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2025年3月21日 (金)

政府のエネルギー補助金により上昇率が縮小した2月の消費者物価指数(CPI)

本日、総務省統計局から2月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+3.2%からやや縮小して+3.0%を記録しています。上昇率が縮小したといはいえ、まだ+3%のインフレです。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から34か月、すなわち、3年近くの間続いています。ヘッドライン上昇率も+3.7%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+2.6%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価2月3.0%上昇 エネ補助で4カ月ぶり伸び縮小
総務省が21日発表した2月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合が109.7となり、前年同月と比べて3.0%上昇した。電気・ガス代の政府補助が再開され、4カ月ぶりに伸び率は縮小した。上昇は42カ月連続となった。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.9%の上昇だった。今回伸びは縮んだものの、3カ月連続での3%台となった。
電気・ガス代などエネルギー関連の全体の上昇幅は6.9%と1月の10.8%から縮小した。政府が1月使用分から料金補助を再開し、その影響が2月の統計から表れるとみられていた。上昇率は2月の電気代が9.0%(1月は18.0%)、都市ガス代が3.5%(同9.6%)といずれも伸びは緩やかになった。
ガソリン代は5.8%の上昇で、1月の3.9%から拡大した。政府がガソリン価格の高騰を抑える激変緩和措置を縮小し、補助の目安を1月から185円程度に引き上げた影響が表れた。
電気・ガス代補助は3月使用分まで続く。終了後はエネルギー関連が再び物価の押し上げ要因となる見通しだ。
生活実感に近い生鮮食品も含む総合指数は3.7%上昇した。購入頻度の高い生鮮品の伸び率が18.8%となったことなどが影響している。1月の21.9%より上昇率は緩やかになったものの、引き続き高水準にある。キャベツ、トマト、ブロッコリー、レタスは1月より下落している。
生鮮食品を除いた食料は5.6%の上昇だった。24年7月の2.6%上昇を底に7カ月連続で伸びが高まっている。コメは80.9%のプラスで、比較可能な1971年1月以降で最大の上昇率となった。調理食品は原材料高で、おにぎりが10.9%、外食のすしが4.7%それぞれ上がった。
住まいに関連する費用で、火災・地震保険料が7.0%プラスと上昇が目立った。24年10月に保険料の改定があった。保険の対象となる物件の価格上昇も反映しているとみられる。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.9%ということでしたので、実績の+3.0%はやや上振れした印象です。また、前月1月統計からインフレ率が縮小したのは、政府の「電気・ガス料金負担軽減支援事業」による押下げ効果であり、1月検針分からの適用ですので2月統計に現れています。総務省統計局の公表資料によれば、ヘッドラインCPI上昇率への寄与度は▲0.33%、うち、電気代が▲0.28%、都市ガス代が▲0.05%と試算されています。続いて、品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、生鮮食品を除く食料価格の上昇が引き続き大きくなっています。すなわち、先月1月統計では前年同月比+5.1%、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度+1.24%であったのが、2月統計ではそれぞれ+5.6%、+1.35%と、一段と高い伸びと寄与度を示しています。他方で、エネルギー価格も上昇していますが、政府の「電気・ガス料金負担軽減支援事業」により上昇幅は縮小しています。すなわち、エネルギー価格については1月統計で+10.8%の上昇率、寄与度+0.82%でしたが、本日公表の2月統計では上昇率+6.9%の高い伸びは続いていて、寄与度も+0.52%を示しています。寄与度差は▲0.30%ポイントとなりました。特に、エネルギーの中で上昇率が大きいのは電気代であり、エネルギーの寄与度+0.52%のうち、実に電気代だけで寄与度は+0.30%に達しています。また、上昇率が加速しています。引用した記事で指摘されている通り、政府のガソリン価格の高騰を抑える激変緩和措置の補助が縮小したこともあって、1月の+3.9%の上昇から、2月は+5.8%になりました。
多くのエコノミストが注目している食料の細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+5.6%、寄与度+1.35%に上ります。その食料の中で、コアCPIの外数ながら、生鮮野菜が上昇率+28.0%、寄与度+0.53%、生鮮果物も上昇率+20.8%、寄与度+0.23%と大きくなっています。こういった生鮮食品を別にしても、コシヒカリを除くうるち米が上昇率+81.4%ととてつもない価格高騰を示していて、寄与度も+0.30%あります。うるち米を含む穀類全体の寄与度は+0.50%に上ります。さすがに、農林水産省も備蓄米の放出にかじを切ったようですが、備蓄米が市場に出回るのは今月下旬と報じられています。現時点で、価格の安定も見られません。主食に加えて、チョコレートなどの菓子類も上昇率+6.8%、寄与度+0.18%を示しており、コメ値上がりの余波を受けたおにぎりなどの調理食品が上昇率+4.2%、寄与度+0.16%、同様に外食も上昇率+3.2%、寄与度+0.15%と、それぞれ大きな価格高騰を見せています。コメとは別ながら、豚肉などの肉類も上昇率+5.2%、寄与度+0.14%、コーヒー豆などの飲料も上昇率+6.6%、寄与度0.12%、などなどと書き出せばキリがないほどです。統計でも確認できますが、私の実感としても、スーパーなどで1玉500円のキャベツ、1個150円のミカン、1本80円のキュウリを見かけることもめずらしくなくなった印象です。そのうち、キャベツは大昔のメロンのように木箱に入って売られることになるんではないか、という冗談が真実味を帯びてきたような気すらします。

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なお、現在の消費者物価は食品やエネルギーといった生活必需品の値上げによりもたらされており、私の方でも所得分位別のウェイトを用いた物価上昇率をプロットしてみました。上のグラフの通りです。所得分位は5分位であり、第I分位と第II分位の境界所得は年間463万円、さらに、第IV分位と第V分位の境界は962万円となっています。境界所得は、いずれも、総務省統計局のサイトにある消費者物価に関する資料の P.33 脚注30 に示されています。少なくともデータを見る限り、最近時点では食料の価格上昇が激しいため、低所得階級の消費バスケットに対する物価上昇率が大きくなっています。5分位階級において、もっとも低所得である第I階級ともっとも高所得である第V階級のそれぞれの消費バスケットの物価上昇率の差は、今年2025年1月で+0.6%、2月では+0.7%と、低所得家計が大きな物価上昇に直面している点は忘れるべきではありません。マクロの平均的な物価上昇とともに、どういった所得階層により大きな負担をもたらしているかも重要であると考えるべきです。

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