鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計と雇用統計から見る景気の現局面やいかに?
本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも7月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から+2.8%の増産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+2.6%増の14兆3090億円を示し、季節調整済み指数は前月から+0.2%の上昇を記録しています。雇用統計の方は、失業率は前月から+0.2%ポイント上昇して2.7%と悪化した一方で、有効求人倍率は前月を+0.01ポイント上回って1.24倍と改善しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
鉱工業生産、7月は前月比2.8%増 半導体製造装置など寄与
経済産業省が30日発表した7月鉱工業生産指数速報は前月比2.8%上昇となった。半導体製造装置などが寄与した。前月は「一進一退ながら弱含み」としていた基調判断は「一進一退」に引き上げた。基調判断引き上げは2023年3月以来1年4カ月ぶり。ロイターの事前予測調査の同3.3%上昇は下回った。
生産予測指数は8月が前月比2.2%上昇、9月が同3.3%低下となった。ただ、生産予測指数は上振れする傾向があり、これを補正した8月の試算値は前月比0.9%低下する見込み。メーカーの生産に影響を及ぼす可能性のある台風の影響も織り込まれていない。
今回、基調判断を上方修正したことについて、経産省は「在庫減少などを背景にした企業マインドの改善」を理由に挙げる。先行きは「慎重に注視する」(幹部)としている。
経産省は企業の生産計画の下方修正の動きなどから企業マインドを計測しており、緩やかに改善傾向が続いているとみている。
小売業販売額7月は前年比2.6%増、自動車など寄与し29カ月連続プラス
経済産業省が30日に発表した7月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比2.6%増だった。ロイターの事前予測調査では2.9%増が予想されていた。値上げや自動車販売回復などが寄与し29カ月連続でプラスとなった。
もっとも、7月は前年と比べて休日数が2日少なかったことや、猛暑による外出控えが一部業種・業態には下押し要因だった。
<飲食料品、22カ月ぶりマイナスに>
業種別では無店舗小売りが前年比9.6%増、自動車が6.3%増、医薬品・化粧品が5.1%増などだった。値上げ効果でプラスが続いていた飲食料品は0.5%減と22カ月ぶりでマイナスとなった。「猛暑による外出控えが響いた」(経産省)。
業態別ではドラッグストアが前年比4.5%増、百貨店が5.1%増、家電大型専門店が1.6%増などだった。ドラッグストアはコメやアイスクリームなどの食品、スキンケア、メーク用品が伸びた。家電は猛暑でエアコンなどが好調だった。
一方、スーパーは0.1%のマイナスに転じた。外出控えなどが影響したと経産省ではみている。
7月完全失業率は2.7%に悪化、有効求人倍率1.24倍で前月から上昇
総務省が30日発表した7月の完全失業率(季節調整値)は2.7%で、前月(2.5%)から0.2ポイント上昇した。一方、厚生労働省が発表した7月の有効求人倍率(季節調整値)は1.24倍で、前月から上昇した。
完全失業率は、ロイターの事前予測調査で2.5%が予想されていた。実際の失業率は予想を上回った。有効求人倍率は、事前予測で1.23倍が見込まれていた。
総務省によると、7月の就業者数は季節調整値で6766万人と、前月に比べて20万人減少。完全失業者数は、前月に比べて11万人増加し187万人だった。
厚生労働省によると、7月の有効求人数は前月に比べて0.3%減。製造業や建設業など人手不足ではあるものの、原材料や光熱費の上昇が重荷となり求人を手控える傾向が続いている。
有効求職者数(同)は0.9%減だった。企業の賃上げの動きもあり、現在の職から転職を様子見する動きもあるいう。
有効求人倍率は、仕事を探している求職者1人当たり企業から何件の求人があるかを示す。今回は有効求人者数より有効求職者数の減少が大きかったため、有効求人倍率は上昇した。
長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。
まず、引用した記事にはある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は+2.9%の増産が予想されていましたので、実績の前月比+2.6%の増産は、前月比プラスの増産とはいえ、やや物足りない印象です。しかしながら、引用した記事にもある通り、減産の大きな要因は自動車工業の認証不正の影響ですので、何とも先行きは不透明です。ただ、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、1月に下方修正した「一進一退ながら弱含み」を本日公表の7月統計では上方改定して「弱含み」を削除し、単なる「一進一退」へ変更しています。また、先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の8月は補正なしで+2.2%の増産ながら、上方バイアスを除去した補正後では▲0.9%の減産と試算されています。加えて、9月も▲3.3%の減産との予想となっています。これらを単純に生産に当てはめると、7~9月期の生産は前期から小幅の減産にとどまる可能性が十分あります。経済産業省の解説サイトによれば、7月統計における生産は、電気・情報通信機械工業が+7.5%の増産で+0.64%の寄与度を示しています。加えて、生産用機械工業が+7.0%の増産、寄与度+0.57%、電子部品・デバイス工業でも+9.7%の増産、寄与度+0.56%、などとなっています。他方で、生産低下に寄与したのは、石油・石炭製品工業が▲7.6%の減産、寄与度▲0.13%のみとなっています。
続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売は堅調な動きを続けています。しかし、小売業販売額の前年同月比は+2.6%の伸びを示していますが、引用した記事にある通り、ロイターでは+2.9%の伸びを市場の事前コンセンサスとしていましたので、やや物足りない印象を持つエコノミストもあろうかと思います。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断している小売業販売額の基調判断は、本日公表の7月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.8%の上昇となりましたので、基調判断が「上方傾向」で据え置かれています。少しさかのぼると、4月統計の「一進一退」から5月統計では「緩やかな上昇傾向」に、また、先月6月統計では「上昇傾向」と2か月連続の上方改定となった後、7月統計では据置きです。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、7月統計ではヘッドライン上昇率が+2.8%、生鮮食品を除くコア上昇率も+2.8%、コアCPI上昇率が+2.7%となっていますので、小売業販売額の7月統計の+2.6%の増加は、インフレ率をやや下回っている可能性があります。したがって、実質的な消費は伸びていない可能性があると考えるべきです。加えて、考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。引用した記事にある通り、国民生活に身近で頻度高い購入が想像されるスーパーでは猛暑による外出控えもあって、小幅ながら前年同月比マイナスであるのに対して、百貨店販売の伸びが大きくなっています。この点にインバウンド消費が現れている可能性がうかがえます。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。
続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。記事にもある通り、ロイターでは失業率に関する事前コンセンサスは+0.1%ポイントの上昇、有効求人倍率は1.23倍が見込まれていました。人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率も有効求人倍率もともに水準が高くて雇用は底堅い印象ながら、そろそろ改善局面を終えた可能性がある、と私は評価しています。ただ、それでも、7月統計で失業者数は前年同月比で+5万人増加していますが、内訳を見ると、非自発的な失業が▲2万人減少する一方で、自己都合による自発的な失業が+7万人増加しており、中身としては決して悪くない気がしています。もちろん、先行指標の新規求人数などを見る限り、そろそろ景気回復局面は最末期に近づいている可能性が高いと考えるべきです。先進各国が景気後退に陥らないソフトランディングのパスに乗っているにもかかわらず、我が国の雇用の改善が鈍っている印象を持つエコノミストは、おそらく、私だけではないと思います。ただ、あくまで雇用統計はまだら模様であり、人口減少下での人手不足は続くでしょうし、米国がソフトランディングの可能性を強めている限り、それほど急速な景気悪化が迫っているようにも見えません。
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