生立ちなどの個人に着目し、続いて女房というお役目について考え、そして、『紫式部日記』から本題の紫式部とその女房生活を追っています。女房というのは、天皇または高位の貴族に仕える女性で、語義からは部屋を与えられていたのだろうと思います。紫式部なんぞは中宮彰子に仕えていたのですから、今でいえば宮内庁勤務の侍従、国家公務員になぞらえることも出来そうです。主たる役目は中宮彰子の文化的な素養を高め、天皇のお渡りを増やして懐妊の確率を高める、というのが正直なところでしょう。おそらく、中宮の周囲の文化的なサロンの格調を高めていたことと思います。ですから、中世欧州で、貴族や金持ちの女性に仕えるコンパニオンという職業がありましたが、そういった女性の職業の日本的、あるいは、より高位貴族的なものではなかったか、という気がします。本書では、紫式部による『源氏物語』の執筆が先に始まっていて、それに目をつけた藤原道長が中宮彰子の女房としてスカウトした、というふうに解釈しています。年代的にもそうなのだろうと思います。当然のことながら、執筆に最適な環境が与えられ、墨・硯・筆に加えて、料紙なども最上のものが用意されていたものと思います。そういった恵まれた仕事の環境ながら、本書などによれば、中級貴族出身の紫式部は気詰まりで仕方なく、なるべく目立たぬように腐心していた、というように解釈されているようです。果たして、NHKの大河ドラマやいかに?

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次に、山口博『悩める平安貴族たち』(PHP新書)を読みました。著者は、いくつかの大学を歴任され退職された後、現在はカルチャースクールなどで人気を博している研究者のようです。本書でも冒頭に来年のNHK大河ドラマを意識して、『源氏物語』からお話が始まっています。ただ、タイトル通りに、『源氏物語』に限定することなく、幅広く平安貴族の「悩み」について取り上げています。しかも、その悩みについて単価を示すことにより実例を持ち出して、とても判りやすい解説がなされています。もちろん、悩みは平安貴族でなくても現代人でも尽きぬわけで、まず、やや『源氏物語』や紫式部を意識して、第1章は女房生活のお仕事や恋の悩みから始まって、第2章で女流文学に癒やされる女性たち、第3章では男性に目を転じて出世競争に着目し、第4章では男性の恋の悩み、第5章では男女を問わずロイの悩みについて、第6章で人生最後のステージの病と死について、それぞれ議論を展開しています。繰り返しになりますが、冒頭章では紫式部や『源氏物語』を意識して、清少納言に対する紫式部の批判を取り上げつつも、それでも、「香炉峰の雪」ではありませんが、文学には漢文の素養が必要であったと指摘しています。私も、『源氏物語』を読んだ時に、すこし「オヤ」と思ったのは、夕霧の教育については、漢文を中心に据えるとの光源氏の考えを展開していた点です。まあ、当時のことですから、真名の漢文は男性、仮名の和文は女性、ということだったのでしょうし、国際関係で必要とされるのは現在の英語と同様の国際語の地位を占めていたのが中国語で漢文だったのでしょう。ですので、『和漢朗詠集』のような書物もありますし、仮名で物語を書く女性でも真名の漢文の素養が必要だったのは、ある意味で、当然なのかもしれません。ただ、それを清少納言がひけらかすのを紫式部は批判したのだろうと思います。まあ、男性、特に中級以下の貴族の男性が官位を求め、官職を求め、結果的に、金銭を求めるのは現在と変わりないように私は受け止めました。男女を問わず、老いや死についてもご同様かと思います

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次に、鈴木宣弘『世界で最初に飢えるのは日本』(講談社+α新書)を読みました。著者は、官界の勤務を経て、現在は東京大学の研究者です。本書のタイトルから理解できるように、現在の我が国の食料安全保障について極めて強い危機感を持って、我が国の食料自給率の向上の必要性などを議論しています。昨年2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻以来、エネルギーや食料品の値上がりが激しいのは誰しも実感しているところですが、もちろん、値上がりは需要と供給のバランスに依存するとはいえ、量的に食料が不足する事態がどこまで現実的なのか、あわせて、来年になれば授業で農業を取り上げますので、その勉強も兼ねて読んでみました。ただ、私は、世間の能天気なエコノミストとは違って、食料は比較優位に基づいて安いところから輸入すればいい、とだけ思っているわけではなく、農業が一定の公共財的な役割を果たしていることからも、何らかの補助を出してでも農業生産・食糧生産の増産は必要と従来から考えています。農業経済学は経済学部と農学部の両方に講座が置かれている場合が多いと思いますが、生産上の農業の特徴を工業を基準にして考えると、(1) 生産に要する期間が長く、季節性が高い、(2) 気候をはじめとする自然条件の影響が大きい、(3) 収穫逓減が概ね成り立ち、規模の経済はほぼほぼない、に対して、生産物である農産物の特徴として、(1) 統一的な規格の適用が困難、(2) 腐ったり傷んだりしやすく、保管や輸送が高コスト、(3) 国民生活上の必要性が極めて高いが、価格弾力性や所得弾力性が低い、といった特徴があります。ですので、標準的な経済学とは少し違った経済学の適用が必要である、と私は考えています。前置きがとっても長くなりましたが、本書のレビューに戻りますと、まず、本書の第1章では食の10大リスク、というタイトルなのですが、何をもって10大リスクと数えているのかは別にして、ロシアのウクライナ侵攻などの地政学的リスク、昨今の気候変動による異常気象のリスク、供給と価格の両面からのエネルギーのリスク、食料としての安全性のリスク、輸入途絶ないし輸入価格高騰のリスク、などが上げられています。単純に農作物だけではなく、国内生産に必要な種子の供給についても不安があると指摘しています。そして、日本の食料自給率低下の大きな原因は、輸入自由化と食生活改変政策であると分析し、最後に、農業再興政策として、農業保護の強化をはじめとして、ローカルフード法により、より地域に密着した農業と食の安全の徹底が必要、と結論しています。私の専門外でまだまだ勉強せねばならない分野で、100%の理解にはほど遠いのですが、私自身としては決して現在の日本の農業が過保護にされているわけではなく、いっそうの農業保護強化が必要であると考えていますし、もう少し自分自身でよく考えて来年の授業に臨みたいと思います。

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最後に、青木美希『なぜ日本は原発を止められないのか?』(文春新書)を読みました。著者は、ジャーナリストです。2011年3月の大地震、そして、津波、福島第一原発のメルトダウンにより地震多発国日本における原発の危険性が改めて認識されながら、その後も、原発稼働年数の延長、また、福島汚染水の海洋放出などなど、原発廃止に舵を切ったドイツなどと比較して、日本では原発容認の姿勢が強すぎると私は考えているのですが、そういった疑問に適切に回答してくれる出版物です。本書は7章構成であり、第1章で、福島現地の復興の現状について、放射能の影響でさっぱり進んでいない現状を報告し、第2章から第3章で日本に原発が導入された歴史的経緯をあとづけて、第4章から本格的なリポートが始まります。まず、第4章では原子力ムラの権力とカネの構造について、原子力ムラの村長は内閣総理大臣であると喝破し、第5章で核兵器開発と原発の関係、第6章では原子力の安全神話について、そして、最後の第7章では原発ゼロで生きる方法について、ドイツやイタリアの例を引きながら考察を進めています。私はこういった物理学的な安全性についてはシロートですし、そういった場合は専門家の意見に従う方なのですが、原発についてだけは余りに専門家の見方の標準偏差が大きくて差がありすぎるため、自分自身でNoと考えることにしています。単純にいうと、原発を容認すべき根拠が見当たらないからです。経済学には、私の嫌いなシカゴ学派ながら、「規制の虜」という理論があります。規制する政府よりも、規制される業界・企業の方に情報が豊富で情報の非対称性があるため、規制する政府の意思決定がいくぶんなりとも、規制される業界や企業に取り込まれてしまう、あるいは、無能力化する、という趣旨です。これを以下の論文に取りまとめたのはシカゴ大学のスティグラー教授ですが、元来は、規制緩和や規制撤廃の理論的根拠を与えよう、という乱暴な議論でした。でも、規制をなしにして原発を自由に建設するのはとんでもないことで、とても国民のコンセンサスは得られません。ですから、原発を止める、という選択肢が有力だと私は考えています。原発なしでもカーボン・ニュートラルには無関係、というか、原発あってもカーボン・ニュートラルは無理筋ですし、原発がなくても電力需要は再生可能エネルギーで供給可能にするのが政府の役割であろうと考えます。そういった役割を放棄して電力会社のいうがままにさせてしまうのが「規制の虜」であると考えるべきです。
Stigler, George (1971) "The Theory of Economic Regulation," Bell Journal of Economic and Management Science 2(1), Spring 1971, pp.3-21

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2023年12月22日 (金)

上昇率が大きく縮小した11月の消費者物価指数(CPI)をどう見るか?

本日、総務省統計局から11月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+2.5%を記録しています。前年比プラスの上昇は27か月連続ですが、先月10月統計の+2.9%のインフレ率からは上昇幅が大きく縮小しています。+3%を下回る上昇が続いていますが、日銀のインフレ目標である+2%をまだ上回る高い上昇率での推移が続いています。ヘッドライン上昇率も+2.8%に達している一方で、エネルギーや食料品の価格高騰からの波及が進んで、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+3.8%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価11月2.5%上昇 伸び率2カ月ぶり縮小
総務省が22日発表した11月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が106.4となり、前年同月比で2.5%上昇した。食料品の価格転嫁が一服し、伸び率は2カ月ぶりに前月から縮小した。22年7月の2.4%以来16カ月ぶりの低水準となる。
QUICKが事前にまとめた上昇率の市場予測の中央値は2.5%で同じだった。
前年同月比の上昇は27カ月連続。日銀の物価目標である2%を上回る水準での上昇が続く。10月の上昇率は2.9%だった。
生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は3.8%上昇した。前月からの伸び率の縮小は3カ月連続となる。
生鮮食品を含む総合指数は2.8%上がった。猛暑による生育不良で上昇していたトマトやブロッコリーなどの価格が落ち着き、伸び率は2カ月ぶりに縮んだ。
総務省によると、政府の電気・ガスの料金抑制策がなければ、生鮮食品を除いた総合指数の上昇率は3.0%だった。政策効果で物価の伸びを0.5ポイント抑えていたことになる。
品目別では生鮮食品を除く食料品が前年同月比で6.7%上昇と10月の7.6%から伸び率を縮めた。伸びの縮小は3カ月連続となる。鶏卵は26.3%、外食のフライドチキンは19.2%それぞれ高まった。
全体をモノとサービスに分けると、サービスの上昇率は2.3%と10月から0.2ポイント伸びが加速した。消費増税の時期を除くと1993年10月の2.4%上昇以来30年1カ月ぶりの高水準となった。
宿泊料は62.9%上がった。観光需要の回復に加え、政府の観光振興策「全国旅行支援」が各地で終了していることが影響した。このほか予備校などの教育費が6.0%、自宅などの警備費が4.2%上昇した。
電気代は低下している。下落率は11月は18.1%で、10月の16.8%からマイナス幅が広がった。燃料価格の低下に加え、政府の料金抑制策が押し下げている。都市ガス代も16.8%下がった。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.5%の予想でしたので、実績の+2.5%の上昇率はまさにジャストミートしました。品目別に消費者物価指数(CPI)を少し詳しく見ると、まず、エネルギー価格については、2月統計から前年同月比マイナスに転じていて、本日発表された10月統計では前年同月比で▲10.1%に達し、ヘッドライン上昇率に対する寄与度も▲0.87%の大きさを示しています。先月の10月統計ではこの寄与度が▲0.75%ありましたので、11月統計でコアCPI上昇率が10月統計から▲0.4%ポイント縮小した背景は、こういったエネルギー価格の動向にあります。すなわち、11月統計ではエネルギーの寄与度差が▲0.13%に達しています。たぶん、四捨五入の関係で寄与度差は寄与度の引き算と合致しません。悪しからず。特に、そのエネルギー価格の中でもマイナス寄与が大きいのが電気代です。エネルギーのウェイト712の中で電気代は341と半分近くを占め、10月統計では電気代の寄与度が▲0.69%あったのが、11月統計では▲0.75%に拡大し、▲0.06%ポイントの寄与度差を示しています。統計局の試算によれば、政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の影響を寄与度でみると、▲0.49%に達しており、うち、電気代が▲0.41%に上ります。他方で、政府のガソリン補助金が縮減された影響で、ガソリン価格は7月統計から上昇に転じ、直近の11月統計では+3.9%となっています。中東の地政学的なリスクも高まっています。すなわち、ガザ地区でのイスラエル軍の虐殺行為、親イラン武装組織フーシによる商船の襲撃なども、今後、どのように推移するかについても予断を許しませんし、食料とともにエネルギーがふたたびインフレの主役となる可能性も否定できません。なお、食料について細かい内訳をヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、コアCPI上昇率の外数ながら、生鮮野菜が+0.20%、生鮮果物が+0.17%の大きな寄与を示しています。引用した記事にもあるように、猛暑の影響と見られます。コアCPIの中では、調理カレーなどの調理食品が+0.28%、アイスクリームなどの菓子類が+0.25%、フライドチキンなどの外食が+0.19%、牛乳などの乳卵類が+0.18%、食パンなどの穀類も+0.17%、などなどとなっています。

何度も書きましたが、現在の岸田内閣は大企業にばかり目が向いていて、東京オリンピックなどのイベントを開催しては電通やパソナなどに多額の発注をかけましたし、物価対策でも石油元売とか電力会社などの大企業に補助金を出しています。こういった大企業向けの選別主義的な政策ではなく、たとえ結果としては同じであっても、国民に対して出来るだけ普遍主義的な政策を私は強く志向しています。物価対策であれば、例えば、消費税減税・消費税率引下げ、あるいは、物価上昇に見合った賃上げを促す政策が必要であると私は考えます。

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2023年12月21日 (木)

リクルートによる11月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

週火曜日12月26日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる11月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの募集時平均時給の方は、前年同月比で見て、今年2023年に入って8~9月と+1%台の増加が続いていましたが、10月には+2.3%増となった後、11月も+2.5%増を記録しています。しかし、これくらいでは+3%近い消費者物価指数(CPI)の上昇率には追いついておらず、実質賃金はマイナスと想像されますので、もう一弾の伸びを期待してしまいます。でも、時給の水準を見れば、一昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。他方、派遣スタッフ募集時平均時給の方も10~11月には+2%を上回る増加を示し、直近の11月には+2.3%増に達しています。
まず、三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、11月には前年同月より2.5%、前年同月よりも+29円増加の1,178円を記録しています。職種別では、「フード系」(+49円、+4.5%)、「販売・サービス系」(+40円、+3.6%)、「営業系」(+40円、+3.4%)、「製造・物流・清掃系」(+20円、+1.7%)、「事務系」(+12円、+1.0%)で上昇を示した一方で、「専門職系」(▲3円、▲0.2%)だけは小幅に減少しています。なお、地域別では関東・東海・関西のすべての三大都市圏で前年同月比プラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、11月には前年同月より+2.3%、+37円増加の1,654円になりました。過去最高額だそうです。職種別では、「IT・技術系」(+83円、+3.8%)、「製造・物流・清掃系」(+39円、+2.9%)、「営業・販売・サービス系」(+30円、+2.0%)、「オフィスワーク系」(+25円、+1.6%)、「クリエイティブ系」(+10円、+0.5%)で上昇を示した一方で、「医療介護・教育系」(▲22円、▲1.5%)だけは減少を示しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。

アルバイト・パートや派遣スタッフなどの非正規雇用は、従来から、低賃金労働とともに「雇用の調整弁」のような不安定な役回りを演じてきましたが、ジワジワと募集時平均時給の伸びが縮小しています。我が国景気も回復・拡大局面の後半に差しかかり、雇用の今後の動向が気がかりになり始めるタイミングかもしれません。

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2023年12月20日 (水)

2か月連続で赤字を記録した11月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から11月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比▲0.2%減の8兆8195億円に対して、輸入額は▲11.9%減の9兆5965億円、差引き貿易収支は▲7769億円の赤字を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

貿易赤字2カ月連続、11月7769億円 赤字幅は62.2%縮小
財務省が20日発表した11月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は7769億円の赤字だった。赤字は2カ月連続で、赤字幅は前年同月に比べて62.2%縮小した。資源高が落ち着いて輸入額が減った。
全体の輸入額は9兆5965億円で11.9%減った。減少は8カ月連続。輸出額は8兆8195億円と0.2%減り、3カ月ぶりに減少に転じた。
輸入は原油が1兆832億円で11.5%減、液化天然ガス(LNG)が4938億円で34.1%減、石炭が4132億円で48.0%減となり、資源関連が全体を押し下げた。
原油はドル建て価格が1バレルあたり93.8ドルと前年同月から6.5%下がった。円建て価格は1キロリットルあたり8万8741円と4.0%下落した。
地域別にみると米国が1兆101億円で3.5%減、アジアが4兆6530億円で6.7%減だった。
輸出は半導体等製造装置が2833億円で10.6%減少した。米国向けハイブリッド車など自動車や半導体等電子部品は増えた。
地域別では米国向けが1兆8144億円で5.3%増、アジア向けが4兆6023億円で4.1%減だった。
11月の貿易収支は季節調整値でみると4088億円の赤字となった。輸入が前月比で2.7%減の8兆9762億円、輸出が1.8%減の8兆5673億円だった。赤字幅は18.4%縮小した。

やたらと長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、𥬡兆円近い貿易赤字が見込まれていて、予測レンジの上限、というか、もっとも赤字額の小さい額が▲8878億円でしたので、この上限を超えた小さな赤字、ということになります。ただ、それほど大きなサプライズではなかった気がします。他方、引用した記事の最後のパラにあるように、季節調整済みの系列の統計で見て、まだ11月統計でも赤字幅は縮小したとはいえ▲4000億円を超える赤字が継続していることも確かです。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額の伸びではなく輸入額の減少が貿易赤字縮小の原因です。貿易赤字が続いていますが、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。ただ、私の知る限り、少なくないエコノミストは貿易赤字は縮小に向かうと考えている可能性が十分あります。
11月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく減少しています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲7.8%減、金額ベースで▲11.5%減となっています。この差は単価の低下です。LNGは原油からの代替が進んだのか、数量ベースでは▲3.9%減ながら、金額ベースでは▲34.1%と大きな減少となっています。価格は国際商品市況で決まる部分が大きく、そこでの価格低下なのですが、少し前までの価格上昇局面でこういったエネルギー価格に応じて省エネが進みましたので、原油からの代替が進んだ可能性のあるLNGは減少幅が原油及び粗油ほど大きくはないとしても、こういったエネルギーの輸入については価格と数量の両面から輸入額が減少していると考えるべきです。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では+10.7%増となっている一方で、金額ベースでは▲11.8%減と単価に従って輸入額が減少しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+9.0%増、金額ベースでは+16.3%増と大きく伸びています。半導体部品などの供給制約の緩和による生産の回復が寄与しています。自動車や輸送機械を別にすれば、一般機械▲10.2%減、電気機器▲0.3%減と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーの輸出額はやや停滞気味です。ただし、こういった我が国の一般機械や電気機械の輸出の停滞はソフトランディングに向かっている米国をはじめとする先進各国に起因するものではなく、むしろ、11月統計を見る限り、中国向け輸出額の減少が寄与してい可能性があります。すなわち、例えば、北米向け輸出額は前年同月比で6.6%増、西欧向けも+1.1%増と伸びている一方で、中国向けは▲2.2%減を記録しています。11月単月の統計ながら、北米向け輸出が1.9兆円、西欧向けが1.0兆円に対して、中国向け輸出は1.6兆円に達していますので、不動産業界も含めて中国の景気動向が気にかかるところです。

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2023年12月19日 (火)

帝国データバンクによる「2023年冬シーズン クリスマスケーキ価格調査」の結果やいかに?

やや旧聞に属する話題ながら、12月5日に、帝国データバンクから「2023年冬シーズン クリスマスケーキ価格調査」の結果が明らかにされています。昨日に続いて、季節の飲み食いの価格ということで2日連続で注目しています。

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上の図表は、リポートから クリスマスケーキの価格推移と値上げ幅2022・23年比較 を引用しています。昨年2022年から2023年にかけての物価上昇の影響で、というか、物価上昇のものによりクリスマスケーキも値上がりをしています。2022年は前年比で+204円、+5.2%の上昇に過ぎませんでしたが、今シーズンは+325円、+7.8%に及んでいて、値上げ幅も上昇率も昨シーズンを上回っています。エネルギー価格は一応、落ち着きを見せましたし、政府の物価対策によって石油元売や電力会社への補助金により、価格の安定が図られていましたが、クリスマスケーキをはじめとする食料品の値上がりはまだ続いています。リポートでも、「鶏卵、砂糖や牛乳など、主要原材料の多くが足元で前年比1.2倍前後の値上げとなったほか、猛暑による植栽遅れといった影響を受けたイチゴは最大で1.5倍超に高騰している」と指摘しています。ある意味で、価格転嫁が順調に進んでいるのかもしれませんが、賃金が物価上昇に追いつかない中で、リポートでも、「値上げ疲れ」という言葉で食料品値上げの限界を示唆しています。消費税率引下げは政策オプションにならないんでしょうか?

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2023年12月18日 (月)

リクルートのホットペッパーグルメ外食総研による忘年会・新年会のアンケート調査結果やいかに?

リクルートの外食市場に関する調査・研究機関であるホットペッパーグルメ外食総研が、先週金曜日の12月15日、忘年会・新年会の消費者アンケート調査の結果を明らかにしています。それによれば、「アフターコロナの忘・新年会への参加回数23.4%が昨年度より『増加しそう』予算は1回当たり平均4,685円で、過去最高額を予測」とのことです。まず、リクルートのサイトから調査結果のポイントを3点引用すると以下の通りです。

要約
POINT1. 今年度の忘・新年会への参加回数は昨年度より増加見込みの人が23.4%
POINT2. 予算(1回当たり)の想定は4,685円(前年比+159円)と過去最高額
POINT3. 「会社・仕事関係」の忘・新年会の予定は32.9%。顕著な回復傾向

回収数が1万件近くの9,849件に上っていますし、私の実感にも沿った結果だと受け止めています。プレスリリースから図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、プレスリリースから 忘・新年会への参加回数の見込み のグラフを引用すると上の通りです。「3圏」とは、首都圏・関西圏・東海圏の都市部であり、「昨年度より大きく増えそう」と「昨年度よりやや増えそう」の合計である増加派は計23.4%、対して、「昨年度より大きく減りそう」と「昨年度よりやや減りそう」の合計である減少派は計1.5%と、増加派が減少派を大きく上回っています。特に、性別年代別では、20代女性と40代男性で多くなっています。

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続いて、プレスリリースから 忘・新年会の1回当たりの参加費(支出実績)と想定予算(想定額) のグラフを引用すると上の通りです。今年の想定予算では、1回当たり「5,000円~6,000円未満」(35.7%)がもっとも多く、次いで「3,000円~4,000円未満」(19.2%)の割合が高くなっています。しかし、その差は大きいものがあります。また、今年度の平均想定予算は4,685円(前年比+159円)に上っています。

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最後に、プレスリリースから 参加する機会がありそうな忘・新年会の相手 のグラフを引用すると上の通りです。昨年や一昨年と比較して「家族・親族関係」がやや伸び悩んだ一方で、「会社・仕事関係」と「友人・知人関係」が伸びています。特に前者の「会社・仕事関係」の増加が大きく、平均的に30%を超えており、特に、30~50代の男性では「会社・仕事関係」が40%超となっています。

新型コロナウィスル感染症(COVID-19)の感染法上の分類変更もありましたし、今シーズンの忘年会・新年会は盛況のようです。

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2023年12月17日 (日)

ミスタードーナツに入ってコダックのドーナツで昼食にする

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今日ではなくて昨日なのですが、遅めのお昼でミスタードーナツに入って、ポケモンとコラボしたドーナツで昼食にしました。
実は、先日、大学の同僚教員からピカチュウのドーナツの写真が送られてきて、直後の週末に私も早速ミスドに行ったのですが、寝坊してしまって売切れ続出で悔しい思いをしていたところ、昨日になってようやく上の写真の通りコダックをゲットしました。同僚教員には早速写真を送り付けておきました。
今年も12月26日からドーナツ引換券が入った福袋の発売が始まります。昨年はいろいろと考えた末に買わなかったのですが、今年は買おうと予定しています。

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2023年12月16日 (土)

今週の読書は金融と貿易に関する経済書をはじめとして計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ベン S. バーナンキ『21世紀の金融政策』(日本経済新聞出版)では、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(Fed)議長を務めた著者が、金融政策の歴史を振り返りつつ、将来的な非伝統的金融政策にもスポットを当てつつ金融政策について論じています。遠藤正寛『輸入ショックの経済学』(慶應義塾大学出版会)では、本書で「チャイナ・ショック」と呼ぶ輸入ショックにより、我が国製造業の雇用と賃金がどのような影響を受けたのかについて、定量的な分析を試みています。夕木春央『時計泥棒と悪人たち』(講談社)は、大正時代を舞台にしたミステリ連作短編集であり、蓮野と井口が謎の解明に当たります。あさのあつこ『アスリーツ』(中公文庫)は、女子中学生が陸上競技を止め、名門進学高校Ⅱ入学してから射撃競技を始めて、とうとうトップアスリートとなる青春物語です。西村京太郎『近鉄特急殺人事件』(新潮文庫)は近鉄特急での毒殺事件などを伊勢神宮や宗教の歴史などを踏まえつつ、十津川警部が解き明かします。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊でしたが、先週8冊の後、今週ポストする冊を合わせて冊となります。

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まず、ベン S. バーナンキ『21世紀の金融政策』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、米国のエコノミストであり、米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FED)の議長を務めたことでも有名です。本書の英語の原題は 21st Century Monetary Policy であり、邦訳タイトルはそのままです。2022年の出版です。5部構成となっていて、第1部で20世紀の金融政策、といっても、ほぼほぼ米国の金融政策だけに焦点を当てて概観した後、第2部から第4部にかけて21世紀の金融政策を概観し、第2部では日本でリーマン・ショックと呼ばれていて、世界的にはサブプライム・バブル崩壊に端を発する世界金融危機に焦点を当て、第3部ではその後の新型コロナウィスル感染症(COVID-19)パンデミックに起因する景気後退、そして、第4部で将来展望を展開しています。まず、自慢話になりますが、私は日本のバブル経済末期の1990年初頭にごく短期間ではありますが米国の連邦準備制度理事会(Fed)のリサーチアシスタントとして経済モデル分析に基づくGreen Bookの作成の末端業務に携わったことがあります。当時はグリーンスパン議長の就任から間もないころでした。日本では新聞などの報道で今でも"FRB"と呼び慣わされているのですが、少なくともFed内部のエコノミストたちは自分の属する組織をFRBと呼ぶことはありませんでした。飲み会に行く時も"Leave Fed at 6."といった連絡が回ってきて、組織ないし建物としてはFedと称していました。しかし、本書でバーナンキ教授は組織・建物としてはFedを使い、理事会としてはFRBと呼び、使い分けています。末端のリサーチアシスタントには理事会は遠い存在でしたから、FRBは使いませんでしたが、そういうふうになっているんだ、と30年以上も前のことを思い返しています。いずれにせよ、FedとFRBに加えて、議決機関ないし決定機関としてFOMCを使い分けています。日銀に対して、政策委員会があるようなものです。ということで、自慢話が長くなりましたが、私が注目したのは今でも日銀が継続している非伝統的な金融政策手段に付いてのあバーナンキ教授の見方です。量的緩和(QE)とフォーワードガイダンスについては、Fedも実践しましたし、力強くかつ協調的に活用すれば「約3%の追加利下げに相当する」(p.371)と本書でも強調しています。しかし、もちろん、それ以外の非伝統的な政策オプション、マイナス金利やイールドカーブ・コントロールなどについてもFed内部の検討結果などを踏まえて、的確な評価がなされているように私は受け止めました。ただ、金融政策運営の基本となる点については、私には理解が及ばない点もいくつかありました。例えば、インフレには「自然インフレ率」はないが、失業率については長期的には「自然失業率」に収斂するというのは、どこまで実証的に理解されているのかは疑問です。至善失業率そのものではありませんが、インフレを加速させないという意味での失業率の下限は経済構造とともに変化しますし、失業率をその需給均衡の水準に一致させる自然利子率も変化します。本書では残念ながらまったく言及がありませんが、政府の政策決定のタイムスパンがかなり長期で場合によっては100年くらいある一方で、中央銀行の政策決定のタイムスパンは、おそらく、せいぜい長くても数年の景気循環1サイクル程度であろうと私は考えていますが、中央銀行の金融政策決定を考える場合、自然失業率への回帰をどのくらい視野に入れるべきかは議論あるところかもしれません。長くなりましたので、最後の興味の点として、中央銀行の独立という考え方についても、とても興味深い見方が示されています。すなわち、QE2の際に政治的な反発が強受かった仮説のひとつに「スケープゴート」理論があり、議会が中央銀行に付与している独立性は、政治的理由から議会が取りたくない政策や行動、必要ではあるものの不人気であるような政策や行動を中央銀行に引き受けさせる程度の独立性である、という見方にバーナンキ教授は共感を示しているように見えます。日本では、その昔に国会議員が大蔵省に押し付けていた役割かもしれない、と思ってしまいました。

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次に、遠藤正寛『輸入ショックの経済学』(慶應義塾大学出版会)を読みました。著者は、慶應義塾大学の研究者です。伝統的に、貿易理論は第1世代のリカードの比較優位論、第2世代のヘクシャー=オリーン・モデルの枠内で理解されていて、収穫一定とか完全競争とかのいくつかの前提の下で、国際貿易の拡大により先進国では熟練が高くて高学歴=高技能な労働が豊富に賦存すると仮定すれば、その高技能=高学歴=高賃金の労働者の賃金がさらに上昇し、低技能=低学歴=低賃金の労働者の賃金がさらに低下し、両者の賃金格差は拡大する、というストルパー=サムエルソン定理が成り立つとされています。第3世代のメリッツ・モデルはまだ雇用や賃金へ適用されていないように、私は不勉強にして、見ています。他方で、本書でも指摘している通り、低賃金国からの輸入は、理論を離れた実践的には、高賃金労働者の多い先進国の雇用を減らしたり、あるいは、賃金低下を招いたりする、という議論も指摘されます。典型的には、米国のトランプ前大統領がそういった議論を展開して、環太平洋パートナーシップ条約(TPP)から離脱したことは記憶に新しいところです。現在のバイデン米国大統領も、結局、TPPには復帰しませんでした。その意味で、本書が指摘するように、芸剤のバイデン米国大統領は、少なくとも、対中国通商政策はトランプ前大統領の方針を継承しているといえます。ほんしょでは、こういった輸入が我が国の製造業に対して、そうです、製造業だけなのですが、どういった雇用と賃金に影響を及ぼしているかを定量的に把握しようと試みています。第1章で基本的なモデルとデータを提示した後、第2章で雇用に対する影響を、第3章で賃金に対する影響を計測していて、このあたりがメインとみなされそうです。第4章で輸入ではなく海外生産、すなわち、オフショエリングにも焦点を当て、第5章で国内取引を通じた間接効果を考え、最終第6章でインクルーシブナ輸入のための政策を評価しています。まず、本書では輸入の雇用や賃金に対する効果をアセモグルらの論文に基づいて、直接輸入効果、間接輸入効果のほか、地域的な効果として再配分効果と総需要効果の4つの視点から考えています。ただ、著者は輸入が雇用現象にどの程度寄与したかを重視するのではなく、経路や効果の多様性を把握することの方が重要、と指摘しているのですが、実際の推計結果に基づけば、「チャイナ・ショック」と本書で読んでいる輸入増の効果により、製造業の雇用がそれなりのダメージを受けていることは確かです。これは実感にも合致します。ただ、地域ごとや産業ごとの差異は決して小さくなく、その多様な効果を分析するという結果が出ています。どうように、「チャイナ・ショック」は賃金を引き下げる方向の効果を持っている点も明らかにされています。加えて、輸入により従業員の⅔は年間給与が低下し、給与格差は16年間でさいだい6.8%拡大した、というストルパー=サムエルソン定理の実証結果も示しています。オフショアリングンについては、男女の性別と高卒までと大卒以上の学歴の4カテゴリーで分析していて、男性は残業を増加させて年間給与が増えたが、女性は残業を増やさず性別の格差は拡大した、との結果が示されています。最後の政策については、かなりお決まりの雇用の流動性に関する考えが示されていますが、本書では地域的な流動性についても着目しています。通常、使用者サイドが「雇用の流動性」を提唱する場合、日本的雇用慣行のひとつである長期雇用に基づいて同じ企業で働き続けることから、企業を転職することを指していることが多いと私は実感していますが、同じ企業の勤務を続けても地域感の流動性を内部労働市場の活用により実現することは十分可能です。輸入ショックに関しては、本書の分析で示されたように、地域感の違いが決して無視できないことから、長期雇用を維持しつつ地域間の流動性を企業内で実現するという視点は重要だと私は受け止めています。

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次に、夕木春央『時計泥棒と悪人たち』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ作家です。去年から今年にかけて、『方舟』や『十戒』が話題になったかと思います。なお、私は『方舟』の前の作品である『絞首商會』と『サーカスから来た執達吏』も読みました。ということで、本書はこの作者の作品のうち、私が読んだ初めての短編集です。短編を集めていますが、連絡短編集となっていて、『絞首商會』と同じで、ロシア革命後の大正時代を時代背景として、ホームズ役の蓮野とワトソン役の井口のコンビで謎解きに当たっています。すべてではないかもしれませんが、全般的に whydunnit に重点が置かれているように読めます。以下順に収録短編とそのあらすじです。6話の短編が収録されていますが、第3話の「誘拐と大雪」はタイトル通りに、誘拐編と大雪編に分割されていたりします。まず、「加右衛門氏の美術館」では老い先短い富豪が収集した美術品や骨董を集めて美術館を辺鄙な土地に建設し始めるのですが、その中に井口の父親が売却した欧州王室ゆかりの時計があり、蓮野と井口がその時計を盗みに入ります。どうして、富豪が美術館を建設し始めたのか、という whydunnit に焦点が当てられます。「悪人一家の密室」では、偏屈で悪人ばかりがそろった一家に、唯一常識人であった男性が密室で殺害されます。その密室自体の謎は蓮野がすぐに解き明かすのですが、どうして密室にしたのか、という whydunnit に注目です。加えて、殺害の動機がとても恐ろしい気がしました。「誘拐と大雪」では、井口の妻の姪が誘拐されます。あえて、銀行に行けない時間で身代金を要求した犯人が狙った意図が何なのかに注目し、加えて、誘拐された姪がどこにいるかも蓮野が謎解きをします。後編では、誘拐されていた姪を見張っていた犯人の1人が殺害されますが、もちろん、姪が殺人犯のハズもなく、その犯人を蓮野が謎解きするとともに、犯人が身代金として手に入れたがっていた金のホントの使い道が明らかにされます。「晴海氏の海外手紙」では、この作者のミステリのほぼほぼ全作品に何らかの登場をする晴海商事社長の晴海氏の妻が亡くなり、彼女宛てに外国からフランス語の手紙が届きます。ここで、晴海氏の素性や来歴がかなりクリアに明らかにされ、この作者の作品のファンには、その意味で必読かもしれません。もちろん、蓮野が手紙にまつわる謎を解き明かして、ひいては、晴海氏の妻にまつわる秘密も明らかにしますが、この秘密がとってもカッコいいです。「光川丸の怪しい晩餐」では、クローズドサークルの船上での殺人事件を蓮野と井口のコンビがとても論理的に解明します。この短編はさすがに whodunnit に重点が置かれていますが、殺人の動機がムゴい、というか、とっても強烈です。本格推理モノながら、心臓疾患とかがある方はパスするのも一案かという気すらします。「宝石泥棒と置き時計」は、何と、冒頭の短編に戻って、時計も含めていろんな装飾品につけられているルビーが盗まれる謎を蓮野と井口が解き明かします。whodunnit といえ、これもなかなかに論理的に解決、というか、謎が解き明かされます。全体として、各短編がなかなかに論理的に解決されるものが多く、その上に、時計に始まって時計に終わるなど、各短編の枠を超えて書籍としての完成度も高い連作短編集に仕上がっています。たとえが、判る人にしか判らないと思いますが、Art Pepper のアルバム Modern Art が Blues in に始まって、Blues out で終わっているような完成度です。はい、モダンジャズファンにしか理解できないと思います。申し訳ありません。最後に、私自身のこの作者の作品に対する今後の読書については、『方舟』と『十戒』の後継作品は読むかどうか、世間一般の評価などを参考にしつつ考えますが、この蓮野と井口のコンビの大正ミステリはできる限り優先順位高く読みたいと思います。

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次に、あさのあつこ『アスリーツ』(中公文庫)を読みました。著者は、人気の作家です。現代小説から時代小説まで幅広くご活躍です。特に、『バッテリー』や『ランナー』などのスポーツを中心に据えた青春物語のいい作品をいくつかモノにしている印象があります。この作品は、上の表紙画像を見ても理解できるように、射撃のアスリートを主人公にしています。アスリートの青春物語です。私の好きな青春物語のカテゴリーに入ります。しかも、というか、何というか、出版社の謳い文句によれば、初のライフル射撃部小説だということです。確かに、マイナーなスポーツかもしれません。ということで、主人公である結城沙耶は女子中学生から高校生になります。語り手は親友の松前花奈です。結城沙耶が中学2年生にして陸上部を退部して、松前花奈に誘われて、広島県内、というか、全国レベルでも屈指の進学校である大明学園高校を目指すところからストーリーが始まります。どうして、そんな有名進学校を目指すかといえば、通える範囲で射撃部のある高校だから、と松前花奈が説明します。高校入試対策についてはそれほど熱心な記述はなく、大明学園高校入学後、もちろん、2人は射撃部に入部します。童顔の監督の磯村辰馬に指導されて、結城沙耶はメキメキと実力を伸ばします。県内屈指の有力校で、昨年の全国大会でも好成績を収めた選手を集めた関谷第一高校との練習試合に臨んだりします。そして、あれよあれよという間に、全国でもトップレベルに達してしまいます。いいのかね、そんなに順調に実力を伸ばして、非現実的じゃないの、と私は考えなくもなかったのですが、競技人口がとても少ない分野ですので、そういった彗星のように現れる少女がいてもおかしくはないのか、という気もします。その昔の岩崎恭子のように中学生で金メダルを取った例がありましたし、最近では、スケートボードなどでローティーンのメダリストもめずらしくありません。ただ、順風満帆なストーリーではありません。そういって実力を伸ばすうちに、全国でも屈指の進学校ですから運動部がそれほど注目されるわけでもなく、高校内の先輩や友人と疎遠になったり、あるいは、イジメに近い嫌がらせを受けたりもします。そういったアスリート、というか、トップアスリートになる試練を主人公の結城沙耶は受けるわけで、飛び抜けた才能に対して周囲の接し方が違ってきたり、人間関係がよじれるといったリアクションがあるわけです。そのあたりは、読んでみてのお楽しみです。最後に、小説としては、やや中途半端な終わり方をしています。他方、マンガ化されていて、ソチラは私は読んでいません。ひょっとしたら、マンガの方がメインなのかもしれません。

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次に、西村京太郎『近鉄特急殺人事件』(新潮文庫)を読みました。著者は、人気のミステリ作家、トラベル・ミステリの名手であり、本書も十津川警部と亀井刑事が活躍する鉄道シリーズ、というか、地方鉄道シリーズです。殺人事件から始まります。まず、東京で、出版社に勤務する歴史雑誌の編集者である男性が刺殺されます。同棲していた会社同僚の女性が姿をくらましており、十津川警部がゆくえを追います。そして、京都発賢島行近鉄特急ビスタEXの車内で大学准教授が毒殺されます。この准教授は西洋史が専門ながら、日本史に関するテレビ番組で過激な意見を披露する出演者として広く知られていて、番組で伊勢神宮を貶める自説を主張する予定だったことが判明します。さらに、もう少し後で、この准教授の愛人である京都の女性も毒殺されます。十津川警部は容疑者の女性を伊勢神宮内宮の門前町であるおかげ横丁で発見しますが、何と伊勢神宮の巫女さんの姿で、第2の元寇として西からやってくる脅威に対抗して、伊勢神宮に向けてみんなで心をひとつにして祈念しようと呼びかけていました。ミステリですので、あらすじはここまでとします。何やら、ものすごくシュールというか、うまく表現できませんが、殺人事件と西からやってくる脅威に対する祈念と、さらに、そういった神々への信仰にまつわるお話と、さらにさらにで、さかのぼる神話の世界、すなわち、天照大神を祀る伊勢神宮に象徴される大和朝廷に対する出雲勢力からの「国譲り」もそれなりに詳細に取り上げられていますし、もちろん、太平洋戦争の際の宗教界の戦争礼賛への批判、などなど、伊勢神宮に関係するいろんなトピック、というか、宗教に関するうんちくがめいっぱい詰め込まれています。殺人事件の謎解きがほとんど霞んでいるとさえいえます。私もこの作者の鉄道シリーズのミステリをそれほど読んでいるわけではありませんが、特にどんでん返しがあるわけではなく、びっくりするようなトリックがあるわけでもなく、こういったシリーズなのかもしれません。まあ、何と申しましょうかで、別に近鉄特急で殺人事件が起こる必要もない、というか、主たる舞台は伊勢神宮であって、伊勢神宮に行くには京都からでも、名古屋からでも近鉄特急が便利、ということなのかもしれません。何はさておき、私は近鉄特急のファンでもありますので、この表紙には痛く感激した次第です。

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2023年12月15日 (金)

リクルートのブライダル総研による「恋愛・結婚調査2023」の結果やいかに?

今週火曜日の12月12日にリクルートのブライダル総研から「恋愛・結婚調査2023」の調査結果が明らかにされています。西暦の期数年に実施されている隔年の調査です。まず、リポートから調査結果のサマリーを5項目引用すると以下の通りです。

恋愛・結婚調査2023
  • 20~40代の未婚者の中で恋人がいる人の割合は 29.7%。男女共に交際経験なしの割合が増加
  • 恋愛イメージを探ると「恋愛するなら結婚のため」という価値観が20代男女の中で広がっている
  • 結婚意向は未婚者全体で減少。また、男女で比較すると女性の方が減少幅が大きい
  • 結婚したくない理由は男性は「金銭的理由」や「扶養の責任への負担」の理由が強く、女性は「行動や時間の制限」「必要性を感じない」ことが理由として高い
  • 「職場状況や働き方」と「結婚意向」に関係がある

日本の現在の少子高齢化の大きな原因の一つである非婚化や晩婚化について考える上で、恋愛観や結婚観を確認することは極めて重要ですし、加えて、私が相手にしている大学生の近未来を見るという意味もあって、リポートから図表を引用しつつ簡単に見ておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから 恋人がいる人の割合 を引用しています。というか、実際には、恋人がいない人の割合が強調されています。2017年からのデータを見て、年を追うごとに恋人がいない割合がジワジワと増加しており、特に、男性ではとうとう2023年調査で¾を超えました。昔ながらのお見合いから結婚に至るルートが年々狭まっている気がしますから、恋愛から結婚に至るルートが同様に狭まると、ますます非婚化が進む懸念が大きくなります。

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続いて、上のグラフはリポートから 結婚意向がある人の割合 を引用しています。女性にはそれなりに「結婚願望」のようなものが男性に比べれば高かったのですが、上のグラフでいえば「(いずれは)結婚はしたい」の割合がここ数年で急速に低下しているのが見て取れます。男性は恋愛せず、女性は結婚意向が低下する、という流れになっているのが調査結果から翌理解できると思います。

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続いて、上のグラフはリポートから 結婚したくない理由・男女別のTOP5 を引用しています。男女を通じたトップは「金銭的に余裕がなくなるから」36.4%で、その次が「行動や生き方が制限されるから」35.8%となっていて、3番めの「メリットを感じないから」は24.8%と大きく差を開けられています。性別に見ると上のグラフの通り、男性は「金銭的に余裕がなくなるから」、女性は「行動や生き方が制限されるから」が、それぞれトップとなっています。

前々から私が主張しているのは、日本は他の先進国に比較して、極端に婚外子が少なく、これはこれで望ましい美点だろうと私は考えていますから、少子化を反転させるためには男女が結婚に向かう、というか、目指す必要があると考えています。例えば、現在の岸田内閣が志向しているように、子供を産んでからの子育て対策ももちろん重要なのですが、その前の結婚を成立させるための独身者への何らかの政策も考慮されるべきではなかろうか、と感じます。

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2023年12月14日 (木)

2か月連続で増加した10月の機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から10月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+0.7%増の8587億円となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

10月の機械受注0.7%増 2カ月連続プラス、非製造業拡大
内閣府が14日発表した10月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は前月比0.7%増の8587億円だった。プラスは2カ月連続となる。
卸売業や小売業を中心に非製造業の発注が2カ月連続で増えた。製造業もプラスに転じた。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値の0.4%減を上回った。内閣府は全体の基調判断を12カ月連続で「足踏みがみられる」とした。
非製造業は1.2%増で、2カ月連続でプラスを確保した。業種別でみると卸売業・小売業の発注が29.0%伸びて全体を押し上げた。汎用コンピューターといった電子計算機のほか、変圧器や分電盤といったその他重電機の発注増が寄与した。
製造業は0.2%増で、2カ月ぶりの増加となった。「汎用・生産用機械」からの発注が8.9%増えた。ポンプなどの風水力機械などの需要が高まった。工作機械の発注が増えて「金属製品」も27.3%伸びた。
「その他製造業」も53.4%増えた。ボイラーやタービンなどの大型案件がけん引した。
「電気機械」は25.2%減った。半導体製造装置などの「電子計算機等」が低調だった。
SMBC日興証券の宮前耕也氏は「非製造業は新型コロナウイルス禍からの正常化に伴って需要回復が続いている。製造業は海外経済の不透明感などから伸び悩んでいる」と分析する。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比△0.4%減でした。しかし、予想レンジはかなり広く、上限は+3.4%増でしたので、実績の+0.7%増はやや上振れた印象ながら、もともとが単月での振れの大きな指標ですので、大きなサプライズはなかったと私は考えています。引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いています。12か月連続の据え置きだそうです。上のグラフで見ても、太線の移動平均で示されているトレンドで見れば、まだ下向きから脱しているわけではない可能性が読み取れると思います。事実、4~6月期▲3.2%減の2兆5855億円に続いて、7~9月期も▲1.8%減の2兆5385億円と2四半期連続で減少しています。ただ、受注水準としてはまだ8,000億円をかなり上回っており決して低くはありませんし、足元の10~12月期の受注見通しは+0.5%増の2兆5,506億円と見込まれています。
ただ、インフレ抑制のための金融引締めが進められた欧米先進国の景気減速により製造業への受注が停滞している一方で、インバウンドが本格的に増加し始めコロナ前の水準に近づきつつあることから非製造業では増加、という明暗が分かれています。本日公表された10月統計では、製造業が季節調整済みの前月比+0.2%増のの4092億円にとどまった一方で、船舶・電力を除く非製造業が+1.2%増の4500億円となっていて、10~12月期の受注見通しでも、製造業は前期比▲3.8%減の1兆1836億円、船舶と電力を除く非製造業は+4.8%増の1兆3656億円と見込まれています。もっとも、先行きに関してはそれほど単純ではありません。すなわち、欧米先進国で景気後退に陥ることなくソフトランディングに成功するようですから、輸出が回復して製造業が盛り返すことも十分ありえます。他方で、非製造業も、この先、インフレのダメージが内需に影響する可能性が決して低くないと私は考えています。

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2023年12月13日 (水)

3四半期連続で景況感が改善した12月調査の日銀短観をどう見るか?

本日、日銀から12月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは36月調査から+4ポイント改善して+9、また、大企業非製造業も+4ポイント改善の+27となりました。大企業製造業では2四半期連続の改善です。また、本年度2023年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+13.0%の大きな増加が見込まれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

景況感3期連続改善、中小もプラス圏浮上 12月日銀短観
日銀が13日発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、3ポイント改善してプラス12だった。改善は3期連続。中小企業製造業は6ポイント改善のプラス1と4年半ぶりにプラス圏に浮上した。価格転嫁の進展や自動車生産の回復を背景に、景気の回復基調を裏付ける結果となった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。12月調査の回答期間は11月9日~12月12日。回答率は99.3%だった。
大企業製造業の業況判断DIはQUICKが事前に集計した民間予想の中心値(プラス10)を2ポイント上回った。原材料コスト高が一服し、自動車生産の回復が進んだ。自動車は13ポイント改善しプラス28となった。金属製品が17ポイント改善し0に、非鉄金属が15ポイント改善しプラス12だった。
大企業非製造業はプラス30と9月調査から3ポイント改善した。新型コロナウイルス感染症の影響緩和や価格転嫁の進展を背景に7期連続の改善で、1991年11月調査以来の高水準となった。9月調査でプラス44だった宿泊・飲食サービスはさらに改善しプラス51と04年の調査開始以来の最高を更新した。小売は2ポイント改善しプラス26に、対個人サービスも4ポイント改善のプラス28だった。
規模別では中小企業の改善幅も目立った。中小企業製造業の業況判断DIはプラス1と9月調査(マイナス5)から改善した。大企業製造業の伸び(3ポイント)を上回る強さで2019年3月調査以来のプラス圏を回復した。中小でも16ポイント改善し0となった紙・パルプなど幅広い業種で価格転嫁の進展が聞かれたという。中小企業非製造業もプラス14と2ポイント改善した。
先行きは海外経済の減速への不安などから、製造業、非製造業を問わず悪化予想となった。大企業製造業は4ポイント悪化、大企業非製造業では6ポイントの悪化を見込む。人手不足や人件費高騰を懸念する声も多く、宿泊・飲食サービスは先行きで12ポイントの大幅悪化を見込む。
価格転嫁の進展が全体の景況感を底上げしたとみられるが、値上げの勢いは一服感が出ている。販売価格が「上昇」から「下落」をひいた販売価格判断DIはいずれも低下。大企業製造業は6ポイント低下のプラス26だった。中小企業は4ポイント低下の26、非製造業は2ポイント低下し25だった。
企業の消費者物価見通しはおおむね不変だった。1年後は前年比2.4%、3年後に2.2%、5年後は2.1%と2%を超える上昇率が続く予想となった。調査時の水準と比較した際の販売価格の見通しも1年後は2.6%、3年後が3.7%、5年後に4.4%と上昇が続く期待感が維持されているようだ。
企業の事業計画の前提となる2023年度の想定為替レートは全規模全産業で1ドル=139円35銭と9月調査の135円75銭から円安方向に修正された。

いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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昨日のエントリーで日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては横ばい圏内ないしは小幅ながら3四半期連続の改善との予想であり、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回9月調査から+1ポイント改善の+10、非製造業は前回から変わらず+27、となっています。実績としては、短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが9月調査から+3ポイント改善して+12となり、また、大企業非製造業でも+3ポイントの改善して+30となりました。予測レンジの上限が、大企業製造業で+12、大企業非製造業で+28でしたので、大企業非製造業ではこの上限を超えたことになります。ただし、先行きの景況感については、製造業・非製造業とも、また、規模別でも大企業・中堅企業・中小企業のすべてで、悪化の方向が示唆されていて、非製造業ほど悪化の幅が大きい、と見込まれています。製造業については、先進各国がインフレ抑制のために金利を引き上げた結果、景気が減速しており、輸出への影響が懸念される一方で、非製造業では物価上昇による国内消費の停滞や人手不足・人件費高騰の懸念が示されているようです。
業種別に先行き景況感の方向性ほぼ悪化一色となっており、製造業の先行き景況感の変化を少し詳しく見ると、素材業種では鉄鋼が先行き▲18ポイントの悪化、紙・パルプが▲10ポイントの悪化、加工業種でも自動車が▲11ポイントの悪化、などとなっています。食料品の▲10ポイントの悪化は輸出の懸念もあるのでしょうが、国内における物価上昇による消費の低迷という要因も大きそうです。非製造業の先行きでは、電気・ガスの▲13ポイント悪化は別としても、宿泊・飲食サービスの▲12ポイントの悪化はインバウンドに対する期待よりも物価上昇や人手不足・人件費に対する不安を読み取ることが出来ます。ただ、私の斜めの見方では、自動車産業の我が国におけるプレゼンスの大きさを確認した次第です。いずれにせよ、足元では景況感が改善した一方で、国際的な経済環境としては先進各国景気の停滞による輸出の伸びう悩み、国内環境としてはインフレによる国内需要の停滞と人手不足や人件費高騰といった懸念が大きいのではないか、と私は考えています。最後に、2023年度の事業計画の前提としている想定為替レートは、引用した記事にもある通り、9月調査時点では132.43\/$だったのですが、9月調査では135.75\/$でしたが、最新の12月調査では139.35\/$へと、ジワリと円安に修正されています。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感の払拭と不足感の拡大が見られます。特に、雇用人員については足元から目先では不足感がますます強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じているかどうかに疑問があり、その意味で、本格的な人手不足かどうか、賃金上昇を伴う人で不足なのかどうか、については、まだ、私は確信を持てずにいます。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではない可能性があるのではないか、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金が物価上昇に見合うほど上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感が大きくなる段階には達していません。要するに、低賃金労働者が不足しているだけであって、低賃金労働の供給があれば、生産要素感で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れである可能性を感じます。

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日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。設備投資計画に関しては、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業全産業で+12.5%増でしたが、実績は+13.5%でしたので少し上振れました。規模別に見ると、繰り返しになりますが、大企業が+13.5%増、そして、中堅企業が+12.8%増、中小企業が+10.3%増と、中小企業でも2ケタ増を見込んでいます。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。今回の12月調査ではやや下方修正されましたが、それでも、全規模全産業で+12.8%増の2ケタ増が計画されていますし、まあ、通常の動きの範囲ではなかろうか、と私は受け止めています。

最後に、というか、最後のひとつ前に、引用した記事の最後から2番めのパラで言及されている通り、企業の物価全般に対する見通しは、全規模全産業で1年後+2.4%、3年後+2.2%、5年後+2.1%と、9月調査からほとんど変化なく、5年後でも日銀物価目標の+2%を上回ると見込まれています。他方で、日本経済研究センター(JCER)が実施ているESPフォーキャストの最新で利用可能な11月調査によれば、消費者物価上昇率はこの先低下を続け2024年第4四半期には+2%を下回る、とのエコノミストの予測値総平均が示されています。日銀短観の場合、仕入れ価格を高めに見積もっているだけでなく、自社製品・サービスの販売価格もこれくらい上昇すると見込んでいるのでしょうか。これも、雇用とともに私には謎です。

最後の最後に、金融政策の動向について、足元の景況感を見て金融引締めの根拠とするか、先行きの懸念を見て緩和継続の根拠とするか、どちらとも解釈できる内容の短観結果だと思います。ですので、植田総裁をはじめとする日銀幹部のもともと持っている方向性が示されるものと私は考えています。

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2023年12月12日 (火)

前年比+0.3%の上昇まで縮小した11月の企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、日銀から11月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+0.3%上昇したものの、上昇率は11か月連続で鈍化しています。したがって、「マイナス圏が目前」という報道もあります。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

11月の企業物価0.3%上昇 2カ月連続1%割れ
日銀が12日発表した11月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は119.5と、前年同月比で0.3%上昇した。10月(0.9%)から0.6ポイント低下し、2カ月連続で上昇率が1%割れとなった。電力料金が下落し、企業の価格転嫁の動きも鈍りつつある。伸び率は11カ月連続で縮小し、マイナス圏が目前に迫る。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに消費者物価指数(CPI)の先行指標とされる。サービス価格は10月も2%台の上昇を維持しており、物価上昇のけん引役がモノからサービスに移りつつある。
企業物価指数は公表515品目のうち405品目が値上がりした。QUICKが集計した民間予想の中央値(0.1%)を0.2ポイント上回ったものの、21年2月(マイナス0.9%)以来の低さとなった10月(0.8%)をさらに下回った。
品目別にみると、電力・都市ガス・水道が前年同月比で24.5%下落し、下げ幅は10月(19.7%下落)より4.8ポイント拡大した。22年は原油高の影響で大幅に上昇が続いていた分、反動が大きく出た。日銀の試算によると、政府が実施する電力・ガスの価格抑制策も企業物価の全体の伸びを約0.3ポイント押し下げている。
石油・石炭製品の価格は前年同月比3.5%上昇した。ガソリン補助金の減額を背景に、伸び率が10月(0.5%)より3.0ポイント拡大した。飲食料品は前年同月比4.0%の上昇だった。原材料の値上げを価格に反映する動きは続いているが、10月(5.0%)より伸びが鈍化している。
輸入物価は円ベースで前年同月比6.1%下落し、8カ月連続でマイナス圏となった。10月(マイナス11.9%)より下落幅が縮小した。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+0.1%と見込まれていましたので、実績の+0.3%はやや上振れしました。特に、輸入物価は4月統計から前年同月比でマイナスに転じ、11月統計では輸入物価▲11.9%の下落となっています。本日公表の企業物価指数(PPI)にはサービスが含まれませんが、他方で、企業向けサービス価格指数(SPPI)は9-10月の統計では前年同月比で+2%台を記録していますので、資源高などに起因する輸入物価の上昇から国内物価への波及が、同時に、モノからサービスの価格上昇がインフレの主役となる局面に入った、と私は考えています。したがって、日米金利差にもとづく円安の是正については、すでに一定の円高が進んでいることm事実であり、経済政策として取り組む必要性や緊急性はそれほど大きくなくなった、と考えるべきです。消費者物価への反映も進んでいますし、企業間ではある意味で順調に価格転嫁が進んでいるという見方も成り立ちます。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比で少し詳しく見ると、電力・都市ガス・水道が▲24.5%と前月10月の▲19.7%の低下から下落幅を拡大しています。前年同月比で上昇している品目でも、農林水産物+2.3%と、10月の+3.5%から落ち着きを増していますし、飲食料品も10月の+5.0%から11月は+4.0%とご同様です。ほかに、窯業・土石製品+12.3%、パルプ・紙・同製品+8.9%、繊維製品+6.1%、金属製品+5.4%が+5%以上の上昇率を示しています。ただ、多くの品目でジワジワと上昇率が低下してきています。もちろん、上昇率が鈍化しても、あるいは、マイナスに転じたとしても、価格水準としては高止まりしているわけですし、しばらくは国内での価格転嫁が進むでしょうから、決して物価による国民生活へのダメージを軽視することはできません。特に、農林水産物の価格上昇が続いていて、その影響から飲食料品についても高い上昇率を続けています。生活に不可欠な品目ですので、政策的な対応は必要かと思いますが、エネルギーのように石油元売会社や電力会社のような大企業に対して選別的に補助金を交付するよりは、消費税率の引下げとかで市場メカニズムを活かしつつ、国民向けに普遍的な政策を取る方が望ましい、と私は考えています。

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2023年12月11日 (月)

3四半期連続のプラスが続く法人企業景気予測調査BSIと12月調査の日銀短観予想

本日、財務省から10~12月期の法人企業景気予測調査が公表されています。統計のヘッドラインとなる大企業全産業の景況判断指数(BSI)は足元10~12月期が+4.8と3四半期連続でプラスを記録し、続く来年2024年1~3月期は+3.2、4~6月期も+1.5とプラスが続く見通しとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業の景況感3期連続プラス 10-12月、自動車けん引
内閣府と財務省が11日発表した10~12月期の法人企業景気予測調査によると、大企業全産業の景況判断指数(BSI)はプラス4.8と、3四半期連続のプラスだった。増産の進む自動車などが押し上げて製造業がプラス5.7となった。非製造業もプラス4.4だった。
BSIは自社の景況が前の四半期より「上昇」と答えた企業の割合から「下降」の割合を引いた数値。今回の調査は11月15日が回答の基準日となる。
大企業のうち製造業は2四半期連続のプラスとなった。半導体などの供給制約の緩和が進む自動車の増産が寄与した。関連する業界でも需要が増えると見込む。自動車・同付属品製造業のBSIはプラス25.4、金属製品製造業はプラス24.7だった。
一部の業種では海外景気の下振れの影響が出た。鉄鋼業は北米や中国の需要の減少により、BSIはマイナス20.3だった。
新型コロナウイルス禍からの経済活動の正常化に伴う人流の増加やインバウンド(訪日外国人)の回復により、非製造業は5四半期連続でプラスとなった。宿泊業や飲食サービス業が好調で、サービス業のBSIはプラス5.4だった。
大企業や中小企業を含めた全産業の2023年度の設備投資は前年度比11.1%の増加見込みとなった。製造業では自動車・同付属品製造業で工場の新設や電気自動車(EV)関連の投資を見込む。非製造業では鉄道事業者で安全関連の投資が増える。
従業員が「不足気味」と答えた企業の割合から「過剰気味」の割合を引いた従業員数判断指数は大企業の全産業でプラス26.3と、統計をさかのぼることができる2004年4~6月期以降で最も高くなった。7~9月期に続き、2四半期連続で過去最高を更新した。
先行きの景況判断指数は24年1~3月期に大企業の全産業でプラス3.2だった。製造業はプラス1.3、非製造業はプラス4.1を見込む。

いつものとおり、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、統計のヘッドラインとなる大企業の景況判断BSIのグラフは上の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。

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この統計のヘッドラインとなる大企業全産業の景況判断指数(BSI)で見ると、今年2023年10~12月期には自動車の生産回復などから3四半期連続のプラスを記録し、さらに来年2024年1~3月期と4~6月期にもプラスを維持する見込みとなっています。ただ、DIですので水準を見るよりは方向性に注目すべきであると私は考えており、プラスが続くもののそのプラス幅が縮小するのは、景気回復・拡大局面ながら、その後半に入っているひとつの論拠として受け止めています。加えて、中堅企業も同様に底堅く推移する一方で、中小企業についてはマイナスの景況感が続く内容となっています。統計のヘッドラインとなる景況判断BSI以外の注目点を上げると、従業員数判断BSIから見た雇用は大企業、中堅企業、中小企業ともに「不足気味」超となっていて、大企業よりも中堅企業や中小企業の方で不足感が深刻です。また、企業収益に関しては、今年度2023年度の大企業の売上は製造業・非製造業とも増加する一方で、経常利益は非製造業で増益となる一方で、製造業では減益が見込まれています。米国をはじめとする先進国経済がインフレ抑制のために金融引締めを実施していることが景気減速につながり、我が国からの輸出に影響していると考えられます。続いて、今年度2023年度の設備投資計画は+11.1%増と2ケタ増が見込まれています。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
9月調査 (最近)+9
+27
<+13.0%>
n.a.
日本総研+10
+28
<+12.7%>
先行き(2024年3月調査)は、全規模・全産業で12月調査から▲1%ポイントの低下を予想。製造業では、自動車輸出の回復持続やシリコンサイクルの底入れが好材料である一方、海外経済の減速や中国の不動産市場への懸念が景況感の重石となる見込み。非製造業では、DIは小幅に低下するものの、景況感は高水準で推移する見通し。ただし、人手不足の深刻化による収益機会の喪失や、人件費増加が収益を下押しする可能性には注意が必要。
大和総研+11
+27
<+12.9%>
2023年12月13日に公表予定の12月日銀短観において、大企業製造業の業況判断DI(最近)は+11%pt(前回調査からの変化幅:+2%pt)、同非製造業では+27%pt(同:±0%pt)を予想する。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+10
+27
<+10.2%>
大企業・製造業の業況判断DIの先行きは、海外経済の減速懸念を背景に1ポイントの悪化を予測する。中国では雇用の悪化や将来不安の高まりなどを背景に消費者マインドが下押しされており、消費の伸びは力強さに欠けるものとなっている。また、不動産市場の調整が続いていることも、中国経済の先行きに対する不安を強めている。米国経済については、足元までは個人消費を中心に底堅く推移している。ただし、2024年前半にかけて、利上げや銀行の貸し出し態度厳格化の影響が徐々に実体経済に波及し、緩やかながらも減速感が強まる可能性が高い。欧州経済はユーロ圏の7~9月期実質GDPがマイナス成長(前期比▲0.1%)となっており、先行きもインフレや高金利の影響で低迷するとみている。総じて、輸出環境を巡る不透明感は強まっており、製造業の先行き判断の悪化につながるだろう。
大企業・非製造業の業況判断DIの先行きも悪化を予想する。内閣府「景気ウォッチャー調査」で家計関連業種の先行き判断DIを見ると、10月調査まで3カ月連続で低下している。消費者の節約志向を懸念するコメントが多く、小売りや宿泊飲食サービスを中心に業況判断の見通しは悪化するだろう。
ニッセイ基礎研+11
+26
<+12.3%>
先行きの景況感については総じて悪化が示されると予想。製造業では、低迷が続いてきた半導体市場の底入れ期待が支えとなるものの、これまで堅調を維持してきた米国経済の利上げに伴う減速、中国経済の回復のさらなる遅れなどへの警戒感が優勢となる可能性が高い。
また、非製造業では、物価上昇に伴う国内消費の腰折れや人手不足の深刻化、原材料価格の再上昇などへの警戒感が台頭し、先行きに対する慎重な見方が示されると見ている。
第一生命経済研+10
+30
<大企業製造業+20.4%>
予想は、大企業・製造業も非製造業も改善が続くというものだ。気になるのは、国内需給がそれほど強くはなく、海外需給も米金融引き締めで悪化しそうな点である。
三菱総研+6
+24
<+11.6%>
先行きの業況判断 DI(大企業)は、製造業+9%ポイント(12月時点から▲1%ポイント低下)、非製造業+27%ポイント(同横ばい)を予測する。2024年にかけて米国経済減速にともなって輸出が下押しされ、製造業の業況が悪化するとみる。非製造業でも、卸売などの輸出関連業種の業況は下押しが見込まれる。もっとも、①人手不足を背景とした賃金の高い伸び、②コスト高起因の物価上昇圧力の緩和を受けて、個人消費が回復することで消費関連業種の業況は底堅く推移するだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+11
+28
<大企業全産業+12.7%>
大企業製造業の業況判断DI(最近)は、前回調査(同年9月調査)から2ポイント改善の11と予測する。素材業種ではエネルギー価格の下落を受けた交易条件の改善等が景況感の改善に寄与するほか、加工業種でも半導体需要が最悪期を脱したとみられる電気機械等を中心に改善するとみられる。先行きは、内外需要の回復に支えられて、2ポイント改善の13と楽観的な見通しになると予測する。
農林中金総研+7
+27
<+11.5%>
先行きに関しては、前述のビジネスサーベイではいずれも先行きの景況感悪化が見込まれている。欧米地域での金融引き締めによる景気停滞のほか、不動産問題や米中摩擦などの懸念材料を抱える中国経済への警戒も強い。以上から、製造業では大企業が6、中小企業が▲8と、ともに今回予測から▲1ポイントの悪化予想、非製造業でも大企業が24、中小企業は8と、今回予測からそれぞれ▲3ポイント、▲4ポイントの悪化となるだろう。
明治安田総研+11
+28
<+12.4%>
3月の先行きDIに関しては、大企業・製造業は1ポイント悪化の+10、中小企業・製造業は2ポイント悪化の▲6と予想する。中国における不動産不況の長期化や、米欧の利上げ効果の浸透に伴う輸出の停滞懸念が影響するとみる。

さらに、明日12月13日の公表を控えて、シンクタンクから12月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業/非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめる上のテーブルの通りです。設備投資計画は今年度2023年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、可能な範囲で、先行き経済動向に注目しました。短観では先行きの業況判断なども調査していますが、シンクタンクにより大きく見方が異なっています。注目です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは、ほぼ9月調査から横ばい近くで大きな変化ないと予想されています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスもほぼほぼ同様かと思います。
下のグラフは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポートから 業況判断DIの推移 を引用しています。

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2023年12月10日 (日)

パソコンを買い替える

年末になって、パソコンを買い替えました。
少し前に、カミさんがパソコンを使っている時にフリーズしたらしく、その後、Windowsが起動しなくなりました。ハードウェアのエラーではないので、ソフトウェアの不具合であれば、何とかなるかと考えていたのですが、私のスキルではWindowsが起動するところまでリカバリするのがせいぜいでした。下の倅が高校を卒業した2017年に買ったパソコンでしたから、もうWindows11にアップグレードできるスペックも満たしておらず、そろそろ寿命と考えてもおかしくなかったくらいですから、まだ正社員のボーナスが出るあいだに買い替えた次第です。いろいろと迷った末に、NECのLaVieにしました。
やっぱり新しいパソコンはいいです。まあ、当たり前です。起動が早くて、画面がキレイです。あと5年余りで私も70歳になれば引退すると思いますので、そのあたりまで使いたいと思います。

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2023年12月 9日 (土)

今週の読書は金融に関する学術書をはじめ計6冊

今週の読書感想文は金融に関する学術書2冊のほか、以下の通り計6冊です。
まず、祝迫得夫[編]『日本の金融システム』(東京大学出版会)は、日本の金融について決済やバンキング・システムなどを分析した学術書です。金井雄一『中央銀行はお金を創造できるか』(名古屋大学出版会)は、貨幣供給の内生性についての学術書ですが、貨幣供給は外生的であって、本書の試みは失敗しているように私には見えます。夕木春央『十戒』(講談社)は観光リゾート開発を目指して島を視察する所有者や開発業者らの一行が殺人事件に巻き込まれるミステリです。中野剛志『どうする財源』(祥伝社新書)は、現代貨幣理論(MMT)の理論から貨幣や財政について論じています。NHKスペシャル取材班『中流危機』(講談社現代新書)は、かつては中流層が多数を占めた日本の経済社会における中間層の窮状を分析し、リスキリングの重要性などを論じています。加藤梨里『世帯年収1000万円』(新潮新書)は、ファイナンシャル・プランナーの観点から年収1000万円でも十分豊かな暮らしが送れるとは限らないと指摘し、年収1000万円世帯の生活上の工夫の必要性について示唆しています。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊で、3か月近い入院期間はほぼゼロでしたが、退院してから、6▲11月に153冊を読みました。12月第1週に6冊、そして、今週に6冊で計209冊となりました。

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まず、祝迫得夫[編]『日本の金融システム』(東京大学出版会)を読みました。編者は、一橋大学の研究者であり、各チャプターの著者も大学の研究者ばかりで、日銀をはじめとする金融機関の実務者やシンクタンクのエコノミストは含まれていません。出版社から見ても、完全な学術書と考えるべきです。ですので、金融機関にお勤めのビジネスパーソンには少しハードルが高いかもしれません。というどころか、私のような専門外の大学教授にすら難しい内容となっています。本書の構成は5部構成であり、順に主要なテーマな、決済、銀行業ないしバンキング・システム、資産市場、コーポレート・ガバナンス、資本のミスアロケーション、となっています。終章でも自ら指摘していますが、中央銀行デジタル通貨(CBDC)のトピックは、なぜか、取り上げられていません。決済については、クレジット・カードをはじめとして、「今買って、後で払う」Buy Now Pay Later (BNPL)の普及により、消費と支払いのタイミングのずれが経済活動にどのような影響を及ぼしているかの分析が参考になりました。ただ、その昔からいわゆる「月賦』という支払い方法があり、マイホームはもちろん、自動車についてもローンを使っての購入があるわけですので、消費と支払いの時期的なずれとともに、ローンを負った家計の消費行動分析も欲しかったところです。バンキング・システムについては、日本には銀行業の比較優位が乏しいという議論を見かけますが、既存研究で指摘されている過剰供給、規制荷重、独自衰退の3つの理由すべてが当てはまるような気もします。ただ、日本では他の先進諸国と比較して、総合商社という業態がとても発達していて、例えば、CPを発行してのプロジェクト・ファイナンスなんてのは銀行よりも総合商社が担っている部分が大きいのではないか、と私は考えています。その意味で、銀行業だけを取り出して分析対象とするのではなく、その昔の住専やノンバンク、あるいは、消費者金融といったややよくないイメージの金融機能を持つ会社組織があることは確かですが、日本では銀行業以外の金融仲介機能を担う業態まで含める必要がありそうな気がします。資産市場のうち、株式市場については、10年前ほどにノーベル経済学賞を受賞したものの、Famaらの効率的市場仮説がもはや成り立たないことは、実証的に明らかになっていて、例えば、米国株式についてはモメンタム効果により順張りのリターンが大きく、日本株式ではリターン・リバーサルにより逆張りのリターンが大きい、というのはほぼほぼ実証的には確認されています。コーポレート・ガバナンスについては、本書でも指摘しているように、ESG投資、特にEの環境への投資を私は注目しています。例えば、Glasgow Financial Alliance for Net Zero=GFANZ という機関投資家グループなどです。気候変動や格差是正と正面から向き合う機関投資家、特にCALPERS (California Public Employees' Retirement System)のような公務員や教員の退職者年金運用機関からの企業への圧力に期待する人は少なくないと思います。最後の資本のミスアロケーションの問題については、「ゾンビ企業」という表現があるように、世間一般の意見は精算主義に傾いていて、赤字企業は「放漫経営」なのだから市場から退出すべきであるとか、銀行や事業会社の救済に関する世論の批判は強いものの、雇用社のスキル維持のためには企業救済の一定のプラス面にも目を向けるべきである、と私は考えています。最後に繰り返しになりますが、完全な学術書と考えるべきであり、ハードルは決して低くありません。

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次に、金井雄一『中央銀行はお金を創造できるか』(名古屋大学出版会)を読みました。著者は、名古屋大学の研究者であり、名誉教授です。本書では、私を含む多くのエコノミストが「常識」としている貨幣供給外生説に対して、貨幣供給は内生的に決定されるとする説を。英国の金融師などをひも解いて解明しようと試みています。しかし、私の読後の結論からして、その試みは失敗しているとしかいいようがありません。まず、本書では貨幣の創造について、初めに預金ありきという説ではなく、信用供与が預金を創造するのであって、貸出に先立って銀行券による預金を集めておく必要はない、と論じています。まったくその通りです。100パーセント私も同意しますし、多くのエコノミストがそうだろうと思います。しかしながら、19世紀英国における通貨原理と銀行原理の論争のあたりから議論が怪しくなります。私は、本書の議論は貨幣需要が内生的に決まる、という論拠を並べているように見えます。それであれば、私は正しい議論であろうと感じますが、どうも、貨幣需要と貨幣供給がどこかで混戦しているのではないか、という直感的な思いがあります。とくに、ピール銀行法の下でのカレンシー・ノートについては兌換されずに流通のかなに残っている部分は、完全に貨幣需要に基づくものであり、その貨幣需要に基づいて、というか、おそらく英語であればaccommodate するという意味で貨幣供給がなされている、という解釈なのだろうと思います。かつての日銀論法そのものであり、中央銀行は貨幣流通量はコントロールできない、という意味です。しかし、現在の不換紙幣制度の下での中央銀行の準備預金について同じことなのかどうか、例えば、日銀当座預金は自由に日銀がコントロールしているように見えます。そして、その根本的な違いのひとつが本書pp.36-37にあり、英国ノカレンシー・ノートが債務であるがために自由に発行できるわけではない、という記述です。すなわち、貨幣というのはすべからく債務である点については、本書の著者の当然ながら十分に理解しているようですが、勢い余って、というか、何というか、負債であるがゆえに恣意的に発行できるわけではない、と結論しているように、私には見えてなりません。私は多くの主流はエコノミストから見れば、負債であるがゆえに中央銀行は自由に貨幣を供給できる、ということになるのですが、どうも本書では逆立ちした議論が展開されています。負債であるために通貨の供給を限定する、というのは、その昔の日銀理論にもありましたが、国民経済の観点よりも中央銀行の財務的な健全性を重視し、国民が非自発的失業に苦しんでも中央銀行の財務の健全性の方が重要、という見方につながりかねないリスクがあるような気がしてなりません。同様の視点は財政にもあって、経済が大きく停滞していてケインズ政策的な総需要管理が必要であるにもかかわらず、財政的な健全性をより重視して均衡財政主義を貫く、そして国民に「痛み」を押し付けるという政策運営がかつては見られましたし、現在でもそういった政策を志向するエコノミストはいます。どちらが正しいかは国民の民主主義に基づく判断です。その意味でも、やや脱線した結論で終わりますが、中央銀行の完全なる独立というのはありえません。何らかの民意は反映されるべきです。

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次に、夕木春央『十戒』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ作家です。前作の『方舟』が話題になったところかと思います。この『十戒』もクローズド・サークルの殺人事件を扱っていて、最後の最後に前作『十戒』からの連続性が示唆されている部分があったりします。主人公は芸大を目指して二浪中の大室里英です。父親の兄に当たる叔父が死んで、父親が無人島を相続することになります。そこをリゾート開発しないかという話が持ち上がって、大室親子に加えて、開発会社から沢村という30代後半の男性と研修社員の若い女性である綾川の2人、工務店社長の草加と設計士のアラフォー女性の野村の2人、不動産会社の30代前半くらいの藤原とその一回り上の年格好の小山内の2人、さらに、叔父の友人だった矢野口の合計9人が島に渡ります。島は枝内島という名で、直径300メートル、周囲1キロほどのほぼ真円に近い円形ながら、北側の船着き場のほかは絶壁になっていて海水浴などは出来そうもありません。このあたりは、ツイッタにある講談社文芸第三出版部の「あらすじ紹介マンガ」を見たほうが早いかもしれません。あらすじは、島に着いて視察を終えた翌朝、不動産会社の小山内が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が発見されます。これが十戒なわけで、スマホで問題なく電波が拾えて通信が可能であるにも関わらず、島外との通信を禁止したり、もちろん、警察への通報もNGで、3日間島外に出ることは許されず、犯人探しもダメ、などと書かれているわけです。そして、どうしてこういった制約条件を生き残った人々が遵守するかといえば、島内の作業小屋に相当な爆弾が保管してあって、スマホ操作で島をふっとばして全員、犯人も含めた全員が死ぬ可能性が高いからです。ストーリーが進むと、もう2人が殺されて合わせて3人が殺される殺人事件となります。ミステリですのであらすじもこのあたりまでとします。最後に、一度探偵役の人物から犯人を明らかにする whodunnit のひとつが生き残った人々に対して明らかにされますが、実は、前作の『方舟』と同じで最後の最後にどんでん返しがあります。前作『方舟』のどんでん返しは、フツーの twist ではなく、上下ひっくり返るくらいの turnover だと私は前の読書感想文に書きましたが、この『十戒』はまあ twist のひと捻りくらいの感じではないでしょうか。前作『方舟』を読んだ後は随分と感激した記憶がりますが、今になって本作『十戒』とともに思い起こせば、まあ、あそこまで感激したのが不思議に感じます。この作品についての批判は、爆弾がどうして都合よく島内にあるのか、生き残った人々が従順に「十戒」に従ってばかりなのは不自然、といったあたりかと思いますが、私の感想は違います。すなわち、この作品の明らかな欠陥は、フェアではないことです。すなわち、本格推理小説で要求されるフェアということは、犯人以外は真実を述べることです。しかし、このストーリーの極めて重要な役割を担う人物が、嘘をついているわけではないものの、極めて重要な事実を隠しています。それは、犯人が指示した「十戒」に抵触するから、という理由で許容されるものではありません。その意味で、疑問が大きいミステリでした。この作者の次の作品である『時計泥棒と悪人たち』までは図書館から借りましたので読むことは読みますが、その先の作品も読むかどうかは現時点では何ともいえません。

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次に、中野剛志『どうする財源』(祥伝社新書)を読みました。著者は、経済産業省の公務員ではないかと思いますが、現代貨幣理論(MMT)に基づく経済観を主とした経済関係の書物を何冊か出版していて、私もいくつか呼んだ記憶があります。本書では、タイトルと違ってまず貨幣論から入ります。物々交換が不便だから貨幣が生まれたという商品化併設を否定したりしています。でも、そのあたりは読み飛ばしてタイトル通りのテーマに入ると、本書の主張はとてもクリアであって、日本経済はデフレを長らく放置したために資本主義的な経済システムが機能しなくなり、このままでは経済が崩壊するので、実物資源の成約に近づくまで財政支出を増加させるべきであって、その裏付けとしての財源は取りあえず放置して差し支えない、ということなのだろうと私は考えています。差位後の「財源は放置して差し支えない」というのは私の表現であって、本来、私自身は財政政策については政府支出と税制は独立に政策運営する方が望ましい、と考えています。当然ながら、ティンバーゲンの定理により政策目標と政策手段が同数必要であるとすれば、政策手段は多い方がいいわけです。こういった私の財政政策に関する姿勢は、その基礎である財政赤字や公的債務に対する見方について、最近の紀要論文 "An Essay on Public Debt Sustainability" でも示しているところです。そして、本書ではこの実物的な資源の限界についてはインフレで考えるという、これまた、MMT学派の主流の見方が示されています。その昔の非自発的失業に着目する献ず経済学では「完全雇用」が実物資源、中でも雇用者のリソースの限界とされていましたが、労働者だけではなく、ほかのリソースも含めた実物資源の限界がインフレによって現れる、というのはそれなりに自然な考え方です。ただ、インフレといえば現在のインフレは供給サイドから生じていて、需要サイドではないと議論されていますが、こういったインフレについてはどう考えるべきか、という点も本書ではていねいに解説されています。私は本書に示されている貨幣や財政に対する見方はほぼほぼすべてに賛成です。

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次に、NHKスペシャル取材班『中流危機』(講談社現代新書)を読みました。著者は、NHK番組の取材に当たった10人ほどのジャーナリストです。かつては、1960年代後半から1970年代にかけて「1億総中流」といわれた時期が日本にはありました。世論調査などで自分の属する階層について「中流」を選択する人々が圧倒的に多かった時代です。しかし、1980年代後半のバブル経済を経て、1990年代初頭にはバブルが崩壊し、その後、長らく日本経済が停滞を続ける中で、そういった中間層はかなり大きなダメージを受け、もはや中流とか、中間層とは呼べなくなっている可能性が指摘されています。1994年に日本の所得中間層の505万円だった中央値が2019年には374万円と、25年間で実に約130万円も減少しています。もはや、日本は先進国であったとしても、平均以下の先進国になってしまったといえます。なぜ日本の中流階層は急激に貧しくなってしまったのか、また、本書のタイトル通りに、「中流危機」ともいえる閉塞環境を打ち破るために、国、企業、労働者は何ができるのか、といった観点から、NHKが労働政策研究・研修機構(JILPT)と協力して実施した共同アンケート調査結果などから浮き彫りとなる日本経済に対する処方箋の提示を試みています。ということで、JILPTというのは私も勤務経験のある国立の研究機関なのですが、NHKとJILPTとの共同調査の結果では、イメージする中流の暮らしにはいくつかの要素があって、第1に正社員、第2に持ち家、第3に自家用車、第4に趣味にお金をかけている、第5に年1回の旅行、といったところです。最後の旅行については、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックから、大きく見方が変わりましたので、第4までで考えると、私個人は第1と第2しか当てはまりません。自家用車は海外勤務のころはありましたが、帰国してから20年余り持っていませんし、それほど高価でもない自転車に乗ってアチコチ走るのが趣味ですので、お金をかけているわけではありません。それはともかく、私は圧倒的に日本が貧しくなったのは、1995年に日経連が打ち出した「新時代の『日本的経営』」に乗っかって、政府が派遣労働を許容する派遣労働法を制定し、それをポジリストからネがガリストへ、さらに、製造業派遣も解禁して、果てしなく範囲拡大して非正規雇用が恐るべき勢いで増加した点に原因があると考えています。ですから、本書では、第2部で中流再生のためにデジタルイノベーション、リスキリング、同一労働同一賃金の3点を主張していますが、私は圧倒的に雇用の再構築が必要だと考えています。そもそも、雇用者のリスキリングの前提として、非正規雇用などのデスリングが生じた点を見逃すべきではありません。「デスキリング」とは、本来、中核的な工程に機械が導入されることにより、それまで当該工程を担ってきた熟練が崩壊する過程やその現象を指しますが、私は、低賃金で雇用されたがゆえにスキルが低下する現象として解釈しています。本来は潜在的な生産性が十分高いにもかかわらず、低賃金の職種で雇用されてしまって、その業務に必要とされるスキルを大きく上回るスキルを潜在的に有していたにもかかわらず、そういったスキルを活用する機会がなくて時間とともに徐々にスキルが低下する、といった現象が広く日本で見られます。それをリスキリングする必要があるのは、私から見れば悲しいことだという気がします。OECDののPISAの結果などを見る際にも、日本人の潜在的な優秀性は明らかなのに、それを活かしきれていない政府の政策や経営層のマネジメント能力に、私は大きな疑問を持っています。

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次に、加藤梨里『世帯年収1000万円』(新潮新書)を読みました。著者は、ファイナンシャル・プランナーです。本書では、ひとつの区切りのいい数字として世帯年収1000万円を考え、現在の我が国の平均年収400万円と比較して、十分中流以上の暮らしができる数字であるにもかかわらず、実際は生活が苦しい、という実情を分析し改善方策を提示しようと試みています。まず、世帯年収1000万円でも生活が苦しい実感がある原因として、住居費、教育費、生活費を上げています。私の暮らしているような地方圏ではともかく、私も2020年に引越す前は東京に住んでいましたから、東京の住居費の高さはそれなりに実感しています。教育費もご同樣で、我が家は2人の倅を中学校から6年間一貫教育の私立に通わせましたので、これまた実感しています。ただ、生活費については、本書では共働きの保育費やベビーシッターの費用を考えているようですが、我が家は専業主婦でカミサンがこういった分担に当たってくれていましたので、対外的は出費はありませんでした。そして、本書では最後に、国民的なキャラクターとして、クレヨンしんちゃん、サザエさん、ちびまる子ちゃんを例に、どういった出費が必要で、老後資金は大丈夫か、などの観点からシミュレーションを試みています。我と我が身を振り返って、我が家が何とかカミサンの専業主婦という贅沢を許容しつつ、その上で、倅2人を中学校から私立に通わせるという、これまた贅沢ができた事実を考えると、当然ながら、ここから漏れている私が大きなガマンを強いられていたような気がします。しかしその前に、本書で高コストのひとつとして取り上げられている「お受験」、すなわち、小学校から私立に子供を通わせるよいう選択肢は、幸か不幸か、我が家にはありませんでした。というのは、我が家は上の子が小学校に上がるタイミングは海外生活を送っていたからです。我が家の上の子が入学した小学校は海外の日本人学校で、日本に帰国してそこら辺の公立小学校に通い始めています。下の子は上の子にならって、当然のように、同じ公立小学校です。そして、本題の亭主たる私のガマンですが、自家用車という贅沢はさせてもらえませんでした。まあ、東京都心ど真ん中の南青山で、地下鉄の表参道駅までも近くて自家用車の必要性が低かったことも事実です。最後は、私が長々と働いているという点も強調しておきます。ひとつのガマンです。65歳になった現在でも正社員の教員として、大学にこき使われていますから、年金生活に入っている同級生をうらやましく感じつつも、正社員らしいお給料をもらっていることも事実ですし、来年からも何とか定年後再雇用でもう少し働き続けることも、働いている私自身はキツいのですが、そのお給料で暮らしている分には生活は苦しくはない、といえます。

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2023年12月 8日 (金)

11月の米国雇用統計は過熱感の解消に向かう労働市場を反映

日本時間の今夜、米国労働省から11月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の11月統計では+199千人増となり、失業率は前月から▲0.2%ポイント低下の3.5%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を思いっ切り長めに10パラ引用すると以下の通りです。

November jobs report shows economy added 199,000 jobs; unemployment at 3.7%
Hiring picked up in November as striking auto workers and actors returned to the fold, and businesses continued to largely shrug off high inflation and interest rates.
Employers added 199,000 jobs and the unemployment rate fell from 3.9% to 3.7%, the Labor Department said Friday.
Economists had estimated that 186,000 jobs were added last month, according to a Bloomberg survey.
The resolution of strikes by the United Auto Workers and Screen Actors Guild was expected to boost payroll gains by 38,000 after dragging down the total by a similar amount in October, Goldman Sachs said. Barclays forecast a slightly bigger bump of 46,000.
Meanwhile, employers reportedly brought on fewer temporary workers this holiday season, curtailing hiring in retail as well as transportation and warehousing, according to Oxford Economics.
Still, the number of employees working for small businesses, and their hours, declined by less than usual this fall, according to Homebase, which makes employee scheduling software.
More broadly, job growth has slowed from an average monthly pace of about 300,000 early this year to still solid 200,000 recently. Economists predict monthly gains will downshift to about 40,000 by next summer and average just 55,000 for all of 2024, according to a survey last month by the National Association of Business Economics.
Nearly half of those economists say there’s a 26% to 50% chance of recession in the next year while a quarter believe a downturn is probable. The forecasters recently have lowered the odds amid a resilient economy.
But activity is slowing as low- and moderate-income households deplete their COVID-related stimulus checks and other savings. Credit card debt hovers at an all-time high, largely because of swiftly rising prices, and delinquencies have climbed.
Inflation has cooled to 3.7% since hitting a 40-year high of 9.1% last year due to pandemic-related supply snags and worker shortages, but it’s still above the Federal Reserve’s 2% target. And although the Fed since July has paused its aggressive interest rate hikes to fight the price surge, its key rate remains at a 22-year high of 5.25% to 5%.

よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、ひとつの目安とされる+200千人を2か月連続で下回り、失業率は3%台後半を継続しているものの、4月の3.4%からはジワジワと上昇している印象であることから、人手不足は落ち着きつつあり、労働市場の過熱感も解消されつつある、と考えるべきです。ただ、引用した記事の3パラめにあるように、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+186千人の雇用増を見込んでいましたので、実績はやや上振れた印象です。先月の統計公表時には、私は「ビミョーな段階に入った」と評価しましたが、半歩進んで過熱感解消の方向に進んでいるといえます。インフレについても落ち着きを取り戻しつつあり、連邦準備制度理事会(FED)は利上げ局面を終え、リセッションを回避してソフトランディングを確実なものとする方向での政策運営に転じた、と考えられているようです。それが日本経済にとっては、円安解消の方向に進む為替相場、という形で実感されているところではないでしょうか。

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下方修正された7-9月期GDP統計速報2次QEをどう見るか?

本日、内閣府から7~9月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は▲0.7%、前期比年率で▲2.9%と4四半期ぶりのマイナス成長で、1次QEから下方修正されています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+5.3%に達し、1次QEの+5.1%から上振れています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

GDP、年率2.9%減に下方修正 7-9月改定値
内閣府が8日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.7%減、年換算で2.9%減だった。11月の速報値(前期比0.5%減、年率2.1%減)から下方修正した。個人消費などが弱含み、4四半期ぶりのマイナス成長となった。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は前期比0.5%減、年率2.0%減だった。成長率への寄与度は内需がマイナス0.6ポイント、外需がマイナス0.1ポイントだった。
速報値では内需がマイナス0.4ポイント、外需がマイナス0.1ポイントの寄与度となっていた。内需の落ち込み幅が広がり、全体を押し下げた。
内需の柱である個人消費は速報値の前期比0.0%減から0.2%減に下方修正した。2四半期連続のマイナスとなった。最新の消費関連統計を反映した結果、食品や衣服などの消費が弱含んだ。
品目別に見ると、衣服などの半耐久財は0.5%減から3.2%減に、食品などの非耐久財は0.1%減から0.3%減に下振れした。
設備投資は前期比0.6%減から0.4%減に上方修正した。マイナスは2四半期連続となる。
財務省が1日に公表した7~9月期の法人企業統計などを反映した。金融・保険業を除く全産業の設備投資が季節調整済みの前期比で1.4%増えた。非製造業が持ち直した。
民間在庫の寄与度は前期比でマイナス0.3ポイントからマイナス0.5ポイントにマイナス幅が拡大した。在庫を積み増す動きが速報値での想定より弱かった。住宅投資は0.1%減から0.5%減に落ち込んだ。公共投資は前期比0.5%減から0.8%減に下方修正した。
国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比5.3%上昇した。速報値では5.1%上昇だった。名目GDPは前期比0.0%減、年率換算でも0.0%減だった。実額は年換算で名目が595兆円となり、速報値の588兆円から増えた。

いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事となっています。次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2022/7-92022/10-122023/1-32023/4-62022/7-9
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)▲0.1+0.2+1.2+0.9▲0.5▲0.7
民間消費+0.1▲0.0+0.9▲0.6▲0.0▲0.2
民間住宅+0.4+0.7+0.3+1.7▲0.1▲0.5
民間設備+1.8▲0.8+1.8▲1.3▲0.6▲0.4
民間在庫 *(+0.0)(▲0.2)(+0.7)(▲0.3)(▲0.3)(▲0.5)
公的需要+0.1+0.7+0.5+0.1+0.2+0.1
内需寄与度 *(+0.4)(▲0.2)(+1.6)(▲1.0)(▲0.4)(▲0.6)
外需寄与度 *(▲0.5)(+0.4)(▲0.4)(+1.6)(▲0.1)(▲0.1)
輸出+2.2+1.5▲3.6+3.8+0.5+0.4
輸入+4.9▲0.7▲1.5▲3.3+1.0+0.8
国内総所得 (GDI)▲0.7+0.7+1.8+1.6▲0.4▲0.4
国民総所得 (GNI)▲0.2+1.2+0.5+2.0▲0.5▲0.6
名目GDP▲0.3+1.7+2.2+2.6▲0.0▲0.0
雇用者報酬+0.1▲0.2▲1.3+0.2▲0.6▲0.7
GDPデフレータ▲0.3+1.5+2.3+3.8+5.1+5.3
内需デフレータ+3.2+3.6+3.2+2.7+2.4+2.6

上のテーブルに加えて、需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期の最新データでは、前期比成長率がマイナス成長を示し、在庫が大きなマイナス寄与のほかは、GDPの需要項目のいろんなコンポーネントが小幅にマイナス寄与しているのが見て取れます。

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まず、1次QEから下方修正というのは、しかも、ここまでの大きさの下方修正というのは少し驚きでした。特に内需です。我が国でも他の先進国と同じようにインフレにより消費の伸びが鈍化して、前期比成長率▲0.7%に対する寄与度で▲0.1%のマイナス寄与を示しています。ただし、内需寄与度は前期比成長率に対して▲0.6%の大きさなのですが、その大部分は在庫変動です。すなわち、GDP前期比成長率▲0.7%のうち、在庫が▲0.5%の大きさとなっています。もちろん、売れ行き好調で在庫が意図せず減少したわけではないでしょうから、意図された在庫の調整が進んだということになります。ですので、マイナス成長ながら、決してここまで悪い姿ではないと考えるべきです。もちろん、この在庫の寄与を別にしても内需はマイナス寄与ですので、決して楽観はできません。特に、足元でジワジワと円高が進み、ソフトランディングに成功するとしても、米国をはじめとする先進国経済が金融引締めにより減速することが明らかですから、輸出主導の成長は期待できないわけで、内需が消費も設備投資も停滞する中で、景気後退には入らないまでも経済全体として停滞色を強めるおそれは十分あります。何度でも繰り返しますが、内需ではインフレに追いつかない賃上げが日本経済の大きな課題と私は受け止めています。

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最後に、本日、内閣府から11月の景気ウォッチャーが、また、財務省から10月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月に対して横ばいの49.5となった一方で、先行き判断DIは+1.0ポイント上昇の49.4を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+2兆5828億円の黒字を計上しています。景気ウォッチャーと経常収支のグラフは上の通りです。

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2023年12月 7日 (木)

3か月連続で上昇し「拡大」の基調判断続く10月の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から10月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から▲0.6ポイント下降の108.7を示した一方で、CI一致指数は+0.2ポイント上昇の115.9を記録しています。CI一致指数の上昇は3か月連続となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

景気動向一致指数10月は前月比0.2ポイント改善 判断据え置き
内閣府が7日公表した10月の景気動向指数速報(2020年=100)は、一致指数が前月比0.2ポイント上昇の115.9となり3カ月連続のプラスだった。投資財出荷指数や有効求人倍率、鉱工業生産指数の改善が寄与した。投資財はボイラーやコンベア、金型の出荷が増えた。
一方先行指数は前月比0.6ポイント低下の108.7と2カ月連続のマイナスだった。鉱工業用生産財在庫率や東証株価指数、中小企業売上見通しなどの悪化が響いた。定期修理の影響で化学製品の在庫が増えたことなどが影響した。
指数から一定のルールで決まる基調判断は、ことし4月以来の「改善を示している」で据え置いた。

とてもシンプルに取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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10月統計のCI一致指数については、3か月連続の上昇となりました。3か月後方移動平均の前月差でも+0.34ポイントの上昇となり、加えて、7か月後方移動平均でも0.20ポイント上昇と、7か月連続の前月差プラスとなっています。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「改善」で据え置いています。もっとも、CI一致指数やCI先行指数を見る限り、このブログで何度も繰り返しますが、我が国の景気回復・拡大は拡大ながら、その拡大局面の後半に入っていると考えるべきです。もちろん、すでに景気後退局面に入っているわけではなさそうで、さらに、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そうすぐには景気後退入はしない可能性が高い、と私は考えています。CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、プラスの寄与では、投資財出荷指数(除輸送機械)が+0.30ポイント、有効求人倍率(除学卒)+0.23ポイント、生産指数(鉱工業)+0.18ポイント、などとなっています。逆に、マイナス寄与が大きい系列は、商業販売額(小売業)(前年同月比)▲0.27ポイント、鉱工業用生産財出荷指数▲0.22ポイント、輸出数量指数▲0.14ポイント、などとなっています。
景気の先行きについては、国内のインフレや円安の景気への影響などはともかく、日銀の異次元緩和政策の修正に伴う金利上昇に関してはマイナス要因と考えるべきです。もっとも、3~4四半期とラグが長いので注意が必要です。

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2023年12月 6日 (水)

経済協力開発機構(OECD)による生徒の学習到達度調査(PISA2022)の結果やいかに?

昨日12月5日、経済協力開発機構(OECD)から昨年2022年に実施された生徒の学習到達度調査 (PISA2022) の結果が公表されています。PISAとは、Programme for International Student Assessment の略であり、15歳児を対象に読解力 reading、数学 mathematics、科学 science の3科目について、3年ごとに国際的に調査を実施し、結果は広く公表されており、データもかなり詳細に提供されています。2000年が初回の調査であり、2015年の第6サイクルからコンピュータ使用型の調査に衣替えし、昨年2022年のPISAは第8サイクルに当たります。OECD加盟の先進国23か国をはじめとして、計81の国と地域の15歳の生徒約69万人が参加しています。なお、参考としたソースは、OECDの1次資料と国立教育政策研究所のリポートであり、リンクは以下の通りです。

まず、日本の生徒の位置を確認したいと思います。下のグラフは、OECDのサイトにあるCountry Noteの日本から Figure 1. Trends in performance in mathematics, reading and science を引用しています。

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オレンジの折れ線はOECD23か国平均のスコアであり、日本のスコアは、読解力、数学、科学ともかなり平均よりも上に位置していることが見て取れます。前回のPISA2018では日本は世界で18位だったのですが、今回のPISA2022では3位へと順位を大きく上げて、世界のトップレベルに復帰しています。科目別に参加した国・地域合わせて81の中の日本の順位を見ると、読解力3位、数学5位、科学2位となっていて、OECD加盟の先進国23か国中では、読解力2位、数学1位、科学1位と、まさに世界のトップクラスといえます。
ただし、注意すべき点があることも確かです。というのは、この第8サイクルのPISAは、もともと、2021年に予定されていたのですが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で1年延期して2022年に実施されています。そして、日本が好成績を収めた背景として、OECDのサイトでCOVID-19による学校閉鎖期間が短かった点が指摘されています。すなわち、日本では、16%の生徒が新型コロナウイルス感染症の影響で校舎が3か月以上閉鎖されたと報告されている一方で、OECD諸国の平均では、51%の学生が同様に長期にわたる学校閉鎖を経験した、"In Japan, 16% of students reported that their school building was closed for more than three months due to COVID-19. On average across OECD countries, 51% of students experienced similarly long school closures." ということのようです。でも、そういった事情を考慮するとしても、私のドメインである大学や高等教育をさて置いても、まだまだ、日本の生徒や中等教育は優秀であるという結論に違いはないものと私は考えています。

最後に、日本人の学力はPISAの結果を見ても優秀ですし、同様の調査である国際成人力調査 (PIAAC)、あるいは、IEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)などのデータからしても、控えめにいっても、日本人が高い潜在的能力を有していることは明らかです。こういった質の高い労働力がありながら、生産性が低いだの、だから賃金が上がらないだのと、経営サイドは日本経済の停滞について労働者の責任のような見方を示していますが、ハッキリと政府の政策と経営のマネジメントが悪いと考えるべきです。まあ、一部には私の属している大学教育の責任かもしれませんが…

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7-9月期GDP統計速報2次QEの予想やいかに?

先週の法人企業統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、今週金曜日の12月8日に7~9月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である7~9月期ではなく、足元の10~12月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。ただし、いつものように、2次QEですのでアッサリとした解説が多く、中には法人企業統計のオマケの扱いも少なくありません。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE▲0.5%
(▲2.1%)
n.a.
日本総研▲0.5%
(▲2.0%)
7#xFF5E;9月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資と公共投資が小幅に上方改定される見込み。この結果、成長率は前期比年率▲2.0%(前期比▲0.5%)と、1次QE(前期比年率▲2.1%、前期比▲0.5%)からわずかながら上方改定されると予想。
大和総研▲0.3%
(▲1.1%)
内需寄与度は1次速報から上方修正されると予想する。2次速報では、個人消費や設備投資などの民需が振るわず、停滞感が強かったことが改めて示されるだろう。
みずほリサーチ&テクノロジーズ▲0.5%
(▲2.1%)
先行きの日本経済は、外需が抑制される一方で内需が下支えし緩やかなプラス成長に戻るとみているが、その中で大きな焦点となるのが、2023年に盛り上がった賃上げ気運が2024年以降も持続するかどうかである。コストとしての人件費上昇はサービス分野を中心に物価押し上げ要因になることに加え、持続的な賃上げで家計の購買力・消費需要が高まれば、企業からみて価格転嫁をしやすくなり、「賃金と物価の好循環」が実現する可能性が高まる。
(略)
仮に2024年の賃上げ率が2023年以上の高い水準になり、2%物価目標達成の公算が大きくなったと日本銀行が判断した場合には、イールドカーブ・コントロール(YCC)撤廃やマイナス金利解除といった金融政策の修正が来年前半にも実施される可能性が高まる。黒田前総裁の体制から続いた異次元緩和からの転換という点で、大きな節目と言えよう。この場合、先行きの金融政策正常化期待から長期金利は1%を上回る水準に上昇するほか、(米金利の動向にも左右されるが)ドル円相場は1ドル=130円台まで円高が進む可能性もあるとみずほリサーチ&テクノロジーズは想定している。
現時点では、個人消費が力強さを欠く中で企業の価格転嫁姿勢に慎重姿勢が残り、2%物価目標の達成は難しいとの見方がメインシナリオであるが(輸入物価上昇の影響が剥落する2025年度以降のコアCPI前年比は2%を下回る水準まで鈍化する可能性が高いと予測している)、2024年春闘の帰趨が賃金・物価の持続的な上昇が実現するかどうかの大きな分岐点になることは間違いない。年末頃からスタートする賃金交渉の行方に注目したい。
ニッセイ基礎研▲0.6%
(▲2.2%)
12/8公表予定の23年7-9月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比▲0.6%(前期比年率▲2.2%)と予想する。1次速報の前期比▲0.5%(前期比年率▲2.1%)とほぼ変わらないだろう。
第一生命経済研▲0.5%
(▲2.1%)
12月8日に内閣府から公表される2023年7-9期実質GDP(2次速報)は前期比年率▲2.2%(前期比▲0.6%)と、1次速報の前期比年率▲2.1%(前期比▲0.5%)から僅かに下方修正されると予想する。
伊藤忠総研▲0.3%
(▲1.1%)
7#xFF5E;9月期の実質GDP成長率(2次速報)は前期比▲0.3%(年率▲1.1%)と1次速報から上方修正される見通し。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.4%
(▲1.6%)
2023年7#xFF5E;9月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比▲0.4%(前期比年率換算▲1.6%)と1次速報値の前期比▲0.5%(年率換算▲2.1%)から上方修正される見込みである。
三菱総研▲0.5%
(▲2.1%)
2023年7-9月期の実質GDP成長率は、季調済前期比▲0.5%(年率▲2.1%)と、1次速報値から据え置きを予測する。
明治安田総研▲0.5%
(▲2.0%)
先行きに関しては、物価上昇率のピークアウトに伴う実質所得の増加などにより個人消費は回復に向かうと予想する。設備投資は計画が強いことから、向こう1~2年というタームではある程度堅調な推移が見込めるものの、機械受注などの先行指標の動向を確認する限り、少なくとも年内は軟調な推移が続く可能性が高まっている。輸出は、インバウンド需要の回復が一定程度下支えとなるものの、米国景気の減速や中国景気の回復の鈍さが足枷となり、冴えない推移が続くとみる。これらを踏まえれば、日本の景気は緩やかな回復にとどまると予想する。

上のテーブルを見れば明らかな通り、7~9月期のGDP統計速報2次QEは、1次QEと比較してもほとんど変更なく、消費や投資といった内需が振るわずに停滞した印象であり、情報修正されるとしても、下方修正されるとしても、その修正幅はわずかであろうと予想されています。ただし、足元の10~12月期については物価上昇のピークアウトを背景にプラス成長に回帰することを予想するシンクタンクがいくつかあります。もっとも、プラス成長を記録したとしても、それほど力強い成長を示すわけではなかろう、というのが緩やかなコンセンサスであると私は受け止めています。
下のグラフは、みずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから引用しています。

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2023年12月 5日 (火)

COP28における日本の存在感や役割はどうなっているのか?

広く報じられているように、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)がアラブ首長国連邦(UAE)のドバイにて、11月30日から12月12日までの予定で開催されています。今回のCOPでもっとも注目されている点のひとつは、グローバル・ストックテイクという世界全体の進捗を評価する5年に1度の機会です。2016年11月の IGES Working Paper "Empowering the Ratchet-up Mechanism under the Paris Agreement" によれば、次の4つのポイントで評価されます。

  1. The global stocktake should first clearly recognise the necessity of reducing net global CO2 emissions to zero to stabilise global temperatures at warming thresholds of 1.5℃ and 2℃ above pre-industrial levels. Following this, the global emissions trend, the speed of emissions reduction, and the status of structural changes in key sectors should be examined in terms of whether these parameters are heading to net zero-emissions as soon as possible in the second half of the 21st century.
  2. The global stocktake should comprise two phases: a) technical dialogue phase; and then b) political decision-making phase, with an aim to facilitating mutual learning and promote political momentum toward climate action.
  3. The technical dialogue should be conducted to translate the best available information and science into actionable knowledge for Parties, with a view to informing Parties when they plan their successive NDCs.
  4. The political decision-making phase should be at the ministerial level and develop political decisions on actions based on technical work. This will contribute to ensuring the level of political attention and political will in raising ambition in NDCs as well as the global response based on the outcome of the global stocktake.

ただ、こういった専門的かつ技術的な議論は国内では希薄であり、Climate Action Network International から「化石賞」と認定された、などというニュースが取り上げられているのがせいぜいなところのように見受けられます。要するに、水素とアンモニアを化石燃料と混焼するのがグリーンウォッシュとされているわけですが、どこまで詳細に報じられているのか、私にははなはだ疑問です。

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私はしばしば気候変動や地球温暖化の問題では、学生諸君に対して貧富の格差と関連した理解を求めています。上の infographic は OxFam のサイトから引用しています。OxFamは世界の富裕層トップ10%が二酸化炭素排出の50%に責任があり、50%から90%の中間層が43%に責任がある一方で、下層50%はわずかに8%にすぎない、と主張しています。当然ながら、気候変動の影響は所得下層ほど大きいわけであり、富裕なCO2排出者が支払いの責任を負うべきである "make rich polluters pay" と提唱しています。私は一理あると受け止めています。

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2023年12月 4日 (月)

USB Billionaire Ambitions Report 2023 では相続による億万長者の増加を報告

先月11月の下旬だと思うのですが、USBから Billionaire Ambitions Report 2023 が明らかにされています。私なんぞの庶民の世界とはまったく異なる価値観の億万長者 billionaires の世界が垣間見えます。以下の章構成となっています。

Section 1
The next generation has its own ideas
Section 2
Heirs surpass entrepreneurs
Section 3
Anticipating a USD 5.2 trillion wealth transfer
Section 4
Conclusion

注目すべきは、第2章と第3章のタイトルです。第2章は、相続人が起業家を超える、とタイトルされ、第3章は、5.2兆ドルの資産相続が見込まれる、とされています。すなわち、リポートの序文から第2パラを引用すると以下の通りです。

Foreword
Against this backdrop, the 2023 report finds that the heirs to billionaires are gaining prominence. Indeed, the new billionaires minted during this year's study period accumulated more wealth through inheritance than entrepreneurship. That's a theme we expect to see more of over the next 20 to 30 years, as more than 1,000 billionaires pass an estimated USD 5.2 trillion to their children.

要するに、「億万長者は起業家精神ではなく、相続による資産蓄積から生まれる」 "accumulated more wealth through inheritance than entrepreneurship"、とリポートしています。最後のセンテンスでは、「今後20~30年間で1,000人超の億万長者が5兆2000億米ドルを子供たちに贈与する」 "next 20 to 30 years, as more than 1,000 billionaires pass an estimated USD 5.2 trillion to their children" と推計しています。不平等が拡大する世界で、相続により不平等が世代を越えて受け継がれるわけであり、まさに、下に引用する 2012年の「米国大統領経済報告」Economic Report of the President, February 2012 p.177 Figure 6-7 The Great Gatsby Curve の世界そのままです。

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Great Gatsby Curve とは、見て明らかな通り、縦軸には世代間の所得弾力性 Intergenerational earnings elasticity、すなわち、世代を越えて貧富が継承されやすい度合いを取り、横軸はジニ係数、すなわち、不平等の度合いとなっています。不平等と世代を超えて貧富が継承される度合いは強く正の相関を示しています。そして、これも見れば明らかな通り、左下に位置するスェーデン、フィンランド、ノルウェイ、デンマークといった北欧各国では不平等も世代を超えた貧富の継承もともに小さく、右上のスペイン、米国、英国、イタリアなどのラテンないしアングロサクソン諸国では、これらがともに大きくなっています。日本はこれらの中間よりも不平等と世代を超えて貧富が継承される度合いがともにやや大きい方の部類にも見えます。そして、繰り返しになりますが、USBのリポートでは、「今後20▲30年間で1,000人以上の億万長者が5兆2000億米ドルを子供たちに贈与する」と推計しているわけです。世界の不平等の是正が強烈に必要だと考えるのは、私だけではないと思います。

最後に、下のテーブルは、少し見にくいのですが、USB のリポート Billionaire Ambitions Report 2023 p.41 からアジア太平洋圏の億万長者 billionaires の推移 Wealth tracker - APAC を引用しています。日本では、2022年に27人だった億万長者が、2023年には38人と+81.5%増となり、資産総額は120.5兆米ドルから147.8兆米ドルに+22.7%もの増加を見せています。我々庶民のお給料が長らく減少を続けている中で、億万長者は着実に資産を増やして、それを子供に相続させているわけです。

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2023年12月 3日 (日)

今年のユーキャン新語・流行語大賞は「アレ (A.R.E.)」

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遅ればせながら、一昨日の12月1日、今年2023年のユーキャン新語・流行語大賞は「アレ (A.R.E.)」と決まりました。誠におめでとうございます。ここまで社会現象になるということは、逆に、阪神タイガースのリーグ優勝とか、ましてや日本一がそれほど高い頻度で達成されているわけではない、という事実の裏返しのような気もしないでもありません。何はともあれ、これで、12月12日公表予定の今年の漢字が「虎」になったりすれば、完全制覇ということなのかもしれません。

来年は連覇目指して、
がんばれタイガース!

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2023年12月 2日 (土)

今週の読書は雇用や賃金に関する読書を中心に計6冊で年間読書200冊に達する

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、梅崎修・南雲智映・島西智輝『日本的雇用システムをつくる 1945-1995』(東京大学出版会)では、高度成長期に成立した長期雇用(終身雇用)と年功賃金などの日本的な雇用システムをオーラルヒストリーにより歴史的に後づけようと試みています。首藤若菜『雇用か賃金か 日本の選択』(筑摩選書)では、コロナの時期に需要が激減した航空運輸業界のケーススタディにより日本と欧米、特に米国での賃金と雇用の調整につき分析しています。高島正憲『賃金の日本史』(吉川弘文館)では、経済史の観点から古典古代の賃金や雇用に始まって、明治期までの超長期の賃金の推移とその背景にある分業について分析を試みています。米澤穂信『栞と嘘の季節』(集英社)は、北八王子の高校の図書委員である堀川と松倉を中心として、高校図書室の貸出本の忘れ物の栞が猛毒トリカブトの押し花であった謎を解明します。下村敦史『アルテミスの涙』(小学館文庫)では、自動車事故の入院患者で閉じ込め症候群により身動きひとつ出来ない若い女性患者の妊娠発覚から謎解きが始まるミステリです。瀬尾まい子『傑作はまだ』(文春文庫)では、引きこもり作家が誕生以来顔を合わせたこともない25歳の倅と一時的ながら共同生活を始める物語です。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊でしたが、6~10月に130冊を読みました。11月には23冊を読み、先週までに197冊となっています。12月最初の今週も6冊を読みましたので203冊となりました。例年と同じ年間200冊の新刊書読書ができました。

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まず、梅崎修・南雲智映・島西智輝『日本的雇用システムをつくる 1945-1995』(東京大学出版会)を読みました。著者は、それぞれ、法政大学・東海学園大学・東洋大学の研究者です。出版社からも軽く想像できるように本格的な学術書なのですが、タイトルから理解できるように小難しい計量分析ではありませんから、企業の人事担当とかのビジネスパーソンにも十分読みこなせる内容ではないかと思います。本書は3部構成であり、第Ⅰ部は1945~1995年を対象に日本的雇用システムの基礎を明らかにし、第Ⅱ部は1955~1995年を対象に日本的雇用システムの構成要素を分析し、最後の第Ⅲ部では企業の枠を越えた労使関係を幅広い視点から分析しています。ということで、タイトルに示された期間の戦後日本の雇用システムの特徴は3-4点あり、まず、長期雇用、その昔は終身雇用とさえ呼ばれた長期に渡る雇用関係があります。私なんかもそれに近いのですが、高校や大学を卒業して新卒一括採用で就職し、そのまま55歳ないし60歳の定年まで同じ企業や役所で働く、ということです。次に、長期雇用と相互に補完的な年功賃金です。若い時は生産性よりも低い賃金を受け取り、年齢とともに賃金が上昇して生産性よりも高い賃金が支払われるようになる、というものです。そして、企業内組合です。欧米のような職能による労働組合組織ではなく、企業単位で職能横断的な労働組合の組織により、企業への帰属意識が高くなる効果があります。こういった、戦後すぐくらいからバブル崩壊直後の1990年代半ばまでの日本的雇用システムの形成に関する歴史的な論考です。こういったかなり漠たるシステムの形成に関する歴史ですので、実証的な数量分析は難しいのでしょうが、オーラルヒストリーという手法を取っています。対応するのはドキュメント・ヒストリーとでもいうのか、文書の史料に基づく通常の歴史学的な分析なのだと思います。歴史学では史料の分析が中心になりますが、著者は労働経済学ないしは経済史の専門ですので、オーラルヒルトリーすなわち、インタビューや証言に基づく分析手法を取っています。そして、この日本的雇用システムの連鎖プロセスを、著者たちはカギカッコ付きの「企業内民主化」の過程として理解しようとしています。というのも、戦後も1950年代の近江絹糸ストライキでは、仏教信仰の強要反対、結婚の自由、寄宿舎での信書無断開封への反対、などなど、現在では考えられないような待遇があったという点も明らかにしています。戦後すぐはホワイトカラーの職員とブルーカラーの行員の身分問題の解決から始まって、日本的雇用システム形成に至る基本的な分析結果は、内部労働市場、すなわち、配置転換や人事異動などの人事施策が企業内で発達し、それに伴って長期に渡る雇用が実現され、同時に年功に従って上昇する賃金体系が取られるようになった、という結論かという気がします。この内部労働市場の発達していない米国などでは外部労働市場に依存するわけで、企業内で完結しない転職や人事コンサルタント、あるいは、派遣会社の活用につながることになります。そして、内部労働市場が発達していればスキルアップはOJTを中心とし、長期雇用とも相まって企業特殊的なスキルで十分なのですが、外部労働市場の活用の際には、社内だけで通用する企業特殊的能力ではなく、例えば、経済学部生に当てはめれば、語学力や簿記会計といった資格で明らかに外部に示せるような能力が必要とされます。そして、転職する際にはリカレント教育を受けるチャンスがあったりもします。ですから、どちらがいいか悪いかは何ともいえませんが、日本は内部労働市場を発達させて、転職ではなく企業内の配置転換で雇用者のスキルを活かす道を選んだということです。

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次に、首藤若菜『雇用か賃金か 日本の選択』(筑摩選書)を読みました。著者は、立教大学の研究者であり、専門は労使関係論や女性労働論だそうです。実は、本書についてはよく理解していなくて、というか、情報がなくて、ある経済週刊誌のベスト経済書アンケートのリストに入っていたもので、大学の図書館から借りて読みました。何を分析しているのかといえば、コロナ禍で需要が激減した航空運輸業界のケーススタディを行い、日本や米国、あるいは、ドイツなどの労使関係を量的な雇用の確保か賃金水準の維持かのトレードオフと考えられる関係に焦点を当てています。従来の雇用や労働に関する経済的な分析では実証分析に基づき、日本では賃金は伸縮的で雇用の量的な変動が小さいイポ腕、欧米、特に米国では賃金が硬直的、特に下方硬直的であって、レイオフなどの手法で雇用が量的に変動するという意味で流動性が高い、と考えられて来ました。基本的な分析結果は従来の通説を覆すものではないものの、日本でも量的な調整が過去よりも大きくなってきている、という結果が示されています。そして、高給運輸業界だけでなく、接客業という観点からは同じようにコロナ禍に見舞われた百貨店についても、食品販売という観点でコロナの影響が小さかったスーパーなどへの出向や転籍により量的な雇用維持に努力する労使関係を描き出しています。ただし、量的な調整に対する圧力も強まっており、短期的には従来からの縁辺労働者である非正規雇用が雇用の調整弁となって変動が大きい、という事実は広く観察される一方で、実は、長期的には中核労働者とみなされてきた中高年の男性労働者が量的な雇用調整のファクターになっている、という姿が明らかにされています。そして、最後の結論として、日本においては賃金調整はボーナス制度などの伸縮的な給与体系に基づいて、スピードも速ければ規模も大きい一方で、雇用の量的調整が米国と比較すれば3-4か月遅い、と指摘し、加えて、海外と比較すれば日本においては企業レベルでの雇用の保証はかなり高いといえるが、すべての雇用が守られているわけではないことは明らかであり、社会レベルでの雇用の保証、すなわち、労働の地域的、産業間などの移動を円滑にし、その労働移動のための支援策を充実させることが重要、という結論となっています。
なお、ついでながら、著者ご本人による財務省でのセミナー資料が公開されています。私の書評なんぞよりも的確な解説だと思いますのでご参考まで。
https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2023/lm20230530.pdf

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次に、高島正憲『賃金の日本史』(吉川弘文館)を読みました。著者は、関西学院大学の研究者です。経済の歴史である経済史の研究者の場合、稀に文学部の歴史学のご出身の研究者がいます。本書の著者の場合は経済学部のご出身のようです。通常は、経済学の研究者の場合、せいぜいが産業革命以降の近代経済を対象にしているのですが、本書では我が国古典古代のころから近代少し前の近世徳川期を中心に明治期くらいまで、上の表紙画像に見られるように1500年という超長期を視野に収めています。ということで、本書は正倉院に保管されている我が国最古の賃金記録から説き起こしています。なお、タイトル通りに、賃金が主たる解明の対象となりますが、極めて関連の強い物価や家族構造・職業構造、労働時間・余暇時間などの幅広い観点から分析しています。私ははなはだ疑問で、賃金の歴史で賃金という場合、いわゆる職人の手間賃とは違って、一定の雇用関係が必要そうな気がします。そして、本書の書き起こしでは、写経生というお経の書写を業務とする学問僧のお給料から始めています。こういった写経を業務とする学問僧の採用には一定の試験があり、今でいうところの国家公務員であったと指摘し、まあ、要するに雇われているわけです。そのお給料を史料から明らかにしています。ハッキリいって、はなはだお安いものとなっています。こういった古典古代の賃金については、国立歴史民俗博物館が提供するデータベースれきはくからデータを取っています。かなり劣悪な労働環境と低い賃金から逃亡する写経生も少なくなかった、と結論しています。その後、律令官人の間では格差が極めて大きいとか、したがって、蓄銭叙位令などによって富裕層から売位・売官の代価を得ることは貧富の格差解消の一助として所得再配分に役立っていた点などを指摘しています。中世に入ると職人という階層が成立します。その背景には、生産性工場により農業に従事する人手がそれほど必要でなくなった、という事情があります。貴族や社寺などに雇われた職人の賃金データがその雇い主の収支から明らかになるわけです。日本に限らず、世界的に中世というのは停滞していた時期ながら、未熟練労働の賃金は上昇しなかった一方で、熟練動労の賃金には一定の上昇が見られた点を本書では指摘しています。そして、安土桃山時代から徳川期は天下統一がなされて天下普請の時代に入り、生産性の向上したことから、賃金を受け取るさまざまな職業が文化されます。スミス的な分業が成立するわけです。猫のノミ取りから始まって、本書でもいろんな職業が紹介されています。徳川期にはそういった職業の序列を並べてすごろくで遊んだり、といったことも明らかにしています。明治維新後も、後半に前近代的な労働市場が残り、NHKドラマの「おしん」のような奉公の慣習が残ったり、有名な『日本之下層社会』に収録されたような貧困が広範に存在していたわけです。経済学的なエッセンスを加えつつ、歴史学のように極めて長い期間を概観し、とても興味深い分析がなされています。

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次に、米澤穂信『栞と嘘の季節』(集英社)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、この作品は図書委員シリーズの第2作です。前作の『本と鍵の季節』が連作短編集だった記憶がありますが、この作品は明らかに長編と考えるべきです。同時に、『黒牢城』で直木賞を受賞後の第1作だそうです。ということで、舞台は東京郊外の北八王子市の高校であり、図書委員は主人公の堀川二郎と友人の松倉詩門です。この2人は、同じ作者の古典部シリーズの折木奉太郎と福部里志を思い起こさせると私は受け止めています。前作では、松倉の困りごとが明らかとなって、堀川はやや距離を置いて図書室で静かに待つところで終わっていて、その前作ラストから2か月を経て松倉が無事に、というか、何というか、図書委員の職務に復帰したところからお話が始まります。前作承けはこのあたりまでで、この作品では、返却された図書に押し花の栞が挟んであり、というか、忘れてあって、それが実は猛毒のトリカブトであったところからミステリとしての謎が始まります。その忘れ物をした生徒を探すうちに、写真コンテストで金賞を取った写真にトリカブトが栽培されている現場が映り込んでいて、それが校舎の裏庭だと図書委員の2人が気づいて現場に行くと、超美少女の瀬野麗がトリカブトを処分しているところに出くわします。そして、トリカブトの被害者、死にはしなかったが救急搬送されたのは、生徒から嫌われている教師だったりして、この3人のによる謎の解明が始まります。どうも、姉妹団と称するグループでトリカブトの押し花の栞を配布しているらしく、受け取った人物は「お守り」とか、「切り札」として周遊している、という事実をつかみます。これから先はネタバレになりかねないので、ここでストップします。タイトルの栞にはそういった意味が込められてますし、タイトルのもうひとつの要素である嘘については、何と、松倉でさえ堀川にウソ、というか、隠しごとをしていたりします。最後には、謎は解明され、おそらく事件は無事に終了します。この作者の古典部シリーズや小市民シリーズと同じで、高校生くらいの未成年を主人公とした青春ミステリ作品であり、重大な殺人事件ではありません。ミステリとしては些細とも受け止められる日常の謎を解くシリーズなのですが、この作品だけは殺人につながりかねないトリカブトをストーリーに持ち込んでいますので、やや趣が異なると感じる読者もいるかも知れません。私はさほど違和感なかったのですが、やや重いストーリーに仕上がっていることは事実だろうと思います。

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次に、下村敦史『アルテミスの涙』(小学館文庫)を読みました。著者は、『屍人荘の殺人』で鮎川哲也賞を受賞しデビューしたミステリ作家です。この作品は、医療ミステリに分類されるのかもしれませんが、単なる謎解きや犯人探しのミステリではなく、医療に関連して人生観やもっと大きな価値観、そして、倫理観の琴線に触れるような作品と考えるべきです。主人公は病院の産婦人科医師をしている女性であり、エマージェンシーコールを受けて脳外科病室の入院患者を診ます。自動車事故によって四肢麻痺、身動きひとつできなくなってしまった閉じ込め症候群の若い女性患者の不正出血なのですが、何と、身動きひとつ出来ず、意思疎通も困難であるにもかかわらず、妊娠10週目であることが判明します。病院としては、あるいは、政治家であるこの入院女性の両親からしても、明らかな性的暴行による妊娠であろうと結論されます。もちろん、通報されて駆けつけた警察官もそう考えます。そして、この入院患者の両親が病院外の精神科医に依頼して、私にはよく理解できなかった催眠術で妊娠させた人物が突き止められ、その人物も否定せずに警察に逮捕されます。もちろん、両親は中絶を主張しますが、主人公の産婦人科医がなかなかに複雑なまばたきによる方法で妊娠している入院患者と意思疎通を取ったところ、出産を希望している事実が判明します。政治家の父親と母親の両親には理解ないが、祖父母であれば理解して出産後の子供の面倒を見てくれる、とも主張します。ということで、ミステリですので、あらすじはここまでとします。警察に逮捕された犯人、というか、妊娠させた人物についての whodunnit、どうしてそうなったのかという howdunnit の謎も読んでいただくしかありません。しかし、それほど社会性は高くないレアケースのような気がするものの、人間としての人生や生命や愛情などについての価値観・倫理観といったとても重大な問題を提起している可能性があります。私のようなエコノミストであれば、結婚や出産というのは経済的なバックアップをいくぶんなりとも必要としている、という理由で、こういったケースの出産はオススメしない可能性が高いと思いますが、まあ、そういったエコノミストの観点は、この小説を読む場合は野暮の極みなんだろうと思います。ハイ、それくらいは理解しています。

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次に、瀬尾まい子『傑作はまだ』(文春文庫)を読みました。著者は、小説家であり、ベストセラーとなった『そして、バトンは渡された』の次に書かれたのがこの作品です。前作では血のつながらない家族をテーマとし、この作品では同じように家族の大切さがテーマとなっているようなのですが、血はつながっていても疎遠、というか、生まれてから25年間まったく交流のなかったに等しい父と倅の関係に焦点を当てています。ということで、父親の方は50歳になる引きこもりの作家であり、そこそこ売れているので生活には困らず、それなりに広い一軒家で一人暮らしをしています。そこに、私から見て不自然でヘンな理由をつけて、25歳になる息子が現れて短期間ながら同居を始めます。父親は「おっさん」と呼ばれます。父親の方も倅を「君」と呼びます。この息子が確かに血のつながった倅である点は疑いの余地はなく父親の作家から受け入れられます。というのは、過去20年間に渡って毎月10万円の養育費を送り続けていたて、その見返りに毎月写真が1枚送られてきていたからです。ただし、それは倅が20歳になるまでで最近5年間はまったくの没交渉というわけです。25歳の倅はコンビニのアルバイトという極めてありがちな設定にされています。しかし、父親の方が近所付き合いもせず引きこもっていた一方で、この倅は社交的であって積極的にご近所の主としてお年寄りと接触して、近所付き合いを開始します。町内会に入会して、いくつかのイベントに参加したりします。まあ、一般論をいえば、父親と倅の世間一般での役割が逆転しているわけで、そのあたりのストーリ作りというのは作者の力量を感じます。そして、ある時点でストーリーが急展開します。私はこのあたりで少し不自然さを感じたのですが、まあ、それほど大きく気になる部分ではありません。読者によっては十分スムーズなストーリー展開であると感じる向きも少なくないものと思います。そして、最後は、倅が父親と同居を始めた理由が明かされ、母親や作家の両親も含めたハッピーエンドが待っています。そのあたりは読んでいただくしかないのですが、私はこの作品はオススメだと思いますし、その私の評価からすれば、決して期待は裏切られないものと思います。

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2023年12月 1日 (金)

利益が積み上がる法人企業統計とそれなりに堅調な雇用統計

本日、財務省から7~9月期の法人企業統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率など、10月の雇用統計が、それぞれ公表されています。法人企業統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+5.0%増の367兆7350億円だったものの、経常利益は+20.1%増の23兆7975億円に上っています。そして、設備投資は+3.4%増の12兆4,079億円を記録しています。季節調整済みの系列で見ても原系列の統計と同じ基調であり、売上高と経常利益は前期比プラスを示しています。GDP統計の基礎となる設備投資については前期比+1.4%増となっています。また、失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.5%となり、有効求人倍率も前月から+0.01ポイント上昇し1.30倍と、いずれも改善を示しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

7-9月の設備投資3.4%増、自動車けん引 法人企業統計
財務省が1日発表した7~9月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)のソフトウエアを含む設備投資は12兆4079億円で、前年同期と比べると3.4%増えた。輸送用機械などで生産体制の強化が進んだ。伸びは4~6月期の4.5%から縮んだ。
設備投資は瞬間風速を示す季節調整済みの前期比では1.4%伸びた。2期ぶりのプラスとなった。非製造業が2.4%増えた一方、製造業は0.4%減った。
経常利益は前年同期比20.1%増の23兆7975億円だった。7~9月期として過去最高を更新した。
設備投資の業種別では製造業、非製造業とも前年同期比でプラスを確保した。輸送用機械が16.8%、化学が6.0%プラスだった。生産体制の強化や能力増強に関連した投資が進んだ。鉄鋼は8.5%減、業務用機械は9.0%減でいずれも落ち込んだ。前年からの反動が出た。
非製造業はリース資産の購入があった物品賃貸業が39.2%増えた。娯楽施設の改修や新設投資がみられたサービス業は12.0%伸びた。
経常利益を業種別にみると、非製造業が40.0%の増益で全体を押し上げた。
発電用の燃料価格が下落した電気業が増益に転じた。新型コロナウイルス禍からの回復に伴う新規出店や客数増加のあった卸売業・小売業は17.1%上向いた。
海外経済の減速などを受けた製造業は0.9%減少した。パソコンやスマートフォン向けの需要が弱まった情報通信機械は60.7%の減益だった。業務用機械も41.3%マイナスだった。
売上高は5.0%増の367兆7350億円となった。供給制約の緩んだ輸送用機械が17.2%伸びた。価格転嫁の進んだ食料品なども増収だった。
財務省の担当者は「景気が緩やかに回復している状況を反映した」と分析した。先行きについては、海外景気の下振れや物価上昇の影響を注視したいと述べた。
10月の求人倍率1.30倍、10カ月ぶり上昇 失業率は改善
厚生労働省が1日に発表した10月の有効求人倍率(季節調整値)は1.30倍で前月から0.01ポイント上昇した。10カ月ぶりに前月を上回った。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ飲食・サービス業の需要が回復して求人が増えた。
総務省が同日発表した10月の完全失業率は2.5%で前月に比べて0.1ポイント下がった。2カ月連続で改善した。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。10月の有効求職者数は0.3%減少した。有効求人数は前月比横ばいだった。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月比で1.8%マイナスとなった。原材料費や光熱費が上がった影響を受けて製造業は10.6%、建設業は6.2%それぞれ減少した。宿泊・飲食サービス業は新型コロナからの消費持ち直しを背景に2.2%増加した。
完全失業者数は175万人で前年同月比で3万人減った。就業者数は6771万人で16万人伸び、15カ月連続の増加となった。男性は6万人、女性は10万人いずれも増えた。仕事に就かず職探しもしていない非労働人口は4062万人で33万人減った。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、いくつかの統計を並べましたので、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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ということで、法人企業統計の結果について、3つの要因が作用しています。すなわち、第1に、製造業、特に、自動車産業における半導体部品などの供給制約の緩和、第2に、金融引締めに転じている先進各国をはじめとする海外景気の動向、そして、第3に、インフレないし物価上昇の動向、の3点です。いずれにせよ、売上高にせよ、営業利益や経常利益にせよ、名目で計測される統計ですので、インフレによる水増しの影響は無視できません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは不明です。少し産業別に詳しく見ると、7~9月期の前年同期比で見て、供給制約が緩和された輸送機械が売上高でも経常利益でも大きな増収・増益となっています。また、食料品も値上げの浸透から増収・増益に転じています。他方、石油・石炭が売上高で大きな減収となっているのは、数量ベースというよりもエネルギー価格の動向に起因するものであろうと理解すべきです。また、政府からの補助金の影響が現れたのが電気業であり、昨年2022年は10~12月期まで営業利益も経常利益も赤字でしたが、今年2023年に入って1~3月期には黒字に転じ、7~9月期まで3期連続で営業利益も経常利益も黒字を計上しています。設備投資はやや低退色を強めているように私には見えます。上のグラフを見ても理解できるように、売上高はリーマン・ショック直前のサブプライム・バブル期のピークには達していませんが、経常利益はとっくに過去最高益を突破しています。企業サイドからすればカッコ付きで「体質強化」といえるのかもしれませんが、従業員や消費者のサイドから考えれば、企業利益ばかり溜め込まれるのが、どこまで現在の日本経済に好ましいのかどうか、もちろん、日本経済がかつての高度成長期のように右肩上がりの拡大基調であればまだしも、トリックルダウンはほぼほぼ完全に否定され、経済成長なしに賃金も上がらない中で、企業部門ばかりが利益を積み上げるのが経済社会的に見ていいのかどうか、疑問と私は考えています。


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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍の中でを経て労働分配率が大きく低下を示しています。設備投資/キャッシュフロー比率もようやく底ばいから上昇し始めたところです。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金は伸びを高めています。また、4枚めのパネルにあるように、デフレに陥った1990年代後半から人件費が長らく停滞する中で、経常利益は過去最高水準を更新し続けています。繰り返しになりますが、勤労者の賃金が上がらない中で、企業収益だけが伸びるのが、ホントに国民にとって望ましい社会なのでしょうか、それとも、現在の経済社会は誰にとって望ましくなるようになっているのでしょうか?

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.6%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、前月から悪横ばいの1.29倍と見込まれていました。実績では、失業率も有効求人倍率もわずかながら改善しましたが、予測レンジの範囲内でしたし、総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計は改善がやや鈍い面もあるとはいえ、雇用は底堅いと私は評価しています。季節調整済みのマクロの統計で見て、昨年2022年年末12月から直近の10月統計までの期間で、人口減少局面に入って久しい中で労働力人口は+36万人増加し、非労働力人口は▲45万人減少しています。就業者は+23万人増の一方で、完全失業者は+4万人しか増加しておらず、これには積極的な職探しの結果の増加も含まれていると考えるべきです。就業者の内訳として雇用形態を見ると、正規が+11万人増の一方で、非正規が+10万人増ですら、わずかながら質的な雇用も改善しているといえます。先進各国がソフトランディングに成功すれば、我が国の雇用も悪化することは考えにくいのではないかと思います。ですので、問題は量的な雇用ではなく賃金動向です。

最後に、本日の法人企業統計などを受けて、来週12月8日に内閣府から7~9月期のGDP統計速報2次QEが公表されます。私はほとんど1次QEから変更ないものと受け止めています。

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