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2024年9月 2日 (月)

順調な企業活動を示す4-6月期法人企業統計

本日、財務省から4~6月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+3.5%増の368兆9593億円だったものの、経常利益は+13.2%増の35兆7680億円に上っています。そして、設備投資は+7.4%増の11兆9161億円を記録しています。ただし、季節調整済みの系列で見ると原系列の統計とは逆に、GDP統計の基礎となる設備投資については前期比+1.2%増となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

経常利益4-6月、過去最大35兆円 歴史的円安が追い風
財務省が2日発表した4~6月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は前年同期比13.2%増の35兆7680億円だった。6四半期連続のプラスで、四半期ベースでは過去最高額となった。製造業では輸送用機械が、非製造業ではサービス業が伸びをけん引した。
経常利益を業種別に見ると、製造業は13.0%の増益だった。歴史的な円安が輸出企業の収益を押し上げたとみられる。海外での販売が好調だった輸送用機械は19.9%増、情報通信機械は人工知能(AI)向けの需要が増え、52.2%伸びた。
非製造業は13.3%増えた。スーパーやドラッグストアでの新規出店があり、サービス業は50.5%の増益となった。インバウンド(訪日外国人)の影響もあるとみられる。建設業では大型案件の受注があり、18.5%のプラスとなった。
設備投資は前年同期に比べ7.4%増え、11兆9161億円だった。伸びは1~3月期の6.8%増から拡大した。非製造業が10.9%伸びた。サービス業で娯楽施設などの新設にかかわる投資があった。製造業は情報通信機械や電気機械で需要の増加による生産能力をあげるための投資があり、1.4%増えた。
財務省が同日発表した23年度通期の法人企業統計によると全産業の経常利益は前年度比12.1%増の106兆7694億円で過去最高となった。「内部留保」にあたる利益剰余金も8.3%プラスの600兆9857億円で過去最高を更新した。
財務省は23年度の法人企業統計について「景気が緩やかに回復している状況を反映しているものと考えている」と分析した。海外景気の下振れや物価上昇の影響を注視する考えも示した。

長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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法人企業統計の結果について、引き続き、企業業績は好調を維持しており、まさに、それが今年に入ってからの株価に反映されているわけで、東証平均株価については3月下旬にバブル後最高値をつけて4万円を超えた後、一時下落したものの、現時点では39,000円を超える水準に回帰しています。ただ、他方で、株価はまだしも、住宅価格が大きく高騰しているのも報じられている通りです。もちろん、法人企業統計の売上高や営業利益・経常利益などはすべて名目値で計測されていますので、物価上昇による水増しを含んでいる点は忘れるべきではありません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは、現時点では明らかではありません。来週のGDP統計速報2次QEを待つ必要があります。もうひとつ私の目についたのは、設備投資の動向です。上のグラフのうちの下のパネルで見て、昨年2023年10~12月期に跳ねた後、今年2024年1~3月期に減少した後、直近で利用可能な4~6月期にはわずかながら増加しています。前々から企業業績に比べて設備投資が出遅れているという印象があり、10~12月期には出遅れが解消され、特に、日銀短観や日本政策投資銀行の調査などによる設備投資計画とGDP統計の差が縮小される動きが始まった一方で、今年2024年1~3月期の減少が何を意味するのか、単に自動車工業の認証不正に連動した減少であるとすれば、人手不足に対応した本格的な設備投資増であることを私は期待しています。設備投資に限らず、売上げや利益も含めて、昨年5月の感染法上の分類変更に伴って、新型コロナウィスル感染症(COVID-19)のダメージの大きかった非製造業、特にサービス業が回復してきています。売上高、経常利益、設備投資とも非製造業の中ではサービス業が上位に名を連ねています。人手不足による影響が大きい非製造業、中でもサービス業の動向に注目しています。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍を経て労働分配率が大きく低下を示しています。もう少し長い目で見れば、デフレに入るあたりの1990年代後半からほぼ一貫して労働分配率が低下を続けています。いろんな仮定を置いていますので評価は単純ではありませんが、デフレに入ったあたりの1990年代後半と比べて、▲20%ポイント近く労働分配率が低下している、あるいは、コロナ禍の期間と比べても▲10%ポイントほど低下している、と考えるべきです。名目GDPが約600兆円として50-100兆円ほど労働者から企業に移転があった可能性が示唆されています。設備投資/キャッシュフロー比率も底ばいを続けています。設備投資の本格的な増加が始まったことが期待される一方で、決して楽観的にはなれません。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金は伸びを高めています。また、4枚めのパネルにあるように、デフレに陥った1990年代後半から人件費が長らく停滞する中で、経常利益は過去最高水準を更新し続けています。アベノミクスではトリックルダウンを想定していましたが、企業業績から勤労者の賃金へは滴り落ちてこなかった、というのがひとつの帰結といえます。あるいは、アベノミクスの「負の遺産」のひとつと呼ぶエコノミストもいるかもしれません。勤労者の賃金が上がらない中で、企業業績だけが伸びて株価が上昇するのが、ホントに国民にとって望ましい社会なのか、どうか、キチンと議論すべき段階に入っているように私は考えています。

最後に、本日の法人企業統計などを受けて、来週9月9日に内閣府から4~6月期のGDP統計速報2次QEが公表されます。設備投資はやや上方修正されると私は予想していますが、仕上がりのGDP成長率には大きな変更はないものと考えます。また、シンクタンクなどの2次QE予想については、日を改めて取り上げる予定です。

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