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2025年3月 4日 (火)

好調な企業業績を反映する法人企業統計と人手不足下で堅調な動きが続く雇用統計と高い物価上昇を見込む消費者態度指数

本日、財務省から昨年2024年10~12月期の法人企業統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。法人企業統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+2.5%増の398兆38億円、経常利益も+13.5%増の28兆6919億円に上っています。ただし、設備投資は▲0.2%減の14兆4518億円を記録していて、15四半期ぶりの減少となっています。しかし、この設備投資を季節調整済みで見ると、GDP統計の基礎となる系列については前期比+0.6%増となっています。また、雇用統計では、失業率は前月から横ばいの2.5%、有効求人倍率はわずかに改善して1.26倍を記録しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

全産業の経常利益、10-12月13.5%増 法人企業統計
財務省が4日発表した2024年10~12月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は28兆6919億円で、前年同期と比べて13.5%増えた。2四半期ぶりにプラスに転じ、10~12月期として過去最高だった。価格転嫁の進展などで売上高も過去最高となった。
製造業の経常利益は26.7%増の11兆2203億円だった。国内外の需要増や円安基調が続いたことを受け、電気機械が88.5%増と大きく伸びた。人工知能(AI)関連の需要が増え情報通信機械も163.7%増と大幅な増益となった。
非製造業は6.4%増の17兆4716億円だった。商社などの業績が好調で卸売業・小売業が9.4%増だったほか、運輸・郵便業も34.4%増と増加に寄与した。インバウンド(訪日外国人)の増加で旅客数が増えたことや、コンテナ船の運賃上昇が影響した。
売上高は2.5%増の398兆38億円で、比較可能な1954年4~6月期以降で最も高かった。半導体市況の好調などで化学と電気機械を中心に製造業の売り上げが増えた。非製造業でも、サービス業や建設業で価格転嫁が進んだことなどが全体を押し上げた。
一方、設備投資は0.2%減の14兆4518億円と、21年1~3月期以来、15四半期ぶりに減少に転じた。情報通信業などで前年同期に大型の投資があった反動でマイナスに転じた。「設備投資の基調は堅調だ」(財務省)といい、自動車など輸送用機械や食料品などで新たに投資があったという。
財務省は「景気が緩やかに回復している状況を反映したものと考える」と総括した。
1月の有効求人倍率、1.26倍に上昇 失業率は2.5%
厚生労働省が4日発表した1月の有効求人倍率(季節調整値)は1.26倍と、前月から0.01ポイント上昇した。求人数が増え、仕事を探す人が減った。賃上げが広がり、転職活動をやめて今の仕事にとどまる動きがあった。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人について、1人あたり何件の求人があるかを示す。1月の有効求人数は前月比で0.2%増えた。有効求職者数は0.3%減った。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月と比べ0.4%減った。産業別で減少が目立ったのは、教育・学習支援業(5.3%減)、生活関連サービス業・娯楽業(5.0%減)だ。それぞれ少子化や物価高が響いた。
一方、警備業などを含むサービス業は5.0%増えた。厚労省の担当者によると「大学入試の警備で人手が不足したことが影響しており、他県から派遣し対応した例も聞いている」という。
総務省が同日発表した1月の完全失業率(季節調整値)は2.5%で、前月比で横ばいだった。就業者数(原数値)は6779万人で、30カ月連続で増加した。完全失業者数は前年同月と同じ163万人だった。
15歳以上人口の就業率は前年同月比0.6ポイント上昇し、61.7%。職に就かず求職活動もしていない非労働力人口は4032万人と35カ月連続で減少した。

長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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法人企業統計の結果について、基本的に、企業業績は好調を維持していると考えるべきです。まさに、それが昨年来の株価に反映されているわけで、東証平均株価については、少しならして見れば、現時点でも4万円前後の水準に回帰しています。ただ、他方で、株価はまだしも、住宅価格が大きく高騰しているのも報じられている通りです。東京では「億ション」を軽く超えて、「2億ション」というのも決してめずらしくはないようです。もちろん、法人企業統計の売上高や営業利益・経常利益などはすべて名目値で計測されていますので、物価上昇による水増しを含んでいる点は忘れるべきではありません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは、現時点では明らかではありません。来週のGDP統計速報2次QEを待つ必要があります。もうひとつ私の目についたのは、設備投資の動向です。上のグラフのうちの下のパネルで見て、前々から企業業績に比べて設備投資が出遅れているという印象があり、最近時点での堅調さは、人手不足に対応した本格的な設備投資増であることを私は期待しています。設備投資に限らず、売上げや利益も含めて、売上高、経常利益、設備投資とも非製造業の中ではサービス業や卸売業・小売業がトップに名を連ねています。人手不足による影響が大きい非製造業、中でもサービス業の動向に注目しています。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍を経て労働分配率が大きく低下を示しています。もう少し長い目で見れば、デフレに入るあたりの1990年代後半からほぼ一貫して労働分配率が低下を続けています。いろんな仮定を置いていますので評価は単純ではありませんが、デフレに入ったあたりの1990年代後半の75%近い水準と比べて、最近時点では▲20%ポイント近く労働分配率が低下している、あるいは、コロナ禍の期間の65%ほどと比べても▲10%ポイントほど低下している、と考えるべきです。名目GDPが約600兆円として50-100兆円ほど労働者から企業に移転があった可能性が示唆されています。ただ、さすがに分配については昨年2024年春闘では人口減少下の人手不足により賃上げ圧力が高まった結果として、労働分配率が下げ止まった可能性が示唆されています。すなわち、GDP統計で把握される国内の総付加価値のうち、今までは猛烈な勢いで企業業績、というか、資本分配率の方に流れ込んでいた部分が、極めてわずかな部分ながら、昨年2024年央くらいから労働・雇用の方に回帰している可能性が見られ、もしそうであれば日本経済の成長にはプラスだと私は考えています。設備投資/キャッシュフロー比率も底ばいを続けています。設備投資の本格的な増加が始まったことが期待される一方で、決して楽観的にはなれません。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金はまだまだ伸びが続いています。また、4枚めのパネルにあるように、直近統計でデータが利用可能な10~12月期については、人件費の伸びが高まっている可能性が見て取れます、というか、そのような可能性があります。もっとみ、人件費以上に経常利益が伸びているのがグラフから明らかです。ただ、現時点では人件費の伸びが続くかどうかは不明です。アベノミクスではトリックルダウンを想定していましたが、企業業績から勤労者の賃金へは滴り落ちてこなかった、というのがひとつの帰結といえます。勤労者の賃金が上がらない中で、企業業績だけが伸びて株価が上昇する経済が終焉して、資本分配率が低下して労働分配率が上昇することにより、決して高いインフレにならずに日本経済が成長するパスが実現できる可能性が生じており、それは中期的に望ましい、という私の考えは代わりありません。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、失業率が2.4%有効求人倍率は1.25倍でしたし、ロイターによる事前コンセンサスでも失業率は2.4%、有効求人倍率は1.25倍が見込まれていました。本日公表された実績で、失業率が2.4%、有効求人倍率が1.25倍、というのは、やや下振れした印象ながら、大きなサプライズはありませんでした。人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率・有効求人倍率ともに雇用の底堅さを示す水準が続いています。ただし、そろそろ景気回復局面は後半期に入っている可能性が高いと考えるべきですし、その意味で、いっそうの雇用改善は難しいのかもしれません。ただ、あくまで雇用統計は最近の失業率と有効求人倍率のように横ばいや改善と悪化のまだら模様である一方で、人口減少下での人手不足は続くでしょうし、米国がソフトランディングの可能性を高めている限り、それほど急速な雇用や景気の悪化が迫っているようにも見えません。

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最後に、本日、内閣府から2月の消費者態度指数が公表されています。2月統計では、前月から▲0.2ポイント低下して35.0を記録しています。消費者態度指数を構成する4項目の指標について前月差で詳しく見ると、「雇用環境」こそ+0.1ポイント上昇し41.1となったものの、ほかの項目は軒並み低下を示し、「耐久消費財の買い時判断」と「暮らし向き」がともに▲0.3ポイント低下し、それぞれ31.9、27.2を記録し、「収入の増え方」も前月から▲0.2ポイント低下して39.7を示しています。統計作成官庁である内閣府では、1月統計で基調判断を「改善に足踏みがみられる」から「足踏みがみられる」に明確に1ノッチ下方修正した後、2月統計でも「足踏みがみられる」で据え置いています。8か月連続の据え置きです。従来から主張しているように、いくぶんなりとも、消費者マインドは物価上昇=インフレに連動している部分があると考えるべきです。1970年代前半の狂乱物価の時期は異常な例としても、デフレ前であれば、インフレになれば価格が引き上げられる前に購入するという消費者行動だったのですが、長いデフレ期を経て所得が伸び悩み、物価上昇により実質所得が短期的に停滞することから、逆に、消費者が買い控えをする行動が目につきます。
また、インフレに伴って注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が1月統計の52.3%から本日公表の2月統計では53.9%に上昇する一方で、2%以上5%未満物価が上がるとの回答は32.5%から30.5%に低下し、物価上昇を見込む割合は93.3%と9割を超える高い水準が続いています。

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