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2024年8月 2日 (金)

本格的な利上げと金融引締めを開始した日銀金融政策の帰結やいかに?

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一昨日7月31日の金融政策決定会合の後、日銀は「金融市場調節方針の変更および長期国債買入れの減額計画の決定について」を公表し、政策金利である無担保コールレート(オーバナイト物)を0.25%に引き上げ、さらに、長期国債の買入れ額については毎四半期4,000億円程度ずつ減額し、2026年1~3月に3兆円程度とする、と明らかにしています。要するに、金利を引き上げ、長期国債買入れについても減額し、本格的な金融引締めを開始したわけです。それを簡単に図表で解説したのが上の画像であり、日銀による「2024年7月金融政策決定会合での決定内容」を引用しています。
果たして、金融引締めの帰結がどうなるのか、極めて関心が高いところです。当然ながら、政策金利の引上げはイールドカーブに応じて、各種金利に波及します。そして、そのイールドカーブは長期国債の買入れ額が減額されることによりスティープになることが予想されます。金利が高くなると、当然ながら、貯蓄過剰主体が有利になり、投資家場主体が不利になります。借金をするとより高額の返済が必要になり、貸出をするとより多くの利子収入が得られるわけです。私は、ほぼほぼ常にマクロ経済的に景気がよくないのは貯蓄が過剰であって、投資が不足しているからであると考えています。家計部門だけでなく、企業部門まで貯蓄主体となっているのが日本経済停滞のひとつの原因です。マクロ経済の4部門、すなわち、家計部門、企業部門、政府部門、海外部門で貯蓄投資バランスはネットでキャンセルアウトしますので、家計も企業も貯蓄主体となれば、政府または海外が赤字となる必要があります。すなわち、政府は財政赤字を出し、海外は日本サイドから見れば経常収支が黒字となるわけです。しかも、昨日取り上げたように、政府の基礎的財政収支までが黒字になろうとしています。すべての経済主体が貯蓄投資バランス上で黒字を出すことは出来ません。貯蓄を増やそうとして合成の誤謬を生じて、かえって所得を減らしてしまう、というのがマクロ経済学の理論的帰結です。もうひとつ、マイクロ経済的には金利が引き上げられれば利ザヤを取るスケールが大きくなり、銀行の利益が大きく上がりします。特に、イールドカーブがスティープになって長短金利差が大きくなれば、家計などから短期資金を低い金利で預金を受け入れて、リスクを取るとはいえ、長期資金として高い金利で貸し出す銀行は大儲けです。でも、貸し出す先、というか、債券の形も含れば、借りるのは国内経済主体の中では政府ではなかろうかという気がします。でも、マクロ経済的に政府まで黒字になれば、おそらく、家計から過剰な貯蓄が吸い上げられて、家計がさらに貧しくなる可能性すらあります。
ただ、他方で考えるべきポイントはインフレであり、輸入物価を起点とするコストプッシュインフレの抑制をどのように政策的になしとげるか、という問題もあります。単純に考えて、円安はインフレを加速させるという意味で、マクロ経済的に考えると家計部門から企業部門、特に輸出企業部門に所得の移転を生じます。逆に、円高は輸出企業から輸入企業や家計へと所得が移転します。現状の円相場をどう見るかについては、均衡為替レート的な水準次第で意見が分かれるところかもしれませんが、やや円安が行き過ぎている状態である、との見方も成り立つ可能性が十分あります。その意味で、円安是正のための政策が必要とされている可能性は否定できません。ただし、金融政策を為替レートに割り当てることについては大きな疑問が残ります。植田総裁はエコノミストとしてホントのところどうお考えか、私には謎です。
これらを総合して、私は今回の金融引締めでは、企業では輸入企業と銀行部門が、また、家計では金融資産の蓄積が進んでいるという意味で、おそらく高齢者家計が得をして、逆に、輸出企業と現役世代の家計、特に住宅ローンを抱えている家計がソンをするような気がします。ただ、判らないのが資産価格や資産市場の動向、特に、首都圏の住宅価格の動向です。すでに、東京では億ションは普通のマンション、とすらいわれるくらいに住宅価格が上昇しています。こういった首都圏の住宅価格に対して金融引締めが抑制的に作用するのかどうか、それがマクロ経済的に望ましいかどうか、これも私には謎です。
最後の最後に、参考まで、私が見た範囲でのシンクタンクのリポートを2点だけ示しておきます。日銀金融政策の影響をやや過小評価している可能性があるような気がします。なお、ネット上で公開されていないリポートですが、SMBC日興証券株式調査部のリポートも似たような論調でした。

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