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2025年2月19日 (水)

大きな赤字を記録した1月の貿易統計と予想に反して減少した12月の機械受注

本日、財務省から1月の貿易統計が、また、内閣府から2024年12月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+7.2%増の7兆8637億円に対して、輸入額は+16.7%増の10兆6225億円、差引き貿易収支は▲2兆7587億円の赤字を計上しています。2か月振りの貿易赤字となっています。機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から▲1.2%減の8893億円と、3か月振りの前月比減少を記録しています。また、今年2025年1~3月期の受注見通しは前期比▲2.3%減と見込まれています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

貿易収支、1月は2.7兆円の赤字 2カ月ぶりマイナス
財務省が19日公表した1月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆7587億円の赤字だった。2カ月ぶりに貿易赤字となった。赤字幅は前年同月に比べて56.2%増えた。
中国の春節(旧正月)の影響が赤字の要因になった。1月は例年、春節による連休期間の影響が出やすい。中国で物流や工場が止まり日本からの輸出が減る一方、春節前の在庫確保のため中国からの輸入は増える傾向にあり、今回も同様の動きがあった。
全体の輸入は前年同月比16.7%増の10兆6225億円、輸出は7.2%増の7兆8637億円だった。
対中国は輸入が18.3%増の2兆6165億円、輸出が6.2%減の1兆1732億円だった。スマートフォンなど通信機の輸入が増えた一方、半導体製造装置などの輸出が減った。
財務省は貿易赤字の総額が前年同月に比べて拡大した背景として、春節が昨年より早かったことをあげた。25年は1月28日~2月4日で、24年は2月10日~17日だった。
米国向けの輸出は8.1%増の1兆5393億円、輸入は5.3%増の1兆624億円だった。自動車の輸出は21.8%増の4388億円だった。輸出台数は約10万台で、24年12月(約14万台)や同11月(約11万台)より少なかった。
トランプ米大統領は18日、4月にも公表予定の輸入自動車への追加関税について「25%くらいになるだろう」と述べた。財務省は「トランプ政権の貿易政策の影響がどう出ているかを申し上げるのは困難だ」と説明した。
1月の為替レートは1ドル=157.20円と前年同月比9.2%の円安で、輸出入の金額を押し上げた。世界全体の輸出金額は4カ月連続で増加したものの、輸出数量指数は3カ月連続で減少した。
機械受注見通し、1-3月2.3%減 24年10-12月は2.9%増
内閣府が19日発表した機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は1~3月期に前期比2.3%減の2兆5980億円となる見通しだ。製造業、非製造業ともに減少に転じ、2四半期ぶりのマイナスを見込む。2024年10~12月期の民需は同2.9%増の2兆6587億円だった。
1~3月期は製造業が2.8%減、非製造業(船舶・電力除く)が2.2%減となる見通しだ。農林中金総合研究所の南武志氏は「米トランプ政権の関税政策の行方を見極めようと、企業の間で設備投資を見送る動きが出始めた可能性がある」と指摘する。内閣府は減少に転じる理由について「把握していない」としている。
24年10~12月期は3四半期ぶりのプラスだった。製造業が11.9%増、非製造業(船舶・電力除く)が0.5%減だった。製造業では造船業やはん用・生産用機械業などで設備の受注があり、プラスに寄与した。非製造業ではリース業や情報サービス業で電子計算機などの受注があった。12月単月では前月比1.2%減少した。
機械受注の基調判断は2カ月連続で「持ち直しの動きがみられる」とした。24年10~12月の3カ月移動平均でみた民需がプラスだったことが判断理由という。実績を見通しで割った「達成率」は、船舶・電力除く民需が24年10~12月期に90.5%と、前期の91.9%から低下した。当初見込んでいた大型案件の受注が計上されなかった。
24年通年では前年比1.5%増の10兆5131億円だった。半導体市況の回復などを背景に、2年ぶりにプラスに転じた。外需や官公需なども含めた全体の受注総額は13.5%増の36兆2988億円だった。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲2兆円超の貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の▲2.7兆円超の赤字は、予測レンジを超えて大きく下振れした印象です。また、記事には何の言及もありませんが、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字はこのところジワジワと縮小していて、昨年2024年12月統計ではわずかに△2000億円余りまで赤字が縮小していましたが、今年2025年1月統計では▲8500億円超に拡大しています。季節調整済みの系列では、1月統計では輸出が前月比で減少していたりします。なお、財務省のサイトで提供されているデータによれば、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2025年1月統計まで、ほぼほぼ3年半に渡って継続して赤字を記録しています。ただし、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。1月統計の▲2.7兆円ほどの貿易赤字は額としては大きく見えるものの、特に、何の問題もないものと考えるべきです。特に、毎年1月と2月は旧暦で日付が決まる中華圏の春節がいつになるかでかく乱要因が大きく、大きく統計が振れたからといって深刻に考える必要はありません。それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる点の方が懸念されます。
本日公表された1月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで+9.8%増ながら、金額ベースでは+9.2%増とやや圧縮されている一方で、非鉄金属鉱は数量ベースで▲10.6%減ながら、金額ベースで+11.9%増を記録しています。銅をはじめとして商品市況の高騰が反映されています。エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで+17.2%増と、大きく増加しています。輸出に目を転ずると、自動車が数量ベースで+1.0%増、金額ベースでも+10.5%増となっている一方で、電気機器が金額ベースで▲0.6%減、一般機械も+0.8%増とほぼ前年から横ばいとなっています。国別輸出の前年同月比もついでに見ておくと、中国向けは減少したものの、アジア向けの地域全体では+6.3%増となっています。米国向けは+7.5%増ながら、西欧向けが▲5.7%減などとなっています。輸出については、欧米先進国がソフトランディングするとすれば、トランプ政権の関税政策抜きで考えれば、先行き回復が見込めると考えるべきです。なお、日経新聞の記事によれば、野村総研への取材に基づいて、「仮に米国が日本車に25%の関税を上乗せした場合、日本の実質GDP(国内総生産)を2年間で0.2%ほど下押しすると試算」と報じています。

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続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、市場の事前コンセンサスは季節調整済みのコア機械受注で前月比+0.4%増でしたから、実績の▲1.2%減はレンジ内とはいえ、やや下振れした印象です。ただ、統計作成官庁である内閣府では、半ノッチ上方修正した先月2024年11月の「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。また、引用した記事でも注目しているように、1~3月期の見通しは季節調整済みの系列による前期比で▲2.3%減の2兆5980億円と集計されており、2四半期ぶりのマイナスを見込んでいます。振れの大きな指標ですので、何とも先行きは見通せません。ただ、先行きリスクは下方に厚いと私は考えており、特に、日銀が金利の追加引上げにご熱心ですので、すでに実行されている利上げの影響も同時にラグを伴って現れる可能性が十分あることから、金利に敏感な設備投資にはブレーキがかかることは明らかです。加えて、繰り返しになりますが、米国のトランプ政権の関税政策により先行き不透明さが増していることは当然です。さいごに、引用した記事にもあるように、昨年2024年10~12月期の達成率が90%スレスレにまで低下してきています。グラフは引用しませんが、エコノミストの経験則として、この達成率が90%を下回ると景気局面の転換、すなわち、景気後退期入りのシグナルのひとつとなり得る、と考えられてます。これはご参考です。

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