横ばい圏内の6月調査日銀短観と下方改定された1-3月期GDP統計
本日、日銀から6月調査の短観が、また、内閣府からGDP統計の遡及改定結果が、それぞれ公表されています。日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは3月調査から+2ポイント改善して+13、他方、大企業非製造業は▲1ポイント悪化の+33となりました。大企業製造業では2四半期ぶりの改善です。また、本年度2024年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+8.4%と、3月調査の+3.3%から上方修正されています。まず、日銀短観について日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
大企業製造業の景況感、小幅改善 6月日銀短観
日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回3月調査(プラス11)から2ポイント改善してプラス13だった。3月から小幅改善し、2四半期ぶりの改善となった。素材関連業種の景況感が改善したほか、自動車業界でダイハツ工業の不正認証に伴う出荷停止の影響も緩和したとみられる。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。6月調査の回答期間は5月29日~6月28日。回答率は99.2%だった。
大企業製造業の業況判断DIはプラス13と、QUICKが集計した民間予想の中心値(プラス12)を1ポイント上回った。自動車業界でダイハツの出荷停止の影響が緩和して生産が回復した半面、トヨタ自動車などで新たに発覚した不正問題が関連産業に影響を与えている。自動車は足元で1ポイント悪化しプラス12、先行きは2ポイント悪化しプラス10だった。
原材料高を製品価格などに反映する動きが広がったことで、景況感の改善がみられた。素材業種は5ポイント改善してプラス14、紙・パルプは7ポイント改善してプラス11だった。汎用機械は設備投資の進展で4ポイント改善してプラス27になった。
大企業非製造業の業況判断DIはプラス33と、3月調査(プラス34)より1ポイント低かった。依然として高い水準で推移しているが、消費の弱含みや人手不足などの影響で2020年6月以来4年ぶりの悪化となった。小売りは原材料コストや賃上げの影響で景況感が12ポイント悪化してプラス19だった。
宿泊・飲食サービスは3ポイント悪化しプラス49だった。インバウンド(訪日外国人)消費によって高水準を維持しているが、先行きについては「インバウンド需要の持続性に対する懸念も聞く」(日銀)。原材料価格の高騰も業況の悪化をもたらしているとみられる。
企業の物価見通しは全規模全産業で1年後は前年比2.4%、3年後は2.3%、5年後は2.2%となった。政府・日銀が掲げる2%物価目標近傍で推移するとみている。
調査時の水準と比較した際の販売価格の見通しは、1年後は2.8%、3年後は4.1%、5年後は4.8%といずれも前回調査から0.1ポイント上方修正された。原材料高や人件費上昇の影響を受け、企業が引き続き価格転嫁を進めるとみられる。
企業の事業計画の前提となる24年度の想定為替レートは全規模全産業で1ドル=144円77銭だった。円安・ドル高の進行を受けて、1ドル=141円42銭としていた前回調査から円安方向に修正された。ドル円相場は1日に一時1ドル=161円台まで下落しており、現状よりも円高想定で企業は慎重に業績を見積もっている。
いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。
先週、日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては、製造業・非製造業ともにおおむね横ばい圏内との予想であり、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回3月調査から+1ポイント改善の+12、逆に、非製造業は▲1ポイント悪化の+33、と予想されていました。横ばい圏内の動きという意味でも、動きのマグニチュードでもサプライズはありませんでした。すなわち、実績としては、短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが3月調査から+2ポイント改善して+13となり、また、大企業非製造業では▲1ポイント悪化して+33となりました。何といっても、自動車工業の動きが落ち着いています。3月調査の短観に大きくネガな影響を及ぼしたダイハツの認証不正の影響は和らいだ一方で、トヨタ他の大手メーカーの認証不正が発覚しています。ほかには、原材料価格の上昇が製品価格に順調に転嫁されている点が企業マインドを改善していると考えるべきです。大企業製造業における3月調査から6月調査にかけての改善幅が、素材産業では+5、加工業種では+1となっているのが価格転嫁の進展を反映していると私は受け止めています。
先行きの景況感については、製造業については大企業・中堅企業・中小企業ともに、これまた、横ばい圏内の動きを予想していますが、非製造業については規模にかかわりなく悪化の方向が示唆されています。非製造業の中でも、特に、いずれの業種でも先行きマインドが悪化すると見込まれています。想定為替レートは、引用した記事にもある通り、3月調査の141.42\/$から6月調査では144.77\/$へと、ジワリと円安方向に修正されています。円安は多少なりとも輸出に有利であって製造業には恩恵ある一方で、非製造業では円安による物価上昇が製造業以上に大きなマイナスの影響をもたらすのだろうと受け止めています。
続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感の払拭と不足感の拡大が見られます。特に、雇用人員については足元から目先では不足感がますます強まっている、ということになります。コロナ禍前の人手不足感を上回っています。今春闘での賃上げが昨年を上回った背景でもあります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、名目賃金が物価上昇以上に上昇して、実質賃金が上向くという段階までの雇用人員の不足は生じているかどうかに疑問があり、その意味で、本格的な人手不足かどうか、賃金上昇を伴う人で不足なのかどうか、については、まだ、私は日銀ほどには確信を持てずにいます。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではない可能性があるのではないか、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私にはまだ謎です。実質賃金、すなわち、名目賃金が物価上昇に見合うほど上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感が大きくなる段階には達していません。要するに、低賃金労働者が不足しているだけであって、低賃金労働の供給があれば、生産要素間で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れである可能性を感じます。
日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。設備投資計画に関しては、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、大企業全産業で+13.9%増でしたが、実績は+11.1%でしたので少し下振れました。規模別に見ると、繰り返しになりますが、大企業が+11.1%増、そして、中堅企業が+9.0%増なのですが、中小企業は▲0.8%減と、中小企業の厳しさが伺われます。日本では企業間格差は産業間や地域間よりも規模間格差が大きいのが特徴なのですが、今回の日銀短観の設備投資計画にはこの規模間格差が現れているのかもしれません。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。今回の6月調査では全規模全産業で+8.4%増の高い伸びが計画されています。3月調査よりも上積みされました。カーボンニュートラルを目指したグリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた投資がいよいよ本格化しなければ、ますます日本経済が世界から取り残される、という段階が近づいているような気がして、設備投資の活性化を期待しています。
本日、内閣府から統計不正に対応した1~3月期のGDP統計の遡及改定結果と6月の消費者態度指数が公表されています。GDP統計の遡及改定は、国土交通省の建設工事受注動態統計が8年間に渡って34.5兆円の過大推計をしていた不適切処理に対応する遡及改定です。1~3月期のGDP成長率は2次QEの▲0.5%のマイナス成長から▲0.7%に下方改定されています。2023年度の成長率も+1.2%から+1.0%に修正されています。GDP前期比成長率と需要項目別寄与度の推移のグラフは上の通りです。また、消費者態度指数を構成する5項目の消費者意識指標のうち、「収入の増え方」と「耐久消費財の買い時判断」が上昇した一方で、「雇用環境」と「暮らし向き」が低下し、消費者態度指数としては前月から+0.2ポイント上昇しています。統計作成官庁である内閣府は基調判断を「改善に足踏みがみられる」で据え置いています。また、消費者の物価予想について「上昇する」と見込む割合は先月の93.5%からさらに上がって、93.8%に達しています。消費者態度指数のグラフは以下の通りです。
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