小幅変化が予想される9月調査の日銀短観とOECD「経済見通し」
来週火曜日10月1日の公表を控えて、各シンクタンクから9月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業/非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下のテーブルの通りです。設備投資計画は今年度2024年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、可能な範囲で、先行き経済動向に注目しました。短観では先行きの業況判断なども調査していますが、シンクタンクにより大きく見方が異なっています。注目です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。
機関名 | 大企業製造業 大企業非製造業 <設備投資計画> | ヘッドライン |
6月調査 (最近) | +13 +33 <+8.4> | n.a. |
日本総研 | +14 +31 <+9.7%> | 先行き(12月調査)は、全規模・全産業で9月調査から▲1%ポイントの悪化を予想。製造業では、循環的な財需要の回復が追い風となる一方、中国向け輸出の減少や、円高進行などによる輸出企業の収益悪化への懸念が景況感改善の重石となる見込み。非製造業の景況感は高水準で推移するものの、人件費の増加や金利上昇への警戒感などが企業マインドの抑制に作用する見込み。 |
大和総研 | +11 +29 <+9.7%> | 9 月日銀短観では、大企業製造業の業況判断 DI(先行き)は+11%pt(最近からの変化幅: 0%pt)、 同非製造業は+26%pt(同: ▲3%pt)を予想する。 大企業製造業では、国内における自動車の生産体制が正常化することで「自動車」や関連業種の業況判断DI(先行き)が改善する見込みだ。他方、7月25日に中国政府が発表した景気刺激策の効果については先行き不透明感が強い上に、足元の円高進行の影響が輸出企業のマインドを押し下げることで、「はん用機械」、「生産用機械」、「業務用機械」、「電気機械」などの輸出比率が高い業種の業況判断DI(先行き)が悪化する可能性がある。 大企業非製造業では、このところ業況判断DI(最近)と同(先行き)の差が製造業と比べて大きめのマイナスとなる傾向があるものの、9 月調査では小幅にとどまるだろう。業況判断 DI(最近)が台風などの影響で大幅に落ち込む半面、同(先行き)ではその影響が剥落するとみられるためだ。とりわけ「対個人サービス」や「宿泊・飲食サービス」の業況判断DI(先行き)は比較的小幅な低下となろう。他方、足元の円高の進行を受けてインバウンド関連業種の業況判断DI(先行き)が悪化する可能性には注意が必要だ。 |
みずほリサーチ&テクノロジーズ | +14 +32 <+9.7%> | 大企業・製造業の業況判断DIの先行きは、横ばいを予測する。半導体関連や自動車は今後も増産の動きが継続すると予想されるが、円高の進展は輸出企業の業況判断を慎重化させる要因となるだろう。 大企業・非製造業の業況判断DIの先行きは2ポイントの改善を予測する。高い春闘賃上げ率を受けて、労働者の賃金は改善傾向で推移している。毎月勤労統計の実質賃金(現金給与総額ベース)は、6月に前年比+1.1%と2年ぶりに増加に転じ、7月もプラスを維持した。特別給与の大幅増がプラス転換の主因だが、賃上げの反映によって所定内給与のマイナス幅も縮小している。10月からは、最低賃金が全国加重平均で51円(前年比+5.1%)引き上げられるため、パートタイム労働者などの賃金の押し上げ要因となるだろう。秋以降、家計の購買力が徐々に高まっていくと予想されるため、非製造業の景況感にプラスの影響を与えるだろう。 |
ニッセイ基礎研 | +12 +31 <+9.5%> | 先行きの景況感は小動きながら、製造業と非製造業で方向感が分かれると予想。製造業では、にわかに台頭した米経済の減速懸念とさらなる円高による輸出採算悪化懸念から、先行きにかけて景況感の弱含みが示されると見ている。他方、非製造業では、引き続き物価高による消費への悪影響に対する警戒が残るものの、堅調なインバウンド需要や既往の定額減税・賃上げによる消費回復期待を受けて、景況感がやや改善するだろう。ただし、中小企業非製造業では、人手不足による制約が特に強いうえ、もともと先行きを慎重に見る傾向が強いだけに、今回も先行きにかけて悪化が示されると予想している。 |
第一生命経済研 | +14 +36 <大企業製造業19.0%> | 10月1日に発表される日銀短観は、9月の大企業・製造業の業況判断DIが前回比+1ポイントの改善になると予想する。この間に進んだ円高の影響が注目される。円高効果は、プラスにもマイナスにも働くので、見極めづらい。もしも、7月31日の追加利上げが予想外のショックを企業マインドに与えているとすれば、次の追加利上げはもっと慎重に行われるだろう。 |
三菱総研 | +14 +31 <+10.3%> | 先行きの業況判断DI(大企業)は、製造業+14%ポイント(9月調査「最近」から横ばい)を予測する。製造業は半導体市場の回復が下支えするものの、自動車では一部メーカーが新たな基準への対応の遅れから10月下旬より生産を停止すると報じられており、全体では横ばいになると見込む。非製造業は+33%ポイント(同+2%ポイント上昇)を予測する。実質賃金の改善が定着する中で、個人消費が持ち直すことで小売業などの関連業種を中心に業況が改善するだろう。 |
三菱UFJリサーチ&コンサルティング | +14 +33 <大企業全産業+12.1%> | 先行きについては、海外景気の一段の減速や円高の急速な進展等がリスク要因として意識されるが、半導体需要や自動車生産が一段と持ち直していくと期待されることから、両業種ともに景況感の改善が続くと考えられる。製造業の業況判断DI(先行き)は3ポイント改善の17と前向きな見通しになるだろう。 |
農林中金総研 | +13 +32 <10.0%> | 先行きに関しては、世界経済はしばらく低成長状態から抜け出せず、輸出が景気を押し上げる姿が見通せない半面、所得改善による消費の本格回復への期待は高い。とはいえ、先行き物価が徐々に沈静化していく中、人手不足による賃上げ圧力が収益圧迫につながるとの警戒もあるだろう。以上から、製造業では大企業が12、中小企業が▲3 と、今回予測からそれぞれ▲1 ポイント、▲2ポイントの悪化、非製造業についても大企業が29、中小企業が8と、今回予測からともに▲3ポイントの悪化となるだろう。 |
明治安田総研 | +14 +27 <+8.7%> | 9月の先行きDIに関しては、大企業・非製造業は1ポイント改善の+32、中小企業も1ポイント改善の+10と予想する。製造業よりも労働集約的な業種が多く含まれている非製造業では、慢性的な人手不足などが業況を下押しするとみるものの、天災の影響が落ち着くなか、実質賃金の改善に伴う個人消費の回復期待により、先行きの業況は改善すると予想する。 |
テーブルに取りまとめた通り、基本的に、大きな景況感の変化はないものと予想されているようです。ただし、製造業については輸出の動向がカギとなります。所得効果としては米国をはじめとする世界各国経済のソフトランディングが成功するか、価格効果としては円高がどこまで進むか、という2点がポイントとなります。その意味で、すぐに何らかの影響あるかどうかは不透明ながら、11月の米国大統領選挙の結果も気にかかるところです。他方で、非製造業ではインフレの動向がカギとなります。ESPフォーキャストに示されているように、今年2024年年央ないし足元の7~9月期が物価上昇のピークとすれば、徐々に内需が拡大する可能性が高まります。設備投資にしても、人口動態要因に基づく人手不足から、ようやく設備投資の増加が本格化することが期待されます。そうでなければ、人手不足はおろかグローバル化、デジタル化、グリーン投資、などなどへの対応が著しく遅れることにもなりかねません。加えて、日銀が短観から利上げの方向性をどのように読み取るかにも私は注目しています。先週の日銀金融政策決定会合後の植田総裁の記者会見での発言を聞く限り、それほど利上げを急いでいる印象ではなかったのですが、上のテーブルのように、景況感に大きな変化なければ既定方針通りに利上げに走る可能性が大きい一方で、円高が製造業へのダメージに、また、製造業・非製造業ともに設備投資の重しになっている可能性が読み取れれば、利上げのペースがさらに鈍ることになります。
下のグラフは三菱リサーチ&コンサルティングのリポートから 業況判断DIの推移 を引用しています。
やや「ついで」の扱いながら、、日本時間の昨夜、先進国をメンバーとする経済協力開発機構(OECD)から OECD Economic Outlook, Interim Report September 2024 が公表されています。pdfの全文リポートも利用可能なのですが、プレスリリース資料から pp.8-9 の GDP growth projections のテーブルと Inflation projections のグラフを引用しておきます。
日本の今年2024年の成長率が大きく下方修正されてマイナス成長を見込むようになっています。すなわち、"In Japan, while the weak first quarter outturn reduces projected annual growth in 2024 to -0.1%, strong real wage gains are expected to offset the impact of tighter macroeconomic policies, with output expanding by 1.4% in 2025." と説明されていて、要するに、今年2024年1~3月期の低成長、これは自動車の認証不正に伴う低成長の影響が大きい一方で、来年2025年には、実質賃金が堅調に上昇していることから、金利引上げによるマクロ経済の引締めの影響は相殺されて+1.4%成長と見込まれる、という予測のようです。ただ、先進国G7の中で今年2024年にマイナス成長が見込まれているのは日本だけなので、先進各国や中国が利下げ局面にあるにもかかわらず、それでも利上げをがんばりますかね、という気はします。加えて、G20の中でアルゼンチンなどの例外はあるものの日本に限らず、"Inflation is projected to be back to target in most G20 countries by the end of 2025." ということで、物価上昇はおしなべて落ち着きを取り戻しつつあり、2025年末までには物価目標に回帰する、と見込んでいます。繰り返しになりますが、それでも利上げをがんばるんでしょうね。
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