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2024年3月12日 (火)

+0.6%の上昇を記録した2月の企業物価指数(PPI)と自動車品質不正で落ち込んだ法人企業景気予測調査をどう見るか?

本日、日銀から2月の企業物価 (PPI) が、また、財務省から1~3月期の法人企業景気予測調査が、それぞれ公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+0.6%となっています。法人企業景気予測調査のヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は足元の今年2024年1~3月期は▲0.0と、小幅にマイナスとなったものの、先行き4~6月期には+2.9、7~9月期には+5.9と、順調に回復すると見込まれています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

2月の企業物価、0.6%上昇 14カ月ぶりに前月伸び率超え
日銀が12日発表した2月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は120.3と、前年同月比で0.6%上昇した。1月(0.2%上昇)から伸び率が0.4ポイント上昇し、14カ月ぶりに前月を上回った。政府の電気・ガスの補助制度が一巡したことで前年同月比の上昇率が押し上げられた。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。企業物価は前年同月比で36カ月連続の上昇で、2月の上昇率は民間予測の中央値(0.5%上昇)より0.1ポイント高かった。公表している515品目のうち400品目が値上がりした。
内訳をみると、飲食料品は前年同月比で4.0%上昇した。即席めんなどで原材料やエネルギーのコストを価格に反映する動きがみられた。石油・石炭製品も7.0%上昇した。ただピーク時に比べると原材料価格の上昇を転嫁する動きがごく一部にとどまったという。
電力・都市ガス・水道は前年同月比21.9%下落したが、1月(27.7%下落)より下げ幅が縮小した。政府が23年2月から実施している電力・ガスの補助制度が一巡して前年同月比を低く抑える効果がなくなった。日銀の試算では、補助制度の反動で企業物価全体の上昇率を1月に比べて約0.6ポイント押し上げたとみられる。
輸入物価は円ベースで前年同月比0.2%上昇した。1月の増減率(マイナス0.1%)を上回り、11カ月ぶりにプラスに転じた。契約通貨ベースではマイナス8.4%だったが、24年2月の円の対ドル相場が1ドル=149円台と、23年2月(1ドル=132円台)より円安にふれたことが影響した。
1-3月の大企業景況感、4期ぶりマイナス 車不正下押し
内閣府と財務省が12日発表した1~3月期の法人企業景気予測調査によると、大企業全産業の景況判断指数(BSI)はマイナス0.02だった。2023年1~3月期以来4四半期ぶりのマイナスとなる。自動車の品質不正問題が響き、関連する業種で景況感が冷え込んだ。4月以降はプラスに転じる見通しだ。
BSIは自社の景況が前の四半期より「上昇」と答えた企業の割合から「下降」の割合を引いた数値。今回の調査は2月15日が回答の基準日となる。23年10~12月期はプラス4.8だった。
大企業のうち製造業がマイナス6.7と23年4~6月期以来3四半期ぶりのマイナスだった。一部メーカーの品質不正による自動車の生産や出荷の停止により、自動車・同付属品製造業がマイナス23.8と23年10~12月期のプラス25.4から大きく下がった。
中国などの海外需要の減少の影響が出た化学工業もマイナス5.5だった。
新型コロナウイルス禍からの経済活動の正常化に伴う人流の増加やインバウンド(訪日外国人客)の回復で、非製造業は6四半期連続でプラスだった。サービス業はプラス6.2だった。
先行きは大企業全産業で4~6月期がプラス2.9、7~9月期はプラス5.9と再びプラスに転じる見通しだ。1~3月期に押し下げた製造業も4~6月期はプラス1.4と回復を見込む。
大企業や中小企業を含めた全産業の23年度の設備投資は前年度比9.3%の増加見込みだった。23年10~12月期の調査時点では11.1%増える見通しだった。
製造業では自動車・同付属品製造業で新製品を製造するための投資や電気自動車(EV)関連投資が増える。電気機械器具製造業でも工場の新設を見込む。非製造業では鉄道事業者の安全関連投資や不動産業での新規物件の取得などが押し上げる。
従業員が「不足気味」と答えた企業の割合から「過剰気味」の割合を引いた従業員数判断指数は大企業の全産業でプラス28.3だった。統計をさかのぼることができる2004年4~6月期以来で最も高かった。3四半期連続で過去最高を更新した。

注目の指標のひとつですから、ついつい長くなりますが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の上昇率は前年同月から+0.5%の上昇と見込まれていましたので、実績の+0.6%はやや上振れした印象かもしれませんが、大きなサプライズはありませんでした。特に、円ベースの輸入物価は昨年2023年4月統計から前年同月比でマイナスに転じ、1時は2桁マイナスでしたが、引用した記事にもあるように、本日公表の2月統計では+0.2%の上昇と、再びプラスに転じています。でも、商品市況の動きというよりは為替の円安進行による価格上昇という面が強いとされています。本日公表の企業物価指数(PPI)にはサービスが含まれませんが、他方で、企業向けサービス価格指数(SPPI)は昨年2023年8月から直近の今年2024年1月統計まで5か月連続で前年同月比+2%台を記録しています。資源高などに起因する輸入物価の上昇から国内物価への波及が、同時に、モノからサービスの価格上昇がインフレの主役となる局面に入る可能性がある、と私は考えています。したがって、日米金利差にもとづく円安の是正については、最近では1ドル150円弱の水準で安定していることも事実であり、経済政策として取り組む必要性や緊急性はそれほど大きくなくなった、と考えるべきです。逆に、円高を材料として株価が急落したりしているのも見逃せません。物価に戻れば、消費者物価への反映も進んでいますし、企業間ではある意味で順調に価格転嫁が進んでいるという見方も成り立ちます。まあ、この程度の日銀目標のラインに沿った物価上昇ながら、そもそも物価上昇にまだ慣れていない向きには「迷惑」だという見方も否定はしません。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇・下落率で少し詳しく見ると、引用した記事にもある通り、電力・都市ガス・水道が▲21.9%と大きな下落ながら、下落幅は縮小しています。農林水産物もとうとう先月1月統計から下落に転じ、本日公表の2月統計では▲0.8%を記録しています。他方、相輪水産物を主たる原料にしているとはいえ、飲食料品は+4.0%の高い上昇率が続いています。ほかに、窯業・土石製品+10.5%、石油・石炭製品+7.0%、パルプ・紙・同製品+5.3%、繊維製品+4.9%、生産用機器+4.6%、業務用機器+4.2%、などが高い上昇率を示しています。ただ、ここで上げたカテゴリーをはじめとして多くの品目でジワジワと上昇率が低下してきています。もちろん、上昇率が鈍化しても、あるいは、マイナスに転じたとしても、価格水準としては高止まりしているわけですし、しばらくは国内での価格転嫁が進むでしょうから、決して物価による国民生活へのダメージを軽視することはできません。特に、繰り返しになりますが、農林水産物の価格上昇はストップしたものの、農産物を原料とする飲食料品についてはまだ高い上昇率を続けています。生活に不可欠な品目ですので、政策的な対応は必要かと思いますが、エネルギーのように石油元売会社や電力会社のような大企業に対して選別的に補助金を交付するよりは、消費税率の引下げとかで市場メカニズムを活かしつつ、国民向けに普遍的な政策を取る方が望ましい、と私は考えています。

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続いて、法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは以下の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、企業物価(PPI)と同じで、景気後退期を示しています。ということで、自動車の品質不正問題が響いて、BSIは足元の2024年1~3月期に瞬間風速で小さなマイナスを付けたものの、次期の4~6月期には+2.9、その次の7~9月期には+5.9と、順調に回復する見通しが示されています。また、引用した記事にもあるように、雇用人員は引き続き大きな「不足気味」超を示しており、設備投資計画は今年度2023年度に全産業で+9.3%増が見込まれています。前回調査の+11.1%増からやや下振れしたとはいえ、法人企業統計に現れているように、ようやく計画が現実化する兆しが見え始めていますので、今年度から来年度2024年度にかけての設備投資には期待していいのではないかと思います。

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