ヘッドライン上昇率が+4%に達した1月の消費者物価指数(CPI)をどうみるか?
本日、総務省統計局から1月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+3.0%からさらに拡大して+3.2%を記録しています。3か月連続で上昇率が加速しています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から33か月、すなわち、2年半を超えて3年近くの間続いています。ヘッドライン上昇率も+4.0%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+2.5%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
1月の消費者物価3.2%上昇、コメは7割プラスで過去最大
総務省が21日発表した1月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合が109.8となり、前年同月と比べて3.2%上昇した。3カ月連続で伸び率が拡大した。生活実感に近い生鮮も含む総合は4.0%上昇し、2年ぶりに4%台となった。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は、生鮮食品を除く総合が3.1%上昇だった。
購入頻度の高い生鮮食品は21.9%上昇と04年11月以来の高い水準だった。生鮮野菜は36.0%上昇した。生育不良で出荷が減ったキャベツは約3倍、白菜は約2倍だった。昨年の猛暑の影響で生産量が減少したみかんは37.0%上昇だった。
生鮮食品を除く食料は5.1%上昇だった。24年夏ごろから価格上昇が目立つコメ類は25年1月に70.9%プラスと、比較可能な1971年1月以来最大の上昇幅となった。国産品の豚肉は6.6%上昇した。
原材料価格や人件費の上昇を受けて外食は3.1%プラスとなった。コメ類の価格高騰を背景に外食のすしは4.5%、おにぎりは9.2%それぞれ上昇した。コーヒー豆は主要原産国のブラジルの天候不良で出荷量が減少し、23.7%プラスだった。
エネルギーではガソリンが3.9%上昇と、前月の0.7%上昇と比べ拡大が目立つ。政府が実施するガソリン価格の高騰を抑える激変緩和措置の補助が縮小したことが背景にある。補助の目安が24年12月に175円から180円程度に、25年1月には185円程度に引き上げられた。
電気代は18.0%上昇、都市ガス代は9.6%プラスだった。エネルギー全体では10.8%プラスだった。
全体を商品などのモノと旅行や外食などのサービスに分けると、サービスは1.4%上昇と24年12月から0.2ポイント縮小した。外国パック旅行が1.9%プラス(24年12月は74.7%プラス)と伸び率が大幅に縮小したことが響いた。
外国パック旅行費は新型コロナウイルスの影響で調査が困難になり、一時調査を中断していた。そのため24年は実質的に20年の同じ月と比較して指数を算出していた。25年1月からはこうした新型コロナによる一時的な措置がなくなり、指数を押し下げた。
一方、宿泊料はインバウンド(訪日外国人)の旅行需要が拡大し、6.8%上昇と前月から伸び率が拡大した。一般サービスの家事関連サービスも3.1%プラスと上昇幅が拡大した。
モノは6.3%プラスと前月から伸びが拡大した。家庭用耐久財が3.9%上昇した。ルームエアコンの需要が拡大し売り上げ増加につながった。
何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.1%ということでしたので、実績の+3.2%はやや上振れした印象です。品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、生鮮食品を除く食料価格の上昇が継続しています。すなわち、先月2024年12月統計では前年同月比+4.4%、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度+1.06%であったのが、1月統計ではそれぞれ+5.1%、+1.24%と、一段と高い伸びと寄与度を示しています。2024年12月統計のヘッドラインCPI上昇率+3.6%から今年2025年1月統計の+4.0%へと上昇率で見て+0.4%ポイントの拡大のうちの半分近くの+0.18%分は生鮮食品を除く食料が寄与しているわけです。加えて、引き続き、エネルギー価格も上昇しています。すなわち、エネルギー価格については12月統計で+10.1%の上昇率、寄与度+0.76%でしたが、本日公表の1月統計では上昇率+10.8%の高い上昇率となっていて、寄与度も+0.82%を示していますので、寄与度差は+0.06%ポイントに上ります。特に、インフレを押し上げているのは電気代であり、エネルギーの寄与度+0.82%のうち、実に電気代だけで寄与度は+0.59%に達しています。また、ガソリンも上昇率が加速しています。引用した記事で指摘されている通り、政府のガソリン価格の高騰を抑える激変緩和措置の補助が縮小したこともあって、12月の+0.7%の上昇から、1月は+3.9%になりました。
多くのエコノミストが注目している食料の細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+5.1%、寄与度+1.24%に上ります。その食料の中で、コアCPIの外数ながら、生鮮野菜が上昇率+36.0%、寄与度+0.71%、生鮮果物も上昇率+22.7%、寄与度+0.25%と大きくなっています。こういった生鮮食品を別にしても、コシヒカリを除くうるち米が上昇率+71.8%ととてつもないインフレとなっていて、寄与度も+0.26%あります。うるち米を含む穀類全体の寄与度は+0.42%に上ります。さすがに、農林水産省も備蓄米の放出にかじを切ったようですが、まだコメの品薄感は解消されていません。もちろん、価格の安定も見られません。主食に加えて、チョコレートなどの菓子類も上昇率+6.8%、寄与度+0.18%を示しており、コメ値上がりの余波を受けた外食が上昇率+3.1%、寄与度+0.15%、おにぎりなどの調理食品も上昇率+3.4%、寄与度+0.13%となり、コメとは別ながら、豚肉などの肉類も上昇率+5.5%、寄与度+0.14%、コーヒー豆などの飲料も上昇率+7.6%、寄与度0.13%、などなどと書き出せば切りがないほどです。統計でも確認できますが、私の実感としても、スーパーなどで1玉500円のキャベツ、1個150円のミカンを見かけることもめずらしくなくなった印象です。

特に着目すべきは、コメ価格高騰にも見られるように、現在の物価上昇は所得の低い家計への打撃が大きい点です。上のグラフは、基礎的・選択的支出別消費者物価指数上昇率の推移をプロットしていますが、最近時点で、選択的支出の物価上昇率が落ち着き始めているのに対して、基礎的支出の価格高騰が激しくなっています。総務省統計局による「消費者物価指数のしくみと見方」によれば、基礎的支出の例として「米や野菜、家賃、電気代などのように必需性の高い品目」が上げられており、逆に、選択的支出として「ワインや外国パック旅行費」が上げられています。低所得の家計では必需的な支出の割合が高く、高所得家計では選択的な支出の割合が高いと想定されます。上のグラフからして、加えて、所得分位別統計から見ても、現在のインフレは低所得家計により大きなダメージを及ぼしている可能性が高いと考えるべきです。すなわち、総務省統計局からは、勤労者世帯の年間所得5分位階級別の物価上昇率が公表されており、私の方でチェックすると、5分位のうちのもっとも低所得である第Ⅰ分位家計の消費バスケットに対する物価上昇は1月統計で+4.0%であったのに対して、もっとも高所得家計の第Ⅴ分位は+3.5%でした。低所得家計がインフレにより苦しんでいることは明らかです。
ピケティ教授の『21世紀の資本』でも主張されていたように、1980年ころからの新自由主義的な経済政策の採用によって、英米だけでなく日本でも格差が拡大しており、21世紀になってそれが特に強く実感されるようになっています。電力会社や石油元売りに巨額の補助金を出すのではなく、低所得家計をはじめとする家計への適切なサポートが求められているのではないでしょうか。
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