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2024年10月31日 (木)

台風の影響からリバウンドした9月の鉱工業生産指数(IIP)と大きく伸びが鈍化した商業販売統計

本日は月末ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が公表されています。いずれも9月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から+1.4%の増産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+0.5%増の13兆4890億円を示し、季節調整済み指数は前月から▲2.3%の低下を記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、9月は前月比1.4%上昇 自動車が寄与=経産省
経済産業省が31日発表した9月鉱工業生産指数速報は前月比1.4%上昇となった。ロイターの事前予測調査では同1.0%上昇と予想されていた。半導体製造装置などが減少する一方、自動車やエアコンが好調だった。
生産予測指数は10月が前月比8.3%上昇、11月が同3.7%低下となった。経済産業省は生産の基調判断を「一進一退」で据え置いた。
<7-9月期は2四半期ぶりマイナス>
上昇に寄与したのは、自動車、無機・有機化学、電気・情報通信機械など。台風からの生産回復により普通乗用車が13.0%増となったほか、前月に設備トラブルの発生した反動でフェノールが71.0%増。猛暑効果でエアコンも増加した。
半導体製造装置は中国向け、国内向けの減少で7.0%減、フラットパネル・ディスプレイ製造装置も輸出減で25.9%減にとどまった。ショベルトラックも7.3%減となったが「要因は不明」(幹部)という。
一方、7-9月期の鉱工業生産指数は前期比0.4%低下となり、2四半期ぶりのマイナスに転じた。
小売業販売額、9月は前年比0.5%増 予想を下回る
経済産業省が31日に発表した9月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比0.5%増となった。ロイターの事前予測調査では2.3%増が予想されていた。
業種別では前年比で織物・衣服が10.7%増えたほか、その他小売業が3.1%増だった。一方、自動車は3.5%減、燃料は1.5%減、医薬品・化粧品は0.8%減だった。
業態別の前年比は百貨店が1.8%増、スーパーが2.1%増、コンビニが0.6%増、家電大型専門店は0.2%増、ドラッグストアは3.9%増、ホームセンターは2.3%増。


長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は+1.0%の増産、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、+0.9%の増産が予想されていましたので、実績の前月比+1.4%の増産はやや上振れた印象です。しかしながら、引用した記事にもある通り、増産の大きな要因は8月末に台風の影響でトヨタなどで一時停止していた工場を再開したことによるリバウンドの影響が大きいと見られます。無機・有機化学では原材料調達におけるトラブルが解消したと報じられています。エアコンは、いわずもがなで、猛暑の影響であろうと考えるべきです。ということd,絵屋や市場の事前コンセンサスから上振れた印象とはいえ、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、先月に上方修正した「一進一退」で据え置いてしています。
先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の10月は補正なしで+8.3%の増産ながら、上方バイアスを除去した補正後では+5.1%の増産と試算されています。加えて、11月は▲3.7%の減産との予想となっています。7~9月期の生産は▲0.4%減と小幅の減産にとどまりました。経済産業省の解説サイトによれば、9月統計における生産は、自動車工業が前月比+7.1%の増産で+0.88%の寄与度を示したほか、無機・有機化学工業が前月比+6.6%増で+0.28%の寄与度、電気・情報通信機械工業が+2.2%の増産で+0.19%の寄与度などとなっています。他方で、生産低下に寄与したのは、生産用機械工業が▲1.7%の減産、寄与度▲0.14%などとなっています。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのが習慣なのですが、伸び率が大きく落ちてきているのが見て取れます。その上、季節調整済みの系列では前月比マイナスに転じています。引用した記事にある通り、ロイターでは前年同月比で+2.3%の伸びを市場の事前コンセンサスとしていましたので、下振れした印象を持つエコノミストも多かろうと思います。統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断しているところ、本日公表の9月統計までの3か月後方移動平均の前月比が▲0.3%の減少となりましたので、「上方傾向」から「一進一退」と明確に1ノッチ下方修正されています。偶然なのでしょうが、鉱工業生産と同じ表現となっています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、9月統計ではヘッドライン上昇率が+2.5%、生鮮食品を除くコア上昇率も+2.4%、生鮮食品及びエネルギーを除くコアコアCPI上昇率が+2.1%となっていますので、小売業販売額の9月統計の+0.5%の増加は、インフレ率を大きく下回っていると考えるべきです。さらに考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。引用した記事にある通り、国民生活に身近で頻度高い購入が想像されるスーパーでは前年同月比で+2.1%の伸びを示したものの、コンビニは+0.6%増にとどまっている一方で、百貨店がコンビニを上回る+1.8%増と伸びが大きくなっています。この点にインバウンド消費が現れている可能性がうかがえます。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。

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2024年10月30日 (水)

5か月ぶりに低下した10月の消費者態度指数

本日、内閣府から10月の消費者態度指数が公表されています。10月統計では、前月から▲0.7ポイント低下して36.2を記録しています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者態度指数10月は0.7ポイント低下、5か月ぶりマイナス=内閣府
内閣府が30日に発表した10月消費動向調査によると、消費者態度指数(2人以上の世帯・季節調整値)は、前月から0.7ポイント低下の36.2と5カ月ぶりのマイナスとなった。
ただ、前月比の3カ月移動平均は小幅なマイナスにとどまっており、内閣府は消費者態度指数の基調判断を「改善に足踏みがみられる」で据え置いた。
指数を構成する4つの指標すべてが悪化。特に耐久消費財の買い時判断の下落幅が1.3ポイントと大きかった。
1年後の物価が上昇するとの回答比率は93.2%と前月比で0.1ポイント上昇、2か月連続の上昇となった。内閣府では「コメの値上げが影響した可能性がある」(幹部)とみている。5%以上上昇するとの回答比率は前月の46.6%から47.9%に増えた。
内閣府では「物価上昇が消費者マインドに影響したかは不明確」(幹部)としている。

的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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消費者態度指数は今後の暮らし向きの見通しや雇用環境などについての消費者の意識について質問するものであり、4項目の消費者意識指標から成っています。10月統計では、引用した記事にある通り、前月に比べてすべての指標が低下しており、「耐久消費財の買い時判断」が▲1.3ポイント低下し29.7、「収入の増え方」が▲0.7ポイント低下し39.4、「雇用環境」が▲0.6ポイント低下し41.6、「暮らし向き」が▲0.2ポイント低下し34.2となっています。消費者態度指数は、直近では今年2024年5月に36.2を記録して底となったものの、8月統計の横ばいを含めて6月から9月まで上昇または横ばいとなった後、本日公表の10月統計では5か月ぶりの前月差マイナスとなっています。引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「改善に足踏みがみられる」で据え置いています。5月統計で下方修正されてから6か月連続での「足踏み」です。
注目すべきは、引用した記事にもある通り、インフレを見込む割合が上昇を続けている点です。すなわち、物価上昇を見込む割合は、直近で今年2024年6月に93.8%を記録した後、7月93.2%、8月92.1%とジワジワと低下していましたが、9月統計では+93.1%と再上昇に転じ、さらに、本日公表の10月統計でも+0.1%ポイントとわずかながら上昇して93.2%を記録しています。もちろん、90%を超えた結果で大きな変化はないという見方もできます。ただ、物価上昇を見込む90%超のうち、+5%以上の高いインフレを予想する割合が、引用した記事の通り、前月の+46.6%から今月10月統計では+47.9%に上昇しています。いずれにせよ、圧倒的に高い比率で物価上昇を見込む消費者マインドに大きな変化はありません。ただ、10月9日に公表された最新の日本経済研究センターのESPフォーキャストに示されたエコノミストの見方では、消費者物価上昇率は今年2024年7~9月期に+2.57%でピークとなり、その後もしばらく+2%超で高止まりを続けるものの、来年2025年7~9月期になると日銀インフレ目標の+2%を下回る+1.85%まで物価上昇率が縮小すると予想されています。1年ほどは日銀の物価目標を上回るインフレが続く見込みです。引用した記事の最後のパラでは、物価上昇と消費者マインドの動きの関係について、内閣府では「不明確」としていますが、消費者マインドもいくぶんなりとも物価に連動する部分は否定できない、と私は考えています。

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2024年10月29日 (火)

やや改善した失業率や有効求人倍率などの9月雇用統計をどう見るか?

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも9月の統計です。失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.4%と改善した一方で、有効求人倍率は前月を+0.01ポイント上回って1.24倍と改善しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

失業率9月は2.4%、8カ月ぶり低水準 有効求人1.24倍に小幅上昇
政府が29日発表した9月の雇用関連指標は完全失業率が季節調整値で2.4%と、前月から0.1ポイント改善した。2カ月連続で低下し、今年1月以来8カ月ぶりの低水準となった。リストラや倒産などの「非自発的な離職」が減少した。有効求人倍率は1.24倍で前月から0.01ポイント上昇した。
ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.5%、有効求人倍率は1.23倍と見込まれていた。
総務省によると、9月の就業者数は季節調整値で6782万人と、前月に比べて9万人減少。完全失業者数(同)は、前月に比べて4万人減少し168万人だった。
正規の職員・従業員数(実数)は3692万人、このうち女性は1328万人で、ともに比較可能な2013年以降で過去最多だった。
総務省の担当者は「完全失業率はこのところ2%台半ばで推移していたが、9月は低下して今年1月以来の低い水準となった。雇用情勢は悪くない」との認識を示した。女性の就業率が伸びてきていることについては、女性の就業を支える施策が奏功してきている可能性があると述べた。

続いて、雇用統計のグラフは下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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記事にもある通り、ロイターでは失業率に関する事前コンセンサスは前月と同じ2.5%、有効求人倍率も前月から横ばいの1.23倍が見込まれていました。人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率も有効求人倍率もともに9月統計では改善を示し、もちろん、高い水準が続いています。ただし、グラフからも明らかなように、雇用は底堅い印象ながら、そろそろ改善局面を終えた可能性がある、と私は評価しています。ただ、それでも、今年2024年に入ってから9月統計で失業者数は季節調整済み系列の累計で▲4万人減少しており、その背景として、同じ期間に就業者が+18万人増、雇用者にいたっては+21万人増と増加を示しています。なお、季節調整していない原系列の統計で失業者数は前年同月比で+2万人増加していますが、内訳を見ると、転職を目指したりしていると見られる「自己都合による自発的な離職」が+3万人増加しており、中身としてはそれほど悪くない気がしています。もちろん、そろそろ景気回復局面は後半期に入っている可能性が高いと考えるべきですし、その意味で、いっそうの雇用改善は難しいのかもしれません。ただ、あくまで雇用統計はまだら模様であり、人口減少下での人手不足は続くでしょうし、米国がソフトランディングの可能性を強めている限り、それほど急速な雇用や景気の悪化が迫っているようにも見えません。

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2024年10月28日 (月)

総選挙結果を考える

総選挙結果です。
画像は時事通信のサイトから引用しています。

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専門外ながら、今回の総選挙に限定せずに、選挙一般に対して2点ほど付け加えたいと思います。第1に、私は民主主義に小さな懐疑論を持っていて、例えば、『市民的抵抗』(白水社)に示されたチェノウェス教授の3.5%ルールとかに興味あるのですが、さすがに、日本の民主主義も少し見直しました。でも、その反面、限界が大きいことも事実です。第2に、野党共闘に関しては私はそれほど大きな期待を感じません。例えば、小選挙区でもっと野党共闘が進めば与党候補者に代わって当選者が増えるのは、ある意味で、明らかなのでしょうが、野党共闘による政権交代が唯一の選択肢であるとも思いません。すなわち、政権交代に達するほど議席数が多くなくても議会におけるプレゼンスを増すことによる与党への圧力も重要だと思います。その意味で、ムリに政策的な一致を図る必要があるとも考えませんし、場合によっては、政権交代よりも現実的かもしれません。

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2024年10月27日 (日)

本日は総選挙の投票日

本日は総選挙の投票日です。
棄権の白票では政治を変えられません。

投票に行きましょう!

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2024年10月26日 (土)

今週の読書は経済書や新書も読んで計8冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
今年の新刊書読書は1~9月に238冊を読んでレビューし、10月に入って先週までに計19冊をポストし、合わせて257冊、本日の8冊も入れて265冊となります。ひょっとしたら、年間300冊に達するペースかもしれません。新書の積読が多くなったので、今週はがんばって4冊読んだものの、さらに借りたり、買ったり、果てはご寄贈もあって、なかなか新書の積読が減ってくれません。なお、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。
それから、今週は佐滝剛弘『それでも、自転車に乗りますか』(祥伝社新書)と志駕晃『スマホを落としただけなのに』(宝島社文庫)も読んでいて、すでにFacebookやmixiにレビューをポストしているのですが、新刊ではないと考えられますので本日の読書感想文には含めていません。

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まず、山森亮『忘れられたアダム・スミス』(勁草書房)を読みました。著者は、同志社大学の研究者です。ご卒業の学部は京都大学経済学部のOBですので、私の後輩ということになります。それはともかく、本書では、通常の主流派経済学では欲求に基づく需要しか考えないところ、その欲求とは少し区別される必要について議論しています。すなわち、経済学、特に、マイクロな経済学は選好に基づく選択と市場における交換などについて考えるのですが、実は、選択しても交換できないケースがあります。すなわち、貨幣による購買力の裏付けがないケースです。欲求があっても市場における需要につながらないわけです。しかし、市場における需要には結実しないとしても、実際に必要な場合が少なくありません。どうしても必要な財、例えば生存に必要不可欠な財であるにもかかわらず、購買力がないため交換・入手出来ないケースについては、現在の福祉国家では政府が手当することになります。ただ、そういった社会福祉ではなく、本書では必要についていくつかの分類をしつつ、タイトル通りに、アダム・スミスに立ち返って議論を展開しています。ただし、決して衒学的ではないとしても経済学というよりは、かなり哲学的な議論となっています。まあ、よく解釈すれば経済学の基礎をなすべき哲学、ないし、政治経済学、ということになるのかもしれません。ただ、平等や不平等、さらに、貧困を考える際にはとても重要な論点であることは間違いありません。ということで、まず、必要について本書では3種類にカテゴライズしています。主観的必要と客観的必要、さらに、間主観的必要です。主観的必要に基づいて購買力があれば、市場における需要となる可能性が高くなります。当然です。そして、客観的必要性が高いにもかかわらず購買力の裏付けなければ社会福祉で調達される必要あることはすでに論じました。そして、主観的でもなく客観的でもない間主観的必要とは、ざっくりいえば、社会的な必要性ということになります。例えば、衣類について考えると、生存に不可欠な衣類については、当然に、それなりに社会的な合意あります。少なくとも防寒のために必要な衣類というものは想像されますが、逆に、夏の暑い季節の京都で衣類なしで外出するのは社会的に考えて適当ではないと、本書では指摘しています。はい、その通りです。そういった社会的に必要な間主観的な必要について、本書では大きなテーマのひとつとして論じています。単に、アダム・スミス的な古典派経済学の見地からだけではなく、メンガーの「真の需求」や「想像財」に基づく真の必要を、市場が把握する必要と主体が認識する必要に加えた3カテゴリーの議論、ポランニーらによる世代を超えて持続可能な開発の議論、さらに、貧困や不平等の視点ではケイパビリティ理論を主張したセン、あるいは、センをミニマリストとして批判したタウンゼントの議論、などなどに加えて、フェミニスト経済学の視点も提供しています。私はすべてを理解したとはいえないかもしれませんし、詳細は読んでいただくしかありません。ただ、衒学的であると感じたり、ためにする議論であると感じる人もいるかもしれませんし、私のように十分な理解に達しない可能性も否定できません。すべての人にオススメ出来るわけではないかもしれませんが、こういった本をたまに読むのもいいかもしれません。

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次に、山本龍彦『アテンション・エコノミーのジレンマ』(角川書店)を読みました。著者は、慶應義塾大学の研究者です。ただし、というか、何というか、経済学部や商学部といったエコノミストではなく、法学部教授であり、ご専門は憲法だそうです。ですので、本書は経済学ではなく、アテンション・エコノミーにおける表現の自由や自己決定、さらには、民主主義のあり方、それも、AIが本格的に運用されAIの能力が格段に高まった際に民主主義がどうなるか、などについて議論を展開しています。さらに、さらに、で、著者が執筆しているわけではなく、というか、ほぼほぼすべての章が対談の結果を収録しています。ということで、本書では、SNSなどで人々の興味や関心=アテンションを引きつけ、広告収入につなげるビジネスが注目されています。典型的には、Facebookを運営するMETAやGoogleや、といったところが思い浮かびます。このアテンション・エコノミーに対して、本書では第1章から第6章において以下の6つの視点からややネガな、とまではいわないとしても、注意喚起的な議論を展開しています。すなわち、(1) 表現の自由やコミュニケーション、(2) 個人情報保護、(3) 認知のあり方と自己決定、(4) AIによる影響、(5) 民主主義への影響、(6) SNSと依存症、ということになります。表現の自由については、本書では言及ないものの2010年からポスト・トゥルースが注目されていますし、今年2024年の米国大統領選挙でもフェイクニュースが飛び交っているのは広く知られた通りです。ファクト・チェックや対応のあり方も議論されています。ただ、日本で野放し状態であることは大きね懸念のひとつです。個人情報保護については、欧州で「EU一般データ保護規則」(GDPR:General Data Protection Regulation)が決定された一方で、すべてに立遅れている我が国はほぼほぼ何の規制もありません。認知のあり方については、行動経済学や経済心理学などの領域で研究が進んでいますが、今回の総選挙でも、日本国民が何に基づいて投票しているのか、私にはサッパリ理解できていません。残りのAIや民主主義、さらに、依存症についても本書では広範な領域で議論されています。本書の結論は、ほぼほぼ多くの良識ある読者と重なる部分があり、それは、「バランスが重要」という点に尽きます。表現の自由について、ホントに日本のように野放しでファクト・チェックもなされず、フェイクニュースがまかり通るような現状が好ましいとは思いませんが、他方で、かつて猛威をふるったポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)に過剰なくらいに従った表現しか世に出てはならない、とするまで規制を強化、自主規制も含めて規制を強化するのも、それはそれでカギカッコつきながら「危険」な気もします。冒頭の第1章のp.108では、判りやすく、アメリカ=自由放任(レッセフェール)モデルとヨーロッパ=適切関与モデルを対比させています。これは第2章以降にも同じような対比が可能ですし、バランスを考える上で重要な視点であろうと私は受け止めています。ですので、第2章の個人情報保護、あるいは、それ以降の章についても同様です。しかし、そのバランスというのが厄介で、時代により、地域により、社会により、かなり揺れ動くであろうことは軽く想像されます。ただ、米欧を比較した2つのモデルについても、アテンション・エコノミーに対してまったくの自由放任ということはありえません。どちらにせよ、適切関与モデルにならざるを得ないのですが、その関与の大きさを決めるのは、政府エリートではなく、最後は個々人のリテラシー、一般常識に基づいた政府関与、ということにならざるを得ません。リテラシーを高めておかねば、我々一般ピープルはエリートから搾取され放題になりかねません。その意味で、大学教員として大学教育の重要性をひしひしと感じています。最後の最後に、かなり難しい内容です。私もすべてを理解できた自信がありません。間違って読んでいるところがあるかもしれません。でも、オススメです。

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次に、貴志祐介『さかさ星』(角川書店)を読みました。著者は、ホラー小説やSF小説を中心に幅広く活躍する小説家です。いつか書いた記憶があるのですが、京都大学経済学部の私の2年後輩になるのは卒業生名簿で確認しておりますが、たいへんな有名人ですので、私はまったく面識ありません。ということで、この作品は本格的なホラー小説です。しかも、呪物にまつわるホラーです。小説の舞台は、どうも東京近郊のようですが明らかではありません。本書の物語が始まる数日前に一家惨殺があり、その残りの一族を呪い殺さんとする勢力がいる、というストーリーです。完全にオカルトであり、呪物に込められた呪いで一族惨殺を狙う悪者がいるわけです。まったく近代物理学に反しているといえますが、それはそれで怖いお話です。というのも、いろんな呪物についてやたらと詳しい解説がなされます。これを並べるだけでも、怖がる読者がいそうな気がします。ストーリーは、戦国時代から続く名家・福森家の屋敷で数日前に起きた一家惨殺事件が起点となります。その事件では、死体はいずれも人間離れした凄惨な手口で破壊されており、屋敷には何かの儀式を行ったかのような痕跡すら残されていました。福森家と親戚関係にあり、祖母が福森家の出身である中村亮太が主人公で、オカルト系の「底辺ユーチューバー」と称しているのですが、動画を撮影する下心もあって、霊能者の賀茂禮子とともに福森家の屋敷を訪れ、事件の調査を行うことになります。その霊能者によれば、福森家が戦国時代末期から収集していた国宝級の名宝・名品の数々が実は恐るべき呪物であり、一家惨殺事件を引き起こした可能性があるということです。そして、警察の刑事もこの霊能者について認識があるようで、一応、お説を拝聴していたりして、信頼感を高めます。霊能者の説によれば、事件は終結しておらず、一家の生き残りの子供たちにも呪いの魔の手が伸びており、一族皆殺しを企んでいるらしいということになります。その次なる呪いのために、5点の呪物が本書のタイトルである「さかさ星」の形を形成して、非常に強い呪いを形成することになりかねない、ということです。主人公の中村亮太は、自分自身も福森家の末裔の1人であることから標的にされる可能性もあり、もちろん、親戚のいとこたち守るべく奮闘することになります。しかし、霊能者の賀茂禮子に対して、彼女が恨みを持って福森家の一族皆殺しを企む側であると主張する外国人の尼僧が現れ、中村亮太の祖母の姉である大叔母、福森家の大奥さまの信頼を勝ち得て、霊能者の賀茂禮子を追放してしまいます。まあ、本書の中でも「白魔女」と「黒魔女」という言葉が使われていたように記憶していますが、福森家と主人公の中村亮太から見てどちらが味方で、どちらが敵なのか、こんがらがったストーリーになるわけです。そして、数日前の一家惨殺事件の犠牲者の遺体が警察から福森家に戻されて、通夜を営む日の夜がクライマックスとなります。もちろん、結末は読んでいただくしかありませんが、角川書店による著者インタビューにしたがえば、本作品は2部作の第1作であり、今回未解決のまま残されている部分は次巻で回収される予定だそうです。最後に、2部作の次巻を別にすれば、少なくない読者は、この作品こそが『黒い家』や『悪の教典』といったホラー、また、『新世界より』で展開されたSF小説と並んで、あるいは頭ひとつ抜きん出て、作者の最高傑作のひとつであると見なすことになるかと思います。でも、私はやっぱりホントに怖いのは人間だと思います。その意味で、この作品よりも『悪の教典』が怖かったです。

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次に、川越敏司『行動経済学の真実』(集英社新書)を読みました。著者は、公立はこだて未来大学の研究者であり、行動経済学会の会長だそうです。こういう学会があるだろうというのはほのかに想像できますが、はい、申し訳ないながら公立はこだて未来大学という大学名は初めて聞きました。それはともかく、本書冒頭でも指摘しているように、行動経済学についてはさまざまな議論がなされています。すなわち、保険や金融などのビジネスに実際に活用されていますし、カーネマン教授やセイラー教授がノーベル経済学賞を授賞されたりしています。他方で、「行動経済学の死」The death of behavioral economics というサイトでいくつかの否定的な事実が指摘されて、行動経済学に対する否定的な見方、あるいは、少なくとも強い疑問が噴き出しているのも事実です。本書でも認めているように、行動経済学に対する批判は、大きく2点があり、(1) 再現性に欠ける、(2) ナッジの影響力はかなり小さい、ということになります。私は、特に前者の再現性に欠けることに関しては、ポパー的な反証可能性の観点から、科学としては致命的だと考えています。本書では、ツベルスキー-カーネマンのプロスペクト理論に対して、参照点をシフトさせることによりいかなる結論も導出可能、という批判に関しては反論を試みていますが、それ以外については、ちょっとどうかな、という印象です。私から行動経済学に関する批判を2点付け加えておくと、ひとつは、再現性の確保に重大な欠陥があるという点で、これはすでに指摘しました。すなわち、社会的、あるいは、時代的なコンテキストにより結果が異なることです。それは一部には人々の持つ合理性が限定的であることに起因します。例えば、厳密な科学では塩酸と水酸化ナトリウムを適量混ぜ合わせれば食塩水になります。Cl+Na=NaCl なわけです。中学レベルの化学だろうと思います。100年前にやっても、今やっても同じ結果が得られますし、日本でやっても、アフリカやその他の地域でやっても結果は同じです。当然です。しかし、どうしても、地理的な限界や時代背景により、行動経済学で観測される選択の結果が大きく異なるケースがありえます。でもまあ、社会科学のひとつの分野として地理や時代により社会が異なる、といえば許容されそうな気もします。しかし、もうひとつの難点は決定的だと私は考えます。すなわち、研究費をタップリと得られれば、決して、データを捏造せずとも、目的に応じたどのようなデータも得られる可能性があることです。もっといえば、行動経済学の分析目的で独自データを得ようとすれば、研究費を確保する必要がありますが、制度設計を研究費の提供者に有利なように取り計らうことができる可能性が極めて高い、ということです。特に、議論がまとまっていないトピックについては制度設計でかなり自由な結論を誘導できるといっても過言ではないような気がします。まあ、行動経済学ではありませんが、例えば、死刑制度の賛否について考えてみると、アムネスティ・インターナショナルがアンケートを設計すれば死刑反対が多数を占める結果を得るのはそう難しくないだろうと思いますし、逆に、犯罪被害者の会なんかが制度設計をすれば死刑賛成の結果を得られるような制度設計が可能だという気がします。最後に、これは私の下衆の勘繰りながら、現時点で、それなりの、いわば「流行りの分野」ですので、質に問題ある論文も多そうな気がします。ですので、私は行動経済学の論文については眉に唾して読むようにしています。

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次に、佐滝剛弘『観光消滅』(中公新書ラクレ)を読みました。著者は、城西国際大学観光学部の研究者です。誠に申し訳ないながら、初めてお聞きする大学名でした。その昔のバブル経済全盛のころに、明海大学に不動産学部というのが設置されましたが、インバウンドが再び盛り上がりを見せて、こういう学部で学ぶ学生も少なくないんだろうと考えています。ただ、タイトルから明らかな通り、本書は観光、観光立国、インバウンド消費など関して少なからず懐疑的な見方を提供しています。本書は3部構成であり、第1部 崩壊、第2部 消滅、第3部 未来、と題されています。まず、冒頭はお決まり、というかお約束のオーバーツーリズムから始まります。まあ、そうなんでしょうね。私は京都を当然ながら定期的に訪れますが、東山通の特に五条坂辺りから四条通りの祇園まで、歩道から歩行者があふれて車道を自転車で走る私すら身の危険を感じる時があります。市バスは外国人観光客でいっぱいです。錦通りは高額の立食い串刺しが大量に売られています。日本で人口が減少していくという意味は、鉄道やバスといった交通機関で働く人、あるいは、お祭りなどの伝統行事などの担い手が減少していくということなのですが、他方で、外国人観光客が現在の勢いで増加しても、国内で提供できるサービスが維持できるかどうか、不安に考える日本人は私だけではないと思います。加えて、国内価格の上昇がインバウンドによってもたらされている可能性もあります。京都の河原町あたりには、私の大学時代化に比べてやたらとドラッグストアが出来ていて、現時点でそこで売られている日用品などの価格が大きく上がっている印象はありませんが、本書で指摘しているように、1泊5万を超える高級ホテルに出張者が気軽に泊まれるハズもありません。京都の出身であり、国際観光都市の代表である京都を身近に感じているだけに、私自身の不安も大きいものがあります。第2部では、気候変動の影響も取り上げられています。例えば、桜の開花予想のズレがビジネス・チャンスを逃す原因になったり、線状降水帯やJPCZ(日本海寒帯気団収束帯)などの影響が観光に及ばないハズもありません。第3部では、政策動向にも目が配られています。すなわち、新型コロナウィスル感染症(COVID-19)パンデミックによるダメージがとりわけ大きかった観光業界を支援するとはいえ、「Go to Travel」や「全国旅行支援」などの政策がどこまで経済効果があったのか疑問視し、また、こういった観光業支援策は別のサービスからの代替を促しただけで終わった可能性にも言及しています。世界遺産についても疑問が残り、どこまで観光への影響を考えるべきか、あるいは、国内の文化活動との関係をもっと重視すべきではないか、という疑問ももっともだと私は受け止めています。いずれにせよ、私が今世紀に入ってからの経済政策、もちろん、一部の経済政策に関する疑問は、特に郵政民営化以降で日本を切り売りするような政策が取られているのではないか、というおそれです。観光に立脚したホテル建設などに限らず、水道事業の民営化と対外開放などが典型です。そして、日本経済が先進国のステータスを失って途上国化するにつれて、観光に関しては、かつて日本がアジアのいくつかの国に対して「買春ツアー」をやっていた、あるいは、今もやっている(?)点については、本書ではまったく言及ありませんが、決して、忘れるべきではないと思います。

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次に、松本創[編著]『大阪・関西万博「失敗」の本質』(ちくま新書)を読みました。編著者は、ジャーナリストです。神戸新聞の記者を経て、現在はフリーランスのライターだそうです。本書は編著者も含めて5人の著者が執筆する5章から構成されて、5つの視点を提供しています。政治、建築、メディア、経済、そして、都市となります。もちろん、タイトルから明快な通り、来年2025年開催予定の大阪・関西万博に対して大いに批判的な視点を提供しています。第1に、大阪維新の会による府政と市政のマネジメントの不適切性です。開催地の夢洲が、そもそも、大阪維新の会の主張のように、維新以前の府政・市政の「負の遺産」であるかどうかから検証し、地震などの自然災害時の避難や液状化のおそれなどに対するリスク管理にも批判の目が向けられています。第2に、建設の視点から、万博の華であるパビリオン建設の遅れ、あるいは、いくつかの外国のパビリオン建設からの撤退、工事期間だけではなく万博開催中におけるメタンガス爆発の危険、木造リング建設がパーツ・パーツで進められる非効率などの批判的視点が提供されています。第3に、東京オリンピックにおける不正事件により電通が運営に参加できないリスクが指摘されています。吉本興業の運営に対する不安感も同じことかもしれません。さらに、決定的に万博のイメージを低下させている万博後のカジノ=IRへの移行に対して、特に、読売新聞などの批判にも言及しています。第4に、経済効果への疑問です。短期的な工事などの事業規模だけでは測れない長期的なレガシー効果については公益性の観点で決まると主張し、カジノに公益性あるかどうかを疑問視しています。ただ、大阪都構想を2度に渡って否定した大阪の有権者の合理性も同時に評価しています。第5に、最後に、大昔の第5回内国博覧会からの歴史を説き起こし、万博の先にあるカジノ=IRまでを見通した総括がなされています。私はほぼほぼ本書の視点に賛成です。現時点でも、パビリオン建設が進まず、前売り券販売が伸びず、それでも建設費の膨張を抑えられず、といった万博運営のネガな情報ばかりが報道され、国民、あるいは、地域住民の関心がサッパリ盛り上がっていないことを私自身は実感しています。私自身も、COVID-19パンデミック下の東京オリンピック・パラリンピックにも批判的でしたが、この万博にはさらに強い嫌悪感に近い気持ちを持っていて、ほぼほぼ万博には関心なく、たぶん、行かないと思いますし、万博後のカジノ=IRは、たとえ、命長らえていたとしても、絶対に行くつもりはありません。何度か似たような主張をしてきたつもりですが、権力者が決めれば下々が従わなければならない、という不平等を正して、ホントの民主主義を実現し、国民や地域住民の声が反映されるような行政を実現せねばなりません。そうでないと、こういった万博のような権力者の好む無理難題がまかり通ることになってしまいます。

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次に、小川寛大『池田大作と創価学会』(文春新書)を読みました。著者は、何と申しましょうかで、宗教ジャーナリストといえるんではないかと思います。いくつかの宗教メディアの記者などを経て、現在、宗教専門誌「宗教問題」編集長を務めています。ということで、私も大学の同僚などとウワサ話をしていた経験があるのですが、創価学会に長らく君臨した池田大作名誉会長はまだご存命なのだろうか、という疑問がありました。そして、その疑問が解明されたのが、昨年2023年11月15日に95歳で亡くなったというニュースでした。逆にいえば、そこまでご存命だったわけです。本書では、この点に関して、とても肯定的に考えています。すなわち、素晴らしく集団指導体制が機能している結果、カリスマと称されつつも、池田大作名誉会長が実質的に不在でも創価学会の盤石の体制には揺るぎがなかった、という評価です。多分、そうなんだろうと私も合意します。そして、池田大作名誉会長の創価学会におけるカリスマ性は、何かの宗教的な奇跡を行ったとか、神秘性高いパワーがあるとかではなく、AKB48的な身近で行けば会ってくれる親しさだと分析しています。私は創価学会の会員ではありませんので、この点は何ともいえません。会ってくれる身近な指導者がいいのか、雲の上の尊い存在がいいのか、何とも判断しかねますが、本書の評価はそうなっています。そして、本書のハイライトは公明党という政党を結成して政治を志向した、という点にありますが、現在は総選挙中でもあり、軽々に言及することは控えて、この点は読んでいただくしかありません。私から2点だけ実体験を基に付け加えると、まず第1に、私の子供のころの記憶として、本書でも指摘していますが、いわゆる「折伏」の攻撃性や激しさを嫌悪したことを覚えています。我が家は代々浄土真宗の門徒であり、場合によっては、創価学会サイドから見れば折伏の対象になりかねないのですが、父親が意志堅固で決して浄土真宗から離れることはありませんでした。攻撃的な折伏とともに、大きな声で朝夕に太鼓のようなものを叩きながら「南無妙法蓮華経」の唱題を実践しているのも、決して好きにはなれませんでした。でも、第2に、海外の大使館に赴任していた際に、当時の創価学会インターナショナル会長として池田大作名誉会長のご来訪を仰いだことがあります。どういう経緯かすっかり忘れましたが、経済アタッシェであったにもかかわらず、たぶん、文化担当官が不在であったか何かの理由で、私が少しだけ準備会場の手伝いに行くことがあり、「ああ、この人も創価学会の会員だったのか」と意外な人がご来訪準備に携わっていることを知って、創価学会の裾野の広がりを実感した記憶があります。おそらく、現在でも国連に登録されたNGOの最大の団体のひとつだと思います。国内だけではなく、国際的にも影響力ある団体ですし、何といっても、明日投票の総選挙でどう転ぶかは不明なものの現時点で与党の一角を成しています。団体としての創価学会と、長らくカリスマとして君臨した池田大作名誉会長に注目する人も、ともにオススメの本です。

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次に、志駕晃『令和 人間椅子』(文春文庫)を読みました。著者は、ニッポン放送のディレクター、プロデューサーであり、北川景子主演で映画化もされた「スマホを落としただけなのに」シリーズで大ヒットを飛ばした小説家でもあります。タイトルから軽く想像されるように、江戸川乱歩の短編ミステリを令和の現代に移植し、というか、新たに、AIやマッチングアプリなどの現代的な要素を付け加えているとともに、結末もビミョーに変更を加えていたりする6話の短編が収録されています。順に、まず、タイトル作の「令和 人間椅子」では、大学在学中に作家デビューした美子が主人公であり、突然送られてきた原稿はAIが搭載されたマッサージチェアが書いたということなのですが、本人とと担当編集者しか知らない重大な秘密が暴露されていたりしました。「令和 屋根裏の散歩者」では、違法すれすれのハッキングで大金を得た二郎が主人公で、その大金で大家になったマンションの下の部屋に越してきた女子大生に恋をしてしまいます。「令和 人でなしの恋」では、主人公の女性がマッチングアプリで知り合って結婚した昌彦は理想的な夫と見えましたが、時折、妻の目を盗んで出かけていることが気にかかります。「令和 赤い部屋」では、参加者は服も背景も赤一色という、ある意味で、異様なオンラインサロンの参加者は全員がサイバー犯罪の首謀者たちでした。「令和 一人二役」では、劇団に所属する女優の卵・小夜子が主人公で、マッチングアプリでいろいろな女性に成りすますアルバイトで食いつないでいます。「令和 陰獣」はメタな構成で、「令和 人間椅子」のファンという女性から、作者である主人公のもとに熱烈なファンレターが送られてきます。実は、私はこの短編集に収録されている江戸川乱歩の原作、というか、元の作品をすべて読んでいるわけではありませんし、中には記憶が不確かなものもあったりするのですが、もちろん、江戸川乱歩の元の作品をじっくりと読み込んでいる読者の方が楽しめるのは当然ながら、たとえ十分読みこなしていなくても、かなりいい線いっていて楽しめるのではないかと思います。いかにも、元の江戸川乱歩作品の雰囲気を受け継いで、何ともいえない不気味な雰囲気を醸し出している作品ばかりです。

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2024年10月25日 (金)

やや上昇率が縮小した9月の企業向けサービス価格指数(SPPI)

本日、日銀から9月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月からわずかに縮小して+2.6%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについては前月と同じ+2.8%の上昇となっています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、9月は2.6%増 3カ月連続で上昇率縮小=日銀
日銀が25日に公表した9月の企業向けサービス価格指数速報は前年比2.6%上昇、前月比では0.1%低下した。8月は前年比2.8%上昇、前月比変わらずだった。前年比での上昇率は6月に3.2%まで拡大した後、9月まで3カ月連続で縮小した。
日銀の担当者によると、9月は外航貨物輸送が前年比で大幅下落となり、押し下げに寄与したほか、運輸・郵便、インターネット広告・新聞・雑誌広告、土木建築、労働者派遣サービス、金融手数料等が上昇幅を縮小させ、全体の下落に寄与した。
担当者は「日本経済をめぐる不確実性は高い状況が続いているが、企業向けサービス価格指数の観点からは、人件費の上昇を価格に転嫁する動きも持続している」と指摘。「宿泊サービスなど、それまで力強い伸びを示してきたサービスの先行きの増勢、地政学リスクを踏まえた国際商品市況や海運市況の状況を注視していく」と述べた。
指数を構成する146品目中、上昇した品目は116、下落は14品目で差し引きは102品目となり、8月の96品目から増加した。

もっとも注目されている物価指標のひとつですから、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速はいったん終了したように見えたのですが、今年2024年年央時点で再加速が見られ、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は9月統計で+2.8%を示しています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準として一貫して上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、昨年2023年11月に+2.8%まで加速し、さらに今年2024年6月統計では+3.2%まで加速した後、本日公表された9月統計では+2.6%に上昇率が縮小しています。1年超の15か月連続で日銀物価目標である+2%以上の伸びを続けているわけです。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なります。しかし、いずれにせよ、+2%超の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性があります。加えて、真ん中のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、物価上昇率が高止まりしていることは事実としても、インフレが+2%を大きく超えて加速する局面ではない、と私は考えています。また、本日総務省統計局から公表された消費者物価指数の東京都区部10月中旬速報でも、ヘッドラインも生鮮食品を除くコアCPIもともに+1.8%の上昇率と日銀物価目標を下回るくらいまで縮小してきています。SPPIに戻って、人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率と高人件費比率のサービスの違いに大きな差はありません。引用した記事の通り、8月統計の前年同月比で見て、高人件費率サービス+2.9%、低人件費率サービス+2.3%の上昇となっています。ですので、引用した記事の日銀担当者の発言、あるいは、巷間いわれているような「人件費転嫁による物価上昇」という説が正しいかどうかはやや疑問といわざるを得ません。すなわち、人件費率に関係なく+2%超の価格上昇が見られる点は忘れるべきではありません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて9月統計のヘッドライン上昇率+2.6%への寄与度で見ると、機械修理や廃棄物処理や土木建築ササービスなどの諸サービスが+1.47%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分超を占めています。人件費以外の原材料やエネルギーなども含めて、コストアップが着実に価格に転嫁されているというのが多くのエコノミストの見方ではないでしょうか。ただし、諸サービスのうちの宿泊サービスは前年同月比で9月統計では+12.7%の上昇と、引き続き高止まりしています。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている項目として、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.31%、石油価格の影響が大きい道路貨物輸送や旅行サービスや道路旅客輸送などの運輸・郵便が+0.28%、ほかに、景気敏感項目とみなされている広告+0.19%、リース・レンタル+0.16%などとなっています。

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2024年10月24日 (木)

本日のドラフト会議の結果やいかに?

本日、都内にてプロ野球球団によるドラフト会議があり、阪神タイガースは以下の選手を指名して交渉権を獲得しています。はい、申し訳ありませんが、私にはよく判りません。詳しくは球団サイトをご覧ください。

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今年のハロウィンをいかに遊ぶか?

今年もハロウィンの季節となり、先週金曜日10月18日にインテージから「ハロウィンに関する調査結果」が明らかにされています。まず、インテージのサイトから調査結果のポイントを5点引用すると以下の通りです。

[ポイント]
  • ハロウィンの予定がある人は約3割で昨年の1.2倍。女性15-19歳は7割に達し、男性20~30代も増加
  • 予算は昨年の1.2倍。コロナ前を上回る
  • 予算増の要因は『物価高』、「料理」「ハロウィン限定商品を買う」をはじめとする『身近な楽しみ方の広がりと増額』
  • 20代男性では「イベントに参加」「テーマパークへ行く」「お菓子を配る」などの予定が増加
  • 繁華街に繰り出す予定がある人は「安全か」を最重視(52%)。その他の『安全・安心・モラル』面も一定重視

ハロウィンについては、帰国子女の我が家の子供達が外国生活で楽しんできたこともあって、私もとても興味があり、いくつか図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、「ハロウィンにやりたいこと・行きたい場所がある」と回答した人は全体の28.3%に上っており、23.2%であった昨年の1.2倍となっています。年齢別性別に見ると、女性15-19歳は昨年より+19.3%ポイント増加して70.0%に達しており、男性でも20-29歳の層は昨年から+15.4%ポイント上昇して37.6%となっています。ちなみに、私が属している男性60-69歳ですら昨年から+2.3%の増加で12.5%と、8人に1人が何らかの予定があるという回答です。そして、エコノミストの観点から重要と考えているご予算については、ハロウィンに予定がある人の昨年の5,620円から1.2倍の6,565円に増加しています。

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ただし、ご予算が昨年に比べて「増える」とはいえ、その理由を複数回答で聴取したところ、インフレの影響という情けない理由の「物価高だから」が22%でトップ、次いで、「盛り上がりたい/楽しみたいから」が19%、「ハロウィン限定商品を買うから」が18%、「コロナが落ち着いているから」が17%、「外出することが増えたから/出かけるから」が17%、などと続いています。上のテーブルの通りです。

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そして、今年のハロウィンでやりたいこと・行きたい場所について、全員に複数回答で聴取したところ、もっとも多かったのは、昨年同様「ハロウィン限定商品を買う」で全体の10.8%となり、次いで「料理」の8.5%が続きました。昨年と比べて、この2項目は増加しています。また、3位以下の「お菓子を配る・もらう」の7.6%、「自宅の飾りつけ」の6.9%など、軒並み昨年から増加を示しているのが上のグラフから見て取れます。

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最後に、かつて我が家の子供達が楽しみにしていたハロウィンのイベントで、Happy Halloween Aoyama が青山三・四丁目商店会の主催で行われるようです。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの時は見送られていたのですが、昨年に復活して今年も開催されるようです。我が家では、特に、下の子がとても楽しみにしていて、小学生のころに数キロ歩いてお菓子を集めるのに付き合った記憶があります。もう15年ほども前のお話です。そのころは、10月最後の金曜日の夕刻に青山通り沿いのエイベックスビルの前に集まって、お店の地図をもらっていました。でも、エイベックスは南青山のビルを売り飛ばして、赤羽橋だか、麻布十番だかに引越したという噂を聞き及んでいます。

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2024年10月23日 (水)

IMF「世界経済見通し」見通し編を読む

日本時間の昨夜、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」World Economic Outlook, October 2024 の見通し編が公表されています。リポートの副題は Policy Pivot, Rising Threats となっており、インフレのリスクが後退しつつあるとはいえ、世界経済の成長は力強さにかけており、インフレ抑制から成長促進への政策転換の必要性を強調する内容となっています。分析編はすでに照会していますが、何といってもこのリポートのメインですので、リポートなどから図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、IMFのチーフエコノミストであるグランシャ教授によるIMG Blogのサイトから成長率見通しの総括表を引用すると上の通りです。文字通り安定した成長率見通しながら、力強さに欠け、やや物足りない、というのも事実だろうという気がします。

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次に、リポートから Figure 1.13. Inflation Outlook を引用すると上の通りです。全体として、2025年までにインフレは物価目標に戻ると期待される "Overall, returning inflation to target is expected to take until 2025 in most cases." と結論しています。早い話が、インフレは2025年までにおおむね収束しつつある、ということです。すでに分析編で取り上げたように、フィリップス曲線がかなりスティープになっていて、急速な物価上昇が起こりがちな反面、それほどの産出ロスなしにインフレを収束させることができそうである、という見通しです。

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いくつかの政策提案もなされているのですが、かなり慎重な姿勢が伺われます。すなわち、金融政策については、インフレ収束が蓋然性高くなったわけですので、ソフトランディングを確実にすることを求めています。"Ensuring a Smooth Landing" というわけです。次に、財政政策については、債務問題を回避しつつ財政の余力を再構築すること "Rebuilding Fiscal Buffers while Avoiding Debt Distress" を求めています。財政再建の一本槍とは違う印象を持ちました。上のグラフはリポートから Figure 1.18. Required Fiscal Consolidation を引用しています。ただ、インフレがまだ高い国では財政再建を強力に進めることが総需要を抑制し、インフレ圧力を低下させるのに有効だとしても、市場の混乱を防止する "prevent disruptive market reactions" という観点も強調されています。引用した Figure 1.18. Required Fiscal Consolidation においても、ドーマー方程式を意識して、金利と成長率の差にも着目していますし、従来のワシントン・コンセンサス的ではない視点といえます。

下振れリスクとして、保護主義の台頭 "Countries ratchet up protectionist policies" が上げられており、米国大統領選挙の年らしいと感じました。トランプ前大統領が当選すれば、保護主義リスクが顕在化する可能性が高まると考えるべきです。また、"China's property sector contracts more deeply than expected" と表現した中国の不動産バブル崩壊リスク、あるいは、商品価格の高騰、すなわち、"Renewed spikes in commodity prices arise as a result of climate shocks, regional conflicts, or broader geopolitical tensions" なども先行きの下振れリスクとして上げられています。他方で、先進国における投資の回復 "Stronger recovery in investment in advanced economies" や構造改革の進展 "Stronger momentum of structural reforms" が上振れリスクとして上げられています。

かなり分厚な英文のリポートですので、取りあえず、ファーストショットの印象を残しておきたいと思います。

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2024年10月22日 (火)

女性役員比率が高い企業は業績いいのか?

先週金曜日の10月18日に、大和総研から「女性役員比率の現状と今後の課題」と題するリポートが明らかにされています。日本の男女格差は世界の先進国の中で極めて大きく、というか、もはや先進国とはいえないレベルでとどまっており、企業レベルでも東京証券取引所はプライム市場上場企業に対して、以下の3点の数値目標を設定しています。
  1. 2025年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努める。
  2. 2030年までに、女性役員の比率を30%以上とすることを目指す。
  3. 当取引所は、上記の目標を達成するための行動計画の策定を推奨する。
第1-2項目では、「務める」と「目指す」で終わっていて、ほぼほぼ強制力ない内容となっています。でも、プライム上場企業にはそれなりのレピュテーション・リスクもあり、女性役員登用に向けた動きが活発化されることが予想されます。役員としては、取締役、監査役、執行役があるわけですが、リポートでは女性比率を算出しており取締役と監査役がともに19%、執行役12%となっています。ただ、取締役も監査役もともに社外役員が圧倒的で、社内役員は少なくなっています。例えば、社内取締役4%に対して社外取締役37%という結果です。ただし、東証が設定した大賞であるプライム上場企業ではなく、大和総研ではTOPIX500構成企業を対象に集計しています。いずれにせよ、興味深い内容ですので、リポートからいくつかグラフを引用して簡単に取り上げておきたいと思います。
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まず、上のグラフはリポートから 図表5 業種ごとの女性管理職比率と女性役員比率 を引用しています。ごく自然な理解として、女性役員比率が高ければ女性会離職比率も高いという正の相関関係が見られます。これは当然です。何の不思議もありません。社内で管理職にせよ、役員にせよ、女性が活躍している、ということを表しているわけでしょう。
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続いて、上のグラフはリポートから 図表8 女性役員比率のレンジごとの各種指標 を引用しています。見れば明らかですが、ROE(自己資本利益率)、PBR(株価純資産倍率)、売上高営業利益率、配当利回りのいずれの指標で見ても、女性役員比率が高いほど株式指標や業績指標が好成績を収めています。完全な解釈はこのリポートだけからはムリがあるとは思いますが、リポートでは「女性役員比率の向上に伴い、多様な価値観や視点に基づく経営が行われたり、より女性が働きやすい環境が実現されたりすることで、企業価値が向上」する可能性を指摘しています。この結論に正面切って反対するエコノミストはとても少数派だろうと私は想像しています。何度も繰り返していますが、日本経済再浮上のカギのひとつは、女性が活躍しやすい企業環境を作ることである、と私は考えています。

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2024年10月21日 (月)

東京商工リサーチ「金融政策に関するアンケート」調査の結果やいかに?

やや旧聞に属するトピックかもしれませんが、先週水曜日10月16日付けで東京商工リサーチから「金融政策に関するアンケート」調査の結果が明らかにされています。日銀が利上げを開始した折ですので、企業活動にどのような影響が出ているのか、出始めているのか、気になっているところです。東京商工リサーチのサイトにはいくつかのテーブルが明らかにされているのですが、まず、「Q1.資金調達の借入金利は今後どのように変化すると思いますか?」という問いに対して、昨年10月と比較して、「すでに上昇している」が中小企業で46.48%、大企業で45.39%となっています。規模別に大きな差はないとはいえ、やっぱり、規模が小さい企業ほど金利上昇がすでに発生している、という結果が示されています。続いて、「Q2.今後(概ね向こう半年)の資金調達の借入金利について、メインバンクより今年に入ってから、どのような説明がありましたか?」という問いに対してハ、ハッキリと規模別で差が出ていて、「金利引き上げをはっきり伝えられた」が中小企業では35.51%に上っているのに対して、大企業では26.94%にしか過ぎません。まあ、伝達の有無ですので大企業には伝えにくいだけかもしれませんが、それにしても、大企業に比較して、中小企業には情け容赦なく金利引上げを明確に伝えているわけです。
そして、「Q3.メインバンクから今後の資金調達の借入金利について、既存の利率より0.1%、0.3%、0.5%の上昇を打診されたと仮定した場合、貴社はどのように対応しますか?」という問いに対しての回答のテーブルを引用すると以下の通りです。

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見れば明らかな通り、+0.1%ポイントであれば、受け入れるという割合は中小企業と大企業でそれほど大きな違いはなく、ともに82%ほどですが、+0.3%ポイントや+0.5%ポイントと引上げ幅が大きくなるにつれて、他行への打診はともかく、断念という回答が中小企業で増加しています。日銀のデータによれば、主要行の短期プライムレートは2009年以来長らく1.475%で据え置かれていましたが、日銀の利上げに伴って9月2日から1.625%に+0.15%ポイント上昇しています。すでに、このアンケート調査の問いにあった最小値の例である+0.1%ポイントを上回っているわけです。さて、今後、企業サイド、特に中小企業の対応がどうなるのか、東京商工リサーチのプレスリリースによれば、9月の倒産件数は前年同月比で+12.08%増の807件となっています。大いに気にかかるところです。

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2024年10月20日 (日)

やっぱり東大生の公務員離れは進んでいるのか?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、10月12日付けのAERAdot.にて「『東大から霞が関のエリートコース』は過去に 東大生の官僚離れ進む」と題する記事が掲載されています。まず、この記事に示されている 国家公務員試験(総合職・春試験) 合格者の出身大学ランキング を引用すると以下の通りです。

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どうしてこの記事に注目したかというと、私の勤務校が東大と京大に続いて3位にランキングされるようになり、大学当局か、卒業生の校友会か、忘れたのですが、大いにプレーアップして取り上げていたからです。実は、私は60歳の定年までキャリアの国家公務員として霞が関近辺に勤務しただけではなく、もう四半世紀も前のことになりますが、人事院に併任されて当時のキャリア公務員試験の試験委員をして問題作成などに携わった経験もあります。ですから、まあ、平均的な日本国民よりもキャリア公務員との関係が深い方だと自負しています。
ただ、本件については、(1) 校友会ビュー、すなわち、私の勤務校の学生諸君ががんばって東大生や京大生を、言葉は悪いんですが、蹴落として3倍増を果たしてランクアップしたのか、それとも、(2)AERAビュー、すなわち、 東大生や京大生が国家公務員のジョブに魅力を感じなくなって志願者が減った結果、私の勤務校の学生がランクアップしたのか、どちらが正しいのかというと、やや不明な部分があります。私自身はこういった因果関係については不熱心で、一方が他方に対して、文字通り、一方的な原因で他方が原因、というケースは、なくはないものの、両方が相互に原因となり結果となっている場合が少なくない、と考えています。ですので、それほど因果関係の探索にコストをかける方のエコノミストではないと、自分自身をみなしています。ただ、どちらかといえば、校友会ビューよりも、東大生が公務員に魅力を感じなくなった、とするAERAビューの方に、ホンの少し分があるような気がしないでもありません。

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2024年10月19日 (土)

今週の読書は経済学の学術書から海外ミステリまで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
今年の新刊書読書は1~9月に238冊を読んでレビューし、10月に入って先週までに13冊をレビューし、本日の6冊をカウントして257冊となります。目標にしているわけでも何でもありませんが、年内にあと10週を残していますので、年間300冊に達するペースかもしれません。Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでもシェアする予定です。

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まず、長岡貞男[編]『日本産業のイノベーション能力』(東京大学出版会)を読みました。編者は、経済産業研究所の研究者であり、一橋大学の名誉教授です。本書は3部構成であり、第Ⅰ部がイノベーションのパフォーマンスと政策展開、第Ⅱ部がイノベーション能力の検証、第Ⅲがイノベーション政策の検証、となっています。経済産業研究所で蓄積したオリジナルデータを活用しつつ、日本産業のイノベーション能力を定量的に検証しようと試みています。というのも、冒頭の第1章で概観されている通り、2000年以降20年間のの研究開発支出が日本は圧倒的に伸びていないからです。米国が年率+2.9%と高い伸びを示して20年間で1.8倍となっている一方で、日本は+1.7%にとどまっており、20年間で1.4倍にしかすぎません。東アジアの近隣国の韓国は+7.9%で20年間で4.9倍、中国に至っては+14.5%で20年間で18倍の伸びを示しています。ここまで金額的に差をつけられると、いわゆる「選択と集中」を進めたとしても、おそらく、これだけ量的な差があれば、どうしようもありません。本書では、産学連携、大学院での特に博士号に向けた教育、新規スタートアップ企業の育成、発明の支援、公的試験研究機関の活動、特許申請などなど、さまざまな観点からの分析を試みていますが、最終的に、日本産業のイノベーションが向上しているのか、あるいは、停滞しているのかといった結論については、私に限らず、悲観的な見方をする人は少なくないものと想像しています。技術的なイノベーションについてはともかく、私から2点だけ本書に付け加えておきたいと思います。まず、第1に、基本に立ち返って、エコノミストからすればイノベーションについては、シュンペーターが5つの類型を示しています。すなわち、(1) 新しい製品/サービスの創出、(2) 新しい生産方法の導入、(3) 新しい市場への参入、(4) 新しい資源の獲得、(5) 新しい組織の実現、ということになります。本書では技術的なブレークスルーという見方から、(1)と(2)にほぼほぼ限定しているようです。ただ、(3)以降の観点も決して忘れるべきではないと私は考えています。もちろん、(1)と(2)のイノベーションが難しい以上、それ以外のイノベーションもそう簡単でないのはいうまでもありません。第2に、もうひとつは、どこまで日本の独自リソースによるイノベーションを追求するか、です。すなわち、1950年代とか、60年代の高度成長期には、日本独自リソースによるイノベーションを基礎にして成長したわけではありません。ほぼほぼ海外、多くは米国からの技術導入に基づいたイノベーションであったと考えられます。ですから、将来的に、もしも日本が先進国でなくなるとすれば、再びキャッチアップ型の成長を目指すのも一案です。例えば、もう20年ほども前の共著論文ながら、私の書いた論文の中で一番売れたので、「日本の実質経済成長率は、なぜ1970年代に屈折したのか」というのがあります。米国との格差を説明変数に入れて、キャッチアップ型の成長はまだ終わっていない、と結論しています。イノベーションについても基本的に似たような考えが適用できる可能性があると私は考えています。そうでなくても、日本はいわゆるプロダクト・イノベーションよりもプロセス・イノベーションに強いといわれることも多く、自前で独自リソースに基づいたイノベーションも、もちろん、重要ですが、他の先進国から技術導入した上で精緻化を図る、というイノベーションも十分アリだと思います。ただ、そうすると、例の「2番じゃダメなんですか?」になってしまいそうな気もします。それは避けたいところであり、私の「好み」にもあいません。悩ましいところです。

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次に、ブラッドフォード・デロング『20世紀経済史』上下(日経BP)を読みました。著者は、カリフォルニア大学の旗艦校であるバークレイ校(UCB)の研究者です。ただし、邦訳タイトルから受ける印象とは異なり、経済史の専門ではないと私は考えています。英語の原題は Slouching towards Utopia であり、2022年の出版です。繰り返しになりますが、著者の専門分野は決して経済史ではありませんので、本書は歴史的に長い20世紀を経済学の観点から後付けているとはいえ、経済史の学術書ではありません。ですので、データの情報などはほとんどなく、グラフやテーブルも本書には含まれておらず、20世紀の経済史を著者の印象で、もちろん、必要な引用はしつつも、あくまで著者の印象でもって、必ずしも十分なデータの裏付けなしに語っている印象すらあります。逆にそれだけむしろ、一般読者には判りやすい可能性も否定できません。他方で、経済史の碩学であるロバート・アレンの著書などがしばしば引用されているのは事実です。まず、長い20世紀ということで、1870年から2010年くらいまでの期間が本書の体操です。1870年とは欧米の今でいうところの先進国がマルサス的な罠を逃れて、本格的に資本主義の成長軌道に乗ったあたりということになります。この長い20世紀のスタート時点が、日本の明治維新とほぼ時期を同じくしている点は、私の方で追加的に指摘しておきたいと思います。そして、長い20世紀の終わりはほぼリーマン証券破綻に起因する金融危機、あるいは、その後の長期停滞の始まりの時点と考えるべきです。まず、この長い20世紀の経済史を語る上で欠かせない市場に関する見方について、ハイエクとポラニーのやや極端な対比が示されます。前者は、市場は人間には理解できない市場自身の原理で動くことから市場にすべてを委ねるのが最善だと考える一方で、ポラニーは市場では財産権だけが認められ財産を持たざるものは何の権利もないが、財産なくても声を上げる社会的な権利はあり、同時に、社会は財産を持たざる者が必要とするものや望むものに配慮すべきである、という視点です。この基本的な視点をベースにして、以下の5点のテーマが本書では語られることになります。すなわち、(1) 歴史の主役は経済になった、(2) グローバル化が進行した、(3) 豊富な技術が原動力となった、(4) 政府は市場の管理に失敗し、不安定と不満足を招いた、(5) 独裁政治が増殖した、の5テーマです。上下巻合わせて700ページをはるかに超える大著ですので、すべてを大雑把に取り上げることはせず、基本は読んでいただくしかありません。第6章の1920年代の狂騒の時代とか、その後の第7章の大恐慌とか、もちろん、2度に渡る世界大戦とか、その後の第11章の冷戦とか、とても興味をそそられる時代もあるのですが、私の方で第2次世界大戦後における経済社会の格差と成長に関する部分だけ簡単にコメントしておきたいと思います。すなわち、総力戦となった第2次世界大戦の戦費調達のために大きな増税が実施され、米国では「大圧縮時代」が到来し、戦後もケインズ政策が実施されて貧困層の所得底上げから格差の拡大はそれほど問題にはなりませんでした。この点を捉えてクズネッツの逆U字カーブ仮説などが現れるわけです。本書では第14章で社会民主主義の栄光の30年として後付けています。このあたりは、Fourastié Les Trente Glorieuses から取っているのではないか、という気がします。しかし、先進国で完全雇用に近づいた1970年代の2度に渡る石油危機に起因するインフレによりケインズ政策の有効性が失われて、本書では新自由主義の時代に入ったと指摘します。英国のサッチャー政権や米国のレーガン政権の経済政策といえます。日本では中曽根内閣でしょう。ここから格差拡大が始まります。ただ、本書では下巻pp.152-153あたりで、新自由主義について、特に途上国で未成熟な政府を経済から切り離す試み、あるいは、「政治的影響力の強い集団に所得分配を有利に捻じ曲げようとする政府の試みをおおむね無力化し、経済に実害がおよばないようにすることができる」手段として考えているようです。通常のエコノミストが有する新自由主義の実感とはかなり距離があるように、私は感じました。逆であり、ハイエク的に市場にすべてを委ねる姿勢を超えて、富裕層に有利に所得分配を変更するのが新自由主義ではないか、と私なんかは考えています。少なくとも米国レーガン政権はそういう政策変更をしたと考えるべきですし、日本でも遅まきながら小泉内閣から安倍内閣くらいまではそうであり、だからこそ申告所得が1億円を超えるとむしろ税率が低下する、なんてパラドックスが生じているのではないでしょうか。最後に、本書の英語の原タイトルにあるユートピアの定義がなかなかはっきりしなくて、だから、邦訳タイトルに取らなかったのではないか、と私は考えているのですが、第7章で少し言及があった後、第15章の下巻pp.224-225あたりで、ケインズの1930年の小論「孫の世代の経済的可能性」の引用により明確にしています。すなわち、"how to use his freedom from pressing economic cares, (how to occupy the leisure, which science and compound interest will have won for him), to live wisely and agreeably and well" 「経済的逼迫から自由になった状態をいかに使い...賢明に、快適に、裕福に暮らしていくか」ということのようです。これを最初に持って来てくれれば、もっと判りやすかったのに、のに、と思うのは私だけではないと考えます。

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次に、ぺこりーの『妻より長生きしてしまいまして。』(大和書房)を読みました。著者は、よく判らないのですが、1957年生れでサラリーマンを定年退職してからコンサルタントをしていて、ユーチューバーでそれ相応の収入があるようなことも本書には書いてあります。それから、出版社のサイトを見ると、「ようやく妻が死んでくれた」と題する動画がバズっている、という情報もあります。まず、年齢ですが、私とほぼほぼ同じです。私の方が1年だけ遅く生まれています。ですから、基本、年配の人のいうことは自慢話だと考えて差支えありません。本書もそうです。表現ぶりからして、それほど上から目線ではありませんが、自慢話であることは変わりありません。第1章が台所や料理、食事について、第2章が住まいや日々の生活など、第3章が年金や所得など、第4章が老いの美学のような生活信条など、という4章構成となっています。私は東京で役所務めを定年退職してから関西に来て大学教員として再就職しましたが、関西に移って来る際に、単身赴任するつもりはまったくありませんでした。夫婦でいっしょに移り住むか、あるいは、どうしてもカミさんが東京から引越したくないといえば離婚する可能性もゼロではありませんでした。ですから、第一線を退くくらいの定年退職のタイミングで、生き別れの離婚でも、死に別れでも、独り身に戻ることが、それなりに悪くはない可能性を認める、というのは、たとえ不謹慎の誹りを受けようとも理解できるつもりです。ただ、私はこの著者と違って、たとえ飢え死にしようともまったく料理はしません。50歳前後に長崎大学経済学部に単身赴任した経験がありますが、まったく料理はしませんでした。パンを買って牛乳で流し込む朝食以外はすべて外食でした。牛乳とビールのために冷蔵庫こそありましたが、皿とかコップすら持ちつげず、料理どころか、朝食以外は自宅では食事すらしませんでした。昼食は生協の学食が多かったです。ただ、私が本格的に年金生活に入ったら、たぶん、もう数年、70歳になったら特任教授も任期を終えて、読書とスポーツを熱心にやりそうな気がします。これは本書ではほとんど取り上げていません。私から見てとても不思議です。私自身は65歳で大学の定年を終えてから特任教授となって、いくぶんなりとも授業負担が軽減され、年金生活に入る前の現時点でも、読書は熱心に取り組んでいますし、スポーツも自転車と水泳は仲間がいなくても出来るので、可能な範囲で時間を割いています。というのは、私は本書の著者のように人様に向けて情報を発信するような能力はほとんどありませんから、後は、子どもや周囲に迷惑をかけないように、心身の健康を出来る範囲で維持することを重視しています。加えて、出来ることであれば、本書の著者のようにカミさんよりも長生きしたいと考えています。表紙画像の帯にあるように、自由が手に入れられそうに感じているからです。ただ、カミさんも同じことを考えている可能性がある点は十分認識しています。

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次に、中野雅至『没落官僚』(中公新書ラクレ)を読みました。著者は、神戸学院大学の研究者ですが、大和郡山市の市役所勤務の後、旧労働省でキャリア公務員として勤務経験もあるようです。本書は7章構成であり、行政改革の悪しき結果、警察国家化しつつある現状、先細る天下り、人事権限を利用した影響力の拡大、政治家の下請けで裁量権小さくなった官僚、若手や女性の活躍できない現状、最後に、政治家の能力、をそれぞれ取り上げています。ということで、官僚、特にキャリア官僚が没落して、公務員制度が大きな危機に瀕する可能性を示唆しています。ただ、表紙画像に見える「国家公務員試験志願者がゼロになる」というのは一部を切り取った表現であって、本書の中では東大卒はコンサルに流れてキャリア官僚志望者がいなくなり、MARCHや関関同立などの卒業生がキャリア官僚になる、といった趣旨であるらしく、そのことを官尊民卑に対比する形で「逆転」と呼んでいます。さらに時間が経過して現在の流れが続けば、MARCHや関関同立の卒業生の国家公務員志望者も大きく減少しかねない、という予想です。私は60歳の定年までキャリア公務員でしたし、エコノミストの目から見て、キャリア公務員はコスト/ベネフィットが悪い、というか、現在の用語法でいえばコスパが悪い、ということになるんだろうと思います。おそらく、コストの方、すなわち、過酷なブラック労働については過去から少しばかり改善されているとはいえ、世間一般と比較して、それほど大きく変化ないのに対して、キャリア公務員の人生に魅力がなくなったんだろうと思います。本書で指摘しているように、政治主導が大きく進んで総理や官房長官の意を汲んだ官邸官僚の権力が大きくなり過ぎたというのも一因ですが、やっぱり、私は天下りが一部の公務員に限定されてしまったのが主因だと思います。というのも、本書では何も言及がありませんが、当然に公務員の仕事というのは民間企業でそのまま通用するような市場性がないわけです。キャリア公務員のお仕事ではありませんが、判りやすいので警察官を例に取ると、拳銃の腕前とか、信号を無視してパトカーなどの緊急車両を走らせるドライビング・テクニックといったものは、例えば、警備会社では必要とされません。でも、国民の安全を守り治安を維持するためには必要なスキルである可能性が十分ありますので、警察官には身につけておいて欲しいと考えられます。でも、市場性がないので拳銃の訓練を忌避する警察官がいる場合、単に公的業務に対する精神的な「ヤル気」だけではなく、然るべき時点で然るべき天下り先を斡旋する約束をしないといけない場合もあります。公務員退職後の再就職まで含めてトータルな人生を考える場合、民間企業で不要な市場性ないスキルを公務員が必要としているとすれば、そのマッチングを考える必要があります。天下りというのがよろしくないのであれば、それに代わるシステムが必要なのですが、現時点でそれがないために公務員の魅力が減じているのであろう、と私は考えています。ただ、そういった内容の本であれば出版できないであろう、という点も理解しています。

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次に、M.W. クレイヴン『グレイラットの殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、私は不勉強にして、このワシントン・ポー刑事のシリーズしか読んだことがありません。英語の原題は Dead Ground であり、2022年の出版です。本書はイアン・フレミング・スティールダガー賞を受賞しています。ということで、このシリーズは英国はイングランド最北端でのスコットランドと境を接するカンブリア州を舞台にした警察ミステリです。本書はシリーズ第4作となります。すなわち、順に、『ストーンサークルの殺人』、『ブラックサマーの殺人』、『キュレーターの殺人』に続く第4作です。すでに、第5作が邦訳されており同じ出版社から『ボタニストの殺人』として出版されています。シリーズにありがちなことですが、段々とページ数が増えていて、私が先日読んだ第3作の『キュレーターの殺人』は600ページ余りでしたが、本作品『グレイラットの殺人』は700ページを超えます。さらに、詳細不明ながら、『ボタニストの殺人』は上下巻となっていますので、さらにページ数のボリュームが増加していることと想像しています。一応、私はこの作品までシリーズは全部読んでいます。『ボタニストの殺人』もそのうちに読みたいと考えています。ということで、主人公のポー刑事は国家犯罪対策庁(NCA)重大犯罪分析課(SCAS)に所属していて、米国でいえば連邦捜査局(FBI)に当たる国家レベルの警察組織の刑事といえます。そして、シリーズでポー刑事をサポートするのは、分析官のマチルダ・ブラッドショー、上司のステファニー・フリン、そして、検死解剖を行う病理医のエステル・ドイルとなりますが、本作品では前作『キュレーターの殺人』のラストで負傷したステファニー・フリンはまだ入院中でほとんど登場しません。代わりに、というか、何というか、前作でキュレーターのヒントを与えた米国連邦捜査局(FBI)のメロディ・リー特別捜査官が英国に来て、ポーに協力します。事件の始まりは3年前にさかのぼり、銀行の貸金庫を襲った強盗団、全員が「007ジェームズ・ボンド」の映画で主人公を演じた俳優のマスクを着けて襲撃する強盗団が仲間を射殺した上で、邦訳タイトルにある灰色ネズミの陶製置物を現場に残して姿を消すところとなります。他方、ポーはカンブリア州カーライルの法廷で、地方当局から訴えられていました。すなわち、ポーの住まいは国立公園の拡張区域に含まれており、いくつかの改修が違法だということで原状回復を要求されていたわけです。そこに、謎の男たちが現れてポーといっしょにいたブラッドショーを連れ去ります。この男たちは国家保安局(MI5)の所属でした。ちなみに、どうでもいいことながら、冒頭の強盗団がマスクに利用していたジェームズ・ボンドはMI6の所属だったと記憶しています。本筋に戻って、ポーが連れ去られたのは、カンブリア州で開催される首脳会議(サミット)の開催地近くの売春宿で、会議出席者の輸送を担うヘリコプター会社の社長が惨殺された殺人事件を捜査するために、かなり荒っぽい方法で緊急に呼び出されたわけです。各国首脳が出席を予定するサミットですので、米国連邦捜査局(FBI)からメロディ・リー特別捜査官も派遣されているし、MI5の担当官も強くコミットしているわけです。そして、この殺人事件の現場から灰色ネズミの陶製置物が持ち去られていたことをポーが指摘します。まあ、いろいろあって、ネタバレは出来ませんが、米英が軍隊を派遣したアフガニスタンでの軍人の暴走や世界を股にかける密輸組織など、極めて「大きな物語」が展開されます。最後に2点だけ私から付け加えておきたいと思います。まず第1に、このシリーズはますます面白くなって行きますが、ポーのアイデンティティの探求がかなり進んだ気がします。シリーズ10作に届かない段階で完了しそうで、そうなると、このシリーズはどうなるのか、少し気がかりです、私個人的には大好きなミステリのひとつですので、ポーの自分探しが終わっても続いてほしい気がします。第2に、アフガンで米英が対峙していたのはアルカイダではなくタリバンじゃあなかったの、と専門外の私は理解していましたが、ミステリの本質とは関係ないところながら、私の理解が間違っているのでしょうか。

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2024年10月18日 (金)

5か月ぶりに上昇率が縮小した9月の消費者物価指数(CPI)をどう見るか?

本日、総務省統計局から9月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+2.8%から縮小し+2.4%を記録しています。久しぶりの上昇幅縮小です。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から30か月、すなわち、2年半の間続いています。ヘッドライン上昇率も+2.5%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+2.1%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

9月の消費者物価、2.4%上昇 5カ月ぶり伸び率縮小
総務省が18日発表した9月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が108.2となり、前年同月と比べて2.4%上昇した。5カ月ぶりに伸び率が縮小した。政府による電気・ガス代補助の再開によって、エネルギーの上昇幅が縮んだ。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.3%の上昇だった。
エネルギーは9月に6.0%プラスで8月の12.0%から伸びが縮んだ。政府は電気・ガス代の負担を軽くする補助金を23年1月使用分から実施していたが、今年5月使用分まででいったん止めていた。その後「酷暑乗り切り緊急支援」として24年8~10月使用分(9~11月検針分)の補助を再開し、その効果が9月に表れた。
生鮮食品を除く食料は3.1%上がった。前月の2.9%プラスから上昇幅が拡大した。これまで円安進行に伴う輸入コストの増加で食料価格が高騰していたが、23年秋ごろをピークに価格転嫁が一巡し低下傾向が続いていた。
食料の価格上昇はコメの伸びがけん引している。米類は猛暑による出回り量の減少や外食需要の高まり、さらには新米の価格高騰により44.7%の上昇と49年ぶりの上昇幅だった。原料のカカオ豆の価格上昇でチョコレートは9.8%、肉類は肥料のコスト上昇で輸入先での価格が上がり、4.1%の上昇だった。
総務省は食料の上昇について「原材料や輸送コスト、包装代の上昇の影響を受けたとみられる」と説明する。外食は2.7%プラスだった。
宿泊料は6.8%プラスで8月の9.5%の伸びから縮小した。8月は夏休みもあり価格がピークとなるが、9月は上昇幅が縮小した。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.3%ということでしたので、実績の+2.4%は大きなサプライズはありませんでした。品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、生鮮食品を除く食料の上昇が継続しています。すなわち、先月8月統計では前年同月比+2.9%、寄与度+0.69%であったのが、今月9月統計ではそれぞれ+3.1%、+0.73%と引き続き高い伸びと寄与度を示しています。次に、エネルギー価格については、4月統計から前年同月比で上昇に転じ、本日公表の9月統計では先月からやや上昇率は縮小したものの、+6.0%の高い上昇率となっていて、寄与度も+0.44%を示しています。特に、インフレを大きく押し上げているのは電気代であり、寄与度は+0.46%に達しています。引用した記事で指摘されている通り、政府の「酷暑乗り切り緊急支援」による押し下げ効果が始まって、先月から上昇率はこれでも縮小しています。なお、統計局のプレスリリースによれば、この緊急支援の寄与度は▲0.55%、うち電気代▲0.46、都市ガス代▲0.09、とそれぞれ試算されています。
私が注目している食料について細かい内訳をヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、コアCPI上昇率の外数ながら、生鮮食品が野菜・果物・魚介を合わせて+0.33%あり、うち、生鮮野菜が+0.23%、生鮮果物が+0.10%の寄与をそれぞれ示しています。繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料の寄与度も+0.69%あります。生鮮食品を除くコアCPIのカテゴリーの中でヘッドライン上昇率に対する寄与度を見ると、コシヒカリを除くうるち米などの穀類が+0.24%、うち、うるち米が+0.16%となっています。スーパーなどからコメが姿を消したり、大きく値上げされているのは日常生活でも目にしますし、広く報道されているところかと思います。穀類のほか、焼肉などの外食も+0.13%、豚肉などのの肉類が+0.11%、チョコレートなどの菓子類が+0.09%、おにぎりなどの調理食品が+0.08%などなどとなっています。コアCPIの外数ながら、トマトなどの生鮮野菜が+0.14%、梨などの生鮮果物も+0.10%の寄与となっています。また、食料からコア財に目を転じると、引用した記事にもあるように、猛暑の影響でルームエアコンなどの家庭用耐久財が+0.09%の寄与、うち、ルームエアコンだけでも+0.07%の寄与を示しています。サービスでは、外国パック旅行費の+0.15%を含めて教養娯楽サービスの寄与度が+0.27%、などといった寄与を示しています。

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2024年10月17日 (木)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」分析編を読む

日本時間の昨夜、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し分析編」World Economic Outlook, October 2024: Analytical Chapters が公表されています。まず、章別のタイトルは以下の通りです。

第2章によれば、新型コロナウィスル感染症(COVID-19)パンデミックによりサービス、特に対人サービスから財へと需要がシフトした一方で、各国政府の需要下支え策もあって需要はそれほど落ちず、財とサービス間で供給と需要のミスマッチが生じたと主張しています。COVID-19パンデミックもあって港湾サービスが不足した上に、パンデミックが収束した際にはサービス需要が持ち直すとともに、さらに、ロシアによるウクライナ侵攻もあって、エネルギーや穀物などの商品価格は大きく上昇しました。したがって、 "the steepening of the inflation-slack relationship - that is, the Phillips curve - are essential to understanding the global surge in inflation" このインフレはフィリップス曲線がスティープになった結果である、と主張しています。そして、このスティープなフィリップス曲線は悪い面と良い面があり、悪い面としては、インフレが急上昇 "inflation can surge" しましたが、いい面として、小さなGDPロスで緊縮策がインフレ抑制を成し遂げた "tighter policy can bring it down quickly with limited output costs" 、と指摘しています。なお、英語の引用はいずれも Chapter 2: The Great Tightening 冒頭のサマリーから取っています。また、こうした需要と供給のミスマッチの結果として、さまざまな部門間で相対価格の変化が大きくスパイクした、とも指摘しています。下のグラフはそのスパイクについて同じ Chapter 2: The Great Tightening から Figure 2.2. Movements in Sectoral Price Dispersion (Percent) を引用して示しています。

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第3章についても、Chapter 3: Understanding the Social Acceptability of Structural Reforms 冒頭のサマリーから引用しつつ要約すると、競争を活発化させ、新部門への資源配分を促進し、高齢化が進む中で労働供給を強化する措置 "measures that foster competition, facilitate resource allocation to emerging sectors, and bolster labor supply amid aging populations" を構造改革として進める必要がある、と指摘しています。その上で、情報を基礎とし包括的で信頼に基づくアプローチが政策の質を高めるだけでなく、構造改革の実現可能性と維持のため "the potential of informed, inclusive, and trust-based approaches not only to enhance the quality of policies but also to significantly increase the likelihood of implementing and sustaining structural reforms" 必要である、と結論しています。

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最後に目を国内に転じると、本日、財務省から9月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比▲1.7%減の9兆382億円に対して、輸入額は+2.1%増の9兆3325億円、差引き貿易収支は▲2943億円の赤字を記録しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲2000億円を少し超える貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の▲3000億円近い赤字は、予測レンジ下限の▲6125億円の範囲内でしたが、やや下振れした印象です。なお、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2024年9月統計まで、3年余り継続して赤字を記録しています。もっとも、季節調整済みの系列で見た貿易赤字幅はかなり縮小してきています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。9月統計の▲2000億円には達しない貿易赤字も、特に、何の問題もないものと考えるべきです。

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2024年10月16日 (水)

2か月連続で減少した8月の機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から8月の機械受注が公表されています。機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から▲1.9%減の8581億円となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

機械受注8月は前月比-1.9%、2カ月連続減 「持ち直しに足踏み」維持
内閣府が16日に発表した8月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標である船舶・電力を除いた民需の受注額(季節調整値)は前月比1.9%減だった。2カ月連続の減少。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」で据え置いた。
内閣府によると、航空機など前月に大幅に伸びた分野で減少に転じた影響もあった。基調判断は3カ月移動平均も勘案しており変更しなかった。前年比では3.4%減だった。
ロイターが事前にまとめた予測値は前月比0.1%減で、結果は予想よりも減少幅が大きかった。
内閣府によると、7-9月見通しの0.2%増の達成には9月は同4.2%増が必要となる。
農林中金総合研究所の理事研究員、南武志氏は「基調は弱く、先行きも踊り場的な状況が続くだろう」と指摘。国内の個人消費に加えて、外需も中国、米国、欧州など弱く、設備投資の先行きは期待できないとみている。
製造業は前月比2.5%減の3884億円で、3カ月連続の減少。業種別では「その他輸送用機械」、「情報通信機械」、「電気機械」などが押し下げに影響した。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比▲0.1%減でしたので、実績の▲1.9%減は下振れした印象です。しかも、7~8月の2か月連続で前月比マイナス、8月統計では製造業が▲2.5%減の3884億円、船舶・電力を除く非製造業も▲7.7%減の4469億円と弱い内容となっていますが、しかしながら、というか、何というか、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」で据え置いています。引用した記事にもある通り、次の9月統計で+4.2%増となれば、7~9月期の受注見通し+0.2%増の結果がもたらされます。かなり大きな増加幅ではないかという印象がある一方で、単月での振れの大きな指標ですので、何とも先行きは見通せません。例えば、7月統計では運輸業・郵便業に大型受注があって+35.0%増を記録した後、8月統計ではその反動により▲34.4%減となっていますし、この運輸業・郵便業の動向が部分的なりとも8月の前月比のマイナス幅を大きくした可能性は否定できません。ただ、先行きリスクは下方に厚いと私は考えており、製造業については円高のダメージが、非製造業については内需の弱さが、それぞれ現れている可能性が否定できません。加えて、年内10~12月期くらいから年明けには日銀による金利引き上げの影響がラグを伴って現れる可能性が十分あります。すでに、住宅ローン金利が引き上げられたのは広く報じられている通りです。
ただ、さらに大きな謎は、設備投資については、日銀短観などで示されている企業マインドとしての意欲は底堅い一方で、設備投資が実行されているかどうかは、GDP統計や本日公表された機械受注などには一向に現れていない点です。すなわち、投資マインドと実績の乖離が気にかかります。乖離の理由について、私は十分には理解できていません。これだけ人手不足が続いている中で、設備投資の伸びもなく、したがって、DXやGXが進まないとすれば、日本企業は大丈夫なかどうか、とても不安が残ります。

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2024年10月15日 (火)

AIのジョブはどこにあるのか?

今月2024年10月になって、全米経済調査会(NBER)から "Is Distance from Innovation a Barrier to the Adoption of Artificial Intelligence?" と題するワーキングペーパーが明らかにされています。タイトル通りに、AIを産業に適応させるイノベーションに対して距離が障壁となっている可能性を分析しています。コロナ禍後の今や、オンラインによる就業が決して例外ではなくなり、距離の障壁はかなり軽減されたものと考えられていますが、その疑問に答えようとしています。まず、NBERのサイトからABSTRACTを引用すると以下の通りです。

ABSTRACT
Using our own data on Artificial Intelligence publications merged with Burning Glass vacancy data for 2007-2019, we investigate whether online vacancies for jobs requiring AI skills grow more slowly in U.S. locations farther from pre-2007 AI innovation hotspots. We find that a commuting zone which is an additional 200km (125 miles) from the closest AI hotspot has 17% lower growth in AI jobs' share of vacancies. This is driven by distance from AI papers rather than AI patents. Distance reduces growth in AI research jobs as well as in jobs adapting AI to new industries, as evidenced by strong effects for computer and mathematical researchers, developers of software applications, and the finance and insurance industry. 20% of the effect is explained by the presence of state borders between some commuting zones and their closest hotspot. This could reflect state borders impeding migration and thus flows of tacit knowledge. Distance does not capture difficulty of in-person or remote collaboration nor knowledge and personnel flows within multi-establishment firms hiring in computer occupations.

最初のセンテンスにある "Burning Glass" というのは、こういったAIジョブも含めた求人を取り扱っている就職情報会社なのではないかと思いますが、AIスキルを必要とするオンライン求人の伸びは、AI特許ではなくAI論文で決まるAIホットスポットからの距離によって決まり、もっとも近いAIホットスポットから200km(125マイル)離れた通勤圏では、AI求人のシェアの伸びが17%低い "a commuting zone which is an additional 200km (125 miles) from the closest AI hotspot has 17% lower growth in AI jobs' share of vacancies" との分析結果を示しています。pdfでアップロードされているワーキングペーパーから図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは、ワーキングペーパーから Figure 2: AI share of job ads (%) を引用しています。AIジョブとITジョブで左右のスケールがまだまだ水準として大きく違っていますが、ITジョブが頭打ちになってきている一方で、AIジョブがかなり伸びていることが読み取れます。この先もこういった傾向が続くであろう点はほとんど疑う余地がありません。

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続いて、上のグラフは、ワーキングペーパーから Figure 10: Effect of distance with flexible specification を引用しています。では、今後も伸びる可能性が大いにあるAIジョブがどういった要因により決まるかについて考えています。赤い折れ線グラフは論文、青が特許ですが、どちらも横軸の距離とともに減少していることが明らかです。ただ、特許よりも論文数の方がより距離に敏感に対応して減少していることが読み取れます。もちろん、ワーキングペーパーではこういったグラフの形状を読み取るのではなく、より厳密な計量経済学的な検証がなされています。

AIスキルが必要なジョブについては、論文と特許のいずれにせよ、距離とともにAIジョブが減少し、特許ではなく論文ホットスポットからの距離にしたがって減少する、というのはそれなりの意味あるファクトファインディングだと私は受け止めています。ただ、このワーキングペーパーのデータが2019年までで検証している点は気がかりです。すなわち、2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックからのオンライン就業の広がりを考慮すれば、距離の効果はかなり薄れている可能性があるからです。今後の研究が待たれます。

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2024年10月14日 (月)

ノーベル経済学賞は制度学派のアセモグル教授らに授与

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日本時間の本日夕刻、ノーベル経済学賞が以下の3氏に授与されることが明らかにされています。

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nameaffiliationmotivation
Daron Acemoglu
Born: 3 September 1967, Istanbul, Turkey
Massachusetts Institute of Technology (MIT), Cambridge, MA, USAfor studies of how institutions are formed and affect prosperity
Simon Johnson
Born: 1963, Sheffield, United Kingdom
Massachusetts Institute of Technology (MIT), Cambridge, MA, USA
James A. Robinson
Born: 1960
University of Chicago, Chicago, IL, USA

ノーベル財団のプレスリリース資料からサマリーとなっている最初のパラを引用すると以下の通りです。

They have helped us understand differences in prosperity between nations
This year's laureates in the economic sciences - Daron Acemoglu, Simon Johnson and James Robinson - have demonstrated the importance of societal institutions for a country's prosperity. Societies with a poor rule of law and institutions that exploit the population do not generate growth or change for the better. The laureates' research helps us understand why.

まあ、妥当なラインだと私は受け止めています。彼らの研究成果は、以下の書籍に取りまとめられています。エコノミストによっては三部作と呼ぶ人もいます。典型的に制度学派エコノミストの理論を歴史的に展開しています。

  • アセモグル & ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか』(早川書房)
  • アセモグル & ロビンソン『自由の命運』(早川書房)
  • アセモグル & ジョンソン『技術革新と不平等の1000年史』(早川書房)

受賞理由とかは公式には、繰り返しになりますが、ノーベル財団のプレスリリースがありますし、ほかにも山ほど解説したいエコノミストがいるでしょうから、私の方ではパスします。ただ1点だけ雑談をご紹介しておきたいと思います。すなわち、ノーベル経済学賞にアセモグル教授らが有力という情報に関して、今年は米国大統領選挙の年だから、党派的にトランプ候補を "The Trump Threat to Democracy Has Only Grown" と題する記事で徹底的に批判したアセモグル教授の受賞は先送りされるんではないか、という意見もあったやに聞き及びます。ただ、強力な反論も2点あって、第1に、アセモグル教授の記事は8月30日付けですから、ノーベル経済学賞はもっと早くに決まっていたはず、というのと、第2に、実績として2008年はクルーグマン教授が受賞し、まさにクルーグマン教授が支持するオバマ候補が当選した、という歴史的事実もある、という反論でした。まあ、真っ当には、ノーベル賞はそういった政治動向には左右されずリベラルな立場を貫く、というのもあります。

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2024年10月13日 (日)

大差でクライマックス・シリーズ第2戦を落として今年は終了

  RHE
横  浜040000600 10150
阪  神100000101 380

大差がついてクライマックス・シリーズ第1ステージで敗退でした。
シーズン終盤でやや失速して2位に終わった阪神に対して、阪神よりもさらに失速した広島を抜いて3位に入った横浜との勢いの差がそのまま出たような気がします。すなわち、現時点での実力ということなのでしょう。10-3のスコアではお話になりません。
岡田監督は今季で退任し、来季は新監督を迎えると報じられています。期待しつつ、今年の応援終わりとします。

来年はリーグ優勝と日本一奪回目指して、
がんばれタイガース!

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2024年10月12日 (土)

クライマックス・シリーズ初戦はさっぱり打てずに横浜に敗戦

  RHE
横  浜001000200 3100
阪  神000000001 171

打線がサッパリ打てずに、クライマックス・シリーズ初戦は完敗でした。
3回に先発才木投手が先制を許した後、阪神打線は4回からラッキーセブンの7回まで三者凡退が続きます。セ・リーグ最多勝の横浜のエース東投手がアクシデントで4回で降板した後も、サッパリ打てないわけです。投手は9回あれば3点くらいは失点しますから、打線が奮起しないとどうにもなりません。

明日こそ、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済書や専門書からミステリまで計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
今年の新刊書読書は1~9月に238冊を読んでレビューし、10月に入って先週6冊の後、本日の7冊をカウントして251冊となります。目標にしているわけでも何でもありませんが、新刊書レビューだけで年間300冊に達するペースかもしれません。Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。なお、瀬尾まいこ『あと少し、もう少し』(新潮文庫)も読んでいて、すでにFacebookなどでシェアしていますが、もうずいぶんと前の出版ですので新刊書とは見なしがたく、本日のレビューに入れていません。それから、図書館で借りたものも、生協の書店で買ったものも合わせて、新書が手元に大量に積まれていますので、今後、精を出して読みたいと思います。

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まず、長谷川将規『続・経済安全保障』(日本経済評論社)を読みました。著者は、湘南工科大学の研究者です。タイトルから容易に想像されるように、「続」のつかない本も同じ著者が上梓しているのですが、10年以上も前の2013年の出版ということで、今回はパスして新刊の本書だけを読みました。出版社のサイトに詳細な目次が示されています。まず、経済安全保障という言葉の定義を明らかにしていますが、ちょっとばっかし私の理解とは異なっています。すなわち、冒頭で「安全保障への経済の利用」もしくは「安全保障のための経済的手段(経済手段)」としてますが、私の実感として通常理解されている経済安全保障とは、本書pp.6-7で議論されているように、「(重大な脅威から)経済を守る」というものに近い気がします。守られる対象は、企業の生産や流通などだけではなく、広く国民生活の安定にも及びます。例えば、企業における生産の安定的な継続、また、エネルギーや食料供給の安定とかが眼目となります。ただ、中身としてな大きく異なるわけではないように私は受け止めました。ただ、本書ではこの定義に従って9タイプの経済安全保障における経済手段を提示しています。すなわち、(1) シグナリング: メッセージを伝える、(2) 強化: 国のパワーを支える経済手段、(3) 封じ込め: 対立国のパワーの拡大を防止する、(4) 強制: 経済的損害を利用して敵対国を誘導する、(5) 買収: 経済的利益と引換えに敵対国を誘導する、(6) 相殺: 敵対国からの悪影響を緩和する、(7) 抽出: 敵対国の富や資源を調達する、(8) モニタリング: 敵対国の情報を得る、(9) 誘導: 敵対国の国益認識を変容させる、ということになっています。はい。私は専門外なので、このあたりは本書から適当に丸めて引用しています。ということで、私はいわゆるステイトクラフトの一部をなすエコノミック・ステイトクラフトを想定したのですが、本書p.25からの議論では似ているが違う、ということにようです。これも十分に理解したとまで自信を持っているわけではありません。第1章でこういった基礎的な概念や定義を明らかにした後、第2章では中国に関する議論を展開しています。すなわち、日本にとって中国とは脅威国でありながら密接な経済的交流のあるCEETS=Close Economic Exchange with a Threatening Stateであるので、大きなジレンマが生じる、という主張です。私が接している情報から極めて大雑把に分類すると、いわゆるネトウヨは経済的な交流を軽視して中国が脅威国である点を強調しますし、逆に、大企業やその連合体である経団連などは経済交流の重視に傾きます。まあ、当然です。それに対して、9カテゴリーの経済安全保障の手段をどのように組み合わせて効果的に対処するか、といった論点が提示されています。専門外の私の方で十分に理解して解説できるとも思えませんし、詳細は読んでいただくしかありません。第3章ではデカップリングについて論じていますが、私はすでに昨年2023年11月にレビューした馬場啓一・浦田秀次郎・木村福成[編著]『変質するグローバル化と世界経済秩序の行方』(文眞堂)で明らかな通り、ウクライナ侵攻したロシアに対する経済制裁といったような攻撃的なデカップリングについては別にしても、自社の生産や企業活動を安定的に継続できるように取り計らう防衛的なデカップリングについては、輸入依存度の高さだけを問題とするのではなく、供給の途絶リスクの蓋然性に加えて、どの程度の期間で代替が可能となるか、などを分析することが必要であり、こういった対応は、「民間企業による効率性とリスク対応のバランスに関する意思決定の中で、かなりの程度は解決済みである。」という主張に強く同意します。本書の主張する「ガーゼのカーテン」というのは十分理解できた自信はありませんが、理解できたとしても同意することはないものと思います。第5章のデジタル人民元に対応する金融面の経済安全保障については、かなり先のお話として可能性があるとはいえ、米国のドル基軸通貨体制、また、これを基盤とするSWIFTなどのシステムについては、目先の近い将来ではゆるぎないものと私自身は楽観しています。本書でも中国の貿易決済は輸出入とも米ドルの占める比率が90%超である、と指摘していところです。たぶん、日本は輸出で50%、輸入でも70%くらいだろうと私は考えていますから、中国は日本以上にドルに依存しているわけです。最後に、本書は学術書に近いので広く一般読者に対してオススメできるわけではありませんが、海外との貿易などに従事しているビジネスパーソンであれば、十分読みこなせるでしょうし、それなりにオススメできます。

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次に、ミレヤ・ソリース『ネットワークパワー日本の台頭』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、米国ブルッキングス研究所の研究者であり、東アジア政策研究センター所長を務めています。本書の英語の原題は Japan's Quiet Leadership であり、2023年の出版です。ということで、大胆不敵にも日本をそれなりに評価し、英語の原タイトルは、いかにも日本が世界で知らないうちにリーダーシップを取っている実態を表しているようでもあり、ネトウヨなどによるやや的外れな「日本スゴイ論」を別にすれば、めずらしく日本を持ち上げている本です。5部構成となっており、グローバル化、経済、政治、地経学、地政学の5つの観点から日本を論じています。まず、グローバル化では、さすがに、日本の立遅れを指摘しています。ただ、日本が遅れているのは本書の視点からは主として移民の受入れですので、私はこの点は立ち遅れていても何ら不都合ない、というか、十分にOKだと受け止めています。移民受入れで測ったグローバル化で、日本が世界に先頭に立つ必要はまったくありません。第2部の経済は私の専門分野ですので、意図的に後でレビューすることにして、第3部の政治について、著者が日本を評価しているのは、ポピュリズムに流されないレジリエンスがある、という点です。ここは、私はビミョーだと受け止めています。すなわち、確かに日本では大陸欧州のいくつかの国のように、明確なポピュリスト政党が議会で議席を伸ばしたり、あるいは政権についたりすることにはなっていません。ただ、他方で、米国でもご同様にポピュリスト政党の伸長は見られないのですが、共和党という伝統的でGOPとも呼ばれる政党がトランプ前大統領というポピュリストに、いわば「乗っ取られた」形になっているのも事実です。安倍内閣が前の米国トランプ政権同じようにポピュリスト政権であったとは考えませんが、いくぶんなりともそういった色彩がある気がします。そして、それ以上に、私は議会にポピュリスト的な議員が議席を得ることは、それほど悪いことではないと考えています。少なくとも、ごく短期で民主党政権による政権交代があったとはいえ、自公連立政権がここまで長々と安定した政権維持をしているのが、その裏側でポピュリスト政党の進出を抑えている、とまで評価するのは過大な評価だと思います。第3部の政治から第2部の経済に戻って、本書ではアベノミクスを真っ当に評価していると私は受け止めています。今週国会が解散されてから、というか、その前からアベノミクスについてはさまざまな評価がなされています。いくつかのアイテムについて、何で見たのかは忘れましたが、いわゆるアベガーのように全否定で評価する向きもあります。例えば、アベノミクスの5つのアイテムのうちの4つ、すなわち、物価についてはリフレ政策、金融については緩和政策、為替については円安志向、消費税増税については慎重姿勢、といった経済政策運営については、本書と同じで、私は正しかったと考えています。5つのアイテムのうち残る1つの間違いはトリクルダウンです。ただ、成功の中でも、ひとつだけ留保するのは金融緩和であって、生産をはじめとする企業活動にはプラスであったことは確かなのですが、地価やひいては住宅価格の大きな上昇をまねいて、マイホームを念願する国民生活を圧迫しかねない点は考慮すべきであった可能性は残ります。大いにそう考えます。繰り返しになりますが、アベノミクスで大きな誤りであったのは、トリクルダウンの考えに基づいて、株価をはじめとする企業への過剰な対応をしてしまったことです。これまた繰り返しになりますが、トリクルダウンについてはまったく破綻しています。企業優遇以上に大きなアベノミクスの弱点であったのは分配の軽視です。ですから、経済的な格差が大きく拡大してしまいました。米国なんかでは富裕層がさらに所得を増加させることによる格差拡大でしたから、平均所得は上向きましたが、日本では非正規雇用の拡大などによる低所得層の所得が伸び悩むという形での格差拡大でしたので、平均所得は伸び悩んだり、減少すらしたりしました。菅内閣の後を継いだ岸田内閣では分配重視を打ち出したのですが、金融所得倍増なんぞに大きくスライスしてしまって、OBゾーンに落ちただけに終わりました。総合的に考えて、アベノミクスを評価する点で、本書は正しくも世界標準の経済学を理解していると私は受け止めています。最後の4部と5部はごく簡単に、第4部の地経学による分析では、特にアジア地域におけるインフラ重視の経済援助やTPP11やRCEPといっ地域貿易協定から日本のエコノミック・ステートクラフトを評価し、第5部の地政学的観点からは、国連決議に基づく平和維持活動への参加、日米豪印戦略対話(クアッド)や自由で開かれたインド太平洋(FOIP)などでの我が国のイニシアティブを評価しています。大学の図書館で借りて読んだのですが、研究と教育のために手元に置いておきたいので生協で買い求めました。

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次に、エミール・シンプソン『21世紀の戦争と政治』(みすず書房)を読みました。著者は、英国出身で現在は米国ハーバード大学の研究者ですが、本書が出版された2012年の時点では、英国の防衛奨学基金を得て英国陸軍に従軍してアフガニスタンで作戦行動中だったのではないか、と想像しています。ただ、軍事活動ですので、そこまで明記はしていません。本書の英語の原題は War from the Ground Up であり、繰り返しになりますが、2012年の出版です。ということで、戦争について深く考察したクラウゼヴィッツ『戦争論』を基にしつつ、いくつかの点で現代的な修正、というか、追加を加えています。なお、本書に序を寄せている軍事史の大家マイケル・ハワード卿は「クラウゼヴィッツ『戦争論』の終結部と呼ぶに相応しい」と激賞しています。なお、軍事行動としては、著者本人の実体験はアフガニスタンの英米軍の作戦行動から取っているようです。私は軍事作戦や軍事行動についてはまったくのシロートながら、一応、政治や戦略との観点から、クラウゼヴィッツ『戦争論』、リデル-ハート『戦略論』、マハン『海上権力史論』などの有名な戦略論はいくつか読んでいます。ですので、戦争とは別の手段を持ってする政治や外交の延長で考えるべき、というクラウゼヴィッツの『戦争論』に対しても限定的ながら一定の理解はもっています。そして、ナポレオン戦争を題材とするクラウゼヴィッツの『戦争論』に対して、本書が何を現代視点から修正・追加しているかというと、2点理解しました。第1に、戦争をナラティヴによる構成物と捉え、母国ないし作戦遂行地域の国民・住民からの支持を取り付けるか、あるいは、管制化に置くか、といった、軍人だけではない多くに人々を巻き込む総力戦について考えている点です。専制国家であれば、そういった観点は大きな要素とはならない可能性がありますが、民主主義体制の下における軍事行動・作戦行動は、本書では「コンテスト」という用語を用いて幅広いサポートが必要である点を強調しています。第2に、第2次世界大戦くらいまでの、古典的というか、近代的な戦争は相対立する国家間で宣戦布告をもって開始され、どちらか一方が降伏する形で集結します。しかし、現代の対テロ武力行使などはこういった類型には当てはまらず、非対称な形を取ります。宣戦布告はありませんし、2国、あるいは2極に集結した形の武力衝突ではなく、3者の間で戦闘が繰り広げられる場合もあります。まったく専門外の私でも、その萌芽的な3国による戦闘については、すでに第2次世界大戦からあったことは聞き及んでいます。それはフィンランドの立場です。領土拡張的な姿勢を示すソ連から攻められ、「敵の敵は味方」という論法にしたがって、ドイツからの支援を受けていましたが、決してファシズムやナチズムを支持しての観点からの戦争ではありません。現在では、特に本書ではアフガニスタンの民兵組織の例を引いて、敵と味方という2極に分類することができず、フランチャイズ的に戦闘に参加するグループがある点を明らかにしています。加えて、その昔の中国の旧満州にあった地方軍閥の中には、その地域に侵攻する勢力に対しては日本軍であれ、国民党軍であれ、共産党軍であれ、ともかく、すべての侵略者に対して敵対した地方軍閥もあった、と考えられます。まあ、私なんぞよりももっと専門知識のある人が読めば、さらに多くのポイントが含まれていえる可能性は否定しません。でも、私はクラウゼヴィッツの逆を考えて、本書の戦略論は戦争だけではなく、政治、特に国内政治にも十分当てはなるのではないか、と考えています。本書p.169では、「戦略とは本質的に、要望(desire)と実現可能なこと(possibility)のあいだで交わされる弁証法的関係」と指摘しています。はい。その通りだと思います。ですから、クラウゼヴィッツのように戦争とは政策に従属する一方的なものではなく、双方向なものである可能性も排除できない、という本書の主張はそのまま受け入れることが出来ます。

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次に、榎本博明『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)を読みました。著者は、MP人間科学研究所代表ということなのですが、私は人事コンサルタントではないか、と受け止めています。本書では、管理職の目線で部下の教育について考えています。その主要な観点は章構成通りに3つあって、認知能力、メタ認知能力、非認知能力、ということになります。ざっくりいって、認知能力とは学生でいえば学力のことです。社会人でいえば、認知を外した能力そのものと考えても大きく違いません。そして、メタ認知能力とは、その認知能力をどのようにしたら伸ばすことができるかを把握する能力です。最後に、非認知能力とは、認知能力、仕事の遂行能力以外の分野であり、社交性とか、落ち着いた温厚な態度とか、ていねいなしゃべり方とか、継続してやり抜く忍耐、とかとなります。私自身はキャリアの国家公務員から大学教員ですから、それなりに認知能力の高い同僚や部下に囲まれたお仕事となります。広く知られている通り、公務員試験というものがあり認知能力評価の観点も含んでいて、たぶん、あまりに低い認知能力、本書で例示されているような極度の認知能力不足の同僚や部下はいなかったのではないか、と思います。大学教授が頭いいというのは、まあ、当然かもしれません。したがって、本書の第1章で例示されているような、日本語を理解する、あるいは、国語的な読解力の不足、記憶力の欠如というのは、ホントに日本企業にいっぱいあるのだろうか、と疑問に感じています。確かに、分数の計算ができない大学生、%が判らない大学生というのはあり得ますが、それほど日本人の基礎学力は低くないと思います。ただ、確かに、メタ認知能力、すなわち、どうすれば認知能力を伸ばすことが出来るかを知っている人は少しくらいであればいるような気がします。そして、本書でも指摘しているように、能力の低い人ほど自分の能力を過大評価しがちであるというのは、いくつかの実証例もありますし、その通りだと思いますが、業務に支障が出るくらいに自分の能力について誤解している人はそれほど多くはないのではないか、と私は考えています。したがって、本書ほど極端に認知能力・メタ認知能力が低い同僚や部下というのは、ちょっと想像できません。非認知能力についてもご同様であり、草食系的な向上心のない部下はそれなりにいますし、若い世代の昇進意欲が年々低下しているのも、いくつかのアンケートなどから明らかになっています。私自身もそうだったかもしれません。ただ、そういった向上心の不足というのは、ご本人の問題もさることながら、日本経済社会全体として停滞に極みにある、という事実も併せて考える必要がありそうな気がします。他方で、本書が指摘するように、「甘え」が受け入れられないからすねたりする人がどれくらいいるのかは私は疑問です。ということで、私は本書で取り上げられている例はかなり極端であると私は受け止めています。おそらく、通常のオフィスや工場などでは見られないような極端な例が人事コンサルに持ち込まれ、その上で、人事コンサルに持ち込まれた極端な例の中からさらに極端な例を本書に収録している可能性があります。他方で、ここまで本書がベストセラーになって売れて注目されるのはやや謎です。私自身は、日本人はそれなりに勤勉であって、時間厳守や手先の器用さなどから、決して潜在的な生産性は低くない、と考えています。また、社会に出る前の段階でも、経済開発協力機構(OECD)の実施している「生徒の学習到達度調査 (PISA)」の結果などからして、初等中等教育段階での日本人の優秀性というのは実証されていると受け止めています。でも、本書で取り上げている例が事実としていっぱいあるのであれば、考えを改めないといけないかもしれません。

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次に、楊海英『中国を見破る』(PHP新書)を読みました。著者は、静岡大学の研究者なのですが、生まれは南モンゴルのオルドス高原であり、モンゴル名はオーノス・チョクト、日本名は大野旭というそうです。したがって、いわゆる漢民族ではなくモンゴル人ということで、中国に関して少し独特の見方を示しています。タイトル通りなわけです。最初と最後を別にして、本書は3部構成であり、いずれも中国の本質を見破る視点を提供しています。すなわち、第Ⅰ部が歴史を「書き換える」習近平政権、第Ⅱ部が「他民族弾圧」の歴史と現在、第Ⅲ部が「対外拡張」の歴史と現在、ということになります。まず、第Ⅰ部の歴史改変については、どこの国のどの政権でもやっているように思いますが、視点として興味深いのは「中国4000年の歴史」がいつの間にか「5000年」に書き換えられている、という指摘です。そうかもしれません。さらに、漢民族が成立したのは20世紀の清朝廃止後であると主張し、しかも、易姓革命を繰り返してきた中国の歴史はどうしようもなく、王朝を捏造するわけにもいかず、民族としての漢民族が継続されてきたのだ、という「民族の万世一系」の神話を作り出した、と主張しています。私には真偽のほどは確認できません。第Ⅱ部の他民族支配については、本書で指摘するように、もっとも重要なポイントは現時点での少数民族弾圧ではないでしょうか。著者はモンゴル系ですし、それなりの実体験も示されています。国際的にも、モンゴルの他に、ウイグル、チベット、南方のエスニック・グループ、台湾の高山族、などなど、本書以外でもアチコチで言及されている通りです。第Ⅲ部の対外拡張については、清朝が極めて例外的に日本に学ぼうと留学生を送り出したほかは、いわゆる朝貢制度を経済的あるいは貿易のシステムではなく政治的なものと解釈して、古い歴史を引っ張り出して領土拡張の根拠にしていると本書では主張しています。これもどこの国でもやっているように私は見ていますが、現実的に考えれば、日本とは尖閣諸島で領有権争いをしていますし、フィリピンやベトナムとも南シナ海で領土紛争があるわけで、決して現時点での軍事や外交とも無関係ではありえません。ただ、武力的な領土拡張だけではなく、経済的な借款をテコにした領土的野心も忘れるべきではありません。本書で抜けている視点として、スリランカのハンバントタ港がまるで「債務の罠」のように、中国に対して運営権を譲渡した事実などがあり、注目すべきではないか、と私は考えています。嫌中派には溜飲の下がる読書かもしれませんが、少し眉に唾して読んだ方がよさそうに私には見受けられました。

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次に、浅田次郎『母の待つ里』(新潮文庫)を読みました。著者は、日本でも有数の売れている小説家ではないかと思います。この作品を原作として、今夏、NHKでドラマ化がなされています。「母の待つ里」に行くのは3人いて、まず第1に、名の知れた大企業の社長で、独身のままで結婚もしていない松永徹、第2に、定年と同時に妻から離婚されながらも、のんきな生活を送っている室田精一、第3に、親を看取ったばかりのベテラン女医で、病院勤務に区切りをつけることを決意した古賀夏生、となります。どうでもいいことながら、私はドラマの方はまったく見ていないのですが、NHKのサイトによればドラマでは、松永徹を中井貴一が、室田精一を佐々木蔵之介が、そして、古賀夏生を松嶋菜々子が、それぞれ演じています。繰り返しになりますが、私はドラマの方は見ていませんので、ソチラは何ともいえませんが、原作となった小説の方は極めて不思議な印象でした。冒頭の松永徹のところで作者は早々にネタバレを明らかにしていますが、このレビューはいっさいネタバレなしで進めます。まず、東京の人にとってのふる里、というか、母の待つ里というのはこういったイメージなのだということが、関西人の私には十分理解できたとは思えません。すなわち、東京の人、しかも、この作品では社会的に成功しているか、少なくとも劣悪な状態ではない生活を東京で送っている人が考えるふる里、母の待つ里とは、雪深い東北の寒村にあって、今でも関西人には理解しにくい方言を使っている人が少なくないところ、ということなのだろうと思います。私は大学を卒業した後に東京で国家公務員の職を得て、出身地の関西、京都の片田舎に両親を残してふる里を離れ、定年退官した後になって再就職でふる里に舞い戻る、という半生でした。父親は東京で働いている間に亡くなり、母親は関西に戻ってから亡くなりました。それほど方言がきつくなく、雪も少なく、愛嬌のある関西弁をしゃべる人の多い土地柄です。ただ、他方で、子ども2人は、親と同じ意味で、置き去りにしました。すなわち、東京の大学を出た方は東京で就職していましたし、大阪の大学を出た方も大阪に住んで仕事をしています。東京に残した子は、社長になるかどうかは別にして、この小説に登場するような、ふる里観やイメージを持つのかもしれません。でも、ふる里は雪深い東北にあるのではなくて、関西であって欲しいとうのは私の勝手な願いです。大阪の子は、まあ、私の住まいと十分日帰り圏内ですので、年1-2回くらいは顔を合わせます。親を置き去りにしてふる里を離れて就職し、子どもを置き去りにして定年後にふる里に帰ってしまう、というわがままな私からして、とても不思議で少し理解が及ばない小説でした。時に、私は男親なもので、ふる里といえば母親かもしれませんが、「父の待つ里」はないんでしょうかね?

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次に、高野結史『奇岩館の殺人』(宝島社文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家です。第19回「このミステリーがすごい!」大賞・隠し玉として『臨床法医学者・真壁天 秘密基地の首吊り死体』で2021年にデビューしています。ということで、典型的なクローズド・サークルにおける連続殺人ミステリです。ミステリの舞台はカリブ海の孤島に建っている奇岩館です。タイトル通りなわけです。少し奇妙な形をしていて、カリブ海にあるにしては日本で考えるような洋館建てです。本書p.129に見取り図があります。ここに、主人公の1人である「佐藤」がアルバイトに応募して連れてこられます。単に、外国の豪邸で3日間過ごせば100万円というアルバイトなので、日雇い仕事をしているのに比べて条件が格段にいいのですが、なぜか、ミステリの素養を問う条件があったりします。本名は不明ながら、「佐藤」と名乗って、出しゃばったことはしない、という点も言い含められます。怪しげなアルバイトながら、行方不明になった徳永を探すという目的もあって応募します。そして、殺人事件が起こるわけです。出版社のサイトにあるのでネタバレではないと思うのですが、そのまま引用すると、「それは『探偵』役のために催された、実際に殺人が行われる推理ゲーム、『リアル・マーダー・ミステリー』だった。佐藤は自分が殺される前に『探偵』の正体を突き止め、ゲームを終わらせようと奔走するが……。」ということになります。ですから、最初っからミステリがメタ構造になっているわけです。しかも、この「リアル・マーダー・ミステリ」には組織した会社サイドの演者/役者が入っていて、その主たる現場の演者がもう1人の主人公のような役割を果たして、「佐藤」とともに交互の視点でストーリーが進められます。有名な、というか、国内で有名な古典的ミステリに見立てての殺人、それにクローズド・サークルでの密室などの条件が加わり、なかなか大がかりなミステリに仕上がっています。でも、殺人事件の謎、また、会社が組織したリアル・マーダーの謎ともに、それほど複雑で凝ったものではありません。すなわち、読み進むうちに少しずつ真実が明らかになっていくタイプのミステリであり、その意味で、私の好きなタイプのミステリです。ですので、途中まで読んで、どのように終わらせるのかも段々と理解が進みますし、最後の最後のオチについても、まあ、そうなんだろうな、という納得感があります。主人公の「佐藤」は、決して、極めて反社会的な殺人ゲームを組織する悪辣非道な会社に挑む正義のスーパーマンではありませんし、殺人ゲームを組織した会社サイドからの視点を提供する人物も、繰り返しになりますが、決して悪辣非道な人非人ではなく、勝手気ままな上司やまったく協力的ではない協力者に苦しめられるサラリーマンだったりもします。ゲームとして殺人が行われるという非人道性は十分大きいとしても、また、ラストも「佐藤」が会社の手に落ちるものの、決してバッドエンドではありません。まあ、要するにエンタメ小説なわけです。その意味で、悪辣非道なゲームを描き出しているにしては、まあ、少しくらいは親しみを持った読書ができるかもしれません。最後に、私の読解力不足かもしれませんが、表紙画像がどの場面に対応しているのか、私には理解できません。

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2024年10月11日 (金)

STEM卒業生とグリーンジョブに見る男女格差やいかに?

今週月曜日10月7日の IMF Blog において Why Women Risk Losing Out in Shift to Green Jobs と題して、STEM、すなわち、科学(science)、技術(technology)、工学(engineering)、数学(mathematics)における男女格差を縮小させることにより、気候変動対策が加速し、いっそう包括的(inclusive)なものとなるという主張がなされています。
書き出しが "Men hold about 70 percent of the world's polluting jobs" となっていて、男性優位経済では気候変動対策を進めることに対して、汚染するジョブを持つ男性が失業するリスクを負う可能性があると示唆しています。そして、気候変動対策を進めるグリーンジョブにおいて女性がもっと活躍することにより、対策を加速する必要性を強調しています。まず、IMF Blogのサイトからグリーンジョブにおける男女の就業格差を示す Women have fewer green jobs than men と第するグラフを引用すると以下の通りです。

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見れば明らかな通り、先進国で働く女性のうちでグリーンジョブに従事しているのはわずかに6%に過ぎない一方で、男性はこの比率が20%に達しています。"just 6 percent of women who work in advanced economies hold green jobs, compared to over 20 percent of working men" また、他の仕事に比較してグリーンジョブは大きな賃金プレミアムを獲得している "green jobs command a substantial wage premium over other jobs in the economy" と強調しています。この賃金プレミアムは、コロンビアの例では男性で9%、女性では16%となっています。"In Colombia, for example, the wage premium is 9 percent for men and 16 percent for women." という事実を上げて、STEMを学習し、グリーンジョブに就くことを女性に推奨しています。

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しかし、他方でいまだに、STEM教育における男女格差が大きいと指摘しています。すなわち、多くの国では、STEMを勉強して卒業する学生のうち女性は⅓に過ぎず、将来の労働市場で重要性を増すグリーンジョブへの準備が不十分である "Women account for less than a third of STEM graduates in many countries, leaving them less prepared for green jobs that will shape the future labor market." と結論しています。上のグラフはIMF BlogのサイトからSTEM卒業生の男女比率をプロットした Too few women を引用しています。一番下のルクセンブルクという突飛な例外を別にすれば、真ん中あたりに見える日本女性のSTEM卒業生の人口比がもっとも低いのが見て取れると思います。まあ、あらゆるシーンで日本が立ち遅れていることは何度も指摘されている通りですが、STEM卒業生の少なさもご同様であり、したがって、グリーンジョブへの就職も遅れているんだろうと私は想像しています。

私は従来から先行き重要な人材は、グローバル人材、データサイエンス人材、デジタル人材、グリーン人材、の4カテゴリーだと考えてきました。この4カテゴリーのうちの私のいう「グリーン人材」がIMFのいう「グリーンジョブ」に就いていることは明らかです。ただし、東京で公務員をしていたころは、日本にはこういった人材は十分いると私は思っていましたが、京阪神の関西圏ですら決して十分ではないという地方圏の現実に直面しています。私自身が所属している大学教育の分野で、もっとも日本で対応が進んでいるのはデータサイエンス人材だと思います。アチコチにいっぱい学部や学科ができています。残る3分野のうち、まさにこのIMF Blogが指摘するように、グリーン人材はSTEM系の学問を専攻した人材なので、私のような経済学部の教員はお呼びじゃないかもしれませんが、特に、日本が立ち遅れている男女格差の是正をさらに進める必要性を痛感させられました。

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2024年10月10日 (木)

上昇率が高まった9月の企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、日銀から9月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+2.8%の上昇となり、先月8月統計の+2.6%から上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数9月2.8%上昇 伸び率拡大、コメなど寄与
日銀が10日発表した9月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は123.1と前年同月比で2.8%上昇した。民間予測の中央値より0.5ポイント高かった。コメや鶏卵の価格上昇の影響で、伸び率は8月から0.2ポイント増え、2カ月ぶりに拡大した。
精米や玄米、鶏卵など農林水産物の伸び率は12.4%と8月の5.4%から大幅に拡大した。コメは飼料価格や輸送費、人件費などの上昇の転嫁が進んだ。
一方、円ベースの輸入物価指数は2.6%下落し、2024年1月(0.1%下落)以来、8カ月ぶりにマイナスに転じた。9月のドル円相場は平均で1ドル=143円台と円高・ドル安方向に振れたことを反映した。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
電力・都市ガス・水道は7.9%上昇と8月(10.5%上昇)から伸び率が鈍化した。電気・ガスの補助金が9月検針分から再開されたことが押し下げ要因となった。補助金は11月検針分まで続く予定だ。
石油・石炭製品は1.3%上昇と8月(3.8%下落)からプラスに転じた。非鉄金属は9.7%上昇と8月(11.4%上昇)から伸び率が鈍化した。非鉄金属の主要消費国である中国景気の減速を受け、商品相場が下落したことが影響した。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+2.3%、予測レンジの上限でも+2.8%と見込まれていましたので、実績の+2.8%はレンジ内とはいえ少し上振れた印象でした。国内物価の上昇幅が拡大したした要因は、引用した記事にもある通り、米や鶏卵などの農林水産物の価格上昇です。政府による電気・ガスの補助金は9月検針分から再開されたことが押下げ要因となっており、11月検針分まで継続される予定です。ただ、注意すべき点は、企業物価指数の国内物価、輸出物価、輸入物価のうち前年同月比で見て上昇しているのは国内物価だけです。すなわち、輸出物価と輸入物価については9月統計ではマイナスを記録しています。ですから、為替レートの円安是正は十分に進んだ可能性がある、と考えるべきです。他方で、原油価格の影響についても、中東の地政学リスクを別にすれば、日本の物価にとっては中立水準にかなり近づいた可能性が否定できません。何度も繰り返している通り、我が国では金融政策を通じた需給関係などよりも、原油価格のパススルーが極端に大きいので、上昇にせよ下落にせよ国内物価にも無視し得ない影響を及ぼしています。参考までに、日本総研「原油市場展望」(2024年10月)では、「2024年9月のWTI原油先物価格は、上旬に60ドル台半ばに低下」した後、「中旬には、70ドル台前半に上昇」し、「先行きを展望すると、原油価格は70ドル台を中心に推移する見込み」ということになっていて、地政学的リスクに対する警戒に言及しています。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず、食料品の原料として重要な農林水産物は8月の+5.4%から9月は+12.4%と上昇幅を大きく拡大しています。したがって、飲食料品の上昇率も9月は+2.0%と高止まりしています。他方で、電力・都市ガス・水道が8月の+10.5%から9月は+7.9%に小幅に上昇幅を縮小させています。ほかに、非鉄金属が+9.7%と2ケタ近い上昇を示しています。ただし、石油・石炭製品は8月の▲3.8%から8月は+1.3%の上昇に転じていますが、まだまだ小幅な上昇です。

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2024年10月 9日 (水)

日銀「さくらリポート」に見る地域経済やいかに?

やや旧分に属するトピックながら、一昨日10月7日の日銀支店長会議において「地域経済報告」、いわゆる「さくらリポート」が明らかにされています。まず、日銀のサイトから各地域の景気の総括判断を引用すると以下の通りです。

各地域の景気の総括判断
一部に弱めの動きもみられるが、すべての地域で、景気は「緩やかに回復」、「持ち直し」、「緩やかに持ち直し」としている。

続いて、各地域の景気の総括判断と前回との比較のテーブルは以下の通りです。

 【2024年7月判断】前回との比較【2024年10月判断】
北海道一部に弱めの動きがみられるが、持ち直している一部に弱めの動きがみられるが、持ち直している
東北緩やかに持ち直している緩やかに持ち直している
北陸能登半島地震の影響により一部に下押しがみられており復旧の途上にあるものの、復旧復興需要や生産正常化が進むもとで、回復に向けた動きがみられている一部に能登半島地震の影響がみられるものの、緩やかに回復しつつある。なお、奥能登豪雨の影響については、被災地に甚大な被害を及ぼしているが、今後、マインド面を含めてどの程度、経済を下押ししていくか注視していく必要がある
関東甲信越一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している
東海一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している緩やかに回復している
近畿一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに持ち直している一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに回復している
中国緩やかな回復基調にある緩やかな回復基調にある
四国持ち直しのペースが鈍化している緩やかに持ち直している
九州・沖縄一部に弱めの動きがみられるが、緩やかに回復している一部に弱めの動きがみられるが、緩やかに回復している

pdfの全文リポートには、「企業等の主な声」として、① 個人消費 (インバウンド需要を含む)、② 生産・輸出・設備投資、③ 雇用・賃金設定、④ 価格設定、の4項目があるのですが、② 生産・輸出・設備投資のトピックでは金利上昇に関するご意見も含まれていて、「借入金利上昇により有利子負債の利払い負担は増加するものの、金利上昇幅はわずかであるため、設備投資計画には影響しない。」といった日銀による金利引上げをサポートするものも含まれていたりします。まあ、当然かも知れません。また、③ 雇用・賃金設定でも、人手不足を強調したり、賃上げといった文言が踊っています。こういった動きを受けて、ロイターの報道では、「賃上げ『継続必要』の認識広がる、消費も押し上げ」といったタイトルの記事があったりします。

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2024年10月 8日 (火)

反動により先月から低下した9月の景気ウォッチャーと大きな黒字を計上した経常収支

本日、内閣府から9月の景気ウォッチャーが、また、財務省から8月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲1.2ポイント低下の47.8となった一方で、先行き判断DIも▲0.6ポイント低下の49.7を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+3兆8036億円の黒字の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから記事を引用すると以下の通りです。

街角景気9月は1.2ポイント低下、前月の伸びの反動 判断は維持
内閣府が8日に発表した9月の景気ウオッチャー調査は現状判断DIが47.8となり、前月から1.2ポイント低下した。4カ月ぶりマイナス。防災関連需要の増加など特殊要因で大きめの上昇となった前月の反動が出た。先行きは米などの値上がりが消費に与える影響を懸念する声が聞かれた。
景気判断は「緩やかな回復基調が続いている」で維持した。DIは低下したものの、前月の上昇の反動があったことや、7月(47.5)よりまだ高い水準であることなど考慮した。
指数を構成する3部門では、企業動向関連DIが0.9ポイント、雇用関連が0.1ポイントそれぞれ上昇した一方、家計動向関連が2.0ポイント低下した。
家計関連の回答では、地震や台風などの災害に対する備蓄需要がやや落ち着き、スーパーなどで買い控えの動きが出ているの声が聞かれた。「気温の高い日が続いており、秋物商材の売り上げが振るわない」(東北=衣料品専門店)との指摘もあった。
2-3カ月先の景気の先行きに対する判断DIは前月から0.6ポイント低下の49.7と、4カ月ぶりに低下した。回答では「米の値段が3割から4割ほど上がっており、主食がこれほど値上がりすると、なお一層財布のひもは固くなる」(東海=商店街)、「商材の動きが鈍っている。継続した値上げが響いているのではないか」(北関東=窯業・土石製品製造業)と懸念する声が上がっていた。
内閣府は先行きについて「価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」とした。
大和証券のエコノミスト、鈴木雄大郎氏は「節約志向は根強いものの、今後は実質賃金の回復を背景にマインドは緩やかに回復に向かうだろう。マインドの回復を背景に個人消費も底打ちが期待される」と指摘している。
調査期間は9月25日から30日。
経常収支、8月は3兆8036億円の黒字 予想上回る黒字幅
財務省が8日発表した国際収支状況速報によると、8月の経常収支は3兆8036億円の黒字だった。ロイターが民間調査機関に行った事前調査の予測中央値は2兆9219億円程度の黒字で、公表された黒字幅は予想を上回った。
黒字幅が拡大したのは、第一次所得収支の黒字幅が膨らんだのが主因。所得収支の黒字は前年同月から1兆0436億円増え、4兆7006億円となった。第二次所得収支は4141億円の赤字だった。
経常収支のうち、貿易収支を含む貿易・サービス収支は4829億円の赤字だった。輸出が前年同月比6.2%増の8兆3888億円だったのに対し、輸入は1.3%増の8兆7668億円だった。
貿易収支の赤字は3779億円で、赤字幅そのものは前年同月に比べて縮小した。

やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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景気ウォッチャーの現状判断DIは、直近では5月統計で45.7の底となった後、6月統計では47.0、8月統計では49.0に上昇したものの、本日公表の9月統計では47.8に低下しています。基本的には、インフレによるマインドの低下、主として家計のマインド低下の影響が大きいと私は考えています。ただし、引用した記事にもあるように依然として水準はそれほど低下したわけでもなく、長期的に平均すれば50を上回ることが少ない指標ですので、現在の水準は、マインドが決して悪い状態にあるわけではない点には注意が必要です。引用した記事にもあるように、9月統計では家計動向関連が飲食関連が上昇したものの、サービス関連等が低下したことで低下しています。しかし、企業動向関連では、製造業・非製造業とも上昇しています。また、雇用関連では前月からわずかながら+0.1ポイント上昇と、ほぼ横ばいを示しています。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる」で据え置いています。先行きについては、賃上げの浸透や定額減税への期待が見られると考えるべきです。また、内閣府の調査結果の中から、百貨店業界で定額減税や賃上げに言及したものを取り上げると、「売上は前年を上回る状況が続いているが、円高傾向も影響し、けん引役のインバウンド需要には一時の勢いがなくなっている(百貨店)。 」といった為替相場に関する味方が示されていました。ほかに、私の直感的な印象ながら減税や賃上げは効果が小さい、といった意見が多かった気がします。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。引用した記事にもある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスは+3兆円をやや下回る黒字でしたので、実績の3兆8036億円は少し上振れた印象です。それほど、大きなサプライズはありませんでした。8月時点では円安が進んでいましたので、第1次所得収支などで経常黒字が大きく膨らんでいます。しかし、貿易収支は季節調整済みの系列で見ると相変わらず赤字を計上しており、円安にもかかわらず赤字が縮小したにとどまっています。もちろん、経常収支にせよ、貿易収支にせよ、たとえ赤字であっても何ら悲観する必要はなく、資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。

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2024年10月 7日 (月)

2か月ぶりに下降した8月の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から8月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から▲2.6ポイント下降の106.7を示し、CI一致指数も▲3.7ポイント下降の113.5を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから報道を引用すると以下の通りです。

景気一致指数8月は2カ月ぶり低下、台風による自動車生産減などで
内閣府が7日公表した景気動向指数速報(2020年=100)によると、一致指数は前月比3.7ポイント低下の113.5で、2カ月ぶりに低下した。鉱工業用生産財出荷指数や商業販売額などが指数を下押しした。台風による自動車生産減などが響いたという。
一致指数から一定の方式で決まる基調判断は「下げ止まりを示している」で据え置いた。
品目別では、台風の影響で自動車生産が減少したことが、鉱工業生産指数や耐久消費財出荷指数などの指数を押し下げた。商業販売額(卸売り)は、前月に計測器などの販売が急増した反動が出た。
先行指数も2.6ポイント低下の106.7と、2カ月ぶりマイナスだった。鉱工業生産在庫率や東証株価指数、中小企業売り上げ見通しなどが指数を下押しした。

いつもながら、コンパクトかつ包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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8月統計のCI一致指数は2か月ぶりの下降となりました。加えて、3か月後方移動平均の前月差も2か月ぶりに▲1.34ポイント下降しましたが、7か月後方移動平均の前月差はまだ+0.07ポイント上昇しています。統計作成官庁である内閣府では基調判断は、今月も「下げ止まり」で先月から据え置いています。なお、細かい点ながら、上方や下方への局面変化は7か月後方移動平均という長めのラグを考慮した判断基準なのですが、改善からの足踏みや悪化からの下げ止まりは3か月後方移動平均で判断されます。いずれにせよ、私は従来から、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そうすぐには日本経済が景気後退局面に入ることはないと考えていて、やや楽観的な見方かもしれません。ただし、日本経済はすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありませんし、多くのエコノミストが待ち望んで、日銀の金融引締めから急速に進んだ円高、あるいは、金融引締めそのものの経済へ影響も考慮する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、鉱工業用生産財出荷指数が▲0.85ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)が▲0.76ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)が▲0.61ポイント、生産指数(鉱工業)が▲0.59ポイント、耐久消費財出荷指数が▲0.51といった鉱工業生産・出荷に関係する系列が大きなマイナスの寄与を示しています。ただ、それほど大きな寄与度ではありませんが、有効求人倍率(除学卒)や労働投入量指数(調査産業計)といった雇用指標もマイナス寄与していたりします。プラス寄与を示しているのは、わずかに、商業販売(小売業)(前年同月比)くらいのものだったりします。

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2024年10月 6日 (日)

井上あずみによる「君をのせて」を聞く

井上あずみによる「君をのせて」です。
もう昭和になってしまいましたが、1986年のジブリによる「天空の城ラピュタ」の主題歌です。我が家の子供達が最初に見たジブリ作品は「魔女の宅急便」だと思うのですが、私は「紅の豚」とこの「天空の城ラピュタ」が好きです。
何も考えずに聞くのが一番です。

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2024年10月 5日 (土)

今週の読書は市場経済史に関する経済書をはじめとして計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
今年の新刊書読書は1~9月に238冊を読んでレビューし、10月に入って本日の6冊をカウントして244冊となります。目標にしているわけでも何でもありませんが、年間250冊は明らかに超えて300冊に達するペースかもしれません。Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。なお、M.W.クレイヴン『キュレーターの殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫)も読んで、すでにFacebookなどでシェアしていますが、もう2年余り前の出版ですので新刊書とは見なしがたく、本日のレビューに入れていません。『キュレーターの殺人』の続編である同じ作者同じシリーズである『グレイラットの殺人』も手元にあって続けて読む予定ですが、コチラはまだ出版から1年ですのでレビューしたいと思います。

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まず、B. ファン・バヴェル『市場経済の世界史』(名古屋大学出版会)を読みました。著者は、オランダのユトレヒト大学の研究者です。オックスフォード大学出版会から出ている英語の原題は The Invisible Hand? であり、2016年の出版です。原書と邦訳の両方の出版社から考えると、かなり専門性高い学術書と考えるべきですが、経済学プロパーというよりも歴史学との学際分野である経済史ですので、それほど一般向けにもハードルは高くないと私は見ています。ということで、まず、単に市場経済と聞くと製品市場のことかと受け取れられがちですが、本書の邦訳タイトルの市場経済は要素市場を対象にしています。すなわち、労働と資本、あるいは、資本のもとになる資金、はたまた、土地です。狭い意味での資金提供だけではなく、貸付なんかも含みます。どうして、生産物市場ではなく、生産要素市場に着目するかといえば、取引が継続的だからです。生産物市場では、1回限りの取引=交換で終わる場合も少なくありませんが、労働を考えれば典型的であって、継続的に何年間もの契約を交わして労働を提供する場合が多いのは明らかです。ですので、ムチャな、というか、詐欺的なものも含めて、不公正な取引が生産物市場に比べて少なく、かなり長期に渡る歴史的な分析にふさわしいと考えられます。本書では、この要素市場について、3つの時代と地域を分析対象としています。すなわち、中世初期の帝国における市場、500~1500年のイラク、中世都市国家における市場、1000~1500年の中部及び北イタリア、そして、中世後期から近代初期の公国群における市場、1100~1800年の低地諸国です。これらに加えて、エピローグとして正真正銘の近代、すなわち、1500~2000年のイングランド、アメリカ合衆国、西ヨーロッパにおける市場も最後に概観されています。中国や日本はメインでは取り上げられていません。それぞれの経済発展を後付けつつ、生産要素市場の成立ないし発達を分析し、生産要素市場を起源とする不平等についても分析しています。それぞれの時代や地域の具体的な分析は読んでいただくしかありませんが、結論においては、「サイクル」なる用語を用いて、歴史的な発展段階を説明しようと試みています。このサイクルは、例えば、p.250の図6-2などでは、横軸に年代、縦軸に1人当たりGDPをとったカーテシアン座標で逆U字カーブを描く可能性を指摘しています。本書では何ら言及ありませんが、極めてクズネッツ的な逆U字カーブであり、経済発展の歴史的段階において、たぶん、不平等により経済発展が阻害される可能性を示唆しています。これは、21世紀の現代の経済に対して極めて示唆に富んでいます。要するに、注目すべきは生産要素市場が発達したところで、あるいは、生産物市場も同様かもしれませんが、自動的にそのまま経済発展が続くわけではない、ということです。グラノベッター的にいって、経済学がモデルとしているような自由で十分な情報のある市場というものは、現実には存在せず、社会関係や規則が存在して市場においても権力格差が作用している、という結論です。

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次に、大谷俊雄『霞が関官僚の英語格闘記 「エイゴは、辛いよ。」』(東洋経済)を読みました。著者は、財務省OBであり、財務省勤務時はいわゆる国際派として米国コロンビア大学に留学したり、アジア開発銀行(ADB)や国際通貨基金(IMF)・世界銀行などのご勤務の経験があるようです。タイトルは「エイゴは、辛いよ。」となっていて、もちろん、英語で苦労されたエピソードもいっぱいありますが、まあ、基本は自慢話です。ただ、留学や国際機関勤務などでの勤務は、多くの一般的なビジネスマンにはそれほど経験されない場合が多いと思いますので、そういった経験談はそれなりに参考になるかもしれません。ただし、著者がタイトル通りに霞が関官僚ですので、ビジネス的な経験は含まれていません。すなわち、私も公務員でしたので決定的に経験がないのですが、ビジネス上の商談やその結果としての契約については、本書にも含まれていません。逆に、国際会議における発言や司会進行などは一般的なビジネスマンにはそれほど関係深くないかもしれません。まあ、ダボス会議に出席するトップクラスのビジネスマンだけのような気がします。また、コラムで英語表現を数多く取り上げていて、繰り返しになりますが、国際会議なんて関係ないビジネスマンも少なくないこととは思いますが、読み物として楽しむことはできるのではないでしょうか。何度か、私も主張しているのですが、この先の日本経済を考えて、必要な人材分野はもちろん介護を担う人材なども重要である一方で、大学が一定の役割を担うべき分野の高スキルの人材としては、データサイエンス人材、グローバル人材、デジタル人材、グリーン人材が日本にはもっと必要ではないかと私は考えています。大学レベルでは、おそらく、データサイエンス人材のための教育がもっとも進んでいるように私は受け止めています。アチコチにデータサイエンスを標榜した大学の学部や学科ができているように見受けます。他方で、DXを担うデジタル人材と環境分野で活躍が期待されるグリーン人材については、やや工学的な分野ではなかろうかと受け止めており、私の所属する経済学部ではグローバル分野で活躍するための教育が必要とされるような気がします。その意味で、本書を読んでみた次第です。ただ、60歳の定年まで東京の役所で働いていた実感として、少なくともグローバル人材は東京では決して不足しているような気はしませんでした。十分いるように感じていました。ただ、東京、あるいは、首都圏を離れると、関西圏でもグローバル人材がそれほど十分でないことが実感されます。実は、私の勤務校ですらそうです。海外における留学や勤務経験のある教員はそれほど多くありません。東京の大学とは大きな差があります。逆に、海外留学や海外勤務経験のある教員は重宝されているように感じます。たとえ、海外に留学や勤務しなくても、外国人観光客によるインバウンドを考えれば、もっといえば、日本国内から一歩も出なくても、本書で力説しているような語学力とか、それなりのグローバルなスキルは必要です。そのためにも、実体験に基づくこういった本も有益ではないか、という気がします。

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次に、株式会社闇[編]『ジャンル特化型ホラーの扉』(河出書房新社)を読みました。編者は、ホラー×テクノロジー「ホラテク」で、新しい恐怖体験をつくりだすホラーカンパニー、と紹介されています。私は不勉強にして知りませんでした。8ジャンルのホラーが収録されている短編集であり、帯に「14歳の世渡り術」と記されており、本文中には言及ないものの、私は中高生向けのホラー小説集と聞き及んでいます。出版社のサイトで「14歳の世渡り術」で検索すると、大量の図書がヒットします。一応、「児童書」というジャンルに指定されています。ですので、本書も小学校や中学校を舞台にするホラーが多く収録されています。そして、各短編の最後には、そのホラー短編がカテゴライズされたジャンルの解説などが収録されています。収録されている短編のあらすじは順に、澤村伊智「みてるよ」(心霊ホラー)は、たぶん、小学校が舞台です。ランドセルを背負った背の高い男の子が教室などをドアの隙間から覗いているのを主人公は目撃します。この男の子は「あすかわくん」らしく、学校で変質者に殺されたらしいです。そして、どうも、覗かれている人は何らかの不調、というか、明確におかしくなってしまうようです。続いて、芦花公園「終わった町」(オカルトホラー)は、より大規模に主人公が住む町全体が、皐巫女の風習の伝説に基づいて狂気に襲われます。主人公だけが正気を保つのですが、ある意味で、人々が次々とゾンビ化していく町のようです。続いて、平山夢明「さよならブンブン」(モンスターホラー)は、いじめを受けている主人公が自殺を試みようとした廃墟でモンスターキャットのブンブンと出会います。どうも、ブンブンは主人公をいじめていた同級生などを処罰しているようです。この作品がプロットといい、ラストの終わり方といい、本書の中では文句なく最高の出来だと思います。続いて、雨穴「告発者」(サスペンスホラー)は、主人公は友人とコンビで動画作成を始めるのですが、10年前のある日、友人は動画作成後に自殺し、その問題動画の冒頭部分が10年後の今になって拡散され始めています。10年後に20代になって、元動画をポストしたサイトのパスワードを忘れた主人公は、実家に帰って古いパソコンで元動画を削除しようと試みます。続いて、五味弘文「とざし念仏」(シチュエーションホラー)は、学校の文化祭でお化け屋敷をクラスでやることになり、転向してきたばかりの主人公はひょんなことからドラム缶に閉じ込められてしまいます。でも、ペアになったクラスメートが助けてくれません。続いて、瀬名秀明「11分間」(SFホラー)は、主人公のクラスの朝礼に担任の先生に代わってAIがやって来ます。そして、「自由」についての話を始め、人間の持つ「思いやり」をなくさなければ、ホントの「自由」は手に入らない、などと言い出します。タイトルの11分間はAIが世界を支配する時間であり、要するに、AIはわずかに11分間で世界支配に失敗してしまいます。世界がAI支配からどのように脱するのかは読んでみてのお楽しみです。続いて、田中俊行「学校の怖い話」(モキュメンタリ―ホラー)は、いかにも学校にありそうな短いショート・ショートの怪談、呪いの鏡とか、主人公と母親だけが覚えていて、ほかのクラスメートの記憶から消えている死んだ女子とか、をいくつか集めています。とても伝統的、というか昭和的な怪談だろうと思います。最後に、梨「民法第961条」(モキュメンタリ―ホラー)は、文芸部に所属していた主人公の高校時代の朝読会の思い出の体裁を取っています。タイトルに取られている民法961条では遺言に関する規定があり、手紙の写真などのビジュアルな恐怖も同時に収録されています。

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次に、吉弘憲介『検証 大阪維新の会』(ちくま新書)を読みました。著者は、桃山学院大学の研究者であり、ご専門は財政学、地方財政学だそうです。ですので、ご専門の観点から地域政党である大阪維新の会について、どういったグループに手厚く、また支持されていて、逆に、どういったグループに対して冷たい政策を持って臨んで、また、支持されていないか、について検証しています。一応、当然のお断りですが、本書で対象としている大阪維新の会は大阪のローカル政党であり、他方、日本維新の会は全国政党です。もちろん、政策的には密接にリンクしている、というか、ほぼほぼ同じと考えていいのでしょうが、例えば、住民投票で2度に渡って否定された「大阪都構想」なんて政策は大阪維新の会だけで、日本維新の会はそういった地域ローカルの政策は地域ごとになくもないのかもしれませんが、「大阪都構想」のような大阪以外のローカル政策は、私は不勉強にしてよく知りません。ということで、本書の冒頭の2章で政党としての特徴とか、主要な政策を概観した後、第3章からが本書の眼目である検証を始めます。その際、財政学・地方財政学の独特の見方なのかもしれませんが、公務員や役所の外郭団体、あるいは、教育組織や住民組織などの中間団体を通じた従来型の財政リソースの分配ではなく、大阪維新の会はこういった中間組織を経由せずに住民に直接財政リソースを頭割りで分配するという形を志向していると指摘し、それを「財政ポピュリズム」と呼んでいます。マクロエコノミストとして私はこの点には大きな異論があります。すなわち、従来の中間組織として本書がスポッと忘れているのが建設会社や土木会社であり、いわゆる「土建国家」タイプの財政リソースの分配だったと思います。それに対して、教育バウチャーとか、あるいは、何らかの社会保障による住民への直接の財政リソースの分配については、むしろ「福祉国家」としてあるべき姿のひとつではないか、と私は考えているからです。いずれにせよ、クラウドソーシングによるアンケートの結果を駆使しつつ、政党としての支持の構造を明らかにし、特に、大阪維新の会は大阪「土着」の支持層から支持されているだけではなく、生活保護や貧困世帯児童支援に対する見方を除けば、全国の一般的な傾向から統計的に有意に乖離するものではない、と結論しています。ほかにもいろんな定量的な分析がなされていて、それはお読みいただくしかありません。最後に、本書は「財政ポピュリズム」という用語に示唆されているように、大阪維新の会の政策、あるいは、政策運営を批判的に見ているように感じましたが、私はまったく別の観点から大阪維新の会については批判的な見方をしています。少なくとも、来年の万博についてはマネジメントが破綻しているように見えますし、万博の先にあるIR=カジノ構想については特に強く反対します。

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次に、佐高信・西谷文和『お笑い維新劇場』(平凡社新書)を読みました。著者2人は、評論家とジャーナリストです。タイトルから明らかなように、また、表紙画像からもうかがえる通り、ほぼほぼ、たぶん大阪維新の会と日本維新の会の両方を対象にした維新の会に対する強い批判を加えた著者2人の対談を収録しています。すなわち、冒頭が維新不祥事ワースト10で始まり、終章もそれに加えて維新不祥事ワースト10の追加で締めくくっています。広く報じられている通り、兵庫県で100条委員会を設置して調査が行われている齋藤元彦知事(失職)も維新の会の推薦を受けて当選していて、本書のスコープには時間的に入らなかったようですが、あるいは、冒頭か終章のワースト10に入れるべきとの意見も無視できない気がします。著者2人の主張は維新に批判的、というか、反対の立場を鮮明にしていて、詳細はお読みいただくしかありませんが、私の方で気になったのが、維新を報じるメディアの問題についての著者2人の見方です。要するに、維新に気兼ねしてメディアが報じない不祥事た不都合がいっぱいある、と著者2人は主張しています。私が現在の与党政権に関する見方とかなり共通する部分がありますので、取り上げておきたいと思います。まず、維新の会の不透明な政治資金、文書交通費を自分に対して寄付しているという領収書について、記事として取り上げたのが『日刊ゲンダイ』と『赤旗』だけと主張しています。事実関係は私には確認しようがありませんが、あり得ることだと受け止めています。メディアが権力や権力に近いグループの主張について、また、国民の間で議論が分かれている論点について、メディアとして都合の悪いものと見なし選別して報道しない姿勢は長らく続いています。日本の民主主義が大きな危機に陥っているひとつの要因がメディアの姿勢にあることは明らかです。その裏側で権力者がやりたい放題になっているわけです。最近、報道ではサッパリなNHKがドラマで不平等を取り上げた「虎に翼」がありましたが、この朝ドラがヒットしたひとつの要因は不平等の蔓延だと私は受け止めています。繰り返しになりますが、権力者は何をやってもやりたい放題なわけです。権力者とは政治権力だけではなく、もっと広い意味で上位者と考えるべきで、上位者が下位者に対してやりたい放題で下位者は抵抗するすべがなくなりつつある、というのが日本の現状に近いと私は考えています。私はいろんな職場でほぼほぼ常に主流派のポジションになく、非主流派か反主流派とみなされていたと考えているのですが、かつての長期政権を保った内閣で一時期「お友だち内閣」というのがありました。インナーサークルに所属するお友達は特段の主張なくても、上位者の忖度により希望が通る一方で、私のような非主流派の下位者はギャーギャーいわないと要望が実現されません。反主流派に属する下位者はギャーギャーいっても希望が通らないかもしれません。おそらく、国政トップの内閣から始まって、私のような一般国民が働く職場まで、こういった上位者の圧倒的な権力が平等とか公平の観点を大きく外れる形で下位者にのしかかってきており、多くの下位者は抵抗するすべがない、と私は考えています。革命はいうまでもなく、政権交代すら望むべくもない可能性が高くなっています。その典型的な専制的上位者の醜い行動をさらしているのが、全部ではないとしても維新所属の政治家であることを本書は主張しています。そして、そういった行動をメディアはスルーしているわけです。なお、維新政治家による専制的上位者の行動に対する抵抗に成功したのは、一部のれいわ新選組の国会議員さんくらいしか私は知りません。大石晃子代議士などです。そういった高いレベルではないとしても、私は職場における上位者の「圧政」に対する抵抗に失敗している「そのた大勢」の1人ではなかろうかと思います。でも、抵抗すらしていない人が決して少なくないので、私は抵抗を続けたいと思います。

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次に、石田祥『猫を処方いたします 3』(PHP文芸文庫)を読みました。著者は、小説家です。タイトルに「3」とあるように、シリーズ第3巻です。もちろん、私は第1巻と第2巻も読んでいます。シリーズ第3巻の本書は4話構成となっています。「中京こころのびょういん」を舞台に、ニケ先生と看護師の千歳のコンビが少し心を病んだ患者に本物の猫を処方するストーリーです。京都のど真ん中が舞台ですので、ある意味では「京都本」ともいえますし、実際に、第1巻は第11回京都本大賞を受賞しています。1話から3話は、フツーに患者が猫を処方されるのですが、最後の第4話は舞台となっている「中京こころのびょういん」ができる、あるいは、発生する前日譚を含んでいます。ということで、各章のあらすじは、第1話では、雑貨を扱っている会社の経理担当の30前の女子社員が新製品に関する企画について、社長も出席する重要なプレゼンを控えたタイミングで訪れます。表紙画像の右側の猫を思わせるシャム猫が処方されます。第2話では、父親としての育児のまっ最中で、会社の飲み会に出席するのも気が引けている営業マンが、猫を処方されるのではなく、中京こころのびょういんで「猫を習う」という実技、というか、療法を受けます。第3話は、似顔絵をメインに請ける30歳のイラストレーターが前途に迷いを生じて訪れ、ラグドール種のプロの猫を処方されます。本来であれば、指名料が必要なくらいのプロの猫だそうです。第4話は、中京こころのびょういんが現在入っているビルの5階の同じ部屋にあった猫のブリーダーにアルバイトに来た10代の女性の視点から、ブリーダーの破綻の様子を描写しています。とても切ないストーリーです。そして、ほぼ全話に登場するのが中京こころのびょういんと同じビルの同じフロアに入っている日本健康第一安全協会、そうです、アノ怪しげな健康器具である磁気ネックレスを売っている会社の椎名彬です。当然ながら、なかなか真実に近づいてはいませんが、そのうちに何らかの悶着があって、このシリーズは終わるんだろうという気がします。謎めいた中京こころのびょういんですが、今少しシリーズが続くとしても、私の予想では10巻には至らないのではないか、という気がします。5巻かもう少しの数巻で完結するようなペースでストーリーが進んでいるように見受けます。でも、次が楽しみです。

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2024年10月 4日 (金)

前月から雇用者が254千人増加した9月の米国雇用統計をどう見るか?

日本時間の今夜、米国労働省から9月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は、8月統計で+159千人増から9月統計では+254千人増と大きく増加し、失業率も前月から▲0.1%ポイント低下して4.1%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

Jobs report: US employers add more than 250,000 jobs to blow past estimates
America's job market picked up in September, employment data from the Bureau of Labor Statistics shows, with U.S. employers adding 254,000 jobs.
The number was higher than the average monthly gain of 203,000 over the previous 12 months, according to the Labor Department, with jobs trending up in the food and drink industries, health care, government, social assistance and construction. Job growth blew past forecaster estimates and exceeded the revised August tally of 159,000 new positions.
The unemployment rate ticked down to 4.1% in September from 4.2% in August.
A strong jobs report was not what most economic forecasters expected. The job market was expected to show continued cooling in September. New hiring slowed over the summer, after a strong spring, as bad weather other seasonal factors dampened hiring.
"Wowza: HUGE jobs report," wrote Justin Wolfers, a University of Michigan-based economist, on X.
With the September jobs report, forecasters were looking for signs of stability. Hiccups in the labor market could point to a broader economic downturn, potentially disrupting the delicate balance of easing inflation and modest growth.
The new report does not reflect any of the chaos of the past week: Not the dockworkers strike that started Tuesday and tentatively ended Thursday, nor the tragic fallout from Hurricane Helene, which battered a broad swath of the Southeast in late September.
Now, financial markets will turn to the next question: Will the new jobs data sway the Federal Reserve's view on interest rates? Stronger-than-expected job growth could reaffirm the market's expectation the Fed will slow its new campaign of rate cuts.
The panel reduced interest rates by half a point at its September meeting. Economists expect a more modest quarter-point cut at the next meeting, in November, but weaker job data could rewrite the plan.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、ひとつの目安とされる+200千人を大きく上回って、9月統計では+254千人を記録しています。引用した記事の最後のパラにあるように、市場の事前コンセンサスでは雇用者増が+140千人、失業率が4.2%という見方でした。ですので、ミシガン大学のエコノミストが "Wowza: HUGE jobs report" と、Xに投稿するわけです。引用した記事の2パラ目にあるように、8月統計も先月の公表時の+142千人増が+159千人増に上方修正されています。他方、失業率は▲0.1%ポイント低下して4.1%に達しました。米国雇用はまったく減速していなかった可能性すらあります。ただし、注意すべき点として、7パラめにあるように、港湾ストライキやハリケーン「ヘリーン」の影響は次の10月の雇用統計に現れる可能性を忘れるべきではありません。
また、引用した記事の最後の2つのパラにあるように、金融政策動向も考えておべくきポイントです。広く報じられているように、連邦準備制度理事会(FED)は9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で50ベーシスの利下げを決定しました。11月の次回会合では25ベーシスの利下げが予想されていましたが、変更される可能性も否定できません。どうでもいいことながら、引用した記事の最後のセンテンスにある "weaker job data" という穂は、明らかに、"stronger job data" のカン違いだと思います。それはともかく、米国での利下げが後ズレする可能性があれば、日銀はどう対応するのでしょうか。石破新総理の変節しまくった不規則発言とともに、私は注目しています。

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2024年10月 3日 (木)

AI時代の経済政策の課題を考える

全米経済調査会(NBER)から、最近、"Economic Policy Challenges for the Age of AI" と題するワーキングペーパーが明らかにされています。まず、引用情報は以下の通りです。

次に、NBER のサイトからAbstract を引用すると以下の通りです。

Abstract
This paper examines the profound challenges that transformative advances in AI towards Artificial General Intelligence (AGI) will pose for economists and economic policymakers. I examine how the Age of AI will revolutionize the basic structure of our economies by diminishing the role of labor, leading to unprecedented productivity gains but raising concerns about job disruption, income distribution, and the value of education and human capital. I explore what roles may remain for labor post-AGI, and which production factors will grow in importance. The paper then identifies eight key challenges for economic policy in the Age of AI: (1) inequality and income distribution, (2) education and skill development, (3) social and political stability, (4) macroeconomic policy, (5) antitrust and market regulation, (6) intellectual property, (7) environmental implications, and (8) global AI governance. It concludes by emphasizing how economists can contribute to a better understanding of these challenges.

ワーキングペーパーからいくつか論点を取り上げたいと思います。まず、AIの進歩をプロットした Figure 1: The training compute employed by the most cutting-edge AI models doubled on average every six months for the past 15 years. Distributed under a CC-BY 4.0 license by Epoch を引用すると下の通りです。

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こういったAIの進歩に対応して、経済政策の課題も大きく変化しつつあります。先に見たAbstractでは下線を引いた8点が示されています。すなわち、(1) 格差や不平等と所得分配、(2) 教育とスキルの形成、(3) 社会的及び政治的安定、(4) マクロ経済政策、(5) 反独占政策及び市場規制、(6) 知的財産権、(7) 環境への影響、そして、(8) 世界的なAIのガバナンス、です。ただ、私が着目したのは歴史的な観点であり、経済学的な生産関数とともに近代少し前から以下の3つの歴史的なパラダイムを示しています。
(1) The Malthusian Age: Y = A F(T, L)
(2) The Industrial Age: Y = A F(K, L)
(3) The Age of AGI: Y = A F(K, L + M)

(1) マルサスの時代の生産関数は資本ストックは無視できるほど小さく、土地Tと労働Lで付加価値Yが生み出されています。技術Aの伸び率はとても小さく、ほぼ停滞していたとされています。(2) が私なんぞが大学で教えている主流派経済学の生産関数です。資本ストックKと労働Lをインプットして、付加価値Yがアウトプットとなります。付加価値であるYの一定期間の合計がGDPであると考えて差し支えありません。そして、(3) 汎用AIの時代の生産関数は以下のように解説されています。すなわち、"in which the new variable, M, captures machines, in the form of AI compute and robots. In this simple model, machines are a perfect substitute for human labor, i.e., for both human compute and human physical capabilities." 変数MはAIコンピューティングとロボットの形でマシンを捉え、生産関数においては資本ストックではなく、人間労働の完全な代替要素として生産関数に入ると考えています。
そして、汎用AIの活用による生産力の大きな拡大により、post-scarcity society の達成が可能性として浮上します。すなわち、"Post-scarcity is usually defined as a hypothetical economic condition where any goods required to meet human needs can be produced in great abundance and become freely available to all." というわけですので、私が想像しているマルクス主義的な共産主義経済と基本的に大きな違いはありません。主流派の経済学は希少性=scarcityにしたがって価格が形成されて、その価格にしたがって市場で効率的な資源配分がなされる、と考えています。より重要な点は、19世紀的な主流派経済学の最後の到達点は定常経済 steady state だったのでしょうが、21世紀の主流派経済はマルクス主義的な共産主義が経済の最後の到達点と考えるのかもしれません。まあ、私自身の考えとしては、汎用AIがなくても最終的には post-scarcity society ≈ 共産主義に達するような気がしないでもないのですが、汎用AIをうまく活用すれば達成が早まるのは疑問の余地がありません。
最後に、経済政策の課題 challenges for economic policy を8点上げていますので、これを引用して締めくくりにしたいと思います。

  • Challenge 1: Inequality and income distribution in an AGI world
  • Challenge 2: Education and skill development
  • Challenge 3: Social and political stability
  • Challenge 4: Macroeconomic considerations
  • Challenge 5: Antitrust and market regulation
  • Challenge 6: Intellectual property
  • Challenge 7: Environmental implications
  • Challenge 8: Global AI governance

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2024年10月 2日 (水)

わずかに上昇した9月の消費者態度指数をどう見るか?

本日、内閣府から9月の消費者態度指数が公表されています。9月統計では、前月からわずかに+0.2ポイント上昇して36.9を記録しています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者態度指数9月は0.2ポイント上昇、物価見通しも上昇=内閣府
内閣府が2日公表した9月の消費動向調査(2人以上の世帯、季節調整値)によると、消費者態度指数は前月比で0.2ポイント上昇の36.9となり、2カ月ぶりに改善した。基調判断は「改善に足踏みがみられる」で据え置いた。1年後の物価見通しはいまより上昇するとの回答者比率が93.1%と前月比で1.0ポイント上昇し3カ月ぶりに増えた。
4つの意識指標の前月比は、「雇用環境」が0.8ポイント改善した。「収入の増え方」も0.4ポイント、「耐久消費財の買い時判断」も0.1ポイント改善した。一方、「暮らし向き」は0.3ポイント悪化した。
1年後の物価見通しは、「5%以上上昇する」との回答比率が、8月の42.7%から46.6%に増えた。上昇率が「2%以上5%未満」、「2%未満」との回答比率はそれぞれ8月よりも低下した。

的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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消費者態度指数は今後の暮らし向きの見通しや雇用環境などについての消費者の意識について質問するものであり、4項目の消費者意識指標から成っています。9月統計では、引用した記事にある通り、前月から3指標が上昇しており、「雇用環境」が+0.8ポイント上昇し42.2、「収入の増え方」が+0.4ポイント上昇し40.1、「耐久消費財の買い時判断」が+0.1ポイント上昇し31.0となった一方で、「暮らし向き」は▲0.3ポイント低下し34.4となっています。消費者態度指数は、昨年2023年10月統計から6か月連続の上昇を記録した後、4-5月統計では2か月連続で低下し、6-7月統計では逆に2か月連続で上昇した後、8月統計では前月比横ばい、本日公表の9月統計では+0.2ポイントの上昇でした。引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「改善に足踏みがみられる」で据え置いています。5月統計で下方修正されてから5か月連続での「足踏み」です。年度始まりで物価改定が集中した4月、それに続く5月の2か月で大きく低下した後、まさに足踏みが続いています。
注目すべきは、引用した記事にもある通り、インフレを見込む割合が低下から上昇に転じた点です。すなわち、物価上昇を見込む割合は、昨年2023年12月の91.6%を底に6月統計まで上昇を続け、6月に93.8%を記録した後、7月93.2%、8月92.1%とジワジワと低下していましたが、本日公表の9月統計では+93.1%と再上昇に転じました。もちろん、90%を超えた結果で大きな変化はないという見方もできます。ただ、物価上昇を見込む90%超のうち、+5%以上の高いインフレを予想する割合が、引用した記事の通り、前月の+42.7%から今月9月統計では+46.6%に上昇しています。いずれにせよ、圧倒的に高い比率で物価上昇を見込む結果に変わりありません。ただ、9月17日に公表された日本経済研究センターのESPフォーキャストに示されたエコノミストの見方では、消費者物価上昇率は今年2024年7~9月期に+2.54%でピークとなり、その後も+2.5%から+2.2%で高止まりを続けるものの、来年2025年7~9月期になると日銀インフレ目標の+2%を下回る+1.91%まで物価上昇率が縮小すると予想されており、しばらくは日銀の物価目標を上回るインフレが続く見込みです。したがって、消費者マインドもいくぶんなりとも物価に連動する時期がしばらく続く可能性が十分あります。

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2024年10月 1日 (火)

金利上昇感が高まる日銀短観と堅調ながら改善局面を終えた可能性ある雇用統計

本日、日銀から9月調査の短観が公表されています。日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは6月調査から横ばいの+13、他方、大企業非製造業は+1ポイント改善の+34となりました。また、本年度2024年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+8.9%と、3月調査の+8.4%から上方修正されています。まず、日銀短観について日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業製造業の景況感、横ばい 9月日銀短観
日銀が1日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回6月調査(プラス13)から横ばいのプラス13だった。IT(情報技術)市況の回復を受け半導体などが伸び、電気機械が10ポイント改善しプラス11となった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。9月調査の回答期間は8月27日~9月30日で、回答率は99.2%だった。
大企業製造業の業況判断DIはプラス13と、QUICKが集計した民間予測の中央値(プラス13)と同じだった。自動車は5ポイント悪化のプラス7、先行きは2ポイント改善のプラス9だった。不正認証問題の影響が緩和しつつあるものの、8月の台風10号など自然災害による工場停止の影響が響いた。
大企業非製造業のDIは前回調査(プラス33)から1ポイント改善してプラス34だった。2四半期ぶりの改善となった。猛暑で夏物衣料など関連商品の需要が伸び、小売りは9ポイント改善のプラス28だった。宿泊・飲食サービスは3ポイント改善しプラス52だった。好調なインバウンド(訪日外国人)需要が押し上げ要因となった。
企業の物価見通しは全規模全産業で1年後は前年比2.4%、3年後は2.3%、5年後は2.2%となった。企業は政府・日銀が掲げる2%物価目標近くで推移するとみている。
24年度の設備投資好調、18.8%増計画 大企業製造業で
日銀が1日公表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の設備投資は引き続き好調を維持している。2024年度の大企業製造業の設備投資計画は前年度比18.8%の増加となった。23年度の増加率は11.1%だった。堅調な業績や人手不足を背景に省力化投資が活発となっている。
全規模全産業は8.9%の増加となった。好調だった23年度の10.6%には届いていないが、高い水準が続いている。
日銀が3月にマイナス金利政策を解除し、企業が金融機関から融資を受ける際の金利は以前より上昇している。借入金利が「上昇」と答えた企業の割合から「低下」の割合を差し引いた判断指数は全規模合計でプラス48となった。前回・6月調査から16ポイント上昇した。

いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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先週、日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては、製造業・非製造業ともにおおむね横ばい圏内との予想であり、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回6月調査から横ばいの+13、非製造業は▲1ポイント悪化の+32、と予想されていました。横ばい圏内の動きという意味でも、動きのマグニチュードでも大きなサプライズはありませんでした。すなわち、実績としては、短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが6月調査から横ばいの+13となり、また、大企業非製造業では+1ポイント改善して+34となりました。大企業製造業で少し詳しく見ると、自動車が6月調査の+12から9月調査では+7と▲5ポイント悪化した一方で、電気機械が+1から+11に10ポイントの改善を見せています。自動車は認証不正のどうこうにより、やや神経質な動きを示していると私は受け止めています。大企業非製造業では、小売が+19から+28に+9ポイントの改善を見せています。昨日経済産業省から公表された商業販売統計でも小売販売は堅調な動きを見せていますし、景況感に関しては 概ねハードデータとソフトデータの整合性は十分あるような気がします。
先行きの景況感については、製造業については大企業・中堅企業・中小企業ともに、これまた、横ばい圏内ないし小幅な改善の動きを予想していますが、私としては為替レートの動向を懸念しています。非製造業については規模にかかわりなく悪化の方向が示唆されています。非製造業の中でも、特に、いずれの業種でも先行きマインドが悪化すると見込まれています。想定為替レートは、引用した記事にもある通り、6月調査の144.77\/$から9月調査では145.15\/$へと、ジワリと円安方向に修正されています。でも、足元の為替はこれよりわずかとはいえ円高水準ですので、今後、想定為替レートが円高方向に変更される可能性が高いと私は予想しています。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学における生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感の払拭と不足感の拡大が見られます。特に、雇用人員については足元から目先では不足感がますます強まっている、ということになります。グラフを見ても理解できる通り、大企業・中堅企業・中小企業ともコロナ禍前の人手不足感を上回っています。今春闘での賃上げが高水準だった昨年をさらに上回った背景でもあります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、名目賃金が物価上昇以上に上昇して、実質賃金が上向くという段階までの雇用人員の不足は生じているかどうかに疑問があり、その意味で、本格的な人手不足かどうか、賃金上昇を伴う人で不足なのかどうか、については、まだ、私は日銀ほどには確信を持てずにいます。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではない可能性があるのではないか、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私にはまだ謎です。実質賃金、すなわち、名目賃金が物価上昇に見合うほど上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感が大きくなる段階には達していません。要するに、低賃金労働者が不足しているだけであって、低賃金労働の供給があれば、生産要素間で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れである可能性を感じます。

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続いて、設備投資計画のグラフは上の通りです。設備投資計画に関しては、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、大企業全産業で+13.9%増でしたが、実績は+10.6%増でしたのでやや下振れました。規模別に見ると、繰り返しになりますが、大企業が6月調査の+11.1%増から下方修正されて+10.6%増、そして、中堅企業が+9.0%増から上方修正されて+9.5%増、中小企業は▲0.8%減から大きく上方修正されて+3.5%増と、人手不足を設備で要素間代替を試みるような動きが観察されます。大企業に比べて規模の小さい企業での人員増が厳しく、設備投資で代替させようとの動きと私は受け止めています。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。今回の9月調査では全規模全産業で+8.9%増の高い伸びが計画されています。6月調査よりも上積みされました。カーボンニュートラルを目指したグリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた投資がいよいよ本格化しなければ、ますます日本経済が世界から取り残される、という段階が近づいているような気がして、設備投資の活性化を期待しています。ただ、GDPベースの設備投資やその先行指標である機械受注などのハードデータと日銀短観に示されたソフトデータの間でまだ不整合があるような気がします。

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日銀短観の最後に、借入金利水準判断DIの推移は上のグラフの通りです。上昇から低下を差し引いた%ポイントで表示されているDIをプロットしています。日銀が今年2024年3月からゼロ金利を解除して利上げに踏み切り、米国連邦準備制度理事会(FED)などの先進各国中央銀行が利下げを進める中で、金融引締めの姿勢を崩していません。企業ではなく家計対象なのでしょうが、住宅ローン金利についてもいくつかのメガバンクなどで引上げが予定されていることは、広く報じられているところです。足元で金利が上昇していて、かつ、目先でさらに金利が上昇する可能性が高いわけですが、全規模全産業の借入金利水準の判断DIは、当然ながら、上昇超という判断が多くなっています。しかも、グラフを見ても理解できる通り、急速に金利上昇感が高まっています。すなわち、6月調査時点では上昇超が+32であったのが、9月調査では最近時点で+48と+16ポイント上昇し、さらに、先行きは+54と足元の最近よりもまたまた+6ポイント上昇するとの結果です。これを日銀がどう判断するかについても私は気にかかっています。すなわち、「多くの企業が金利上昇を織り込んだ」と解釈して、そのまま金利の再引上げに突っ走る可能性が否定できません。何とも気がかりなところです。

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日銀短観を離れて、本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも8月の統計です。それぞれの統計については、失業率は前月から+0.2%ポイント低下して2.5%と改善した一方で、有効求人倍率は前月を▲0.01ポイント下回って1.23倍と悪化しています。いつもの雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、失業率は前月から▲0.1%ポイントの低下して2.6%、また、同じ日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、有効求人倍率は前月から横ばいの1.24倍が見込まれていました。人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率は低く、有効求人倍率も1倍を超えていることから、雇用は底堅い印象ながら、そろそろ改善局面を終えた可能性がある、と私は評価しています。

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