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2024年7月31日 (水)

自動車工業の減産により低下した鉱工業生産指数(IIP)と拡大続く商業販売統計と足踏み続く消費者態度指数

本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも6月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲3.6%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+3.7%増の13兆6780億円を示し、季節調整済み指数は前月から+0.6%の上昇を記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産6月は前月比3.6%低下、車減産で2カ月ぶりマイナス
経済産業省が31日発表した6月鉱工業生産指数速報は前月比3.6%低下と、2カ月ぶりのマイナスとなった。ロイターの事前予測調査では同4.8%低下が予想されていた。
一部メーカーの型式不正の影響で自動車の減産が響いたほか、半導体製造装置なども下押しした。基調判断は「一進一退ながら弱含んでいる」で据え置いた。
企業の生産計画に基づく予測指数は7月が前月比6.5%上昇、8月が同0.7%の上昇だった。
6月の鉱工業生産指数を下押ししたのは、自動車、生産用機械、汎用・業務用機械など。
特に自動車が前月比8.9%減となり、指数を1.26ポイント押し下げた。個別品目では半導体製造装置が18.0%減、ショベル系掘削機械7.8%減、一般用蒸気タービン99.0%減、コンベヤ35.5%減となり指数を押し下げた。
7月の予測指数は6月時点の3.6%上昇から引き上げられた。予測の上方修正は40カ月ぶり。
4-6月期の鉱工業生産指数は前期比2.9%上昇し2期ぶりのプラスとなった。
小売業販売額6月は+3.7%、食品値上げ・家電好調で28カ月連続増
経済産業省が31日に発表した6月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比3.7%増となり、28カ月連続(訂正)で前年を上回った。飲食料品の値上げや家電販売などが販売額を押し上げた。
ロイターの事前予測調査では3.2%の増加が予想されていた。
業種別では、飲食料品が前年比2.4%増、家電などの機械器具小売が10.1%増、各種商品小売が7.7%増、燃料小売が4.7%などとなった。食品や石油の値上げの影響や、スマートフォン・エアコン販売の好調で販売が伸びた。自動車小売は、一部メーカーの生産停止の影響では1.6%減だった。
業態別では、家電大型専門店が10.3%増、ドラッグストア7.5%増、百貨店13.5%増、スーパー4.4%増、コンビニエンスストアが1.6%増。ドラッグストアで飲料・コメ、コンビニでアイスクリーム・菓子の販売が伸びた。

やや長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は▲4.8%の減産が予想されていましたので、実績の前月比▲3.6%の減産は、やや上振れした印象です。しかしながら、引用した記事にもある通り、減産の大きな要因は自動車工業の認証不正の影響ですので、何とも先行きは不透明です。ただ、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、1月に下方修正した「一進一退ながら弱含み」を本日公表の6月統計でも据え置いています。また、先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の6月は補正なしで+6.5%の増産、上方バイアスを除去した補正後でも+4.0%の大きな増産となっています。前回調査の補正なしベースでの+3.6%増よりも上方修正されていますし、さらに、7月も+0.6%の増産との予想となっています。加えて、6月単月の統計では減産となっているものの、4~6月期の生産は前期比+2.9%増ですから、GDPもプラス成長の可能性が十分あります。4~6月期GDP統計速報1次QEは8月15日に公表予定ですので、またシンクタンクによる予想を取りまとめたいと思います。ということで、GDPから鉱工業生産に戻って、経済産業省の解説サイトによれば、5月統計での生産は、引用した記事にもある通り、自動車工業では▲8.9%の減産で、▲1.26%の寄与度を示しています。加えて、生産用機械工業が▲8.7%の減産、寄与度▲0.74%、汎用・業務用機械工業でも▲8.3%の減産、寄与度▲0.61%、などとなっています。そして、何と、経済産業省の解説サイトでは、生産・出荷とも上昇方向に寄与した産業が出現しません。

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商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売は堅調な動きを続けています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断している小売業販売額の基調判断は、本日公表の6月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+1.0%の上昇となりましたので、基調判断が上方修正されています。すなわち、4月統計の「一進一退」から5月統計では「緩やかな上昇傾向」に、また、本日公表の6月統計では「上昇傾向」と2か月連続の上方改定となっています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、6月統計ではヘッドライン上昇率が+2.8%、生鮮食品を除くコア上昇率も+2.6%となっていますので、小売業販売額の6月統計の+3.7%の増加は、インフレ率をやや超えている可能性が十分あります。したがって、実質的な消費も伸びていると考えるべきです。ただし、考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。引用した記事にある通り、国民生活に身近で頻度高い購入が想像されるスーパーやコンビニよりも、百貨店販売の伸びの方が大きくなっている点にインバウンド消費が現れている可能性がうかがえます。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。

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本日、内閣府から7月の消費者態度指数が公表されています。グラフは上の通りです。消費者態度指数を構成する4項目の消費者意識指標のうち、「収入の増え方」が低下した一方で、ほかの「暮らし向き」と「雇用環境」と「耐久消費財の買い時判断」が上昇し、消費者態度指数としては前月から+0.3ポイント上昇し、36.7を記録しています。統計作成官庁である内閣府は基調判断を「改善に足踏みがみられる」で据え置いています。また、消費者の物価予想について「上昇する」と見込む割合は先月の93.8%からやや下がって、93.2%となっています。引き続き、9割を超えて高い比率です。

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2024年7月30日 (火)

失業率が低下した一方で有効求人倍率が上昇した6月の雇用統計をどう見るか?

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも6月の統計です。失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.5%を記録した一方で、有効求人倍率は前月を▲0.01ポイント下回って1.23倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

6月の有効求人倍率、1.23倍に低下 失業率は2.5%
厚生労働省が30日発表した6月の有効求人倍率(季節調整値)は1.23倍で前月から0.01ポイント低下した。物価上昇が続き、より収入が高い企業に転職する人が増えている一方、コスト増から企業が求人を手控える動きもある。総務省が同日発表した6月の完全失業率は2.5%で前月比で0.1ポイント下がった。
有効求人倍率は3カ月連続の低下で、2022年3月以来、27カ月ぶりの低水準となった。完全失業率は5カ月ぶりに改善した。
有効求人倍率は全国のハローワークで職を探す人に対し、1人あたり何件の求人があるかを示す。6月の有効求人数は前月比で0.1%減の233万6101人、有効求職者数は0.6%増の202万1057人だった。新規求職の申込件数は4.8%減った。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月から9.4%減少した。今年の6月は昨年より平日が2日少なかったことが、求人数の減少につながったと厚労省は説明する。
業種別にみると、製造業が14.6%減、生活関連サービス業・娯楽業が13.7%減のほか、建設業が12.8%減と落ち込みが大きかった。円安や物価高に伴うコスト上昇により、一部の企業は人手不足でも求人を控えざるを得ない状況にある。
6月の就業者数は6822万人で前年同月から0.5%増加し、過去最多となった。男性は3730万人で0.3%増、女性は3093万人で0.9%増だった。
雇用者のうち、正規の職員・従業員数は3669万人で前年同月から0.9%増え、8カ月連続で増加した。非正規は2121万人で0.6%減と2カ月連続の減少となった。
完全失業者数は181万人で前年同月から1.1%増えた。

いつも通り、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、雇用統計のグラフは下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.6%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、同様に、前月から横ばいの1.24倍と見込まれていました。実績については、失業率が予想よりも低い2.5%、有効求人倍率は逆に予想より高い1.23倍でした。しかし、いずれにせよ、人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率も有効求人倍率もともに水準が高くて雇用は底堅い印象ながら、そろそろ改善が鈍っている可能性がある、と私は評価しています。例えば、季節調整していない原数値の前年同月比で見て、勤め先や事業の都合による非自発的な離職者は3月まで減少していましたが、4-5月は保合いとなり、6月には増加に転じています。他方で、自発的な離職(自己都合)や新たに求職が増加しています。やや、雇用はまだら模様になってきた気がします。同時に、まだ1倍を軽く上回っているとはいえ有効求人倍率が低下しているのは上のグラフの通りですし、これもグラフに見られる通り、新規求人数も減少している現状で、自発的とはいえ離職して新たな求職行動を取ることがどこまで合理的かは疑問が残ります。失業率は景気の遅行指標ですし、6月統計で低下したという点をどこまで評価するかはなんともいえません。一致指標の有効求人倍率や先行指標の新規求人数などを見る限り、あるいは、そろそろ景気回復局面は最末期に近づいているのかもしれません。先進各国が景気後退に陥らないソフトランディングのパスに乗っているにもかかわらず、我が国の雇用の改善が緩やかな印象を持つのは、おそらく、私だけではないと思います。ただ、あくまで雇用統計はまだら模様であり、人口減少下での人手不足は続くでしょうし、米国がソフトランディングの可能性を強めている限り、それほど急速な景気悪化が迫っているようにも見えません。

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2024年7月29日 (月)

リクルートによる6月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

明日7月30日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる3月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの募集時平均時給の方は、前年同月比で見て、4月+3.8%増から5月+3.1%増とやや上昇幅が縮小し、6月には+2.0%増となりました。先週公表された消費者物価指数(CPI)上昇率が3月統計でヘッドライン+2.8%、生鮮食品を除くコア+2.7%でしたから、今年に入ってから、ようやく5月までは物価上昇率に追いついて、実質賃金がプラスに転じたものの、6月には再び上昇が減速したのではないか、と想像しています。募集時平均時給の水準そのものは、2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、現在、報じられている最低賃金と比較しても、かなり堅調な動きを示しています。他方、派遣スタッフ募集時平均時給の方は、4月+1.7%増、5月+1.5%増、6月+1.3%増と、底堅い動きながら、CPI上昇率には追いついていません。
三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、6月には前年同月より+2.0%、前年同月よりも+23円増加の1,181円を記録しています。職種別では、「フード系」(+34円、+3.1%)、「販売・サービス系」(+31円、+2.8%)、「事務系」(+31円、+2.5%)、「製造・物流・清掃系」(+25円、+2.1%)まで平均よりも高い伸びを示していますが、「専門職系」(+22円、+1.6%)はプラスを記録したものの、「営業系」(▲24円、▲1.9%)は前年同月比マイナスとなっています。また、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏で前年同月比プラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、6月には前年同月より+1.3%、+21円増加の1,652円になりました。職種別では、「オフィスワーク系」(+43円、+2.7%)と「製造・物流・清掃系」(+37円、+2.7%)のほか、「営業・販売・サービス系」(+36円、+2.4%)、「クリエイティブ系」(+15円、+0.8%)の4業種は前年比でプラスの伸びを示しましたが、「医療介護・教育系」(▲10円、▲0.7%)と「IT・技術系」(▲30円、▲1.3%)では減少を示しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。

アルバイト・パートや派遣スタッフなどの非正規雇用は、従来から、低賃金労働であるとともに、「雇用の調整弁」のような不安定な役回りを演じてきました。直近で利用可能な6月で見ると、やっぱり、消費者物価上昇率には届いていません。最低賃金の議論が進む中で、今後の動向に注目です。

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2024年7月28日 (日)

イタリアの上原ひろみ

上原ひろみのローマでの演奏です。ピアノソロです。
Pisa jazz festival 2024 でのパフォーマンスも聞いたのですが、どちらも、私にはしっくり来ません。まあ、コチラの方がまだいいかと...

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2024年7月27日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、森川正之[編]『コロナ危機後の日本経済と政策課題』(東京大学出版会)は、コロナ禍を経た日本経済の課題を考えていますが、ややタイミングを失したかという気がします。小野寺拓也・田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波ブックレット)は、ナチスを評価しかねない最近の動向を強く批判し、ナチスの政策を広い観点から評価すると、決して「良いこと」をしたエビデンスは見い出せないと結論しています。村木嵐『まいまいつぶろ』(幻冬舎)は、江戸幕府の9大将軍徳川家重の言葉を唯一理解した大岡忠光との関係をやや過剰に美談として描き出しています。八重野統摩『同じ星の下に』(幻冬舎)は、家庭で虐待されている女子中学生が誘拐された事件について取り上げています。甚野博則『実録ルポ 介護の裏』(文春新書)は、破綻寸前の我が国介護制度を裏側から見ています。秋谷りんこ『ナースの卯月に視えるもの』(文春文庫)は前回が望めない病棟の看護師が「視える」物や人から物語が始まります。
ということで、今年の新刊書読書は1~6月に160冊を読んでレビューし、7月に入って先週までに計20冊、今週の6冊を合わせて、今年になってから合計186冊となります。目標にしているわけでも何でもありませんが、年間300冊に達する勢いかもしれません。なお、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。また、今週は、若竹七海の『プレゼント』(中公文庫)と『依頼人は死んだ』(文春文庫)も読みました。新刊書ではないので、本日のブログでは取り上げませんが、別の媒体で、Facebookやmixiにポストしたいと予定しています。

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まず、森川正之[編]『コロナ危機後の日本経済と政策課題』(東京大学出版会)を読みました。編者は、経済産業省の官庁エコノミストご出身で、一橋大学の研究者であり、経済産業研究所の所長も務めています。本書は、出版社から考えても学術書なのですが、経済産業研究所(RIETI)における研究成果を取りまとめており、そのため、というか、何というか、新たな実証分析結果を提示していたり、あるいは、難解な理論モデルを数式で展開していたり、といった部分はなく、それだけに難易度は高くなさそうな気もします。ただ、既存研究のサーベイに近い研究成果ですし、テーマはタイトル通りに、ややコロナに偏った印象ですので、現在のインフレ=物価上昇、円安、金融引締めなどといったテーマはほとんど取り上げられていません。加えて、マイクロかつサプライサイドの面からの日本経済の課題の分析が中心で、マクロ経済や需要サイドやといった部分にはそれほどの注意が払われていないような気がします。第1章ではPCR検査の不足についても考えていますが、これなんかは現時点から将来に渡って参考になる部分は少なそうな気がします。第2章では、コロナを経た後のサプライチェーンの変容についての分析を試みていますが、ウクライナ戦争や大いにあり得る近い将来のトランプ米国大統領が通商政策に及ぼすショックなどのほうが気にかかるエコノミストの方が多そうに私は受け止めています。ただ、コロナ禍を経てオンライン就業が大いに普及し、働き方が変化した点は特筆すべきでしょうし、最後の第9章で議論されているようなEBPM研究についても、コロナとは関係薄いながら、今後の日本経済の大きな課題であろうという認識は多くのエコノミストが共有しているものと考えるべきです。私自身は、コロナ・ショックはサプライ・ショックであり、したがって、サプライサイドからのマイクロな分析が重要であると考えています。その意味で、本書はとても有益な分析を集積していると考えますが、いかんせん、コロナ禍の中ではあってもウクライナ戦争、そして、それに伴うエネルギーや食料の値上がりに起因するインフレの方の経済的インパクトが強かったのも事実です。コロナは産業別にインパクトの大きさが一様ではなく、例えば、宿泊業や飲食業などで大きなダメージを受けました。それだけに、単純なマクロ経済政策では対処することが難しかった面もあります。例えば、国民1人あたり一律の特定給付金というのも、緊急性が必要とされた場面では有効でしたが、マクロ政策での対応は雇用に限られていた印象すらあります。それに、コロナのずっと前から日本経済の大きな課題であったサステイナビリティやグリーン経済化、あるいは、デジタル経済への対応などがコロナ禍により浮き彫りにされたという側面もあります。その意味で、本書の分析も限定的ではありますが、将来過大に無得て役立つものもあるのではないか、と私は考えます。

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次に、小野寺拓也・田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波ブックレット)を読みました。著者は、東京外国語大学と甲南大学の研究者であり、ともにご専門は現代ドイツ史です。昨年7月の出版で、ほぼほぼ1年を経過していますが、話題になった本です。私はナチスはほとんど「良いこと」はしていないと考えていますが、このタイトルからして、いわゆる「悪魔の証明」を要求されているような気がして、少し読書を躊躇していた面があります。すなわち、おばけなんてものはいない、宇宙人はいない、といった否定の「xxはない」というのは証明が極めて難しいわけです。ですので、ナチスがやったことをすべて網羅的に検討して「良いこと」が何ひとつなかった、と証明することは、ハッキリいってムリです。ですから、エコノミストは100%ではなく5%の棄却水準で勝負しているわけです。本書では、ナチスのすべての活動結果を精査するのではなく、ネトウヨなどの間で話題になった「ナチスの功績」を取り上げて、ていねいに分析した上で反論を加えています。特に、私はエコノミストですので、第4章の世界恐慌からの景気回復、第5章の雇用保護、第6章の家族支援などに注目していましたが、アウトバーン建設などの公共事業が米国のTVAに比較される場合もありますが、決して評価できる内容ではない、というのは私も同感です。ただ、これらの章における評価基準として、(1) 歴史的経緯として、ナチスのオリジナルかどうか、(2) 歴史的文脈としての目的、(3) 歴史的結果としての政策効果、の3点を強調していますが、エコノミストからすれば第3の点がもっとも重要であると私は考えています。本書では、ナチスのオリジナルではなく、イタリア・ファシストに由来するという批判が加えられている政策がいくつかありましたが、私自身はオリジナルを尊ぶ考えはなく、「良い政策」であれば取り入れることは評価すべきと考えます。日本人の経済活動が、戦後、モノマネならまだしも、「サルマネ」と評価されたことがありましたが、別にオリジナルではないマネであっても私は評価を落とすべきとは思いません。政策目的としては、何といっても、ナチスの場合は戦争目的であった政策が少なくなく、その点は評価を下げるのは私も同感です。ただし、プロパガンダのため、というのは現在の民主主義的な政党やグループでも投票により決定する部分があるわけですので、ある意味で、これを否定されては民主主義が成り立たないケースすら考えられます。戦争目的の否定にとどめておいて欲しかった気がします。いずれにせよ、私自身がナチスの政策のうちのいくつかを否定する理由は普遍的ではないからです。本書でも強調しているように、家族主義であるのはいいとしても、ユダヤ人はもちろん、非アーリア人が排除されている、あるいは、アーリア人でもナチスが好ましくないと考えたグループ、例えば共産主義者などが排除されているという側面は、決して忘れるべきではありません。政策は企業ではなく国民に向けて、ユニバーサル=普遍的である方がいい、というのが私の政策一般論です。

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次に、村木嵐『まいまいつぶろ』(幻冬舎)を読みました。ようやく図書館の予約の順番が回ってきたのですが、すでに続編=完結編の『まいまいつぶろ 御庭番耳目抄』も出版されている始末だったりします。著者は、もちろん、小説家なのですが、司馬遼太郎の最晩年の内弟子のような役回りをしていたと聞いたことがあります。ただ、私は不勉強にして、この作者の作品は初めてでした。ということで、この作品はそれなりに話題になった時代小説だと思います。紀州藩主から江戸幕府の8代目将軍となり、享保の改革を推し進め、幕府の中興の祖とも称される徳川吉宗の嫡男であり、吉宗の後を継いだ9代将軍である徳川家重と家重に使えた側近の大岡忠光の物語です。徳川家重は、吉宗の嫡男でありながら廃嫡を噂された人物です。というのも、口が回らず誰にも言葉を理解されず、しかも、半身不随で筆談も出来ないことから、周囲との意思疎通が困難であったからです。さらに、小便を我慢できずに漏らしてしまい、歩いた後には尿を引きずった跡が残ることから、「まいまいつぶろ」=カタツムリと呼ばれて暗愚と馬鹿にされ蔑まれます。しかし、そこに、唯一徳川家重の言葉を理解できる大岡忠光(幼名は兵庫)が見出され、側近として仕えることになります。ただ、幕府ではそのころ、側用人制度を廃止し、将軍が直接老中などとコミュニケーションを取りつつ政を行うようになっていたことから、大岡忠光が正しく徳川家重の言葉を伝えているのか、という疑念がついて回ります。大岡忠光は町奉行として名高い大岡忠相の親戚筋に当たり、大岡忠相からは徳川家重の口に徹して、目や耳になってはならないと厳命されます。すなわち、将軍の発する言葉を正確に通訳して老中などに伝えるだけであって、徳川家重は老中などの言葉を十分に理解でき、また、書類も読めるわけですから、決して、大岡忠光から将軍に対して情報を上げてはいけない、というわけです。その上、賂とみなされるため誰からも懐紙1枚も受け取ってはならない、とまで命じられます。ただ、耳目の代わりとして御庭番の青名半四郎こと万里が、父の徳川吉宗から、家重を助けるように差し向けられます。タイトルから考えて、この万里が次作の完結編で重要な役回りを担うことになるのだろうと想像しています。ということで、将軍就任からの徳川家重の公私に渡る活動、公の部分では、宝暦治水工事や田沼意次の抜擢など、また、私の部分では朝廷から輿入れした此宮との夫婦生活、また、此宮が出産により亡くなってからの生活も含めて、大岡忠光と陰ながら万里が徳川家重をサポートするわけです。とても評価の高い時代小説ながら、徳川家重と大岡忠光の関係をここまで美談にするのは、かえって盛っている部分が大きいのではないか、と私は疑わしく読みました。フィクションである小説とはいえ、あまりにも美談過ぎて疑わしさや怪しさまで出てしまっているように感じます。もう少し、真実に近い部分を盛り込んだ方がよかったのではないかとすら思えます。そのあたりは続編=完結編を楽しみにしたい、と考えています。続編=完結編では解決できないのが、徳川家重と此宮の侍女であり、結果として、10代将軍徳川家治の母となる幸との関係が余りに淡白に語られている点です。作者として重点を置くところではない、と判断されたのでしょうが、少し気にかかります。

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次に、八重野統摩『同じ星の下に』(幻冬舎)を読みました。著者は、北海道ご出身の小説家なのですが、私の勤務校の卒業生と聞き及んでいます。ただし、経済学部ではなく、経営学部だそうです。ということで、この作品の舞台は12月の北海道の札幌近郊であり、主人公は両親から虐待されている女子中学生の有乃沙耶です。作品中の記述は少し前後しますが、有乃沙耶は両親から夜釣りに誘われて、生命の危機を感じて児童相談所に電話し、近くカウンセリングを受けることを勧められますが、結局、カウンセリングには行きませんでした。そして、中学校からの帰り道で、その電話対応をしたという渡辺に声をかけられて、そのまま誘拐され監禁されてしまいます。監禁当初こそ猿轡や手足の拘束もあったのですが、すぐに片足を鎖でつながれるだけになり、しかも、両親の下の家庭生活よりも待遇が大きく改善されます。すなわち、広々とした部屋には暖房が快適に効いており、食事もレストラン顔負けのメニューが出てきたりするわけです。下着を含めて清潔な着替えが用意されており、家ではお湯のシャワーも使わせてもらえないにもかかわらず、入浴させてもらえたりもします。他方で、渡辺と名乗る誘拐犯は2000万円の身代金を、こともあろうに、手紙で警察に送りつけます。北海道警捜査1課特殊班捜査係の進藤係長と女性刑事の相良が有乃の家に駆けつけて、操作を開始します。しかし、有乃沙耶の両親は3日前の金曜日から沙耶が帰宅していないといいつつ、それほど心配もしておらず、逆に、最近入った生命保険が手に入るかもしれないと期待を示したりする始末です。その上、母親は最近DNA検査をして、夫が沙耶のDNA、上の父親ではないとの結果を知っていたりします。有乃沙耶の方は、すっかり渡辺の家での生活に慣れて、いわゆるストックホルム症候群ではなく、純粋に監禁生活を快適に過ごしていたりします。ただ、発熱して体調を崩したりはします。そして、本の帯にあるように、「この誘拐犯が、わたしの本当のお父さんだったらいいのに」と思い始めたりしますし、そう信じようとしたりもします。ミステリ小説ですので、あらすじはこのあたりまでとします。誘拐犯がどういった人物で、どういった目的で誘拐したのかについて、といった大筋の謎はそれほど難しくなく、意外性もありません。ただ、最後の最後に1点だけ、主人公の有乃沙耶と両親の間で生命の危機に関して、とてもびっくりすることがあります。それは、読んでみてのお楽しみ、ということになります。

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次に、甚野博則『実録ルポ 介護の裏』(文春新書)を読みました。著者は、週刊文春の記者の経験もあるジャーナリストです。本書では、著者自らの経験も基にしつつ、介護については崩壊の危機にあると指摘しています。私自身の個人的事情を考えれば、私もカミさんもすでに親は亡くなっていて、次に死ぬのは日本人の平均寿命通りだとすると私になります。しかし、7月26日付けの朝日新聞の記事「介護事業者の倒産81件、上半期で過去最多 訪問介護が約半数占める」では、東京商工リサーチのリポート「2024年上半期(1-6月)『老人福祉・介護事業』の倒産調査」に基づいて、介護事業者の現状を報じていますが、今年上半期の倒産が過去最高に達した点から考えても、介護事業の先行きを危ぶむ見方が出そうです。本書でも視点は同じなのですが、高齢化がどんどん進む中で介護の先行きをどう考えるのかは重要です。その上、介護保険のシステムはとっても複雑です。親の介護があるとすれば、取りあえずは、地域包括支援センターに駆け込めばいい、というのはみんな知っているところだとおもいます。ただ、医療が自由診療であるのに対して、私も授業で教えていますが、介護保険は勝手なマネは許さず、ケアマネさんが介護について等級や必要なサービスを決めるわけです。そういった介護の表側、まさに、私が授業で極めて大雑把に教えているような介護の表はいいのでしょうが、問題は本書のタイトルにあるような介護の裏です。本書でも、介護施設やケアマネさんが介護対象者を囲い込んで、介護サービスの供給についてはすべて関連企業で調達するように仕向けたりするのは、ある意味で経済合理的とすらいえます。問題は、介護保険という制度により介護サービスのレンジが決められているがために、必要に応じてではなく、介護保険で許容される上限まで提供しようとする介護業者の姿勢です。要不要にかかわりなく、介護保険で決められている上限のサービス提供にしてしまうと、財政上の負担も去ることながら、そうでなくても人手不足の業界でさらに労働力が不足してしまう可能性すらあります。そういった介護保険の複雑かつ不合理な仕組みや私利私欲だらけの介護業界の実態などとともに、さらに裏の現実の介護の実態、老人への虐待、などなど、裏の情報が満載です。行政は見て見ぬふりをするんでしょうから、第4の権力としてのジャーナリズムの出番ではないでしょうか。

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次に、秋谷りんこ『ナースの卯月に視えるもの』(文春文庫)を読みました。著者は、作家ですが、本書あとがきでは実際に13年ほど看護師の経験があると記述しています。ただ、私はよく知りません、初読の作家さんでした。本書がデビュー作ではないかと思います。本書は6話の短編から編まれており、主人公は横浜郊外にある青葉総合病院に勤務する看護師の卯月咲笑です。完治の望めない人々が集う長期療養型病棟に勤めています。タイトル通りに、この主人公に「視えるもの」があるわけで、それは作品の中では「患者の思い残し」と呼ばれています。コトもヒトもどちらもありのような気がします。6話の短編のうち、最初の2話「深い眠りについたとしても」と「だれでもきっと1人じゃない」は患者の思い残しを主人公が視ることにより、極めて重大な事件が解決されます。その意味で、ミステリといえます。他の短編作品もそうなのですが、タイトルから想像されるようにホラーがかったストーリーはありませんし、すべての短編がミステリしたてというわけでもなく、主人公の年齢や性別といった属性から考えられるようなチャラチャラしたお話でもありません。看護師という職業倫理や病因という生死に深く関係する職場をしっかりと描写することによってストーリーが進められます。その意味で、とても骨太で深刻さいっぱいの考えさせられる連作短編集です。私のように表紙を見ただけで時間潰しのために手に取ると、失敗だったと思うかもしれません。

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2024年7月26日 (金)

帝国データバンクによる「カスタマーハラスメントに関する企業の意識調査」の結果やいかに?

今週火曜日7月23日に帝国データバンクから「カスタマーハラスメントに関する企業の意識調査」の結果が明らかにされています。直近1年で企業の15.7%が被害があったと回答しています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の要旨を2点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 直近1年でカスハラ被害が「ある」企業は15.7%、「ない」(65.4%)は「ある」の4倍以上。業界別では、主に個人を顧客とする小売業で「ある」が業界全体の約2倍
  2. カスハラへの対応策や取り組みの有無はほぼ二分される。具体的な取り組み内容では、「顧客対応の記録」が20.1%でトップ

最近、話題のテーマでもありますので、リポートからグラフを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、直近1年でカスタマーハラスメントの被害が「ある」と回答した企業は15.7%、「ない」が65.4%、「分からない」が18.8%となっています。リポートから、業界別の直近1年以内にカスハラなどの被害を受けた企業割合 のグラフを引用すると上の通りです。軽く想像される通り、「小売」、「金融」、「不動産」といったB2C企業の占める比率の高い業界がトップスリーとなっています。「小売」と「卸売」で大きな差が生じているのは、B2BかB2Cの違いであろうと私は想像しています。グラフは引用しませんが、大雑把に、企業規模が大きくなるほど「ある」の比率が高くなっています。ただ、企業からは「どこまでの発言・行為がカスハラに該当するのか不明なため、判断しづらい」といった見方も示されています。また、カスタマーハラスメントへの対策としては、、電話に録音機能をつけるなど「顧客対応の記録」が20.1%で唯一2割を上回ってトップとなっているようです。

私は公務員を定年退職したあとに大学教員として再就職していて、役所や教育機関というのは、医師や看護師などが勤務する病院などと同じように、必ずしも「お客様は神様」とはみなされていない業界ですので、カスタマーハラスメントにあったことは、ほぼほぼありません。カスタマーハラスメント対策は、従業員保護の観点からも重要性が高まっていると考えるべきです。

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2024年7月25日 (木)

33年ぶりの高い伸びとなった6月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から6月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月からさらに加速して+3.0%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについても同様に+3.0%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、実質33年ぶりの伸び 人件費転嫁
企業が人件費の上昇を企業間取引の価格に反映する動きが広がっている。日銀が25日公表した6月の企業向けサービス価格指数は前年同月比3.0%上昇した。消費税増税の影響がある期間を除くと1991年9月(3.2%)以来、約33年ぶりの高い伸びとなった。消費者向け財やサービスへの価格転嫁が進めば、先行きの消費者物価指数(CPI)を押し上げる材料となる。
6月の企業向けサービス価格では、プラントメンテナンス(3.5%)や土木建築サービス(7.1%)といった幅広い業種で、賃上げ分の価格転嫁を主因とした上昇がみられた。生産額に占める人件費コストの高低によって分類した指数でみると、人件費の割合が高いサービスでは価格の上昇率が2.8%に達した。人件費を価格に転嫁する動きが続いていることを示唆している。
SMBC日興証券の宮前耕也氏は「賃上げの転嫁や、経済活動正常化による景気回復が複合的に寄与した結果、33年ぶりの高水準となった」と指摘する。
サービス価格が堅調に推移する背景には歴史的な賃上げ率がある。連合の最終集計結果によると、基本給を底上げするベースアップ(ベア)を含めた2024年の平均賃上げ率は前年比5.1%と、1991年以来33年ぶりに5%を上回った。
日銀は地域経済報告(さくらリポート)の別冊で、地域の中堅・中小企業で「昨年を上回るあるいは高水準であった昨年並みの賃上げの動きに広がりがみられている」と分析した。中小企業では人材の獲得や引き留めを目的とした防衛的な賃上げの動きも広がっている。幅広い賃上げの影響が、企業間の取引価格にも波及したとみられる。
企業向けサービス価格は企業間の取引のため、時間差をともなって消費者に転嫁される可能性がある。一方でインフレを加味した実質賃金は過去最長となる26カ月連続のマイナスだ。消費者向けの商品やサービスへの転嫁は売上高の減少につながる恐れもあるため、企業がどれほどコスト増加分を消費者に転嫁できるかは不透明な部分も大きい。
SOMPOインスティチュート・プラスの小池理人氏は「CPIに波及するには、消費を押し上げるだけの実質賃金の改善を注視する必要があるだろう」と指摘する。

もっとも注目されている物価指標のひとつですから、長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速はいったん終了したものの、最近時点で再加速が見られ、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は6月統計で+2.9%を示しています。他方、その名の通りのサービスの企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準として一貫して上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、昨年2023年7月に+2%まで加速し、本日公表された6月統計では+3.0%に達しています。12か月連続で+2%以上の伸びを続けているわけです。+2%前後の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性がありますし、日銀の物価目標、これは生鮮食品を除く消費者物価上昇率ですが、その物価目標の+2%も超えています。ただ、大きく超えているわけではないと私は認識しています。加えて、真ん中のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、企業向けサービス価格指数(SPPI)で見てもインフレ率は高いながら、物価上昇がさらに加速する局面ではないんではないか、と私は考えています。また、人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率と高人件費比率のサービスの違いに大きな差はありません。むしろ、6月統計の前年同月比で見て、高人件費率サービスは+2.8%の上昇であるのに対して、低人件費率サービスは+3.2%の上昇となっています。引用した日経新聞の記事のタイトルの「人件費転嫁」というのは大きく間違っているわけではありませんが、人件費率に関係なく価格上昇が見られる点は忘れるべきではありません。加えて、昨年2023年から今年2024年にかけて、春闘賃上げ率が高まっていることを背景に、物価上昇は人件費が転嫁された結果であるというマコトしやかな説が流れていますが、政策投資銀行のリポートでも「2023年以降では(物価)上昇要因のほとんどが企業収益の増加によるもの」と指摘しています。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて5月統計のヘッドライン上昇率+3.0%への寄与度で見ると、機械修理や宿泊サービスや廃棄物処理などの諸サービスが+1.49%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率のほぼほぼ半分を占めています。人件費以外も含めてコストアップが着実に価格に転嫁されているというのが多くのエコノミストの見方ではないでしょうか。また、インバウンドの寄与もあり、宿泊サービスは前年同月比で+26.8%の上昇と、5月統計の+12.9%から大きく加速しています。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている石油価格の影響が大きい道路貨物輸送や外航貨物輸送や旅行サービスなどの運輸・郵便が+0.46%、ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.33%、景気敏感項目とみなされている広告も+0.29%、などとなっています。

為替相場について、私はそれほど大きな興味を持っていないのですが、それでも、今朝の日経新聞を見ると「円、一時1ドル=152円台に 日銀追加利上げを意識」といったタイトルの記事があって、円安是正が進んでいる実感があります。他方で、「日経平均一時1200円安 円高と共振、調整局面の足音」といった記事も見かけます。日銀が金融引締めに突き進み、為替の円安が是正される、ここまではいいとしても、さらに、株安が進んで設備投資や住宅投資も停滞する、といった波及効果を理解せずに日銀に金融引締めをオススメしているエコノミストって、ひょっとしたら、ホントにいたりするんでしょうか?

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2024年7月24日 (水)

総務省統計局「家計消費状況調査年報」でネットショッピングと電子マネーの利用を調べる

とても旧聞に属するトピックですが、7月5日に総務省統計局から「家計消費状況調査年報」2023年版が公表されています。pdfの概要リポートもアップロードされています。今まで取り上げたことのなかった統計調査なのですが、実は、私が統計局に勤務していたころ、「家計調査」とともに、この「家計消費状況調査」も担当していたりしました。この調査のひとつの特徴は、ネットショッピングの利用状況や電子マネーの保有・利用状況を調べていることです。そのグラフを概要リポートから引用しておきます。

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2024年7月23日 (火)

厚生労働省の雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会の報告書素案やいかに?

今年2024年2月から厚生労働省において雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会の議論が始まり、先週金曜日7月19日の第10回会合において報告書素案が明らかにされています。私は従来から雇用や企業活動において女性がキチンを処遇されると日本経済にまだまだチャンスがあると考えてきました。いくつかの論点について、同時に公表された報告書(素案)参考資料から、特に、機関投資家などの投資判断における女性活躍情報の活用について簡単に現時点での到達点を考えてみたいと思います。

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ということで、上の画像は報告書(素案)参考資料から 投資判断における女性活躍情報の活用状況等 に関するページpp.32-33を画像化して結合しています。ものすごくサンプル数が少ないので不安になるのですが、それでも、上のスライドでは、投資判断において女性活躍情報を多少なりとも活用している機関投資は65.4%に上ることが示されていますし、活用する理由は「企業の業績に長期的には影響がある情報と考えるため」が75.3%を占めています。当然です。下のスライドでも、投資や業務において活用する女性活躍情報として、女性役員比率、女性管理職比率、女性従業員比率が上位に上げられているのが読み取れます。

場b流刑財宝介護の30年間に、いろんな経済政策を打ってきました。私も政府の中で見てきました。財政拡大、金融緩和、たいていのマクロ経済政策は日本経済の成長率の上昇には役立ったようには見えません。最後の砦として、私は雇用や企業活動における女性の役割の拡大、それも、決して形だけではなく画期的な拡大に望みをかけています。

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2024年7月22日 (月)

インテージ「夏休みに関する調査結果」やいかに?

小中高と、多くの学校では先週までで1学期が終了し、今週から夏休みという生徒諸君も少なくないものと思います。誠に残念ながら、私の勤務校では明日から期末試験が始まり、期末リポートなんかもあって、学生諸君の夏休みはもう少し先になりそうです。ということで、先週水曜日の7月17日にネット調査大手のインテージから「夏休みに関する調査結果」が明らかにされています。まず、調査結果のポイントをインテージのサイトから5点引用すると以下の通りです。

[ポイント]
  1. 今年の夏休みの予算は平均58,561円。昨年は60,146円で前年比1.2倍と大きく増加したものの、今年は微減
  2. 予算が増える/減る理由いずれも「物価高・円安だから」がトップ。また7割が「物価高・円安は予定に影響」と回答
  3. 昨年、前年比2.5倍と大きく増加した「海外旅行」は昨年並み。「国内旅行」も「宿泊あり」、「日帰り」ともに昨年並み
  4. 海外旅行の予算は平均443,058円で昨年から約7万円の減少(前年比86%)。渡航先としてヨーロッパ減、アジア増
  5. 「猛暑で予定変更検討」13.5%。過ごし方は「水分をこまめにとる」、「外出を控える」、「冷房がきいた施設で過ごす」上位

このポイントだけでもう十分という気もしますが、エコノミストとして気にかかる経済への影響などを中心に、いくつか図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、インテージのサイトから 夏休みにかける予算平均 を引用すると上の通りです。エコノミストとしては、家計消費の動向に大きく影響する支出面の動きは重要です。まず、昨年2023年に1.2倍に増加したのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について感染法上の分類変更が2023年5月に実施されましたので、その直後の夏休みということで大きく増加しているわけです。ですが、今年2024年の夏休みについてご予算が減少しているのは経済的理由であるとしか考えるべきです。図表は引用しませんが、ご予算が減る理由は「物価高・円安だから」が51.5%でもっとも高く、「給料が増えないから」35.2%、「電気代・ガス代が上がるから」33.1%が続いています。春闘における賃上げが進み、定額減税が実施されたにもかからわず、こういった理由で夏休みのご予算が減っているわけです。例えば、旅行については、海外旅行の予算は443,058円と昨年の513,987円からから約▲7万円、▲14%の減少となっています。円安にもかかわらず予算が大きく減少している理由は渡航先です。すなわち、ヨーロッパなど遠い国が減少し、円安の影響が小さめで旅費が抑えられるアジアなどの近い国にシフトしているようです。国内旅行(宿泊あり)の予算は102,318円と昨年の100,282円から+2千円、+2%の増加となりました。ただし、予算が増える理由は、これも、「宿泊料金が高くなっているから」37.7%、「物価高・円安だから」29.6%などが上げられています。

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最後に、上のテーブルはインテージのサイトから 夏休みシーズンの希望の過ごし方と現実の予定 を引用しています。なかなかに興味深い質問で、「もし、昨今の物価高や円安、電気・ガスの補助金終了などがなければどう過ごしたいか?」と夏休みの希望の過ごし方と現実についてたずねています。「海外旅行」に行きたい人は5.2%、一方、現実に予定している人は2.1%でその差は▲3.1%ポイント、「国内旅行(宿泊あり)」、「国内旅行(日帰り)」、「テーマパーク」でも希望が現実の予定を上回っているのが見て取れます。他方で、「自分の実家への帰省」、「自宅で過ごす」は、それほど希望が高くないにもかかわらず、現実の方が高かったりします。海外旅行や国内旅行に代えて実家への帰省で我慢していることが読み取れます。

最後に、この調査では猛暑になった場合の過ごし方も質問していますが、選択肢にはないものの、やっぱり、日本脱出、というのも悪くなさそうな気がしますが、現実は厳しいのでしょう。

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2024年7月21日 (日)

Osaka Jazz Channnel の最新曲「月の花」を聞く

大阪ジャズチャンネル Osaka Jazz Channnel の、たぶん最新曲で「月の花」の演奏です。昨年2023年10月に収録されているようです。このチャンネルはジャズの中でもスタンダードが多い印象でしたが、この曲はピアニストの小林沙桜里の作曲によるオリジナル曲らしいです。やや幻想的な曲調で、もっとストレートなジャズの好きな私が必ずしも好むタイプの曲ではありませんが、まあ、日本の、大阪のジャズですので、こういうのがあってもいいと思います。でも、日本では月の季節は中秋の名月の9月と決まったものだという気がしますし、作曲したピアニストが身につけているアクセは雪の結晶だったりします。やや季節感にズレが見られるように感じるのは私だけ?

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2024年7月20日 (土)

お疲れさま宴会に出席

今週前半に、近江牛、特にすき焼きで有名な、というか、有名らしい松喜屋で経済学部の教員による今年前期終了間近のお疲れさま宴会があり出席しました。まあ、まだ授業が残ってないわけでもなく、もちろん、定期試験や期末リポートなどもあり、さらにはその採点もあったりするわけですが、前期も最終盤ということを祝う宴会です。
私は、どうもたしなみがなく、着るものはもとより、飲み食いするものはまったくこだわりがありませんので、このお店も有名らしいのですが、まったく知りませんでした。はい、決してグルメでも何でもなく、ファッションはユニクロで十分と考えています。
下の写真は、その有名な近江牛のすき焼きの before-after です。

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今週の読書は経済書2冊のほか計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、脇田成『日本経済の故障箇所』(日本評論社)は、日本経済は企業部門が貯蓄主体になっているため、従来型の経済モデルを適用する前提が成り立っていないとして、賃上げなどにより企業部門から家計部門に所得を移転する必要性を強調しています。小野浩『人的資本の論理』(日本経済新聞出版)は、人的資本理論についてベッカー教授からの歴史を明らかにするとともに、理論的基礎、応用さまざまな理論と実証の展開を解説する入門書です。伊坂幸太郎『777』(角川書店)は、殺し屋シリーズの第4弾最新刊で、シティホテルを舞台に殺し屋が入り乱れて活躍します。萬代悠『三井大坂両替店』(中公新書)は、幕府公金の送金を担った三井大坂両替店のビジネスモデルについて歴史的に解説を加えています。藤崎翔『逆転美人』(双葉文庫)は、本編では美人に生まれついたばかりに幼少時から不幸を背負い込んだ主人公の人生がこれでもかとばかりに語られますが、「追記」部分で驚愕の真実が明らかにされます。芦沢央ほか『斬新 THE どんでん返し』(双葉文庫)は、この出版社の「THE どんでん返し」シリーズの第6弾最新刊であり、5人の豪華執筆陣がどんでん返しミステリを競演します。
ということで、今年の新刊書読書は1~6月に160冊を読んでレビューし、7月に入って計20冊をポストし、合わせて180冊となります。目標にしているわけでも何でもありませんが、年間300冊に達する勢いかもしれません。なお、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。それから、新刊書ではないので本日の読書感想文ブログに入れませんでしたが、若竹七海『不穏な眠り』(文春文庫)も読みました。不運な女探偵・葉村晶シリーズのラストの発刊だと思います。Facebookやmixiでシェアする予定です。

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まず、脇田成『日本経済の故障箇所』(日本評論社)を読みました。著者は、東京都立大学の研究者です。私は60歳の定年まで長らく東京の役所で官庁エコノミストをしていたこともあって、経済学の研究者については関西方面よりも首都圏の方に知り合いが多い気がするのですが、本書のご著者もその1人です。役所が主催する共同研究に来ていただいた記憶があります。ということで、本書は現在の日本経済が陥っている長期の経済低迷について、従来の欧米起源の経済学のモデルで分析するのは限界がある、というか、モデルを適用する前提が成り立っていない、との分析結果を提示し、したがって、別の解決方法を適用することにより従来とは異なる政策インプリケーションを導き出そうと試みています。その結論を一言で簡単にいえば、貯蓄主体となってしまった企業部門から家計部門に所得を移転する必要性ということになります。要するに、賃上げが必要だと主張しているわけです。経営者サイドからは、賃金引上げのためには生産性の向上が必要、とか、日本の労働生産性は低い、とかの主張がなされていて、我々もよく耳にするところですが、本書はまっこうからこれを否定し、現在の日本の賃金は生産性を大きく下回っている、と強調しています。そして、貯蓄投資バランス、政府と企業と家計と海外の各部門のバランスを合計すれば、定義的にゼロとなる貯蓄投資バランスから説き起こし、企業の過剰貯蓄を家計に移転することを賃上げをもって実施すべき、との説なわけです。この観点からすれば、海外投資は家計も企業も貯蓄主体となった国内の余剰資金を海外で使うひとつの手段なのですが、実際にはほとんど収益を上げずに失敗している可能性が高い、とデータ分析の結果から結論しています。そして、伝統的なケインズ政策のひとつである財政拡張についても限界まで試みられたものの、結局効果は薄く、金融緩和も最後に資源価格の高騰からインフレを招いた、と批判しています。当時の黒田総裁による異次元緩和は「微益微害」だった可能性を示唆しています。国内では企業は貯蓄主体となって銀行借入をせず、貯蓄主体となった企業が内部留保を積み上げる中で、企業の持つ貯蓄は配当としては家計には流れません。家計の金融資産は銀行預金が大きな比率を占めていて、家計による株式保有が少ないからです。そして、ボーナスを通じた家計への企業貯蓄の配分も滞っています。これが3つの構造的なズレであると本書では指摘しています。すなわち、繰り返しになりますが、(1) 貯蓄主体となって銀行借入をせずに巨額の利益を積み上げる企業部門、(2) 銀行預金に偏重して株式保有が進まず企業貯蓄を配当で受け取れない家計、(3) ボーナスによる利益配分を行わない企業、その上、人口減少と急速な技術革新が事態を複雑にしていると主張します。まず、企業の銀行借入については本書でも望み薄としてます。それなら、ということで、家計の株式保有を進め、ボーナスによる企業利益の家計への配分を拡大する、ということなのですが、これらの処方箋は本書を待つまでもなく、今までにも何度か主張されてきたところであり、実現していないのは余りにも明らかです。本書では、最終章の第7章でいくつかの方策を提示していますが、実際の効果がどこまであるかはやや不明であるとしか、いいようがありません。最後に、本書では表現はともかく、モデルそのものはクリアなのですが、例示が極めて理解しにくい結果になっています。本書の主張は極めて明快で経済学的には正しい方向を向いていることは十分理解できるのですが、それをどう実現できるのか、政策レベルの議論がまだ不足しているように感じられてなりません。

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次に、小野浩『人的資本の論理』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、一橋大学の研究者です。本書では、シカゴ大学の研究者であり、ノーベル経済学賞も受賞したベッカー教授の人的資本論をベースに、最新の研究まで含めた人的資本理論を取り上げて解説している入門書という位置づけです。基本的に、学術書ではないかと思うのですが、興味のある学部学生や一般ビジネスパーソンでも十分に読みこなせる内容ではないかと思います。本書は3部構成であり、ページ数ベースで半分近くを費やす第Ⅰ部の理論・基礎編、第Ⅱでは理論から応用へ、そして、第Ⅲ部ではミクロからマクロへと、それぞれ拡張が試みられています。まず、人的資本理論は、ベッカー教授の理論的な貢献とともに、ミンサー教授の実証面での理論の確認が重要であった、と解説されます。私は頭の回転が鈍いので理論はサッパリですが、実証については、その昔に「ミンサー型賃金関数の推計とBlinder-Oaxaca分解による賃金格差の分析」と題する学術論文を書いたこともありますので、人的資本とか、その結果のアウトプットとして得られる賃金なんかのマクロ分析は経験あるところです。まず、理論編では人的資本理論に対置されるシグナリング理論との関係が興味深かったです。ただ、人的資本への投資の結果としてシグナルが得られる、例えば、勉強という投資をしたら東大卒のシグナルが得られると考えるわけですので、矛盾する理論ではなく人的資本が基本にあるシグナルですので、よく整理された議論が展開されていました。事例としても名前に基づく差別なんかの理解が進んだ気がします。応用編では何といっても高度成長期に完成した日本的人事制度、雇用慣行と人的資本の関係が重要です。高度成長期から今まで続く日本的雇用慣行として、その昔は終身雇用とすら呼ばれた長期雇用、年功賃金、企業内組合などがあります。その中でも、特に、長期雇用と年功賃金の相互補完制につき理解が進み、年功賃金のゆえに定年がある、というラジアー理論も説明力あったと思います。また、高齢化が日本的雇用システムにいかなる影響を与えるか、特に定年延長などについて取り上げられています。また、最近の話題としてバブル崩壊後の失われた30年におけるコア人材と非コア人材といった日経連の雇用ポートフォリオ論、あるいは、直近のコロナ・ショックにおける雇用の問題などが取り上げられています。物理的資本が減価償却という形で時の流れとともに減耗し続ける一方であるのに対して、人的資本は投資によるスキルアップにより生産性を向上させることが出来るといった特徴があります。入門書とはいえ、いい勉強になった気がします。

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次に、伊坂幸太郎『777』(角川書店)を読みました。著者は、我が国でも指折りの人気を誇るミステリ作家です。本書はその殺し屋シリーズ第4作最新刊です。舞台は架空のウィンストンパレスホテルというシティホテルです。同じシリーズの以前の『マリアビートル』も東北新幹線の車中という設定でしたが、本作品も東北新幹線並みのクローズド・サークルとまではいかないものの、ホテルから外に出ることはありません。そして、『マリアビートル』にも登場した不運な殺し屋七尾=天道虫が活躍しますし、タイトルにも取られた真莉亜への言及もあります。もっとも、真莉亜の登場は少ないです。ということで、簡単にストーリーを追うと、ツキに見放された不運な殺し屋の天道虫こと七尾はホテルに宿泊中の男を訊ねて、娘からの誕生日プレゼントを届ける安全かつ簡単な仕事を請け負いますが、部屋番号を間違えて間違えた先の部屋に宿泊していた男が事故で死んでしまい、その先にさまざまなトラブルに見舞われます。裏仕事の乾に雇われていて秘書をしていた紙野結花がその抜群の記憶力からか、元雇い主の乾に追われていて、逃がし屋のココを頼って同じホテルに滞在しています。乾は美男美女の6人組の殺し屋をホテルに差し向けます。なぜか、成り行きで七尾=天道虫が巻き込まれます。いろいろな経緯あって、七尾=天道虫は紙野結花とココの側に立って、乾の送り込んだ殺したと対峙することになります。加えて、政治家の蓬実篤が秘書の佐藤とともに同じホテルのレストランで記者のインタビューを受けています。ラストの場面で強烈にからみます。ほかの登場人物としては、何組かのペアが重要な役割を果たします。高校バスケ部の同級生だったモウフとマクラが清掃ほかで、ホテルの従業員っぽく登場し、もちろん、ベッドメイク以外にも死体処理なんかに関わります。さらに、奏田(ソーダ)と高良(コーラ)のコンビは爆発物を扱う殺し屋です。この殺し屋シリーズには以前に蜜柑と檸檬というコンビが登場していた記憶があり、どういった役回りかはすっかり忘れましたが、同じようなコンビの業者が本書でも登場します。なお、本書では、ほかの殺し屋シリーズの作品でも同じだと記憶していますが、「殺し屋」とは呼ばずに「業者」と表現しています。ですから、彼らの間では同業者、という表現も出てきたりします。ミステリですので詳細を紹介することは控えます。今までのシリーズでも殺し屋の業者以外に重要な役割を果たす登場人物がいましたが、今回は政治家の蓬ということになります。彼は国会議員をしていて、一部に人気も衰えていないのですが、現在は非議員の情報局長官という役回りで秘書を従えています。加えて、ホテルですのでフロアの移動も読ませどころです。6人組の美男美女業者がターゲットを追って移動するさまもかなり論理的です。ただし、登場人物が、私のこのレビューでも追い切れないくらい多人数に上りますし、それだけに登場人物の動きやストーリー展開も複雑で、同時に、この作者お得意の伏線の設定と回収も複雑になっています。それなりの読解力が必要かもしれませんが、この作者のファンであれば読んでおくべき作品だと思います。

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次に、萬代悠『三井大坂両替店』(中公新書)を読みました。著者は、公益財団法人三井文庫の研究員です。まさに、本書の著者としてピッタリと感じるのは私だけではないと思います。広く人口に膾炙しているように、三井の本家本元は呉服商の越後屋であり、大坂の両替店はひょっとしたら三井の本家本元となる活動ではないかもしれませんが、前近代の江戸期とはいえ、近代的な銀行や金融機関の先駆けとなる活動であったということは出来るかと思います。越後屋呉服店は、店先売り、現金払いの掛け値なし、という大きな特徴、というか、当時としてはビジネス上のイノベーションでもって新たなビジネスモデルを切り開いたわけですが、店先売りも、現金払いの掛け値なしも、どちらも越後屋呉服店の前に存在したと本書では指摘しています。その意味で、三井大坂両替店も新たなビジネスモデルを開拓した、というわけではなさそうな気もします。まず、三井大坂両替店は元禄4年=1691年に三井高利が開設しています。現在の銀行のように、一般国民から預金を集めるわけではなく、幕府が年貢で集めたコメを大坂で換金し、江戸に送金する業務を請け負っています。もちろん、金貨、というか、小判で東海道を運ぶわけではありません。御為替御用と当時呼ばれた為替という現代でも用いられる送金方法を使うわけですが、本書によれば、三井は預かった幕府の公金を融資に回して莫大な利益を上げています。すなわち、幕府公金は期日までに送金することが最優先であり、そこに90日程度のタイムラグがあったことから、このタイムラグの期間に三井は幕府公金を融資した、ということになります。ですから、本書ではあからさまに書いていませんが、一般庶民の預金ではなく幕府公金が元手ですので、融資が焦げ付いて回収不能になれば大問題です。現在では、私も授業で教えているように、ハイリスク・ハイリターンとローリスク・ローリターンといわれて、リスクとリターンが対を成しているわけですが、幕府公金を融資に回すとなれば、ハイリスク・ハイリターンの融資は回避される傾向が強かったのは明らかです。三井大坂両替店は、リスク・ミニマイズのために担保を取るとともに、借主の人柄を見るという手法を取っています。まあ、あり得る手だといういう気がします。担保となる家屋敷の不動産を適正に評価し、さらに、人物の人となりも評価することになります。それらを手代が評価するのですが、手代のレベルではダメ出しという拒否権行使は出来るものの、融資の承認はさらに上役の許可が必要であったと本書では指摘しています。こういった業務の進め方や、今でいうところの労働条件、もちろん、お給料まで詳細に歴史的にあとづけて分析を加えています。詳細については読んでいただくしかありませんが、身分制社会で武士が上位に位置する町人社会で、どのようなビジネスができるのか、あるいは、すべきなのか、よく考えられたシステムではなかろうかと思います。

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次に、藤崎翔『逆転美人』(双葉文庫)を読みました。著者は、最近話題のミステリ作家です。芸人さんご出身だと思います。私もこの著者の作品を何冊か読んだことがあります。本書はミステリであり、タイトル通り、超絶美人であるにもかかわらず、というか、美人であるがゆえに不幸や不運を背負い込んだ佐藤香織の物語で始まります。一般的には美男美女は得をするように思われているのですが、そういったルッキズムに挑戦するように、その反対の人生を送ってきた主人公の半生を振り返る形でストーリーが始まります。すなわち、就学以前や小学生の低学年の時は何回か幼児誘拐の危険な目に会い、小学校高学年では男子からの交際の告白を受けまくって、それを断ったことで親友から嫌われ、中学生では男子からチヤホヤされる妬みから激しいイジメにあい、暴力行為を受けて指を骨折させらることもあり、結果、不登校となってしました。高校には進学したものの、そこでも同じようなことが起きます。気にかけてくれる先生がいたものの、その先生も美人目当てに近寄ってきたに過ぎず、高校は中退します。その後、コンビニでのバイトを始めますが、いろいろあって、結局、キャバ嬢に落ち着きます。でも、やっぱり、マルチ商法の犠牲となり、キャバクラも辞めることになります。その後、知り合った中学校の教員と結婚し女の子を出産し、幸福な生活が続いたものの長続きはしませんでした。夫が火事で死亡した上、父親が交通事故で死亡し、同乗していた娘も下半身麻痺による車椅子生活を余儀なくされます。そして、娘の勉強のお世話をしてくれた高校の先生に襲われたりします。ここまでが本編です。ページ数として本書全体のほぼ2/3のボリュームです。そして、残り1/3ほどが「追記」とタイトルされて、それまでの本編をひっくり返すような内容となります。実に、この「追記」は詳細に渡って事実関係の詳細を明らかにしてくれています。ホントいうと、本編でもいくつかヒントが埋め込まれています。私もやや整合性を欠く部分があるような気がして不審に思わないでもなかったのですが、ガサツな読み方のために十分内容を把握することが出来ませんでした。それを称して、出版社では「ミステリー史上初の伝説級トリック」として帯に掲げているのだろうと思います。かなり手の込んだトリックであることは明らかです。最後に、私は国際機関のリポートなんかをpdfファイルで読む機会はいっぱいあるのですが、いわゆる電子図書というものはあまり経験がありません。電子図書が紙で印刷された本と同じようにページ割りされているかどうかも知りません。でも、本書については紙に印刷された図書で読むことを、取りあえずは、推奨しておきたいと思います。

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次に、芦沢央ほか『斬新 THE どんでん返し』(双葉文庫)を読みました。著者は、表記した以外の作家もいて計5人の著者の作品から編まれたアンソロジーです。この「THE どんでん返し」シリーズは、すでに何冊か出版されていて、私は少なくとも最初の方の『自薦 THE どんでん返し』と『自薦 THE どんでん返し 2』は読んでいます。同じ出版社では「自薦」は3まであり、ほかに、韻を踏むように「新鮮」と「特選」の「THE どんでん返し」もあるようです。そして、本書についてはビミョーに韻を外すように、「斬新」なわけです。ほかに、同じようなシリーズで、小学館文庫から出版されている『超短編!大どんでん返し』と『超短編!大どんでん返しSpecial』も私は読んでいたりします。ということで、本書で収録されている作品を順に紹介します。まず、芦沢央「踏み台」はアイドルグループのメンバーを主人公にして、かつて、麻雀好きというキャラを立てるために付き合ったことのあるプロ雀士からストーカーのように付きまとわれる、というストーリーで、どうしてこういうタイトルになっているのかは読んでみてのお楽しみです。伊吹亜門「遣唐使船は西へ」は、平安時代の遣唐使船を舞台に嵐の中で老僧が殺害された殺人事件の謎解きです。犯人探しの whodunnit はすぐに謎が解けるのですが、どうして、すなわち、いかなる動機で殺されたのかの whydunnit が読ませどころです。斜線堂有紀「雌雄七色」は手紙形式ミステリーとなっています。人気脚本家と離婚した母親がなくなり、倅が7色からなる7通の「虹の手紙」を父親である脚本家に憎悪を込めて送りつけ、脚本家がそれを読み進む、という構成になっています。なかなか大きな仕掛けがなされています。白井智之「人喰館の殺人」は、地震による土砂崩れで山道が閉ざされた登山家7人が廃屋の山荘へ避難するのですが、周囲には羆が出没して、実にアッサリと人間が殺されてしまいます。救助が来るまでのクローズド・サークルで元AV嬢らが巻き込まれた殺人事件が発生し、客の1人である元刑事の推理で真相が明らかにされたかに見えました。でも、別の真相にたどり着く多重推理が読ませどころ、というか、大きなどんでん返しになっています。ということで、「THE どんでん返し」のシリースを途中をすっ飛ばして読んでいます。ちゃんとした読書にしたいのであれば、シリーズを順を追って読むべきかもしれません。でも、本書も執筆陣が豪華ですので、シリーズ順にこだわらずに大いに楽しめると期待してよさそうです。

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2024年7月19日 (金)

さらに加速した6月の消費者物価指数(CPI)上昇率をどう見るか?

本日、総務省統計局から6月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+2.6%を記録しています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は23か月連続、すなわち、2年あまりの連続です。ヘッドライン上昇率は+2.8%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+2.2%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、6月2.6%上昇 電気・ガス代が押し上げ
総務省が19日発表した6月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が107.8となり、前年同月と比べて2.6%上昇した。政府が電気代やガス料金などの負担軽減策を縮小したことで、電気代やガス代が値上がりした。
エネルギーの上昇率は7.7%と前月の7.2%から拡大した。電気代が13.4%と大幅に上昇し、生鮮食品を除く指数の伸びを0.47ポイント押し上げた。都市ガス代も3.7%上昇した。
電気代は23年1月に始めた補助金の影響でマイナスの推移が続いたものの、5月に再生可能エネルギー普及にかかる賦課金が上昇し16カ月ぶりにプラスに転じていた。
政府補助は5月使用分で半減となり、6月のCPIから押し下げ効果が縮小した。電気代の上昇は2カ月連続。6月の政府補助による電気代の押し下げ効果はマイナス0.22ポイントだった。
生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は2.2%上昇した。生鮮食品を含む総合指数は2.8%上がった。
食料は3.6%の上昇だった。オレンジの原産国での天候不良が不作を招いた影響で果実ジュースが32.1%上昇した。さくらんぼも15.7%上がった。昨年夏や今季の収穫期における猛暑が影響した。食料の上昇幅は前月の4.1%からは縮小した。
猛暑による影響でルームエアコンの需要が拡大し、家庭用耐久財は3.9%上昇した。宿泊料も19.9%伸び、前月の14.7%から上昇幅が広がった。
全品目をモノとサービスに分けたうち、サービスは1.7%上昇だった。前月は1.6%で上昇幅は拡大した。外食は2.8%上昇して、前月から横ばいだった。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.7%ということでしたので、実績の+2.6%はやや下振れたとはいうものの、4月統計の+2.2%、5月統計の+2.5%から見れば少し上昇幅が拡大した印象です。品目別に消費者物価指数(CPI)を少し詳しく見ると、まず、生鮮食料を除く食料の上昇が継続しています。すなわち、先月5月統計では前年同月比+3.2%、寄与度+0.76%であったのが、今月6月統計ではそれぞれ+2.8%、+0.68%と引き続き高い伸びを示しています。次に、エネルギー価格については、4月統計の+0.1%から前年同月比で上昇に転じ、本日公表の6月統計では+7.7%まで上昇が加速しています。ヘッドライン上昇率に対する寄与度も5月統計の+0.54%から6月統計では+0.59%まで拡大しています。5月統計から6月統計への上昇幅拡大の+0.1%ポイントに寄与していることは明らかです。インフレを大きく押し上げているのは電気代であり、ヘッドライン上昇率に対する寄与で何と+0.45%に達しています。これも引用した記事で指摘されている通りであり、先月5月から再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2024年度以降の買取価格等と2024年度の賦課金単価が引き上げられ、その影響が物価に出ています。
私が注目している食料について細かい内訳をヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、コアCPI上昇率の外数ながら、生鮮食品が野菜・果物・魚介を合わせて+0.38%あり、うち生鮮野菜が+0.21%、生鮮果物が+0.14%の寄与をそれぞれ示しています。繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料の寄与度も+0.76%あります。コアCPIのカテゴリーの中でヘッドライン上昇率に対する寄与度を見ると、せんべいなどの菓子類が+0.13%、うるち米などの穀類が+0.12%、焼肉などの外食が+0.10%、おにぎりなどの調理食品が+0.09%、果実ジュースなどの飲料が+0.06%、などなどとなっています。サービスでは、宿泊料の+0.19%を含めて教養娯楽サービスの寄与度が+0.39%、コア財では引用した記事にも見られるルームエアコンなどの家庭用耐久財が0.06%、などといった寄与を示しています。

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最後に上のグラフは、消費者物価指数(CPI)のヘッドラインと帰属家賃を除く総合のそれぞれの前年同月比上昇率をプロットしています。私は昨年まで大学院の院生に対して日本の物価について教えていた時、以下の引用情報にある渡辺教授の論文を読ませて、日本では家賃が動かないので物価上昇の認識が遅れる、と教えていました。バブル経済期の分析ではありますが、現時点でも、東京のマンション価格などが大きく高騰する中で、大きな動きを示さない帰属家賃を除く総合はヘッドライン上昇率よりも上昇率が高くなっています。上のグラフの通りです。本日公表された6月統計ではヘッドライン+2.8%、コア+2.6%に対して、帰属家賃を除く総合は+3.3%に達しています。もちろん、渡辺教授が分析した家賃とグラウにインプリシットに現れている帰属家賃は異なるのですが、参考まで、帰属家賃を除けばインフレ率は+3%を超えているという事実は頭の片隅に置いておきたいと思います。

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2024年7月18日 (木)

小幅な黒字を計上した6月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から6月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+5.4%増の9兆2086億円に対して、輸入額は+3.2%増の8兆9846億円、差引き貿易収支は+365億円の黒字を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

貿易収支、6月は2240億円の黒字 3カ月ぶり
財務省が18日発表した6月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2240億円の黒字だった。黒字は3カ月ぶり。円安を背景に半導体関連の輸出などが伸び、黒字幅は前年同月比で6.1倍になった。
2024年上半期(1~6月)の貿易収支は3兆2345億円の赤字だった。赤字額は前年同期比で53.7%減少した。半期ベースの赤字は6期連続。エネルギー価格の高まりによる輸入額の伸びが大きく、赤字基調が続いている。石炭や液化天然ガス(LNG)の輸入価格の高騰は一服しており、米国向けのハイブリッド車の輸出などが増えて赤字額は縮小した。
6月単月の輸出額は9兆2086億円と5.4%増え、7カ月連続の増加となった。6月としては比較可能な1979年以降で最も大きかった。輸入額は8兆9846億円で3.2%増えた。増加は3カ月連続だった。
輸出を品目別に見ると、半導体関連の製造装置の数量が増え、金額が37.9%増の3971億円と好調だった。輸出額全体に占める割合の高い自動車は数量ベースでは12.5%減の48万4529台と、品質不正による生産停止からの回復が鈍い。金額は1兆6039億円と2.3%増だった。
地域別に見ると、米国が1兆9266億円と11%増、アジアが4兆8508億円で7.7%増だった。
輸入にも円安の影響が出ている。輸入を品目別に見ると、パソコンなど周辺機器を含む電算機類の輸入が数量ベースで9%減った一方、金額は48.5%増加して3301億円となった。
原油などの輸入額も膨らんだ。鉱物性燃料全体で見ると、輸入額は1兆8270億円と2.3%減少した。原油は数量ベースで14%減だったが、7877億円と3.3%の増加となった。
原油はドル建て価格が1バレルあたり87.8ドルと前年同月から6.7%上がった。円建て価格は1キロリットルあたり8万6543円と20.1%の上昇だった。
地域別の輸入では米国が1兆565億円と14.8%増えた。アジアは4兆2824億円で1.4%の増加だった。
財務省によると6月の貿易収支は例年、黒字になりやすい傾向がある。6月単月の貿易収支を季節調整値で見ると8168億円の赤字だった。赤字幅は前月比で26.8%拡大した。輸入は1.6%増の9兆7775億円、輸出は0.2%減の8兆9606億円だった。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲2000億円を少し超える貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の小幅な黒字はわずか+300億円余りでもあり符号が違っているとはいえ、大きなサプライズはありませんでした。なお、予測レンジの上限は2000億円余りの黒字でした。また、引用した記事の最後のパラにあるように、季節調整済みの系列で見ると、輸出が減少して輸入が増加しているため、貿易収支赤字は前月5月統計からやや拡大しています。なお、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2024年6月統計まで、3年余り継続して赤字を記録しています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。最近時点での貿易収支動向は、特に、何の問題もないものと考えるべきです。
6月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が再び増加となっています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲14.0%減ながら、金額ベースでは+8.8%増となっています。数量ベースの減少を超えた単価の上昇があり、輸入額が増加しているわけです。引用した記事に従えば、原油はドル建て価格で+6.7%の上昇、円建て価格では何と+20.1%の上昇だそうです。液化天然ガス(LNG)についても、数量ベースではわずかに+0.8%増ながら、金額ベースでは+8.1%増となっています。数量の伸びを超えて金額が増えていますから、円建ての単価が上がっていることがうかがわれます。これらのエネルギー価格については、地政学的なリスクもあって先行き不透明です。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では▲1.2%減ながら、金額ベースでは+1.2%増となっていて、エネルギー価格ほどボラタイルではないとしても、穀物についても単価が少し上昇していることが見て取れます。輸出に目を転ずると、輸送用機器・一般機械・電気機器といった我が国リーディング・インダストリーが輸出を牽引しています。季節調整していない原系列の前年同月比で見て、自動車の輸出額は+17.4%増を記録しています。ただし、数量ベースの輸出台数は▲12.5%減となっています。円安による円建て価格の上昇があったものと想像しています。すなわち、外貨建て、例えば、米ドル建ての価格が大きく変更ないならば円建ての輸出単価は膨らむわけで、その分、輸出額は増加します。数字を上げておくと、自動車を含む輸送機械の輸出額が前年同月比で+23.5%増を記録した一方で、一般機械も+18.1%増、電気機器も+16.4%増と我が国リーディング・インダストリーの輸出は先進各国のソフトランディングで堅調に推移しているように見えます。ただし、繰り返しになりますが、季節調整済みの系列では輸出額が前月から減少している点は忘れるべきではありません。

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2024年7月17日 (水)

祇園祭前祭の山鉾巡行を見に行く

今日は祇園祭前祭です。例年通り、というか、何というか、大学院生を引率して私も京都まで見に行きました。写真は、つねに先頭を切って登場する長刀鉾のお出ましと私の好きな月鉾です。

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IMF「世界経済見通し改定」を読む

日本時間の昨夜7月17日に国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update が公表されています。pdfの全文リポートもアップロードされています。

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まず、IMF Blogのサイトから成長率見通しの総括表 World Economic Outlook Growth Projection を引用すると上の通りです。成長率見通しは見ての通りで、今年2024年は4月時点の見通しと同じ+3.2%ながら、来年2025年は+0.1%ポイント引き上げて+3.3%としています。我が日本の成長率見通しは、今年2024年が4月時点の見通しから▲0.2%ポイント引き下げて+0.7%成長と予想しています。来年2025年は4月時点から変わらず+1.0%成長を見込んでいます。

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続いて、IMF Blogのサイトから Growth and Inflation のグラフを引用すると上の通りです。見ての通りで、左のパネルが主要国の需給ギャップ、右が世界のヘッドライン・インフレ率となっています。同じIMFのサイトで "Growth in major advanced economies is becoming more aligned as output gaps are closing. The United States shows increasing signs of cooling, especially in the labor market, after a strong 2023. The euro area, meanwhile, is poised to pick up after a nearly flat performance last year."「主要先進国は需給ギャップが縮小するにつれて成長の足並みがそろいつつある。米国では景気減速の兆候が強まっている。特に労働市場は堅調だった2023年から減速を示している。他一方、欧州は昨年の横ばい状態を脱して景気改善が見込まれる。」と指摘しています。グラフでは、ゼロコロナ政策などに起因する中国の負の需給ギャップがようやく縮小に向かっていることが読み取れます。しかし、このサイトでは、日本への言及はありませんでした。

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続いて、IMF Blogのサイトから Risks from fiscal and trade policy のグラフを引用すると上の通りです。見ての通りで、左のパネルでは米国の財政資金需要を示しています。赤い折れ線が2015年の満期構造であったと仮定した場合の資金需要、対して、青い折れ線が実際の資金需要ですので、2015年時点の満期構造に照らし合わせると現時点で資金需要が高まっていることが理解できます。右のパネルは輸入国別の米国の2018-19年関税率の影響を受ける製品輸入のボリュームです。特に米国において、財政と貿易政策から生じるリスクへの警戒感を示しています。

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2024年7月16日 (火)

帝国データバンクによる「新紙幣発行にともなう影響アンケート」の結果やいかに?

広く報じられているように、先々週半ばから新紙幣の発行が始まっています。これに関して、先週金曜日の7月12日に帝国データバンクから「新紙幣発行にともなう影響アンケート」の結果が明らかにされています。「プラスの影響がある」(プラスの影響の方が大きい)が35.1%、「マイナスの影響がある」は14.3%、「影響なし」は32.5%との結果が示されています。「プラスの影響がある」は規模が大きいほど回答率が高くなっています。リポートからグラフを引用すると以下の通りです。

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2024年7月15日 (月)

介護職員はどれくらい不足するのか?

広く報じられているように、先週金曜日の7月12日に厚生労働省から、「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」が発表されています。第9期計画の最終年度である2026年度に約25万人、また、2024年度には約57万人が不足すると見込まれています。厚生労働省の資料から引用した概念図は以下の通りです。

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2024年7月14日 (日)

代打原口選手の決勝タイムリーで3タテを免れる

  RHE
阪  神0010000005 691
中  日0000100001 2101

代打原口選手の決勝タイムリーで中日に勝ち、3タテを免れました。
今夜は先発西勇輝投手が6回を1失点の好投の後、桐敷投手、ゲラ投手、石井投手がゼロを並べます。延長戦に入って、10回に原口選手の決勝タイムリーの後、代走から入った植田選手の満塁の走者一掃のスリーベース、さらに、4番に入った佐藤輝選手のツーベースとつるべ打ちで一挙に5点を上げて試合を決めます。しかし、そのウラに登板した加治屋投手がピリッとしません。ランナーを貯めては長打を打たれ、最後はクローザー岩崎投手の救援を仰いで何とか逃げ切りました。

明日のジャイアンツ戦も、
がんばれタイガース!

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Osaka Jazz Channel の Ribbon in the Sky を聞く

本日のジャズは久し振りに、Osaka Jazz Channel の Ribbon in the Sky です。私はまったく詳しくないのですが、Stevie Wonder の曲とありますから、歌詞があったりするんでしょうね。

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2024年7月13日 (土)

今週の読書は経済書などのほか新書も合わせて計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、中村保ほか[編著]『マクロ経済学の課題と可能性』(勁草書房)は、格差や少子化といった課題についてマクロ経済学の観点から数式の展開による理論モデルの分析を試みています。小野圭司『戦争と経済』(日本経済新聞出版)は、財政や経済の観点から戦争を考え、エピソードを盛りだくさんに取り入れた歴史書に仕上がっています。河西朝雄『Pythonによる「プログラミング的思考」入門』(技術評論社)は、問題解決のためのアルゴリズムを考え、同時に、Pythonによるプログラミングの実例を豊富に取り上げています。佐藤主光『日本の財政』(中公新書)は、財政タカ派の観点から公的債務の安定化を目指して財政再建の方法についての提言を取りまとめています。小塩隆士『経済学の思考軸』(ちくま新書)は、経済学を用いた分析を進める上で重要な思考軸、例えば効率と公平などについて取り上げています。玉野和志『町内会』(ちくま新書)は、行政を補完し地域共同管理に当たる住民組織としての町内会について、歴史的な観点から成立ちや今後の方向などにつき考えています。成田奈緒子『中学受験の落とし穴』(ちくま新書)は、小学生の脳の発達の観点から中学受験について考えています。どうでもいいことながら、今週はちくま新書を3冊も、よく読んだものだという気がます。
ということで、今年の新刊書読書は1~6月に160冊を読んでレビューし、7月に入って先週・今週とも7冊をポストし、合わせて174冊となります。目標にしているわけでも何でもありませんが、年間300冊に達する勢いかもしれません。なお、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。
それからご参考で、7月9日付けの週刊『エコノミスト』で私が酷評した『金利 「時間の価格」の物語』の書評が掲載されています。過度な低金利批判に疑問を呈するとともに、ホワイト/ボリオといったBISビューを代表するエコノミストの重視など、私がAmazonのレビューで2ツ星に評価したのと同じラインの書評だという気がしました。ただ、その後、Amazonでは4ツ星や5ツ星のレビューもあるようです。繰り返しになりますが、ご参考まで。

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まず、中村保ほか[編著]『マクロ経済学の課題と可能性』(勁草書房)を読みました。編著者は、神戸大学の研究者であり、本書は中京大学経済研究所研究叢書として中村教授の還暦記念として編まれています。序章の後、本書は4部から構成されており、第1部が現実とマクロ経済理論の対話、第2部が個人の選好とマクロ経済減少、第3部が分配・格差とマクロ経済学、第4部が少子化とマクロ経済政策、をそれぞれのテーマにしています。本書は完全に学術書であり、しかも、一部にシミュレーションを用いた数値計算を実施しているものの、ほぼほぼ数式の展開による理論モデルの分析で計量経済学的な実証研究はなく、一般的なビジネスパーソンには難しい内容であるように思いますし、私ごときでは4部13章のすべてを十分理解したとは思えません。ですので、第2部のマイクロな個人の選好に基づいたマクロ経済分析などから少しトピックを選んで取り上げておきたいと思います。すなわち、第6章では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックにおける消費行動を分析しています。この分析では、家計調査などのデータから「巣ごもり消費」とも呼ばれた自宅待機要請の際の消費が、家計内の労働時間を要する時間集約財にシフトしている点を発見しています。ただ、中所得層での所得弾力性の低下という意味で時間集約財の特徴を消滅させた可能性も指摘されています。これは、家計のタイムユースの観点からパンデミック期の巣ごもり消費の特徴とも合致すると私は受け止めています。また、第3部の第8章や第9章では労働分配率の低下についてモデル分析を行っています。規模の経済を有する情報財部門と収穫一定の最終財部門からなる2財モデルで労働分配率が低下することが示されます。しかし、同時にこういった情報化社会の進展がマクロ経済を不安定化せるリスクにも言及しています。また、オートメーションによって資本が労働を置き換えるタスクモデルによれば、未熟練労働から資本へのタスク転換により賃金格差の縮小と資本分配率の低下がもたらされる一方で、金融自由化などに起因する技術的に最先端のタスクが増加すれば賃金格差の縮小と労働分配率の低下が同時に起こることになります。少子化対策では、第11章で、家計が利己的か、あるいは、利他的かで政策のインプリケーションが異なるモデルが提示され、人的資本希釈効果もあって、利己的な経済では子育て支援は逆に子供の数を減少させてしまうという結果が導かれています。第12章では、世代重複モデルの分析から、内生的出生率と最低賃金による失業をモデルに導入すれば、資本所得税の引上げにより1人当たりの資本蓄積を促進し、雇用も出生率も改善する可能性が示唆されています。ということで、必ずしも統一性あるテーマに基づく論文集ではありませんが、マクロ経済モデルの理論分析という形で、従来から示されているマクロ経済現象を確認するうことに成功しています。

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次に、小野圭司『戦争と経済』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、防衛研究所の研究者ですが、私と同じ京都大学経済学部のご卒業ですので、軍事や地政学ではなく経済学がご専門なのだと思います。本書は決して学術書ではなく一般向けの読み物であり、エピソードを盛りだくさんに取り入れた歴史書といえます。歴史的には西洋の古典古代であるギリシア・ローマ時代から、我が国の戦国時代や江戸時代も含めた前近代の戦争も対象とし、もちろん、近代戦争であるいわゆる総力戦の第1次世界大戦や第2次世界大戦、その前の我が国でいえば日清戦争や日露戦争の特徴的なエピソード、経済的な見方からのエピソードを豊富に含んでいます。ただし、最新の武力紛争、というか、何というか、ロシアによるウクライナ侵攻や中東ガザにおけるイスラエルのジェノサイドなどについては特に強く着目されているわけではありません。特に、中東については言及すらされていません。圧倒的に主張されているのは、一言でいえば「戦争には金がかかる」という点です。合理的な経済学の考えを身につけているエコノミストであれば、決して戦争なんかは見向きもしないということが明らかです。経済合理性ない人が戦争を始めるのだということがよく理解できます。特に、産業革命以降の近代的な産業の確立を受けて、刀やサーベルなどから銃器、それも重火器の武器を調達することは、個人レベルではほとんど不可能となり、国家が戦費を負担することになります。ですので、戦争が終結した後、近代的な戦争で必要とされた経費はすべて敗戦国が負担する、という原則が確立されます。それが、第1次世界大戦後のドイツに対するベルサイユ条約の賠償につながったことは明らかで、ケインズ卿が「平和の経済的帰結」で強く批判した点でもあります。p.86の表3-4で主要戦争の賠償金比較がなされていますが、GDP比で見て第1次世界大戦後の賠償額が突出して大きいことが読み取れます。また、同じ戦費の別の観点で、前近代の戦争については、戦費をまかなうための国債発行といういうイノベーションを編み出したイングランド銀行の設立をはじめとして、戦争や武力衝突のリスク回避のための為替送金の一般化など、金融面において戦争という非常時においても、金融や生産などの平時の経済活動を円滑に行うためのイノベーションがなされたこともよく理解できます。今では、ウクライナは暗号資産で一部の継戦資金を受け取っている、と本書では指摘しています。これも送金リスクの低減のためなのでしょう。また、本書では経済学の視点ですから指摘はありませんが、武器の開発などで技術力についても戦争が一定の役割を果たした可能性も否定できません。医学なんかもそうです。でも、やっぱり、経済学的な見地からはまったく合理性ないと考えるべきです。最後に繰り返しになりますが、経済書というよりは歴史書に近い読み物の印象です。「戦争というものは、軍人たちに任せておくには重要すぎる」と喝破したのは第1次世界大戦をフランスの勝利に導いた時のクレマンソー首相の言葉と伝えられていますが、まさに、そういった面がよく感じられる読書でした。

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次に、河西朝雄『Pythonによる「プログラミング的思考」入門』(技術評論社)を読みました。著者は、長野県の工業高校の教諭などを経て、現在はカサイ.ソフトウェアラボの代表だそうです。タイトルにある「プログラミング的思考」とは、本書冒頭で、「問題を解決するための方法や手順をプログラミングの概念に基づいて考えること」としています。まあ、表現を換えただけで同じことだという気はしますが、そこまで突き詰めて考えなくても直感的に理解しておくべきなのかもしれません。私の理解では、プログラミング言語を理解するとともに、そのプログラミングを基にアルゴリズムを考えることだという気がします。プログラミングはまさにアルゴリズムに乗っかって動くわけです。本書ではプログラミング的思考の5本柱として、① 流れ制御構造(組み合わせ)、② データ化、③ 抽象化と一般化、④ 分解とモジュール化、⑤ データ構造とアルゴリズム、を示しています。経済学であれば、一言で「モデル」と表現してしまうような気もします。ということで、これまたタイトルにあるように、本書ではプログラミング言語はPythonということになります。このところ、因果推論とともにPythonについても探求を試みていたのですが、ややムリそうな気配が濃厚となっています。それはともかく、前半の冒頭3章でPythonの文法、書法・技法、グラフィックスを取り上げた後、先ほどのプログラミング的思考の5本柱を第4章で解説し、後半の第5章から第8章が実践編となっています。各章ではプログラミングの実例を豊富に取り上げていて、まあ、私のようなシロートから見てもレベルがまちまちなのですが、第5章でプログラミングの簡単な例示、第6章で再帰的思考、第7章でアルゴリズム、最後の第8章でデータサイエンスに焦点を当てています。簡単なプログラム例としてはフィボナッチ数列があります。まあ、フィボナッチでなくても数列であれば簡単なアルゴリズムに乗せてプログラムできるとは思います。ベルヌーイ数なんて巨大な桁数になりますが、プログラムで作り出すのは難しくもありません。再帰的な解法、というか、応用ではグラフィックスが持ち出されています。まあ、判りやすいような気がします。第7章のアルゴリズムがもっとも重要で、テイラー展開やハノイの塔、戦略性あるゲームの必勝法などが出てきます。いずれもすごく判りやすいのでオススメです。最後に、少し前まで、再帰的(recursive)な解法と反復法(iterative)による解法は、ほぼほぼ同じながら、ビミョーな違いがあることを理解し始めました。自分に返って来る部分があるのが再帰的(recursive)な解法で、少しずつ条件を変えるとはいえ単純に繰り返すのが反復法(iterative)なのだということのようです。まあ、差は大きくない気がします。どうでもいいことながら、PythonではDo While文がないらしいのですが、私はループさせる際はfor文を多用するクセがあったりします。

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次に、佐藤主光『日本の財政』(中公新書)を読みました。著者は、一橋大学の研究者です。私は財政学や公共経済学の分野にそれなりに専門性があり、したがって、この著者の従来からの主張も見知っています。すなわち、現在の日本の財政赤字や公的債務の累増を大きなリスクと考え、財政再建により公的債務の安定化を目指そうとする財政タカ派の財務省路線の代表的な論客の1人です。かたや、私は真逆の政策スタンスで財政赤字や公的債務にはかなり無頓着で財政ハト派だったりします。ですから、昨年の紀要論文 "An Essay on Public Debt Sustainability: Why Japanese Government Does Not Go Bankrupt?" でも、基礎的財政収支の改善と低金利により日本の財政は十分サステイナブルである、と結論したりしていました。でも、黒字と低金利の2つのサステイナビリティ条件のうち、3月に日銀が金融引締めを始めたことにより、崩れる可能性が出てきています。すなわち、金利が成長率よりも高くなる可能性が十分にあるわけです。その意味で、本書で改めて財政タカ派の主張を確認しておきたいと考えました。ただ、従来、というか、ここ30年ほど大きな主張の変化は見られません。要するに、財政収支の悪化を食い止めるのが主目的であって、その目的は一向にハッキリしません。つまり、財政収支を均衡させるのは唯一の目標であって、ほぼほぼ自己目的化しているといえます。少なくとも金融タカ派は不況になった際の金利引下げののりしろ論なんてのを考え出しただけマシな気がします。ただ、財政タカ派の場合は「痛みを伴う改革」について日本人のそれなりの思い入れがあるものですから、支持を得やすい可能性があります。ということで、本書では冒頭でいきなり財政再建の方策として5つの対策を上げています。すなわち、① ワイズスペンディング、② 企業・産業の新陳代謝の促進と雇用の流動化、③ 消費税の大幅増税という税制改革、④ セーフティネットの構築、⑤ Pay-As-You-Go などの財政ルールの設定、となります。②がとても異質に見えるのですが、税収を上げるために成長促進する必要があり、その成長促進のためにこういった政策が必要、という理由です。私は財政再建できるのであればした方がいいと考える一方で、そのコストは現時点では高すぎる可能性があるように見えます。この経済学的なコスト-ベネフィット分析をすることなく、財政再建を自明の目的として、ひたすら財政再建を目指しているように見えるので財政タカ派の議論は少し違和感を覚えます。

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次に、小塩隆士『経済学の思考軸』(ちくま新書)を読みました。著者は、官庁エコノミストから早い段階で学界に転じていて、現在は一橋大学の研究者です。本書のサブタイトルは「効率か公平かのジレンマ」となっていて、トレード・オフの関係にある効率性と公平性のバランスを考えながら、ひいては、市場と社会保障の関係、あるいは経済と幸福、将来世代の経済的厚生まで幅広く論じています。あまりに幅広く論じていて、まさに経済学の論点をいっぱい取り込んでいるので、ここではサブタイトルにしがたって、効率と公平のジレンマないしトレードオフについて考えたいと思います。というのは、経済学における「効率と公平」の問題は、本書ではまったく意識されていないようですが、ある程度の部分まで政治学とか社会学における「自由と民主主義」の問題に通ずるものがあるからです。すなわち、効率と自由に親和性がある一方で、公平と民主主義には相通ずるものがあると考えるべきです。ですから、効率のためには自由を重視し、公平の確保には民主主義で対応すべきと私は考えています。自由と民主主義は一括されて「自由民主主義」という表現もあり、そういった政党も日本のみならず存在するわけですが、経済学における効率と公平のように、ジレンマがある可能性を指摘しておきたいと思います。あくまで効率や自由を重視するのであれば、たとえ大きくとも個人差というものを肯定して、経済学であれば生産性の差に従った処遇、というか、出来る人はできるようにご活躍願う必要があるのに対して、公平や民主主義ではそういった差をならしたり、あるいは、1人1票で参加を促したりする必要があります。少なくとも、効率を重視しすぎると公平が阻害される可能性は本書でも十分認識されているようですし、一般にもご同様だと思います。当然です。経済学的な見方から、効率的で生産性の高い特定の人物ないしグループが、例えば、所得という意味での購買力を平均よりも過大に持つようになれば、たとえそれが経済学的に根拠ある理由に基づくものであっても、公平の観点からは好ましくない可能性があります。ある程度の公平が確保されないと効率が阻害される可能性がある点も忘れるべきではありません。ですから、自由と民主主義において、「殺す自由」とか、「盗む自由」がないのと同じで、経済においても過剰な効率の重視は好ましくないと私は考えています。その昔にサプライ・チェーンと呼んだ複雑な分業体制が、現在では、グローバル・バリュー・チェーンと称されていますが、この複雑極まりない分業体制の中で民主的な公平性が確保されないと、チャイルド・レイバーやスウェットショップのようなものが分業体制に中に紛れ込む可能性が排除できません。特に経済学的には低コストでもって高効率と考えられる場合が少なくなく、効率がサステイナビリティに欠ける生産や消費につながりかねません。それが、市場の弱点のひとつだと思いますし、市場を分析する経済学の弱点でもあります。

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次に、玉野和志『町内会』(ちくま新書)を読みました。著者は、放送大学の研究者であり、ご専門は都市社会学・地域社会学だそうです。本書では、町内会という強制加入に近い地域団体が、本来は行政がやるべき業務を住民の好意に依存してやってもらい、その結果として生じかねないトラブルも行政として責任を取るわけでもなく、住民間の解決に委ねるという、行政から見て何とも都合のいい仕組みがなぜできあがったのか、を解明しようと試みています。私は、徳川期の五人組とか、戦中の隣組ではないかと思っていたのですが、そんな軽い単純な考えを吹き飛ばすような歴史的かつ学術的な分析がなされています。ただ、本書でも指摘しているように、戦後にGHQが戦争翼賛の観点から町内会を解散させた上で、サンフランシスコ平和条約によって独立を回復した後に復活したのも事実です。なお、町内会の学術的な定義はp.27に既存研究から引用されていて、本書では「地域共同管理に当たる住民組織」が肝と考えています。そして、この歴史的な解明とともに、本書では、日本の町内会は西洋における労働組合が果たしてきた自立や自治や参加促進などの役割を担ってきたのではないか、との仮説も提示しています。これはかなり斬新というか、GHQの見方からすれば真逆に近い見方ではないかという気がします。ただ、同時に、本書では行政の役割に分担という観点もあって、労働組合が果たしてきた役割と町内会では、かなり違うんではないかと、私は考えています。もっとも、終戦直後においてすら労働者の半分近くが農林水産業の第1次産業に従事していたわけであり、漁業権の設定とか、典型的には農村における入会地の管理といったような、最近の流行の言葉を使えば、コモンに関する業務は、行政から委託されるのではなく、自律的にこなしていた可能性が高いと私は感じています。自律的に担っていたとはいえ、結果的には行政の役割の分担をこなしていたのは事実かもしれません。そういった行政を補完するような役割は、本書でも指摘しているように、いまだに清掃やごみ収集の補助、あるいは、街灯の設置などでなくなってはいないものの、都市化の進展とともに大きく変化してきていることは確かです。その上、原則全員加入といえば、マンションの管理組合がマンション内ではその昔の町内会に代替する組織になっていて、これは明らかに全戸加入であり、マンション内の自治を有料で、というか、企業活動に住民が助力しつつ一端を担っていることは明らかです。そういった町内会も、あまりに過重な負担から担い手が少なくなり、活動水準を大きく低下させています。本書の最後では、町内会・自治会と市民団体を対比させて「水と油」と表現していますが、この先も、町内会の衰退は免れないのかもしれません。

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次に、成田奈緒子『中学受験の落とし穴』(ちくま新書)を読みました。著者は、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表であり、文教大学教育学部の研究者です。本書では、タイトル通りに、中学受験について考えていて、中学受験ですから小学生が受験するわけで、高校生の大学受験と違って親の影響力の強さがひとつの考慮するポイントとなります。実は、私自身も中学受験をして6年間一貫制の中学・高校に通いましたし、したがって、というか、何というか、倅2人もご同様です。いうまでもなく日本では中学校は義務教育であり、小学校から進学する先の中学校は住んでいる地区に従ってほぼほぼ自動的に決まります。ですから、その自動的に決まる中学校に通うか、あるいは、中学受験して異なる中学校に通うかの選択肢になるわけです。繰り返しになりますが、受験するのは小学生であり、自律的な判断ができる子どもがいる一方で、親の影響力も決して無視はできません。我が家の子どもたちの場合、父親の私が中学受験をして私立中学・高校に通っていた経験がある、という点とともに、当時住んでいたのが南青山という全国でも、というか、おそらく、都内でも有数の中学受験に熱心な地区だったこともあります。私の聞き及ぶ範囲では1/4から1/3くらいの児童が中学受験をするそうです。本書では著者の専門領域である脳の働きから中学受験を考えていて、からだの脳とこころの脳からなる1階部分の上の2階部分におりこうさんの脳が育まれると指摘しています。そして、このこころの脳とからだの脳とおりこうさんの脳の発達の観点から中学受験、さらには、中学受験を超えた範囲での子どもの発達が考えられています。詳細は本書を読んでいただくしかないのですが、もっとも私が肝の部分だと感じたのは、学校や塾では出来ず家庭でしか出来ない脳育てがあるという点です。これも読んでいただくしかないのですが、巷間いわれている点で常識的な範囲で、早寝早起きで朝食を取る、ということがあります。私なんかの時代の大学受験は睡眠時間を削ってでも勉強時間を確保するという考えがなくはなかったのですが、本書でも中学受験と大学受験は違うと指摘していますし、そういった生活リズムの確立は脳の発達が十分ではない小学生には重要なポイントであるのは理解できるところです。本書全体を通じて、やや中学受験のいわゆるハウツー本的な要素はありますし、そういった需要にも対応しているのかもしれませんが、脳の発達という観点から重要な点が指摘されてもいます。その点は評価できると思います。

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2024年7月12日 (金)

対外債務により政府が財政破綻すると何が起こるのか?

日本政府が世界の先進国の中で飛び抜けているのは累積債務の大きさであることは広く認識されています。先進国が加盟してい経済協力開発機構(OECD)の中でもGDP比で200%を超える政府債務を抱えているのは日本だけだと思います。最近の学術論文で "The Social Costs of Sovereign Default" と題して、対外債務により政府が財政破綻すると何が起こるのかを歴史的に分析したペーパーが出ています。もちろん、pdfによる全文ファイルもアップロードされています。引用情報は以下の通りです。なお、3人目の著者は、ロゴフ教授との共著による『国家は破綻する』などの著作でも有名なラインハート教授です。

まず、しっかりと確認しておきたいのは、この論文は、私も冒頭でいささか刺激的でミスリード気味の書き方をしましたが、日本が累積させているような内国通貨建ての国内債務の破綻ではありません。あくまで外貨建ての対外債務不履行による財政破綻です。たぶん、このあたりを意図的にでも混乱させようとする論評が出る可能性が十分ありますから注意が必要です。その上で、論文のABSTRACTを引用すると以下の通りです。

ABSTRACT
This paper investigates the economic and social consequences of sovereign default on external debt. We focus on the crises’ impact on real per capita GDP, infant mortality, life expectancy, poverty headcounts, and calorie supply per capita. After methodological exclusions, the sample covers 221 default episodes over 1815-2020. The analysis adopts an eclectic empirical strategy that relies on an augmented synthetic control method and local projections. Our findings suggest that sovereign defaults lead to significant adverse economic outcomes, with defaulting economies falling behind their counterparts by a cumulative 8.5 percent of GDP per capita within three years of default. Moreover, output per capita remains nearly 20 percent below that of non-defaulting peers after a decade. Based on the trajectory of the health, nutrition, and poverty indicators we study, we assess that the social costs of sovereign default are significant, broad-based, and long-lived.

要するに、1815年から2020年までの100年余りの期間の221のデフォルト例を分析して、経済的にはGDPで計測して3年以内に1人当たりGDPで累計▲8.5%の遅れを生じ、10年後には▲20%余り下回る、ということです。そして、タイトルにあるように、健康、栄養、貧困などの指標から社会コストは重大である、と結論しています。全文ファイルから、いくつかグラフを引用したいと思います。

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上のグラフは、Figure 1.1. Sovereign default and real per capita GDP: Aggregated SCM results を引用しています。よく理解できていないのですが、1815-2020年の221ケースの債務不履行のデータベースを構築したといいながら、1828-2020年の135のケースを用いた結果です。ただ、債務不履行=デフォルトする2年ほど前から1人当たりGDPがトレンドから離れているのは確認できます。デフォルトする少し前から経済状態が思わしくない状態が始まっていたのだろうと思いますが、ひょっとしたら、経済状態が停滞して1人当たりGDPが伸びなくなったからデフォルトしたのかもしれません。デフォルト下少し後からトレンドに近い成長曲線に戻っているように見えるのも、やや皮肉が効いているように私は受け止めました。

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続いて、上のグラフは、社会的コストの代表格ということで、幼児死亡率と平均寿命のグラフ、すなわち、Figure 4.1. Sovereign default and infant mortality: Aggregated SCM results と Figure 5.1. Sovereign default and life expectancy: Aggregated SCM results を引用しています。私の方で無理やりに画像を結合していたりします。これまら、債務不履行=デフォルトの少し前から幼児死亡率の上昇や平均寿命の低下が始まっています。221ケースのデータセットのうち、Figure 4.1. の幼児死亡率は104ケース、Figure 5.1. の平均寿命は127ケースが用いられています。

当然ながら、対外債務に対する政府財政の破綻は経済的にも社会的にも大きなコストをもたらします。国民生活の改善はトレンドから乖離してしまいますし、幼児死亡率や平均寿命も従来トレンドからの改善が遅れ始めます。ただ、一部に繰り返しになりますが、注意すべき点が3点あります。第1に、現在の日本が抱えているのは国内通貨建ての政府債務であり、この論文で分析されている外貨建ての対外債務ではありません。ですから、この分析をそのまま日本の政府債務に当てはめることは出来ません。第2に、因果関係は不明であり、私の直感では、政府財政の破綻以外の何らかの経済の不調が、政府財政の破綻と1人当たりGDPの伸びの鈍化と幼児死亡率低下の遅れと平均寿命の伸びの鈍化をもたらしているような気もします。それがどういった要因は各国の事情により異なる可能性が高いと考えるべきです。第3に、この論文で分析されている外貨建て対外債務による政府財政の破綻と内国通貨建て債務の破綻が同じものであるかどうか、私には不明です。私自身は、現代貨幣理論(MMT)で高らかに宣言されていて、決して証明はされていない「発券機能を有した中央銀行があり、変動為替相場制を採用していれば、内国通貨建ての債務で政府は破綻しない」というのは、それほど信用していませんが、それでも、外貨建ての対外債務で破綻するのと内国通貨建ての政府債務で財政破綻するのは、だいぶんと違うのではないか、という気はします。強くします。

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2024年7月11日 (木)

5月統計の機械受注は足踏みがみられ設備投資は停滞するのか?

本日、内閣府から5月の機械受注統計の結果が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から▲3.2%減少し8578億円となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

5月の機械受注3.2%減 基調判断を下方修正
内閣府が11日発表した5月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は前月比3.2%減少し8578億円だった。2カ月連続で低下した。通信業で携帯電話の基地局関連の受注が落ち込むなど非製造業が弱かった。
基調判断は「持ち直しの動きに足踏みがみられる」とし、4月までの「持ち直しの動きがみられる」から下方修正した。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は0.9%増だった。
非製造業が7.5%減と2カ月ぶりに減少した。通信業が27.6%減と3カ月連続のマイナスだった。基地局向けとみられる通信機の受注が弱かった。
金融業・保険業は前月にシステム投資に伴う電子計算機の大きい受注があった反動で7.8%減と低調だった。不動産業も前月に大きく増えた反動で72.4%減だった。
製造業は1.0%増だった。電気機械や情報通信機械の受注が堅調だった。自動車・同付属品は7.4%減と4カ月ぶりに減った。
内閣府はトヨタ自動車などの認証不正について「それによって受注が落ちているとの情報は寄せられていない」と説明した。
基調判断を下方修正したのは1月以来で、このときは「足踏みがみられる」から「足元は弱含んでいる」に引き下げた。3月に「持ち直しの動きがみられる」に上方修正し、今回再び「足踏みがみられる」に下方修正となった。
内閣府は基調判断の変更理由について、船舶・電力を除く民需で月ごとのぶれをならした3カ月移動平均が減少したことなどを挙げた。
農林中金総合研究所の南武志氏は「全体的な設備投資意欲は底堅いが、足元はやや慎重になっている可能性もある」と指摘した。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+1.2%増でした。記事にある+0.9%増というには見当たりませんでした。いずれにせよ、市場の事前予想は+1%程度ということでしたので、実績の▲3.2%減は予想レンジの下限▲0.1%減を大きく下回りました。4月の前月比▲2.9%減に続いて、5月も▲3.2%減だったわけで、したがって、というか、何というか、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に半ノッチ下方修正しています。今年に入ってからの基調判断は目まぐるしく変更されており、引用した記事の7パラ目にある通り、1月には「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から「足元は弱含んでいる」に引き下げられ、2か月後の3月には「持ち直しの動きがみられる」に上方修正し、今回5月統計を受けて再び「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に下方修正されています。これも、引用した記事の最後のパラにあるように、設備投資については企業マインドとしての意欲は底堅い一方で、設備投資が実行されているかどうかは、GDP統計や本日公表された機械受注などには一向に現れていません。すなわち、投資マインドと実績の乖離が激しくなっています。その理由について、私は十分には理解できていません。これだけ人手不足が続いている中で、設備投資の伸びもなく、したがって、DXやGXが進まないとすれば、日本企業は大丈夫なのでしょうか?

最近読んだ伊丹先生の『漂流する日本企業』でも指摘されていますし、長らく日本企業の投資不足が指摘されていますが、設備投資が進まず、労働者の資本装備率も低迷するため生産性が伸びない中で、人口減少が加速するとすれば、投資不足と人手不足が負のスパイラルを生じるような気がしてなりません。

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2024年7月10日 (水)

上昇幅がまたまた拡大した6月の企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、日銀から6月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+2.9%の上昇となり、先月5月統計からさらに上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数、6月2.9%上昇 5カ月連続で伸び率拡大
日銀が10日発表した6月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は122.7と、前年同月比で2.9%上昇した。5月(2.6%上昇)から伸び率が0.3ポイント拡大した。5カ月連続で伸び率が拡大し、23年8月以来の高い伸びとなった。電気・ガスの補助金が6月検針分から半減した影響が大きかった。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。6月の上昇率は事前の民間予測の中央値(2.9%上昇)と同じだった。
内訳をみると、電力・都市ガス・水道が政府の補助金減少により前年同月比で0.1%上昇し、5月(7.2%下落)から大きく伸びた。石油・石炭製品もガソリン補助金の減少を背景に4.5%上昇した。木材・木製品は人手不足を背景に建築着工が弱含み、国内需要が減少した影響で2.1%下落した。
円安を背景に円ベースの輸入物価指数は前年同月比9.5%上昇し、23年2月(15%上昇)以来の伸びとなった。契約通貨ベースでは前年同月比0.3%上昇と23年3月以来初めてプラスに転じた。
半減した電気・ガスの補助金は8~10月に再開される。今後の企業物価指数の押し下げ要因になる。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+2.9%と見込まれていましたのでジャストミートし、サプライズはありませんでした。国内物価の上昇幅が拡大した要因は、引用した記事にもある通り、政府による電気・ガスの補助金の影響です。6月検針分から補助金が半減し、8~10月には復活の予定です。また、輸入物価が2月から再び上昇に転じ、本日公表の6月統計では+9.5%の上昇と2ケタ近くに達しています。引用した記事にもあるように、契約通貨ベースでの上昇を超えて円建て価格が上昇しています。ただし、原油価格の上昇も考慮すべきです。すなわち、企業物価指数のうちの輸入物価の原油価格の前年同月比を見ると、直近の6月統計では契約通貨建てで+9.1%、円建てで+22.0%の上昇と大きく値上がりしています。我が国では、金融政策を通じた需給関係などよりも、原油価格のパススルーが極端に大きいので、国内物価にも無視し得ない影響を及ぼしている可能性があります。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、電力・都市ガス・水道が6月には+0.1%と5月の▲7.2%の下落から上昇に転じています。食料品の原料として重要な農林水産物も5月の+0.2%から6月は+1.2%と上昇幅を拡大しています。したがって、飲食料品は+2.8%と高い伸びを続け、ほかに、非鉄金属+19.4%、石油・石炭製品と窯業・土石製品がともに+4.5%、などといった費目で高い上昇率を示しています。そして、価格上昇がかなり幅広い費目に及んでおり、生産用機器+3.9%、電気機器+3.0%、情報通信機器+3.1%、はん用機器+3.0%、などの我が国リーディングインダストリーで+3%以上の上昇率となっています。ある意味で、企業間で順調な価格転嫁が進んでいると見ることも出来ます。

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2024年7月 9日 (火)

日銀「さくらリポート」に見る地域経済やいかに?

昨日7月8日から開催されている日銀支店長会議において、「地域経済報告」、いわゆる「さくらリポート」を明らかにしています。まず、日銀のサイトから各地域の景気の総括判断を引用すると以下の通りです。

各地域の景気の総括判断
北陸を除く8地域では、景気は、一部に弱めの動きもみられるが、「緩やかに回復」、「持ち直し」、「緩やかに持ち直し」としている。北陸では、地震の影響による下押しが一部にみられるものの、「回復に向けた動きがみられている」としている。

続いて、各地域の景気の総括判断と前回との比較のテーブルは以下の通りです。

 【2024年4月判断】前回との比較【2024年7月判断】
北海道持ち直している一部に弱めの動きがみられるが、持ち直している
東北緩やかに持ち直している緩やかに持ち直している
北陸能登半島地震の影響により個人消費や生産の一部に下押しがみられており復旧の途上にあるものの、復旧復興需要や生産正常化が進むもとで、持ち直しの動きがみられている能登半島地震の影響により一部に下押しがみられており復旧の途上にあるものの、復旧復興需要や生産正常化が進むもとで、回復に向けた動きがみられている
関東甲信越一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している
東海一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している
近畿一部に弱めの動きがみられるものの、基調としては緩やかに持ち直している一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに回復している
中国緩やかな回復基調にある緩やかな回復基調にある
四国持ち直している持ち直しのペースが鈍化している
九州・沖縄一部に弱めの動きがみられるが、緩やかに回復している一部に弱めの動きがみられるが、緩やかに回復している

pdfの全文リポートには、「企業等の主な声」として、① 個人消費、② 生産・輸出・設備投資、③ 雇用・賃金設定、④ 価格設定、の4項目があるのですが、③ 雇用・賃金設定のトピックでは大幅賃上げのご意見が際立っており、中には「原資の確保に先行して平均8%の賃上げを実施」といったものも含まれています。また、こういった動きを受けて、ロイターの報道では、「さくらリポート」の別冊の位置づけで「日銀が、中小企業にも広く賃上げが波及しているとの調査結果をまとめたリポートを月内にも公表する見通し」ということのようです。今月7月末30-31日に予定されている金融政策決定会合で利上げする材料にするのではないか、という気がします。

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2024年7月 8日 (月)

緩やかな回復続く景気ウォッチャーと赤字の貿易収支を上回る第1次所得収支で黒字となった経常収支

本日、内閣府から6月の景気ウォッチャーが、また、財務省から5月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+1.3ポイント低下の47.0となった一方で、先行き判断DIも+1.6ポイント上昇の47.9を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+2兆8499億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトなどから記事を引用すると以下の通りです。

街角景気6月は1.3ポイント上昇、4カ月ぶりプラス 判断は維持
内閣府が8日発表した6月の景気ウオッチャー調査は現状判断DIが47.0となり、前月から1.3ポイント上昇した。4カ月ぶりのプラス。景気判断は「緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる」で維持した。
指数を構成する3部門では、家計動向関連DIが前月から2.1ポイント上昇し47.0、雇用関連が0.2ポイント上昇し46.2となった。企業動向関連は47.3と0.6ポイント低下した。
内閣府の担当者によると、インバウンド需要や人流の回復が景況感を押し上げている一方、物価高が押し下げ要因となっている大きな構図は変わらない。
2-3カ月先の景気の先行きに対する判断DIは前月から1.6ポイント上昇の47.9と、4カ月ぶりに上昇した。内閣府は先行きについて「価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」とした。
調査期間は6月25日から30日。6月は所得税・住民税の定額減税が実施された。電気・ガス料金は政府補助の終了で、7月請求分(6月使用分)から値上がりが予定されている。
経常黒字41.8%増、5月は2兆8499億円 配当金が増加
財務省が8日発表した5月の国際収支統計(速報)によると、海外とのモノやサービスなどの取引状況を示す経常収支は2兆8499億円の黒字だった。前年同月から41.8%増加した。海外からの債券利子や配当金の受け取りが増え、第1次所得収支の黒字幅が拡大した。
経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、旅行収支を含むサービス収支、外国との投資のやり取りを示す第1次所得収支などで構成する。
経常収支の黒字額は、比較可能な1985年以降の5月としては過去最大となった。
第1次所得収支の黒字幅が前年同月比で13%増の4兆2111億円と、比較可能な1985年以降で過去最大となった。海外の金利上昇や円安を背景に受取額が増えた。
貿易収支は1兆1089億円の赤字と、前年同月から赤字幅は7.6%縮小した。資源高や円安により原油などの輸入額が膨らんだ。輸出は自動車のほか半導体関連の製造装置や電子部品が好調で、赤字幅縮小の要因となった。
サービス収支は23億円と、前年同月の1803億円の赤字から黒字に転じた。黒字は2カ月ぶり。訪日外国人の消費額から日本人が海外で使った金額を引いた旅行収支の黒字が55.7%増の4417億円と、黒字幅を拡大した。

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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景気ウォッチャーの現状判断DIは、昨年2023年年末11~12月から今年2024年2月まで50を超える水準が続いていましたが、5月統計で45.7をつけた後、本日公表の6月統計では47.0に上昇しています。長期的に平均すれば50を上回ることが少ない指標ですので、現在の水準は決して低くない点には注意が必要です。6月統計では家計動向関連・企業動向関連ともに上昇しています。家計動向関連では住宅関連を別にすれば、小売関連・飲食関連・サービス関連とも+2前月からポイントを上回る上昇でした。企業動向関連では、製造業が前月から+1.5ポイント上昇したものの、非製造業が▲2.5ポイント低下し、企業動向関連として▲0.6ポイント低下を示しています。やはり、内需に依存する部分が大きい非製造業における物価上昇の影響が出ている印象です。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる」で据え置いています。先行きについては、猛暑効果や定額減税への期待が見られると考えるべきです。
また、内閣府のリポート「景気の現状に対する判断理由等」の中には、例えば飲食関連で、インバウンドの好影響につき「コーヒー豆製造卸の売上が2倍になっている。新規取引依頼が多く、良くなっている兆しがある。インバウンドが多く客単価が高いことも、良くなるとみている要因の1つである(東京都)」といった見方がある一方で、価格上昇に起因する売上減、すなわち、インフレの影響と見られるものがいくつかありました。例えば、南関東の一般小売店で「じりじりと円安が続いているため、輸入商材の価格が上昇し、販売量に影響している(東京都)」とかです。近畿のスーパーでも、「値上げの動きが始まった年明けから春頃は、そこまで販売量の落ち込みはみられなかった。その後の円安などもあり、値上げ価格が定着してくるにつれて、買い控えによる販売量の減少が進んでいる。」といった意見が見られます。もうひとつ目についたのは賃上げへの言及です。例えば、その他レジャーのうちの映画で「物価の上昇は止まらないが、それに伴う賃上げがない(東京都)。」などです。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは経常黒字は+2兆4577億円でした。レンジの上限は+3兆円を超えていましたので、実績の+2兆8499億円は大きなサプライズはありませんでした。円安が進みましたので経常黒字が大きく膨らんでいます。しかし、貿易収支は相変わらず赤字を計上しており、円安にも関わらず赤字が縮小したのとどまっています。もちろん、経常収支にせよ、貿易収支にせよ、たとえ赤字であっても何ら悲観する必要はなく、資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。加えて、先週7月2日に「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」報告書が公表されていますが、国際収支や経常収支に関して、それほど騒ぎ立てる必要もないと私は受け止めています。

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2024年7月 7日 (日)

本日は東京都知事選の投票日

私はツイッタで、経済学、読書、ジャズなどの話題をフォローしていますが、我が国を代表するジャズピアニストの1人である山中千尋がここまで熱烈に蓮舫候補を支持しているとは知りませんでした。
もはや、私自身は東京都知事選の投票権を持っていません。でも、未来を託せる方にに東京都知事になっていただきたいという願いは変わりありません。

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英国名門のイートン校ではスマートホンは禁止でガラケーを配布するらしい

BusinessInsider誌の報道によれば、英国の名門パブリック・スクールであるイートン校では1年生に対してスマートホンを禁止し、代わりにノキアのガラケーを配布し、勉学のためのインターネット接続はiPadを配布するらしいです。まず、記事のサマリー3点を引用すると以下の通りです。

Eton College bans smartphones for first-year students, gifting them with Nokia 'brick' phones instead
  • Eton College is swapping out first year student's smartphones for Nokias.
  • The policy comes as the boarding school is trying to cope with an increasingly digital world for students.
  • Students will also receive an iPad to use for academic studies to access the internet.

イートンは寄宿制の学校ですから、スマートホンを持ち込ませず、通信はノキアのガラケー=brick phone で代替し、学習のためのインターネット接続はiPadを使う、ということらしいです。私は論評を控えます。いいことかもしれませんし、ムダなだけかもしれません。現時点では判りかねます。でも、ひとつの試みであることは確かで、しかも、イートン校だからこそできるんだろうと思います。私の勤務校はムリだと思います。なお、記事の中ではパソコンについては言及がありませんでした。やや不思議な気がします。最後に、どこで拾ったかが記憶にないので、ソースの不確かな文書ではありますが、今年2024年7月4日付けで、9月入学者に対するイートン校からの本件に関するお知らせです。

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2024年7月 6日 (土)

横浜に競り勝つ

  RHE
横  浜000100000 160
阪  神00001100x 270

伊藤投手のナイスピッチングと佐藤輝選手の決勝打で横浜に競り勝ちました。
今夜は先発伊藤投手が天敵オースチン選手に先制ソロを食らったものの、5回には小幡選手の同点タイムリー、6回には佐藤輝選手の逆転タイムリーが出て、最後はゲラ投手から岩崎投手をつないで逃げ切りました。リリーフ陣の登板過多がやや心配ですが、そのうちに雨も降るでしょう。

明日も西投手を守り立てて、
がんばれタイガース!

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今週の読書は夏休みの論文準備のための専門書3冊をはじめ計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、北尾早霧・砂川武貴・山田知明『定量的マクロ経済学と数値計算』(日本評論社)は、EBPMに基づく政策分析に欠かせない数値計算による定量的な経済分析の理論と実践について解説しています。林岳彦『はじめての因果推論』(岩波書店)は、因果推論の基本的考え方や方法などを取り上げています。金本拓『因果推論』(オーム社)は、ビジネスシーンでの因果推論の実践的な活用を目指し、Pythonのプログラム・コードや分析結果のアウトプットなども豊富に収録しています。今野敏『一夜』(新潮社)は、竜崎と伊丹を主人公とする「隠蔽捜査」シリーズの第10弾です。神奈川県警管内の誘拐事件と警視庁管内の殺人事件の謎が解き明かされます。中山七里『有罪、とAIは告げた』(小学館)は、「静おばあちゃん」シリーズの主人公の孫が東京地裁判事として、中国から提供された「法神」と名付けられ、裁判官の役割を果たすAIの運用と評価を命じられます。清水功哉『マイナス金利解除でどう変わる』(日経プレミアシリーズ)は、日経新聞のジャーナリストが引締めに転じた日銀の金融政策の影響につき、住宅ローンなどの身近な話題を基に取材結果を明らかにしています。相場英雄『マンモスの抜け殻』(文春文庫)は、北新宿の巨大団地にある老人介護施設のオーナーが殺された事件の謎が解明されます。夏休みの研究論文のために因果推論の分厚な本を3冊も読んだのですが、実は、今もって読んでいるPythonの入門書も含めて、どうも、不発に終わってしまいました。この夏休みの研究はどうしようかとこれから考えます。
ということで、今年の新刊書読書は1▲6月に160冊を読んでレビューし、7月に入って今週ポストする7冊を合わせて167冊となります。目標にしているわけでも何でもありませんが、年間300冊に達する勢いかもしれません。なお、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。

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まず、北尾早霧・砂川武貴・山田知明『定量的マクロ経済学と数値計算』(日本評論社)を読みました。著者は、経済学の研究者であり、それぞれ所属は政策研究大学院大学、一橋大学、明治大学です。本書は、学部上級生レベルの経済学に関する基礎知識を前提に、おそらくは、修士論文に取り組む院生を対象にした学術書です。ですので、一般ビジネスパーソンは読みこなすのはハードルが高そうな気がします。ただ、プログラミングに興味ある向きは一読の価値あるかもしれません。巻末付録には本書で使用したプログラム・コードを収録したwebサイトが紹介されていて、MatLab、Python、Julia、R、Fortranのソースコードがダウンロードできます。本書ではマクロ経済分析だけでなく、EBPMに基づく政策分析に欠かせない数値計算による定量的な経済分析の理論と実践について明らかにしています。本書は2部から構成されていて、第Ⅰ部の基礎編では数値計算の基礎的な理論を展開し、動学的計画法や時間反復法について解説しています。第Ⅱ部の応用編ではより実践的な数値計算の方法を議論し、代表的個人ではなくビューリー・モデルに基づく異質な個人を導入した格差分析、世代重複(OLG)モデルによる世代間の異質性の導入、時間反復法を応用し金利のゼロ制約を考慮したニューケインジアン・モデルによる最適コミットメント政策の評価、また、ビューリー・モデルを拡張した数値計算のフロンティアなどを取り上げています。私の理解なので間違っているかもしれませんが、本書のテーマであるマクロ経済学の数値計算とは、基本的に、時系列に沿ったマクロ変数、GDPとか、物価とか、金利とかの変化を相互の関係を微分法適式で表した上で、シミュレーションにより分析・解析しようと試みる学問領域です。もっとも、本書では「シミュレーション」という用語は出てきません。ほぼほぼ同じような使い方で、再帰的(ricursive)あるいは反復的(itarative)な解法、ということになります。すなわち、経済学をはじめとして多くの科学におけるモデルは数学的な表現として、各変数の関係を微分方程式体系で表します。しかしながら、中学校の連立方程式とは違って、その微分方程式体系を解析的に、すなわち、式のままエレガントに解くことがほぼほぼ不可能なわけです。その昔の大学生だったころ、微分方程式を解こうと思えばベルヌーイ型に持ち込む、といったテクニックがありましたが、宇宙物理学の数々の天体の運行とか、マクロ経済学の経済成長と失業率と物価の変動とかは、式のままでは絶対といっていいほど解けないわけです。特に、経済学の場合は時系列変数で時間の流れとともにGDPや失業率や物価指数が変動します。ですから、再帰的に数値を当てはめてたり、繰返し法により反復的に解くことになります。厳密には違うのかもしれませんが、モデルをシミュレーションするわけです。経済学では、その昔の1940年代にクライン-ゴールドバーガー型のモデルがケインズ経済学的な基礎による計量経済モデルとして提唱され、ガウス-ザイデル法を用いて解いていたりしたわけです。そういったマクロ経済学における数値計算についての計量経済学の学術書です。最後に感想として、私は1980年代終わりのバブル経済期まっ盛りのころに米国の首都ワシントンDCで連邦準備制度理事会(FED)に派遣され、クライン-ゴールドバーガー型の計量経済モデルをTrollでシミュレーションしていたついでに、BASICを勉強した記憶があるのですが、本書の付録のプログラム・コードにはBASICのソース・コードはありません。Fortranがまだ生き残っている一方で、BASICのコードが提供されていないのは少しばかりショックでした。PythonとかRはフリーで提供されている上に、その昔にサブルーチンとよんでいたライブラリなんかが豊富にあって便利なのかもしれません。まあ、計量経済学の初歩的なアプリケーションであるEViewsやSTATAがないのは理解できるのですが...

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次に、林岳彦『はじめての因果推論』(岩波書店)を読みました。著者は、国立環境研究所の研究者です。タイトルから本書を初心者向けの入門書だと思いがちですが、私のレベルが低いだけかもしれないものの、あまり初心者向きともいえません。そもそも、因果推論そのものが学問的にそれほど容易に理解されているわけではありませんし、本書を読み進むには、それなりの科学的な素養を必要とします。また、バックグラウンドのお話であって、特に、明示はされていませんが、因果推論のためのプログラムはRでエンコードされているように私は感じました。本書は3部構成であり、第Ⅰ部では因果推論の基本的な考え方の理解を進めるべく工夫されています。DAG=Direct Acyclic Graphによって因果の方向を直感的に確認するとともに、処置変数と結果変数の両方に影響するような要因のないバックドア基準を満たす変数セットを取る必要性が強調されます。第Ⅱ部では因果効果の推定方法につき解説されています。共変量を用いた識別、傾向スコア法によるマッチング、さらに、共変量による調整ができない際に用いる差の差分析(DiD)や回帰不連続デザイン(RDD)、また、操作変数(IV)法や媒介変数法などが取り上げられています。そして、最後の第Ⅲ部では因果効果が何を意味して、逆に、何を意味していないのかについて解説を加えています。経済学の範囲でいえば、EBPMによる何らかの政策効果の実証のためには、本書p.233でもエビデンス・ヒエラルキーが示されていますが、最上位のもっとも強力な因果関係を確認するための方法はランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスです。それに続いて、少なくとも1回あるいはそれ以上のRCT、さらに、ランダム化されていない準試験、すなわち、本書の範囲内でいえば、自然実験や差の差分析、そして、観察研究としては回帰分析やコーホート研究があり、最後の方ではケーススタディなどの記述的研究となります。しかし、従来から十分自覚しているように、私は因果関係を重視するタイプのエコノミストではありません。経済データを用いた実証的な研究はもちろんやりますが、時系列分析に取り組む場合も少なくありません。GDPでも、失業率でも、物価でも、univariate=単変数で時の流れとともに確率的に変化・変動すると考えることも可能です。本書でも、因果関係と相関関係を識別することの重要性を強調していますが、因果関係とはそれほど単純なものではありません。少なくとも、一方向=unilateralな因果関係だけが存在するわけではなく、双方向=bilateralな因果関係もあれば、多角的=multilateralな因果関係すらあると考えるべきです。私がよく持ち出す例は、喫煙と肥満と低所得の3要因です。この3要因は複雑に絡み合って、お互いに因果関係を形成している気がしてなりません。もちろん、適切な分析目的に合致したモデルを構築して数量分析すれば、それなりの因果関係は抽出できる可能性が十分ありますが、そうなると、モデルの識別性にも立ち入った考察が必要になると私は考えます。もうそうなると、果てしない確認作業が必要です。そのあたりは、漠然と因果の連鎖、あるいは、ループで考えるのも一案ではないか、と私は考えています。また、論理的な因果関係があるにもかかわらず、無相関という稀なケースもあります。すなわち、人間の場合なら、統計的に、性行為と妊娠はほぼほぼ無相関です。しかし、性行為が原因となって妊娠という結果をもたらすことは中学生なら知っていることと思います。ビッグデータの時代には相関関係で十分であり、因果関係の必要性が薄れた、という議論も聞かれます。でも、エコノミストにとってはEBPMの要請は極めて強く、因果推論はこれからも必要になりそうな気がします。

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次に、金本拓『因果推論』(オーム社)を読みました。著者は、コンサルティング会社を経て現在は製薬会社にてご勤務だそうです。本書はかなり実践的な内容で、Pythonのプログラム・コードや分析結果のアウトプットなども豊富に収録しています。加えて、因果推論の中でも、ほぼほぼ経済や経営に関する分野に限定していて、純粋理論的な解説は数式の展開でなされている一方で、自然科学はほぼ含まれておらず、アルゴリズムの樹形図も数多く示されています。因果推論を経済・経営のex-anteな意思決定やex-postな評価に用いるという考えかもしれません。たただ、Pythonのプログラム・コードが示されているということは、本書冒頭でも明示しているように、基本的なPythonのコードの理解を有している必要があります。もっとも、私はBASICだけでPythonのプログラムを組んだ経験はありませんが、ある程度の理解は可能でした。逆にいえば、それほどPythonに関して深い理解を必要としているわけではありません。ということで、本書では冒頭第1章の次の第2章と第3章で因果推論の基礎理論や手法を展開しています。もちろん、第3章の手法の中には因果推論で多用される傾向スコア法、回帰不連続デザイン(RDD)、操作変数(IV)法、差の差分析(DiD)、といったところが網羅されています。そういった理論や手法の後、単なる因果推論だけではなく、さらに派生して機械学習を第4章で取り上げ、第5章では因果推論と機械学習の融合による因果的意思決定を議論しています。これも因果推論によく用いられるCausal Forestなんかはこの第5章で取り上げられています。機械学習まで範囲を広げるとは、私はちょっとびっくりしました。また、第6章ではセンシティビティ・アナリシス=感度分析を取り上げ、機械学習による感度分析の実行手順まで示しています。そして、私が特に興味を持ったのは第7章であり、因果推論のための時系列分析に焦点を当てています。因果推論では状態空間表現を用いることが少なくありませんが、本書第7章ではそこまで複雑な表現は多用されておらず、季節変動、トレンド、外因性変動、異なる時点での自己相関などの時系列解析の概要を説明した後、データの準備から始まって、検証から将来予測までを解説しています。最後の第8章では因果関係の構造をデータから推計する因果探索について取り上げています。時間整合的なものと時間に関する先行性を考慮した時系列モデルも解説されています。全体として、繰り返しになりますが、数式などで基礎理論の解説は十分なされている一方で、Pythonコードやアウトプットが幅広く示されていて実践的な印象です。感覚的に理解できる概念図やグラフも豊富に収録されていて、因果推論の各ステップが明示されているので理解がはかどります。特に、DAG=Direct Acyclic Graphをいちいちチェックするように各ステップが組み立てられており、関係性の確認が容易にできるように工夫されています。Pythonにはライブラリがいっぱい用意されていて、因果推論などには実践的に便利そうだという気がしました。私もBASICだけではなくPythonにもプログラミングを拡張しますかね、という気になってしまいました。

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次に、今野敏『一夜』(新潮社)を読みました。著者は、警察ものを得意とするミステリ作家であり、本書は幼なじみでともに警察庁キャリアの竜崎伸也と伊丹俊太郎です。竜崎は神奈川県警刑事部長、伊丹は警視庁刑事部長です。本書はこの2人を主人公、というか、主人公はたぶん竜崎ですが、この2人が登場する「隠蔽捜査」シリーズの第10弾と位置づけられています。ちなみに、出版社では特設サイトを解説しています。ということで、竜崎の管轄内である小田原で有名作家の北上輝記が行方不明との一報が舞い込みます。そこに、北上の友人で、同じく作家の梅林賢が面会を申し込み、誘拐とは断定されていない段階で誘拐ではないかと指摘します。なお、北上輝記は純文学作家、梅林賢はミステリを得意とするエンタメ作家で、神奈川県警の佐藤本部長は北上のファン、伊丹が梅林のファンだったりしますが、主人公の竜崎は小説を読まず、2人の作家を知りもしません。それはともかく、梅林は実に理論的に北上が単なる行方不明なのではなく、誘拐であると指摘します。そして、捜査への協力を示唆し、竜崎も参考意見としてミステリ作家の意見を聞くというオープンな態度を示します。他方、伊丹の警視庁管内では警備員が殺害されるという事件が発生していました。この誘拐事件の自動車の走行ルートが警備員殺害事件の現場に近接していることから、伊丹が神奈川に乗り込んできたりします。他方で、竜崎の家庭内でも問題が発生します。息子の邦彦が留学先のポーランドから帰国したのはいいのですが、せっかく入った東大を中退して、かねてからの希望であった映画製作の道に進むといい出します。ミステリですので、あらすじはここまでとします。まあ、小田原に端を発する有名作家の北上の誘拐と警視庁管内における警備員殺害が何らかのリンクを有していることは容易に想像される通りです。エンタメのミステリですので、詳細は言及しませんが、有名作家の誘拐事件の解決、警備員殺害事件の解明、さらに、邦彦の東大中退騒動の決着、と読みどころ、読ませどころが3点あるわけです。最後に、この「隠蔽捜査」シリーズはミステリとしての謎解きとともに、竜崎の非伝統的ながら合理的極まりないマネジメント能力の発揮も読ませどころなのですが、シリーズ第10弾の本作品にして、どちらもほぼほぼ最低レベルに落ちています。ミステリとしての謎解きは、別段、何の面白みも意外性もなく終わってしまいます。竜崎のマネジメントも、ミステリ作家の意見を聞くという非伝統的なやり方は目につく一方で、いつものキレはありません。ただ、さすがによく考えられた表現力、リーダブルな文章でスラスラと読み進めます。やっぱり、大森署のころのヒール役だった第2方面本部管理官の野間崎とか、大森署の刑事だった戸髙なんかの竜崎周辺にいるキャラの立った脇役がゴッソリと抜けると、こんな感じなのか、と受け止めています。脇役として、竜崎・伊丹の同期でハンモックナンバー1番の八島は本作品にも登場しますが、野間崎のようなヒール役としての登場ではありませんし、戸髙の役割を担う人物は私にはまだ見えません。

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次に、中山七里『有罪、とAIは告げた』(小学館)を読みました。著者は、多作なミステリ作家です。この作品もミステリであり、主人公は東京地裁の新人裁判官である高遠寺円です。姓から容易に想像される通り、同じ作家の「静おばあちゃん」シリーズの主人公で、日本で20人目の女性裁判官であった高遠寺静の孫に当たります。作品中では伝説となっている高遠寺静はすでに退官どころか、亡くなっています。当然です。高遠寺円は「静おばあちゃん」シリーズの初期の作品では、法律を学ぶ20歳前後の大学生であったと記憶していますが、司法試験に合格し判事任官しているようです。ということで、主人公は日々多忙な業務に追われていたところ、東京高裁総括判事の寺脇に呼び出され、AI先進国である中国から提供された「法神」と名付けられ、裁判官の役割を果たすAIの運用と評価を命じられます。地裁判事を高裁総括判事が呼び出して業務を指揮命令するのは、裁判官の世界だけに私はちょっと違和感を覚えるのですが、それはさておいて、「法神」を実際に運用すると、現場でとても重宝されます。実績としてすでに出されている過去の裁判記録をインプットすると、「法神」は一瞬にして判決文を作成してしまいます。それも、裁判官の持つ何らかのバイアスまで克明に再現した判決文を提供してくれます。そこに、主人公の高遠寺円は18歳の少年が父親を刺殺した事件を陪席裁判官として担当することになります。18歳という年齢、失業していた父親の行動などを勘案した犯行様態などから、裁判官として判断の難しい裁判が予想されます。しかも、東京地裁で裁判長を務めるベテラン判事は厳罰主義で臨む裁判官として知られています。裁判員裁判において、裁判長のベテラン判事は、自分の判決の傾向をインプットした「法神」の判断結果を裁判員に対して開示するというトリッキーなやり方で、裁判員にバイアスをかけようと試みます。といったあらすじでストーリーが進むのですが、繰り返しになりますが、この作品はミステリです。謎解きが含まれています、というか、重要な構成要素となります。ですので、あらすじはここまでとします。昨年2023年の東大の第96回五月祭では「AI法廷の模擬裁判」と題して、ChatGPT-4を裁判官役とする模擬裁判のイベントが開かれ、いくつかのメディアの注目を集めました。ですので、近い将来にこのような裁判が実行される可能性も否定できません。ただ、現時点では作者の取材が十分であったかどうかという点も含めて、やや消化不良の部分が残る作品と私は受け止めました。まず、AI裁判官たる「法神」を提供するのが中国というのがあざといです。その上、売込みに来る中国人も怪しげでうさんくさい人物です。ミステリとしての謎解きもありきたりで意外感はありません。AI裁判とか、AI裁判官、というものを一般国民が想像すれば、こんな感じ、という最大公約数的なストーリーやラストになっています。小説としてもいわゆる「生煮え」の部分が少なくなく、繰り返しになりますが、消化不良を起こしかねない作品です。まさか、読者のレベルを過小評価しているわけではないでしょうから、もう少し専門的な知識を調べて書いて欲しかった気がします。

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次に、清水功哉『マイナス金利解除でどう変わる』(日経プレミアシリーズ)を読みました。著者は、日本経済新聞のジャーナリストです。ですので、日銀による金融引締め、金利引上げ、あるいは、マイナス金利解除などは大賛成というメディアのジャーナリストで、タイトルのマイナス金利解除をはじめ、金利引上げなどの金融引締めを歓迎し、日銀に対する提灯本となっています。序章では私なんかがどうでもいいと考えている金融引締めへの転換を決めた時期について、どうして4月ではなく3月だったのかの解説から始まっています。私は本書の解説よりは、政府との関係であったのだろうと考えています。すなわち、その昔は予算案審議中の公定歩合操作は行わない、という不文律がありました。金利が変更されると予算の組替えが必要になる場合があるからです。しかし、1998年の日銀法改正から日銀の独立性が強化された一方で、今回の異次元緩和の終了、金融引締めへの転換などなどは政府の意向を大いに忖度した金融政策変更であったと考えるべきです。というか、そういった政府の意向を受けた総裁人事に基づく政策変更であったことは明らかです。政府の意向に基づく金融引締めという色彩を減じるための予算案審議中の金融政策変更ではなかったか、と私は勘ぐっています。その序章を受けて、第1章では、金融政策の引締めへの転換の内容をジャーナリストらしく解説しています。特に、ETF購入による株価の下支えを終了し、▲2%の株価下落に対応する「2%ルール」も終了するなどの株価への影響を詳述しているのが印象的です。この株式市場と対峙した日銀の金融政策については第4章でさらに詳しく掘り下げられています。今世紀に入ってからくらいの四半世紀の金融政策の歴史を振り返り、旧来の日銀理論に立脚して「金融政策の限界」を強調しています。第2章では、日銀による追加的な利上げについて、いつになるかの時点、判断要素、取りあえずは25ベーシスの引上げとしても、結局のところ、どの水準まで引き上げるのか、などなどを考えています。第3章では、一般国民の関心の高い住宅ローンへの対応を中心に、家計が取るべき対応に着目しています。このあたりは読んでいただくしかありません。第4章はすでに書いたように、日銀と株式市場との関係を考えており、第5章は、現在進行形のインフレの要因などを分析しようと試みていますが、むしろ、デフレからインフレへの転換で必要な対応策、というか、資産運用について考えています。つねに、資産運用に関するジャーナリストや専門家のアドバイスには眉に唾をつけて見る癖のある私にはそれほどのものとも思えませんでした。

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次に、相場英雄『マンモスの抜け殻』(文春文庫)を読みました。著者は、社会派ミステリ作家です。本書は2021年コロナまっ最中の作品でしたが、このほど文庫本で出ましたので読んでみました。ということで、主人公はこの巨大団地で少年時代を過ごした警視庁刑事の仲村勝也です。そして、この巨大団地で老人介護施設のオーナーで、ほど近い歌舞伎町の顔役でもある老人の藤原光輝が団地の上階から転落死します。防犯カメラの画像から、被害者に最後に接触したのは美人投資家で知られる松島環で、また、被害者の藤原光輝が経営する老人介護施設で働く石井尚人も捜査線上に浮かびます。そして、この松島環と石井尚人は、ともに、同じ団地で少年少女時代を過ごした仲村勝也の幼なじみであり、仲村勝也は彼らの無実を信じて操作を続けます。ということで、ミステリですのであらすじはここまでとします。タイトルにある「マンモス」というのは大規模な集合住宅、有り体にいえば団地のことであり、作中の「富丘団地」とは、明らかに新宿区の戸山団地です。私が3年近く勤務していた総務省統計局から大久保通りをはさんで斜向かいに広がっていました。その巨大団地が団塊の世代の高齢化をはじめ、団地内に老人介護施設が出来るほどの高齢化の時代を迎えています。ただ、こういった新宿近くの都心の団地だけでなく、多摩ニュータウンなどの戦後早い段階で開発された住宅地は一気に高齢化が進んでいることは事実です。そして、本書ではそういった老人介護施設の闇の部分が大きくクローズアップされています。老人介護施設ではなく障がい者施設ではありますが、「恵」が運営している障害者グループホームで食材費の過大請求などが発覚し、事業所としての指定取消しなどの処分が講じられたことは広く報じられ、情報に接した読者も多いと思います。でも、本書に登場する老人介護施設もものすごい闇の部分を持っています。その闇の部分に主人公の幼なじみであり、容疑者にも目されている石井尚人も巻き込まれていたりします。同時に、事件とは直接関係ないながら、主人公の仲村勝也の母親が独居していて、少し認知症の症状が出はじめ、主人公の妻が義理の母親の世話で精神的にも肉体的にも大きな疲労が蓄積している点も小説に盛り込まれています。本書は、ミステリというカテゴリーとしては、それほど凝った内容ではないかもしれませんが、高齢者介護の実態をフィクションとして描き出し、社会派ミステリとして読み応えある内容に仕上がっています。

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2024年7月 5日 (金)

6月の米国雇用統計に見る雇用の減速は利下げにつながるか?

日本時間の今夜、米国労働省から6月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の6月統計では+206千人増となり、失業率は前月から+0.1%ポイント上昇して4.1%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事をやや長めに8パラ引用すると以下の通りです。

Jobs report today: Economy added 206,000 jobs in June, unemployment at 4.1%
U.S. employers added 206,000 jobs in June as hiring held steady despite persistent inflation and high interest rates.
But the employment picture was mixed at best as job gains for April and May were revised down by a hefty 111,000 and the private sector added a disappointing 136,000 jobs.
Also, the unemployment rate, which is calculated from a separate survey of households, rose from 4% to 4.1%, the highest since November 2021, the Labor Department said Friday. The increase was triggered by an encouraging rise in the labor force - the pool of people working and hunting for jobs - that outstripped the number that landed positions.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that 195,000 jobs were added last month, so job creation modestly beat estimates.
But the job market in the spring was decidedly less buoyant that believed. Payroll gains were revised down from 165,000 to 108,000 in April and from 272,000 to 218,000 in May.
Broadly, economists say, the report could bolster the case for the Federal Reserve to cut interest rates as early as September.
Average hourly pay rose 10 cents to $35, pushing down the yearly increase to 3.9%, the lowest since June 2021.
Wage growth generally has slowed as pandemic-related worker shortages have eased, but it's still above the 3.5% pace that's in line with the Federal Reserve's 2% inflation goal.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、ひとつの目安とされる+200千人程度に落ち着きました。引用した記事の4パラ目にあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+195千人という見方でしたので、記事でも "modestly beat estimates" 「予想をわずかに上回る」と表現しています。失業率も4%程度とまだまだ低いとはいえ、先月5月統計より上昇していることも確かです。加えて、これも引用した記事の5パラ目にあるように、直前4月と5月の統計における非農業部門雇用者の増加幅も、それぞれ△50千人ほど下方修正されています。過熱感の強かった米国の雇用統計もようやく落ち着いてきたように見えます。
当然ながら、賃金の伸びも同時に過熱感が和らぎつつあります。これも、引用した記事の最後の2パラにあるように、平均時給は35ドル、前年同月比上昇率は5月の+4.1%から直近の5月統計では+3.9%まで伸びが縮小しています。+2%のインフレ目標に相当する賃金上昇率は+3。5%と考えられており、まだ上回っているものの、緩やかながら近づいていることも確かです。
ということで、下のグラフは米国の時間あたり賃金と消費者物価指数のそれぞれの前年同月比上昇率です。賃金上昇率がジワジワと低下している一方で、消費者物価(CPI)上昇率が下げ止まっているのが見て取れます。なお、賃金の最新月は雇用統計と同じ6月ですが、消費者物価はまだ6月の統計は公表されておらず、最新月は5月です。

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5月の景気動向指数は3か月連続で上昇し基調判断が引き上げられる

本日、内閣府から3月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から+0.2ポイント上昇の111.2を示し、CI一致指数は+1.3ポイント上昇の116.5を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから報道を引用すると以下の通りです。

5月景気動向指数1.3ポイント上昇、3カ月連続改善で判断引き上げ
内閣府が5日公表した5月の景気動向指数速報(2020年=100)によると、指標とされる一致指数は前月比1.3ポイント上昇し116.5と3カ月連続のプラスとなった。先行指数も同0.2ポイント上昇し111.1となり3カ月ぶりのプラスだった。基調判断を従来の「下方への局面変化」から「下げ止まり」に引き上げた。
一致指数はコロナ禍前の2019年9月以来の高水準。指数を押し上げたのは、耐久消費財出荷指数や鉱工業用生産財出荷指数、鉱工業生産指数など。自動車の生産回復でカーナビや照明など関連製品の生産・出荷が伸びに寄与した。
先行指数を押し上げたのは、最終需要財在庫率指数や鉱工業用生産財在庫率指数など。自動車や関連部材の出荷増が寄与した。
一方、消費者態度指数や新設住宅着工床面積などは指数を押し下げた。消費者態度指数は連休中の宿泊料金値上げなどが響いた。
基調判断の上方修正は昨年4月の改定値以来。

包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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5月統計のCI一致指数については、今年2024年3月から続けて3か月ぶりのの上昇となりました。加えて、3か月後方移動平均の前月差が+1.40ポイント上昇し、7か月後方移動平均の前月差も0.13ポイント上昇しています。3か月後方移動平均は3か月連続の上昇、7か月後方移動平均は5か月振りの上昇となりました。引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「下方への局面変化」から「下げ止まり」に上方修正しています。引用した記事にもある通り、基調判断の上方改定は昨年2023年4月以来だそうです。なお、細かい点ながら、上方や下方への局面変化は7か月後方移動平均という長めのラグを考慮した判断基準なのですが、改善からの足踏みや悪化からの下げ止まりは3か月後方移動平均で判断されます。いずれにせよ、私は従来から、基調判断が「下方への局面変化」であっても、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そうすぐには日本経済が景気後退局面に入ることはないと考えています。そして、実際に、5月統計から「下げ止まり」に上方改定されました。もちろん、景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありませんし、米国経済がそれほど減速の兆しを見せず高金利が続くとすれば、円安がさらに進行しかねないわけですので、それはそれで好ましくないという見方もあり得るんではないかと思います。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、耐久消費財出荷指数が+0.71ポイント、鉱工業用生産財出荷指数が+0.55ポイント、生産指数(鉱工業)が+0.50ポイント、といった生産関係の系列が大きな寄与であったほか、商業販売額(小売業)(前年同月比)と商業販売額(卸売業)(前年同月比)がともに+0.13ポイントの寄与を示しています。他方で、輸出数量指数が▲0.52ポイント、有効求人倍率(除学卒)が▲0.28ポイント、とマイナスの寄与を示しています。

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2024年7月 4日 (木)

IMF Blog の Chart of the Week は AI Preparedness Index

やや旧聞に属するトピックが連日のように続きますが、6月25日付け国際通貨基金のブログ IMF Blog の Chart of the Week では、"Mapping the World's Readiness for Artificial Intelligence Shows Prospects Diverge" と題して AI Preparedness Index が明らかにされています。まず、そのマッピングを IMF Blog のサイトから引用すると以下の通りです。

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面積が小さいので、ものすごく見づらいのですが、174か国中でシンガポールがトップでスコアは0.80です。シンガポールのスコアを超えて0.8超のスコアの国は見当たらないので、私が見逃しているのでなければ、スケーリングとしては 0.8 and more はシンガポールだけだと思います。日本のスコアは0.73であり、先進国のG5の中で、米国の0.77やドイツの0.75よりは低くなっていますが、英国の0.73と同等であり、フランスの0.70を上回っています。また、東アジアの中では中国の0.64よりも高く、韓国は日本と同じ0.73となっています。
最後に、このチャートの基となる研究成果は以下のスタッフノートです。この中で、"Labor income inequality may increase if the complementarity between AI and high-income workers is strong, while capital returns will increase wealth inequality. However, if productivity gains are sufficiently large, income levels could surge for most workers." と、AIの普及や活用により労働所得の不平等が拡大するリスクとともに、生産性の向上により多くの労働者の所得が急上昇する可能性も指摘しています。そうあって欲しいものだと、私は切実に願っています。

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2024年7月 3日 (水)

ようやく爆発した佐藤輝選手の2発で広島に競り勝つ

  RHE
阪  神010001000 292
広  島000010000 131

お目覚め佐藤輝選手の2発で広島に競り勝ちました。
昨夜のゲームで、延長戦を制し勢いあったと思われますが、なかなかにホームが遠くて併殺ばかりという打線でした。でも、先発大竹投手が1失点ながら自責点はゼロとよく投げました。7回からは自慢のリリーフ陣が何とか抑え切って、首位広島に連勝でした。

明日も村上投手を守り立てて、
がんばれタイガース!

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東京商工リサーチによる「想定為替レート」の調査結果やいかに?

やや旧聞に属するトピックかもしれませんが、先週6月28日、東京商工リサーチから「想定為替レート」に関する調査結果が明らかにされています。調査はアンケートではなく、期首想定為替レートを開示資料などをもとに集計してコラムに取りまとめています。まず、東京商工会議所のサイトから 期初ドル想定為替レート推移 のグラフを引用すると以下の通りです。一昨日7月1日に公表された日銀短観でも想定レートが対米ドルで140円台半ばだったのですが、この東京商工リサーチの調査結果でもよく似た水準が策定されている印象です。

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上のグラフからも明らかな通り。2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックでは為替の想定は何ら影響を受けなかったのですが、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を契機とするエネルギー価格や穀物価格などの上昇に伴い、想定為替レートも大きく円安に触れています。輸入額の増加による円の減価が招いた結果であると考えるべきです。
他方で、東京商工リサーチのコラムでは、「円安の行き過ぎによるマイナス面の影響も無視できない。円安で輸入材や原料価格が高止まりするなかで、中小・零細事業者はコストアップ分の価格転嫁も容易でない」と指摘しつつ、同時に、「輸出比率の高い大手メーカーにとって、円安ドル高は業績の押し上げ効果を生む」と強調しています。すなわち、この調査の対象は、3月期を決算とし、東京証券取引所に上場する主な電気機器、自動車関連、機械、精密機器メーカー109社なのですが、2024年3月期の業績動向で、「増収増益」が過半の58社に対して、「減収減益」は21社にとどまるとリポートしています。

現在の対ドル160円の為替水準は、私自身はやや円安が行き過ぎているという印象を持ちますが、果たして、どの水準の為替レートが適切であるのか、また、それは市場で決定されるべきのか、それとも、何らかのスムージング・オペレーションも含めて、政府が市場に介入すべきなのか、どこまで議論されているのか、私には不明です。EBPMならざる印象論で突き進むだけでいいのでしょうか。

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2024年7月 2日 (火)

スーパーリッチに課税する

先週、ブラジルで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議において、ズックマン教授から "A blueprint for a coordinated minimum effective taxation standard for ultra-high-net-worth individuals" と題するリポートが提出されています。このリポートはズックマン教授のサイトにもアップロードされています。会議の模様は以下のG20サイトにあります。

日本語の報道資料は私がみた範囲でロイターと日経新聞があります。以下の通りです。

日本でも同じことですが、個人への税金は決して累進課税になっているわけではなく、個人所得と税率は90パーセンタイルくらいまでは上昇して累進課税っぽく見えるんですが、実は、逆U字カーブになっています。すなわち、スーパーリッチ層に対する税率はむしろ低かったりするわけです。米国とフランスとオランダの所得パーセンタイルと税率をプロットしたグラフをズックマン教授のリポート p.13から引用すると以下の Figure 2: Effective income tax rates by income groups and for billionaires の通りです。

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どうして、このような税率の「反転」が生じるかといえば、スーパーリッチ層の所得において金融資産からの収益の占める比率が高いからです。もっといえば、労働の報酬に対する賃金への税率に対して、株式の売却益などに対する税率が低く抑えられているからです。先日、私は『ワルラス 社会経済学研究』(日本評論社)を読みましたが、社会主義者を自称するワルラスは明確に労働に対する報酬である賃金に対する税率はゼロ、すなわち、賃金は非課税を主張しているのですが、日本を含む先進各国では真逆の政策対応で、賃金所得に対しては累進課税、金融資産所得に対しては税金を軽課する、という政策を取っているわけです。ズックマン教授のリポートでは、"A minimum tax equal to 2% of wealth on global billionaires would raise $200-$250 billion per year in tax revenue from about 3,000 taxpayers globally; extending the tax to centi-millionaires would generate an additional $100-$140 billion." (p.5) 「世界の億万長者に対して資産の2%に相当するミニマム税を課すことにより、世界中の約3,000人の納税者から年間2,000~2,500億ドルの税収が得られる。この税を1000億ドル以上の富豪にまで拡大すると、さらに1,000~1,400億ドルの税収が生まれる。」と指摘しています。なお、引用における"billionaires"=「億万長者」とは、グラフからも理解できるように、世界人口の0.00001%、約3,000人ということのようです。
最後に、日本における逆U字型の税率は、第17回 税制調査会(2022年10月4日)に提出された財務省の説明資料のに見られます。p.32 申告納税者の所得税負担率 を引用しています。合計所得金額が1億円を超えると税率が低下するわけです。

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誠についでながら、ズックマン教授は米国カリフォルニア大学バークレー校の准教授であり、『21世紀の資本』で一躍時代の寵児となったピケティ教授の下で博士号を取得しています。昨年2023年には、かのジョン・ベイツ・クラーク・メダルを受賞しています。その際の同僚のサエズ教授の紹介文は以下の通りです。

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2024年7月 1日 (月)

横ばい圏内の6月調査日銀短観と下方改定された1-3月期GDP統計

本日、日銀から6月調査の短観が、また、内閣府からGDP統計の遡及改定結果が、それぞれ公表されています。日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは3月調査から+2ポイント改善して+13、他方、大企業非製造業は▲1ポイント悪化の+33となりました。大企業製造業では2四半期ぶりの改善です。また、本年度2024年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+8.4%と、3月調査の+3.3%から上方修正されています。まず、日銀短観について日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業製造業の景況感、小幅改善 6月日銀短観
日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回3月調査(プラス11)から2ポイント改善してプラス13だった。3月から小幅改善し、2四半期ぶりの改善となった。素材関連業種の景況感が改善したほか、自動車業界でダイハツ工業の不正認証に伴う出荷停止の影響も緩和したとみられる。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。6月調査の回答期間は5月29日~6月28日。回答率は99.2%だった。
大企業製造業の業況判断DIはプラス13と、QUICKが集計した民間予想の中心値(プラス12)を1ポイント上回った。自動車業界でダイハツの出荷停止の影響が緩和して生産が回復した半面、トヨタ自動車などで新たに発覚した不正問題が関連産業に影響を与えている。自動車は足元で1ポイント悪化しプラス12、先行きは2ポイント悪化しプラス10だった。
原材料高を製品価格などに反映する動きが広がったことで、景況感の改善がみられた。素材業種は5ポイント改善してプラス14、紙・パルプは7ポイント改善してプラス11だった。汎用機械は設備投資の進展で4ポイント改善してプラス27になった。
大企業非製造業の業況判断DIはプラス33と、3月調査(プラス34)より1ポイント低かった。依然として高い水準で推移しているが、消費の弱含みや人手不足などの影響で2020年6月以来4年ぶりの悪化となった。小売りは原材料コストや賃上げの影響で景況感が12ポイント悪化してプラス19だった。
宿泊・飲食サービスは3ポイント悪化しプラス49だった。インバウンド(訪日外国人)消費によって高水準を維持しているが、先行きについては「インバウンド需要の持続性に対する懸念も聞く」(日銀)。原材料価格の高騰も業況の悪化をもたらしているとみられる。
企業の物価見通しは全規模全産業で1年後は前年比2.4%、3年後は2.3%、5年後は2.2%となった。政府・日銀が掲げる2%物価目標近傍で推移するとみている。
調査時の水準と比較した際の販売価格の見通しは、1年後は2.8%、3年後は4.1%、5年後は4.8%といずれも前回調査から0.1ポイント上方修正された。原材料高や人件費上昇の影響を受け、企業が引き続き価格転嫁を進めるとみられる。
企業の事業計画の前提となる24年度の想定為替レートは全規模全産業で1ドル=144円77銭だった。円安・ドル高の進行を受けて、1ドル=141円42銭としていた前回調査から円安方向に修正された。ドル円相場は1日に一時1ドル=161円台まで下落しており、現状よりも円高想定で企業は慎重に業績を見積もっている。

いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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先週、日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては、製造業・非製造業ともにおおむね横ばい圏内との予想であり、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回3月調査から+1ポイント改善の+12、逆に、非製造業は▲1ポイント悪化の+33、と予想されていました。横ばい圏内の動きという意味でも、動きのマグニチュードでもサプライズはありませんでした。すなわち、実績としては、短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが3月調査から+2ポイント改善して+13となり、また、大企業非製造業では▲1ポイント悪化して+33となりました。何といっても、自動車工業の動きが落ち着いています。3月調査の短観に大きくネガな影響を及ぼしたダイハツの認証不正の影響は和らいだ一方で、トヨタ他の大手メーカーの認証不正が発覚しています。ほかには、原材料価格の上昇が製品価格に順調に転嫁されている点が企業マインドを改善していると考えるべきです。大企業製造業における3月調査から6月調査にかけての改善幅が、素材産業では+5、加工業種では+1となっているのが価格転嫁の進展を反映していると私は受け止めています。
先行きの景況感については、製造業については大企業・中堅企業・中小企業ともに、これまた、横ばい圏内の動きを予想していますが、非製造業については規模にかかわりなく悪化の方向が示唆されています。非製造業の中でも、特に、いずれの業種でも先行きマインドが悪化すると見込まれています。想定為替レートは、引用した記事にもある通り、3月調査の141.42\/$から6月調査では144.77\/$へと、ジワリと円安方向に修正されています。円安は多少なりとも輸出に有利であって製造業には恩恵ある一方で、非製造業では円安による物価上昇が製造業以上に大きなマイナスの影響をもたらすのだろうと受け止めています。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感の払拭と不足感の拡大が見られます。特に、雇用人員については足元から目先では不足感がますます強まっている、ということになります。コロナ禍前の人手不足感を上回っています。今春闘での賃上げが昨年を上回った背景でもあります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、名目賃金が物価上昇以上に上昇して、実質賃金が上向くという段階までの雇用人員の不足は生じているかどうかに疑問があり、その意味で、本格的な人手不足かどうか、賃金上昇を伴う人で不足なのかどうか、については、まだ、私は日銀ほどには確信を持てずにいます。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではない可能性があるのではないか、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私にはまだ謎です。実質賃金、すなわち、名目賃金が物価上昇に見合うほど上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感が大きくなる段階には達していません。要するに、低賃金労働者が不足しているだけであって、低賃金労働の供給があれば、生産要素間で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れである可能性を感じます。

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日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。設備投資計画に関しては、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、大企業全産業で+13.9%増でしたが、実績は+11.1%でしたので少し下振れました。規模別に見ると、繰り返しになりますが、大企業が+11.1%増、そして、中堅企業が+9.0%増なのですが、中小企業は▲0.8%減と、中小企業の厳しさが伺われます。日本では企業間格差は産業間や地域間よりも規模間格差が大きいのが特徴なのですが、今回の日銀短観の設備投資計画にはこの規模間格差が現れているのかもしれません。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。今回の6月調査では全規模全産業で+8.4%増の高い伸びが計画されています。3月調査よりも上積みされました。カーボンニュートラルを目指したグリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた投資がいよいよ本格化しなければ、ますます日本経済が世界から取り残される、という段階が近づいているような気がして、設備投資の活性化を期待しています。

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本日、内閣府から統計不正に対応した1~3月期のGDP統計の遡及改定結果と6月の消費者態度指数が公表されています。GDP統計の遡及改定は、国土交通省の建設工事受注動態統計が8年間に渡って34.5兆円の過大推計をしていた不適切処理に対応する遡及改定です。1~3月期のGDP成長率は2次QEの▲0.5%のマイナス成長から▲0.7%に下方改定されています。2023年度の成長率も+1.2%から+1.0%に修正されています。GDP前期比成長率と需要項目別寄与度の推移のグラフは上の通りです。また、消費者態度指数を構成する5項目の消費者意識指標のうち、「収入の増え方」と「耐久消費財の買い時判断」が上昇した一方で、「雇用環境」と「暮らし向き」が低下し、消費者態度指数としては前月から+0.2ポイント上昇しています。統計作成官庁である内閣府は基調判断を「改善に足踏みがみられる」で据え置いています。また、消費者の物価予想について「上昇する」と見込む割合は先月の93.5%からさらに上がって、93.8%に達しています。消費者態度指数のグラフは以下の通りです。

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