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2024年11月 2日 (土)

今週の読書は税制に関する経済書をはじめ計8冊

今週の読書感想文は以下の通り計8冊です。
まず、林正義『税制と経済学』(中央経済社)は、東大教授による税制に関する経済書です。続いて、吉岡友治『ややこしい本を読む技術』(草思社)は、難易度の高い本を読む際の留意点をいくつか指摘しています。続いて、新名智『雷龍楼の殺人』(角川書店)は、ややトリッキーながら斬新なアイデアを詰め込んだ「読者への挑戦状」つきの本格ミステリです。続いて、桂幹『日本の電機産業はなぜ凋落したのか』(集英社新書)は、日本のリーディング・インダストリーであった電機産業の凋落について5つの要因から分析を試みています。続いて、小宮一慶『コンサルタントが毎日見ている経済データ30』(日経文庫)は、日本経済を把握するためにマクロ経済などの指標を取り上げています。続いて、チャールズ R. ダーウィン『ビーグル号航海記』上下(平凡社ライブラリー)は、ほぼ200年前の英国測量船ビーグル号の航海の詳細を『種の起源』で進化論を唱えたダーウィンが取りまとめています。続いて、絲山秋子『御社のチャラ男』(講談社文庫)は、芥川賞作家が地方の食品企業の部長をしているチャラ男の実態をさまざまな関係者の視点からあぶり出そうと試みています。
今年の新刊書読書は1~10月に265冊を読んでレビューし、11月に入って本日の8冊も入れて273冊となります。たぶん、年間300冊に達するペースだろうと思います。新書の積読もがんばって読んだものの、さらに借りたり、買ったりもあって、なかなか新書の積読が減ってくれません。なお、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。

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まず、林正義『税制と経済学』(中央経済社)を読みました。著者は、東京大学経済学部教授であり、ご専門は財政学です。本書は中央経済社の月刊誌『税務弘報』に連載されていた記事を取りまとめています。かなり学術書に近いレベルであると考えるべきです。でも、実際に税務に携わっているビジネスパーソンであれば、十分読みこなせると思います。決して難解な内容ではありませんし、結論は多くの方が納得できるものだと思います。ということで、冒頭に公的言説として以下の7点を上げています。すなわち、(1) 高い労働所得税は勤労意欲を削ぐ、(2) 最高税率を上げても税収増には貢献しない、(3) 高い累進課税は高額所得者の海外流出に繋がり、ひいては税収の減少を招く、(4) 配偶者控除は女性の社会進出を阻害している、(5) 相続税は事業継承を阻害し、日本経済に悪影響を与えている、(6) 法人課税は日本経済の成長に悪い影響を与える、(7) 軽減税率を設けることによって低所得者を助けることができる、といった言説です。まあ、印象的には、これらはやや怪しく、本書で検証する、というスタイルです。本書では新たに著者独自の定量分析を行っているわけではありませんが、既存研究をサーベイすることにより、こういった言説の信頼性について回答を試みています。まず、既婚女性のパート収入をヒストグラムでプロットすると、年収95-100万円のクラスで集群=バンチが見られ、個人の予算線の屈折=キンクや離断=ノッチを示唆していると指摘しています。ただし、マイクロシミュレーションの結果によれば、配偶者控除全廃による労働供給の増加の効果は小さいとの研究成果を示していて、税制と社会保険料制度に整合性ある制度設計を求めています。まあ、結論はよく判らない、ということのようです。ただ、総選挙で国民民主党が訴えていた「103万円の壁」やほかに主婦層の労働供給を制約している可能性ある税制や配偶者控除の「壁」については、それほど効果あるという結論は見られないとしています。続いて、個人所得税の累進課税については、日本では現行55%である最高税率をさらに上げる余地は十分にあると結論しています。私もそう思います。富裕層に対して減税をし過ぎである可能性が示唆されています。また、フリードマン教授による負の所得税についても理論的な紹介をしています。さらに、税制による再分配については、資産が移転される時点での相続税よりも、資産保有税の方が格差是正には有効と、まあ、これは従来からの定説を改めて確認しています。企業に対する法人税についてはGechert and Heimbergerのメタ分析の結果を取り上げ、法人税率は経済成長には影響しない、という、これまた、かなり確立された結論を示しています。唯一、実効平均税率(EATR)だけが統計的に有意な負の影響を持つが、出版バイアス、すなわち、法人税率と成長率に負の相関を持つ論文の方が査読を通りやすい、というバイアスを考えれば、総合的に判断して、法人税率は成長率への影響力を持たない、と結論している旨を紹介しています。最後に、消費税については、これまた有名なAtkinson and Stiglitzの理論研究に基づき、労働(あるいは、その逆の余暇)と財消費が分離できるならば、消費課税は冗長=redundantであり、所得課税だけで十分、という結論を紹介しています。最後を締めくくって、いわゆるEBPM=Evidence Based Policy Makingの重要性を強調しています。

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次に、吉岡友治『ややこしい本を読む技術』(草思社)を読みました。著者は、よく判らないのですが、論理的文章の指導や小論文の添削指導などを主催しているようです。本書に何らかの関連ありそうないくつかの経歴の中では、駿台予備校や代々木ゼミナールといった予備校講師の職歴が目につきました。こういった要領よく本を読むという技術はそのあたりで活用できそうな気がします。本書は5部構成となっていて、第1部で読む前の準備、第2部で読みながらすべきポイント、第3部で読み返しつつ考える、第4部で実際のややこしい大著を読む際の注意点、最後の第5部では会読のすすめ、となっています。第1部の準備編は明らかで、特に本書で指摘されるまでもないのですが、要するに、ややこしい本のタイトルと目次から、ある程度のあたりをつける、という作業といえます。ややこしい本でなくても、買ったり、借りたるする際にはタイトルと目次くらいはチェックするものと思います。タイトルと目次に加えて、著者についてもチェックしておけば、本の中身に関する事前知識が得られるのではないか、という気もします。第2部では、読んでいる最中には、取り上げられている問いとその荒っぽい回答、さらに、論理の流れなどの要旨をつかむ必要性が説かれています。まあ、当然です。第3部では、ややこしい本ですので1回読むだけでなく読み返すこともアリ、ということで、論理の流れや構造を深めたり、別の本と比較したりといったことが理解を深める上で有益、という、これまた、当然のことが主張されています。その上で、第4部では10年ほど前にはやったピケティ教授の大著『21世紀の資本』を題材にして、実際にあらすじを紹介して読んでみるという実例を示しています。私は『21世紀の資本』は専門分野の経済学の本でもあり、当然に読んでいますので、このあたりは軽く読み飛ばしていますが、未読の向きには、あるいは、参考になるかもしれません。そして、最後の第5部では読書会がいいと推奨しています。私は「会読」と追う言葉は初めて目にしましたが、まあ、漢字で表現されていますので、いわんとするところは十分理解できます。巻末に、読むべき「ややこしい本」リストが収録されています。年代別に10代から始まって、50代以上まで、なるほどと納得感のある本がリストアップされています。最後に、私の感想を付け加えておくと、本書でいうところのややこしい本、あるいは、その中でも難易度の高い本は特にそうですが、そうでなくても、多くの読書でもっとも厄介なのは冒頭部分を的確に読むことだ、と私は考えています。私が読書する際には、冒頭50ページほどと残り250ページと、同じくらいの時間をかけるケースが決して稀ではありません。逆に、冒頭をスンナリと理解できれば、残りの部分の読書がはかどるような気もします。ということで、本書は単なる読書のススメではなく、表現はビミョーながら、難易度の高い本を読むススメのようなものだと考えて差し支えありません。そういった本に挑戦する場合には、何かの参考になるかもしれません。ならないかもしれません。

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次に、新名智『雷龍楼の殺人』(角川書店)を読みました。著者は、ワセダミステリクラブご出身のミステリ作家であり、2021年に『虚魚』で第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞を受賞してデビューしています。小説の舞台は富山県の沖合に浮かぶ油夜島と東京です。まず、油夜島にある外狩一族の屋敷である雷龍楼において、2年前に密室で4人が不審な一酸化炭素中毒事故により命を落とす事件が生じています。その事件で両親を失った中学生の外狩霞は、東京にいる従兄弟の高森穂継の家へ身を寄せていたのですが、下校途中、何者かに誘拐されてしまいます。その外狩霞を助けるために誘拐犯の指示に従って、油夜島にある雷龍楼に高森穂継がやって来ます。しかし、高森穂継が到着した夜にいきなり密室殺人事件が起こり、さらに連続殺人事件に発展します。高森穂継は屋敷の外狩一族や使用人から犯人ではないかと疑われてしまい、そのままでは、誘拐犯の要求も果たすことができないことから、誘拐犯は外狩霞に対して真犯人探しに協力するように迫ります。ということで、ミステリですのであらすじの紹介はここまでとします。まず、小説開始早々20ページに「読者への挑戦」が示されます。しかもその末尾に油夜島で起こる連続殺人事件の犯人の名前が明らかにされ、その上、叙述トリックも存在しない、と宣言されます。ですので、私は決してすべてのミステリを読み切ったわけでもなく、それほどミステリに素養があるわけでもないのですが、それでも、過去に類例のない趣向を盛り込んだ本格ミステリであることは理解できました。この点は、とても明確です。例えば、外狩霞が推理に一定の役割を果たす、というか、誘拐犯にそのように要求されるのですが、その外狩霞は誘拐されていて自由を奪われていて、通話でのみ油夜島の雷龍楼の現場の状況を伝えてもらって推理する、という形式を取っていて、これはとても斬新でした。また、このミステリは、いわゆるクローズド・サークルの密室殺人事件の謎解きではありません。ただし、私も含めて、結末はとてもトリッキーであると受け止める読者もいそうな気がします。その中には、ひょっとしたら、本書で示される真相に納得しない読者もいる可能性が否定できません。私も、本書の結末はそうかも知れないけれども、別の可能性ある真相が考えられるんではないか、という疑問は払拭できませんでした。すなわち、最近はやった夕木春央の『方舟』みたいなものです。逆に、ものすごく高く評価する読者もいそうな気がします。決して多数派ではないと私は思いますが、ひょっとしたら、今年のベスト級のミステリと感じる読者がいても不思議ではありません。読んでみてのお楽しみです。

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次に、桂幹『日本の電機産業はなぜ凋落したのか』(集英社新書)を読みました。著者は、ほぼ私と同年代で、TDKのサラリーマンを長らくお務めです。また、著者のご尊父さまは早川電機からシャープの副社長までお務めであったそうで、親子2代に渡っての電機産業ご勤務の経験から本書の執筆に至っているようです。ということで、本書のタイトル通り、長きに渡って日本の製造業、特に電機産業と自動車産業は我が国のリーディング・インダストリーであり、世界水準で強い競争力を持っていました。自動車産業は今でもいくぶんなりとも競争力を維持していますが、電機産業の凋落ぶりは目を見張るものがあります。例えば、今月になって、船井電機が500億円近い債務を抱えて破産したことが広く報じられていますし、それ以前にも、三洋電機、シャープ、東芝などが苦境に陥ったとの報道を数多く目にしてきました。本書は5章構成で、その原因を5つ上げるとともに、最終第6章で提言を試みています。電機産業凋落の原因となる5点は、本書で取り上げられている順に、(1) 誤認、(2) 慢心、(3) 困窮、(4) 半端、(5) 欠落、と章タイトルで名付けられています。まず、最初の誤認とは、デジタル化の進展で差別化が困難となり、価格競争の世界に突入したことを見抜けずに、高品質とか高性能にこだわり続け、プラットフォーム・ビジネスでも、技術でも大きな遅れを取った、と指摘しています。第2の慢心については、台湾や韓国企業の成長に対する上から目線の根拠ない優越感に基づいており、特に説明は必要ないものと考えます。第3の困窮は、私の専門領域である経済分野のプラザ合意による強烈な円高です。デジタル化で価格競争の世界に入り、円高で輸出競争力が大いに殺がれてしまったわけです。第4の半端については、いわゆる日本的経営の下で、ダイバーシティ経営が進まず、賃上げにも消極的で従業員のエンゲージメントを高められなかった、と指摘しています。ただ、それでは、米国やアングロ・サクソン的な経営に優位性を認めるのか、というと、それも違うような気がします。第5の欠落とはビジョンやミッションを明らかにできない経営を批判しています。もちろん、これがエンゲージメントの向上を阻害していることはいうまでもありません。本書では指摘していませんが、ジョブズなどのカリスマ的な、というか、事業の将来を見通した展望を持っている経営者をビジョナリー=visionaryというのと共通する部分を私は感じました。日本の経営者には、昭和の時代はともかく、それ以降は経営者にビジョナリーがいないわけです。私自身はキャリアの国家公務員を60歳の定年まで勤め上げた後、大学教員に再就職したエコノミストですから、隣接領域の経営学についてはまだしも、工学的な技術については不案内です。でも、電機産業がかなり大きく凋落ないし衰退したことは事実であり、経済学的な比較優位構造の変化だけでは説明できないと受け止めています。その意味で、事業所や企業という単位で最適化行動を行うのと違って、産業というメゾスコピックな単位での分析ながら、大いに得るものがあった読書した。さらに進んで、ガソリン車から電気自動車や燃料電池自動車といったハード面での大きな技術革新、さらに、ソフト面でも自動運転技術の導入という岐路に立っている自動車産業、そうです、我が国のもうひとつのリーディング・インダストリーの将来についても、同時に考えさせられるものがありました。ただ、最後の提言にある雇用の流動化はやや的外れ、という気がします。そこに電機産業凋落の主たる原因があるわけではありません。

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次に、小宮一慶『コンサルタントが毎日見ている経済データ30』(日経文庫)を読みました。著者は、タイトル通りコンサルタントであり、小宮コンサルタンツ代表です。私は官庁エコノミストから大学教員で経済学を主たる活動領域としてきましたので、さすがに、本書についてはとっても入門書であると感じましたが、逆に、大学入学直後の学生などにはいいかもしれないと感じました。第1章で、マクロ経済の動向を把握するうえで重要な役割を果たす失業率やGDPを取り上げた後、第2章で、日銀短観や景気ウォッチャーなどのマインド指標のソフトデータに加えて、景気動向指数の先行指数などの先行指標を景気の先行きを考えるとの観点から注目しています。第3章で、マクロ指標から個別の産業指標に移って、コロナ禍のとても極端であったころの経済を反映する旅行業界のデータなどに着目した後、第4章で、金融指標を取り上げています。ただ、金融に関しては、指標のほかに特に必要もなく現時点でのカギカッコ付きの「主流派」と同じ見方を提供しているだけで、黒田総裁の時期の異次元緩和はやりすぎだったので、早く金利を引き上げて、これまた、カギカッコ付きの「金融正常化」を進めるべきである、という旧来の日銀理論を特段の理論的根拠なく展開しています。そして、最後の第5章はお約束の株式投資に役立つ指標の解説で本書を締めくくっています。私はその昔の長崎大学に出向していたころに、少し経済学の基礎を身につけたであろう2回生向けに、いくつかのマクロ経済指標のデータをインターネットからダウンロードしてグラフを書いたりする小集団授業を担当していたことがあります。そこで教科書として使っていた本は、かなり前に絶版になってしまって入手できませんので、いくつか類似の本を買って読んでみました。中では、たぶん、森永康平『経済指標 読み方がわかる事典』がいいような気もします。というのは、経済指標を客観的科学的に解説しているからです。本書については、特段の根拠なく著者の好みでいろんな経済指標に対する解釈などが付加されており、少なくとも私は少し違和感覚えるものも散見されました。最後を投資のススメで締めくくっているのも、少し気がかりです。いずれにせよ、大学低回生にはマッチする内容だという気がする一方で、本書がとっても参考になったというビジネスパーソンがいるとすれば、少し勉強が足りないんじゃあないの、という気もしないでもありません。

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次に、チャールズ R. ダーウィン『ビーグル号航海記』上下(平凡社ライブラリー)を読みました。著者は、進化論で有名な科学者です。ニュートンやアインシュタインなどとともに、世界でももっとも有名な科学者の1人だろうと思います。本書の英語の原題は The Voyage of the Beagle であり、ほぼ200年前の1831年から5年かけて世界を一周したイギリス海軍の測量船ビーグル号に同乗した若き日のダーウィンが、南アメリカ大陸沿岸や南太平洋諸島をめぐって各地の地質や動植物をつぶさに観察した日記体の調査記録です。すでに、1959年に岩波書店から3巻から成る『ビーグル号航海記』が出版されているのですが、今年になって「完訳」と銘打って、本書が刊行されています。私は岩波書店版を読んでいないので比較はできませんが、本書はとても読みやすくて、ダーウィンのもっとも有名な『種の起源』といった学術書でもなく、一般読者にも受け入れられやすい出版となっている印象です。ひとつの理由は、『種の起源』が学術書であるというだけではなく、1859年、すなわち、このビーグル号の航海から30年近くを経過して出版されている上に、その翌1860年から早くも改訂に入って、結局、13年にわたって加筆修正が加えられて第6版まで版を重ねている一方で、本書『ビーグル号航海記』は航海それ自体はダーウィンが20代のころ、20代半ばから後半で、出版はせいぜい30歳そこそこという時期の出版物だから、というの取っつきやすい理由であると思います。ですので、上巻の表紙画像はとてもミスリーディングであり、ビーグル号で航海したり、その紀行文を出版したころのダーウィンはもっと若々しかったハズです。ということで、とっても前置きめいた部分が長くなりましたが、航海をしたビーグル号は英国を発って大西洋を南に下り、アフリカ西岸やブラジル・アルゼンチンといった南米東岸を進みます。パタゴニアからティエラ・デル・フエゴなど、ほぼほぼ植生や動物などの限られた不毛の地を経て、マゼラン海峡を通って大西洋から太平洋に抜けます。チリの海岸を北上し、かのガラパゴス諸島に寄港するわけです。この第17章のガラパゴス諸島が本書のハイライトと考えるべきですが、ページ数から考えて、それほど大きなボリュームが割かれているわけではありません。まあ、フツーという感じです。ただ、ガラパゴス諸島の後はかなり省略、というか、ビーグル号が航海した距離に比較して本書の記述ボリュームが極端に少なくなっている気はします。タヒチとニュージーランドからオーストラリア、キーリング島とモーリシャスを経て、さっさと英国に帰国してしまった印象です。まあ、ガラパゴス諸島を別にすれば、太平洋はすでに調べ尽くされていたのかもしれません。いずれにせよ、出版から200年近くを経て、歴史上に燦然と輝く名著であることは確かであり、おそらく、100年後も名著であり続けることと私は考えています。完訳が出版された機会に読んでみるのもオススメです。大いにオススメです。

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次に、絲山秋子『御社のチャラ男』(講談社文庫)を読みました。著者は、芥川賞作家です。ですので、本書も純文学なのでしょうが、やや大衆文学、というか、エンタメに近い印象です。ただ、本書のチャラ男は、世間一般で考えられている「チャラ男」とは少し違っています。おそらく、世間一般に考えられているチャラ男は、20代かせいぜいが30代前半くらいの男性で、外から見た格好としては、髪の毛は金髪ではないにしても明るめで、アクセをいっぱい使っていて、ピアス穴は3つくらいあり、ヨーロピアン・ブランド、たぶん、イタリアのスーツを着て、エナメル靴の先端が尖っている、といったものではないでしょうか。こういった外見に加えて、言動は思いつき次第で責任を持つわけではなく、行動もご同様、言動も行動も軽くて、でも世渡り上手、といったイメージではないかと思います。というか、私はそうでした。でも、本書のチャラ男は創業者社長のコネで入社した部長級職員、というか、部長そのものなのですが、社内外から「チャラ男」と見なされています。本書の舞台は、明示されていないながら、何となく、北関東をイメージさせる地方の食品会社で、オイルやビネガーを取り扱っているジョルジュ食品です。そして、本書は16章から構成されていて、このチャラ男こと三芳部長のチャラ男としての本質そのたを、ご本人も含めた多くの社内外の関係者の視点からあぶり出そうと試みています。私は読んでいてとてもしっかりしたリアリティを感じました。ただ、このチャラ男こと三芳部長が実際にやっているのはかなり深刻なものもあり、例えば、仕事が出来ないにもかかわらず、なんとか仕事が出来るように周囲に見せかけ、でも誰も騙すことが出来ない、とか、部下に理不尽な仕事を押し付ける、とかのあたりまではよく見かけるとしても、社員へのいじめにとどまらず不倫にまで及んだり、明確な犯罪行為である横領をしたりします。ですので、決して、「サラリーマンあるある」ではないのですが、本書は実にサラリーマン小説、というか、会社員小説であるという点は強調しておきたいと考えます。この作者の芥川賞受賞作品の主人公もサラリーマンだったと記憶しているのですが、本書ではさらにサラリーマンの業務上の実態を詳しく描写しています。チャラ男の周囲も、盗癖があって万引きで警察に捕まる中年男とか、ややハチャメチャで通常の会社ではないところもあるのですが、救いはラストにあります。ラストには希望が見出だせます。感動とか、爽快とまではいいきれない部分は残りますが、でも、このラストがあることで本書を読んだ甲斐があった、と感じることが出来ると思います。

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