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2025年5月21日 (水)

3か月ぶりの赤字を計上した貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から4月の貿易統計が公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+2.0%増の9兆1571億円に対して、輸入額は▲0.6%減の1兆5781億円、差引き貿易収支は▲1158億円の赤字を計上しています。3か月ぶりの貿易赤字となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

貿易収支4月は1158億円の赤字、対米輸出は4カ月ぶり減少
財務省が21日発表した4月貿易統計速報は、貿易収支が1158億円の赤字だった。赤字は3カ月ぶり。輸出は7カ月連続で増加、輸入は2カ月ぶりに減少したものの、額は輸入が上回っており収支は赤字となった。対米輸出は1.8%減と4カ月ぶりに減少した。
輸出は前年比2.0%増え、金額ベースでは4月として過去最高だった。香港、アジア向けの半導体等電子部品や食料・医薬品がけん引した。
輸入は同2.2%減少。円が対ドルで前年比2.6%の上昇したことによる輸入コスト減少や原油価格の下落、石炭や原粗油の単価減少に下押しされた。
ロイターの事前調査では、貿易収支は2271億円の黒字と予想されていた。
SMBC日興証券日本担当シニアエコノミスト、宮前耕也氏は「もともと4月は輸出規模が縮小、黒字縮小や赤字化しやすい季節性があるが、今回の赤字化はややサプライズだった」と指摘。その上で、季節調整値では貿易収支は3月に比べて赤字が拡大しており、「(季節調整値で)輸出入とも減少したものの、輸出の減少幅の方が大きく、赤字拡大につながった」と分析している。
米国向け輸出は、自動車や建設・鉱山用機械、半導体等製造装置の需要がふるわなかった。自動車の車体数量は11.8%増と4カ月連続で増加したものの、金額ベースでは同4.8%減少し、全体を下押しした。
トランプ米政権が関税を発動してから初めての統計で、市場では駆け込み増や反動減などの影響が出るとの見方もあったが、財務省幹部は「そうした要因が確認できるほどの単月の振れではなかった」と説明。関税の影響は、単月ではなくもう少し長いスパンで見る必要があるとの見方を示した。
伊藤忠総研マクロ経済センター長の宮崎浩氏は「注目は、対米輸出の単価自体が下がっていること。輸出金額全体が減少しているのは、数量が減ったというよりは単価が下がったからといえる」と指摘する。「価格面である程度の配慮をしようとしても、結局、関税を含めれば米国内で販売価格が上がることに変わりはない。今後は、時間をかけて徐々に日本車の販売数量の減少として影響が出てくることが懸念材料だ」とみている。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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引用した記事で、ロイター調査の市場の事前コンセンサスとして、4月の貿易収支は+2271億円の黒字と予想されていたとありますが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも+2300億円と、+2000億円超の貿易黒字が見込まれていたところ、実績の▲1158億円の赤字は大きく下振れした印象です。季節調整済みの系列でも、3月の貿易赤字▲3000億円弱から4月は▲4000億円超に赤字が膨らんでいます。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。固定為替相場制度を取っていた高度成長期のように、「国際収支の天井」を意識した政策運営は、現在の変動為替制度の下ではまったく必要なく、比較優位に基づいた貿易が実行されればいいと考えています。それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる可能性の方がよほど懸念されます。赤澤大臣が米国の首都ワシントンDCにて日米交渉に当たっていますが、成行きが注目されます。
本日公表された4月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで+0.2%増、金額ベースで▲10.1%減となっています。エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで+1.3%増と、輸入総額の▲2.2%減を超える伸び率で増加しています。特に、食料品のうちの穀物類は数量ベースで+4.5%増、金額ベースでも+3.6%増となっています。原料品のうちの非鉄金属鉱は数量ベースで▲1.6%減、金額ベースで▲5.8%減を記録しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器のうちの自動車が数量ベースで▲0.6%減、金額ベースでも▲5.8%、一般機械も同じく▲0.5%減となっている一方で、電気機器が金額ベースで+6.1%増、と高い伸びを示しています。引用した記事では、「そうした要因が確認できるほどの単月のフレではなかった」と説明されていますが、トランプ関税発動前の駆込み輸出の可能性は否定できません。国別輸出の前年同月比もついでに見ておくと、中国向け輸出が前年同月比で▲0.6%減となったにもかかわらず、中国も含めたアジア向けの地域全体では+6.0%増の堅調な動きとなっています。ただし、米国向けは▲1.8%減、西欧向けも▲1.0%減などとなっています。繰り返しになりますが、今後の輸出については、米国トランプ政権の関税政策次第と考えるべきです。

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