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2024年9月30日 (月)

台風の影響などで大きな減産となった8月の鉱工業生産指数(IIP)と堅調に増加する商業販売統計

本日は月末ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも8月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から3.3%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+2.8%増の13兆7720億円を示し、季節調整済み指数は前月から+0.8%の上昇を記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

8月生産は3.3%低下 台風響き2カ月ぶり低下 自動車・半導体製造装置下押し
経済産業省が30日発表した8月鉱工業生産指数速報は前月比3.3%低下となり、2か月ぶりのマイナスとなった。ロイターの事前予測調査では同0.9%低下の予想だった。台風の影響もあり、自動車や半導体製造装置の減産が下押しした。
<7-9月の前期比プラス確保は困難か>
生産予測指数は9月が前月比2.0%上昇、10月が同6.1%上昇となった。経済産業省は生産の基調判断を「一進一退」で据え置いた。
予測が実現すれば9月の生産指数は101.7となるが、経産省では「102.5以上でないと、7-9月の前四半期比プラス確保は難しい」と試算しており、事実上マイナスとなる公算が大きそうだ。
8月の指数を押し下げた主な業種は自動車が前月比10.6%減、電気・情報通信機械が6.2%減、生産用機械が4.6%減など。主な品目は普通乗用車が16.2%減、半導体製造装置が18.7%減など。
台風により普通乗用車、アルミ建具、鋳物、セメントなど幅広い品目で影響が出た。半導体製造装置は台湾向け輸出が減少した。
9、10月は自動車の挽回生産が寄与する見込み。10月は半導体製造装置など生産用機械が前月比33.4%と大きく増える見通しとなっている。
小売業販売、8月は前年比2.8%増 値上げや買いだめ押し上げ=経産省
経済産業省が30日に発表した8月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比2.8%増となった。ロイターの事前予測調査では2.3%増が予想されていた。飲食料品の値上げや、土曜日が前年比で1日多かったこと、防災用備蓄などが押し上げた。
業種別の前年比では織物・衣服が11.3%増、その他小売業が6.1%増、機械器具が4.0%増、医薬品・化粧品が2.7%増などだった。
業態別の前年比ではスーパーが5.0%増、コンビニが0.7%増、ドラッグストアが7.4%増、ホームセンターが7.9%増など。防災備蓄用にコメやカップ麺、水、カセットコンロなどの販売が各業態での販売を押し上げた。
家電大型専門店は3.6%増で、スマートフォンの値上げなどが寄与した。

長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にある通り、鉱工業生産指数(IIP)はロイターの事前予測調査では▲0.9%の減産、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、▲1.0%の減産が予想されていましたので、実績の前月比▲3.3%の減産は、例えば、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスの予測レンジ下限の▲2.9%減を超えて、予想以上の大きな減産と私は受け止めています。しかしながら、減産の要因のひとつが8月末の台風による影響ですから、何とも景気判断の難しいところです。いわゆるペントアップの挽回生産の増加につながる可能性はありえます。したがって、というか、何というか、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、先月の7月統計で上方改定して「一進一退ながら弱含み」から「弱含み」を削除したところでもあり、今月8月統計を受けて「一進一退」で据え置いています。先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の9月は補正なしで+2.0%の増産、10月はさらに大きな増産で+6.1%との結果ながら、上方バイアスを除去した補正後では9月増産は+0.3%にとどまります。これらを単純に生産に当てはめると、7~9月期の生産は前期から減産の可能性が十分あります。経済産業省の解説サイトによれば、8月統計における生産は、自動車工業▲10.6%の減産で▲1.40%の寄与度を示しています。加えて、電気・情報通信機械工業が▲6.2%の減産、▲0.55%の寄与度、生産用機械工業が▲4.6%の減産、寄与度▲0.39%、などとなっています。逆に、プラスの寄与を示しているのは、輸送機械工業(除、自動車工業)が+6.8%の増産、+0.19%の寄与度、電子部品・デバイス工業が+2.2%の増産、寄与度+0.14%、などとなっています。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売は堅調な動きを続けています。しかし、小売業販売額の前年同月比は+2.8%の伸びを示していますが、引用した記事にある通り、ロイターでは+2.3%の伸びを市場の事前コンセンサスとしていましたので、やや上振れた印象です。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断している小売業販売額の基調判断は、本日公表の8月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.5%の上昇となりましたので、基調判断が「上方傾向」で据え置かれています。少しさかのぼると、4月統計の「一進一退」から5月統計では「緩やかな上昇傾向」に、また、先々月の6月統計では「上昇傾向」と2か月連続の上方改定となった後、7~8月統計では据置きとなっています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、8月統計ではヘッドライン上昇率が+3.0%、生鮮食品を除くコアCPI上昇率も+2.8%となっていますので、小売業販売額の8月統計の+2.8%の増加は、インフレ率を上回っているか、下回っているか、きわどいところです。したがって、実質的な消費は伸びていない可能性が十分あると考えるべきです。加えて、考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。

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2024年9月29日 (日)

夏休みが終わる=新学期が始まる

廊下での立ち話でしたが、わりと最近教授にご昇進されたばかりの先生が「新学期の始まりですね」との見方に対して、今月で66歳を迎えた私の方は「夏休みの終わりですね」と応えてしまいました。いろんな物事を前向きに捉える姿勢を失ってどれくらいが経ったんでしょうか?

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Osaka Jazz Channel の Agua de Beber を聞く

Osaka Jazz Channel による Agua de Beber です。スペイン語のタイトルのままでは判りにくいかもしれませんが、邦訳タイトルは「おいしい水」です。アントニオ・カルロス・ジョビンが作曲し、ポルトガル語の歌詞をつけてアストラッド・ジルベルトが歌ってヒットしたと記憶しています。
作曲者から明らかなように、もともとはボサノバの曲ですが、ジャズでも大いに取り上げられています。実は、同じ作曲者による Aguas de Marco、すなわち、「3月の水」の方が有名ではないかと思うのですが、私はこの「おいしい水」の方が好きです。

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2024年9月28日 (土)

今週の読書は専門書のほか新書や小説も含めて計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
今年の新刊書読書は1~8月に215冊を読んでレビューし、9月に入って先週までに計22冊をポストし、合わせて232冊、本日の6冊も入れて238冊となります。目標にしているわけでも何でもありませんが、年間300冊に達するペースかもしれません。なお、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。それから、瀬尾まいこ『図書館の神様』(ちくま文庫)も読んでいて、すでにFacebookとmixiでシェアしています。新刊書読書ではないと考えられるため、本日の読書感想文には含めていません。

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まず、ジューディア・パール & ダナ・マッケンジー『因果推論の科学』(文藝春秋)を読みました。著者は、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者であり、コンピュータ科学者、哲学者、それと、科学ライターと紹介されています。英語の原題は The Book of Why であり、2018年の出版です。巻末に東大の松尾豊教授が解説を寄せています。本書では、因果推論に関して、当然といえば当然ながら、確率論的なアプローチを取っています。そして、因果推論については3段階を考え、p.52にあるように、第1段階では見る能力、観察に基づく関連付け、第2段階では行動する能力に基づく介入、そして、第3段階では想像する能力に基づく反実仮想を想定してます。ただ、本書は参考文献や索引を含めれば600ページを超えるボリュームながら、第1段階で軽く300ページを超えますから、導入部に主眼をおいているのではないかと私は感じています。ですので、そもそも「因果」とは何かについても、それなりに哲学的な考察を加えているのですが、私のようなエコノミストにとって重要性の高い時系列的な考えは紹介されていません。すなわち、因果関係の重要なひとつの要素として、原因が時間的に先行して、結果は後に来る、というのがあります。ですので、私なんかはエコノミストとして原因と結果がスパイラルのように入れ替わる可能性を認めます。典型的には、現在の岸田内閣が提唱したような好循環の経済です。単純化すれば、景気がよくなって物価が上がってデフレを脱却し、さらにマイルドなインフレが景気を刺激し...という経済循環が上げられます。すなわち、因果関係はそれほど単純ではなく、ある事象Aが別の事象Bの原因であるが、時間の経過とともに、逆に、BがAの原因となる局面に変化することも考えられます。そういった時系列的な流れの点には本書の視点は向けられていません。私はこの方面は詳しくないのかもしれませんが、ひょっとしたら、こういった循環的、というか、インタラクティブな双方向の因果関係を考えるのはエコノミストだけなのかもしれません。ただ、本書で優れているのは因果関係を確率的に考える点とAIまで視野に入れている点です。第2のAIについては、私も一知半解で十分に理解したかは自信がありませんので、読んでいただくしかありませんが、確率的に因果関係を捉えるというのはしばしば忘れられている点ですので強調しておきたいと思います。もちろん、確率を不要とするような決定論的な因果関係も世の中にはいっぱいあります。例えば、セックスと妊娠は統計的にはほぼほぼ無相関ですが、決定論的にセックスが妊娠の原因であることは、多くの日本人は認識していることと思います。そして、本書では明言していないものの、統計とは確率の別表現である点も重要です。ただし、統計的な確率は決定論的な確率に漸近的に収束するだけです。サイコロを考えれば、極めて多数回の試行により、それぞれの目の出る確率は⅙に近づきますが、どこまで行っても⅙にはならない可能性が高いことは十分理解できると思ます。最後に、第10章においてAIとの関係で、そう詳しくもない私も考えさせられる点がありました。すなわち、意図的であるかどうかの問いです。英語なら intentional だと思うのですが、意図的に何らかの結果をもたらすべく行動する、あるいは、行動をやめておく、というのと、意図的でなく結果がもたらされる関係との差異をどう考えるか、について重要な問いを本書では発しています。エコノミストは、というか、私は意図的であるかどうかに重要性を見出すことはしません。よくない例かもしれませんが、意図的な殺人であれ、偶発的な事故であれ、人が死ぬという結果をもたらした原因に重きを置くことなく、非常に物神的で良くないと受け止める人がいるかもしれませんが、労働力として、あるいは、消費者として1人が欠けた、という受止めです。たぶん、経済学はこれに近い考えをしますが、法律では意図的な殺人か、偶発的な事故かは大きな違いがあります。この意図的と偶発的の違いが強調されるのであれば、社会科学の分野として経済学よりも法学の方がAI研究に向いている可能性があったりするんでしょうか。現時点では、私には何ともいえません。

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次に、法月綸太郎ほか『推理の時間です』(講談社)を読みました。著者の1人の法月綸太郎は、本書のスーパーバイザーを務めており、京大ミス研出身の新本格派のミステリ作家です。収録されているのは短編が6話であり、2話ずつが whodunnit と whydunnit と howdunnit、すなわち、犯人が誰であるかを推理するミステリ、動機を推理するミステリ、そして、犯行方法を推理するミステリにカテゴライズされています。収録順に、法月綸太郎「被疑者死亡により」と方丈貴恵「封谷館の殺人」が whodunnit の犯人の推理、我孫子武丸「幼すぎる目撃者」と田中啓文「ペリーの墓」が whydunnit の動機の推理、北山猛邦「竜殺しの勲章」と伊吹亜門「波戸崎大尉の誉れ」が howdunnit の犯行方法の推理、となっています。加えて、読者への挑戦状があり、問題編と解答編が分かれていたりもします。しかもその上に、スーパーバイザーの法月綸太郎を中心に、作者が別の作者の作品の謎解きにも挑戦しています。とてもよく当たっている結果もあれば、まるで的外れなのもあります。そのあたりは読んでみてのお楽しみです。ミステリですので、アッサリとあらすじを紹介します。法月綸太郎「被疑者死亡により」は、交換殺人の疑いをかけられた男が法月に依頼に来るところから物語がはじまります。交換殺人のもう1人の容疑者が料理人であるにもかかわらず、家に食べ物がいっさいなかった理由が秀逸です。方丈貴恵「封谷館の殺人」は、タイトル通りに密室の館ものです。館の主人が殺害され、使用人に扮していた泥棒が、ふりかかる疑いを避けるべく犯人について、体重からの推理を繰り広げます。我孫子武丸「幼すぎる目撃者」は、フツーに幸福そうな一家で、妊娠中の妻が夫を刃物でメッタ突きにして殺害します。その妻の犯行の理由を推理します。本書の中ではもっともレベルの高い出来だと思います。田中啓文「ペリーの墓」は、江戸末期の黒船来航のタイミングで不審な死体が見つかり、なぜ彼が殺されなければならなかったかを推理します。黒船のペリーとペルリの違いに着目です。北山猛邦「竜殺しの勲章」は、第2次世界大戦中のフィンランドで、当時のソ連と戦っているフィンランドがソ連の敵であるナチス・ドイツから支援されて送られた大型砲の輸送中に、ナチス将校を殺害する方法を推理します。伊吹亜門「波戸崎大尉の誉れ」は、これも大戦中の中国満州で軍需物資の横流しの噂が流れ、ジャーナリストの軍属が査察に来たところ、重傷を負ったはずの内部告発者が姿を消します。もっとも疑いの強い人物が犯人なのですが、犯行方法を推理します。本書でもっともレベルが低いと私は感じました。ある意味で、whodunnit の犯人推理がミステリの王道といえる一方で、逆に、whydunnit の動機の推理のプロットは難しいんだろうと感じます。その中で、我孫子武丸「幼すぎる目撃者」はアッと驚く超意外な犯行動機でした。いずれにせよ、続編が出ないかと期待しています。大いに期待しています。

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次に、満薗勇『消費者と日本経済の歴史』(中公新書)を読みました。著者は、北海道大学の研究者であり、ご専門は日本近現代史です。ですから、エコノミストではなく、本書のタイトルはあくまで消費者となっていて、マクロ経済の消費ではありません。大衆消費社会とか、歴史的な視点で消費者を捉えようとしています。戦後日本の闇市から始まって、高度成長期のテレビ、洗濯機、冷蔵庫の三種の神器、1970年代石油ショックのころの狂乱物価とトイレットペーパーなどの買いだめ行動、1980年代後半バブル経済期のブランド志向に反し、バブル経済崩壊後、さらに、デフレ期に至るファストファッションなどの安価な商品への志向の高まり、などなどを歴史的に把握しようと試みています。また、同時に、最近時点で注目されている推し活やカスハラなども消費や消費者のひとつの側面を映し出しているような気がします。ということで、本書でスポットを当てている点はいくつかあるのですが、私が注目するのは、ダイエー・松下戦争、堤清二とセゾングループのビジョン、セブンイレブンなどのコンビニの衝撃、お客様相談室の誕生などです。まず、ダイエーは「主婦の店」と称してスーパーの1業態として発足しましたが、安売りをひとつの目玉に掲げ、逆の供給サイドからすれば価格決定力の喪失につながることから、長らくダイエーと松下、現在のパナソニックが反目する状態が続いていました。でも、時代は消費者が「王様」から「神様」になるところであり、水道理論に基づいてコストから小売価格を算定するメーカーではなく、消費者にとってのバリューから価格を小売店で設定する方向に変化しつつある象徴であった、と本書では解説しています。ただ、本書でも指摘しているように、顧客満足度を追う企業は、ある意味で、ジレンマに直面します。すなわち、ある時点での満足度が次の時点の期待度を高めてしまい、消費者の期待がどんどんと高まってしまう、という現象に直面します。そして、このころから消費者ではなく、客とか顧客という表現を企業は用い始めます。消費者相談室からお客様相談室への衣替えです。そして、客からの商品・サービスに関する評価やクレームを基に商品開発を進める、という姿も出始めます。最後に、現在の消費者は、カスハラといったネガな部分もありますが、応援消費や推し活も盛んですし、さらに進んでSDGsとの関係からもエシカル消費も伸びていると本書でも指摘し、そういったさまざまな消費の方向性を論じています。私の感想は2点あります。まず、消費者相談室からは、画期的なイノベーションは生まれない可能性が高い点です。フォードの言葉ではありませんが、「顧客の要望は、もっと早く走れる馬がほしい」というこであって、自動車というイノベーションは消費者の評価やクレームからは生まれないような気がします。その点で、供給サイドでは企業が主たるプレイヤーになるべきである、というのが私の見方です。もう1点は、トフラーのいった「プロシューマー」をどう考えるか、です。トフラー的な「プロシューマー」ではありませんが、メルカリなどでC2Cビジネスが拡大していることは明らかで、企業から消費者への商品やサービスの流れだけではなく、消費者が自ら商品やサービスを生産して別の消費者に提供する、という流れをどう考えるべきか、私はまだ定見を持ち合わせませんが、興味ある展開ではなかろうかと考えています。

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次に、濱口桂一郎『賃金とは何か』(朝日新書)を読みました。著者は、労働省(旧)のご出身で、労働政策研究・研修機構(JILPT)の労働政策研究所の所長です。エコノミストではありませんから、タイトルに引かれて読んだ本書でも、経済学的な賃金についてはほとんど何も解明されていません。すなわち、本書は3部構成となっていて、第Ⅰ部が賃金の決め方、第Ⅱ部が賃金の上げ方、第Ⅲ部が賃金の支え方、となっています。その上、第Ⅰ部がボリューム的に過半のページ数を割かれており、日本の賃金の決め方の歴史が延々と展開されています。経済学的な決まり方ではありません。その意味で、歴史の勉強にはなりますが、戦後日本の労働慣行の大きな特徴である長期雇用と年功賃金が経済学的には補完関係にある点などは、誠に残念ながら、それほど詳しく言及されているわけではありません。エコノミストの目から見て、本書のタイトルの問いに答えるとすれば、賃金のもっとも重要な本質のひとつは要素所得である、ということになります。もう少していねいに表現すれば、経済活動あるいは生産活動が行われ付加価値が得られた後に、その付加価値が経済活動あるいは生産活動に参加した生産要素の間に分配されるうちの労働の取り分、ということになります。もう一方の取り分は資本に配分されます。なお、マルクス『資本論』第3巻最終章のように3大階級を論じるとすれば、労働と資本のほかに土地を提供するグループ、あるいは、マルクス的に階級への分配もあり得ます。ですから、賃金を上げようと思えば、極めて単純には2つの方法があり、付加価値を高めるか、付加価値の配分を労働に有利にするか、ということになります。後者の観点からは階級闘争が発生しても不思議ではない、ということになるかもしれません。ただ、私はそのあたりは詳しくありません。1点だけ付け加えておくと、生産活動に参加する労働を増やして付加価値のうちの労働の取り分を増やそうとしても賃金は上がりません。労働投入を増やせば、付加価値のうちの労働への分配は増加すると考えるべきですが、1人当たり、あるいは労働時間当たりの賃金は増えません。ですから、賃金上昇の目的をもって付加価値を高めるためには、資本の取り分を増やさずに資本を多く用いて生産するか、労働生産性を高める必要があります。経営サイドは後者を主張することは広く知られた通りです。もうひとつの方法は労働の取り分を増加させることです。付加価値の分割は分配率と呼ばれます。労働分配率と資本分配率なわけです。そして、1990年代からかなり長期に渡って労働分配率が低下していうことは経済学の大きな謎とされています。その昔、カルドアの定型化された事実 Kaldor's stylized facts のいの一番では「労働分配率と資本分配率が長期間でほぼ一定」というのがあったのですが、完全に崩れています。いくつかの統計で企業の利益剰余金が積み上がっている一方で、賃金がまったく上がっていない、日本の賃金は韓国にも抜かれて先進国の中で最低レベル、というのはエコノミストの間で広く確認されていところです。でも、階級闘争が激化したり、ましてや革命に至ったりすることは目先まったく予想されず、政権交代すら見込めないのは私には大きな謎です。

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次に、まさきとしか『あなたが殺したのは誰』(小学館文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家です。本書は、警視庁のやや変わり者の三ツ矢秀平刑事と戸塚警察署の田所岳斗刑事のコンビによるシリーズ第3弾です。一応、前2作の『あの日、君は何をした』と『彼女が最後に見たものは』については、私はどちらも読んでいます。2時点2地点の異なるストーリーが交互に進みます。ひとつは1993年バブル経済崩壊後の北海道鐘尻島を舞台とする過去パート、もうひとつは2020年代の東京を舞台とする現在パートです。さらに、本書は3部構成であり、第1部「彼を殺したのは誰」、第2部「彼女を殺したのは誰」、第3部「あなたが殺したのは誰」となっています。事件としては、現在パートでマンションの部屋で頭から血を流している永澤美衣紗が発見され、死亡が確認されます。しかし、部屋にいたはずの生後10か月の乳児である永澤しずくが見当たりません。部屋には「私は人殺しです。五十嵐善男」と書かれてた紙が落ちていたのですが、署名の五十嵐善男は2か月前に起きた強盗殺人事件の被害者でした。この殺人事件・誘拐事件を東京の三ツ矢と田所のコンビで捜査に当たります。他方、バブル経済崩壊後の北海道の離島では、小寺忠信とその父親が経営する島唯一の料亭である帰楽亭が別館を建設し始めたころに、「リンリン村」と呼ばれる巨大リゾート開発が頓挫し、料亭経営が苦境に陥ります。また、本土から移住してきてビストロときわを経営する常盤恭司の妻である常盤由香里は、娘の小学4年生の常盤結唯を札幌の英語塾に通わせたりして、島からの脱出を企図しています。そんな中、帰楽亭の別館建設を請け負っていた建設会社経営の殿川宏が小寺忠信を刺殺します。その後、殺された小寺忠信の妻である小寺則子と常盤恭司が行方不明になりますが、連絡船の船長である熊見勇吉の目撃により駆け落ちしたのではないか、札幌に住んでいるのではないか、といった噂が流れます。小寺忠信と小寺則子の倅である高校生の小寺陽介は帰楽亭を継ぐことを諦めます。ということで、ミステリですのであらすじはこれくらいにしますが、要するに、三ツ矢と田所のコンビが解き明かすべき謎は永澤美衣紗を殺害した犯人、そして、連動して永澤しずくの捜索となります。なお、蛇足ながら、五十嵐善男が被害者となった強盗殺人事件も同時に解明されます。シリーズ3作を読んで、ハッキリいって、最初の『あの日、君は何をした』がもっとも意外な結末だったと私は感じたのですが、ミステリとしての完成度や謎解きのクリアさからいって、本作品がもっともレベルが高いと私は感じました。ただ、第3部「あなたが殺したのは誰」の最後の最後、殺された永澤美衣紗が何者だったのかという点については、まあ、異論あるかもしれません。最後の最後のさらに最後の付足しで、三ツ矢の上司である切越係長の引きによって田所が警視庁本庁に異動するようですので、このシリーズはさらに続くものと予想されます。私は楽しみです。

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次に、南綾子『婚活1000本ノック』(新潮文庫)を読みました。著者は、小説家なのでしょう。本書を原作にしてフジテレビで福田麻貴主演のドラマになっています。冒頭第1話でのp.11に「わたしの身に実際に起こったできごとであり、登場するすべての人物・団体はマジで実在する」とあり、まるで、『ダ・ヴィンチ・コード』で有名になったダン・ブラウンのラングドン教授シリーズのような書出しとなっています。主人公は作者と同じ南綾子であり、30歳を少し越した独身、エロ小説も引き受ける売れない小説家という設定です。ドラマの方は見ていないので何ともいえませんが、本書は連作短編集のような形で6話から成っています。もちろん、タイトル通りにすべて主人公である南綾子の婚活の記録です。ちなみに、ドラマの方は10回の放送だったと聞き及んでいますが詳細は不明です。6話の構成は、第1話で主人公について回る幽霊の山田クソ男が登場し、この幽霊とコンビで、というか、オススメで婚活を行うことになります。ビジュアルは表紙画像の上の方に現れる男だと思います。続いて、第2話が青山のマンションで開かれたお料理合コン、第3話が新宿で開かれたお見合いパーティー、第4話が親戚の叔母が持ち込んだ伝統的なお見合い、第5話がマッチングサイトの利用、第6話が地方の嫁取り系のイベントへの参加、となります。私が感銘を受けた名言はp.78にある「婚活とは、巨大なゴミ箱の中に落としたコンタクトレンズを手探りで探すようなものだと常々思う。」というのがあります。まったく、その通りです。私は結婚が遅い方で、30代も後半に差しかかったタイミングでした。すべてバブル経済が悪いわけです。すなわち、私はもう60歳で公務員の定年を過ぎ、65歳の大学教員の定年も過ぎて60代後半に差しかかっているのですが、1985年から1990年くらいのバブル経済の期間はまさにアラサーのころであり、今はもはや死語となっている「結婚適齢期」だったのですが、あの狂騒狂乱の時代に結婚する必要をまったく感じませんでした。他方で、お相手となる候補者たちも、京大経済学部を卒業していながら公務員をやっているなんて、アノ時代に目端の利かない人物である、という評価でした。というか、そうだったんだろうと思います。したがって、結婚もせずに独身のまま、在外の大使館に赴任して、経済アタッシェとして楽しく海外生活を送った後、1990年代半ばに帰国すると、バブル経済はすっかり崩壊し、就職は超氷河期に入っていて、公務員試験は難関となっていました。エコノミストとしてあり得ないと理解はしつつも、あのままバブル経済が続いていたら、私も婚活に力を入れる必要が大いにあったかもしれません。

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2024年9月27日 (金)

リクルートによる8月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

来週10月1日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる3月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの募集時平均時給の方は、前年同月比で見て、4月+3.8%増から5月+3.1%増、6月+2.0%増とやや上昇幅が縮小していたのですが、7月には+2.6%増の後、直近で利用可能な8月には+2.9%増となりました。先週公表された消費者物価指数(CPI)上昇率が8月統計でヘッドライン+3.0%、生鮮食品を除くコア+2.8%でしたから、今年に入ってから、ようやくアルバイト・パートの賃金上昇は物価上昇に均衡しつつある、と考えています。募集時平均時給の水準そのものは、2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、現在、報じられている最低賃金と比較しても、かなり堅調な動きを示しています。他方、派遣スタッフ募集時平均時給の方は、4月+1.7%増、5月+1.5%増、6月+1.3%増、7月+2.5%増に続いて、8月は+1.5%増と、まずまず底堅い動きながら、CPI上昇率には追いついていません。アルバイト・パートの時給の方はここ何ヶ月か横ばいなのですが、10月からの最低賃金の施行とともに、少し上向くことを期待しています。
三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、8月には前年同月より+2.9%、前年同月よりも+34円増加の1,190円を記録しています。職種別では前年同月と比べて伸びの大きい順に、「販売・サービス系」(+43円、+3.8%)と「事務系」(+46円、+3.8%)、「専門職系」(+45円、+3.4%)、「フード系」(+35円、+3.1%)、まで平均よりも高い伸びを示していて、「製造・物流・清掃系」(+31円、+2.7%)、「営業系」(+24円、+2.0%)は伸び率は小さいものの、すべての職種で前年同月比プラスとなっています。また、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏で前年同月比プラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、8月には前年同月より+1.5%、+25円増加の1,669円になりました。職種別では、「オフィスワーク系」(+47円、+2.9%)、「製造・物流・清掃系」(+29円、+2.1%)、「IT・技術系」(+21円、+0.9%)と「医療介護・教育系」(+13円、+0.9%)、「営業・販売・サービス系」(+6円、+0.4%)、の5業種は前年比でプラスの伸びを示しましたが、「クリエイティブ系」(▲15円、▲0.8%)だけは減少を示しています。なお、地域別では関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。

アルバイト・パートや派遣スタッフなどの非正規雇用は、従来から、低賃金労働であるとともに、「雇用の調整弁」のような不安定な役回りを演じてきました。直近で利用可能な8月統計で見ると、やっぱり、賃上げ率は消費者物価上昇率に届いているかどうか怪しいところです。

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2024年9月26日 (木)

小幅変化が予想される9月調査の日銀短観とOECD「経済見通し」

来週火曜日10月1日の公表を控えて、各シンクタンクから9月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業/非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下のテーブルの通りです。設備投資計画は今年度2024年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、可能な範囲で、先行き経済動向に注目しました。短観では先行きの業況判断なども調査していますが、シンクタンクにより大きく見方が異なっています。注目です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
6月調査 (最近)+13
+33
<+8.4>
n.a.
日本総研+14
+31
<+9.7%>
先行き(12月調査)は、全規模・全産業で9月調査から▲1%ポイントの悪化を予想。製造業では、循環的な財需要の回復が追い風となる一方、中国向け輸出の減少や、円高進行などによる輸出企業の収益悪化への懸念が景況感改善の重石となる見込み。非製造業の景況感は高水準で推移するものの、人件費の増加や金利上昇への警戒感などが企業マインドの抑制に作用する見込み。
大和総研+11
+29
<+9.7%>
9 月日銀短観では、大企業製造業の業況判断 DI(先行き)は+11%pt(最近からの変化幅: 0%pt)、 同非製造業は+26%pt(同: ▲3%pt)を予想する。
大企業製造業では、国内における自動車の生産体制が正常化することで「自動車」や関連業種の業況判断DI(先行き)が改善する見込みだ。他方、7月25日に中国政府が発表した景気刺激策の効果については先行き不透明感が強い上に、足元の円高進行の影響が輸出企業のマインドを押し下げることで、「はん用機械」、「生産用機械」、「業務用機械」、「電気機械」などの輸出比率が高い業種の業況判断DI(先行き)が悪化する可能性がある。
大企業非製造業では、このところ業況判断DI(最近)と同(先行き)の差が製造業と比べて大きめのマイナスとなる傾向があるものの、9 月調査では小幅にとどまるだろう。業況判断 DI(最近)が台風などの影響で大幅に落ち込む半面、同(先行き)ではその影響が剥落するとみられるためだ。とりわけ「対個人サービス」や「宿泊・飲食サービス」の業況判断DI(先行き)は比較的小幅な低下となろう。他方、足元の円高の進行を受けてインバウンド関連業種の業況判断DI(先行き)が悪化する可能性には注意が必要だ。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+14
+32
<+9.7%>
大企業・製造業の業況判断DIの先行きは、横ばいを予測する。半導体関連や自動車は今後も増産の動きが継続すると予想されるが、円高の進展は輸出企業の業況判断を慎重化させる要因となるだろう。
大企業・非製造業の業況判断DIの先行きは2ポイントの改善を予測する。高い春闘賃上げ率を受けて、労働者の賃金は改善傾向で推移している。毎月勤労統計の実質賃金(現金給与総額ベース)は、6月に前年比+1.1%と2年ぶりに増加に転じ、7月もプラスを維持した。特別給与の大幅増がプラス転換の主因だが、賃上げの反映によって所定内給与のマイナス幅も縮小している。10月からは、最低賃金が全国加重平均で51円(前年比+5.1%)引き上げられるため、パートタイム労働者などの賃金の押し上げ要因となるだろう。秋以降、家計の購買力が徐々に高まっていくと予想されるため、非製造業の景況感にプラスの影響を与えるだろう。
ニッセイ基礎研+12
+31
<+9.5%>
先行きの景況感は小動きながら、製造業と非製造業で方向感が分かれると予想。製造業では、にわかに台頭した米経済の減速懸念とさらなる円高による輸出採算悪化懸念から、先行きにかけて景況感の弱含みが示されると見ている。他方、非製造業では、引き続き物価高による消費への悪影響に対する警戒が残るものの、堅調なインバウンド需要や既往の定額減税・賃上げによる消費回復期待を受けて、景況感がやや改善するだろう。ただし、中小企業非製造業では、人手不足による制約が特に強いうえ、もともと先行きを慎重に見る傾向が強いだけに、今回も先行きにかけて悪化が示されると予想している。
第一生命経済研+14
+36
<大企業製造業19.0%>
10月1日に発表される日銀短観は、9月の大企業・製造業の業況判断DIが前回比+1ポイントの改善になると予想する。この間に進んだ円高の影響が注目される。円高効果は、プラスにもマイナスにも働くので、見極めづらい。もしも、7月31日の追加利上げが予想外のショックを企業マインドに与えているとすれば、次の追加利上げはもっと慎重に行われるだろう。
三菱総研+14
+31
<+10.3%>
先行きの業況判断DI(大企業)は、製造業+14%ポイント(9月調査「最近」から横ばい)を予測する。製造業は半導体市場の回復が下支えするものの、自動車では一部メーカーが新たな基準への対応の遅れから10月下旬より生産を停止すると報じられており、全体では横ばいになると見込む。非製造業は+33%ポイント(同+2%ポイント上昇)を予測する。実質賃金の改善が定着する中で、個人消費が持ち直すことで小売業などの関連業種を中心に業況が改善するだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+14
+33
<大企業全産業+12.1%>
先行きについては、海外景気の一段の減速や円高の急速な進展等がリスク要因として意識されるが、半導体需要や自動車生産が一段と持ち直していくと期待されることから、両業種ともに景況感の改善が続くと考えられる。製造業の業況判断DI(先行き)は3ポイント改善の17と前向きな見通しになるだろう。
農林中金総研+13
+32
<10.0%>
先行きに関しては、世界経済はしばらく低成長状態から抜け出せず、輸出が景気を押し上げる姿が見通せない半面、所得改善による消費の本格回復への期待は高い。とはいえ、先行き物価が徐々に沈静化していく中、人手不足による賃上げ圧力が収益圧迫につながるとの警戒もあるだろう。以上から、製造業では大企業が12、中小企業が▲3 と、今回予測からそれぞれ▲1 ポイント、▲2ポイントの悪化、非製造業についても大企業が29、中小企業が8と、今回予測からともに▲3ポイントの悪化となるだろう。
明治安田総研+14
+27
<+8.7%>
9月の先行きDIに関しては、大企業・非製造業は1ポイント改善の+32、中小企業も1ポイント改善の+10と予想する。製造業よりも労働集約的な業種が多く含まれている非製造業では、慢性的な人手不足などが業況を下押しするとみるものの、天災の影響が落ち着くなか、実質賃金の改善に伴う個人消費の回復期待により、先行きの業況は改善すると予想する。

テーブルに取りまとめた通り、基本的に、大きな景況感の変化はないものと予想されているようです。ただし、製造業については輸出の動向がカギとなります。所得効果としては米国をはじめとする世界各国経済のソフトランディングが成功するか、価格効果としては円高がどこまで進むか、という2点がポイントとなります。その意味で、すぐに何らかの影響あるかどうかは不透明ながら、11月の米国大統領選挙の結果も気にかかるところです。他方で、非製造業ではインフレの動向がカギとなります。ESPフォーキャストに示されているように、今年2024年年央ないし足元の7~9月期が物価上昇のピークとすれば、徐々に内需が拡大する可能性が高まります。設備投資にしても、人口動態要因に基づく人手不足から、ようやく設備投資の増加が本格化することが期待されます。そうでなければ、人手不足はおろかグローバル化、デジタル化、グリーン投資、などなどへの対応が著しく遅れることにもなりかねません。加えて、日銀が短観から利上げの方向性をどのように読み取るかにも私は注目しています。先週の日銀金融政策決定会合後の植田総裁の記者会見での発言を聞く限り、それほど利上げを急いでいる印象ではなかったのですが、上のテーブルのように、景況感に大きな変化なければ既定方針通りに利上げに走る可能性が大きい一方で、円高が製造業へのダメージに、また、製造業・非製造業ともに設備投資の重しになっている可能性が読み取れれば、利上げのペースがさらに鈍ることになります。
下のグラフは三菱リサーチ&コンサルティングのリポートから 業況判断DIの推移 を引用しています。

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やや「ついで」の扱いながら、、日本時間の昨夜、先進国をメンバーとする経済協力開発機構(OECD)から OECD Economic Outlook, Interim Report September 2024 が公表されています。pdfの全文リポートも利用可能なのですが、プレスリリース資料から pp.8-9 の GDP growth projections のテーブルと Inflation projections のグラフを引用しておきます。

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日本の今年2024年の成長率が大きく下方修正されてマイナス成長を見込むようになっています。すなわち、"In Japan, while the weak first quarter outturn reduces projected annual growth in 2024 to -0.1%, strong real wage gains are expected to offset the impact of tighter macroeconomic policies, with output expanding by 1.4% in 2025." と説明されていて、要するに、今年2024年1~3月期の低成長、これは自動車の認証不正に伴う低成長の影響が大きい一方で、来年2025年には、実質賃金が堅調に上昇していることから、金利引上げによるマクロ経済の引締めの影響は相殺されて+1.4%成長と見込まれる、という予測のようです。ただ、先進国G7の中で今年2024年にマイナス成長が見込まれているのは日本だけなので、先進各国や中国が利下げ局面にあるにもかかわらず、それでも利上げをがんばりますかね、という気はします。加えて、G20の中でアルゼンチンなどの例外はあるものの日本に限らず、"Inflation is projected to be back to target in most G20 countries by the end of 2025." ということで、物価上昇はおしなべて落ち着きを取り戻しつつあり、2025年末までには物価目標に回帰する、と見込んでいます。繰り返しになりますが、それでも利上げをがんばるんでしょうね。

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2024年9月25日 (水)

高い上昇率を示す8月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から8月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月と同じ+2.7%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについても同じく+2.7%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格2.7%上昇 8月、人件費高止まり
日銀が25日発表した8月の企業向けサービス価格指数(2020年平均=100)は107.6と、前年同月比で2.7%上昇した。伸び率は7月(2.7%上昇)から横ばいだった。幅広い分野で人件費上昇を価格に反映する動きが出た。
企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービスの価格動向を表す。例えば貨物輸送代金や、IT(情報技術)サービス料などで構成される。モノの価格の動きを示す企業物価指数とともに、今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
内訳を見ると、宿泊サービスは前年同月比で12.5%上昇した。インバウンド需要を含めた人流回復が続き、前年同月比のプラス基調が継続している。道路貨物輸送は「2024年問題」への対応を含めた人件費の上昇や、燃料コスト上昇の転嫁により3.0%上昇した。
7月に9.4%上昇した外航貨物輸送は8月、1.6%下落に転じた。中国経済の減速を背景とする海運市況の悪化や、為替の円安一服の影響が出た。
調査品目のうち、生産額に占める人件費のコストが高い業種(高人件費率サービス)は2.8%上昇し、低人件費率サービスも2.4%上昇した。調査対象の146品目のうち、価格が前年同月比で上昇したのは113品目、下落は17品目だった。

もっとも注目されている物価指標のひとつですから、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速はいったん終了したように見えたのですが、今年2024年年央時点で再加速が見られ、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は7月統計で+3.0%を示しています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準として一貫して上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、昨年2023年11月に+2.8%まで加速し、さらに今年2024年6月統計では+3.1%まで加速した後、本日公表された8月統計では先月7月統計と同じ+2.7%にやや上昇率が縮小しています。1年超の14か月連続で日銀物価目標である+2%以上の伸びを続けているわけです。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、本日公表の企業向けサービス価格指数(PPI)とは構成要素が大きく異なります。しかし、いずれにせよ、+2%前後の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性があります。加えて、真ん中のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、企業向けサービス価格指数(SPPI)で見てもインフレ率は高いながら、物価上昇が+2%を大きく超えて加速する局面ではない可能性が高い、と私は考えています。また、人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率と高人件費比率のサービスの違いに大きな差はありません。引用した記事の通り、8月統計の前年同月比で見て、高人件費率サービス+2.8%、低人件費率サービス+2.4%の上昇となっています。ですので、引用した日経新聞の記事のタイトルの「人件費転嫁」というのは大きく間違っているわけではありませんが、人件費率に関係なく価格上昇が見られる点は忘れるべきではありません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて8月統計のヘッドライン上昇率+2.7%への寄与度で見ると、機械修理や土木建築ササービスや宿泊サービスなどの諸サービスが+1.38%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分を占めています。人件費以外も含めてコストアップが着実に価格に転嫁されているというのが多くのエコノミストの見方ではないでしょうか。ただし、諸サービスのうちの宿泊サービスは前年同月比で8月統計では+12.5%の上昇と、6月統計の+26.8%や7月統計の+13.7%からは大きく縮小していますが、引き続き高止まりしています。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている項目として、石油価格の影響が大きい道路貨物輸送や旅行サービスや道路旅客輸送などの運輸・郵便が+0.37%、ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.30%、景気敏感項目とみなされている広告も+0.22%、などとなっています。

直感的には、消費者物価指数(CPI)上昇率も、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内物価上昇率も、そして、本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)上昇率も、いずれもさらに上昇率が加速する段階ではないことは事実です。日本経済研究センター(JCER)が実施しているESPフォーキャストの9月調査結果によれば、消費者物価指数の上昇率はおおむねジワジワと縮小していって、ほぼ1年後の2025年7~9月期には日銀物価目標の+2%を下回ると予想されています。物価上昇が再加速するよりも、緩やかにインフレが収束する方向を見込んでいるエコノミストが多いのだろうと私は受け止めています。

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2024年9月24日 (火)

今年のノーベル経済学賞を考える

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そろそろ、ノーベル賞の季節です。ノーベル賞の公式サイトでは、以下の日程が明らかにされています。

10月7日(月)
医学生理学賞
10月8日(火)
物理学賞
10月9日(水)
化学賞
10月10日(木)
文学賞
10月11日(金)
平和賞
10月14日(月)
経済学賞

ということで、私が毎年のように気にかけている文学賞は今年こそ村上春樹さんに受賞してほしいところですが、まあ、それはさておき、大学で教えている専門分野である経済学賞については、以下の通り、クラリベイト引用栄誉賞が明らかにされています。

nameaffiliationmotivation
Janet CurrieHenry Putnam Professor of Economics and Public Affairs, Princeton School of Public and International Affairs, Princeton University, Princeton, New Jersey, United Statesfor pioneering economic analysis of child development
Partha DasguptaFrank Ramsey Professor Emeritus of Economics, Faculty of Economics, University of Cambridge, Cambridge, United Kingdomfor integrating nature and its resources in the human economy
Paolo MauroDirector, Economic and Market Research Department, International Finance Corporation, Washington, D.C., United Statesfor empirical studies of the effects of corruption on investment and economic growth

はい。誠に申し訳ありませんが、最新の経済学にはまったくついていけていません。すべて知らないエコノミストばっかりです。私の今年の推しとしては、昨年2023年の引用栄誉賞に輝いた不平等研究の3人、すなわち、ピケティ教授、サエズ教授、ズックマン教授を上げておきたいと思います。

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2024年9月23日 (月)

ジャイアンツに競り負けて今シーズン終戦

  RHE
読  売000000100 160
阪  神000000000 060

ジャイアンツに競り負けて、今シーズン終戦です。
昨夜に続いて今日もジャイアンツに勝てば、マジックこそ消えないものの、まだリーグ優勝の望みがないわけでもないと考えていましたが、さすがに本日の敗戦で今シーズンは終戦でしょう。クライマックスシリーズを勝ち上がって、日本シリーズの連覇を願うばかりです。

ポストシーズンは、
がんばれタイガース!

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2024年9月22日 (日)

外国人留学院生の卒業式・学位授与式に出席する

本日は、秋卒業の外国人院生の卒業式・学位授与式が大阪いばらきキャンパスであり出席してきました。私の指導院生は修士課程に学んだインドネシア人で、地域間格差の研究を指導していました。下の写真の通りです。

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この大学院の卒業式・学位授与式には、ややヘンな仕来たりがあり、卒業生は外国人・日本人それぞれ1人ずつ卒業生総代として挨拶するのですが、指導教員の方は全員がはなむけの言葉を送ります。英語のスピーチです。いつも大上段に振りかぶって大きなトピックを取り上げるのは私くらいで、今年は格差研究の院生を指導していましたので、クズネッツ教授から、「世界には4種類の国がある: 先進国、途上国、日本とアルゼンチンである」というのを引いておきました。欧米先進国はもともと先進国であり、アジアやアフリカなどの国々は一向に先進国にはなれない、例外は、途上国から先進国になった日本と先進国から途上国に転落したアルゼンチンである、という意味です。卒業生はほぼほぼすべて途上国からの留学生であり、卒業して学位を授与された今や祖国の経済発展に貢献されたい、といった趣旨の挨拶を送っておきました。

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2024年9月21日 (土)

今週の読書は経済書のほか小説なしで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
今年の新刊書読書は1~8月に215冊を読んでレビューし、9月に入って先週先々週と計16冊をポストし、合わせて226冊、本日の6冊も入れて232冊となります。目標にしているわけでも何でもありませんが、年間300冊に達する勢いかもしれません。なお、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。それから、瀬尾まいこ『温室デイズ』(角川文庫)も読んでいて、すでにFacebookとmixiでシェアしています。新刊書読書ではないと考えられるため、本日の読書感想文には含めていません。

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まず、森永卓郎『投資依存症』(フォレスト出版)を読みました。著者は、テレビなどでもご活躍のエコノミストです。余命宣告されてから精力的な出版を続けています。同じ出版社から、『ザイム真理教』、『書いてはいけない』、『がん闘病日記』、そして本書と立て続けに刊行しています。私はタイトルから判断して『がん闘病日記』だけはパスしましたが、ほかは読んでいますし、シリーズ、かどうかは別にして、本書も同じ出版社から刊行されています。本書では、タイトル通りに、投資という行為について考え、ゼロサムに終わりかねない投資はギャンブルと同じであり、しかも、現時点で日本経済は株式資産市場などがバブルの状態にあることなどから、けっしてオススメ出来ない、と結論しています。まず、投資に関して、お金が自動的に増えることはないと指摘しています。その通りです。ただし、この指摘は金融資産に対する投資について当てはまるわけではありますが、実物資産に対する投資については生産過程における付加価値があれば増えるような気がします。もちろん、第2章では、完全市場においては超過利潤が生まれないことから、利潤ゼロであれば株式の理論値はゼロになる、という点を指摘して、やや完全市場に関する前提がキツい気はしますが、株式と実物資産のいずれも投資にはリターンがない、という理論を展開しています。加えて、現実に歴史的に見て株価は上がっているという点に関しては、日経平均に採用されている会社の株は上がっているかもしれないが、そうでない株の方が多い、さらに、投資信託なんかでは手数料が決して少額ではない、などと主張しています。私は理論的にはツッコミどころが多いのは認めますが、少なくとも米国や欧州と違って、日本では金融資産への投資がギャンブルと同じであることについては概ね同意します。決して、金融教育を普及させても、この点だけは変わりません。本書ではインサイダー取引については何ら言及がありませんが、日本の株式市場が欧米と同じようにダーティーである可能性は否定できないと考えています。要するに、一般投資家や国民の多くではなく、ごく一部の富裕層の投資家が有利になる資産運用となっている可能性については否定できません。銀行の定期預金の金利などを見ても、大口預金に有利な設定がなされています。おそらく、一般国民に政府が投資を奨励している背景には、証券会社あるいは投資銀行の相場捜査だけでなく、フィービジネスの実態に対する無理解があるような気がしてなりません。小口の一般国民が投資でババを引かされる確率は、大口投資家とかなり統計的に有意な差があるのではないか、と私は想像しています。その意味で、本書の指摘はかなり正確です。でも、ギャンブルと同じで、節度ある態度で参加していてお金をスるのも楽しい、という面はあります。ただ、ギャンブルと同じで、本書のタイトル通りに、依存症になる可能性も無視できません。

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次に、ジャック・アタリ『教育の超・人類史』(大和書房)を読みました。著者は、フランスのミッテラン大統領の顧問を務めたりした欧州一流の知識人といえます。本書では、経済学ではない私の現在のフィールドともいえる教育について、タイトル通りに、ホモ・サピエンス登場のころからの歴史的な動向を探った後、現在を突き抜けて未来の許育について考察を巡らせています。教育については、まあ、その歴史はひょっとしたら別の教育史のテキストがあり得ると思いますし、それなりに信頼できる書物ではあっても、著者が一流の専門家であるとも私は見なしていませんので、ここでのレビューは教育の将来の方向、すなわちお、本書第7章を中心に見ておきたいと思います。もちろん、現時点での教育の到達点は、まだまだ不十分とはいえ、いろんな社会経済的な格差を背景にしつつも、一定の義務教育が実施された先進国では、本書では「読み書き算盤」と表現していますが、いわゆる読み書き計算が実用的に国民に広く普及しています。初等中等教育は所得や性別の差なしに広く普及し、大学を中心とする高等教育についても半数ないし半数を超える男女が進学するに至っています。本書では、「教育」という言葉を知識や情報の後世への伝達という意味で使っていますので、その意味で、いわゆる初等中等教育という基礎的な知識や情報の後世への伝達は、それなりに順調であろうと私は考えるのですが、著者からすれば、まだまだ不十分、という部分もあるのだろうと思います。問題は、この先生リアの更衣った教育という名の知識や情報の後世への伝達です。本書では3つのシナリオを提示しています。そして、驚くべきことに、3つのシナリオのうち2つまでが知識の伝達制度が崩壊ないし弱体化する可能性を示唆しています。本書で名付けたシナリオの3つの方向をタイトルだけお示しすると、無知による蛮行、人工物による蛮行、ホモ・ハイパーサピエンスと超集合知、となります。詳細は本書を読んでいただくしかありませんが、大学において教育に携わる教員として、私なりの教育論をお示ししておきたいと思います。まず、初等中等教育までは必要なレベルへの到達が求められます。いわゆる読み書き計算の現時点までのそれなりのプラスアルファが加わるわけです。そして、私の携わる高等教育ではそういった初等中等教育のレベルアップとともに、全員ではないものの、突出した能力の開発というものも場合によっては必要とされます。大学が教育機関として特殊なのは、よくいわれるように研究を行っているからです。研究成果はイノベーションとして生産過程に取り込まれて生産力の向上に結実するわけです。他方で、研究成果は初等中等、そして高等教育のコンテンツにもなります。この点がやや特殊なところです。そして、もうひとつ教育が、高等教育だけでなくすべての教育が特殊な点は、行政的に見てとてつもなくスピルオーバーが大きい、すなわち、個人の利得と社会的な利得に差がある点です。個人として読み書き計算ができる利得=ゲインよりも、すべてではないとしても圧倒的大多数の国民が読み書き計算をできるというのは、集合的に考えて国家としての利得が個人の利得の合計をはるかに上回る、と考えるべきです。他方で、予算措置なしの何らかの教育的な措置が可能に見える点も考慮せねばなりません。例えば、道路を通したり、橋を架けたりするのは、当然に大規模な光司が必要で、予算措置なくして道路や橋は出来ません。しかし、教育については「理数科教育を充実させる」というのは、それほどの予算措置なくして教員の負担で出来てしまうように見えます。このギャップが大きいため、個人はもとより、政府でも教育にかける財政リソースをケチる可能性が高くなります。現在の日本でも教育が崩壊しかけていることは報道などでも確認できるのではないでしょうか。

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次に、山我浩『原爆裁判』(毎日ワンズ)を読みました。著者は、編集者、ライターです。本書は、話題のNHK朝ドラ「トラに翼」の参考文献といえます。ドラマの主人公のモデルとなった三淵嘉子について、その生涯を跡づけるとともに、同時に、原爆使用についても米国での開発から歴史をひも解いています。この裁判の判決については、極めて短いダイジェストながらドラマでも放映されました。米国による原爆投下は国際法違反と断じ、原告らの救済に対して司法権の限界を示して、行政と立法の、そして、政治の貧困を指摘した画期的な判決でした。しかし、本書で指摘していることは、まず、驚くべきことに、この歴史的な裁判の記録が判決文を除いてあらかた処分されていることです。例の神戸地裁の酒鬼薔薇事件の裁判記録が処分されていたことが発覚し、裁判所が謝罪したのは広く報じられて記憶に新しいところですが、ドラマの主人公のモデルとなった三淵嘉子が参加した裁判の記録も判決文以外はほぼほぼすべて処分されていると、本書では指摘しています。歴史的にも極めて貴重な資料ですし、何らかの意図を感じる国民も少なくないものと私は想像しています。ほか、ドラマを楽しむ上で、個人的な人となりについても本書では詳しく取り上げています。ただ、ドラマの前半部分のハイライトとなった主人公の父親の疑獄事件への関与については、本書では一切言及がありません。また、最高裁長官のご子息との結婚は事実のようですし、何よりも本書のタイトルであり、後半のハイライトのひとつとなった原爆裁判については、本書でも、右陪審として弁論の最初から最後まで参加した、裁判長も左陪審も途中で交代する中で、三淵判事だけは最初から最後まで参加していたと、何度も繰り返し強調されています。ただ、原爆の開発、あるいは、三淵判事の生い立ちなんかに割かれたページ数の方が多くて、本書のタイトルである原爆裁判に関しては、それほどのボリュームは割かれていません。裁判記録が残っていないのも一因でしょうし、私の下衆の勘繰りながら、まあ、読者の関心は原爆裁判というよりも、ドラマ主人公のモデルとなった人物の方にあるんではないか、という推測が透けて見えます。はい、その通りです。私も巻末に添付されている原爆裁判の判決文を読みましたが、ドラマで大幅にダイジェストされていた部分で十分と感じました。NHK朝ドラ「トラに翼」にご興味ある向きには、とてもいい参考文献といえます。

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次に、原田昌博『ナチズム前夜』(集英社新書)を読みました。著者は、鳴門教育大学の研究者であり、ご専門はドイツ現代史だそうです。はい、実に的確な専攻分野だと思います。ということで、2022年暮れにテレビ番組で飛び出した表現に「新しい戦前」というのがあり、その翌2023年には内田樹と白井聡の対談による対談書も出版されています。そして、本書で焦点を当てているナチズム前夜のワイマール共和国は、第1次大戦後のドイツのとても理想的で高度に民主主義的な政治体制であり、私なんぞの専門外の人間からすれば、民主主義が一瞬で崩壊したように見えます。その時代を概観するのが本書となるわけです。私が少し驚いたのは、当時の1920年代のワイマール共和国においては政治的な暴力が日常茶飯事となっていた点です。本書では、まず、左派の共産党と右派のナチスなどが中道の社会民主党が主流をなしている国家、あるいは警察に対して暴力的行為に及んだ後、左派と右派の間の、すなわち、共産党とナチスの間の暴力に変質した、と主張しています。私はホンワカとナチスが一方的に国家・警察や共産党を攻撃していたのではないか、と想像していたのですが、おそらく、当時のコミンテルンの方針もあって、共産党がかなり暴力的な手段に訴えていた時期なのだろうと受止めています。ただ、本書ではコミンテルンについてはまったく言及ありません。ナチスがイタリアのファシスト党から受けた影響はいくつか言及されていますが、コミンテルンに言及ない点は少し疑問です。当時の各国共産党なんてコミンテルンのいいなりだったのではないかと私は想像しています。もちろん、そういった暴力は日本の過激派学生のゲバ棒なんて生易しいものではなく、拳銃での撃ち合いということらしいです。現在の日本の治安状況からは、これまた、想像ができかねます。もはや、銃で撃ち合う、特に政府権力や警察を対象にして拳銃で撃ち合うというのは、内戦状態に近い印象すらあります。そういった拳銃を使った暴力が頻発し日常化する中で、選挙によりナチスが比較第1党となり、ヒンデンブルク大統領に直接的な恫喝までした上で、ヒトラーが首相に任命され、いわゆる「授権法」を国会で議決して、ワイマール共和国の民主主義は一気に崩壊し、ナチスの、というか、ヒトラーの独裁体制が成立するわけです。詳細は、新書ながら400ページ近いボリュームとはいえ、本書を読んでいただくしかありませんが、コミンテルンとドイツ共産党の関係はすでに疑問を明らかにしていますので、それ以外に私なりに3点ほど本書に関して指摘しておきたいと思います。第1に、私はエコノミストですし、ワイマール共和国といえば、民主主義の崩壊に先立って経済が崩壊してハイパー・インフレーションに陥ったという歴史的事実は高校などでも習いますから、経済と政治的暴力とのインタラクティブな関係はもう少し掘り下げて分析してほしい気がします。単に、暴力だけを表面的にクロニクルに追うだけでなく、他の諸条件、特に経済との関係を考えたいと思います。第2に、ユダヤ人との関係です。ユダヤ人は本書で指摘されているようなワイマール共和国の暴力とどのような関係にあったのでしょうか。ナチスはユダヤ人に暴力的に接したのは容易に理解できるとしても、共産党はユダヤ人に暴力をふるったのかどうかは気にかかるところです。第3に最後に、これは疑問ではなく逆に評価する点ですが、ナチスないしナチズムを「国民社会主義」と邦訳しています。通常一般的には、「国家社会主義」と邦訳される場合が多いような気がしているのですが、私は「国民社会主義」だと理解しています。この点についても何の言及もありませんが、私は正しい用語を使っていると考えています。

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次に、倉山満『自民党はなぜここまで壊れたのか』(PHP新書)を読みました。著者は、憲政史研究家、また、肩書としては救国シンクタンク理事長兼所長ということになっています。本書でも、過去の刊行本についての言及がいっぱいあるのですが、私はこの著者は初読だと思います。ということで、本書では、タイトルとはほとんど何の関係もなく、日本の政治状況について記述しています。ですので、タイトルになっている問いに対しては、本書を読んでも回答は得られません。まあ、そういう本もいっぱいあります。本書は3部構成であり、これだけは知っておきたい政治改革挫折の歴史、あなたが日本の政治に絶望する10の理由、「ひれ伏して詫びよ」というのがそれぞれのタイトルです。まず、私も実感しているところですが、いくら何回総選挙をしても、日本では一向に政権交代が起こりそうにありません。歴史的事実として、2009年9月の総選挙で政権交代があったのは事実ですが、わずかに衆議院議員1期3年余りで2012年年末の総選挙で再度の政権交代があったのも事実です。ですから、本書で指摘する通り、派閥解消や政治改革などは自民党の長らくのお家芸であって、過去、何度となく繰り返されたものの、一向に実効が上がっていません。本書では、派閥解消を口にするたびに党内の派閥は強固になっていった、と指摘しています。はい、その通りだという気がします。加えて、政治資金に関する腐敗は目に余るものがあり、自民党内における自浄作用はまったく見られません。まあ、派閥解消なんて1回だけ本腰で実行すれば、それで終了なのですが、何度も派閥解消が実行されているわけで、その昔の笑い話に「趣味は禁煙」とか、「毎年1度は禁煙をしている」というのとそう大してレベルは変わりません。私の友人は、現在の政治状況であれば、フランスなら市街戦が起こっても誰も驚かない、という人がいますが、日本では何ら政権交代を期待する声すら上がりません。たぶん、現在の自民党の総裁選挙で国民の多くが騙されてしま、この先1年間で必ずある総選挙でも政権交代にはつながらないのだろうと私は予想しています。要するに、日本人は黙々と耐えるだけなわけです。少し頭を使えば、自民党は国会における最大会派であって、政権の座にあるわけですから、総裁選挙に立候補している候補者の主張は、現時点でも十分に実現可能なわけなのですが、それを総裁に就任しなければ実現できないかのごとく主張しているのも謎です。本書では、第2部で日本の政治に絶望する理由を10項目上げています。具体的には読んでいただくしかないのですが、私の大きな疑問として、多くの日本人は現在の政治に絶望しているのではなく、ひょっとしたら、大いに満足しているのではないか、という点です。私も66年余り日本人をやっていますが、実に不思議です。最後に、私なりに本書のタイトルの問いに答えるとすれば、アベノミクスが成功したのが一因、すべてではあり得ませんが、安倍政権が経済政策を成功させて国民の強い支持を受けたのがひとつの要因ではなかろうか、と考えています。

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次に、清水克彦『2025年大学入試改革』(平凡社新書)を読みました。著者は、政治・教育ジャーナリストです。本書は、まあ、有り体にいえば、大学入試を控えた高校生やその親に対するアドバイスが主たるコンテンツなのですが、私のような大学教員にもかなり参考になります。すなわち、一応、私は大学の教員ですし、それも私大ですので国公立大学よりも入試のバラエティが富んでいると一般的には考えられます。大学院入試は別として、高校からの普通の一般入試のほか、推薦入試、学士入学の入試、AO入試、そして、たぶん、私のような一般教員は関わらなさそうですが、総合型選抜入試なんてのもあります。国公立大学と私大の大きな入学方式の差は付属校です。私が京都大学の入試を経験した50年近く前は一般入試の一発勝負だったのですが、いくつかの入試の選択肢があり、その分、入学してくる新入生にも多様化が進んでいる、というのは決して悪いことではありません。ただ、大学での勉学にふさわしい学力を身に着けている点は必須であることもいうまでもありません。現時点で、私の勤務校では付属校からの入学や何やがあって、一般入試で入学する学生は40%ほどではないかといわれています。本書では、さすがに私学トップ校である早慶は55-56%が一般入試と推定しています。そして、一般入試による学生が通常は付属校からのいわゆる持上がりの学生よりも学力的に優位であると考えられていますが、本書でも、私の実感でも、必ずしもそうではありません。例えば、私の勤務校ではありませんが、慶應義塾大学なんかでは、むしろ塾高からの入学者、ただし、幼稚舎とかではなく塾高から慶應義塾のコースに入った学生がもっとも優秀で、いわゆる「金時計」の人たちである、と慶應義塾卒業生から実しやかに聞いた記憶もあります。ホントかどうかは私には確認のしようがありません。本書では難関校を目指す際に総合型選抜入試を候補に考えるのを推奨しています。私はこの入試方式に詳しくないのですが、ボランティア活動なんかを評価し、一般入試のような一発勝負ではなく高校3年間をトータルで評価する方式ですから、別の意味で負担は小さくないと思います。でも、学力だけではなく生活面も含めて、こういった入試によく適合するご家庭はありそうな気がします。最後に、本書では取り上げられていませんが、私の勤務校はそれなりの規模で歴史もありますので、スポーツなどを基にした推薦入試制度もあります。甲子園球児を野球部に迎える、といったものであり、スポーツに限らず文化活動に基づく水栓もあります。例えば、私の勤務校のある滋賀県は競技かるたの伝統があり、高校選手権が近江勧学館で開催されたりします。まさに、『成瀬は天下を取りにいく』の世界です。ですから、競技かるた、囲碁・将棋、書道が絵画などの芸術面で秀でた高校生などに開かれた制度です。

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2024年9月20日 (金)

上昇幅がさらに拡大した8月の消費者物価指数(CPI)をどう見るか?

本日、総務省統計局から8月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+2.7%から小幅に拡大し+2.8%を記録しています。4か月連続で上昇幅が拡大しています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から29か月、すなわち、2年半近くの間続いています。ヘッドライン上昇率も+3.0%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+2.0%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

8月の消費者物価、2.8%上昇 4カ月連続で伸び率拡大
総務省が20日発表した8月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が108.7となり、前年同月と比べて2.8%上昇した。4カ月連続で伸び率が拡大した。コメやチョコレートなどの食料や電気代が上昇した。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.8%の上昇だった。
総合指数は3.0%上昇した。内訳では食料の3.6%上昇が目立った。コシヒカリを除くうるち米は29.9%上昇と1976年1月以降最大の上げ幅だった。8月は新米が本格的に出回る前の時期で、外食需要の高まりに加え台風など災害への不安から買いだめが発生したという。
外食は原材料価格の高騰に加え、物流費や人件費の上昇で2.5%上がった。菓子類のうち、チョコレートは12.7%上がった。原料のカカオ豆の価格が上昇していることに加え、物流費の上昇もみられる。
家庭用耐久財は7.7%プラスだった。猛暑の影響でルームエアコンが16.1%上昇した。外国パック旅行費も59.4%上がった。
エネルギー分野では電気代が26.2%の上昇だった。23年1月に始めた政府の電気・ガス料金の負担軽減策がいったん終了した影響が出た。
一方、ガソリンは前年同月比3.8%低下とマイナスに転じた。政府は22年からガソリン価格の高騰を抑える激変緩和措置を実施しており、前年8月に価格が上昇した反動で、24年8月はマイナスだった。
全体をモノとサービスに分けるとモノは4.5%上昇した。サービスは1.4%上昇で、前月と上昇幅は変わらなかった。家事関連サービスで人件費が上昇している。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.8%ということでしたので、実績の+2.8%はジャストミートしました。品目別に消費者物価指数(CPI)上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、生鮮食品を除く食料の上昇が継続しています。すなわち、先月7月統計では前年同月比+2.6%、寄与度+0.63%であったのが、今月8月統計ではそれぞれ+2.9%、+0.69%と引き続き高い伸びと寄与度を示しています。次に、エネルギー価格については、4月統計から前年同月比で上昇に転じ、本日公表の8月統計では先月と同じ+12.0%まで上昇が加速しています。寄与度も7月統計と同じ+0.90%まで拡大しています。特に、インフレを大きく押し上げているのは電気代であり、寄与度は何と+0.82%に達しています。引用した記事で指摘されている通りであり、政府の電気・ガス料金の負担軽減策がいったん終了した影響が出ています。
私が注目している食料について細かい内訳をヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、コアCPI上昇率の外数ながら、生鮮食品が野菜・果物・魚介を合わせて+0.33%あり、うち、生鮮野菜が+0.23%、生鮮果物が+0.10%の寄与をそれぞれ示しています。繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料の寄与度も+0.69%あります。生鮮食品を除くコアCPIのカテゴリーの中でヘッドライン上昇率に対する寄与度を見ると、コシヒカリを除くうるち米などの穀類が+0.15%、うち、うるち米が+0.10%となっています。スーパーなどからコメが姿を消したり、大きく値上げされているのは日常生活でも目にしますし、広く報道されているところかと思います。穀類のほか、豚肉などのの肉類が+0.12%、焼肉などの外食も+0.12%、チョコレートなどの菓子類が+0.11%、などなどとなっています。また、コア財に目を転じると、引用した記事にもあるように、猛暑の影響でルームエアコンなどの家庭用耐久財が+0.11%の寄与、うち、ルームエアコンだけでも+0.07%の寄与を示しています。サービスでは、外国パック旅行費の+0.16%を含めて教養娯楽サービスの寄与度が+0.33%、などといった寄与を示しています。

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最後に、現在のインフレが国民生活に大きな影響を及ぼしているひとつの要因は物価上昇率の高さであることはいうまでもありません。すなわち、1990年代初頭にバブル経済が崩壊して、1997-98年ころからデフレに入った後、リーマンショック前後の一時期を除けば、ここ25年余りでもっとも高い物価上昇率であることは国民の負担感の大きさに現れています。もうひとつが上のグラフです。すなわち、上のグラフは 基礎的・選択的支出別/購入頻度別の消費者物価指数(CPI)上昇率の推移 をプロットしていて、選択的な財よりも日常生活に必要性が高い基礎的な財の方の値上がりが大きく、また、頻度高く購入する財の方が値上がりが大きくなっています。これらの要因により、インフレの影響を物価上昇率の数字以上に強く感じる可能性があります。この点は、忘れるべきではありません。

なお、米国の連邦準備制度理事会(FED)は連邦公開市場委員会(FOMC)にて政策金利であるFFレートの50ベーシスの利下げを決めています。FOMC statement の通り、"the Committee decided to lower the target range for the federal funds rate by 1/2 percentage point to 4-3/4 to 5 percent." ということです。他方、日銀は本日まで開催されていた金融政策決定会合において、政策金利の据置きを決めています。「当面の金融政策運営について」にある通りです。今後の日米両国における金融政策の方向についても注目です。

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2024年9月19日 (木)

IMF Blog Political Parties of all Stripes are Pushing for Higher Government Spending を読み日本の財政政策の方向を考える

9月16日付けで、国際通貨基金(IMF)による IMF Blog に "Political Parties of all Stripes are Pushing for Higher Government Spending" と題する記事が掲載されています。
IMFは従来からやや緊縮財政に傾いており、例えば、今年2024年は米国大統領選挙の年であることなどから、4月17日付けのブログでは "Why Our World Needs Fiscal Restraint in Biggest-Ever Election Year" と題する記事の中で、 "Governments should stay the course on fiscal consolidation amid mounting debt." と財政再建方針の堅持を主張していました。しかし、現実として、下のグラフに見られるように、右派も左派もどちらも財政拡張的な政策を採用するようになっています。

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上のグラフは IMF Blog のサイトから引用しています。従来は、よくいわれるように、左派がいわゆる「大きな政府」を志向して財政支出拡大の方向である一方で、右派は「小さな政府」の財政緊縮的 pro-restraint ながら、財政収支は左派の方が重視して右派はその意味では「放漫財政」に近い、と考えられてきましたが、どちらにせよ、右派も左派もどちらも財政拡張的 pro-expansion な政策を志向するようになっています。米国大統領選挙の年である今年2024年はなおさらかもしれません。私自身は、ヨソの国はともかく、日本についてはまだまだデフレから完全に脱却したとはいい難く、内閣府による9月17日付けの今週の指標「2024年4-6月期GDP2次速報後のGDPギャップの推計結果について」によればGDPギャップも▲0.6%と負のままですから、特に日本については緊縮財政なんてもってのほかで財政拡大の方向を志向すべき、と考えています。

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2024年9月18日 (水)

2か月連続の赤字となった8月の貿易収支と足踏み続く7月の機械受注をどう見るか?

本日、財務省から8月の貿易統計が、また、内閣府から7月の機械受注統計の結果が、それぞれ公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+5.6%増の8兆4419億円に対して、輸入額は+2.3%増の9兆1372億円、差引き貿易収支は▲6953億円の赤字を記録しています。また、機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から▲0.1%減の8749億円となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

8月の貿易収支、6952億円の赤字 2カ月連続
財務省が18日発表した8月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は6952億円の赤字だった。赤字は2カ月連続。半導体関連の輸出額が伸びたことで、赤字幅は前年同月比で26.0%縮小した。
輸出額は8兆4418億円と前年同月比で5.6%増えた。8月としては比較可能な1979年以降で最も大きかった。増加は9カ月連続。輸入額は2.3%増の9兆1371億円で、5カ月連続の増加となった。
輸出額を品目別に見ると、半導体の製造装置が55.2%増と大きく伸びた。半導体など電子部品は15.0%の増加だった。自動車は9.9%減少した。
地域別の輸出額は米国が1兆6066億円と0.7%減った。自動車の輸出が振るわず、35カ月ぶりに減少に転じた。アジアは4兆6620億円で11.4%増だった。
輸入では医薬品が43.5%増えた。欧州連合(EU)から単価の高い医薬品を多く仕入れたことを反映したとみられる。石油製品は42.1%増えた。
地域別の輸入額は医薬品が伸びたEUが17.7%増の1兆1013億円と単月で過去最高を更新した。アジアは4兆2201億円で0.8%増、米国は9491億円で2.0%減だった。
貿易収支を季節調整値で見ると、5958億円の赤字だった。赤字幅は前月比で12.0%縮小した。輸出は3.9%減の8兆7586億円、輸入は4.4%減の9兆3544億円だった。
機械受注7月0.1%減、2カ月ぶりマイナス 造船業下押し
内閣府が18日発表した7月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前月比で0.1%減の8749億円だった。マイナスは2カ月ぶり。内燃機関などの造船業からの発注に反動減が出て、全体を下押しした。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は0.4%増だった。
内閣府は「持ち直しの動きに足踏みがみられる」との基調判断を据え置いた。3カ月連続で同じ表現とした。月ごとのぶれをならした3カ月移動平均では0.4%減だった。
製造業は5.7%減の3984億円で、2カ月連続のマイナスだった。17業種のうち7業種が前月から減少した。発注した業種ごとにみると、造船業が51.6%減だった。前月に内燃機関などの大型案件があった反動で7月は落ち込んだ。化学工業は23.0%減、工作機械や航空機を含むはん用・生産用機械は8.3%減だった。
非製造業は7.5%増の4844億円で、2カ月連続で増加した。業種別では自動料金収受システム(ETC)関連の発注をした運輸業・郵便業が35.0%増と押し上げた。金融業・保険業は21.8%増だった。社内システムのデジタル化に関連した投資を実施した。

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲1兆2000億円を少し超える貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の▲6000億円を超える赤字は、予測レンジ上限の▲7620億円よりもさらに赤字幅が小さく、ハッキリと上振れした印象です。また、引用した記事の最後のパラにあるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易収支赤字は前月7月統計からやや縮小しています。ただし、輸出入ともに減少した縮小均衡という見方もできます。なお、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2024年8月統計まで、3年余り継続して赤字を記録しています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。8月統計の▲7000億円には達しない貿易赤字も、特に、何の問題もないものと考えるべきです。
8月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、引用した記事で石油製品が大きく増加したと報じていますが、確かに+42.1%増hが大きいのですが、金額ベースでは1790億円に過ぎません。9466億円に達する原油及び粗油は前年から▲4.9%減を記録していますし、石油製品のほぼ2倍の輸入額5425億円の液化天然ガス(LNG)の輸入額は+8.3%増となっています。なお、エネルギー価格については、私はまったくの専門外ですので、9月12日に公表された日本総研「原油市場展望」(2024年9月)を見ると、9月に入ってからバレる60ドル台半ばで推移しているWTI原油先物価格は、先行きについて「先行きを展望すると、原油価格は60ドル台後半を中心に推移する見込み。」と結論し、同時に「ハリス氏が大統領に選出され、同氏が掲げる環境・エネルギー政策が実施される場合、原油価格は低下する公算。」と分析しています。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では+6.2%増ながら、金額ベースでは▲2.5%減となっていて、穀物については単価が下落していることが見て取れます。また、引用した記事で指摘している通り、医薬品は前年同月比で+43.5%の大幅増を記録しています。輸出に目を転ずると、電気機器・一般機械といった我が国リーディング・インダストリーが、それぞれ+8.7%増、+7.9%増と輸出を牽引していまる一方で、輸送用機器は▲5.1%減となっています。輸送用機器の中でも、自動車の輸出額は▲9.9%減、数量ベースの台数でも▲11.8%減を記録しています。円高がどこまで輸出に影響を及ぼしているのかについては、現時点では不明ですが、かなり急速な円高ですので、先進各国がソフトランディングするとしても、輸出企業には価格面からのダメージが出る恐れは否定できません。

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続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+0.4%増でしたので、実績の▲0.1%減は予想レンジの下限▲1.2%増の範囲ながら、やや下振れした印象です。したがって、というか、何というか、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」で据え置いています。また、業種別に見ても、引用した記事にもある通り、7月統計では製造業が▲5.7%減の3984億円、非製造業が+7.5%増の4844億円と、6~7月の2か月連続で製造業マイナス、非製造業プラスが続いています。円高のダメージが一部に現れている可能性が否定できません。ただ、もっとも謎なのは、設備投資については、日銀短観などで示されている企業マインドとしての意欲は底堅い一方で、設備投資が実行されているかどうかは、GDP統計や本日公表された機械受注などには一向に現れていない点です。すなわち、投資マインドと実績の乖離が気にかかります。乖離の理由について、私は十分には理解できていません。これだけ人手不足が続いている中で、設備投資の伸びもなく、したがって、DXやGXが進まないとすれば、日本企業は大丈夫なかどうか、とても不安が残ります。

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2024年9月17日 (火)

東大の学費値上げと OECD Education at a Glance 2024 に見る大学学費の家計負担を考える

先週9月10日に、東大は記者会見を開いて学費値上げの検討状況を明らかにしています。同日に学生向けに公表された授業料引き上げ案について説明があり、学士課程は来年度2025年4月入学者から、修士課程は2029年度入学者から引上げを行うことなどが盛り込まれています。まず、私が見た範囲で、メディアの報道は以下の通りです。

他方、9月12日には、経済協力開発機構(OECD)から Education at a Glance 2024 が公表されています。日本語のカントリーノートも公表されています。日本では教育に割り当てられている財政リソースは少なく、教員が授業をしている労働時間は少なく、とても先進国と思えない教育の質の悪さや量の不足が何点も指摘されています。

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上のグラフは、リポート p.292 の Figure C3.4. Trends in the share of expenditure on tertiary institutions coming from households (2015 and 2021) を引用しています。高等教育機関への支出に占める家計支出の割合、すなわち、大学学費のうち家計で負担する比率をプロットしています。見れば明らかですが、大学学費の家計負担比率が50%を超えているのは先進国の中でも、英国とチリと日本だけです。OECD平均が20%程度ですが、フィンランドはゼロのようですし、北欧のほかのスウェーデンとノルウェイも極めて低い比率です。ほかにも、10%を下回っている国は少なくありませんし、繰り返しになりますが、OECD加盟の先進国の平均は20%ほどです。では、家計が負担する以外の大学学費は国庫からの助成金なわけです。もちろん、奨学金も含まれているのでしょうが、返済が必要な貸与型か必要ない給付型か、など、少し複雑な計算になります。

生産性を向上させ、国民に豊かな生活をもたらし、あるいは、貧困から抜け出すためには大学教育の果たす役割は重要です。当然ながら、若者の学ぶ権利を保証するために学費の高騰は避けねばなりません。家計の負担を増やすことなく国庫助成金の拡充が必要です。我が国の経済から考えて、OECD平均が加盟の先進国並みは不可能ではないと考えます。

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2024年9月16日 (月)

怒涛の4連勝でタイガースは優勝戦線に踏みとどまれるか?

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阪  神00000210x 3120

広島・ヤクルトと4連勝して、阪神は優勝戦線に踏みとどまれるでしょうか
9月1日の巨人戦に負けて、私は今シーズン終戦を覚悟したのですが、阪神が広島に連勝する間に巨人がヤクルトに連敗し、そのヤクルトに阪神が連勝して、巨人を2ゲーム差でピタリと追走しています。広島がやや脱落気味でしょうかね。
それにしても、青木選手の引退は甲子園でも大コールで感激しました。引退した鳥谷と早大の同級生だったと記憶しています。やっぱり、外野手に比べて内野手、それもショートは肉体労働が厳しそうな気がするのは私だけでしょうか。

次の中日戦も、
がんばれタイガース!

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自転車のヘルメット着用は広がるか?

9月12日、今年の秋の全国交通安全運動の実施に合わせて警察庁からプレスリリースがあり、飲酒運転や携帯電話仕様に関する事故などとともに、自転車関連交通事故も取り上げられています。特に、プレスリリース資料の中から 自転車乗車用ヘルメットの着用状況 を引用すると以下の通りです。

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ヘルメット着用上位3件の愛媛県、大分県、群馬県では40%を超えていてびっくりしています。ちなみに、プレスリリース資料の最終ページには都道府県別の自転車乗車用ヘルメット着用率調査結果のテーブルがあり、近畿各府県はすべて全国平均の17.0%を下回っています。東京は15.1%なのですが、まあ、私の実感としてもこんなもんだろうと思います。府県別には、滋賀県11.1%、京都府12.5%、大阪府5.5%、兵庫県7.7%、奈良県13.7%、和歌山県14.9%となっています。私の勤務校でも、自転車置き場のステッカーを交付される条件として、保険加入は義務となっていますが、ヘルメットをしている学生はほとんど見かけません。自転車置き場でヘルメットを見ると、学生ではなくほぼほぼ教職員だったりします。はたして、自転車のヘルメット着用は進むんでしょうか。意識の低さを実感します。

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2024年9月15日 (日)

久しぶりのロングライドで宇治橋周辺のポケふたを見に行く

ポケふたを見に行きました。今日ではなく昨日の午後なのですが、私にしては久しぶりに遠出して京都府宇治市の宇治橋近くに新しく設置された2枚のポケふたを見てきました。
瀬田の唐橋から瀬田川-宇治川に沿ってのルートで、道路標示ベースで片道33キロのなのですが、往復でいろいろあって70キロくらいのロングライドでした。土曜日でしたが、暑さのためか、それほどお仲間もおらず、年齢なりにのんびりしたものでした。まあ、予算をケチっての安いクロスバイクを漕いでいるのが60半ばのジーサンですから、スピードが出るわけもありません。それでも、30度を軽く超える午後でしたので、最後の方はヘロヘロになりました。やっぱり、それなりの距離を行こうとすればロードバイクの方がいいのだろうかと思わないでもありません。東京ではロードバイクはそれなりの乗りこなしが必要と考えていたのですが、関西とはいえ京阪神でもなく、県庁所在市でもないご当地ではもっとカジュアルで、私はクロスバイクでも車道を走っていますが、ご当地のロードバイクは80%が歩道をチンタラと走っています。グローブだとかサングラスなどのアイウェアとかもなしで、当然のようにノーヘルです。まあ、ご当地のロードバイクはほとんどママチャリと変わらない乗り方ですので、東京と違ってハードルが高くなくて、私もロードバイクに手を出してみようかと物欲が募っています。
下の写真はい1枚目が私のクロスバイクをバックに、ヤバソチャとチャデスのポケふた、2枚目はヒバニーとパッチールのポケふたとなっています。実は、宇治市内にはもう1枚ポケふたがあって、10月2日にオープンするニンテンドーミュージアムの中に敷設されています。ミュージアムが開館したら、ヒマを見つけて駆けつけたいと思います。

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2024年9月14日 (土)

今日は私の誕生日

今日は私の誕生日です。
もうすっかり年金の受け取れる65歳を超えて66歳になります。ですから、「めでたくもあり、めでたくもなし」という一休宗純の心境かもしれません。
もう少し大学教員を続けます。

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今週の読書は経済書からホラー小説まで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
今年の新刊書読書は1~6月に160冊を読んでレビューし、7月に入って計20冊をポストし、合わせて180冊となります。目標にしているわけでも何でもありませんが、年間300冊に達する勢いかもしれません。なお、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。

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まず、北村周平『民主主義の経済学』(日経BP)を読みました。著者は、大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授ということらしいのですが、学位の方はストックホルム大学国際経済研究所で経済学のPh.D.を取得していますので、まあ、エコノミストと考えてよさそうです。本書では、新しいタイプの政治経済学を取り上げていて、それが民主主義を分析しています。本書が解き明かそうと試みている民主主義のうちの決定についてはとてもわかりやすく上手に解説しています。数式がかなり多くて、数式を見ただけでアレルギーを起こしかねない読者には不向きかもしれませんが、ちゃんと読めば数式もそれほど難解なものではありません。政治の決定プロセスを経済学的手法を用いて分析しようとしていますので、経済学に関心ある向きにも、政治や民主主義、あるいは、広く市民運動などに関心ある向きのも、どちらにも安心しておすすめできる良書です。ということで、私なんかの狭い了見では、政治経済学といえばかなりの確度でマルクス主義経済学に軸足のある経済学であり、特に、国際政治経済学となればほぼほぼマルクス主義経済学確定、というカンジなのですが、本書はそうではなく主流派経済学の分析手法により民主主義を考えようと試みています。ですので、民主主義における決定の基本となる選挙を考える際に根幹となるのは、どうしても、ダウンズの「中位投票者定理」になります。政策についても、本書では登場しませんが、ホテリングのアイスクリーム・ベンダー問題のような解決策と考えて差し支えありません。すなわち、ここでは単純に左翼と右翼という表現を用いるとすれば、選挙では真ん中あたりの中道に位置する中位投票者がキャスティングボードを握る、ということです。左翼と右翼でなくても、プランAに強く賛成のグループと強く反対のグループを考えても同じです。明確に賛成と反対のどちらかが賛同者大きいとすればともかく、賛成でも反対でもどちらでも大きな利害関係内容なグループの動向が決定権を持ちかねないわけです。これに加えて、本書でが因果推論の成果を取り入れて、因果関係から政策評価を試みる方法を解説しています。それ自体はありきたりですが、ランダム化比較実験(RCT)、回帰不連続デザイン(RDD)、操作変数法(IV)、差の差法(DID)です。ほぼほぼ完全に経済学の手法といえます。というか、私はそう考えています。本書では、こういった経済学の考えや手法を基本にして民主主義の決定について分析しています。ただ、注意すべきは、決定過程であって、議論の展開と関係ない最終的な投票行動の分析が中心になります。ですので、ディベートで相手の議論を否定したり、といった点は本書には含まれていません。もうひとつ、私が重要と考えているのは民主主義と経済の関係です。すなわち、前世紀末から今世紀初頭に中国のWTO加盟を議論した際、中国を世界貿易に取り込むことから中国は経済的に豊かになることが軽く予想され、この前段は達成されたといえます。そして、後段では経済が豊かになると権威主義から民主主義的な要素がより受け入れられやすくなる、という予想がありました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによる撹乱があったとはいえ、現在の習体制は民主主義からむしろ遠ざかっているようにすら見えます。民主主義と経済の関係については、同じ中国語圏でもシンガポールや台湾については経済発展とともに民主化が進んでいるように見えますが、メインランド中国ではそうなっていません。ロシアも権威主義的傾向を強めている印象がありますし、南米のいくつかの国でも民主主義が後退している可能性があると私は受け止めています。日本では、明らかに経済の停滞とともに民主主義が後退しています。安倍内閣のころから権力者は法の支配の外に置かれて、何をやっても問答無用であり、虚偽発言を繰り返しても国民がそのうちに忘却する、という流れが続いています。直近では兵庫県知事がそうです。こういった民主主義と経済の関係は、基本的に無相関であると考えるべきなのか、本書では正面から議論していませんし、私にしても理解が進みません。

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次に、南彰『絶望からの新聞論』(地平社)を読みました。著者は、朝日新聞政治部ご出身のジャーナリストであり、現在は朝日新聞を退職して沖縄の琉球新報の記者です。ということで、1年半ほど前の昨年2023年2月に鮫島浩『朝日新聞政治部』(講談社)を読んでレビューしていますが、基本的に同じようなラインのノンフィクションです。まず、印象的だったのが、朝日新聞経営陣の腰の引けた報道・編集方針です。政権に楯突く反対論に対して、ネットでの炎上を警戒して極度に慎重姿勢を取り、政権や権力に対して融和的な編集方針を本書では強く批判しています。まさに、メディアのサイドでの「忖度」といえます。さらに進んで、朝日新聞だけでなく、というか、むしろ、朝日新聞は国内メディアの中でも政権との緊張感高い方のメディアだと私は考えるのですが、その朝日新聞だけではなく国内メディアの政権や権力者との距離感についても強い疑問を呈しています。本書タイトルにある「絶望」は私を含めて多くの日本人も共有しているのではないかと思います。この「絶望」は朝日新聞だけではなく、メディアにとどまることだけでもなく、すべての日本人に関係する「絶望」なのだと思います。私自身は、ミレニアムの2000年紀が明けてからの日本は、少なくとも、民主主義や政治という面で確実に劣化していると考えています。大きな原因は経済の停滞です。経済が停滞する中で経営者サイドから労働者や組合に対する支配の強まりが始まり、それが民主主義を劣化させて政治の迷走を生み出していると思います。もちろん、政治家リーダーとして総理大臣を経験した小泉・安倍といった政権担当者の名を上げることも出来ますが、そういった総理や権力者が独走して日本を劣化させたのではないと私は考えています。経済的な停滞にもかかわらず、利潤追求という経済学的な合理性に基づく行動を取る中で、労働組合組織率に端的に現れるように雇用者サイドの力量が弱まり、同時に、政治のサイドでも雇用者に振りで経営者に有利な派遣労働に関する制度的な変更がなされたこともあって、雇用者が過酷な労働条件を行け入れざるを得なくなり、一定割合の雇用者が正社員のステータスを失って非正規に移行してしまったことから、民主主義を支えるための時間的な余裕がなくなり、もちろん、心理的な圧迫感とともに民主主義の劣化につながったのが基本的なラインであると私は考えています。加えて、議会における反対党勢力も劣化しています。一度は政権交代に成功しながら、誤った、あるいは、不十分な政策対応で総選挙1回という短期間で政権を手放しただけでなく、野党政権に対する極めて不面目な印象を国民に植え付けてしまいました。メディアの劣化については本書で詳しく展開されています。現在の政権与党では政治改革がホントにできるかは不透明ですし、少なくとも経済政策を国民目線で策定する能力はほとんどなく、大企業に有利な方向でしか経済政策は運営されないおそれが高いと私は危惧しています。本書は、日本の国としての劣化をメディアのサイドから追っているオススメの本だといえます。

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次に、丸山正樹『夫よ、死んでくれないか』(双葉社)を読みました。著者は、小説家です。ミステリが得意分野なのかもしれません。30代半ばの女性3人、主人公の甲本麻矢、大学時代の友人の加賀美璃子と榊友里香が主要な登場人物です、まず、甲本麻矢は大手の不動産会社勤務、結婚後5年を経過して寝室を別にしたセックスレスで夫婦の間は冷え切っています。加賀美璃子はフリーランスの編集者・ライターで、離婚を経験したバツイチです。榊友里香は結婚7年目の専業主婦で、3人の中で唯一の子持ちで娘がいます。亭主の榊哲也を「ガーベ」=garbageと呼んでいます。まあ、いろいろとあるのですが、榊友里香が亭主のガーベを突き飛ばして亭主の榊哲也が「逆行性健忘」という記憶障害になってしまいます。榊友里香は甲本麻矢と加賀美璃子を呼び出して、亭主の榊哲也を殺害しようと試みますが、結局、決行には至りません。他方、榊哲也は最近10年ほどの記憶を失っただけではなく、人格的にも穏やかな好人物になるのですが、記憶障害が回復する可能性はあると医師から告げられます。そして、主人公の甲本麻矢の方でも事件が起こります。夫の甲本光博が失踪してしまうのです。香水の香りなどから不倫している女性の存在が疑われます。甲本麻矢の勤務先には失踪の事実を伏せていたのですが、職場の後輩の鳥居香奈から雰囲気が少し変わったのではないか、と指摘を受けてしまいます。鳥居香奈はバリキャリの甲本麻矢に憧れていて、仕事でも目標にされています。他方、失踪中の甲本光博から甲本麻矢にメールが送られてきて、何と、甲本光博と加賀美璃子のツーショットの写真が添付されていました。しかし、甲本麻矢が加賀美璃子に確認して、不倫ではないと判断します。そこで、甲本麻矢は亭主の失踪の原因を探るためにパソコンのパスワードのロックを解除して起動したところ、甲本麻矢の亭主の甲本光博と榊哲也のつながりが浮かび上がります。そうこうしているうちに、榊哲也が逆行性健忘から回復し、すべてを思い出して、殺害の決行は思いとどまったものの、救急への連絡をひどく遅らせた点などから、甲本麻矢と加賀美璃子に慰謝料を請求しようとします。そのころ、甲本麻矢は業界トップ企業にヘッドハンティングの誘いがあり、榊哲也にまつわるスキャンダラスな出来事を考慮して断ります。で、最後の最後に、こういった一連の出来事の謎が解き明かされます。ということで、あくまで一般論ながら、本書のように夫に死んでほしいと考えている妻がいっぱいいる一方で、逆に、妻に死んで欲しいと願っている夫もかなりいるんではないか、という気がしています。

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次に、マイク・モラスキー『ピアノトリオ』(岩波新書)を読みました。著者は、米国のセントルイス生れで、今年2024年3月まで早大の研究者をしていて、現在は名誉教授です。同じ出版社から、昨年2023年に『ジャズピアノ』上下巻を上梓し、第74回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞しています。ご当地には県立図書館で所蔵していて、私も興味分野だけに読もうかと考えないでもなかったのですが、諦めた記憶があります。ということで、ややお手軽な新書版で本書を読んでみました。第1章の導入部分のピアノトリオの聞き方から始まって、やっぱり、第2章からがメインとなり、モダンジャズ初期の名演から最近時点までの演奏が網羅的に取り上げられています。ただ、本書でも明記しているように、あくまでピアノトリオですので、ソロやカルテットより大きなコンボでの演奏が主となっているピアニストは入っていません。例えば、セロニアス・モンクとか、ハービー。ハンコックです。私も50年をさかのぼる中学生や高校生のころからモダンジャズを聞きはじめ、いかにも日本人的に最初はコルトレーンから入りました。しかし、いつのころからか、コルトレーンを聞くには前日から十分な睡眠を取って体調を整え、気合十分の体制でないと聞けなくなってきて、今ではピアノトリオ中心に聞くようになっています。私自身の音楽の聞き方としては、リラックスや癒やしではなく、緊張感を高めて仕事やスポーツなんかに臨む、というカンジで聞いています。知り合いとお話していて、そういう音楽の聞き方はレアケースではないか、と指摘され、確かに、以前はそういう聞き方をするのは軍歌ぐらいと思わないでもなかったのですが、テニスプレーヤーの錦織圭がヌジャベスの音楽を試合前に聞いているとインタビューで答えたりしています。試合に対する集中力を高めるというよりは、心穏やかに落ち着くためのようですが、緊張感を高める音楽の聞き方があってもいいと私は考えています。コルトレーンはまさにそういうアルバムを多く残しています。ピアノトリオのモダンジャズも、決してBGMとして流すだけではなく、いろんな聞き方ができるという点を本書でも強調しています。第1章では、ユニゾン奏法、ブロックコード、ロックハンド奏法などのピアノテクニックにも言及しています。誠に残念ながら、日本人ピアニストは小曽根真や上原ひろみに言及ありますが、演奏は取り上げられていません。後、モダンジャズですので、どうしても米国中心になるのは理解できますが、欧州のジャズももう少し取り上げて欲しかった気もします。エンリコ・ピエラヌンツィなんて、いい演奏をいっぱい残しています。最後に、ピアノではありませんが、先週の9月7日にテナーサックス奏者のソニー・ロリンズが誕生日を迎えています。1930年生だそうです。本書でも言及されていますが、ジャズプレーヤーには薬物使用や荒れた生活で早世する人が少なくなく、自動車事故でなくなる人もずいぶんといます。そういった中で、90歳を大きく超えているのは少しびっくりです。

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次に、スティーヴン・キング『死者は嘘をつかない』(文春文庫)を読みました。著者は、私なんぞがいうまでもなく世界のホラー小説の大御所です。本書は、作家活動を開始してから50周年を祈念した第3弾となります。文庫オリジナル長編だそうです。なお、第1弾が『異能機関』上下、第2弾が『ビリー・サマーズ』、そして、本書に続く第4弾の日本独自中篇集『コロラド・キッド 他2篇』も今月9月に入って刊行されています。まあ、私はキングをコンプリートに読むほどのファンではありませんから、暑い時期の怪談話というわけではないものの、適当につまみ食いして読んでいるわけです。なお、英語版の原題は Later であり、2021年の出版です。ということで、ニューヨーク、ないしその近郊を舞台とし、本書の主人公のジェイミー・コンクリンが22歳の時点で、9歳ころからの自分を振り返るというホラー小説です。語り手のジェイミー自身が何度も、これはホラーストーリーであると繰り返しています。そして、ジェイミーには死んだ人が見えて、会話を交わせたりするわけです。ジェイミーの家族はシングルマザーの母親であるティア・コンクリンだけであり、ティアの兄でありジェイミーの叔父であるハリーが若年性認知症を発症して、ティア・コンクリンが文芸エージェントの仕事を引き継いでいます。ティアの同性のパートナーはニューヨーク市警の刑事であるリズ・ダットンです。主人公のジェイミーは死者が見えて、会話が交わせますので、大人の事情によりその「能力」が利用されてしまったりします。すなわち、隣室の老夫婦の奥さんが亡くなった折に、亡くなったミセス・バーケットの指輪のありかを聞き出したりするまではよかったのですが、徐々に少年には荷の重い死者との対面を強いられるようになります。まず、文芸エージェントである母親のティア・コンクリンの収入の大きな部分を占めていたクライアント、作家のレジス・トーマスがシリーズ最終巻を書き残して亡くなった直後、すでに死んだ作家から最終巻のあらすじを聞き出すよう母親から要求されます。死者から聞き出した内容を、作家が遺稿を残したことにして、実は、エージェントの母親がジェイミーの聞き出したあらすじからシリーズ最終巻を自分で書いて出版するという運びなわけです。こういった死者と話す際に、なぜか、死者はジェイミーに対して、というか、他の人に対してはいざ知らず、ジェイミーに対しては嘘をつけずに、しかも、どうやら、黙秘を貫く権利もないようです。そして、母親のパートナーである刑事は、結局、不祥事により警察を解雇されるのですが、警察勤務中に、あるいは、警察解雇後に死者から聞き出すよう要求され、大きなトラブルになるというホラーです。最後の最後に、ジェイミーは自分の父親が誰なのかを知ることにもなります。『It』なんかでも感じたのですが、キングがこういった若者や子供を描写するのがとても上手だと思ってしまいました。私は青春小説が好きなのですが、キングは青春小説に優れた作家だと実感できます。

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次に、入江敦彦『怖いこわい京都』(文春文庫)を読みました。著者は、京都は西陣で生まれ育った京都人であり、作家、エッセイストです。現在はロンドン在住だそうです。ということで、本書は2010年に新潮社から刊行された単行本に加筆して文庫化されています。かなり加筆して、百物語よろしく99話を収録しています。9章から構成されていて、異形の章では、闇の狛犬、魔像、人喰い地蔵など、伝説の章では、丑の刻参り、狐塚、清滝トンネルの信号など、寺院の章では、血天井、釘抜きさん、化野など、神社の章では、七野神社、天神さん、呪歌など、奇妙の章では、御札、エンササンザ、千躰仏など、人間の章では、京女、タクシー、イケズなど、風景の章では、墓池(一応、念のためですが、「墓地」ではなく「墓池」であって、タイプミスではありません)、古井戸、鬼門など、幽霊の章では、幽霊街道、公衆トイレ、四辻など、妖怪の章では、鵺、土蜘蛛、天狗などが、それぞれ取り上げられています。一部に例外はありますが、基本的にほぼほぼすべてのテーマで具体的な場所や施設が明記されています。例えば、風景の章の墓池は西方寺などです。何といっても、1200年前からの古都であり、神社仏閣、あるいは、それに付随するお墓なんかもいっぱいありますので、京都の怪談話は尽きません。菅原道真なんて讒言により左遷されて怨霊になって京都に舞い戻るわけですから、由緒正しき歴史の深さを感じます。私が公務員をして東京に住んでいたころ、子供たちを卒業させた小学校は南青山にあって、ボーイスカウト活動は乃木神社を拠点とした港18団でしたし、少し歩いて明治通りに出れば東郷神社なんてのがあって、その親分格の明治神宮何かとともに、ひどく新しい神社な気がしました。上野の寛永寺なんてのも、東叡山という山号に示されているように、比叡山延暦寺が京の都の辰巳の鬼門を守るのと同じ趣旨でお江戸の鬼門を守るために、徳川期初期に創建されているのはよく知られた通りです。もちろん、京都にも平安神宮なんてミョーに新しい神社があるのも事実ですが、東京都京都の歴史の長さの違いを実感できます。それだけに、恨みつらみのたぐいも歴史を経て強大化している可能性を和は感じます。もっとも、他方で、本書でも取り上げられている京都の心霊スポットとして、清滝トンネルや東山トンネルは近代に入ってからのスポットです。明らかに、逢坂の関なんかは東海道の一部であって、京都の三条通りからつながっていますので、トンネルではなく山道です。まあ、昔はトンネルなんて掘れなかったわけです。いずれにせよ、私は本書の著者と同じで、いわゆる霊感なんてものをまったく持たず、しかも、基本的に近代物理学で解明できる範囲で生活や仕事をこなしていて、超自然的な現象や存在は視野に入りませんが、こういった歴史を感じる怪談話は決して嫌いではありません。まだまだ暑い日が続く中で、冷気を感じさせる読書をオススメします。

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2024年9月13日 (金)

紀要論文 "Estimating Output Gap in Japan: A Latent Variable Approach" を書き上げる

我が勤務校の紀要論文集である『立命館經濟学』に掲載していただくべく "Estimating Output Gap in Japan: A Latent Variable Approach" を書き上げました。何と申しましょうかで、私は60歳で公務員を定年退職し、その後の再就職先のこの勤務校でも65歳で定年退職し、雇用期限の70歳に向かっているところですので、もはや特段の上昇志向はなく、毎年夏休みに1本だけ学術論文を書いています。一応、サマリは以下の通りです。

Summary
Since the late 1990s, Japanese economy was in deflation for more than twenty years. Recently, there have been some signs of ending deflation. Deflation is usually defined as sustained decline of prices frequently associating economic stagnation. The economic stagnation can be measured by various means, and this paper among those explores measurement of the output gap or the GDP gap. At first, the study organizes the measurement methods for estimating the output gap such as the production function approach, the univariate approach employing mechanical filters, the empirical approach based on Okun's law, and the structural vector autoregression (SVAR) approach using the latent variables. The paper adopts one of the latent variable approaches employing the state space model based on Kuttner (1994) and tries to estimate Japanese output gap from mid-1990s comparable with output gap measured by other methods.

結局、推計は何度かやり直してみたのですが、どうにもピンと来るものがなくて、最初の方の推計結果で正面突破を図ることにしました。以下の通りです。GAPのシリーズが私の推計結果で、CAOは生産関数アプローチに基づく内閣府の推計結果です。私の推計による産出ギャップが大きいのは、消費者物価(CPI)上昇率ではなく日銀が公表している企業物価指数のうちの国内物価(PPI)を使っているからです。どうして、CPIではなくPPIを使ったかというと、PPIには消費税の影響を除く指数があるからです。でも、例えば、もっともインフレの激しかった20222年12月の統計で見ると、CPI上昇率は+4%の過ぎないのに、PPIの方は+10%を超えていたりしています。この大きなインフレが、結果として、大きな産出ギャップに現れたと考えています。

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2024年9月12日 (木)

商品市況と円高の影響で上昇幅が縮小した8月の企業物価指数(PPI)と自動車の認証不正を底に企業マインドの回復続く法人企業景気予測調査

本日、日銀から8月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+3.0%の上昇となり、先月6月統計からさらに上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数、8月2.5%上昇 8カ月ぶりに伸び鈍化
日銀が12日発表した8月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は123.0と、前年同月比で2.5%上昇した。7月(3.0%上昇)から伸び率が0.5ポイント鈍化した。民間予測の中央値(2.8%上昇)より0.3ポイント低かった。中国経済の減速による銅など原材料価格の下落が響いた。
8カ月ぶりに伸びが鈍化した。企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
内訳では、銅など非鉄金属が前年同月比11.4%上昇と、7月(18.9%)から伸び率が縮まった。非鉄金属の主要消費国である中国景気の減速を受け、商品相場が下落したことが影響した。
円高の進行が輸入物価の伸び鈍化につながった。円ベースの輸入物価指数は2.6%上昇で、7月(10.8%)と比べて伸び率が鈍化した。24年8月のドル・円相場は平均で1ドル=146円台と、7月(157円台)から円高にふれた。
電力・都市ガス・水道は10.6%上昇し、7月から増加幅が拡大した。政府が停止した電気・ガスの補助金が価格の押し上げにつながった。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+2.8%と見込まれていましたので少し下振れた印象でした。国内物価の上昇幅が大きく縮小したした要因は、引用した記事にもある通り、中国の景気減速による商品価格の低下と円高です。政府による電気・ガスの補助金は停止されたままで、物価の押上げ要因となっています。非鉄金属をはじめとする商品価格の下落と円高ですから輸入物価への影響が大きく、前年同月比ベースで輸入物価は4~7月まで2ケタ上昇でしたが、8月は一気に+2.6%まで上昇幅を縮小させています。原油についても基本的に童謡の価格動向が観察されます。すなわち、円建て輸入物価指数の前年同月比で見て、6月+22.0%、7月+22.2%の上昇が、8月統計では一気に+6.5%まで上昇幅を縮小させています。ちなみに、8月統計の原油の契約通貨建て価格の前年同月比上昇率は+5.3%を記録しています。何度も繰り返している通り、我が国では金融政策を通じた需給関係などよりも、原油価格のパススルーが極端に大きいので、上昇にせよ下落にせよ国内物価にも無視し得ない影響を及ぼしています。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、電力・都市ガス・水道が7月の+6.5%から8月は+10.5%に大きく上昇幅を拡大しています。食料品の原料として重要な農林水産物は7月の+4.0%から8月は+5.3%と上昇幅をやや拡大しています。したがって、飲食料品の上昇率も8月+2.1%と高止まりしており、ほかに、非鉄金属が+11.4%が2ケタ上昇を示しています。ただし、石油・石炭製品は7月+0.4%から8月には▲4.0%と下落に転じています。原油価格が円建てでも上昇を示している一方で、石油・石炭製品の価格の落ち着きはやや不思議であると私は受け止めています。

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また、本日、財務省から4~6月期の法人企業景気予測調査が公表されています。ヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は前期の4~6月期に+0.4とプラスに転じた後、足元の7~9月期は+5.1と2四半期連続のプラスを記録し、先行き10~12月期には+7.2、2025年1~3月期でも+4.7と、順調にプラスを続けると見込まれています。法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは上の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、企業物価(PPI)と同じで、景気後退期を示しています。
自動車の品質不正問題が響いて、BSIのヘッドラインとなる大企業全産業で見て前期の1~3月期に瞬間風速で小さなマイナスをつけたものの、前期の4~6月期にはプラスに転じ、足元の7~9月期、先行きの10~12月期から2025年1~3月期と企業マインドは順調に回復する見通しが示されています。この間、大企業レベルでは製造業・非製造業ともにBSIはプラスと見込まれています。雇用人員も引き続き大きな「不足気味」超を示しており、大企業全産業で見て9月末時点で+27.0の不足超、12月末で+24.1、来年3月末でも+21.3と大きな人手不足が継続する見通しです。設備投資計画は今年度2024年度に全規模全産業で+12.5%増が見込まれています。これまた、製造業・非製造業とも2ケタ増を計画しています。それなりに期待していいのではないかと思いますが、まだ、機械受注の統計やGDPに明確に反映されるまで至っていませんので、私自身は計画倒れになる可能性もまだ残っているものと認識しています。

果たして、10月1日公表予定の日銀短観やいかに?

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2024年9月11日 (水)

帝国データバンク調査による「米作農業の倒産・休廃業解散動向」やいかに?

コメがスーパーなどの店頭から姿を消して価格が高騰しているのは広く認識されている通りですが、他方で、コメ農家の倒産・廃業も急増しているようです。というのも、9月5日、帝国データバンクから「米作農業の倒産・休廃業解散動向」の調査結果が明らかにされていて、今年2024年に入って1-8月で34件の休廃業と解散が発生していることが示されています。帝国データバンクのリポートから 「米作農業」倒産・休廃業解散件数 推移 を引用すると以下の通りです。

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同じ9月5日付けのNHKの「首都圏ナビ」のサイトでも報じられていますが、イネの育成はそれほど問題ないにもかかわらず、品薄が続いて入荷が不安定な状況が続いているようです。農水省の民間在庫のデータを見ても、昨年末2023年12月には298万トンあった在庫が、直近でデータが利用できる今年2024年7月には82万トンまで激減しています。
それにもかかわらず、帝国データバンクの調査によれば、2024年1-8月には、米作農業(コメ農家)の倒産(負債1000万円以上、法的整理)が6件、休廃業・解散(廃業)が28件発生し、計34件が生産現場から消滅した、とリポートされています。この要因として、帝国データバンクのリポートでは、「生産コストの上昇と深刻な後継者・就農者不足」を上げています。すなわち、生産資材、肥料、ガソリン・軽油などの値上がりが激しい一方で、価格転嫁が難しいことからコメづくりを断念したり、あるいは、就農者の高齢化や後継者不足もあって、経済学的にいえば、供給が需要に追いつかない状況となっています。一部の報道に見られたように、インバウンド観光客の消費増は私は怪しいと見ています。

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私は授業でサラリと日本の農業について取り上げないでもないのですが、それほど専門性があるとは思っていません。でも、OECD の Post-Uruguay Round Tariff Regimes の p.53 Figure 1. Post-Uruguary Round bound tariff rates, by main sectors なんぞを引用しつつ、日本の農業が巷間いわれているほど保護されているわけではない、という点はしっかりと教えているつもりです。上のグラフの通りです。

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2024年9月10日 (火)

帝国データバンク調査による「米作農業の倒産・休廃業解散動向」やいかに?

先週9月5日に、東京商工リサーチから今年2024年1-8月の期間における上場企業「早期・希望退職募集」状況の調査結果が明らかにされています。まず、東京商工リサーチのサイトから 上場企業 早期・希望退職募集 推移 のグラフを引用すると以下の通りです。

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見れば明らかなのですが、リーマン・ショックの翌年2009年に2万人を超えた後、コロナ禍の2020年にも1.8万人を超え、その後順調に低下していたのですが、今年2024年に入って1~8月ですでに昨年2023年の2倍を超える7,104人の早期・希望退職の募集がなされています。募集社数としては、昨年2023年の同時期には23社だったものが、すでに41社に達しています。すべて上場企業なのですが、上場区分は東証プライムが28社で68.2%、また、黒字企業が24社、58.5%と高い割合を占めています。厚生労働省が公表している有効求人倍率を見てもまだ1倍を超えていて、少子高齢化を伴った人口減少局面に入って、人手不足が広がっていると考えられていますが、他方で、今年2024年に入って早期・希望退職募集も大きく増加しています。なお、私が朝日新聞の報道で見かけた範囲での大きな退職者募集は以下の2社です。どちらも、「早期退職者募集」と称しています。

これまた、広く報じられている中で、自民賞の総裁選において政策プランとして「雇用の流動化」を掲げているの候補者も中にはいたりします。ハッキリいって、私が推奨している高圧経済において雇用者が自分のスキルにあわせて転職先を自由に選べるのと、雇用主が雇用者を簡単に解雇できるのはまったく別の世界観です。決して、混同してはいけません。

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2024年9月 9日 (月)

下方修正された4-6月期GDP統計速報2次QEをどう見るか?

本日、内閣府から4~6月期GDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの系列で前期比+0.7%増、年率換算で+2.9%増を記録しています。2四半期ぶりのプラス成長で、1次QEからはわずかに下方改定されています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.2%、国内需要デフレータも+2.6%に達し、7四半期連続のプラスとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP2.9%増に低下、4-6月改定値 持ち直し基調は継続
内閣府が9日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.7%増、年率換算で2.9%増だった。8月発表の速報値(前期比0.8%増、年率3.1%増)から下方修正した。設備投資と個人消費が若干下振れしたものの、持ち直し基調に大きな変化はみられない。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は前期比0.8%増、年率3.2%増だった。予測を下回った一方で、2四半期ぶりのプラス成長は変わらなかった。名目GDPは前期比1.8%増、年率換算で7.2%増で、実額は年換算で607兆円だった。
内閣府の担当者によると、ダイハツ工業などの品質不正問題で停止していた生産・出荷が再開し、自動車の購入や設備投資の再開が増えて全体を押し上げる構図に変化はなかった。
GDPの半分以上を占める個人消費は実質で前期比0.9%増だった。速報値は前期比1.0%増だった。直近の指標を反映した結果、お菓子の消費が減った。サービスでは外食の上昇寄与度が速報値の段階より縮小した。
消費に次ぐ柱の設備投資は前期比0.9%増から0.8%増に下方修正した。財務省が2日に公表した4~6月期の法人企業統計などを反映した。
公共投資は速報値の前期比4.5%増から4.1%増に下方修正した。建設総合統計などの結果を反映した。民間在庫の寄与度は前期比マイナス0.1%、政府最終消費支出は前期比0.1%増で、それぞれ速報値段階から変化がなかった。
輸出は前期比1.4%増から1.5%増になった。輸入は前期比1.7%増のままだった。前期比年率の寄与度は内需がプラス3.1%、外需がマイナス0.3%だった。
ソニーフィナンシャルグループの宮嶋貴之氏は「成長率が小幅に低下したものの、速報値の認識を大きく変えるほどではない」と指摘した。「自動車を巡る認証不正問題の一巡など一時的とみられる要因もあり、景気は引き続き踊り場だ」と評価した。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。なお、一般には大きな必要ないことながら、今回のGDP推計から内閣府のアナウンスにあるようにコロナ禍の時期のダミー変数の設定が変更されています。

需要項目2023/4-62022/7-92023/10-122024/1-32024/4-6
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+0.7▲1.1+0.1▲0.6+0.8+0.7
民間消費▲0.8▲0.3▲0.3▲0.6+1.0+0.9
民間住宅+1.4▲1.2▲1.1▲2.6+1.6+1.7
民間設備▲2.0▲0.2+2.1▲0.5+0.9+0.8
民間在庫 *(▲0.0)(▲0.6)(▲0.1)(+0.3)(▲0.1)(▲0.1)
公的需要▲0.9+0.1▲0.4+0.1+0.9+0.8
内需寄与度 *(▲1.0)(▲0.8)(▲0.1)(▲0.1)(+0.9)(+0.8)
外需寄与度 *(+1.7)(▲0.3)(+0.2)(▲0.5)(▲0.1)(▲0.1)
輸出+3.2+0.1+3.0▲4.6+1.4+1.5
輸入▲4.1+1.3+2.0▲2.5+1.7+1.7
国内総所得 (GDI)+1.2▲0.7+0.1▲0.7+0.8+0.7
国民総所得 (GNI)+1.5▲0.7+0.2▲0.6+1.3+1.3
名目GDP+2.0▲0.0+0.7▲0.3+1.8+1.8
雇用者報酬▲0.4▲0.6+0.1+0.2+0.8+0.8
GDPデフレータ+3.7+5.2+3.9+3.4+3.0+3.2
内需デフレータ+2.7+2.5+2.1+2.3+2.4+2.6

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された4~6月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、赤の消費がプラスの寄与度を示しているのが見て取れます。

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基本的には、1~3月期に自動車の認証不正に伴って一部工場の操業停止などの動きがあったことから、4~6月期に工場稼働が再開されたものもあって、反動も含めて消費が伸びてプラス成長につながった、と考えるべきです。ですので、この反動増を割り引く必要もあり、4~6月期の年率+3%近い高成長はそれほど大きな意味はないと私は受け止めています。まあ、何と申しましょうかで、私の従来からの主張である「日本経済自動車モノカルチャー論」を補強してくれている気すらします。その昔の私の小学校のころは、ブラジル経済がコーヒーのモノカルチャーだったと主張する人もいましたし、私が大使館勤務をしていた1990年代前半のチリ経済も銅のモノカルチャーに近かった気がしますが、日本も経済規模が徐々に縮小すればさらに自動車モノカルチャーの色彩を強める可能性が否定できないと思います。

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ただ、先行きを考える場合、8月末から9月初の台風10号による列島マヒを別にして、雇用者報酬の動向が重要となります。上のグラフはその雇用者報酬の季節調整済みの系列を実額でプロットしています。広く報じられている通り、昨年春闘に続いて今年2024年春闘も画期的な賃上げを勝ち取っていて、賃上げが徐々に広がるとともに、他方で、物価の方は落ち着く方向にあるわけで、ジワジワと実質賃金が増加する方向にある点を評価すべきです。実質所得が増加すれば消費だけでなく、住宅投資も増加するでしょうし、それが企業活動にも波及するのは当然です。アベノミクス箱用の増加などをもたらして、一定の成果があったと私は考えているのですが、最大のアベノミクスの誤りは企業から家計への波及がトリックルダウンとして実現する可能性を課題に評価した点だと私は考えています。円安から輸出増、そして企業業績は回復したかもしれませんが、家計への恩恵はまったくないに等しい程度でした。これからは、その志向を逆にして家計の所得を増加させ、消費をはじめとする内需を拡大し、それが企業業績につながる、という真逆のルートを経済政策で模索すべきタイミングだと私は考えています。

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最後に、本日、内閣府から8月の景気ウォッチャーが、また、財務省から7月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+1.5ポイント上昇の49.0となった一方で、先行き判断DIも+2.0ポイント上昇の50.3を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+3兆1930億円の黒字を計上しています。

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2024年9月 8日 (日)

今夏の論文の推計を終える

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大学に再就職してから、夏休みに1本だけ書く論文、今年のタイトルは "Estimating Output Gap in Japan: A Latent Variable Approach" と考えていますが、その論文のメインをなす推計を終えました。上の通りです。
何をやっているかというと、インフレ率とGDPの観測されたデータを基に、オークン係数やフィリップス曲線などを組み合わせて、産出ギャップ=GDPギャップを推計しようとするものです。産出ギャップは統計として把握できず観測不能とはいうものの、我が国でも内閣府や日銀などの権威ある機関が計算して四半期ごとに明らかにしていますので、たぶん、そんなデータを私が推計しても誰も有り難くも何ともないのでしょうが、まあ、そこは学術論文です。実用的であることはそれほど求められません。
ということで、先週金曜日までにデータを集めてプログラムを組んで推計した結果が上の通りです。内閣府の推計による試算結果と並べてプロットしています。リーマン・ショックの際やコロナ禍の府のGDPギャップの負の底など、少なくともタイミングとしてはいいセンで推計できているのですが、正負どちらも動きがやや大げさです。産出ギャップなんて、せいぜいが±5%であって、私の推計結果のように2ケタを超えるのはやや怪しいと感じます。イタラティブに最尤法で解いていますので、もう少し初期値を変えたりして推計し直すこともできなくはありません。あるいは、いろいろといいわけして正面突破を図るか、明日から考えます。このまま推計し直さないとすれば、今週中には論文として完成できると思います。

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2024年9月 7日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして小説なしで計5冊

今週の読書感想文は以下の通り経済書をはじめとして5冊です。小説はありません。
今年の新刊書読書は1~8月に215冊を読んでレビューし、9月に入って本日5冊をポストし、合わせて220冊となります。Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。また、池井戸潤『不祥事』(講談社文庫)と『花咲舞が黙ってない』(中公文庫)を読みました。すでに、mixiとFacebookでシェアしています。

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まず、ギャレット・ジョーンズ『移民は世界をどう変えてきたか』(慶應義塾大学出版会)を読みました。著者は、米国ジョージ・メイソン大学の研究者です。英語の原題は The Culture Transplant であり、2023年の出版です。サブタイトルは「文化移植の経済学」となっています。将来に向かっての労働力不足を解消するための移民の導入に対して、私は大いに懐疑的であり、少なくとも日本の地理的な条件として世界でも有数の人口大国を隣国に持っていることから、ハードルの低い移民受け入れは国家としてのアイデンティティの崩壊につながりかねない、と感じています。本書は、この私の問題意識と共通する部分があり、少なくtも、多くの左派リベラルのエコノミストように移民をア・プリオリに認めて、多様性や包摂性=インクルージョンを求める論調ではありません。いくつか論点がありますが、まず、本書では移民が受入国に同化するかどうかについては懐疑的です。むしろ、経済面では移民受入れ国の地理よりも移民そのものの民族性の方がより大きな影響力を持つと指摘しています。世界経済を考える場合、よく「グローバルサウス」ということをいい、その昔は南北問題を話題にしていましたが、そういった地理的な条件ではなく民族性のほうが経済発展に対して大きな影響力を持つ、という議論です。経済的繁栄の要因として、設備投資率、貿易開放の年数、儒教的背景を持つ人口比率の3点を本書では冒頭に上げています(p.5)。そして、投資に対しては貯蓄の裏付けが必要なのですが、移民の民族性として「倹約」の傾向は明らかに移民により輸入される、との分析結果を示しています。その上で、国家史=S、農業史=A、技術史=Tの頭文字を取ったSATスコアにより経済的繁栄=1人当たり所得が決まる、との結論です。少なくとも、このうちの技術を考える場合、場所を基準とした尺度よりも人を基準とする方が説得力あるのは当然です。また、移民については多様性が持ち出されますが、本書ではこれもやや懐疑的です。すなわち、経済学、というか、生産に関してはスキルの多様性が分業の深化において有利に働くとしても、経営的あるいは文化的には多様性は決してプラスにならない、と指摘しています。また、エリート集団に所属していれば多様性は受け入れやすいが、そうでなければ多様性の必要性はそれほど感じない、との分析結果も示しています。東アジアの経済的成功例である日本や韓国を観察すれば、多様性に関する認識は変わる、とも述べています。米国や欧州における右派ナショナリスト・ポピュリストの主張などを考え合わせると、よく理解できそうですし、決してポピュリストではない私もかなりの程度に合意します。最後に、東南アジア、タイ、マレーシア、インドネシア、それにシンガポールの例を見て、「家人ディアスポラを拡大すること」(p.197)が経済的繁栄につながる、と結論しています。はい、数百年の世界の経済史を考えれば、結論としては間違っていない可能性のほうが高い、と私は受け止めています。ただ、最後の最後に、経済的な凋落の崖っぷちに立っている日本のエコノミストとして、やや自嘲的ながら経済的な繁栄がすべてなのか、という疑問は残ります。

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次に、西野倫世『現代アメリカにみる「教師の効果」測定』(学文社)を読みました。著者は、神戸大学の研究者です。本書の観点は、教師の効果=teacher effectiveness、すなわち、教師が教育においてどのくらいの重要性を持っているか、というテーマであり、本書でも取り上げている米国スタンフォード大学のハヌシェク教授やハーバード大学のヘックマン教授などのように、米国ではエコノミストが分析しているテーマだと私は考えています。ですから、私が勤務校の大学院の経済政策の授業を担当していた時には、『フィナンシャル・レビュー』2019年第6号で特集されていた教育政策の実証研究の論文を読ませたりしていました。ほかにも、例えば、小塩隆士ほか「教育の生産関数の推計」といった経済学的な研究成果もあり、ここでは首都圏や関西圏の中高一貫の進学校、まあ、開成高校や灘高校などが思い浮かびますが、そういった進学校では、身も蓋もなく、トップ大学の入学試験合格という成果は学校の成果ではなく、その学校に入学する生徒たちの平均的な学力によって決定される、という結論を示しています。有り体にいえば、賢い子が入学して、特に学校で強烈な学力の伸びを見せるわけでもなく、そのまま、東大や京大に進学する、というわけです。同じ考えがその昔は米国にもあって、1970年代初頭くらいまで、学業成績を決定するのは、家庭環境=family backgroundと学友の影響=peer effectsが大きく、学校資源=schoolinputsの影響はほぼないか、あってもごくわずか、という研究成果が主流でした。しかし、こういった見方は学力の計測について進歩が見られ、データがそろうにつれて否定されます。すなわち、学力の測定は4つの方法があり、素点型=status models、群間変化型=cohort-to-cohort models、成長度型=growth models、伸長度型=value-added modelsがあり、まさに、開成高校や灘高校ではありませんが、賢い子が入学して賢いまま難関校に合格する、という素点型に基づく評価ではなく、伸長度型の評価に移行しています。要するに、学校において教師がどれだけ生徒の学力を伸ばせたか、を評価するわけです。その上で、米国ではそれを教師自身の人事評価に直結させるシステムに発展しています。どうでもいいことながら、"value-added"は経済学では「付加価値」という訳語を当てていますが、教育学では「伸長度」なのかもしれません。こういった考えが普及する前には、教師の効果の計測は生徒の学力伸長度ではなく、経験年数や学位、すなわち、修士学位を持っているかどうか、などで計測されていました。ただ、私は少し疑問を持っていて、単純に教育といってもいくつかの段階があり、初等教育、特に義務教育レベルでは到達度、素点型が重要なのではないか、という気がしています。読み書き計算という生活上や就業する際の基礎を十分に身につけることが充填とすべきです。その上で、中等教育については高等教育への進学を目指すのであれば、それ相応の学力伸長が必要ですので、本書で指摘しているような伸長度モデルに基づく教師の評価が効果的である可能性が高まります。そして、最終的な高等教育においては、また別の評価の尺度があり得るような気がします。ただ、私の方でも指摘しておきたいのは、本書でも指摘しているように、何が、あるいは、どういった要因が高い伸長度をもたらしたのか、という点の分析はまったく出来ていません。当たり前です。どういった教育方法が高い伸長度をもたらすのか、という点が解明されていれば、行政の方でマニュアルめいたものを作成・配布して、多くの教師がベスト・プラクティスを実践できますが、まったくそうはなっていません。ですから、「教師の効果」は測定という前半部分は実践され始めている一方で、その分析結果を教育現場にフィードバックする後半部分はまったく手つかずで放置されています。この部分を解明する努力がこれから必要となりますが、前半部分は経済学の知見が大いに活用できますが、後半部分はまさに教育学の正念場と考えるべきです。最後の最後に、日本における「全国学力・学習状況調査」、いわゆる学力テストは現状では計測対象が極めて不明確であり、何を計測しようとしているのかが不明と私は考えています。加えて、繰り返しになりますが、教育現場における実践も進んでいないのですから、本書で展開されているような教師の評価に用いるのであれば、かなり慎重な扱いが必要と考えますので、付け加えておきたいと思います。

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次に、モーガン・フィリップス『大適応の始めかた』(みすず書房)を読みました。著者は、気候危機対策のために活動する英国の環境慈善団体の役員です。本書執筆時にはグレイシャー・トラストに所属していて、この団体は本書でも何度か登場します。英語の原題は The Great Adaptations であり、2021年の出版です。ということで、本書の適応の対象は、当然ながら、気候変動です。本書では「気候崩壊」という用語も使われています。さまざま機会に言及される産業革命から+1.5℃目標とか、あるいは少し緩めに+2.0℃目標とかの目標はかなり怪しくなってきた、と考える人は少なくないと思います。また、今年の『エネルギー白書2024』第1部第3章では、2050年のカーボン・ニュートラルに関して「温室効果ガスの削減が着実に進んでいる状況(オントラック)」(p.60)との分析結果を示していますが、たとえ2050年カーボン・ニュートラルが達成可能だとしても、それは+1.5℃目標が達成可能だという意味であって、実は、現状で昨年だと思うのですが、すでに+1.3℃の上昇を記録しています。現時点での+1.3℃の上昇でも、これだけの異常な猛暑や台風被害などが発生しているわけです。ですから、ここからさらに+0.2℃上昇して+1.5℃目標が達成されたとしても、現時点での異常気象よりさらに気象が異常度を増すことは明らかです。加えて、炭素回収・貯留(CCS)については、実用化されるとしても、メチャメチャ大きなキャパを必要とすると試算しています。ですから、本書では2012年10月のハリケーン・サンディの後のニューヨークスタテン島では、再建を諦めて州政府に土地を買い上げてもらって撤退=retreatの選択肢を選ぶ住民が少なくなかった事実から始めています。どうでもいいことながら、原因は気候変動ではありませんが、我が国のお正月の能登半島地震でも、政府は撤退を促して放置しているのか、という見方もあるかもしれません。まあ、違うと思います。世界における気候変動に対する適応例、あるいは、適応アイデアを本書ではいくつか上げています。モロッコの霧収集、ネパールのアグロ・フォレストリーなどで、詳しくは読んでいただくしかありませんが、アイデアとしては、海面上昇への対応として英国東岸からバルト海を守るため、英国スコットランド北東端とノルウェイ西岸の間、さらに、英国イングランド南西端のコーンウォールからフランス北西端ノブルターニュの2基にダムを建設する、というNEED計画があるそうです。途方もないプランのような気もしますが、技術的にも予算的にも可能で、海面上昇による沿岸部からの撤退よりも安いと主張しています。真偽の程は私にはまったく想像もつきません。ただ、他方で誤適応の可能性も排除できません。本書では、海面上昇に対してコンクリート堤防よりも砂丘の方が効果的である可能性を指摘していますが、行政にも一般国民にもなかなか理解が進まないのではないか、と私は恐れています。本書でも指摘していますが、経済的な誤適応を防止する方策のひとつとして、経済社会の不平等の軽減を促す必要は特筆すべきと考えるべきです。加えて、自然界ですでに適応が始まっている可能性についても本書では指摘しています。自然界の適応には3種類あって、種の移動、種の小型化、生物気候学の変化を上げています。最初の2つは理解しやすい一方で、最後の生物気候学の変化とは、開花や巣作りの時期の変更などの生物学的事象のタイミングの変化を指します。人類はホモ・サピエンスとしてアフリカに発生してから移動を繰り返しているわけで、大移動もひとつの選択肢ということになります。そういった対応をするとしても、現在の文明が生き残れるかどうか、私には何とも予測できません。気候変動対策に失敗し、さらに本書でいう適応にも失敗すると、現在の文明社会が崩壊する可能性が決して無視できません。

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次に、赤川学[編]『猫社会学、はじめます』(筑摩書房)を読みました。編者は、東京大学の社会学研究者です。本書で指摘されているように、2017年のペットフード協会による「全国犬猫飼育実態調査」において飼育頭数ベースで猫が犬を上回りました。2023年調査では、犬が6,844千頭、猫が9,069千頭と差が広がっています。そして、編者や各章の著者は、いうまでもなく、大の猫好きだったりします。ペットロスの体験談も含まれていたりします。まず、猫が犬よりもペットとして飼われる頭数が多くなったのは、当然ながら、お手軽だからです。大きさとしては、犬種は色々あるものの、大雑把に犬よりも猫の方が小さく、それだけに餌代なども負担が小さそうな気がします。猫は犬と違って散歩に連れ出す必要はありませんし、狂犬病の予防接種も不要です。日本ではもう狂犬病というのはほとんど身近なイメージがなくなりましたが、アジアではまだまだ撲滅されたわけではありません。我が家は20年以上も前に子供たちが幼稚園に入るかどうかというタイミングでインドネシアの首都ジャカルタに3年間住んでいましたが、ご当地ではまだ狂犬病は残っており、狂犬病というのは噛まれたら直ちにワクチン接種しないと、病気を発症してからでは致死率100%ですから、とてもリスクの高い病気です。我が家はノホホンとしていましたが、一戸建ての社宅住まいのご家族なんかでは狂犬病のワクチンがどの病院で接種できるか、なんてリストを冷蔵庫に貼っている知り合いがいたりしました。それはともかく、そのうえ、本書で示されているように、犬と猫では出会い方も大きく異なります。犬の場合はペットショップでの購入が50%を超えるのに対して、猫は20%には達せず、野良猫を拾った32%や友人/知人からもらった26%の方が多かったりします。何といっても、猫の魅力は決して人に媚びることなく、一定の距離をおいて人に接する孤高の存在せある点だと私は考えています。加えて、本書でも指摘しているように、姿形が美しい、というか、可愛いのも大きな魅力です。本書ではこういった猫の魅力に加えて、さらに、社会学的な分析も提供しています。すなわち、猫カフェ、猫島、また、マンガの「サザエさん」における猫の役割、などなどです。最後に、私も京都の親元に住んでいたころ、およそものごころついたころから、大学を卒業して東京に働きに出るまで、ほぼほぼ常に猫が我が家にいました。ですから、私は猫のノミ取りが出来たりするのですが、今は外には出さない家飼いでノミなんかいないし、また、特に雌猫の場合は去勢されているケースも少なくありません。私は猫については野生というわけではないものの、自由に振る舞うことが大きな魅力のひとつになっているので、こういった家飼いで外に出さない、あるいは、生殖能力を処理するのが、ホントに猫のためになっているのかどうかについては、やや疑問に感じています。我が国の住宅事情をはじめとする猫の飼育事情を考えると、こういった飼い方も十分考えられるのですが、私には何が猫のためなのかよく判りません。ミルは『自由論』でトピアリーとして刈り込まれた庭木についてとても否定的な見方を示していますが、猫を外に出さずに家飼いする現在の飼い方については、それと同じような見方をする人もいそうな気がします。

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次に、石川九楊『ひらがなの世界』(岩波新書)を読みました。著者は、私よりも一回りくらい年長なのですが、京都大学OBという意味で先輩であり、もちろん、書家としても有名です。ただ、私はこの著者の書道作品、本書各章の扉にいくつか示されているような著者の書道作品については、それほど好きではありません。というのも、私が学んだ先生によれば書道作品は字として読めなければならない、というのが持論でした。例えば、「大」と「犬」と「太」は天のあるなし、あるいは、どこに点を打つかで字としては異なる字を表します。その違いが読み取れなければ書道作品ではない、という主張でした。でも、私は悲しくもそれほど上達せず、基本、楷書ばかりを練習して、行書を少しやっただけでした。草書やかなに手が届くまでの力量はまったくありません。ということで、本書ではひらがな=女手の世界を解説しています。万葉文字から始まって、ひらがなが成立・普及し、1字1字独立して書く楷書と違って、ひらがなは続けて書く連綿という手法が主になります。そして、本書で指摘されているように、一般にはそれほど知られていませんが、掛詞の前に掛筆や掛字があり、字が抜けていたりします。ですので、ひらがなについては書く前にまず読む訓練をする場合も少なくありません。私は、200ページあまりのこれくらいのボリュームの新書であれば、それほど時間をかけずに読み飛ばすことも少なくないのですが、本書の第2章からはとても時間をかけました。悲しくも、書くことはおろか、ひらがなを読む訓練すら受けておらず、著者のご指摘通りにひらがなを読むことから始めましたので、そのために普段と違ってとても時間をかけた読書になりました。逆に、ひらがなをはじめとする図版をとてもたくさん収録しており、それを著者の解説とともに鑑賞するだけでも、私のような人間は幸福を感じたりします。ボリューム、というか、ページ数から考えても、本書の場合は第2章がメインと考えるべきです。そして、その第2章以降の第3章と第4章の歴史的なひらがな作品を鑑賞できるのは、本書の大きなオススメのポイントといえます。書道、特に、ひらがなに興味ある多くの方にオススメします。

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2024年9月 6日 (金)

8月米国雇用統計に見る米国労働市場の過熱感は払拭されたか?

日本時間の今夜、米国労働省から8月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、6月統計では+179千人増、7月統計では+89千人増、直近の8月統計では+142千人増となり、失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して4.2%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を、中見出しを除いて、やや長めに7パラ引用すると以下の通りです。

August jobs report: Economy added disappointing 142,000 jobs as unemployment fell to 4.2%
U.S. employers added a disappointing 142,000 jobs in August as hiring bounced back only partly after temporary hurdles curtailed payroll gains the previous month and sparked recession fears.
And employment gains for June and July were revised down sharply, portraying an even weaker picture of the labor market in early summer. The report, along with the downward revisions, may prompt the Federal Reserve to lower its key interest rate more sharply at a meeting later this month, some economists said.
The unemployment rate, which is calculated from a separate survey of households, fell from 4.3% to 4.2%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg previously estimated 163,000 jobs were added last month.
Payroll gains were revised from 179,000 to 118,000 in June and from 114,000 to 89,000 in July, underscoring that the labor market may be cooling more rapidly than economists anticipated.
Average hourly pay rose 14 cents to $35.21, pushing up the yearly increase from 3.6% to 3.8%.
Wage growth generally has slowed as pandemic-related worker shortages have eased. Economists have said yearly pay increases need to drop to 3.5% to align with the Federal Reserve’s 2% inflation goal.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、ひとつの目安とされる+200千人を大きく下回って、8月統計では+142千人を記録しています。引用した記事の4パラ目にあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+163千人という見方でした。ですので、記事のタイトルにも "disappointing" 「失望」と表現しています。なお、引用した記事の5パラ目にあるように、6-7月統計も先月の公表時から下方修正されています。すなわち、6月統計は+179千人増が+118千人増に、7月統計は+114千人増が+89千人増に、それぞれ修正されています。他方、失業率は▲0.1%ポイント低下して4.2%に達しました。レイオフされていた雇用者が8月には職場に戻るといわれていましたので、この失業率の低下は予想通りと受け止められているようです。ですので、失業率が低下したからといって、米国労働市場の過熱感はほぼ払拭されたといえます。逆に、先行き一気に冷え込むリスクを表明するエコノミストもいたりしますので、そのあたりの経済政策の舵取りが微妙な局面に差しかかった気がします。
米国連邦準備制度理事会(FED)のパウエル議長は、先月8月23日のジャクソンホール会合における発言で "The time has come for policy to adjust. The direction of travel is clear, and the timing and pace of rate cuts will depend on incoming data, the evolving outlook, and the balance of risks." と明確に次の連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げを示唆しました。日米ともに株式市場の動向が荒っぽくなっている中で、今年2024年年内から来年2025年年初くらいまでは、米国FEDは利下げ、日銀は利上げの方向が模索されることになります。日本がデフレに逆戻りしないよう、私に出来ることは祈ることだけです。

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上昇を示す7月の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から7月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から+0.4ポイント上昇の109.5を示し、CI一致指数も+3.0ポイント上昇の117.1を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから報道を引用すると以下の通りです。

7月の景気動向指数、2カ月ぶり上昇 基調判断は維持
内閣府が6日発表した7月の景気動向指数(CI、2020年=100)は足元の経済状況を示す一致指数が前月比で3.0ポイント上昇の117.1だった。上昇は2カ月ぶり。基調判断は「下げ止まりを示している」と据え置いた。
一致指数を構成する10項目のうち、耐久消費財出荷指数や投資財出荷指数などが上昇した。耐久消費財ではエアコンが、投資財では半導体製造装置やレーダー装置の出荷が目立った。

いつもながら、コンパクトかつ包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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7月統計のCI一致指数は2か月ぶりの上昇となりました。加えて、3か月後方移動平均の前月差も2か月ぶりに+0.56ポイント上昇し、7か月後方移動平均の前月差も2か月ぶりに+0.56ポイント上昇しています。3か月後方移動平均は3か月ぶり、7か月後方移動平均の2か月振りに+0.18の上昇となりました。統計作成官庁である内閣府では基調判断は、今月も「下げ止まり」で先月から据え置いています。なお、細かい点ながら、上方や下方への局面変化は7か月後方移動平均という長めのラグを考慮した判断基準なのですが、改善からの足踏みや悪化からの下げ止まりは3か月後方移動平均で判断されます。いずれにせよ、私は従来から、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そうすぐには日本経済が景気後退局面に入ることはないと考えていて、やや楽観的な見方かもしれませんが、最近の株式市場の動きは、逆に、米国が景気後退に陥る可能性が大きくなったので、日本株も落ち気味となっている、ということができようかと思います。加えて、景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありませんし、多くのエコノミストが待ち望んで、日銀の金融引締めから急速に進んだ円高の経済へ影響も考慮する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、投資財出荷指数(除輸送機械)が+0.84ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)が+0.80ポイント、鉱工業用生産財出荷指数が+0.66ポイント、生産指数(鉱工業)が+0.50ポイント、といった鉱工業生産・出荷に関係する系列が大きなプラスの寄与を示しています。

昨日取り上げた毎月勤労統計に見られる賃金や、私はそれほど重視していませんが、本日公表された家計調査など、今春闘の成果に従って賃金や消費に関して少しずつながら改善が見られるようになっています。米国経済だけではなく、内需についても景気後退の回避に貢献している点は新たに付け加わった注目点であろうと思います。

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2024年9月 5日 (木)

毎月勤労統計に見る賃金の伸びやいかに?

本日、厚生労働省から7月の毎月勤労統計が公表されています。従来からのサンプル・バイアスとともに、調査上の不手際もあって、統計としては大いに信頼性を損ね、このブログでも長らくパスしていたんですが、先月から久しぶりに取り上げています。統計のヘッドラインとなる名目の現金給与総額は季節調整していない原数値の前年同月比で▲3.2%減の54万6607円となっており、景気に敏感な所定外労働時間は季節調整済みの系列で前月から+2.5%増となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

7月実質賃金0.4%増、2カ月連続プラス 夏ボーナス伸び
厚生労働省が5日発表した7月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月から0.4%増加した。プラスは2カ月連続。夏の賞与など「特別に支払われた給与」の伸び率が大きかったことが寄与した。
名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は3.6%増の40万3490円と、2年7カ月連続で増加した。伸び率は7月の消費者物価の上昇率(3.2%、持ち家の家賃相当分を除く総合指数)を上回った。現金給与総額のうち特別に支払われた給与は6.2%多い11万8807円だった。
厚労省によると、6月から7月にかけて夏季賞与を支払う企業が増えた可能性があるという。賞与は6月に支給する企業が多く、7月の実質賃金のプラス幅は前月から0.7ポイント縮小した。
現金給与総額の内訳では、基本給を中心とする「所定内給与」が前年同月比2.7%増の26万5093円となった。ベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた賃上げ率が平均5%を超えた24年の春季労使交渉(春闘)の結果が反映されて伸び率は31年8カ月ぶりの大きさとなった。
所定内給与に残業代や休日手当などを加えた「きまって支給する給与」は2.5%増の28万4683円だった。8月以降は名目賃金に占める賞与の割合が小さくなる。厚労省の担当者は「このまま物価高が落ち着かなければ、実質賃金のプラスを維持することは難しい」(雇用・賃金福祉統計室)とみる。
働き方ごとにみた現金給与総額は、正社員を中心とするフルタイム労働者が3.6%増の52万9266円、パートタイム労働者は3.9%増の11万4729円。パートタイム労働者の時給換算した所定内給与は1337円と3.6%増え、実質賃金は0.7%伸びた。

物価とともに賃金は注目の指標ですので、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、毎月勤労統計のグラフは下の通りです。上のパネルは現金給与指数と実質賃金指数のそれぞれの前年同月比、下は景気に敏感な所定外労働時間指数の季節調整済みの系列、をプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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毎月勤労統計については、広く報じられた通り、不正事案として統計の信頼性に疑問を生じたことから、しばらく私の方では放置して注目の対象から外していましたが、昨年2023年春闘に続いて、今年2024年も大幅な賃上げがあったと考えられることから、賃金や労働時間に着目した毎月勤労統計を再び取り上げることにしました。なお、統計不正の最終的な報告については統計委員会から「毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する追加報告書」などが出ています。
ということで、春闘の結果などを受けて、現金給与総額は季節調整していない原系列の前年同月比で4月+1.6%増、5月+2.0%増から、6月+4.5%増、7月+3.6%増と跳ね上がっています。ただし、6-7月現金給与指数の大きな上昇には好業績を背景としたボーナス分が寄与しており、8月以降も賃金の大きな上昇が続く可能性は小さいと考えるべきです。ですので、決まって支給する給与ベースで見ると、4月+1.6%増、5月+2.0%増、6月+2.1%増、7月+2.5%増となります。足元で6~7月の消費者物価指数(CPI)上昇率が+3%を超えていることを考えれば、これには到底及びません。ですので、引用した記事の最後から2番目のパラでは「実質賃金のプラスを維持することは難しい」という厚生労働省のコメントが示されていますが、私もこの見方に賛成です。ただ、ボーナスを含めると、長らく前年同月比マイナスだった実質賃金の上昇率は6月+1.1%増、7月+0.4%増を記録しています。最後に、所定外労働時間指数、すなわち、残業についてもジワジワと減少を示しています。景気拡大局面が後半に入っていることを実感するグラフかもしれません。

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2024年9月 4日 (水)

来週公表予定の4-6月期GDP統計速報2次QEの予想やいかに?

今週月曜日の法人企業統計をはじめとして必要な統計がほぼ出そろって、来週9月9日に、4~6月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である4~6月期ではなく、足元の7~9月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+0.8%
(+3.1%)
n.a.
日本総研+0.8%
(+3.1%)
今般の法人企業統計などを織り込んで改定される4~6月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資がわずかに上方改定、公共投資が下方改定される見込み。この結果、成長率は前期比年率+3.1%(前期比+0.8%)と、1次QE(前期比年率+3.1%、前期比+0.8%)からほぼ変わらないものと予想。
大和総研+0.9%
(+3.8%)
内需の前期比寄与度は1.0%ptと1次速報(+0.9%pt)から上方修正されると予想する。2次速報では、自動車生産の回復や令和6年能登半島地震の影響が落ち着いたことなどにより、個人消費や設備投資、輸出などが持ち直した姿が改めて示されるだろう。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.9%
(+3.8%)
高水準の企業収益が賃金や設備投資に回ることで、基調としても内需は回復に向かっているとみてよいだろう(なお、6月にも一部自動車メーカーで認証不正問題が発生したが、1~3月期の自動車減産に比べると生産・GDPへの影響は大きくないと考えられる)。7~9月期も、海外経済減速が外需の重石になるほか、台風が生産活動を下押しすることが見込まれるものの、個人消費や設備投資を中心に日本経済は回復基調が続く見通しであり、現時点で年率+1%程度のプラス成長を予測している。
ニッセイ基礎研+0.8%
(+3.2%)
24年4-6月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.8%(前期比年率3.2%)になると予想する。1次速報の前期比0.8%(前期比年率3.1%)とほぼ変わらないだろう。
第一生命経済研+0.8%
(+3.2%)
先行きについては緩やかな持ち直しを予想している。24年前半の景気は均してみれば横ばい圏内の動きとなったが、24年後半以降は景気を取り巻く環境が改善に向かう。これまで賃金の伸びが物価に追い付かず、実質賃金の減少が続いていたことが個人消費の抑制要因になっていたが、足元では状況に変化がみられつつある。好調な企業収益を背景とした賞与の増加に加え、春闘での大幅賃上げが給与に反映されていくことで、賃金上昇率はこの先、基調として高まる可能性が高い。実質賃金は振れを伴いつつも増加基調で推移することが見込まれる。また、製造業部門の下押しが弱まることや、底堅い企業収益を背景として設備投資も増加する可能性が高い。これまで足を引っ張ってきた内需に持ち直しの動きが出ることで、景気は緩やかに改善するだろう。
もっとも、物価上昇による実質購買力の抑制が消費の頭を押さえる状況は残る。実質賃金はプラス圏で推移するものの、物価の高止まりが続くことの影響で増加幅は抑制される。また、消費者マインドの停滞が続いていることや、これまで貯蓄を抑制しながら消費水準を維持してきたことの反動もあり、実質賃金の増加や減税分の多くは貯蓄に回るだろう。10-12月期以降には定額減税による一時的な押し上げ分の剥落が生じることもあり、消費の持ち直し度合いは限定的なものにとどまる可能性が高い。また、外需についても、米国経済の減速が予想されるなか、緩やかな増加にとどまる公算が大きい。24年後半以降に景気は改善するが、強い牽引役に欠けるなか、加速感が出るには至らないとみている。
伊藤忠総研+0.6%
(+2.6%)
7~9月期以降、日本経済が回復に向かうかどうかの大きなカギを握るのは、企業業績とその家計部門への波及であろう。結論から言えば、企業業績の改善が人件費に波及する動きは継続しており、景気回復に向けた好循環は確認できたものの、回復に至らせるには不十分であった。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.8%
(+3.2%)
2024年4~6月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比+0.8%(前期比年率換算+3.2%)と、1次速報値の前期比+0.8%(年率換算+3.1%)から大きな修正はない見込みである。このため、「景気は足踏み状態を脱し、緩やかな持ち直しに転じた」との景気判断を修正する必要はないと考えている。
三菱総研+0.8%
(+3.3%)
2024年4-6月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+0.8%(年率+3.3%)と、1次速報値(同+0.8%(年率+3.1%))から小幅上方修正を予測する。
明治安田総研+0.8%
(+3.3%)
先行きについては、所定内給与ベースの実質賃金が秋口にプラスに転じると見込まれることなどから、個人消費は回復傾向で推移すると予想する。設備投資は、デジタル化の加速を受けた半導体関連投資がけん引役となることで堅調な推移が期待できる。輸出に関しては、中国景気の停滞が継続するほか、欧米景気の減速で財輸出は低迷が予想されるが、インバウンド需要は引き続き下支え要因になるとみられ、2024年度の日本景気は回復基調が続くとみる。

多くのシンクタンクのリポートで指摘されているように、法人企業統計の結果に従って設備投資がわずかに上方改定されるものの大きな変更はない、と予想されています。また、先行きの日本経済についても、シンクタンクの間で大きな違いはなく、緩やかな回復が継続すると見込まれています。ここは私は必ずしもそこまで楽観的にはなれません。リスクは少し前までインフレの再燃という可能性があったのですが、私はもう物価上昇が大きく再加速することはないように感じています。その大きな要因は金融引締めです。円高の是正に成功したかどうかは別にして、明らかに物価に対する抑制効果は出た気がします。逆に、金融引締めによるオーバーキルのリスクすらあるように私は感じています。はい、先行きは下振れリスクがメインとなると私は考えています。
最後に、下のグラフはみずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから引用しています。

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2024年9月 3日 (火)

2023年度「ギャンブル障害及びギャンブル関連問題実態調査」の結果やいかに?

先週金曜日の8月30日に、厚生労働省から2023年度「ギャンブル障害及びギャンブル関連問題実態調査」の結果が公表されています。ギャンブル等依存症対策基本法第23条に基づく実態調査として、3年ごとに実施されている調査です。依存症対策全国センターから公表された速報リポートに詳細が明らかにされています。
今回の調査では、「ギャンブル等依存が疑われる者」の推計に、PGSI(Problem Gambling Severity Index)を用いていて、スコアが8以上をもって抽出すると、男性が2.8%、女性でも0.5%、男女平均で国民の1.7%にギャンブル依存症の疑いがあるとの結果が示されています。私がリポートを見た範囲で、以下の3点を強調しておきたいと思います。

  • 過去1年間に最もお金を使ったギャンブルの種類は、男性ではパチンコ(43.4%)、パチスロ(24.5%)、競馬(11.3%)の順で、女性ではパチンコ(60.9%)、パチスロ(17.4%)の順で割合が高い。
  • 年代ごとの「ギャンブル等依存が疑われる者」の割合については40代が最も多く、次いで30代が多かった。
  • K6(うつ、不安のスクリーニングテスト)で比較したところ、ギャンブル等依存が疑われる者(PGSI8点以上)は、8点未満の者より有意に抑うつ・不安が強かった。また、これまでの自殺念慮(自殺したいと考えたこと)の経験割合等についても、PGSI8点以上の者で高かった。

なお、リポートから【図表9】問題となっているギャンブルの種類 を引用すると以下の通りです。「宝くじ」に加えて、「スポーツ振興くじ」や「証券、投資、FX」もギャンブルとみなすべきである点は私も大いに賛成します。

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私はそれなりに合理的なエコノミストだと思いますので、どう考えても得をしない種類のギャンブルに手を出すことはありません。あり得ません。海外勤務の折なんぞにご当地で合法的であったカジノに行ったこともありましたが、あくまで社交の範囲でした。でも、現状ですら1.6%ですから国民の60人に1人がギャンブル依存の疑いがあり、精神疾患や自殺との関連も大いに疑われている点は決して無視できません。その意味でも、私はIR事業には全力で反対を表明します。

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2024年9月 2日 (月)

順調な企業活動を示す4-6月期法人企業統計

本日、財務省から4~6月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+3.5%増の368兆9593億円だったものの、経常利益は+13.2%増の35兆7680億円に上っています。そして、設備投資は+7.4%増の11兆9161億円を記録しています。ただし、季節調整済みの系列で見ると原系列の統計とは逆に、GDP統計の基礎となる設備投資については前期比+1.2%増となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

経常利益4-6月、過去最大35兆円 歴史的円安が追い風
財務省が2日発表した4~6月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は前年同期比13.2%増の35兆7680億円だった。6四半期連続のプラスで、四半期ベースでは過去最高額となった。製造業では輸送用機械が、非製造業ではサービス業が伸びをけん引した。
経常利益を業種別に見ると、製造業は13.0%の増益だった。歴史的な円安が輸出企業の収益を押し上げたとみられる。海外での販売が好調だった輸送用機械は19.9%増、情報通信機械は人工知能(AI)向けの需要が増え、52.2%伸びた。
非製造業は13.3%増えた。スーパーやドラッグストアでの新規出店があり、サービス業は50.5%の増益となった。インバウンド(訪日外国人)の影響もあるとみられる。建設業では大型案件の受注があり、18.5%のプラスとなった。
設備投資は前年同期に比べ7.4%増え、11兆9161億円だった。伸びは1~3月期の6.8%増から拡大した。非製造業が10.9%伸びた。サービス業で娯楽施設などの新設にかかわる投資があった。製造業は情報通信機械や電気機械で需要の増加による生産能力をあげるための投資があり、1.4%増えた。
財務省が同日発表した23年度通期の法人企業統計によると全産業の経常利益は前年度比12.1%増の106兆7694億円で過去最高となった。「内部留保」にあたる利益剰余金も8.3%プラスの600兆9857億円で過去最高を更新した。
財務省は23年度の法人企業統計について「景気が緩やかに回復している状況を反映しているものと考えている」と分析した。海外景気の下振れや物価上昇の影響を注視する考えも示した。

長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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法人企業統計の結果について、引き続き、企業業績は好調を維持しており、まさに、それが今年に入ってからの株価に反映されているわけで、東証平均株価については3月下旬にバブル後最高値をつけて4万円を超えた後、一時下落したものの、現時点では39,000円を超える水準に回帰しています。ただ、他方で、株価はまだしも、住宅価格が大きく高騰しているのも報じられている通りです。もちろん、法人企業統計の売上高や営業利益・経常利益などはすべて名目値で計測されていますので、物価上昇による水増しを含んでいる点は忘れるべきではありません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは、現時点では明らかではありません。来週のGDP統計速報2次QEを待つ必要があります。もうひとつ私の目についたのは、設備投資の動向です。上のグラフのうちの下のパネルで見て、昨年2023年10~12月期に跳ねた後、今年2024年1~3月期に減少した後、直近で利用可能な4~6月期にはわずかながら増加しています。前々から企業業績に比べて設備投資が出遅れているという印象があり、10~12月期には出遅れが解消され、特に、日銀短観や日本政策投資銀行の調査などによる設備投資計画とGDP統計の差が縮小される動きが始まった一方で、今年2024年1~3月期の減少が何を意味するのか、単に自動車工業の認証不正に連動した減少であるとすれば、人手不足に対応した本格的な設備投資増であることを私は期待しています。設備投資に限らず、売上げや利益も含めて、昨年5月の感染法上の分類変更に伴って、新型コロナウィスル感染症(COVID-19)のダメージの大きかった非製造業、特にサービス業が回復してきています。売上高、経常利益、設備投資とも非製造業の中ではサービス業が上位に名を連ねています。人手不足による影響が大きい非製造業、中でもサービス業の動向に注目しています。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍を経て労働分配率が大きく低下を示しています。もう少し長い目で見れば、デフレに入るあたりの1990年代後半からほぼ一貫して労働分配率が低下を続けています。いろんな仮定を置いていますので評価は単純ではありませんが、デフレに入ったあたりの1990年代後半と比べて、▲20%ポイント近く労働分配率が低下している、あるいは、コロナ禍の期間と比べても▲10%ポイントほど低下している、と考えるべきです。名目GDPが約600兆円として50-100兆円ほど労働者から企業に移転があった可能性が示唆されています。設備投資/キャッシュフロー比率も底ばいを続けています。設備投資の本格的な増加が始まったことが期待される一方で、決して楽観的にはなれません。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金は伸びを高めています。また、4枚めのパネルにあるように、デフレに陥った1990年代後半から人件費が長らく停滞する中で、経常利益は過去最高水準を更新し続けています。アベノミクスではトリックルダウンを想定していましたが、企業業績から勤労者の賃金へは滴り落ちてこなかった、というのがひとつの帰結といえます。あるいは、アベノミクスの「負の遺産」のひとつと呼ぶエコノミストもいるかもしれません。勤労者の賃金が上がらない中で、企業業績だけが伸びて株価が上昇するのが、ホントに国民にとって望ましい社会なのか、どうか、キチンと議論すべき段階に入っているように私は考えています。

最後に、本日の法人企業統計などを受けて、来週9月9日に内閣府から4~6月期のGDP統計速報2次QEが公表されます。設備投資はやや上方修正されると私は予想していますが、仕上がりのGDP成長率には大きな変更はないものと考えます。また、シンクタンクなどの2次QE予想については、日を改めて取り上げる予定です。

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2024年9月 1日 (日)

ジャイアンツに力負けして今シーズン終戦

  RHE
読  売0001002   362
阪  神1000000   171

ジャイアンツに力負けして、今シーズンは終戦です。
今夜は先発西勇輝投手が7回途中まで3失点でまとめましたが、打線が菅野投手を打てませんでした。今シーズンはもう優勝は望み薄になり、クライマックスシリーズ進出が残された目標となります。可能性ある限り連覇を目指すなんて消耗戦は避けたいところです。

何とかAクラス死守を目標に、
がんばれタイガース!

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