近世における土地配分の平等性が日本の低賃金と不平等の原因か
英国マンチェスター大学の公文譲講師の論文 "How Equality Created Poverty in Pre-industrial Japan, 1600-1870" が American Economic Journal に採択されています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。
続いて、ジャーナルのサイトから Abstract を引用すると以下の通りです。
Abstract
Despite well-developed economic institutions, Early Modern Japan (1600-1868), had among the lowest real wages according to available estimates, around half those in pre-industrial England. However, many Japanese peasants owned land unlike their mostly landless English counterparts, due to institutional differences in land inheritance. Using a Malthusian model, I show that this greater landownership equality paradoxically led to Japan's lower wages and GDP per capita. Evidence from Japanese village censuses supports the mechanism. If, as many historians believe, high wages in Western Europe spurred industrialization, Japan's failure to industrialize first could have been shaped by its unusual pre-industrial equality.
誠に残念ながら、ジャーナルのバージョンは入手できなかったので、ワーキングペーパーである "How Landownership Equality Created a Low Wage Society: Pre-industrial Japan, 1600-1870" を読んだ金総などは以下の通りです。すなわち、江戸期の日本は同時期の欧州と比較して、例外的に土地分配構造=土地所有が平等であったため、労働供給が限定的であり、そのため、都市部における商工業での労働賃金は長期に低位にとどまった、と指摘しています。ですので、土地所有の平等性が逆に低賃金の温存につながった、という主張です。専門外で十分に理解しているとはいい難いながら、私の理解する範囲でも、イングランドで高賃金のためにイノベーションが進み、産業革命の引き金のひとつになったとする議論がありますが、日本ではこういった土地所有の平等性のために賃金が上がらず、自律的な産業革命も生じなかった、という議論ではないか、と思います。イングランドでは、逆に、いわゆるエンクロージャーにより農地を追い出された農民が都市部に流れ込んで、産業化に必要な労働市場の拡大が進んだことは歴史的な事実といえます。私の専門外ながら、興味ある歴史、というか、経済史の論文でした。下のグラフはワーキングペーパー "How Landownership Equality Created a Low Wage Society: Pre-industrial Japan, 1600-1870" から Long-run Trends in Wealth Inequality を引用しています。土地に限定しない資産全体の平等度合いをジニ係数で表していますが、日本の資産分布について、例外となるドイツを除いて、比較的安定的に不平等の度合いが低い点が読み取れます。
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