4四半期ぶりにマイナス成長となった1-3月期のGDPをどう見るか?
本日、内閣府から1~3月期GDP統計速報1次QEが公表されています。季節調整済みの系列で前期比▲0.2%減、年率換算で▲0.7%減を記録しています。設備投資は前期比プラスとなったものの、民間消費はほぼゼロ成長です。4四半期ぶりのマイナス成長です。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.3%、国内需要デフレータも+2.7%に達し、GDPデフレータは10四半期連続、国内需要デフレータも16四半期連続のプラス、うち、最近14四半期では+2%超となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
1-3月GDP年率0.7%減、4四半期ぶりマイナス成長 消費力強さ欠く
内閣府が16日発表した1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.2%減、年率換算で0.7%減だった。2024年1~3月期以来、4四半期ぶりのマイナス成長となった。物価高によって個人消費が力強さに欠けた。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値の年率0.2%減を下回った。
GDPの半分以上を占める個人消費は1~3月期は前期比0.04%増でほぼ横ばいだった。肉や魚などの食料品がマイナスとなった。24年夏ごろに備蓄需要が高まり好調だったパックご飯もマイナスだった。外食は天候に恵まれたこともあり、プラスだった。
輸出は0.6%減と4四半期ぶりにマイナスに転じた。知的財産権の使用料が減ったほか、24年10~12月期に大型の案件があった研究開発サービスの反動減があらわれた。モノの輸出の中では自動車が伸びた。米国の関税措置が発動される前の駆け込み需要が一定程度あったと考えられる。
増えるとGDP成長率にはマイナス寄与となる輸入は2.9%増と大きく増加し、成長率を押し下げた。ウェブサービスの利用料といった広告宣伝料が増えたほか、航空機や半導体関連もプラスだった。
前期比の成長率に対する寄与度をみると、内需がプラス0.7ポイント、外需がマイナス0.8ポイントだった。寄与度については内需のプラスは2四半期ぶり、外需のマイナスも2四半期ぶりだった。
個人消費に次ぐ民需の柱である設備投資は前期比1.4%増だった。研究開発やソフトウエア向けの投資が目立った。デジタルトランスフォーメーション(DX)向けの投資などが含まれるとみられる。公共投資は同0.4%減、政府消費は0.0%減となった。
1~3月期の収入の動きを示す実質の雇用者報酬は前年同期比1.0%増だった。24年10~12月期の3.2%増から縮小した。
赤沢亮正経済財政・再生相は16日、日本経済の先行きについて「米国の通商政策による景気の下振れリスクに十分留意する必要がある」と指摘した。「物価上昇の継続が消費者マインドの下振れなどを通じて個人消費に及ぼす影響も我が国の景気を下押しするリスクとなっている」と言及した。
ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、雇用者報酬については2種類のデフレータで実質化されていてる計数が公表されていますが、このテーブルでは「家計最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃及びFISIM)デフレーターで実質化」されている方を取っています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、内閣府のリンク先からお願いします。
です。正確な計数は自己責任で需要項目 | 2024/1-3 | 2024/4-6 | 2024/7-9 | 2024/10-12 | 2025/1-3 |
国内総生産GDP | ▲0.4 | +0.9 | +0.2 | +0.6 | ▲0.2 |
民間消費 | ▲0.6 | +0.8 | +0.7 | +0.1 | +0.0 |
民間住宅 | ▲3.2 | +1.2 | +0.7 | ▲0.2 | +1.2 |
民間設備 | ▲1.1 | +1.4 | +0.1 | +0.8 | +1.4 |
民間在庫 * | (+0.2) | (+0.1) | (+0.1) | (▲0.3) | (+0.3) |
公的需要 | ▲0.2 | +1.8 | ▲0.1 | +0.0 | +0.0 |
内需寄与度 * | (▲0.5) | (+1.2) | (+0.5) | (▲0.1) | (+0.7) |
外需(純輸出)寄与度 * | (+0.1) | (▲0.3) | (▲0.3) | (+0.7) | (▲0.8) |
輸出 | ▲3.6 | +1.5 | +1.2 | +1.7 | ▲0.6 |
輸入 | ▲3.7 | +2.7 | +2.2 | ▲1.4 | +2.8 |
国内総所得 (GDI) | ▲0.4 | +1.3 | +0.3 | +0.7 | ▲0.3 |
国民総所得 (GNI) | ▲0.5 | +1.8 | +0.4 | +0.3 | +0.2 |
名目GDP | +0.0 | +2.4 | +0.5 | +1.2 | +0.8 |
雇用者報酬 (実質) | +0.5 | +0.8 | +0.3 | +1.3 | ▲0.9 |
GDPデフレータ | +3.1 | +3.1 | +2.4 | +2.9 | +3.3 |
国内需要デフレータ | +2.0 | +2.6 | +2.2 | +2.4 | +2.7 |
上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された1~3月期の最新データでは、前期比成長率がマイナス成長を示し、内需では灰色の民間在庫や水色の民間設備がプラス寄与している一方で、黒の純輸出大きなマイナス寄与しているのが見て取れます。

まず、引用した記事にある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前期比年率で△0.2%減のマイナス成長であり、予想レンジの上限が+0.8%ということでしたので、実績の年率▲0.7%減はやや下振れした印象ですが、大きなサプライズはなかったと私は受け止めています。ただし、引用した記事のあるように、内需のうちの消費が停滞しているのはその通りなのですが、年率換算しない季節調整済みの前期比で▲0.2%減の寄与度を見れば、内需寄与度が+0.7%、純輸出=外需寄与度が▲0.8%の和で▲0.2%のマイナス成長となっている点は忘れるべきではありません。すなわち、内需は消費が停滞したものの、設備投資の増加などによりプラス寄与していて、マイナス成長の大きな要因は純輸出にあり、しかも、輸出の停滞よりも輸入の増加に大きな原因がある、ということです。ただ、内需寄与度の+0.7%の半分は+0.3%の在庫の増加が占めていますので、いわゆる売残りが増えていることは事実です。そして、消費の停滞は明らかに物価上昇に起因しています。季節調整していない原系列の前年同期比で見て、GDPデフレータも国内需要デフレータも+3%近傍の上昇を示しており、特に、消費に関してはコメをはじめとする食料の値上がりが大きなダメージを及ぼしていると考えるべきです。ですので、民間消費は物価上昇を含む名目ベースで前期比+1.6%増となっているものの、物価上昇を除いた実質ベースでは+0.0%、すなわち、ほぼほぼ横ばいを示しています。他方、民間設備は前期比+1.4%増、前期比年率+5.8%増ですから、現時点で詳細は不明であるとしても、引用した記事で推測されているように、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連の設備投資が出始めているのであれば、将来の日本経済にとって好材料と考えられます。

設備投資から、もう一度、消費に目を向けるため、上のグラフは同じ縦軸のスケールで インバウンド消費(非居住者家計の購入)と国内民間消費 をプロットしています。どちらも季節調整済みの系列であり、年率換算してあります。縦軸の単位は兆円です。両者の差を際立たせるために、見た目はよろしくないのですが、意図的に縦長のグラフにしてあります。見れば明らかですが、水色の棒グラフの国内民間消費は約300兆円、赤のインバウンド消費は10兆円に満たない水準です。しかも、この1年の増加分を考えると、2024年1~3月期から本日公表された2025年1~3月期まで、国内民間消費は286,973.6十億円から291,686.4十億円へと+4712.8十億円、すなわち、+5兆円近く増加しています。他方で、インバウンド消費は6,137.7十億円から7,944.0十億円へと+1806.3十億円、すなわち、+2兆円弱の増加です。国内民間消費のボリュームがインバウンド消費を大きく超えていることは明らかであり、国民生活にとって重要なのはインバウンドではなく国内の民間消費であることはもっと明らかであろうと私は考えています。インバウンド消費で潤っている人たちの声が大きくて、サイレント・マジョリティが無視されがちな点は残念ですが、国内の民間消費が停滞している報道に接して、消費税率の引下げや将来の撤廃に向けた議論が進むことを願っています。
最後の最後に、日本経済研究セーターによる最新の5月調査のESPフォーキャスト調査では、1~3月期はマイナス成長に陥るものの、4~6月期には早くもプラス成長に回帰し、その後、緩やかに成長率が高まっていくという見方が示されました。しかし、私は4~6月期も2四半期連続でマイナス成長となる可能性が十分あると考えています。形式的には景気後退=リセッションと見なすエコノミストも出そうな気がします。
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