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2025年3月 3日 (月)

生成AIベースの会話型アシスタントは生産性向上にどれくらい役立つか?

かなり、インパクトファクターの高い経済ジャーナルに "Generative AI at Work" と題する学術論文が掲載される予定となっています。人工知能=AIが実際に職場で活用されると、いったい何が起こるのか、極めて興味深いところですが、取りあえず、エコノミストとして生産性がどれくらい上がるのかについては実際の数量的な計測結果が欲しいところであり、その結果が報告されています。引用情報は以下の通りです。

まず、ジャーナルのサイトからAbstractを引用すると以下の通りです。

Abstract
We study the staggered introduction of a generative AI-based conversational assistant using data from 5,172 customer-support agents. Access to AI assistance increases worker productivity, as measured by issues resolved per hour, by 15% on average, with substantial heterogeneity across workers. The effects vary significantly across different agents. Less experienced and lower-skilled workers improve both the speed and quality of their output, while the most experienced and highest-skilled workers see small gains in speed and small declines in quality. We also find evidence that AI assistance facilitates worker learning and improves English fluency, particularly among international agents. While AI systems improve with more training data, we find that the gains from AI adoption are largest for moderately rare problems, where human agents have less baseline experience but the system still has adequate training data. Finally, we provide evidence that AI assistance improves the experience of work along several dimensions: customers are more polite and less likely to ask to speak to a manager.

カスタマーサポート部門の5,000人超のデータから、解決された問題数(issues resolved per hour)で計測して、平均的に1時間当たり15%の生産性向上が認められています。ただし、生産性向上の効果は労働者により不均一性(heterogeneity)が大きく、低スキル労働者はスピードアップと結果の質の両方の向上が認められる一方で、高スキル労働者ではそれほどスピードアップ効果が大きくなく、仕事の質はかえって低下すると結論しています。まあ、そうかもしれません。15%の生産性向上はとても大きいのですが、スキルの高低による効果の不均一は、あり得る結果だろうという気がします。生産性向上について、論文からグラフを引用しておきたいと思います。

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まず、論文から FIGURE I Raw Productivity Distributions, by AI Treatment を引用すると上の通りです。3つのグループ Pre AI と Post AI と Never AI に分けて、(A) 1時間あたり生産性、(B) 平均処理時間、(C) 1時間当たりチャット数、(D) 解決率、(E) 顧客満足度、がそれぞれプロットしてあります。Pre AI と Post AI を単純に比較すれば、(E)の顧客満足度を低下させることなく、平均処理時間は短くなり、チャットは増え、解決率も上昇していて、平均的な生産性の向上が図られていることが読み取れます。

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続いて、論文から FIGURE II Event Studies, Productivity を引用すると上の通りです。イベントスタディにより、1時間当たり解決数の変化をAIの導入前後で分析しています。A導入当月ですでに一定の生産性向上効果が見られ、1か月経過時点でほぼほぼフルの効果が発揮されてて、半年くらいまではこの生産性向上効果が持続しています。

最後に、エコノミストの視点としてどうしようもないとは考えますが、AI導入について生産性向上だけがクローズアップされるのには違和感があります。決して、ラッダイト運動の昔を顧みるつもりはありませんが、労働強化につながりかねないことは明確ですし、もしも、AI導入によりホントに生産性向上が向上したとしても、最近の日本経済のように資本分配率の上昇によって労働者賃金の上昇にはつながらない可能性も十分あります。すなわち、AI導入のメリットが雇用者にはもたらされないで、すべて企業収益の増加に結実してしまうリスクです。AIの導入というグローバルレベルでの歴史的な流れは押し止めようもありませんが、ホントに国民のためになるAIの活用についてしっかり議論する必要があります。

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