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2024年12月31日 (火)

よいお年をお迎え下さい

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あと数時間で新年です。
みなさま、よいお年をお迎え下さい

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2024年12月30日 (月)

東洋経済オンライン「有名企業への就職に強い大学」ランキングTOP200やいかに?

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東洋経済オンライン「有名企業への就職に強い大学」ランキングTOP200から 有名企業400社への実就職率が高い大学 を引用しています。1-50位までです。「有名企業400社」とは、注にあるように日経平株価指数の採用銘柄や会社規模、知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に選定されているようです。関西系の企業では、私の想像ながら、株式未公開企業であってもサントリー何かが入っているんではないか、と思います。私も勤務校もランキング50位以内には入っているようです。でも、工科系の大学が多いようで、私のよく知らない大学もいくつかあります。

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2024年12月29日 (日)

そろそろ年賀状仕舞いを考える

一応、2025年まで紙の年賀状を出すことにしました。でも、この画像を元に、来年からは画像をLINEやメールで送る方式に変更し、2025年で紙の年賀状仕舞いにしようか、と考えているところです。

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2024年12月28日 (土)

物欲に負けた年末の買い物

物欲に負けてロードバイクをまたまた買ってしまいました。たぶん、今年最後の大きな買い物です。

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今年最後の今週の読書は経済書のほか新書をがんばって計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、内田浩史『現代日本の金融システム』(慶應義塾大学出版会)は、金融システムの評価に関する視点や基準を示しつつ、日銀の黒田前総裁が導入した異次元緩和を強く批判しています。荻原浩『ワンダーランド急行』(日本経済新聞出版)はパラレルワールドに迷い込んだサラリーマンの物語です。諸富徹『税と社会保障』(平凡社新書)は社会保障の財源について、保険料と消費税の二者択一にとらわれずに別の財源についての議論を展開しています。山下慎一『社会保障のどこが問題か』(ちくま新書)は、憲法において労働=勤労を義務とした点について、「働かざる者食うべからず」の原則性について検討しています。山本謙三『異次元緩和の罪と罰』(講談社現代新書)は、まさに現在の建材論壇の時流に乗って、日銀のかつての異次元緩和を強く批判しています。布施祐仁『従属の代償』(講談社現代新書)は、安全保障の面で軍事的な観点から米軍に従属することの是非を論じています。
今年の新刊書読書は合わせて325冊となります。なお、このブログ以外でもFacebookやmixiやmixi2、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでもシェアする予定です。

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まず、内田浩史『現代日本の金融システム』(慶應義塾大学出版会)を読みました。著者は、神戸大学経済学部教授です。本書では前半で金融システムを評価する視点や基準などを提示した後、後半で現在の日本の金融システムを評価しようと試みています。実際には、第5章で1980年代後半から1990年代初のバブルの生成と崩壊を、第6章で1990年代初から2000年代初までくらいの不良債権と金融危機を、そして、第7-8章で1990年代から2010年代くらいまでの失われた30年の時期を、それぞれ分析対象としています。そして、とっても時流に乗っかっていることに、2013年から10年間の当時の黒田総裁による異次元緩和に対して強い批判を加えています。第2章が、少し専門的知識ないとムダに長く見えるのですが、金融システム評価のための理論的枠組を提示しています。ここでも指摘されているように、金融システムのもっとも重要な機能のひとつは決済といえます。でも、この点はそれほど本書では重視されていないようです。もうひとつは物価の安定を通じたマクロ経済の安定です。そして、本書や類書で忘れられているように見えてしまうのが、金融システムというのは日本経済のサブシステムのひとつである点です。本書でもそうなのですが、その昔に「原子力ムラ」というグループを揶揄するかのごとき言葉がありましたが、本書でも「金融ムラ」の視点が大きく打ち出されていて、せいぜいが黒田総裁当時の異次元緩和はデフレ脱却を達成できなかった、などの視点からのみ判断されていているきらいがあります。私が強く意識している経済のもっとも重要な目標のひとつは、実に幸いにもケインズ卿と同じで、雇用だと考えています。国民それぞれのスキルに応じてふさわしい内容の仕事で、日本国民としてふさわしい生活が送れる所得が得られることがもっとも重要なマクロ経済政策の要のひとつと私は考えているわけです。もちろん、黒田総裁のころにも賃金が低迷を続けたという点は事実ですし、賃金動向を背景にデフレ脱却が十分に達成できなかったのも事実といえます。ただ、サブシステムである金融だけを取り出して評価するような本書の視点は少し疑問を感じています。もちろん、現在の植田総裁の下で異次元緩和の修正が図られていて、繰り返しになりますが、その流れに乗っかった時流に聡い経済分析ですので、現時点での経済論壇を把握する点では大いにオススメです。

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次に、荻原浩『ワンダーランド急行』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、小説家です。本書は日経新聞の連載を単行本として出版しています。ということで、主人公はイベント企画会社のサラリーマンであり、結婚はしていますが、子どもはいません。ある日、通勤で向かう都心と反対方向の下り電車に乗ってしまいます。終着駅の駅前にあるよろずやのようなお店で食べ物とビールを買って、スーツ姿のまま山の中をさまようところまではいいのですが、戻ってくると誰もマスクをしておらず、どうもパラレルワールドに入り込んでしまっていました。主人公は何とか元の世界に戻るべく悪戦苦闘します。

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次に、諸富徹『税と社会保障』(平凡社新書)を読みました。著者は、京都大学経済学部教授です。本書では急速に進む少子高齢化の日本で、社会保障の財源をどのように確保するべきかに関して考察しています。日本では社会保障財源は、医療保険だけでなく、年金や介護も含めて保険料を主たる財源としている場合が少なくありません。大きな例外のひとつは生活保護なのですが、生活保護は最後のセーフティネットですから、税財源に頼るのは当然といえば当然です。もちろん、社会保険料だけでは財源として不足しますので、一般財源として税金が投入されているのは当然であり、その意味で、社会保障財源は社会保険料と税金、特に消費税の二者択一と考えられてきました。本書では、子育て支援政策の検討を通じて、この保険料と消費税の二択ではなく、資産課税の方向性の検討を加えています。詳細は読んでみてのお楽しみなのですが、日本では税制の累進度合いが非常に低くて、高所得者に有利な税制となっている点は、いわゆる「1億円の壁」として、申告所得が1億円を超えると逆に税率が低下する、という極めて不自然な状況からもうかがうことができます。私が授業で使っている範囲でも、OECD Growing Unequal (2008) なんかでも税制の不平等是正機能が弱いと指摘されているところです(例えば、p.112 Figure 4.6. Reduction in inequality due to public cash transfers)。その意味からも、社会保障財源に関して非常に適切な視点を提供する良書であり、大いにオススメです。

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次に、山下慎一『社会保障のどこが問題か』(ちくま新書)を読みました。著者は、福岡大学法学部教授です。社会保障がご専門なのだという印象を受けました。本書では、社会保障について2点の疑問を提示しています。第1に、自営業者と労働者=雇用者の扱いに違いがある点です。第2に、労働=勤労の義務と権利です。すなわち、社会保障のベネフィットを享受する前提としての「働かざる者食うべからず」の道徳的・倫理的な規範性です。第1の自営業者と雇用者の違いについては、本書でも明快に指摘していて、生産手段を持たない雇用者は解雇されたり、勤務先企業が倒産したりすると、それだけで生計の糧を失うわけですし、そうでなくても60歳とかの定年という制度も乗り越えがたく存在したりする一方で、自営業者は生産手段を自ら有していて、年齢的な制限もゆるく、自ら生産手段を持って働くことにより、社会保障への依存度は低い、と考えられます。しかし、第2の点については、例えば、極端な話として、現在の憲法が労働を国民の義務のひとつとして明示している限り、「働かざる者食うべからず」の規範が成立しかねず、もしそうだとすれば、これまた極端な話として、働いて所得を得ることが不可能な生活保護など例外を除いて、働ける人まで無条件で受給できるユニバーサルなベーシックインカム(BI)を社会保障制度のひとつとして取り入れるのは違憲と判断されかねません。とても興味ある議論だと思います。結論は読んでみてのお楽しみとしますが、とても示唆に富んだ議論が展開されています。

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次に、山本謙三『異次元緩和の罪と罰』(講談社現代新書)を読みました。著者は、日銀ご出身の方で、自ら団体を立ち上げているのではないか、と推察しています。ですから、本書では2013年からの当時の黒田総裁による異次元緩和に対して激しい批判が展開されています。ただ、新書というメディアの性格上からも、それほど経済学的に詰めた議論ではなく、2023年からの現在の植田総裁の下での異次元緩和の修正などの時流に乗った議論が展開されています。ですから、例えば、金融緩和と長らく継続して低金利を続ければ、ゾンビ企業の淘汰が進まずに生産性の低い企業を温存することになる、といった批判があった一方で、金利を引き上げれば倒産する企業が出て失業が増えかねない、といった論調で、専門的な見識ある読者がじっくりと読めば、いくつか矛盾する論点があるのではないか、という気すらします。ただ、時流に乗っかって異次元緩和を批判する本ですので、読んでおいて損はないかもしれません。私の方から、本書に関して3点指摘しておきたいと思います。第1に、本書でもそうなのですが、同じことをやるに際して、自分と同じサイドにいる人がやるのと、逆のサイドの人がやるのとで見方を変える人がいる点は注意すべきです。典型的には、ほぼほぼ1年前の能登地震やその後の能登地方の大雨被害などで、現地入りした人が、明確にいえば、どの政党の政治家が現地入りしたかで評価を変える人がいます。地震直後は現地入りを自粛すべきという見方があったりしましたが、支持政党の政治家であれば現地入りに賛成し、支持政党と真逆の政党の政治家であれば現地入りに反対する人は少なくなかった、というのが私の印象です。まあ、私の印象ですから、間違っているかもしれませんが、そう大きくは間違っていないと思います。第2に、これまた、同じ事象で評価が変わる場合があります。例えば、日銀の2%の物価目標ですが、黒田総裁のころには2%の物価目標が達成されない、といった批判が決して少なくなかった一方で、実際に物価が2%の上昇に達してしまうと、物価が高すぎるという批判に転じたケースが決して少なくなかった気がします。第3に、専門性が高いというのは決していいことばかりではないという点は理解しておくべきです。私は60歳の定年まで長らく国家公務員として、官庁エコノミストの仕事も経験してきましたが、ハッキリいって、一般論ながら政府官庁のエコノミストよりも中央銀行のエコノミストのほうが専門性高くて能力あるようなケースが多いと実感しています。日本だけに限りません。米国や欧州でもそういった印象を持っています。ただ、「原子力ムラ」とよく似た構造で、「金融ムラ」が形成されていて、金融だけを狭い視野で考えている場合も決してなくはありません。これは、金融だけではなく、財政も同じです。金融正常化と称した金利引上げとか、財政再建と称した増税とか、経済全体のスコープから遊離した議論がどこまで有効となるのかについては、少し眉にツバして眺めるべきである、というのが私の経験です。ただ、最後に、本書は繰り返しになりますが、実に時流に乗っかった議論です。今の経済論壇を把握するためにはとても有益な読書でした。

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次に、布施祐仁『従属の代償』(講談社現代新書)を読みました。著者は、ジャーナリストであり、ご専門分野は安全保障だそうです。私は経済学をホームグラウンドとするエコノミストであり、地政学や安全保障はまったくの専門外なのですが、少なくとも日本の軍事力、具体的には自衛隊が米国の戦略下に組み込まれ、場合によっては、例えば、台湾有事の際などには米軍の指揮命令下の入るのであろう、あくまで推測ながら、そのように考えています。逆に、日本の自衛隊が米軍による指揮から離れて、日本独自のシビリアン・コントロールに従って軍事行動を展開することはありえない、と考えています。ただ、そういった点について、例えば、本書p.94のイメージ図で日本の自衛隊とNATOた韓国軍との指揮構造を対比されると、改めて愕然とするものがあります。加えて、周辺のいくつかの国、中国や北朝鮮が核戦力を有するだけに、米国の「核の傘」に守られることも選択肢のひとつではないかと考えはするものの、主権者たる国民の1人として、キチンとした議論をした上での選択の結果なのかどうかも疑問です。ロシアがウクライナに侵攻し、中東は相変わらず不安定で、中国で習体制が独裁制を強めて台湾有事の確率が決して無視できない現在ながら、他方で、被団協がノーベル平和賞を受賞した年に、こういった問題を考えることも有意義ではないでしょうか。

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週刊『ダイヤモンド』のベスト経済書にレビューが掲載される

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昨年に続いて、今年も週刊『ダイヤモンド』2024・2025 12/28・1/4の新年合併特大号の「ベスト経済書」のレビューで私のコメントを取り上げていただいております。2位にランクインした『人的資本の論理』の2番目のコメントです。
来年は『東洋経済』のベスト経済書にも取り上げていただけるようがんばりたいと思います。

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2024年12月27日 (金)

3か月ぶりの減産となった鉱工業生産指数(IIP)と販売増が続く商業販売統計と前月から横ばいの雇用統計

本日は月末、というか、年末最後の閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも11月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲2.3%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+2.8%増の14兆2170億円を示し、季節調整済み指数は前月から+1.8%の上昇を記録しています。雇用統計では、失業率は前月から横ばいの2.5%、有効求人倍率も同じく横ばいの1.25倍を記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産11月は2.3%低下、半導体製造装置など減産で3カ月ぶりマイナス
経済産業省が27日公表した11月の鉱工業生産指数速報は前月比2.3%低下の101.7となり3カ月ぶりのマイナスとなった。半導体製造装置や自動車の減産などが響いた。
ロイター集計の民間予想中央値は3.4%低下だった。
基調判断は「一進一退」で据え置いた。
企業の生産計画を基にした予測指数は、12月が前月比2.1%上昇、2025年1月が1.3%上昇だった。
11月実績の内訳は、前月比で半導体製造装置が中国・台湾向け輸出減で14.7%減、液晶などフラットパネル・ディスプレー製造装置が中国向け輸出減で67.1%減など、生産用機械が9.1%の減産となり、指数を大きく押し下げた。
このほか自動車が4.3%減。普通乗用車の輸出減や小型乗用車の一部車種生産停止が響いた。金属製品は前月に橋梁(きょうりょう)の大型案件があった反動で5.7%の減産だった。
生産予測は12月は半導体製造装置など生産用機械が、1月は自動車など輸送機械、半導体など電子部品・デバイスが上昇をけん引する見通し。もっとも経産省では「米中経済動向や米利上げの影響などをリスク要因として注視」(幹部)する構えだ。
小売業販売11月は2.8%増、冬物衣料好調・食品値上げで33カ月連続増
経済産業省が27日公表した11月の商業動態統計速報によると小売業販売額は前年比2.8%増加し、33カ月連続増となった。ロイター集計の民間予想中央値1.7%増を上回った。気温低下による冬物販売好調や食品値上げなどが指数を押し上げた。
<鍋、肺炎用調剤など好調>
業種別では織物・衣服が前年比10.7%増、その他小売業が5.7%増、飲食料品1.4%増などだった。食品は「節約志向で販売点数は回復しておらず、数量よりも値上げ要因とみられる」(経産省幹部)という。自動車は一部メーカーの生産停止などが響き1.9%減だった。
業態別では百貨店が2.7%増、冬物衣料や外国人旅行者向けが好調だった。スーパーは食品値上げに加え、鍋や入浴剤など冬関連商品が伸び3.6%増だった。コンビニエンスストアは、たばこやおにぎりが堅調で1.9%増。家電大型専門店はスマートフォンなどがけん引し3.3%増だった。ドラッグストアもコメや菓子類の販売好調や、マイコプラズマ肺炎・インフルエンザ流行による調剤販売が好調で6.3%増となった。
完全失業率11月は2.5%、有効求人1.25倍 ともに横ばい
政府が27日発表した11月の雇用関連指標は完全失業率が季節調整値で2.5%と、前月から横ばいだった。有効求人倍率も前月比同水準の1.25倍だった。
ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.5%、有効求人倍率は1.25倍と見込まれていた。
総務省によると、11月の就業者数は季節調整値で6808万人と、前月に比べて10万人増加。完全失業者数(同)は172万人で、1万人増加した。
厚生労働省によると、11月の有効求人数(季節調整値)は前月に比べて0.7%増。原材料や人件費などのコスト上昇を背景に、足元は求人を手控える動きがみられるものの、9月分の増加が大きく全体ではプラスとなった。求人、求職数ともに3カ月間有効で、データは9-11月の状況が反映される。
有効求職者数(同)は0.6%増。物価高などの社会情勢や最低賃金の引き上げを踏まえ、より良い転職の時期を検討している人が多いという。離転職を踏みとどまって求職活動を続ける動きが出ていた。
有効求人倍率は、仕事を探している求職者1人当たり企業から何件の求人があるかを示す。厚労省の担当者は雇用情勢について「悪くはない」と述べた。

3つの統計から取りましたので、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は▲3.4%の減産、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく▲3.5%の減産が予想されていましたので、実績の前月比▲2.3%の減産はやや上振れた印象です。前月からマイナスの減産とはいえ、市場の事前コンセンサスからやや上振れていますので、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いています。先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の12月は補正なしで+2.1%の増産ですが、上方バイアスを除去した補正後では、#x25B2;0.3%の減産と試算されています。先行き生産は2か月連続の減産を見込んでいるわけです。ただし、来年2025年1月は+1.3%の増産との予想となっています。経済産業省の解説サイトによれば、11月統計における生産は、生産用機械工業が前月比で▲9.1%の減産で▲0.86%の寄与度を示したほか、自動車工業が▲4.3%の減産で▲0.58%の寄与度、金属製品工業が前月比▲5.7%の減産で▲0.25%の寄与度、などとなっています。他方で、生産低上昇に寄与したのは、汎用・業務用機械工業が+6.4%の増産で+0.44%の寄与度、輸送機械工業(除、自動車工業)が+15.2%の増産で+0.38%の寄与、石油・石炭製品工業が+2.1%の増産で+0.03%の寄与度、などとなっています。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での慣例なのですが、伸び率はまだプラスを維持しているものの、プラス幅が落ちてきているのが見て取れます。その上、季節調整済みの系列では9-10月統計で2か月連続して前月比マイナスを記録し、今月11月統計では+1.8%の伸びとなっています。引用した記事にある通り、ロイターでは前年同月比で+2.8%の伸びを市場の事前コンセンサスとしていましたので、上振れした印象を持つエコノミストも多かろうと思います。ただ、統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断していて、本日公表の11月統計までの3か月後方移動平均の前月比が▲0.3%の減少となりましたので、先々月9月の段階で「上方傾向」から「一進一退」と明確に1ノッチ下方修正した後、今月も「一進一退」で据え置かれています。鉱工業生産と同じ表現となっています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、11月統計ではヘッドライン上昇率が+2.9%、生鮮食品を除くコア上昇率も+2.7%、生鮮食品及びエネルギーを除くコアコアCPI上昇率も+2.4%となっていますので、小売業販売額の11月統計の前年同月比+2.8%の増加は、インフレ率との関係はビミョーであり、実質消費はプラスか、マイナスか、きわどいところといえます。さらに考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。記事にもある通り、ロイターでは失業率に関する事前コンセンサスは前月と同じ2.5%、有効求人倍率も前月から横ばいの1.25倍が見込まれていました。人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率・有効求人倍率ともに前月から横ばいながら、どちらの指標も雇用の底堅さを示す水準が続いています。ただし、グラフからも明らかなように、雇用は堅調ながら、そろそろ改善局面を終えた可能性がある、と私は評価しています。ただ、それでも、季節調整していない前年同月差の増減で見て、11月統計では就業者が+34万人増、雇用者も+67万人増と大きな増加を示しています。なお、失業者数も▲5万人減少しています。もちろん、そろそろ景気回復局面は後半期に入っている可能性が高いと考えるべきですし、その意味で、いっそうの雇用改善は難しいのかもしれません。ただ、あくまで雇用統計は最近の失業率と有効求人倍率のように横ばいや改善と悪化のまだら模様である一方で、人口減少下での人手不足は続くでしょうし、米国がソフトランディングの可能性を高めている限り、それほど急速な雇用や景気の悪化が迫っているようにも見えません。

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2024年12月26日 (木)

リクルートによる11月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

明日12月27日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる3月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの募集時平均時給の方は、前年同月比で見て、10月の+3.0%増の後、直近で利用可能な11月には+3.7%増となりました。先週11月22日に総務省統計局から公表された消費者物価指数(CPI)上昇率が11月統計でヘッドライン+2.9%、生鮮食品を除くコア+2.7%でしたから、アルバイト・パートの賃金上昇は物価上昇をやや上回った可能性が高い、と考えています。募集時平均時給の水準そのものは、2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、今年2024年10-11月で1,200円に達しています。ですので、現在、報じられている最低賃金と比較しても、かなり堅調な動きと私は受け止めています。他方、派遣スタッフ募集時平均時給の方は、9月+3.1%増の後、10月+1.4%増に続いて、11月は▲1.6%減ですから、前年同月比上昇率で見て急降下しています。もちろん、CPI上昇率には追いついていません。
三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、11月には前年同月より+3.7%、前年同月よりも+43円増加の1,221円を記録しています。職種別では前年同月と比べて伸びの大きい順に、「専門職系」(+67円、+5.0%)、「販売・サービス系」(+52円、+4.5%)、「フード系」(+41円、+3.6%)、「事務系」(+43円、+3.5%)、「製造・物流・清掃系」(+40円、+3.4%)、「営業系」(+13円、+1.1%)と、すべての職種で前年同月比プラスとなっています。また、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏で前年同月比プラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、11月には前年同月より▲1.6%、▲27円減少の1,666円となりました。職種別では、「オフィスワーク系」(+53円、+3.3%)、「製造・物流・清掃系」(+40円、+2.9%)、「医療介護・教育系」(+4円、+0.3%)、の3業種は前年比でプラスの伸びを示しましたが、「営業・販売・サービス系」(▲17円、▲1.1%)、「クリエイティブ系」(▲24円、▲1.3%)、「IT・技術系」(▲130円、▲5.7%)、は減少を示しています。なお、地域別では関西でプラスとなっているものの、関東・東海では前年同月比マイナスとなっています。

アルバイト・パートや派遣スタッフなどの非正規雇用について11月の調査結果を見る限り、アルバイト・パートでは消費者物価(CPI)上昇率を上回る時給の上昇が見られた一方で、派遣社員の時給引上げ率はマイナス、という結果です。

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2024年12月25日 (水)

ふたたび上昇率が+3%となった11月の企業向けサービス価格指数(SPPI)

本日、日銀から11月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月からわずかに加速して+3.0%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについては前月と同じ+3.1%の上昇となっています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、11月は3.0%上昇 人件費の転嫁進む=日銀
日銀が25日公表した11月の企業向けサービス価格指数は前年比3.0%上昇し、前月から伸びが小幅に加速した。人件費の上昇をサービス価格に転嫁する動きが続いている。指数は109.1で、1995年3月(109.2)以来の高水準となった。前月比は0.4%上昇だった。
前年比プラスは3年9カ月連続。大類別で最も押し上げに寄与した「諸サービス」は前年比4.5%上昇。「機械修理」、「宿泊サービス」、「土木建築サービス」で人件費などの諸コストを価格に転嫁する動きが出ている。宿泊サービスは堅調なインバウンド需要も反映された。
押し上げの寄与度が次に高かったのは「運輸・郵便」で同2.7%上昇。「郵便・信書便」では先月実施された郵便料金の値上げが影響した。「道路貨物輸送」では人件費や燃料コストの上昇分がサービス価格に転嫁された。
情報通信は同1.2%上昇。「ソフトウェア開発」、「情報処理・提供サービス」など情報サービスで人件費などの諸コストを転嫁する動きが見られた。
公表している146品目のうち、前年比で上昇したのは114品目、下落したのは16品目。日銀の担当者は「人件費・労務費の上昇を価格に転嫁する動きの持続性や、宿泊サービスなど力強い伸びを示しているサービスの先行き、海外の景気動向や地政学リスクなども踏まえた国際商品・海運市況の動向を引き続き注視していく」と述べた。
SMBC日興証券のエコノミスト、野田一貴氏は「指数の高い伸びは日銀の利上げプロセスを妨げるものではないが、植田和男日銀総裁は賃上げの動向次第と述べており、積極的に後押しする材料にもならないのではないか」と語った。
10月の前年比は2.9%上昇、前月比は0.8%上昇だった。
<高人件費率サービス、前年比3.2%上昇>
人件費が上昇する局面では消費者物価のサービス指数よりも企業向けサービス価格の方に早く反映される傾向があることから、民間エコノミストの間では注目度が高い。
労働需給と価格の相関関係が高い「高人件費率サービス」の価格指数は前年比3.2%上昇で、伸び率は前月から横ばい。賃金が上昇トレンドにある中で価格転嫁が進んでいる。
企業向けサービス価格指数は不動産や運輸、金融、広告など企業が提供している各種サービス価格の傾向を示すため日銀が公表している指数で、内閣府の国内総生産(GDP)統計を算出するための基礎統計としても利用されている。

もっとも注目されている物価指標のひとつですから、どうしても長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速はいったん終了したように見えたのですが、今年2024年年央時点で再加速が見られ、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は11月統計で+3.7%を示しています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準として一貫して上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、昨年2023年11月に+2.8%まで加速し、さらに今年2024年6月統計では+3.2%まで加速した後、本日公表された11月統計では+3.0%と高止まりしています。1年超の17か月連続で日銀物価目標である+2%以上の伸びを続けているわけです。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なります。しかし、いずれにせよ、+2%超の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性があります。ただし、真ん中のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、物価上昇率が+2%、あるいはそれを超えて高止まりしていることは事実としても、インフレが日銀目標の+2%を大きく超えて加速する局面ではない、と私は考えています。また、人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率と高人件費比率のサービスの違いに大きな差はありません。引用した記事の通り、11月統計の前年同月比で見て、高人件費率サービスでも+3.2%であり、低人件費率サービスでは+3.0%の上昇となっています。ですので、人件費率に関係なく+2%超の価格上昇が見られる点は忘れるべきではありません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて11月統計のヘッドライン上昇率+3.0%への寄与度で見ると、機械修理や宿泊サービスや土木建築サービスなどの諸サービスが+1.70%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分超を占めています。人件費以外の原材料やエネルギーなども含めて、コストアップが着実に価格に転嫁されているというのが多くのエコノミストの見方ではないでしょうか。ただし、諸サービスのうちの宿泊サービスは前年同月比で11月統計では+19.1%の上昇と、インバウンド需要もあって引き続き高止まりしています。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている項目として、10月から郵便料金が値上げされた郵便・信書便、石油価格の影響が大きい道路貨物輸送や旅行サービスなどの運輸・郵便が+0.46%、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.27%、ほかに、景気敏感項目とみなされている広告+0.19%、リース・レンタル+0.17%などとなっています。

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2024年12月24日 (火)

ニッセイ基礎研究所によるサステナビリティに関するキーワード認知度やいかに?

先週金曜日の12月20日に、ニッセイ基礎研究所からサステナビリティに関する意識と消費者行動の調査の一環として、キーワード認知度が明らかにされています。ほかにも、調査結果はありますが、ハッキリいって、それほど興味深いものでもなく、キーワード認知度について、今年2024年調査結果の日度の高低と昨年2023年調査結果からの変化を散布図でプロットしたグラフを引用すると以下の通りです。

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見れば分かる通り、昨年2023年調査から統計的に5%水準の有意性でもって認知度が上昇しているのは、「3R/4R」(+4.8%ポイント)、「SDGs」(+3.7%ポイント)、「ウェルビーイング」(+3.7%ポイント)、「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」(+1.3ポイント)の 4ワードのみである一方で、低下したのは、「再生可能エネルギー」(▲8.1%ポイント)をはじめとして14ワードに上ります。国連のSDGsの目標年である2030年まで残り5年ほどとなり、ニッセイ基礎研究所のリポートから言葉を借りれば、キーワード認知から見て消費者意識は踊り場にあるのかもしれません。

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2024年12月23日 (月)

帝国データバンク調査による「全国平均借入金利動向調査」やいかに?

先週金曜日の12月20日に帝国データバンクから「全国平均借入金利動向調査」の結果が明らかにされています。今年2024年3月から日銀が黒田総裁の当時の異次元緩和を終了して金利引き上げに踏み切りました。帝国データバンクの調査結果でもジワジワと借入金利が上昇していることが裏付けられています。帝国データバンクのサイトから 平均借入金利の推移 のグラフを引用すると以下の通りです。

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上のグラフからも明らかな通り、2007年の2.33%から2021年まで平均借入金利は1%を下回る水準まで低下を続けましたが、2022-23年と2年連続で上昇し、2021年度0.97%、2022年度0.98%の後、2023年度には1.04%に達しています。依然として1%を少し上回るくらいの低い水準とはいえ、金利先高感は確実にあるわけで、先行きの景気を冷やさないか、私は今後の金融政策動向がとても気がかりです。

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2024年12月22日 (日)

Merry Christmas

Merry Christmas!
¡Feliz Navidad!
Feliz Natal!
Joyeux Noël!
Frohe Weihnachten!

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2024年12月21日 (土)

今週の読書は経済の学術書をはじめとして計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、福田慎一[編]『地政学的リスクと日本経済』(東京大学出版会)では、サプライチェーンの見直しだけにとどまらず、幅広く、企業、金融機関、政策当局のリスクについて分析しています。松井暁『ここにある社会主義』(大月書店)は、新自由主義を批判しつつ身近にある社会主義的な動きを指摘し、社会主義に移行することの意味を考えています。麻生競馬場『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)は、正義に満ち溢れた意識高いZ世代やそうでもない直前の20代半ば後半くらいの大学生ないし新卒若手社会人をメインに据えて人生というものを深く考えさせられる作品です。松島斉『サステナビリティの経済哲学』(岩波新書)は、人類喫緊の課題となっていて国連のSDGsにも取りまとめられたサステイナビリティに関して経済学のゲーム論などを応用して考察しています。難解です。布施哲『日本企業のための経済安全保障』(PHP新書)は、日本企業が経済安全保障を考える際に避けて通れない中国市場との関係について理解を深めようと試みています。一穂ミチほか『有栖川有栖に捧げる七つの謎』(文春文庫)は、作家デビュー35周年となった本格ミステリ作家の有栖川有栖に対してミステリ作家7人がトリビュートの作品を寄せています。北村薫『中野のお父さんの快刀乱麻』(文春文庫)は、シリーズ3冊目で文芸編集者である田川美希の父親が文芸にまつわるちょっとした謎に対する回答を試みています。
今年の新刊書読書は1~8月に215冊を読んでレビューし、9月に入って先週までに計22冊をポストし、合わせて232冊、本日の6冊も入れて238冊となります。目標にしているわけでも何でもありませんが、年間300冊に達するペースかもしれません。なお、最後に取り上げた『中野のお父さんの快刀乱麻』の前作である北村薫『中野のお父さん』と『中野のお父さんは謎を解くか』(文春文庫)も読みましたが、新刊書ではないので本日のレビューには含めていません。これらも含めて、Facebookやmixiやmixi2、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。

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まず、福田慎一[編]『地政学的リスクと日本経済』(東京大学出版会)を読みました。著者は、東京大学経済学部教授であり、マクロ経済学に関するトップクラスの研究者といえます。各チャプターごとの著者も日本経済研究所の研究会に集まったエコノミストのメンバーです。本書は、ロシアによるウクライナ侵攻を契機とするとはいえ、サプライチェーンの見直しだけにとどまらず、幅広く、企業、金融機関、政策当局のリスクについて考えています。また、リスク分析の面がありますので、決して従来タイプの学術書のように小難しい計量経済学的な手法を取っている論文は少なく、一般的なビジネスパーソンにもそう難しくなく、十分役立つ内容となっているような気がします。いくつかのチャプターに着目して簡単に私の印象は以下の通りです。まず、繰り返しになりますが、本書は3部構成であり、企業、金融機関、政策当局のリスクについて各2-3章の分析論文が集められています。まず、明らかにしておきたいのは、私自身は経済安全保障については、小川英治[編]『ポストコロナの世界経済』(東京大学出版会)の、特に第2章にあるように、サプライチェーンのリスク管理について、供給の途絶リスクの蓋然性に加えて、どの程度の期間で代替が可能となるかを分析することが必要であり、こういった対応は、「民間企業による効率性とリスク対応のバランスに関する意思決定の中で、かなりの程度は解決済みである。」との見方をしていて、政府としてサプライチェーンのリスク管理まで手を伸ばすのはどこまで必要なのか、少し疑問を持っています。本書でも第Ⅲ部の経済政策のリスクについては、財政の持続可能性、金融政策、基軸通貨について3章に渡って分析されていますが、サプライチェーンのリスク管理を政府の役割として分析対象とはしていません。まず、第Ⅰ部第1章では、コロナ禍における半導体不足などについて企業経営の問題として分析を進めています。その上で、産業構造変化度をリリエン測度で計測し、米国とドイツでは設備投資の変化がもっとも大きく、次いで付加価値、最後に就業者数の順であるのに対して、日本では付加価値の構造変化がもっとも大きく、次いで就業者数、最後に設備投資となっていて、企業における資本ストックの遅々たる対応が指摘されています。また、金融機関のリスク対応については、第4章でシリコンバレー銀行(SVB)の銀行取付けに関して、流動性依存理論の議論を紹介しています。すなわち、シリコンバレー銀行の破綻は金利上昇による単なる流動性不足ではなく、金融政策の量的緩和と量的引締めの2つの異なる局面において銀行が非対称な行動を取る流動性依存から説明できると指摘しています。ニューヨーク大学アチャリャ教授とシカゴ大学ラジャン教授の研究によれば、量的緩和の際には銀行は流動性の高い取引を行う一方で、量的引締めの際には単純に流動性の低い取引を増やすのではなく、資産サイドで流動性の高い資産は減少したものの、負債サイドでは流動性の高い負債が減少することは起こらなかった、と結論しています。例えば、要求払い預金から定期性・貯蓄性預金へのシフトは資産サイドほどスムーズではなかった、ということです。そうすると、資産サイドと負債サイドで流動性のミスマッチが生じ、流動性ストレスに脆弱になる可能性があります。これは、日本でも日銀が量的引締め、というか、量的緩和を終了ないし量的引締めに転換する際に顕在化する可能性あるリスクと考えるべきです。最後に、第5章では財政の持続可能性を開放経済の一般均衡OLGモデルで分析しています。開放経済を前提にすれば、従来型の閉鎖経済モデルよりも他国と比較して成長率の低い日本経済は世界経済からの恩恵が大きく、財政状況も改善する可能性が示唆され、逆に、地政学的リスクが高まってグローバル経済のリンケージが後退すると、日本の財政持続可能性にも影響を及ぼしかねない、との結論を得ています。この財政の持続可能性で論文を書いた経験がありながら、私のパースペクティブにはなかった発見でした。

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次に、松井暁『ここにある社会主義』(大月書店)を読みました。著者は、専修大学経済学部教授であり、ご専門は経済哲学です。実は、今週、このご著者もお招きして本書の書評会があって私も参加しました。本書は完全にマルキスト哲学・経済学の基本書である一方で、私はマルキストではなくて典型的な主流派エコノミストです。定年の60歳まで政府で官庁エコノミストをしていたわけですから、御用学者を超えた政府ベッタリのエコノミストとして経済分析をしてお給料をもらっていたわけです。しかし、他方で、私はとある先輩官庁エコノミストから、「官庁エコノミストとしては最左派」との評価を受けたこともあり、本書で徹底的に批判している新自由主義的、ネオリベな経済学については批判的な見方をしています。基本的な歴史観は唯物史観に近いと自ら認識していて、生産力がこのまま拡大して商品やサービスの希少性がゼロに近くなった世界が共産主義的な「必要に応じて受け取る」世界だと考えたりしています。他方で、資源分配については市場の効率性を高く評価していて、旧ソ連なんかの「自称社会主義」の下での指令経済は非効率極まりなく、そのためにソ連は崩壊したのだろうという正しい認識も持っています。例えば、ケインズ卿の『雇用、利子及び貨幣の一般理論』でも強調されているように、市場経済に基づく資本主義の効率性を評価しつつも、完全雇用が保証されないという意味での人的資本の非効率を許容したり、雇用に基づく人的能力の発達を阻害したりする可能性があるとともに、富と所得の不平等を是正するシステムが欠如している点で資本主義経済の欠陥を認める必要があると思っています。本書でも、「どこにでもある社会主義」のひとつとして、年金や医療保険などの社会保障が極めて社会主義的な色彩が強い点を強調しています。これは、ケインズ卿が指摘した資本主義経済の欠点の是正といえます。では、社会主義になると社会保障がどうなるのか、という展望が本書で示されているわけではありません。本書の欠点、というか、私にとって物足りない点が2点あります。第1に、資本主義の改良思想である社会民主主義と社会主義の間の違いが明確ではない点です。さらにいえば、資本主義から社会主義に至るマルクス的な「革命」とは何であるのか、どういうものであるのか、について明確な展望を欠いている点です。第2に、本書では民主主義の必要性についての追求が不足しているように感じられてなりません。本書でも指摘しているように、日本を含む先進国で社会主義に至る道筋は選挙を通じた政権交代となる可能性が圧倒的に高いのはいうまでもありません。暴力革命なんてのは選挙を通じた政権交代と比べて格段に確率が落ちます。だとすれば、私が「花咲舞のような忖度のない自由な選択」に基づく選挙が決定的に必要であり、日本のような同調圧力が強い社会では、社会主義に至る前に徹底的な民主主義化の必要があると私は感じています。社会主義がどこにでもあり、近づいている、という認識は結構であり、決して間違っているとは思いませんが、社会主義に到達するにはホントに民主主義的な選択を可能とする大変革が必要だと私は考えています。

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次に、麻生競馬場『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)を読みました。著者は、注目の覆面小説家であり、私はデビュー作の『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』は読んでいます。たぶん、本作品がデビュー2作目ではないかと思います。ということで、タイトル通りに、正義に満ち溢れた意識高いZ世代やそれほどでもない直前の20代半ば後半くらいの大学生ないし新卒若手社会人をメインに据えて、人生というものを深く考えさせられる作品です。短編ないし中編くらいの長さの4話構成であり、10年近いタイムスパンでクロノロジカルに並べてあります。すなわち、「第1話 平成28年」、「第2話 平成31年」、「第3話 令和4年」、「第4話 令和5年」となります。視点を提供するという意味での主人公はすべての短編で違う人物なのですが、共通して沼田という男性が登場します。第1話の慶應義塾大学の2年生から、最後の第4話では20代後半の社会人となっています。ただ、この沼田の人生に対する基本的なスタンスというものはほとんど変化していないようです。また、明記はしていませんが、当然に、各短編の舞台はすべて東京で、それも都心に近い場所と考えて差し支えありません。あらすじを紹介しますと、まず、第1話は、地方から慶應大学に入学した意識の高い系の新入生男子が、これまた、意識の高い人の集まるビジネスコンクールの運営サークルに入会するところから物語が始まり、沼田はこのサークルの中での目立って意識低い系のメンバーです。第2話は、早稲田大学を卒業した主人公である女子が、大手町に本社を構えるベンチャー系だった人材系大手企業に就職し、この同期入社組に沼田がいます。驚くべきことに、面接で「クビにならない最低限の仕事をして、毎日定時で上がって、そうですね、皇居ランでもしたいと思ってます」と沼田はのたまって創業社長に認められて入社したというウワサです。第3話は、鉄道会社に勤める若手ビジネスパーソンが、会社が「なんかクリエーティブでイノベーティブな事業」として未利用地を活用して始めた大学生向け大型シェアハウスに6人いる社会人チューターのリーダーとして入居するところから始まりますが、その社会人チューターの1人が沼田なわけです。第4話は、前年に明治大学を卒業しPR会社に勤めている男性の若手社員が、高円寺にある老舗銭湯「杉乃湯の未来を考える会」にジョインするところから始まりますが、この「考える会」には人材系大手企業を辞めた沼田がいました。小説、というか、各短編のホントの主人公は沼田なわけです。そして、その沼田の人生哲学、というほどの大げさなものかどうかはともかく、基本ラインは最初に就職した人材系大手企業の面接の発言で一貫しています。共感できるかどうかは読者にもよりますが、私自身は実に強く共感します。というのも、私は今でいうメガバンク、すなわち当時の都市銀行や商社などでの競争社会では生き延びられる自信がなくて、「でもしか」に近い存在だった公務員の道を選び、就職した直後の20代末から30代始めに経験したバブル経済期には公務員に就職したことを非公務員の周囲の知り合いなどからは否定的に見られつつも、バブル崩壊後の景気低迷期には公務員への就職が再び脚光を浴びたりして、世間の評価というものは一貫せず、自分でラクな道を選ぶのがベスト、という価値観ですので、沼田の生き方に共感するところは多々あります。最後に、小説としての完成度も極めて高くなっています。各話は短編としても楽しめますし、もちろん、続けて読む長編としても、いいストーリー展開を示しています。細部についても、よく考えられていて、第1話では大学の新入生が年齢をさほど気にすることもなく酒を大量に飲んでいる一方で、最終第4話では新入社員がソフトドリンクを飲んでいたりします。わずか10年足らずで日本、というか、東京の若い世代の考えや行動がかなり変化したことが伺えます。そして、最後の最後に、やっぱり、日本の中心が東京にあることが実感されます。ひょっとしたら、地方在住の読者には共感できるポイントが少ない可能性は否定できません。その意味で、私の勤務校の学生にどこまで勧められるかは考慮すべきかもしれません。

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次に、松島斉『サステナビリティの経済哲学』(岩波新書)を読みました。著者は、東京大学経済学部教授であり、ご専門はゲーム論です。本書では、J.S. ミルなんかの想定した定常状態にはならずに成長を続ける経済社会のサステイナビリティについて考えています。本書でも指摘されているように、国連によるSDGsを引くまでもなく、サステイナビリティが現時点における人類のもっとも重要な課題といっても過言ではなく、人類存続のために未来世代にも十分な資源や環境条件を残すことが求められているのはいうまでもありません。その経済哲学の基礎について考え、サステイナビリティを確保するために、第3章で新しい資本主義や第4章で新しい社会主義についても言及しています。この両章は、ある意味で、本書の核心と私は受け止めています。まず、第3章の新しい資本主義においては、営利企業と非営利企業との中間に位置する社会的企業について考えていますが、役割としての社会的企業というのは、すべての企業が社会的な分業体制に組み込まれて、経済社会において何らかの存在意義を持ち、企業活動を継続できるという意味では、すべてが社会的企業というカテゴリーに入ってしまいかねない曖昧さを私は感じます。もちろん、薬物やポルノやといった製品を供給したり、反社会的な活動を行っている企業は話が別でしょうし、あるいは、論者によっては武器製造企業などの「死の商人」もそうだと考えるかもしれませんが、本書の用語でいえば、世界市民に有益な何らかの製品やサービスを提供している企業は、すべて社会的企業ということになりかねません。他方で、社会的所有の下の企業ということになれば、そのまま、生産手段の公的所有という意味で社会主義になります。やや議論の意味が不明です。そして、第4章では新しい社会主義にも考えを広げています。私は、部分的なりとも、本書の主張、すなわち、資本主義のままでサステイナビリティのための社会的責任が達成できるという考えは、ひょっとしたら、楽観的すぎる可能性がある、という考えに同意しています。ただ、本書でいうところの「新しい社会主義」とは、いわゆる旧来のソ連型や中国型ではない、という意味ではなく、私には理解が十分及びませんでした。ゲーム論的な暗黙の了解とか、報復の連鎖なんて考えについていけませんでした。少なくともこの部分は難解であった印象が強いです。ハーディン的な共有地の悲劇から、オストロム的なコモンズの適切な管理の可能性などは十分経済学でフォローできる範囲ですが、サステイナビリティの議論はそういったモデル分析だけではなく、もっと実践的な部分も考えられるべきですが、どうも、私にはゲーム論を基にして、思考実験のような議論展開の印象があって、やや現実から遊離した空想的な部分も目につきました。冒頭の「大義の経済学」なんてその最たるものです。それよりもむしろ、スミス以来の経済学の伝統に従って、利己心を基礎にしたサステイナビリティの経済理論ができそうな気がするのですが、それよりも大義や世界市民を持ち出すことに意義を見出す論調に、私はチョッピリ不満を持ちました。

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次に、布施哲『日本企業のための経済安全保障』(PHP新書)を読みました。著者は、NECのシンクタンクであるIISE国際社会経済研究所の研究員です。私はこの研究所のサイトを何度か訪れたことがあるのですが、いまだに「地球温暖化」という用語を使っていて、世界標準の「気候変動」にしていないので、あまり先進的な研究は望めない恐れがあると感じた記憶があります。それはともかく、本書はタイトル通りに、ややマニュアル的に日本企業に対して経済安全保障への対応を紹介しています。そして、さすがに、東京大学出版会の書籍とは違って、良くも悪くもとっても実践的です。日本企業にとっての経済安全保障とは、p.101にあるように経済安保のリスク管理は突き詰めれば「中国市場との向き合い方」であると喝破しています。まあ、そうなんでしょう。ただし、一般的にサプライチェーンの管理などの供給サイドからの防衛的な経済安全保障だけではなく、攻めの方向性もいくつか示唆しています。国家レベルでは、まさに、日本が現在やっているような対ロシア経済制裁のような経済安全保障政策が攻めの方向性を示すのですが、本書はあくまでも企業レベルの攻めであって、政府から補助金や助成金をせしめることをもって「攻め」として位置付けています。これはこれで正解かと思います。逆に、セキュリティクリアランスなんかは政府の対策と共通する部分がありそうです。私は大きく専門外ながら、2点ほど注目しました。ひとつは、短期の金銭勘定だけではなく、より長期的なコスト-ベネフィットを考慮する重要性です。今現在は原材料やエネルギーなどをある特定の国から輸入するのが経済的にもっともペイするとしても、経済安全保障の観点としては薄いながらも、レピュテーションリスクも含めて、長期的な何らかのサプライチェーン維持のコストを考える必要があるという点です。これは、一般的な家計の消費になぞらえれば、何が何でも金銭的に安いもの、コスパのいい商品・サービスに需要が向かうばかりではなく、社会的な満足度、例えば、環境にやさしいとか、フェアトレード商品であるとか、そういった価格に現れない価値を見出す消費と、いくぶんなりとも似通った面がありそうな気がします。もうひとつが、米国巨テック企業によるデータ支配、デジタル支配に対する企業の危機感を感じた点です。最近の一連の選挙でSNSの影響力を再認識した国民も少なくないと思いますが、少し前までのハッキングされないようにセキュリティを強化する、なんてレベルではなく、レコメンドなんかで購買意欲をそそるようなポジの影響力とともに、SNSには恐怖や不安や疑惑といったネガな感情を惹起させるような誘導も可能なわけで、政府や共同体ではなく企業レベルでの視点ながら、私の認識不足を痛感しました。デジタル支配の面では、「デジタル自給率」の向上というのも新鮮でした。

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次に、一穂ミチほか『有栖川有栖に捧げる七つの謎』(文春文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家ですが、中にはホラーを得意とする作家もいたりします。本書は、本格ミステリ作家の大御所である有栖川有栖のデビュー35周年、というやや中途半端な節目を記念して展開されていた「オール讀物」と「別冊文藝春秋」のトリビュート企画の短編7話を収録したアンソロジーです。いわゆるパスティーシュの形を取って、有栖川有栖の代表作である火村-有栖、あるいは、江神-有栖による本格ミステリもあれば、初期作品の山伏地蔵坊に対するオマージュの作品、あるいは、有栖川作品のファンが登場しつつも、殺人事件のないミステリ作品など、バラエティに富んだ作品が収録されています。あらすじは順に、青崎有吾「縄、綱、ロープ」は、作家アリスの火村-有栖のパスティーシュで、殺人事件の犯人は同じマンションにいることから、絞殺に用いた凶器とその犯人を火村が特定します。ほぼほぼ有栖川有栖作品の完コピだといえます。一穂ミチ「クローズド・クローズ」も、火村-有栖のパスティーシュで、制服盗難事件を解決するために火村と有栖が女子校の文化祭に乗り込み、今どきのJKを相手に奮闘します。織守きょうや「火村英生に捧げる怪談」も、これまた人気の火村-有栖のパスティーシュで、都内のバーで客が火村と有栖に怪談を語ります。これは、有栖川有栖の世界よりも、ほぼ織守きょうやの世界の作品です。白井智之「ブラックミラー」は、有栖が登場しない火村の謎解きのミステリで、双子の兄弟が仕組んだアリバイのトリックを火村が解明します。夕木春央「有栖川有栖嫌いの謎」は、有栖川有栖作品が話題になったので、ファンの知人に本を借りようとしたところ、その知人が有栖川有栖作品を何故か酷評して、借りる気が失せてしまいます。でもなぜ、という謎解きです。阿津川辰海「山伏地蔵坊の狼狽」は、有栖川有栖の初期作品の主人公である山伏地蔵坊が、何と、40年の歳月を経て復活し、バーで不思議な物語を語ります。今村昌弘「型取られた死体は語る」は、学生アリスの江神-有栖のパスティーシュで、織田が持ち込んだダイイング・メッセージの謎を江神たちが解き明かそうと試みます。ということで、織守きょうや作品の怪談を別にすれば、ほぼほぼ本格ミステリの謎解き作品を収録しているといえます。繰り返しになりますが、有栖川有栖作家デビュー35周年というやや中途半端に見える節目のトリビュート短編集ながら、各短編は充実しています。表紙デザインも私は高く評価しています。

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次に、北村薫『中野のお父さんの快刀乱麻』(文春文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家、小説家であり、ミステリ作品としては殺人事件といったモノモノしい事件を発端とするのではなく、日常のちょっとした謎解きに関する推理小説を得意としている印象です。本書はこの著者の「中野のお父さん」シリーズの第3作、すなわち、『中野のお父さん』と『中野のお父さんは謎を解くか』に続く第3作となっています。文庫本としては最新刊ですが、単行本としては第4作『中野のお父さんと五つの謎』もすでに今年2024年に出版されています。いずれも短編集です。どうでもいいことながら、こういったシリーズにありがちなことで、段々とボリュームを増してきています。最初の『中野のお父さん』は8話収録で300ページ足らず、次作の『中野のお父さんは謎を解くか』も8話収録ながら300ページ超え、そして、本書は6話収録で300ページ超え、となっています。主人公は田川美希という出版社の文芸編集者です。大学生のころは体育会のバスケットボール部で活躍していましたので、モロに体育会系ですし、たぶん、ガタイもいいと想像しています。そして、タイトルにあるのがその田川美希の父親であり、謎解きを披露します。タイトル通り、中野にある主人公の実家にいて、シリース最初のころはまだ60歳手前の現役の高校国語教師でしたが、本書では定年退職しており、ささやかな家庭菜園を楽しんでいるようです。小説や落語や映画や音楽やといった文芸にまつわるちょっとした謎を解き明かそうと試みています。ただ、いわゆる安楽椅子探偵ですので、大昔の出来事も含まれていて、中には、中野のお父さんの謎解きが正解かどうか、十分に判断できないものも含まれています。本書に収録されているの短編を順に紹介すると、まず、「大岡昇平の真相告白」では、大岡昇平の小説タイトル『武蔵野夫人』の「夫人」をつけた理由やその時代背景を探ります。「古今亭志ん生の天衣無縫」では、落語の「蚊帳売りの詐欺師」のエピソードから破滅型落語家と考えられている古今亭志ん生の人柄を偲びます。「小津安二郎の義理人情」では、里見弴が作家として小津安二郎映画に提供したいくつかの原作と映画が大きく異なっている理由を考えています。「瀬戸川猛資の空中庭園」では、鋭い文芸評論を展開した瀬戸川猛資が学生のころに書いた映画批評と映像を比べています。「菊池寛の将棋小説」では、菊池寛作品に収録されている江戸時代の棋譜を先崎学9段と室谷由紀女流3段が読み解きます。「古今亭志ん朝の一期一会」では、ふたたび古今亭志ん朝の落語が話題となり、志ん生が演じた「三軒長屋」のCDを探す未亡人の本当の目的を推理します。ドナルド・キーンとマリア・カラスが同時に聞けるレコードというのもヒントとなっています。

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2024年12月20日 (金)

再び上昇幅を拡大した11月の消費者物価指数(CPI)をどう見るか?

本日、総務省統計局から11月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+2.3%から拡大して+2.7%を記録しています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から31か月、すなわち、ほぼ2年半の間続いています。ヘッドライン上昇率も+2.9%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+2.4%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価2.7%上昇 11月、3カ月ぶり伸び率拡大
総務省が20日発表した11月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が109.2となり、前年同月と比べて2.7%上昇した。3カ月ぶりに伸び率が拡大した。政府による電気・ガス代補助が縮小したエネルギー、生産コストが上がったコメの上昇が目立った。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.6%の上昇だった。
エネルギーの上昇幅は6.0%と、10月の2.3%から拡大した。政府が「酷暑乗り切り緊急支援」として実施していた電気・ガス代への補助金が縮小して、プラス幅が拡大した。11月の電気代は9.9%、都市ガス代は6.4%とそれぞれ上がった。
生鮮食品を除く食料は4.2%上昇で、4カ月連続で上昇幅が拡大した。特に上がったのは米類で63.6%プラスだった。比較が可能な1971年1月以降で過去最大の上昇率となった。総務省の担当者は「流通段階における確保競争で価格が上昇したことに加え、新米の生産コストが上がっている」と説明する。
原材料価格の上昇で価格改定のあったチョコレートは29.2%上昇した。コーヒー豆は主要産地のブラジルの天候不良によって出荷量が減少し、24.9%のプラスだった。国産品の豚肉は猛暑による生育状況が悪く供給量が減って、5.7%上昇した。
食料以外では火災・地震保険料が7.0%プラスだった。災害の増加により10月に保険料の改定があった。下落が大きかったのは通信で、マイナス12.1%だった。通信設備の更新に伴い料金体系が変更され、1月に価格改定があった。
生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は前年同月比2.4%上がった。生鮮食品を含む総合指数は2.9%上昇した。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.6%ということでしたので、実績の+2.7%はやや上振れた印象でした。品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、生鮮食品を除く食料の上昇が継続しています。すなわち、先月10月統計では前年同月比+3.8%、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度+0.92%であったのが、今月11月統計ではそれぞれ+4.2%、+1.00%と、さらに高い伸びと寄与度を示しています。ただし、10月統計の上昇率+2.3%から11月統計の+2.7%へと上昇率で見て+0.4%ポイントの拡大を示した主因はエネルギーです。すなわち、エネルギー価格については、10月統計で+2.3%の上昇率、寄与度+0.17%でしたが、本日公表の11月統計では上昇率+6.0%の高い上昇率となっていて、寄与度も+0.45%を示していますので、寄与度差は+0.28%あります。特に、インフレを押し上げているのは電気代であり、寄与度は+0.20%に達しています。引用した記事で指摘されている通り、政府の「酷暑乗り切り緊急支援」として実施されていた電気・ガス代への補助金が縮小して、電気代は上昇率+9.9%、寄与度+0.45%、都市ガス代は上昇率+6.4%、寄与度+0.06%と、いずれも前月から跳ね上がりました。なお、統計局のプレスリリースによれば、この緊急支援の寄与度は▲0.34%、うち電気代▲0.28%、都市ガス代▲0.05%、とそれぞれ試算されています。
多くのエコノミストが注目している食料について細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+4.2%、寄与度+1.00%に上ります。その食料の中で、コシヒカリを除くうるち米などの穀類が上昇率+64.7%ととてつもないインフレとなっていて、寄与度も+0.24%あります。さすがに一時の品薄感は解消されているようですが、少し前までスーパーなどからコメが姿を消していたわけですし、今でも大きく値上げされているのは日常生活でも目にし、広く報道されていたところかと思います。コメの値上がりの余波を受けて、外食が上昇率+2.4%、寄与度+0.11%、おにぎりなどの調理食品が上昇率+2.4%、寄与度+0.09%、に上っています。コメ関係のほかの食料を見ると、チョコレートなどの菓子類が上昇率+5.8%、寄与度+0.15%コーヒー豆などの飲料も上昇率+7.0%、寄与度0.13%、豚肉などの肉類が上昇率+4.5%、寄与度も+0.12%、などなどとなっています。コアCPIの外数の食料ながら、キャベツなどの生鮮野菜が+14.3%、寄与度+0.29%、みかんなどの生鮮果物も上昇率+11.1%、寄与度+0.12%の上昇となっています。また、食料からサービスに目を転じると、外国パック旅行費の上昇率80.8%、寄与度+0.17%を含めて教養娯楽サービス全体で上昇率+5.6%、寄与度が+0.30%、火災・地震保険料などの設備修繕・維持が上昇率+3.9%、寄与度+0.13%などとなっています。食料をはじめとして、サービスまで幅広い値上がりが見られます。

一昨日の米国連邦準備制度理事会(FED)の連邦公開市場委員会での利下げと昨日の日銀金融政策決定会合での金利据置きを受けて、外国為替市場ではジワリと円安が進んでいます。今後の物価動向やいかに?

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2024年12月19日 (木)

日銀金融政策決定会合と「金融政策の多角的レビュー」

日銀は、昨日から開催されていた経済政策決定会合において無担保コール翌日物の政策金利の据置きを決定しています。すなわち、現在0.25%としている水準を維持する、ということです。まず、ロイターのサイトから記事を引用すると以下の通りです。

日銀、政策金利の現状維持を決定 田村委員は利上げ主張し反対
日銀は18-19日の金融政策決定会合で、政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.25%程度で据え置くことを決めた。経済・物価ともに前回10月の決定会合での判断を維持した。政策金利の現状維持は賛成8反対1で決定。田村直樹委員は、経済・物価が見通しに沿って推移する中、物価上振れリスクが膨らんでいるとして0.5%程度に利上げする議案を提出したが、反対多数で否決された。
景気の現状について、日銀は「一部に弱めの動きみられるが、緩やかに回復している」との判断を維持した。輸出・生産は「横ばい圏内の動き」としたほか、個人消費については「物価上昇の影響などが見られるものの、緩やかな増加基調にある」との判断を据え置いた。その上で、景気の先行きは、海外経済が緩やかな成長続ける下で潜在成長率を上回る成長を続けるとした。
消費者物価の基調な上昇率については、需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから「徐々に高まっていく」とし、展望リポートの見通し期間後半には物価目標と「おおむね整合的な水準で推移する」との見通しを改めて示した。
リスク要因としては海外の経済や物価、資源価格、企業の賃金・価格設定などを挙げ「経済・物価を巡る不確実性は引き続き高い」とした。金融・為替市場の動向やその日本経済・物価への影響を「十分注視する必要がある」と改めて明記、特にこのところ企業の賃金・価格設定行動が積極化する下で、過去と比べ「為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある」と指摘した。
今回の決定会合では、2023年4月以降取り組んできた、過去四半世紀の金融政策運営などを振り返る「多角的レビュー」の締めくくりの議論を行った 。日銀は声明文で、多角的レビューの結果も活用しつつ、引き続き2%物価目標の持続的・安定的な実現の観点から「経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく」とした。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次いで、記事にも言及されている「金融政策の多角的レビュー」へのリンクは以下の通りです。

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黒田前総裁の下での異次元緩和については「2013年以降の大規模な金融緩和」と呼んで、経済・物価には押上げ効果があったものの、期待への働きかけの難しさなどから当初想定したほどの効果が発揮できなかった。さらに、副作用としては、国債市場の機能にははっきりとマイナスの効果があった一方で、金融仲介活動を阻害した証左は見られず、供給サイドへのプラス・マイナス効果は明確な結論は得られない、と結論しています。「金融政策の多角的レビュー」主なポイントからモデルのシミュレーションにより得られた 大規模な金融緩和の効果 のテーブルを引用すると上の通りです。加えて、「金融政策の多角的レビュー」p.128 図表1-3-14 時系列モデル(FAVAR) を用いた政策効果の検証を見る限り、大規模緩和がなければ2015-22年のウクライナ戦争前の時期では、生鮮食品を除くコア消費者物価指数の上昇率はマイナスであった可能性が高いとの結果を得ていますので、物価目標の+2%には届かなかったものの、一定の物価押上げ効果があったと見るのは自然な見方かと思います。

広く報じられている通り、米国連邦準備制度理事会(FED)は昨日12月18日の連邦公開市場委員会(FOMC)で25ベーシスの利下げを決定し、米国の政策金利であるFF金利は4.25-4.5%となりました。今後の日銀の動向やいかに?

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2024年12月18日 (水)

5か月連続で赤字を記録した11月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から11月の貿易統計が公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+3.8%増の9兆1523億円に対して、輸入額は▲3.8%減の9兆2700億円、差引き貿易収支は▲1176億円の赤字を記録しています。5か月連続の貿易赤字となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

11月貿易統計、半導体製造装置の輸出伸びる 赤字は縮小
財務省が18日発表した11月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1176億円の赤字だった。赤字は5カ月連続となった。半導体の製造装置が輸出額を押し上げ、赤字幅は前年同月比で85.5%縮小した。
輸出額は前年同月比3.8%増の9兆1523億円だった。11月としては比較可能な1979年以降で最高額となった。半導体の製造装置は台湾での設備投資の需要が旺盛なことから、32.1%増の3743億円だった。建設用素材や自動車向けの非鉄金属が14.7%増、食料品は21.4%増だった。
地域別でみると、アジア向けの輸出が8.9%増の5兆116億円と、全体をけん引した。うち中国向けは4.1%増の1兆6621億円だった。
米国向けは8%減の1兆6701億円となった。自動車や医薬品の輸出が減少した。欧州連合(EU)向けは電気自動車(EV)や船舶などの輸出が減り、12.5%減の7539億円だった。
輸入額は3.8%減の9兆2700億円だった。品目別ではサウジアラビアなどからの原粗油が29.7%減と最も減った。数量ベースでは17%減った。原粗油は円建て価格も1キロリットルあたり7万5154円で15.4%下がった。中国からのスマートフォンなど通信機は23.9%増だった。
地域別ではアジアが0.2%減の4兆6510億円。台湾からの半導体など電子部品や、インドネシアからの石炭の輸入が減少した。
EUからは医薬品や原動機が落ち込み、5.4%減の9640億円だった。米国は0.6%減の1兆61億円。原粗油のほか有機化合物や液化石油ガスの輸入も減った。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲7000億円近い貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の▲1000億円を少し超える赤字は、予測レンジ上限の▲400億円の範囲内とはいえ、やや上振れした印象です。また、記事には何の言及もありませんが、季節調整済みの系列で見ると、貿易収支赤字はこのところジワジワと縮小していたのですが、11月統計ではやや拡大しています。季節調整済みの系列では輸出入ともに増加しているのですが、輸入の増加幅の方が輸出より大きくなっています。ですので、拡大均衡という見方もできます。なお、財務省のサイトで提供されているデータによれば、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2024年11月統計まで、3年半近く継続して赤字を記録しています。ただし、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。今年2024年11月統計の�億円ほどの貿易赤字は、特に、何の問題もないものと考えるべきです。
11月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、引用した記事にもある通り、原油及び粗油が数量ベースで▲17.0%減、金額ベースでも▲29.7%減となっている一方で、通信機は+23.9%増を記録しています。エネルギーよりも注目されている食料品は+1.7%増と、輸入額全体が減少している中で引き続きプラスの伸びを示しています。輸出に目を転ずると、半導体等製造装置が+32.1%増、ほかに、非鉄金属や食料品などの輸出も引用した記事のように伸びていますただし、11月統計の輸出については自動車は数量ベースで▲3.8%減、金額ベースで▲5.2%減となっています。輸出については、欧米先進国がソフトランディングするとすれば、先行き回復が見込めると考えるべきです。

最後に、来年2025年1月のトランプ米国大統領の就任に伴って、メキシコ・カナダに加えて中国製品への関税率の大幅アップが予想されています。いくつかのシンクタンクで試算していて、日を改めて取り上げたいと思いますが、日本から米国への輸出への影響は、第1に、関税引上げ国からの輸出を代替する部分はプラスのインパクトを持つものの、第2に、所得効果として高関税国だけではなく米国自身も景気悪化の影響をこうむりますので、日本からの輸出は一定のダメージを受けると予想されます。たぶん、後者のマイナスの影響の方が大きいんだろうと私は考えています。

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2024年12月17日 (火)

IMF Fiscal Monitor 2024 Oct. に見る財政再建のインパクトやいかに?

とても旧聞に属するトピックながら、10月23日に国際通貨基金(IMF)から Fiscal Monitor, October 2024 が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。私の方で普段からチェックしているリポートではないのですが、グラフをひとつだけ引用しておきたいと思います。以下の通りです。

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リポート p.8 Figure 1.21. Impact of Fiscal Adjustment on Aggregate Output and Consumption を引用しています。財政再建を進めるに当たって、どのような財政再建手法が総需要と総消費にダメージが大きいか/小さいか、を定常状態GDPを基準に試算しています。総需要へのダメージを中心に見ると、いわゆる公共投資のマイナスインパクトがもっとも大きく、次いで、政府消費、などとなっています。社会保障などの移転支出については、低所得層などのターゲットを明らかにした移転支出の減少が、ターゲットを特定しないユニバーサルな移転支出減よりダメージが大きいと試算されています。一番右の所得税による財政再建が総需要へのインパクトがもっとも小さいとの結果です。キチンとした累進課税になっていれば、おそらく、高所得層からの税収増が多くなってダメージも小さいんだろうと思います。なぜか、間接税である消費課税のダメージはこのグラフには現れません。

いずれにせよ、財政再建を進めるとしても、総需要へのダメージがあることはあまりにも確かなわけで、日本では、累進構造をきちんと制度設計し直した上で、高所得層への課税強化、すなわち、OxFam いうところの "Tax the Rich" の手法が推奨されている、ように解釈するエコノミストは私だけではないと思います。

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2024年12月16日 (月)

4か月ぶりに前月比で増加した10月の機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から10月の機械受注が公表されています。機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から▲0.7%減の8520億円と、3か月連続の前月比減少を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

機械受注10月は前月比+2.1%、4カ月ぶり増加 判断維持
内閣府が16日に発表した10月機械受注統計によると、設備投資の先行指標である船舶・電力を除いた民需の受注額(季節調整値)は、前月比2.1%増と4カ月ぶりの増加となった。ロイターの事前予測調査では前月比1.2%増と予想されており、結果はこれを上回った。
前年比では5.6%増えた。外需は同8.9%増で、前月比でみると7.9%増となった。
ただ、3カ月移動平均が2カ月連続で減少していることから、内閣府は機械受注の判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」と6カ月連続同じ表現で据え置いた。
機械受注統計は機械メーカーの受注した設備用機械について毎月の受注実績を調査したもの。設備投資の先行指標として注目されているが、振れが大きいことで知られ、船舶・電力を除いたコア指数が注目されている。
セクター別にみると、製造業が前月比12.5%増と4カ月ぶりのプラスに転じたが、非製造業(船舶・電力を除く)は1.2%減と2カ月ぶりのマイナスになった。
10月は人手不足に起因した省力化投資が活発化。産業別では蓄電池や家電など電気機械、パルプ・紙、鉄鋼がプラスに寄与した。
非製造業では通信機やパソコン、電子計算機などが落ち込んだ通信業のほか、金融・保険業が下押し要因となった。

やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+1.2%増、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも同じく+1.2%増でしたので、実績の+2.1%は上振れした印象です。ただし、日経・QUICKによるマクロ予測のレンジ上限は+5.0%増でしたので軽くレンジ内ということはいえます。4か月ぶりの前月比プラスながら、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」で据え置いています。6か月連続だそうです。日経新聞の記事によると、10~12月期の見通しが前期比で+5.7%と集計されており、11~12月は連続で前月比+4.7%以上の伸びが必要だそうで、この見通しは達成されるかどうか、ビミョーなところです。振れの大きな指標ですので、何とも先行きは見通せません。ただ、先行きリスクは下方に厚いと私は考えており、特に、年内10~12月期くらいから年明けには日銀による金利引き上げの影響がラグを伴って現れる可能性が十分あります。すでに、住宅ローン金利が引き上げられたのは広く報じられている通りです。
ただ、さらに大きな謎は、計画段階では先週12月13日に公表された日銀短観などのソフトデータで示されている企業マインドとしての投資意欲は底堅い一方で、実際に設備投資が実行されるに至っておらず、したがって、GDP統計や本日公表された機械受注などには一向に現れていない点です。すなわち、投資マインドと実績の乖離が気にかかります。乖離の理由について、「先行き不透明感」で片付けるのは忍びなく、私は十分には理解できていません。これだけ人口減少による人手不足が続いている中で、労働に代替する資本ストック増加のための設備投資の伸びもなくそのためにDXやGXが進まないとすれば、日本企業は大丈夫なのかどうか大きな不安が残ります。ひとつの仮説としては、新語・流行語大賞の「ふてほど」ではないのですが、エコノミストとしては極めて不穏当・不適切ながら、日本企業はもはや経済活動で利潤最大化を目指すのではなく、政治活動で、すなわち、政治献金による政治的なレント、補助金や減税を目指している可能性がある、という見方はどこまで成り立つ可能性があるのでしょうか?

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2024年12月15日 (日)

「クリスマス・イブ」の広瀬すずバージョン

山下達郎「クリスマス・イブ」の広瀬すずバージョンです。
3-4年前の村下孝蔵「初恋」はそれほどでもなかったのですが、これは広瀬すずが美少女だということを再認識させられました。
まあ、この季節の定番曲ですが、もう40年くらい前なのだと思います。バブル経済の1990年前のJR東海の新幹線のコマーシャルが印象的だった人も多いかもしれません。35年ほど前ですから50歳を超えているのだろうと思いますが...

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今年2024年の新語・流行語大賞と漢字

今年2024年の新語・流行語大賞は「ふてほど」で、今年の漢字は「金」でした。
私は流行語トップテンに入っていた「裏金」を推していました。漢字は「裏」ですかね。

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2024年12月14日 (土)

今週の読書は経済書や専門書をはじめ計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ティモシー・べズリー『良い政府の政治経済学』(慶應義塾大学出版会)では、プリンシパル-エージェント関係モデルに基づき、どのようにして国民が政治家を通じて望ましい政策を決定し、実行させるを考えています。『米国経済白書2024』(蒼天社出版)では、バイデン-ハリス政権下での2023年の米国経済を回顧するとともに、2024年の見通しを分析しています。日本体育・スポーツ経営学会[編]『スポーツ観戦を科学する』(大修館書店)では、見るスポーツを科学的に分析しています。リチャード J. ジョンソン『肥満の科学』(NHK出版)では、人間がなぜ太るのかについて、文化的な要因ではなく、生物学的な要因を考えています。柚木麻子『あいにくあんたのためじゃない』(新潮社)は、直木賞候補作にも上げられた短編集です。藤崎翔『お梅は呪いたい』(祥伝社文庫)は、現代によみがえった500年前の呪いの人形をコミカルに描いています。J. D. サリンジャー『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』(新潮文庫)は『ライ麦畑でつかまえて』の主人公などに関係する短編やグラース家の長兄であるシーモアの7歳のころの手紙を基にした短編を収録しています。
今年の新刊書読書は1~11月に299冊を読んでレビューし、12月に入って先週は6冊をポストし、今週も7冊で合わせて312冊となります。Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。

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まず、ティモシー・べズリー『良い政府の政治経済学』(慶應義塾大学出版会)を読みました。著者は、英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの教授、及び、W. アーサー・ルイス開発経済学教授を務めていて、2018年にSir の称号を授与されています。本書はスウェーデンのウプサラ大学におけるリンダール・レクチャーに基づいており、英語の原題は Principled Agents? となっています。2006年の出版です。英語のタイトルから容易に想像されるように、国民と政府の関係をプリンシパル-エージェント関係としてマイクロな政治的エージェンシー・モデルに基づいて考えようと試みています。なお、基準モデルには逆選択とモラルハザードが組み込まれています。本書によれば、主権者たる国民が選挙を通じて望ましい政策を実現する政治家を選び、その上で、どう政策を実行させるのか、という民主主義の基本問題の理論モデルは政治学においては存在しなかった、ということらしく、経済学ないし経営学のエージェンシー・モデルを用いた政治経済学を展開しています。ただ、私の理解では、このエージェンシー・モデルは本書で用いるとすれば、二重の入れ子構造(?)あるいは連続的な構造になる可能性があります。すなわち、主権者たる国民と政治家の間の関係、そして、政治家と実務を担う官僚との関係です。ただ、日本に限らず現実にはもっと複雑な部分があり、国民が政治家を選び、政治家が官僚に命令する、までは本書と同じなのですが、日本的な三すくみの構造では、官僚が国民に対して規制や命令で何らかの支配を行ったり、あるいは、補助金などで誘導したりといった関係があります。三すくみとなってしまうわけです。まあ、それは別としても、本書では、米国大統領制のように多選が禁止された場合にレームダックになって、次回選挙には出馬できないケースの考察なんかは、日本ではそういった制度はないものの、私自身はかなり強い興味を持って考えられたという気がします。また、第2章の政府の失敗についても、もちろん、経済学的な市場の失敗になぞらえて分析を進めており、私が政府の中から官邸スタッフとして見ていた範囲でも、第1次安倍政権から1年おきに自公連立政権の内閣が辞職した上に、民主党に政権交代した際の出来事なんかは、この第2章の政府の失敗に当たる気がします。本書巻末の解説では、2022年の保守党トラス内閣が大減税政策を打ち出して、わずか2か月足らずで退陣した例を政策の連鎖=policy linkage による政府の失敗の一例と指摘しています。第3章のアカウンタビリティ、第4章の財政などもマイクロな分析として的確になされていると私は受け止めています。そのあたりは読んでみてのお楽しみです。

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次に、『米国経済白書2024』(蒼天社出版)を読みました。著者は、米国大統領経済指紋委員会であり、英語の原題は The 2024 Economic Report of the President となっていて、pdfの英文リポートが米国大統領府のサイトからダウンロードできます。今年2024年の「白書」は7章構成となっていて、完全雇用、2023年の経済回顧と2024年の見通し、人口の高齢化、住宅、国際貿易・投資、クリーンエネルギー、AIの経済学、となっています。実は、私の勤務大学である立命館大学の大橋先生が邦訳のスタッフであり、学生向けの解説セミナーに私も出席して、邦訳者からのご報告を受けて、私からもいくつか質問をした中で、「ホントにそんなことが書かれているのか」といった質問をしたところ、大橋先生から「自分で読め」という趣旨なんだろうと思いますが、1冊ちょうだいいたしましたので、読んでみた次第です。いちおう、言い訳しておくと、大昔の1989年に当時勤務していた経済企画庁で「平成元年版 世界経済白書」の米国経済を私は執筆していますので、35年前の霞が関という狭い範囲では、それなりに米国経済に関する専門性があったのだろうと推測されて然るべき、と思います。ということで、簡単に本書について見ておくと、第1章の雇用、特に完全雇用の利益については、現在の日本的、というか、リフレ派でいうところの「高圧経済」についての利益と同じと考えられます。何度も繰り返しますが、雇用の流動性という意味が、完全雇用≅高圧経済においてはデフレ経済における意味とはまったく違ってきます。現在の日本における雇用の流動性とは、使用者サイドで自由に、とまではいわないにしても、低コストで労働者の解雇が出来る、ということを意味します。他方で、完全雇用≅高圧経済においては、労働者のサイドで自分のスキルに見合った職に、あるいは、条件のよい職に移動できることを意味します。この点が理解されていないのは、私にはとっても不思議です。第3章の高齢化に関して、米国の出生率が2007年の2.12から2022年のは1.67に大きく低下していることは初めて知りました。本章では、移民の役割が強調されています。日本とは少し違うところかという気がします。今まで一般的に、移民は米国における低熟練労働を担う存在と考えられてきましたが、むしろ、起業したりして雇用を創出する存在としても重要性を増している点が強調されています。また、セミナーにおける本章の解説で、「米国人のモビリティは低いが、移民のモビリティは高い」とリポートされたので、私は違和感を覚えて質問しました。ティボー的な「足による投票」、すなわち、住民が自分にとって好ましい行政サービスを提供してくれる地方公共団体の地域に移住するという形で擬似的な投票行為とみなす理論では、米国人は他国に比べて抜群にモビリティが高い、とされているので、大きな違和感を覚えたわけで、「ホントにそんなことが書かれているのか」といった質問をしたわけです。決して、違和感以上の批判をしたつもりはありません。はい、言い訳しておきます。第4章以降の分析は読んでみてのお楽しみです。

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次に、日本体育・スポーツ経営学会[編]『スポーツ観戦を科学する』(大修館書店)を読みました。著者は、要するに、日本に数多くある学会のひとつなんだろうと思いますが、本書巻末のあとがきによれば、1952年に設立された体育管理学会から発展しているそうです。おそらく、私の想像ながら、管理と経営は同じく英語の management なんだろうと思います。ということで、スポーツはする方と見る方の両方の楽しみがあります。基本的に、スポーツも絵画や音楽といった芸術やほかの文化と同じなのでしょうが、スポーツの楽しさは同時体験にあると本書では指摘しています。もちろん、音楽の録音やスポーツの録画などの科学技術の進歩とともに、時間的な同時性は失われていくのでしょうが、絵画や彫刻のように制作過程に重点が置かれない芸術とスポーツの差は歴然としています。もうひとつ、本書ではそれほど強く指摘しているわけではありませんが、スポーツにはデータ分析できる応用範囲が広い点も、ひとによっては魅力に感じるのではないか、と私は考えています。音楽の周波数帯がどうとか、絵画のRGB比を論じる向きがないわけではありませんが、スポーツの各種データの楽しみ、例えば、プロ野球の打者の打率や投手の防御率などとはまったく次元が異なるといわざるをえません。でも、本書のいくつかの章に見られるように、スポーツを見ることを楽しむ領域を超えて、鑑賞能力とか「みる力」、といわれてしまうと、そこまでハードルを高くする意味があるのだろうかという疑問はあります。その昔に『ビッグコミック』に連載されていたマンガの「寄席芸人伝」では、文人墨客だけを重視して地方から来ていた観光客を小馬鹿にする落語家をその師匠が叱り飛ばすのがありましたが、それと同じで、スポーツ一般を庶民的な娯楽の領域を超えて一部のエリートの楽しみにしてしまいかねない危うさを感じるのは私だけではないと思います。もちろん、庶民的なスポーツと一部エリートによる高級スポーツが併存することはあるとしても、スポーツに大きな制約をかけかねない「鑑賞」とか、「みる力調査」なんてものがどこまで必要かは、少し立ち止まって考えるべきだと私は思います。ただ、本書で指摘されているように、オリンピックなどのメガイベントにおけるナショナリスティックなバイアスについては、もっと大きな危うさを私自身は感じていますし、そういったメガイベントに電通などがが商機を見出しているのも疑問を感じます。本書第6章の最後でも、ダイナミック・プライシングによるスポーツ・イベント収益の最大化はいいとしても、経済的な所得階層によるスポーツを見る楽しみ方に大きな差が生じることを疑問視する見方が示されています。スポーツ観戦にまで国民の分断を持ち込むリスクは避けなければなりません。

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次に、リチャード J. ジョンソン『肥満の科学』(NHK出版)を読みました。著者は、米国コロラド大学医学部の教授であり、ご専門はないか、感染症、腎臓病などだそうです。英語の原題は Nature Wants Us to Be Fat であり、2022年の出版です。肥満に関しては食事の西洋化、すなわち、高カロリーの接種という個々人の食欲の問題に帰着させる議論が主だったように私は受け止めていますが、本書では、そういった個々人の欲望や食生活といった社会的あるいは文化的な要因ではなく、生物としての生き延びるための要因、すなわち、本書で名付けられているところのサバイバル・スイッチがオンになっているという生物学的な要因を強調しています。要するに、一言でいえば、人間が生物として太るのは、生き延びるために効率的に果糖=フルクトースから脂肪を生成し、その脂肪を使う際には、これまた、効率的に脂肪燃焼量をケチるように出来ていることが原因と指摘しています。しかし、厄介なことに、食事として果糖=フルクトースを摂取するだけでなく、体内で果糖=フルクトースを生成できる機能も人間にはあったりします。ただ、巷間よくいわれるように、肥満まで行けばともかく、小幅な過体重は脂肪がカロリーのもととなるだけではなく、水分のもととなることなどからかえって健康を維持する可能性も十分あります。もちろん、肥満や大幅な過体重はさまざまな病気になったり、健康を壊したりする原因になることはいうまでもありません。ここまでが第Ⅰ部です。続く第Ⅱ部では、この果糖=フルクトースによってサバイバル・スイッチがオンになると、肥満だけではなく、心身の病気になるリスクが高まることを明らかにしています。すなわち、通風、糖尿病、高血圧などの身体的な病気、依存症や行動障害、さらには、注意欠如・多動症(ADHD)などです。そして、最後の第Ⅲでは、こういった人間を太らせたがる自然を出し抜いて体重を維持したり、さらには体重減少につなげるダイエット法について議論しています。読者によってはこのあたりにメインの関心がある向きも少なくなさそうな気もしますが、このあたりは読んでみてのお楽しみとしておきます。

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次に、柚木麻子『あいにくあんたのためじゃない』(新潮社)を読みました。著者は、もちろん、小説家であり、私は『本屋さんのダイアナ』と『BUTTER』については明確に読んだ記憶がありますが、ひょっとしたら、ほかにも読んでいるかもしれません。本書はかなりよく売れた本ですので、出版社では特設サイトを開設したりしています。以下の6話の短編を収録しています。まず、「めんや 評論家おことわり」では、ラーメン評論のSNSの炎上です。何とミシュランで2ツ星を取ったラーメン店で、ラーメン評論家からその昔に被害にあった関係者が驚くべき行動に出ます。「BAKERY SHOP MIREY'S」では、カフェを開くのが夢といいつつ、まったく、お菓子を焼いたことがない女性に対して、英国留学の経験もある別の女性の顧客が、夢を叶えるべく業務用のオーブンをプレゼントするのですが、果たしてどうなりますことやら。「トリアージ2020」は、「トリアージ」という20年も続く医療テーマの長寿番組の愛好家という関係でSNSによりネットで知り合った女性同士の関係です。片方の女性が40歳になって未婚の母として出産する間際になって、いろんなことが起こります。「パティオ8」では、中庭を共有する集合住宅に暮らす人々に起こるトラブルです。「パティオで子どもを遊ばせてうるさくしても大丈夫」という条件付きのマンションにもかかわらず、難癖をつける101号室の男性にママたちが結託して挑みます。「商店街マダムショップは何故潰れないのか?」では、商店街にある雑貨店で、店長マダムが暇を持て余したりしているお店で、まったく売れていなさそうにもかかわらず、どうして潰れないかの謎です。街を出ていこうとしている女性がそういった店で買物をしてみると、何ともびっくりする展開が待っています。「スター誕生」では、Youtuberとして動画配信を生きがいとしている老人と、落ち目の目立たない元アイドルの中年男性が、ナチュラルでバズったワンオペ育児主婦ことMCワンオペを利用しようとして、驚くべき結末を迎えます。それぞれに理不尽だったり、不自然だったりするさまざまななシチュエーションでの短編を集めています。直木賞候補作なのでしたが、少し統一感に欠ける気がしました。

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次に、藤崎翔『お梅は呪いたい』(祥伝社文庫)を読みました。著者は、今現在でもっとも勢いのあるエンタメ小説家の1人ではないかと思います。私は、たぶん、『神様の裏の顔』から始まって、直近の『逆転美人』や『みんなのヒーロー』などまで、数冊は読んでいると思います。なお、タイトルからして本書の続編であろう『お梅は次こそ呪いたい』もすでに出版されている、あるいは、出版が近いと聞き及んでいます。ということで、タイトルのお梅とは約500年前の戦国時代に作られた日本人形であり、かつて戦国大名を滅亡させた呪いの人形であったりします。見た目としては、まあ、表紙画像に見られるように、少女をモデルにした人形です。木と紙でできています。そのお梅が古民家の解体中に発見され、500年の封印を解かれて現代に出現したわけです。とはいえ、ホラー小説では決してなく、基本コメディと考えるべきです。すなわち、お梅は呪いの人形らしく、現代人を呪い、できれば、呪い殺そうとするのですが、呪は現代人には効かず、瘴気を発してもイヌネコにわずかに「嫌な匂い」と認識されるくらいで、500年前の戦国時代には有効だった手段がことごとく跳ね返されます。お梅が使えるのは、瘴気のほか、憎しみとか妬みなどの人間のネガな感情を増幅させて、激しい対立関係を形成して、例えば、殺し合いに持ち込むことくらいなのですが、逆に作用して人形の持ち主にハッピーな結果をもたらしてしまったりします。例えば、最初の持ち主の底辺ユーチューバーは、お梅が動き回っている画像を収録するのに成功してバズったりします。この冒頭の底辺ユーチューバー以外には、失恋した女性、引きこもり男性、老婆と小学生、老人ホーム入居者となります。持ち主をハッピーにするというストーリーもあれば、社会全体に対するよき効果をもたらしたりする結末もあります。各章は独立した短編としても楽しめますし、連作長編と見ることも出来ます。この作者のコメディ小説はハズレがありません。本書もオススメです。また、私自身も次作の『お梅は次こそ呪いたい』も読みたいと思います。

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次に、J. D. サリンジャー『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』(新潮文庫)を読みました。作者は米国の小説家であり、『キャッチャー・イン・ザ・ライ (ライ麦畑でつかまえて)』がもっとも有名な作品のひとつであり、もうひとつのグラース家サーガの短編についてもファンが少なくないと思います。邦訳は金原瑞人先生です。ということで、本書は『キャッチャー・イン・ザ・ライ (ライ麦畑でつかまえて)』の前にホールデンを主人公にした、あるいは、関連深い短編6話ほかの短編2話、そして、グラース家の長兄シーモアが7歳の時に家族に宛てて書いた手紙である中編1話「ハプワース16、1924年」を収録しています。まず、前半の短編6話は、繰り返しになりますが、『キャッチャー・イン・ザ・ライ (ライ麦畑でつかまえて)』の前にホールデンを主人公にした、あるいは、関連深い短編です。タイトルだけ羅列すると、収録順に、「マディソン・アヴェニューのはずれでのささいな抵抗」、「ぼくはちょっとおかしい」、「最後の休暇の最後の日」、「フランスにて」、「このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる」、「他人」となります。ホールデンなどと関係ない短編2話は、「若者たち」、「ロイス・タゲットのロングデビュー」、そして、グラース家サーガの分類されるべき中編「ハプワース16、1924年」、計9話で構成されています。そのうち、いくつかかいつまんで取り上げます。冒頭の2話はクリスマス休暇でニューヨークに戻ったホールデンを主人公にしています。それ以降の6話はジョン F. グラッドウォラー2等軍曹、愛称ベイブまたはホールデンの兄のヴィンセントが主人公となります。「最後の休暇の最後の日」では、休暇で帰宅しているベイブをホールデンの兄のヴィンセント・コールフィールドが訪ねてきます。「フランスにて」では、ベイブはフランスでドイツ軍と戦っています。「このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる」の主人公はヴィンセントであり、ジョージアで慰問イベントのダンスパーティーに連れて行く兵隊を選ぶお話です。「他人」は除隊したベイブが妹を連れて外出し、ヴィンセントの恋人の家を訪ねます。ヴィンセントはヒュルトゲンの森で戦死しています。ホールデンや兄のヴィンセントなどとは関係ない短編2話「若者たち」と「ロイス・タゲットのロングデビュー」の後、最後の中編「ハプワース16、1924年」は、これも繰り返しになりますが、グラース家の長兄シーモアが7歳の時に家族に宛てて書いた手紙です。ただ、その手紙を紹介しているのは次兄のバディです。そして、小説の時点でバディは40代半ばとなっていて、昔を振り返る形を取っています。タイトルに入っているハプワースというのはキャンプ場のことで、シーモアとバディがキャンプに参加しています。そのキャンプ場からシーモアが手紙を書いているわけです。恐ろしく難解で、とても7歳の子どもが書いているとは思えない手紙です。その意味も含めて、公刊当時の評価はかなり低かったといわれています。なお、サリンジャーはこの作品を1965年に公表した後、一切の作品公表を止めてしまいます。すなわち、これが最後に発表されたサリンジャーの作品となります。最後に、さすがに、金原先生の手になることもあって、邦訳文章が素晴らしく読みやすく仕上がっています。私のようなサリンジャーの小説のファンであれば読んでおくべきだという気がします。

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2024年12月13日 (金)

予想に反して大企業製造業の業況判断DIが改善した12月調査の日銀短観

本日、日銀から12月調査の短観が公表されています。日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは9月調査から-1ポイント改善して+14、他方、大企業非製造業は逆に▲1ポイント悪化の+33となりました。また、本年度2024年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+9.7%増と、9月調査の+8.9%から上方修正されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。なお、11時半現在での引用ですので、その後の夕刊向け記事は追加修正されていると思います。悪しからず。

大企業製造業の景況感、小幅改善 自動車生産が回復
日銀が13日発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回9月調査(プラス13)から小幅改善となるプラス14だった。認証不正問題で低迷していた自動車生産の回復や、人工知能(AI)関連の半導体製造装置の需要増加などがプラス材料となった。
大企業非製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回9月調査(プラス34)から小幅悪化のプラス33だった。2四半期ぶりに悪化したが、1991年以来の高水準は維持した。
非製造業では残暑がつづき秋冬物の需要が伸びにくく、米価格の高騰など物価高が消費者マインドの悪化に作用した。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。12月調査の回答期間は11月11日~12月12日で、回答率は99.4%だった。

いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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昨日、日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては、製造業・非製造業ともにおおむね横ばい圏内との予想であり、私が見た範囲で、ロイターによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回9月調査から悪化の+12と予想されていましたし、大企業非製造業も実績としては悪化したものの、ロイターの事前コンセンサスの+33を上回っています。ただ、プラスかマイナスかの符号は違えども、横ばい圏内の動きという意味でも、動きの幅のマグニチュードでも大きなサプライズはありませんでした。繰り返しになりますが、実績としては、短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが9月調査から+1ポイント改善の+14となり、また、大企業非製造業では逆に▲1ポイント悪化して+33となりました。大企業製造業で少し詳しく見ると、素材業種が石油・石炭製品の大幅プラスを背景に前回調査より+3ポイント改善した一方で、加工業種は横ばいでした。大企業非製造業では、小売が前回調査から▲15ポイントの悪化、宿泊・飲食サービスも▲12ポイントの悪化を見せています。ただし、小売も宿泊・飲食サービスも、いずれもDIの水準としてはプラスを維持しています。先月末に経済産業省から公表された商業販売統計でも小売販売の伸びが停滞し始めているようですし、景況感に関しては 概ねハードデータとソフトデータの整合性は十分あるような気がします。先行きの景況感については、製造業・非製造業おしなべて大企業・中堅企業・中小企業ともに悪化の動きを予想しています。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学における生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感がほぼ払拭されました。特に、雇用人員については足元から目先では不足感がますます強まっている、ということになります。グラフを見ても理解できる通り、大企業・中堅企業・中小企業ともコロナ禍前の人手不足感を上回っています。今春闘での賃上げが高水準だった昨年をさらに上回った背景でもあります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、名目賃金が物価上昇以上に上昇して、実質賃金が安定的に上向くという段階までの雇用人員の不足は生じているかどうかに疑問があり、その意味で、本格的な人手不足かどうか、賃金上昇を伴う人で不足なのかどうか、については、まだ、私は日銀ほどには確信を持てずにいます。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではない可能性があるのではないか、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私にはまだ謎です。実質賃金、すなわち、名目賃金が物価上昇に見合うほど上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感が大きくなる段階には達していません。要するに、繰り返しになりますが、低賃金労働者が不足しているだけであって、低賃金労働の供給があれば、生産要素間で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れである可能性を感じます。

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続いて、設備投資計画のグラフは上の通りです。規模別に見ると、大企業が9月調査の+10.6%増から上方修正されて+11.3%増、そして、中堅企業も+9.5%増から上方修正されて+10.1%増、中小企業でも+3.5%増から上方修正されて+4.0%増と、人手不足を設備投資による資本ストック増で要素間代替を試みるような動きが観察されます。大企業に比べて規模の小さい企業での雇用増を図ることが厳しく、設備投資で代替させようとの動きと私は受け止めています。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。今回の12月調査では全規模全産業で+9.7%増の高い伸びが計画されています。9月調査よりも上積みされています。カーボンニュートラルを目指したグリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた投資がいよいよ本格化しなければ、ますます日本経済が世界から取り残される、という段階が近づいているような気がして、設備投資の活性化を期待しています。ただ、GDPベースの設備投資やその先行指標である機械受注などのハードデータと日銀短観に示されたソフトデータの間でまだ不整合があるような気がします。計画倒れにならないことを願っています。

最後に、特に、日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが前回調査から改善を示し、市場の事前コンセンサスも上回ったわけで、来週の日銀金融政策決定会合で追加利上げされる確率は高まった、と私は考えています。ただ、追加利上げの確率は高まったとはいえ、まだかなり低いのも事実であろうと予想しています。

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2024年12月12日 (木)

12月調査の日銀短観予想やいかに?

明日12月13日の公表を控えて、各シンクタンクから12月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業/非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下のテーブルの通りです。設備投資計画は今年度2024年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、可能な範囲で、先行き経済動向に注目しました。短観では先行きの業況判断なども調査していますが、シンクタンクにより大きく見方が異なっています。注目です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
9月調査 (最近)+13
+34
<+8.9>
n.a.
日本総研+12
+32
<+8.2%>
先行きは、全規模・全産業で12月調査から±0%ポイントの横這いを予想。製造業では、グローバルな財需要の循環的な回復が全体を下支えする一方、米国政府の関税引き上げによる世界経済の減速が懸念され、景況感を下押しする見通し。非製造業の景況感は、所得環境の改善による個人消費の持ち直しが景況感を押し上げる一方、人手不足の深刻化や人件費の増加が押し下げる見通し。
大和総研+11
+34
<+8.5%>
大企業製造業では、国内のサービス消費の回復により「食料品」などが改善するとみている。他方、米トランプ次期政権が掲げる関税引き上げへの懸念を背景に、幅広い業種で保守的な見通しが示されるとみている。「自動車」やその周辺産業では、国内の自動車生産体制の正常化が押し上げ要因となる一方、輸出の減少やメキシコなどにおける現地生産の縮小が警戒されよう。また、2025年にかけてはシリコンサイクル(世界半導体市場に見られる循環)の回復ペースの鈍化が見込まれることから、「生産用機械」を中心に半導体関連産業の改善幅は限定的となろう。
大企業非製造業では、中国人訪日客の回復ペースの鈍化1や、米国の関税引き上げなどへの警戒感が表れるだろう。非製造業の業況判断DI(先行き)は製造業と比べて落ち込みやすい傾向があるが、それを差し引いてみても弱気な結果が示される見込みだ。企業が米国の関税引き上げを織り込む程度は不明瞭だが、国際貿易の停滞を見込んで「運輸・郵便」や「卸売」、「対事業所サービス」などでは需要の減少に対する懸念が下押し要因となろう。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+12
+35
<+8.2%>
大企業・製造業の業況判断DIの先行きは、▲1ポイントの悪化を予測する。これまで回復が続いてきた半導体市場については、足元で出荷・在庫バランスにピークアウト感が見られることから、今後徐々に減速に向かっていく可能性がある。また、米国大統領選でトランプ氏が当選したことで、為替相場や通商政策における不確実性が高まると予想される。これらの要因は、製造業の景況感を下押しするだろう。
大企業・非製造業の業況判断DIの先行きは2ポイントの改善を予測する。10月から最低賃金が5.1%引き上げられた(全国平均)ことに加えて、みずほリサーチ&テクノロジーズでは、今冬の賞与(民間企業一人当たり支給額)を前年対比+3.5%の増加と予想している。所得環境の改善は個人消費に追い風となり、先行きの非製造業の景況感を押し上げるだろう。
ニッセイ基礎研+11
+32
<+9.0%>
先行きの景況感については総じて悪化が示されると予想。製造業では、1月に発足するトランプ米政権による関税引き上げや米中貿易摩擦激化への警戒感が景況感に現れるだろう。非製造業では、物価高の長期化による消費の腰折れや人手不足に対する懸念から、先行きの景況感が悪化すると見ている。
第一生命経済研+10
+34
<大企業製造業17.5%>
先行きの見方も、トランプ関税の警戒感が強まって、現状よりも悪化するという見方に変わっていくだろう。メキシコ、カナダ、中国に対する関税率の引き上げは、間接的に現地法人を有する日本企業の業績悪化に跳ね返ってくる。トランプ関税は日本にも有害なのだ。
三菱総研+12
+34
<+8.6%>
先行きの業況判断DI(大企業)は、製造業+12%ポイント(12月調査「最近」から▲1%ポイント低下)、非製造業は+34%ポイント(同+1%ポイント上昇)を予測する。製造業では、半導体の世界的な需要拡大が関連業種の業況を押し上げるものの、米国新政権の政策(追加関税など)の不透明感から多くの業種では業況に対する慎重な見方が広がるとみられ、全体では小幅の悪化を見込む。非製造業では、実質賃金が改善し始めるなかで、個人消費の持ち直しが続くとみられ、消費関連業種の業況は改善を見込む。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+13
+34
<大企業全産業+9.5%>
大企業製造業の業況判断DI(最近)は、前回調査から横ばいの13と予測する。加工業種は半導体需要や自動車生産の持ち直しに支えられて改善する一方、素材業種は海外景気の減速やコスト高を受けて横ばいにとどまるとみられる。先行きは、米国トランプ次期大統領による通商政策の不確実性の高まりや不安定な為替相場等から、業況判断DI(先行き)は3ポイント悪化の10と慎重な見通しになるだろう。
大企業非製造業の業況判断DI(最近)は、前回調査から横ばいの34と予測する。堅調なインバウンド需要が下支えとなるものの、景況感はすでに歴史的な高水準にあり、さらなる改善の余地は小さい。先行きは、人手不足の深刻化や金利上昇への警戒感から、業況判断DI(先行き)は3ポイント悪化の31と慎重な見通しになるだろう。
農林中金総研+12
+31
<8.5%>
先行きに関しては、世界経済は全般的に低成長状態から抜け出せないとみられるほか、トランプ関税への警戒感も強まっている。一方で、所得改善による消費の本格回復への期待は高い。ただし、収益伸び悩みを予想する企業が多い中、人手不足などによる賃上げ圧力がさらに収益を圧迫させるとの警戒もあるだろう。以上から、製造業では大企業が10、中小企業が▲3 と、今回予測からともに▲2ポイントの悪化、非製造業についても大企業が30、中小企業が10と、今回予測からともに▲1ポイントの悪化と予想する。
明治安田総研+12
+33
<+8.2%>
12月の先行きDIに関しても、大企業・製造業は1ポイント悪化の+11、中小企業・製造業も1ポイント悪化の▲3と予想する。中国景気の停滞は長期化が予想されるのに加え、底を打ったとみられていた欧州景気も、その後の回復ペースは想定以上に鈍い。海外景気の見通しの下振れにより、今後の業況への期待は低下していると考えられる。また、今回の12月短観は調査票の発送が11月11日となっており、トランプ氏が次期米大統領となることが確定した6日以降にすべて回収された結果となる。前回、トランプ氏の大統領選勝利後に行なわれた2016年12月調査でも、先行きDIが大企業製造業で▲4ポイント、中小企業で▲5ポイント悪化した。関税引き上げや米中関係の冷え込みによる業績悪化懸念が高まったことも業況を下押ししたとみる。

12月調査の日銀短観における景況判断DIはおおむね横ばい圏内と私は考えていますが、これまた、極めて大雑把には、製造業・非製造業ともにやや悪化する可能性が高いと考えています。ただ、先行きについては、製造業で明確に悪化の方向が考えられます。でも、その理由は米国大統領選挙におけるトランプ次期大統領の当選であり、短観回答基準日の後のイベントですので、どこまで回答に織り込まれているかは不明です。設備投資についても、前回調査から上下どちらも方向の予想も見られますが、これまた、私は基本ラインは下方修正だろうと考えており、しかも、昨日公表された法人企業景気予測調査と同じで、最終的に設備投資として実現されることなく計画倒れに終わる可能性も十分あると見ています。
最後に、下は三菱リサーチ&コンサルティングのリポートから引用した 業況判断DIの推移 のグラフです。

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2024年12月11日 (水)

さらに上昇幅が拡大した11月の企業物価指数(PPI)と起業マインドの順調な回復を示す法人企業景気予測調査

本日、日銀から11月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+3.7%の上昇となり、9月統計の+3.1%、先月10月統計の+3.6%からさらに上昇が加速しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数11月3.7%上昇 コメ高騰続く
日銀が11日発表した11月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は124.3と前年同月比で3.7%上昇し、23年7月以来の高い伸び率となった。民間予測の中央値(3.4%上昇)より0.3ポイント高かった。コメの価格高騰によって全体が押し上げられた。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに消費者物価指数(CPI)に影響を与える。今回、10月分の前年同月比上昇率は3.4%から3.6%に上方修正になった。
11月の内訳をみると、コメを含む農林水産物は前年同月比で31.0%上昇し、10月(28.1%上昇)から2.9ポイント伸び率が拡大した。一方、前月比では2.0%上昇と、10月(6.7%上昇)から伸び率が鈍化した。企業間取引では新米の流通によって「価格上昇のペースが9月、10月に比べてだいぶ落ち着いてきた」(日銀)という。
電力・都市ガス・水道は前年同月比で9.2%上昇した。再生可能エネルギーの普及のため国が電気代に上乗せしている再エネ賦課金が24年5月から引き上げられたことが前年同月比プラスに寄与した。
9月検針分から再開された電気・ガスの補助金の規模が縮小されたことにより前月比でも2.8%押し上げられた。補助金は11月検針分で一旦終了するが、25年2月検針分から再開される。
為替市場での円安進行により、円ベースで輸入物価指数は前月比で1.5%上昇した。11月の平均相場は1ドル=153.8円と10月(1ドル=149.6円)に比べ円安傾向にあった。一方で、原油価格の下落などを背景に前年同月比では1.2%下落した。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+3.4%、予測レンジの上限でも+3.6%と見込まれていましたので、実績の+3.7%はレンジ上限を超えて大きく上振れた印象です。国内物価の上昇幅が拡大したした要因は、引用した記事にもある通り、コメなどの農林水産物の価格上昇であり、11月の農林水産物は前年同月比で見て10月の+28.1%をさらに超えて11月は何と+31.0%の上昇を記録しています。ただ、先月10月は年度始まりの4月に次いで価格改定の多い月で、その流れを直近の11月統計でも引き継がれている点は見逃せません。また、引用した記事にもある通り、政府による電気・ガスの補助金は9月検針分から再開され、11月検針分でいったん終了しますが、来年2025年2月検針分から再開されます。これは物価押下げ要因となっていることはいうまでもありません。加えて、11月の為替は円安が進んだ点も物価押上げ要因と考えるべきです。先月10月から+3%近い円安が進んでいます。また、私自身が詳しくないので、エネルギー価格の参考として、日本総研「原油市場展望」(2024年11月)を見ておくと、中国の原油需要の伸び悩みやOPECプラスによる供給増を背景に、「先行きを展望すると、原油価格は60ドル台半ばに向けて下落する見通し。」ということになっています。ただ、米国のトランプ次期政権の環境・エネルギー政策にも注目すべきであることはいうまでもありません。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず繰り返しになりますが、農林水産物は10月の+28.1%から11月は+31.0%と上昇幅を拡大しています。ただ、飲食料品の上昇率は10月の+1.9%から11月は+1.8%と比較的落ち着いた動きとなっています。他方で、電力・都市ガス・水道が10月の+5.9%から11月は+9.2%と上昇幅を加速させています。ほかに、銅市況の高騰などにより非鉄金属が+13.6%と2ケタ上昇を示しています。

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また、本日、財務省から7~9月期の法人企業景気予測調査が公表されています。ヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は10~12月期は+5.7と3四半期連続のプラスを記録し、先行き来年2025年1~3月期には+3.9、4~6月期でも+2.6と、この統計のクセが現れて下降するものの、企業マインドは順調に回復を継続する見通しが示されています。法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは上の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、企業物価(PPI)と同じで、景気後退期を示しています。
大企業と中小企業の合計で見た全規模全産業の設備投資計画は、今年度2024年度に+10.3%増が見込まれています。産業別に設備投資計画を見ると、製造業では化学工業や非鉄金属製造業の寄与が大きく+11.5%増が、また、非製造業では運輸業、郵便業や電気・ガス・水道業の寄与が大きく+9.7%増が、それぞれ計画されています。それなりに期待していいのではないかと思いますが、まだ、機械受注の統計やGDPに明確に反映されるまで至っていませんので、私自身は計画倒れになる可能性もまだ残っているものと認識しています。

さて、明後日12月13日公表予定の12月調査の日銀短観やいかに?

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2024年12月10日 (火)

OECD の OECD Youth Policy Toolkit やいかに?

先週火曜日11月26日に、先進国が加盟する経済協力開発機構(OECD)から OECD Youth Policy Toolkit が公表されています。ちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。まず、構成として、なぜかIIから始まる5つの柱をOECD のツイッタのサイトから引用すると以下の通りです。

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リポートはあくまで Toolkit ですので、いろんな取組みに関して Context/Description/Outcomes/Further reading といった事項を羅列しているだけですが、OECD のホームページにはいくつかの図表も取り上げられています。その中から Share of members of parliament (MPs) aged 40 and under, and people aged 20-39 と同じグラフを OECD のツイッタのサイトから引用すると以下の通りです。

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やっぱり、日本では男女格差とともに年齢間不平等も先進国の中では桁違いに大きい、特に、こういった政治的参加の局面では若年層の意見が反映されにくい素地があることが理解できます。そして、こういった男女格差や年齢間不平等が経済の停滞に大きく関わっていると考えるエコノミストは私だけではないと思います。男女間の性別格差の是正を考えていましたが、年齢間での格差の是正についても、日本経済の活性化のために大いに必要性を感じ始めています。特に、大学生や院生と接する機会の多い身として痛感します。

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2024年12月 9日 (月)

上方改定された7-9月期GDP統計速報2次QEと景気ウォッチャーと経常収支

本日、内閣府から7~9月期GDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの系列で前期比+0.3%増、年率換算で+1.2%増を記録しています。2四半期連続のプラス成長で、1次QEからはわずかに上方改定されています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+2.4%、国内需要デフレータも+2.1%に達し、2年8四半期連続のプラスとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP1.2%増に上方修正、7~9月期改定値 在庫など影響
内閣府が9日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.3%増、年率換算で1.2%増だった。11月発表の速報値(前期比0.2%増、年率0.9%増)から上方修正した。最新の統計を踏まえ、民間在庫の寄与度を上向きに見直した。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は前期比0.2%増、年率0.9%増だった。公表結果は事前予測を小幅に上回った。名目GDPは前期比0.5%増、年率換算で1.8%増だった。実額は実質の年換算で557兆円だった。
民間在庫の前期比成長率への寄与度はプラス0.2ポイントと速報値のプラス0.1ポイントから上方修正した。輸出は季節調整を見直したことで、前期比1.1%増と速報値の0.4%増から上方修正した。輸入は1.8%増と速報値の2.1%増から下方修正した。
GDPの半分以上を占める個人消費は実質で0.7%増と速報値の0.9%増から下方修正した。個人消費から差し引く項目となるインバウンド(訪日外国人)の消費が影響した。消費の内訳を詳しくみると、自動車などの耐久財が下方修正だった一方で、ゲームなどが売れ半耐久財はマイナス幅が縮小した。
消費に次ぐ柱の設備投資は前期比0.2%減から0.1%減に上方修正した。財務省が2日発表した7~9月期の法人企業統計などを反映した。
公共投資は建設総合統計の結果を踏まえ、前期比0.9%減から1.1%減に下方修正した。民間住宅は前期比0.4%増と速報段階のマイナスからプラスに転じた。リフォーム需要が想定を上回った。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの前期比成長率に対する寄与度を表示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期のGDP統計速報2次QEの最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、赤の消費が大きなプラスの寄与度を、黒の純輸出が小幅なマイナスの寄与を、それぞれ示しているのが見て取れます。

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繰り返しになりますが、先月11月15日に公表された1次QEでは季節調整済みの系列で前期比+0.2%、前期比年率で+0.9%の成長でしたが、本日の2次QEではそれぞれ+0.3%、+1.2%に上方修正されています。1次QE時点では消費をはじめとして民間需要、あるいは、国内需要がプラスの寄与度であり、これは下方修正されたのですが、1次QEでマイナス寄与だった純輸出がそれ以上に上方改定された結果です。内需と外需においてプラスとマイナスの符号は変わりありませんが、それぞれ絶対値で縮小し、結果として成長率のプラス幅が拡大した、ということになります。その上、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前期比年率で+0.9%のプラスで、予想レンジの上限が+1.3%とはいうことでしたので、やや上振れしたもののレンジ内で大きなサプライズはなかった、と私は受け止めています。1次QEから変わりなく、内需主導で潜在成長率近傍の成長といえます。また、外需のマイナス寄与についても、輸出入ともに伸びている中で、輸入の伸びが輸出を上回った結果としての純輸出のマイナス寄与です。1次QEから2次QEへの改定方向としては、輸出が上方改定、輸入が下方改定となっています。内需では、特に、GDPコンポーネントとして最大シェアを占める消費が+0.5%の寄与を示しています。雇用者報酬が1次QEから2次QEへ上方改定されているにしては、消費は下方改定されていたりします。ただ、今春闘における賃上げなどが消費の伸びにつながっていると考えるべきです。加えて、今年の年末ボーナスも増加すると見込まれていて、10~12月期の消費も期待できる、と私は考えています。また、8月末には台風により一部の自動車工場などで操業を停止したりしていましたが、それでも7~9月期はプラス成長でしたし、10~12月期はこういった天候要因のリバウンドも期待できますので、目先の景気はそれほど悪くないと私は楽観しています。

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GDP統計を離れると、本日、内閣府から11月の景気ウォッチャーが、また、財務省から10月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+1.9ポイント上昇の49.4となった一方で、先行き判断DIも+1.1ポイント上昇の49.4を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+2兆4569億円の黒字を計上しています。

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2024年12月 8日 (日)

今日は上の倅の誕生日

今日は、上の倅の誕生日です。
はからずも、親が勝手に関西に引越したもので、東京に置き去りししてしまいました。
まだ、30歳までには少し間があるのですが、早く結婚してくれないものでしょうか。もっとも、父親である私が30半ばまで結婚しませんでしたから、大きなことはいえません。

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2024年12月 7日 (土)

今週の読書は経済書2冊をはじめ海外ミステリもあって計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、関野満夫[編著]『日本財政の現状と課題』(中央大学出版部)は、中央大学経済研究所における研究成果を取りまとめています。神門善久『食料危機の経済学』(ミネルヴァ書房)は、食料危機というよりは、地下資源や化石燃料の大量消費を背景とした飽食暖衣の高度消費社会の実態を経済学の観点から捉え直そうと試みています。松沢裕作『歴史学はこう考える』(ちくま新書)は、いくつかの論文を例にして歴史学の考え方や記述方法について論じています。小沼廣幸『SDGsから考える世界の食料問題』(岩波ジュニア新書)は、農業分野の途上国への国際協力からSDGsのひとつのテーマである「誰ひとり取り残さない」を考える契機となります。アンソニー・ホロヴィッツ『死はすぐそばに』(創元推理文庫)は、ホーソーン-ホロヴィッツのシリーズ第5弾であり、ホーソーンの過去の事件に関する謎解きを展開しています。サイモン・モックラー『極夜の灰』(創元推理文庫)は、1967年の米ソ冷戦時代における米軍基地の火災の謎をCIAに招聘された精神科医が解き明かします。
今年の新刊書読書は1~11月に299冊を読んでレビューし、12月に入って今週は6冊をポストし、合わせて305冊となります。Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。

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まず、関野満夫[編著]『日本財政の現状と課題』(中央大学出版部)を読みました。編著者は、中央大学経済学部の教授であり、各チャプターの著者は中央大学経済研究所の客員研究員、また、大学やシンクタンクなどの研究員です。出版社からして、完全な学術書だと思ったのですが、何と申しましょうかで、小難しい計量経済学などはまったく使われておらず、ビジネスパーソンなどにもカジュアルに読める内容となっています。7章構成であり、第1章では、最近10年余りの第2次安倍政権から岸田内閣くらいまでの税制について制度改革などを跡づけるとともに、相変わらず、累進性などの格差是正機能が弱い点を批判しています。少し古い分析ながら、例えば、OECD の Growing Unequal?、特に、p.112 Figure 4.6. Reduction in inequality due to public cash transfers and household taxes のグラフを見れば、日本の財政や社会保障にほとんど格差是正機能がないことが理解できます。税制面ではほぼほぼゼロといって差し支えありません。同時に、この章では、法人税率の引下げを行っても、企業は内部留保を溜め込むばかりで設備投資には向かわないと批判しています。実に、もっともで私も大いに合意するところです。第2章では、2010年代から個人所得税が回復してきた背景を国税庁資料に基づいて分析しています。結論として、所得税のうちの源泉所得税、特に給与所得税の高額所得層の所得増加による部分が大きく、申告所得者の所得税においては配当や株式譲渡益、不動産譲渡益を得た富裕層からの累進課税が機能していない、と分析しています。第3章では、単年度会計主義の例外のひとつである繰越明許費について財政民主主義の観点から問題点を指摘しています。このあたりの制度論は私は詳しくないので、悪しからず。第4章は、都道府県への地方交付税配分について分析し、基準財政収入額が人口減少が大きいほど高い伸びとなっている一方で、人口増の都府県では基準財政収入額を上回る規模で基準財政需要額が増加していて、その結果、地方交付税は人口増の都府県グループにより多く配分されていると示唆しています。第5章は、水道事業の広域化に関して、批判的な議論も含めて概観し、特に、香川県水道事業の広域化が一定の成功と収めた、と結論しています。第6章は、我が国の財政の持続可能性をカナダと比較しつつ分析しています。私はこの分野で時系列分析に基づく論文も書いたことがありますが、この章の議論はやや散漫で、要するに、カナダは支出削減で財政再建に成功した、という事実を展開しています。特に、pp.156-57 においてGDP成長率を税収増で回帰している分析は、控えめにいっても、回帰式の左右が反対と考えるエコノミストが多そうな気がします。ハッキリいえば、大きな疑問が残る回帰式です。最後の第7章は、英国NHSのケーススタディにより、医療制度の改革に関する含意を引き出そうと試みています。

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次に、神門善久『食料危機の経済学』(ミネルヴァ書房)を読みました。著者は、明治学院大学経済学部の教授です。本書では、巷間ささやかれている食料危機の現実性について検討し、食料危機がやってくる可能性は低いと結論しています。その上で、地下資源や化石燃料の大量消費を背景とした飽食暖衣の高度消費社会の実態を経済学の観点から捉え直そうと試みています。そして、最終的には、農業の素地である自然と人間の共存のあり方について考察を巡らせています。ということなのですが、私なりにいくつかの論点を考えてみたいと思います。というのは、公務員としての定年後に、私が大学教員に採用されて東京から関西に引越してきたのは2020年4月に新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックによる緊急事態宣言から2週間前でした。COVID-19パンデミックにより、私の勤務校の同僚の中には供給制約から食料不足、あるいは、本書の用語でいえば、食料危機になるのではないか、との見方もありました。私は大きく否定したのを記憶しています。もしも、食料危機になるのであれば、生産に起因するのではなく流通に起因する可能性の方がずっと高い、との意見を述べたことを覚えています。ですから、本書ではそれほど重点を置いていないフードロスの問題などにも目を配る必要を指摘したことも覚えています。いずれにせよ、本書も私の意見に比較的近く、食料危機になるとすれば、食料生産に必要なエネルギーが危機的な状況に陥る方が先であり、何といいましょうか、単独で農業生産が危機に陥ることはない、という主張です。はい。私もそう思います。ただ、農業生産に起因する食料危機と同じようにエネルギー危機もそうそうは起こらないという気はします。エネルギー危機に次いで、世界レベルでは水資源危機もあり得ると思いますが、さすがに、「瑞穂の国」である日本で水資源危機が世界の先頭を切って生じる可能性は低いと楽観しています。まあ、楽観的な性格なのかもしれません。本書のタイトルに帰って、経済学的な観点から食料危機が生じる点を体系的に解明したのは、本書でも指摘している通り、英国のマルサスです。有名な決まり文句に、「幾何級数的に増加する人口に、算術級数的にしか増加しない食料生産が追いつかない」というテーゼがあります。そして、おそらく、18世紀半ばくらいまではこのテーゼが正しかったと考えるべきです。その後、産業革命を経て人新世に入り、20世紀後半の緑の革命は、主として、種苗などの品種改良、灌漑、肥料や農機具の導入など工業製品の活用、などに基づいてエネルギーを大量に消費することにより農業生産=食料生産が拡大するとともに、腐敗のリスクが工業製品に比べて格段に大きい農産物の輸送が大きく改善されたことから食料危機が回避されるようになった、と私は理解しています。本書では、この私との共通理解にとどまらず、食料消費の背景にある高度消費社会についても大いに批判的な見方を示し、さらには、学校教育やAIとの共存か支配-非支配かといった論点まで幅広い議論が展開されています。そのあたりは読んでみてのお楽しみ、ということにいたします。極めて広範な議論を展開していて、私自身も賛同する部分が多くありオススメです。

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次に、松沢裕作『歴史学はこう考える』(ちくま新書)を読みました。著者は、慶應義塾大学経済学部の教授であり、ご専門は日本近代史ということなのですが、経済学部ですので経済史の授業を担当しているのかもしれません。ということで、本書では、いわゆる史料を発見して、その解釈に基づいて過去の出来事の是非や真実を突き止めようとする歴史学について議論しています。ただし、タイトルでは「こう考える」となっていますが、本書の主たる内容からして、「こう記述する」あるいは、「こう論文に書く」という方が本書の内容をより的確に表現しているような気がします。本書冒頭では、その当時の記録というべき史料を用いて、歴史学者が歴史について書くのは「目的外使用」であると表現していたりします。そして、本書では、政治史の題材として「征韓論政変の政治過程」、経済史の題材として「座繰製糸業の発展過程」、社会史の題材として「民衆運動の社会的願望」をそれぞれ取り上げて、それぞれの論文の適切な解説を試みています。ただし、それらの歴史学の論文の前提としてあるのはランケの歴史学であるという主張はその通りだと思います。私は京都大学経済学部ではマルクス主義的な歴史観に基づく西洋経済史をのゼミを選択し、ゼミに入る前に岩波文庫から出ていたランケの『世界史概観』を読んだ記憶があります。近代歴史学のモニュメントといえるランケの歴史学が、キリスト教的な視点や西洋中心史観などの制約はありつつも、近代的な歴史学の出発点となっている事実は否定できません。本書に戻って、3分野の歴史学の論文の解説については、歴史学にとどまらない科学的論文すべてに通ずる要素と歴史学特有の要素があると私は考えるのですが、そのような観点は本書の著者にはないようです。繰り返しになりますが、大学で経済史を勉強した身としては、歴史学と経済学の学際的な色彩ある学問分野ですので、両方に共通する視点と一方にしかない視点の両方を感じていたところです。経済史以外の経済学は一般的なほかの分野の科学と同じで、本書でも引用しているヴィンデルバントの用語を引いて法則定立的な学問であると考える一方で、歴史学は1回限りのイベントを扱う個性記述的な学問、という論点を提示しています。はい、そうだと思います。最後に、マルクス主義的な歴史観、すなわち、唯物史観は世界でも日本でもまだ一定の影響力を持っており、それは一定の正しさがあるからであろうと私は考えています。まあ、現在の資本主義経済から革命が起こって社会主義に移行するとか、最後に共産主義になるといった点は別にして、下部構造である生産がはかどるように、上部構造である文化や政治が変化する、という唯物史観は正しかろうと思いますし、1990年の米国大統領選挙で当時のクリントン候補が "It's the economy, stupid!" といったのは21世紀の現在でも一定通用すると考えています。まあ、唯物史観そのままではありませんが、経済的な下部構造に意識や文化や政治などが大きな影響を受けるというのは正しかろうと私は思います。もちろん、経済がすべてではありませんが、大きな影響、ある意味で、もっとも大きな影響力を経済関係が示しているのは自然な理解だろうと思います。

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次に、小沼廣幸『SDGsから考える世界の食料問題』(岩波ジュニア新書)を読みました。著者は、国連職員を長らくお務めになったということですが、ホームグラウンドは国際協力機構(JICA)のような書きぶりが目立っていました。私自身もJICAの長期専門家としてインドネシア政府に派遣されてジャカルタで家族とともに3年過ごしましていますので、少しは判る気がします。ということで、本書のタイトルはSDGsが全面に打ち出されているのですが、おそらく、編集者や出版社が考えたもので、本書の中身としては農業分野を中心とした途上国への国際協力について紹介されています。岩波ジュニア新書のシリーズですので、私のような大学の研究者ではなく、中高生とかの、私よりももっと若い世代を念頭に書かれているようです。本書に書かれているような農業分野の国際協力は、私はそれほど詳しくはありませんが、お説の通りで、被援助国のニーズと日本のような先進国を中心とする援助国の方針とが必ずしも一致しているとは限りません。農業だけではなく私の専門分野である経済については、本書でも指摘されているように、環境や労働条件やといった先進国標準の追求ではなく、とりあえず、豊かになる、すなわち、成長を目指す途上国ニーズが強いことは確かです。ただ、目先の成長という利益を追い求めるあまり、環境破壊やスウェットショップのような過酷な籠城条件、あるいは、チャイルドレーバーなどが許されるわけではありません。もちろん、先進国となった日本でも「女工哀史」の世界が現実にあったわけで、現実の歴史を否定することはできませんが、途上国が豊かになることを国際協力で手助けする際に、そういった望ましくない経済発展ルートをたどることなく、ここでSDGsが登場すべきなのですが、本書では残念ながら違う場面で登場し、「誰ひとり取り残すことのない」SDGsの精神が発揮されるべきだと私は考えています。「女工哀史」の世界は、アーシュラ K. ル-グィンの『風の十二方位』に収録されているヒューゴー賞受賞作の「オメラスから歩み去る人々」のように、誰かの犠牲の上に豊かな暮らしが可能となる世界であるような気がします。おそらく、私の専門分野である経済において、そういう世界は頭で考えるだけの抽象的なものだという気がしますが、農業分野ではもっと現実性を帯びるのだろうと思います。中高生には少し難しい観点かもしれませんが、決してグリーンウォッシュに陥ることなく、そういった経済発展、豊かになるとはどういうことか、「誰ひとり取り残さない」No one will be left behind をもう一度正面から考えるいい契機になると思います。

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次に、アンソニー・ホロヴィッツ『死はすぐそばに』(創元推理文庫)を読みました。著者は、英国のミステリ作家、ジュブナイル小説作家です。本書はホーソーンとホロヴィッツがコンビを組む第5作に当たります。英語の原題は Close to Death であり、2024年の出版です。ただ、シリーズ第5作とはいえ、これまでの4作と違って、現在進行形でホーソーンとホロヴィッツが事件解決、すなわち、謎解きに当たるのではなく、数年前にホーソーンが刑事をすでにヤメていた時で、ホロヴィッツがホーソーンと出会う前に、ホーソーンが取り組んだ事件の記録、報告書や関係者へのインタビューなどからホロヴィッツがミステリを書いている、という体裁を取っています。まあ、有り体にいえば、出版社との契約によりホロヴィッツは書かざるを得ない、という設定なんだろうと思います。ということで、舞台はロンドン西部のテムズ川沿いにある富裕層の数家族が住むリヴァービュー・クロースです。周囲を門で囲われていて、電動門扉からしか出入りができない高級住宅地です。昔の英国の村を思わせるこの住宅地で数軒の家族が穏やかに暮らしているところに、金融業界の大金持ちのケンワージー一家が引越してきます。亭主のジャイルズは、深夜に帰宅してチェスのグランドマスターであるシュトラウスの指し手ミスを誘い、しかも、ところ構わず自家用車を駐車して、医師のベレスフォードが急患を診られなかったりします。妻のリンダは犬が庭に入ってく来て粗相すると、書店経営の老婦人2人メイ・ウィンズロウとフィリス・ムーアに露骨に文句をいいます。ジャイルズ家の2人の腕白坊主はスケートボードで花壇をめちゃくちゃに荒らします。といったトラブル続きの中、とどめとしてジャイルズ家の庭にプールなどを作るという建設申請が市役所に出されます。そして、その6週間後に歯科医のブラウンの車庫にあったボーガンから放たれた矢でジャイルズ・ケンワージーが殺害されます。しかも、その翌日、ボーガンを所有していたブラウンが笑気ガスで自殺を遂げます。後悔する旨をしたためた遺書めいたメモが残されていました。警察はブラウンが殺人犯で、その後自殺した、というラインでチャッチャと幕引きを図ります。でも、ホーソーンはこの警察の見立てに疑問を持ち、これも警察を辞めたばかりの相棒のダドリーとともに真相究明に取り組むわけです。さて、結末やいかに、ということなのですが、もちろん、ミステリですので、あらすじはここまでとします。最後に、女子高生から卒業生となるピップを主人公とするホリー・ジャクソンの3部作の最終作品『卒業生には向かない真実』と同じで、英国における法執行機関、特に警察に対する強烈な不信を感じさせるミステリです。その点だけは強調しておきたいと思います。

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次に、サイモン・モックラー『極夜の灰』(創元推理文庫)を読みました。著者は、よく判らないのですが、出版社によれば、ケンブリッジ大学などの英国の大学を卒業した後、アーティスト、ミュージシャン、教師、公務員などさまざまな職種を経験し、2019年に児童書で作家デビューし、大人向けミステリである『極夜の灰』は米国でのデビュー作だそうです。はい。私は初読の作家さんでしたが、最初に書いておきます、本書はとてもいい作品です。謎解きや事実関係の解明という意味でミステリともいえますし、1967-68年の冷戦がもっとも悪化し、ベトナム戦争で米国内が揺れていた時期の米ソ間のスパイ小説ともいえます。まず、タイトルの「極夜」とは極地における白夜の反対で、冬季に1日中太陽が上らず夜が続くことです。舞台は米国の首都ワシントンDCなのですが、そもそものコトの起こりはグリーンランドにおける米国の秘密基地における火災事故/事件となります。繰り返しになりますが、本書で扱われている時期は1967年の暮れも押し迫った12月27日からストーリーが始まります。ニューヨークで開業している精神科医の主人公のジャック・ミラーが、CIAで働く知り合いのコティからの要請によりワシントンDCにやって来ます。北極圏にある陸軍基地で原因不明の火災が起こり、生き残った兵卒コナーに会って精神科医として真相を聞き出してほしいという要請です。火災では他に2人の下士官・兵士が死亡し、生き残ったコナーもまた重度の火傷を負っている上に、コナーは一部の記憶を失っていて、いったい何が起こったのか、そもそも、事故なのか何かの故意による事件なのか、そういった詳細が不明なわけです。グリーンランドの基地は閉鎖して撤収するところで、気象条件が悪くて飛行機が着陸できず、3人が最後に残されていたのですが、そのうちの1人がコナーで、コナーとは別の2人、すなわち、スティグラーとヘンリーが死亡しています。しかも、不可解なことに、死んだ2人のうち、1人の遺体は原型を止めずに完全に灰になっている一方で、もう1人はそこまで焼けていません。ジャックはコナーと面会するものの、精神科医としての判断は、コナーが嘘をついているという結論でした。火災以前にさかのぼって、何せ、CIAからの真相究明要請ですので、いろんな方法で事実関係を探り出し、最後には真相を解明し、実にハードボイルドにも主人公ジャック自身が体を張ったりもします。コナーの婚約者で、田舎から首都に出てきた可憐な女性も魅力的です。精神科医を主人公にしたハードボイルドなミステリ/スパイ小説というのは、ひょっとしたら無敵かもしれません。繰り返しになりますが、とてもいい作品です。ミステリーランキングで上位に入る可能性が十分あると私は予想しています。でも、外れたらごめんなさい。

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2024年12月 6日 (金)

11月の米国雇用統計は大きくリバウンド

日本時間の今夜、米国労働省から11月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は、9月統計で+223千人増から10月統計では+12千人増と大きく減速し、失業率も前月から横ばいの4.1%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を手短に4パラだけ引用すると以下の通りです。

Is labor market bouncing back? Here's what the November jobs report tell us.
U.S. hiring bounced back in November with employers adding 227,000 jobs as the adverse toll on payrolls from two Southeast hurricanes and worker strikes reversed.
The unemployment rate rose from 4.1% to 4.2%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg had forecast 215,000 job gains.
Also encouraging: Job gains for September and October were revised up by a total 56,000. September's tally was upgraded from 223,000 to 255,000 and October's, from 12,000 to 36,000. The changes paint a modestly brighter picture of the job market in late summer ad early fall than previously believed.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、10月統計で大きく減速した後、本日公表の11月統計では大きくリバウンドして+227千人を記録しています。引用した記事の後に出てくるのですが、"Bank of America expected a somewhat larger bump to November job gains of about 100,000 or more." というセンテンスがあり、+100千人強の雇用者増くらいの市場の事前コンセンサスだったようです。加えて、これは記事にあるように、9月統計は+223千人増から+255千人増に、また、10月統計も+12千人増から+36千人増に、それぞれやや上方修正されています。他方、失業率については、ほぼ安定的に推移しており、11月統計の4.2%は10月統計の4.1%からわずかに上昇したものの、歴史的に低い水準を維持していると考えるべきです。どうやら、10月の雇用者数の減速はインフレ抑制のための連邦準備制度理事会(FED)による金融引き締めの影響というよりも、ハリケーンとストライキに起因し、11月統計ではきっちりとリバウンドした、というのが私の受止めです。
広く報じられているように、米国連邦準備制度理事会(FED)は9月17-18日に開催した連邦公開市場委員会(FOMC)では通常の2倍の▲50ベーシスの利下げを実施し、さらに、11月6-7日のFOMCでも▲25ベーシスの追加利下げを決めています。おそらく、12月17-18日のFOMCでも▲25ベーシスの利下げとなるだろう、というのが市場における一般的な観測のようです。日銀の次の金融政策決定会合は12月FOMC直後の12月18-19日です。ひょっっとしたら、日銀は再利上げに踏み切る可能性もあります。はてさて、日米の金融政策動向やいかに?

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2か月連続でCI一致指数が上昇した10月の景気動向指数

本日、内閣府から10月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から▲0.3ポイント下降の108.6を示した一方で、CI一致指数は+2.5ポイント上昇の116.5を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから報道を引用すると以下の通りです。

景気動向一致指数10月は2.5ポイント上昇、先行指数はマイナス=内閣府
内閣府が6日公表した10月の景気動向指数速報(2020年=100)は、足元の景気動向を示す一致指数が前月比2.5ポイント上昇の116.5と、2カ月連続のプラスだった。
指数を構成する指標のうち、投資財出荷指数や鉱工業生産指数が改善。半導体製造装置や自動車の生産・出荷増がけん引した。
一致指数から一定のルールで決まる基調判断は5月以来の「下げ止まりを示している」との表現を据え置いた。
先行指数は前月比0.3ポイント低下の108.6と、2カ月ぶりのマイナスだった。鉱工業用生産財在庫率指数や消費者態度指数、新規求人数などが下押しした。半導体メモリーの生産・出荷減少やパート求人減少などが響いた。

いつもながら、コンパクトかつ包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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10月統計のCI一致指数は2か月連続の上昇となりました。加えて、3か月後方移動平均の前月差も2か月連続の上昇で+0.03ポイント上昇、7か月後方移動平均の前月差も+0.31ポイント上昇しています。7か月後方移動平均の上昇は4か月連続です。ただ、統計作成官庁である内閣府では基調判断は、今月も「下げ止まり」で据え置いています。5月に変更されてから半年の間同じ基調判断で据置きです。なお、細かい点ながら、上方や下方への局面変化は7か月後方移動平均という長めのラグを考慮した判断基準なのですが、改善からの足踏みや悪化からの下げ止まりは3か月後方移動平均で判断されます。いずれにせよ、私は従来から、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう簡単には日本経済が景気後退局面に入ることはないと考えていて、世間一般と比べるとやや楽観的な見方かもしれません。ただし、日本経済はすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありませんし、多くのエコノミストが円高を展望して待ち望んでいる金融引締めの経済へ影響は、引き続き、考慮する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、投資財出荷指数(除輸送機械)が+0.94ポイント、生産指数(鉱工業)が+0.52ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)が+0.49ポイント、耐久消費財出荷指数が+0.39ポイント、有効求人倍率(除学卒)が+0.23ポイントなどとなっています。他方、マイナスで目立つのは輸出数量指数の▲0.21ポイントくらいとなっています。

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2024年12月 5日 (木)

OECD Economic Outlook による経済見通しやいかに?

日本時間の昨夜、経済協力開発機構(OECD)から「経済見通し」OECD Economic Outlook が公表されています。副題は Resilience in uncertain times となっています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。世界経済の成長率見通しは、今年2024年+3.2%、来年2025年+3.3%、さ来年2026年も+3.3%と順調な景気拡大が継続すると見込まれています。ただし、我が日本は2024年▲0.3%、2025年+1.5%、2026年+0.6%と低い成長率が予想されています。低い成長率とはいっても、先進国から構成されるOECD平均の成長率が、2024年+1.7%、2025年+1.9%、2026年+1.9%ですから、こんなもん、という気もします。まず、プレスリリースのプレゼン資料からG20各国の成長率見通しの総括表 GDP growth projections を引用すると以下の通りです。

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ここ数年で大きく上昇した物価についても、サービスの上昇率はまだ依然として高いものの、G20各国で多くの中央銀行が物価目標としている+2%近傍におおむねアンカーされるようになりつつあります。プレスリリースのプレゼン資料からG20各国の物価上昇率のグラフ Inflation is projected to continue to come down を引用すると以下の通りです。

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そして、先行きリスクとしては、エネルギー価格、貿易摩擦、公的債務、資産価格の高騰の4点をあげています。プレスリリースのプレゼン資料から、それぞれのリスクに対応するスライド4枚を引用すると以下の通りです。

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政策対応としては、いつも通りの金融政策と財政政策、すなわち、金融政策については緩和を、財政政策については財政再建を、それぞれ強調しつつ、これらに加えて、今回の「経済見通し」では特に労働力不足に焦点を当てています。プレスリリースのプレゼン資料から、労働力不足を示すスライド Labour shortages are high を引用すると以下の通りです。

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そして、プレスリリースのプレゼン資料から、今回の見通しの要点4項目を引用すると以下の通りです。

Summing up
  • Growth is projected to remain stable amid high geopolitical risks and uncertainties
  • Monetary policy should continue to ease, but needs to remain prudent and data dependent
  • Governments need to step up consolidation efforts to ensure public finance sustainability
  • Addressing labour shortages is necessary to unleash future growth potential

最後の最後に、私の感想ですが、こういった国際機関のリポートでは強く指摘しにくいことであろうと想像するものの、やっぱり、世界経済の先行き最大のリスクのひとつはトランプ大統領の就任による米国経済と世界経済の撹乱ではないか、という気がします。特に後者の通商摩擦が私は気がかりです。

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2024年12月 4日 (水)

7-9月期GDP統計速報2次QEは1次QEから大きな変更はない見込み

今週月曜日の法人企業統計をはじめとして必要な統計がほぼ出そろって、来週月曜日12月9日に、7~9月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である7~9月期ではなく、足元の10~12月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。しかしながら、2次QEは法人企業統計のリポートのオマケのような扱いも少なくなく、先行きについて明示的に言及しているのはみずほリサーチ&テクノロジーズと明治安田総研くらいのものでした。特に前者については長々と引用してあります。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+0.2%
(+0.9%)
n.a.
日本総研+0.3%
(+1.3%)
7~9月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資が大幅上方改定、公共投資が小幅下方改定される見込み。この結果、成長率は前期比年率+1.3%(前期比+0.3%)と、1次QE(前期比年率+0.9%、前期比+0.2%)から上方改定されると予想。
大和総研+0.2%
(+0.7%)
2024年7-9月期GDP2次速報(QE)(12月9日公表予定)では実質GDP成長率が前期比年率+0.7%と、1次速報(同+0.9%)から小幅に下方修正されると予想する。主因は、9月の基礎統計の反映による公的固定資本形成の下方修正だ。他方、設備投資は7-9月期の法人企業統計の結果が反映されることで、伸び率は前期比▲0.1%へと小幅に上方修正されるとみている。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.2%
(+0.6%)
10~12月期は、既往の利上げの影響で緩やかな減速が見込まれる米国、ドイツの不振を中心に力強さを欠く欧州、不動産部門の調整長期化が予想される中国など海外経済の減速が外需の重石になる一方、高水準の企業収益が賃金や設備投資に回ることで、内需を中心に日本経済は回復基調で推移する見通しであり、現時点で年率+1%程度のプラス成長を予測している。
高水準の賃上げによる所定内給与への波及は一巡する一方、10~12月期は最低賃金や公務員給与の引上げに加え、高い伸びが見込まれる冬のボーナスが押し上げ要因になる(ボーナス算定基準となる所定内給与が堅調に増加することに加え、堅調な企業収益を受けてボーナスの支給月数も増加するとみられ、みずほリサーチ&テクノロジーズは冬の民間企業の一人当たりボーナス支給額について前年比+3.5%と予測している)。一方、消費者物価については政府による「酷暑乗り切り緊急支援」を受けて10~11月の電気代・ガス代の前年比上昇率が下押しされ、10~12月期の実質賃金前年比はプラス圏で推移すると予測している。実質賃金の回復を受けて、個人消費も増加基調で推移するだろう。ただし、定額減税や防災需要・米の買い占め等による一時的な押し上げ影響が徐々に剥落するとみられるほか、実質賃金前年比のプラス幅は小さく、これまで2年以上続いた実質賃金の低下に比して反発力は十分なものとは言えないことから、個人消費の伸びは7~9月期から大きく鈍化する可能性が高いとみている。実際、米類を中心とした食料品の価格上昇等を受けて10~11月の消費者態度指数は弱い動きとなっており、消費マインドの改善には足踏み感がみられる。
設備投資についても、前述したように2024年度の設備投資計画が堅調であることに加え、世界的な半導体市場の回復等が押し上げ要因になり、10~12月期は増加傾向が継続するだろう。10月の資本財総供給は7~9月期平均対比+8.1%、建設財総供給は同+3.6%の増加となっている。10~12月期の設備投資は好調な滑り出し中期的な観点からは、中国・アジアの人件費上昇に伴う生産拠点としてのコスト優位性の低下、米中対立の深刻化・地政学的リスクの高まり(経済安全保障への関心の高まり)を背景としたグローバル・サプライチェーンの見直し、さらには近年の円安進行等が国内投資シフトを後押ししている面もあると考えられる。内閣府「企業行動に関するアンケート調査」(上場企業が調査対象)をみると、今後3年間の設備投資見通しは全産業で年度平均+6.8%と1990年(同+7.9%)以来の高い伸びとなっている。また、日本政策投資銀行「2024年度設備投資計画調査」をみても、コロナ禍前対比で国内の生産拠点を強化する動きが継続していることが確認できる。精密機械や輸送用機械等を中心に広がりつつある国内生産拠点強化の動きが設備投資の持続的な押し上げ要因になろう。ただし、前述した建設業等の人手不足が下押し要因となることで強気な計画対比でみると低い伸びとなりそうだ。
一方、外需については景気の牽引役は当面期待しにくい。海外経済の減速が引き続き財輸出の逆風になるだろう。
ニッセイ基礎研+0.3%
(+1.2%)
24年7-9月期GDP2次速報では、23年度の年次推計値が併せて公表され、四半期の計数は24年1-3月期までが速報値から年次推計値に改定される。24年7-9月期の成長率は、法人企業統計を中心とした基礎統計の追加に加え、23年度の年次推計に伴う遡及改定の影響を受けるため、不確定要素が多いことを念頭に置いておく必要がある。
第一生命経済研+0.2%
(+0.9%)
実質GDPは2四半期連続のプラス成長で、前年比でもプラスに転じるなど、景気は持ち直していると言ってよい。ただ、そのペースはあくまで緩やかなものにとどまっており、回復感には乏しい状況である。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.2%
(+0.7%)
2024年7~9月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比+0.2%(前期比年率換算+0.7%)と、1次速報値の前期比+0.2%(年率換算+0.9%)から大きな修正はない見込みである。このため、「景気は緩やかに持ち直している」との景気判断を修正する必要はないと考えている。
三菱総研+0.2%
(+0.9%)
2024年7-9月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+0.2%(年率+0.9%)と、1次速報値(同+0.2%(年率+0.9%))から不変と予測する。
明治安田総研+0.2%
(+1.0%)
先行きの日本経済は緩やかな回復基調を維持すると予想する。実質賃金が早期にプラス圏で安定するのは難しいとみるが、ガソリン補助金延長や、年明けからの電気・ガス料金の負担軽減策再開といった経済対策が個人消費の下支え要因になると予想する。設備投資は、機械受注など先行指標は弱い動きとなっているが、人手不足対応のデジタル関連投資や、サプライチェーンの見直しに伴う製造拠点の国内回帰の動きなどが追い風になると見込む。一方、輸出は、インバウンド需要が一定程度下支えとなるものの、中国景気の回復の鈍さが足枷となり、当面は冴えない推移が続くとみる。

見れば明らかな通り、1次速報の季節調整済み系列の前期比+0.2%、前期比年率+0.9%成長から大きな変更はないとの予想が多くなっています。従って、日本経済は緩やかな回復局面にある、という現状認識も変更する必要はないものと考えられます。ほぼ確実なのは法人企業統計の結果に従って設備投資がやや上方修正される点だけのようです。なお、来週の7~9月期のGDP統計が公表される際には、同時に、2023年度の年次推計値も公表され、四半期の計数は24年1-3月期までが速報値から年次推計値に改定されることになります。いずれにせよ、2023年度の年次推計に伴う遡及改定があるために一定の不確定な要素が残るのは覚悟せねばなりません。
最後に、ニッセイ基礎研究所のリポートから 2024年7-9月期GDP2次速報の予測 のテーブルを引用すると以下の通りです。

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2024年12月 3日 (火)

米国スタンフォード大学 Artificial Intelligence Index Report 2024 やいかに?

先週だったと思うのですが、米国スタンフォード大学 Institute for Human-Centered Artificial Intelligence (HAI) から Artificial Intelligence Index Report 2024 が明らかにされています。7回目のインデックスの公表だそうです。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。全部で9章から構成されており、以下の通りとなっています。

Chapter 1
Research and Development
Chapter 2
Technical Performance
Chapter 3
Responsible AI
Chapter 4
Economy
Chapter 5
Science and Medicine
Chapter 6
Education
Chapter 7
Policy and Governance
Chapter 8
Diversity
Chapter 9
Public Opinion

第4章以降では、さまざまな観点が示されていますが、何分、500ページに達する英文のリポートですので、私の専門からして第4章の経済について、リポートからグラフを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポート p.244 から Private investment in generative AI, 2019-23 を引用すると上の通りです。昨年2023年になって、民間部門における汎用人工知能(GAI)の設備投資が急増していることが読み取れます。実際、2023年の民間部門のGAIの設備投資は2523億ドルに上っています。私は、日本における設備投資が、計画レベルでの企業マインドのソフトデータでは盛り上げっているものの、ハードデータに見られるGDPベースの設備投資やその前段階の機械受注の統計にはサッパリ現れないのを懸念していますが、世界では明確にGAIに対する設備投資が大幅に増えていることが明らかです。ただ、引用はしませんが、リポート p.247 に示されている Private investment in AI by geographic area, 2023 によれば、日本の設備投資は米国、中国、英国、ドイツ、スウェーデン、フランス、カナダ、イスラエル、韓国、インド、シンガポールに遅れを取っており、世界で11番目という結果となっています。

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ただし、ページ数はさかのぼりますが、、リポート p.43 から Granted AI patents per 100,000 inhabitants by country, 2022 を引用すると上の通りです。そうなんです。韓国、ルクセンブルク、米国に次いで、人口当たりの特許については、日本は世界でも高ランクにつけています。それなりに研究開発は進んでおり、研究者のレベルは決して低くないものの、企業による実装が進んでいない、というのが日本における汎用人工知能開発の現状をよく現していると思います。

ハッキリいって、日本では企業部門が政治献金に熱心で政治レベルからのレントの獲得に熱心で、本来の経済活動については多くの先進国、さらに中韓をはじめとする有力なアジアの国から遅れを取っている、と考えるべきです。日本経済停滞の原因のひとつは企業部門という見方もできます。

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2024年12月 2日 (月)

労働分配率がやや向上したように見える7-9月期の法人企業統計

本日、財務省から7~9月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+2.6%増の377兆2965億円だったものの、経常利益は▲3.3%減の23兆124億円に減少しています。そして、設備投資は+8.1%増の13兆4110億円を記録しています。ただし、設備投資を季節調整済みの系列で見ると原系列の統計と歩調を合わせて増加しており、GDP統計の基礎となる設備投資については前期比+1.7%増となっています。年率で+7%を超える増加と見られます。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

法人企業統計、7四半期ぶり経常減益 7-9月3.3%減
財務省が2日発表した7~9月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は23兆124億円で、前年同期と比べて3.3%減った。7四半期ぶりにマイナスに転じた。海外企業との競争激化や一時的な円高の動きなどが製造業の利益を押し下げた。
製造業の経常利益は前年同期に比べ15.1%減少した。自動車などの輸送用機械が16.8%落ち込み、最大の押し下げ要因となった。海外での販売競争が厳しかったほか、9月に一時1ドル=139円台になるなど為替レートが円高に振れる動きが出たことも影響したとみられる。原油価格が下落したことで、石油・石炭の経常利益も157.2%減と大幅に減った。
非製造業の経常利益は4.6%増だった。最も増益に寄与したのはサービス業で、持ち株会社の配当収入が増えたことなどから64.3%増だった。デジタルトランスフォーメーション(DX)関連の投資が増えていることで、情報通信業も10.8%の増益だった。
設備投資は前年同期に比べて8.1%増え、13兆4110億円だった。増加は14四半期連続だった。製造業が9.2%増、非製造業が7.4%増と共に増えた。半導体関連の需要増により生産能力を増やす動きが活発だったほか、駅周辺の開発投資、宿泊施設の開業などが目立った。
売上高は2.6%増の377兆2965億円で、14四半期連続で増加した。食料品の値上げによる価格転嫁が進んだことや化学関連の需要増を背景に、製造業が2.8%増えた。非製造業もインバウンド(訪日外国人)増加によりサービス業や運輸業などが好調で、2.5%増となった。
経常利益は7四半期ぶりにマイナスに転じたものの、7~9月期としては23年に次いで過去2番目に高い水準という。財務省は「景気がゆるやかに回復している状況を反映したものと考えている」と分析し、今後は海外景気の下振れや物価上昇などの影響を注視したいとした。

長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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法人企業統計の結果について、基本的に、企業業績は好調を維持していると考えるべきです。まさに、それが今年に入ってからの株価に反映されているわけで、東証平均株価については、少しならして見れば、昨年末あたりから上昇を始めて、3月下旬にバブル後最高値をつけて4万円を超えた後、一時下落したものの、現時点では38,000円をやや超える水準に回帰しています。ただ、他方で、株価はまだしも、住宅価格が大きく高騰しているのも報じられている通りです。東京では「億ション」を軽く超えて、「2億ション」というのも決してめずらしくはないようです。もちろん、法人企業統計の売上高や営業利益・経常利益などはすべて名目値で計測されていますので、物価上昇による水増しを含んでいる点は忘れるべきではありません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは、現時点では明らかではありません。来週のGDP統計速報2次QEを待つ必要があります。もうひとつ私の目についたのは、設備投資の動向です。上のグラフのうちの下のパネルで見て、昨年2023年10~12月期に跳ねた後、今年2024年1~3月期に減少し、直近で利用可能な7~9月期には堅調に増加しています。前々から企業業績に比べて設備投資が出遅れているという印象があり、昨年2023年10~12月期にはその出遅れが解消され、特に、日銀短観や日本政策投資銀行の調査などによる設備投資計画とGDP統計の差が縮小される動きが始まった一方で、今年2024年1~3月期の減少が何を意味するのか、現時点では不明ながら、人手不足に対応した本格的な設備投資増であることを私は期待しています。設備投資に限らず、売上げや利益も含めて、昨年5月の感染法上の分類変更に伴って、新型コロナウィスル感染症(COVID-19)のダメージの大きかった非製造業、特にサービス業が回復してきています。売上高、経常利益、設備投資とも非製造業の中ではサービス業が上位に名を連ねています。人手不足による影響が大きい非製造業、中でもサービス業の動向に注目しています。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍を経て労働分配率が大きく低下を示しています。もう少し長い目で見れば、デフレに入るあたりの1990年代後半からほぼ一貫して労働分配率が低下を続けています。いろんな仮定を置いていますので評価は単純ではありませんが、デフレに入ったあたりの1990年代後半と比べて、▲20%ポイント近く労働分配率が低下している、あるいは、コロナ禍の期間と比べても▲10%ポイントほど低下している、と考えるべきです。名目GDPが約600兆円として50-100兆円ほど労働者から企業に移転があった可能性が示唆されています。ただ、さすがに分配については今年2024年春闘では人口減少下の人手不足により賃上げ圧力が高まった結果として、労働分配率がホンのチョッピリ上がった可能性が示唆されています。すなわち、GDP統計で把握される国内の総付加価値のうち、今までは猛烈な勢いで企業業績、というか、資本分配率の方に流れ込んでいた部分が、極めてわずかな部分ながら、7~9月期には労働・雇用の方に回帰している可能性があれば、日本経済の成長にはプラスだと私は考えています。設備投資/キャッシュフロー比率も底ばいを続けています。設備投資の本格的な増加が始まったことが期待される一方で、決して楽観的にはなれません。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金はまだまだ伸びが続いています。また、4枚めのパネルにあるように、直近統計でデータが利用可能な7~9月期については、経常利益から人件費に回帰する部分があった、というか、そのような可能性があります。ただ、現時点ではんこの傾向が続くかどうかは不明です。アベノミクスではトリックルダウンを想定していましたが、企業業績から勤労者の賃金へは滴り落ちてこなかった、というのがひとつの帰結といえます。勤労者の賃金が上がらない中で、企業業績だけが伸びて株価が上昇するの経済が終焉して、資本分配率が低下して労働分配率が上昇する中で、決して高いインフレにならずに日本経済が成長するパスが実現できるのが望ましい、という考えは代わりありません。

最後に、本日の法人企業統計などを受けて、来週12月9日に内閣府から7~9月期のGDP統計速報2次QEが公表されます。設備投資はやや上方修正されると私は予想していますが、仕上がりのGDP成長率には大きな変更はないものと考えます。また、シンクタンクなどの2次QE予想については、日を改めて取り上げる予定です。

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2024年12月 1日 (日)

日本一の4番バッター大山選手がFA権を行使して阪神残留

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昨年、阪神タイガースがリーグ優勝と日本一になった際の4番バッター大山選手がFA権を行使した上で阪神残留を決定したそうです。まず、球団公式サイトからチームニュースを引用すると以下の通りです。

大山悠輔選手について
FA権を行使していた大山悠輔選手が、阪神タイガースに残留することになりましたのでお知らせいたします。 大山選手のコメントは以下の通りです。

大山悠輔選手コメント
この度、FA権を行使させていただいておりましたが、来年からも阪神タイガースでお世話になることに決めました。これまで同様、しっかり覚悟を持って戦っていきたいと思いますし、まずは来シーズン優勝を勝ち取れるように、チームに貢献できればと思います。

スポーツ紙によれば、ジャイアンツが6年総額24億円超の大型契約を提示していた、との報道も見かけましたが、金銭的な条件では、報じられていたのが正しいとすれば、阪神の5年総額20億円がジャイアンツを下回っていたのですが、阪神残留ということでファンは狂喜乱舞、来年以降も大山選手への熱い声援が続くこととなるようです。実にめでたい限りです。

来季はリーグ優勝と日本一奪回を目指して、
がんばれタイガース!

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