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2025年4月 5日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして計5冊

今週の読書感想文は以下の通り計5冊です。週半ばに久しぶりに風邪をひいて発熱して寝込んでいて、それほどの量は読めませんでした。
まず、横山和輝『インセンティブの経済学』(新世社)は、タイトル通りにインセンティブが経済活動で果たす役割を解明するというよりは、明治期の殖産興業の際のエピソードから日本の経営史を考える材料として評価すべきです。吉田修一『罪名、一万年愛す』(角川書店)は、長崎県の九十九島のプライベートアイランドを舞台に、一代で財を成した経営者の人生をなぞるミステリ仕立てのストーリーです。白井智之『ぼくは化け物きみは怪物』(光文社)は、5話の独立した短編から編まれたミステリ短編集です。謎解きはとても意外で鮮やかなのですが、ややグロいと感じる読者がいるかもしれません。一色さゆり『ユリイカの宝箱』と『モネの宝箱』(文春文庫)は、アートに特化した旅行会社に勤める20代半ばの女性を主人公に、各地の美術館に同行して解説もする教養小説といえます。
今年の新刊書読書は先週までの1~3月に75冊を読んでレビューし、本日の5冊も合わせて80冊となります。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2でシェアしたいと考えています。また、最近は大いにサボっていますが、経済書はAmazonのブックレビューにポストするかもしれません。

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まず、横山和輝『インセンティブの経済学』(新世社)を読みました。著者は、名古屋市立大学経済学部の教授です。タイトルでも、本書冒頭でも、インセンティブを強調しているのですが、ハッキリいって、本書はそれほどインセンティブについて何かを主張しているわけではありませんし、著者が特にインセンティブの経済学にお詳しいという印象は持ちませんでした。研究成果から判断すると日本経済史ないし経営史のご専門のようで、タイトルから想像してインセンティブにより経済を解説するという目的なら、少し失望する可能性があります。ただ、明治の殖産興業期の7つのエピソードから日本の経営史について知りたいということであれば、大いに参考になることと思います。エピソードは収録順に、伊藤八兵衛の訴訟問題、鐘紡職工誘拐事件、三井家の株式会社としてのビジネス展開、東京製綱のワイヤロープ開発におけるイノベーション、大日本製糖の疑獄事件である日糖事件、生糸商標の品質保証、そして、海運業の独占と寡占、となります。特記しておきたい点は、明治に至る前段階の開国当時から明治中期くらいまで、日本のビジネス・モラルはまったく先進国レベルに達せず、特に今でも部分的にそうですが、契約は遵守せねばならないという意味での契約概念が希薄であり、契約遵守よりも契約に反してでも目先の利益を優先するケースが目立ったりしていました。株式取引は少し前までインサイダー情報を仕入れて儲けるくらいの証券マンが優秀と考えられていたこともあります。そういった中で、先進国レベルのビジネス・モラルがどのようにして、また、いかにして確立されたかについては興味深いものがあります。繰り返しになりますが、インセンティブについて勉強しようという向きには物足りなさが残ると思いますので、出版社の本書のサイトで今一度目次を確認しつつ、日本の明治期の経済史や経営史を勉強する向きにはオススメであることを改めて明らかにしておきたいと思います。

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次に、吉田修一『罪名、一万年愛す』(角川書店)を読みました。著者は、日本を代表する人気小説家の1人です。私ももっとも好きな小説家の1人でもあります。小説の舞台は長崎県内の九十九島です。「くじゅうくしま」と読みます。私も長崎大学経済学部の教員をしていた時に、まさに今くらいの4月初めのころに新入生のオリエンテーションで泊まり込みで九十九島の中のリゾート開発された島に行った経験があります。本書では、プライベートビーチならぬプライベートアイランドとして個人に買い取られた島が舞台です。でも、視点を提供するという意味での主人公は、横浜の探偵である遠刈田蘭平となります。この主人公のもとに、九州を中心にデパートで財を成した有名一族の3代目である梅田豊大から「一万年愛す」という宝石を探すよう依頼が舞い込みます。紹介者は最後の最後に明らかにされます。主人公の探偵は、創業者であり、依頼人の祖父に当たる梅田壮吾の米寿の祝いのため九十九島の中の梅田家のプライベートアイランドを訪れます。お祝いの会には、ご本人である梅田壮吾のほか、依頼人の両親と依頼人の双子の妹といった家族のほかに、警視庁の元警部である坂巻も招待されています。しかし、その祝いの宴の翌朝にご本人の梅田壮吾は行方不明になります。島中を探しても見つかりません。主人公は依頼された宝石とともに、梅田壮吾も探すことになるわけです。とてもいいラストです。もちろん、元来がミステリ作家ではありませんから、プロットや謎解きに不満が残る読者は少なくないものと思います。でも、ミステリとしてよりも一代で財を成した経営者の人生をなぞるストーリーとして読めば、とてもいい小説です。私のようにこの作者のファンであれば、ぜひとも押さえておくべきであり、ファンでなくても大いにオススメの小説です。

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次に、白井智之『ぼくは化け物きみは怪物』(光文社)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、本書はいくつかのミステリ小説のランキングで上位に入っています。5話の短編からなる短編集なのですが、いわゆる連作短編ではなく、まったく独立した短編を収録しています。収録順にあらすじを紹介すると、「最初の事件」では、小学校の児童が襲われる事件が立て続けに起き、小学校の名探偵が捜査を行います。他方、北アフリカでは反政府デモから内戦状態に突入します。「大きな手の悪魔」では、未来を舞台に、地球にやって来た異星人が地球を16のエリアに分割し、知能の高いエリアへの攻撃を中止する一方で、知能の低いエリアでは殺戮が続きます。地球人は対抗するために特殊な最終手段を講じます。「奈々子の中で死んだ男」では、昭和初期を舞台に、ならず者が罠に嵌められて訳あり遊女の集まる地域に逃げ込みますが、結局殺されて幽霊となって遊女に真相解明を依頼します。「モーティリアンの手首」では、縁起物として高値で取引されることから、一攫千金を夢見て異星生物モーティリアンの化石を発掘する3人組でしたが、地震の後に大量の化石が現れ、その中に、切り落とされた手首の化石が発見されます。「天使と怪物」では、教会の孤児院から逃走した姉弟は、フリークショーを見世物にしている世界の真実博物館にやってきて、天使の子として手紙により殺人事件を予言します。ということで、まったく何の関連もない5話のミステリ短編ですが、それぞれの短編はとても意外性が大きい上に完成度が高く、鮮やかな謎解きを展開していて、全体としても素晴らしいミステリに仕上がっています。ただ、読者によってはエロよりもグロい方で少し敬遠する向きがあるかもしれません。

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一色さゆり『ユリイカの宝箱』『モネの宝箱』(文春文庫)を読みました。著者は、東京芸大美術学部ご出身であり、『神の値段』で第14回「このミステリーがすごい!」大賞受賞して作家デビューしています。芸大ご出身らしく美術ミステリでしたが、私も出版直後の2016年にに読んでいて、やや物足りない旨のレビューを残しています。本書は2冊ともやっぱり美術に関連する小説なのですが、まったくミステリではありません。主人公の優彩は高校卒業から勤めていた画材店が廃業して、小さなアートの旅に特化した旅行会社である梅村トラベルで働き始めます。経営者である梅村夫妻と先輩女子社員の桐子に主人公を合わせても4人だけの小さな旅行会社ですが、通常の旅行会社と同じように交通手段や宿の手配とともに、展示内容の把握、入館チケットの入手、さらに、各地の美術館を解説者として同行して、読者に対しても美術への旅を誘いかけます。2冊とも4話の短編を収録しています。訪れる美術館は、収録順に、『ユリイカの宝箱』が瀬戸内海の直島にあるベネッセの地中美術館、京都の河井寛次郎記念館、安曇野の碌山美術館、佐倉のDIC川村記念美術館、そして、『モネの宝箱』はタイトル通りにすべてモネの睡蓮を所蔵している美術館であり、東京上野の国立西洋美術館、箱根のポーラ美術館、倉敷の大原美術館、京都のアサヒグループ大山崎山荘美術館、となります。河井寛次郎記念館はその名の通り陶芸家の河井寛次郎の作品を所蔵しているわけですが、短編の中で京都のもう1人の美術家として福田平八郎先生のお名前が言及されています。私が中学生のころですから、1970年代初め、福田平八郎先生が亡くなる1974年の前だと思うのですが、私の父親がお客さんを連れて行ったお店で福田平八郎先生の絵をあしらった団扇をもらってきたことを記憶しています。夏の季節ですからナスの絵をあしらった団扇でした。ああいった美術品を普通に配るのが京都の文化なのだと感じたのですが、どうでもいいことながら、今となっては、きれいに保存しておけば結構な値で売れるお宝だったかもしれない、と思わないでもありません。さらにどうでもいいことながら、我が家が青山に住まいしていたころ、子供が参加していたボーイスカウト港第18団が麻布十番納涼夏祭りに焼きそばを出店していて、宇野亞喜良先生デザインの団扇をもらっていました。保存状態は決してよくありませんが、2009年と2010年の団扇は私は今でも身近に持っていたりします。メルカリで検索すると結構なお値段がついていたりします。はい、どうでもいいことでした。私の美術に対する関心は、この程度なのかもしれません。

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