2か月連続で黒字を記録した3月の貿易統計
本日、財務省から3月の貿易統計が公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+3.9%増の9兆8478億円に対して、輸入額は+2.0%増の9兆3038億円、差引き貿易収支は+5441億円の黒字を計上しています。2か月連続の貿易黒字となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
貿易赤字4年連続、24年度15%減の5兆2216億円
財務省が17日発表した2024年度の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は5兆2216億円の赤字だった。4年連続の赤字となった。歴史的な円安を背景に輸出額が伸び、赤字幅は前年度比で15%縮小した。
輸出額は前年度比5.9%増の108兆9345億円だった。2年連続で100兆円を超えて、比較可能な1979年度以降で過去最高となった。人工知能(AI)向けの投資の増加を背景に半導体製造装置などが輸出額を押し上げた。
為替レートは平均で1ドル=152.60円で、6.1%の円安・ドル高だった。
輸入額は4.7%増の114兆1562億円と、2年ぶりに増加した。パソコンやスマートフォンなどの輸入が増えた一方で原粗油は減少した。原粗油の輸入価格は1キロリットルあたり7万9083円と1.5%上昇したものの、数量ベースで7.1%減った。
地域別でみると対米国の輸出額は3.8%増の21兆6482億円、輸入額は7.7%増の12兆6429億円だった。輸出入ともに過去最高額で、貿易黒字は1.3%減の9兆53億円だった。全体の輸出額に占める米国の割合は19.9%で、3年連続で最大の輸出相手だった。
輸出では自動車が1.6%増えた。為替の影響のほか、ハイブリッド車など付加価値の高い車種の需要が高かった。輸入では電算機類が2.9倍だった。データセンターなど向けの単価の高い業務用サーバーの需要が増えた。
アジアとの輸出額は8.8%増の58兆513億円、輸入額は7.1%増の55兆1760億円だった。そのうち対中国は輸出額が3.4%増の18兆8917億円、輸入額が7.1%増の25兆9392億円でいずれも過去最高だった。7兆474億円の貿易赤字で、2年ぶりに赤字幅が拡大した。
半導体等製造装置の輸出が増えた。輸入ではスマホなどの通信機やパソコンなどの電算機類の増加が寄与した。
欧州連合(EU)は輸出額が7.8%減の9兆7740億円、輸入額が7.6%増の12兆3047億円だった。輸入額は過去最高で、円安や医薬品の単価が上昇したことなどを反映した。
25年3月単月の貿易収支は5440億円の黒字で、黒字幅は前年同月比55.5%拡大した。輸出額は3.9%増の9兆8478億円、輸入額は2%増の9兆3037億円だった。
3月のデータが利用可能となって年度計数ばかりが報じられて、私が景気動向との関係で注目している月次計数は最後のパラに追いやられていますが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、+4500億円超の貿易黒字が見込まれていたところ、実績の+5400億円を少し超える黒字はやや上振れした印象です。また、年次計数ばかりに注目している記事には何の言及もありませんが、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字はこのところジワジワと縮小していて、中華圏の春節の影響もあって、2月統計では+1914億円の黒字となった後、本日公表の3月統計では▲2336億円の赤字を計上しています。なお、財務省のサイトで提供されているデータによれば、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2025年3月統計まで、3年半超に渡って継続して赤字を記録しています。例外的に黒字となっているのは、2024年1月と12月、2025年2月だけですが、中華圏の春節の影響は季節調整では除去しきれていない可能性があり、2024年1月と2025年2月の黒字は実勢に従ったものかどうか、やや怪しいと私は感じています。ただし、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。ですので、現状の▲2000億円程度の貿易赤字は、特に、何の問題もないものと考えるべきです。それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる可能性の方がよほど懸念されます。赤澤暖人が米国の首都ワシントンDCにて日米交渉に当たっていますが、成行きが注目されます。
本日公表された3月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで▲13.6%減、金額ベースで▲17.2%減となっています。エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで+3.5%増と、輸入総額の+2.0%を超える伸び率で増加しています。ただし、食料品のうちの穀物類は数量ベースで▲14.9%減、金額ベースで▲19.9%減となっています。原料品のうちの非鉄金属鉱は数量ベースで+3.5%増、金額ベースで▲4.1%減を記録しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器のうちの自動車が数量ベースで+3.3%増、金額ベースでも+16.3%増となっている一方で、電気機器が金額ベースで+16.1%増、一般機械も同じく+19.3%増と高い伸びを示しています。トランプ関税発動前の駆込み輸出の可能性は否定できません。国別輸出の前年同月比もついでに見ておくと、中国向け輸出が前年同月比で▲4.8%減となったにもかかわらず、中国も含めたアジア向けの地域全体では+5.5%増となっています。米国向けは+3.1%増、西欧向けも+2.4%増などとなっています。今後の輸出については、米国トランプ政権の関税政策次第と考えるべきです。
最後に、国際通貨基金(IMF)と世銀の春季会合を前に「世界経済見通し」World Economic Outlook 分析編の第2章と第3章が公表されています。タイトルは以下の通りです。少し時間をかけて読んで、来週になってから取り上げたいと予定しています。なお、第1章の見通し編は4月22日に公表とアナウンスされています。
- Chapter 2: The Rise of the Silver Economy: Global Implications of Population Aging
- Chapter 3: Journeys and Junctions: Spillovers from Migration and Refugee Policies
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