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2025年5月24日 (土)

今週の読書は森永卓郎の本をはじめ計8冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、森永卓郎『読んではいけない』(小学館)と『森永卓郎 最後の提言』(日本ジャーナル出版)は、週刊誌に掲載されていたコラムを単行本に取りまとめています。いわゆる「ザイム真理教」による緊縮財政を批判し、加えて、現在の日本の株式市場はバブルである可能性を指摘しています。スティーブン・レビツキー & ダニエル・ジブラット『少数派の横暴』(新潮社)は、20世紀末から約30年間一貫して少数派であった共和党がどうして民主党を押さえて政権を担う、あるいは、実質的な決定権を握ってきたのか、という問いとともに、現在のトランプ大統領が民主党を乗っ取った謎を解明しようと試みています。周防秋『恋する女帝』(中央公論新社)は、タイトルから容易に想像されるように、21歳で史上唯一の女性皇太子となり、即位した後に孝謙天皇、一度譲位し重祚した後の称徳天皇を主人公に、法王道鏡との恋路を描き出しています。ラストは驚くような結末が用意されています。慎泰俊『世界の貧困に挑む』(岩波新書)では、民間版の世界銀行を目指して、少額無担保融資を行うマイクロクレジットに加えて、決済、送金、貯蓄、保険などのユニバーサルな金融サービスを提供するマイクロファイナンスの会社により、貧困削減に取り組む活動が紹介されています。本田由紀[編著]『「東大卒」の研究』(ちくま新書)では、東大卒業生に対する詳細な調査を実施し、回答数は少なかったものの、地方出身の女子学生、東大生の学生生活、卒業後のキャリア形成、同じく卒業後の家族形成、そして、東大卒業生が社会をどう見ているか、などを解明しようと試みています。ピーター・トレメイン『風に散る煙』上下(創元推理文庫)は、7世紀のアイルランドの5王国のひとつであるモアン王国の王妹フィデルマがカンタベリーへの船旅の途上で時化にあって寄港した地の修道院長からの依頼により、エイダルフとともに謎の解明に挑みます。
今年の新刊書読書は1~4月に99冊を読んでレビューし、5月に入って先週までの22冊と合わせて121冊、さらに今週の8冊を加えて129冊となります。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2などでシェアしたいと考えています。なお、本日の9冊のほかに、西村京太郎『犯人は京阪宇治線に乗った』(小学館文庫)も読んでいます。いくつかのSNSにてブックレビューをポストする予定ですが、新刊書ではないと考えますので、本日の感想文には含めていません。

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まず、森永卓郎『読んではいけない』(小学館)と『森永卓郎 最後の提言』(日本ジャーナル出版)を読みました。著者は、経済アナリスト、獨協大学経済学部教授です。2023年12月にステージ4のがん告知を受け、今年2025年1月に亡くなっています。私は自分のことをエコノミストと自称する場合が多いのですが、この方は頑ななまでに「経済アナリスト」と紹介されていたような気がします。それはともかく、私はこの経済アナリストの最後の著作をできるだけ読もうと予定していて、この2冊と後はフォレスト出版による『保身の経済学』でほぼほぼ完了ではないか、と考えています。なお、本日取り上げる『読んではいけない』は『週刊ポスト』誌上の連載「よんではいけない」を中心に、また、『森永卓郎 最後の提言』は『週刊実話』誌上の「森永卓郎の"経済千夜一夜"物語」を、それぞれ取りまとめています。同じような時期の週刊誌上に連載されていたコラムですので、大きな違いはありませんが、前者の『読んではいけない』には最終章で、「真実を見抜く目を養う名著25選」を収録していて、全部ではないものの、部分的ながら参考になる価値ある名著が紹介されています。経済書だけではありません。両方の本はともに、基本的なラインは、いわゆる「ザイム真理教」による緊縮財政を批判し、財務省解体まで視野に入れつつ、加えて、現在の日本経済、特に株価はバブルである可能性を指摘し、したがって、株価の大暴落と令和不況の到来を予測していたりします。さすがに死を目前にして誰にも、どんな組織にも臆することなく、また、忖度することなく、日本の経済社会の闇を喝破しています。バブル崩壊と令和不況を見込んでいるわけですので、特に引退世代の投資に対して冷徹な目を持って臨んでいて、NISAやiDECOをはじめとして『投資依存症』ではかなりあからさまな不信感を表明しています。『森永卓郎 最後の提言』は、冒頭で社会保障をカットして防衛費=軍事費を増やすことを強く批判していますし、私のようなエコノミストの主張とも通ずる部分は少なくありません。そして、繰り返しになりますが、『読んではいけない』の最後に収録されている「真実を見抜く目を養う名著25選」のリストを見れば、著者が単なる極論や非現実的な意見を表明するだけのキワモノではなく、深い教養と自由な発想を持ったアナリストであったことが理解できると思います。ついでながら、我が同僚の立命館大学経済学部の松尾匡教授の『コロナショック・ドクトリン』もリストアップされています。

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次に、スティーブン・レビツキー & ダニエル・ジブラット『少数派の横暴』(新潮社)を読みました。著者は、2人とも米国ハーバード大学政治学教授であり、英語の原題は Tyranny of the Minority となっていて、2023年の出版です。なお、同じ2人の共著により同じ出版社から『民主主義の死に方』が2018年に出ていて、私は2018年12月にレビューしています。前著と同様に、トランプ大統領をはじめとするポピュリズムの台頭に対して、米国民主主義の危機を感じ、米国に焦点を当てた分析を展開しています。特に、大きな問いが2点あり、20世紀末から約30年間一貫して少数派であった共和党がどうして民主党を押さえて政権を担う、あるいは、実質的な決定権を握ってきたのか、という問いに加えて、その共和党がどうして現在のトランプ大統領に代表される「過激派」に牛耳られてきたのか、という問いです。もちろん、19世紀の南北戦争から米国政治史を説き起こし、奴隷解放で有名なリンカーン大統領のころには北部のリベラル層を代表していた共和党に対して、南部の保守層を代表していた民主党が、20世紀前半のローズベルト大統領によるニューディール政策のころから、いかにして逆転現象を生じ、1960年代のジョンソン政権でそれが決定的になったか、などについても分析した上で、この2つの問いに対して回答しようと試みています。その回答、というか、分析結果については読んでいただくしかありませんが、ひとつだけ将来への期待、や明るい見通しに関しては、2022年にハーバード大学政治研究所が実施した調査から、18歳から29歳のいわゆるZ世代の有権者の⅔が米国民主主義が「問題を抱えている」あるいは「破綻している」と回答した点を上げています。このZ世代の認識は著者たちと共通しているといえます。この問題や破綻の現実については、本書では人工妊娠中絶、銃規制、最低賃金引上げの3つの重要な問題について世論調査と議会や政府での議論の間できわめて重大な不整合がある点を指摘しています。すなわち、国民の声と政府や議会が一致していないわけです。我が国でいえば、明らかに夫婦別姓の議論になぞらえることができると思います。裁判制度、すなわち、日本では重大な政治的決定に対して裁判所が不関与を示すケースが多いのに対して、裁判所が民主主義の観点からの異議申立てを行って、緊張感を持った三権の独立が観察される場合が少なくない点など、日本にそのまま当てはめることは難しいかもしれませんが、米国だけでなく欧州も含めて世界的に民主主義が危機に向かっている中で、大いに参考となる読書でした。

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次に、周防秋『恋する女帝』(中央公論新社)を読みました。著者は、小説家であり、我が国における古典古代である奈良時代や平安時代の時代小説を私は高く評価しています。本書は『婦人公論』に連載されていたものを単行本に取りまとめています。主人公は、タイトルから軽く想像される通り、東大寺の大仏で知られる聖武天皇と光明皇后の子として生まれ、21歳で史上唯一の女性皇太子となり、即位した後に孝謙天皇、一度譲位し重祚した後の称徳天皇です。そして、恋した相手は、これまた、いうまでもなく法王道鏡です。下世話な話として、男女の肉欲の関係で両者の恋仲を考えようとする向きがないわけでもありませんが、本書はそういう解釈ではありません。この作品の中で女帝は「姫天皇」と呼ばれています。歴史的事実でそうなのかどうかは、私は知りません。孝謙天皇としては阿倍、称徳天皇としては高野、という通称も併せて用いられています。権謀術数渦巻く平城京、特に、天智天皇と天武天皇の兄弟の血統の争い、壬申の乱まで引き起こした背景の醜聞めいた話もいっぱい出てきます。天武天皇の妻であった持統天皇が、天智天皇の血統に皇統を渡すまいとした基礎に立ち、その皇統を継ぐ聖武天皇や孝謙天皇・称徳天皇なのですが、歴史的事実が明らかにしているように、称徳天皇の次代の天皇は光仁天皇であり、天武天皇の血統から兄である天智天皇の血統に移りました。そして、光仁天皇の次の桓武天皇が平城京から平安京に遷都するわけです。本書でも軽く言及されている通り、孝謙天皇より前の女帝は、史上最初の女帝であった推古天皇にせよ、天武天皇の妻であった持統天皇にせよ、現代風にいえば、ワンポイントリリーフであり、次の男帝までのつなぎ役だったわけですが、孝謙天皇は明らかに天智天皇の血統に天皇の座を渡すことを阻止するための本格的な天皇です。しかし、結果的には、称徳天皇の後には天智天皇の血統から天皇を出すこととなり、ある意味で、皇統争いが終結したわけです。そういった中で、道鏡に恋する女帝を支えたのは朝廷の中枢に位置した吉備真備とその娘の吉備由利であり、高位高官ではない人々としては女官の広虫、そして、広虫の養い子であるキメやアラが、実に、生き生きと描き出されています。そして、政治向きのお話は歴史などで明らかにされていますが、ラストは驚くべき結末を用意しています。私は不べんきょうにして知りませんが、ひょっとしたら、今までにもあったのかもしれません。それでも、この作者の想像力の豊かさを感じます。そのラストは読んでみてのお楽しみです。

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次に、慎泰俊『世界の貧困に挑む』(岩波新書)を読みました。著者は、民間版の世界銀行を目指して、2014年に五常・アンド・カンパニーを創業し、発展途上国で多くの低所得世帯に金融サービスを提供しているそうです。サブタイトルは「マイクロファイナンスの可能性」となっています。ただし、本書冒頭の序章でも明記しているように、世界から貧困を撲滅するためにはマイクロファイナンスが唯一の方法ではありませんし、もっとも有効な方法かどうかについても幅広いコンセンサスがあるとはいえず、あれかこれか、というわけではなく、どれも必要、という点に関しては私も同じ考えです。まず、本書のサブタイトルにはマイクロファイナンスとありますが、世界的に注目されたのは、現在のバングラデシュの大統領であるユヌス教授が始めたグラミン銀行であり、特に、2006年にノーベル平和賞を受賞して、一気に注目を集めたのは周知の事実です。ただ、グラミン銀行が始めたのはマイクロクレジットであり、いわゆる少額の無担保融資です。マイクロファイナンスはこのマイクロクレジットの少額無担保融資に加えて、決済、送金、貯蓄、保険などのユニバーサルな金融サービスを提供するものです。グローバルサウスの発展途上国では、銀行口座を開設することがそれほど容易ではありませんし、銀行口座を保有しない個人や家計もそれほどめずらしくもありません。ですから、幅広い金融サービスを提供するマイクロファイナンスは低所得層の経済活動を支援する上でとても有効な手段だというコンセンサスはあると思います。コンセンサスが必ずしも十分ではないのは、マイクロクレジットの有効性です。本書でも言及されているように、後にノーベル経済学賞を受賞したバーナジー&デュフローらがインドにおけるRCTを用いた研究によれば、家計の所得や消費にはマイクロクレジットは効果がないと結論されています。実は、私もグローバルサウスの経済発展のために、家計に対するマイクロクレジットがどこまで効果あるかには疑問を持っています。どうしてかというと、マイクロクレジットは零細な個人経営レベルの農業ほかの第1次産業向けが多い印象があり、所得弾性値が高くて経済発展とともに需要の伸びが見込めたり、海外への輸出に向いていたりする第2次産業や第3次産業の振興が必要ではないか、と考えているからです。でも繰り返しになりますが、決済、送金、貯蓄、保険などのユニバーサルな金融サービスを提供するマイクロファイナンスは経済発展に有効だというのは確かだろうと思います。

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次に、本田由紀[編著]『「東大卒」の研究』(ちくま新書)を読みました。編著者は、東京大学教育学研究科の教授であり、各チャプターの執筆者も東京大学の研究者や博士後期課程の大学院生です。すべての執筆者が女性のようです。本書は、東大卒業生約6万人に対して調査票を送付して、わずかに2437名からの回答を得て、大胆にも数量分析を試みています。本書でも「代表性がない」旨の記述ありますが、どこまで分析結果に統計的な有意性を見出すかは不明であり、加えて、東大卒業生の母集団情報についてもイマイチ不明ですので、一応、参考意見程度の情報ながら、今までになかった計量分析ですので興味あるところです。各チャプターでは、地方出身の女子学生、東大生の学生生活、卒業後のキャリア形成、同じく卒業後の家族形成、そして、東大卒業生が社会をどう見ているか、を扱っています。私自身は60歳の定年まで国家公務員をしていて、キャリアの国家公務員に東大卒業生が多いという事実は広く知られている通りです。私自身は京都大学の卒業生なのですが、親戚の中には国家公務員をしていたことから、私のことを東大卒だと勘違いしている叔父叔母もいたりするくらいです。ただ、本書では、東大は医者や弁護士といった専門職の卒業生を多く排出している、という分析結果を示しています。そうかも知れません。そして、本書で特徴的なのは、東大生、というか、その後の東大卒を地域と性別でいくつかのサブグループに分割して分析を進めている点です。すなわち、地域としては、首都圏と地方圏、そして、性別はいうまでもなく男女です。私の限られた経験からも、決してマジョリティというわけではありませんが、本書では首都圏ないし大都市圏の男子単学の中高一貫制の私立高校出身者が一定のウェイトを持っているという点が強調されています。典型的には、東京の開成高校とか麻布高校、あるいは、関西の灘高校などが想像されると思います。はい、東大でなく京大ですが、私もそうです。そういった認識の下に、冒頭のチャプターで地方出身の女子の東大生を対象にした分析がなされています。一般的に、男女ともに地方出身者が勉強をがんばる一方で、首都圏や大都市圏出身者はサークルなどの活動にも力を入れて、結局のところは、大差なく学生生活を終えるような結論が示されています。ただ、そういった男子校をはじめとするグループに対して、女性、あるいは、地方出身者などに門戸を開いてダイバーシティを進める重要性も強調されています。慎重な表現ながら、いわゆる「女子枠」の議論も盛り込まれています。終章では、逆に、東大卒業生が世間をどう見ているか、について、自己責任意識、再分配への支持、社会運動への関心、ジェンダーギャップ、の4点に関して、ISSP国際比較調査や内閣府の世論調査といった調査結果と比較した分析結果が示されています。そのあたりは、読んでみてのお楽しみです。何といっても、日本を牽引するエリートを多く排出している東大だけに、いくつか、興味ある結果が示されています。

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次に、ピーター・トレメイン『風に散る煙』上下(創元推理文庫)を読みました。著者は、英国のケルト学者、小説家です。7世紀アイルランドを舞台とし、修道女フィデルマを主人公とするシリーズが有名で、本書はシリーズの中の長編第10巻であり、いうまでもありませんが、最新刊です。私は邦訳されているシリーズは長編も短編もすべて読んでいると思います。フィデルマは、アイルランドの5王国のひとつであるモアン王国の王妹であり、ドーリィ=弁護士・裁判官の資格も持つ美貌の女性という設定です。この作品では、主人公のフィデルマがエイダルフとともに、カンタベリーに向かっていたのですが、乗っていた船が時化にあってウェールズにあるダヴェット王国沿岸の港のプルス・クライスに寄港することになります。フィデルマは聖デウィ修道院のトラフィン修道院長から食事に招かれ行ってみると、修道院長だけでなくダヴェット王国のグウラズィエン国王が来ていて、謎の解明を依頼されます。すなわち、スァンパデルン修道院という小さな修道院から修道士が全員消え失せてしまった怪異現象の捜査です。しかも、そのスァンパデルン修道院にはグウラズィエン国王の長男が修道士をしているといいます。フィデルマは捜査の権限を国王から委任されたという正式な文書をもらった上で、捜査に乗り出すことになります。ただ、フィデルマの同行者であるエイダルフはそれほど乗り気ではありません。というのも、ウェールズ人から見れば、多くのサクソン人はキリスト教徒ではなく異教徒であり、しばしば侵略を試みる蛮族という見方がされていて、要するに、サクソン人はダヴェット王国では歓迎されない、というか、明確に嫌われているからです。さらに、そのスァンパデルン修道院の修道士消失のほかにも、鍛冶屋の娘が殺された殺人事件、また、森に潜んでいる追い剥ぎの跳梁があったりもします。フィデルマとエイダルフの捜査により、きわめて大きな陰謀を背景にした事件の真実が明らかにされます。7世紀のアイルランドやウェールズですから、当然に科学捜査というのはありません。指紋の照合やDNA鑑定はありえない時代です。ですから、論理的な思考を基にして大胆な推論を繰り出して、証言や事実関係を集めた上で判断する謎解きです。ただ、私はこのシリーズが大好きで読んでいるんですが。人名や地名に加えて、職名などもまったく馴染みない用語がいっぱい飛び出しますので、ハッキリいって、読み進むのは苦労します。でも、ミステリとしてとってもいい出来であり、オススメです。

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