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2025年7月 5日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして計6冊

今週の読書感想文は以下の通り計6冊です。
まず、トマ・フィリポン『競争なきアメリカ』(みすず書房)では、欧州に比べた米国の高価格を競争の減少に起因すると捉え、豊富なデータを基にした実証的研究の成果として、米国では集中度を高めた企業からの選挙資金提供=企業献金により競争政策が歪められている可能性があると結論しています。日本経済研究センター[編]『トランプがもたらす新世界』(日本経済新聞出版)では、注目される関税政策などの経済面に重点を置いているわけではなく、全9章に渡って内政、外交、安全保障、移民政策などの影響や課題、背後に潜む社会の変化を専門家が多角的に分析し、日本の進むべき方向性を議論しています。誉田哲也『首木の民』(双葉社)は、武橋大学の客員教授である久和が窃盗と公務執行妨害の容疑で逮捕され、運転する車の中から血の付いた他人の財布が発見されましたが、警視庁志村署の刑事に対し「公務員を信用していない」といい出し、取調べは進まず延々と経済学の講義が続く警察小説となっています。永濱利廣『新型インフレ』(朝日新書)では、現在のインフレをコストプッシュの新型インフレとしていますが、国民のマインドがデフレを強く意識したままでインフレに対応していないという点が新型であり、雇用の流動化を主張するのは現時点では間違っている可能性が高い点にも注意が必要です。片田珠美『マウントを取らずにはいられない人』(PHP新書)では、職場と家庭の16のケースのマウント被害を取り上げ、その対処法などについて考えていますが、実は、マウントを取られて精神科医にかかる被害者の方ではなく、マウントを取りに行って被害者を出してしまう加害者の方が精神を病んでいるかもしれません。荻原浩ほか『猫さえいれば、たいていのことはうまくいく。』(ポプラ文庫)は、タイトルから軽く想像されるように、猫に関する短編を編んだアンソロジーであり、私も愛読している「猫を処方いたします。」シリーズの石田祥などのエンタメ作家6人が執筆しています。
今年の新刊書読書は1~6月に164冊を読んでレビューし、7月に入って今週の6冊を加えて、合計で170冊となります。今年も年間で300冊に達する可能性があると受け止めています。なお、上にあらすじを書いた6冊以外に、長尾和宏『歩く人はボケない』(PHP新書)も読んだのですが、歩くことによりタイトル通りにボケないどころか、ガンも治るという "One size fits all" 的な健康法で、私自身が感心しないと受け止めましたので、本日のレビューには含めていません。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2などでシェアしたいと考えています。

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まず、トマ・フィリポン『競争なきアメリカ』(みすず書房)を読みました。著者は、フランス出身で米国ニューヨーク大学スターン経営大学院教授です。ひどく格は違いますが、私と同じマクロエコノミストだと私はみなしています。本書では、タイトル通り、米国の競争の現状について広くデータを基に実証的に分析しています。冒頭で、米国のブロードバンド平均月額料金が欧州に比較してやたらと高い点を上げています。はい。これはその通りで、総務省の調査なんかでも確認されている通りです。なお、本書では欧米比較で議論を進めていて、日本はまったく無視されています。私が「電気通信サービスに係る内外価格差調査」なんかで調べた範囲では東京の電気通信料金は、円安効果もあるのでしょうが、ロンドンやパリほどではないとしても、ニューヨークよりはずっと安価で、デュッセルドルフとほぼ同等です。そして、本書では、こういったサービス料金をはじめとして米国の物価が高いのは競争が不足して、ごく一部の企業への市場集中度が高まった結果であると結論しています。そういう側面は否定できません。ただ、ドル-ユーロ間の為替ももう少し考慮すべき点ではないかと思いますが、日本の円ほどユーロは対ドルで変動していないように見えるのも事実です。そして、さらに本書では分析を進め、こういった競争の不足は、ある意味で驚くべきことに、市場集中度を高めた企業による選挙資金提供=企業献金により政策が歪められていると結論しています。詳細は読んでいただくしかありませんが、きわめて綿密なデータの裏付けを持って実証的な論証がなされています。最後に、繰り返しになりますが、日本についてはまったく無視されています。そして、私の直感では日本では競争政策だけではなく、もっとえげつない形で企業に対する減税や補助金として政府から資金が流されています。全部とはいいませんが、企業献金に見合った減税や補助金である可能性が十分あると考えられます。これまた、私の直感にしたがえば、政府、中央政府だけでなく地方政府も含めて政府からもっとも多額の減税や補助金を受け取っているのはトヨタではないかと考えています。消費税は社会保障の財源だけではなく、企業補助金の財源、あるいは、企業への法人税減税の財源にされている面があることは否定できません。ですので、日本では競争政策のためだけではなく、一般国民や中小企業からの社会保障負担の軽減のため、あるいは、国民への社会保障の充実のために企業への補助金を大胆にカットすべきであり、そのためには、企業献金を禁止することが必要である、と私は本書を読んで強く感じました。

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次に、日本経済研究センター[編]『トランプがもたらす新世界』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、その名の通り、日本経済を研究する公益社団法人です。私が前に勤務していた内閣府も、現在の立命館大学経済学部も、どちらも会員になっているんではないかと思います。ですので、今年2025年3月に報告書として取りまとめられ、本書の基となった「トランプ2.0の米欧世界とグローバル秩序」についても私は入手して、ごくごくナナメに読んでいたりします。9人の著者がそれぞれ9章のチャプターを担当執筆していますが、経済が中心のトピックにはなっていません。現在の我が国では、米国トランプ政権への最大の注目点は関税政策の交渉であり、特に自動車関税の行方だと私は感じていますが、本書では以下の9章のタイトルから理解されるように、経済に重点を置いているわけではなく、内政、外交、安全保障、移民政策などの影響や課題、背後に潜む社会の変化を各部門の専門家が多角的に分析し、日本の進むべき方向性などを議論しています。すなわち、各章のタイトルをズラズラと並べると、第1章 第2次トランプ政権の展望 - 変わらない分断構造; 第2章 極右ポピュリズムの波ともう一つの欧州像; 第3章 局面が変わった米国の移民問題 - 「平常」への復帰に向けた苦闘; 第4章 欧州における移民・難民をめぐるポリティクス; 第5章 アメリカ・ファーストとポスト・プライマシーの国際秩序の行方 - リベラル覇権秩序の次にくる世界とは; 第6章 「NATOによる平和」の可能性と課題 - ロシア・ウクライナ戦争と欧州秩序の変容; 第7章 第2次トランプ政権とデジタル政策 - 現状と展望; 第8章 米欧の「グリーン政策」とその行方 - 第2次トランプ政権がもたらす変化; 第9章 グローバル・ガバナンスの理想と現実; となります。冒頭章で選挙結果を分析して、前までは所得階層により支持政党の色分けがほのかになされていて、きわめて大雑把に、高所得層は共和党支持、低所得層は民主党支持、だったのが、昨年2024年の米国大統領選挙では逆転している、と指摘されています。ただ、私の目から見て、現在のトランプ政権の政策が選挙での支持層に有利になっているかといえば、大いに疑問であり、直感的には、選挙での支持層ではなく、選挙資金の提供者に有利になっている気がしないでもありません。また、分析対象は米国だけではなく、排外主義や多文化主義の否定などでトランプ政権と共通する部分のある欧州の極右ポピュリスト政党にも及んでおり、フランスでは国民連合(RN)が政教分離=ライシテをイスラム教徒排除に利用して勢力を拡大した、などの分析が示されています。少し意外だったのが第8章の分析であり、現在のトランプ政権のキーワードのひとつに "drill, baby, drill" = 「掘って、掘って、掘りまくれ」というのがあり、気候変動対策にはきわめて消極的、というか、逆行するような政策が取られているのではないか、と私は想像していましたが、米国ではインフレ抑制法(IRA)に基づく二酸化炭素の回収・貯留(CCS)などに関連するプロジェクトにはトランプ政権も好意的であるとか、欧州でも揺り戻しはあるものの、中国への対抗上、電気自動車(EV)開発を進める必要が高まっている、など、それほど大きく後退すると見るべきではない、という指摘でした。政権がどうであれ、時代の流れには逆らえない可能性があるものと私は理解しました。

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次に、誉田哲也『首木の民』(双葉社)を読みました。著者は、警察ミステリを得意とする小説家であり、私は姫川玲子を主人公とする「ストリベリーナイト」のシリーズを何冊か読んだことがあります。ということで、本書も警察小説です。ただ、経済小説、それもリフレ派エコノミストの主張を大いに取り入れた、というか、何というか、登場人物のリフレ派エコノミストが持論を割と長々と展開する警察小説です。モデルは明らかに嘉悦大学大学院ビジネス創造研究科の高橋洋一教授です。その高橋教授をモデルにした武橋大学国際教養学部客員教授の久和秀昭が自動車を運転している際に、職務質問から緊急逮捕され、車内から血のついたフリーライターの財布が発見されます。そして、警視庁志村署の佐久間龍平や中田三都らの刑事が真相解明に当たる、というストーリーです。久和は逮捕されたわけですから、まず、取り調べが行われるのですが、「公務員を信用しない」とうそぶいて、その理由を説明し始めます。それが延々とリフレ派エコノミストの経済理論なわけです。すなわち、国債は将来世代の負担となる借金ではないし、耳をそろえて全額返済せねばならないわけではないとか、財務省の緊縮財政は間違っている、とかなわけです。そして、財布の持ち主のフリーライターの交通事故の関係もあって、刑事らは財務省の現役の事務次官や事務次官経験者などに取調べではないのですが、事情聴取に行ったりするわけです。そして、最後には、当然、真相が明らかにされます。まず、本書で展開されるリフレ派の経済理論はほぼほぼ正しいです。そんなに詳細な部分まで読み込んではいませんが、たぶん、完全に正しいです。ただ、小説内での水の循環の例えとか、経済にそれほど詳しくない人が理解しやすいかどうかは私には判りません。少なくとも、私はこういったリフレ派経済学に平均的な日本人よりもずっと詳しいと思うからです。そして、誉田作品にしては、刑事のキャラがフツーの一般日本人になった気がします。「ストリベリーナイト」のシリーズの姫川玲子だけではなく、曲者の刑事が私のような一般ピープルには考えもつかないような怪奇な事件の真相を解明する、というイメージでしたが、本書に登場する刑事は警視庁本庁にせよ、所轄の志村署にせよ、マイホームパパや今どきの若い女性という感じで、逆にそれがキャラになっています。亡くなった森永卓郎さんに続いて、本書の作者の誉田哲也さんも財務相にケンカを売っているのかもしれません。

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次に、永濱利廣『新型インフレ』(朝日新書)を読みました。著者は、第一生命経済研究所のエコノミストです。どちらかといえば、私なんかと同じで、リフレ派や高圧経済支持に近いお考えだと認識しています。本書では、タイトルにあるような「新型インフレ」については、私は特に新型とも思わないのですが、まあ、タイトルとして読者の目を引きつけるのはいいんだろうと思います。まず、経済学といえば需要曲線と供給曲線から始まります。需要曲線がシフトするのがディマンドプルのインフレであり、供給曲線のシフトに起因するのがコストプッシュのインフレです。本書では、私がスラッとよんだところで、後者のコストプッシュなので「新型」といっているように読んでしまいましたが、1970年代の狂乱物価もコストプッシュ・インフレでしたし、もう数十年も日本も世界も典型的なディマンドプルのインフレなんて経験していないような気がするのは、私だけではないと思います。むしろ、インフレが新型というよりも、日本人のマインドがデフレ感覚を強く残したままでインフレに対応していない、という点だと私は考えています。本書でも指摘しているように、デフレの最大の悪影響のひとつは支出の先送りにあります。先行き価格が低下するという期待をもって、消費や投資などの支出が先送りされるわけです。逆に、インフレ時には価格に先高観を感じて、「価格が高くなる前の今のうちに買っておこう」という支出行動、前倒し的な支出行動になるのですが、デフレマインドが払拭されないうちにインフレになってしまったものですから、相変わらず価格の先安感だけが残って、「今は価格が上がっているが、そのうちに下がる可能性があるので、今は買い控えておこう」という支出行動になっている可能性があります。もしもそうであれば、デフレの根深さを感じます。最後に、本書で指摘しているような雇用や労働の流動化は、少なくとも現時点では私は明確に反対です。特に、本書では高圧経済と雇用に関する無理解を感じます。高圧経済というのは大雑把に人手不足のことです。ですから、高圧経済下では労働者が自分のスキルや希望する所得に応じて、雇用や労働が流動化されれば、雇用者のサイドから働く企業を選ぶことになります。しかも、その前段階として、非正規雇用の正規化が生じると考えるべきです。他方、現時点の人手不足の状況では、まだ、非正規雇用の正規化とかにはまったく起こっていません。ですから、雇用や労働を流動化すれば、企業のサイドで雇用者を解雇するために利用されかねません。いつでも、どこでも、雇用の流動化が好ましいわけではありません。

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次に、片田珠美『マウントを取らずにはいられない人』(PHP新書)を読みました。著者は、精神科医です。私は同じ出版社から同じ著者が出している『他人を攻撃せずにはいられない人』を10年ほど前の2015年に読んでレビューしています。ただ、本書も10年前の『他人を攻撃せずにはいられない人』も、どちらも、常識的な範囲でかなり極端な例が取り上げられていることはいうまでもありません。攻撃されたり、ましてや、マウントを取られたりした結果、精神科医のところに駆け込んでくるほどの被害者の症例を基にしているのですから当然です。本書では、職場におけるマウントと家庭におけるマウントを合わせて16例を示して、対処方法などを議論しています。例えば、実際のマウントの被害の防止に役立つリミットセッティング=限界設定として、レッドラインを引いて許容範囲を明確に示すこととかだったりします。ただ、私はすでに立派な高齢者になりましたので、地域のマウントもあるような気がします。いずれにせよ、マウントを取るというのは、従来の言葉で平たくいえば、「エラそうにする」という意味だと思います。何らかの集団の中で自分自身の優位性とか有能さとかを他に、やや誇張して表現する、ということだと思いますが、2点だけ指摘しておきたいと思います。すなわち、本書では言葉によるマウントしか取り上げていませんが、行為によるマウントは私の知る限り確かに存在し、ひょっとしたら、言葉によるマウントよりも悪質かもしれない、ということです。待ち行列に割り込むとかです。私の体験からいうと、歩く速さもそうです。私自身は若いころから歩くのが人並外れて遅く、役所に勤めていた若いころに同じ京都大学卒業の課長からもっと早く歩くように示唆されたことがあります。キャリアなのだから通常より速く職階を上がるわけで、私が上の職階に達してもチンタラ歩いていると、後ろの人が追い抜けなくて困るのだから、もっと速く歩け、という趣旨でした。努力はしましたが、思うように速くは歩けませんでした。第2に、本書でも十分言及されていますが、精神科医である著者のところにやって来るのはマウントの被害にあった患者さんなのですが、実は、精神を止んでいるのはマウントの加害者の方である、という点は事実なんだろうと思います。職場の同僚や家族を精神科医のところに通わせるほどの激しいマウントを取ろうとする方が、よっぽど精神を病んでいるのだろうと考えるべきです。

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次に、荻原浩ほか『猫さえいれば、たいていのことはうまくいく。』(ポプラ文庫)を読みました。著者は、エンタメ作家など6人です。タイトルから軽く想像されるように、猫に関する短編を編んだアンソロジーです。収録順にあらすじは以下の通りです。荻原浩「猫は長靴を履かない」では、20代半ばの男性が、両親が交通事故死した後の育ての親である叔父さんから遺産として譲り受けたのが、スコティッシュフォールドのわびすけという名の猫でした。そのわびすけをWEB会議で見たCMプランナーのお仕事上の先輩格の女性から、ある案件を持ち込まれます。石田祥「ツレ猫婚」では、35歳にしてお見合いをすることになった女性の主人公のお相手は、40歳前の会計士なのですが、究極の猫好きで猫カフェでデートをしたりします。大学は理系で、典型的な理系人間と自称するにしては、経済経営系の会計士を職業としている不整合には目をつぶる方がいいのかもしれません。清水晴木「いちたすいち」の主人公は会社で孤立し陰口でディスられる日々を過ごし、寝られない夜にはコインランドリーに行くのですが、そこで黒猫と出会います。マンスリー・マンションの住人に捨てられたらしい黒猫と主人公、ひとりと一匹の距離はすこしずつ縮まります。標野凪「猫のヒゲ」では、80歳の未亡人の主人公が、娘の頼みで自分と同じくらいの保護老猫を迎え入れることになり、シマ子と名付けた猫との暮らしがはじまります。シマ子のヒゲが抜けると主人公の記憶も抜け落ちる、という老齢の哀しさが伝わってきます。若竹七海「神様のウインク」では、老朽化の進んだ公団住宅の団地に住む中学生男子の主人公が、4階から猫に餌やりをするので猫がたむろして「ジゴク棟」と呼ばれる42号棟のその猫ばあさんの家で悪さを試みますが、神様は見逃しませんでした。山本幸久「御後安全靴株式会社社史・飼い猫の項」の主人公は、御後安全靴株式会社の総務課に勤務し、創立55周年の社史編纂を担当する中年社員です。この会社にはは歴代猫社員が在籍し、さまざまな危機から創業者社長や会社を救っていますので、社史にどう盛り込むかを考えます。

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