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2024年7月25日 (木)

33年ぶりの高い伸びとなった6月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から6月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月からさらに加速して+3.0%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについても同様に+3.0%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、実質33年ぶりの伸び 人件費転嫁
企業が人件費の上昇を企業間取引の価格に反映する動きが広がっている。日銀が25日公表した6月の企業向けサービス価格指数は前年同月比3.0%上昇した。消費税増税の影響がある期間を除くと1991年9月(3.2%)以来、約33年ぶりの高い伸びとなった。消費者向け財やサービスへの価格転嫁が進めば、先行きの消費者物価指数(CPI)を押し上げる材料となる。
6月の企業向けサービス価格では、プラントメンテナンス(3.5%)や土木建築サービス(7.1%)といった幅広い業種で、賃上げ分の価格転嫁を主因とした上昇がみられた。生産額に占める人件費コストの高低によって分類した指数でみると、人件費の割合が高いサービスでは価格の上昇率が2.8%に達した。人件費を価格に転嫁する動きが続いていることを示唆している。
SMBC日興証券の宮前耕也氏は「賃上げの転嫁や、経済活動正常化による景気回復が複合的に寄与した結果、33年ぶりの高水準となった」と指摘する。
サービス価格が堅調に推移する背景には歴史的な賃上げ率がある。連合の最終集計結果によると、基本給を底上げするベースアップ(ベア)を含めた2024年の平均賃上げ率は前年比5.1%と、1991年以来33年ぶりに5%を上回った。
日銀は地域経済報告(さくらリポート)の別冊で、地域の中堅・中小企業で「昨年を上回るあるいは高水準であった昨年並みの賃上げの動きに広がりがみられている」と分析した。中小企業では人材の獲得や引き留めを目的とした防衛的な賃上げの動きも広がっている。幅広い賃上げの影響が、企業間の取引価格にも波及したとみられる。
企業向けサービス価格は企業間の取引のため、時間差をともなって消費者に転嫁される可能性がある。一方でインフレを加味した実質賃金は過去最長となる26カ月連続のマイナスだ。消費者向けの商品やサービスへの転嫁は売上高の減少につながる恐れもあるため、企業がどれほどコスト増加分を消費者に転嫁できるかは不透明な部分も大きい。
SOMPOインスティチュート・プラスの小池理人氏は「CPIに波及するには、消費を押し上げるだけの実質賃金の改善を注視する必要があるだろう」と指摘する。

もっとも注目されている物価指標のひとつですから、長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速はいったん終了したものの、最近時点で再加速が見られ、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は6月統計で+2.9%を示しています。他方、その名の通りのサービスの企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準として一貫して上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、昨年2023年7月に+2%まで加速し、本日公表された6月統計では+3.0%に達しています。12か月連続で+2%以上の伸びを続けているわけです。+2%前後の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性がありますし、日銀の物価目標、これは生鮮食品を除く消費者物価上昇率ですが、その物価目標の+2%も超えています。ただ、大きく超えているわけではないと私は認識しています。加えて、真ん中のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、企業向けサービス価格指数(SPPI)で見てもインフレ率は高いながら、物価上昇がさらに加速する局面ではないんではないか、と私は考えています。また、人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率と高人件費比率のサービスの違いに大きな差はありません。むしろ、6月統計の前年同月比で見て、高人件費率サービスは+2.8%の上昇であるのに対して、低人件費率サービスは+3.2%の上昇となっています。引用した日経新聞の記事のタイトルの「人件費転嫁」というのは大きく間違っているわけではありませんが、人件費率に関係なく価格上昇が見られる点は忘れるべきではありません。加えて、昨年2023年から今年2024年にかけて、春闘賃上げ率が高まっていることを背景に、物価上昇は人件費が転嫁された結果であるというマコトしやかな説が流れていますが、政策投資銀行のリポートでも「2023年以降では(物価)上昇要因のほとんどが企業収益の増加によるもの」と指摘しています。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて5月統計のヘッドライン上昇率+3.0%への寄与度で見ると、機械修理や宿泊サービスや廃棄物処理などの諸サービスが+1.49%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率のほぼほぼ半分を占めています。人件費以外も含めてコストアップが着実に価格に転嫁されているというのが多くのエコノミストの見方ではないでしょうか。また、インバウンドの寄与もあり、宿泊サービスは前年同月比で+26.8%の上昇と、5月統計の+12.9%から大きく加速しています。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている石油価格の影響が大きい道路貨物輸送や外航貨物輸送や旅行サービスなどの運輸・郵便が+0.46%、ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.33%、景気敏感項目とみなされている広告も+0.29%、などとなっています。

為替相場について、私はそれほど大きな興味を持っていないのですが、それでも、今朝の日経新聞を見ると「円、一時1ドル=152円台に 日銀追加利上げを意識」といったタイトルの記事があって、円安是正が進んでいる実感があります。他方で、「日経平均一時1200円安 円高と共振、調整局面の足音」といった記事も見かけます。日銀が金融引締めに突き進み、為替の円安が是正される、ここまではいいとしても、さらに、株安が進んで設備投資や住宅投資も停滞する、といった波及効果を理解せずに日銀に金融引締めをオススメしているエコノミストって、ひょっとしたら、ホントにいたりするんでしょうか?

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