経済成長と二酸化炭素排出はデカップリングするか?
やや旧聞に属する話題ながら、1月31日、国際エネルギー機関(IEA)の解説サイトで The relationship between growth in GDP and CO2 has loosened; it needs to be cut completely と題して、経済成長と二酸化炭素排出の関係がデカップリングしつつある、との記事を見かけました。直訳すれば「経済成長と二酸化炭素排出の関係が乖離しつつある; しかし、乖離するだけではなく完全に関係を切り離さなければならない」とでもなるのでしょうか。
人新世 Anthropocene に入って以来、少し前まで、経済成長とエネルギー消費、そして、二酸化炭素排出は手に手を取って、というか、正の相関を持って増加し続けてきました。しかし、1990年代以降、先進国では経済成長と二酸化炭素排出の関係がデカップリングされてきています。例えば、成長と不平等の経験的な関係を捉えた逆U字型のクズネッツ曲線になぞらえて、成長とともにエネルギー消費や二酸化炭素排出が逆U字型の曲線で、すなわち、初期の早い段階では成長と二酸化炭素排出が正の相関をもって増加するものの、後期には成長が続いても二酸化炭素排出とは負の相関に変化する、という経験則です。これは環境クズネッツ曲線と呼ばれていて、実証的に明らかにされています。実は、私も10年以上も前の長崎大学で紀要論文 "Estimation of Environmental Kuznets Curve for Various Indicators: Evidence from Cross-Section Data Analysis" として取りまとめて実証しています。
上のいくつかのグラフはIEAのサイトから GDP and CO2 emissions by region を引用しています。上の段の4つのグラフは左から米国、欧州、日本と韓国、オーストラリアとニュージーランド、となっています。下の段は左から中国、インド、アフリカ、ラテンアメリカです。上の段の先進諸国は、日本も含めて、見ての通りで、青いGDPとオレンジの二酸化炭素排出が見事にデカップリンフしていて、GDPが増加を続けている一方で、2022年の時点で、米欧はすでに1990年の水準を下回っており、日韓とオセアニア2国も2030年くらいまでには1990年の水準まで低下することが予想されています。下の段の新興国とアフリカ、ラテンアメリカについても二酸化炭素排出が1990年の水準まで低下することは、現時点では灘見込まれていませんが、GDPの増加から少し距離をおいてしか二酸化炭素排出が増加していないことが見て取れます。
他方、上の2つのグラフも、同じく、IEAのサイトから GDP and CO2 emissions by region を引用していて、左が東南アジア、右が中東なのですが、見ての通り、二酸化炭素排出量がGDPと同等に増加しています。まだ、デカップリングされていないわけです。
IEAでは、最近のGDPに見る経済成長と二酸化炭素排出の関係の乖離は以下の4要因によるものと指摘しています。
- Rapid growth in clean energy investment
- A growing trend of electrification
- Improvements in technical energy eff iciency
- Transitions away from coal
加えて、エネルギー集約度がは格段に高い製造業ではなく、サービス産業が成長に寄与している "the services sector has had a larger contribution to economic growth than industry, which is a far more energy intensive" 点も上げています。しかしながら、解説のタイトルに戻るわけで、経済成長と二酸化炭素排出の関係は完全に切断される必要がある、という点が主張されています。
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