輸出が振るわない貿易統計とまずまず堅調な機械受注
本日、財務省から7月の貿易統計が、また、内閣府から6月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比▲2.6%減の9兆3591億円に対して、輸入額は▲7.5%減の9兆4766億円、差引き貿易収支は▲1176億円の赤字を計上しています。また、機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から3.0%増の9412億円と、3か月ぶりの増加を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
7月の対米輸出4カ月連続減 トランプ関税で自動車落ち込む
財務省が20日発表した7月の貿易統計速報によると、米国向けの輸出額が1兆7284億円と、前年同月比10.1%減った。減少は4カ月連続。自動車の輸出額が減少しており、トランプ米政権の関税政策の影響が続いたとみられる。
米国向け自動車の輸出額は28.4%減少の4220億円だった。台数は3.2%減の12万3531台だった。輸出額を台数で割った平均単価は26.1%減の341万円だった。5カ月連続で前年同月を下回った。財務省の担当者は「大型車の輸出台数が減る一方、小型車が増えている」と説明する。
メーカーが低価格の車種を優先して輸出したり、関税影響を和らげるためにコストを吸収したりする動きが続いた可能性がある。
全世界に対しての輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1175億円の赤字になった。赤字は2カ月ぶりだった。輸出額は前年同月に比べ2.6%減の9兆3590億円だった。減少は3カ月連続。
中国向けの輸出は3.5%減の1兆5966億円だった。減少は5カ月連続。ハイブリッド車や非鉄金属などの輸出が落ち込んだ。欧州連合(EU)向け輸出は3.4%減の8668億円と3カ月ぶりに減少した。鉄鋼や有機化合物が減った。
世界全体からの輸入額は7.5%減の9兆4766億円だった。主にサウジアラビアからの原粗油やオーストラリアからの石炭、液化天然ガスの輸入額が減った。
原粗油は輸入量が11%増えた一方、原油価格の下落や円高による輸入コストの減少で輸入額は18%減った。7月の平均為替レートは1ドル=145.56円で、前年同月から8.9%の円高だった。
中国からの輸入額は3.9%減の2兆2057億円だった。スマホなどの通信機が減少した。米国からは0.8%減の1兆1433億円だった。医薬品や航空機類の輸入が減った。
機械受注、4-6月0.4%増 7-9月はマイナス見通し
内閣府が20日発表した4~6月期の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前期比0.4%増の2兆7737億円だった。3四半期連続でプラスを確保した。6月末時点の7~9月期の受注見通しは前期比4.0%減だった。
4~6月期は製造業が1.5%増だった。非鉄金属や石油製品・石炭製品からの受注増が寄与した。大型案件の発注があった化学工業も押し上げた。
自動車・同付属品からの受注は11.3%減った。マイナスは2四半期連続となる。内閣府の担当者は足元の受注動向について「調査対象企業から米関税措置の影響が出ているとの声があった」と述べた。
非製造業は0.9%増えた。運輸業・郵便業や通信業から電子計算機の受注が伸びた。農林漁業からトラクターなど農林用機械の受注も堅調だった。
7~9月期が見通し通りなら4半期ぶりのマイナスとなる。内閣府の担当者は調査時期が7月の日米関税合意や8月に米中が追加関税の一時停止期間を延長する前だったとし、米トランプ政権による関税措置の実際の影響は「7月以降の実績を確認する必要がある」と述べた。
6月単月の民需は前月比3.0%プラスと3カ月ぶりに増えた。非製造業が8.8%増と全体をけん引した。製造業は8.1%マイナスだった。内閣府は6月の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。
包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2000億円近いの貿易黒字が見込まれていたところ、実績の▲1000億円を超える赤字はや大きく下振れした印象です。予測レンジの下限が▲800億円ほどでしたので、そのレンジを越えています。季節調整済みの系列でも、7月は▲3000億円超の赤字を記録しています。ただし、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。固定為替相場制度を取っていた1950-60年代の高度成長期のように、「国際収支の天井」を意識した政策運営は、現在の変動為替制度の下ではまったく必要なく、比較優位に基づいた貿易が実行されればいいと考えています。それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる可能性の方がよほど懸念されます。すなわち、引用した記事のタイトルのように、トランプ関税で日本の輸出が減少して貿易収支が赤字の方向に振れることではなく、貿易を含めた資源配分の最適化ができなくなってしまう点が問題と考えるべきです。
本日公表された7月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで+11.0%増ながら、金額ベースで▲18.0%減となっています。石油価格が大きく下落している商品市況を反映しています。さらに、エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで▲2.8%減となっているのですが、輸入総額の前年同月比伸び率が▲7.5%に達している中で、それほどの減少とはなっていません。特に、食料品のうちの穀物類は数量ベースで+0.4%増、ただし、金額ベースでは▲8.7%減となっています。原料品のうちの非鉄金属鉱は数量ベースで▲29.3%減、金額ベースでも▲22.3%減を記録しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器のうちの自動車が数量ベースで+3.2%増となったものの、金額ベースでは▲11.4%減となっています。自動車輸出における数量ベース増の金額ベース減は明らかに、日本のメーカーあるいは輸出商社の方で関税を相殺するような価格設定により、販売台数の維持・拡大を図っていることを表していると考えるべきです。どこまでこういった関税負担がサステイナブルであるかは私には不明です。電気機器も金額ベースで+0.4%増、一般機械も+1.2%増とプラスの伸びを示しています。輸出だけは国別の前年同月比もついでに見ておくと、中国向け輸出が前年同月比で▲3.5%減となったにもかかわらず、中国も含めたアジア向けの地域全体では▲0.2%減にとどまっています。他方で、引用した記事の冒頭にもある通り、米国向けは▲10.1%減と大きく落ち込んでいます。ただ、西欧向けは+0.3%増となっています。いうまでもありませんが、今後の輸出については、米国トランプ政権の関税政策による撹乱が懸念されます。

続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前月比▲1%を超える減と見込まれていました。実績の+3.0%増はやや上振れした印象ながら、レンジ内ナスですし大きなサプライズはありませんでした。いずれにせよ、3月統計で前月比+13.0%増を記録した後の4月▲9.1%減、5月▲0.6%減と、3月の大幅増の反動も終わって、6月統計では増加となっています。また、この統計では発注が取り消された場合、その取消しが生じた月で調整することになっていますので、あるいは、ひょっとしたら、トランプ関税による発注取消しがここ何か月かで生じている可能性は否定できません。4~6月期の四半期ベースでは前期比+0.4%と3期連続のプラスでしたし、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。6月統計を業種別に季節調整済みの前月比で見て、製造業が▲8.1%減の一方で、船舶・電力除く非製造業は+8.8%増となっています。4~6月期までのコア機械受注は3期連続のプラスでしたが、7~9月期見通しでは▲4.0%の減少に転ずると見込まれています。しかも、製造業・非製造業ともに前期比マイナスの見通しです。さらに、トランプ関税次第では下振れする可能性も否定できません。
日銀短観などで示されたソフトデータの投資計画が着実な増加の方向を示している一方で、機械受注やGDPなどのハードデータで設備投資が増加していないという不整合があり、現時点ではまだ解消されているわけではないと私は考えています。人手不足は見込み得る範囲の近い将来にはまだ続くことが歩く予想されますし、DXあるいはGXに向けた投資が盛り上がらないというのは、低迷する日本経済を象徴しているとはいえ、大きな懸念材料のひとつです。かつて、途上国では機械化が進まないのは人件費が安いからであるという議論が広く見受けられましたが、日本もそうなってしまうのでしょうか。でも、設備投資の今後の伸びを期待したいところですが、先行きについては決して楽観はできません。特に、繰り返しになりますが、米国のトランプ政権の関税政策や中東の地政学的リスクなどにより先行き不透明さが増していることは設備投資にはマイナス要因です。加えて、国内要因として、日銀が金利の追加引上げにご熱心ですので、すでに実行されている利上げの影響がラグを伴って現れる可能性も含めて、金利に敏感な設備投資には悪影響を及ぼすことは明らかですどう考えても、先行きについては、リスクは下方に厚いと考えるべきです。
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