+2.9%の高い伸びとなった10月の企業向けサービス価格指数(SPPI)は物価と賃金の好循環を示しているのか?
本日、日銀から10月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月からわずかに縮小して+2.9%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについては前月と同じ+2.8%の上昇となっています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
企業向けサービス価格10月は2.9%増、指数は95年以来の高水準=日銀
日銀が26日公表した10月の企業向けサービス価格指数は、前年同月比プラス2.9%の108.7と、バブル崩壊後の1995年6月以来の水準まで上昇した。価格改定時期で幅広く値上げが実施されたが、とくに人件費や燃料費などのコスト上昇を背景に郵便料金が改定されたことが主要因と日銀は分析している。高人件費率サービスも3.3%上昇、外航貨物輸送やインターネット広告もプラスに寄与した。
前年比プラスは3年8カ月連続。10月は4月と並び企業の多くが価格改定をするタイミングで、前月比でも0.8%上昇した。
人件費が上昇する局面では消費者物価のサービス指数よりも企業向けサービス価格の方に早く反映される傾向があることから、民間エコノミストの間では注目度が高い。
日銀は金融政策を運営するに当たり、賃金と物価が関連し合いながら伸長していく好循環の実現を注視している。
大和総研エコノミストの中村華奈子氏は、企業間サービスでは、コストの転嫁が進み循環的な物価の上昇が根付きだしていることが改めて確認できたが、日銀がより重視する消費者物価のサービスは、価格転嫁の遅れもあり思ったより強くないとみる。
中村氏は「今日のデータだけで、賃金と物価の好循環が実現していると手放しで喜ぶのは危険だ」と指摘。12月中旬の金融政策決定会合で日銀の追加利上げを予想する市場関係者もいるが、日銀は1-3月まで待つだろうとし、「春闘の見通しをはじめ、あらゆるデータを見るデータディペンダントな姿勢を日銀は崩さないだろう」との見方を示した。
企業向けサービス価格指数は不動産や運輸、金融、広告など企業が提供している各種サービス価格の傾向を示すため日銀が公表している指数で、内閣府の国内総生産(GDP)統計を算出するための基礎統計としても利用されている。
もっとも注目されている物価指標のひとつですから、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。
上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速はいったん終了したように見えたのですが、今年2024年年央時点で再加速が見られ、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は10月統計で+3.4%を示しています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準として一貫して上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、昨年2023年11月に+2.8%まで加速し、さらに今年2024年6月統計では+3.2%まで加速した後、本日公表された10月統計では+2.9%と高止まりしています。1年超の16か月連続で日銀物価目標である+2%以上の伸びを続けているわけです。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なります。しかし、いずれにせよ、+2%超の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性があります。ただし、真ん中のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、物価上昇率が高止まりしていることは事実としても、インフレが+2%を大きく超えて加速する局面ではない、と私は考えています。また、人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率と高人件費比率のサービスの違いに大きな差はありません。引用した記事の通り、10月統計の前年同月比で見て、高人件費率サービス+3.3%、低人件費率サービス+2.8%の上昇となっています。ですので、人件費率に関係なく+2%超の価格上昇が見られる点は忘れるべきではありません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて10月統計のヘッドライン上昇率+2.9%への寄与度で見ると、機械修理や宿泊サービスや土木建築サービスなどの諸サービスが+1.66%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分超を占めています。人件費以外の原材料やエネルギーなども含めて、コストアップが着実に価格に転嫁されているというのが多くのエコノミストの見方ではないでしょうか。ただし、諸サービスのうちの宿泊サービスは前年同月比で9月統計では+17.1%の上昇と、引き続き高止まりしています。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている項目として、10月から郵便料金が値上げされた郵便・信書便、石油価格の影響が大きい道路貨物輸送や旅行サービスなどの運輸・郵便が+0.53%、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.29%、ほかに、景気敏感項目とみなされている広告+0.22%、リース・レンタル+0.15%などとなっています。
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