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2025年7月31日 (木)

国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し 改定」やいかに

昨日、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し 改定」World Economic Outlook Update が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。まず、ヘッドラインとなり成長率見通しのテーブルをIMFのサイトから引用すると下の通りです。

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まず、副題は Global Economy: Tenuous Resilience amid Persistent Uncertainty となっていますが、ほぼほぼすべての国や地域で成長率見通しは上方改定されています。例えば、世界経済の成長率見通しは2025年+3.0%と、前回の4月時点の見通しから+0.2%ポイント上方修正されています。日本の成長率見通しも+0.7%と4月時点から+0.1%ポイント上方修正されていたりします。主たる要因は "This reflects stronger-than-expected front-loading in anticipation of higher tariffs; lower average effective US tariff rates than announced in April; an improvement in financial conditions, including due to a weaker US dollar; and fiscal expansion in some major jurisdictions." ということになりますが、何といっても、トランプ関税が日本語でいうところの「マシだった」ことに尽きる気がします。トランプ関税発効期限である8月1日を前にして、世界経済の大きな不確実性が改善された気がします。下のグラフは全文リポートの Figure1. Tariffs and Global Uncertainty を引用しています。米国の関税率が切り下げられて、不確実性がやや moderate になったように見えます。

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目を国内に転ずると、まず、本日は月末ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が公表されています。これらは、いずれも6月の統計です。また、内閣府から7月の消費者態度指数が公表されています。まず、IIP統計のヘッドラインとなるIIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から+1.7%の増産でした。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、ロイターの記事でも、6月の生産は減産との市場の事前コンセンサスでしたから、実績の+1.7%の増産はやや上振れた印象です。自動車は減産した一方で、半導体メモリや航空機部品の増産が補ったという形のようです。経済産業省では基調判断を「一進一退で推移している」に据え置いています。続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+2.0%増の12兆9660億円を示し、季節調整済み指数は前月から+1.0%の上昇となっています。季節調整済指数の後方3か月移動平均は前月から+0.3%上昇し、基調判断は「一進一退」で据え置かれています。続いて、消費者態度指数は前月から▲0.8ポイント低下して33.7を記録しています。基調判断は「持ち直しの動き」で据え置かれています。これら経済指標のグラフは省略します。

最後の最後に、昨日から開催されていた日銀の金融政策決定会合では政策金利の据え置きを決定しています。無担保コール翌日物金利の誘導目標は0.5%で維持されています。ただ、「展望リポート」では今年2025年の物価上昇見通しが大きく上方修正されています。制作委員の大勢見通しを「経済・物価情勢の展望 (2025年7月)」から引用すると以下の通りです。

     
  実質GDP消費者物価指数
(除く生鮮食品)
(参考)
消費者物価指数
(除く生鮮食品・エネルギー)
 2025年度+0.5 ~ +0.7
<+0.6>
+2.7 ~ +2.8
<+2.7>
+2.8 ~ +3.0
<+2.8>
 4月時点の見通し+0.4 ~ +0.6
<+0.5>
+2.0 ~ +2.3
<+2.2>
+2.2 ~ +2.4
<+2.3>
 2026年度+0.7 ~ +0.9
<+0.7>
+1.6 ~ +2.0
<+1.8>
+1.7 ~ +2.1
<+1.9>
 4月時点の見通し+0.6 ~ +0.8
<+0.7>
+1.6 ~ +1.8
<+1.7>
+1.7 ~ +2.0
<+1.8>
 2027年度+0.9 ~ +1.0
<+1.0>
+1.8 ~ +2.0
<+2.0>
+2.0 ~ +2.1
<+2.0>
 4月時点の見通し+0.8 ~ +1.0
<+1.0>
+1.8 ~ +2.0
<+1.9>
+1.9 ~ +2.1
<+2.0>

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2025年7月30日 (水)

環境にやさしいイノベーションは景気変動を緩和するか?

全米経済調査会(NBER)から "Green Business Cycles" と題するワーキングペーパーが明らかにされています。pdfフォーマットの論文の入手も可能です。まず、論文の引用情報は以下の通りです。

続いて、NBERのサイトから論文のAbstractを引用すると以下の通りです。

Abstract
This paper examines the relationship between green innovation and the business cycle, revealing that while non-green innovation is procyclical, green innovation is countercyclical. This pattern holds unconditionally over the business cycle and conditional on economic shocks. Motivated by these findings, we develop a business cycle model with endogenous green and non-green innovation to explain their distinct cyclical behavior. The key mechanism operates through a 'green is in the future' channel: green patents are expected to generate higher profits in the future, making green patenting less sensitive to short-term economic fluctuations. In general equilibrium, this channel is reinforced, making green and non-green innovation effective substitutes. We provide direct evidence supporting the model mechanism using data on market-implied values of green and non-green patents.

この論文では、気候変動対策、まず第1に、カーボン・プライシングがマクロ経済に及ぼす影響を動学的一般均衡(DSGE)モデルを用いて計測しようと試みています。具体的には、欧州における排出権取引制度=EU-ETSを対象にして、炭素価格の上昇ショックはエネルギー価格を上昇させ、短期的にはマクロ経済の活動水準とインフレに大きなネガな影響を及ぼす一方で、長期的にはグリーン投資を促進し、総需要と総供給の両方を拡大させる効果を持つ可能性を示唆しています。加えて、第2に、米国の特許件数のデータを利用した実証分析に基づいて、グリーン景気循環という視点を持ち出して、グリーン経済への移行プロセスが一種の構造的ショックをもたらし、特許数で計測したグリーン・イノベーションは景気循環を平準化する可能性を指摘しています。この第2の観点が論文のタイトルになっているものと私は推測しています。結論として、カーボン・プライシングによる炭素価格の上昇という短期のネガなショックによるロスと長期的なグリーン投資の利得という複雑な関係を踏まえた上での政策立案の必要性を強調しています。
最後に、論文から Figure 2: Green and non-green patenting responses to business cycle shock を引用すると下の通りです。米国における非グリーン特許とグリーン特許がGDP成長率に及ぼすインパルス応答をプロットしています。

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2025年7月29日 (火)

近世における土地配分の平等性が日本の低賃金と不平等の原因か

英国マンチェスター大学の公文譲講師の論文 "How Equality Created Poverty in Pre-industrial Japan, 1600-1870"American Economic Journal に採択されています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。

続いて、ジャーナルのサイトから Abstract を引用すると以下の通りです。

Abstract
Despite well-developed economic institutions, Early Modern Japan (1600-1868), had among the lowest real wages according to available estimates, around half those in pre-industrial England. However, many Japanese peasants owned land unlike their mostly landless English counterparts, due to institutional differences in land inheritance. Using a Malthusian model, I show that this greater landownership equality paradoxically led to Japan's lower wages and GDP per capita. Evidence from Japanese village censuses supports the mechanism. If, as many historians believe, high wages in Western Europe spurred industrialization, Japan's failure to industrialize first could have been shaped by its unusual pre-industrial equality.

誠に残念ながら、ジャーナルのバージョンは入手できなかったので、ワーキングペーパーである "How Landownership Equality Created a Low Wage Society: Pre-industrial Japan, 1600-1870" を読んだ金総などは以下の通りです。すなわち、江戸期の日本は同時期の欧州と比較して、例外的に土地分配構造=土地所有が平等であったため、労働供給が限定的であり、そのため、都市部における商工業での労働賃金は長期に低位にとどまった、と指摘しています。ですので、土地所有の平等性が逆に低賃金の温存につながった、という主張です。専門外で十分に理解しているとはいい難いながら、私の理解する範囲でも、イングランドで高賃金のためにイノベーションが進み、産業革命の引き金のひとつになったとする議論がありますが、日本ではこういった土地所有の平等性のために賃金が上がらず、自律的な産業革命も生じなかった、という議論ではないか、と思います。イングランドでは、逆に、いわゆるエンクロージャーにより農地を追い出された農民が都市部に流れ込んで、産業化に必要な労働市場の拡大が進んだことは歴史的な事実といえます。私の専門外ながら、興味ある歴史、というか、経済史の論文でした。下のグラフはワーキングペーパー "How Landownership Equality Created a Low Wage Society: Pre-industrial Japan, 1600-1870" から Long-run Trends in Wealth Inequality を引用しています。土地に限定しない資産全体の平等度合いをジニ係数で表していますが、日本の資産分布について、例外となるドイツを除いて、比較的安定的に不平等の度合いが低い点が読み取れます。

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2025年7月28日 (月)

貧困削減における教育の役割を考える

パリ経済大学 Paris School of Economics の Gethin 教授の論文 "Distributional Growth Accounting: Education and the Reduction of Global Poverty, 1980-2019" が、経済学の学術誌の中でもインパクト・ファクターの高い Quarterly Journal of Economics に採択されています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。

続いて、ジャーナルのサイトから Abstract を引用すると以下の通りです。

Abstract
This article quantifies the role played by education in the reduction of global poverty. I propose tools for identifying the contribution of schooling to economic growth by income group, integrating imperfect substitution between skill groups into macroeconomic growth decomposition. I bring this" distributional growth accounting" framework to the data by exploiting a new microdatabase representative of nearly all of the world's population, new estimates of the private returns to schooling, and historical income distribution statistics. Education can account for about 45% of global economic growth and 60% of pretax income growth among the world's poorest 20% from 1980 to 2019. A significant fraction of these gains was made possible by skill-biased technical change amplifying the returns to education. Because they ignore the distributional effects of schooling, standard growth accounting methods substantially underestimate economic benefits of education for the global poor.

この論文では、世界154か国、約1,000万人の個人データを使用して、教育の拡大がなかった場合の反実仮想的な所得分布を構築し実際の所得分布と比較しています。そして、貧困削減に対する教育の役割として、教育は世界の経済成長の約45%、最貧層20%の所得の伸びの約60%を説明し、それだけではなく、極度の貧困の削減においても約35%から67%が教育による貢献と推定しています。要するに、教育の拡大が熟練労働者の供給を増加させ、所得格差を縮小する効果を持つことが示唆されています。いうまでもなく、教育が貧困を削減し、経済的な不平等を是正する要因と考えるべきです。したがって、公教育が貧困削減・不平等是正に重要な役割を果たしており、経済成長の促進にもつながることから、教育へのアクセスの向上や教育の質の改善が成長をさらに促進することが考えられる点を示唆しています。日本では、イノベーションなんかを念頭に置きつつ、トップ層への教育を重視する意見をよく見かけますが、この論文ではミドル層への最近40年間、すなわち、1980-2019年の間の教育の効果を強調しています。ということで、下のグラフは論文から FigureI - Education and the Distribution of Global Economic Growth, 1980-2019 を引用しています。横軸は所得でソートされており、所得の低い層から80%くらいまでの階層では十分大きな教育の所得増への貢献が見られます。ただ、90%を超える富裕層や超富裕層では教育要因はとても小さいことが見て取れます。まあ、そうなんでしょう。

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経済評論の日記 | | コメント (0)

2025年7月27日 (日)

熱烈応援 郷里の代表 京都国際高校

  
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京都国際高校が高校野球京都府予選を突破し、甲子園出場を決めました。地元の京都新聞のサイトからニュースの最初のパラだけを引用します。

【高校野球京都大会】京都国際高校が鳥羽高校にサヨナラ勝ち 2年連続全国制覇狙う
第107回全国高校野球選手権京都大会は27日、わかさスタジアム京都で決勝が行われ、京都国際が4-3でシード鳥羽にサヨナラ勝ちし、2年連続4度目の優勝を果たした。京都国際は、8月5日に兵庫県西宮市の甲子園球場で開幕する全国選手権大会に出場し、2年連続の全国制覇を狙う。

引用した記事をよく読めば理解できると思いますが、府立鳥羽高校はシード校8校に入っているのですが、昨年夏の甲子園で全国制覇した京都国際高校は京都府大会ではノーシードでした。スコアを見ても理解できるように、決勝戦らしく大接戦であり、私も勝負は紙一重と見ました。どちらが勝ってもおかしくない試合でした。ある意味で、昨夏の経験や伝統というものが京都国際高校に味方したのかもしれません。
京都国際高校が昨夏の全国制覇を果たした際にも話題になりましたが、前身は韓国学園であり、校歌は日本語と朝鮮語の両方があります。参議院選挙で「日本人ファースト」を掲げる極右政党が議席を伸ばしたこともあり、また、「反日」だ何だといった心ない投稿がSNSで増えたりするかもしれません。決して屈することなく、今夏も全国制覇目指してがんばってください。
そして、鳥羽高校の諸君もよくやりました。繰り返しになりますが、どちらが勝ってもおかしくないくらいで、実力は紙一重の差でした。高校野球ですので、来年はもうない選手もいるとは思いますが、我が勤務校の立命館大学を目指すのも一案かという気がします。

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2025年7月26日 (土)

今週の読書は気候変動の本をはじめ計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、東京大学気候と社会連携研究機構[編]『気候変動と社会』(東京大学出版会)は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書の解説にとどまらず、幅広く気候変動の社会的な影響について議論しており、特に、第3章の将来シナリオで用いられているモデルは、私の興味を強く引きつけました。雨宮純ほか『社会分断と陰謀論』(文芸社)では、日本をはじめとする国別の分断と陰謀論、さらに、テーマ別でトランスヒューマニズム、シンギュラリティなどに基づく分断と陰謀論を考えた後、日本への提言と、トランプ時代以降に顕在化した分断・陰謀論の社会心理への影響を総括しています。長迫智子・小谷賢・大澤淳『SNS時代の戦略兵器陰謀論』(ウェッジブックス)では、安全保障の観点から、米国大統領選挙をはじめとして陰謀論がどのように国家の意思決定を脅かす存在となっているか、そして、中露が陰謀論を戦略的に利用して我々の認知を攻撃している現状を明らかにしようと試みています。井上伸『民主主義のためのSNS活用術』(日本機関紙出版センター)では、Q&Aの形式により、労働組合運動をはじめとする民主的な運動や組織においてSNSをいかに活用して若い世代をはじめとするさまざまな国民各層の関心を引き付けることが出来るかについて、基礎から解説を加えています。物江潤『SNS選挙という罠』(平凡社新書)では、金の匂いを嗅ぎつけたインフルエンサーや動画配信者がバズるために何でもする、というSNSの本質を明らかにしつつ、フェイクや陰謀論が拡散しやすい構造、極端な言説が群れをつくる危険性を指摘しています。後半の戦後思想家・吉本隆明に関する部分はパスでいいと思います。松岡圭祐『タイガー田中』と『続タイガー田中』(角川文庫)は、ともに、イアン・フレミングの007シリーズのパスティーシュであり、1960年代前半の日本を舞台に、公安調査庁トップの田中虎雄ことタイガー田中と娘の田中斗蘭が007ボンドとともに、スペクターの首領ブロフェルドらと対決します。
今年の新刊書読書は1~6月に164冊を読んでレビューし、7月に入って先週までの18冊に今週の7冊を加えて、合計で189冊となります。今年も年間で300冊に達する可能性があると受け止めています。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2などでシェアしたいと考えています。

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まず、東京大学気候と社会連携研究機構[編]『気候変動と社会』(東京大学出版会)を読みました。編者は、東京大学に2022年に設置された学術分野横断型の連携研究機構であり、機構とサステイナビリティの観点から自然科学・社会科学・人文学にまたがる教育研究を展開しているようです。チャプターやセッションごとの著者は巻末に収録されています。東京大学出版会の出版物ということで、かなりの程度に学術書の色彩が強いのですが、気候変動というテーマで一般向けにも難解にならないように工夫されているようで、基礎的な知識さえあれば読み進むことはそう難しくないと思います。ただ、かなり多数の著者が執筆に参加していて、それだけに、統一性のない仕上がりになっている面はあります。必ずしも、章ごとで相矛盾する内容を含むわけではありませんが、もともとの気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書について、私はそれほど整理されたものではないという印象を持っていて、その大元に起因する部分もあります。それにしても、冒頭のはじめにp.ⅲに並べられた問いの多さには少しびっくりした、というか、的を絞りきれていないんではないかという気がします。まず、用語の点で、私も授業では日本で用いられる「地球温暖化」は国際的には狭い範囲しか認めていないようにみなされるので「気候変動」の方が格段にいいとオススメしていますが、本書ではさらに「気候変化」の方が好ましい、なんて主張を展開していたりします。私がもっとも興味を持ったのは第3章の将来シナリオの分析であり、特に、モデルについてはよく解説してあった気がします。例えば、その昔に私が読んだ名古屋大学大学院環境学研究科・名古屋学院大学(2011)「自立的地域経済・雇用創出のための CO2大幅削減方策とその評価手法に関する研究」において、地域気候政策・経済分析モデルの作成を論じていますが、私もモデル研究者として参考にしたい気がします。その昔に役所で研究官をしていたころには、こういった概括的なテキストを読み込んだ上でデータを集めてプログラムを組んで、簡単な推計数本で結果を出して論文を書いていたのですが、本書はそんな目的にはピッタリだという気がします。学術書ですから参考文献も豊富にリストアップしていて、一般読者はそこまで見ていないかもしれませんが、さすがに、東京大学出版会の本だという気がしました。最後の最後に、実は、私は二酸化炭素削減、というか、カーボンニュートラルには懐疑的で、日本や先進国では可能でも世界全体で見れば、CCS(二酸化炭素回収・貯留)やCCU(二酸化炭素回収・利用)が低コストで実現できないとムリだろうと思っているのですが、本書ではCCS/CCUについて、第5章の5.5でチョッピリ言及されているだけです。この点だけは違和感を感じましたが、たぶん、CCS/CCUなしでもカーボンニュートラルが可能であると考えているのだろうという気がします。その意味では、将来見通しに少し楽観的なバイアスがありそうです。

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次に、雨宮純ほか『社会分断と陰謀論』(文芸社)を読みました。著者は、ジャーナリストが1人のほかは研究者が多い印象です。ただ、いわゆる陰謀論や安全保障の研究者をはじめとして、地域研究の専門家も含まれています。本書は、3章から構成されていますが、各章が1人のチャプター執筆者だけに委ねられているわけではなく、章の中の各節ごとに執筆担当者で分割されていたりします。ただ、編者というものを置いていないようなのですが、それほど相矛盾する内容であったとは思えません。統一性が取れている、とまではいかないものの、同じ方向を向いている気はします。ということで、第1章では各国の分断と陰謀論に着目していて、日本、韓国、米国、フランス、トルコ、レバノンなど複数国家の政治的分断と陰謀論の関係を論じています。各国それぞれの文化的・歴史的背景から、どのようにして陰謀論が現地の政治対立や社会的不信と結びつき、差異化されて拡散されているかを分析しています。第2章では、テーマ別論考として、分断と陰謀論について議論しています。トランスヒューマニズム、シンギュラリティ、新世界秩序、シミュレーション仮説など、世界観を巡る陰謀論を取り上げています。また、アフリカにおける偽史と秘密結社説や、選挙不正や支配 Elite に関する陰謀論など、分断を煽る具体的テーマを体系的に整理。特にQアノンのグローバル展開と中国・ロシアとの関係にも注目しています。第3章では、今後の展望と対策として、日本社会における陰謀論の動向とその対抗策を検討しており、情報リテラシー教育やメディア環境整備による防御策に加え、アメリカの分断経験から得られる教訓として、集合的無意識と日常化した陰謀論現象への統合的アプローチが示されています。ごく簡単に、今後の影響予測と危機管理的視座も含めた総括的展望についても議論されています。どうして、一般大衆がついつい陰謀論を信じてしまうかについては、烏谷昌幸『となりの陰謀論』(講談社現代新書)を以前に取り上げた際に、人間の中にある「この世界をシンプルに把握したい」という欲望と、何か大事なものが「奪われる」という感覚、と指摘されていましたが、基本はその通りで、ツベルスキー&カーネマンの経済心理学などでいうところのシンプルに説明できるヒューリスティックに飛びつく人間心理、そして、これもツベルスキー&カーネマンのプロスペクト理論で明確にされたネガのロスを回避することが、ポジのゲインを獲得することよりも重要、という人間のマクロの心理現象なのだろうと私は考えています。

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次に、長迫智子・小谷賢・大澤淳『SNS時代の戦略兵器陰謀論』(ウェッジブックス)を読みました。著者は、順に、情報処理推進機構(IPA)サイバー情勢研究室研究員、日本大学危機管理学部教授、中曽根康弘世界平和研究所主任研究員であり、基本的に、研究者と考えてよさそうです。本書の冒頭p.5では「アメリカ大統領選挙をはじめとする各国事例において陰謀論がどのように国家の意思決定を脅かす存在となっているか、そして、中国やロシアといった安全保障上の懸念国が、陰謀論というナラティブを戦略的に利用して我々の認知を攻撃することで、どのように我々の自由民主主義的価値観を脅かしているかを示し、さらにはその脅威が日本までをも侵食していることを明らかにする。」と明記していて、外交や安全保障の観点から、SNSに流されているさまざまな陰謀論を認知銭暢樹として捉えて分析しています。本書は4章構成であり、第1章では、2020年と24年の米国大統領選挙を中心に、SNSを通じた陰謀論の拡散と民主主義への影響を分析し、Qアノンや選挙不正説などが、どのようにして信念体系となり、政治的分断を深めたかを考察しています。さらに、第2章が本書の核心であり、陰謀論を「認知戦」の観点から捉え直しています。すなわち、フェイクニュースやボットを用いた拡散により、国家や非国家アクターが意図的に世論を操作し、民主社会の信頼を揺るがす過程を分析しようと試みています。第3章では、中国とロシアの情報戦略を歴史的背景とともに分析していて、プロパガンダや情報攪乱、サイバー攻撃が国家戦略として組み込まれている中露の情報戦では、国内世論に対してあたかも内部から影響を浸透させるようにして、武力ではなく情報線で優位に立つ重要性を強調しています。第4章では、日本社会の情報空間の脆弱性に焦点を当てており、海外発の陰謀論や偽情報が日本国内で無批判に拡散される状況を指摘し、情報リテラシーの欠如がもたらすリスクと対応の必要性を強調しています。この第4章の最後のポイントは、つい最近の参議院選挙における極右勢力の伸長に結びついている可能性があり、今後も注視するべきと私は考えています。

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次に、井上伸『民主主義のためのSNS活用術』(日本機関紙出版センター)を読みました。著者は、国家公務員労働組合連合会(国公労連)の書紀であり、本書冒頭でも紹介している2019年の全労連パンフレット『労働組合活動におけるSNS活用のススメ』は私もダウンロードして持っています。また、著者ご本人がnoteで冒頭のはじめにと目次を公開していますので参考になります。本書は、Q&Aの形式を取っており、Q.19まであるのですが、最初の2/3くらいはいわゆる「そもそも論」で、SNSの基礎を初心者向けに解説しています。アカウント作成から始まって、一般論として、中高年はFacebookで、若年層はX(Twitter)などです。そして、核心のバズるポストのコツがQ.13に置かれています。Q.19のうち、ほぼほぼQ.12までが初心者向けといえます。その後、Q.15でエックスデモ(旧ツイッターデモ)でトレンド入りする方法、Q.16エックスでポストする有効な時間帯、などなどの実践的な内容が続きます。そういった中身については読んでいただくしかりません。今まで、SNSについては労働組合運動の立場からはネガな見方しかされてこなかったように私は受け止めていて、むしろ、労働組合に敵対的な姿勢を示したり、あるいは、右派的な見方を示すポストが多い印象があり、特に、ツイッタがイーロン・マスクによって買収されてからは、そういう見方が強まった気がしています。でも、ある意味で、SNSは言論の自由を保証するひとつの手段であり、労働組合や左派リベラルでも活用が広がっていいというのは当然です。特に、若者の労働組合離れが進んでいる現状では、若年層にリーチする手段としてSNSが一層重視されるべきだと私は考えています。本書に収録されているQ&Aで、Q.11に炎上が怖くて投稿できない、というのがあり、それに対する回答では、もしも炎上されて注目されたらむしろラッキー、といった趣旨の回答があります。まったくその通りです。でも、私が知る限り、公務員のお勤めする役所の労働組合とか、教職員で組織されている学校の労働組合とか、もともとが保守的な組織で、おそらくお勤めの方々も慎重姿勢でしょうから、こういった新しい教宣手段には手を出しにくい面があることは理解できます。でも、会議室で会議を開いたり、ホールを借りてシンポジウムを開催したりしても、関心ある人しか集まらず、多くの国民に訴えるには別の仕組みが必要です。それが、その昔はデモ行進でシュプレヒコールを上げたり、街頭宣伝だったりしたのですが、今ではそういったことがオンラインのSNSで広く訴えかけることが可能になっています。活用しないという手はありません。

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次に、物江潤『SNS選挙という罠』(平凡社新書)を読みました。著者は、東北電力、松下政経塾を経て執筆活動をしているらしいです。私はこの著者の本は同じ出版社の平凡社新書で『デジタル教育という幻想』を読んでいます。本書では、おそらく、直接の契機は昨年2024年11月の兵庫県知事選挙ではないかと私は想像します。常識的な範囲で斉藤知事が再選されると考えていた人は少なそうな気がしますが、それでも再選されて、現在も知事の職に居座り続けているのは広く知られている通りです。そういった選挙におけるSNSの利用については、本書では既存の大手マスメディアに嫌われるところから話を始めていますが、少しズレがあると感じます。しかも、SNS選挙を称して、ストーリー参加型というのはいいとしても、ハッキリいって、SNSというのは選挙であれ、何であれ、バズった者勝ちの世界だという認識は薄いようです。ですから、下品であろうと、猥褻であろうと、注意を引き付ける、すなわち、自由競争の下でのアテンション・エコノミーの世界である点は認識されるべきです。本書で、p.25で「『反マスコミ』『金もうけ』『政治思想』の三つがないまぜになった奇妙な風は、確かな得票数をもたらしていきます」という中で2つ目の「金もうけ」だけでが正しいのではないかという気がします。特に、この第1章では、金の匂いを嗅ぎつけたインフルエンサーや動画配信者が、思想の自由市場でバズるために何でもする、という本質に関する議論が、ちょっと違う表現ながら、なされています。それをストーリー形成に持っていくのは難があります。要するに、繰り返しになりますが、バズればそれでいいわけで、バズるためには下品であっても、ポリコレから大きくハズレていようとも、何の問題もないというのがSNSのひとつの特徴です。ですから、フェイクや陰謀論が拡散しやすい構造、極端な言説が群れをつくる危険があるわけです。。後半では戦後思想家・吉本隆明それを見極めるのが国民の民度や品位であるハズなのですが、経済力などといった量の退潮ともに、そういった国民のクオリティが大きく落ちているのは確かです。なお、後半で吉本隆明を持ち出していますが、この吉本隆明以下の後半はそれほど読む価値がありません。最後に、SNSは単に情報を流通させる場というだけではなく、分断にも、連帯と共感にも用いることができます。それは、あたかも、包丁が料理に使える一方で、使いようによっては、殺傷能力を持ちかねないのと同じです。そのSNSをエンタメだけではなく、いかに民主主義に活用できるかを考える時が来ているような気がします。

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次に、松岡圭祐『タイガー田中』『続タイガー田中』(角川文庫)を読みました。著者は、えんため小説家なのですが、経歴そのほか顔写真まで非公開で謎の作家さんです。本書は、イアン・フレミング原作の007ジェームズ・ボンドのシリーズの『007は二度死ぬ』に登場する公安調査庁トップの田中虎雄ことタイガー田中と娘の田中斗蘭、もちろん、ボンド本人の3人を主人公とするドンパチのスパイ小説です。『タイガー田中』の方は、『007は二度死ぬ』の後日譚であり、ボンドと同じように2度死ぬブロフェルドが生きていて、ボンドが田中父娘とともに対決します。『続タイガー田中』の方は、『黄金の銃を持つ男』の後日譚であり、これまた2度死ぬドクター・ノオが生きていて田中父娘やボンドと対決します。舞台はいずれも日本国内、ないし、まだ米国から返還されていない沖縄であり、時代は1960年代前半、1回目の1964年に開催された東京オリンピックをはさむ時期です。私自身は在外公館で情報収集活動にあたった経験から、スパイ小説としては007シリーズのような派手なアクション、というか、オペレーション=作戦行動のあるスパイよりも、柳広司ジョーカー・ゲームのシリーズに親近感を覚えるのですが、やっぱり、映画化などのビジュアライズを考慮に入れると、こういったドンパチものもいいと思います。秀逸だったのは、小説の中のフィクション部分と歴史的な事実の部分を重ね合わせているところです。ただ、逆に残念だったのは、日本が舞台になっているので、Q課の作成したマシンがまったく登場しないところです。なお、私は映画はいくつか見ていますが、イアン・フレミングの原作はまったく読んでいません。でも、この2冊は十分楽しめます。もっとも、007シリーズに何の基礎知識もなければ苦しいかもしれません。さらに、007のパスティーシュとしては、私はジェフリー・ディーヴァーの『白紙委任状』を読んだことがありますが、007パスティーシュとして松岡作品は完全にディーヴァーを超えていると思います。ホロヴィッツの『逆襲のトリガー』は読んだことがないので、何ともいえません。

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2025年7月25日 (金)

徐々に上昇率を縮小させる6月の企業向けサービス価格指数(SPPI)

本日、日銀から6月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月4月の+3.4%からわずかに縮小して+3.3%を記録しています。ただ、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIの上昇率は前月から横ばいの+3.5%の上昇となっています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、6月は前年比3.2%上昇 伸び鈍化
日銀が25日に公表した6月の企業向けサービス価格指数速報は前年比で3.2%上昇し、5月の3.4%からは減速した。前月比では0.1%低下した。2カ月連続での前月比下落は2021年8-9月以来。日銀は今後とも「足元の物価の基調を注視する」としている。
内訳をみると、諸サービスは、全体で前年比4.0%上昇だったが、前月の4.6%から伸びが縮小した。そのうち宿泊サービスは7.5%上昇したものの、5月の16.5%上昇から伸び率が大幅に鈍化した。日銀の担当者は、インバウンドの外国人旅行者数が頭打ちになっていることが最大の要因とみている。
広告は同1.9%上昇、金融・保険は1.5%上昇、不動産も2.5%上昇したがいずれも前月より伸び率が鈍化した。
一方、リース・レンタルは2.6%、情報通信2.7%ともに、前月より伸び率を拡大した。
東短リサーチ社長でチーフエコノミストの加藤出氏は「今後とも物価と賃金の好循環を達成できるかはサービス価格がカギを握っている」とし「基調的なインフレの見通しが確認できれば、日銀は10月にも動くだろう」との見方を示している。

注目の物価指標だけに、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、2024年12月の前年同月比上昇率から再び+4%台となり、2025年4月統計まで+4%超の上昇率が続いた後、5月統計で+3.3%に減速し、6月統計でさらに+2.9%に急速に上昇幅を縮小させています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準としてコンスタントに上昇を続けている一方で、今年2025年四月までは国内企業物価指数ほど上昇率が大きくなかったのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、今年2025年3-4月に+3.5%の直近での上昇率のピークを記録してから、5月統計、さらに、本日公表の2025年6月統計までジワジワと上昇率を縮小させていますが、まだ+3%台の上昇率を続けています。2024年10月からカウントしても9か月連続の+3%台の上昇率です。日銀物価目標の+2%を大きく上回って高止まりしているわけです。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なるものの、+3%超の上昇率はデフレに慣れきった国民や企業のマインドからすれば、かなり高い物価上昇と映っている可能性が高いと考えるべきです。人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率のサービス価格であっても+3%近い上昇率を示しています。すなわち、人件費をはじめとして幅広くコストアップが価格に転嫁されている印象です。その意味では、政府や日銀のいう物価と賃金の好循環が実現しているともいえますが、実態としては、物価上昇が賃金上昇を上回っており、国民生活が実質ベースで苦しくなっているのは事実と考えざるをえません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて6月統計のヘッドラインSPPI上昇率+3.2%への寄与度で見ると、機械修理や土木建築サービスやその他の技術サービスといった諸サービスが+1.53%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分近くを占めています。諸サービスのうち、引用した記事にもあるように、宿泊サービスは5月の+16.5%の上昇から6月には+7.5%に大きく縮小したとはいえ、引き続き高い伸びが続いています。加えて、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやアクセスチャージなどといった情報通信が+0.60%、さらに、SPPI上昇率高止まりの背景となっている項目として、昨年2024年10月から郵便料金が値上げされた郵便・信書便、石油価格の影響が大きい道路貨物輸送、さらに、サードパーティーロジスティクスなどの運輸・郵便が+0.49%、ほかに、不動産+0.23%、リース・レンタルも+0.15%、広告も+0.09%などとなっています。

最後に、好み説の年中行事的なものとして、中央最低賃金審議会 (目安に関する小委員会)が7月下旬に頻繁に開催されるようになっています。7月22日付けの朝日新聞の記事「食料の消費者物価、伸び率6.4% 最低賃金改定で厚労省が指標提示」というのも見かけました。私は最低賃金をもっと引き上げるべきだと考えていますが、物価への影響とともに、今後の議論の方向が気がかりです。

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2025年7月24日 (木)

OECD Compendium of Productivity Indicators 2025 のグラフから日本の労働生産性を見る

先々週の7月10日に、先進各国が加盟する経済協力開発機構(OECD)から OECD Compendium of Productivity Indicators 2025 が公表されています。OECDのサイトにある Executive summary から簡潔に2点だけ引用すると以下の通りです。

Executive summary
  • Productivity growth remained subdued in 2023 and 2024 amid a shifting geopolitical and economic landscape
  • Productivity performance varied across countries, industries and firms

基本的に、統計集、というか、データ=indicatorをグラフ化したもので構成されており、分析や政策提案といったものは含まれていません。下に、リポート p.40 から Figure 4.6. Labour productivity in 2023 を引用しておきます。まあ、購買力平価(PPP)で計測した日本の1時間当たり労働生産性は先進国平均から見てやや低い、というのは緩やかなコンセンサスがあるところかもしれません。

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2025年7月23日 (水)

帝国データバンク「カレーライス物価指数」は5月がピークか?

とても旧聞に属するトピックですが、7月10日に帝国データバクから「カレーライス物価指数」(2025年5月)が明らかにされています。まず、帝国データバンクのサイトからSUMMARYを3点引用すると以下の通りです。

SUMMARY
  • 2025年5月のカレーライス物価は1食441円(前年同月323円)となった。
  • 前年から118円上昇し、過去10年で最高値となった。
  • 最新の物価動向に基づく2025年6月の予測では1食438円と、15カ月ぶりに前月から「値下がり」に転じる可能性が出ている。

続いて、帝国データバンクのサイトから 「カレーライス物価」推移(全国、月別推移) を引用すると下の通りです。

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ということで、まず、5月の指数を考えると、帝国データバンクでは、全体の約5割を占める「カレー具材(肉・野菜)」が219円を占め、前年同月の200円から+19円の値上がり、前月から4円値上がりし、過去10年で最高値を更新した、と指摘しています。中身については、ジャガイモの価格が大幅に上昇したほか、輸入牛肉の価格が高止まりした、ということです。「ごはん(ライス)」価格も、足元でコメの店頭価格が高止まりしていることを背景に、前年同月(94円)からは+98円・約2倍の192円と大幅に上昇し、過去最高値を更新した、と報告されています。「カレールー」(26円)についても、市販ルーが値上げされたことが要因で、2023年7月以来22カ月ぶりに上昇したということです。
ただし、22025年6月については、5月の441円からやや下落し、1食438円を帝国データバンクでは予想しています。主な上昇要因となるコメ価格が、備蓄米の放出を背景に銘柄米で上昇ペースが鈍化した一方、カレーライス物価を構成する野菜類(ニンジン・ジャガイモ・タマネギ)の価格が4月から一転して大幅に低下する見通しで、カレーライス物価全体としては1年3か月ぶりに前月から値下がりするためであると指摘しています。さらに、備蓄米を含む複数原料米などを使用すればさらに価格は低下し、さらにさらにで、随意契約備蓄米を使用すればさらにやすくなる可能性が大きいと指摘しています。

さて、6月のカレーライス価格はどのように算出されますことやら。

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2025年7月22日 (火)

インテージ「夏休みに関する調査」結果やいかに?

とても旧聞に属するトピックですが、7月10日にネット調査大手のインテージから「夏休みに関する調査」の結果が明らかにされています。まず、調査結果のポイントを5点引用すると以下の通りです。

[ポイント]
  • 夏休みの予算は平均57,284円。2023年の60,146円をピークに2年連続の減少。「物価高・円安影響」7割
  • 予定は猛暑影響で「キャンプ/バーベキュー」「公園」「テーマパーク」などの屋外アクティビティの減少が顕著
  • 猛暑でなかった場合の理想と現実は「テーマパーク」(3.5倍)「遊園地」(3.2倍)「大阪・関西万博」(2.4倍)でギャップ
  • 海外旅行の予算は平均401,707円で4万円超減少(前年比90.7%)。「韓国」への渡航増加が予算を押し下げ
  • 海外旅行意向者の半数は1ドル「100円未満」「110円未満」を希望。最近の為替相場との開き大きく

続いて、インテージのサイトから 夏休みにかける予算平均 のグラフを引用すると下の通りです。

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この夏休みのご予算は、どうしても、エコノミストとして個人消費の行方を考える上で気にかかるところです。2023年5月に新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染法上の分類が変更されてから、2023年夏休みにかける予算が増加しましたが、その後は、物価上昇とともに財布のヒモが固くなっているのが見て取れます。明らかに、実質の可処分所得の減少を背景にした動きと考えるべきです。なお、グラフなどは引用しませんが、インテージのリポートでも、最近の物価高や円安が夏休みの予定に「影響する(「かなり影響する」または「やや影響する」)」と回答したのは、全体の70.1%に上ると指摘しています。

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続いて、インテージのサイトから 夏休みにかける予算平均 のグラフを引用すると下の通りです。「自宅で過ごす」だけが理想を現実が上回っています。他のレッジャー的な過ごす方はことごとく現実が理想を下回っているのが見て取れます。ギャップがもっとも大きかったのは「テーマパーク」で予定者の3.5倍の希望がありました。続いて、「遊園地」が3.2倍、「大阪・関西万博」が2.4倍でギャップが大きく、屋外で過ごす時間が長いと思われるアクティビティが猛暑のために回避されている、という現実が見えてきます。

最後に、グラフなどは引用しませんが、海外旅行にかける予算平均は、2023年513,987円、2024年443,058円、そして、今年2025年401,707円と漸減傾向にあります。円安ですからコストがかさむように考えるのが普通ですが、インテージでも、渡航先は「韓国」が23.7%でトップと指摘していますので、たぶん、近場で短期間しか過ごさない海外旅行にシフトしているのではないか、と私は想像していますます。

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2025年7月21日 (月)

東京ドームで3タテは難しいか

  RHE
阪  神012020000 5111
読  売000000501x 6111

【神】伊藤将、ネルソン、伊原 - 坂本
【読】井上、ケラー、石川、中川、田中瑛、マルティネス - 甲斐、岸田

ジャイアンツに逆転負けでした。
小幡選手は昨日に続いて、しかも、2打席連続でホームランをかっ飛ばし、大山選手も1000本安打を達成した後、ホームランでさらに花を添えましたが、結局、逆転負けでした。まあ、ジャイアンツ本拠地の東京ドームでそうそう3タテするは難しいのかもしれません。結果的には、単なるサービスになったのかもしれません。
オールスター出場選手は楽しんで、出場しない選手はしっかり休んで下さい。

オールスター後も
がんばれタイガース!

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ミスター・ドーナツに行ってディズニーとのコラボのドーナツで昼食

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今日は近くのミスター・ドーナツに行ってドーナツで昼食です。毎年、この時期はポケモンとコラボしたドーナツなのですが、今年はディズニーのようです。ちょっぴり残念。
向こう側の本は東京大学の気候と社会連携研究機構[編]『気候変動と社会』(東京大学出版会)です。近く、読書感想文をポストしたいと思います。

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2025年7月20日 (日)

6番小幡選手が全得点をたたき出してジャイアンツに連勝

  RHE
阪  神010100000 250
読  売000100000 140

【神】デュプランティエ、岩貞、湯浅、及川、石井、岩崎 - 坂本
【読】赤星、横川、ケラー、石川、田中瑛、バルドナード - 小林、岸田

小幡遊撃手が全得点をたたき出してジャイアンツに連勝でした。
小幡選手は2回にソロホームラン、4回の満塁機に犠牲フライと2打点でした。先発デュプランティエ投手は無安打無失点ながら、コントロールが定まらずに四死球を連発し、3回で交代でした。4回こそ岩貞投手が打たれて失点しましたが、後は、鉄壁のリリーフ陣で逃げ切りました。明日も楽しみです。

明日は3タテ目指して、
がんばれタイガース!

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2025年7月19日 (土)

今週の読書は計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、中山淳雄『キャラクター大国ニッポン』(中央公論新社)では、IP(知的財産)ビジネスに着目し、日本で1980年からIPビジネスに成功した25のキャラクターについて取り上げています。最大規模の経済圏は私の大好きなポケモンです。ポケモン経済圏は15兆円に上るとしています。呉勝浩『法廷占拠』(講談社)では、前作『爆弾』の裁判が拳銃を持った立てこもり犯に占拠され、警視庁特殊犯捜査第1係の係長である高東柊作が立てこもり犯と交渉に当たりますが、被告人となっているスズキタゴサクが拉致されます。続編があることが示唆されています。木村元『学校の戦後史 新版』(岩波新書)では、デジタル化、少子高齢化、多様化・多文化化が大きく進んだ最近の教育現場を戦後史の中で考え、単に質の高い労働力を供給する機関としてだけでなく、学校の果たすべきさまざまな役割について議論しています。C.S. ルイス『ナルニア国物語6 魔術師のおい』(新潮文庫)は、ナルニアの天地創造の物語であり、人間界の時代としてはペベンシー家の4人きょうだいがナルニアを訪れた20世紀初頭からさかのぼること約50年の19世紀半ばとなっています。ロンドンから異世界を訪れたディゴリーとポリーがライオンによる新しい国の創造に立ち会います。小池壮彦『幽霊物件案内』(文春文庫)は、この季節にふさわしい怪談集であり、場所につく地縛霊の幽霊についての短編やショートショートを収録しています。私は霊感もなく幽霊に遭遇したことはありませんし、超常現象にも縁がないのですが、季節の風物詩として怪談を楽しんでみました。
今年の新刊書読書は1~6月に164冊を読んでレビューし、7月に入って先週と先々週の13冊に今週の5冊を加えて、合計で182冊となります。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2などでシェアしたいと考えています。

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まず、中山淳雄『キャラクター大国ニッポン』(中央公論新社)を読みました。著者は、エンタメ社会学者、Re entertainment 代表取締役だそうです。本書では、IP(知的財産)ビジネスに着目し、日本で1980年からIPビジネスに成功した25のキャラクターについて取り上げています。まず、本書冒頭ではIP(知的財産)ビジネスについて、日本では2002年の当時の小泉内閣において「知的財産立国宣言」が打ち出されたころから始まった一方で、米国では1980年代から始まっており、最初はハリウッド映画の世界展開である、と指摘しています。ディズニーなんて戦前から活動していますし、直感的にもっと早いような気がしていましたが、IPビジネスとしてはそうなのかもしれません。本書では、冒頭3章で昭和のキャラクター史、平成キャラクター史の漫画編とゲーム編をそれぞれ展開し、2例だけ欧米IPのグローバル展開を取り上げ、その後のメディアミクスにおけるユーザー発見・共創型のIPや戦略的IPビジネスとして、編年体の1-3章と同じように、いくつかのキャラクターに着目しています。まず、日本で最初のIPビジネスとして、1954年の『ゴジラ』を位置づけています。『鉄腕アトム』は1952年スタートなのですが、アニメ化されたのが1963年で、『ゴジラ』が先行しているようです。昭和では、『ゴジラ』に続いて、『ウルトラマン』、『仮面ライダー』、そして、『アンパンマン』、さらに、『ドラえもん』、『ハローキティ』、『ガンダム』と続きます。平成以降の生まれであっても、これらのキャラクターを耳にしたことはあるのではないかと思います。そして、平成キャラクターでは、漫画編で『ドラゴンボール』、『クレヨンしんちゃん』、『One Piece』、ゲーム編で『スーパーマリオ』、『ファイナルファンタジー』、『ポケモン』、『妖怪ウォッチ』、『ベイブレード』と続きます。最後の『ベイブレード』は電子ゲームではない、いわゆる玩具、おもちゃです。我が家の子どもたちの世代によく流行しましたので、基本、日本ではなくジャカルタで遊んだ記憶があります。私は前々から日本の比較優位はものづくりの製造業ではなく、漫画などのサブカルにあると考えています。まさに、本書で取り上げられているようなキャラクターを中心に据えた知的財産ビジネスです。その中でも、特に、『ポケモン』という巨大な存在を改めて感じました。もう25年ほども前に一家でジャカルタに赴任していた際、まだ未就学児だった子どもたちがポケモンに接して虜になりました。未就学児ですから文字を読めるわけではないので、『コロコロコミック』に連載されていたような漫画は楽しむことができず、もっぱらアニメでした。サトシがピカチュウを連れてアチコチでバトルを挑み、ロケット団が妨害工作をする、というきわめてワンパターンなアニメだったのですが、その年齢の子どもには十分に楽しめる内容でした。帰国して小学生になって携帯ゲーム機でゲームを楽しむようになり、そのうちにポケモンからは子どもたちが卒業し、親の私だけがまだ熱中しているような次第です。それにしても、15兆円経済圏とはびっくりです。

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次に、呉勝浩『法廷占拠』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、前作が『爆弾』ですから、本書のサブタイトルは『爆弾2』となっているのは表紙画像の通りです。ただ、ストーリー的には前作を特に読んでおく必要はなさそうな気がします。スズキタゴサクのキャラについて慣れておくために前作を読んだ方がいい、という程度の前作とのつながり、と私は考えています。ということで、タイトル通りに法廷が舞台になっていて、スズキタゴサクが被告人となっている裁判が東京地裁104号法廷で開廷中に、傍聴席の中の遺族グループから拳銃を持った青年が立ち上がり、被告のスズキタゴサクはもちろん、100人ほどの傍聴人や裁判官・検事、あるいは、ほかの裁判関係者を人質にして立てこもります。こういった裁判で見かけることもある遺影とともに持ち込まれた骨壺に拳銃や爆弾が隠されていたのではないか、との疑惑です。青年の名は柴咲奏多であり、彼の要求は「ただちに死刑囚の死刑を執行せよ」というものです。スズキタゴサクの事件のあった警視庁野方署から、前作でも登場していた倖田沙良が証言のために出廷しています。そして、警視庁特殊犯捜査第1係の係長である高東柊作が立てこもり犯である柴咲奏多との交渉に当たります。ということで、出版社のサイトでは、「籠城犯vs.警察vs.スズキタゴサクが、三つ巴の騙し合い」というキャッチフレーズとなっているのですが、三つ巴はやや誇大表現ではないか、と私は考えています。冒頭はテンポよく進行している一方で、スズキタゴサクは法廷が占拠されている段階では特に動きを見せていません。ですから、通常通りに、立てこもり犯の柴咲奏多 vs 警視庁、という対立的な構図で進みます。この構図に収まらないスズキタゴサクは前作と同じ人を食ったような飄々としたキャラクターを続けているだけで、特に、何か目立つ存在感を示したわけではありません。もちろん、いつまでも法廷占拠を続けるのは常識的にムリがありますので、何らかの段階で脱出が図られるわけですが、その詳細については読んでみてのお楽しみです。フィクションのエンタメ小説ですから、現実にはほぼほぼありえないような展開を楽しめます。加えて、さらに続編があることを十分示唆する結末になっています。私の感想としては、こういったシリーズについては、例えば、ホリー・ジャクソンの『自由研究には向かない殺人』からのシリーズとか、夕木春央の『方舟』と『十戒』が典型的です。段々とクオリティが落ちていくシリーズが少なくありませんが、本書はめずらしく前作と同等のクオリティを保っています。

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次に、木村元『学校の戦後史 新版』(岩波新書)を読みました。著者は、青山学院大学コミュニティ人間科学部特任教授、一橋大学名誉教授であり、ご専門は教育学と教育史のようです。本書は「新版」であり、10年前に旧版が出版されています。したがって、2015年以降についての分析が新たに加えられています。最近10年で教育の現場は大きく変わり、特に、デジタル化、少子高齢化、多様化・多文化化が大きく進んだのは衆目の一致するところだと考えられます。日本の学校については、本書でも指摘されているように、近世江戸期に庶民向けの寺子屋、また、各領主の下に藩行政を支える藩士の教育をつかさどる藩校などの整備が進み、明治期に義務教育としての学校設置が一気に広がっています。義務教育黎明期のご苦労がしのばれるエピソードもいくつか本書には収録されています。そして、学校では設立当初は独自カリキュラムに沿った特色ある教育活動が実践されていったのが、段々と統制色を強めて教員の教育指導の画一化が図られます。その基礎として、学校が経済社会に対して労働力、質の高い労働力を供給する機関として重視された点が指摘されています。はい、この点は私も同意しており、いつまでも勉強を続けているのではなく、いつかは経済社会に出るわけですから、学校とはある種のその準備機関とも考えられます。もちろん、単に経済社会における生産性を高めるだけではなく、有意義で楽しい人生を送るための準備機関でもあります。ただ、1984年中曽根内閣の時に設置された臨時教育審議会(臨教審)が大きな転機となって、そういった市場性を求める新自由主義的な教育政策の色彩が強まったのは、まさに、本書で考察している通りです。同時に、このころ1980年代から格差の拡大が始まり、学校におけるスクール・カーストが形成され、それ以前からあったであろういじめがひどくなった点も見逃せません。加えて、最近数年で教育のデジタル化が大きく進み、GIGAスクール構想なんかは、私はむしろ格差を拡大しかねないおそれがあると考えています。格差だけでなく、現在の教育にはいくつかの批判がつきまとっており、そういった批判を考える上でもこういった歴史的な分析が必要です。学校や教育の戦後を考える上でとてもいオススメの1冊です。

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次に、C.S. ルイス『ナルニア国物語6 魔術師のおい』(新潮文庫)を読みました。著者は、アイルランド系の英国の小説家であるとともに、長らく英国ケンブリッジ大学の英文学教授を務めています。英語の原題は The Magician's Nephew となっています。1955年の出版です。本書も、小澤身和子さんの訳し下ろしにより新潮文庫で復刊されているナルニア国物語のシリーズであり、第6巻となります。広く知られている通り、次の第7巻『さいごの戦い』でシリーズ終結ということになります。とはいえ、第6巻であるのは著者によって出版されたのが6番目という意味で、本書の時代背景は第1巻『ライオンと魔女』のずっと前であり、ナルニアの天地創造の物語となっています。人間界の時代としてはペベンシー家の4人きょうだいがナルニアを訪れた20世紀初頭からさかのぼること約50年の19世紀半ばということになります。ナルニアが創生される前の異世界を訪れるのはポリー・プラマーとディゴリー・カークであり、ロンドンに住んでいるお隣同士の遊び友達です。ディゴリーの伯父で錬金術師のアンドリュー・ケタリーが魔法の指輪を作り出し、ディゴリーとポリーが異世界に飛ばされるわけです。異世界の滅びの都チャーンの女王ジェイディスを目覚めさせて、何と、シリーズ初の新機軸なのですが、ディゴリーとポリーがロンドンに戻る際に、女王ジェイディスがついて来てしまい、ロンドンはちょっとした混乱を生じます。そして、ジェイディスを元の世界に戻そうとディゴリーとポリーが奮闘するのですが、また別の異世界に迷い込んでしまいます。そこでは、ライオンが新しい国を創造しようとしているところでした。また、ディゴリーとポリー以外にも、アンドリュー伯父さん、また、ロンドンから別の人物がナルニア創世記の異世界に迷い込みます。そして、後のペベンシー家の4人きょうだいがナルニアを訪れた20世紀初頭に洋服箪笥のある家に住んでいたカーク教授、さらに、たぶん、ナルニアのカスピアン王子のご先祖と考えられる初代の王と女王が本書で明らかになります。

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次に、小池壮彦『幽霊物件案内』(文春文庫)を読みました。著者は、作家・ルポライター・怪談史研究家だそうです。本書は2000年に出版された単行本に、いくつかの追加をして、25年を経て文庫化されています。タイトルから軽く想像される通り、この季節にふさわしい怪談であり、ホテルやアパートといった場所に関係する怪奇を取り上げています。すなわち、各章で、ホテル、住居、学校、会社、病院、飲み屋、喫茶店、他、の7章構成となっています。さらに、巻末に「東京近郊怪奇スポット」十選が添えられています。基本的に、短編集、というか、中には数行で終わるようなショート・ショートよりもさらに短い小編も含まれています。幽霊の本質がどういうものかについて、私はまったく見識を持ち合わせませんが、どうも、少なくとも本書での基本は地縛霊のようです。すなわち、病院に住み着いていた幽霊が、病院が建替えをして別の場所に移って、元の場所が駐車場になった際、転地した後の病院に出るのではなく、病院のあった同じ場所の駐車場で何かしているらしいです。いずれにせよ、私は科学の一領域である経済学を専門とする大学教員であり、幽霊などの存在はまったく信じていませんし、したがって、なのかどうか、霊感のようなものは持ち合わせておらず、70年近くなった人生で幽霊に遭遇したことはありませんし、金縛りにあったなどの超常現象にも縁がありません。でも、この季節にはこういった怪談を楽しむくらいの心の余裕は持ちたいものだと思っています。

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2025年7月18日 (金)

4か月ぶりに上昇率が鈍化した6月の消費者物価指数(CPI)

本日、総務省統計局から6月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+3.7%からやや減速して+3.3%を記録しています。伸び率鈍化とはいえ、まだまだ+3%台のインフレが続いています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から39か月、すなわち、3年余り続いています。ヘッドライン上昇率も+3.3%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+3.4%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

6月消費者物価上昇3.3%に鈍化 全国、ガソリン定額補助が伸び抑制
総務省が18日発表した6月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合が111.4となり、前年同月と比べて3.3%上昇した。5月の3.7%を下回り、4カ月ぶりに伸び率が鈍化した。ガソリンの小売価格を抑えるための定額補助が伸びを抑えた。コメ類の上昇幅は100.2%だった。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は3.3%の上昇だった。
エネルギー価格全体は2.9%上がり、5月の8.1%上昇からは伸び率が大幅に縮んだ。ガソリンが1.8%下がった。5月は4.8%上昇だった。下落は8カ月ぶりとなる。5月22日から1リットル当たり最大10円の定額補助が始まった影響を受けた。直近の原油安も反映された。
電気代は5.5%上昇だった。5月の11.3%上昇から伸びが縮小した。都市ガス代も2.8%上昇したが、5月の6.3%からは縮小した。燃料価格の下落などの影響を受けた。
生鮮食品除く食料は8.2%の上昇だった。8.8%上昇だった23年9月以来、1年9カ月ぶりの高い伸びとなった。6月に価格改定したチョコレートが39.2%値上がりした。ブラジルの天候不良で出荷量が減少したコーヒー豆が40.2%上がるなど、幅広い品目が上昇した。
コメ類は100.2%上がった。5月の101.7%からは上昇幅が縮小したが、引き続きコメ価格は1年前の2倍の水準にある。CPI上のコメ類には備蓄米は含まず、コシヒカリといった銘柄米の値動きを反映する。
コメをつかったおにぎりは19.1%、外食のすしは6.5%それぞれ上昇した。
携帯電話の通信料は11.9%のプラスだった。通信大手による新料金プランの導入などがあった。
水道代は2.3%値下がりした。東京都の水道の基本料金無償化の影響が出た。公立の高等学校授業料は94.1%下落した。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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私が確認した範囲で、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.4%ということでした。ただ、引用した記事には「3.3%」となっているのは不明です。いずれにせよ、実績の+3.3%の上昇率は予想の範囲内といえます。また、エネルギー関連の価格については、引用した記事にもある通り、5月22日から始まった「燃料油価格定額引下げ措置」によるガソリン価格の引下げなどが反映されています。この制度の詳細については、当然ながら、資源エネルギー庁の資料「新たな燃料価格支援策 (燃料油価格定額引下げ措置) について」が詳しいです。品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、食料価格の上昇が引き続き大きくなっています。すなわち、先月4月統計では生鮮食品を除く食料の上昇率が前年同月比+7.7%、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度+1.84%であったのが、6月統計ではそれぞれ+8.2%、+1.96%と、一段と高い上昇率と寄与度を示しています。寄与度差は+0.11%ポイントあります。他方で、政府の「燃料油価格定額引下げ措置により、エネルギー価格の上昇率はやや鈍化しました。すなわち、エネルギー価格については5月統計で+8.1%の上昇率、寄与度+0.63%でしたが、本日公表の6月統計では上昇率+2.9%、寄与度+0.23%となっています。したがって、生鮮食品を除く食料とエネルギーだけで6月のヘッドラインCPI上昇率3.3%のうちの+2.2%ポイントほどを占めることになります。特に、食料の中で上昇率が大きいのはコメであり、生鮮食品を除く食料の寄与度+1.84%のうち、コシヒカリを除くうるち米だけで寄与度は+0.39%に達しています。引用した記事にもあるように、上昇率は前年同月比で+100.2%ですから、昨年から2倍に値上げされている、ということになります。また、電気代も高騰を続けており、5月統計の+11.3%の上昇ほどではありませんが、6月も+5.5%の上昇と、消費者物価平均を上回る上昇が続いています。
多くのエコノミストが注目している食料の細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+8.2%、寄与度+1.96%に上ります。その食料の中で、これも繰り返しになりますが、コシヒカリを除くうるち米が2倍超に値上がりしていて、寄与度も+0.39%あります。備蓄米が出回り始めたとはいえ、銘柄米はまだまだ高止まりしています。うるち米を含む穀類全体の上昇率は+29.0%、寄与度は+0.67%に上ります。コメ価格の推移は下のグラフの通りです。コメ値上がりの余波を受けたおにぎりなどの調理食品が上昇率+6.9%、寄与度+0.26%、同様にすしなどの外食も上昇率+4.5%、寄与度+0.22%を示しています。主食のコメに加えて、カカオショックとも呼ばれたチョコレートなどの菓子類も上昇率+9.0%、寄与度+0.24%に上っています。特に、その中でも、チョコレートは上昇率+39.2%、寄与度0.14%を示しています。ほかの食料でも、鶏肉などの肉類が上昇率+6.0%、寄与度+0.16%、コーヒー豆などの飲料も上昇率+8.7%、寄与度0.15%、などなどと書き出せばキリがないほどです。食料やエネルギーは国民生活に欠かせない基礎的な財であり、実効ある物価対策とともに、価格上昇を上回る賃上げを目指した春闘の成果を期待しています。
最後に、総務省統計局の小売物価統計を元にした農林水産省資料「小売物価(東京都区部)の推移(総務省小売物価統計)」から引用した コメの小売価格 のグラフは下の通りです。昨年2024年年央くらいまで長らく5キロで2000~2500円のレンジにあったのですが、最近時点ではコシヒカリは5000円を超えており、コメの猛烈な価格上昇が見て取れると思います。

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2025年7月17日 (木)

祇園祭の山鉾巡行を見に行く

祇園祭の山鉾巡行を海外からの留学生大学院生らとともに見に行きました。あいにくの雨でしたが、逆に、気温はそれほど上がらず、これはこれでいいんではないかという気がします。下の写真は、常に山鉾巡行の先頭を切って登場する長刀鉾、それと、昔から私のお気に入りの月鉾です。

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1500億円を超える赤字を記録した6月の貿易統計

本日、財務省から6月の貿易統計が公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比▲0.5%減の9兆1625億円に対して、輸入額は+0.2%増の9兆95億円、差引き貿易収支は▲1531億円の赤字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから最初の4パラだけ引用すると以下の通りです。

6月の米国への輸出額3カ月連続減 関税で車落ち込む
財務省が17日発表した6月の貿易統計速報によると、輸出額は前年同月に比べ0.5%減の9兆1625億円だった。米国向けが11.4%減の1兆7071億円と3カ月連続で減少した。自動車の輸出が落ち込んでおり、トランプ米政権の関税政策の影響が大きい。
米国向けの自動車輸出は台数が3.4%増、輸出額が26.7%減だった。日本車メーカーが関税の影響を和らげるため、価格を下げたり、低価格の車種を優先して輸出したりする傾向が続いたとみられる。
中国向けの輸出は4.7%減の1兆5513億円だった。非鉄金属や半導体製造装置、自動車などの輸出額が減った。欧州連合(EU)向けの輸出は3.6%増の8241億円で自動車の輸出額が増えた。
世界全体からの輸入額は9兆95億円と0.2%増えた。3カ月ぶりに増加した。アイルランドの医薬品や中国のスマートフォンなどの輸入が増えた。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。なお、5ぱらめめ以降は年半期の1~6月期の計数の報道ですので省略しています。続いて、貿易統計のグラフは下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3500億円余りの貿易黒字が見込まれていたところ、実績の▲1500億円を超える赤字はやや下振れした印象です。季節調整済みの系列でも、6月は▲2355億円の赤字を記録しています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。固定為替相場制度を取っていた1950-60年代の高度成長期のように、「国際収支の天井」を意識した政策運営は、現在の変動為替制度の下ではまったく必要なく、比較優位に基づいた貿易が実行されればいいと考えています。それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる可能性の方がよほど懸念されます。すなわち、引用した記事のタイトルのように、トランプ関税で日本の輸出が減少して貿易収支が赤字の方向に振れることではなく、貿易を含めた資源配分の最適化ができなくなってしまう点が問題と考えるべきです。
本日公表された6月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで+12.3%増ながら、金額ベースで▲17.6%減となっています。石油価格が大きく下落している商品市況を反映しています。さらに、エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで+3.3%増となっており、輸入総額の前年同月比伸び率が+0.2%増にとどまっている中で、高い伸びとなっています。特に、食料品のうちの穀物類は数量ベースで+11.5%増、金額ベースでは▲1.7%減となっています。原料品のうちの非鉄金属鉱は数量ベースで+38.8%増、金額ベースでも+4.7%増を記録しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器のうちの自動車が数量ベースで+6.5%増となったものの、金額ベースでは▲7.3%減となっています。自動車輸出における数量ベース増の金額ベース減は明らかに、日本のメーカーあるいは輸出商社の方で関税分を負担して自動車価格に上乗せせず、販売台数の維持・拡大を図っていることを表していると考えるべきです。どこまでこういった関税負担がサステイナブルであるかは私には不明です。電気機器も金額ベースで▲3.2%減となっている一方で、一般機械が+1.7%増とプラスの伸びを示しています。輸出だけは国別の前年同月比もついでに見ておくと、中国向け輸出が前年同月比で▲4.7%減となったにもかかわらず、中国も含めたアジア向けの地域全体では+1.7%増の堅調な動きとなっています。他方で、米国向けは▲11.4%減と大きく落ち込んでいます。ただ、西欧向けは+12.6%増となっています。いうまでもありませんが、今後の輸出については、米国トランプ政権の関税政策による撹乱が懸念されます。

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2025年7月16日 (水)

毎日新聞が本気で参政党の批判を始めたらしい

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毎日新聞「今の憲法にはあるのに? 参政党の創憲案で消された私たちの『権利』」を読みました。上のテーブルは毎日新聞のサイトから引用しています。
私は、日本の大手メディアが外国の政党は平気で「極右」と呼ぶのに対して、国内の政党については遠慮しているのではないか、という疑念を持っています。また、毎日新聞については、かつての「よいデフレ論」などで私はやや不正確な経済報道が目立った印象を持っている一方で、大昔のロッキード事件の報道などには優れた部分があったことも記憶しています。
いずれにせよ、私は参政党を真っ向から批判しようとしている毎日新聞を応援します。

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米国が国際開発援助(ODA)を大きく縮小するとどうなるのか?

世界的に権威ある医学の学術誌の Lancet に "Evaluating the impact of two decades of USAID interventions and projecting the effects of defunding on mortality up to 2030: a retrospective impact evaluation and forecasting analysis" と題する論文が掲載されています。要するに、現在の米国のトランプ政権が進めようとしている国際開発援助が最近20年で死亡率にどれくらいの影響を持ったかを分析し、さらに、その将来分析を行ったペーパーです。まず、引用情報は以下の通りです。共著者は15人ほどに上りますので省略しています。

続いて、Lancet のサイトから Funding を除く Summary を引用すると下の通りです。これだけでかなり長いです。

Summary
Background
The US Agency for International Development (USAID) is the largest funding agency for humanitarian and development aid worldwide. The aim of this study is to comprehensively evaluate the effect of all USAID funding on adult and child mortality over the past two decades and forecast the future effect of its defunding.
Methods
In this retrospective impact evaluation integrated with forecasting analysis, we used panel data from 133 countries and territories- including all low-income and middle-income countries (LMICs)-with USAID support ranging from none to very high. First, we used fixed-effects multivariable Poisson models with robust SEs adjusted for demographic, socioeconomic, and health-care factors to estimate the impact of USAID funding on all-age and all-cause mortality from 2001 to 2021. Second, we evaluated its effects by age-specific, sex-specific, and cause-specific groups. Third, we did several sensitivity and triangulation analyses. Lastly, we integrated the retrospective evaluation with validated dynamic microsimulation models to estimate effects up to 2030.
Findings
Higher levels of USAID funding-primarily directed toward LMICs, particularly African countries-were associated with a 15% reduction in age-standardised all-cause mortality (risk ratio [RR] 0.85, 95% CI 0.78-0.93) and a 32% reduction in under-five mortality (RR 0.68, 0.57-0.80). This finding indicates that 91 839 663 (95% CI 85 690 135-98 291 626) all-age deaths, including 30 391 980 (26 023 132-35 482 636) in children younger than 5 years, were prevented by USAID funding over the 21-year study period. USAID funding was associated with a 65% reduction (RR 0.35, 0.29-0.42) in mortality from HIV/AIDS (representing 25.5 million deaths), 51% (RR 0.49, 0.39-0.61) from malaria (8.0 million deaths), and 50% (RR 0.50, 0.40-0.62) from neglected tropical diseases (8.9 million deaths). Significant decreases were also observed in mortality from tuberculosis, nutritional deficiencies, diarrhoeal diseases, lower respiratory infections, and maternal and perinatal conditions. Forecasting models predicted that the current steep funding cuts could result in more than 14 051 750 (uncertainty interval 8 475 990-19 662 191) additional all-age deaths, including 4 537 157 (3 124 796-5 910 791) in children younger than age 5 years, by 2030.
Interpretation
USAID funding has significantly contributed to the reduction in adult and child mortality across low-income and middle-income countries over the past two decades. Our estimates show that, unless the abrupt funding cuts announced and implemented in the first half of 2025 are reversed, a staggering number of avoidable deaths could occur by 2030.

Summary をさらに短くすれば、要するに、最近20年間で米国国際開発庁(USAID)の資金援助により、under-five mortality=5歳未満児死亡率の32%減少をはじめとして、all-cause mortality=全死亡率の15%減少がもたらされています。そして、現在のトランプ政権による国際援助の大幅な資金削減により、2030年までに全年齢層の死亡者数が14百万人余り以上増加し、そのうち5歳未満の乳幼児の死亡者数は4.5百万人余りに達すると予測されています。すなわち、USAIDの資金提供は過去20年間において、低所得国および中所得国における死亡率の低下に大きく貢献してきましたし、したがって、最近トランプ政権から発表され実施された急激な資金削減により、2030年までに回避可能な死亡者数が驚くほど多くなる可能性がある、という結論です。下のグラフは、Lancet のサイトから Figure 1 Rate ratios from the fixed-effect Poisson models for the association between specific causes of death related to USAID focus areas and USAID funding per capita per year を引用しています。

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「アメリカ・ファースト」を掲げて大統領選挙に勝利したトランプ米国大統領は、米国に関税の壁を張り巡らせようとしているだけではなく、こういった人道的な国際貢献も無視して政策を進めようとしています。日本の参議院選挙でもよく似たスローガンを掲げている政党や候補者がいます。外国や外国人に対する政策も十分考慮して参議院選挙で投票する必要を訴えておきたいと思います。

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2025年7月15日 (火)

最近の経済報道から

最近、気になった経済報道2本です。

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まず、Bloomberg のサイトから、Global FX Reserves Sift from Yen to Swiss Franc と題するグラフを引用すると上の通りです。記事については、国際通貨基金(IMF)のデータによれば、今年2025年1~3月期に世界の外貨準備が日本円からスイス・フランに大きくシフトした、という内容です。解説的に、「外貨準備における円からの急激なシフトは、継続的な貿易赤字や経済成長の鈍化といったファンダメンタルズの弱さから、円が安全資産としての魅力を失っているとの見方を支持する」とも指摘しています。

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次に、朝日新聞のサイトから 世帯収入に占める税負担の割合 のグラフを引用すると上の通りです。見れば明らかであり、所得が低い家計ほど消費税の占める割合が高く、逆に、所得の高い家計ほど消費税額が大きい、という特徴が読み取れます。所得に応じて累進的に課税される住民税や所得税と異なり、消費税の逆進性が浮き彫りにされています。さらに、記事では「わたしたちの給与からは、社会保険料も引かれている。」と指摘し、年収700万円台の平均的な世帯では社会保険料の「負担額が年約74万円で、3税の合計よりも多かった。」と付け加えています。なお、引用中の「3税」とはいうまでもありませんが、グラフにある消費税+住民税+所得税です。この記事は参議院選の投開票に際しての消費税のあり方について考える3回シリーズの第1回目の記事となっています。たぶん、明日と明後日に続くんだろうと期待しています。

私は総務省統計局の課長職を務めましたので、毎月の頻度で役所の記者クラブにおいて統計を記者発表してきました。しかし、この2本の記事の特徴は、いずれも役所から記者クラブに公表された内容そのままのキャリーではありません。シンクタンクや大学などの有識者に取材した結果をそのまま記事にしているわけでもありません。キチンと公表資料を基にメディアにおいて計算してグラフ化しています。そういったメディアの独自調査に基礎をおいている点をまず評価すべきですし、内容についても、とても重要なポイントを取り上げていると私は考えています。

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2025年7月14日 (月)

2か月連続で前月比マイナスを記録した5月の機械受注

本日、内閣府から5月の機械受注が公表されています。機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から0.6%減の9135億円と、2か月連続の前月比マイナスを記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

 

5月の機械受注0.6%減、2カ月連続マイナス 基調判断は据え置き
内閣府が14日発表した5月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前月比で0.6%減の9135億円だった。2カ月連続でマイナスとなった。製造業が1.8%減、非製造業が1.8%増だった。
基調判断は「持ち直しの動きがみられる」と据え置いた。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は1.3%減だった。
製造業は1.8%減の4485億円だった。4月に大型案件があった反動で、造船業の内燃機関が落ち込んだ。
自動車・同付属品は7.1%減と2カ月連続でマイナスだった。内閣府の担当者は「米国の関税政策による明確な影響は確認できないが、自動車は4、5月と水準が低下しており、今後の動向を注視する必要がある」と指摘した。
非製造業(船舶・電力を除く)は1.8%増の4793億円だった。電子計算機などが好調で金融業・保険業が押し上げた。
民需(船舶・電力除く)について毎月のぶれをならした3カ月移動平均は0.7%増でプラスを維持した。

 

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

 

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前月比▲1%を超える減と見込まれていました。実績の▲0.6%減はやや上振れした印象ながら、前月比マイナスはマイナスですし、大きなサプライズはありませんでした。いずれにせよ、3月統計で前月比+13.0%増を記録した後の4月▲9.1%減、5月▲0.6%減ですから、3月の大幅増の反動の要素もあります。また、この統計では発注が取り消された場合、その取消しが生じた月で調整することになっていますので、あるいは、ひょっとしたら、トランプ関税による発注取消しがここ何か月かで生じている可能性は否定できません。3か月後方移動平均で見ればまだ+0.7%増だということですし、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。5月統計を業種別に季節調整済みの前月比で見て、製造業が▲1.8%減であった一方、船舶・電力除く非製造業は+1.8%増となっています。1~3月期のコア機械受注は前期比で+3.9%増の2兆7632億円でしたが、4~6月期見通しでは▲2.1%の減少に転ずると見込まれていますので、4~5月統計は先行きの受注見通しに沿った動きと見ることも出来ますが、トランプ関税次第では下振れする可能性も十分あります。
日銀短観などで示されたソフトデータの投資計画が着実な増加の方向を示している一方で、機械受注やGDPなどのハードデータで設備投資が増加していないという不整合があり、現時点ではまだ解消されているわけではないと私は考えています。人手不足は見込み得る範囲の近い将来にはまだ続くことが歩く予想されますし、DXあるいはGXに向けた投資が盛り上がらないというのは、低迷する日本経済を象徴しているとはいえ、大きな懸念材料のひとつです。かつて、途上国では機械化が進まないのは人件費が安いからであるという議論が広く見受けられましたが、日本もそうなってしまうのでしょうか。でも、設備投資の今後の伸びを期待したいところですが、先行きについては決して楽観はできません。特に、繰り返しになりますが、米国のトランプ政権の関税政策や中東の地政学的リスクなどにより先行き不透明さが増していることは設備投資にはマイナス要因です。加えて、国内要因として、日銀が金利の追加引上げにご熱心ですので、すでに実行されている利上げの影響がラグを伴って現れる可能性も含めて、金利に敏感な設備投資には悪影響を及ぼすことは明らかですどう考えても、先行きについては、リスクは下方に厚いと考えるべきです。

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2025年7月13日 (日)

金曜日に連勝はストップしたがヤクルト相手に再び連勝街道か?

  RHE
ヤクルト000000001 151
阪  神00000200x 281

【ヤ】アビラ、矢崎、大西 - 松本直
【神】伊藤将、石井、岩崎 - 坂本

伊藤将投手のナイスピッチングでヤクルトに連勝でした。日曜日にこういう勝ち方をすると、月曜日からのお仕事がはかどるような気がします。
6回にようやく佐藤輝選手のツーランで先制し、最終回は小幡遊撃手のエラーもあって、最後はヒヤヒヤのホームタッチアウトで試合終了でした。しかし、一昨日に11連勝でストップしましたが、再び快進撃が始まる予感です。

次の中日戦も、
がんばれタイガース!

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2025年7月12日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして計8冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、徐一睿・宮嵜晃臣[編]『パンデミックが映し出す経済と社会』(専修大学出版局)は2部構成となっていて、第Ⅰ部がパンデミックと財政・経済システム、第Ⅱ部が危機管理体制と社会変容を分析しています。第Ⅱ部については、行政対応、沖縄県の事例研究、医療や教育などに焦点を当てています。野口悠紀雄『戦後日本経済史』(東洋経済)では、戦後日本の経済を振り返り、高度成長期に大規模な労働力移動が生じてルイス転換点を迎えたという本書の主張は正しいと思いますが、バブル経済以降では、個人的な主張をかなりムリして理論付けているところがあり、批判的な読書が必要です。潮谷験『名探偵再び』(講談社)では、かつて祖父母のきょうだいだった大叔母が名探偵として活躍した学園に功績あった親族の枠で入学した女子高校生が、大叔母とは真逆のキャラで、ラクして他人に頼る手法によりながらも、謎を解き明かし事件を解決します。橋本健二『新しい階級社会』(講談社現代新書)では、かつて「1億総中流」と考えられていた日本で大きく拡大した格差について、新たな5階級にカテゴライズして定量分析を進め、特に、非正規雇用労働階級のアンダークラスに焦点を当て、孤立し健康不安におびえ、政治から見捨てられたかのごとき現状を分析しています。烏谷昌幸『となりの陰謀論』(講談社現代新書)では、陰謀論について、非常識な個人が撒き散らしているというマイクロな視点ではなく、マクロの社会全体を鳥瞰して、「陰謀論が支配する社会」という最悪のシナリオを回避するための分析を進めています。藤崎翔『逆転ミワ子』(双葉文庫)では、『逆転美人』と共通して様々な暗号的な情報、暗号解読がテーマとなります。すなわち、芸人のミワ子が行方不明になり、エッセイやショートショートを収録した彼女の本を題材にして、その失踪の真相を解明するというストーリーです。香坂鮪『どうせそろそろ死ぬんだし』(宝島社文庫)では、余命宣告された者だけが招待された山荘に、元刑事の主人公も招待され、助手の運転で参加しますが、翌朝になって招待客の1人が死体となって発見され、病気による自然死なのか殺人事件なのかが死体の検案で決めかねることになってしまいます。川上未映子『春のこわいもの』(新潮文庫)では、コロナ禍の時期の暗い世相を背景に、孤独な女性たちの決して順調ではない人生を考えさせる短編6話が収録されています。ダークなのですが、その後の『黄色い家』のようなイリーガルな要素は含まれていません。
今年の新刊書読書は1~6月に164冊を読んでレビューし、7月に入って先週の6冊に今週の7冊を加えて、合計で177冊となります。今年も年間で300冊に達する可能性があると受け止めています。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2などでシェアしたいと考えています。

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まず、徐一睿・宮嵜晃臣[編]『パンデミックが映し出す経済と社会』(専修大学出版局)を読みました。編者は、専修大学経済学部教授です。ご専門は、それぞれ、財政学と日本経済論だそうです。本書の出版は今年2025年なのですが、収録されている論文は割合とコロナ初期の2020-21年の時点で書かれたものが多い印象です。2部構成となっていて、第Ⅰ部がパンデミックと財政・経済システム、第Ⅱ部が危機管理体制と社会変容です。第Ⅱ部については、行政対応、沖縄県の事例研究、医療や教育などに焦点を当てていますが、特に、沖縄県を取り上げたチャプターでは「離島」という特徴ばかりが強調されており、コロナ禍に関しては米軍基地の集中という観点が抜けているので、少し分析がアサッテの方向に行っている気がしました。私がエコノミストとして興味を持ったのは第Ⅰ部、特に、第3章で現代貨幣論の視点からパンデミック期の財政を分析した論文です。もともと、コロナ前から我が国財政は巨額の公的債務を抱えていて、コロナ対応でさらに財政収支が悪化したわけですが、日本財政はまったく盤石であって、いわゆるクラウディングアウトによる金利急騰はもちろん、財政破綻の兆しすらありません。2022年のロシアによるウクライナ侵攻に伴うコストプッシュに起因するインフレが始まるまで、少なくとも需要サイドからのディマンドプルインフレは生じていませんでした。失業率はポストコロナの現時点でも低いままですが、フィリップス曲線に沿ったインフレが生じているわけではありません。したがって、というか、何というか、日銀の黒田総裁が始めた異次元緩和による総需要管理やマネタリズムに基づくリフレ政策は効果が限定的であったといわざるを得ません。これらは、本書第3章では現代貨幣理論(MMT)的なフレームワークの妥当性を示唆していると論じています。本書では言及ありませんが、インフレについては、シカゴ大学のフリードマン教授による "Inflation is always and everywhere a monetary phenomenon." というのが人口に膾炙していて、ネガティブなインフレであるデフレもご同様と理解されていたのですが、本書第3章の議論では、もっと財政についてもMMT的なインフレに基づく限界を考慮すべきであり、貨幣的な思考ではなく、実物的な分析を必要とする、と結論しています。本書の中でも、この第3章が私にはもっとも印象的でした。

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次に、野口悠紀雄『戦後日本経済史』(東洋経済)を読みました。著者は、一橋大学名誉教授であり、現在の財務省の前身である大蔵省ご出身のエコノミストです。本書に先立って、10年前に『戦後日本経済史』(新潮選書)が出版されており、本書は10年後のアップデートということになります。ですので、80年間の戦後日本経済史を網羅的に記述しているわけではなく、旧著にあるので省略されている部分もあります。そして、注意すべきは、戦後日本の経済史をトータルに捉えているのではなく、著者のパーソナルな個人史の部分も少なくありません。まず、戦後史ですので "starting from scratch" から始まります。そして、高度成長期については、著者独自の視点で「1940年体制」すなわち、戦争中に取られた政策、第1に直接金融から間接金融への転換、第2に終身雇用と年功賃金をテコとした雇用の定着化、第3に間接税から法人税と所得税への直接税への税制改革、を上げています。私が認識する限り、この3点は戦後の改革であって、高度成長期入口の労働力不足、ほぼほぼ高圧経済と同じ労働力不足に時期に完成したと考えるべきです。こういった経済システムの起点がどこにあったかではなく、完成したのが高度成長期である点はもっと強調されて然るべきです。ただ、高度成長期に大規模な労働力移動が生じてルイス転換点を迎えたという本書の主張は正しいと思います。そして、バブル経済以降では、個人的な主張をかなりムリして理論付けている気がします。特に、アベノミクス批判については、結論ありきで低金利を槍玉に上げ、かなりムリのある立論に見えます。典型的には、経済学でいうところの一般均衡と部分均衡を都合よく使い分けています。例えば、賃金引上げについてはコスト増などの否定的側面を重視して、国民一般の所得増の面を無視しており、また、独特の視点である高金利政策についても、投資の抑制要因と成る点を無視した部分均衡で見ている一方で、一般均衡的に考えている部分もあります。典型的な謬見を引きずっている部分として、生産性向上論に特化して、円安と低金利を否定し円高と金利引上げを志向する理論を展開しているのですが、他方で、高齢者や女性の労働参加を促すわけですから、マクロで生産性向上を阻害しかねない点には目が行き渡っていない印象です。しかも、労働分配率の低下を否定するなど、あり得ないミス、というか、偏見もいくつか散見されます。いずれにせよ、「夢よもう一度」なのか、あるいは、現実的な将来の日本を考えるのか、そのビジョンを欠いたままの歴史的な見方を示されても、それほど参考にはならないと考えるべきです。このエコノミストの著書は、かなり批判的な視点で読む必要がありそうです。

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次に、潮谷験『名探偵再び』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ作家です。私はデビュー作の『スイッチ』と本書の前作に当たる『伯爵と三つの棺』を読んでいます。シリーズではなく、作品ごとにまったく異なる舞台設定のミステリを書き続けていることでも注目されています。ということで、この作品の主人公は女子高生である時夜翔です。舞台は私立雷辺女学園高等学校です。功績あった親族の枠で入学しています。功績あった親族とは祖父母のきょうだいに当たる大叔母の時夜遊であり、学園の名探偵のみならず、警察からも助言を求められた存在だったという設定です。しかし、学園で起こった事件を裏で操っていた理事長のMと対立し、雷辺の滝に落ちて亡くなってしまった、という伝説的な存在の大叔母がいるわけです。はい、学園名の「雷辺」とは、ホームズとモリアティ教授が落ちたとされているライヘンバッハの滝を強く示唆していることは明らかです。しかし、主人公の時夜翔には名探偵としての能力はまったくなく、自らを「その場しのぎで嘘を重ね、他人に頼る」と評価していて、他人を使ってラクして生きようというグータラな志向が強いキャラです。しかし、周囲な許してくれないわけで、いろんな事件が起こっては時夜翔に解決を求めに来るわけです。そして、非常に特殊な設定により時夜翔は見事に周囲の期待に応えて、謎を解明し事件を解決します。こういったグータラなキャラの主人公が、どのように謎を解いて事件を解決するかは、読んでみてのお楽しみです。連作短編であり、第1話の「消えたポラロイド」では、大浴場の更衣スペースでふざけて撮影したポラロイド写真の消失は howdunnit の謎、第2話の「悪王の死」では、美術準備室で部員が撲られて意識不明の重体になる事件は whodunnit の謎、第3話の「無意味な足跡」では、足跡に説明がつかない密室殺人の謎、とミステリの主要な謎解きパターンを網羅しようと試みています。そして、第4話の「密室毒薬遊戯」で、とうとう恐るべき黒幕と毒薬の入ったグラスを理論的に選択することで対決します。最後に私の感想ですが、主人公のキャラからして少しユーモア・ミステリの要素を取り込んで、とても上質なミステリに仕上がっています。howdunnit と whodunnit と密室といった重要なミステリの要素を短編各話に盛り込み、しかも、最初の短編ではホームズの「ボヘミアの醜聞」を思わせる写真を探すミステリです。前作の『伯爵と三つの棺』では近代初期だか、中世末期のの大陸欧州という形で、時代も地理的にも取っつきにくいミステリでしたが、この作品は現在に日本を舞台にしていますので読みやすさも十分です。謎解きは、ややトリッキーな方法を使いますが、本格的かつ論理的な謎解きです。ひょっとしたら、今年のミステリの中でもベストに近い作品かもしれません。ただ1点だけ、年齢的な不自然さが気にかかります。まず、大叔母の時夜遊と主人公の時夜翔の年齢の関係がいかにも不自然です。祖父母のきょうだいである大叔母と主人公が30歳ほどしか離れていません。ついで、大叔母の時夜遊のライバル、というか、黒幕だった学園の理事長Mが当時20代であったとされているのも、常識的に考えて不自然です。どうして、こういう年齢設定にしたのか、私は不思議でなりません。30年前ではなく、50年前とか60年前に活躍した大叔母でもよかったのに、と思ってしまいました。

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次に、橋本健二『新しい階級社会』(講談社現代新書)を読みました。著者は、早稲田大学人間科学学術院教授であり、ご専門は理論社会学だそうです。日本の経済社会というのは、かつては「1億総中流」と称されていて、格差の小さいことがひとつの特徴でしたが、時を経て格差は大きく拡大し、現在ではOECDの指標などから見ても世界の先進国の中で格差が大きく貧困も著しい国に属しています。そういった認識の下、本書では著者を中心とするグループによる独自調査に基づく「2022年3大都市圏調査」から得られたデータとSSM調査データ、すなわち、「社会階層と社会移動に関する全国調査」のデータを用いて、可能な範囲で定量的な分析を試みています。その結果得られた現代日本の新しい階級社会の構造が p.28 に示されています。日本の経済社会における階級を5グループにカテゴライズしています。すなわち、企業経営者や役員などから成る資本家階級が250万人、3.9%、専門職や管理職や事務職の正規労働者などから成る新中間階級が2051万人、32.1%、自営業者やその家族従業員などから成る旧中間階級が658万人、10.3%、事務職などの新中間階級に属する以外の正規労働者階級が1753万人、27.4%、そして、この新中間階級と正規労働者階級の男性の配偶者などから成るパート主婦が788万人、12.3%、最後に、パート主婦以外の非正規雇用労働者などから成るアンダークラスが890万人、13.9%となります。もちろん、これら以外にも学校で学ぶ児童・生徒・学生や高齢無職者などはいますが、まあ、別枠なのでしょう。そして、パート主婦を別にした資本家階級、新中間階級、旧中間階級、正規労働者階級、アンダークラスについて、経済格差、配偶関係、仕事の世界、階級帰属意識、生まれ育った家庭環境、学校での経験や職業への以降、かつて「住宅双六」と呼ばれた住宅事情消費活動と政治参加や支持政党、などなどが定量的に分析されています。そして、5つの新しい階級とは別に男女の性別格差、あるいは、コロナ禍が格差にどのような影響を及ぼしたか、などにも分析を加えられています。詳細はお読みいただくしかありませんが、特に、スポットを当てられているのは非正規雇用労働者階級であるアンダークラスです。孤立し、健康不安におびえ、政治から見捨てられたかのごときアンダークラスについて詳細に分析されています。階級の固定化に関しても、資本家階級の固定化が進んでいるなど、とても実感によく合致する結果が定量的に示されています。日本の階級や格差に関して偏りのない定量分析が示されており、とてもオススメです。

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次に、烏谷昌幸『となりの陰謀論』(講談社現代新書)を読みました。著者は、慶應義塾大学法学部政治学科教授です。参議院選挙が始まって、SNSなんかにもフェイクニュースではないかと思わせる怪しげな情報が飛び交っているのを目にした人も少なくないと思います。こうした中に、いわゆる陰謀論というのがあります。その陰謀論を本書では取り上げているのですが、本書冒頭では、陰謀論は非常識な個人が撒き散らしているというマイクロな視点ではなく、マクロの社会全体を鳥瞰して、陰謀論はタイトル通りにすぐ隣りにあるし、誰もが何らかの影響を受けているのではないか、と指摘しています。結論的にいうと、本書では、陰謀論を生み出し増殖させるのは、人間の中にある「この世界をシンプルに把握したい」という欲望と、何か大事なものが「奪われる」という感覚ですあり、これらの欲望や感覚は一部特定の人間だけが持つというよりは、社会状況に応じて誰の中にも芽生えてくる、と指摘しています。経済学、というか、経済心理学ではヒューリスティックという解決方法があることが知られており、日本語では発見的手法とも呼ばれており、今までの経験則や社会的常識的な直感に基づいて、ある程度正解に近い答えを素早く見つけ出すための思考方法や手法、と理解されている場合が多いと思います。シンプルな把握と似通った概念かもしれません。もちろん、本書ではナチスが持ち出した偽書の「シオン賢者の議定書」とか、秘密結社とされるフリーメイソンとか、ケネディア暗殺についても言及して、この分野に詳しくない私でも判りやすい解説がなされています。p.31 の陰謀論の境界線、すなわち、常識的な陰謀論とバカバカしい話や誤情報の間に引かれる境界線なども、理論的というよりも実践的な気がします。いずれにせよ、詳細は読んでいただくしかありませんが、本書の指摘の中で「ナチスの全体主義的支配は、少数の狂信的陰謀論者と多数の無関心によって支えられていました」(p.152)という指摘は心しておくべきですし、本書の目的は「陰謀論が支配する社会」という最悪のシナリオを回避する点にあるのだろうと思います。陰謀論に関して志を同じくされる方にはオススメです。

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次に、藤崎翔『逆転ミワ子』(双葉文庫)を読みました。著者は、芸人差kなら小説家に華麗なる転身を果たしたミステリ作家です。たぶん、本書も暗号解読という観点からミステリなんだと思います。暗号解読ですから、同じ作者による『逆転美人』と共通しています。未読なので自信はありませんが、たぶん、『逆転泥棒』も同じなのだろうと思います。「逆転」シリーズ3作目ですのでこの2文字は外せないような気もしますが、どちらかというと本書は「逆転」ではなく「逃げ切り」の方がタイトルとしていいような印象を持ちました。芸人のミワ子が行方不明になり、エッセイやショートショートを収録した彼女の本を題材にして、その失踪の真相を解明するというストーリーです。ですので、本書は文庫版で200ページあまりのコンパクトな中身ですが、過半の150ページあまりが前半パートであり、主人公の芸人ミワ子のエッセイとショートショートとなります。その前半部分に暗号、というか、明示的な形ではなくメッセージが隠されていて、数十ページの後半部分がミワ子の担当編集者からの解説、となる構成です。そして、これもたぶん、『逆転美人』と共通するところで、紙の本でないとこの謎解きは成立しないような気がします。もちろん、暗号解読はコナン-ドイルの「踊る人形」や江戸川乱歩の「二銭銅貨」の主要なテーマであり、犯人探しとか犯行方法の解明などとともにミステリの重要なパーツのひとつであることは当然なのですが、私の場合、パッパッとかなりのスピードで本を読み飛ばす場合が少なくなく、そういった読書方法に比較すれば、少しやっかいなミステリの分野になります。ただ、時間をかけてじっくり読み込んで、もちろん、何度か既読の部分に戻って読み返す向きには、とても充実した読書時間を提供してくれると思います。

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次に、香坂鮪『どうせそろそろ死ぬんだし』(宝島社文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家なのですが、2025年第23回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作を本書で受賞していますが、循環器内科の現役医師だそうです。ついでながら、第23回『このミス』大賞受賞作は『謎の香りはパン屋から』であり、本書と同じ第23回『このミス』大賞・文庫グランプリ受賞作が『一次元の挿し木』となります。本書は、余命宣告された人々が招待される「かげろうの会」に出席する2人が主人公となります。警察で刑事をしていた経験のある探偵の七隈昴、そして、その助手の薬院律です。七隈昴は「かげろうの会」に招待され公演をする予定で、助手の薬院律の運転により会場の「夜鳴荘」なる山荘に向かいます。「夜鳴荘」のオーナーは「かげろうの会」の主催者である茶山であり、招待客には医者が何人か含まれています。そして、ミステリですので、当然、人が死ぬわけです。翌朝になって招待された参加者の1人が遺体となって発見されます。死んだ人について、死因や死亡時刻などを特定するために検案が行われますが、余命宣告されていることもあって、自然死なのか殺人なのか、判然としません。殺人であったと仮定しての動機についても、余命宣告されている老人を急いで殺す理由も不明です。しかも、フツーであれば、人が死ねばすぐに救急車なり警察なりが呼ばれると思うのですが、死体は山荘に留め置かれます。このあたりはやや不自然さを感じる読者もいるかもしれません。そして、ラストには驚愕の結末が示されます。この作品については、評価が分かれるという気がします。私自身はフツーに時間つぶしで読んでいるだけですが、やや低い評価が多そうな気もします。謎解きがつまんないです。他方で、そう多くはないでしょうが、プロットに感激して高く評価する読者もいそうな気がします。

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次に、川上未映子『春のこわいもの』(新潮文庫)を読みました。著者は、純文学の小説家、芥川賞作家です。本書は2022年に出版された単行本を文庫化したものです。2022年ですから、今から思えばコロナ禍の後期でしたが、当時はまっさいちゅうという感覚だったかもしれません。そういった社会的背景で、孤独な女性たちの決して順調ではない人生を考えさせる短編6話が収録されています。男子高校生の主人公の短編もありますが、まあ、例外的なものです。あらすじは収録順に、「青かける青」は、入院中の女子大生が恋人と思われる相手に宛てた手紙で語る手紙の形で進みます。「あなたの鼻がもう少し高ければ」では、ギャラ飲みのアルバイトに応募した女性の面接シーンら始まります。美容整形や顔の見た目がすべてというルッキズムについて考えさせられます。「花瓶」では、しゃべることすらままならなず、死ぬのを待つだけの寝たきり老女が思い出すのは、自分がまだ女で40歳前に夫以外の男性との関係についてです。「淋しくなったら電話をかけて」では、主人公の女性がある小説家の自殺をニュースで知り、自らが小説家のSNSに書き込んだ誹謗中傷のせいだと慌てて自分のアカウントを削除し、喫茶店に入って電話をしている女性に話しかけます。どこにもつながりがない孤独な存在を感じさせます。「ブルー・インク」では、主人公の高校生男子は仲良くなった女子から手紙をもらうのですが、2通目を失くしてしまい、2人で手紙を探して夜の高校に忍び込みます。巻末の「娘について」は、ボリューム的にもっとも長く、母子家庭で育った主人公の女子高校生と同級生で恵まれた家庭に育った女子の2人が親友となったものの、約10年の時を経て、相手の無神経さや家庭の豊かさに苛立ちを募らせて友人関係は終わってしまいます。ということで、全体としてコロナ禍の時期の暗い雰囲気を感じさせる作品です。しかし、その後の『黄色い家』に現れるような阻害された孤独感は一部に感じられるものの、あそこまでイリーガルな領域に進む内容を含んだ短編は見かけません。まあ、夜の高校に忍び込むのが精一杯です。たぶん、あくまでたぶん、ながら、私なんかよりも女性読者に訴えかけるものが多そうな気もします。

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2025年7月11日 (金)

レジ袋の禁止や有料化はプラスチックゴミ削減に有効なのか?

世界的に権威ある学術誌 Science に "Plastic bag bans and fees reduce harmful bag litter on shorelines" と題する調査論文が掲載されており、レジ袋ゴミが25-47%減少したと報告されています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。

New York Times の記事 "Banning Plastic Bags Works to Limit Shoreline Litter, Study Finds" を見ると、Ocean Conservancy という団体と協力して 45,067 地点の海岸清掃=shoreline cleanups のデータを収集したそうです。レジ袋の禁止や課税=plastic bag bans and taxes といった形で、何らかのレジ袋政策=plastic bag policy がある地域ではない地域に比べて清掃の際に収集されたレジ袋のゴミが25-47%減少したと報告されています。論文から、レジ袋政策の発動をはさんだ期間のレジ袋ゴミの量を比較した Fig. 2. The effects of bag policies on plastic litter を引用すると下の通りです。

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レジ袋ゴミの減少は、あくまで、清掃の際に回収されたゴミに占めるレジ袋の割合=as a share of total items collected at cleanups が25-47%減少したということですので、絶対量としてのレジ袋ゴミの減少がもたらされているかどうかは、私が読んだ限り不明というしかないのですが、動物に絡まった影響= Entangled animals についても、レジ袋政策により統計的に有意に減少しているという結果も Fig. 5. Entangled animals で報告されています。

今まで、私は授業で環境省のサイトにある「レジ袋有料化 (2020年7月開始) の効果」を使ってレジ袋削減を定量的に学生諸君に説明していたのですが、コチラも使うことを考え始めたいと思います。

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2025年7月10日 (木)

大和総研リポート「新たな相互関税率の適用で日本の実質 GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少」

広く報じられている通り、トランプ米国大統領は日本の石破総理大臣あてに書簡を発出し、新たな対日相互関税率を25%に設定すると通知しています。この関税の影響につき、大和総研「新たな相互関税率の適用で日本の実質 GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少」が分析しています。私が見た限りで、25%関税のファースト・インプレッションをリポートしたシンクタンクはたくさんあるのですが、7月8日の米国の公表から2日を経て、現時点で定量的な分析を明らかにしているリポートはこれだけだと思います。たった1枚ペラのリポートです。したがって、リポートから分析結果のテーブルとグラフ 図表1: トランプ関税が日本経済に与える影響 (2025年7月8日時点) を引用しておきます。

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3か月連続で伸びが鈍化する6月の企業物価指数(PPI)

本日、日銀から6月の企業物価 (PPI) が公表されています。統計のヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+3.2%の上昇となり、4月の+4.1%、5月の+3.3%から3か月連続で上昇率が鈍化したものの、まだ高い伸びが続いています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

国内企業物価指数6月は前年比+2.9%、伸び鈍化3カ月連続
日銀が10日発表した6月の企業物価指数(CGPI)速報によると、国内企業物価指数は前年比2.9%上昇した。伸び率は3カ月連続で鈍化し、10カ月ぶりに3%台を割り込んだ。最も押し下げに寄与した品目は石油・石炭製品だった。
前月比では0.2%低下し、2カ月連続のマイナスになった。ロイターがまとめた民間調査機関の予測中央値は前年比2.9%上昇、前月比0.2%低下だった。
燃料油価格定額引き下げ措置による補助金支給額が増加した影響から、ガソリン・軽油・ジェット燃料等各油種が前月比マイナスに寄与した。石油・石炭に次いで、電力・都市ガス・水道では、事業用電力が燃料費調整の影響で、都市ガスが原料費調整の影響で価格が下落した。
押し上げに寄与した品目では、非鉄金属はプラスチック被覆銅線や銅・貴金属展伸財が関税発動を前にした米国での駆け込み需要や中東における地政学リスクの高まりを受けた国際商品市況の上昇を受けて値上がりした。農林水産物では、コメ、豚肉、鶏肉が上昇した。
CGPIを構成する品目515品目のうち、上昇したのは376品目、下落は113品目となり、差し引き263品目となった。5月の244品目と比べると増加している。
日銀の担当者は、「地政学リスクを含めた、国際商品市況の動向、関税賦課等コスト変動分の反映を含めた企業の価格設定行動、世界的に景気減速懸念が強まる中での需要動向、政府による電気・ガス料金やガソリン・コメ価格等の負担軽減策の影響を注視していく」とした。
企業物価指数は、企業間の財・モノの価格動向を示す指標。企業向けサービス価格指数とともに、企業間で適切な人件費配分や価格転嫁ができているかのバロメーターとして、賃金・物価の好循環の実現を目指す日銀が注視する指数の一つ。

インフレ動向が注目される中で、やや長くなってしまいましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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ヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率について、引用した記事にある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスは+2.9%でしたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.8%でしたから、実績の+2.9%はほぼジャストミートした印象です。ただ、これでも日銀物価目標の+2%を大きく上回っていることが事実です。高止まりしている要因は、引用した記事にもある通り、銅・貴金属展伸財が米国のトランプ関税発動を前にした駆込み需要による商品価格の上昇です。もちろん、引き続き、コメなどの農林水産物も高い上昇率を示しています。ただ、引用した記事にもある通り、燃料油価格定額引下げ措置が5月22日から発動され、ガソリン・軽油などが前月比で下落しています。また、対ドル為替相場は5-6月には安定的に推移しています。5月+0.2%の円安の後、6月は▲0.1%の円高です。私自身が詳しくないので、エネルギー価格の参考として、日本総研「原油市場展望」(2025年7月)を見ておくと、「原油価格は50ドル台後半に向けて下落する」と見込んでいますが、他方で、「中東情勢が再び緊迫化する場合、原油価格は140ドル程度まで急騰するリスクも。」と指摘しています。円ベースの輸入物価指数の前年同月比は、今年に入って、4月▲7.3%、5月△10.3%、6月▲12.3%と連続して下落しており、国内物価の上昇は政策要因も含めた国内要因による物価上昇であることは明らかです。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず、農林水産物は5月の+43.5%から6月は+43.9%と高止まりしています。これに伴って、飲食料品の上昇率も5月の+4.7%から6月は+4.5%と高い伸びが続いています。電力・都市ガス・水道は5月の+6.4%から、6月は+3.5%と上昇率を縮小させていますが、依然として高い上昇率が続いています。

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2025年7月 9日 (水)

インテージ「2025年上半期、売れたものランキング」やいかに?

やや旧聞に属するトピックながら、先週月曜日の6月30日、インテージから「2025年上半期、売れたものランキング」が明らかにされています。金額ベースですので、令和の米騒動にためにコメがトップに来ています。まず、インテージのサイトから調査結果の[ポイント]を4点引用すると下の通りです。

[ポイント]
  • 1位は米。前年同時期比184%。社会現象ともいえる価格高騰が要因。8位にも米飯類が入る
  • 2位~4位は化粧品。おしろいはUVケア、美容液は高価格帯の商品が寄与。インバウンドも
  • 上位15位までに食品・飲料は過半数の8つ。値上げの影響も、新しい需要をつかんだ商品あり
  • 販売苦戦ランキング1位・オートミール、2位・検査薬。コロナ禍で売り上げを伸ばしたものが入る

一応、念のため、上半期とはいいつつ、データは5月分までだそうです。ということで、コンパクトによく取りまとめられている印象です。続いて、インテージのサイトから 2025年上半期の金額前年比・上位ランキング を引用すると下の通りです。

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繰り返しになりますが、インフレを考慮せずに金額ベースということになれば、米の金額がトップとなります。インフレを考慮して数量ベースにすると、逆に、米は前年比マイナスの可能性もあると私は考えています。ついでながら、8位にもパックご飯などの米飯類が+15%増でランクインしています。興味深いところで、2位~4位は化粧品、5位は医薬品が入っています。いずれもドラッグストアで販売されているものだけに、インバウンドの影響は否定できませんが、コロナ禍の初期には口紅など化粧品カテゴリー全体が大きく落ち込んだので、それらが復活しつつあるとの見方もできます。続く6位の玩具メーカー菓子とはいわゆる食玩のことなのだろうと思いますが、ポケモンやドラえもん、あるいは、ワンピースや名探偵コナンなどのアニメを中心とする知的財産権に基づくIP商品は、もはや日本の競争力の中核をなしているとすらいえそうです。また、私は不勉強にして知らなかったのですが、7位のココアは腸活需要を取り込んでいるようです。はい、勉強になりました。

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続いて、インテージのサイトから 2025年上半期の金額前年比・下位ランキング を引用すると上の通りです。ワースト1位のオートミールはコロナ禍の時期に健康需要を取り込み大きく伸びた一方で、今になって反動が出ているようです。コロナ禍前の2019年と比較して大きく伸びていますので、特に、最近売上げを減少させているという印象もない気がします。特に、私の関心を引いたのはワースト5位の新ジャンルです。税制改正により価格が引き上げられ、価格弾力性が大きいことから売上げを減らしています。アルコール飲料は押し並べて価格の影響が強いんだろうと想像しています。

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2025年7月 8日 (火)

2か月連続で改善した6月の景気ウォッチャーと過去最大の黒字となった5月の経常収支

本日、内閣府から6月の景気ウォッチャーが、また、財務省から5月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+0.6ポイント上昇の45.0、先行き判断DIも+1.1ポイント上昇の45.9を記録しています。経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+3兆4364億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

街角景気6月は0.6ポイント上昇、気温上昇や米関税の不透明感緩和で
内閣府が8日に発表した6月の景気ウオッチャー調査で現状判断DIは45.0となり、前月から0.6ポイント上昇した。2カ月連続のプラス。気温上昇で夏物商材の需要が増加。客単価が上昇しているほか、買い上げ点数も増えている。米国の関税に対する不透明感による下押しも和らいできたという。
ウオッチャーの見方は「このところ回復に弱さがみられる」で維持。単月では上昇したものの、トレンドを見極めるうえで重視している3カ月移動平均が若干マイナスだったこともあり、前月から変更しなかった。
指数を構成する3部門では、家計動向関連が前月から0.3ポイント、企業動向関連が1.9ポイントそれぞれ上昇した一方、雇用関連が0.1ポイント低下した。
家計動向関連では「気温の上昇が続いていることで、夏物商材を買い求める客が増加しており、来客数が前年を上回っている。客単価も上昇し、景気は良くなっている」(北海道=衣料品専門店)、企業動向関連では「米国の関税施策で設備投資を様子見している客は多いが、もう待てないという雰囲気もあり、北米中心に半導体関連の受注増加に備えて代理店が在庫を増やす動きがある」(東海=一般機械器具製造業)といったコメントが出ていた。
2-3カ月先の景気の先行きに対する判断DIは、前月から1.1ポイント上昇の45.9。2カ月連続で上昇した。内閣府は先行きについて「夏のボーナスおよび賃上げへの期待がある一方、引き続き価格上昇や米国の通商政策の影響への懸念がみられる」とまとめた。
回答者からは「例年より早い梅雨明けによるレジャー需要の増加を期待している」(沖縄=観光型ホテル)、「地域経済はやや回復基調。夏のボーナス支給額などの改善が大きな要因とみられる」(近畿=通信会社)といった指摘があった。
一方、「中東情勢の悪化で原油価格が乱高下しており、今後の見通しが立たない」(東北=ガソリンスタンド)、「海外向け製品を製造している割合が非常に高く、関税等の問題が長い期間影響する」(東海=電気機械器具製造業)など、海外要因を懸念する声も複数出ていた。
大和証券の鈴木雄大郎エコノミストは、当面、物価高を受けた家計の節約志向が高まった状況が続くと指摘。足元では人手不足倒産も増えており「街角景気が上向く可能性は低い」との見方を示している。
調査期間は6月25日から30日。
経常収支5月として過去最大の黒字、原油価格など下落で輸入減
財務省が8日発表した国際収支状況速報によると、5月の経常収支は3兆4364億円の黒字だった。前年同月から4869億円増え、5月として過去最大の黒字額。原油価格などの下落で輸入が減少した。経常収支の黒字は4カ月連続。
ロイターが民間調査機関に行った事前調査で予測中央値は2兆9400億円の黒字だった。
貿易収支は5223億円の赤字で、前年同月から5757億円改善した。輸出の1147億円減を、輸入の減少幅6904億円が上回った。原粗油の輸入が1753億円、石炭が1351億円、非鉄金属が667億円それぞれ減少した。
サービスも含めた貿易・サービス収支は3212億円の赤字と、前年同月から赤字幅が8284億円縮小した。
海外子会社からの配当収入や米国債など海外投資の収益を示す第1次所得収支は4兆2555億円の黒字。黒字幅は1170億円縮小したものの、経常収支全体の黒字を支えた。
農林中金総合研究所理事研究員の南武志氏は「膨大な経常黒字は日本の貯蓄性向を反映している」と指摘。「対米貿易黒字が問題視されているが、そもそも関税で赤字・黒字体質を変えられるわけではないため安易な妥協はすべきではない」との見解を示した。

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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景気ウォッチャーの現状判断DIは、4月統計で直近の底である42.6を記録した後、5月には+1.8ポイント改善して44.4、本日公表された6月にも+0.6ポイント上昇の45.0となっています。先行き判断DIも同様の動きを見せており、4月統計で42.7をつけた後、5月には+2.1ポイント上昇の44.8、6月も+1.1ポイント改善して45.9となっています。6月の現状判断DIをより詳しく前月差で見ると、家計動向関連のうちの住宅関連が▲4.0ポイント、サービス関連が▲2.0ポイント、それぞれ低下した一方で、飲食関連が+2.7ポイント、小売関連が+1.5ポイント、それぞれ改善を見せています。これら4コンポーネントから成る家計動向関連としては+0.3ポイント上昇の44.4となりました。また、企業動向関連では、製造業が前月から+1.1ポイント上昇の44.3、非製造業も+2.4ポイント改善の47.2と、ともに上昇しています。基本的には物価上昇、特に食料価格高騰の影響が家計関連のマインドの重しとなっていたのですが、引用した記事にもあるように、気温上昇で夏物商材の需要が増加しているほか、米国の関税政策に対する不透明感も和らいでいることが上げられます。コメ価格の高騰が大きな影響を及ぼしていると私は考えているのですが、その影響も小さくなってきた印象です。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる。」から「景気は、このところ回復に弱さがみられる。」と、4月から明確に1ノッチ下方修正し、本日の6月統計でも据え置いています。また、景気判断理由集(現状)の中から、家計動向関連に着目すると、小売関連では「天候のプラス要因もあるが、前年と比べて来客数、売上が増加している。食料品では夕方の値下げ品を求める客が増えている。少しでも安価な物を求める傾向が強い(東京都=百貨店)。」といったものが目につきました。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。季節調整していない原系列の統計では、引用した記事にもあるように、貿易・サービス収支が▲3212億円の赤字を計上したようです。ただし、私が注目している季節調整済みの系列の貿易・サービス収支に着目すると、2024年11-12月に2か月連続で2023年10月以来の黒字を計上した後、今年に入って、2025年1月から、本日公表された5月まで連続で赤字に戻っています。直近でデータが利用可能な5月は速報段階で▲1745億円の赤字を計上しています。さらに、引用した記事にもある通り、日本の経常収支は第1次所得収支が巨大な黒字を計上していますので、貿易・サービス収支が赤字であっても経常収支が赤字となることはほぼほぼ考えられません。はい。トランプ関税によって貿易収支の赤字が拡大したとしても、第1次所得収支で十分カバーできるでしょうし、引用した記事の最後のパラとは少し趣旨が異なりますが、関税で貯蓄投資バランスが大きく変化するわけでもありませんから、トランプ関税による経常収支への影響はそれほど大きくないと考えるべきです。加えて、経常収支にせよ、貿易収支・サービスにせよ、たとえ赤字であっても何ら悲観する必要はありません。エネルギーや資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常収支や貿易収支が赤字であっても何の問題もない、逆に、経常黒字が大きくても特段めでたいわけでもない、と私は考えています。

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2025年7月 7日 (月)

基調判断が「悪化」に引下げられた5月の景気動向指数

本日、内閣府から5月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から+1.1ポイント上昇の105.3を示した一方で、CI一致指数は▲0.1ポイント下降の115.9を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから報道を引用すると以下の通りです。

景気一致指数、5月0.1ポイント低下 判断「悪化」に引き下げ
内閣府が7日公表した5月の景気動向指数(速報値、2020年=100)によると、足元の景気を示す一致指数は前月比0.1ポイント低下の115.9と、2カ月ぶりのマイナスとなった。
同指数から機械的に決める基調判断は「悪化を示している」とし、前月から下方修正した。
基調判断「悪化」との表現は2020年7月以来。3カ月連続で移動平均が前月比マイナスなど一定のルールに基づいて判断した。
一致指数を構成する指標のうち、投資財出荷指数などが改善する一方、有効求人倍率や鉱工業用生産財出荷指数の悪化が下押しした。
自動車やフラットパネル製造装置の出荷が伸びたものの、求職者数の伸び拡大やガソリン価格下落などが下押しした。
先行指数は前月比1.1ポイント上昇の105.3と4カ月ぶりに改善した。自動車や同部品の在庫減少や消費者態度指数、東証株価指数などが押し上げた。
米関税政策の影響について内閣府では「自動車は3月のバネ工場事故からの挽回生産もあり影響判断が難しい」としている。

いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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5月統計のCI一致指数は2か月ぶりの悪化となりました。3か月後方移動平均も3か月連続の前月比マイナスを記録した一方で、7か月後方移動平均は前月から横ばいとなっています。統計作成官庁である内閣府では基調判断は、「悪化を示している」に下方修正しています。引用した記事にもある通り、「悪化」の基調判断は2020年7月以来であり、「『CIによる景気の基調判断』の基準」によれば、原則として3か月以上連続して、3か月後方移動平均が下降し、当月の前月差の符号がマイナスであることが基準となっていて、まさにズバリ「景気後退の可能性が高いことを示す。」と定義されています。私は従来から、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう簡単には日本経済が景気後退局面に入ることはないと考えていて、それはそれで正しいと今でも変わりありませんが、米国経済に関する前提が崩れつつある印象で、米国経済が年内にリセッションに入る可能性はかなり高まってきており、日本経済も前後して景気後退に陥る可能性が十分あると考えています。理由は、ほかのエコノミストとたぶん同じでトランプ政権が乱発している関税政策です。関税率引上げによって、米国経済においてインフレの加速と消費者心理の悪化の両面から消費を大きく押し下げる効果が強いと考えています。加えて、日本経済はすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありませんし、多くのエコノミストが円高を展望して待ち望んでいる金融引締めの経済へ影響は明らかに景気下押しであり、引き続き、注視する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、引用したロイターの記事にもあるように投資財出荷や輸出が下押ししており、投資財出荷指数(除輸送機械)が+0.40ポイント、耐久消費財出荷指数が+0.22ポイント、営業利益(全産業)が+0.19ポイント、それぞれ上昇した一方で、有効求人倍率が▲0.38ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)が▲0.22ポイント、同じく、商業販売額(小売業)(前年同月比)が▲0.17ポイントと、それぞれ下降の方向で寄与しています。ついでに、前月差+1.1ポイントと上昇したCI先行指数の上げ要因も数字を上げておくと、最終需要財在庫率指数が+0.85ポイント、消費者態度指数が+0.61ポイント、東証株価指数が+0.48ポイントなどとなっています。

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2025年7月 6日 (日)

東洋経済オンライン「公務員への就職に強い大学」ランキング

一昨日の金曜日7月4日付けの東洋経済オンラインの記事「公務員への就職に強い大学」ランキングにおいて、私の勤務校の立命館大学がランクインしています。はい。それだけです。下のテーブルは東洋経済オンラインのサイトから引用しています。上のテーブルは就職者数で、下は就職率で、それぞれソートしてあるようです。我が立命館大学は就職者数では3位にランクインしていますが、就職率ではランク外です。まあ、私立のマンモス校ですので学生数が多いということなのでしょう。一応、念のため、「国家公務員」ですから、キャリア公務員だけではありません。ノンキャリアも含めての国家公務員です。

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2025年7月 5日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして計6冊

今週の読書感想文は以下の通り計6冊です。
まず、トマ・フィリポン『競争なきアメリカ』(みすず書房)では、欧州に比べた米国の高価格を競争の減少に起因すると捉え、豊富なデータを基にした実証的研究の成果として、米国では集中度を高めた企業からの選挙資金提供=企業献金により競争政策が歪められている可能性があると結論しています。日本経済研究センター[編]『トランプがもたらす新世界』(日本経済新聞出版)では、注目される関税政策などの経済面に重点を置いているわけではなく、全9章に渡って内政、外交、安全保障、移民政策などの影響や課題、背後に潜む社会の変化を専門家が多角的に分析し、日本の進むべき方向性を議論しています。誉田哲也『首木の民』(双葉社)は、武橋大学の客員教授である久和が窃盗と公務執行妨害の容疑で逮捕され、運転する車の中から血の付いた他人の財布が発見されましたが、警視庁志村署の刑事に対し「公務員を信用していない」といい出し、取調べは進まず延々と経済学の講義が続く警察小説となっています。永濱利廣『新型インフレ』(朝日新書)では、現在のインフレをコストプッシュの新型インフレとしていますが、国民のマインドがデフレを強く意識したままでインフレに対応していないという点が新型であり、雇用の流動化を主張するのは現時点では間違っている可能性が高い点にも注意が必要です。片田珠美『マウントを取らずにはいられない人』(PHP新書)では、職場と家庭の16のケースのマウント被害を取り上げ、その対処法などについて考えていますが、実は、マウントを取られて精神科医にかかる被害者の方ではなく、マウントを取りに行って被害者を出してしまう加害者の方が精神を病んでいるかもしれません。荻原浩ほか『猫さえいれば、たいていのことはうまくいく。』(ポプラ文庫)は、タイトルから軽く想像されるように、猫に関する短編を編んだアンソロジーであり、私も愛読している「猫を処方いたします。」シリーズの石田祥などのエンタメ作家6人が執筆しています。
今年の新刊書読書は1~6月に164冊を読んでレビューし、7月に入って今週の6冊を加えて、合計で170冊となります。今年も年間で300冊に達する可能性があると受け止めています。なお、上にあらすじを書いた6冊以外に、長尾和宏『歩く人はボケない』(PHP新書)も読んだのですが、歩くことによりタイトル通りにボケないどころか、ガンも治るという "One size fits all" 的な健康法で、私自身が感心しないと受け止めましたので、本日のレビューには含めていません。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2などでシェアしたいと考えています。

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まず、トマ・フィリポン『競争なきアメリカ』(みすず書房)を読みました。著者は、フランス出身で米国ニューヨーク大学スターン経営大学院教授です。ひどく格は違いますが、私と同じマクロエコノミストだと私はみなしています。本書では、タイトル通り、米国の競争の現状について広くデータを基に実証的に分析しています。冒頭で、米国のブロードバンド平均月額料金が欧州に比較してやたらと高い点を上げています。はい。これはその通りで、総務省の調査なんかでも確認されている通りです。なお、本書では欧米比較で議論を進めていて、日本はまったく無視されています。私が「電気通信サービスに係る内外価格差調査」なんかで調べた範囲では東京の電気通信料金は、円安効果もあるのでしょうが、ロンドンやパリほどではないとしても、ニューヨークよりはずっと安価で、デュッセルドルフとほぼ同等です。そして、本書では、こういったサービス料金をはじめとして米国の物価が高いのは競争が不足して、ごく一部の企業への市場集中度が高まった結果であると結論しています。そういう側面は否定できません。ただ、ドル-ユーロ間の為替ももう少し考慮すべき点ではないかと思いますが、日本の円ほどユーロは対ドルで変動していないように見えるのも事実です。そして、さらに本書では分析を進め、こういった競争の不足は、ある意味で驚くべきことに、市場集中度を高めた企業による選挙資金提供=企業献金により政策が歪められていると結論しています。詳細は読んでいただくしかありませんが、きわめて綿密なデータの裏付けを持って実証的な論証がなされています。最後に、繰り返しになりますが、日本についてはまったく無視されています。そして、私の直感では日本では競争政策だけではなく、もっとえげつない形で企業に対する減税や補助金として政府から資金が流されています。全部とはいいませんが、企業献金に見合った減税や補助金である可能性が十分あると考えられます。これまた、私の直感にしたがえば、政府、中央政府だけでなく地方政府も含めて政府からもっとも多額の減税や補助金を受け取っているのはトヨタではないかと考えています。消費税は社会保障の財源だけではなく、企業補助金の財源、あるいは、企業への法人税減税の財源にされている面があることは否定できません。ですので、日本では競争政策のためだけではなく、一般国民や中小企業からの社会保障負担の軽減のため、あるいは、国民への社会保障の充実のために企業への補助金を大胆にカットすべきであり、そのためには、企業献金を禁止することが必要である、と私は本書を読んで強く感じました。

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次に、日本経済研究センター[編]『トランプがもたらす新世界』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、その名の通り、日本経済を研究する公益社団法人です。私が前に勤務していた内閣府も、現在の立命館大学経済学部も、どちらも会員になっているんではないかと思います。ですので、今年2025年3月に報告書として取りまとめられ、本書の基となった「トランプ2.0の米欧世界とグローバル秩序」についても私は入手して、ごくごくナナメに読んでいたりします。9人の著者がそれぞれ9章のチャプターを担当執筆していますが、経済が中心のトピックにはなっていません。現在の我が国では、米国トランプ政権への最大の注目点は関税政策の交渉であり、特に自動車関税の行方だと私は感じていますが、本書では以下の9章のタイトルから理解されるように、経済に重点を置いているわけではなく、内政、外交、安全保障、移民政策などの影響や課題、背後に潜む社会の変化を各部門の専門家が多角的に分析し、日本の進むべき方向性などを議論しています。すなわち、各章のタイトルをズラズラと並べると、第1章 第2次トランプ政権の展望 - 変わらない分断構造; 第2章 極右ポピュリズムの波ともう一つの欧州像; 第3章 局面が変わった米国の移民問題 - 「平常」への復帰に向けた苦闘; 第4章 欧州における移民・難民をめぐるポリティクス; 第5章 アメリカ・ファーストとポスト・プライマシーの国際秩序の行方 - リベラル覇権秩序の次にくる世界とは; 第6章 「NATOによる平和」の可能性と課題 - ロシア・ウクライナ戦争と欧州秩序の変容; 第7章 第2次トランプ政権とデジタル政策 - 現状と展望; 第8章 米欧の「グリーン政策」とその行方 - 第2次トランプ政権がもたらす変化; 第9章 グローバル・ガバナンスの理想と現実; となります。冒頭章で選挙結果を分析して、前までは所得階層により支持政党の色分けがほのかになされていて、きわめて大雑把に、高所得層は共和党支持、低所得層は民主党支持、だったのが、昨年2024年の米国大統領選挙では逆転している、と指摘されています。ただ、私の目から見て、現在のトランプ政権の政策が選挙での支持層に有利になっているかといえば、大いに疑問であり、直感的には、選挙での支持層ではなく、選挙資金の提供者に有利になっている気がしないでもありません。また、分析対象は米国だけではなく、排外主義や多文化主義の否定などでトランプ政権と共通する部分のある欧州の極右ポピュリスト政党にも及んでおり、フランスでは国民連合(RN)が政教分離=ライシテをイスラム教徒排除に利用して勢力を拡大した、などの分析が示されています。少し意外だったのが第8章の分析であり、現在のトランプ政権のキーワードのひとつに "drill, baby, drill" = 「掘って、掘って、掘りまくれ」というのがあり、気候変動対策にはきわめて消極的、というか、逆行するような政策が取られているのではないか、と私は想像していましたが、米国ではインフレ抑制法(IRA)に基づく二酸化炭素の回収・貯留(CCS)などに関連するプロジェクトにはトランプ政権も好意的であるとか、欧州でも揺り戻しはあるものの、中国への対抗上、電気自動車(EV)開発を進める必要が高まっている、など、それほど大きく後退すると見るべきではない、という指摘でした。政権がどうであれ、時代の流れには逆らえない可能性があるものと私は理解しました。

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次に、誉田哲也『首木の民』(双葉社)を読みました。著者は、警察ミステリを得意とする小説家であり、私は姫川玲子を主人公とする「ストリベリーナイト」のシリーズを何冊か読んだことがあります。ということで、本書も警察小説です。ただ、経済小説、それもリフレ派エコノミストの主張を大いに取り入れた、というか、何というか、登場人物のリフレ派エコノミストが持論を割と長々と展開する警察小説です。モデルは明らかに嘉悦大学大学院ビジネス創造研究科の高橋洋一教授です。その高橋教授をモデルにした武橋大学国際教養学部客員教授の久和秀昭が自動車を運転している際に、職務質問から緊急逮捕され、車内から血のついたフリーライターの財布が発見されます。そして、警視庁志村署の佐久間龍平や中田三都らの刑事が真相解明に当たる、というストーリーです。久和は逮捕されたわけですから、まず、取り調べが行われるのですが、「公務員を信用しない」とうそぶいて、その理由を説明し始めます。それが延々とリフレ派エコノミストの経済理論なわけです。すなわち、国債は将来世代の負担となる借金ではないし、耳をそろえて全額返済せねばならないわけではないとか、財務省の緊縮財政は間違っている、とかなわけです。そして、財布の持ち主のフリーライターの交通事故の関係もあって、刑事らは財務省の現役の事務次官や事務次官経験者などに取調べではないのですが、事情聴取に行ったりするわけです。そして、最後には、当然、真相が明らかにされます。まず、本書で展開されるリフレ派の経済理論はほぼほぼ正しいです。そんなに詳細な部分まで読み込んではいませんが、たぶん、完全に正しいです。ただ、小説内での水の循環の例えとか、経済にそれほど詳しくない人が理解しやすいかどうかは私には判りません。少なくとも、私はこういったリフレ派経済学に平均的な日本人よりもずっと詳しいと思うからです。そして、誉田作品にしては、刑事のキャラがフツーの一般日本人になった気がします。「ストリベリーナイト」のシリーズの姫川玲子だけではなく、曲者の刑事が私のような一般ピープルには考えもつかないような怪奇な事件の真相を解明する、というイメージでしたが、本書に登場する刑事は警視庁本庁にせよ、所轄の志村署にせよ、マイホームパパや今どきの若い女性という感じで、逆にそれがキャラになっています。亡くなった森永卓郎さんに続いて、本書の作者の誉田哲也さんも財務相にケンカを売っているのかもしれません。

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次に、永濱利廣『新型インフレ』(朝日新書)を読みました。著者は、第一生命経済研究所のエコノミストです。どちらかといえば、私なんかと同じで、リフレ派や高圧経済支持に近いお考えだと認識しています。本書では、タイトルにあるような「新型インフレ」については、私は特に新型とも思わないのですが、まあ、タイトルとして読者の目を引きつけるのはいいんだろうと思います。まず、経済学といえば需要曲線と供給曲線から始まります。需要曲線がシフトするのがディマンドプルのインフレであり、供給曲線のシフトに起因するのがコストプッシュのインフレです。本書では、私がスラッとよんだところで、後者のコストプッシュなので「新型」といっているように読んでしまいましたが、1970年代の狂乱物価もコストプッシュ・インフレでしたし、もう数十年も日本も世界も典型的なディマンドプルのインフレなんて経験していないような気がするのは、私だけではないと思います。むしろ、インフレが新型というよりも、日本人のマインドがデフレ感覚を強く残したままでインフレに対応していない、という点だと私は考えています。本書でも指摘しているように、デフレの最大の悪影響のひとつは支出の先送りにあります。先行き価格が低下するという期待をもって、消費や投資などの支出が先送りされるわけです。逆に、インフレ時には価格に先高観を感じて、「価格が高くなる前の今のうちに買っておこう」という支出行動、前倒し的な支出行動になるのですが、デフレマインドが払拭されないうちにインフレになってしまったものですから、相変わらず価格の先安感だけが残って、「今は価格が上がっているが、そのうちに下がる可能性があるので、今は買い控えておこう」という支出行動になっている可能性があります。もしもそうであれば、デフレの根深さを感じます。最後に、本書で指摘しているような雇用や労働の流動化は、少なくとも現時点では私は明確に反対です。特に、本書では高圧経済と雇用に関する無理解を感じます。高圧経済というのは大雑把に人手不足のことです。ですから、高圧経済下では労働者が自分のスキルや希望する所得に応じて、雇用や労働が流動化されれば、雇用者のサイドから働く企業を選ぶことになります。しかも、その前段階として、非正規雇用の正規化が生じると考えるべきです。他方、現時点の人手不足の状況では、まだ、非正規雇用の正規化とかにはまったく起こっていません。ですから、雇用や労働を流動化すれば、企業のサイドで雇用者を解雇するために利用されかねません。いつでも、どこでも、雇用の流動化が好ましいわけではありません。

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次に、片田珠美『マウントを取らずにはいられない人』(PHP新書)を読みました。著者は、精神科医です。私は同じ出版社から同じ著者が出している『他人を攻撃せずにはいられない人』を10年ほど前の2015年に読んでレビューしています。ただ、本書も10年前の『他人を攻撃せずにはいられない人』も、どちらも、常識的な範囲でかなり極端な例が取り上げられていることはいうまでもありません。攻撃されたり、ましてや、マウントを取られたりした結果、精神科医のところに駆け込んでくるほどの被害者の症例を基にしているのですから当然です。本書では、職場におけるマウントと家庭におけるマウントを合わせて16例を示して、対処方法などを議論しています。例えば、実際のマウントの被害の防止に役立つリミットセッティング=限界設定として、レッドラインを引いて許容範囲を明確に示すこととかだったりします。ただ、私はすでに立派な高齢者になりましたので、地域のマウントもあるような気がします。いずれにせよ、マウントを取るというのは、従来の言葉で平たくいえば、「エラそうにする」という意味だと思います。何らかの集団の中で自分自身の優位性とか有能さとかを他に、やや誇張して表現する、ということだと思いますが、2点だけ指摘しておきたいと思います。すなわち、本書では言葉によるマウントしか取り上げていませんが、行為によるマウントは私の知る限り確かに存在し、ひょっとしたら、言葉によるマウントよりも悪質かもしれない、ということです。待ち行列に割り込むとかです。私の体験からいうと、歩く速さもそうです。私自身は若いころから歩くのが人並外れて遅く、役所に勤めていた若いころに同じ京都大学卒業の課長からもっと早く歩くように示唆されたことがあります。キャリアなのだから通常より速く職階を上がるわけで、私が上の職階に達してもチンタラ歩いていると、後ろの人が追い抜けなくて困るのだから、もっと速く歩け、という趣旨でした。努力はしましたが、思うように速くは歩けませんでした。第2に、本書でも十分言及されていますが、精神科医である著者のところにやって来るのはマウントの被害にあった患者さんなのですが、実は、精神を止んでいるのはマウントの加害者の方である、という点は事実なんだろうと思います。職場の同僚や家族を精神科医のところに通わせるほどの激しいマウントを取ろうとする方が、よっぽど精神を病んでいるのだろうと考えるべきです。

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次に、荻原浩ほか『猫さえいれば、たいていのことはうまくいく。』(ポプラ文庫)を読みました。著者は、エンタメ作家など6人です。タイトルから軽く想像されるように、猫に関する短編を編んだアンソロジーです。収録順にあらすじは以下の通りです。荻原浩「猫は長靴を履かない」では、20代半ばの男性が、両親が交通事故死した後の育ての親である叔父さんから遺産として譲り受けたのが、スコティッシュフォールドのわびすけという名の猫でした。そのわびすけをWEB会議で見たCMプランナーのお仕事上の先輩格の女性から、ある案件を持ち込まれます。石田祥「ツレ猫婚」では、35歳にしてお見合いをすることになった女性の主人公のお相手は、40歳前の会計士なのですが、究極の猫好きで猫カフェでデートをしたりします。大学は理系で、典型的な理系人間と自称するにしては、経済経営系の会計士を職業としている不整合には目をつぶる方がいいのかもしれません。清水晴木「いちたすいち」の主人公は会社で孤立し陰口でディスられる日々を過ごし、寝られない夜にはコインランドリーに行くのですが、そこで黒猫と出会います。マンスリー・マンションの住人に捨てられたらしい黒猫と主人公、ひとりと一匹の距離はすこしずつ縮まります。標野凪「猫のヒゲ」では、80歳の未亡人の主人公が、娘の頼みで自分と同じくらいの保護老猫を迎え入れることになり、シマ子と名付けた猫との暮らしがはじまります。シマ子のヒゲが抜けると主人公の記憶も抜け落ちる、という老齢の哀しさが伝わってきます。若竹七海「神様のウインク」では、老朽化の進んだ公団住宅の団地に住む中学生男子の主人公が、4階から猫に餌やりをするので猫がたむろして「ジゴク棟」と呼ばれる42号棟のその猫ばあさんの家で悪さを試みますが、神様は見逃しませんでした。山本幸久「御後安全靴株式会社社史・飼い猫の項」の主人公は、御後安全靴株式会社の総務課に勤務し、創立55周年の社史編纂を担当する中年社員です。この会社にはは歴代猫社員が在籍し、さまざまな危機から創業者社長や会社を救っていますので、社史にどう盛り込むかを考えます。

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2025年7月 4日 (金)

図書館蔵書が多かったり、図書館がいっぱいあると要介護リスクが低い

京都大学の大谷紗惠子講師と慶應義塾大学の佐藤豪竜講師と京都大学の近藤尚己教授の共同研究の成果が "Public libraries and functional disability: A cohort study of Japanese older adults" として学術論文に取りまとめられ、ジャーナルに掲載されています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。

次に、ジャーナルのサイトから論文のAbstractを引用すると下の通りです。

Abstract
This study examined the association between the presence of public libraries and functional disability risk among community-dwelling older adults. We studied 73,138 participants aged 65 years or older in 19 Japanese municipalities using data from the Japan Gerontological Evaluation Study. They were physically and cognitively independent at baseline and followed up between 2013 and 2021 (mean follow-up: 7.3 years). The onset of functional disability was ascertained by linking participants to the public registries of long-term care insurance. The exposures were the number of library books and that of libraries per population in each municipality. During the study period, we observed 16,336 cases (22.3%) of functional disability onset. Our Cox proportional hazards model revealed that the number of library books (hazard ratio [HR] = 0.96, 95% confidence interval [CI]: 0.95-0.97) and that of libraries (HR = 0.52, 95% CI: 0.28-1.00) were associated with the onset of functional disability. The association was consistent even after adjusting for individuals' reading habits and other potential confounders, which suggested the contextual effect of public libraries on older adults’ functional ability. Additionally, the magnitude of association was larger for the younger, women, and people with reading habits than their counterparts. Building new libraries and increasing the number of library books in a community may contribute to lowering the functional disability risk among older adults.

調査は、日本最大級の高齢者調査プロジェクト「日本老年学的評価研究 (JAGES)」の19市町村のデータ、73,138名の高齢者を約7年間追跡したデータを用いて実施され、何と、2013年から2021年までの平均7.3年フォローアップ期間となっています。そして、人口当たりの図書館蔵書数や図書館数が機能障害(functional disability)の発症と相関があるとの結果を得ています。すなわち、図書館蔵書数や図書館数が多いほど、機能障害の発症が少ないことが確認されています。日本老年学的評価研究のサイトにある報道発表資料 Press Release No: 464-25-9から 図書館の人口当たり蔵書数と要介護リスクの関連 を引用すると下の通りです。

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繰り返しになりますが、7万人を超える高齢者を7年余り追跡調査した結果ですので、ものすごいサンプル数に上ると想像され、統計的な有意性はバッチリ出ると思います。ただ、サインは不明で、結果、図書館蔵書や図書館が多いと要介護リスクがわずかながら低下する可能性が示されています。あくまで相関ながら、要介護リスクが低いと図書館蔵書や図書館が増える可能性は否定できないながら、おそらく因果の方向は図書館蔵書や図書館が多いと要介護リスクが低下する可能性が高いと考えるべきです。
はい、図書館サービスは公共財の色彩が強いのは多くのエコノミストが認めるところだと思いますので、こういうデータをうまく使って、財政当局に対して予算を要求するような気の利いた地方自治体がいっぱいあることを願っています。

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2025年7月 3日 (木)

雇用増の減速が続く6月の米国雇用統計

日本時間の今夜、米国労働省から6月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は、5月統計の+144千人増から6月統計では+147千人増とほぼ横ばいであり、失業率は5月の4.2%から0.1%ポイント低下して4.1%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事をコンパクトに4パラ引用だけすると以下の通りです。

June jobs report reveals U.S. added 147K jobs in June; unemployment dips
U.S. hiring unexpectedly picked up in June as employers added 147,000 jobs despite President Donald Trump's wide-ranging import tariffs, federal layoffs and immigration constraints.
But state and local government hiring sharply boosted the gains. The private sector added just 74,000 jobs, fewest since two Southeast hurricanes dampened payroll growth in October and possibly auguring a broader slowdown.
The unemployment rate fell from 4.2% to 4.1%, the Labor Department said Friday.
Ahead of the report, economists surveyed by Bloomberg had estimated 110,000 jobs were added in June.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、1月の+111千人増から、2月+102千人増、3月+120千人増、4月に+158千人増とやや加速した後、5月+144千人増、6月+147千人増を記録しています。加えて、前の4-5月の統計が上方修正されており、4月の伸びは+147千人増から+158千人増に、5月も+139千人増から+144千人増にそれぞれ改定されています。昨年2024年12月には323千人増でしたから、今年2025年に入ってから雇用の増加にはブレーキがかかり、トランプ政権の高関税政策とも相まって、景気後退懸念が大きくなる可能性が出ています。ただし、引用した記事の4パラめにもあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスは+110千人増でしたから、この市場予想からは上振れしていることになります。また、これも引用した記事にあるように、民間部門の雇用は6月統計では+74千人増、これは記事にはありませんが、政府部門の雇用は+70千人増ですので、連邦政府職員が減少している一方で、州政府職員をはじめとする地方政府職員の増加で、むしろ、政府職員は増加していたりします。民間部門では、関税政策をはじめとする政策動向が極めて不透明で、こういった不確実性の拡大が雇用の伸びを抑制する可能性が大きくなっています。
すでに、広く報じられている通り、1~3月期米国GDPはマイナス成長を記録しています。基本的には、関税引上げを前にした輸入の急増が主因ですが、もしも、トランプ政権の関税引上げ政策が実行されれば、年内に景気後退局面に入る可能性が高まる一方で、インフレが加速することから、連邦準備制度理事会(FED)の早期利下げ観測が後退して金利が上昇する方向にあります。これも米国景気を下押しする要因になりかねません。

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2025年7月 2日 (水)

GDPギャップと潜在成長率

やや旧聞に属するトピックながら、1~3月期GDP統計速報2次QEの公表後、6月17日に今週の指標1381として、「2025年1-3月期GDP2次速報後のGDPギャップの推計結果について」が公表されています。公表されているデータからGDPギャップと潜在成長率をプロットすると下のグラフのようになります。

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昨年11月発行の紀要論文 "Estimating Output Gap in Japan: A Latent Variable Approach" において、GDPと物価上昇率からGDPギャップを状態空間表現して解いてみましたので、GDPギャップについてはそれなりにマクロエコノミストとして興味を持って観察しています。
GDPギャップを見る限り、1980年代後半のバブル経済から最近まで、山も谷も下方にシフトしている可能性があります。バブル経済崩壊後の谷の深さよりも、いわゆる「リーマン・ショック後の谷の方が深く、さらに、コロナ・ショック後の谷はもっと深い、という推計結果となっているように見受けられます。同様に、山も低くなってきているのが観察されます。昨年来の日銀による金利引上げは、GDPギャップのマイナス幅がかなり縮小し、プラスの需要超過に近づいていることから、フォワードルッキングにこのまま需要超過に進むと考えれば、一応の理由がないわけではないとも考えられます。ただ、おそらく、山も低い結果に終わる可能性が高く、そこまで金利引上げに執着しなくともよかろうという気もします。はい、強くします。

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2025年7月 1日 (火)

意外と製造業の景況感が堅調だった6月調査の日銀短観

本日、日銀から6月調査の短観が公表されています。日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは3月調査から+1ポイント改善して+13、他方、大企業非製造業は逆に▲1ポイント悪化の+34となりました。また、本年度2025年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+6.7%増と、3月調査の+0.1%増から上方修正されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業製造業の景況感、2四半期ぶり改善 日銀短観6月
日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回2025年3月調査(プラス12)から小幅に改善しプラス13だった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。6月調査の回答期間は5月28日~6月30日で回答率は99%だった。6月12日までにおおむね7割の回答があったという。
トランプ米政権は4月5日に米国への全輸出国に基本税率10%の関税を発動した。トランプ関税の影響を本格的に反映するのは今回の短観が初めてとなる。民間エコノミストの予想は大企業製造業で小幅悪化を予測していた。
大企業製造業の景況感の改善は2四半期ぶり。米国の通商政策を背景とした不確実性は業況の下押しとなる一方、価格転嫁の進展で企業収益が好調なことが全体を押し上げた。
業種別にみると、鉄鋼が15ポイント改善しマイナス3となった。価格転嫁の進展に加え、原材料価格が低下したことが背景にある。紙・パルプも11ポイント改善しプラス29になった。
一方、自動車は5ポイント悪化しプラス8となった。悪化は24年9月調査以来、3四半期ぶり。トランプ政権が自動車や自動車部品に対して追加関税を発動し、日銀担当者は「米国の通商政策をうけた不透明感の高まりや需要減退を指摘する声が聞かれた」と指摘する。
自動車の先行きについてはプラス7と1ポイントの悪化だった。米関税の影響を懸念する声がある一方で、価格転嫁がさらに進むことで収益が改善するとの見方がある。
大企業非製造業の景況感は3月のプラス35から小幅に悪化しプラス34だった。悪化は2四半期ぶり。民間エコノミストの予想はプラス34だった。
販売価格の上昇や消費に対する懸念が悪化要因となった。日銀担当者は「対個人サービスなどでは、関税の影響を受けた消費者マインドの悪化や先行きの不透明感を指摘する声があった」と説明する。
業種別では、小売が3ポイント悪化しプラス18となった。日銀担当者は「一部で円高によるインバウンドの落ち込みを指摘する声があがった」と話す。
企業の物価見通しは全規模全産業で1年後は前年比2.4%と前回調査と比べて0.1ポイント下方修正された。3年後は2.4%、5年後は2.3%と横ばいだった。
企業の事業計画の前提となる25年度の想定為替レートは全規模全産業で1ドル=145円72銭だった。前回調査は147円06銭で、円高方向に修正された。

いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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先週、日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては、製造業・非製造業ともにおおむね横ばい圏内ながら、ヘッドラインとなり大企業製造業の業況判断DIは悪化、との予想が緩やかなコンセンサスであったと私は考えています。例えば、私が見た範囲で、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、ロイターによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回3月調査から▲1ポイント悪化の+10と予想されていました。本日公表された大企業製造業の景況判断DIの+10という実績は、横ばい圏内の動きという意味でも、動きの幅のマグニチュードでも大きなサプライズはありませんでした。ただ、プラスかマイナスかの符号は違っていただけに、やや上振れした印象が持たれるのは当然です。また、大企業非製造業では逆に▲1ポイント悪化して+34となりました。
業種別に少し詳しく見ると、大企業製造業では、素材業種が鉄鋼、紙・パルプ、石油・石炭製品などのプラスを背景に前回調査より+4ポイント改善した一方で、加工業種は▲2ポイント悪化を示しています。中でも、トランプ関税との関係で注目され、我が国リーディングインダストリーのひとつである自動車は前回調査から▲5ポイント悪化の+8であり、先行きもさらに▲1ポイント悪化すると見込まれています。大企業非製造業では、物品賃貸や不動産、あるいは、通信といった業種で前回調査から下振れしています。ただし、これらの業種いずれもDIの水準としてはプラスを維持しています。景況感に関しては 鉱工業生産指数(IIP)や商業販売統計などを見る限り、概ねハードデータとソフトデータの整合性は十分あるような気がします。ただ、トランプ関税などに起因して先行き不透明感は大きく、景況感についても、製造業・非製造業おしなべて大企業・中堅企業・中小企業ともに先行きは悪化すると予想されています。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学における生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感がほぼ払拭されました。特に、雇用人員については足元から目先では不足感がますます強まっている、ということになります。グラフを見ても理解できる通り、大企業・中堅企業・中小企業ともコロナ禍前の人手不足感を上回っています。今春闘での賃上げが高水準だった背景でもあります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、名目賃金が物価上昇以上に上昇して、実質賃金が安定的に上向くという段階までの雇用人員の不足は生じているかどうかに疑問があり、その意味で、本格的な人手不足かどうか、賃金上昇を伴う人で不足なのかどうか、については、まだ、私は日銀ほどには確信を持てずにいます。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではない可能性がある、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私にはまだ謎です。実質賃金、すなわち、名目賃金が物価上昇に見合うほど上がらないために、そう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感が大きくなる段階には達していません。要するに、繰り返しになりますが、低賃金労働者が不足しているだけであって、外国人を含めて低賃金労働の供給があれば、生産要素間で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れである可能性が十分あるのではないかと感じます。

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続いて、設備投資計画のグラフは上の通りです。規模別に見ると、大企業が3月調査の+3.1%増から上方修正されて+11.5%増、そして、中堅企業も+0.3%増から上方修正されて+3.4%増、中小企業でも▲10.0%減から上方修正されて▲5.6%減と、人手不足を設備投資による資本ストック増で要素間代替を試みるような動きが観察されます。大企業に比べて規模の小さい企業での雇用増を図ることが厳しく、設備投資で代替させようとの動きと私は受け止めていますが、中小規模の企業は現時点ではまだマイナス計画です。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。今回の6月調査では全規模全産業で+6.7%増の高い伸びが計画されています。当然jのように、3月調査よりも上積みされています。デジタルトランスフォーメーション(DX)だけでなく、カーボンニュートラルを目指したグリーントランスフォーメーション(GX)、さらに、グローバリゼーション=国際化などに対応した投資がいよいよ本格化しなければ、ますます日本経済が世界から取り残される、という段階が近づいているような気がして、設備投資の活性化を期待しています。ただ、GDPベースの設備投資やその先行指標である機械受注などのハードデータと日銀短観に示されたソフトデータの間でまだ不整合があるような気がします。計画倒れにならないことを願っています。

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最後に、日銀短観から離れて、本日、内閣府から6月の消費者態度指数が公表されています。消費者態度指数のグラフは上の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。6月統計では、前月から+1.7ポイント上昇して34.5を記録しています。また、消費者態度指数を構成する4項目の指標について前月差で詳しく見ると、「耐久消費財の買い時判断」が+2.8ポイント上昇して28.2、「暮らし向き」が+2.2ポイント上昇し32.4、「雇用環境」が+1.0ポイント上昇して38.3、「収入の増え方」も+0.6ポイント上昇して38.9と、消費者態度指数を構成する4項目すべてが上昇しました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「弱含んでいる」で据え置いています。先月4月統計で従来の「足踏みがみられる」から、「弱含んでいる」に1ノッチ下方修正したのですが、本日公表の6月統計では「持ち直しの動きがみられる」と明確に1ノッチ上方修正しました。さらに、物価上昇に伴って注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が48.8%を占める一方で、2%以上5%未満物価が上がるとの回答も32.9%に上っており、これらも含めた物価上昇を見込む割合は92.1%と高い水準が続いています。ただし、物価上昇予想は上昇率の低い方にややシフトしています。

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