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2025年4月19日 (土)

今週の読書はディズニーを題材にした経済学入門書をはじめ計8冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、山澤成康『新ディズニーで学ぶ経済学』(学文社)は、東京ディズニーリゾート(TDR)を題材にして、消費者の効用最大化といったミクロ経済学の初歩、あるいは、国際経済まで含むマクロ経済学の視点、などなど、さまざまな要素を詰め込んだ経済学の入門書です。山下一仁『食料安全保障の研究』(日本経済新聞出版)は、シーレーンが利用できなくなった際には、食料だけではなくエネルギーも輸入できなくなり、我が国で餓死者が出かねないという危機感を基に、食料安全保障のあり方について議論しています。ジェイソン・ブレナン『投票の倫理学』上下(勁草書房)は、リバタリアンである著者がエリート主義に基づいて、有権者がいかに投票するかについての議論を展開し、何と、「バカは選挙に行くな」という結論に達しているように見えます。伊与原新『宙わたる教室』(文藝春秋)は、東新宿高校定時制を舞台に理科の教師が個性豊かな生徒4人とともに火星でのクレーターの再現実験に取り組み学会発表を目指します。本書を原作としたNHKドラマ10でも感動をよびました。朝日新聞取材班『ルポ 大阪・関西万博の深層』(朝日新書)は、この4月に開幕した大阪・関西万博について維新政治とともに取り上げており、当初計画から大きく膨らんだ建設費、海外パビリオンの建設遅れやグレードダウン、メタンガスの事故のリスク、などの取材結果を取りまとめています。稲羽白菟『神様のたまご』(文春文庫)は、2013年の下北沢を舞台に、小劇場創設者の孫がワトソン役、小劇場の支配人がホームズ役となる謎解きのトピックをいくつか収録しています。西條奈加ほか『料理をつくる人』(創元文芸文庫)では、6人の作家がタイトル通りに料理をつくる人をテーマに、短編6話を収録したアンソロジーです。いずれも粒ぞろいでオススメです。
今年の新刊書読書は先週までの1~3月に75冊を読んでレビューし、4月に入って先々週と先週で計10冊、さらに今週の8冊と合わせて93冊となります。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2でシェアしたいと考えています。なお、本日の7冊のほかに、小川哲『君のクイズ』(朝日新聞出版)も読んでいます。すでに、いくつかのSNSにてブックレビューをポストしていますが、新刊書ではないと考えますので、本日の感想文には含めていません。

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まず、山澤成康『新ディズニーで学ぶ経済学』(学文社)を読みました。著者は、跡見学園女子大学マネジメント学部教授です。数年前には2年ほど総務省統計委員会担当室長として役所に出向されていたことがあり。シェアリング・エコノミーの計測などで私は内閣府経済社会総合研究所のカウンターパートにいましたので、個人的にも存じ上げています。どうでもいいことながら、ご令嬢が今春4月に進学された大学なんぞも把握していたりします。ということで、タイトルから容易に想像される通り、「新」のつかない『ディズニーで学ぶ経済学』もあって、同じ著者により同じ出版社から2018年に出版されています。新旧の構成はほぼほぼ同じで、今回出版された新版は基本的にデータをアップデートした印象です。冒頭の序章では、テーマパーク業界の中で東京ディズニーリゾート(TDR)がガリバー的な存在であることが理解できます。ただ、大阪のユニバーサルスタジオ・ジャパン(USJ)も入場者数ではTDRの半分強ですので、首都圏と関西圏の経済規模から考えるとUSJの検ともいえるところです。第1章ではディズニーリゾートのレイアウトを建築学で分析し、第2章のディズニーリゾートの歩みを日本経済史で解説し、ほかにも、全15章に渡って株価、人事管理、価格戦略、消費者の効用最大化、企業の利潤最大化、などなど、ディズニーを題材に経済学を解説しています。例えば、東京ディズニーリゾートの入園者数をGDPを説明変数として単回帰で分析していたりします。ただ、2018年の旧版よりも今回の新版の方がフィットが悪くなっているのは、2020年からのコロナの影だったりするんでしょう。なお、どうでもいいことながら、回帰分析する際は説明変数に対するパラメータの符号や大きさだけでなく、定数項にも注意を払うように、私は大学院生などには教えていて、旧版でも新版でも回帰分析では定数項がマイナスになっています。したがって、GDPが一定の水準に達するまで東京ディズニーリゾートの入場者がプラスになることはない、ということを意味していると解釈されます。まあ、ディズニーだけではなく観光はある意味でぜいたく財ともいえるので、所得が一定の水準に達しないと需要がそもそも発生しない、ということなのかもしれません。また、エコノミスト誌によるビッグマック指数の向こうを張って、東京ディズニーランドとフロリダのディズニーワールドにあるマジック・キングダムの入場料で円ドル為替の購買力平価を計測しようとしていますが、購買力平価はかなり円高を示し、逆から見て、東京のディズニーランドは割安で入場できるという結果が示されています。最後の最後に、観光学と題している第8章については、もう少し遊園地とテーマパークの違いをクリアにした方がいいんではないか、と私は考えています。テーマパークが1965年の明治村から始まる、といわれても、浅草の花やしきは戦前からあるんじゃないの、と思う人がいっぱいいそうな気がします。

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次に、山下一仁『食料安全保障の研究』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、農林水産省のご出身で、現在はキャノングローバル戦略研究所の研究主幹だそうです。本書の主張はかなり回りくどくて、私のような専門外のエコノミストには理解し難い点もありますが、基本的には、台湾有事でシーレーンを使った輸送が困難になると国内で餓死者が出かねない、という危機感は私でも読み取ることが出来ました。ただ、農協に対する激しい批判や政府の減反政策廃止をフェイクニュースと論じるなど、本筋から少し離れたところかもしれませんが、私には理解が及ばない点がいくつかありました。まず、現在のコメをはじめとする食料の価格上昇については、私はエネルギー価格と歩調を合わせたものだと認識しています。もちろん、相対価格の変化があるとはいえ、減反政策の続行や廃止とコメ価格が連動しているわけではなく、コメ以外の農産物の価格と連動していると考える方が論理的です。例えば、私が驚愕したことに、キャベツ1玉500円、キュウリ1本100円といった価格は減反政策とはほとんど関係ありません。コメというよりは園芸作物なのかもしれませんが、農業機械の運転のみならず、施設などの暖房や乾燥などに用いられるエネルギー価格、あるいは石油を原料とする肥料の価格に起因する可能性が高いと考えるべきです。例えば、2024年9月末に日経新聞では「農業生産コスト高止まり、肥料も重油も 新米高騰の一因」と題する記事を報じていたりします。ただ、本書で指摘しているように、食料輸入が途絶するときは、同時に石油輸入も途絶する可能性が高い点は認識しておく必要があります。もう1点、私が本書の指摘を正しいと考えている点があります。すなわち、食料安全保障の観点からは、戦後一貫して政府が取ってきた価格支持政策でははなく、民主党による政権交代気に一時模索された農家への直接給付の方が望ましいと考えられます。価格支持政策は、結局のところ、価格に応じた生産をもたらすだけであり、農家が安定的に食料を生産するためには個別給付による経営安定の方が望ましいのは判りきっています。そうしないのは、本書が指摘するように財政負担を回避する目的なのかどう不明ですが、経済合理性からは不可解に私には見えます。最後に、本書のテーマに関連して、私は食料安全保障ではなく経済社会の不平等や貧困を是正する上で、市場取引される商品として供給されるべきかどうか疑わしいサービス、もっといえば、脱商品化された公共サービスとして供給される方が好ましいサービスとして、医療と教育を考えています。その医療と教育に次いで公的セクターから供給される方が望ましい財は食料と住宅ではないかと思っています。特に、食料は生存のために不可決な財であり、政府による一定の価格支持あるとはいえ、市場の価格に従った生産や消費を脱する時期が来ているような気がします。

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次に、ジェイソン・ブレナン『投票の倫理学』上下(勁草書房)を読みました。著者は、米国ジョージタウン大学のマクドノー・ビジネススクールの教授であり、ご専門は政治哲学、応用倫理、公共政策などだそうです。リバタリアンとしても有名です。英語の原題は The Ethics of Voting であり、2011年の出版です。英語の原書の出版はプリンストン大学出版局であり、こういった情報からもほぼほぼ学術書であると考えるべきです。ただ、専門用語を駆使していたりはしますが、政治学や倫理学の学術書ですので、経済学や自然科学のように数式がいっぱい並ぶわけではありません。じっくりと取り組めれば読みこなす読者は少なくないものと思います。ということで、英語の原題からしても、邦訳タイトルからしても、そのままであり、有権者がいかに投票するか、についての議論を展開しています。そして、結論を一言でいえば、巻末の解説に簡潔に表現されているように「バカは選挙に行くな」ということに尽きます。基本的に、著者も否定していないように、エリート主義の立場から公共善、について自信ない有権者は投票を棄権すべきであり、政治学や経済学などの専門知識を十分持っていて、公共善について正しく認識している自信がある場合のみ投票すべきである、ということになります。なお、公共善については、時に、共通善とも呼んでいますが、私は同じものと考えています。ということで、結論を考える前に本書の構成に従ってレビューすると、前半では、いくつかの選挙に関する常識を否定しています。まず第1に、市民は投票すべきであって、選挙で投票する道徳的な義務がある、という点を否定します。日本のシステムではそうなっていませんが、南北米州大陸のいくつかの国では、選挙があると投票者登録をした上で投票を行う必要があり、国によっては登録をしたにもかかわらず投票しなければ何らかのペナルティを課される場合があります。そのシステムにはこういった「投票義務」がバックグラウンドにあることは間違いありません。第2に、日本でも投票率が低下しているという事実に対して不安や憂慮を示す有識者の意見はよく聞きますが、本書では投票率が高いことに特段の価値を見出していません。第3に、投票は自分の良心に従って行うべき、という常識に対しても、自分の良心ではなく公共善にしたがって投票すべき、という点を強調しています。そして、公共善に関して正しく認識しているという自信がある場合のみ投票すべき、という結論を分解すれば、第1に、公共善とは何か、第2に、公共善について理解しているのではなく、理解していると自信を持っているとは何か、の2点から成り立っていることは容易に理解できると思います。第2の点から、すべての投票者の考える公共善が一致する保証はないという点は理解できると思います。そして、第1の公共善とは何か、がもっとも重要となります。はい、正直いって私は本書の展開する議論を十分理解した自信がありません。繰り返しになりますが、本書では明示的にエリート主義に基づく智者政 epistcracy を目指しています。はい、これまた明らかなように、民主主義や個人の平等や尊厳というものを無視ないし否定しているように見えます。そういう内容の倫理学の専門書であると私は認識しました。最後の最後に、このレビューでは本書の結論だけを紹介しましたが、当然ながら、本書ではこの結論が導かれる理由を詳細に議論しています。私はこれらを十分理解した自信がないので、ご興味ある向きは読んでいただくしかありません。

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次に、伊与原新『宙わたる教室』(文藝春秋)を読みました。著者は、小説家であり、本作品の次に出版した『藍を継ぐ海』で直木賞を授賞されています。東京大学大学院を終了し、博士号を取得していて大学で研究者の経験もあるようです。本書は小説という媒体よりは、昨年10月から同タイトルで窪田正孝が主演したNHKのドラマ10の方がよく知られているかもしれません。なお、ドラマでは大阪が舞台になっていましたが、小説は東京、しかも、歌舞伎町やコリアンタウンの新大久保などからほど近い東新宿が舞台です。私も統計局勤務の際には、副都心線の東新宿駅で降りて統計局に通っていたりしましたから、どうでもいいことながら、土地勘はあります。主人公は都立東新宿高校定時制の教師である藤竹叶です。本来は理科の教師らしいのですが、人員不足により数学も教えています。一般のイメージ通りに、定時制高校はやや荒れているのですが、科学部を創設して実験などの活動を始め、個性豊かな4人の生徒ともに火星のクレーターの再現実験をして、日本地球惑星科学連合大会における高校生の部で学会発表を目指す、というストーリーです。4人の生徒はストーリーでの出現順に、中心的な役割を果たす2年生の柳田岳人は、ディスレクシアのために本が読めず、中学校から不登校になり、20歳になって定時制高校に通い始めています。すでに成人ですから喫煙ができたりするのですが、ストーリーの途中で禁煙したりします。フィリピン人の母と日本人の父を持つ日比ハーフの越川アンジェラは、同じく日比ハーフの夫とともにフィリピン料理店を経営していますが、2年生になって勉強についていけなくなり始めています。名取佳純は起立性調節障害で朝に活動できないことから夜間定時制高校に通っていますが、定時制高校でも保健室登校になってしまっています。集団就職で上京して高校に通えなかった長嶺省造は中小企業の経営を引退した70代であり、ものづくりには詳しく実験装置の作成で貢献します。生徒以外では、東新宿高校定時制の教師として、名取佳純の保健室登校をサポートする養護教諭の佐久間理央、明るい英語教師で年中アロハシャツの木内泉水がいます。ディスレクシアや起立性調節障害などといった障害をはじめとする生徒自身の問題に加えて、家庭の問題はもちろん、同じ教室を使う全日制生徒との軋轢、昔付き合っていた不良仲間とのトラブル、などなど、いろんな困難がありますが、教師の藤竹というよりも、それ以上に生徒たち自身ががんばりを見せます。私も教師として、この読書から得るものがあった気がします。

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次に、朝日新聞取材班『ルポ 大阪・関西万博の深層』(朝日新書)を読みました。著者は、朝日新聞のネットワーク報道本部の行政担当グループ、大阪経済部、大阪社会部の担当記者が中心ということです。表紙画像に見えるように、副題は「迷走する維新政治」となっていて、まさに、大阪維新の会や日本維新の会の政治的な影響力とともに大阪・関西万博を論じています。その意味で、第1章では昨年2024年総選挙における維新の低迷の要因のひとつとして、万博への国民の懐疑的な眼差しを上げています。ただし、本書の構成からうかがえるように、万博懐疑論は私のようにカジノ構想(統合型リゾート=IR)と結びつけられてはいません。すなわち、本書の第2章では開催経費が当初予定より大幅に上振れた点に焦点を当て、第3章では「万博の華」とも位置づけられている海外パビリオンの建設遅れやグレードダウンなどを取り上げ、そして、第4章ではメタンなどの可燃性ガスによる爆発や引火といった物理的な危険に着目し、その第4章の中でカジノ構想とのシームレスなリンクではなく、IR設備工事による万博への騒音問題などに言及しているに過ぎません。最後の点は、4月14日付けの日経新聞記事「日本初のIR、大阪万博会場隣地で24日に本体工事着工へ」でも取り上げられています。しかし、本書に収録されたp.6の会場周辺地図でも、同じ日経新聞記事に添付されている地図でも、極めて明確に理解できるように、大阪メトロ中央線を延伸して建設した夢洲駅は万博会場というよりも、カジノ設備への利便性を優先しているようにすら見えます。というのも、私は本書で初めて知りましたが、鉄道延伸などのインフラ整備のためにIR事業者から200億円の負担(p.48)を求めていたから、という点も忘れるべきではありません。いずれにせよ、本書で指摘している3点、すなわち、膨らみ続けている建設費とそれを支える公的負担、「万博の華」といわれつつもパッとしないパビリオン、メタンガスの爆発や引火などの危険、だけでも万博を疑問視する意見が出ているのですから、大手メディアがまったく報道することなく情報隠蔽を続けている万博とカジノ構想とのリンクを考え合わせると、万博がいわば「うさん臭い」ものから、中止すべきもの、になりかねない可能性を十分考える必要があります。

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次に、稲羽白菟『神様のたまご』(文春文庫)を読みました。著者は、私には初読でよく知らないのですが、ミステリ作家のようです。舞台は東京の下北沢、ただし、2013年の下北沢です。私の読み方が浅かったり適当だったりしたためか、今後、何らかの必然性ある展開が待っているのか、どうして、2013年なのかは読み取れませんでした。アパートを改造したセンナリ劇場を創設した俳優の孫、竹本光汰朗が東京の大学に入学するために引越してきます。センナリ劇場は叔父に当たる木下薫が経営を引き継いでいます。この竹本光汰朗が主人公となり、センナリ・コマ劇場の支配人で日英ハーフのウィリアム近松とともに謎解きに当たります。というか、ホームズ役となる謎解きはウィリアム近松が当たり、タケミツとあだ名された竹本光汰朗がワトソン役となります。というのも、タケミツはセンナリ・コマ劇場で支配人である近松の下で助手としてのアルバイトを始めるからです。劇場が大いに関係しますので、演劇人やミュージシャンが関係する事件が多くなります。独特の用語も飛び交います。「ブタカン」が舞台監督だというのは、初読の読者である私には理解がおよびませんでした。ということで、劇中で使う小道具の指輪が紛失したり、プライベートなCDに収録した曲の作曲者を解明したり、下北沢の伝説となっている「白い夜」に現れた伝説のダンサー、すでに死んでいるはずのダンサーの正体を突き止めたり、公開中に舞台から忽然と消えた劇団主催者の謎を解いたりします。最初の指輪の謎は、何と電話1本で解決したりして、そんな謎解きはミステリとして許されるのかと思ったりしましたし、伝説の死んだはずのダンサーの正体を探るのも、単なる人探しではないか、と思わないでもありません。でも、簡単に解決できる謎からだんだんと難しげな謎に進んで、読み進むほどにミステリの度合い、謎解きの完成度が高まっていく気がして、もしも、そのように意図しているのであれば、なかなかのものだと思います。私自身は独身のころに東急新玉川線の桜新町を最寄り駅として世田谷区の深沢に住んでいたことがあり、三軒茶屋を経由して下北沢はそれなりに土地勘あります。私の土地勘は本書でいうところの再開発前であり、土地勘なくても本書は楽しめますが、土地勘あればさらに面白く読める気がします。

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次に、西條奈加ほか『料理をつくる人』(創元文芸文庫)を読みました。著者は、6人の小説家です。テーマはタイトルに込められている通りです。収録順に、西條奈加「向日葵の少女」では、飯田橋を舞台に、祖母の元に持ち込まれた絵画の謎を解くために、秘密を知る客を迎えるに当たって、孫が料理を用意します。ややミステリ調です。千早茜「白い食卓」では、水族館で出会った女性が、主人公である男性に弁当を差し出し、その後、主人公に対して料理を作ることを始めます。その理由が極めて興味深い、というか、ややホラーな理由でサスペンスフルでもありました。深緑野分「メインディッシュを悪魔に」はニューヨークを舞台に、女性シェフが悪魔=サタンから最高の料理を作ることを要求されます。果たして、サタンが満足した料理とは何なのか。まあ、ファンタジーですね。秋永真琴「冷蔵庫で待ってる」では、大学生になって自炊を始めた女性が手料理を盛り付けたくて憧れの食器を購入したりしますが、恋の行方も気になります。織守きょうや「対岸の恋」では、姉弟で同居している弟は姉のために料理していたのですが、姉が結婚することになり、その結婚相手の男性の妹とともに結婚披露宴当日に思い切った行動に出ます。越谷オサム「夏のキッチン」では、夏の日の午後に、空腹に耐えかねて小学生男子がカレーを作り始めます。ということで、どの短編も水準が高くてオススメです。中でも、私は「メインディッシュを悪魔に」がもっとも出来がいいと感じました。その次に出来がいいと感じた「白い食卓」と「対岸の恋」はいずれも、少し背筋が寒くなるホラー的な要素を併せ持っています。「冷蔵庫で待ってる」と「夏のキッチン」はともに主人公が若いこともあって、前進する勢いのようなものを感じました。私は従来から強調しているように、飲み食いと着るものには何らこだわりがありません。ユニクロの服とカミさんの作った食事やジャンクといわれようとファストフードがあればそれで十分です。料理は飢え死にしようともまったくやりません。長崎大学に出向して単身赴任していた際も、買い食いと外食ばかりでした。でも、こういった料理をする人の短編小説もいいと思います。

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