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2025年5月22日 (木)

大型案件の一時的な需要で大きく増加した3月の機械受注

本日、内閣府から3月の機械受注が公表されています。機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から+13.0%増の1兆107億円と、2か月連続の前月比プラスを記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

機械受注3月は大型案件で13%増も「一時的需要」、判断は据え置き
内閣府が22日に発表した3月機械受注統計によると、設備投資の先行指標である船舶・電力を除いた民需の受注額(季節調整値)は、予想を大幅に上回る前月比13.0%増加の1兆0107億円だった。大型受注が入ったためで、伸び率、金額とも2008年1月以来の高水準。ただ、一時的な需要だとして基調判断は据え置かれた。
3月の受注は2カ月連続の増加。ロイターの事前予測調査では前月比1.6%減と予想されており、予想外の大幅増だった。前年同月比では8.4%増だった。
内閣府によると、3月は100億円超の大型案件が4件あった。化学機械でプラントに用いる機械が1件、造船で大型内燃機関である船のエンジンが2件、通信機で1件という。内閣府の担当者は「いずれも一時的な需要に過ぎないため、判断の上方修正にはつながらなかった」と説明。基調判断は「持ち直しの動きがみられる」に据え置いた。
米国の関税措置を受けた駆け込み需要などについては「3月時点で関税を先取りしたような動きはみられなかった。自動車も2月は落ちていたのが3月は戻しており、影響は来月以降、注視する必要がある」(内閣府の担当者)という。
機械受注のうち、製造業は前月比8.0%増。電気機械、汎用生産用機械、自動車・同部品の需要増が、非鉄金属、その他製造業、鉄鋼業の落ち込みを相殺した。
非製造業(除く船舶・電力)は同9.6%増だった。プラスに寄与したのはその他非製造業、金融保険業、通信業などで、運輸・郵便、卸売り・小売り、建設はマイナスに寄与した。
外需は前月比13.1%減少した。
同時に公表された2024年度の機械受注は前年度比3.7%増だった。1-3月期は前期比3.9%増で、4-6月期は2.1%減と落ち込みが予想されている。

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事では、「ロイターの事前予測調査では前月比1.6%減」とありますし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも同じ前月比▲1.6%減でした。また、予測レンジ上限は+1.5%増でしたから、実績の+13.0%増はレンジ上限を超えて、大きく上振れした印象です。ただし、これまた記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では、100億円を超える大型案件が4件もあり、一時的な需要と判断して、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。季節調整済みの前月比で見て、製造業が+8.0%増であった一方で、船舶・電力除く非製造業は+9.6%増となっています。1~3月期のコア機械受注は前期比で+3.9%増の2兆7632億円でしたが、4~6月期見通しでは▲2.1%の減少に転ずると見込まれています。3月にあった4件の100億円超の大型案件を考慮すれば、▲2.1%減からさらに下振れする可能性も否定できません。
日銀短観などで示されたソフトデータの投資計画が着実な増加の方向を示している一方で、機械受注やGDPなどのハードデータで設備投資が増加していないという不整合があり、現時点ではまだ解消されているわけではないと私は考えています。人手不足は近い将来にはまだ続くことが歩く予想されますし、DXあるいはGXに向けた投資が盛り上がらないというのは、低迷する日本経済を象徴しているとはいえ、大きな懸念材料のひとつです。かつて、途上国では機械化が進まないのは人件費が安いからであるという議論が広く見受けられましたが、日本もそうなってしまうのでしょうか。でも、設備投資の今後の伸びを期待したいところですが、先行きについては決して楽観はできません。特に、米国のトランプ政権の関税政策により先行き不透明さが増していることは設備投資にはマイナス要因です。加えて、国内要因として、日銀が金利の追加引上げにご熱心ですので、すでに実行されている利上げの影響がラグを伴って現れる可能性も含めて、金利に敏感な設備投資には悪影響を及ぼすことは明らかです。3月統計では大型案件で機械受注が上振れ下とはいえ、先行きについては、リスクは下方に厚いと考えるべきです。

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