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2024年12月13日 (金)

予想に反して大企業製造業の業況判断DIが改善した12月調査の日銀短観

本日、日銀から12月調査の短観が公表されています。日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは9月調査から-1ポイント改善して+14、他方、大企業非製造業は逆に▲1ポイント悪化の+33となりました。また、本年度2024年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+9.7%増と、9月調査の+8.9%から上方修正されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。なお、11時半現在での引用ですので、その後の夕刊向け記事は追加修正されていると思います。悪しからず。

大企業製造業の景況感、小幅改善 自動車生産が回復
日銀が13日発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回9月調査(プラス13)から小幅改善となるプラス14だった。認証不正問題で低迷していた自動車生産の回復や、人工知能(AI)関連の半導体製造装置の需要増加などがプラス材料となった。
大企業非製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回9月調査(プラス34)から小幅悪化のプラス33だった。2四半期ぶりに悪化したが、1991年以来の高水準は維持した。
非製造業では残暑がつづき秋冬物の需要が伸びにくく、米価格の高騰など物価高が消費者マインドの悪化に作用した。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。12月調査の回答期間は11月11日~12月12日で、回答率は99.4%だった。

いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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昨日、日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては、製造業・非製造業ともにおおむね横ばい圏内との予想であり、私が見た範囲で、ロイターによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回9月調査から悪化の+12と予想されていましたし、大企業非製造業も実績としては悪化したものの、ロイターの事前コンセンサスの+33を上回っています。ただ、プラスかマイナスかの符号は違えども、横ばい圏内の動きという意味でも、動きの幅のマグニチュードでも大きなサプライズはありませんでした。繰り返しになりますが、実績としては、短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが9月調査から+1ポイント改善の+14となり、また、大企業非製造業では逆に▲1ポイント悪化して+33となりました。大企業製造業で少し詳しく見ると、素材業種が石油・石炭製品の大幅プラスを背景に前回調査より+3ポイント改善した一方で、加工業種は横ばいでした。大企業非製造業では、小売が前回調査から▲15ポイントの悪化、宿泊・飲食サービスも▲12ポイントの悪化を見せています。ただし、小売も宿泊・飲食サービスも、いずれもDIの水準としてはプラスを維持しています。先月末に経済産業省から公表された商業販売統計でも小売販売の伸びが停滞し始めているようですし、景況感に関しては 概ねハードデータとソフトデータの整合性は十分あるような気がします。先行きの景況感については、製造業・非製造業おしなべて大企業・中堅企業・中小企業ともに悪化の動きを予想しています。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学における生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感がほぼ払拭されました。特に、雇用人員については足元から目先では不足感がますます強まっている、ということになります。グラフを見ても理解できる通り、大企業・中堅企業・中小企業ともコロナ禍前の人手不足感を上回っています。今春闘での賃上げが高水準だった昨年をさらに上回った背景でもあります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、名目賃金が物価上昇以上に上昇して、実質賃金が安定的に上向くという段階までの雇用人員の不足は生じているかどうかに疑問があり、その意味で、本格的な人手不足かどうか、賃金上昇を伴う人で不足なのかどうか、については、まだ、私は日銀ほどには確信を持てずにいます。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではない可能性があるのではないか、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私にはまだ謎です。実質賃金、すなわち、名目賃金が物価上昇に見合うほど上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感が大きくなる段階には達していません。要するに、繰り返しになりますが、低賃金労働者が不足しているだけであって、低賃金労働の供給があれば、生産要素間で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れである可能性を感じます。

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続いて、設備投資計画のグラフは上の通りです。規模別に見ると、大企業が9月調査の+10.6%増から上方修正されて+11.3%増、そして、中堅企業も+9.5%増から上方修正されて+10.1%増、中小企業でも+3.5%増から上方修正されて+4.0%増と、人手不足を設備投資による資本ストック増で要素間代替を試みるような動きが観察されます。大企業に比べて規模の小さい企業での雇用増を図ることが厳しく、設備投資で代替させようとの動きと私は受け止めています。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。今回の12月調査では全規模全産業で+9.7%増の高い伸びが計画されています。9月調査よりも上積みされています。カーボンニュートラルを目指したグリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた投資がいよいよ本格化しなければ、ますます日本経済が世界から取り残される、という段階が近づいているような気がして、設備投資の活性化を期待しています。ただ、GDPベースの設備投資やその先行指標である機械受注などのハードデータと日銀短観に示されたソフトデータの間でまだ不整合があるような気がします。計画倒れにならないことを願っています。

最後に、特に、日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが前回調査から改善を示し、市場の事前コンセンサスも上回ったわけで、来週の日銀金融政策決定会合で追加利上げされる確率は高まった、と私は考えています。ただ、追加利上げの確率は高まったとはいえ、まだかなり低いのも事実であろうと予想しています。

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