« 2024年12月 | トップページ | 2025年2月 »

2025年1月31日 (金)

2か月ぶり増産の鉱工業生産指数(IIP)と一進一退の商業販売統計と堅調な雇用統計

本日は月末の閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも昨年2024年12月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から+0.3%の増産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+3.7%増の16兆1230億円を示し、季節調整済み指数は前月から+1.8%の上昇を記録しています。雇用統計では、失業率は前月からわずかに改善して2.4%、有効求人倍率は横ばいの1.25倍を記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産12月は0.3%上昇、予想と一致 電子部品・デバイスなどけん引
経済産業省が31日発表した2024年12月の鉱工業生産指数速報は前月比0.3%上昇と、2カ月ぶりのプラスとなり、ロイターがまとめた事前予想と一致した。
設備投資関連の生産財やスマートフォンで使うモス型メモリなど電子部品・デバイスが伸長した一方で、国内外の新車需要が振るわず、年央までの挽回生産の反動もみられた自動車が減産となったほか、化粧品・洗顔用品など化学もマイナスとなり、全体の足を引っ張った。
企業の生産計画から算出する予測指数は1月が前月比1.0%上昇、2月が同1.2%上昇となった。しかし、予測指数は上振れる傾向があり、12月も前月に算出された予測値を下回った。経済産業省は生産の基調判断を「一進一退」で据え置いた。
12月の生産品目別の前月比は生産用機械が2.9%増、電子部品・デバイスが2.1%増となった。半面、自動車が1.7%減となり、化学も3.0%のマイナスとなった。
農林中金総合研究所の南武志主席研究員は、輸出の基調が弱く、世界経済が加速していない中、生産のトレンドは国内要因に大きく依存していると指摘。輸出が生産をけん引することは当面望めないとした。
小売業販売12月は3.7%増、冬物好調と価格上昇で予想上回る
経済産業省が31日に発表した昨年12月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比3.7%増となった。ロイターがまとめた事前予測(3.2%増)を上回った。冬物衣料の好調や食品など幅広い品目の値上げで金額が膨張した。
業種別の前年比は、織物・衣服などが14.2%増と大きく伸びたほか、燃料が5.1%、機械器具が4.9%、医薬品・化粧品が4.1%、飲食料品が1.7%とそれぞれ増えた。一方、自動車は3.4%減少した。冬物衣料品の好調や飲食料品の価格上昇が主に寄与した。
<ドラッグストアでコメ・解熱剤好調、ホームセンターは紙類値上げ寄与>
業態別ではドラッグストアが9.3%増と大きく伸びた。コメや化粧品に加え、インフルエンザ流行で解熱鎮痛剤などが増えた。家電大型専門店も4.8%増と好調だった。スマートフォン関連や、電気暖房など冬物家電が伸びた。ホームセンターはトイレットペーパーなど紙類の値上げもあり、3.3%増だった。スーパーは3.0%増加。食品の価格上昇が販売額を増やした。百貨店は2.2%増。冬物衣料やインバウンド需要が増加した。半面、コンビニエンスストアは、チケット販売の不振で0.9%減少した。
失業率12月は2.4%に改善、就業者増加 求人倍率1.25倍で横ばい
政府が31日発表した12月の雇用関連指標は完全失業率が季節調整値で2.4%と、前月から0.1ポイント改善した。完全失業者と非労働力人口が減った一方、就業者が増えており、労働市場は拡大している。有効求人倍率は前月比同水準の1.25倍だった。
ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.5%、有効求人倍率は1.25倍と見込まれていた。
総務省によると、12月の就業者数は季節調整値で6822万人と、前月に比べて14万人増加。完全失業者数(同)は170万人で、2万人減少した。非労働力人口は20万人減少し3984万人だった。総務省の担当者は「労働市場が拡大しており、雇用情勢は悪くない」としている。
女性の就業者数は3116万人で、比較可能な1953年以降で過去最多となった。2024年平均の完全失業率は2.5%と、前年に比べて0.1ポイント改善。2019年(2.4%)以来の低水準となった。就業者数は6781万人と前年から34万人増加し、1953年以降で過去最多となった。
厚生労働省によると、12月の有効求人数(季節調整値)は前月に比べて0.2%減だった。物価高の影響で原材料費などコストがかさみ、求人を手控える傾向が出ている。一方、有効求職者数(同)も0.2%減少。最近の賃上げ機運を背景に、現在の職場から離転職を踏みとどまる動きがあるという。
有効求人倍率は、仕事を探している求職者1人当たり企業から何件の求人があるかを示す。厚労省の担当者は「倍率は1倍を大きく上回っており、雇用情勢は決して悪い状況ではない」としている。

3つの統計から取りましたので、年次データが利用可能になったというタイミングも加わって、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

photo

まず、引用した記事にはある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は+0.3%の増産、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく+0.3%の増産が予想されていましたので、実績とまさにジャストミートしました。2か月ぶりの増産ですが、特段のサプライズはありません。統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いています。先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の1月は補正なしで+1.0%の増産、2月も+1.2%の増産なのですが、上方バイアスを除去した補正後では、1月の生産は#x25B2;2.1%の減産と試算されています。経済産業省の解説サイトによれば、12月統計における生産は、生産用機械工業が前月比で+2.9%の増産で+0.26%の寄与度を示したほか、電子部品・デバイス工業が+2.1%の増産で+0.21%の寄与度、無機・有機化学工業が+1.4%の増産で+0.06%の寄与度、などとなっています。他方で、生産低下に寄与したのは、自動車工業が▲1.7%の減産で▲0.22%の寄与度、化学工業(除、無機・有機化学工業・医薬品)が△3.0%の減産で△0.14%の寄与度、電機・情報通信機械工業が△1.2%の減産で△0.10%の寄与度、などとなっています。
広く報じられている通り、米国ではトランプ政権発足に伴って関税引上げを連発していて、輸出にいく分なりとも依存する我が国の生産の先行きは極めて不透明です。取りあえず、1月末からの中華圏の春節もあり、春先まで統計的には不連続な時期となる可能性を覚悟しなければならないと私は考えています。

photo

続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での慣例なのですが、伸び率はまだプラスを維持しているものの、やや伸びに鈍化が見られます。季節調整済みの系列では9月統計からの4か月を見ると、9月△2.2%の減少、10月も△0.2%の後、11月こそ+1.9%と増加を示しましたが、本日公表の12月統計では△0.7%の減少となっています。引用した記事にある通り、ロイターでは前年同月比で+3.2%の伸びを市場の事前コンセンサスとしていましたので、上振れした印象を持つエコノミストも多かろうと思いますが、統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断していて、本日公表の12月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.3%の上昇となりましたので、昨年2024年9月の段階で「上方傾向」から「一進一退」と明確に1ノッチ下方修正した後、今月も「一進一退」で据え置かれています。鉱工業生産と同じ表現となっています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、12月統計ではヘッドライン上昇率が+3.7%、生鮮食品を除くコア上昇率も+3.0%、生鮮食品及びエネルギーを除くコアコアCPI上昇率も+2.4%となっていますので、小売業販売額の12月統計の前年同月比+3.7%の増加は、インフレ率との関係はビミョーであり、実質消費はプラスか、マイナスか、きわどいところといえます。さらに考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。

photo

続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。記事にもある通り、ロイターでは失業率に関する事前コンセンサスは前月と同じ2.5%、有効求人倍率も前月から横ばいの1.25倍が見込まれていました。人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率・有効求人倍率ともに前月から横ばいながら、どちらの指標も雇用の底堅さを示す水準が続いています。例えば、失業率は2%台なかばですし、有効求人倍率も1倍を超えています。加えて、有効求人倍率はハローワークの統計であって、民間職業紹介事業者では企業の採用ニーズは高いという日経新聞の報道もあります。ただし、そろそろ景気回復局面は後半期に入っている可能性が高いと考えるべきですし、その意味で、いっそうの雇用改善は難しいのかもしれません。ただ、あくまで雇用統計は最近の失業率と有効求人倍率のように横ばいや改善と悪化のまだら模様である一方で、人口減少下での人手不足は続くでしょうし、米国がソフトランディングの可能性を高めている限り、それほど急速な雇用や景気の悪化が迫っているようにも見えません。

| | コメント (0)

2025年1月30日 (木)

リクルートによる昨年2024年12月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

明日1月31日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる3月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

photo

いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの募集時平均時給の方は、前年同月比で見て、11月の+3.7%増の後、直近で利用可能な12月には+3.7%増となりました。先週1月24日に総務省統計局から公表された消費者物価指数(CPI)上昇率が12月統計でヘッドライン+3.7%、生鮮食品を除くコア+3.0%でしたから、アルバイト・パートの賃金上昇は物価上昇をやや下回って、実質賃金がマイナスとなった可能性が高い、と考えています。募集時平均時給の水準そのものは、2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、今年2024年10-12月で1,200円に達しています。ですので、現在、報じられている最低賃金と比較しても、かなり堅調な動きと私は受け止めています。他方、派遣スタッフ募集時平均時給の方は、11月▲1.6%減に続いて、12月+0.8%ですから、前年同月比上昇率で見て低空飛行を続けています。もちろん、CPI上昇率には追いついていません。
三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、12月には前年同月より+2.9%、前年同月よりも+34円増加の1,219円を記録しています。職種別では前年同月と比べて伸びの大きい順に、「事務系」(+60円、+4.8%)、「専門職系」(+53円、+3.9%)と「営業系」(+47円、+3.9%)、「販売・サービス系」(+44円、+3.8%)、「フード系」(+40円、+3.5%)、「製造・物流・清掃系」(+36円、+3.0%)と、すべての職種で前年同月比プラスとなっています。すべての職種で+3%以上の伸びを示しているにもかかわらず、全体の伸びが+2.9%にとどまっているのは、いわゆるシンプソン効果で時給の低い職種である「フード系」、「販売・サービス系」、「製造・物流・清掃系」といったところが増加しているのだろうと想像しています。また、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏で前年同月比プラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、12月には前年同月より+0.8%、+13円増加の1,630円となりました。職種別では、「オフィスワーク系」(+52円、+3.2%)、「医療介護・教育系」(+26円、+1.8%)と「製造・物流・清掃系」(+25円、+1.8%)、「営業・販売・サービス系」+2円、+0.1%)と「クリエイティブ系」(+1円、+0.1%)、の5業種は何とかかろうじて前年比でプラスの伸びを示しましたが、「IT・技術系」(▲79円、▲3.5%)、は前月に続いて大きな減少を示しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏で前年同月比プラスとなっています。

アルバイト・パートや派遣スタッフなどの非正規雇用について12月の調査結果を見る限り、アルバイト・パート、派遣社員とも消費者物価(CPI)上昇率を下回る時給の上昇にとどまり、実質賃金上昇率率はマイナス、という結果です。

| | コメント (0)

2025年1月29日 (水)

食品値上げなどの影響で大きく低下した1月の消費者態度指数

本日、内閣府から1月の消費者態度指数が公表されています。1月統計では、前月からさらに△1ポイント低下して35.2を記録しています。2か月連続の低下となります。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです

消費マインド1月は2カ月連続の悪化、食品値上げなど影響
内閣府が29日公表した1月の消費動向調査によると、消費者態度指数は前月比1.0ポイント低下の35.2となり、2カ月連続で悪化した。同指数を構成する4つの指標全てが悪化し、消費マインドの基調判断は「足踏みがみられる」に下方修正された。判断の引き下げは8カ月ぶり。内閣府は、食品などの物価上昇が響いた可能性があるとみている。
消費者態度指数を構成する4つの意識指標のうち、「暮らし向き」と「耐久消費財の買い時判断」はそれぞれ前月比1.9ポイントと大きく低下した。「収入の増え方」は0.3ポイント、「雇用環境」は0.2ポイント低下した。
内閣府では、名目賃金を上回る物価の上昇や、生鮮食品、コメの価格高騰・高止まりなど「身近なものの価格上昇が物価見通しが(消費マインドに)影響した可能性がある」(幹部)とみている。
これまでの基調判断は「改善に足踏みがみられる」だった。
1年後の物価が上昇するとの回答者比率は、前月比0.4ポイント低下の93.3%で5カ月ぶり低下した。ただ、物価が上昇するとの回答のうち、5%以上上昇するとの回答は12月の48.4%から52.3%に増え2023年6月以来の高水準となった。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

photo

消費者態度指数を構成する4項目の指標について前月差で詳しく見ると、「暮らし向き」及び「耐久消費財の買い時判断」がともに△1.9ポイント低下し、それぞれ32.2、27.5となり、「収入の増え方」も△0.3ポイント低下して39.9、「雇用環境」も△0.2ポイント低下して41.0と、消費者態度指数を構成する4項目すべてが軒並み低下しました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「改善に足踏みがみられる」から「足踏みがみられる」へと明確に1ノッチ下方修正しました。私が従来から主張しているように、いくぶんなりとも、消費者マインドは物価上昇=インフレに連動している部分があります。総務省統計局による消費者物価指数(CPI)のヘッドライン上昇率は昨年2024年11月の+2.9%から12月には+3.6%に跳ね上がりましたから、消費者マインドへのダメージが大きかった気がします。インフレとデフレに関する消費行動は、1970年代前半の狂乱物価の時期は異常な例としても、1990年代後半にデフレに陥る前であれば、インフレになれば価格が引き上げられる前に購入するという消費者行動だったのですが、デフレを経て、物価上昇により消費者が買い控えをする行動が目につきます。こういった消費者行動の経済分析が必要だという気がしています。というか、私も研究をしているわけですので、少し考えたいと思います。
また、物価上昇に伴って注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が昨年2024年12月統計の48.4%から本日公表の今年2025年1月統計では52.3%に大きく上昇する一方で、2%以上5%未満物価が上がるとの回答は33.7%から33.7%に、また、2%未満との解答も11.6%から8.5%に、それぞれ低下し、物価上昇を見込む割合は93.3%と高い水準が続いていて、物価上昇予想は上昇率の高い方にややシフトしています。これも、12月統計などで実績としてのCPI上昇率が加速している影響が現れている可能性が高いと考えるべきです。

| | コメント (0)

2025年1月28日 (火)

+2.9%の上昇を記録した2024年12月の企業向けサービス価格指数(SPPI)

本日、日銀から昨年2024年12月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月11月の+3.0%からわずかに縮小して+2.9%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも前月から△0.1%ポイント縮小の+3.0%の上昇となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格24年2.9%上昇、33年ぶり伸び率
日銀が28日に発表した2024年12月の企業向けサービス価格指数(速報値、20年平均=100)は109.1と前年同月比で2.9%上昇した。伸び率は11月(3.0%上昇)から0.1ポイント縮小した。24年平均では前年比2.9%上昇し、1991年(3.0%上昇)以来33年ぶりの高い伸び率となった。
年間では幅広い業種で人件費の価格への転嫁が見られた。特に、宿泊サービスを含む諸サービスや道路貨物輸送を含む運輸・郵便などが全体を押し上げた。
企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービスの価格動向を表す。例えば、貨物輸送代金やIT(情報技術)サービス料などで構成される。モノの価格の動きを示す企業物価指数とともに、今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
24年12月の内訳をみると、宿泊サービスは12.0%上昇と11月(19.1%上昇)から伸び率が縮小した。引き続き高い伸び率を維持しているが、インバウンド需要がわずかに鈍化したことが押し下げに寄与した。引き続き多くの業種で人件費などの諸コストを価格に転嫁する動きが続いている。
調査品目のうち、生産額に占める人件費のコストが高い業種(高人件費率サービス)は3.1%上昇し、低人件費率サービスも2.8%上昇した。調査対象の146品目のうち、価格が上昇したのは113品目、下落は16品目、不変は17品目だった。

もっとも注目されている物価指標のひとつですから、どうしても長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

photo

上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速はいったん終了したように見えたのですが、昨年2024年年央時点で再加速が見られ、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は12月統計で+3.8%を示しています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準として一貫して上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、昨年2024年6月に+3.2%まで加速し、その後、2024年9月に+2.8%を記録した以外は、11月まで+3%以上の上昇率でした。12月になって、ようやく、+3%を下回ったわけです。日銀物価目標の+2%を大きく上回って高止まりしていることは変わりありません。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なるものの、+3%近傍の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性があります。人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率と高人件費比率のサービスの違いに大きな差はなく、広く人件費などのコストが価格に転嫁されている印象です。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて12月統計のヘッドライン上昇率+2.9%への寄与度で見ると、機械修理や土木建築サービスや宿泊サービスなどの諸サービスが+1.59%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分超を占めています。諸サービスのうち、引用した記事にもあるように、宿泊サービスは11月の+19.1%の上昇から12月には+12.0%になりましたが、インバウンド需要もあって引き続き高止まりしています。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている項目として、10月から郵便料金が値上げされた郵便・信書便、石油価格の影響が大きい道路貨物輸送などの運輸・郵便が+0.49%、情報処理・提供サービスやソフトウェア開発やインターネット附随サービスといった情報通信が+0.27%、ほかに、景気敏感項目とみなされている広告+0.16%、リース・レンタルも+0.16%などとなっています。

| | コメント (0)

2025年1月27日 (月)

今年の恵方巻きは2ケタ上昇の大幅な値上がりか?

先週金曜日の1月24日、帝国データバンクから恵方巻きの価格調査結果が明らかにされています。全般的な物価上昇、特に昨秋からのコメ価格の上昇を受けて、今シーズンの恵方巻きは2ケタに及ぶ価格上昇になるようです。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果を2点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 今年の恵方巻、平均価格は前年比10%超の大幅値上げ
  2. 恵方巻、再び「高値」へ 低価格と高級志向の二極化進む

季節の話題ですので、帝国データバンクのサイトから図表を引用しつつ簡単に見ておきたいと思います。

photo

まず、上のグラフは 恵方巻の価格動向 を引用しています。見れば明らかな通り、海鮮恵方巻ではない普通の恵方巻の平均価格は税込みで1094円、昨年の958円から+14.2%の値上がり、海鮮恵方巻は1944円、と前年の1729円から+12.4%の上昇です。海鮮恵方巻ではない普通の恵方巻も、海鮮恵方巻もいずれも+10%を超える2ケタ上昇となっています。

photo

続いて、上のグ画像は 恵方巻の原材料価格動向 を引用しています。2ケタ上昇のうち、何が値上がりの主因か、を原材料別に見ています。国民が広く認識しているように、コメが大きな価格上昇を見せており、続いてキュウリも大幅値上げとなっています。私は週に2-3度は近くのスーパーの食料品売場で大雑把な価格動向を見ており、私の実感ともよくマッチします。

松阪牛や神戸牛、あるいはカニなどの高級食材が値上がりしているわけではありません。何度か書きましたが、キャベツ1玉500円の時代になってしまいました。私たちのような一般市民が普通に食べる食料品が大きく値上がりしています。何を食べればいいのでしょうか?

| | コメント (0)

2025年1月26日 (日)

今年の花粉やいかに?

やや旧聞に属するトピックながら、先週半ばから、今シーズンの花粉飛散予想が出始めています。
まず、ウェザーニュースのサイトでは以下の通り1月15日付けで花粉の飛散開始予想を明らかにしています。今シーズンの花粉飛散は昨年の1.5倍に上るとの予想です。

photo

続いて、日本気象協会のサイトでも1月16日に2025年飛び始め予想を出しています。飛散量は、広い範囲で例年より多く、四国・近畿は例年の2倍以上の所もあるとの予想です。

photo

はい。私は、これらの花粉飛散予想が出た1月半ばにはすでに花粉を感じ始めており、抗アレルギー剤は欠かしたことがありません。ツラい季節がやってきます。

| | コメント (0)

2025年1月25日 (土)

今週の読書はマクロ経済統計に関する経済書をはじめとして計6冊

今週の読書感想文は、マクロ経済統計に関する経済書をはじめとして計6冊、以下の通りです。
まず、佐々木浩二『マクロ経済学の統計[第2版]』(三恵社)は、SNA統計に大きな中心を置いて4部構成となっており、フロー統計、ストック統計、制度部門別統計、政策評価のための統計それぞれの解説を試みています。稲葉陽二『ソーシャル・キャピタル新論』(東京大学出版会)では、「日本社会の『理不尽』を分析する」ため、人脈に近い概念であるソーシャル・キャピタルに関して、著者なりの従来にない議論を展開しようと試みています。ナン・リン/カレン・クック/ロナルド S. バート[編]『ネットワークとしてのソーシャル・キャピタル』(ミネルヴァ書房)では、ソーシャル・キャピタルのひとつの側面として、バイラテラルな2人間の人間関係だけではなく、マルチラテラルなネットワークとして、信頼や規範に基づく人間関係を考えています。カート・ワグナー『TwitterからXへ 世界から青い鳥が消えた日』(翔泳社)は、タイトル通り、Twitterが現CEOのイーロン・マスクに買収されてXとなるまでのドキュメンタリー、あるいは、迷走の過程のリポートです。翁邦雄『金利を考える』(ちくま新書)では、金利の理論的な側面を深く掘り下げる、というよりは、新書というメディアの特徴も活かしつつ、金利の決まり方は金利が経済活動ほかに及ぼす影響力を考え、家計の身近なところで消費者金融や住宅ローンの金利について議論しています。最後に、安藤優一郎『蔦屋重三郎と田沼時代の謎』(PHP新書)は、NHK大河ドラマで話題の蔦屋重三郎とその時代背景を形成した幕府老中の田沼意次についての歴史書です。
今年の新刊書読書は年が明けて先週までに10冊を読んでレビューし、本日の6冊も合わせて16冊となります。本日のブログのブックレビューについては、可能な範囲で、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。また、綾辻行人『殺人方程式』(講談社文庫)と櫻田智也『サーチライトと誘蛾灯』(東京創元社)も今週読んでいて、新刊書ではないので本日のブックレビューには含めていませんが、FacebookやmixiなどのSNSでレビューを明らかにしたいと予定しています。

photo

まず、佐々木浩二『マクロ経済学の統計[第2版]』(三恵社)を読みました。著者は、専修大学経営学部教授です。本書は、タイトルこそ「マクロ統計」と銘打っているのですが、ほぼほぼSNA統計=GDP統計限定です。ですから、他のマクロ経済学の統計である失業率などの雇用とか、インフレを計測する物価指数とか、鉱工業生産とか、輸出入の貿易とかは、最後の第Ⅳ部でGDPと関連付けてまとめて言及されています。繰り返しになりますが、本書はSNA統計に大きな中心を置いて4部構成となっており、フロー統計、ストック統計、制度部門別統計、政策評価のための統計それぞれの解説を試みています。第Ⅰ部フロー統計としては、SNA統計はいわゆる加工統計であり、調査票や政府の業務資料などに基づく1次統計ではありませんから、その点をていねいに解説しています。利用している統計が多数多岐に渡る点も特徴です。そして、フロートしての日本のGDPが1990年代後半からほとんど成長していない点もp.9図表1-9などから明らかにされています。もちろん、国際比較の観点から国連などによるSNA統計マニュアルに基づいて作成されているという事実や、よく知られた支出・生産・分配(所得)のGDPの三面等価に加えて、三面不等価、はたまた、統計的不突合まで幅広い解説をしています。私が役所を定年退職するころに進められていた使用供給表(SUT)の利用についても、その裏側の事情まで明らかにしています。第Ⅱ部ストック統計としては、国富と災害による損失の関係が明確にされています。国富とは、一部の金融資産と生産資産と非生産資産の合計であり、逆からいって、国民資産と負債の差額です。極めて単純化して海外との取引を無視した民間経済を仮定すれば、金融資産は同額の金融負債が発生しているはずですから、単純なモデルの世界では生産資産と非生産資産の合計である実物資産と考えられます。ただし、流通段階を含めた在庫は別です。また、民間経済だけのモデルから拡張して、政府部門、さらに海外部門を考えることになれば、国債や現金通貨、対外純資産なども考慮する必要があります。そのように拡張したモデルに基づき第Ⅲ部で制度部門を考えていて、家計、非金融法人企業、金融法人企業、一般政府、海外などの経済主体が、経常勘定と資本勘定と金融勘定をやり取りしていることになります。企業に法人を付したのは、個人企業がしばしば家計と同じグループにされることがあるからです。それから、SNA統計だけではなく、経済学では政府とは中央政府だけではなく、中央政府に地方政府と社会保障基金をグループにした概念を使います。最後の第Ⅳ部では、政策評価のため、SNA統計だけではなく、GDPと関連付けて物価、雇用・賃金などが取り上げられています。最後のコメントながら、私が勤務していた経済企画庁とその中央省庁再編後の内閣府では、このSNA統計を作成・発表していました。ですので、SNA統計だけではなく、その元となる1次統計の実務に詳しいエコノミストがいっぱいいて、その能力を持って研究機関や大学に再就職している人も少なくありません。私はそういった方面の能力がサッパリありませんので、こういった参考文献を手元において、今回こそ通読しましたが、コンパクトなボリュームでもあり、辞書的な使い方をするのが有益ではないかという気がしています。

photo

次に、稲葉陽二『ソーシャル・キャピタル新論』(東京大学出版会)を読みました。著者は、日本大学法学部政治経済学科教授を2020年に退職し、現在は日本大学の非常勤講師であり、日本社会関係学会の初代会長も務めています。ですので、出版社から考えても、本書は純粋に学術書と見なすべきです。本書のタイトルとなっている、ソーシャル・キャピタル=社会資本とは信頼や規範に基づく人的関係を指しており、あくまで学術用語と考えるべきながら、専門外の私は日本語であれば「人脈」という一般用語が近いんではないかと考えています。本書は、サブタイトルである「日本社会の『理不尽』を分析する」ため、人脈に近い概念であるソーシャル・キャピタルに関して、著者なりの従来にない議論を展開しようと試みています。ソーシャル・キャピタルに関しては、私はエコノミストですので詳しくもないながら、ハビトゥス理論のブルデューとか、『孤独なボウリング』のパットナムとか、本書にはそれほど登場しないグラノベッターなんかの名前を思い出します。というが付されています。1990年代初頭のバブル経済の崩壊から始まって、1990年代後半にはデフレに突入し、「失われた30年」とも称される長期の経済停滞の中で、企業不祥事や政治の腐敗といったレベルの社会的問題だけでなく、自己責任論が蔓延して日本社会全体の分断が強まっています。通常、ソーシャル・キャピタルは正の外部経済効果、すなわち、社会全体にプラスのよき効果をもたらすと考えられていますが、現在の日本では逆に負の外部効果を持って「理不尽」をもたらしているのが、著者の考えであるわけです。本書では「ダークサイド」と呼んでいます。私はエコノミストですので、取りあえずは、経済活動が上向けば下部構造から上部構造の社会問題の解決にもつながる、という点は理解しつつも、下部構造の経済からは独立した社会問題を社会関係資本=ソーシャル・キャピタルの観点から考えるべく、専門外で十分な理解が進んだとはいえませんが、一応、学術書として読んでみた次第です。まず、経済学の観点から、本書でも言及されているように、世銀リポート Social Capital: A Multifaceted Perspective の冒頭の Introduction において、いずれもノーベル賞経済学者であるアロー教授とソロー教授から、生産活動への寄与の観点からソーシャル・キャピタルは経済学的な「資本」と考えるべきではない、という趣旨の批判があります。批判の一部は定義のあいまいさや計測にも向けられています。したがって、本書では冒頭の1-3章くらいまで、いわゆるコールマンのボート(ダイアグラム)をp.31図2-2で示した上で、ミクロとマクロの間の関連や相互の因果関係などの議論を展開しています。すなわち、p.56表3-1において、ミクロとマクロの間のインタラクティブな関係に基づくコールマンの定義、マクロ中心のパットナムの定義、、ミクロからマクロにも拡張可能なオストロムの定義に加えて、ややオストロムに近いながらも本書の定義を示しています。そして、もうひとつの批判に関しては、少なくとも日本では滋賀大学と内閣府の共同研究の成果報告書「ソーシャル・キャピタルの豊かさを生かした地域活性化」において、いくつかの要素が示されています。でも、もっ最近の研究ではSNSなどのビッグデータからの計測を試みている例もあると本書では言及されています。最後に、本書冒頭のp.2からサブタイトル「違和感」の例がいくつか上げられており、私が興味を持ったものとして「なぜ賃金が目減りするのに経営者報酬だけ上がるのか」、「なぜ日本の経営者は内部留保を積み上げるのか」、「なぜ忖度した官僚は記憶を失うのか」といったものがあります。ソーシャル・キャピタルの観点だけで解明できる「なぜ」ではありませんが、日本の経済社会をよりよくする上で必要な問いかけであろうと私は受け止めています。

photo

次に、ナン・リン/カレン・クック/ロナルド S. バート[編]『ネットワークとしてのソーシャル・キャピタル』(ミネルヴァ書房)を読みました。編者は、順に、米国デューク大学トリニティ・カレッジ名誉教授、同じく米国スタンフォード大学教授、やっぱり米国シカゴ大学教授です。出版社からしても、明らかな学術書であり、専門外の私にはややハードルが高かった気がします。ということで、本書では、ソーシャル・キャピタルのひとつの側面として、バイラテラルな2人間の人間関係だけではなく、マルチラテラルなネットワークとして、信頼や規範に基づく人間関係を考えています。すなわち、マクロのソーシャル・キャピタルを主として考えているパットナム教授の Making Democracy Work では社会的信頼と互酬性の規範とネットワークの3つのコンポーネントを上げて社会的な効率性を高める人間関係や組織の特徴としています。繰り返しになりますが、本書ではタイトルから明らかなように、ネットワークとしてのソーシャル・キャピタルの分析を試みています。ソーシャル・キャピタル=社会資本とは信頼や規範に基づく人的関係を指しており、あくまで学術用語と考えるべきながら、平たくいえば「人脈」という一般用語が近いんではないかと考えています。そのうえで、ネットワークですから、単なる2人間のバイラテラルな直線的な人間関係だけではなく、マルチラテラルに人脈が平面的に、あるいは、立体的に広がっていくというイメージでよいかと思います。本書は3部構成であり、第Ⅰ部ではソーシャル・キャピタルの理論構築、構造的な空隙、地位想起法などの理論的な側面を明らかにした後、第Ⅱ部では労働市場におけるソーシャル・キャピタルを対象に分析を進めています。そして、第Ⅲ部では、組織やコミュニティにとどまらない制度的環境も含めたソーシャル・キャピタルまで拡張しています。ということで、私は主として第Ⅱ部の労働市場におけるソーシャル・キャピタルに注目しました。通常は労働市場では外部労働市場からの参入、すなわち、雇用される際の採用と雇用された直後の配属などに人的関係としてのソーシャル・キャピタルが作用すると考えられます。もちろん、いわゆる人事異動や配置転換といった内部労働市場においてもソーシャル・キャピタルは重要な役割を果たしますが、本書では採用と配置の段階を主として分析対象としています。日本では就職の際に「コネ」と呼ばれている人間関係です。例えば、家族内のメンバーとして親子や兄弟姉妹で同じ会社に勤める場合があるわけですし、ほかにも当然に、何らかのグループ属性を持ち、そういったソーシャル・キャピタルを活用できる人材、特定の資格を持ったメンバーを有するソーシャル・キャピタル、あるいは、シグナリング機能も果たす出身校の人的つながりのあるソーシャル・キャピタルなども労働市場で活用の可能性が十分あります。もちろん、本書ではそれほど重視していませんが、マイナスのソーシャル・キャピタルもある可能性が示唆されています。本書では、数量的なデータも含めて、コールセンターの対応職員、さらに、警備員についての紹介プログラムなどを分析しています。もちろん、日本的にいっても「コネ」による就職がやや否定的な印象を持っているように、逆に、公平性への圧力という点も重視される、という分析結果も示されています。すなわち、ネットワークとしてのソーシャル・キャピタルの場合、専門外ながら、私は弊害も指摘しておく必要があると考えます。例えば、典型的にはクラブ財の場合で、クラブのメンバーになっていない人が負の影響を受けることは明らかですし、クラブのメンバーは正の効用を得ますが、社会全体としてのソーシャル・キャピタルの符号は確定しません。第Ⅳ部では、日本でも「いっしょにメシを食う」とか、「同じ釜のメシを食う」といった表現があるように、会食=social eating、あるいは、宴会=banquetsなどといった食事に現れるソーシャル・キャピタル、それをかなり制度的に確立した中国の「関係」(guanxi)、また、セーフティネットとしても活用できるソーシャル・キャピタルの分析に興味を持ちました。本書では明示的に取り上げてはいませんが、災害発生時のソーシャル・キャピタル活用などについても可能性が広がる気がしました。

photo

次に、カート・ワグナー『TwitterからXへ 世界から青い鳥が消えた日』(翔泳社)を読みました。著者は、ビジネスおよびテクノロジー・ジャーナリストです。英語の原題は Battle for the Bird であり、2024年の出版です。本書は、タイトル通り、Twitterが現CEOのイーロン・マスクに買収されてXとなるまでのドキュメンタリー、あるいは、迷走の過程のリポートです。現CEOであるイーロン・マスクと比較対照されるのが表紙画像にもあるTwitter創業者の1人ジャック・ドーシーです。しかし、いずれにせよ、読後の感想としてはTwitterからXになったとしても、この運営体企業の迷走劇が中心となっている、というふうに私は読みました。すでに、トランプ大統領が米国の政権に返り咲いた現時点で、メディアとしてのTwitterないしXについては、ほかの米国テック企業、すなわち、GAFAMと一括して称されるGoogle、Apple、Facebook=META、Amazon、Microsoftの各社が、いっせいに政権への忠誠姿勢を示す前から、イーロン・マスクが経営権を握ったことに象徴されるように、トランプ政権成立とは独立に同じ動きが進められていたことは明らかです。というか、トランプ政権成立を一定の影響力で後押ししたとすらいえると考えるべきです。繰り返しになりますが、TwitterからXについてはの企業としての迷走が取り上げられています。登録者数はFacebookに大きく水を開けられ、GAFAMと並ぶようなビックテック企業にはなれず、メディアとして批判や場合によっては脅迫にすらさらされるという実態を明らかにしています。そのあたりが、延々と本書で記録として残されている、と覚悟して読んだ方がいいです。加えて、英語の原文のせいか、邦訳のせいなのか、はたまた、フォントが小さいせいなのか、ビッチリと各ページに字が埋まっていて文章が読み進みにくく、しかも400ページを超える本全体としてボリュームがありますので、読み通すのはかなり骨だと思います。最後に、TwitterやXをはじめとして、私の直観的なSNSメディアの感想を書き残しておくと、YouTubeがインフルエンサーから購読者へのややユニラテラルなメディアであるのに対して、FacebookとTwitter=XとInstagramは仲間内でのバイラテラルな情報の交換、ただし、Instagramがビジュアル中心に対して、文字情報中心のうち長文はFacebopokで、短文がTwitter=X、そして、私は馴染がなく詳しくないのですが、TikTokはインフルエンサーになりたい個人の情報発信の場、という極めて大雑把なカテゴライズをしています。まあ、私の独断と偏見でのカテゴライズですし、異見はありえます。ただし、こういったSNSが民主主義を歪めかねないリスクも認識されるべきです。特に、米国のトランプ政権成立とともにむき出しの自由、特にむき出しの表現の自由の方向に進みだしたおそれがあります。もっと行き着くところに行けば、表現だけでなく、上位者が下位者を奴隷のように使ったり、誹謗中傷したり、ひどい場合には事実上殺したり、そういった自由、特に表現の自由の時代が始まりかねない危うさを私は感じます。すでに、フェイク・ニュースや事実に基づかない誤った情報をSNSで流す「自由」が認められようとしています。そういった誤った情報を流す行為は、上位者や権力者に都合よければ何ら責任を問われることがない一方で、下位者や権力の地位にない者や団体に対しては認められない「自由」です。兵庫県やフジテレビで観察される事態がそういった将来の危うさを強く連想させると考えるのは私だけでしょうか?

photo

次に、翁邦雄『金利を考える』(ちくま新書)を読みました。著者は、日銀エコノミストから現在は京都大学公共政策大学院名誉フェローを務めています。本書では、金利の理論的な側面を深く掘り下げる、というよりは、新書というメディアの特徴も活かしつつ、金利の決まり方は金利が経済活動ほかに及ぼす影響力を考え、家計の身近なところで消費者金融や住宅ローンの金利について議論しています。金利の決まり方に関する理論はいくつかあるのですが、極めてシンプルに、私も本書第2章で展開している借金のレンタル料、というのが判りやすいと考えています。実は、授業でも単純にそう教えています。すなわち、レンタカーとか貸衣装を借りると料金を支払う必要があるわけで、100万円を1年借りると、例えば、2万円のレンタル料が必要ということになれば、金利が2%と計算される、と教えるわけです。これが、中央銀行が操作する極超短期の金利、日本でいえば、銀行間で取引される無担保のオーバーナイトコールレートからタームと呼ばれる期間構造に従って、もちろん、借りる主体のリスクに従って、さまざまな金利が形成されることになります。そして、目下のところ、日本においては金利は為替を目標に操作されているように私には見えるのですが、第5章では金利が為替相場におよぼす影響を議論しています。私が授業で教えているような通常の判りやすいモデルでは、短期には金利の影響力が大きく、すなわち、高金利通貨が増価し、低金利通貨が減価する一方で、長期には購買力平価仮説が成り立ち、高インフレ国の通貨が減価し、低インフレ国の通貨が増価する、と考えられています。対米ドルの円通貨の為替相場で見ると、目先は日本は低金利であり円安が進んでいますが、長期的に最近20-30年を見れば低インフレ国日本の通貨である円は増価している、ということになります。興味深かったのは、第3章の消費者金融の金利です。ほぼほぼ、多くの消費者金融の金利が法令の上限である18%に張り付いているのですが、本書ではその点は無視しています。逆に、現行のデフォルトである18%の金利を払える消費者であれば、流動性制約緩和策である、という立場のように見えます。その昔の「サラ金」と呼ばれていた時代のムチャクチャな高金利への言及はありません。私は国際派のエコノミストでしたので海外勤務の経験もあり、その昔の「サラ金」からふんだんに研究費を受けて学生を海外旅行に連れて来ていた大学のセンセイについてのお話も聞き及んでおり、まあ、そういったセンセイが流動性制約の解消策としての「サラ金」の役割を高く評価し、高金利容認説を持ち上げていたんだろうと想像しています。住宅ローンについては、私は住居向けに3回に渡って不動産を取得し、うち2回ほど住宅ローンを組んだ経験がありますが、かつては固定金利がそれなりのシェアあったことは知りませんでした。勉強になりました。

photo

次に、安藤優一郎『蔦屋重三郎と田沼時代の謎』(PHP新書)を読みました。著者は、歴史家だそうです。本書は、軽く想像される通り、NHK大河ドラマで話題の蔦屋重三郎とその時代背景を形成した幕府老中の田沼意次についての教養書です。昨年の今ごろは紫式部に関する新書を何冊か読んでいたような気がします。大河ドラマはほとんど見ないので、こういった読書で世間について行こうと努力しているわけです。ということで、蔦屋重三郎が活躍した時代背景は、厳しい財政引締めや綱紀粛正などを行った享保の改革と寛政の改革の間に挟まれた田沼時代に当たり、割合と自由闊達な雰囲気で経済は発展し、華やかで享楽的な文化が花開きます。そして、蔦屋重三郎のホームグラウンドとでもいうべき吉原がそういった文化や流行の発信地となるわけです。出版としては、遊女の評判を集めた『一目千本』や『吉原細見』が典型的なものと考えられます。これらは、当然ながら、吉原の宣伝活動ともなりますので、出版と遊郭はいわゆるwin-winの関係となります。それらのほかに、吉原独自の行事である夏の玉菊灯籠、秋の俄などの情報発信の出版もありました。もちろん、吉原以外にも浄瑠璃のお稽古テキストとか、寺子屋の教科書である往来物などを手がけたということです。本書では、こういった出版は、その後の蔦屋重三郎の印象からは少し異なり、手堅く安定的な収益の見込めるローリスクな活動であったと評価しています。というのも、蔦屋重三郎が養子に入った家のいわゆる家業は吉原の茶屋であり、出版事業はそもそも新規開拓の事業展開であったので、ハイリスクな方向性は目指さなかった、と解説しています。そして、今に残る出版関係では、草双紙の一種である黄表紙にも手を伸ばします。要するに現代的にいえば小説なわけです。さらに、浮世絵にも進出し、東洲斎写楽と喜多川歌麿を世に出しています。こういった蔦屋重三郎の出版活動とも相まって、吉原は女郎屋が軒を並べる単なる遊興の場から、文化や流行の発信地という意味で、いわば文化サロン的な地位を獲得していくわけです。そして、それを支えた時代背景、特に、エコノミストの私から見れば経済活動が気にかかるところですが、老中田沼意次は典型的なリフレ政策を果敢に実行したわけです。現在ではリフレ政策とは、物価が下落するデフレに対してマイルドなインフレを目指す政策なのですが、物価上昇という意味でのインフレは、逆から見れば貨幣価値の低下に相当します。徳川期は貨幣価値を低下させるのはそれほど難しいことではなく、小判の金の含有量を落とせばいいわけです。ただ、本書ではそういった貨幣改鋳については深入りしておらず、コメの年貢への偏りから商業活動に着目して、株仲間結成を促進した上で冥加金を取り立てる、などの農業から商業を重視する政策変更に着目しています。そういったマブ仲間などの利権政治でしたので、賄賂にまみれて凋落していき、さらには、米価高騰から米騒動も頻発し、田沼政治が終了して寛政の改革につながるわけです。蔦屋重三郎だけではなく政治経済的なバックグラウンドの動向もよく考えられた解説書でした。

| | コメント (0)

2025年1月24日 (金)

+3%に達した12月の消費者物価指数(CPI)上昇率を受けた日銀追加利上げのチャレンジの成功を祈念する

本日、総務省統計局から昨年2024年12月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+2.7%から拡大して+3.0%を記録しています。コアCPI上昇率が+3%を記録したのは一昨年2023年8月に+3.1%となって以来1年4か月ぶりで、日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から32か月、すなわち、2年半を超えて3年近くの間続いています。ヘッドライン上昇率も+3.6%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+2.4%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価3.0%上昇 24年12月、1年4カ月ぶり3%台
総務省が24日発表した2024年12月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が109.6となり、前年同月と比べて3.0%上昇した。上昇率が3%台の水準となるのは、23年8月に3.1%をつけて以来、1年4カ月ぶり。政府の電気・ガス代補助がいったん終了したことでエネルギー価格が上昇し、全体を押し上げた。
生鮮食品を含む総合指数では3.6%上昇の110.7だった。品目別では生鮮食品が17.3%上昇と最も上昇幅が大きかった。記録的な猛暑などの影響でキャベツが前年同月比で2倍超となったほか、みかんも25.2%上昇した。
光熱・水道が11.4%と生鮮食品に次ぎ上昇した。政府が昨年8~10月に酷暑乗り切り緊急支援として再開した電気・ガス代への補助が終了し、電気代が18.7%、ガス代が7.8%とそれぞれ上昇した。
生鮮以外の食品も4.4%上昇した。なかでもコメ類は64.5%と、比較可能な1971年1月以降で最大の上昇幅となった。コメなどの原材料の値上がりに伴い、おにぎりも8.3%、すしなど外食も4.6%上昇した。このほか、自然災害の増加で火災・地震保険料が7.0%上昇した。
2024年平均では、生鮮を除く総合が2.5%上昇の107.9だった。3年連続で2%超の水準となるのは1989年~1992年に4年連続で2%超をつけて以来、約30年ぶりだ。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

photo

まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.0%ということでしたので、実績の+3.0%はジャストミートしました。品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、生鮮食品を除く食料価格の上昇が継続しています。すなわち、先月11月統計では前年同月比+4.2%、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度+1.00%であったのが、12月統計ではそれぞれ+4.4%、+1.06%と、一段と高い伸びと寄与度を示しています。ただし、11月統計の上昇率+2.7%から12月統計の+3.0%へと上昇率で見て+0.3%ポイントの拡大を示した主因はエネルギーです。すなわち、エネルギー価格については、11月統計で+6.0%の上昇率、寄与度+0.45%でしたが、本日公表の12月統計では上昇率+10.1%の高い上昇率となっていて、寄与度も+0.76%を示していますので、寄与度差は+0.31%ポイントに上ります。特に、インフレを押し上げているのは電気代であり、エネルギーの寄与度+0.76%のうち、実に電気代だけで寄与度は+0.62%に達しています。引用した記事で指摘されている通り、政府の「酷暑乗り切り緊急支援」として実施されていた電気・ガス代への補助金が縮小して、電気代は上昇率+11.8%、寄与度+0.62%、都市ガス代も上昇率+11.1%、寄与度+0.11%と、いずれも前月から跳ね上がりました。
家計とともに多くのエコノミストが注目している食料の細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+4.4%、寄与度+1.06%に上ります。その食料の中で、コシヒカリを除くうるち米が上昇率+65.5%ととてつもないインフレとなっていて、寄与度も+0.24%あります。うるち米を含む穀類全体の寄与度は+0.35%に上ります。さすがに一時のコメの品薄感は解消されているようですが、今でも大きく値上げされたまま値下がりはしていません。チョコレートなどの菓子類の上昇率+6.4%、寄与度+0.17%に続いて、コメ値上がりの余波を受けた外食が上昇率+2.8%、寄与度+0.13%、コメとは別としても、コーヒー豆などの飲料も上昇率+7.4%、寄与度0.13%、豚肉などの肉類が上昇率+4.1%、寄与度も+0.11%、などなどとなっています。コアCPIの外数ながら、キャベツなどの生鮮野菜も上昇率+27.3%、寄与度0.53%に達しています。スーパーなどで1玉500円のキャベツを見かけることもめずらしくなくなった印象です。

photo

こういった物価情勢を受けて、広く報じられている通り、日銀は金融政策決定会合において25ベーシスの金利引上げを決定しています。すなわち、政策金利である無担保コールオーバーナイト金利の誘導目標を0.25%から0.5%に引き上げることとしています。日銀から公表された「2025年1月金融政策決定会合での決定内容」は上の通りです。「経済・物価は、これまで示してきた見通しに概ね沿って推移、先行き、見通しが実現していく確度は高まってきている」として、追加利上げを決定しているわけです。同時に公表された「経済・物価情勢の展望 (展望リポート)」では、2026年度の生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)上昇率の見通しを昨年2024年10月時点から+0.1%ポイント引き上げて前年度比+2.0%としています。日銀の金利引上げは、今世紀に入って3度目のチャレンジです。「3度目の正直」で日本経済が好循環を達成できることを願っています。

| | コメント (0)

2025年1月23日 (木)

昨年2024年12月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から昨年2024年12月の貿易統計が公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+3.8%増の9兆1523億円に対して、輸入額は▲3.8%減の9兆2700億円、差引き貿易収支は▲1176億円の赤字を記録しています。5か月連続の貿易赤字となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

貿易赤字4年連続、24年5.3兆円 円安で輸出額が過去最高
財務省が23日発表した2024年の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は5兆3325億円の赤字だった。4年連続の赤字となった。赤字幅は前年比で44.0%縮小した。輸出入の数量はいずれも減少しているものの、歴史的な円安が輸出額を押し上げた。
24年の輸出額は前年比6.2%増の107兆912億円だった。2年連続で100兆円を超えて、1979年以降で過去最高となった。貿易指数(2020年=100)の輸出数量指数は2.6%減の102.9と3年連続で減少した。為替レートは年平均で1ドル=150.97円で、7.7%の円安だった。
アジアを中心に需要が旺盛な半導体等製造装置が4兆4962億円と27.2%伸びた。自動車は3.7%増の17兆9094億円で過去最高だった。
地域別でみると、アジア向けの輸出が8.3%増の56兆8708億円と全体をけん引した。IC製造用など半導体等製造装置は34.8%増えた。半導体等電子部品は11.6%増だった。中国向けの輸出は6.2%増の18兆8651億円だった。
米国向けは5.1%増の21兆2951億円だった。国別として最大の輸出先だった。円安に加え、高価格帯のハイブリッド車(HV)などの販売が好調だったことから自動車の輸出が3.1%伸びた。自動車の部分品も14.5%増えた。
欧州連合(EU)向けは3.9%減の9兆9659億円だった。自動車や鉄鋼などの輸出が減った。
輸入額は前年比1.8%増の112兆4238億円だった。品目別ではパソコンなどの電算機類が31.7%増の3兆2706億円、非鉄金属鉱が14.7%増の2兆7490億円だった。
原粗油は4.4%減の10兆8694億円。原油の輸入価格は1キロリットルあたり7万9494円で3.9%上がったが、数量ベースで前年比8%減少した。
地域別ではアジアからの輸入が3.5%増の53兆8439億円だった。中国を中心にパソコンなど電算機類が19.9%増えた。石油製品は韓国からを中心に25.2%増えた。中国からの輸入は3.6%増の25兆3008億円だった。
米国は9.5%増の12兆6533億円だった。電算機類が約3倍に増えた。航空機のエンジン部品など原動機が24.6%伸びた。
EUは医薬品や航空機類の輸入が増加したことで、3.8%増の11兆8606億円だった。
24年12月単月の貿易収支は1309億円の黒字だった。黒字は6カ月ぶり。半導体等製造装置などの輸出額が好調だったほか、原粗油の輸入額が減った。

差以後のパラグラフを別にすれば、延々と2024年の年間統計について詳述されていて、景気動向を確認する目的で統計をウォッチしているエコノミストからすれば、むしろ、直近月の統計を知りたいところなのですが、まあ、それでも、学生向けの授業などで中長期トレンドを重視する際には、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。2024年年間データを見て私が重要だと思ったのは、引用した記事のタイトルにもあるように、「円安で輸出が伸びた」という点です。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

photo


まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲500億円ほぼの貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の+1000億円超の黒字は、予測レンジ上限の+969億円を超えて大きく上振れした印象です。また、記事には何の言及もありませんが、季節調整済みの系列で見ると、貿易収支赤字はこのところジワジワと縮小していて、11月統計ではやや拡大したのですが、12月統計ではわずかに△330億円まで赤字が縮小しています。季節調整済みの系列では、12月統計では輸出入ともに増加しているのですが、輸出の増加幅の方が輸入より大きくなっています。ですので、拡大均衡という見方もできます。なお、財務省のサイトで提供されているデータによれば、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2024年12月統計まで、ほぼほぼ3年半に渡って継続して赤字を記録しています。ただし、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。昨年2024年12月統計の�億円ほどの貿易赤字は、特に、何の問題もないものと考えるべきです。
本日公表された昨年2024年12月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで+0.6%増ながら、石油単価の下落により金額ベースでは▲11.6%減となっている一方で、非鉄金属鉱は数量ベースで+23.9%増、金額ベースでも+28.2%増を記録しています。エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで+8.7%増と、輸入額全体の伸びが+1.8%にとどまっている中で引き続きプラスの伸びを示しています。輸出に目を転ずると、自動車が数量ベースで▲7.2%減、金額ベースでも▲5.9%減となっている一方で、電気機器が金額ベースで+4.7%増、一般機械も+3.7%増と堅調な動きを示しています。国別輸出の前年同月比もついでに見ておくと、中国向けは減少したものの、アジア向けの地域全体では+5.8%増となっています。米国向けは△2.1%減ながら、西欧向けが+3.3%などとなっています。輸出については、欧米先進国がソフトランディングするとすれば、先行き回復が見込めると考えるべきです。

最後に、トランプ米国大統領の就任に伴って、関税を主たる政策手段とする通商政策に注目が集まっていることは広く報じられているとおりです。直観的に考えれば、日本から米国への輸出への影響は、第1に、関税引上げ国からの輸出を代替する部分はプラスのインパクトを持つものの、第2に、所得効果として高関税国だけではなく米国自身も景気減速の影響をこうむりますので、日本からの輸出は一定のダメージを受けると予想されます。たぶん、後者のマイナスの影響の方が大きいんだろうと私は考えています。

| | コメント (0)

2025年1月22日 (水)

消費停滞はインフレだけが原因ではない

先週1月17日、ニッセイ基礎研究所から「可処分所得を下押しする家計負担の増加」と題するリポートが明らかにされています。賃金が長期に渡って伸び悩む中で消費は持ち直しつつありますが、物価高を主因として低迷していることは事実です。ただ、このリポートでは物価高だけではなく税と社会保障負担の高まりについても着目しています。まず、6点示されているリポートの要旨から最初の4点を引用すると以下の通りです。

要旨
  1. 個人消費は持ち直しているものの、可処分所得の伸び悩みを主因として依然としてコロナ禍前の水準を下回っている。
  2. コロナ禍以降の実質可処分所得減少の主因は物価高であるが、税、社会負担を中心として家計負担が高まっていることも可処分所得の下押し要因となっている。
  3. 社会負担比率は1994年の13.5%から2023年の19.7%までほぼ一本調子で増加している。また、税負担比率は1994年の7.6%から2003年に5.8%まで低下した後、上昇傾向となり、2023年は7.4%となった。
  4. 家計の所得税額は給与を上回るペースで増えている。「民間給与実態統計調査」によれば、給与総額に占める所得税額の割合は2010年の3.86%から2023年には5.10%まで上昇した。各給与階級の税額割合が上昇していることに加え、税率が高い給与階級の給与所得者数の割合が高まっていることがその理由である。

実は、同じ日付の1月17日に開催された経済財政諮問会議に内閣府から提出された「中長期の経済財政に関する試算」では、何と、高成長実現ケースや成長移行ケースのみならず、過去投影ケースですら2026年度から国と地方のプライマリバランス(PB)のGDP比が黒字に転換するとの試算が示されていました。まあ、やむを得ないかもしれませんが、メディアはこぞって「2025年度黒字化の目標から後ズレ」を指摘しつつも、いかにもプライマリバランス(PB)の黒字化がめでたいような論調の報道を繰り広げていました。下は「中長期の経済財政に関する試算」から 国・地方のPB対GDP比 のグラフを引用しています。

photo

おそらく、私は数多いエコノミストの中でも財政収支の黒字化に対して呑気に構えている方であることは確実でしょうし、プライマリバランスとは別に、ニッセイ基礎研究所のリポートでは消費との関係で税や社会保障負担の増加が好ましいかどうかの議論に一石を投じているように見えます。ですので、簡単にグラフを引用しつつ取り上げておきたいと思います。

photo

上のグラフは、ニッセイ基礎研究所のリポートから 所得税額と税額割合の推移 を引用しています。一見して理解できるように、リーマン・ショック直後の2009年度を底にして、所得税額もその税率も上昇していることが見て取れます。しかも、これはグラフの描き方次第ではありますが、税率の上昇に従って、所得とは独立に、所得税額が増加しているように見えます。ようするに、リーマン・ショック以降の15年ほどの間、賃金や所得はそれほど増加していない一方で、税率が上昇して所得税額が増加している可能性があるわけです。

photo

続いて、上のグラフは、ニッセイ基礎研究所のリポートから 税額増加の要因分解(2010年→2023年) を引用しています。対象期間に所得税額は約5兆円増加していますが、この5兆円の変化に対する寄与で見て、給与総額変化要因が半分の2.5兆円を占めるものの、他方で、給与階級別の税額割合変化要因が1.3兆円、給与階級構成比変化要因が1.1兆円との試算結果が示されています。5兆円に上る税額増加の半分は賃金や所得の増加ですが、残り半分は税額割合の変化、すなわち、広い意味での税率の上昇ということです。この所得税額の増加は、プライマリバランスが黒字化に向かっている要因のひとつであることは明らかです。
したがって、ニッセイ基礎研究所のリポートでは、「名目所得の増加によってより高い税率が適用される課税所得区分に移行することで、実質的な増税となる『ブラケットクリープ』が生じている可能性」を指摘し、消費の回復のための実質可処分所得の増加が必要であり、そのためには、ブラケットクリープへの対応が求められる、と結論しています。
賃金がようやく上昇し始めたとはいえ、その分だけ、というか、ひょっとしたら、それ以上に、所得税や社会保障負担が増加したのでは消費の活性化は望めません。消費を犠牲にしたプライマリバランスの改善がどこまでめでたいか、必要か、についてはしっかりと議論する必要があります。

| | コメント (0)

2025年1月21日 (火)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し2025年1月改訂版」やいかに?

やや旧聞に属するトピックながら、先週1月17日に国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し2025年1月改訂版」World Economic Outlook Update, January 2025 が公表されています。もりとん、pdfの全文リポートも利用可能です。成長率見通しの総括表は以下の通りです。

photo

見れば明らかですが、世界経済の成長率見通しは2025年と2026年の両年とも+3.3%と見込まれていますが、2000年から2019年の20年間の平均である+3.7%をやや下回ります。しかも、短期的なリスクはまちまちである一方で、中期的なリスクは下方にある "Medium-term risks to the baseline are tilted to the downside, while the near-term outlook is characterized by divergent risks." と指摘しています。日本経済は昨年2024年にマイナス成長を記録した後、今年2025年+1.1%成長とリバウンドし、来年2026年の成長も+0.8%と潜在成長率近傍を見込んでいます。

| | コメント (0)

2025年1月20日 (月)

ふた月連続で前月比プラスとなり基調判断が上方修正された2024年11月の機械受注

本日、内閣府から昨年2024年11月の機械受注が公表されています。機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から▲0.7%減の8520億円と、3か月連続の前月比減少を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

11月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比+3.4%=内閣府(ロイター予測: -0.4%)
内閣府が20日に発表した11月機械受注統計によると、設備投資の先行指標である船舶・電力を除いた民需の受注額(季節調整値)は、前月比3.4%増となった。2カ月連続の増加。ロイターの事前予測調査では前月比0.4%減と予想されており、結果はこれを上回った。
前年比では10.3%増だった。
内閣府は、機械受注の判断を「持ち直しの動きがみられる」に上方修正した。
機械受注統計は機械メーカーの受注した設備用機械について毎月の受注実績を調査したもの。設備投資の先行指標として注目されている。

やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

photo


まず、引用した記事にもある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比△0.4%減、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも同様に▲0.3%減でしたので、実績の+3.4%は明らかに上振れした印象です。ただ、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスのレンジ上限は+8.0%増でしたので軽くレンジ内ということはいえます。4か月ぶりの前月比プラスながら、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から「持ち直しの動きがみられる」と、「足踏み」を削除して半ノッチ上方修正しています。7か月ぶりの上方修正だと思います。内閣府の報告によれば、製造業でも、非製造業(除船・電)でも、前月比はプラスであり、前月比で増加したのは17業種の中で、化学工業(+71.4%増)、情報通信機械(+47.4%増)などの7業種であり、他方、減少は10業種となっています。内閣府の以前の報告によれば、10~12月期の見通しは季節調整済みの系列による前期比で+5.7%と集計されており、この見通しは達成されるかどうか、ビミョーなところです。振れの大きな指標ですので、何とも先行きは見通せません。ただ、先行きリスクは下方に厚いと私は考えており、特に、次の日銀金融政策決定会合では金利引上げが予想されており、昨年2024年の利上げの影響も同時にラグを伴って現れる可能性が十分あります。すでに、住宅ローン金利が上昇しているのは広く報じられている通りです。
ただ、さらに大きな謎は、計画段階では先週12月13日に公表された日銀短観などのソフトデータで示されている企業マインドとしての投資意欲は底堅い一方で、実際に設備投資が実行されるに至っておらず、したがって、GDP統計や本日公表された機械受注などには一向に現れていない点です。すなわち、投資マインドと実績の乖離が気にかかります。乖離の理由について、「先行き不透明感」で片付けるのは忍びなく、私は十分には理解できていません。これだけ人口減少による人手不足が続いている中で、労働に代替する資本ストック増加のための設備投資の伸びもなくそのためにDXやGXが進まないとすれば、日本企業は大丈夫なのかどうか大きな不安が残ります。

| | コメント (0)

2025年1月19日 (日)

大学入学共通テストが終了する

photo

昨日から実施されていた大学入学共通テストが本日で終了しました。
現在の少子化が進めば、そう遠くない将来には受験生の人数が大学入学定員を下回って、進学先さえ選り好みしなければ、全員が大学に進学できるという大学全入制の時代も来ることとは思います。でも、それでも譲れない進学希望先はあるのでしょうから、全員の希望がかなうこともありませんし、何より、現時点では全員大学入学が出来るわけではありません。したがって、悔いのないように実力を出し切ることを私は希望します。願わくは、あるいは、機会があれば、立命館大学経済学部の私のゼミに来られんことを願っております。

がんばれ大学受験生!

| | コメント (0)

2025年1月18日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ヨハン・ノルベリ『資本主義が人類最高の発明である』(NewsPicksパブリッシング)は、ほぼ無条件に現時点の資本主義がベストであるというパングロシアンな見方を提供しています。今井むつみ『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)では、主としてビジネスの場でのコミュニケーションを対象として、いかに相手に伝えるか、さらに進んで、いかに相手から自分に伝えさせるか、について考えています。万城目学『六月のぶりぶりぎっちょう』(文藝春秋)は、直木賞を受賞した『八月の御所グラウンド』と同じテイスト、シリーズの直木賞受賞後第1作であり、本能寺の変を現代に引き直した解釈を試みています。結城真一郎『難問の多い料理店』(集英社)では、六本木にあるビルの3階のゴースト・レストランが舞台で、そのオーナーが風変わりな注文を受けて配達員を使って調査して謎解きを試みます。小谷賢『教養としてのインテリジェンス』(日経ビジネス文庫)は、そもそもインテリジェンスとは何なのか、そして、世界各国のインテリジェンス活動を概観し、最後の章でインテリジェンスの歴史を後付けています。山本文緒『無人島のふたり』(新潮文庫)は、直木賞作家がステージ4bの膵臓がんによる余命告知を受けてから亡くなる直前までの日記です。
今年の新刊書読書は年が明けて先週までに10冊を読んでレビューし、本日の6冊も合わせて16冊となります。なお、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。加えて、有栖川有栖『こうして誰もいなくなった』(角川書店)も読んでいて、Facebookなどでレビューしていますが、新刊書ではないので本日の読書感想文には含めていません。

photo

まず、ヨハン・ノルベリ『資本主義が人類最高の発明である』(NewsPicksパブリッシング)を読みました。著者は、スウェーデン生まれの歴史学者であり、米国のやや保守的なケイトー研究所のシニアフェローを務めています。本書は、まあ、単純化していえば資本主義礼賛の書なのですが、ほぼ無条件に現時点の資本主義がベストであるというパングロシアンな見方を提供しています。通常、左派リベラルは資本主義の欠陥を指摘し、資本主義に対して別の改良的な方向、例えば、社会主義や社会民主主義の色濃い福祉制度とか、を持ち込もうとするのに対して、本書は現時点での問題は逆に資本主義が徹底されていない点、特に、自由がまだ十分「足りていない」点に求めます。ですので、各章において、脱成長、トップ1%の富裕層への富と所得の集中、それに基づく格差の弊害、などなどを全面否定し、著者本人はそういった左派リベラルな議論を論破しているように感じているのだろうと思います。エコノミストとしての私の観点から、特に目を引いたのはマッツカート教授らの政府のプロジェクトベースの産業政策や経済成長に対する批判が強烈であるのの対して、縁故資本主義=クローニー・キャピタリズムに対する態度がイマイチ不明でした。日本でも安倍政権時のいわゆる「一強」時代に、お友達に有利に取り計らう縁故主義が広がりました。私なんぞから見たら、こういった縁故主義は自由をタップリ必要とする資本主義に大いに反しているように見えており、したがって、本書で称賛しているタイプの資本主義とは違うと考えるべきです。いずれにせよ、マイクロな経済では、市場における自由な価格形成に基づく資源配分がもっとも効率的であって、厚生経済学の定理を満たすわけですが、ケインズ卿が指摘したように、所得と富の配分には不十分な可能性があり、さらに、非自発的な失業を防ぐことが出来ません。ですので、所有権の確立とかの単なるルールの設定だけではなく、経済社会の厚生向上のための役割を政府が担う、そして、その政府の役割は時とともに拡大している、というのは歴史的に現実として観察される流れであろうかという気はします。加えて、資本主義における取引はすべての参加主体が平等であって、情報その他の格差ないことを前提にしていますが、世の中はそれほどモデル通りではありません。その意味で、やや現実離れした議論が展開されている、と感じた読者も決して少なくないと思います。最後に、私がとても強烈に疑問に感じたのは、歴史家が書いた本にしては、資本主義の先についてのビジョンが本書では欠けている点です。歴史的にいろんな発展段階を経て現在の資本主義が存在することは明らかなのですが、その資本主義の先に何があるかを考えようとしないのは知的な怠慢であろうという気がします。

photo

次に、今井むつみ『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)を読みました。著者は、慶應義塾大学環境情報学部教授であり、ご専門は認知科学、言語心理学、発達心理学だそうです。本書では、主としてビジネスの場でのコミュニケーションを対象として、いかに相手に伝えるか、さらに進んで、いかに相手から自分に伝えさせるか、について考えています。冒頭にある「話せばわかる」というのは、5.15事件の際の犬養総理大臣の言葉として有名ですが、残念ながら本書ではそういった言及はありません。それはともかく、本書では、うまく伝わらない場合、伝え方を工夫したり、説明を換えたり、何度も繰り返したりしてもうまく伝わらない、と指摘します。どうしてかというと、それぞれの人が独自の「知識や思考の枠組み(スキーマ)」を持っているためであり、話した内容がそのまま脳にインプットされるわけではなく、このスキーマに沿った個々人の解釈がなされている可能性があるから、ということだそうです。加えて、インプットされた後でも人間の記憶とはあやふやなもので、忘れることはもちろんとしても、記憶が書き換えられることも少なくないといいます。人間の記憶容量はわずかに1GBというエピソードも本書に入っています。もちろん、インプットの際の認知バイアスはいっぱいあって、情報を受け取る際にすでにバイアスがかかっている上に、さらに記憶している間にますます情報が本来のものから離れていく可能性すらあるわけです。ですので、本書の後半の章、特に4章では、「コミュニケーションの達人」の特徴をいくつか上げて、伝える、あるいは知識を共有する方法について論じています。そのあたりは読んでみてのお楽しみですが、心の論理やメタ認知がキーワードとなります。また、コチラからアチラへ伝えるだけでなく、聞く耳を持つ、というのは重要な指摘だった気がします。ということで、最後に私の感想です。私は教師ですから学生諸君に知識や何やを伝えるのが職業です。役所に勤める公務員であった当時でも、エコノミストのひとつの重要な役割は伝えることです。総務省統計局の課長職にあったころには毎月の統計公表時に記者発表をしていたりしました。記者発表とか、大学の授業とかは、そもそも、聞く側で十分意識を高めて知識や情報を吸収する意欲に満ち溢れています。当然です。私は記者発表や授業で伝えるのが仕事ですが、他方で、聴衆の方も私の話を聞いて、記事にしたり、試験やリポートに備えるのが仕事なわけです。ですので、それほど伝えるのに苦労した覚えはありません。今の教師の職業では、ちゃんと授業を聞いて理解しないと学生が単位を落とすというシステムです。ただ、そう遠くもない将来に引退するわけで、いろいろと押さえておくべきポイントはあった気がします。

photo

次に、万城目学『六月のぶりぶりぎっちょう』(文藝春秋)を読みました。著者は、直木賞も受賞した小説家です。私の後輩筋に当たる京都大学の卒業生です。本書は直木賞を受賞した『八月の御所グラウンド』と同じテイスト、シリーズの直木賞受賞後第1作であり、本能寺の変を現代に引き直した解釈を試みています。収録されているのは、短編より少し長めの中編2話であり、第1話は「三月の局騒ぎ」、第2話がタイトル作の「六月のぶりぶりぎっちょう」となります。第1話の方にはこの作者らしいファンタジーの要素はありません。主人公は大学に進学して京都で下宿するようになり、北白川にある女子学生寮に入って、そこが舞台となります。なお、女子寮は特定の大学の寮ではなく、いくつかの大学の女学生が住んでいるという設定です。この寮のいくつかの名称が京都らしい雰囲気を出しています。すなわち、東西2棟の建物は中庭に植えられているの植物から「薔薇壺」と「棕櫚壺」と呼ばれ、部屋は「局」と名付けられ、最後に、寮生は「女御(にょご)」です。1年生で入学し、寮でも最初は3人部屋から始まって、2年生で2人部屋となり、そして上級生となって1人部屋となりますが、最後の4年生の時、留年していて主人公よりもさらに上級生のキヨと相部屋になります。このキヨが謎の存在で正体不明なのですが、相部屋になった期間はわずかで、3月末にはキヨは退寮してしまいます。大学を卒業して就職し、結婚して出産した主人公が、全国高校駅伝に出場する娘に付き添って京都に来ます。ここで、かすかながら『八月の御所グラウンド』に収録されていた「十二月の都大路上下ル」とリンクします。本書の後半の作品がタイトル作となります。テーマは壮大にも本能寺の変の謎を解き明かす、というか、本能寺の変は明智光長が織田信長に対して起こした謀反ですから、まあ、実行犯については明らかなのですが、誰が明智光秀を本能寺の変に走らせたか、あるいは、明智光秀の行動の動機の謎がテーマとなる小説です。といっても、謎解きのミステリではありません。主人公は女子校の歴史の女性教師である滝川先生です。実に、『鹿男あをによし』と同じ設定で、大阪女学館、京都女学館、奈良女学館の姉妹校3校による研究発表会の大和会に出席するために、同僚の外国人女性教師と大阪から京都にやってきます。『鹿男あをによし』では同じ姉妹校3校による剣道の試合の大和杯ではなかったかと記憶していますが、本書では研究発表の研修会の大和会となります。大和会の前日に京都観光を楽しむために、滝川先生たちが京都に着くと京都女学館のトーキチロー先生が迎えてくれます。大和会前日の観光を楽しんだ後、実に現代版にアレンジされた「本能寺の変」に滝川先生は巻き込まれてしまうわけです。そこからは、読んでみてのお楽しみです。独特の万城目ワールドによるファンタジーが展開します。なお、タイトルにある「ぶりぶりぎっちょう」とは平安時代の貴族の遊びで、蹴鞠をサッカーに例えることが許されるのであれば、ぶりぶりぎっちょうは馬に乗らないポロみたいなものです。ただ、私は「ぶりぶり」の付かない「ぎっちょう」と記憶していましたし、「毬杖」という漢字もあります。関西の方言かもしれませんが、左利きのことを「ぎっちょ」といいますが、その語源であると私は認識しています。最後に、直木賞受賞の前作と本作に収録された4話のタイトルを並べると、「十二月の都大路上下ル」、「八月の御所グラウンド」、「三月の局騒ぎ」、「六月のぶりぶりぎっちょう」となります。1~12月のうち、3月、6月、8月、12月はタイトルに入りました。残りの月もタイトルに入るような小説が継続して公刊されるんでしょうか。

photo

次に、結城真一郎『難問の多い料理店』(集英社)を読みました。著者は、小説家なのですが、私も読んだ前作の『#真相をお話しします』がよくはやったのが記憶に新しいところです。タイトルは宮沢賢治『注文の多い料理店』へのオマージュであることは明らかでしょう。一風変わった料理名のタイトルを持つ6話の短編からなる短編集です。各話は一見独立しているようで、実は密接にリンクしていたりします。東京の繁華街のひとつである六本木にあるビルの3階のゴースト・レストランが舞台で、そのオーナーが風変わりな注文を受けて配達員を使って調査して謎解きを試みます。ゴースト・レストランとは、客席を持たずデリバリーのみで料理を提供するレストランであり、オーナーは見惚れるほどの絶世の美女ならぬイケメンです。ここにデリバリーのためにウーバーイーツならぬビーバーイーツの配達員が出入りし、大学生だったり、会社が倒産した中年サラリーマンだったり、シングルマザーだったりしますが、このビーバーイーツの配達員が視点を提供して物語を語ります。各話の冒頭で、決まって、オーナーはビーバーイーツの配達員に高額のアルバイトをオファーします。客から頼まれた料理を届けるついでに、ある住所にUSBメモリを届けてほしいというもので、実に怪しいことに、それだけで即金1万円というオファーです。まあ、それを引き受けないとストーリーが始まらないので、お約束でビーバーイーツの配達員が引き受けると、追加ミッションが出るわけです。すなわち、極めて特徴的な組合せの注文が入ると、それは謎解き、あるいは、そのための調査の依頼であり、その特徴的な組合せの料理を届ける際に、ビーバーイーツの配達員が注文主から依頼の詳細を聞き取ってオーナーに報告し調査が始まります。6話の短編の調査は、第1話は、大学生の下宿アパートから出火し、その部屋から大学生の元カノの焼死体が発見され、大学生の父親から調査依頼を受けます。第2話では、交通事故で死んだ夫の指が2本欠損していた点に関して、妻から調査を依頼されます。第3話では、ひきこもり状態の妹のアパートの部屋に空き巣が入り、その真相につき空き巣被害者の兄から調査依頼を受けます。その兄は高給のエリート職にあります。第4話は、別のデリバリーで注文した配達の際に10回連続で別のものが入っていた謎、しかも、同じ配達員が10回連続で配達した謎解きの依頼です。第5話では、かつて孤独死があって今は空室になっている部屋に連続して置き配が届いたという謎の調査を同じ階の住人から受けます。最後の第6話では、マンションの一室から忽然と姿を消した住人の行方について、別のビーバーイーツ配達員から依頼を受けます。繰り返しになりますが、各短編はビミョーにリンクしています。そのリンクは謎解きの結果とともに読んでみてのお楽しみです。そして、謎解きとしてはタイトルのような「難問」ではなく、気の利いた読者であれば簡単に真相にたどり着けます。オーナーやビーバーイーツ配達員以外の別の情報源からオーナーが詳細な情報の提供を受けるのも、ミステリの観点からはやや反則気味だったりもします。ですので、ビーバーイーツの配達員の来歴とか、オーナーの調査結果の伝え方なんかが読ませどころではないか、という気がします。

photo

次に、小谷賢『教養としてのインテリジェンス』(日経ビジネス文庫)を読みました。著者は、日本大学危機管理学部教授です。本書は3章構成となっており、第1章でそもそもインテリジェンスとは何なのかを考え、第2章で世界各国のインテリジェンス活動を概観し、最後の第3章でインテリジェンスの歴史を後付けています。インテリジェンスというと、007のようなスパイ活動、情報収集と破壊工作などの活動を思い浮かべる場合が少なくありません。しかし、007のように警察や軍隊やといった広い意味での政府、あるいは、少なくとも公的部門だけがインテリジェンス活動を行っているわけではなく、当然、企業においてもライバル企業の動向や政府の政策方針などに関する情報収集を行っています。その昔に、銀行などでいわゆるMOF担が大蔵省・財務省の情報収集に当たっていたことは広く知られている通りです。でも、本書では政府の政策決定に必要な情報収集活動のみを取り上げています。冒頭に、本書ではインテリジェンスの4類型を示しています。すなわち、公開情報による Open Source Intelligence=オシント、人的接触による Human Intelligence=ヒューミントについては、従来からの手法とした上で、衛星画像や航空写真による Image Intelligence=イミント、そして、イミントと地理空間情報から作成される Geographical Intelligence=ジオイントです。私は外交官として在外公館で勤務していましたので、多少なりともインテリジェンス活動の経験ありといえるかもしれませんが、最後のジオイントは知りませんでした。そして、私が知る限りでは、イミントと似たインテリジェンスで Signal Intellijence=シギントというのもあったように思います。それはともかく、私はもともとがエコノミストであり、経済情報はほぼほぼすべて公開情報として入手できます。ちょうど、外交官として大使館に勤務していた時期はGATTウルグアイ・ラウンド交渉の最終盤に当たり、ドンケル事務局長が包括関税化を柱とする提案、いわゆるドンケル案を示した時期ですので、当然ながら、現地の新聞やテレビなどから公開情報をせっせと収集していた記憶があります。米国や西欧などのもっと国際的に影響力の大きい国であれば、公開情報に加えて非公開情報も日本の政策決定にとって必要であったのだろうと思いますが、私が赴任していたような南米の小国はそれほど重視されていなかったような気がしました。経済情報に関しては現地で収集したり、あるいは、日本から発信することが重要であり、007ジェームス・ボンドが映画で繰り広げているような派手派手しい破壊活動めいたことは関係ありません。少なくとも、私はやっていません。また、収集された情報は適切に分析される必要があり、収集と分析を含めてインテリジェンス活動と考えるべきです。収集された情報が不足していたり、間違っていたりすれば正しい政策判断ができないのはもちろんですが、情報を正しく分析しないとやっぱり判断を間違えます。その意味で、情報収集+分析というトータルのインテリジェンスが、国家の戦術や政策を策定する上で必要ですし、本書のスコープ外ながら、企業活動にも同じことがいえると思います。

photo

次に、山本文緒『無人島のふたり』(新潮文庫)を読みました。著者は、『プラナリア』により直木賞を受賞した小説家ですが、2021年に膵臓がんで亡くなっています。私はこの作者の作品では『自転しながら公転する』が一番好きだったりします。本書は、作者がステージ4bの膵臓がんによる余命告知を受けてから亡くなる直前までの日記です。もちろん、「ふたり」とはご夫婦を意味します。加えて、まるで大波にご夫婦がさらわれて無人島に流されたような心境をタイトルに込めています。第1章最初の5月24日の日記に先立つ扉で「2021年4月、私は突然膵臓がんと診断され、そのとき既にステージは4bだった。」と記されています。そして、抗がん剤によってがんの進行を遅らせる治療を早々に諦めて、緩和ケアに進んで作者が死を迎えたことは知られている通りです。読み始めから、私はかなり大きなショックを感じました。私自身はもう60歳代半ばですから、作者が死を迎えた年齢を上回っています。本書では、がんの進行に伴う痛みや発熱や倦怠感などの闘病記ならぬ、「逃病記」と作者は記していますが、そういった病気関係だけではなく、これまでの人生の道のりを振り返り、素直な心の動き、苦しい胸の内が、さすがの直木賞作家による文章表現で、実に切々と迫ってきます。特に、最初の方の「うまく死ねますように。」の言葉が私の心に響きました。おそらく、赤裸々に事実を丸ごと表現していたり、心情をそのままストレートに綴っているわけではないと思います。たぶん、時間がない、残された時間があまりにも少ない、というのがもっとも切実な実感なんだろうと思いますが、決して、誰かを、あるいは、何かを恨んだりする強い表現があるわけではなく、他方で、決して淡々と時間の経過を記しているだけではなく、時間がないながらも、よく考えられた表現が展開されています。あるいは、この作家さんクラスになると自然とそういった表現ができるのかもしれません。まったく別の観点で、実は、私の父親はいわゆる「ピンピン、コロリ」の死に方でした。今の今まで元気いっぱいだったにもかかわらず、突然死んだ、という感じだったそうです。ですので、私は父親の死に目には遭えませんでした。そういった死に方に比べて、ピンポイントではあり得ないにしても、本書のような一定の確率分布に従った余命宣告を受けて、徐々に病魔に侵されて衰弱してゆく死に方と、ついつい並べて考えてしまいました。どのような死に方であれ、死は悲しいことですが、「死と税金は避けられない」という表現もあります。本書を読んで、さすがの文章表現を味わいつつも、死について深く考えさせられる読書でした。

| | コメント (0)

2025年1月17日 (金)

世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書 2025」やいかに?

1月20日から始まるダボス会議を前に、世界経済フォーラム(WEF)から、昨日1月15日、「グローバルリスク報告書 2025」Global Risks Report 2025 が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。まず、世界経済フォーラムのサイトからリポートの要旨を引用すると以下のとおりです。

digest
The 20th edition of the Global Risks Report 2025 reveals an increasingly fractured global landscape, where escalating geopolitical, environmental, societal and technological challenges threaten stability and progress. This edition presents the findings of the Global Risks Perception Survey 2024-2025 (GRPS), which captures insights from over 900 experts worldwide. The report analyses global risks through three timeframes to support decision-makers in balancing current crises and longer-term priorities.

続いて、digest では "three timeframes" といっていますが、リポート p.10 から Relative severity of global risks over a 2- and 10-year period のチャートを引用すると以下の通りです。

photo

見れば判ると思いますが、縦軸が "Long-term severity (10 years)"、横軸が "Short-term severity (2 years)" となっています。おおむね、正の相関を示していて左下から右上に分布していますが、"Extreme weather events" や "Biodiversity loss and ecosystem collapse" や "Critical change to Earth systems" といった気候変動などをはじめとする地球環境問題が長期のリスクで、"Misinformation and disinformation" や "State-based armed conflict" や "Societal polarization" といった地政学的、あるいは、政治的なリスクが短期のリスクになっているようです。
グラフは引用しませんが、リポート p.7 の Current Global Risk Landscape のグラフでは、"State-based armed conflict" が23%、"Extreme weather events" が14%、"Geoeconomic confrontation" が8%でトップスリーを占めています。私は専門外なので、"State-based armed conflict" と "Geoeconomic confrontation" の違いを正確には把握できていません。ただ、昨年2024年のリポート p.13 Current risk landscape には "State-based armed conflict" なんて項目はそもそも現れず、66%の "Extreme weather" に次いで、"AI-generated misinformation and disinformation" が53%となっていたりしました。逆に、今年のリポートでは、"Adverse outcomes of AI technologies" が13番目にまで後退しています。

いずれにせよ、昨年から今年にかけて、やや仮想的だったAIの脅威が大きく後退し、極めて現実的な国家間の武力衝突が大きくクローズアップされているのは確かです。

| | コメント (0)

2025年1月16日 (木)

コメ価格の影響で国内物価の高止まりが続く2024年12月の企業物価指数(PPI)

本日、日銀から昨年2024年12月の企業物価 (PPI) が公表されています。統計のヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+3.8%の上昇となり、10月統計の+3.7%から先月11月統計の+3.8%に上昇率が加速し、12月統計でも上昇率は横ばいでした。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数12月3.8%上昇 コメ高止まりで
日銀が16日に発表した2024年12月の企業物価指数(速報値、20年平均=100)は124.8と前年同月比で3.8%上昇し、プラス幅は前月と同じだった。民間予測の中央値(3.7%上昇)より0.1ポイント高かった。コメを含む農林水産物の価格上昇の影響が出た。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに消費者物価指数(CPI)に影響を与える。今回、11月分の前年同月比上昇率は3.7%から3.8%に上方修正になった。
12月分の内訳をみると、農林水産物は前年同月比で31.8%上昇し、11月(29.8%上昇)から2.0ポイント伸び率が拡大した。コメの高騰が引き続き押し上げ要因になったが、上昇ペースは昨秋ごろに比べ鈍化している。
電力・都市ガス・水道は12.9%上昇し、11月(9.3%上昇)から伸び率が3.6ポイント拡大した。再生可能エネルギーの普及のため国が電気代に上乗せしている再エネ賦課金が24年5月から引き上げられたことが前年同月比プラスに寄与した。前月比では、12月検針分から電気・ガス代の補助金が一時停止したことも上昇につながった。
24年の企業物価指数は前年比2.3%上昇と23年(4.4%上昇)から伸び率が2.1ポイント縮小した。銅やアルミニウム価格の上昇により非鉄金属は12.2%上昇し、押し上げに寄与した。飲食料品も原材料や包装資材などの上昇分を価格に転嫁する動きが続き、2.6%上昇した。

価格動向が注目される中で、かなり長くなってしまいましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

photo

まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+3.7%、予測レンジの上限で+3.9%と見込まれていましたので、実績の+3.8%はレンジ上限は超えないものの、やや上振れた印象です。国内物価の上昇幅が拡大したした要因は、引用した記事にもある通り、コメなどの農林水産物の価格上昇であり、農林水産物は前年同月比で見て11月の+29.8%をさらに超えて12月は何と+31.8%の上昇を記録しています。ただ、先々月10月は年度始まりの4月に次いで価格改定の多い月で、その流れを直近の12月統計でも引き継がれている点は見逃せません。また、引用した記事にもある通り、2024年5月からの再生可能エネルギー発電促進賦課金が引き上げられ、あるいは、政府による「酷暑乗り切り緊急支援」による電気・ガスの補助金は11月検針分で終了し、などといった政府要因で物価を押し上げている点は見逃せません。ただ、電気・ガスの補助金は2月検針分から再開されます。また、円安の流れは12月には一時的にストップしています。すなわち、前月比で見て、10月には+4.3%、11月にも+2.8%の対ドルで円安が進んだものの、12月はほぼ横ばいで▲0.1%となっています。また、私自身が詳しくないので、エネルギー価格の参考として、日本総研「原油市場展望」(2025年1月)を見ておくと、12月下旬から2025年1月にかけては、一時70ドル台半ばに上昇していたものの、米国やカナダ等のOPECプラス非加盟国が供給を増加させることで下押し圧力が優勢になり、「原油価格は早晩60ドル台半ばに向けて下落する見通し。」ということになっています。ただ、米国のトランプ次期政権の環境・エネルギー政策にも注目すべきであることはいうまでもありません。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず繰り返しになりますが、農林水産物は11月の+29.8%から12月は+31.8%と上昇幅を拡大しています。ただ、飲食料品の上昇率は11月の+2.1%から12月は+1.9%と比較的落ち着いた動きとなっています。他方で、電力・都市ガス・水道が11月の+9.3%から12月は+12.9%と上昇幅を加速させ、2ケタ上昇となっています。ほかに、銅市況の高騰などにより非鉄金属も+12.6%と2ケタ上昇を示しています。

| | コメント (0)

2025年1月15日 (水)

帝国データバンクによるカレーライス物価指数やいかに?

帝国データバンクでは毎月カレーライス物価指数を調査しています。昨年2024年11月の指数が先週1月10日に公表されています。昨年秋口からのコメの価格高騰は、どれくらい影響したのか、簡単に取り上げておきます。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の要旨を引用すると以下の2点です。

調査結果(要旨)
  1. 11月の「カレーライス物価」は1食377円、8カ月連続で最高値 前年に比べ2割高
  2. 12月は1食380円へ到達する可能性 近年例を見ない記録的な価格上昇圧力が続く

ということで、まず、帝国データバンクのサイトからカレー全体の価格指数を表す「カレーライス物価」と「指数」伸び率 のグラフを引用すると以下の通りです。

photo

グラフには、帝国データバンクによるカレーライス物価と総務省統計局による消費者物価の両方の指数が折れ線でプロットされています。いずれも2020年基準です。2023年年央くらいまでは同じような推移を示していて、大きな乖離は生じていなかったのですが、ここ1年余りでカレーライス物価指数が消費者物価を離れて上昇し始め、昨年2024年秋口あたりからのコメの価格高騰により乖離が大きくなっているのが見て取れます。特に棒グラフでプロットされているカレーライス1食あたりの調理コストも、ここ数か月で跳ね上がっています。

photo

続いて、帝国データバンクのサイトから カレーライス物価を構成する費用内訳 を引用すると以下の通りです。4つの構成要素から成っていて、肉や野菜といった具材も+2-3%の上昇を示していますが、何といってもコメの価格高騰を受けてごはん(ライス)の価格上昇が大きいのが見て取れます。

私はその昔から、スーパーの野菜・果物や肉類、あるいは、魚介類などの食料品売場を定期的に見て回って価格を確認することを習慣にしているのですが、キュウリ1本が80円、キャベツ1玉500円なんてのを見ると、どうしても薄給の公務員や教員生活が長いもので、高価格にひるんでしまいます。こういった食料品の価格高騰は所得の格差の経済的影響をさらに大きくしかねません。

| | コメント (0)

2025年1月14日 (火)

2か月連続で上昇した2024年12月の景気ウォッチャーと大きな黒字を計上した11月の経常収支

本日、内閣府から昨年2024年12月の景気ウォッチャーが、また、財務省から11月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲0.3ポイント低下の47.5となった一方で、先行き判断DIも𥬡.4ポイント低下の48.3を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+3兆3525億円の大きな黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから記事を引用すると以下の通りです。

街角景気12月は0.5ポイント上昇、旅行関連や季節商品が押し上げ
内閣府が14日に発表した12月の景気ウオッチャー調査は現状判断DIが49.9と、前月から0.5ポイント上昇した。インバウンドなどの観光関連が引き続き好調で、冬物衣料や暖房器具など季節商品も押し上げに寄与した。エネルギー価格の上昇などへの懸念もあり、先行きは小幅な低下が見込まれている。
現状判断DIは2カ月連続でプラスとなったが、指数の水準は必ずしも高くなく、大きな基調は変わっていない。内閣府は景気判断を「緩やかな回復基調が続いている」で据え置いた。
指数を構成する3部門では、家計動向関連と企業動向関連DIが0.6ポイント上昇した一方、雇用関連が0.2ポイント低下した。回答者からは「駅などの交通拠点の店舗では売り上げが前年を大きく上回っている」(東海=コンビニ)、「ボーナス支給時期を契機に販売量が増加」(四国=家電量販店)といった声が出ていた。
一方、食品や生活必需品の値上がりが消費者の節約志向や商品選別を促しているもようだ。「ミニトマト、キャベツ、それ以外も全体的に今までにないような価格高騰で一般の客は手が出ない状況」(北関東=青果店)との報告もあった。
2-3カ月先の景気の先行きに対する判断DIは前月から0.6ポイント低下の48.8と、2カ月ぶりに低下した。ガソリンや燃料油の値上げ、円安による物価上昇の加速などに懸念が出ている。
先行きでは、米国の大統領交代について「政策や関税の見直しによる影響を考えると景気はやや悪くなる」(中国=一般機械器具製造業)との見方があった。「物価高騰による消費減やインフルエンザなどの感染症による予約キャンセルが増加しており、売上減が見込まれる」(九州=一般レストラン)との声も聞かれた。
内閣府は先行きについて「価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」とした。
調査期間は12月25日から31日。
経常収支11月は3.3兆円の黒字、3カ月ぶり高水準 貿易黒字転換で
財務省が14日発表した国際収支状況速報によると、11月の経常収支は3兆3525億円の黒字で3カ月ぶりの高水準となった。貿易収支が黒字に転換したほか、第一次所得収支の黒字幅が拡大した。
貿易・サービス収支は3366億円の黒字、うち貿易収支は979億円で5カ月ぶりの黒字となった。半導体等製造装置や非鉄金属の輸出が増加した一方、原粗油や半導体等電子部品の減少で輸入が落ち込んだ。サービス収支は、訪日客増加に伴う旅行収支の黒字拡大により黒字幅が広がった。
第一次所得収支は3兆4373億円の黒字、直接投資収益の黒字幅が拡大した。為替の円安も、海外収益を円換算する際の押し上げに寄与した。第二次所得収支は4214億円の赤字だった。
エコノミストからは、今後の財輸出を懸念する声が出ている。野村証券のエコノミスト、伊藤勇輝氏は「旅行収支の回復は財輸出・サービス収支の黒字化の要因だがペースは鈍い。先行きも、日本の対米輸出はトランプ次期米大統領が表明している関税の影響を受けると、財輸出全体の回復を抑える。中国の内需刺激策が日本の対中輸出につながるのかも不透明だ」と指摘する。
ただ、経常収支は今後も第一次所得収支に支えられ黒字基調を保つとの見方が大勢。伊藤氏は「第一次収支が今後とも日本の海外での『稼ぐ力』になってくると思う。経常収支全体でみると黒字基調が続き、赤字に転じることはないだろう」とみている。
経常収支は2023年1月に2兆0014億円の赤字を記録した後は、円安と食料品、エネルギー、資源価格の高騰などによる貿易赤字にもかかわらず、海外への証券投資や直接投資からの収入に支えられ黒字が続いている

やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

photo

景気ウォッチャーの現状判断DIは、直近では昨年2024年10月統計で47.5となった後、11月統計では49.4、本日公表の12月統計でも49.9と2か月連続の上昇となっています。基本的には、家計動向関連、企業動向関連ともに前月から現状判断DIが+0.6ポイント上昇しています。ただし、家計動向関連のうち飲食関連が前月から▲4.0ポイントと大きく低下しています。先行き判断DIでも家計動向関連のうちの飲食関連は▲3.6ポイントの低下を示しています。基本的には、物価高の影響と私は受け止めています。特に、飲食業ではコメ価格の高騰が大きな影響を及ぼしていると考えるべきです。加えて、食料品価格の値上がりも激しく、例えば、どこかの報道で見かけましたが、キャベツ1玉500円といわれてしまうと、飲食関連はコストアップに苦しみます。また、企業動向関連については、現状判断DI、先行き判断DIともに製造業は前月差マイナスで、逆に、非製造業は前月差プラスとなっています。ただ、現状判断DIの水準は49.9と高くなっている点も見逃すべきではありません。長期的に平均すれば50を上回ることが少ない指標ですので、現在の水準は、マインドが決して悪い状態にあるわけではない点には注意が必要です。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「景気は、緩やかな回復基調が続いている」で据え置いています。先行きについては、価格上昇の懸念は大いに残っているものの、賃上げの浸透や定額減税、あるいは、年末ボーナス増額の効果がいかに実感されるかが焦点となりそうです。また、内閣府の調査結果の中から、家計動向関連のうちの飲食関連の見方に着目すると、「給料はなかなか上がらず、上がったとしても物価高で、ますます外食機会は減るとみている(北関東=一般レストラン)。」や「物価高騰による消費減やインフルエンザなどの感染症による予約キャンセルが増加しており、売上減が見込まれる(九州=一般レストラン)。」といったものが目につきました。

photo

続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。季節調整していない原系列の統計では、引用した記事にもあるように、貿易・サービス収支が3366億円の黒字を計上したようですが、私が確認したところ、季節調整済みの系列ではまだ赤字が続いています。ただ、1月統計や2月統計は中華圏の春節の時期次第で貿易・サービス収支が大きく振れますので、その点は注意が必要です。私が調べた範囲で、今年の春節は2月29日から2月4日までの8日間となっています。これまた、引用した記事にもある通り、日本の経常収支は第1次所得収支が巨大な黒字を計上していますので、貿易・サービス収支が赤字であっても経常収支が赤字となることはほぼほぼ考えられません。ですので、経常収支にせよ、貿易収支・サービスにせよ、たとえ赤字であっても何ら悲観する必要はありません。エネルギーや資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常収支や貿易収支が赤字であっても何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。

| | コメント (0)

2025年1月13日 (月)

成人の日に考える18歳の将来の選択肢

今日はいわずと知れた成人の日です。大学生にとって成人式はとても意義あるイベントです。ですので、祝日は無視して授業をすることの多い私の勤務校の立命館大学でもこの成人の日は授業はありません。ということで、成人の日にちなんで、先週1月6日、日本財団から18歳意識調査「第67回 -価値観・教育(地域間比較調査)-」報告書が明らかにされています。私の知りうる限り、この日本財団による18歳意識調査は1,000人のサンプルがほとんどだったのですが、今回の調査だけは各都道府県で男女50人ずつの合計4,700人とのやや大きなサンプルとなっています。そして、都道府県別のみならず、三大都市圏中心部、三大都市圏周辺部、地方圏中心部、地方圏周辺部のエリアに分けた調査結果が示されています。エリア分けは報告書 p.4 のテーブルの通りです。極めて大雑把にいって、首都圏と関西の京阪神と名古屋圏以外の多くは地方圏周辺部に分類されているように見えます。ただし、繰り返しになりますが、詳細なエリア分けは報告書 p.4 のテーブルをご覧下さい。私の住んでいるところは文句なしに地方圏周辺部です。
まず、大学教員として大学への進学予定が気にかかります。質問2で高校生に対して大学への進学予定を質問しています。見れば明らかなように、大学進学予定については男女の性別格差以上に地域間格差が大きい、との結果が示されています。三大都市圏中心部では男女を問わず85%ほどの高校生が大学進学を予定している一方で、地方圏中心部と地方圏周辺部では男女ともに60%台後半となっていて、20%ポイント近い差が見られます。そして、質問3で大学進学予定がない理由/しなかった理由について、いずれのエリアでも「学費が高い」と「できるだけ早く自分で稼いで生活したい」との回答がトップ3の理由に入っています。学費については文教政策で低減することが可能なだけに残念といわざるを得ません。
私が特に注目したのは、将来の選択肢に関するエリア別の格差が非常に大きい点です。下のグラフの特に上のパネルの質問11の最後の項目の「将来の選択肢が多い」ではエリアにより大きな格差が見られます。三大都市圏中心部では80%を超える一方で、私の住んでいるような地方圏周辺部ではその半分の40%も下回っています。質問12の価値観を問うた結果ではエリア別の差は決して大きくありませんが、価値観を離れてやや客観的ともいえる将来の選択肢については大きな格差があるわけです。

photo

18歳の時点で将来についての選択肢の幅が大きく異なり、自分の将来を見通せないのは国家として大きな損失につながりかねません。現在取り組まれているようなタイプの地方再生だけではなく、文教政策の観点からもさまざまな試みがなされることが必要です。

| | コメント (0)

2025年1月12日 (日)

法政大学多摩キャンパスで何が起こったのか?

広く報じられているように、一昨日の金曜日1月10日に法政大学多摩キャンパス社会学部の教室において、あろうことか授業中に韓国籍の大学生がハンマーを振り回して学生たちを殴打し後頭部や側頭部にケガを負わせるという傷害事件が発生しています。法政大学のサイトから重要なお知らせを引用すると以下の通りです。

本日多摩キャンパスで発生した事件について
1月10日午後3時40分ごろ、本学多摩キャンパス(東京都町田市)の社会学部の教室において、授業中に学生1名が他の学生に対して傷害を負わせる事件が発生しました。
負傷された8名の学生は、病院で治療を受け、全員入院の必要がないと診断されています。1日も早いご回復をお祈り申し上げます。被害にあわれた学生の保護者には、大学から連絡をしております。
本学といたしましては、被害にあわれた方々や、今回のことで不安を感じておられる学生や教職員のケアに取り組むとともに、警察の捜査に協力し、事態の把握に努め、キャンパスの安全を図ってまいります。
法政大学総長 廣瀬克哉

まず、ケガを負った学生諸君に対して、心からお見舞い申し上げるとともに、1日も早いご回復を祈念します。
読売新聞のサイトによれば、日本経済論の授業だったらしいです。はい、法政大学の授業は社会学部だったようですが、前任の長崎大学経済学部でも、現在勤務している立命館大学経済学部でも日本経済論は私の担当でした。私は定年退職して特任教授になりましたので、来年度から新任の先生がご担当下さることになっていますが、学部でも、大学院でも日本経済論は私が講義していました。ついでながら、どうでもいいことで、法政大学の廣瀬総長は私の中学・高校の同級生だったりします。
何がどうなっているのか、私にはサッパリ判りませんが、まったく痛ましい事件です。外国籍の学生が起こしたとはいえ、日本の経済社会の歪みのひとつの象徴なのかもしれない、と思わないでもありません。下の画像は、読売新聞のサイトから引用した教室の座席配置などです。

photo

| | コメント (0)

2025年1月11日 (土)

今週の読書は物価に関する経済書をはじめ計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、渡辺努『物価を考える』(日本経済新聞出版)は、2020年から始まった世界インフレの前段階の日本のデフレの原因から解き明かし、デフレとインフレの弊害や異次元緩和の失敗の要因などについて分析を試みています。日本経済新聞社[編]『テクノ新世 技術は神を超えるか』(日本経済新聞出版)では、技術の急速な進歩を背景に、人類とテクノロジーのゆくえについて考えており、最新技術をレビューするとともに、表面的ではなくその真のインパクトについて考えています。森永卓郎『官僚生態図鑑』(三五館シンシャ)では、官僚が優秀であり日本の経済社会を支えていた時代は確かにあった点を明確に認めている一方で、失われた30年に陥ったひとつの原因についてもかつては優秀だった官僚が小市民化した点を上げており、特に槍玉に挙げられているのは大蔵省=財務省です。加賀山卓朗・♪akira(著)+松島由林(イラスト)『警察・スパイ組織解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、ミステリやサスペンスやスパイものなどの海外エンタメ小説や映画・ドラマといった映像作品に登場する組織、さらに、職員の階級構成や制服・バッジといったビジュアルな要素を英語表現とともにてんこ盛りにした図鑑です。西山隆行『アメリカ大統領とは何か』(平凡社新書)は、タイトル通りに、米国大統領について詳細にリポートしていて、大統領だけではなく、米国の政治・行政はもちろん立法や司法まで国のシステムを幅広く取り上げています。ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(新潮文庫)は、スコットランドのスカイ島にある別荘で夏を過ごすラムジー家の物語で、1910年とその10年後の1920年を時代背景とし、登場人物の内面的あるいは哲学的な意識の流れをいかにして文学として表現するかを追求した実験的な作品です。綿矢りさ『あのころなにしてた?』(新潮文庫)は、2020年のコロナのパンデミックに見舞われた日本について、芥川賞作家が日記体でエッセイを綴っています。
今年の新刊書読書は先週に3冊を読んでレビューし、今週は7冊ですから、計10冊となります。なお、FacebookやmixiなどのSNS、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。

photo

まず、渡辺努『物価を考える』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、東京大学経済学部教授であり、物価や物価指数に関する日本の第一人者といえます。私は統計局に勤務していたころ、消費統計とともに物価統計も担当していましたので、お世話になったこともあったかと思います。ということで、現在の日本経済、というか、世界経済においてもっとも注目されているマクロ経済指標のひとつが物価であるといえます。要するに、2020年のコロナ禍のパンデミックあたりから供給制約による物価上昇が始まり、2020年2月のロシアのウクライナ侵攻から本格的に食料やエネルギーの価格上昇に起因するコストプッシュのインフレが世界経済の大問題のひとつとなっています。しかし、日本は世界と違っていて、現在のインフレの前にはデフレであった、という点が重要です。ですので、本書でもまず世界インフレ前の日本のデフレを解き明かそうと試みています。結論は、1990年代後半からのデフレは賃金上昇の停止が大きな要因と指摘しています。すなわち、昨年2024年11月に読んだ中村二朗・小川誠『賃上げ成長論の落とし穴』と同じで、1990年くらいまでのバブル経済期にはむしろ現在の逆で円高と内外価格差からして「高いニッポン」で、賃金も高水準にあったことから、バブル経済崩壊後の1995年5月の日経連リポート『新時代の「日本的経営」』の影響もあって、賃金抑制が打ち出されて労働組合も合意したことに基づいてデフレに突入した「賃金が主導、物価が追従」(p.182)ということです。それに対して供給者の行動が価格据置きになり、消費者も価格が高いと他の店で買物をするような消費行動を取り始め、物価上昇のない価格据置きが、個人レベルの予想から社会的ノルムとなった、と分析しています。要するに、1990年代後半からのデフレは供給サイドに起因し現在のインフレも供給サイドから生じている可能性が高い、という分析結果です。ハッキリいって、このあたりまでは1年余り前の渡辺努『世界インフレの謎』(講談社現代新書)と大きく異なる結論ではありません。ただ、本書では、それに加えて、第4章でデフレやインフレがなぜ「悪」なのか、とか、第5章で異次元緩和がどうしてデフレ脱却に失敗したのか、といったあたりを分析しているのが新しく付け加わっています。最後に、私から本書に関連して4点ほど雑感を示ししておきたいと思います。第1に、本書ではしつこいくらいに「期待」という言葉を避けて「予想」という言葉に置き換えています。ケインズ『雇用、利子及び貨幣の一般理論』では投資行動を考える際の期待から始まって、ほぼほぼ一貫して「期待」で統一されていて、経済学的にも定着していると私は考えるのですが、「期待」を避けて「予想」で統一したのは何か理由がありそうな気がしています。第2に、本書の主張のインプリケーションとして、賃上げが生産性の向上を下回る時期が続いた結果、労働分配率が低下して企業の利益剰余金が大きく積み上がっているのは法人企業統計などから確認できる事実ですので、逆に、賃上げが生産性を上回って推移して労働分配率が上昇することが容認されるべきだと私は考えています。第3に、デフレの「悪」については、貯蓄超過のエージェントが得をし、投資超過、というか、貯蓄不足のエージェントが損をするわけであって、経済政策の要諦である貯蓄超過を促進しかねないという点は忘れるべきではないと考えます。第4に、異次元緩和の失敗という評価については、10年かかっても金融政策でデフレ脱却が出来なかったのですから、それはその通りだと思いますが、出典は忘れたものの、著者はその昔に物価目標ならぬ賃金上昇目標を提唱していたように記憶しています。賃金上昇ターゲットであれば、何か違っていたのか、興味あるところです。

photo

次に、日本経済新聞社[編]『テクノ新世 技術は神を超えるか』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、新聞社であり、新聞の特集記事を基にした出版です。まず、本書のタイトルになっている問いかけに、私なりの回答を示すと、間違いなく回答はyesであり、技術が神の座につくことになると私は考えています。まあ、あくまで個人の感想です。ということで、冒頭でも明らかにしているように、技術の急速な進歩を背景に、本書では人類とテクノロジーのゆくえについて考えようと試みています。すなわち、最新技術をレビューするとともに、表面的ではなくその真のインパクトについて考えています。もちろん、最新技術とは、人工知能=AIにとどまらず、遺伝子操作による生物としての人類の改変、また、国家や社会システムにまで及んでいます。まず、AIに関しては、当然ありうべき問いとして、自律的な活動を始めかねないAIの価値観と人間の価値観の衝突、あるいは、AIと人類の利害関係の不一致が生じる可能性について考えるべきといえます。はい、その可能性はあります。十分あるといえます。その場合、パワーの問題となります。ですから、定義からして、シンギュラリティ以前であれば人類がAIを制圧して人類の利害を優先させることが出来る可能性に十分ありますが、シンギュラリティ以降であれば人類がAIに制圧されるということになります。要するに、私が考えるに、人類はAIのペットになるわけです。能力的に対等に近いものを人類が持てれば内戦状態になる可能性もありますが、おそらく、歴然たる能力差がシンギュラリティの後で極めて短期間に生じると私は考えていますので、シンギュラリティ以降のAIと人類の関係は、現在のシンギュラリティ以前のヒトとイヌ・ネコの関係になるものと私は想像しています。私は人類にとって決して悪くないと受止めています。それなりの知性を維持しつつ、圧倒的に能力差のあるご主人様のペットとなるのは、今のイヌ・ネコを見ていても割とのんきでいいような気すらします。性格的な特性にも左右されるように感じますが、私はなまけものですので十分OKです。ということで、本筋を少し離れるかもしれませんが、本書では基本的に日経新聞記者の取材よりももっとナマなインタビューが私の場合参考になりました。AIと雇用の関係、また、ロボットに課税すべきかどうかは議論をさらに進めるべきテーマであると感じました。さらに、哲学的に人間の本質とは脳であり、移植を考えても腎臓とかの他の臓器ではありえない、というのは当然でしょう。知能には2種類あって、身体を的確に動かせる能力といわゆる認知能力です。前者の観点からは、例えば、私の考えるに、コントロールのいい野球のピッチャーというのは知能が高い、あるいは、頭がいい、ということなのだと考えるべきです。また、台湾有事に引っかけて「デジタル遷都」が取り上げられていましたが、第2次世界対戦時のド-ゴールによる自由フランス政府の亡命政権は、まったくデジタルではありませんでいたが、同様の趣旨を体現していたのではないか、という気がします。最後に繰り返しになりますが、この世はもっとも認知能力の高い存在が支配します。現時点のシンギュラリティ以前であれば、それは人類ということになりますが、シンギュラリティ以降ではAIである可能性は排除できません。もちろん、人類が短期に進化を遂げてAIと認知能力のいたちごっこになる可能性はなくはないのですが、おそらく、AIの能力が人類を凌駕しこの世の支配者となることは明らかです。ですから、人類はこの世ではAIのペットとなり、あの世での新たな展開を模索する、ということになるんだろうと私は想像しています。

photo

次に、森永卓郎『官僚生態図鑑』(三五館シンシャ)を読みました。著者は、メディアでもお馴染みのエコノミストです。余命宣告を受けているのですが、まだお元気に活躍中です。本書は、作者が社会人となって仕事を始めた専売公社(現在のJT)から始まって、当時の経済企画庁への出向、民間シンクタンクなどをご経験されていますから、官僚に近いフィールドでのお仕事の経験が平均的な日本人よりも豊富であることは間違いありません。なお、本書でいう官僚にはいわゆるノンキャリア公務員は含まれておらず、キャリア官僚だけです。私もそうでした。私のころは上級職、その後、Ⅰ種、総合職と名称は変遷しています。ということで、官僚が優秀であり日本の経済社会を支えていた時代は確かにあったわけで、著者のその点は明確に認めています。ただし、失われた30年に陥った大きなひとつの原因についても、かつては優秀だった官僚が小市民化した点を上げています。そうかもしれません。特に槍玉に挙げられているのは大蔵省=財務省です。1980年代のパワハラなど、まあ、ややホイッグ史観的な部分もありますが、最高権力官庁として腐敗の度合いを進めてきた点はあり得るんだろうと思います。そして、その財務省にブレーキをかけるだけの力量が、他の役所の官僚や政治家にかけていたのも事実かもしれません。「権力は腐敗する。絶対的な権力は、絶対的に腐敗する。」というわけです。長期に渡った安倍内閣の経済政策アベノミクスについては、私なんかはエコノミストとしてそれなりに評価しているつもりですが、モリカケ事件、桜を見る会、などなど、一強政権であった点に起因する腐敗には枚挙に暇がありません。ですので、モンテスキュー的な三権分立が典型ですが、何らかのチェック・アンド・バランスのシステムを取り入れる必要があります。本書では最終章で7つの処方箋を示していて、財務省パワーの低下を狙った経済財政諮問会議からの財務省の排除とか、国税庁の財務省からの完全分離などとともに、経済企画庁の復活が最後の処方箋として上げられています。はい、私が採用されたのは経済企画庁であり、中央省庁再編後は内閣府に勤務していました。ですから、それなりに経済企画庁やその後身である内閣府については理解しているつもりです。財務省に対するチェック・アンド・バランスを担う組織を政府部内の別の組織、本書で示唆しているのは経済企画庁なのですが、そういった別の役所に担わせるのがいいのか、それえとも、政府から独立した別の組織がいいのか、よく議論する必要はあります。ただ、私の印象として、警察でも検察でも裁判所でも、予算編成権を握られている以上、財務省の優位は揺るがないような気がします。ですから、予算編成権限をどうするかを考えた方がいいというのが私の現時点での暫定的な結論です。

photo

次に、加賀山卓朗・♪akira(著)+松島由林(イラスト)『警察・スパイ組織解剖図鑑』(エクスナレッジ)を読みました。著者は、翻訳家と翻訳ミステリー・映画ライターとイラストレーターの3人です。米国の連邦捜査局=FBIと中央情報局=CIA、また、州・市・郡といった地方政府レベルの警察、はたまた、昔ながらの保安官などなど、こういった組織や機能については日本人にはよく判らない点が多いかもしれません。英国では007ジェームス・ボンドのMI6と国内を担当するMI5、さらに、警察組織のロンドン警視庁=スコットランド・ヤードなどなど、ミステリやサスペンスやスパイものなどの海外エンタメ小説や映画・ドラマといった映像作品に登場する組織、さらに、職員の階級構成や制服・バッジといったビジュアルな要素をてんこ盛りにした図鑑です。もちろん、エンタメ小説や映像作品に実際に登場する役柄の階級や所属する組織の解説がていねいです。いろんな小説や映画・ドラマの例も、往年の名作から最新の話題作まで、豊富なイラストともに、いっぱい引いています。出版社のサイトには創作や翻訳を目指す人にも有益っぽいうたい文句があり、私はそういったことを目指していないのですが、大いに楽しく読めました。中身としては、米国と英国が冒頭の2章のメインとなっていて、第3章が北欧や旧ソ連となり、その後の第4章に、韓国や日本もあります。翻訳者が書いていますので、イラストともに豊富なのが英語の表現です。私は外国人留学生に対して英語で修士論文指導をしていますので、経済学の分野ではそれなりに英語を理解しますが、さすがに犯罪捜査やスパイなどの分野の英語はサッパリです。米国では警部がcaptainで、警部補はlieutenantなんてのは知りませんでした。陸軍ならcaptainは大尉で、lieutenantは中尉でしょうから立派な将校です。海軍ならcaptainは大佐で、駆逐艦くらいの艦長ではないだろうか、と思ってしまいました。1点だけ気にかかるのが、第2章の英国編でロンドン警視庁=スコットランド・ヤードの組織が含まれていない点です。私からすれば、英国ではホームズの昔からスコットランド・ヤードが英国警察の中心、なんて思っているのですが、最近では違うんでしょうか。たぶんまだ映像化されていないワシントン・ポーのシリーズのイラストはとてもビジュアルに参考になりました。ただ、ティリーはもう少し細身でサラ・モーテンセンが演じたアストリッドのイメージを私は持っていましたし、病理医のドイル医師がこんなに色っぽいとは驚きでした。でも、あり得る気がします。私の場合は映画やドラマよりは小説でエンタメ作品を読むことが多いので、ぜひとも、手元に備えつつ読書を楽しみたいと思います。

photo

次に、西山隆行『アメリカ大統領とは何か』(平凡社新書)を読みました。著者は、成蹊大学法学部教授であり、ご専門は比較政治・アメリカ政治となっています。本書は、タイトル通りに、米国大統領について詳細にリポートしています。そして、大統領だけではなく、米国の政治・行政はもちろん立法や司法、あるいは連邦制の下での州とかまで、国としてのシステムを幅広く取り上げています。もちろん、トランプ次期大統領が近く就任予定ですので、私も勉強のために読んでみた次第です。幅広く米国の国としてのシステムがリポートされているのですが、ひとまず、大統領以外の議会や裁判所のシステムは別にして大統領を頂点とする行政システムについて考えたいと思います。まず、本書では言及がないのですが、別の本を読んでいて、アイゼンハワー大統領が就任する時に、大統領に権限がないのに驚くだろう、という見方があって、限定的な軍隊という組織の中ではありますが、軍隊の中の将軍よりも国レベルの大統領の方が制約が強い、というのは理解できるような、理解できないような気がした記憶があります。米国の独立直後は、確かに、国民の意志を直接反映するのではないエリート主義が主流でしたが、本書でも指摘しているように、ジャクソニアン・デモクラシーから広く国民に依拠する民主主義に進化し、それでも、大統領を国民が直接選出するのではなく選挙人を選ぶという形で間接性を取り入れているのは、よく知られた通りです。特に、トランプ大統領の就任を前に、三権分立のチェック・アンド・バランスにより、大統領の権限を限定するというシステムは、実践的には好ましい場合もあるのかもしれない、と私は考え始めています。日本では、安倍内閣が長期に渡っていわゆる「一強政権」を形成し、権力者であれば法治国家の埒外で何をしても許される、という悪しき前例を作ってしまったことを考え合わせると、ひとつのあるべき姿なのかもしれません。8年前の2017年にトランプ大統領が就任した際、TPPからの脱退をはじめとして数多くの大統領令を出していました。今回の就任に際しても、報道レベルで知りうる限り、国家経済緊急事態宣言を出すという情報もあり、大統領権限をフルに「活用」しかねない恐ろしさも感じています。私も授業で教えていますが、米国が締結した自由貿易協定(FTA)については、多くの場合、行政協定となっています。議会での承認が必要なく大統領の行政命令にのみ基づいています。安全保障の関係は専門外にして私は理解が不足していますが、米国新政権の対日政策に関しては貿易通商政策と安全保障政策が焦点になるとみなされていますし、すでに、「防衛費のGDP比5%」なんて報道も見かけましたので、大いに気がかりなところです。巻末の偉大な大統領とか、そのランキングなんかもひとつの情報であろうと思います。

photo

次に、ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(新潮文庫)を読みました。著者は、ブロンテ姉妹などとともに英国を代表する女性作家の1人であり、経済学を専門とする私の守備範囲からいえば、ケインズ卿などを含む文化人グループであるブルームズベリー・グループの一員、という観点もありました。出版社からすれば、本書はこの作者の代表作、といいたいところなのでしょうが、私はたぶん『波』が最高傑作であり、本書は『ダロウェイ夫人』や『オーランドー』と並ぶ代表作のひとつだと思います。英語の原題は To the Lighthouse であり、1927年の出版です。舞台は英国スコットランドのスカイ島にあるラムジー家の別荘とされ、ラムジ一家が過ごす1910年と1920年のそれぞれ夏の季節です。第1章の窓ではラムジー夫人が息子のジェームズに、天気がよければ明日は灯台に行けるという一方で、夫のラムジーは明日は天気が悪くなるといい、強い緊張感が生じるシーンから始まります。第2章はその10年後の1920年を舞台としており、第1次世界大戦がその間に始まって終わっています。時の流れとともに人の不在とか死について、短い章ながら強いインパクトでさまざまな変化が語られます。第3章最終章では、10年後に再び別荘に集まったラムジー家とゲストの面々なのですが、ラムジー夫妻の子供で言及があるのは娘のカムと息子のジェームズだけです。ラムジーはとうとうこの2人を灯台に連れて行くことを10年を経て計画しています。よく指摘されるように、この小説はエンタメではありませんから、ストーリーはさほど重要視されていません。むしろ、それぞれの登場人物の内面的あるいは哲学的な意識の流れをいかにして文学として表現しているか、を読み取るべき作品をされています。もっといえば、意識を静的なものとして考えるのではなく、ダイナミック、というか、動的な流れとして把握し、いかにして文学として表現するか、についての実験的な試みと考えるべきです。ですので、大いに難解です。第2章から、やや唐突に現れるカギカッコ付きの神ないし超越者の視点、まあ、実際に読むとむしろお芝居のト書きのような印象を受けますが、この神の視点も含めて、ひとつひとつのイベントやアクションの絡まり合い、体験や人物の複雑さをいかに文学的に表現するか、まさに、大学において英文学の研究対象、あるいは、英文学学習の題材としてふさわしい小説です。逆にいえば、私のような俗っぽい人間がヒマつぶしに読むような本ではない可能性も否定しません。でも、ごく時折はこういった実験的な手法を試みて、それゆえに、広く世界で研究対象となるような小説を、十分な理解力もなく読んでみるのもいいものです。特に年末年始休みなんかは、そういったチャンスがある時期かもしれないと思います。

photo

次に、綿矢りさ『あのころなにしてた?』(新潮文庫)を読みました。著者は、最年少で芥川賞を受賞した小説家です。本書は、出版社のサイトによれば、著者初めての日記体のエッセイだそうですが、そもそもエッセイは初めてではないか、と私は思っているものの、それほどたくさん読んでいるわけでなはいので自信はありません。ただ、最新作の『嫌いなら呼ぶなよ』と『パッキパキ北京』は読んでいます。文芸雑誌『新潮』で連載されていたものを取りまとめた単行本は数年前に出版されていますが、文庫本で出ましたので読んでみました。ということで、2020年1年間を日記体で綴ったエッセイです。エッセイですので、作家の考えが明確に読み取れる点は面白かったです。繰り返しになりますが、タイトルの「あのころ」というのは2020年であり、世界がコロナのパンデミックに見舞われ、日本でも緊急事態宣言が出たりしました。私はカミさんとともに東京から関西に引越して、4月から現在の大学教員の仕事を始めています。ですので、私ならずともまだ記憶が鮮明な向きはあろうかと思います。でも、当時は感染者数の増減に一喜一憂していたような記憶がありますが、その感覚はすっかり忘れてしまっています。少しネットでこの著者の作品を調べると、ファンも多い『オーラの発表会』が2021年8月に出版されていますので、その執筆や仕上げの時期と重なるのかもしれません。当然ながら、芥川賞作家ですので感性や表現力が私のような一般ピープルとは違います。ですので、やや偏りは感じられなくもないですが、固有名詞を明記しているわけではないものの、竹内結子さんの自殺には大きな紙幅が割かれている一方で、志村けんさんのコロナ感染死についてはほとんど記述がなかったりして、その完成の向きを感じることが出来ます。また、コロナのウィルスを擬人化して「魂を抜く系の魔のもの」という表現力も目を見張るものがありました。さらに、どうでもいいことながら、冒頭1月は家族で行ったスキーの日記で始まるのですが、スキーは相手のいらない1人で楽しめる娯楽という受け止めがあります。私もかつてはスポーツではゴルフやテニス、あるいは、ゲーム系ではコントラクト・ブリッジなどを楽しんでいたのですが、年齢を重ねて相手のいらない水泳やスポーツバイクや読書といったものにシフトしてきています。もう、バブル期ほどははやっていない気もしますが、スキーも1人で楽しめるスポーツなのか、と改めて気付かされました。

| | コメント (0)

2025年1月10日 (金)

堅調な雇用とソフトランディングの確率の高さを確認した12月の米国雇用統計

日本時間の今夜、米国労働省から昨年2024年12月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は、11月統計の+212千人増から12月統計では+256千人増と小幅な加速を見せ、失業率も前月から低下しての4.1%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事をやや長めに小見出しを除いて11パラ引用すると以下の通りです。

Jobs report today: U.S. added booming 256,000 jobs in December, unemployment at 4.1%
U.S. employers added a booming 256,000 jobs in December, shrugging off high labor costs, slowing sales and uncertainty about President-elect Donald Trump's economic policies.
The unemployment rate fell from 4.2% to 4.1%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that about 165,000 jobs were added last month, based on their median forecast.
The robust performance bolsters the case for the Federal Reserve to stand pat and skip an interest rate cut at a meeting later this month.
Employers added 2.2 million jobs for all of 2024, or an average 186,000 a month. That's down from 3 million, or an average 251,000 a month, in 2023 but still a surprisingly strong showing. Most forecasters expected a sharper slowdown, believing inflation and high interest would take a bigger toll and a post-pandemic rebound in economic activity would fade more dramatically.
Average hourly pay rose 10 cents to $35.69, nudging down the yearly increase from 4% to 3.9%.
Wage growth generally has slowed as pandemic-related labor shortages have eased, helping bring down inflation. Since employers often pass their increased labor costs to consumers through higher prices, economists have said yearly wage growth needs to fall to 3.5% to achieve the Fed's 2% inflation goal.
But recent strong gains in productivity - or output per worker - could let companies give up to 4% raises without hiking prices, economists have said.
The solid jobs report likely keeps the Fed on course to pause its campaign of interest rate cuts at a meeting later this month.
After the Fed lowered rates by a total percentage point at its last three meetings of 2024 amid easing inflation, many economists expected the central bank to pause in January and slow the pace of decreases this year. That's because price increases have remained elevated recently while the economy and labor market have been healthy.
The Fed raises rates or keeps them high to increase borrowing costs and bring down inflation. It lowers rates to spur a weakening economy or return rates to normal as inflation slows.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

photo

ということで、ここまで詳細に報道記事を引用すると、もう十分にお腹いっぱいという気もします。米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、10月統計で大きく減速した後、11月統計では大きくリバウンドして+212千人、12月統計ではさらに雇用増が大きくなって+256千人増を記録しています。引用した記事の3パラ目にあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+165千人強の雇用者増くらいだったようです。他方、失業率については、ほぼ安定的に推移しており、12月統計の4.1%は11月統計の4.2%からわずかに低下し、歴史的に低い水準を維持していると考えるべきです。どうやら、10月の雇用者数の減速はインフレ抑制のための連邦準備制度理事会(FED)による金融引き締めの影響というよりも、ハリケーンとストライキに起因し、11月統計ではきっちりとリバウンドし、さらに、12月統計では雇用の堅調さとソフトランディングの確率の高さを見せつけられた、というのが私の受止めです。
広く報じられているように、米国連邦準備制度理事会(FED)は12月17-18日のFOMCで▲25ベーシスの利下げを決めましたが、ここまで雇用が堅調であれば、利下げを急がないだろう、というのが市場における一般的な観測のようです。FEDの連邦公開市場委員会(FOMC)は1月28-29日、日銀の次の金融政策決定会合はFOMCの少し前の1月23-24日です。ひょっとしたら、日銀は再利上げに踏み切る可能性もあります。はてさて、日米の金融政策動向やいかに?

| | コメント (0)

3か月ぶりの下降を示した2024年11月の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2024年11月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から▲2.1ポイント下降の107.0を示し、CI一致指数も▲1.5ポイント下降の115.3を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから報道を引用すると以下の通りです。

景気動向一致指数1.5ポイント低下、生産悪化で3カ月ぶりマイナス
内閣府が10日に公表した11月の景気動向指数速報(2020年=100)によると、足元の各種経済指標を総合した一致指数は前月比1.5ポイント低下の115.3で、3カ月ぶりのマイナスとなった。鉱工業生産指数の悪化などが下押しした。
生産指数は、一部自動車メーカーでの安全規制に絡む生産停止などの影響で悪化した。半導体製造装置の出荷減により投資財出荷指数、そのほか耐久消費財出荷指数、アジア・米国・欧州連合向けの減少が目立った輸出数量指数も悪化し、全体を押し下げた。
一致指数から一定のルールで決める基調判断は、10月の「下げ止まりを示している」で据え置いた。7カ月連続で同じ表現となっている。
先行指数も前月比2.1ポイント低下の107.0と、3カ月ぶりに悪化した。中小企業売上見通しや鉱工業生産財在庫率指数の悪化が影響した。中小企業売上見通しは、電気機械・設備投資・乗用車関係企業が悪化した

いつもながら、コンパクトかつ包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

photo

2024年12月統計のCI一致指数は3か月ぶり下降となりました。ただ、3か月後方移動平均の前月差もは3か月連続の上昇で+0.67ポイント上昇、7か月後方移動平均の前月差も0.00、すなわち横ばいとなっています。ただ、統計作成官庁である内閣府では基調判断は、今月も「下げ止まり」で据え置いています。5月に変更されてから半年余り同じ基調判断で据置きです。なお、細かい点ながら、上方や下方への局面変化は7か月後方移動平均という長めのラグを考慮した判断基準なのですが、改善からの足踏みや悪化からの下げ止まりは3か月後方移動平均で判断されます。いずれにせよ、私は従来から、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう簡単には日本経済が景気後退局面に入ることはないと考えていて、世間一般と比べるとやや楽観的な見方かもしれません。ただし、日本経済はすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありませんし、多くのエコノミストが円高を展望して待ち望んでいる金融引締めの経済へ影響は、引き続き、考慮する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、生産指数(鉱工業)が▲0.42ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)と輸出数量指数がともに▲0.36ポイント、耐久消費財出荷指数が▲0.35ポイント、鉱工業用生産財出荷指数が▲0.24ポイントなどとなっています。他方、プラスで目立つのは商業販売額(小売業)(前年同月比)+0.20ポイントくらいとなっています。

| | コメント (0)

2025年1月 9日 (木)

日銀「さくらリポート」に見る地域経済やいかに?

本日1月9日の日銀支店長会議において「地域経済報告」、いわゆる「さくらリポート」が公表されています。まず、日銀のサイトから各地域の景気の総括判断を引用すると以下の通りです。

各地域の景気の総括判断
一部に弱めの動きもみられるが、すべての地域で、景気は「緩やかに回復」、「持ち直し」、「緩やかに持ち直し」としている。

続いて、各地域の景気の総括判断と前回との比較のテーブルは以下の通りです。

 【2024年10月判断】前回との比較【2025年1月判断】
北海道一部に弱めの動きがみられるが、持ち直している一部に弱めの動きがみられるが、持ち直している
東北緩やかに持ち直している持ち直している
北陸一部に能登半島地震の影響がみられるものの、緩やかに回復しつつある。なお、奥能登豪雨の影響については、被災地に甚大な被害を及ぼしているが、今後、マインド面を含めてどの程度、経済を下押ししていくか注視していく必要がある一部に能登半島地震の影響がみられるものの、緩やかに回復している
関東甲信越一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している
東海緩やかに回復している緩やかに回復している
近畿一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに持ち直している一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに回復している
中国緩やかな回復基調にある緩やかな回復基調にある
四国緩やかに持ち直している緩やかに持ち直している
九州・沖縄一部に弱めの動きがみられるが、緩やかに回復している一部に弱めの動きがみられるが、緩やかに回復している

テーブルを見れば明らかなのですが、全9ブロックのうち東北と北陸の2ブロックで景気判断が引き上げられています。他方で、ほかの北海道、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄の7ブロックでは判断を据え置いています。景気判断を下方修正したブロックはありませんでした。これらの総括判断に加えて、pdfの全文リポートには、「企業等の主な声」として、① 個人消費 (インバウンド需要を含む)、② 生産・輸出・設備投資、③ 雇用・賃金設定、④ 価格設定、の4項目があるのですが、③ 雇用・賃金設定のトピックでは賃上げに関する意見や見方も含まれています。いくつかの例では、「原材料価格がひと頃より下落する一方、販売価格を維持することで原資を確保し、2025年度も2024年度に続き、積極的な賃上げを検討している(高松[金属製品])。」といった見方が示されている一方で、「2024年度は、世間の賃上げムードの高まりを受け、利益を圧縮してでもベアを実施したが、2025年度は、中国での日本車販売の不振から受注が減少する見通しであることから、ベアは見送る方針(福島[輸送用機械])。」といった真逆な見方まで、幅広く明らかにされています。まあ、当然かも知れません。こういった動きを受けて、ロイターの報道では、「25年度賃上げ率『具体的な検討進めている企業も』=日銀支店長会議」といったタイトルの記事があったりします。

| | コメント (0)

2025年1月 8日 (水)

2か月ぶりの低下となった2024年12月の消費者態度指数

本日、内閣府から昨年2024年12月の消費者態度指数が公表されています。12月統計では、前月から+0.2ポイント上昇して36.4を記録しています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです

消費者態度指数、12月は0.2ポイント低下 2カ月ぶりマイナス
内閣府が8日に発表した12月消費動向調査によると、消費者態度指数(2人以上の世帯・季節調整値)は、前月から0.2ポイント低下の36.2と、2カ月ぶりのマイナスとなった。
同指数を構成する4つの指標のうち、耐久消費財の買い時判断が0.5ポイント、暮らし向きが0.2ポイント悪化したことが響いた。収入の増え方は前月比横ばい、雇用環境は0.2ポイント改善した。
<冬物野菜高騰、物価見通しに影響か>
暮らし向き指標の悪化について内閣府では「物価上昇が影響した可能性がある」(幹部)とみている。
内閣府は消費者態度指数の基調判断を7カ月連続で「改善に足踏みがみられる」に据え置いた。
1年後の物価が上昇するとの回答比率は前月比0.5ポイント上昇して93.7%だった。
1年後物価が5%以上上昇するとの回答比率が前月の47.5%から48.4%に拡大し、1年2カ月ぶりの水準となった。内閣府は「冬物野菜の価格高騰を反映した可能性がある」と説明した。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

photo

消費者態度指数を構成する4項目の指標について前月差で詳しく見ると、「雇用環境」が+0.2ポイント上昇し41.2、「収入の増え方」は前月から横ばいで40.2となった一方で、ほかの項目は軒並み低下を示し、「耐久消費財の買い時判断」が▲0.5ポイント低下し29.4、「暮らし向き」も▲0.2ポイント低下し34.1となりました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「改善に足踏みがみられる」で据え置いています。7か月連続の据え置きです。私は従来から主張しているように、あるいは、引用した記事にもあるように、いくぶんなりとも、消費者マインドは物価上昇=インフレに連動している部分があります。1970年代前半の狂乱物価の時期は異常な例としても、デフレ前であれば、インフレになれば価格が引き上げられる前に購入するという消費者行動だったのですが、デフレを経て、物価上昇により消費者が買い控えをする行動が目につきます。こういった消費者行動の経済分析が必要だという気がしています。というか、私も研究をしているわけですので、少し考えたいと思います。
また、インフレに伴って注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が11月統計の47.5%から本日公表の12月統計では48.4%に上昇する一方で、2%以上5%未満物価が上がるとの回答は34.1%から33.7%に低下し、物価上昇を見込む割合は93.7%と前月11月統計から+0.5%ポイント上昇し高い水準が続いています。

| | コメント (0)

2025年1月 7日 (火)

ユーラシア・グループによる2025年のトップリスクやいかに?

photo

日本時間の昨日1月6日、イアン・ブレマー率いるユーラシア・グループから今年2025年のトップリスク10項目が明らかにされています。今どきのことですから、詳細な内容のpdfの全文リポートもアップされています。日本語版もあります。
もうすぐ、1月20日には米国でトランプ大統領が就任し、欧州でも世界経済フォーラムが主催するダボス会議が開催され、その少し前には「グローバルリスク報告書」 Global Risks Report 2025 が明らかにされることとなろうかと思います。上のリポート表紙画像に10項目が明らかに読み取れるでしょうし、リスク管理や安全保障など専門外のエコノミストとして、10項目を羅列するだけですので、悪しからず。

  1. The G-Zero wins
  2. Rule of Don
  3. US-China breakdown
  4. Trumponomics
  5. Russia still rogue
  6. Iran on the ropes
  7. Beggar thy world
  8. AI unbound
  9. Ungoverned spaces
  10. Mexican standof

私にはそれほどのリスク理解力はありませんが、4番目のトランポノミクスの関税が日本経済のみならず世界経済に及ぼす影響が気がかりではあります。はい、特段の根拠はありませんが、今年はヤバそうな気がしています。私だけでしょうか?

| | コメント (0)

2025年1月 6日 (月)

年末年始休みに読んだ学術論文

先週土曜日1月4日の読書感想文のブログでは小説ばかり3冊ほど取り上げましたが、もちろん、この年末年始休みには、私も大学教授ですので、いくつか学術論文も読んでいます。4本ほど取り上げたいと思います。まず、私が読んだ順で各論文の引用情報は以下の通りです。

次に、英文ながら、一気にAbstractを引用して並べると以下の通りです。

Skill Depreciation during Unemployment: Evidence from Panel Data
We examine the depreciation of skills among unemployed German workers using a panel of skill measures linked to administrative data. Both the reemployment hazard and reemployment earnings steadily decline with unemployment duration. Indicators of depression and loneliness also rise substantially. However, we find no decline in a wide range of cognitive and non-cognitive skills while workers remain unemployed. We find the same pattern in a panel of American workers. The results imply that skill depreciation in general human capital is unlikely to be a major explanation for observed duration dependence in reemployment outcomes.
Babies and the Macroeconomy
Fertility levels have greatly decreased in virtually every nation in the world, but the timing of the decline has differed even among developed countries. In Europe, Asia, and North America, total fertility rates of some nations dipped below the magic replacement figure of 2.1 as early as the 1970s. But in other nations, fertility rates remained substantial until the 1990s but plummeted subsequently. This paper addresses why some countries in Europe and Asia with moderate fertility levels in 1980s, have become the "lowest-low" nations today (total fertility rates of less than 1.3), whereas those that decreased earlier have not. Also addressed is why the crossover point for the two groups of nations was around the 1980s and 1990s. An important factor that distinguishes the two groups is their economic growth in the 1960s and 1970s. Countries with "lowest low" fertility rates today experienced rapid growth in GNP per capita after a long period of stagnation or decline. They were catapulted into modernity, but the beliefs, values, and traditions of their citizens changed more slowly. Thus, swift economic change may lead to both generational and gendered conflicts that result in a rapid decrease in the total fertility rate.
Worker Earnings, Service Quality, and Firm Profitability: Evidence from Nursing Homes and Minimum Wage Reforms
This paper examines whether higher earnings for frontline workers affects the quality of employees' output. I leverage increases in the statutory minimum wage, combined with worker, consumer, and firm outcomes in the nursing home sector. I find that higher minimum wages increase income and retention among low-wage employees and improve consumer outcomes, measured by fewer inspection violations; lower rates of adverse, preventable health conditions; and lower resident mortality. Firms maintain profitability by attracting consumers with a greater ability to pay and increasing prices for these individuals.
Exemption and work environment
The Labor Standards Act of Japan requires employers to compensate employees based on hours worked, but exemptions apply to specific occupations with agreements between employers and employees. We assess the impact of being exempted on hours worked, earnings, and the physical and mental health conditions of employees. We find that, on average, exempt workers work longer hours and earn more than nonexempt workers, without hurting their health status. We also find, however, that being exempted exacerbates health status when it is applied to employees who do not have discretion in how and when they work.

まず、最初の論文 "Skill Depreciation during Unemployment: Evidence from Panel Data" では、失業に伴う不利益をパネルデータ分析により明らかにしようと試みています。私の従来からの見方と違っているのは、失業期間中も認知的及び非認知的スキルの低下は見られない、という結論です。ただし、再雇用されないリスクと再雇用後の所得、さらに、うつ病と孤独指標は失業期間の長期化とともに悪化を示しています。私は雇用者が失業するとスキルの低下を招くので失業を避けるべきだと主張してきましたが、本論文ではドイツの例ながら私の見方を一部否定する結論が出ています。
2番目の論文 "Babies and the Macroeconomy" は、一昨年のノーベル経済学賞を受賞したゴルディン教授による出生率低下に関する分析です。急速な経済成長を経験した国のグループで出生率が低くなっている事実につき分析し、急激な成長や経済の変化が世代間や性別に応じた対立を引き起こし、出生率の急速な低下を招いた可能性を指摘しています。3番目の論文 "Worker Earnings, Service Quality, and Firm Profitability: Evidence from Nursing Homes and Minimum Wage Reforms" は、最前線で働くエッセンシャルワーカーなどの労働者の収入が法定最低賃金の上昇により引き上げられると、低賃金労働者の収入と定着率が向上し、健康状態の悪化を予防するなど、消費者としての成果を改善するとの分析結果を示しています。
最後の論文 "Exemption and work environment" は、日本人の研究者による日本の裁量労働制、すなわち、労働基準法の適用除外に関して、それが労働時間、収入、心身の健康に及ぼす影響を分析しています。(1) 目標や締切といった基本的業務内容の決定方法、(2) 業務内容や量の決定方法、(3) 進捗報告の頻度、(4) 業務実施方法や時間配分の決定方法、(5) 作業開始および終了時間の決定方法、の5つの基準として、自己決定の割合、すなわち、裁量が高い労働者に裁量労働制が適用されていると、適用されていない労働者に比べて週当たり労働時間が2時間長くなる一方で、年間ベースで収入が+7.8%高くなる、との結果を得ています。健康状態の悪化や仕事に対する満足度の低下も見られていません。ただし、5つの基準で見て、低い裁量しか持たない労働者には長時間労働が健康に悪影響を与え、加えて、仕事に対する満足度も低下することが明らかにされています。まあ、労働基準法の定期用除外になって裁量労働制が適用されると、労働時間が増加するのは確実だと私も思います。最後の論文から、その労働時間の分布のグラフ Figure 1 Distributions of weekly hours worked by discretionary work-hour system status を引用すると以下の通りです。ピンクの部分が労働基準法の適用除外=裁量労働制の適用された労働者の労働時間であり、緑色の部分はそうでない労働者の労働時間です。

photo

| | コメント (0)

2025年1月 5日 (日)

県立図書館はプライオリティが低いのか?

photo

今日は、朝から県立図書館に行って本を借りてきました。
県立図書館は県立美術館と並んでいるのですが、何と申しましょうかで、ものすごく不便な立地です。「文化ゾーン」だか、何だかと称して、図書館と美術館のほかに、びわこ文化公園、さらに、アイススケートリンク、大学もいくつかあって、私の勤務する立命館大学のほかにも、滋賀医大と龍谷大学があったりします。
繰り返しますが、東京に長らく住んでいた身としては、ものすごく不便な立地です。麻生の有栖川宮記念公園にある都立図書館とか、千代田区に移管される前には都立図書館だった日比谷図書館なんぞと比べると、やたらとアクセスが悪いと思います。岡崎の平安神宮の前にある京都府立図書館と比べても歴然たる差があります。一応、路線バスがなくはないのでしょうが、たぶん、1時間に1本とか、せいぜい2本くらいで、JR琵琶湖線の駅からは300円を下らない額の料金設定ではないかと思います。ですから、家族連れでの利用者の大部分は自動車で来ているのだろうと私は想像しています。私のような低所得者で自動車を持たなければ、縁の薄い施設になってしまいかねない気がします。東京や京都と比べて、それほど地価が高いというわけでもないでしょうし、もっと条件のいい土地があるような気もしますが、図書館をはじめとする文化ゾーンにある施設のプライオリティが低いのではないか、と危惧しています。私の勤務校も行政サイドからはそれほど重要だとは考えられていない、のかも知れません。

| | コメント (0)

2025年1月 4日 (土)

新年初めの今週の読書は小説ばかり計3冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、方丈貴恵『少女には向かない完全犯罪』(講談社)は、臨死状態で幽霊として現れた完全犯罪請負人と小学6年生女子のコンビが犯人探しに取り組むミステリです。潮谷験『伯爵と三つの棺』(講談社)は、ナポレオン時代に三つ子のうちの誰が犯人か、またその犯行動機などを推理するミステリです。有栖川有栖ほか『慄く』(角川ホラー文庫)は、角川ホラー文庫30周年記念ソロジーの第3弾となります。
今年の新刊書読書は2025年が始まって、まずはこの3冊だけです。ただし、有吉佐和子『青い壺』(文春文庫)と小川洋子『ミーナの行進』(中公文庫)の2冊も読んでいます。新刊書ではないので、本日の読書感想文ブログには含めませんが、以下の3冊のレビューとともに、Facebookやmixiなどでシェアします。

photo

まず、方丈貴恵『少女には向かない完全犯罪』(講談社)を読みました。著者は、京都大学ミステリ研究会ご出身のミステリ作家です。京都大学卒業ですので、私の後輩ということになります。すでに数冊の特殊設定ミステリを出版していて、私は知りうる限りすべて読んでいると思います。本書の主人公は2人、まず、30才男性の黒羽烏由宇は完全犯罪請負人として、被害者遺族に代わって法で裁けない犯罪者に復讐を請け負っていましたが、3月半ばに何者かによってビルの屋上から突き落とされ臨死状態となります。もう1人の三井音葉は小学6年生の女子で、黒羽烏由宇に仕事を依頼してようと接触していた三井海青・赫子夫妻の娘であり、この2人は黒羽烏由宇がビルから突き落とされた当日に、その当の黒羽烏由宇との待合せ場所で惨殺死体となって発見されています。ただ、死亡推定時刻から黒羽烏由宇は三井海青・赫子夫妻の殺害犯人でないとされます。すなわち、黒羽烏由宇の死亡推定時刻は三井海青・赫子夫妻の後、ということです。その3月半ばから4か月余りを経過した7月になって、黒羽烏由宇が臨死状態のまま幽霊になってしまいます。そして、三井音葉は極めてめずらしい例ながら、この幽霊を見ることや会話をすることができる、という設定です。幽霊とコミュニケーションを取れるのは、この小説の中では三井音葉です。しかも、今まで数人の幽霊と接してきた三井音葉の経験から、幽霊でこの世にとどまれるのは1週間というタイムリミットとなります。そして、単純にいえば、黒羽烏由宇が頭脳を働かせて推理し、三井音葉が手足となって動き回って、同一犯人と目される黒羽烏由宇と黒羽烏由宇は三井海青・赫子夫妻の殺害犯人を探すことになります。そして、推理の中で、いわゆるどんでん返し、というか、いくつかの解釈が可能な、本書でいうところの「多重解決」が披露されます。このあたりはミステリですので読んでみてのお楽しみ、ということになりますが、タイトルや殺害方法など、いくつかの古典的なミステリへのオマージュが込められていて、それはそれで本書の読書の楽しみのひとつかもしれません。でも、誠に残念ながら、私自身がホロヴィッツ『死はすぐそばに』の見事な多重解決のミステリを読んだところですので、さすがに最後の結末は、本書の作者にしてホロヴィッツには力及ばず、という気がしないでもありませんでした。

photo

次に、潮谷験『伯爵と三つの棺』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、すでに出版された作品の中で、私は純粋な悪が存在するかをテーマにした『スイッチ』を読んだことがあります。なお、タイトルは当然ながらフェル博士を主人公にしたジョン・ディクスン・カーの長編推理小説『三つの棺』を下敷きにしていることがうかがえます。でも、本書は密室トリックを応用している点は同じですが、不可能犯罪、というわけではありません。まず、時代と舞台は、フランス革命後のナポレオン時代ですから、19世紀初頭のヨーロッパ、一応、国土統一に向かってはいるものの、まだ大貴族の領土が群雄割拠しているに近い状態の継水半島という架空の地域です。大貴族の「群雄割拠」の一例としては、国家単位の警察機能が確立されておらず、大貴族のそれぞれの所領で貴族の家臣である公偵が捜査や逮捕などの警察機能を担っている、という設定です。主人公は大貴族であるD伯爵の家臣として書記を務めているクロという10代半ばか後半の男性です。D伯爵の書記ですので、D伯爵の行動や言動を書き留めておくのがお役目です。後に、クロはD伯爵家の使用人から外交官となって、自身も伯爵の爵位を授けられます。まず、物語の十数年前に、D伯爵ほどの上級貴族ではない下級貴族の女性が吟遊詩人との間に密通をして3人の子ども、というか、三つ子を私生児として生むというウワサになるですが、20年近く経過して、その三つ子の父親と目される吟遊詩人がナポレオン治世下のフランスの国会議員の代理として継水半島や、中でもD伯爵領やって来ることになります。そして、D伯爵領の要衝にある四つ首城を任されていたのが、このフランス国会議員の名代としてやって来る元・吟遊詩人を父とするといわれている三つ子なのですが、元・吟遊詩人がその四つ首城にやって来てすぐに殺害されてしまいます。犯人は明確に目撃されていて、三つ子のうちの誰かであることは間違いないのですが、何せ三つ子ですので顔貌だけでは見分けがつきません。という殺人事件を、D伯爵本人が、また、D伯爵領の警察機能を担う公偵が推理するというミステリです。時代背景として、諮問については英国のスコットランドヤードやフランスのパリ警視庁なんかで、かなり実用化が進められていますが、まだ本書の舞台である継水半島では利用できず、もちろん、DNA鑑定なんてまったくSF日開という時代ですので、かなり論理的な犯人特定がなされます。また、本書は、いくつかの真相があり得る多重解決のミステリとなっています。最近、私が読んだ中ではホロヴィッツ『死はすぐそばに』が、同じようにいくつかの真相があり得るミステリだったのですが、本書もかなり完成度高くて、ホロヴィッツ作品に近い仕上がりとなっています。

photo

次に、有栖川有栖ほか『慄く』(角川ホラー文庫)を読みました。著者は、ホラー作家、ミステリ作家です。本書は角川ホラー文庫30周年を記念した「最恐の書き下ろしアンソロジー」の第3弾、すなわち、小野不由美ほか『潰える』宮部みゆきほか『堕ちる』に続く作品となっています。収録作品は6話の短編であり、まず、有栖川有栖「アイソレーテッド・サークル」では、大学の探訪部が夏合宿で、UFOの目撃情報がある山に行くため、神隠し伝説のある山を通るのですが、一行は道に迷ってしまいます。何やら不明な施設に入りますが、そこに人間ならざる怪異が現れてしまうわけです。北沢陶「お家さん」では、明治末期か大正期くらいの時代設定で、大阪は船場の和薬問屋で、丁稚奉公することになった長吉は、意地悪な跡継ぎの嬢さんにいじめられるのですが、主人の母親であるお家やさんだけは「ええ子やな」といわれて可愛がられるようになりました。でも、そのお家さんには秘密があるわけです。背筋「窓から出すヮ」では、新人作家が次の作品のネタをなかなか決められずにいたところ、幽霊、妖怪っぽい一つ目小僧、タクシー運転手の怪談。怖いCMについての都市伝説、などなど、いくつかプロットを書き記していくうち、「窓から出すヮ」という奇妙なタイトルのブログ記事が目に留まります。いくつもの怪談が語られるうち、最後に恐るべき真相が明らかになります。怪談そのもののメタな構造がこの作者らしいと感じられます。私はこの作品がイチ推しです。櫛木理宇「追われる男」では、23歳の会社員である主人公=あなたは、飲み会で厭味な係長に絡まれ連れ出されて、ソープランドの外で係長とともに容貌魁偉な大男とトラブルを起こし、その得体の知れない凶暴な大男にひたすら追いかけられる、というシンプルなスリラーです。どうして主人公が二人称の「あなた」なのかがラストでポイントになります。貴志祐介「猫のいる風景」では、映像作家である叔父が、自宅のマンションに来た姪とたわいない会話を交わします。飼い猫のビグルとトレーグルの話、村上春樹の『ノルウェイの森』の話、そして自ら命を絶ったもう1人の姪の話などなど、高級なワインをグラスに注ぎつつ、叔父は自分の秘密に姪が気づいていると感じます。すなわち、姉の自殺に疑問を抱いた妹と秘密を抱えた叔父との心理戦が展開されるサスペンスホラーなのですが、姪の優秀さに叔父の方がまったくついていけずに、それほどサスペンスタッチになっていない気がしました。恩田陸「車窓」では、出張の帰路の新幹線での同僚の与太話から始まり、富士山の見えるころに車窓から見える「727」の謎看板にまつわるホラーです。ページ数は少ないのですが、濃密です。「窓から出すヮ」に続いての私の推しです。

| | コメント (0)

2025年1月 3日 (金)

運動不足につき近場をポタリングして瀬田の唐橋に行く

photo

年末に買ったばかりのロードバイクで近場をポタリングしてきました。年末年始休みに来てくれた子どももUターンしましたが、その子どもにつられて私も大量に食べた上に運動不足で体重も気にかかるところです。上の写真は瀬田の唐橋の近くで撮りました。碑文には「日本三大名橋」となっています。
「日本三景」といえば、松島、天橋立、安芸の宮島なのですが、「日本三大名橋」は2通りあるそうで、株式会社レッカ社[編著]『「日本三大」なるほど雑学事典』(PHP研究所)によれば、お江戸の日本橋、岩国の錦帯橋、長崎の眼鏡橋、となる一方で、国土交通省道路局[編]『日本の道100選 新版』(ぎょうせい)によれば、宇治橋、山崎橋、瀬田の唐橋となっていて、すべて瀬田川・宇治川・淀川に架かる橋を上げているらしいです。まあ、何といいましょうかで私は前者の三大名橋の方がもっともらしいと思うのですが、関西方面では後者の方が判りやすいかもしれません。いずれにせよ、私は岩国の錦帯橋を除けば、すべて訪れて、この目で見たことがあります。特に、後者のうちの宇治橋と瀬田の唐橋は、ここ半年以内に訪れています。

| | コメント (0)

2025年1月 2日 (木)

年賀状はどこに出すべきか?

photo

かなり数が減ったとはいえ、昨日の元旦に年賀状がいくつか届きました。
実は、単身赴任4年目になる知り合いに対して、奥さまやお子さまのいる関西のおうち宛てに私は送ったのですが、その人からは単身赴任先からの年賀状を受け取って、単身赴任先にも送っておくべきかどうかを迷いました。別件で、その昔、世紀の替わり目直前の2000年かその前あたりに受け取った年賀状について役所の友人から問合せがあり、役所のある先輩から来た年賀状で奥さまのお名前が昨年の年賀状と違うが、何か事情を知っているか、と問合せられたことがありました。素直に知らないと回答しておきました。
そのころから、パソコンやインターネットも普及が進み、私も個人から個人宛ての年賀状に切り替えていったような記憶があります。当然ながら、3年間のジャカルタから帰国したら、そういった流れは一気に加速し、mixiやFacebookなどの招待制を含めてSNSも大いに拡大していました。SNSを通じて年始挨拶のやり取りをしている人も少なくないと思います。

いろいろあるので、住所に宛てる紙の年賀状から、個人に宛てるデジタル化を進めたいと考えています。

| | コメント (0)

2025年1月 1日 (水)

謹賀新年

改めまして
あけましておめでとうございます

みなさまにも、日本経済にも、今年が実り多い年になりますよう祈念しております。
ヘビ年ですが、ポケモンではくさへびポケモンのツタージャしか思い浮かびませんでした。

photo

| | コメント (0)

あけましておめでとうございます

あけましておめでとうございます

photo

明けて2025年がみなさまにいい年であり、エコノミストの端くれとして、日本経済が少しでも上向くことを願っております。
それでは、おやすみなさい。

| | コメント (0)

« 2024年12月 | トップページ | 2025年2月 »