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2024年1月31日 (水)

IMF「世界経済見通し改定」では世界経済の成長率を上方改定

昨日、国際通貨基金(IMF)から「IMF世界経済見通し」World Economic Outlook Update が公表されています。サブタイトルは Moderating Inflation and Steady Growth Open Path to Soft Landing となっており、米国経済のソフトランディングにより、今年2024年の世界経済の成長率を上方改定しています。ただし、ユーロ圏欧州や日本は下方改定されています。中国の成長率も上方改定されたとはいえ、"Deepening property sector woes in China or, elsewhere, a disruptive turn to tax hikes and spending cuts could also cause growth disappointments." と指摘し、中国における不動産セクターの問題や財政再建の影響は下方リスクがあると示唆しています。下のテーブルはIMF Blogのサイトから世界経済の成長率の総括表を引用しています。

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目を国内に転じると、本日は月末最終営業日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも昨年2023年12月統計のです。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から+1.8%の増産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+2.1%増の15兆5150億円を示した一方で、季節調整済み指数は前月から▲2.9%の減少を記録しています。グラフだけ以下の通り示しておきます。

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2024年1月30日 (火)

12月雇用統計で失業率は改善するも有効求人倍率は悪化

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率など、昨年2023年12月の雇用統計が公表されています。失業率は前月から△0.1%ポイント改善して2.4%を記録した一方で、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント悪化し1.27倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

23年の求人倍率1.31倍、2年連続上昇 失業率は2.6%
厚生労働省が30日発表した2023年の有効求人倍率は1.31倍と、前年から0.03ポイント伸びた。上昇は2年連続だ。新型コロナウイルス禍から雇用環境が回復したが、伸び率は前年より鈍化した。総務省が同日発表した23年平均の完全失業率は2.6%と横ばいだった。
有効求人倍率は全国のハローワークで職を探す人に対し、1人あたり何件の求人があるかを指す。21年に1.13倍まで下がったが22年に1.28倍と反転し、今回はさらに改善した。コロナ前の19年水準(1.60倍)には届いていない。
月平均の有効求人数は0.9%増の249万6503人だった。国内外の往来再開で飲食・宿泊業が年前半に大きく伸びた。
有効求職者数は190万9647人で1.4%減少した。新規求職者のうち転職希望者が減っており「賃金の上昇を期待して転職活動を控えるといった動きがある」(厚労省)という。
厚労省が同日発表した12月の有効求人倍率(季節調整値)は1.27倍と、前月から0.01ポイント下がった。22年6月以来の低水準だ。
23年平均の完全失業者数は178万人で前年から1万人減った。15歳以上人口の就業率は61.2%と、前年比0.3ポイント上がった。3年連続で伸びた。
就業者数は24万人増の6747万人だった。職に就かず求職活動もしていない非労働力人口は4084万人と44万人減少し、新たに労働市場に参入する動きが目立ってきた。
23年12月の完全失業率(季節調整値)は2.4%で前月から0.1ポイント低下した。

年次統計中心で長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、前月から横ばいの1.28倍と見込まれていました。実績では、失業率は前月から改善した一方で、有効求人倍率はわずかに悪化し、やや不整合な形になりましたが、一致指標と遅行指標であることから、まあ、こんなもんかという気はします。いずれにせよ、足元の統計は改善がやや鈍い面もあるとはいえ、雇用は底堅いと私は評価しています。
先進各国がこのまま景気後退に陥らずにソフトランディングに成功すれば、我が国の雇用も大きく悪化するとは考えにくいのではないかと思います。ですので、問題は量的な雇用ではなく賃金動向です。その意味でも、今年の春闘が気にかかります。

今日は体調が悪くて、夕方から病院に行ったくらいですので、ここまでとしておきます。

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2024年1月29日 (月)

今年の米国大統領選挙の焦点やいかに?

いうまでもありませんが、今年2024年は米国大統領選挙の年です。そして、表題にした「米国大統領選挙の焦点」は明らかに、トランプ前大統領の動向です。共和党の大統領候補選びは予備選序盤で大勢が決してしまった感があります。民主党の大統領候補は、高齢とはいえ現職のバイデン大統領ですんなり決まるでしょうから、4年前と同じ組合せの対決になる可能性が高まってると私は受け止めています。
中でも注目の的はトランプ前大統領です。私が見かけた最初の記事は、昨年2023年9月5日の Foreign Affairs 誌の記事でしたが、最近では Financial Times 紙でも取り上げられていました。まあ、私が見落としているだけで、いっぱいあるのだろうと思います。ただ、この2つの記事では、いずれも "Trump 2.0" と呼んでいます。トランプ前大統領が米国政権にあった2017-2021年から一新して、新しいバージョンということなのだろうと思います。以下に2つの記事のリンクを置いておきます。

私自身は、今現在の日本について、経済が成長しない中で賃金が上がらず、財政が大赤字を記録し、世界経済の中で日本がプレゼンスを徐々に低下させていますが、実は、経済よりも政治的な民主主義が危機に瀕していて、しかも、日本だけでなく、世界的に民主主義が行き詰まっていると感じています。ある意味で、米国が民主主義の行詰りの先頭に立っているかもしれません。果たして、100年先に歴史家は今年2024年をどのように記述するのか、とても気にかかります。

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2024年1月28日 (日)

花粉を感じるこの週末

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昨日1月27日、ウェザーニュースで「花粉症の半数に症状が出始める」とのお天気ニュースを見かけました。はい、昨日今日と、この週末、かなりハッキリと花粉の飛散を私は感じています。
ウェザーニュースのサイトによれば、花粉の飛散を「ちょっと感じる」と「けっこう感じる」を合わせると53%に達したようです。エリアごとに見ると、花粉を感じる割合がもっとも高かったのは関東で62%、次いで高かった東海と九州はともに53%と、花粉症とみられる症状が多く出始めています。
今週、寒さが緩むのはいいのですが、花粉の飛散がワッと増えそうで怖い気がします。

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2024年1月27日 (土)

今週の読書はマルクス主義の環境書をはじめ計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、斎藤幸平『マルクス解体』(講談社)では、晩期マルクスの研究から得られた地球環境に対するマルクス主義のインプリケーションが示されています。ジェフリー・ディーヴァー『ハンティング・タイム』(文藝春秋)では、家庭内暴力で収監されていた元夫が刑務所から釈放されたことにより逃げる母娘を保護するためにコルター・ショウが活躍します。川島隆太『本を読むだけで脳は若返る』(PHP新書)では、紙の本の読書、特に音読が脳機能の活性化に役立つ研究成果が紹介されています。物江潤『デジタル教育という幻想』(平凡社新書)は、川下である教育現場の実情を考慮せずに、タブレットを活用したGIGAスクール構想を進めようとする川上の教育政策企画・立案の危うさを指摘しています。青山文平『泳ぐ者』(新潮文庫)では、徒目付の片岡直人が離縁した元夫を刺殺した元妻、また、大川を泳いで渡る商人の、それぞれの「なぜ」を追求します。話題の達人倶楽部[編]『すごい言い換え700語』(青春文庫)では、社交的に良好な関係の維持あるいは円滑な対人関係のために、適切な言い換えを多数収録しています。
ということで、先週まで計15冊の後、今週ポストする6冊を合わせて21冊となります。また、これらの新刊書読書の他に、昨年暮れに封切られた映画の原作となった倉井眉介『怪物の木こり』(宝島社)を読みました。新刊書読書ではないので、このブログには含めずに、別途、Facebookでシェアしておきました。

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まず、斎藤幸平『マルクス解体』(講談社)を読みました。著者は、著者は『人新世の「資本論」』で注目されたマルキスト哲学者、思想家であり、東京大学社会科学研究所の研究者です。本書では、晩期マルクスの思想を中心に、環境マルクス主義について議論を展開しています。なお、本書はケンブリッジ大学出版会から2023年2月の出版された Marx in the Anthropocene: Towards the Idea of Degrowth Communism をもとに邦訳された日本語版です。日本での出版は講談社ですが、もともとの出版社を見れば理解できるように完全な学術書であると考えるべきです。中心はマルクス主義経済学や思想としてのマルクス主義に基づく脱成長論といえます。ということで、このままでは資本主義の終わりよりも世界の、あるいは、地球の終わりの方が近い、というフレーズが本書にも収録されていますが、晩期マルクスの物質代謝やその物質代謝の亀裂から脱成長を本書では議論しています。というのは、マルクス主義というのは、私も実は歴史観についてはマルクス主義に近いと自覚しているのですが、唯物史観に基づいて生産力が永遠に成長していき、この生産力が伸びるために生産関係が桎梏となって革命が起こる、という考えに基づいています。しかし、晩期マルクスはこういった永遠の成長ではなく、地球環境のサステイナビリティのために脱成長を志向していた、というのが極めて単純に短くした本書の結論です。その中心は第3部の第6章にあります。このあたりまでは私にもある程度は理解できます。ただ、その後の第7章からは私の理解を大きく超えます。どうして、今までこういったマルクスの見方に誰も気づかなかったのかというと、エンゲルスが『資本論』だ異2巻とだ異3巻の編集ですっ飛ばしたからだ、ということのようです。この点は私には何ともいえません。ただ、私の疑問は主として以下の3点あります。第1に、マルクス主義経済学では、どうしてもマルクスに依拠しないと脱成長が正当化されないのか、という疑問です。例えば、私のような主流はエコノミストからすれば、単純に考えて、マルクスの『資本論』はスミス的な完全競争の世界に適用され、その後の市場集中が進み、独占や寡占が進んだ経済はレーニンの『帝国主義論』が分析を進める、といった経済学説史的な展開がなく、すべてがマルクスの考えでないと正当化されないというのは、とても不便に感じます。第2に、私の理解がまったく及ばなくなった第7章にあるのですが、成長と環境負荷が資本主義の下で見事にデカップリングされ、成長が続いても環境負荷が高まらない、という技術的なブレイクスルーがなされたとしても、「そのような社会が善き生を実現できる望ましい世界にはならないだろう」というのも、私の理解は及びません。別問題として切り分けることが出来ないものでしょうか。第3に、本書から私はそれほど強いメッセージとして読み取れなかったのですが、おそらく、本書では社会主義は無条件二脱成長を実現し、環境負荷を低減できる、ということにはならないものと私は想像しています。現在の資本主義的な生産様式のままでは脱成長が不可能であるというのは、ほのかに理解するものの、社会主義体制で脱成長を成し遂げるために何が必要なのか、やや理解がはかどりませんでした。同時に、私はまず社会主義革命があって、その後に、社会主義体制下で脱成長が成し遂げられるという二段階論と受け止めましたが、この私の受け止めが正しいのか、それとも間違っているのか、そのあたりを読み取るのに失敗した気がします。

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次に、ジェフリー・ディーヴァー『ハンティング・タイム』(文藝春秋)を読みました。著者は、ツイストとも呼ばれるどんでん返しがお得意な米国のミステリ作家です。本書は、コルター・ショウのシリーズ4冊目であり、前の3冊で三部作完成ともいわれていましたので、新しいシーズンに入ったのかもしれません。主人公のコルター・ショウは、開拓期の米国の賞金稼ぎを引き継ぐかのように、懸賞金を求めて難事件に挑み、人を探し出すというプロです。出版社のサイトによれば、「ドンデン返し20回超え」だそうで、この作者の作品の特徴がよく現れています。ということで、あらすじはごく単純に、優秀な原子力エンジニアであるアリソン・パーパーがひとり娘とともに姿を消します。理由は、家庭内暴力(DV)で逮捕投獄されていた元夫のジョン・メリットがなぜか刑期を満了せずに早期に釈放されたからです。元夫のジョンは優秀な刑事でしたので、そのスキルやコネやをフルに駆使して元妻と娘の行方を追います。別途、なぜか、2人組の殺し屋もこの母娘の後を追います。主人公のコルター・ショウはアリソン・パーカーの勤務する原子力関係の会社社長から、「ポケット・サン」と命名された超小型原子炉の部品だかなんだか、このあたりは技術的に私の理解が及びませんが、を取り戻すべく、母娘の失踪とは別件で雇われていたのですが、この母娘の発見と保護も追加的に依頼されます。ということで、母娘を追う3組のプロ、すなわち、主人公のコルター・ショウ、元夫で優秀な刑事だったのジョン・メリット、そして、謎の殺し屋、スーツとジャケットと呼ばれる2人組の追跡劇が始まります。母娘を匿ってくれる友人がいたり、あるいは、3組の追跡者が母娘の足跡を追うために情報を収集したりと、いろんな読ませどころがありますが、なんといってもこの作者ですので、ストーリー展開の構図が二転三転しコロコロと変わって行きます。どんでん返しですので、味方だと思っていた人物が実は敵であったり、あるいは、その逆だったりするわけです。そして、通常は、味方だと思っていた人物がいわゆる黒幕的に敵側であったり、あるいは、敵側と通じていたりして読者は驚かされるわけですが、本書の作者の場合は、逆も大いにあります。この作者のシリーズは、本作品のコルター・ショウを主人公とするシリーズ、ニューヨーク市警を退職した物的証拠に依拠するリンカーン・ライムを主人公とするシリーズ、取調べの際の言葉や態度から真相に迫るカリフォルニア州警察のキャサリン・ダンスを主人公とするシリーズ、の3つが代表作なのですが、いずれもどんでん返しを特徴としていますので、私の方でも、敵か味方か、あるいは、犯人かそうではない善意の関係者なのか、については疑ってかかるような読み方をしてしまいます。もっと素直に、読み進める読者の方が楽しめるのかもしれません。

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次に、川島隆太『本を読むだけで脳は若返る』(PHP新書)を読みました。著者は、医学者であり、東北大学の研究者です。どこかで見た名前だと思っていたのですが、ニンテンドーDSのソフトで有名な「脳トレ」の監修者だそうです。ということで、本書ではそれなりの統計的なエビデンスでもって、タイトル通りに、(紙の)本を読むことによる脳の若返りを含めた活性化について論じています。ただ、単に省略されているだけなのか、それとも、別の理由によるのか、私には明確ではありませんが、統計的な有意性に関する検定結果は明示されていません。ですので、グラフを示してのイメージだけ、ということになります。一般向けの新書ですので、単に省略されているだけだろうと、私の方では善意で解釈しています。結論については、それなりに首肯できる内容です。すなわち、紙の本を読むこと、特にマンガやイラストの多い絵本などではなく活字の本を読むことにより、ビジネスパーソンの創造性が向上したり、読書習慣により子供の脳の発達を促したり、認知症の症状が改善したりといった脳機能の改善や回復が見られる、という結果が得られる、ということです。最後の認知症の症状の改善については、一般的な「常識」として、認知症は進行を遅らせることができるだけで、回復は望めない、といわれていますが、音読によりアルツハイマー型認知症患者の脳の認知機能を向上させることができ、そのことはすでに研究論文も公表されている、と指摘しています(p.70)。私はまったくの専門外ですので、本書の主張が正しいのか、世間一般の常識が正しいのか、確たる見識を持ちませんが、本書の著者の主張は先述の通りです。そして、本書の前半がこういった読書、特に音読による脳機能活性化について取り上げられており、後半は、スマホ・タブレットによる脳機能へのダメージについて議論されています。本書の著者の主張によれば、スマホ・タブレットは依存性が強くて、長時間の使用は脳機能の発達に悪影響を及ぼすことがデータから明らかであって、酒と同じように法的に規制してもいいのではないか、ということになります。スマホやタブレットを長時間使うのは、結論からすれば、疲れないからであって、MRIで計測するとダメージが蓄積されていくことが確認できるとしています。他方で、GIGAスクール構想などでスマホやタブレットを勉強道具として活用することも進められているわけですが、著者は大きな疑問を呈しています。とくに、スマホやタブレットはマルチファンクションであり、勉強以外のことに集中力が削がれる可能性も指摘しています。本書では、コンテンツではなくデバイスに着目した議論が展開されていて、私のようにデバイスではなくコンテンツの方が問題ではないか、と単純に考える一般ピープルも多いことと思いますが、その点も本書では否定されています。デバイス主義ではなく、コンテンツ重視の観点からは、例えば、ポルノ小説を紙の本で読むよりは、ゲーム感覚でタブレットで勉強する方が脳機能の活性化にはいいような気がするのですが、本書は真逆の結論を然るべき研究成果に基づいて主張しています。やや意外な結論なのですが、そうなのかもしれません。

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次に、物江潤『デジタル教育という幻想』(平凡社新書)を読みました。著者は、塾を経営する傍ら社会批評などの執筆活動をしている、と紹介されています。本書では、GIGAスクール構想に基づき、小中学校における教育のデジタル化、有り体にいえば、タブレットを使った教育について強く批判しています。私が読んで理解した範囲で、以下の理由によります。すなわち、まず第1に、タブレットの目的外使用をやめさせることがほぼほぼ不可能だからです。これは容易に想像できます。第2に、本書で「川上」と読んでいる文部科学省や国会議員などの教育政策の企画立案をするグループが、「川下」の教育現場にいる教師や教育実態をまったく把握せず、政策の企画立案をしていて、教育現場からかけ離れた方針を打ち出しているためです。本書でも指摘しているように、「川下に流し込む」ことにより、実施責任を教育現場に負わせることができるので、かなり無責任な政策決定になっている可能性はあります。よく言及されるように、を考案したアップル社のスティーブ・ジョブズは自分の子供にはスマホ、というか、iPhoneやタブレットのiPadは与えなかった、というのは、私自身は確認のしようもありませんでしたが、よく聞いた話です。本書では、冒頭で「2023年7月にオランダ政府が学校教室におけるタビレット、携帯電話、スマートウォッチの持込みを禁止した、とも指摘しています。オランダ政府のデバイス原因説よりは、私自身は、ややコンテンツ要因説に近い気がするのですが、本書でもコンテンツ要因説をとっているように感じました。確かに、タブレットを教室で使うようになれば目的外使用、というか、タブレットを勉強に使わずにゲーム、SNSなどに使う誘惑が大きくなるのは当然ですし、それを教員が効果的に防止するのは難しそうな気がします。ただ、デバイスについては工夫の余地があるのも事実です。20年くらい間に発売が開始された初期のニンテンドーDSのように通信機能なしで、半導体チップを差し込んで勉強のみに使用するデバイスを汎用的なタブレットの代わりに開発することは十分可能ではないか、という気がするからです。ただ、私は大学教員なわけですが、ある程度は学力でグループ分けされた結果の学生を受け入れている大学と違って、義務教育である小中学校ではあまりにも学力の分散が大きくて、一律なデジタル教育が難しい、というか、不可能に近いのは理解します。私の授業でも、学内サイトにアップロードした授業資料を教室内のモニターに映写したり、学生のPCやタブレットなどのデバイスで見ながら授業を進めることが多いのですが、私自身は少し強引にでも教科書を指定していて、教科書を教室に持って来て授業を受けるように指導しています。でも、決して少なくない先生方は教科書の指定はしていないような気がします。特に、経済学部ではそのように私は受け止めています。本筋から離れてしまいましたが、本書を読んでいて、タブレットを使った教育は、少なくともいっそう格差を拡大させる可能性があると感じました。すなわち、私自身の信念に近いのですが、教育というのはある意味で格差を拡大する可能性を秘めています。学力の高い高校生が大学入試で勝ち残ってトップ校に進学し、さらに学力を高めて卒業するわけです。教育のデジタル化についても同じで、教育や学習というのは自分に跳ね返ってくるのですが、そこまで深い理解ない小中学生であれば、遊ぶ子は遊んでしまうし、勉強する子はしっかりと勉強ができる、という環境を与える結果になるような気がします。タブレットに限らず、ICT教育デバイスを活用して学力をさらに伸ばす子、逆に、汎用的なデバイスでゲームやSNSなどで遊んで学力を十分に伸ばせない子、がいそうです。私の直感では、前者はもともと学力の高い子でしょうし、後者はもともと学力の低い子である可能性が高いような気がします。それがいいのか悪いのか、現時点では、私は望ましくない、と考えますが、容認するという考えもあり得るかもしれません。

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次に、青山文平『泳ぐ者』(新潮文庫)を読みました。著者は、時代小説の作家であり、本書は『半席』の続編となっています。前作は6編の明らかに短編といえる長さの6話から成る連作短編集でしたが、本作品は中編くらいの長さの2話からなっています。もちろん、「なぜ」を探る徒目付の片岡直人が主人公であり、その昔の徳川期には、今にも部分的に引き継がれている自白中心の取調べであり、しかも、今とは違って拷問をしてまでも捜査側の見立てに従った自白を引き出して、はい、それで終わり、という犯罪捜査でしたが、主人公の片岡直人は、「なぜ」を探る、ミステリの用語でいえば whydunnit を追求するわけです。しかも、前作のタイトルに見られるように、一代御目見得の御家人で世襲出来ない半席の立場からフルスペックの世襲できる旗本に上昇すべく努力を繰り返しているわけです。ということで、あらすじですが、その上役の内藤雅之が遠国ご用から戻って、馴染みの居酒屋で出会うところから物語が始まります。いろいろと、幕府の鎖国政策に対する批判めいた会話や周辺各国からの脅威や海防について語りつつ、片岡直人の活動が再開されます。「再開」というのは、前作『半席』の最後でいろいろとあって、主人公の片岡直人は心身ともに不調であった、という事情からです。最初の中編では、かなり年配の侍の家を舞台にした事件です。離縁されて3年半もけ経過してから、元妻が元夫を刺殺します。しかも、元夫は高齢で病床にあり、それほど先が長いわけではなさそうに見えました。そもそも、なぜ離縁したのかから謎解きを始め、元夫の郷里の越後の風習までさかのぼって刺殺事件の裏にある「なぜ」を解明しようと試みます。2番めの中編は、そこそこ繁盛している商家の主が10月の冷たい水をものともせずに、また、決して達者な泳ぎではないにもかかわらず、毎日決まった時刻に大川を泳いで渡っていると噂になり、片岡直人が見に行って少し話し込んだりします。そして、どのような理由で泳いでいたのかを突き止めようと、ご用のついでにこの泳ぐ者の出身地である三河まで立ち寄って、片岡直人が調べを進めます。前作の『半席』も同じで、この作品も明らかに時代小説とはいえミステリであると考えるべきです。繰り返しになりますが、whydunnit のミステリです。さすがに直木賞作家の作品ですし、特に、私のように、時代小説もミステリもどちらも大好きという読者には大いにオススメです。

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次に、話題の達人倶楽部[編]『すごい言い換え700語』(青春文庫)を読みました。編者は、出版社のサイトで「カジュアルな話題から高尚なジャンルまで、あらゆる分野の情報を網羅し、常に話題の中心を追いかける柔軟思考型プロ集団」と紹介されています。本書の1年後の昨年年央くらいに同じシリーズで『気の利いた言い換え680語』というのも出版されています。私は図書館の予約待ちです。ということで、本書では、「ダメだなあ」より「もったいない!」、「新鮮野菜」より「朝採れ野菜」、「迅速に対応」より「30分以内に対応」といった言換えを集めています。ナルホドと納得するものばかりで、なかなかにタメになります。その上で、いくつか考えるところがあります。まず、第1に、私は関西出身ながら大学卒業後に東京に行って、定年の60歳まで長らく公務員をしていました。独身のころは東京の下町に住んでいて、今でも相手次第ながら日常会話には東京下町言葉でしゃべっています。そして、私の実感からすると、関西弁はソフトで、東京下町言葉はややハードな印象を持っています。ですから、失礼をわびたり、学生を褒める際には関西弁で、何らかの強調を示したり、学生を叱る場合は東京下町言葉がいいんではないか、と勝手に思っています。例えば、後者の叱る場合は「アホンダラ」というよりも、「バッキャロー」と言い放つ方が効きそうな気がします。私の勝手な憶測です。第2に、あくまでタイトルのように「言い換え」ですから、書き言葉、文章に本書の指摘が適するかどうか不安があります。特に、学術論文を書く際には、当てはまらない場合がありそうな気がします。まあ、それは本書の目的から外れるので仕方ないと思います。第3に、これは苦情なのですが、「言い換え」ではなく明らかに意味の違う例が本書にはいくつか散見されます。典型的には、p.225の「万障お繰り合わせの上、お越しください」を「ご都合がつきましたら、お越しください」では来て欲しい度合いが明らかに異なります。最後に、私は「官尊民卑」という言葉もある日本で長らく国家公務員をした後、現在は大学で教員として学生に教える立場ですので、話し相手に対してはついつい目下に接するようになりがちです。ですので、なるべくていねいに表現するように努めているとしても、ついつい、上から目線の言葉になりがちなことは自覚しています。本書の最初の方にあるように、否定や不同意を表す際には、学生には明確に「違う」といってやるのもひとつの手ですが、相手が同僚教員などであれば、しかも、経済学というのはそれほど明快に割り切った回答を得られる学問領域ではありませんから、本書にはない表現で私は「疑問が残る」とか、「見方が分かれる」と表現する場合があります。私なんぞのサラリーマンをした後に大学に来た実務家教員よりも、自分の方がエラいと思っている大学院教育を長らく受けた学術コースの教員がいっぱいいるので、それはそれなりに表現を選ぶのもタイヘンです。

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2024年1月26日 (金)

2023年12月の企業向けサービス価格指数(SPPI)は+2%超の伸びが続く

本日、日銀から昨年2023年12月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月と同じ+2.4%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについては前月から伸びが縮小して+2.3%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、12月2.4%上昇 宿泊関連が上昇
日銀が26日発表した2023年12月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は110.4と、前年同月比2.4%上昇した。11月から横ばいで、15年3月(3.1%上昇)以来の伸びが続いた。人流回復で宿泊サービスの価格が押し上げられたほか、土木建築サービスなどの分野で人件費上昇を反映する動きもみられた。
同日公表した23年通年の指数は109.1と前年比2.0%上昇し、14年(2.6%上昇)以来の高い伸び率となった。消費税増税の影響を除けば1991年以来32年ぶりの高さだった。
企業向けサービス価格指数は、企業間で取引されるサービスの価格変動を表す。モノの価格の動きを示す企業物価指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。上昇率は5カ月連続で2%台となった。12月は調査対象となる146品目のうち価格が前年同月比で上昇したのは108品目、下落したのは22品目だった。
内訳をみると、宿泊サービスは前年同月比で59.8%上昇した。インバウンド(訪日外国人)の回復や政府の観光振興策「全国旅行支援」が各地で終了したことが価格を押し上げた。土木建築サービスも人件費上昇を転嫁する動きがあり5.2%上昇した。
外航貨物輸送は前年同月比6.2%上昇し、11月(1.9%上昇)から上昇率が4.3ポイント拡大した。22年12月に価格が下落していた反動や海運相場の上昇が影響した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。

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モノの方の企業物価指数(PPI)の上昇トレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り2023年中に終了し、2024年1月からは前年同月比でマイナスに舞い戻る可能性があると考えられる一方で、その名の通りのサービスの企業向けサービス物価指数(SPPI)はまだ上昇を続けているのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、景気後退期を示しています。上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドライン指数の前年同月比上昇率は、今年2023年8月から+2%台まで加速し、本日公表された12月統計では+2.4%に達しています。もちろん、+2%前後の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性が高いながら、日銀の物価目標、これは生鮮食品を除く消費者物価上昇率ですが、物価目標の+2%近傍であることも確かです。加えて、下のパネルにプロットしたように、モノの物価である企業物価指数のうちの国内物価のグラフを見ても理解できるように、インフレ率は高いながら、物価上昇がさらに加速する局面ではないんではないか、と私は考えています。繰り返しになりますが、ヘッドラインSPPI上昇率にせよ、国際運輸を除いたコアSPPIにせよ、日銀の物価目標とほぼマッチする+2%程度となっている点は忘れるべきではありません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて12月統計のヘッドライン上昇率+2.4%への寄与度で見ると、宿泊サービスや土木建築サービスや機械修理などの諸サービスが+1.12%ともっとも大きな寄与を示しています。ヘッドライン上昇率+2.4%の半分近くを占めています。引用した記事にもある通り、全国旅行支援が終了した影響もあり、宿泊サービスは前年同月比で+59.8%と大きな上昇となっています。ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.56%、加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている石油価格の影響が大きい外航貨物輸送や道路旅客輸送や国内航空旅客輸送などの運輸・郵便が+0.31%のプラス寄与となっています。リース・レンタルについても+0.18%と寄与が大きくなっています。

最後に、本日、総務省統計局から東京都区部の1月中旬速報値の消費者物価指数(CPI)が公表されています。いつもはそれほど注目していないのですが、2024年1月中旬の統計で生鮮食品を除くコアCPI上昇率が、とうとう日銀物価目標の+2%を大きく割り込んで+1.6%にまで縮小しています。+2%を下回るのは1年8か月、というか、20か月振りだそうです。いくつかニュースサイトのリンクだけ以下のように残しておきます。

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2024年1月25日 (木)

今年の恵方巻きの値上げはどれくらいか?

昨日1月24日に、帝国データバンクから「2024年節分シーズン 恵方巻価格調査」の結果が明らかにされています。今年の恵方巻は1本当たりの平均価格で40円前後、約4%の値上げと小幅に落ち着いていて、70~150円の値上げだった昨シーズンに比べると一服感も出ているとリポートされています。さらに、今シーズンは海鮮恵方巻では値下げも目立っていてお買い得感強まっているようです。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の概要を2点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 昨シーズンに比べ「お買い得感」強まる フードロス対策の「予約制」、広がりに課題も
  2. 今年の恵方巻、平均価格は前年比4%の値上げ 海鮮恵方巻は値下げも目立つ

ということで、下は帝国データバンクのリポートから 恵方巻 平均価格推移 のグラフを引用しています。

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恵方巻きは、2023年には+74円(+8.9%)の値上げだったのですが、2024年には+39円(+4.3%)と値上げ率は半減しています。海鮮恵方巻きも、2023年+148円(+9.6%)の値上げが、2024年には+40円(+2.4%)と、上昇が鈍化しています。本来、海鮮恵方巻きのほうが高級感があるわけですが、穴子、まぐろ、ほたて、くるまえび、いくらなどで最大で20%超の安値となっているのが原因だそうです。私も食料品を中心に生鮮野菜や生鮮果物や飲料などは週に2-3回くらいの頻度でスーパーで価格チェックをしているのですが、こういった生鮮魚介類は見落としがちです。
フードロス対策として予約制の導入が進められていますが、高価格帯のものや限定商品などに限られているのが現状で、店頭販売が少なくない1本1000円前後のものでは効果が疑問視されているようです。年間500万トンを大きく超えるフードロスのうち半分近くは家庭から出ていて、SDGsを進める上でも重要な観点ではなかろうかという気がします。

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2024年1月24日 (水)

12月の貿易統計は3か月ぶりの黒字を記録

本日、財務省から昨年2023年12月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+9.8%増の9兆6482億円に対して、輸入額は▲6.8%減の9兆5861億円、差引き貿易収支は+621億円の黒字を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

23年輸出額が過去最高、初の100兆円超 赤字は半減
財務省が24日発表した2023年の貿易統計速報によると、自動車の輸出が好調で輸出額が初めて100兆円を超え、過去最高となった。資源高の一服で輸入額は減った。輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は9兆2913億円の赤字だった。
貿易赤字は3年連続だが、22年比で54.3%縮小した。22年の貿易赤字は資源高と円安の影響で20兆3295億円と、比較可能な1979年以降で最大の赤字だった。
23年の輸出額は22年比2.8%増の100兆8865億円で過去最高となった。半導体不足の解消で自動車の輸出額が17兆2652億円と32.7%伸びた。
輸入額は7%減の110兆1779億円だった。原油や液化天然ガス(LNG)などの輸入額が減った。これら鉱物性燃料の輸入額は18.9%減の27兆3182億円となった。
原油の輸入価格は1キロリットルあたり7万6478円で9.7%下がった。為替レートは年平均で1ドル=140.17円で、7.2%の円安だった。
地域別では米国向け輸出額が11%増の20兆2668億円で過去最高だった。19年から4年ぶりに中国を抜き、国別として最大の輸出先となった。自動車の輸出額が35.5%増えた。
貿易指数(20年=100)は世界全体への輸出数量指数は3.9%下がり、金額指数は2.8%上がった。米国はそれぞれ4.5%、11%の上昇だった。
23年12月単月の貿易収支は621億円の黒字だった。黒字は3カ月ぶり。自動車の輸出が好調だったほか、石炭やLNGの輸入額が減った。

どうしても年統計の方の記述が多くて、やたらと長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、�円超の貿易赤字が見込まれていて、予測レンジの上限が+1000億円近い黒字でしたので、レンジの範囲内で大きなサプライズはありませんでした。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額が伸びていないわけではなのですが、それよりも輸入額の減少が貿易赤字縮小の大きな原因です。3か月ぶりの黒字だと報じられていますが、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。ただ、私の知る限り、少なくないエコノミストは貿易赤字は縮小、ないし、黒字化に向かうと考えている可能性が十分あります。
12月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が減少しています。ただ、減少幅は小さくなってきています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲5.2%減、金額ベースで▲4.1%減となっています。数量ベースと金額ベースで大きな差がないというわけですから、価格低下に歯止めがかかりつつあると考えるべきです。LNGは原油からの代替が進んだこともあって、数量ベースでは+7.2%増、金額ベースでも+6.8%増となっています。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では▲0.8%減となっている一方で、金額ベースでは▲11.7%減と単価が低下を始めていることがうかがえます。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+20.2%増、金額ベースでも+18.3%増と大きく伸びています。半導体部品などの供給制約の緩和による生産の回復が寄与しています。自動車や輸送機械を別にすれば、一般機械+18.7%増、電気機器+5.1%増と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーも輸出額を伸ばしています。ただし、こういった我が国の一般機械や電気機械の輸出はソフトランディングに向かっている米国をはじめとする先進各国経済とともに、中国向け輸出額の回復も寄与していると考えられます。すなわち、例えば、北米向け輸出額は前年同月比で20.2%増、西欧向けも+13.9%増と伸びている一方で、中国向けも+9.6%増と回復の兆しを見せています。12月単月の統計ながら、北米向け輸出が2.3兆円、西欧向けが1.1兆円に対して、中国向け輸出は1.8兆円に達していますし、中国も最悪期を脱しつつあるのかもしれません。

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2024年1月23日 (火)

日銀「展望リポート」が公表され金融政策には大きな変更はなし

本日、日銀で開催されていた金融政策決定会合が終了し、「展望リポート」が公表されています。政策委員の大勢見通しのテーブルは以下の通りです。ということで、もっとも注目された物価見通しは、生鮮食品を除くコアCPIで本年度2023年度には+2.8%と物価目標の+2%を超えるという結果が示されています。なお、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で、引用元である日銀の「展望リポート」からお願いします。

     
  実質GDP消費者物価指数
(除く生鮮食品)
(参考)
消費者物価指数
(除く生鮮食品・エネルギー)
 2023年度+1.6 ~ +1.9
<+1.8>
+2.8 ~ +2.9
< +2.8>
+3.7 ~ +3.9
< +3.8>
 10月時点の見通し+1.8 ~ +2.0
<+2.0>
+2.7 ~ +3.0
< +2.8>
+3.5 ~ +3.9
< +3.8>
 2024年度+1.0 ~ +1.2
<+1.2>
+2.2 ~ +2.5
<+2.4>
+1.6 ~ +2.1
<+1.9>
 10月時点の見通し+0.9 ~ +1.4
<+1.0>
+2.7 ~ +3.1
<+2.8>
+1.6 ~ +2.1
<+1.9>
 2025年度+1.0 ~ +1.2
<+1.0>
+1.6 ~ +1.9
<+1.8>
+1.8 ~ +2.0
<+1.9>
 10月時点の見通し+0.8 ~ +1.2
<+1.0>
+1.6 ~ +2.0
<+1.7>
+1.8 ~ +2.2
<+1.9>

成長率について「展望リポート」では、海外経済がインフレ抑制のために金融引き締めに伴って、米国を中心にソフトランディングに向かう可能性があるとはいえ、「回復ペース鈍化による下押し圧力」あるものの、ペントアップ需要の顕在化などにより、「緩やかな回復を続け」、潜在成長率を上回る成長を続けると想定しています。他方で、生鮮食品を除くコア消費者物価(CPI)は輸入物価の影響によるコストプッシュのインフレは減衰しつつも、政府による物価抑制策の反動などから+2%を上回って推移すると見込んでいます。
ただ、上のテーブルに見られるように、この潜在成長率を上回る高成長も、物価目標を超えるインフレも、いずれも長続きしません。成長率は2023年度をピークに、2024年度、2025年度と低下すると見込まれていますし、コアCPI上昇率もご同様であり、2025年度には物価目標の+2%を下回ることが制作委員の間で緩やかなコンセンサスがあるようです。
従って、本日までの日銀政策委員会・金融政策決定会合の後に公表された「当面の金融政策運営について」で明らかにされたように、マイナス金利の解除は見送られ、大規模緩和は継続されるようです。要するに、金融政策には現時点で大きな変更はないということのようです。

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2024年1月22日 (月)

日本の再生可能エネルギーは遅れているか?

国際エネルギー機関(IEA)から、再生可能エネルギーに関する Renewables 2023 と題するリポートが公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。

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上のグラフは IEA のツイッタのサイトから引用しています。この先、再生可能エネルギーへの投資が力強く伸びることを見込んでます。振り返って見るに、我が国の再エネ比率を国際比較したグラフを、資源エネルギー庁「日本のエネルギー」から引用すると下のグラフの通りです。再エネ比率が40%を越える欧州諸国と比較して、日本の再エネ比率は欧州諸国の半分の20%少々であることが見て取れます。

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2024年1月21日 (日)

今年の花粉飛散予想やいかに?

先週水曜日の1月17日にウェザーニュースから「暖冬でスギ花粉の飛散早まる」と題する花粉飛散予想が、また、1月18日にも日本気象協会から「2024年春の花粉飛散予測」が、それぞれ明らかにされています。

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ウェザーニュース日本気象協会のそれぞれのサイトから花粉飛散開始の地図画像を引用すると上の通りです。とうとう、今年も花粉の季節がやって来てしまいました。とっても憂鬱です。

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2024年1月20日 (土)

今週の読書は開発経済学の専門書をはじめとして計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、熊谷聡・中村正志『マレーシアに学ぶ経済発展戦略』(作品社)は、「中所得国の罠」から脱しつつあるマレーシア経済について、歴史的な観点も含めて分析しています。多井学『大学教授こそこそ日記』(フォレスト出版)は、優雅なのか、そうでなくて過酷なのか、イマイチ不明な大学教授のお仕事について、実体験を基に取りまとめています。井上真偽『アリアドネの声』(幻冬舎)は、地震でダメージ受けた地下の構造物から視覚や聴覚に障害ある要救助者をドローンで誘導しようと試みるミステリです。西野智彦『ドキュメント 異次元緩和』(岩波新書)は、昨春に退任した黒田日銀前総裁の金融政策の企画立案や決定の舞台裏を探ろうと試みています。ホリー・ジャクソン『卒業生には向かない真実』(創元推理文庫)は、英国を舞台に高校を卒業して大学に進学するピップを主人公にしたミステリ三部作の最終作であり、それまでの単なる犯罪のリサーチを越えた大きな展開が待っていました。
ということで、今年の新刊書読書先週までの10冊に加えて、今週ポストする5冊を合わせて計15冊となります。なお、これらの新刊書読書の他に、藤崎翔『OJOGIWA』を読みましたので、そのうちにFacebookでシェアしたいと予定しています。

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まず、熊谷聡・中村正志『マレーシアに学ぶ経済発展戦略』(作品社)を読みました。著者は、お二人ともアジア経済研究所の研究者です。私は20年ほど前にインドネシアの首都ジャカルタにある現地政府機関に勤務していて、それほどマレーシアに詳しいわけでもないのですが、アジアにおける経済発展のロールモデルとしては、欧米諸国ならざる国の中で最初に先進国高所得国になった日本が筆頭に上げられるのですが、マレーシアやタイなども東南アジアの中では経済発展モデルのひとつと考えられます。しかし、やや物足りないのは、本書で考えている「中所得国の罠」をマレーシアがホントに脱して現時点で高所得国入りしたわけではない、という点です。本書でも、この点はハッキリしていて、マレーシアは高所得国ではなく、「高所得国入り間近」と表現されています。まあ、そうなんでしょう。基本的に、学術書というよりは一般向けの教養書・専門書に近い位置づけではありますが、「中所得国の罠」に関して世銀が出した基本文書である Gill and Kharas による An East Asian Renaissance ではなく、アジア開銀(ADB)の Felipe らのワーキングペーパーを基に議論しているのも、見る人が見れば違和感を覚えかねません。ただ、そういった点を別にすれば、よく取りまとめられている印象です。すなわち、「中所得国の罠」についてはルイス的な二部門モデルを基に資本と労働を資本家部門で活用するところから始まって、要素集約的な成長から全要素生産性(TFP)による成長への転換、そして、より具体的には産業の高度化がキーポイントになる、というのはその通りです。その上、「中所得国の罠」を離れて、マレーシアの政治経済的な歴史を振り返るという点においては、私のような専門外のエコノミストにはとても参考になりました。二部門モデルに関しては、マレーシアではルイス的に生存部門と考えられる農村部におけるマレー人労働力を、都市部における資本家部門と考えられる商工業、多くは華人によって担われている商工業に移動させることにより経済発展が始まります。その過程で、マレーシア独自のプリブミ政策が導入され、人種間での均衡が図られることになります。この点は、いろいろな議論あるところですが、インドネシアにおいて反共産主義の立場から華人経営に対する、やや非合理的とも見える制限を課した政策に比べれば、まだマシと考えるエコノミストもいそうな気がします。ただ、現時点で考えれば、本書でもマレーシアが高所得国入りしたと結論しているわけでもなく、少し前までは、マレーシアこそが典型的に「中所得国の罠」に陥っている典型的な国、とみなされていただけに、本書で指摘するような外需依存が強い経済発展から内需主導の経済発展への転換が、この先成功するかどうかという、より実証的・実践的な検討が必要そうな気がします。マレーシアは、本書でも指摘しているように、インドネシアと比較すれば明らかですし、タイなどと比べても人口が少なくて国内市場の制約が大きいだけに、それだけに注目されるのは当然です。加えて、同じように「中所得国の罠」に陥っているように見える中国が、人口という点ではマレーシアと対極にありながら、どのように「中所得国の罠」を逃れるか、という観点からもマレーシアが注目されるところかもしれません。

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次に、多井学『大学教授こそこそ日記』(フォレスト出版)を読みました。著者は、関西の私大の現役教授だそうです。その1点では私と同じだったりします。もう少し詳しくは、大手銀行を経て、S短大の専任講師として大学教員生活をスタートし、以降、T国立大を経て、現在は関西の私大KG大に勤務している、と紹介されています。本書については、正体を隠すことで、学内外からの反発を気にせず、30余年にわたり大学業界で見聞きしたことを思う存分、表現したかったので執筆した、といった旨の執筆動機が記されていました。加えて、本書の内容はすべて著者の実体験だそうです。繰り返しになりますが、関西の私大の教授職にある、という1点だけで私と共通点があるわけですが、本書の著者は、銀行勤務経験があるとはいえ、大学院に進みいわゆる学術コースを経て大学の研究者になっているのに対して、私の場合は実務家コースで、60歳の定年までサラリーマンをした後に大学に再就職しているという大きな違いがあります。ですので、私は大学内の学務や教務と称される学内行政を担当したことはほとんどありません。講師から准教授そして教授へと昇進するために熱心に研究に取り組むほどでもありません。年に1本だけ紀要論文を書いておけばそれでOKと思っているくらいで、査読論文もほとんどありません。まあ、有り体にいって、私はすでにテニュア=終身在職権のある教授職についてしまったわけですし、性格的にも、また、年齢的にも上昇志向はまったくありませんので、釣り上げた魚に餌はやらない、と似通った対応になってしまう可能性も十分あるわけです。ですので、経済学部ですから、どうしてもマルクス主義経済学と主流派経済学が共存しているわけですが、私については学内の派閥活動なんかも関係薄く、人事についても双方から推薦者の連絡を受ける、といった状態となっています。しかも、まもなく定年に達して教授会の構成員ですらなくなります。勤務校は著者とそれほど大きなレベルの違いない関関同立の一角ですので、学生の就学態度やほかの何やも大きな違いはないと思います。ただ、私の場合は、大学生ともなれば18歳成人に達しているわけで、よくも悪くも独立した人格として接し、逆から見れば、それなりの自己責任を求めます。ですので、授業中の居眠りや私語を禁止したり、といった授業態度をの改善を要求するようなことはしません。「学び」は自己責任でやって下さい、ある意味で、演習生を甘やかしますから、後になって、「先生が厳しくいってくれなかったから勉強しなかった」といった逆恨みはしないようにお願いするだけです。たぶん、経済学部というのは、私の経験からしても、多くの大学でもっとも少ない勉強で卒業できるような気すらしますので、それなりの自覚が必要です。勉強する学生にはご褒美があり、勉強しない学生も卒業は問題ないとしても、授業料相当の成果を手にできるかどうかは自覚次第です。高校生までであれば、「よくがんばった」でOKなのかもしれませんが、大学生であればそれなりの結果も必要でしょうし、多くの経済学部生は卒業後は就職するわけで、仕事に就く準備が必要な一方で、仕事に就くまでの息抜き的な部分も必要そうに見える学生もいます。ただ、本書に収録された多くの著者のご経験は、たしかに、大学教授であれば多かれ少なかれ経験しそうな気もします。その意味で、荒唐無稽な内容ではありません。

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次に、井上真偽『アリアドネの声』(幻冬舎)を読みました。著者は、昔風にいえば覆面作家であり、年令や性別すら明らかにされていない作家で、基本的にミステリやサスペンス色の強いエンタメ小説をホームグラウンドにしているように感じますが、私はひょっとしたら初読かもしれません。ということで、あらすじです。主人公は高木春生という20代半ばくらいの男性、小学生のころに中学生の兄を事故で亡くしたトラウマがあります。その贖罪のためにということで、災害救助用の国産ドローンを扱うベンチャー企業に就職します。その業務の一環で障害者支援都市WANOKUNIを訪れます。これは、会社が参加しているプロジェクトで地下に都市が建設されています。まあ、都市というくらいの規模ではありませんが、集合住宅やショッピング街、リクリエーション施設や学校まである、というものです。そこで大地震に遭遇するわけで、所轄の消防署に勤める消防士長とともに、ドローンをオペレーションして、まさに、災害救助用ドローンの出番となるわけです。その要救助者が、WANOKUNIのアイドルである中川博美です。彼女はヘレン・ケラーのような三重苦、というか、三重障害者であって、視覚聴覚に加えて唖者でもあります。加えて、WANOKUNIのある県の県知事の姪というA級市民であったりもします。でも、障害のためにドローンから話しかけることが不可能なわけです。しかし、彼女がドローンの誘導に従ってシェルターに向かう中で、目が見えるのではないか、声や音が聞こえるのではないか、といった、まあ、何と申しましょうかで、障害者ではない、というか、障害を偽装している可能性を示唆する行動に出ます。結末は読むしかないのですが、軽く想像されるのではないかという気もします。私は、どうして要救助者の中川博美が視覚や聴覚を持っているかのような行動を示すのか、という謎を早々に気づいてしまいましたので、その分、私の感想はバイアスがかかっている可能性がある点をご注意下さい。ということで、視点が地上の安全地帯でドローンを操作する主人公の高木春生に限定されますので、それほど緊迫感を感じることができませんでした。まあ、視覚と聴覚のない要救助者の中川博美の視点が使えませんから、仕方ない面は理解します。、また、トリックの都合上、ドローンのカメラ機能が早々に壊れて、要救助者の様子が判らない、というのも緊迫感を欠きます。元々、ドローンのオペレーションなんて、ゲームをプレーするような感じではないかと想像していますが、それがさらに緊迫感を欠く結果となってしまいました。暴露系のユーチューバーも登場しますが、何のために出てきたのか、私にはサッパリ意味が判りませんでした。謎です。要救助者の中川博美の視点が使えないのと同じ理由で映像化も難しそうな気がします。その意味も含めて、ちょっと世間一般の高評価に比べると、私の見方は厳しいかもしれません。でも、要救助者の中川博美は、最後の最後ながら、とっても行動力あり爽やかでいいキャラだったんだと気づきました。ほかの読者が衝撃を受けたラストとは違うポイントに目が行っているかもしれません。繰り返しになりますが、どうして要救助者の中川博美が視覚や聴覚があるかのような行動を示すのか、という謎を早々に気づいてしまいましたので、その分、私の評価は厳しい目に振れるバイアスあると思います。悪しからず。そして、最後の最後に、ややアサッテを向いた感想ながら、これだけ地震が多くて活断層もアチコチに走っている日本で、この小説にあるような地下構造物はヤメておいた方がいいんではないかと思います。まったく同じことが原子力発電所についてもいえます。

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次に、西野智彦『ドキュメント 異次元緩和』(岩波新書)を読みました。著者は、時事通信のジャーナリストです。タイトルから判る通り、昨春に退任した黒田日銀前総裁の金融政策を振り返っています。世界でも前例の少ない異例の政策であったことは、本書のタイトルからもうかがい知ることが出来ます。逆にいえば、日本のマクロ経済が古今東西でも類例を見ないデフレにあった、ということです。よく、経済学には人間が出てこないといわれますし、私もその通りと考えているのですが、本書では金融政策をはじめとする経済政策の企画立案や決定などの背景にある人の動きがよく理解できます。特に、トップクラスの政府・中央銀行の人事については、私のようなキャリア官僚でありながらサッパリ出世しなかった者からすれば、目を見張るような驚きに満ちています。政策的には、黒田前総裁は白川元総裁からのゼロ金利を引き継ぎつつ、金利ターゲットから量的緩和へのレジームチェンジを果たすとともに、舞います金利やイールドカーブ・コントロール(YCC)などの非伝統的な手法を次々と導入しました。ただ、どうしても、黒田総裁の政策を評価する際には、本書では眼科医があるように思えてなりません。すなわち、私はアベノミクスの3本の矢の第1の金融政策、もちろん、第1であるだけでなく、圧倒的な重点が置かれていた金融政策とはいえ、アベノミクス全体での評価が必要と考えるからです。金融政策でデフレ脱却が十分でなかった大きな要因は、本書でも指摘されているように、3党合意に基づくとはいえ、2014年の消費税率引上げだろうというのが衆目の一致するところです。浜田先生なんかは、デフレ脱却のための財政政策の必要性について、考えを変えたと公言していたほどです。ただ、それでも黒田前総裁の異次元緩和を評価するとすれば、本書の最後の方にある雨宮前副総裁と同じ感想を私は持ちます。批判する向きには何とでもいえますが、この政策しかなかったという気がします。そのうえで、アベノミクスの評価が芳しくないのは、圧倒的に分配政策を欠いていたからであると私は考えています。よくいわれるように、アベノミクスではトリックルダウンを想定し、景気回復初期の格差拡大を容認していて、その後も分配政策の欠如により格差が拡大し続けた、と考えるべきです。特に、企業向け政策は株価を押し上げた一方で、国民向けの分配政策が欠如していたものですから、賃金引上げにつながる動きが企業サイドにまったく見えず、政策でも考慮されずで、国民が貧しくなっていったと私は考えています。ただ、この格差拡大について金融政策の責任を問うのは不適当です。私は異次元緩和に適切な分配政策が加わっていれば、デフレ脱却は可能性が大きかった、と考えています。もちろん、政策の重点の置き方に関する誤解や無理解に対する批判はあろうとは思います。ただ、繰り返しになりますが、異次元緩和だけではなく、より幅広くアベノミクス全体を評価することは忘れてはなりません。

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次に、ホリー・ジャクソン『卒業生には向かない真実』(創元推理文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家です。この作品は三部作の3作目となっていて、1作目は『自由研究には向かない殺人』、2作目は『優等生は探偵に向かない』となります。この作品の最初の方は、当然ながら、2作目とのつながりが強いのですが、読み進むと1作目の方が直接的な関係が強い気がします。ややジュブナイルなミステリと見なす読者がいるかも知れませんが、まあ、立派な長編ミステリ作品です。ということで、簡単なストーリーは、主人公は相変わらずピップです。舞台は英国のリトル・キルトンというやや小さな街です。日本の高校、それもそれなりの進学校に当たるグラマー・スクールを卒業して大学に進学する直前の時期です。ピップはストーカーされているらしく、無言電話、首を落とされたハト、道路に描かれたチョークの人形、などに悩まされます。警察のホーキンス警部だったかに、相談しますが、まったく頼りになりそうもありません。というところからスタートします。2部構成ですが、ミステリですので、後は読んでみてのお楽しみ、ということになります。1作目も2作目も、基本的に、主人公のピップは犯罪行為、あるいは、犯罪行為とみなされた事件のリサーチを進めます。相棒はピップの恋人だったが1作目の発端となる自殺を遂げたサルの弟のラヴィです。そして、特に1作目ではかなり強気にリサーチを進めます。違法スレスレ、というよりも、ほぼほぼ違法な調査手段なわけです。この3作目でも基本は同じです。ただ、この3作目ではリサーチの枠を超えます。メチャクチャ大きく超えます。その意味で、第1部のラストは衝撃です。第2部はこの衝撃の第1部のラストの後処理となります。おそらく、この第1部ラストの出来事は評価や感想が大きく分かれると思います。私は否定的な評価・感想です。ただ、明らかに著者は警察や裁判をはじめとする英国の法執行機関や体制に対する大きな失望、というか、批判や不信感を持っていて、このような行動をピップにさせるのだろうという点は理解します。経済学の割と有名な論文に、2007年のノーベル経済学賞を受賞したハーヴィッツ教授の "Who Will Guard the Guardians?" というのがあります。本書を読んでいて、私はこれを思い出してしまいました。加えて、そのピップをとことんサポートするラヴィの姿勢には大きな共感を覚えます。出版順としてはこの3作目の後に、三部作の前日譚となるスピンオフ作品がすでに出ているようですが、明らかに、このシリーズはこれで打止めだと思います。主人公のピップに、従来通りの強気で違法スレスレのリサーチを続けさせるのはムリです。多くの読者の納得は得られないだろうと思います。最後に、三部作それぞれの出来ですが、1作目が一番だったと思います。その続きで2作目を読むと大きくガッカリさせられ、繰り返しになりますが、この3作目は評価が分かれそうです。私は共感しませんが、読者によっては1作目よりも高く評価する人がいても、私は不思議には思いません。

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2024年1月19日 (金)

やや上昇率が鈍った12月の消費者物価指数(CPI)をどう見るか?

本日、総務省統計局から昨年2023年12月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+2.3%を記録しています。前年比プラスの上昇は27か月連続ですが、先月11月統計の+2.5%のインフレ率からは上昇幅が縮小しています。+3%を下回る上昇が続いていますが、日銀のインフレ目標である+2%をまだ上回る高い上昇率での推移が続いています。ヘッドライン上昇率も+2.6%に達している一方で、エネルギーや食料品の価格高騰からの波及が進んで、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+3.7%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、23年12月2.3%上昇 2カ月連続で伸び縮小
総務省が19日発表した2023年12月の消費者物価指数(CPI、20年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が106.4となり、前年同月比で2.3%上昇した。伸び率は2カ月連続で前月から縮小し、22年6月の2.2%以来18カ月ぶりの低水準となった。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.3%上昇だった。前年同月比での上昇は28カ月連続。日銀の物価目標である2%を上回る水準が続く。電気代や都市ガス代の低下が続くほか、生鮮食品以外の食料品高にも一服感がみられる。
生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は3.7%上がった。前月からの伸び率の縮小は4カ月連続となる。生鮮食品を含む総合指数は2.6%伸びた。
総務省によると、政府の電気・ガス料金の抑制策がなければ、生鮮食品を除いた総合指数の上昇率は2.8%だった。政策効果で物価の伸びを0.5ポイント程度抑えた。
同日公表した23年平均の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は前年比3.1%上昇した。第2次石油危機の影響があった1982年の3.1%プラスに並び41年ぶりの高い伸びとなった。
幅広い品目で値上げが進んだ生鮮食品以外の食料品や日用品が押し上げた。生鮮食品を除く食料は8.2%上昇し、1975年の13.9%以来48年ぶりの上げ幅となった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は4.0%プラスだった。
23年12月の結果を品目別にみると、電気代は前年同月比20.5%下がった。23年11月の18.1%マイナスから下げ幅を広げた。発電用燃料に用いる石炭の価格が下落傾向にあることや、政府の料金抑制策が影響した。
生鮮食品を除く食料は6.2%上がった。水準は依然として高いものの、前月比でみると0.1%低下した。21年12月以来2年ぶりのマイナスとなる。鶏卵の前年同月比の上昇率は23年11月の26.3%から23年12月は21.9%に鈍った。
全体をモノとサービスに分けると、サービスは2.3%伸びた。23年7月以降、6カ月連続で2%以上で推移する。宿泊料は59.0%高まった。観光需要が回復した。政府の観光振興策が各地で終了していることも押し上げ要因となった。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.3%の予想でしたので、実績の+2.3%の上昇率はまさにジャストミートしました。品目別に消費者物価指数(CPI)を少し詳しく見ると、まず、エネルギー価格については、昨年2023年2月統計から前年同月比マイナスに転じていて、本日発表された12月統計では前年同月比で▲11.6%に達し、ヘッドライン上昇率に対する寄与度も▲1.02%の大きさを示しています。先月の11月統計ではこの寄与度が▲0.87%ありましたので、12月統計でコアCPI上昇率が11月統計から▲0.2%ポイント縮小した背景は、こういったエネルギー価格の動向にあります。すなわち、12月統計ではエネルギーの寄与度差が▲0.15%に達しています。たぶん、四捨五入の関係で寄与度差は寄与度の引き算と合致しません。悪しからず。特に、そのエネルギー価格の中でもマイナス寄与が大きいのが電気代です。エネルギーのウェイト712の中で電気代は341と半分近くを占め、11月統計では電気代の寄与度が▲0.75%あったのが、12月統計では▲0.87%に拡大し、▲0.12%ポイントの寄与度差を示しています。統計局の試算によれば、政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の影響を寄与度でみると、▲0.49%に達しており、うち、電気代が▲0.41%に上ります。他方で、政府のガソリン補助金が縮減された影響で、ガソリン価格は7月統計から上昇に転じ、直近の12月統計では+4.5%となっています。中東の地政学的なリスクも高まっています。すなわち、ガザ地区でのイスラエル軍の虐殺行為、親イラン武装組織フーシによる商船の襲撃なども、今後、どのように推移するかについても予断を許しませんし、食料とともにエネルギーがふたたびインフレの主役となる可能性も否定できません。なお、食料について細かい内訳をヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、コアCPI上昇率の外数ながら、生鮮野菜が+0.27%、生鮮果物が+0.14%の大きな寄与を示しています。引用した記事にもあるように、鶏卵の前年同月比上昇率も11月の+26.3%から12月は+21.9%に鈍ったとはいえ、まだまだ高い伸び率が続いています。コアCPIのカテゴリーの中でヘッドライン上昇率に対する寄与度を見ると、調理カレーなどの調理食品が+0.26%、アイスクリームなどの菓子類が+0.22%、フライドチキンなどの外食が+0.17%、鶏卵などの乳卵類が+0.17%、などなどとなっています。

何度も書きましたが、現在の岸田内閣は大企業にばかり目が向いていて、東京オリンピックなどのイベントを開催しては電通やパソナなどに多額の発注をかけましたし、物価対策でも石油元売とか電力会社などの大企業に補助金を出しています。こういった大企業向けの選別主義的な政策ではなく、たとえ結果としては同じであっても、国民に対して出来るだけ普遍主義的な政策を私は強く志向しています。物価対策であれば、例えば、消費税減税・消費税率引下げ、あるいは、物価上昇に見合った賃上げを促す政策が必要であると私は考えます。

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2024年1月18日 (木)

足踏み続く11月統計の機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2023年11月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+0.7%増の8587億円となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

23年11月の機械受注4.9%減 3カ月ぶりマイナス
内閣府が18日発表した2023年11月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は前月比4.9%減の8167億円だった。マイナスは3カ月ぶりとなる。製造業を中心に発注が減少した。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値の0.8%減を下回った。船舶・電力を除く民需は21年4月の8043億円以来、2年7カ月ぶりの低水準だった。内閣府は全体の基調判断を1年1カ月連続で「足踏みがみられる」とした。
製造業は7.8%減の3774億円だった。マイナスは2カ月ぶりとなる。発注した業種ごとにみると「汎用・生産用機械」が12.7%減った。クレーンやコンベヤーなどの運搬機械の需要が低下した。
「その他製造業」も31.0%減った。23年10月にあった受注額100億円以上の大型案件が23年11月はなかった。産業用ロボットの発注が低調だった「情報通信機械」は24.1%減った。
SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「中国を中心に海外経済の不透明感が依然として高く、製造業で設備投資の様子見姿勢が強まっている」と指摘する。
非製造業は0.4%減の4482億円で、3カ月ぶりに減った。金融業・保険業からの受注が17.4%減少した。汎用コンピューターといった電子計算機が振るわなかった。卸売業・小売業も12.0%マイナスだった。
通信業は40.3%増とプラスを確保した。大型案件が1件あり全体を押し上げた。運輸業・郵便業は12.8%伸びた。鉄道車両などの発注増が寄与した。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比△0.8%減でした。予想レンジがかなり広かったとはいえ、下限は▲4.2%減でしたので、実績の△4.9%減は下限を超えて下振れしたと私は受け止めています。引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いています。1年1か月連続の据え置きだそうです。上のグラフで見ても、太線の移動平均で示されているトレンドで見れば、明らかに下向きとなっています。事実、4~6月期▲3.2%減の2兆5855億円に続いて、7~9月期も▲1.8%減の2兆5385億円と2四半期連続で減少しています。ただ、受注水準としてはまだ何とか8,000億円を上回っており決して低くはありませんし、足元の10~12月期の受注見通しは+0.5%増の2兆5,506億円と見込まれています。
ただ、インフレ抑制のための金融引締めが進められた欧米先進国の景気減速により製造業への受注が停滞している一方で、インバウンドが本格的に増加し始めコロナ前の水準に近づきつつあることから非製造業ではまずます堅調、という明暗が分かれています。本日公表された11月統計では、製造業が季節調整済みの前月比▲7.8%減の3774億円にとどまった一方で、船舶・電力を除く非製造業も減少とはいえ、▲0.4%減の4482億円となっています。もっとも、先行きに関してはそれほど単純ではありません。すなわち、欧米先進国で景気後退に陥ることなくソフトランディングに成功するようですから、輸出が回復して製造業が盛り返すことも十分ありえます。他方で、非製造業も、この先、インフレのダメージが内需に影響する可能性が決して低くないと私は考えています。

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2024年1月17日 (水)

IMF Blog に見る人工知能(AI)と仕事(job)のリスクやいかに?

今週日曜日1月14日のIMF Blogで人工知能(AI)に関して、AI Will Transform the Global Economy. Let's Make Sure It Benefits Humanity. と題する記事がポストされています。投稿者はIMFトップのクリスタリナ・ゲオルギエヴァ専務理事です。まず、IMF Blogのサイトから記事の最初の2パラを引用すると以下の通りです。

We are on the brink of a technological revolution that could jumpstart productivity, boost global growth and raise incomes around the world. Yet it could also replace jobs and deepen inequality.
The rapid advance of artificial intelligence has captivated the world, causing both excitement and alarm, and raising important questions about its potential impact on the global economy. The net effect is difficult to foresee, as AI will ripple through economies in complex ways. What we can say with some confidence is that we will need to come up with a set of policies to safely leverage the vast potential of AI for the benefit of humanity.

もっとも重要なメッセージのひとつは、引用者によって付された下線の部分であり、"it could also replace jobs and deepen inequality." という最初のパラの最後の点です。そして、この記事が主たる典拠としているのは以下の学術論文です。

AIは人間の仕事(job)を補完する場合も、代替する場合も考えられます。AIによる代替のリスクにさらされる仕事は40%に上る "almost 40 percent of global employment is exposed to AI." と指摘しています。先進国では60%近い仕事がAI代替リスクにさらされている一方で、新興国と途上国ではそれぞれ約40%と26%にとどまりますが、他方で、新興国や高所得国では低所得国よりもAI導入の準備が整っている "better equipped for AI adoption" とも指摘しています。IMF Blogのサイトから引用した以下のグラフの通りです。125か国について、就学年数や雇用市場の流動性、社会的セーフティネットの対象となる人口の割合などの要素 "elements such as years of schooling and job-market mobility, as well as the proportion of the population covered by social safety nets" を評価した結果です。

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私は2045年ともいわれるシンギュラリティを過ぎて、すなわち、汎用AIの知能が人類を超えれば、その将来の人類とAIの関係は、現在の家畜であるウマやイヌと人類の関係になぞらえることができると考えています。人類はAIの「家畜」になる可能性があるのかもしれません。ただ、シンギュラリティと目されている2045年には、私自身はたと命長らえていたとしても90歳に近くなっているわけで、おそらく、私自身は検証できない可能性が高いと覚悟しています。

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2024年1月16日 (火)

2023年12月の企業物価指数(PPI)国内物価はとうとう前年同月比上昇率ゼロに縮小

本日、日銀から昨年2023年12月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で保合いとなり、上昇率は12か月連続で鈍化しています。したがって、次の1月統計ではマイナス圏に舞い戻るという可能性もありそうです。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

23年12月の企業物価横ばい 2年10カ月ぶり低さ
日銀が16日発表した2023年12月の企業物価指数(速報値、20年平均=100)は119.9と、前年同月比の上昇率が0%で横ばいだった。上昇率は11月(0.3%上昇)から0.3ポイント低下し、21年2月(マイナス0.9%)以来、2年10カ月ぶりの低い水準となった。政府の対策で電気・ガス料金が押し下げられ、価格転嫁の動きも一時期より落ち着いてきた。
23年通年では前年比4.1%上昇だった。指数水準は119.6と比較可能な1980年以降の過去最高を更新したが、前年比は2022年(9.8%上昇)より鈍化した。政府が23年2月から実施する価格抑制策で電力・都市ガスなどの伸びが大きく減速したほか、木材・木製品など川上に近い品目の値上げの勢いが収まった。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。企業向けサービス価格は4カ月連続で2%台の上昇を維持しており、物価の押し上げ要因がモノから人件費上昇の影響を受けやすいサービスに移りつつある。
企業物価指数で公表する515品目のうち404品目が値上がりした。民間予測の中央値(0.3%下落)より0.3ポイント高かったが、23年1月から12カ月連続で伸び率の鈍化が続いている。
内訳をみると、石油・石炭製品はガソリン補助金の減額を受け、前年同月比4.6%上昇した。飲食料品も4.4%上昇した。11月に続き、原材料やエネルギーのコスト上昇を販売価格に反映する動きがみられた。
電力・都市ガス・水道は前年同月比で27.6%下落し、11月(マイナス24.5%)より下落幅が3.1ポイント拡大した。燃料費の下落や政府の電力・ガスの価格抑制策がマイナスに寄与した。日銀の試算によると、電力・ガスの価格抑制策は企業物価指数全体の上昇率を約0.3ポイント押し下げている。
輸入物価は円ベースで前年同月比4.9%下落し、9カ月連続でマイナス圏となった。11月(マイナス6.4%)より下落幅が縮小した。

注目の指標のひとつですから、ついつい長くなりますが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は▲0.3%と見込まれていましたので、実績の前年同月から横ばいという結果はやや上振れしました。特に、円ベースの輸入物価は4月統計から前年同月比でマイナスに転じ、12月統計では輸入物価▲6.4%の下落となっています。本日公表の企業物価指数(PPI)にはサービスが含まれませんが、他方で、企業向けサービス価格指数(SPPI)は8~11月の統計では前年同月比で+2%台を記録していますので、資源高などに起因する輸入物価の上昇から国内物価への波及が、同時に、モノからサービスの価格上昇がインフレの主役となる局面に入った、と私は考えています。したがって、日米金利差にもとづく円安の是正については、すでに一定の円高が進んで、最近では1ドル140円台半ばの水準となっていることも事実であり、経済政策として取り組む必要性や緊急性はそれほど大きくなくなった、と考えるべきです。消費者物価への反映も進んでいますし、企業間ではある意味で順調に価格転嫁が進んでいるという見方も成り立ちます。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇・下落率で少し詳しく見ると、電力・都市ガス・水道が▲27.6%と前月11月の▲24.5%の低下から下落幅を拡大しています。前年同月比で上昇している品目でも、農林水産物+1.5%は11月の+2.5%から上昇幅が縮小していますし、飲食料品も12月の上昇率は11月の+4.4%から横ばいです。ほかに、窯業・土石製品+11.6%、パルプ・紙・同製品+8.3%、繊維製品+5.0%、などが+5%以上の上昇率を示しています。ただ、いま上げたカテゴリーをはじめとして多くの品目でジワジワと上昇率が低下してきています。もちろん、上昇率が鈍化しても、あるいは、マイナスに転じたとしても、価格水準としては高止まりしているわけですし、しばらくは国内での価格転嫁が進むでしょうから、決して物価による国民生活へのダメージを軽視することはできません。特に、農林水産物の価格上昇が続いていて、その影響から飲食料品についても高い上昇率を続けています。生活に不可欠な品目ですので、政策的な対応は必要かと思いますが、エネルギーのように石油元売会社や電力会社のような大企業に対して選別的に補助金を交付するよりは、消費税率の引下げとかで市場メカニズムを活かしつつ、国民向けに普遍的な政策を取る方が望ましい、と私は考えています。

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最後に、世界気象機関(WMO)が1月12日に "WMO confirms that 2023 smashes global temperature record" とのプレスリリースを出しています。まあ、今さら指摘されるまでもありませんが、2023年は観測史上でもっとも平均気温が高かったようです。1850-1900年の平均で定義される産業革命前の気温から、2023年平均気温は 1.45±0.12℃ 高かったとの観測結果が示されています。プレスリリースにいくつかグラフがあるのですが、その中の Global Mean Temperature Difference を引用すると上の通りです。

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2024年1月15日 (月)

OECD Economic Surveys JAPAN: JANUARY 2024 の政策提言はやや問題点あり

先週木曜日1月11日に、経済協力開発機構(OECD)から「OECD対日経済審査報告書」OECD Economic Survey of Japan 2024 が公表されています。OECDのサイトでは邦訳資料も利用可能です。一般向けには不明ながら、勤務校からはpdfの全文リポートも利用可能です。しかし、100ページを超えるリポートで、しかも英文資料ですから、すべてに目を通したわけでもなく、リポート冒頭のExecutive Summaryを見ただけなのですが、かなり、ムチャな政策提言がいくつか目につきます。

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リポート p.13 Main findings/Key recommendations を引用すると上のテーブルの通りです。右欄の Key recommendations のマーカーは引用者である私がつけています。最初のマーカーは "start raising policy rates gradually" です。インフレ率が2%近傍であると予想される限りにおいて、というただし書きがあるとはいえ、利上げが推奨されているような印象です。このただし書きを無視して利上げに踏み出す方向性を見出すタカ派がいそうな気がして、私はやや怖い気がします。少し前まで、インフレ対応のための円安是正を目的とする金利引上げという、ややムチャな観測が流れていましたが、現時点では、この見方は後景に退いていると考えるべきですが、引き続き、理由不明ながら利上げを目指す見方があるのは、私には理解不能です。次に、"Gradually raise tax revenues, including by increasing the consumption tax rate further in small increments." という部分も、2014年の消費税率引上げで明確にデフレ脱却プロセスに大きな障害となった経験がありながら、いまだに「財政再建」の錦の御旗の下でデフレ脱却と財政再建の間で後者のウェイト高い人達がいるのにも、私の理解がついていきません。
テーブルの画像は引用しませんが、ほかに2点、雇用関係でも疑問があります。まず、"Break down labour market dualism by relaxing employment protection for regular workers and making it more transparent." です。正規雇用と非正規雇用の格差は、私からすれば非正規雇用の待遇改善でもって是正されるべきだと考えていたのですが、OECDは真逆の方向性を示していて、正規職員の雇用保護を緩和することにより達成されるべき目標と捉えているようです。昔の言い方になぞらえれば、「1億総非正規化」を目指したいのかもしれません。次に、"Further increase the mandatory retirement age with a view to abolish it" というのもあります。日本の高齢者は就業率がほかの先進国と比べてもかなり高く、さらに定年を引き上げて、あるいは、定年を廃止してまでも高齢者の就業率を高めることは限界があるように私は考えています。それでも、ある意味で、高齢者は安価な労働力ですので、これを利用したいというのは判らないでもないのですが、私は全幅の賛意を示すことはできません。ヤメておいた方がいいような気すらします。少なくとも、「生涯現役社会」はムリです。1980年代の大陸欧州諸国と違って、早期引退パスを設定することに失敗した我が国ですが、どこかで引退するパスは作っておいた方がいいように、直感的ながら感じます。

このリポートにどこまで日本の実情が反映されているのか不明ですが、何らかの意図を感じないでもありません。しかし、いくつか問題となる論点が含まれていますから、OECDの見解を鵜呑みにする必要はないと思います。

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2024年1月14日 (日)

綾辻行人『十角館の殺人』の実写映像化の試みやいかに?

今年2024年になってから、とても意外なことに、綾辻行人『十角館の殺人』の実写映像化の試みが明らかにされています。hulu のサイトにある『十角館の殺人』のトレイラは、わずか15秒ながら以下の通りです。

このミステリでは、大学ミステリ研究会の大学生が大分県沖合の島に渡っ角て十角館に泊まり、次々に殺害されていく、というストーリーで、島の方と本土の方の動向が交互に記述されて小説が進みます。島の学生たちはミステリ作家から取ったニックネームで呼び合い、本土の方ではフツーに氏名で呼び合うことがミスリードの源泉となっています。そして、俗にいう「驚愕の一行」があって、私なんぞは「エッ」となるわけです。しかし、実写画像化してしまえば、見た瞬間に犯人がバレバレになってしまいます。果たして、どう処理するのでしょうか。興味はありつつ、たぶん、あくまでたぶんですが、私自身は実写映像化された作品は見ないだろうという気がします。でも、そうはいいつつも、とても楽しみであることは確かです。
実に適当ながら、「読書感想文のブログ」に分類しておきます。

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2024年1月13日 (土)

今週の読書は環境経済に関する専門書のほか計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、野村総合研究所『排出量取引とカーボンクレジットのすべて』(エネルギーフォーラム)は、2050年を目処としたカーボンニュートラル達成のための排出量取引とカーボンプライシングの一環であるカーボンクレジットについて、いかにもコンサル会社らしく網羅的に情報を集めています。高橋祐貴『追跡 税金のゆくえ』(光文社新書)は、先進国の中でも異常に公的債務が積み上がっている日本の財政の、特に歳出についてのムダを一般財団法人を抜け穴にした予算支出のあり方に一石を投じています。吉田義男ほか『岡田タイガース最強の秘密』(宝島社新書)は、昨年2023年のシーズンにセ・リーグ優勝と日本一に輝いた阪神タイガースの強さの秘密を岡田監督の采配から探ろうと試みています。東海林さだお『パンダの丸かじり』(文春文庫)は『週刊朝日』に連載されていた食べ物に関するエッセイを収録しています。最後に、東海林さだお『マスクは踊る』(文春文庫)はコロナ前後のエッセイとともに、漫画の方も収録しています。
ということで、今年の新刊書読書は先週5冊の後、今週ポストする5冊を合わせて計10冊となります。また、この5冊以外に、綾辻行人『十角館の殺人』も読んでいます。すでに、Facebookでシェアしてあります。

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まず、野村総合研究所『排出量取引とカーボンクレジットのすべて』(エネルギーフォーラム)を読みました。著者は、シンクタンクというか、コンサルタント会社であり、その野村総研のサステナビリティ事業コンサルティング部のスタッフが執筆に当たっています。タイトル通りに、カーボンニュートラルに向けて、二酸化炭素の排出権取引とカーボンクレジットという経済的な対策について網羅的に取りまとめています。今年に入って授業で不得手な農業と環境を講義する必要から、私も大学教員として、不断のお勉強を続けているわけです。ということで、本書でも指摘しているように、2018年4月に閣議決定された「第5次環境基本計画」においても、第1部第3章のp.13から始まる環境政策の基本的手法において7手法を上げていますが、大きく分けて規制的手法と経済的手法に分かれ、その経済的手法のうちでカーボンニュートラルを目指す政策手段の代表的なものが、 本書でいう排出権取引とカーボンクレジット、ということになります。排出権取引が数量アプローチであり、カーボンクレジットは価格アプローチです。カーボンクレジットの代表的なものがカーボンプライシングに基づく炭素税ということになります。数量アプローチの排出権取引は二酸化炭素排出量を確実にコントロールできる一方で、取引上で価格変動が十分ありえますのでビジネス上の不確実性が残ります。他方で、カーボンプライシングに基づく炭素税などの価格アプローチは、主として政府が炭素価格を税法で設定しますので、透明性が高くて価格固定のために安定したビジネス展望が開ける一方で、二酸化棚そ排出量のコントロールは確実ではありません。どちらもメリットとデメリットがあるわけで、本書ではその性格上、価格アプローチと数量アプローチのどちらかに軍配を上げることを明記しているわけではありませんが、世界の趨勢では炭素税などの数量アプローチが主流となりつつある、と私は感じています。特に、政府が炭素税を課す場合、透明性が高くて、しかも、いわゆる2重の配当が得られます。すなわち、炭素税の課税により二酸化炭素排出を減少させるとともに、税収をグリーン公共事業などに振り向けることが出来ます。二酸化炭素排出の量的コントロールは不確実かもしれませんが、税率の修正はそれほど、というか、少なくとも消費税率の引上げよりは国民的な合意が得られやすいように私は感じます。加えて、排出権取引については当初の排出権割当を行う際に、不透明性や利権が生じる可能性があるのではないかと危惧します。炭素税が税制の特徴からして一律に課せられるのに対して、排出権の割当は、過去の実績に基づくグランドファザリングにせよ、産業の技術特性に基づくベンチマーク方式にせよ、入札によるオークションを別にすれば、どうしても不透明性が残ります。最後に、私自身は大学の授業で取り上げてはいるのですが、環境政策に関して、例えば、国連のSDGsとか、日本政府の2050年カーボンニュートラルとかは、ハッキリいって懐疑的です。特に、我が国では2050年にカーボンニュートラ栂達成できるとは、まったく考えていません。まあ、私は2050年には90歳を超えますので見届けることはかないませんが、まあ、達成可能だと考えている人はどれくらいいるのでしょうか。政府の世論調査でも、例えば、2023年7月調査の「気候変動に関する世論調査」でも、2050年カーボンニュートラルが達成可能かどうかの設問はなかったように記憶しています。質問してはいけないのかもしれません。

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次に、高橋祐貴『追跡 税金のゆくえ』(光文社新書)を読みました。著者は、毎日新聞のジャーナリストです。本書では、タイトル通りに、税金のゆくえ、すなわち、政府の歳出についての調査報道の成果を取りまとめています。5章構成であり、それぞれに歳出のムダを指摘しています。一般社団法人を使った電通やパソナなどによる中抜き、オリンピックマネーに注ぎ込まれた政府予算、コロナ対策として緊急性を重視したゼロゼロ融資の不透明性、消防団員への報酬が遊興費に消える昔ながらのしきたり、単年度で消化しきれない防衛費などを基金に積み立てる正当性、となっています。私は60歳の定年まで国家公務員をしていましたから、それなりにこういった予算の使い方を知らないわけでもなく、エコノミストとしてフツーに読み進みましたが、そうでなければ、大きな怒りさえ覚える読者がいそうな気がします。国民として、収めた税金がムダな有効に活用され政策に活かされているのかどうかは、当然に気にかかるところです。しかし、本書の著者による調査の結果は、政府予算の使い方には大いなるクダがある、というものです。電通やパソナが一般社団法人を「活用」して、政府からの収入を大いに中抜して収益を上げているのは、いっぱい報じられているところですし、オリンピックでは贈収賄までして私腹を肥やしている輩がいるのも事実です。コロナ禍の中で経営の苦しい事業者がいたのは事実ですし、救済の必要性は十分理解するとしても、それを悪用するチェックが不十分であるのも確かです。テレビドラマや小説の『ハヤブサ消防団』ではまったく言及されていないものの、地方の消防団員への報酬がジーサンの孫への小遣いに消えているというのショックでした。防衛費はロシアのウクライナ侵攻などに悪乗りする形で大幅な増額が決められてしみましたが、「基金」に積み立てる形で不十分なチェック体制のままに使われようとしています。ただ、本書で指摘されているような税金のムダ使いの大きな原因は、私は政府の公務員が少ないので、支出する政府の側のチェック機能が働いていないせいだと考えています。例えば、経済協力開発機構(OECD)の Government at a Glance 2023 p.181 にあるグラフ 12.1. Employment in general government as a percentage of total employment, 2019 and 2021 を見れば明らかな通り、日本の公務員は先進国の加盟する国際機関であるOECD平均の1/3に達しないくらい少ない水準です。これではチェック機能が行き届かないのは当然だと考えるべきです。本書で指摘するように、増税の前に排除すべき歳出のムダがあるのは確かですが、同時に、政府の機能も考える必要があります。

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次に、吉田義男ほか『岡田タイガース最強の秘密』(宝島社新書)を読みました。著者は、一応、経緯を表してなのでしょうが、何を見ても吉田義男をトップに持って来ていますが、収録順でいうと、掛布雅之、江本孟紀、金村曉、吉田義男、赤星憲広、田淵幸一、改発博明、ということになります。最後の方以外はすべて阪神タイガースOBで有名な方ばかりですが、最後の方は阪神タイガースに好意的な報道を旨とする「デイリースポーツ」のジャーナリスト、いわゆるトラ番記者から社長も務めています。ということで、昨年2023年シーズンにセ・リーグ優勝、そして、パ・リーグ覇者のオリックスを下して日本一に輝いた阪神タイガースについて、特に、タイトル通りに岡田監督の焦点を当てつつ論じています。まあ、阪神ファンであれば、あるいは、それなりのプロ野球ファンであれば、シーズン中からシーズン終了後に聞いたようなトピックばかりですが、改めて振り返るのも、阪神ファンには心地よいものです。岡田監督を褒め称える場合、水際立った試合の采配があります。当然です。横浜戦で代打で左投手を引っ張り出しておいて、代打の代打で原口選手を送ってホームランを打ったり、ジャイアンツ戦で初先発した村上投手を7回パーフェクトのまま交代させたり、あるいは、特に最終盤の日本シリーズでは、初戦で佐藤輝選手に初球から盗塁させて先取点を奪って、結果的に、日本でナンバーワンと目されていた山本由伸投手から大量点を上げ、また、第4戦では長らく戦列を離れていた湯浅投手を起用して甲子園の雰囲気を一変させてサヨナラ勝ちに持ち込んだりといったところです。ただ、私が注目したのは、これも言い尽くされた感がありますが、得点力向上のためのフォアボールの重視です。しかも、単に選手指導で「フォアボールを重視せよ」というだけではなく、球団の査定システムとしてフォアボールのウェイトを大きくするという制度面での改革に持ち込んだ点が重要と私は考えています。常々、エコノミストとしての私の主張は、気持ちやココロの持ちようだけでは何の解決にもならない、とまではいわないものの、本格的な対策や政策としては、制度的な裏付け、法令による規制、などといったシステムの変更が必要である、というものです。交通安全を願うココロだけでは交通事故死は減少しません。信号や横断歩道や歩道橋を設置し、スピード制限を設けて、加えて、違反した場合の罰則を法令で決めなければ実効ある交通安全対策にはなりません。こういった私のエコノミストとしての従来からの主張が、岡田タイガースのフォアボールの査定アップで証明されたと感じています。

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次に、東海林さだお『パンダの丸かじり』(文春文庫)を読みました。著者は、漫画家、エッセイストであり、本書は『週刊朝日』に連載されていた「あれも食いたいこれも食いたい」というコラムのうち、2018年1-10月掲載分を収録しています。単行本は2020年11月の出版でその文庫化です。出版社によれば、食べ物エッセイ「丸かじり」シリーズの第43弾だそうです。ということで、コラムのタイトル通りに、食べ物エッセイです。ただ、人間が食べるものだけではなく、これまた、タイトル通りに、パンダの食べる笹も含まれていたりします。すべては網羅できませんが、取り上げられている食べ物は、かっぱ巻き、七草粥、芋けんぴといった食品、というかすでに食べられる状態になっているものから、鶏むね肉などの素材まで、いろいろとあります。すべてのエッセイに1編2-3枚の挿絵があるのは漫画家ならではの特技を活かしているといえます。余りに話題が多岐に渡っているので、本書の方向性と異なる2点だけ指摘しておくと、まず、ビビンバです。いうまでもありませんが、丼や炊いたご飯とナムルや肉や卵などの具を入れ、よくかき混ぜて食べる料理です。本書の「ビビンバ」ではなく、「ビビンパ」と表記される場合がありますが、私は本書と違って後者の「ビビンパ」と書くのが正しいと思っています。というのは、「ピビン」が「混ぜ」の名詞形で、「パプ」が「飯」の意味となっていて、韓国の文化観光部2000年式のアルファベット表記でも "bibimbap" となるからです。次に、うどんの麺の太さを選ぶ際の無意識の根拠として、心細い時は細麺、心丈夫で心太い時は太麺、普通の時は並麺、というのは、さすがにあんまりだという気がします。まあ、そういった批判的精神を維持しつつ、心安らかに、また、心穏やかに読むべきエッセイだというのは確かです。

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次に、東海林さだお『マスクは踊る』(文春文庫)を読みました。著者は、漫画家、エッセイストであり、本書は『オール読物』の「男の分別学」に収録されていたエッセイ、また、『週刊文春』の「タンマ君」に連載されていたマンガについて、それぞれ2019年から2020年の期間のものを抄録しています。ですので、2020年のコロナ後のエッセイを含んでいますので、タイトルや表紙のようにマスクが登場するわけです。なお、エッセイだけではなく、対談も2本収録されています。エッセイや対談の方にも挿絵が数枚入っています。漫画の方はタンマ君がサラリーマンですから、そういった現役世代の中年を主人公に描かれている一方で、エッセイの方はかなり高齢者を重点にしている印象です。対談のテーマも認知症だったりします。特に、エッセイの後半はコロナの時代に入っているようで、パンデミックのころの運動としてクローズアップしている散歩については、日本人的に何でも「道」に仕立て上げて、散歩道としていろんな散歩を類型化しています。もちろん、マスクについても顔が半分ほども隠れるので、目と口で作られる表情について、なかなかに鋭い指摘をしていたりします。コロナ前と思しきバドミントンをディスるエッセイは、私には理解できませんでした。

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2024年1月12日 (金)

現状判断DIが上向いた12月の景気ウォッチャーと大きな黒字の11月経常収支

本日、内閣府から昨年2023年12月の景気ウォッチャーが、また、財務省から11月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+1.2ポイント上昇の50.7となった一方で、先行き判断DIは▲0.3ポイント低下の49.1を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+1兆9256億円の黒字を計上しています。まず、ロイターのサイトから経常収支の記事を、それぞれ引用すると以下の通りです。

街角景気、12月は1.2ポイント上昇 忘年会や訪日客の増加寄与
内閣府が12日発表した2023年12月の景気ウオッチャー調査によると、景気の現状判断DIは50.7と前月から1.2ポイント上昇した。5カ月ぶりの上昇。忘年会やインバウンド(訪日外国人)など人の移動の活発化が寄与した。
景気判断は「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる」とし、前回の表現を維持した。
指数を構成する全3項目が上昇した。家計動向関連DIは前月から0.6ポイント上昇の50.7、企業動向関連DIは2.7ポイント上昇の50.7、雇用関連DIは1.5ポイント上昇の50.2だった。
調査先からは「忘年会シーズンの繁忙期ということもあり、予約でほぼ満席状態」(北関東=一般レストラン「居酒屋」)、「商店街でもインバウンドの数は日増しに増加する傾向」(四国=商店街)といった声が聞かれた。
一方、「暖冬の影響で12月中旬まで冬物衣料が不調だった。食料品も相次ぐ値上げで買い控えが続くなど、消費マインドが冷え込みつつある」(近畿=その他レジャー施設「複合商業施設」)といった指摘も出ていた。
内閣府の担当者は、引き続きモノの値上げによる人々の節約志向が景況感のマイナス要因となっているが、今月は必ずしも悪い文脈だけでなく、客単価の上昇や単価の高い衣料品や雑貨の購買の広がりなどを指摘する声も出ていたと述べ、「値上げのネガティブ度合いが和らいだ」との見方を示した。
2-3カ月先の景気の先行きに対する判断DIは前月から0.3ポイント低下し49.1となった。内閣府は「価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」とした。
経常収支、11月として最大の1兆9256億円の黒字 予想は下回る
財務省が12日発表した国際収支状況速報によると、11月の経常収支は1兆9256億円の黒字となった。11月としては、過去最大の黒字幅。ロイターが民間調査機関に行った事前調査の予測中央値は2兆3851億円の黒字で、実際の黒字幅は予想を下回った。黒字は10カ月連続。
経常収支のうち、貿易・サービス収支は6994億円の赤字で、前年同月に比べて赤字幅が縮小した。貿易収支が赤字幅を縮小したほか、サービス収支が旅行収支を支えに黒字転化した。
第1次所得収支は2兆8949億円の黒字となり、前年同月に比べて黒字幅を縮小した。第2次所得収支は2700億円の赤字だった。

とても長くなりましたが、よく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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現状判断DIは、昨年2023年に入ってから高い水準が続いて、2月以降は50を超えていました。しかし、9月統計で50を割って49.9となった後、11月統計まで50割れの水準が続いていました。本日公表の12月統計でようやく上昇に転じて、前月から+1.2ポイント上昇して50.7を記録しています。もっとも、長期的に平均すれば50を上回ることが少ない指標ですので、50近傍の水準は決して低くない点には注意が必要です。12月統計で上昇した主因は企業動向関連です。家計動向関連が前月から+0.6ポイント上昇であった一方で、企業動向関連は+2.7ポイントの上昇となっています。製造業も非製造業も、ともに前月から上昇しています。雇用関連も前月から+1.5ポイント上昇しています。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。」で据え置いています。ただ、家計動向関連を少し詳しく見ると、サービス関連が前月から+1.3ポイント改善していますし、インバウンドの恩恵を受ける飲食関連が前月から+0.6ポイント上昇した一方で、小売関連が0.3ポイントの上昇にとどまるなど、明らかに物価上昇の影響が現れていると考えるべきです。特に、2~3か月先の景気を考える先行き判断DIについては、小売関連が前月から▲1.8ポイントの低下となっています。ただし、明日の消費者物価指数(CPI)統計を待ちつつも、このインフレはそれほど長続きしないと私は見込んでいます。また、内閣府のリポートの中の南関東の景気判断理由の概要の中から悪化の判断の理由を見ると、家計動向関連では「来客数の動きから見て、来店頻度がやや減少しているように感じている。また、客単価は上がっているが買上点数は伸びていない(スーパー)。」とか、企業動向関連では「お歳暮商戦はかなり苦戦を強いられている。お中元商戦のときよりも客の財布のひもがよりきつくなっている(食料品製造業)。」とか、インフレによる単価上昇はあるものの、食料品製造のお歳暮商戦は苦戦、といったあたりに私は目が止まってしまいました。もちろん、逆に、改善判断についても、「仲間内での忘年会や飲み会はコロナ禍の頃に比べて回復している」といった意見も見られます。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは経常黒字+2兆4000億円近くでしたので、実績の+1兆9256億円はやや下振れした印象です。2011年3月の東日本大震災と福島第一原発の影響を脱したと考えられる2015年以降で経常赤字を記録したのは、季節調整済みの系列で見て、昨年2022年10月統計▲3419億円だけです。もちろん、ウクライナ戦争後の資源価格の上昇が大きな要因です。ですから、経常黒字の水準はウクライナ戦争の前の状態に戻っていますし、たとえ赤字であっても経常収支についてもなんら悲観する必要はなく、資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。

 【2023年10月判断】前回との比較【2024年1月判断】
北海道持ち直している持ち直している
東北持ち直している持ち直している
北陸緩やかに回復している今後、令和6年能登半島地震の影響を注視する必要があるが、緩やかに回復している
関東甲信越緩やかに回復している緩やかに回復している
東海持ち直している緩やかに回復している
近畿一部に弱めの動きがみられるものの、持ち直している持ち直しのペースが鈍化している
中国緩やかに回復している緩やかに回復している
四国持ち直している持ち直している
九州・沖縄緩やかに回復している緩やかに回復している

最後に、日銀支店長会議が開催され、昨日、「地域経済報告 - さくらレポート -」(2024年1月)が公表されています。海外経済の回復ペース鈍化や物価上昇の影響を受けつつも、ほぼほぼすべての地域で景気は「持ち直し」、「緩やかに回復」、「着実に回復」と総括判断されています。ただし、近畿だけは、輸出の弱さから「持ち直しのペースが鈍化」と下方修正されています。各地域の景気の総括判断と前回と比較したテーブルは上の通りです。

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2024年1月11日 (木)

4か月ぶりに一致指数が下降した11月の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2023年11月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から▲1.2ポイント下降の107.7を示し、CI一致指数▲1.4ポイント下降の114.5を記録しています。CI一致指数の下降は4か月ぶりです。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

景気一致指数4カ月ぶりマイナス、輸出など悪化 判断は「改善」維持
内閣府が11日公表した2023年11月の景気動向一致指数(速報値、2020年=100)、前月比1.4ポイント低下の114.5と4カ月ぶりのマイナスだった。輸出数量指数や投資財出荷指数の悪化が響き、同年1月以来のマイナス幅だった。
>先行指数3カ月連続マイナス>
輸出数量指数は欧米、アジア向けがいずれも減少し、全体を最も押し下げる要因となった。投資財出荷指数は前月にコンベヤーなどが伸びた反動もあった。鉱工業生産指数は自動車の悪化などが響いた。
一致指数から一定のルールで機械的に決まる基調判断は、昨年4月以来続く「改善を示している」との表現を据え置いた。3カ月移動平均が前月比で低下しているが、マイナス幅が大きくないことなどが理由。
先行指数は前月比1.2ポイント低下の107.7で、3カ月連続のマイナスだった。自動車の出荷減による最終需要財在庫率指数の悪化や、新設住宅着工床面積などが指数を下押しした。

とてもシンプルに取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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昨年2023年11月統計のCI一致指数については、4か月ぶりの下降となりました。3か月後方移動平均の前月差でも▲0.30ポイントの下降となり、加えて、7か月後方移動平均でも▲0.04ポイント下降と、当月、3か月と7か月の両方の後方移動平均とも前月差がマイナスに転じています。しかし、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「改善」で据え置いています。「足踏み」に下方修正する場合には、3か月後方移動平均が前月差でマイナスになるだけではなく、マイナス幅が1標準偏差以上になるという判断基準ですので、要するに、マイナス幅がまだ1標準偏差に達していないのであろうと私は想像しています。いずれにせよ、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そうすぐには景気後退入はしない可能性が高い、と私は考えています。従って、機械的判断ながら、まあ、「改善」でもいいか、という気はします。ただし、景気動向指数の基調判断は「改善」ながら、景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありません。なお、CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、プラスの寄与は、商業販売額(小売業)(前年同月比)+0.16ポイントと耐久消費財出荷指数+0.13ポイントくらいのもので、後は軒並みマイナス寄与となっています。すなわち、輸出数量指数が▲0.73ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)が▲0.34ポイント、有効求人倍率(除学卒)も▲0.29ポイント、生産指数(鉱工業)は▲0.15ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)が▲0.22ポイント、などなどとなっています。

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最後に、世界経済フォーラムから Global Risks Report 2024 が明らかにされています。pdfの全文リポート p.7 から Current risk landscape を引用すると上の通りです。やっぱり、気候変動が大きなリスク要因と考えられているようです。私は2番めの人工知能(AI)の方が脅威だと思うのですが、コンセンサスではないのかもしれません。

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2024年1月10日 (水)

ユーラシア・グループによる今年2024年10大リスク

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地政学リスクに関するコンサルタント会社であるユーラシア・グループから、一昨日の1月8日に Eurasia Group's Top Risks for 2024 が明らかにされています。日本語のリポートもアップロードされています。地政学の分野はほぼほぼ私の専門外なから、やや気にかかるところでもありますので、簡単にリストアップしておきたいと思います。

2024年10大リスク

  • リスクNo.1 米国の敵は米国
  • リスクNo.2 瀬戸際に立つ中東
  • リスクNo.3 ウクライナ分割
  • リスクNo.4 AIのガバナンス欠如
  • リスクNo.5 ならず者国家の枢軸
  • リスクNo.6 回復しない中国
  • リスクNo.7 重要鉱物の争奪戦
  • リスクNo.8 インフレによる経済的逆風
  • リスクNo.9 エルニーニョ再来
  • リスクNo.10 分断化が進む米国でビジネス展開する企業のリスク

広く知られた通り、今年は米国大統領選挙のある年です。米国の政治的経済的分断がこのまま固定化するのかどうか、とても気にかかるところです。もちろん、ウクライナや中東ガザの武力衝突も終息の兆しを見せていません。ならず者国家には、ロシア、北朝鮮、イランの3国が上げられており、そのうちの2国と日本は国境を接しています。中国経済がこのまま低迷する可能性も排除できませんし、これで米国でビジネス展開するリスクが高まれば、企業活動に制約を受ける場合も出てきそうです。ただ、私自身がもっとも恐れているのはコントロールが効かなくなった人工知能AIが暴走することです。気候変動以上に可能性が高くて、ダメージも大きいという気がします。

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2024年1月 9日 (火)

能登半島地震の企業活動への影響やいかに?

あらためまして、能登半島地震で亡くなられた方々には謹んでお悔やみ申し上げますとともに、被災された方々のは心よりお見舞い申し上げます。
この地震に関して、経済的にはどのくらいの影響があるかというファーストショットの調査結果が、帝国データバンクから1月5日に「能登半島地震関連調査」として明らかにされています。なお、東京商工リサーチでも、同じ日付で「能登半島地震被災地企業調査」として取りまとめられています。帝国データバンクの方が半島振興法に基づく能登半島に本社を置く企業を調査対象としているのに対して、東京商工リサーチの方は国土交通省が公表した「土砂災害警戒情報基準」の暫定基準を設けた4県の27市6町1村に本社を置く企業を対象としています。東京商工リサーチの調査結果の方が広域に渡っており、従って、いろんな数字が大きくなります。どちらがより適当は鍵論の分かれるところですが、私のこのブログでは帝国データバンクの調査を取り上げたいと思います。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の概要を3点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 能登地方に本社を置く企業、計4075社 最多は「七尾市」の705社
  2. 売上高の合計は1兆3018億円、従業員数は合計4万9728人
  3. 業種別では「建設業」が最多 「サービス業」「製造業」が次いで多い

ということで、帝国データバンクのリポートから図表を引用しつつ簡単に取り上げておきます。

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まず、リポートから 「能登地方」の企業数 の地図を引用すると上の通りです。企業数の多い市町村順で、七尾市705社、氷見市596社、かほく市498社、津幡町344社、輪島市315社、などとなっています。交通事情などにより、私はどの地域が地震被害が大きいのか十分な情報がありませんが、能登半島北部の輪島市や珠洲市の方に活断層が走っているという報道も見かけましたし、まだ余震が続いている中で、被害が大きくならないように願っています。

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続いて、リポートから 「能登地方」企業の業種別社数 のグラフを引用すると上の通りです。地方部ですので、どうしても建設業の比率が高くなっているように見えます。ただし、より広域を調査対象とする東京商工リサーチの調査結果では、建設業は企業数で18.98%、売上高では11.70%との結果が示されており、売上高のシェアが企業数のシェアよりも小さいわけですから、規模の小さな建設業者が多い印象を持ちます。同じ東京商工リサーチの調査結果では、売上高に占める製造業の比率が22.18%と帝国データバンクのリポートにある企業数よりも大きなシェアを示していて、サプライチェーンへの影響も懸念されるところです。

いずれにせよ、現地では政府や自治体の援助が行き届かず、生存すら脅かさかねない状況の中で、時事通信などの報道によれば、まるで被災地の実態の隠蔽を目的とするがごとき被災地視察の自粛が与野党6党で合意されています。こういった政府・自治体や国会の動きの鈍さを考えると、経済情報なりとも現地に関する情報が少しでも明らかにされるのは貴重なのかもしれません。

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2024年1月 8日 (月)

ピアノの高木里代子の2バージョンの Take Five

高木里代子のピアノ・トリオによる2バージョンの Take Five です。




Take Five は、かの有名な Dave Brubeck Trio による Time Out のアルバムに収録された演奏で知られています。Paul Desmond の作曲になる5/4拍子、いわゆる変拍子ジャズのごく初期の曲です。
ハッキリいって、私はこのピアニストは評価していませんが、この曲の試みは面白いと思います。たぶん、私が評価する日本人女性ピアニスト、例えば、山中千尋や上原ひろみであれば、こういったキワモノの演奏には見向きもしないことと思います。

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2024年1月 7日 (日)

今週の読書は年始に経済書なく計5冊

今年初めての読書感想文は以下の通りです。
まず、川上未映子『黄色い家』(中央公論新社)は、アラフォー女性と20歳前後の女性3人による4人の奇妙で合法違法ギリギリの生活を実にリアルに描き出したノワール小説です。奥田英朗『コメンテーター』(文藝春秋)は、17年振りに帰って来た精神科医伊良部医師のシリーズの短編集で、相変わらず、患者として伊良部医師を訪れた善良な人間が伊良部とマユミに振り回されつつも治療ははかどります。永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮社)は、芝居小屋のある木挽町の仇討ちについて目撃者のモノローグから真相を明らかにしようと試みる時代小説です。小野不由美ほか『七つのカップ 現代ホラー小説傑作集』と鈴木光司ほか『影牢 現代ホラー小説傑作集』(角川ホラー文庫)は合わせて15人の豪華なホラー作家の執筆陣により、いわゆる怪物の出現しないモダンホラー短編を集めたアンソロジーです。
ということで、今年の新刊書読書は5冊から始まりました。

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まず、川上未映子『黄色い家』(中央公論新社)を読みました。著者は、芥川賞も受賞した作家です。本書については出版社も力を入れているのか特設サイトが開設されたりしています。通常、「黄色い家」といえば、ゴッホの絵画作品 La Maison Jaune だと思っていましたが、「朝日のあたる家」The House of the Rising Sun と同じで、何か特別な意味を含ませているのかもしれません。ということで、主人公は伊藤花という2020年時点でアラフォーの女性、結婚しているという言及はなく、総菜屋で働いています。ひょんなことで、母親と同年代の友人で、花からは20歳ほど年齢が上になる吉川黄美子が逮捕されたというニュースを見かけます。20年ほど前に、同年代の加藤蘭と玉森桃子とともに4人で暮らしていたことがあるので、まだ携帯電話に残っていた加藤蘭に連絡して相談したりしますが、加藤蘭は取り合ってもくれず、逆に、「若気の黒歴史」といわれて、警察に通報するなどを固く禁じられた上に、携帯電話の登録を消去するように要求されたりします。そして、ここから主人公である伊藤花の長い長い回顧が始まります。10代半ばの高校生であったころに始まり、世紀末1999年を過ぎて4人の共同生活が解消されるまでです。花は東村山のアパート暮らしの母子家庭から抜け出して、黄美子とともに三軒茶屋で生活を始めます。スナック「れもん」を経営し、キャバクラをやめた蘭もいっしょに生活するようになってともに働きます。高校生の桃子もその三軒茶屋の家に入り浸るようになって、事実上の4人での共同生活が始まります。アパートから一軒家に引越したりします。しかし、火事でスナックが焼けて収入の道が途絶え、不法行為で稼ぐようになります。最初はスキミングされた銀行の偽造カードを使った出し子だったのですが、スキマーを銀座の高級バーに設置して情報を入手する側に回ります。このあたりで、まあ、もともとが未成年でスナックで酒を飲んでいたころも、偽造カードでATMから出金していたのも違法ではあるのですが、小説としては、第10章のタイトルを「境界線」としているように、明らかに一線を越える活動を始めます。そして、伊藤花と加藤蘭と玉森桃子の3人は決裂し、共同生活が終わります。伊藤花は母親の死後、母親が借りていたアパートに住んで、現在の2020年を迎える、ということになります。出版社のセールストークでは「ノンストップ・クライム小説」ということで、確かに、600ページ余りの膨大なボリュームながら、一気に読むべき作品であろうという気はします。作者の力量だろうと思いますが、とても読みやすくてテンポよく、一気に読めます。ですので、「ノンストップ」の部分は了解です。でも、「クライム」かどうかは読者の見方によります。私は犯罪小説というよりはノワール小説ないし「貧困小説」に近いと受け止めました。ちらちらとみていた再放送の「VIVANT」でもそうでしたが、貧困がテロにつながる温床となるのと、まったく同じように、貧困が犯罪につながると考えるからです。今までの川上未映子の作品とは大いに異なる大作です。

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次に、奥田英朗『コメンテーター』(文藝春秋)を読みました。著者は、小説家です。アノ伊良部医師シリーズ第4弾です。もう、このシリーズは紹介するまでもないのですが、精神科医の伊良部が看護師のマユミとともに患者を振り回して大活躍する短編集です。出版社のサイトによれば、伊良部は17年ぶりの復活だそうです。ということで、収録短編はあらすじとともに以下の通りです。まず、「コメンテーター」では、コメンテーターが診察に来るのではなく、コロナ禍で精神科医のコメンテーターを探しているテレビ番組のスタッフが、ひょんなことから伊良部と会って、伊良部自身がテレビのコメンテーターになります。これまでのお決まりのパターンは、患者が伊良部の診察に来て、その患者が伊良部に振り回される、というのでしたが、少し展開が違っています。少し展開が違うのはもう1話あります。「ラジオ体操第2」では、煽り運転の被害にあった男性が過呼吸に陥り、伊良部のところに診察に来て、アンガー・マネージメントができていないと診断されます。同じシリーズである『空中ブランコ』の「ハリネズミ」の主人公である尖端恐怖症の猪野が元ヤクザとして登場します。「うっかり億万長者」は、デイトレードで億万長者になりながら、公園で犬に噛まれてしまい、伊良部のところに運び込まれます。伊良部はパニック障害と診断し、その上、億万長者と知って往診に精を出します。「ピアノ・レッスン」では、コンサート・ピアニストが広場恐怖症になり、飛行機はもちろん、新幹線での移動もままならなくなります。そして、なぜか、キーボード奏者の抜けたマユミのロックバンドに参加することになります。「パレード」では、山形から東京に出てきた大学生が、リモート授業から対面授業に切り替わっていく中で、異変を来して社交不安障害と診断されます。伊良部病院の関連の老人施設で中学生とともに、治療と称してボランティアをさせられます。総じて、伊良部の17年ぶりの復活を評価する読者が多いようで、私もその1人です。ただ、あらすじにも書きましたが、今まではすべて患者として伊良部にところにやってきて、その患者が伊良部に振り回される、というお決まりのパターンだったのですが、この作品では、表題作のように医者のコメンテーターを探してテレビ局からやってくる、とか、億万長者のもとに伊良部がせっせと往診するとか、今までにはないパターンも試みられていますし、以前の作品の患者で伊良部に振り回された人物が登場する例もあり、これも初めての試みではないかと思います。伊良部自身はほぼほぼ進化していないのですが、作者はいろいろと試行錯誤して、もちろん、時代背景からしてコロナのトピックも盛り込みながら、小説としては、ひょっとしたら、進化しているのかもしれません。いや、進化しているのだろうと思います。

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次に、永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮社)を読みました。著者は、小説家です。本書についても直木賞受賞により出版社が力を入れているのか、特設サイトが開設されたりしています。ということで、芝居小屋のある木挽町で新春早々、ど派手に森田座裏通りで、伊能菊之助が仇とする作兵衛を討ち果たします。そして、本書では、菊之助の国元から侍が上京して、木挽町で目撃者から聞取りをする、その目撃者のモノローグで構成されています。最初は、木戸芸者の一八、次に、立師の与三郎、女形の衣装係のほたる、小道具職人の久蔵とその妻のお与根、筋書の金治といった、芝居小屋の関係者というわけです。こういった聞取りから、菊之助の仇討ちの実態が徐々に明らかになるとともに、芝居小屋の関係者の来し方の人生も浮き彫りになっていきます。そして、この仇討の真相が背景とともに明らかにされます。ですから、この作品は明らかにミステリと考えるべくです。ただ、誰がやったのかの whodunnit やどうやったのかの howdunnit は明らかに見えます。菊之助は作兵衛を討ち果たして首級まで上げていますから、何をやったのかの whatdunnit もご同様です。ですので、なぜやったのか whydunnit に意識を集中して読んでいたのですが、実は、もっと奥深い仇討であったことが明らかになります。なぜなら、木挽町の芝居小屋の関係者に当たった後、聞取りをした侍は国元に帰って、菊之助ご本人から真相を聞き出しているからです。驚くべき真相で、しかも、その前の芝居小屋関係者からの聞取りの中に、伏線が大いに仕込まれていることが明らかになります。私はこの作品はミステリだと思いますので、あらすじの紹介はここまでとします。最後に2点指摘しておきたいと思います。まず、「仇討ち」の表記についてです。少し前に読んだ長浦京『リボルバー・リリー』では、タイトルは「リボルバー」なのですが、小説の中では一貫して「リヴォルバー」と表記されていました。本作品もよく似ていてタイトルは「あだ討ち」ですが、小説の本文ではほぼほぼ一貫して「仇討ち」とされています。この書分けは理由があります。本書の最後で明らかにされます。なかなかの趣向だったと私は受け止めています。次に、関係者から聞取りを行ったモノローグにより真相を明らかにするという小説としての手法は、松井今朝子『吉原手引草』がすでに試みており、花魁失踪の謎を廓の関係者から聞いて回るという形で、十数年前の直木賞を受賞しています。ですから、この作品は時代小説の手法としては、まあ、悪いんですが、二番煎じです。その上、『吉原手引草』は私の記憶にある限り、10人をはるかに上回る聞取りをしていますが、この作品はそれほど手はこんでいません。それだけに、真相の鮮やかさに目を奪われます。一級のミステリに仕上がっています。

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次に、小野不由美ほか『七つのカップ 現代ホラー小説傑作集』鈴木光司ほか『影牢 現代ホラー小説傑作集』(角川ホラー文庫)を読みました。著者たちは、小説家です。全員がホラー小説に特化した小説家ではありませんが、そういう小説家も少なくない気がします。2冊合わせて15人の作家によるホラー短編小説のアンソロジーです。ということで、まず、収録されている短編の作者とタイトルほか、カッコ内は初出、にあらすじについては、以下の通りです。すなわち、まず、小野不由美ほか『七つのカップ 現代ホラー小説傑作集』(角川ホラー文庫)については、小野不由美「芙蓉忌」(『営繕かるかや怪異譚 その弐』角川文庫)は、うら若き女性の死霊に魅入られた男性の主人公の何ともいいがたい心理状態を実に巧みに描き出しています。続いて、山白朝子「子どもを沈める」(『私の頭が正常であったなら』角川文庫は、高校生のころにいじめて、結果的に自殺した同級生JKそっくりの顔の赤ん坊を産んでしまい、その赤ん坊を殺してしまうかつてのJKのいじめる側の悲劇を取り上げいます。続いて、恒川光太郎「死神と旅する女」(『無貌の神』角川文庫は、大正時代を舞台に、死神から命じられるままに殺人を繰り返す少女フジを主人公に、死神フジにが与えた分岐点を境に、大きな時代の流れを取り込んだスケール大きなホラーです。続いて、小林泰三「お祖父ちゃんの絵(『家に棲むもの』)角川ホラー文庫は、孫に語って聞かせる祖母のモノローグの形を取りながら、祖母自身の結婚や生活を狂気を持って明らかにします。続いて、澤村伊智「シュマシラ」(『ひとんち』光文社文庫は、播州のUMAといわれる猿の一種であるシュマシラを探すマニアが異界に入ってしまうタイプのホラーです。続いて、岩井志麻子「あまぞわい」(『ぼっけえ、きょうてえ』角川ホラー文庫は、作者得意の明治期の貧しい岡山を舞台にしたホラーで、漁師夫婦が網本家の倅を殺害した悲劇を題材にしています。最後の表題作で、辻村深月「七つのカップ」(『きのうの影踏み』角川文庫は、信号のない交差点の横断歩道で子供を交通事故で亡くした女性が、その交差点で通学の小学生を見守りつつ、石を詰めたカップを置くという行為に秘められた恐怖をテーマとして、現在の都市伝説にも通ずるホラーです。続いて、鈴木光司ほか『影牢 現代ホラー小説傑作集』(角川ホラー文庫)については、まず、鈴木光司「浮遊する水」(『仄暗い水の底から』角川ホラー文庫)は、お台場に引っ越した母子家庭の母親が、マンション屋上でキティちゃんのバッグを拾ったところから異変が始まり、水の味の異変から同じマンションで少し前に行方不明になった少女の事故について推理します。続いて、坂東眞砂子「猿祈願」(『屍の聲』集英社文庫)は、不倫の末に結婚・妊娠にたどり着いた女性が、夫の母親に挨拶に行った際に見たのぼり猿とくだり猿の本当の意味を知るホラーです。続いて表題作で、宮部みゆき「影牢」(『あやし』)は、江戸時代の蝋問屋を舞台に、堅実で繁盛していたお店が代替わりで大女将を座敷牢に入れ、だんだんと狂気に包まれていく中で、毒物により主人一家が死んでしまう過程を大番頭が八丁堀の与力に語るモノローグです。続いて、三津田信三「集まった四人」(『怪談のテープ起こし』集英社文庫)は、諸対面お3人と登山をすることになった主人公なのですが、そもそもリーダーとなる唯一の知り合いが来なくなり、そのまま異界に入り込むような体験をします。続いて、小池真理子「山荘奇譚」(『異形のものたち』角川ホラー文庫)は、大学のお恩師の葬式で立ち寄った甲府の鄙びた旅館に関する怪異を主人公の属するテレビ業界で別の会社の女性に知らせたところ、その女性が取材に行って行方不明になるという奇怪な経緯をたどります。続いて、綾辻行人「バースデー・プレゼント」(『眼球綺譚』角川文庫)は、クリスマスと同じ日に誕生日、それも今年は20歳の誕生日を迎える女性が、クリスマスパーティーで奇怪なプレゼントを受け取るという幻想的なホラーです。続いて、加門七海「迷(まよ)い子」(『美しい家』光文社文庫)は、初老に差し掛かる夫婦2人が皇居から東京駅の地下のあたりで、現在と戦中の時代を、また、あの世とこの世の境を彷徨います。続いて、有栖川有栖「赤い月、廃駅の上に」(『赤い月、廃駅の上に』)は、自転車旅に出た高校生が旅の連れ合いとともに寝袋で駅寝するのですが、この世のものではない存在に襲われます。2冊に収録されている短編計15話を一挙に紹介しましたので、とてつもなく長くなりました。いわゆるモダン・ホラーとして有名な作品ばかりで、私は既読の作品も少なからずあります。でも、再読して十分楽しめました。何といっても、角川書店はホラー小説に力を入れている出版社のひとつですし、その昔、私は角川書店のモニターになっていて、澤村伊智のデビュー作であり、第22回日本ホラー小説大賞を受賞した『ぼぎわんが、来る』は、出版前のゲラ擦りの段階で送っていただいて、それを読んで感想を送ったりした記憶もあります。この2冊については、モダン・ホラーとして、いわゆる「怪物」が出てこないホラー小説を中心に朝宮運河が編集しており、最後の解説も担当しています。一昨年2022年と昨年2023年には年末に「ベストホラー2022」と「ベストホラー2023」をツイッタ上で公表していたのを私は見かけています。ホラー小説のファンであれば、必読の2冊です。これがシリーズ的になって3冊目が出版されるのかどうか、私は不勉強にして知りませんが、もしも継続されるのであれば、版権の関係もあるとはいえ、貴志祐介と今邑彩の作品を収録すべくお願いしたいと思います。

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2024年1月 6日 (土)

+216千人の雇用増を記録した12月の米国雇用統計

日本時間の今夜、米国労働省から2023年12月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の12月統計では+216千人増となり、失業率は前月から横ばいの3.7%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を4パラ2タイトル引用すると以下の通りです。

December jobs report: Here are 7 key takeaways
The U.S. economy added 216,000 jobs in December and the unemployment rate held steady at 3.7% as the labor market unexpectedly picked up despite high interest rates.
Here are some key takeaways from the final employment report of the year.
Job growth was unexpectedly strong last month...But
The payroll gains easily topped the 175,000 forecast by economists in a Bloomberg survey. But the strong showing was offset by downward revisions totaling 70,000 to job gains in October and November.
The bottom line: mostly a wash, economists said.
Job growth slowed in 2023
Employers added 2.7 million jobs, or 225,000 a month, last year. That was down from 4.8 million, or 399,000 a month, in 2022 as a post-COVID surge in the economy faded. The pullback is consistent with the Federal Reserve's goal of paring back job and wage growth enough to tame inflation without sparking a recession - a feat known as a "soft landing."

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、ひとつの目安とされる+200千人を2か月連続でした上回り、失業率は3%台後半を継続しているものの、過去にさかのぼった統計の改定から、10月の雇用者増は+105千人、11月は+173千人と、それぞれ下方改定された上に、20万人を下回っています。特に、11月統計では自動車産業などでのストライキの影響が含まれているとはいえ、12月統計は雇用における人手不足が緩和されつつあり、物価上昇とともに落ち着きを取り戻しつつある、と私は評価しています。ただ、引用した記事の3パラめにあるように、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+175千人の雇用増を見込んでいましたので、実績はやや上振れた印象です。昨年2023年12月13日の連邦公開市場委員会(FOMC)後に公表された最新の経済見通しである Summary of Economic Projections の想定するラインから、雇用についてはやや強い印象を持ちます。従って、米国の連邦準備制度理事会(FED)は今年2024年に3回の利下げを見込んでいるという記事を見かけましたが、利下げに対するタカ派的な声が強まることはあり得ると考えられます。それが日本経済にとっては、円安是正プロセスに何らかの影響を及ぼす可能性がありますから注意が必要かもしれません。

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2024年1月 5日 (金)

基調判断が上方修正された12月の消費者態度指数

本日、内閣府から昨年2023年12月の消費者態度指数が公表されています。12月統計では、前月から+1.1ポイント上昇し37.2を記録しています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者態度指数12月は37.2に改善、基調判断引き上げ=内閣府
内閣府が5日公表した消費動向調査によると、2023年12月の消費者態度指数は前月比1.1ポイント改善の37.2で、21年12月以来の高水準となった。内閣府は消費者マインドの基調判断を、前月の「改善に向けた動きに足踏みがみられる」から「改善に向けた動きがみられる」に上方修正した。1年後の物価が上昇すると回答した世帯の比率は、11月の91.6%から90.8%に低下した。
消費者態度指数の改善は3カ月連続。12月は、同指数を構成する4つの指標(暮らし向き、収入の増え方、雇用環境、耐久消費財の買い方判断)全てが改善した。全指標が前月から改善するのは昨年7月以来。
基調判断は、昨年9月に「足踏みがみられる」に下方修正されて以降、3カ月ぶりの変更。上方修正は昨年7月以来となる。
1年度の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が11月の44.6%から41.4%に減った一方、2%以上5%未満上昇するとの回答は33.0%から35.1%に増えた。内閣府では「物価が急激に上昇する見方は落ち着いたが、一方でそれなりに上昇するとみられている」としている。

いつも通り、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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消費者態度指数は今後半年間の見通しについて質問するものであり、4項目の消費者意識指標から成っています。12月統計では、その4項目すべての指標において前月差で見て上昇しており、「暮らし向き」が+1.6ポイント上昇し35.7、「耐久消費財の買い時判断」も+1.3ポイント上昇し31.4、「収入の増え方」が+0.8ポイント上昇し39.6、「雇用環境」が+0.6ポイント上昇し41.9となっています。消費者態度指数は、8~9月統計では2か月連続で低下していましたが、10月統計から3か月連続の上昇です。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「改善に向けた動きに足踏みがみられる」から「改善に向けた動きがみられる」と、先月から上方修正しています。
繰り返しになりますが、8~9月に消費者態度指数が2か月連続して低下したのは、私は物価上昇に起因する部分が大きいと感じています。同じ8~9月の期間には、「物価が上昇する」と見込む割合が93.7%とピークとなっていて、「5%以上」を見込む割合も51.1%でピークでした。その後、物価上昇を見込む割合も、さらに、5%以上を見込む割合もじわじわと低下し、12月調査では物価上昇が90.8%、5%以上も41.4%と、特に高い物価上昇を見込む割合が大きく低下しています。日本経済研究センターのESPフォーキャストなどを見ても、先行き、物価上昇率は縮小していくと見込まれており、少なくとも物価との関係では、消費者態度指数に現れる消費者マインドは改善に向かうと私は考えています。

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2024年1月 4日 (木)

帝国データバンクによる「食品主要195社価格改定動向調査」の結果やいかに?

もう昨年のことなのですが、2023年12月29日に帝国データバンクから「食品主要195社価格改定動向調査」の結果が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。この調査では昨年2023年の動向と今年2024年の見通しを取りまとめています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果のポイントを3点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 2023年の値上げ動向: 累計3万2396品目 バブル崩壊以後で例を見ないラッシュの1年
  2. 2024年の値上げ動向: 5月まで3891品目、23年比6割減ペース 年1~1.5万品目予想
  3. 2024年の見通し: 「人件費」由来の値上げが増加 「電気代」、「円安」再加速も懸念

一昨年来の物価高が続く中で、おそらく、今年2024年は価格上昇のペースは鈍る可能性はあるとはいえ、引き続き、食品価格の動向は注目を集めることと思います。年初早々ではありますが、リポートから図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 月別値上げ品目数 推移 のグラフを引用すると上の通りです。見れば明らかな通り、昨年2023年の食料品値上げの品目数は32千品目を越えています。一昨年2022年がおおよそ25品目を少し越えたあたりでしたので、かなり品目数として増加しています。それまで、デフレの中でほぼほぼ前年踏襲の価格設定になっていたわけですので、これだけの品目が値上げされるとかなりのインパクトがあると考えるべきです。ただ、値上げ、というか上昇率で見ても、品目数で見ても、2023年が食料品値上げのピークで、今年2024年からは沈静化に向かうと考えてよさそうです。ただし、再びデフレ期のように価格が動かないというのがいいのかどうかは議論の余地があります。

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続いて、リポートから 食品値上げ 原因別 202→24年推移 を引用すると上の通りです。引き続き、円安は値上げ要因として大きな比率を占めますが、為替そのものがすでに円安修正局面に入っている可能性が十分あるので、この要因は逆方向に効くハズです。そうでなければ、かつてのように、円高差益を消費者に還元せずに企業が溜め込むという形になってしまいます。そのうえで、為替要因を除けば、原材料高とエネルギー高は引き続き高い比率を占めているものの、帝国データバンク指摘するように、人件費という要因がクローズアップされます。デフレ期にはコストダウンが至上命令であって、ともかく人件費を削減してコストダウンに努めていましたが、これからの物価安定期には、賃上げや働き方改革などに伴う人件費の上昇を適正に価格転嫁し、中央銀行が追求するインフレ目標に沿った物価安定の下での経済の好循環に基づく拡大基調の経済運営・経営方針に転換すべき局面に差しかかっています。リポートでも指摘されているように、人件費を単なるコストアップ要因として捉えるのではなく、需要拡大をもたらす要因のひとつと見なせるかどうかがキーポイントとなります。

デフレ期には「囚人のジレンマ」に陥って、他社が賃上げして需要が維持される中で、自社だけが人件費削減というコストダウンに成功する、という見果てぬ夢を追いかけていた日本的経営なのですが、需要拡大に政府や中央銀行が経済政策の舵を切るという形でガイドラインが示されれば、決して経営マインドの問題だけではなく、経営方針も囚人のジレンマから脱する機会がありそうな気がします。

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2024年1月 3日 (水)

阪神タイガースの2024年チームスローガン

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まったく情報が遅いのですが、昨年2023年12月12日に、2024年チームスローガン阪神タイガースのサイトで明らかにされています。

A.R.E. GOES ONであり、「えーあーるいー ごーずおん」と読むそうです。もしも、ハッシュタグにするなら、ピリオドを取ってアンダーバーでつないで、#ARE_GOES_ON とでもなるのでしょうか?

今年もリーグ優勝と日本一目指して、
がんばれタイガース!

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2024年1月 2日 (火)

正月はテレビを見てダラダラ過ごす

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正月2日は、テレビを見てダラダラと家で過ごしました。大晦日から始まったVIVANTの一挙放送の一気見です。明日まで続きます。その後もウダウダとチャンネルはそのままに、「明石家電視台 新春スペシャル」に阪神タイガースの選手がユニフォーム姿で登場しましたので、ついつい見続けます。
テレビというメディアについて「一億総白痴化」と表現したのは大宅壮一先生だったか、と考えてしまいました。その当時としては、実に、的確な表現だったのかもしれませんが、今や、「一億総白痴化」はテレビというよりも、むしろ、スマホの方がもっと近いかもしれない、と考えたりします。
大晦日から元旦にかけて、卒業を控えた学生や院生の論文を見てチェックしていて、めちゃめちゃにストレスを貯めて疲れ果ててしまいました。

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2024年1月 1日 (月)

あけましておめでとうございます

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あけましておめでとうございます

本年もよろしくお願い申し上げます。
今年1年がみなさまによい年であることを願っております。

辰年にちなんだドラゴンタイプのポケモンは、昔懐かしのカイリュー、ラティオス/ラティアスのほか、いっぱいいるんでしょうが、取りあえず、姿形もそれらしいのでレックウザにしておきました。

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